走査装置、描画装置、及び物品の製造方法
【課題】複数の荷電粒子線を一括して偏向して該複数の荷電粒子線による物体上の走査を行う走査偏向器の各荷電粒子線の偏向誤差を補償するのに有利な技術を提供する。
【解決手段】荷電粒子線による物体上の走査を行う走査装置は、制御データに基づいて複数の荷電粒子線を個別にブランキングするブランキング偏向器と、前記複数の荷電粒子線を一括して偏向して前記走査を行う走査偏向器と、制御部と、を備える。前記制御部は、基準走査量及び基準走査方向に対する前記走査偏向器による走査量及び走査方向のずれを前記複数の荷電粒子線それぞれに関して求めるための第1データを保持し、前記物体上の目標領域に対して前記走査が行われるように、前記第1データに基づいて前記制御データを生成する。
【解決手段】荷電粒子線による物体上の走査を行う走査装置は、制御データに基づいて複数の荷電粒子線を個別にブランキングするブランキング偏向器と、前記複数の荷電粒子線を一括して偏向して前記走査を行う走査偏向器と、制御部と、を備える。前記制御部は、基準走査量及び基準走査方向に対する前記走査偏向器による走査量及び走査方向のずれを前記複数の荷電粒子線それぞれに関して求めるための第1データを保持し、前記物体上の目標領域に対して前記走査が行われるように、前記第1データに基づいて前記制御データを生成する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷電粒子線による物体上の走査を行う走査装置、該走査装置を含んで基板に描画を行う描画装置、及び、該描画装置を用いた物品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
荷電粒子線照射装置は、荷電粒子線源から放射された荷電粒子線を偏向器によって走査しながら、描画データに従って荷電粒子線をブランキングすることによって試料上の所定位置に所定量の荷電粒子線を照射する。荷電粒子線描画装置は、荷電粒子線源から放射された荷電粒子線を偏向器によって走査しながら、描画データに従って荷電粒子線をブランキングすることによって基板上の所定位置に所定量の荷電粒子線を照射して基板に回路パターンを描画する。ブランキングは、基板に対する荷電粒子線の照射および非照射を切り替える動作である。この切り替えのタイミングを制御することによって単位領域への荷電粒子線の照射時間を制御することができる。また、偏向器は、電極間にかける印加電圧を制御することで、荷電粒子線の偏向量を変化させることができる。描画データは、回路設計のCADデータから生成された、回路パターンのビットマップデータである。荷電粒子線描画装置は、描画データに従って描画を行うため、従来の露光装置で用いられていた回路パターンのマスクが不要である。そのため、マスクコストの増大する微細化プロセスや、多数のマスクを必要とする多品種少量生産向けのランニングコストの低減のために、開発が進められている。荷電粒子線描画装置の中で、現在主流となっているのは、電子線を用いた電子線描画装置である。以下においては、電子線描画装置を例に挙げて説明する。
【0003】
電子線描画装置は電子線を走査しながら描画を行うため、スループットが課題となっている。そこで、スループットを向上させるため、多数の電子線群を用いて同時に描画する方法が提案されている。この場合、電子線毎に偏向器を設けて、それぞれの偏向量を制御することが考えられる。しかし、電子線数と同じ数の偏向器電極、電極駆動回路、印加電圧指令回路、さらにそれらを接続する配線が必要となり、高コストとなる。また、多数の回路を要するため、故障する確率が増え、メンテナンスの負荷も増大する。そこで、一つの偏向器の電極間に電子線群を通して、一括して偏向する方法が用いられる。
【0004】
電子線群を一つの偏向器を用いて一括して偏向する場合、すべての電子線が同じ方向に同じ量だけ偏向されることが望ましい。しかし、偏向器の電極間の電場が均一でないと、電子線毎に偏向量が異なってしまう。そのような場合、電子線毎に個別に印加電圧を調整することができないため、電子線毎の偏向量に合わせて描画データを伸縮させることによって、基板上の所望の位置にパターンを描画することが特許文献1に開示されている。また、偏向器においては電極間の電場の不均一性などにより印加電圧と電子線の偏向量の関係に誤差が生じるため、できるだけ少ないデータ量で偏向量に応じて印加電圧を補正して所望の偏向量を得る方法が特許文献2で提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2010/134018号公報
【特許文献2】特許第4074240号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
偏向器に使用される電極は、電子線が通過する領域に対して十分離れておりかつ大きいほど均一な電場を発生させることができる。しかし、このような電極を用いると偏向器が大型化しコストを増大させることとなる。そのため、偏向器の電極間の電場は均一にはなっておらず、特に電極の端部においては、電場の強度だけでなく方向も大きく異なる。そのため、端部を通過する電子線においては、偏向量だけでなく、偏向方向も所望の値とは誤差を生じる。特許文献1においては、電子線毎に描画データを伸縮することで、偏向量の誤差が生じても、所定のパターンが描画されるようにしているが、偏向方向の誤差については補正されていない。また、特許文献1には、描画データをどれだけ伸縮させるかを表す補正データの取得方法および保持方法については記載されていない。また、スループットを向上させるために電子線の数を増やすと、電子線毎に補正を行うことが困難となってくる。具体的には、電子線毎に持つ補正データが膨大になるため、メモリなどデータを保持するためのコストが増大してしまう。また、補正データを取得するための計測時間および補正データの更新時間も厖大となってしまう。
【0007】
特許文献2においては、1本の電子線において、補正量に応じて大きさを変えた領域ごとに補正データを持つことで、必要な補正データ量を削減している。しかしながら、電子線毎に複数の領域に対応した補正データを持つ必要があるため、電子線の本数が増大してくると、やはり補正データ量と、補正データを取得するための計測時間および補正データの更新時間も厖大となってしまう。
【0008】
本発明は、複数の荷電粒子線を一括して偏向して該複数の荷電粒子線による物体上の走査を行う走査偏向器の各荷電粒子線の偏向誤差を補償するのに有利な技術を提供することを例示的目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、荷電粒子線による物体上の走査を行う走査装置であって、制御データに基づいて複数の荷電粒子線を個別にブランキングするブランキング偏向器と、前記複数の荷電粒子線を一括して偏向して前記走査を行う走査偏向器と、制御部と、を備え、前記制御部は、基準走査量及び基準走査方向に対する前記走査偏向器による走査量及び走査方向のずれを前記複数の荷電粒子線それぞれに関して求めるための第1データを保持し、前記物体上の目標領域に対して前記走査が行われるように、前記第1データに基づいて前記制御データを生成する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、例えば、複数の荷電粒子線を一括して偏向して該複数の荷電粒子線による物体上の走査を行う走査偏向器の各荷電粒子線の偏向誤差を補償するのに有利な技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明における電子線描画装置の構成を示す図である。
【図2】複数の電子線による描画手順を示す図である。
【図3】複数の電子線の描画エリアの配置例を示す図である。
【図4】偏向器内の複数の電子線の偏向方向を示す図である。
【図5】偏向方向の誤差により生じる描画位置の誤差を示す図である。
【図6】描画データを修正して描画位置の誤差の影響を補正する方法を示す図である。
【図7】第1実施形態におけるキャリブレーション工程を示すフローチャートである。
【図8】第1実施形態における補正工程を示すフローチャートである。
【図9】第3実施形態におけるキャリブレーション工程を示すフローチャートである。
【図10】第3実施形態における補正工程を示すフローチャートである。
【図11】第4実施形態における補正工程を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明の実施形態を添付の図面に基づいて詳細に説明する。以下の実施形態では、荷電粒子線を照射すべき物体上の目標位置と該荷電粒子線の目標ドーズ量を示す照射データに基づいて複数の荷電粒子線を前記物体に照射する照射装置として電子線描画装置を説明する。しかし、本発明は、電子顕微鏡、イオンビーム注入装置等、荷電粒子線描画装置以外の荷電粒子線照射装置に適用可能である。また、荷電粒子線として電子線以外のイオンビームを用いた照射装置でもよい。
【0013】
[第1実施形態]
図1は、第1実施形態における電子線描画装置の構成を示す。電子光学系10は、基板(ウエハ)8に照射する電子線を生成するマルチビームの電子光学系である。電子銃11から出射された電子線は、アパーチャ12で複数のビームに分割される。分割された複数の電子線は、ブランキング偏向器(ブランカ)13によって制御データに基づいて個別にブランキングされる。ブランカ13を通過した複数の電子線は、2つの走査偏向器(X偏向器21、Y偏向器22)によって一括して偏向して走査され、基板ステージ(ウエハステージ)9に搭載されたウエハ8上の所定の位置を照射する。
【0014】
描画データ生成部1は、回路設計CADの設計データをもとに、ブランカ13によって描画される描画データを生成する。生成された描画データは、半導体回路のパターン情報を表すビットマップデータである。描画データ生成部1では、CADの設計データから描画データを直接生成してもよいし、生成しておいた描画データをメモリなどに蓄積しておき、それを読み出すようにしてもよい。描画データ生成部1で生成された描画データは、描画データ補正部2で電子線描画装置やウエハ8の状態に合わせて、電子線がウエハ8上の所望の位置に、所望の強度で照射できるように補正を加えられ、実際に描画に用いられる描画データが作られる。加えられる補正には、電子線の位置誤差を補償するためのもの、電子線の強度を補償するためのもの、ウエハ8上に形成された回路パターンに対する描画パターンの重ね合わせのためのものが含まれうる。
【0015】
ブランカ制御部131は、描画データに従ってブランカ13を駆動し、各電子線の通過時間を制御する。X偏向器制御部211およびY偏向器制御部221は、X偏向器21およびY偏向器22を駆動して、電子線群を一括してXY方向に偏向する。これにより、ウエハ8面上の所定の位置に描画することができる。電子光学系10を基準としたウエハステージ9の位置は、位置センサ6の計測値に基づいてステージ位置計測部61によって算出される。ウエハステージ9はXY方向に移動可能であり、算出されたステージ位置に基づいたウエハステージ制御部91の指令によって、電子線の照射位置にウエハ8を位置決めすることができる。同期制御部5は、所定の描画手順に従って、ブランカ制御部131、X偏向器制御部211、Y偏向器制御部221、ウエハステージ制御部91の制御を行う。これにより、ブランカ13、X偏向器21、Y偏向器22、ウエハステージ9が同期して動作し、回路パターンがウエハ8上の所定の位置に描画される。各制御部5、131、211、221、91、描画データ生成部1、描画データ補正部2、補正データ出力部3、電子線位置計測部71、ステージ位置計測部61は、制御部100を構成している。
【0016】
図2に、半導体チップの描画手順の具体例を示す。ここでは、X方向を主走査方向、Y方向を副走査方向とする。電子線はX方向にm本、Y方向にn本配置されているとする。まず、各電子線の描画エリア500の左上の描画グリッド501に電子線が照射されるように、X偏向器21、Y偏向器22、ウエハステージ9が制御される。グリッドのサイズは、たとえば、線幅22nmであればその半分の11nm、線幅16nmであれば8nmに設定される。ここで、ブランカ13が駆動され、描画データによって描画グリッド毎に定められた所定の時間だけ電子線が照射されて、描画が行われる。電子線はX偏向器21によって、主走査(X)右方向に順次移動(実線矢印)していき、それにつれて次々とグリッドの描画が行われる。一行分の描画が終了すると、X偏向器21は、左端に戻り(破線矢印)、次の行の描画を行う。このとき、ウエハステージ9は副走査(Y)上方向に等速で移動している。Y偏向器22は、ウエハステージ9の移動に追従して偏向量を調整し、一行分の描画が終了すると次の行の描画のため初期位置に戻る。従って、Y偏向器22は、一行分のグリッド幅の偏向ができるようになっている。これを繰り返すことで、各電子線の描画エリア500の描画を行うことができる。各電子線が隣接した描画エリア500をそれぞれ並行して描画することにより、広い領域を高いスループットで描画することが可能となる。たとえば、100本×100本=10000本の電子線を用いて描画行うことにより、1万倍のスループットを達成することができる。なお、図2には、主走査方向の描画順が各行で同じ方向になっている例を示したが、一行おきに描画順が逆方向になるように描画することも可能である。
【0017】
図3に、描画エリア500の配置例を示す。各電子線は、各描画エリア500中の同じ位置に位置するように配置されている。図3(a)は、図2に示したものと同じように、各描画エリア500が格子状に配置されている。図3(b)は、Y方向に千鳥状の配置となっている。これにより、同列の電子線のX方向間隔を大きくとることができ、配線や冷却配管などの配置が容易になり、アパーチャ12やブランカ13を作りやすくなる。図3(c)は、さらにグループ毎に分割することで、配線および冷却配管スペースの確保に合わせ、さらに梁を設けて強度を確保することが容易となる。分割された間隔部分については、ステージをX方向に移動させて描画を行う。
【0018】
図4は、電子線の光軸方向から見たX偏向器21内の電子線配置の模式図である。ここで、座標(X、Y)は偏向器内の電子線配置を表す偏向器座標であり、偏向器内の電子線通過領域の中央を原点としている。X軸方向に沿う両側から平行平板電極212、213が電子線群の通過する領域を挟んでいる。図4には、わかりやすくするため、少数の電子線しか描いていないが、実際には図3に示した描画エリア配置に対応して、多数の電子線が通過するように配置されている。電子線群を一つの偏向器を用いて偏向するように構成してもよいし、電子線群をグループ分けしてグループ毎に偏向器を設けてもよい。たとえば、図3(c)の描画エリア配置であれば、グループ毎に偏向器を設けてもよい。
【0019】
この電極間に電圧をかけることにより、電極間に電場を発生させる。電子線は電場の方向と強度に応じて偏向される。たとえば、電極212にマイナス、電極213にプラスの電圧をかけることにより、図に矢印で示した偏向ベクトルのように右方向に電子線が偏向される。このとき、正しい描画結果を得るためには、すべての電子線が同じ方向に同じ量だけ偏向して走査されることが期待される。しかし、電極間の電場は、特に電極端部において均一ではなく、電界強度が異なるとともに、電場の方向も完全にはX方向にならない。これは平行平板電極から外側に向かって電場が広がるためである。また、製造誤差によって電極が平行でないことによっても、電場の均一性が損なわれる。なお、Y偏向器22についても、X軸とY軸を入れ替えれば同様のことが言える。すなわち、X偏向器21、Y偏向器22による複数の電子線の少なくとも1つの偏向量(走査量)及び偏向方向(走査方向)は、基準偏向量(基準走査量)及び基準偏向方向(基準走査方向)に対してずれを有している。基準偏向量及び基準偏向方向は、例えば偏向器内の電子線通過領域の中央における偏向量及び偏向方向である。
【0020】
図5に、電場が所定の方向と大きさと異なっている場合の、偏向誤差と描画結果への影響を示す。ここで、座標(x、y)は電子線毎のローカル座標であり、描画すべきデータグリッド(目標領域)502に対する、実際に描画されるビームグリッド503の相対位置を示す。偏向器を駆動していない状態で描画するデータグリッド位置を原点としており、通常は、ローカル座標原点は描画エリア500の中間点にとり、電場の方向を反転させて原点の両側に均等に偏向するようにする。または、原点を描画エリア中の最初に描画するグリッドとし、一方向に偏向するように偏向器電極に電圧を印加する構成としてもよい。ここでは、偏向器を駆動していないときの電子線は、所望する原点グリッド位置に正しく描画されるとして説明する。
【0021】
図5(a)は所定の電場が得られている状態である。データグリッド502の番号kに相当する所定の電圧を電極に印加することで、式1のように電子線を偏向することができる。
【0022】
(x,y)=(a・v・k,0)・・・(1)
ここで、vは偏向器の単位印加電圧であり、実際に印加される電圧は、グリッドに応じてv・kとなる。aはvに対する偏向感度である。電場が完全にX方向に向いているため、y方向には、偏向されない。
【0023】
図5(b)は、電場が所定の方向と異なっている場合を示す。このときの偏向量は、2次元ベクトルの偏向ベクトル(α、β)を用いて、式2のように表わされる。
【0024】
(x、y)=(α・v・k,β・v・k)・・・(2)
電場の強度が異なると、α≠aとなり、X方向に所定の偏向量が得られない。また、電場の向きが異なると、β≠0となりy方向への他成分が発生する。これにより、実際に電子線が偏向された結果は、破線で示したビームグリッド503のようになり、実線のデータグリッド502と一致しなくなってしまう。偏向ベクトル(α、β)は、基準偏向量及び基準偏向方向に対する電子線の偏向量及び偏向方向のずれを示すデータ(第1データ)である。
【0025】
電子線の本数が多ければ、各電子線の偏向幅は電極間距離よりも十分小さい。たとえば、100本×100本の電子線を用いる場合、偏向幅は電極間距離の100分の1以下になる。そのため、各電子線の偏向幅内においては、電場は均一であるとみなすことができる。そのため、電子線毎にはαとβは定数で表すことができる。しかし、電子線が異なると偏向器座標が異なるため、αとβは電子線毎に異なる値となる。もし、電子線毎に個別に偏向器を備えていれば、偏向器の印加電圧を個別に調整することで、各電子線のビームグリッド503をデータグリッド502に一致させることができる。しかし、図4に示したように、ひとつの偏向器で多数の電子線群を一括して偏向する場合には、電子線毎に個別に印加電圧を調整することができない。そのため、電子線のビームグリッド503すべてをデータグリッド502に一致させることはできない。そこで、描画データを修正することで、ビームグリッド503とデータグリッド502が異なっていても、正しく描画されるようにする。
【0026】
図6に描画データの修正例を示す。図6(a)に電子線を照射すべき基板上の目標領域であるデータグリッド502と該電子線の目標ドーズ量を示す描画データを示す。図6の(a)では、3×3の領域に電子線を照射して描画するとする。このとき、偏向量及び偏向方向のずれに起因して電子線のビームグリッド503が図6(b)の破線のようになったとする。電子線はビームグリッド503に沿って描画されるため、本来描画されるべきデータグリッド502の描画データを、ビームグリッド503に対して割り当て直す必要がある。そこで、ビームグリッド503のグリッド毎に、描画されるデータグリッドとの重なり面積を評価する。そして、ビームグリッド503中の描画面積とそこに照射される電子線の強度に応じて、ビームグリッド503に対する電子線強度を決定する。すなわち、目標領域に照射されるべき電子線と目標領域に隣接する位置に照射されるべき電子線とを用いて、目標領域に描画データに応じた目標ドーズ量で電子線が照射されるように描画データを補正する。図6の例では、図6(c)に示すように、中央2×2のビームグリッド503は描画範囲に完全に入っているので、フルに描画する。その周りの4×4のビームグリッド503は、描画範囲と描画されない範囲にまたがっているので、描画範囲の面積に応じて、電子線の強度を決定する。例えば、4×4のグリッドのうちの中央の4つ以外の12のグリッドの電子線強度を、2つのグリッドで70%、6つのグリッドで50%、2つのグリッドで20%、2つのグリッドで10%とする。電子線強度の強弱は、ブランカを用いてグリッド毎の電子線のオン時間を制御することで調整される。このようにして、データグリッド502の描画データから、ビームグリッド503に対する描画データを生成し、この描画データを用いて描画を行う。
【0027】
ビームグリッド503に対する描画データ生成のためには、電子線毎に偏向ベクトル(α,β)を求める必要がある。これには、電子線センサ(検出器)7を用いて各電子線の位置を検出して偏向量を計測することで行う。電子線センサ7にはファラデーカップやCCDセンサなどが用いられる。これらの電子線センサ7では、測定する電子線が電子線センサ7に照射されるようにステージ9を移動させて電子線強度を測定する。電子線位置計測部71では、電子線センサ7の測定値とその時のステージ位置情報に基づいて、電子光学系10基準での電子線の位置を算出する。偏向器を駆動していない状態(偏向器電極に電圧を印加していない状態)での電子線の基準位置と、偏向器を駆動した状態の電子線の位置との差から、αとβを求めることができる。求めたαとβは補正データ出力部3に保持しておき、これを用いて、描画データ補正部2でビームグリッド503への補正を行う。なお、補正データ出力部3では、αとβ以外の各種補正パラメータを保持していてもよい。
【0028】
図7を用いて、電子線位置計測部71による電子線の照射位置および偏向量のキャリブレーション工程を説明する。S1で、電子線位置計測部71は、電子線センサ7を用いて全電子線について偏向器21,22を駆動していない状態(第1偏向状態)での位置計測を行う。これにより、各電子線のローカル座標原点において、データグリッド502とビームグリッド503がどれだけ異なっているかを測定することができる。S2で、電子線位置計測部71は、S1の測定結果に基づき、電子線位置補正量(オフセット量)を算出する。S2で算出された電子線位置補正量は、各荷電粒子線について偏向器により偏向されていない状態における照射位置のずれを示す第2データを構成している。電子線位置計測部71は、データグリッド502とビームグリッド503の原点が一致するように、描画データをX,Y方向にシフトさせるオフセット量を求める。求められたオフセット量は、補正データ出力部3に記憶されて補正に用いられる。
【0029】
S3で、電子線位置計測部71は、基準とする電子線において、所定の電圧を偏向器電極に印加した状態の電子線照射位置を、電子線センサ7を用いて測定する。基準とする電子線は、通常は偏向器座標(X、Y)の原点付近、すなわち偏向器の中央付近の電子線とする。このとき、偏向器中央付近の複数の電子線を計測して、平均値を測定結果としてもよい。また、描画エリア500の偏向幅におおむね相当する電圧とすることができる。S4で、電子線位置計測部71は、S3の測定結果に基づき、基準とする電子線において、データグリッド502とビームグリッド503が一致する偏向電圧を決定する。これは、式1における偏向感度aを求め、単位印加電圧vを決定することである。求められた単位印加電圧vは、X偏向器制御部211に送られ、X偏向器21に印加する電圧が決定される。
【0030】
S5で、電子線位置計測部71は、S4で求めた単位印加電圧vから決まる描画エリア500の偏向幅に相当する電圧(基準偏向電圧)を偏向器電極に印加した状態(第2偏向状態)で電子線毎の照射位置を電子線センサ7により測定する。測定する電子線は、全電子線であることが望ましいが、近接する電子線同士では測定結果には大きな差は生じないので、所定の間隔で間引いて測定してもよい。また、近傍の複数の電子線を計測して、平均値を測定結果としてもよい。S6で、電子線位置計測部71は、S1とS5の測定結果に基づき、電子線毎に、偏向器に電圧を印加したときの偏向量を求める。これは、式2におけるαとβを決定することである。求められたαとβは、補正データ出力部3に記憶されて補正に用いられる。
【0031】
次に、図8を用いて、電子線位置および偏向量の補正工程を説明する。S11で、描画データ補正部2は、補正データ出力部3に記憶されているαとβを読み出し、描画するビームグリッドkの座標値(x,y)の偏向補正量を算出する。S12で、描画データ補正部2は、補正データ出力部3に記憶されている電子線のオフセット量を読み出し、描画するビームグリッドkに対する電子線位置補正量を算出する。
【0032】
S13で、上記キャリブレーション工程とは別に、ウエハ毎にウエハ上に描画済みの回路パターンマーク位置が計測される。この情報から、描画データ補正部2は、ウエハ上の描画済み回路パターンに対して正確に重ね合わせて描画するための描画データのシフト量、回転量および拡大率を求め、それに合わせてデータグリッド502の座標を算出する。S14で、描画データ補正部2は、S11、S12、S13で算出された個々の補正による座標値を合算し、描画しようとするビームグリッドkの座標値(x,y)を求める。
【0033】
S15で、描画データ補正部2は、算出されたビームグリッド座標値に対応する画素データを描画データ生成部1により生成された描画データから読み出し、前述の面積比に基づく手法で電子線強度即ち電子線のオン時間を表す描画データを求める。S16で、描画データ補正部2は、必要に応じて、各電子線の強度に対する補正を描画データに加える。描画データ補正部2は、求められた描画データをブランカ制御部131に供給し、同期制御部5によって偏向器20およびステージ9と同期を取ってブランカ13が駆動される。上記の補正動作はビームグリッド毎に繰り返し実行される。多数の処理回路を用意して複数のグリッド、複数の電子線に対して並列処理を行うようにしてもよい。
【0034】
以上説明したように、各電子線の偏向量を計測して描画データの補正を行うことにより、多数の電子線を単一の偏向器を用いて偏向することで偏向器内の電場分布に基づく電子線毎の偏向量及び偏向方向の誤差があっても、精度よく描画を行うことができる。
【0035】
[第2実施形態]
第1実施形態に記載の工程S5に多数の電子線について、それぞれ偏向量を計測していたのでは、非常に計測時間がかかってしまう。一方、シミュレーションを行うことで、偏向ベクトル(α、β)を求めることができる。具体的には、偏向器によって形成される電場のシミュレーションを行うことにより、各電子線位置における電場の状態(強度、方向)を求める。さらに、求めた電場を電子線が通過した時の挙動をシミュレーションして、偏向ベクトル(α、β)を取得する。シミュレーションで取得された、各電子線の偏向ベクトルを補正データ出力部3に記憶し、補正に用いることができる。偏向ベクトルの算出は設計時など、事前に行っておけばよい。そのため、図7に示した第1実施形態のキャリブレーション工程に対して、S5,S6を省略することができる。このときの描画データの補正工程は、図8に示した第1実施形態の補正工程と同じである。本実施形態では、キャリブレーション工程において、偏向ベクトルを計測する工程が省略できるので、大幅なキャリブレーション時間の短縮が可能となる。
【0036】
[第3実施形態]
図4に示した各電子線の偏向ベクトルは、偏向器座標に対して相関関係を有している。特に、平行平板電極のように、座標系に対して対称な電極形状であれば、偏向ベクトルは座標値に対して比較的単純な近似式で表すことができる。式2におけるX軸方向の偏向量αの分布は、X軸、Y軸に対しておおむね線対称となっており、近似式を2次または4次の偶数次多項式で表すことができる。たとえば2次多項式で表すと式3のようになる。
α=f(X,Y)
=1+f10X+f20X^2+f01Y+f02Y^2+f11XY・・・(3)
ここで、第1項の定数は、S3、S4において、単位印加電圧vがキャリブレーションされているとして、1としている。
【0037】
Y軸方向の偏向量βの分布は、X軸、Y軸に対しておおむね点対称となっているので、1次または3次の奇数次多項式で表すことができる。たとえば、3次多項式で表すと、式4のようになる。
β=g(X,Y)
=g00+g10X+g20X^2+g30X^3+g01Y+g02Y^2+g03Y^3+g11XY+g12XY^2+g21X^2Y・・・(4)
このように表すと、式3の係数f10〜f11、および式4の係数g00〜g21を求めておけば、各電子線の偏向器座標(X、Y)から式に基づいて偏向ベクトル(α,β)を求めることができる。式3、式4の形式および各係数値は、第2実施形態と同様に、この偏向器の電場シミュレーションを行うことにより求めることができる。このとき、多項式の次数については、近似多項式によって求められた偏向ベクトル(α,β)と、直接求められた偏向ベクトル(α,β)の誤差が許容値以下になるように決める。誤差の許容値は、描画装置各部の精度や、プロセス条件によって変わってくるが、算出された偏向ベクトル(α,β)によって決定されたビームグリッドの誤差が、おおむねグリッドサイズの1/10以下であることが望ましい。
【0038】
また、式3、式4の形式および各係数値は、第1実施形態と同様に、各電子線の偏向量を計測することによって、求めることもできる。各電子線の偏向量を近似多項式に当てはめて、最小二乗法などによって近似多項式係数を算出することができる。式3、式4の形式は、上記のような低次多項式で表すと、少ない演算量で偏向ベクトルを求めることができるが、必ずしも多項式形式ではなくともよい。三角関数や指数関数を用いることもできる。
【0039】
図9を用いて、本実施形態における電子線位置および偏向量のキャリブレーション工程を説明する。第2実施形態に示した工程のように、偏向量のキャリブレーションを行うことなく、事前のシミュレーションや測定結果から求められた近似多項式係数を用いて描画することもできる。ここでは、装置の状態変化に合わせてキャリブレーションを行った場合について説明する。S1〜S4は、第1実施形態と同様である。
【0040】
S7で、参照電子線について、S4で求めた単位印加電圧vから決まる描画エリア500の偏向幅に相当する電圧を偏向器電極に印加する。電子線位置計測部71は、そのときの電子線位置は電子線センサ7を用いて測定する。S5とは異なり、式3、式4の係数が特定可能となる本数の参照電子線のみを計測すればよい。測定精度を高めるため、基準となる原点付近から大きく離れた電極端部近傍の電子線を参照電子線として計測する。また、近接する複数の電子線を計測して、平均値を測定結果としてもよい。
【0041】
S8で、電子線位置計測部71は、S1とS7の測定結果に基づき、参照電子線において、偏向器に電圧を印加した時の、偏向量を求める。これは、式2におけるαとβを決定することである。これを式3、式4に代入し、最小二乗法を用いて、多項式f、gの各係数を求める。求めた各係数は、補正データ出力部3に記憶されて補正に用いられる。
【0042】
また、変動要因によっては、各係数を個別に求める必要がない場合もある。
α=f(X,Y)
=1+(f10X+f20X^2+f01Y+f02Y^2+f11XY)F・・・(3’)
β=g(X,Y)
=(g00+g10X+g20X^2+g30X^3+g01Y+g02Y^2+g03Y^3+g11XY+g12XY^2+g21X^2Y)G・・・(4’)
例えば、α、βを式3’、式4’のように変形したときに、係数f10〜f11及び係数g00〜g21は変動しないとみなすことができれば、全体を代表する係数F、Gだけをキャリブレーションすればよい。この場合、偏向量を測定する電子線数をさらに削減することが可能である。
【0043】
次に、図10を用いて、電子線位置および偏向量の補正工程を説明する。工程S10が加わった以外は、第1実施形態の図8と同じである。S10で、描画データ補正部2は、補正データ出力部3に記憶されている多項式f、gの各係数を読み出し、電子線の偏向器座標値(X,Y)と合わせて、多項式f、gに代入することで、αとβを算出する。算出は、単純な積和演算のみで済むため、演算量はほとんど増えない。S11で、描画データ補正部2は、S10で算出されたαとβを用いて、描画するビームグリッドkの座標値(x,y)を算出する。
【0044】
第3実施形態においては、少数の参照電子線のみの偏向量を計測すればよいため、キャリブレーション時間を大幅に短縮することができる。また、第1実施形態においては、全電子線に対してαとβを補正データ出力部3に記憶しておく必要があったが、第3実施形態においては全電子線に対して、同一の多項式f、gの係数F、Gのみを記憶しておけばよいので、記憶容量を大幅に削減することができる。
【0045】
[第4実施形態]
図11に、第4実施形態における電子線位置および偏向量の補正工程を説明する。第4実施形態では、補正工程を、キャリブレーションごとに行うオフライン工程と、チップ毎に行うオンライン工程に分けた点が、第3実施形態と異なる。オフライン工程においては、S10、S11、S12の工程を行い、電子線位置と偏向量のみの補正を描画データに対して適用し、S17で中間描画データを生成する。キャリブレーションは、描画装置の立ち上げ時、複数枚のウエハの描画後、前回のキャリブレーションから所定の時間が経過した後、などのタイミングで行われる。ここで、補正パラメータが更新されるため、それに合わせて描画パターンに補正を行う。
【0046】
一方、S13のオーバーレイ補正は、ウエハ毎に計測が行われ、また補正パラメータはウエハ上に描画されるチップ毎に異なる。従って、S13、S18、S16の工程は各チップの描画毎に行う。S18では、オフライン工程で生成した中間描画データS17に対して、S13で生成したオーバーレイ補正の適用を行う。本実施形態では、オンラインで実行する処理量を減らすことができるため、処理回路の規模を削減することができる。オフライン工程は、キャリブレーション工程と並行して実行することができ、装置のスループットに直結しない。従って、多少処理時間が多くかかっても、ソフトウェア処理として処理回路を削減し、装置コストを削減することが可能となる。
【0047】
[物品の製造方法]
本発明の好適な実施形態の物品の製造方法は、例えば、半導体デバイスや原版(例えば、レチクルまたはマスクとも呼ばれうる)などの物品の製造に好適である。該製造方法は、感光剤が塗布された基板に上記の荷電粒子線描画装置を用いてパターンを描画する工程と、前記パターンが描画された基板を現像する工程とを含みうる。さらに、デバイスを製造する場合において、該製造方法は、他の周知の工程(酸化、成膜、蒸着、ドーピング、平坦化、エッチング、レジスト剥離、ダイシング、ボンディング、パッケージング等)を含みうる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷電粒子線による物体上の走査を行う走査装置、該走査装置を含んで基板に描画を行う描画装置、及び、該描画装置を用いた物品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
荷電粒子線照射装置は、荷電粒子線源から放射された荷電粒子線を偏向器によって走査しながら、描画データに従って荷電粒子線をブランキングすることによって試料上の所定位置に所定量の荷電粒子線を照射する。荷電粒子線描画装置は、荷電粒子線源から放射された荷電粒子線を偏向器によって走査しながら、描画データに従って荷電粒子線をブランキングすることによって基板上の所定位置に所定量の荷電粒子線を照射して基板に回路パターンを描画する。ブランキングは、基板に対する荷電粒子線の照射および非照射を切り替える動作である。この切り替えのタイミングを制御することによって単位領域への荷電粒子線の照射時間を制御することができる。また、偏向器は、電極間にかける印加電圧を制御することで、荷電粒子線の偏向量を変化させることができる。描画データは、回路設計のCADデータから生成された、回路パターンのビットマップデータである。荷電粒子線描画装置は、描画データに従って描画を行うため、従来の露光装置で用いられていた回路パターンのマスクが不要である。そのため、マスクコストの増大する微細化プロセスや、多数のマスクを必要とする多品種少量生産向けのランニングコストの低減のために、開発が進められている。荷電粒子線描画装置の中で、現在主流となっているのは、電子線を用いた電子線描画装置である。以下においては、電子線描画装置を例に挙げて説明する。
【0003】
電子線描画装置は電子線を走査しながら描画を行うため、スループットが課題となっている。そこで、スループットを向上させるため、多数の電子線群を用いて同時に描画する方法が提案されている。この場合、電子線毎に偏向器を設けて、それぞれの偏向量を制御することが考えられる。しかし、電子線数と同じ数の偏向器電極、電極駆動回路、印加電圧指令回路、さらにそれらを接続する配線が必要となり、高コストとなる。また、多数の回路を要するため、故障する確率が増え、メンテナンスの負荷も増大する。そこで、一つの偏向器の電極間に電子線群を通して、一括して偏向する方法が用いられる。
【0004】
電子線群を一つの偏向器を用いて一括して偏向する場合、すべての電子線が同じ方向に同じ量だけ偏向されることが望ましい。しかし、偏向器の電極間の電場が均一でないと、電子線毎に偏向量が異なってしまう。そのような場合、電子線毎に個別に印加電圧を調整することができないため、電子線毎の偏向量に合わせて描画データを伸縮させることによって、基板上の所望の位置にパターンを描画することが特許文献1に開示されている。また、偏向器においては電極間の電場の不均一性などにより印加電圧と電子線の偏向量の関係に誤差が生じるため、できるだけ少ないデータ量で偏向量に応じて印加電圧を補正して所望の偏向量を得る方法が特許文献2で提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2010/134018号公報
【特許文献2】特許第4074240号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
偏向器に使用される電極は、電子線が通過する領域に対して十分離れておりかつ大きいほど均一な電場を発生させることができる。しかし、このような電極を用いると偏向器が大型化しコストを増大させることとなる。そのため、偏向器の電極間の電場は均一にはなっておらず、特に電極の端部においては、電場の強度だけでなく方向も大きく異なる。そのため、端部を通過する電子線においては、偏向量だけでなく、偏向方向も所望の値とは誤差を生じる。特許文献1においては、電子線毎に描画データを伸縮することで、偏向量の誤差が生じても、所定のパターンが描画されるようにしているが、偏向方向の誤差については補正されていない。また、特許文献1には、描画データをどれだけ伸縮させるかを表す補正データの取得方法および保持方法については記載されていない。また、スループットを向上させるために電子線の数を増やすと、電子線毎に補正を行うことが困難となってくる。具体的には、電子線毎に持つ補正データが膨大になるため、メモリなどデータを保持するためのコストが増大してしまう。また、補正データを取得するための計測時間および補正データの更新時間も厖大となってしまう。
【0007】
特許文献2においては、1本の電子線において、補正量に応じて大きさを変えた領域ごとに補正データを持つことで、必要な補正データ量を削減している。しかしながら、電子線毎に複数の領域に対応した補正データを持つ必要があるため、電子線の本数が増大してくると、やはり補正データ量と、補正データを取得するための計測時間および補正データの更新時間も厖大となってしまう。
【0008】
本発明は、複数の荷電粒子線を一括して偏向して該複数の荷電粒子線による物体上の走査を行う走査偏向器の各荷電粒子線の偏向誤差を補償するのに有利な技術を提供することを例示的目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、荷電粒子線による物体上の走査を行う走査装置であって、制御データに基づいて複数の荷電粒子線を個別にブランキングするブランキング偏向器と、前記複数の荷電粒子線を一括して偏向して前記走査を行う走査偏向器と、制御部と、を備え、前記制御部は、基準走査量及び基準走査方向に対する前記走査偏向器による走査量及び走査方向のずれを前記複数の荷電粒子線それぞれに関して求めるための第1データを保持し、前記物体上の目標領域に対して前記走査が行われるように、前記第1データに基づいて前記制御データを生成する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、例えば、複数の荷電粒子線を一括して偏向して該複数の荷電粒子線による物体上の走査を行う走査偏向器の各荷電粒子線の偏向誤差を補償するのに有利な技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明における電子線描画装置の構成を示す図である。
【図2】複数の電子線による描画手順を示す図である。
【図3】複数の電子線の描画エリアの配置例を示す図である。
【図4】偏向器内の複数の電子線の偏向方向を示す図である。
【図5】偏向方向の誤差により生じる描画位置の誤差を示す図である。
【図6】描画データを修正して描画位置の誤差の影響を補正する方法を示す図である。
【図7】第1実施形態におけるキャリブレーション工程を示すフローチャートである。
【図8】第1実施形態における補正工程を示すフローチャートである。
【図9】第3実施形態におけるキャリブレーション工程を示すフローチャートである。
【図10】第3実施形態における補正工程を示すフローチャートである。
【図11】第4実施形態における補正工程を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明の実施形態を添付の図面に基づいて詳細に説明する。以下の実施形態では、荷電粒子線を照射すべき物体上の目標位置と該荷電粒子線の目標ドーズ量を示す照射データに基づいて複数の荷電粒子線を前記物体に照射する照射装置として電子線描画装置を説明する。しかし、本発明は、電子顕微鏡、イオンビーム注入装置等、荷電粒子線描画装置以外の荷電粒子線照射装置に適用可能である。また、荷電粒子線として電子線以外のイオンビームを用いた照射装置でもよい。
【0013】
[第1実施形態]
図1は、第1実施形態における電子線描画装置の構成を示す。電子光学系10は、基板(ウエハ)8に照射する電子線を生成するマルチビームの電子光学系である。電子銃11から出射された電子線は、アパーチャ12で複数のビームに分割される。分割された複数の電子線は、ブランキング偏向器(ブランカ)13によって制御データに基づいて個別にブランキングされる。ブランカ13を通過した複数の電子線は、2つの走査偏向器(X偏向器21、Y偏向器22)によって一括して偏向して走査され、基板ステージ(ウエハステージ)9に搭載されたウエハ8上の所定の位置を照射する。
【0014】
描画データ生成部1は、回路設計CADの設計データをもとに、ブランカ13によって描画される描画データを生成する。生成された描画データは、半導体回路のパターン情報を表すビットマップデータである。描画データ生成部1では、CADの設計データから描画データを直接生成してもよいし、生成しておいた描画データをメモリなどに蓄積しておき、それを読み出すようにしてもよい。描画データ生成部1で生成された描画データは、描画データ補正部2で電子線描画装置やウエハ8の状態に合わせて、電子線がウエハ8上の所望の位置に、所望の強度で照射できるように補正を加えられ、実際に描画に用いられる描画データが作られる。加えられる補正には、電子線の位置誤差を補償するためのもの、電子線の強度を補償するためのもの、ウエハ8上に形成された回路パターンに対する描画パターンの重ね合わせのためのものが含まれうる。
【0015】
ブランカ制御部131は、描画データに従ってブランカ13を駆動し、各電子線の通過時間を制御する。X偏向器制御部211およびY偏向器制御部221は、X偏向器21およびY偏向器22を駆動して、電子線群を一括してXY方向に偏向する。これにより、ウエハ8面上の所定の位置に描画することができる。電子光学系10を基準としたウエハステージ9の位置は、位置センサ6の計測値に基づいてステージ位置計測部61によって算出される。ウエハステージ9はXY方向に移動可能であり、算出されたステージ位置に基づいたウエハステージ制御部91の指令によって、電子線の照射位置にウエハ8を位置決めすることができる。同期制御部5は、所定の描画手順に従って、ブランカ制御部131、X偏向器制御部211、Y偏向器制御部221、ウエハステージ制御部91の制御を行う。これにより、ブランカ13、X偏向器21、Y偏向器22、ウエハステージ9が同期して動作し、回路パターンがウエハ8上の所定の位置に描画される。各制御部5、131、211、221、91、描画データ生成部1、描画データ補正部2、補正データ出力部3、電子線位置計測部71、ステージ位置計測部61は、制御部100を構成している。
【0016】
図2に、半導体チップの描画手順の具体例を示す。ここでは、X方向を主走査方向、Y方向を副走査方向とする。電子線はX方向にm本、Y方向にn本配置されているとする。まず、各電子線の描画エリア500の左上の描画グリッド501に電子線が照射されるように、X偏向器21、Y偏向器22、ウエハステージ9が制御される。グリッドのサイズは、たとえば、線幅22nmであればその半分の11nm、線幅16nmであれば8nmに設定される。ここで、ブランカ13が駆動され、描画データによって描画グリッド毎に定められた所定の時間だけ電子線が照射されて、描画が行われる。電子線はX偏向器21によって、主走査(X)右方向に順次移動(実線矢印)していき、それにつれて次々とグリッドの描画が行われる。一行分の描画が終了すると、X偏向器21は、左端に戻り(破線矢印)、次の行の描画を行う。このとき、ウエハステージ9は副走査(Y)上方向に等速で移動している。Y偏向器22は、ウエハステージ9の移動に追従して偏向量を調整し、一行分の描画が終了すると次の行の描画のため初期位置に戻る。従って、Y偏向器22は、一行分のグリッド幅の偏向ができるようになっている。これを繰り返すことで、各電子線の描画エリア500の描画を行うことができる。各電子線が隣接した描画エリア500をそれぞれ並行して描画することにより、広い領域を高いスループットで描画することが可能となる。たとえば、100本×100本=10000本の電子線を用いて描画行うことにより、1万倍のスループットを達成することができる。なお、図2には、主走査方向の描画順が各行で同じ方向になっている例を示したが、一行おきに描画順が逆方向になるように描画することも可能である。
【0017】
図3に、描画エリア500の配置例を示す。各電子線は、各描画エリア500中の同じ位置に位置するように配置されている。図3(a)は、図2に示したものと同じように、各描画エリア500が格子状に配置されている。図3(b)は、Y方向に千鳥状の配置となっている。これにより、同列の電子線のX方向間隔を大きくとることができ、配線や冷却配管などの配置が容易になり、アパーチャ12やブランカ13を作りやすくなる。図3(c)は、さらにグループ毎に分割することで、配線および冷却配管スペースの確保に合わせ、さらに梁を設けて強度を確保することが容易となる。分割された間隔部分については、ステージをX方向に移動させて描画を行う。
【0018】
図4は、電子線の光軸方向から見たX偏向器21内の電子線配置の模式図である。ここで、座標(X、Y)は偏向器内の電子線配置を表す偏向器座標であり、偏向器内の電子線通過領域の中央を原点としている。X軸方向に沿う両側から平行平板電極212、213が電子線群の通過する領域を挟んでいる。図4には、わかりやすくするため、少数の電子線しか描いていないが、実際には図3に示した描画エリア配置に対応して、多数の電子線が通過するように配置されている。電子線群を一つの偏向器を用いて偏向するように構成してもよいし、電子線群をグループ分けしてグループ毎に偏向器を設けてもよい。たとえば、図3(c)の描画エリア配置であれば、グループ毎に偏向器を設けてもよい。
【0019】
この電極間に電圧をかけることにより、電極間に電場を発生させる。電子線は電場の方向と強度に応じて偏向される。たとえば、電極212にマイナス、電極213にプラスの電圧をかけることにより、図に矢印で示した偏向ベクトルのように右方向に電子線が偏向される。このとき、正しい描画結果を得るためには、すべての電子線が同じ方向に同じ量だけ偏向して走査されることが期待される。しかし、電極間の電場は、特に電極端部において均一ではなく、電界強度が異なるとともに、電場の方向も完全にはX方向にならない。これは平行平板電極から外側に向かって電場が広がるためである。また、製造誤差によって電極が平行でないことによっても、電場の均一性が損なわれる。なお、Y偏向器22についても、X軸とY軸を入れ替えれば同様のことが言える。すなわち、X偏向器21、Y偏向器22による複数の電子線の少なくとも1つの偏向量(走査量)及び偏向方向(走査方向)は、基準偏向量(基準走査量)及び基準偏向方向(基準走査方向)に対してずれを有している。基準偏向量及び基準偏向方向は、例えば偏向器内の電子線通過領域の中央における偏向量及び偏向方向である。
【0020】
図5に、電場が所定の方向と大きさと異なっている場合の、偏向誤差と描画結果への影響を示す。ここで、座標(x、y)は電子線毎のローカル座標であり、描画すべきデータグリッド(目標領域)502に対する、実際に描画されるビームグリッド503の相対位置を示す。偏向器を駆動していない状態で描画するデータグリッド位置を原点としており、通常は、ローカル座標原点は描画エリア500の中間点にとり、電場の方向を反転させて原点の両側に均等に偏向するようにする。または、原点を描画エリア中の最初に描画するグリッドとし、一方向に偏向するように偏向器電極に電圧を印加する構成としてもよい。ここでは、偏向器を駆動していないときの電子線は、所望する原点グリッド位置に正しく描画されるとして説明する。
【0021】
図5(a)は所定の電場が得られている状態である。データグリッド502の番号kに相当する所定の電圧を電極に印加することで、式1のように電子線を偏向することができる。
【0022】
(x,y)=(a・v・k,0)・・・(1)
ここで、vは偏向器の単位印加電圧であり、実際に印加される電圧は、グリッドに応じてv・kとなる。aはvに対する偏向感度である。電場が完全にX方向に向いているため、y方向には、偏向されない。
【0023】
図5(b)は、電場が所定の方向と異なっている場合を示す。このときの偏向量は、2次元ベクトルの偏向ベクトル(α、β)を用いて、式2のように表わされる。
【0024】
(x、y)=(α・v・k,β・v・k)・・・(2)
電場の強度が異なると、α≠aとなり、X方向に所定の偏向量が得られない。また、電場の向きが異なると、β≠0となりy方向への他成分が発生する。これにより、実際に電子線が偏向された結果は、破線で示したビームグリッド503のようになり、実線のデータグリッド502と一致しなくなってしまう。偏向ベクトル(α、β)は、基準偏向量及び基準偏向方向に対する電子線の偏向量及び偏向方向のずれを示すデータ(第1データ)である。
【0025】
電子線の本数が多ければ、各電子線の偏向幅は電極間距離よりも十分小さい。たとえば、100本×100本の電子線を用いる場合、偏向幅は電極間距離の100分の1以下になる。そのため、各電子線の偏向幅内においては、電場は均一であるとみなすことができる。そのため、電子線毎にはαとβは定数で表すことができる。しかし、電子線が異なると偏向器座標が異なるため、αとβは電子線毎に異なる値となる。もし、電子線毎に個別に偏向器を備えていれば、偏向器の印加電圧を個別に調整することで、各電子線のビームグリッド503をデータグリッド502に一致させることができる。しかし、図4に示したように、ひとつの偏向器で多数の電子線群を一括して偏向する場合には、電子線毎に個別に印加電圧を調整することができない。そのため、電子線のビームグリッド503すべてをデータグリッド502に一致させることはできない。そこで、描画データを修正することで、ビームグリッド503とデータグリッド502が異なっていても、正しく描画されるようにする。
【0026】
図6に描画データの修正例を示す。図6(a)に電子線を照射すべき基板上の目標領域であるデータグリッド502と該電子線の目標ドーズ量を示す描画データを示す。図6の(a)では、3×3の領域に電子線を照射して描画するとする。このとき、偏向量及び偏向方向のずれに起因して電子線のビームグリッド503が図6(b)の破線のようになったとする。電子線はビームグリッド503に沿って描画されるため、本来描画されるべきデータグリッド502の描画データを、ビームグリッド503に対して割り当て直す必要がある。そこで、ビームグリッド503のグリッド毎に、描画されるデータグリッドとの重なり面積を評価する。そして、ビームグリッド503中の描画面積とそこに照射される電子線の強度に応じて、ビームグリッド503に対する電子線強度を決定する。すなわち、目標領域に照射されるべき電子線と目標領域に隣接する位置に照射されるべき電子線とを用いて、目標領域に描画データに応じた目標ドーズ量で電子線が照射されるように描画データを補正する。図6の例では、図6(c)に示すように、中央2×2のビームグリッド503は描画範囲に完全に入っているので、フルに描画する。その周りの4×4のビームグリッド503は、描画範囲と描画されない範囲にまたがっているので、描画範囲の面積に応じて、電子線の強度を決定する。例えば、4×4のグリッドのうちの中央の4つ以外の12のグリッドの電子線強度を、2つのグリッドで70%、6つのグリッドで50%、2つのグリッドで20%、2つのグリッドで10%とする。電子線強度の強弱は、ブランカを用いてグリッド毎の電子線のオン時間を制御することで調整される。このようにして、データグリッド502の描画データから、ビームグリッド503に対する描画データを生成し、この描画データを用いて描画を行う。
【0027】
ビームグリッド503に対する描画データ生成のためには、電子線毎に偏向ベクトル(α,β)を求める必要がある。これには、電子線センサ(検出器)7を用いて各電子線の位置を検出して偏向量を計測することで行う。電子線センサ7にはファラデーカップやCCDセンサなどが用いられる。これらの電子線センサ7では、測定する電子線が電子線センサ7に照射されるようにステージ9を移動させて電子線強度を測定する。電子線位置計測部71では、電子線センサ7の測定値とその時のステージ位置情報に基づいて、電子光学系10基準での電子線の位置を算出する。偏向器を駆動していない状態(偏向器電極に電圧を印加していない状態)での電子線の基準位置と、偏向器を駆動した状態の電子線の位置との差から、αとβを求めることができる。求めたαとβは補正データ出力部3に保持しておき、これを用いて、描画データ補正部2でビームグリッド503への補正を行う。なお、補正データ出力部3では、αとβ以外の各種補正パラメータを保持していてもよい。
【0028】
図7を用いて、電子線位置計測部71による電子線の照射位置および偏向量のキャリブレーション工程を説明する。S1で、電子線位置計測部71は、電子線センサ7を用いて全電子線について偏向器21,22を駆動していない状態(第1偏向状態)での位置計測を行う。これにより、各電子線のローカル座標原点において、データグリッド502とビームグリッド503がどれだけ異なっているかを測定することができる。S2で、電子線位置計測部71は、S1の測定結果に基づき、電子線位置補正量(オフセット量)を算出する。S2で算出された電子線位置補正量は、各荷電粒子線について偏向器により偏向されていない状態における照射位置のずれを示す第2データを構成している。電子線位置計測部71は、データグリッド502とビームグリッド503の原点が一致するように、描画データをX,Y方向にシフトさせるオフセット量を求める。求められたオフセット量は、補正データ出力部3に記憶されて補正に用いられる。
【0029】
S3で、電子線位置計測部71は、基準とする電子線において、所定の電圧を偏向器電極に印加した状態の電子線照射位置を、電子線センサ7を用いて測定する。基準とする電子線は、通常は偏向器座標(X、Y)の原点付近、すなわち偏向器の中央付近の電子線とする。このとき、偏向器中央付近の複数の電子線を計測して、平均値を測定結果としてもよい。また、描画エリア500の偏向幅におおむね相当する電圧とすることができる。S4で、電子線位置計測部71は、S3の測定結果に基づき、基準とする電子線において、データグリッド502とビームグリッド503が一致する偏向電圧を決定する。これは、式1における偏向感度aを求め、単位印加電圧vを決定することである。求められた単位印加電圧vは、X偏向器制御部211に送られ、X偏向器21に印加する電圧が決定される。
【0030】
S5で、電子線位置計測部71は、S4で求めた単位印加電圧vから決まる描画エリア500の偏向幅に相当する電圧(基準偏向電圧)を偏向器電極に印加した状態(第2偏向状態)で電子線毎の照射位置を電子線センサ7により測定する。測定する電子線は、全電子線であることが望ましいが、近接する電子線同士では測定結果には大きな差は生じないので、所定の間隔で間引いて測定してもよい。また、近傍の複数の電子線を計測して、平均値を測定結果としてもよい。S6で、電子線位置計測部71は、S1とS5の測定結果に基づき、電子線毎に、偏向器に電圧を印加したときの偏向量を求める。これは、式2におけるαとβを決定することである。求められたαとβは、補正データ出力部3に記憶されて補正に用いられる。
【0031】
次に、図8を用いて、電子線位置および偏向量の補正工程を説明する。S11で、描画データ補正部2は、補正データ出力部3に記憶されているαとβを読み出し、描画するビームグリッドkの座標値(x,y)の偏向補正量を算出する。S12で、描画データ補正部2は、補正データ出力部3に記憶されている電子線のオフセット量を読み出し、描画するビームグリッドkに対する電子線位置補正量を算出する。
【0032】
S13で、上記キャリブレーション工程とは別に、ウエハ毎にウエハ上に描画済みの回路パターンマーク位置が計測される。この情報から、描画データ補正部2は、ウエハ上の描画済み回路パターンに対して正確に重ね合わせて描画するための描画データのシフト量、回転量および拡大率を求め、それに合わせてデータグリッド502の座標を算出する。S14で、描画データ補正部2は、S11、S12、S13で算出された個々の補正による座標値を合算し、描画しようとするビームグリッドkの座標値(x,y)を求める。
【0033】
S15で、描画データ補正部2は、算出されたビームグリッド座標値に対応する画素データを描画データ生成部1により生成された描画データから読み出し、前述の面積比に基づく手法で電子線強度即ち電子線のオン時間を表す描画データを求める。S16で、描画データ補正部2は、必要に応じて、各電子線の強度に対する補正を描画データに加える。描画データ補正部2は、求められた描画データをブランカ制御部131に供給し、同期制御部5によって偏向器20およびステージ9と同期を取ってブランカ13が駆動される。上記の補正動作はビームグリッド毎に繰り返し実行される。多数の処理回路を用意して複数のグリッド、複数の電子線に対して並列処理を行うようにしてもよい。
【0034】
以上説明したように、各電子線の偏向量を計測して描画データの補正を行うことにより、多数の電子線を単一の偏向器を用いて偏向することで偏向器内の電場分布に基づく電子線毎の偏向量及び偏向方向の誤差があっても、精度よく描画を行うことができる。
【0035】
[第2実施形態]
第1実施形態に記載の工程S5に多数の電子線について、それぞれ偏向量を計測していたのでは、非常に計測時間がかかってしまう。一方、シミュレーションを行うことで、偏向ベクトル(α、β)を求めることができる。具体的には、偏向器によって形成される電場のシミュレーションを行うことにより、各電子線位置における電場の状態(強度、方向)を求める。さらに、求めた電場を電子線が通過した時の挙動をシミュレーションして、偏向ベクトル(α、β)を取得する。シミュレーションで取得された、各電子線の偏向ベクトルを補正データ出力部3に記憶し、補正に用いることができる。偏向ベクトルの算出は設計時など、事前に行っておけばよい。そのため、図7に示した第1実施形態のキャリブレーション工程に対して、S5,S6を省略することができる。このときの描画データの補正工程は、図8に示した第1実施形態の補正工程と同じである。本実施形態では、キャリブレーション工程において、偏向ベクトルを計測する工程が省略できるので、大幅なキャリブレーション時間の短縮が可能となる。
【0036】
[第3実施形態]
図4に示した各電子線の偏向ベクトルは、偏向器座標に対して相関関係を有している。特に、平行平板電極のように、座標系に対して対称な電極形状であれば、偏向ベクトルは座標値に対して比較的単純な近似式で表すことができる。式2におけるX軸方向の偏向量αの分布は、X軸、Y軸に対しておおむね線対称となっており、近似式を2次または4次の偶数次多項式で表すことができる。たとえば2次多項式で表すと式3のようになる。
α=f(X,Y)
=1+f10X+f20X^2+f01Y+f02Y^2+f11XY・・・(3)
ここで、第1項の定数は、S3、S4において、単位印加電圧vがキャリブレーションされているとして、1としている。
【0037】
Y軸方向の偏向量βの分布は、X軸、Y軸に対しておおむね点対称となっているので、1次または3次の奇数次多項式で表すことができる。たとえば、3次多項式で表すと、式4のようになる。
β=g(X,Y)
=g00+g10X+g20X^2+g30X^3+g01Y+g02Y^2+g03Y^3+g11XY+g12XY^2+g21X^2Y・・・(4)
このように表すと、式3の係数f10〜f11、および式4の係数g00〜g21を求めておけば、各電子線の偏向器座標(X、Y)から式に基づいて偏向ベクトル(α,β)を求めることができる。式3、式4の形式および各係数値は、第2実施形態と同様に、この偏向器の電場シミュレーションを行うことにより求めることができる。このとき、多項式の次数については、近似多項式によって求められた偏向ベクトル(α,β)と、直接求められた偏向ベクトル(α,β)の誤差が許容値以下になるように決める。誤差の許容値は、描画装置各部の精度や、プロセス条件によって変わってくるが、算出された偏向ベクトル(α,β)によって決定されたビームグリッドの誤差が、おおむねグリッドサイズの1/10以下であることが望ましい。
【0038】
また、式3、式4の形式および各係数値は、第1実施形態と同様に、各電子線の偏向量を計測することによって、求めることもできる。各電子線の偏向量を近似多項式に当てはめて、最小二乗法などによって近似多項式係数を算出することができる。式3、式4の形式は、上記のような低次多項式で表すと、少ない演算量で偏向ベクトルを求めることができるが、必ずしも多項式形式ではなくともよい。三角関数や指数関数を用いることもできる。
【0039】
図9を用いて、本実施形態における電子線位置および偏向量のキャリブレーション工程を説明する。第2実施形態に示した工程のように、偏向量のキャリブレーションを行うことなく、事前のシミュレーションや測定結果から求められた近似多項式係数を用いて描画することもできる。ここでは、装置の状態変化に合わせてキャリブレーションを行った場合について説明する。S1〜S4は、第1実施形態と同様である。
【0040】
S7で、参照電子線について、S4で求めた単位印加電圧vから決まる描画エリア500の偏向幅に相当する電圧を偏向器電極に印加する。電子線位置計測部71は、そのときの電子線位置は電子線センサ7を用いて測定する。S5とは異なり、式3、式4の係数が特定可能となる本数の参照電子線のみを計測すればよい。測定精度を高めるため、基準となる原点付近から大きく離れた電極端部近傍の電子線を参照電子線として計測する。また、近接する複数の電子線を計測して、平均値を測定結果としてもよい。
【0041】
S8で、電子線位置計測部71は、S1とS7の測定結果に基づき、参照電子線において、偏向器に電圧を印加した時の、偏向量を求める。これは、式2におけるαとβを決定することである。これを式3、式4に代入し、最小二乗法を用いて、多項式f、gの各係数を求める。求めた各係数は、補正データ出力部3に記憶されて補正に用いられる。
【0042】
また、変動要因によっては、各係数を個別に求める必要がない場合もある。
α=f(X,Y)
=1+(f10X+f20X^2+f01Y+f02Y^2+f11XY)F・・・(3’)
β=g(X,Y)
=(g00+g10X+g20X^2+g30X^3+g01Y+g02Y^2+g03Y^3+g11XY+g12XY^2+g21X^2Y)G・・・(4’)
例えば、α、βを式3’、式4’のように変形したときに、係数f10〜f11及び係数g00〜g21は変動しないとみなすことができれば、全体を代表する係数F、Gだけをキャリブレーションすればよい。この場合、偏向量を測定する電子線数をさらに削減することが可能である。
【0043】
次に、図10を用いて、電子線位置および偏向量の補正工程を説明する。工程S10が加わった以外は、第1実施形態の図8と同じである。S10で、描画データ補正部2は、補正データ出力部3に記憶されている多項式f、gの各係数を読み出し、電子線の偏向器座標値(X,Y)と合わせて、多項式f、gに代入することで、αとβを算出する。算出は、単純な積和演算のみで済むため、演算量はほとんど増えない。S11で、描画データ補正部2は、S10で算出されたαとβを用いて、描画するビームグリッドkの座標値(x,y)を算出する。
【0044】
第3実施形態においては、少数の参照電子線のみの偏向量を計測すればよいため、キャリブレーション時間を大幅に短縮することができる。また、第1実施形態においては、全電子線に対してαとβを補正データ出力部3に記憶しておく必要があったが、第3実施形態においては全電子線に対して、同一の多項式f、gの係数F、Gのみを記憶しておけばよいので、記憶容量を大幅に削減することができる。
【0045】
[第4実施形態]
図11に、第4実施形態における電子線位置および偏向量の補正工程を説明する。第4実施形態では、補正工程を、キャリブレーションごとに行うオフライン工程と、チップ毎に行うオンライン工程に分けた点が、第3実施形態と異なる。オフライン工程においては、S10、S11、S12の工程を行い、電子線位置と偏向量のみの補正を描画データに対して適用し、S17で中間描画データを生成する。キャリブレーションは、描画装置の立ち上げ時、複数枚のウエハの描画後、前回のキャリブレーションから所定の時間が経過した後、などのタイミングで行われる。ここで、補正パラメータが更新されるため、それに合わせて描画パターンに補正を行う。
【0046】
一方、S13のオーバーレイ補正は、ウエハ毎に計測が行われ、また補正パラメータはウエハ上に描画されるチップ毎に異なる。従って、S13、S18、S16の工程は各チップの描画毎に行う。S18では、オフライン工程で生成した中間描画データS17に対して、S13で生成したオーバーレイ補正の適用を行う。本実施形態では、オンラインで実行する処理量を減らすことができるため、処理回路の規模を削減することができる。オフライン工程は、キャリブレーション工程と並行して実行することができ、装置のスループットに直結しない。従って、多少処理時間が多くかかっても、ソフトウェア処理として処理回路を削減し、装置コストを削減することが可能となる。
【0047】
[物品の製造方法]
本発明の好適な実施形態の物品の製造方法は、例えば、半導体デバイスや原版(例えば、レチクルまたはマスクとも呼ばれうる)などの物品の製造に好適である。該製造方法は、感光剤が塗布された基板に上記の荷電粒子線描画装置を用いてパターンを描画する工程と、前記パターンが描画された基板を現像する工程とを含みうる。さらに、デバイスを製造する場合において、該製造方法は、他の周知の工程(酸化、成膜、蒸着、ドーピング、平坦化、エッチング、レジスト剥離、ダイシング、ボンディング、パッケージング等)を含みうる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子線による物体上の走査を行う走査装置であって、
制御データに基づいて複数の荷電粒子線を個別にブランキングするブランキング偏向器と、
前記複数の荷電粒子線を一括して偏向して前記走査を行う走査偏向器と、
制御部と、
を備え、
前記制御部は、基準走査量及び基準走査方向に対する前記走査偏向器による走査量及び走査方向のずれを前記複数の荷電粒子線それぞれに関して求めるための第1データを保持し、前記物体上の目標領域に対して前記走査が行われるように、前記第1データに基づいて前記制御データを生成する、ことを特徴とする走査装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記第1データとして、前記複数の荷電粒子線それぞれに関する前記ずれに対応したデータを保持する、ことを特徴とする請求項1に記載の走査装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記第1データとして、前記複数の荷電粒子線それぞれの基準位置と前記ずれとの関係を表わすデータを保持する、ことを特徴とする請求項1に記載の走査装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記第1データとして、前記関係を表わす多項式の係数を保持する、ことを特徴とする請求項3に記載の走査装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記ずれを表すデータとして、2次元ベクトルの成分のデータを用いる、ことを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の走査装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記複数の荷電粒子線それぞれに関して前記走査偏向器により偏向されていない状態における位置の基準位置からのずれに対応した第2データをさらに保持し、前記第1データおよび前記第2データに基づいて前記制御データを生成する、ことを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の走査装置。
【請求項7】
前記第1データは、前記走査偏向器の生成する電場の強度及び方向をシミュレーションすることによって取得されたデータを含む、ことを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の走査装置。
【請求項8】
前記物体上の荷電粒子線の位置を検出する検出器を有し、
前記制御部は、前記検出器の出力に基づいて、前記複数の荷電粒子線それぞれに関して前記走査偏向器による第1偏向状態と第2偏向状態とにおける前記物体上の位置を計測することによって、前記第1データを取得する、ことを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の走査装置。
【請求項9】
請求項1乃至請求項8のいずれか1項に記載の走査装置を含み、荷電粒子線による物体上の走査を前記走査装置により行って複数の荷電粒子線で基板に描画を行う、ことを特徴とする描画装置。
【請求項10】
請求項9に記載の描画装置を用いて基板に描画を行う工程と、
前記工程で描画を行われた基板を現像する工程と、
を含むことを特徴とする物品の製造方法。
【請求項1】
荷電粒子線による物体上の走査を行う走査装置であって、
制御データに基づいて複数の荷電粒子線を個別にブランキングするブランキング偏向器と、
前記複数の荷電粒子線を一括して偏向して前記走査を行う走査偏向器と、
制御部と、
を備え、
前記制御部は、基準走査量及び基準走査方向に対する前記走査偏向器による走査量及び走査方向のずれを前記複数の荷電粒子線それぞれに関して求めるための第1データを保持し、前記物体上の目標領域に対して前記走査が行われるように、前記第1データに基づいて前記制御データを生成する、ことを特徴とする走査装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記第1データとして、前記複数の荷電粒子線それぞれに関する前記ずれに対応したデータを保持する、ことを特徴とする請求項1に記載の走査装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記第1データとして、前記複数の荷電粒子線それぞれの基準位置と前記ずれとの関係を表わすデータを保持する、ことを特徴とする請求項1に記載の走査装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記第1データとして、前記関係を表わす多項式の係数を保持する、ことを特徴とする請求項3に記載の走査装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記ずれを表すデータとして、2次元ベクトルの成分のデータを用いる、ことを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の走査装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記複数の荷電粒子線それぞれに関して前記走査偏向器により偏向されていない状態における位置の基準位置からのずれに対応した第2データをさらに保持し、前記第1データおよび前記第2データに基づいて前記制御データを生成する、ことを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の走査装置。
【請求項7】
前記第1データは、前記走査偏向器の生成する電場の強度及び方向をシミュレーションすることによって取得されたデータを含む、ことを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の走査装置。
【請求項8】
前記物体上の荷電粒子線の位置を検出する検出器を有し、
前記制御部は、前記検出器の出力に基づいて、前記複数の荷電粒子線それぞれに関して前記走査偏向器による第1偏向状態と第2偏向状態とにおける前記物体上の位置を計測することによって、前記第1データを取得する、ことを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の走査装置。
【請求項9】
請求項1乃至請求項8のいずれか1項に記載の走査装置を含み、荷電粒子線による物体上の走査を前記走査装置により行って複数の荷電粒子線で基板に描画を行う、ことを特徴とする描画装置。
【請求項10】
請求項9に記載の描画装置を用いて基板に描画を行う工程と、
前記工程で描画を行われた基板を現像する工程と、
を含むことを特徴とする物品の製造方法。
【図1】
【図4】
【図5】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図6】
【図4】
【図5】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図6】
【公開番号】特開2013−115148(P2013−115148A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−258217(P2011−258217)
【出願日】平成23年11月25日(2011.11.25)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年11月25日(2011.11.25)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
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