説明

走行計画作成装置

【課題】列車の自動制御装置、または運転支援装置において、実際の走行において、列車の特性や速度制限など変化するパラメータの予測が外れた場合であっても、当該パラメータに依存する消費電力、乗り心地などを最適化する走行計画作成装置を提供する。
【解決手段】列車の特性や速度制限など最適化計算時点では未知であるパラメータに関する分布情報を入力する手段を備えることにより、実際の走行において前記パラメータの予測誤差があったとしても消費電力や乗り心地が極度に悪化しないような走行曲線を生成する。これにより、実際の走行において、消費電力や乗り心地などの大幅な悪化を抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、列車の自動制御装置または運転支援装置における走行計画の作成に関するものである。
【背景技術】
【0002】
列車がいつ駅を発車し、いつ次駅に到着するかをダイヤと呼ぶ。ダイヤに沿った運行のために、いつ加速し、いつ減速し、どの区間をどのぐらいの速度で走行するか、という計画のことを走行計画と呼ぶ。
列車を自動的に制御する装置、あるいは運転士に対し列車の制御を支援する装置においては、乗り心地や消費電力などを考慮しつつ、定刻に次駅に到着するようにあらかじめ走行計画を作成している。
【0003】
しかし、先行する列車の遅延などで計画通りに走行できない場合、動的に計画を作成または修正する必要がある。ATCの導入された路線においては、先行する列車の位置によって閉塞区間への進入可否や制限速度が設定されるが、動的な走行計画作成のためにはこれらの制約を考慮しなければならない。
【0004】
また、消費電力や乗り心地などを評価指標として列車の走行計画を最適化する場合、列車の重量や性能、路線の勾配、速度制限などのパラメータを考慮し、それらに基づいて前記評価指標を最適にするような走行計画を算出する。しかし、それら最適化に必要なパラメータが全て最適化計算時に得られるとは限らない。例えば、列車重量は乗客数によって変化するが、実際の走行前に最適化計算をする場合、乗客数は未知である。また、ある時刻における最適な走行計画は、前記時刻より未来の先行列車の遅延状況に依存する。
【0005】
これに対し、例えば特許文献1には、地車間通信設備を用いて路線を走行する各列車の位置や速度などの情報を地上の制御装置に集約し、前記制御装置にて消費電力や乗り心地などを考慮した走行曲線を動的に生成し、生成した走行曲線を各列車に伝達することによって、列車制御を行うことが記載されている。またその際に、後続列車の走行曲線が先行列車の走行曲線に過接近しないよう、先行列車がある閉塞区間を抜けるまでの予測時間と、後続列車が当該閉塞区間に進入する予測時間とを比較し、後続列車の走行曲線を修正するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−204507号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1のような従来技術においては、先行列車がある閉塞区間を抜けるまでの時間と、後続列車が当該閉塞区間に進入する時間を予測することでこの問題に対処しているが、これらの予測は必然的に誤差を持つ。先行列車がある時刻にある閉塞区間を抜けるとの予測に基づき後続列車の走行計画を決定した場合、先行列車が予測に反して長時間当該閉塞区間に滞在した場合には、後続列車は先行列車に過接近することになり、実際の走行における消費電力の増大、乗り心地の悪化を招くという課題があった。
【0008】
また、特許文献1のような従来技術においては、先行列車の走行情報を後続列車に伝えるために地車間通信を前提としており、既設の通信インフラが整備されていない路線においては、装置の適用に大きなコストを要するという課題もあった。
【0009】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、実際の走行において、列車の特性や速度制限など変化するパラメータの予測が外れた場合であっても、当該パラメータに依存する消費電力、乗り心地などを最適化する走行計画作成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、この発明に係る走行計画作成装置は、走行計画作成時点において未知であるパラメータの分布情報を取得する分布情報入力手段と、少なくとも列車の速度、位置、ATC信号情報を取得する列車状態入力手段と、少なくとも閉塞区間の位置情報を保持する最適化パラメータ記憶手段と、前記分布情報入力手段、前記列車状態入力手段、前記最適化パラメータ記憶手段から得られる情報をもとに、列車の走行を最適化する列車制御指令を生成する最適化手段と、前記最適化手段によって生成された列車制御指令に従い、走行計画を作成して出力する制御指令出力手段を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
この発明の走行計画作成装置によれば、最適化計算を行う時点において未知であるパラメータの統計的な分布を入力する分布情報入力手段を備えることにより、前記分布情報を前提として、消費電力や乗り心地などを評価指標とした走行曲線の最適化を行うことにより、前記未知パラメータが予測できない場合、あるいは予測できたとしても実際の走行において予測が外れた場合においても、実際の走行における前記評価指標の大幅な悪化を抑制することができる。
また、実際の走行時に地車間通信によらなければ得られないパラメータを、分布情報を持つ未知パラメータとして扱うことが可能であるため、既設の通信インフラが整備されていない路線においても、大きなコストを要することなく装置の適用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施の形態1に係る走行計画作成装置の適用場面の説明図である。
【図2】図1の状況を表現した時刻と位置、及び制御指令を示すグラフである。
【図3】実施の形態1に係る走行計画作成装置の全体構成を示すブロック図である。
【図4】実施の形態1に係る走行計画作成装置の動作を示すフローチャートである。
【図5】実施の形態1に係る走行計画作成装置における分布情報の説明図である。
【図6】実施の形態1に係る走行計画作成装置による効果を説明する図である。
【図7】実施の形態2に係る走行計画作成装置の適用場面の説明図である。
【図8】実施の形態2における各種条件に対する列車の最高速度を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、この発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
実施の形態1.
この発明の実施の形態1による走行計画作成装置は、先行列車が存在する閉塞区間への後続列車の進入が禁止されるATC装置が設置された路線に適するものである。
図1は、この発明の実施の形態1に係る走行計画作成装置を適用する典型的な状況を説明する図である。図1において、先行列車101は駅102に停車しており、後方より後続列車103が駅102へ接近している。駅102は閉塞区間Bにあるとする。後続列車103は閉塞区間Aを走行しているが、先行列車101が閉塞区間Bを抜けるまで、後続列車103は閉塞区間Bへ進入することはできないとする。
【0014】
図2上段は、図1の状況を模式的に時間と位置のグラフで表現したものである。縦軸が位置であり、列車進行方向は縦軸下である。横軸は時刻である。また、後続列車の列車制御指令を図2下段に示す。先行列車101は駅102の停止位置Yに停車しており、ある時刻に発車する。先行列車101が閉塞区間Bを抜ける時刻をTとおいたとき、後続列車103は時刻Tになるまで閉塞区間Aと閉塞区間Bの境界を超えて進行することができない。そのため、図2上段において実線で示すように、後続列車103が閉塞区間境界の手前で急減速、場合によっては停車する場合がある。このような減速あるいは停車は、一般に乗り心地を悪化させ、消費電力を増大させる。また、列車の加速力には限界があるため、前記閉塞区間境界より手前で速度を持ったまま時刻Tを迎え加速するよりも、前記閉塞区間境界において停止状態で時刻Tを迎え、そこから加速するほうが、走行時分が延びる。
【0015】
しかし、後続列車103の走行曲線を最適化する場合、先行列車101が閉塞区間Bにいる間に計算しなければならないが、その最適な走行曲線は先行列車101が閉塞区間Bを抜ける時刻Tに依存する。そして時刻Tは先行列車101が閉塞区間Bを抜けるまでは正確にはわからない。
そこで、本発明は、実際の走行においてTが変動した場合でも、急減速や停車を抑制し、乗り心地を向上させ、あるいは消費電力を抑制し、あるいは走行時分を最小化するように、後続列車103の走行曲線を最適化する走行計画を作成するものである。
【0016】
図3は、本発明による走行計画作成装置301の全体構成を示すブロック図である。走行計画作成装置301は、分布情報入力手段302、列車状態入力手段303、最適化パラメータ記憶手段304、最適化手段305、制御指令出力手段306から構成される。また、図4は、走行計画作成装置301の動作を表すフローチャートである。分布情報入力手段302によって分布情報が更新されたとき(ステップST401のYES)、または列車状態入力手段303によって列車状態が更新されたとき(ステップST402のYES)、最適化手段305によって最適化を行い(ステップST403)、制御指令出力手段306によって制御指令を出力する(ステップST404)。一方、分布情報も列車状態も更新されなければ(ステップST401がNO、かつ、ステップST402がNO)、所定の時間待機する(ステップST405)。
【0017】
分布情報入力手段302は、先行列車101が閉塞区間Bを抜ける時刻Tの分布情報、すなわち様々な時刻区間に対し、Tが前記時刻区間に含まれる確率情報を出力する。この確率情報は、例えば図5(a)のような確率密度として与えてもよいし、図5(b)のように頻度のヒストグラムとして与えてもよい。この情報は、実際の運行において時刻Tがいつであったかを長期間履歴をとり、それに基づいて決定してもよい。列車状態入力手段303は、後続列車103に設置され、少なくとも車両の速度及び位置、ATC信号情報を取得し、出力する。最適化パラメータ記憶手段304は、少なくとも閉塞区間の境界位置を記憶しており、また、状況に応じて路線の駅位置や勾配を記憶しており、要求に応じて出力する。最適化手段305は、前記分布情報入力手段302、列車状態入力手段303によって出力された列車情報を用い、必要に応じて最適化パラメータ記憶手段304に記憶された情報を参照しながら、所定の評価指標の期待値を最適にするような列車制御指令を計算する。ここで、列車制御指令とは、例えば各時刻における目標速度、目標加減速度、ノッチ段などを指す。制御指令出力手段306は、前記最適化手段305によって得られた列車制御指令に従い、走行計画を作成して出力する。そして、このようにして作成された走行計画が、実際の列車の自動制御や運転士への列車運転支援に用いられる。
【0018】
以下、最適化手段305の詳細を説明する。まず、最適化すべき走行曲線を、時刻tの関数x(t)で表現する。この関数は、時刻tに列車が位置xにいることを表す。走行曲線x(t)は、走行指令に依存する。走行指令は関数u(t)で表現する。これは時刻tにおいて列車の加速度(進行方向が正)がu(t)であることを表す。関数u(t)は離散値をとる関数であってもよいし、連続、あるいは不連続な関数であってもよい。
【0019】
ここで列車重量をm、重力加速度をg、位置xにおいて線路が水平面となす角度をθ(x)、時刻tでの列車の速度をv(t)、列車速度がvのときの列車の受ける空気抵抗をR(v)とおくと,走行曲線x(t)は微分方程式

を満たす曲線である。
【0020】
次に、最適化を行うための評価規範を、L(x,v,u,t)とおく。例えば、列車の消費電力を最適化する場合、

といった規範を指定する。ここでP(t)は時刻tにおける消費(または回生)電力であり、αとはモータ効率、すなわち入力電力とモータ出力の変換係数であり、βとは回生効率、すなわち電気ブレーキの制動力と発電される電力との変換係数である。また、ここではモータ効率、回生効率を定数としたが、これらを速度によって変化させてもよい。あるいは、乗り心地や走行時分を評価するような規範を指定してもよいし、それらを重み付けしたものを規範としてもよい。
【0021】
また、エンジンやモータ、ブレーキには発生できる加速力の限界がある。これは、例えば

のように表現できる。
【0022】
ここで、現在の時刻をt=0、後続列車103の速度をv、位置をx、次の停車駅の位置をx、停車時刻をtとおく。簡単のために後続列車103の現在位置と次の停車駅の間に閉塞区間の境界が1つしかないとする。もし先行列車101が閉塞区間を抜ける時刻Tが既知ならば、評価規範を最適化する制御指令とは、式(3)およびt≦Tを満たす任意の時刻tについて

を満たしつつ、x(0)=x,v(0)=v,x(t)=x,v(t)=0を境界条件とする微分方程式(1)の解であり、かつ式(2)で規定される評価規範を最適化するu(t)として求められる(閉塞区間境界の位置はxとする)。従って、各Tに対し、1つの最適な制御指令u(t)が決まることになる。これを今、u(t;T)のように表すこととする。
【0023】
最適化を行う時点において、正確なTは未知であるから、このままでは出力すべき制御指令が決定できない。そこで、出力すべき唯一の制御指令をu(t)とおき、t≦Tを満たす任意の時刻tに対して制約条件

を設定し、その上で任意のTに対する最適化問題を同時に解く。この際、評価規範は各Tに対する最適化問題の評価規範を、Tに関する分布に従って重み付けした和とする。このとき、実際にTが決定するまで、列車が位置xより手前であるような解が生成される。
【0024】
これにより、Tの確率分布を前提とし、統計的に規範を最適化するような制御指令u(t)を計算することができる。この計算は数学的には制約付きの2点境界値問題であり、公知の方法、例えば「NUMERICAL RECIPES in C[日本語版]」(W.Press,S.Teukolski,W.Vetterling,B.Flannery著,丹慶勝市,奥村晴彦,佐藤俊郎,小林誠 訳,「NUMERICAL RECIPES in C[日本語版]」,日本,技術評論社,平成13年11月1日,p.558−580)に記載の方法によって解くことができる。すなわち、各Tに対応するu(t;T)を縦に並べてベクトルとし、前記境界条件及び制約条件のもとで式(2)の評価規範を最適化するベクトル値関数を求める。
【0025】
この計算により得られたu(t)が、列車制御指令、すなわち目標速度、目標加減速度、ノッチ段などである。u(t)としてノッチ段を考える場合、例えばノッチの切り替え回数を考慮して最適化を行っても良い。最適化の結果得られた制御指令に従い列車を制御することで、例えばある閉塞区間境界において進入が許可される時刻をTとしたとき、あらかじめ減速または惰行を行い急な閉塞区間境界での急な加減速や停止を抑制するだけでなく、Tがどの程度変動しやすいかまで考慮して、実際の走行においてTが変動した場合でも急な加減速や停止を抑制するような走行を実現できる。
【0026】
図6上段は、最適化された列車の走行の例を示すグラフである。実線が最適化された走行計画であり、破線が図2に示した走行計画である。最適化された走行計画では、先行列車101がまだ閉塞区間Bにいる間に速度を落とし、閉塞区間AとBの境界での停車を抑制することにより、時刻Tにおいてある程度の速度を保っている。その結果、時刻Tにおいて閉塞区間境界から加速する場合に比べ走行時分を短縮している。また、図6下段は、最適化された制御指令を示しており、図2下段の制御指令と比較すると、加減速を抑え、惰行が長く行われており、図6の場合の方が消費電力が低減されていることがわかる。
【0027】
以上のように、この実施の形態1によれば、最適化計算に用いるパラメータの分布情報を入力する手段を備えることによって、走行曲線の最適化を行う時点において未知であるパラメータがあったとしても、その未知のパラメータの予測誤差に対して頑健な列車制御指令を生成することができる。すなわち、先行列車の在線する閉塞区間への後続列車の進入が禁止されるATC装置を備えた路線において、先行列車に遅延が発生したとしても、極端な消費電力の増加、乗り心地の悪化、後続列車の走行時分の延びを抑制する列車制御指令を生成することができ、消費電力の抑制、乗り心地の向上、走行時分の短縮といった効果を得ることができる。
また、実際の走行時に地車間通信によらなければ得られないパラメータを、分布情報を持つ未知パラメータとして扱うことが可能であるため、既設の通信インフラが整備されていない路線においても、大きなコストを要することなく装置の適用が可能である。
【0028】
実施の形態2.
この発明の実施の形態2による走行計画作成装置は、先行列車が存在する閉塞区間に依存して、先行列車より後方の閉塞区間に制限速度が設定されるATC装置が設置された路線に適するものである。
図7は、この発明の実施の形態2に係る走行計画作成装置を適用する典型的な状況を説明する図である。図7(a)において、先行列車101は閉塞区間Dを走行しており、その1つ後方の閉塞区間Cでは、後続列車103に対する制限速度が0km/h、すなわち停止となっている。さらに1つ後方の閉塞区間Bでは前記制限速度が20km/hとなっており、後続列車103の走行している閉塞区間Aでは制限速度が40km/hとなっている。そして、図7(b)に示すように、先行列車101が閉塞区間Dを抜けたとき、後続列車103に対する閉塞区間Dでの制限速度は0km/hとなり、閉塞区間Cでの制限速度は20km/h、閉塞区間Bでの制限速度は40km/hとなるとする。
【0029】
閉塞区間Aを時速40km/hで走行する後続列車103が閉塞区間Bへ侵入することを考える。先行列車101がダイヤ通り走行している場合、後続列車103が閉塞区間Bへ侵入するとき、先行列車101は既に閉塞区間Dを抜け、閉塞区間Bでの制限速度は40km/hとなっているとする。
【0030】
ここで先行列車101に短時間の遅延が発生し、後続列車103が閉塞区間Bへ侵入した時刻で閉塞区間Bでの制限速度が20km/hとなっており、短時間ののち先行列車101が閉塞区間Dを抜け、閉塞区間Bでの制限速度が40km/hに戻ったとする。このとき後続列車103は閉塞区間Bへ侵入した直後から自動的にブレーキがかかり、時速20km/hになるまで減速し、制限速度が40km/hになった時点で再び加速する。このような加減速は消費電力、または乗り心地を悪化させる。
【0031】
また、先行列車101が閉塞区間Dを抜ける時刻があらかじめ既知ならば、後続列車103は閉塞区間Aにいる間に適度に惰行し、先行列車101が閉塞区間Dを抜けた直後に閉塞区間Bに進入することができる。このような走行と、減速して再び加速する走行を比較すると、列車の加速力の限界から、後者の走行時分が延びる場合がある。
しかしながら、先行列車101が閉塞区間Dを抜ける正確な時刻Tは、実際に先行列車101が閉塞区間Dを抜けるまで未知である。
【0032】
この実施の形態2による走行計画作成装置は、最適化を行う際に、条件x(T)≦xを考える代わりに、速度に関する制約条件

を考える点を除き、実施の形態1による走行計画作成装置と同様の構成をとる。ここでvmaxは、列車の最高速度であり、例えば図7に記載の状況の場合、後続列車103の位置x,時刻t,先行列車101が閉塞区間Dを抜ける時刻Tの値に応じて、図8に示す表の値をとる。
【0033】
また、先行列車が現在走行中の閉塞区間だけでなく、先行列車が今後通過する閉塞区間を考え、それによってvmaxを変化させてもよい。また、後続列車の位置に応じてvmaxを変化させてもよい。実施の形態1と同様に、この計算は制約つきの2点境界値問題であり、例えば前述の「NUMERICAL RECIPES in C[日本語版]」に記載の方法で解くことができる。
【0034】
以上のように、この実施の形態2に係る走行計画作成装置によれば、得られたu(t)に従って列車を制御することで、例えばある閉塞区間において制限速度が変化する時刻をTとしたとき、あらかじめ減速または惰行によって閉塞区間境界での急な加減速や停止を抑制するだけでなく、Tがどの程度変動するかを考慮し、実際の走行でTが変動したとしても、急な加減速や停止を抑制できる走行計画を作成できる。すなわち、先行列車の在線する閉塞区間に応じて後続列車の制限速度が決定されるATC装置を備えた路線において、先行列車に遅延が発生したとしても、極端な消費電力の増加、乗り心地の悪化、後続列車の走行時分の延びを抑制する列車制御指令を生成することができ、消費電力の抑制、乗り心地の向上、走行時分の短縮といった効果を得ることができる。
また、実際の走行時に地車間通信によらなければ得られないパラメータを、分布情報を持つ未知パラメータとして扱うことが可能であるため、既設の通信インフラが整備されていない路線においても、大きなコストを要することなく装置の適用が可能である。
【0035】
また、この実施の形態2による走行計画作成装置は、先行列車の位置によって連続的に閉塞区間もしくは速度制限が変化するATC装置が設置された路線に適用することも可能である。この場合、図8に示した制限速度の表を、閉塞区間ごとではなく、位置xごとに設定すればよい。
【0036】
実施の形態3.
この発明の実施の形態3による走行計画作成装置は、実際の走行前に列車の走行計画を作成する用途に適するものである。
この実施の形態3では、最適化手段305を除き、実施の形態1に記載の走行計画作成装置と同様の構成をとる。
【0037】
以下、この実施の形態3における最適化手段305に関し、詳細に説明する。実際の走行前には乗客数が正確には未知であるため、列車重量を正確に決定することができない。そこで、分布情報入力手段302が取得する分布情報として、路線に応じて乗客数の分布をあらかじめ設定する。ここで列車質量をmとすると、もしmが既知であれば、式(2)で表される評価規範を最適化する制御指令は、式(3)及びx(0)=x,v(0)=v,x(t)=x,v(t)=0を境界条件とする微分方程式(1)を満たし、その上で式(2)を最適化するu(t)として与えられる。これをu(t;m)とおく。本実施例において出力すべき制御指令u(t)は、制約条件

を加え、全てのmに対する最適化問題を同時に考え、評価規範はそれぞれのmに対する評価規範をmの分布に従って重み付けしたものとして計算できる。
【0038】
あるいは、列車の最大加速度、最大減速度が天候や架線電圧などの要因で変化するとき、分布情報入力手段302が取得する分布情報として、列車の最大加速度、最大減速度の分布を取り扱ってもよい。この場合、umaxやuminをパラメータとしたu(t;umin),u(t;umax)を考え、式(7)と同様にu(t)を構成し最適化を行う。
【0039】
実施の形態1及び実施の形態2と同様に、この計算は制約つきの2点境界値問題であり、例えば前述の「NUMERICAL RECIPES in C[日本語版]」に記載の方法で解くことができる。
評価規範は、実施の形態1で述べたように乗り心地や走行時分などを評価する規範、あるいはそれらを重み付けしたものとしてもよい。また、実施の形態1または実施の形態2と組み合わせて用いてもよい。
【0040】
以上のように、この発明の実施の形態3における走行計画作成装置によれば、分布情報入力手段において、乗客数の分布情報や、列車の最大加速度、最大減速度の分布情報を取り扱うようにしたので、実施の形態1または2における効果に加え、あらかじめ乗客数が多いと見込まれる場合や、天候や架線電圧などの影響で最大加速度や最大減速度が通常とは異なる場合に、実際の走行前にそれらの影響を考慮した列車の走行計画を作成することができるという効果がある。
【0041】
なお、本願発明はその発明の範囲内において、各実施の形態の自由な組み合わせ、あるいは各実施の形態の任意の構成要素の変形、もしくは各実施の形態において任意の構成要素の省略が可能である。
【符号の説明】
【0042】
101 先行列車、102 駅、103 後続列車、301 走行計画作成装置、302 分布情報入力手段、303 列車状態入力手段、304 最適化パラメータ記憶手段、305 最適化手段、306 制御指令出力手段。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行計画作成時点において未知であるパラメータの分布情報を取得する分布情報入力手段と、
少なくとも列車の速度、位置、ATC信号情報を取得する列車状態入力手段と、
少なくとも閉塞区間の位置情報を保持する最適化パラメータ記憶手段と、
前記分布情報入力手段、前記列車状態入力手段、前記最適化パラメータ記憶手段から得られる情報をもとに、列車の走行を最適化する列車制御指令を生成する最適化手段と、
前記最適化手段によって生成された列車制御指令に従い、走行計画を作成して出力する制御指令出力手段と、
を備えることを特徴とする走行計画作成装置。
【請求項2】
前記分布情報入力手段は、先行列車が路線の各閉塞区間に進入、あるいは閉塞区間を抜ける時刻の分布情報を取得することを特徴とする請求項1記載の走行計画作成装置。
【請求項3】
前記分布情報入力手段は、路線ごとの乗客数の分布情報を取得することを特徴とする請求項1記載の走行計画作成装置。
【請求項4】
前記分布情報入力手段は、列車の最大加速度、最大減速度の分布情報を取得することを特徴とする請求項1記載の走行計画作成装置。
【請求項5】
前記最適化手段は、列車走行の消費電力を最小にするような列車制御指令を生成することを特徴とする請求項2から請求項4のうちのいずれか1項記載の走行計画作成装置。
【請求項6】
前記最適化手段は、列車走行の走行時分を最小にするような列車制御指令を生成することを特徴とする請求項2から請求項4のうちのいずれか1項記載の走行計画作成装置。
【請求項7】
前記最適化手段は、列車走行の加速度変化の平均値、あるいは列車走行の加速度変化の最大値を最小にするような列車制御指令を生成することを特徴とする請求項2から請求項4のうちのいずれか1項記載の走行計画作成装置。
【請求項8】
前記最適化手段は、消費電力、列車の走行時分、列車走行の加速度変化の平均値、列車走行の加速度変化の最大値のうち、二つ以上の重み付き和を最小にするような列車制御指令を生成することを特徴とする請求項2から請求項4のうちのいずれか1項記載の走行計画作成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−188041(P2012−188041A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−54312(P2011−54312)
【出願日】平成23年3月11日(2011.3.11)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】