説明

走行車

【課題】走行していないブレーキをかけた静止状態において、後方に転倒することによる大きな危険を回避できるようにした走行車を提供すること。
【解決手段】座面部21、背もたれ部25、車輪部30を有し、前記車輪部と前記座面部とを支持するフレーム部と、背もたれ角度の調整手段57と、車輪の回転を規制するためのブレーキ手段および該ブレーキ手段を操作するための操作手段42と、少なくとも前記後輪の接地箇所よりも後方で、走行車の載置面に対して当接し、転倒を防止する転倒防止手段とを備え、前記操作手段により前記車輪の回転を規制すると、連動して前記転倒防止手段の当接部が前記載置面に当接または近接する位置に移動し、前記操作手段により前記車輪の回転の規制を解除すると、連動して前記転倒防止手段が変位して、その当接部が前記載置面に当接または近接する前記位置から離間して、前記転倒防止手段を解除する構成。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、高齢者や身体の不自由な者の歩行を補助する歩行車ないし介助車や、高齢者や身体の不自由な者が乗用する車椅子などの走行車の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
加齢や身体の障害などの影響で歩行に困難が生じることがある。困難性の程度は加齢や障害の程度によりさまざまであるが、例えば、加齢の場合では、背筋の作用が弱くなるなどの身体の衰えを原因として、身体が次第に前傾状態となる。
歩行時の前傾状態が進行し、歩行の際の転倒の危険が高まると、車輪によって、歩行に追従し、常時歩行を支持してくれる歩行車を用いるようになる。
さらに、自分の足で歩行することが困難な状態であると、乗車して他の人に押してもらったり、動力を用いて走行する車椅子を用いるようになる(以下、歩行車や介助車、あるいは車椅子等をまとめて「走行車」という)。
【0003】
このような走行車に関しては、歩行に疲れて休憩する際に用いる座面部、あるいは乗用に際して常に使用する座面部を備えるものが多く、座面部に着座して、さらに背中を後方に預けることができるように背もたれが備えられている。しかも、使用者は高齢者や障害者であることから、できるだけ楽に休めるように、あるいは楽な乗車姿勢をとることができ、あるいは使用者の症状等に応じて適切な座位を保つことができるように、背もたれの傾斜角度が調製できるようになっている。
しかしながら、着座した状態で背もたれの角度を調整すると、重心が移動することから、後方への転倒の危険もある。
【0004】
そこで、このような転倒を防止する構成を備えているものもある。
例えば、特許文献1の車椅子では、図1、図3、図4に示されているように、フルリクライニングする車椅子2では、リクライニングすると、支持枠15から支持桿39が突出することで後方への転倒を防止するようにされている。
また、車椅子が走行中に段差を超えたり、傾斜面を上がる際に、後方転倒することを防止するいくつかの出願がなされている。
【0005】
例えば、代表的なものをひとつ挙げると、特許文献2のものがある。
この文献に記載の車椅子は、図1ないし図4に示すように、のぼり傾斜を走行中に逆走しないように車輪の逆転防止装置Aを備え、さらに傾斜により重心が後方に移動した際に転倒を防止するように、支持棒状体の先端に車輪をつけて、後方に突出させることができるようになっている。
【0006】
【特許文献1】特開2004−154298
【特許文献2】特開平11−28232号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1や特許文献2に示されている転倒防止機構では、その支持手段に車輪が設けられていることからもわかるように走行中の転倒を防止する工夫として構成されたものである。
ところが、特許文献2のような車輪がついた支持棒状の構造では、例え支持棒状体が突出した位置にあっても、リクライニングした状態で休憩しようとすると、車輪によって、使用者を含めた重心が後方に移動していることによる後方への転倒の恐れがあるだけでなく、ブレーキをかけずに使用することで、車輪が回転して、さらに車椅子自体が移動してしまう恐れまである。同様に、特許文献1のように介助者がいて使用する場合であっても、リクライニングした状態のままブレーキをかけ忘れて手を離してしまう恐れもある。
【0008】
この発明は、上述の課題を解決するためになされたもので、走行していないブレーキをかけた静止状態において、後方に転倒することによる大きな危険を回避できるようにした走行車を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的は、第1の発明にあっては、使用者が着座できるようにされた座面部、該座面部の後方に起立する背もたれ部を備え、前輪および後輪を有する車輪部を有しており、さらに、前記車輪部と前記座面部とを支持するフレーム部と、前記座面部の前記背もたれ部が前記座面部とともに、あるいは独立して起立角度を変更する背もたれ角度の調整手段と、前記車輪部の前輪および/または後輪である車輪に対して変位することで該車輪の回転を規制するためのブレーキ手段および該ブレーキ手段を操作するための操作手段と、少なくとも前記後輪の接地箇所よりも後方で、走行車の載置面に対して当接することにより転倒を防止するための転倒防止手段とを備えていて、前記操作手段により前記ブレーキ手段を操作して前記車輪の回転を規制すると、これに連動して前記転倒防止手段が変位して、その当接部が前記載置面に当接または近接する位置に移動し、前記操作手段により前記ブレーキ手段を操作して前記車輪の回転に対する規制を解除すると、これに連動して前記転倒防止手段が変位して、その当接部が前記載置面に当接または近接する前記位置から離間して、前記転倒防止手段を解除する構成とした走行車により、達成される。
【0010】
第1に発明の構成によれば、使用者が着座できるようにされた座面部、該座面部の後方に起立する背もたれ部を備える座面部、前輪および後輪を有する車輪部を有しており、さらに、前記車輪部と前記座面部とを支持するフレーム部という基本構造を備えている。
そして、背もたれ部が前記座面部とともに、あるいは独立して起立角度を変更可能である。つまり、背もたれ部が独立して角度を変化するリクライニングや、背もたれ部と座面部との角度を保ったままで背もたれ部の角度を変化させられるチルト機構を単独や連動する形で備えており、使用者は座面部に座って、後方に身体を預けた状態で、背もたれ部の起立傾斜角度が変更され、後方に倒して休んだり、座位を維持することができる。
しかも、ここで、例えば介助者がブレーキ手段を操作して車輪の回転を規制すると、これに連動して、後輪接地部よりも後方で、走行車の載置面に対して当接または近接することにより転倒を防止する転倒防止手段が変位し、その当接部が前記載置面に当接または近接する。つまり、ブレーキをかけると、これに連動して後方への転倒を防止することができる。このため、ブレーキをかけた状態で、使用者が後方へ身体をあずけて、重心が後方に移動した状態で静止していながら、その後方への転倒が適切に防止される。
例えば、介助者が安全確認などのために、急にその場を離れる場合などにおいても、ブレーキ手段を操作するだけで転倒を防止できて安全である。
かくして、走行していないブレーキをかけた静止状態において、後方に転倒することによる大きな危険を回避できるようにした走行車を提供することができるものである。
【0011】
第2の発明は、第1の発明の構成において、前記フレーム部には、前記後輪に近接して、該フレーム部の幅方向に延びるように配置された足踏み式の操作バーと、該操作バーの踏み込み位置で、前記操作バーと連動して起立し、前記設置面に当接または近接する位置に移動する構成とした前記転倒防止手段の支持部と、前記操作バーの踏み込み位置で、リンクにより連動して、前記後輪のタイヤ表面に押し付けられる前記ブレーキ手段の押し付け部とを備えることを特徴とする。
第2の発明の構成によれば、例えば介助者等が足踏み式の操作バーを踏み込むだけで、ブレーキ手段が押し付け部を後輪のタイヤ表面に押し付け、車輪の回転を規制して走行車を止めるだけでなく、転倒防止手段が後方への転倒を防止するので、手を使わずにブレーキ操作ができ、同時に転倒防止を図ることができ、きわめて操作性に優れている。
【0012】
第3の発明は、第1の発明の構成において、前記ブレーキ手段が、手動レバーと、該手動レバーの倒れ位置に応じて、該手動レバーに連動して起立し、前記設置面に当接または近接する位置に移動する構成とした前記転倒防止手段の支持部と、前記手動レバーの倒れ位置に応じて、前記後輪のタイヤ表面に押し付けられる前記ブレーキ手段の押し付け部とを備えることを特徴とする。
第3の発明の構成によれば、例えば使用者等が手動レバーを倒すだけで、ブレーキ手段が押し付け部を後輪のタイヤ表面に押し付け、車輪の回転を規制して走行車を止めるだけでなく、転倒防止手段が後方への転倒を防止するので、手動による簡単な操作でブレーキ操作ができ、同時に転倒防止を図ることができ、きわめて操作性に優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、この発明の好適な実施形態を添付図面を参照しながら、詳細に説明する。
尚、以下に述べる実施形態は、本発明の好適な具体例であるから、技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの態様に限られるものではない。
【0014】
図1は、本発明の第1の実施形態に係る走行車の概略側面図、図2は図1の走行車の後輪付近の構成を拡大した概略斜視図、図3および図4は図1の走行車において、後輪に働くブレーキ手段と、転倒防止手段の構成を示す概略側面図であり、図3は転倒防止手段が機能している状態、図4は転倒防止手段が解除された状態を示すものである。
【0015】
これらの図において、走行車10は、主に介助者がついて用いる介助車としての車椅子とした例を示している。
走行車10は、前輪32と、前輪よりも径の大きな後輪33とを有する車輪部30と、使用者が着座できるようにされた座面部21と、車輪部30および座面部21とを支持するフレーム部60を備えている。
フレーム部60は、車輪部30を支持し、後述するブレーキ手段や転倒防止手段等を支持する下部フレーム部40と、座面部21および背もたれ部25を支持する起立フレーム52等を支持する上部フレーム部50を有している。
すなわち、上部フレーム部50の基部フレームが、走行車10の両側部の進行方法に沿って左右に対となるように配置されており、その後端が上方に曲折されて延びることで起立フレーム52が形成されている。
起立フレーム52の上端は後方に曲折されハンドルフレーム53が設けられるとともに、ハンドルフレームには介助者が保持するハンドル55が配置されている。
【0016】
ここで、各フレームを構成するフレーム部60は、曲げ加工が可能で、丈夫な金属や成形可能な合成樹脂等により形成されている。本実施形態では、例えば、アルミ(ニウム製)フレームを曲げ加工することにより形成されている。
上部フレーム部50は、例えば、ガスシリンダ57の伸縮により、支軸56を中心として該56の周囲で回動されるようになっており、所謂チルト機能を構成している。これにより背もたれ部25は座面部21と共に、前後方向に沿って傾斜角度が変化できるようになっている。なお、背もたれ部25は曲折部59により独立して前後方向に傾斜角度を変化させて、背もたれ部25が使用者の背中の特に前傾に沿うように、前方への角度を調整可能となっている。つまり、この実施形態では、ガスシリンダ57等が背もたれ角度の調整手段の一例とされている。なお、この曲折部59の回動範囲を変更したものを、背もたれ部25と座面部21の連結部に位置させ、背もたれ部25全体が傾斜する所謂リクライニング機構となるよう形成してもよい。
また、起立フレーム52の上端付近には使用者が着座した状態で頭部を支えるためのヘッドレスト54が設けられているとともに、座面部21を支持する基部フレーム51は、先端側に回動可能なリンク58bが形成されて、足載せフレーム58がリンク58bに連結されることで、足載せフレームの角度も調整できるように形成されている。足載せフレーム58の先端側には足載せ部58aが設けられている。
また、基部フレーム51には取付け部53aに対して、高さ調整可能に直立フレーム53bを介して、肘掛部53が取付けられている。
【0017】
これにより、介助者がハンドル55を持って、押すことにより、歩行車10を進行させることができ、使用者は座面部21の上に座って、肘掛部53に肘を載せ、楽な姿勢や適切な座位として、すなわちその背中を背もたれ部25にあずけて乗ることができる。
そして、介助者は、歩行車10のブレーキをかけて歩行車10を静止させることで、特に、例えば使用者が歩行車10に乗った状態で、上記したチルト機構などを用いて、背もたれ部25を後方にかなり大きく傾斜させていても、以下の機構により転倒しないようにすることができるものである。
【0018】
すなわち、図2ないし図5に示すように、下部フレーム部40には、各後輪のそれぞれ内側に配置されるようにして、左右一対となるように設けられており、ブレーキ手段と転倒防止手段を兼ねた構成とされている。
下部フレーム部40の後輪33,33に近接して、これら後輪33,33の間には、これらの車軸を支持する支持フレーム41が配置されている。
支持フレーム41は、図2に示すように、歩行車のほぼ全幅と近い幅を持つ大きなフレームで、平面視において、後方に開いたほぼ「コ」字状である。
【0019】
支持フレーム41の内側には操作手段としての操作バー42が配置されている。操作バー42は、支持フレーム41とは逆の方向である前方に向かって開いた「コ」字状であり、その開いた端部側の途中は、支持フレーム41のほぼ中間付近に対して、支軸42a,42aにより回動自在に固定されている。
また、操作バー42のさらに先端側(開き側)は下方にやや曲折されて、幅方向に突出され、ストッパ46,46とされて、操作バー42の移動に連動する構成とされている。
操作バー42は、その前方においてブレーキ手段の一部とされ、後方において転倒防止手段の一部として機能する。
【0020】
操作バー42には、該操作バーと直交して上方に突出する取付け部47が設けられている。この取付け部47は、ブレーキ手段の一部であり、その上部には上部取付け部47aが設けられ、下部には下部取付け部47bが設けられている。
一方、ゴムタイヤである後輪33の前端付近には、ブレーキ本体であるステー部材45,45が配置されている。
図2に示すように、ステー部材49,49は、例えば、金属などで形成され、丈夫な細長い平板で、水平に配置され、その長さ方向の中間付近が各後輪33,33の内側の位置で上方にほぼ直角に曲折された取付けステー45,45を有している。取付けステー45の上部は、例えばさらに内方に曲折されて貫通孔を設けることにより、ステー上部取付け部45bとされている。ステー取付け部45のほぼ中央部は回動可能な支軸45aとされ、支軸45aより下には、例えば貫通孔を設けることによりステー下部取付け部45cとされている。
【0021】
ステー部材49の平面部は後輪33であるタイヤ表面に押付けられる押し付け部であり、タイヤの回転を規制し、走行車10を静止させることができるようになっている。
ステー部材49の取付けステー45の部分は、支軸45aを中心として図2の矢印Aに示すように回動可能である。
ステー部材49の取付けステー45のステー上部取付け部45bと操作バー42の上部取付け部47bとの間には、長さ方向に沿って収縮力を付与する付勢手段として、引っ張りバネ48が張架されている。一方、ステー部材49の取付けステー45のステー下部取付け部45cと操作バー42の下部取付け部47bとの間には、ブレーキ側リンク部材44(以下、「リンク部材44」という)が固定されている。このリンク部材44は、走行車10の長さ方向に延びていて、後方寄りの箇所で下方に曲折され、全体として「く」の字状のリンク部材である。
【0022】
次に、転倒防止手段側を説明する。
図2および図3において、支持フレーム41の両後端部には、一対の軸受け部37,37が下方に向かって突出するように設けられている。各軸受け部37,37の支軸37a,37aには、該支軸37a,37aに一端が回動自在に固定され、強度に優れたものとなるように、比較的太い構成とされた短いパイプ状の支持部43,43が取付けられている。支持部43,43は後輪33が載置される載置面に対する後輪の接地箇所33aの後に位置し、支持部43の接地部となる下端43a,43aは、走行車10が載置される床や屋外の地面に当接または近接する当接部とされている。
また、操作バー42の後端付近には、その両側部に転倒防止手段側リンク部材35(以下、「リンク部材35」という)の一端が回動自在に取り付けられている。このリンク部材35の他端36は、支持部43の下端付近に回動自在に固定されている。
【0023】
本実施形態は以上のように構成されており、以下のように動作する。
走行車10にあっては、使用者が座面部21に座った状態で、介助者がハンドル55を把持し、押すことで走行することができる。
ここで、例えば、介助者が休憩しようとした場合、あるいは休憩ではないが、走行車10のハンドル55から手を離して、作業することが必要な場合、つまり、例えば、屋外を走行している際に、途中にある横断歩道を横切る際等に、歩行者信号のボタンを押す必要等で、歩行車10から一時的に離れなければならない場合がある。
【0024】
しかも、使用者は、座面部21に座って、後方に身体を預けた状態で、背もたれ部25の起立傾斜角度が後方に倒されていたり、あるいは休憩における必要性から、背もたれ部25を後方に倒して、休息しやすくする場合がある。
この状態では、歩行車10が動かないようにブレーキをかける必要があるが、その際に、背もたれ部25が後方に倒れていると、使用者の体重を含む歩行車10の重心が後方に移動していて、転倒の危険がある。
【0025】
そこで、介助者は操作バー42を図2の矢印B1に示すように踏む。
この場合、操作バー42は、図示されているように、後輪33,33の間で、後方に位置しているから、図1のハンドル55を保持した介助者は、ハンドル55を持ったままの状態で、姿勢を変えたり、身体を移動させたりすることなく、容易に操作バー42を踏み込むことができる。
これにより、図3に示すように、操作バー42は下降し(踏み込み位置)、支軸42aの周囲で時計周りに移動し、ストッパ46が支持フレーム41の下面に当接して、それ以上の下方への移動ができない状態とする。同時に操作バー42の上方に突出する取付け部47も連動して時計周りに動き、リンク部材44の他端が固定されている下部取付け部47bも、支軸42aを中心として時計周りに移動し、後側の斜め下方に位置するよう動く。これにともない、リンク44の一端はステー部材49の取付けステー45のステー下部取付け部45cを後側に引き付けるので、該ステー部材49は支軸45aの周囲で反時計周りに旋回し、矢印A2の方向に、後輪33に接近するように変位する。このことにより、ステー部材49下端の水平部分は、後輪33のゴムタイヤ表面に強く押付けられて、後輪の回転を規制するので、ブレーキがかかることになる。
【0026】
これと同時に、上記した操作バー42の下降により、操作バー42に連結されたリンク部材35の一端が回動しながら下方に変位することで、操作バー42の両側縁と略直線状となり、リンク部材35の他端36が回動可能に連結された支持部43の下端側を後方に押すから、その下端43aは下降し、支持部43は変位して全体として直立状態となるので、該下端43aは載置面である地面などに近接する位置に移動する。これにより、走行車10は、後輪33の後端付近で、後方に突出した支持部43が直立状態で支えるので、例えリクライニング等によって後方に重心がかかっても、倒れ始める前に下端43aが接地することで後方への転倒が防止される。
しかも、ブレーキをかける際に、ストッパ46が支持フレーム41に当接することで、それ以上の移動を規制された操作バー42が踏み込まれた状態では、図4に示すように、支持フレーム41と支持部43を連結する、操作バー42とリンク部材35は略直線状ではあるものの、操作バー42に対するリンク部材35の連結された角度が、解除状態とは逆側に僅かに屈曲するよう回動した状態とされている。
すなわち、解除状態では下側に開いた「く」字状に連結されていた操作バー42とリンク部材35の角度が、矢印B1で示すような操作バー42の踏み込みによって、僅かに変形しながら移動して、僅かに上側に開いた「く」字状になった状態で固定される。
このため、操作バー42を操作しない限り、直立状態とされた支持部43が変位することがなく、万一、支持部43に対して外的な力がかかった場合でも、操作バー42とリンク部材35の角度が矢印B1方向に移動しようとするが、ストッパ46が支持フレーム41に当接しているため、それ以上の移動を行えない構成とされている。すなわち、転倒防止手段には、支持部43が接地面に当接または近接した状態で、不用意に支持部43が解除されないよう、接地状態維持手段を有する構成とされている。
【0027】
次に、ブレーキ手段を解除する場合には、介助者は、例えば、両手で左右のハンドル55,55を保持して、どちらかの足の甲の部分を図2の操作バー42の下側に当て、そのまま足を上げるだけで、上記と逆の動き(矢印B1と逆の動き)により図4に示すように、ブレーキ手段および転倒防止手段が解除される。
具体的には、図4において、操作バー42は上昇し、支軸42aの周囲で反時計周りに移動して、ストッパ46が支持フレーム41の下面から離れ、逆側の面が支持フレーム41から下方に延伸されたストッパフレーム41aに当接してそれ以上の移動ができない状態とする。同時に操作バー42の上方に突出する取付け部47も連動して反時計周りに動き、リンク部材44の他端が固定されている下部取付け部47bも、支軸42aを中心として時計周りに移動し、該支軸42aより上方に、かつ徐々に(走行車10の)前方に移動する。これにともない、リンク44の一端はステー部材49の取付けステー45のステー下部取付け部45cを前方に押すので、該ステー部材49は支軸45aの周囲で時計周りに旋回し、矢印A1の方向に動く。この時、引っ張りバネ48が復元する力によって、操作バー42を僅かに上方に変位させると操作バー42やステー部材49等が容易に移動することとなる。このことにより、ステー部材49下端の水平部分は、後輪33から離間するように変位し、ゴムタイヤ表面から離れて、後輪の回転に対する規制を解除するので、ブレーキがはずれることになる。
これと同時に、上記した操作バー42の上昇により、操作バー42に連結されたリンク部材35の一端が回動視ながら上方に変位することで、リンク部材35の他端36が回動可能に連結された支持部43の下端を前方に移動させながら引き上げるから、その下端43aは載置面である地面などから離間するように変位する。これにより、走行車10は、後輪33の後方における支えを失い、転倒防止手段が解除されることになる。しかも、この状態では、下端43aは完全に地面等から離間した位置となるため、リクライニング等をした状態での走行時に、多少の段差があった場合でも走行に支障をきたす恐れはない。
【0028】
かくして、本実施形態の歩行車10では、ブレーキをかけると、これに連動して、同時に、後方への転倒を防止することができる。このため、介助者などがその場を離れても、使用者が後方へ身体をあずけて、重心が後方に移動した状態で静止していながら、その後方への転倒が適切に防止される。
特に、足踏み式の操作バー42を踏み込むだけで、ブレーキ手段が押し付け部(ステー部材)49を後輪33のタイヤ表面に押し付け、車輪の回転を規制して走行車10を止めるだけでなく、転倒防止手段である支持部43が後方への転倒を防止するので、手を使わずにブレーキ操作ができ、同時に転倒防止を図ることができ、きわめて操作性に優れ、しかも、万一、支持部43に衝撃があっても、不用意に解除されない構成とされている。
【0029】
図5ないし図8は第2の実施形態を示している。
これらの図において、第1の実施形態と同一の符号を付した箇所は共通する構成であるから、重複する説明は省略し、以下、相違点を中心にして説明する。
図5において、歩行車20は、前輪32と、前輪よりも径の大きな後輪33とを有する車輪部30と、使用者が着座できるようにされた座面部21と、車輪部30および座面部21とを支持するフレーム部60−1を備えており、基本構成は第1の実施形態と同じである。
この実施形態では、ハンドルフレーム53とハンドル55は一体であるが、これらは必ずしも設けなくてもよい。
上部フレーム部50−1は、例えば、支軸56−1を中心としてその周囲で回動されるようになっており、所謂チルト機能を構成していて、メカロック57−1によりチルト機構による変位角度を固定できるようになっている。
【0030】
下部フレーム部40−1は、上下に互いに平行に配置され、前後方向に延びる第1の支持フレーム61−1と第2の支持フレーム61−2を有している。
図6に示されているように、これらの支持フレームは同一構造のものが、左右一対設けられている。
図6ないし図8に示す、下部フレーム部40−1は、ブレーキ手段と転倒防止手段を兼ねた構成である。
【0031】
第2の支持フレーム61−2の後端付近には、先端を下方にL字状に曲折された支持部63が設けられている。すなわち、支持部63はその前端を支軸72により第2の支持フレーム61−2に対して回動自在に固定されており、支持部63の後端側に位置する下端63aは載置面や地面への当接部となっている。
支持部63の第2の支持フレーム61−2への固定箇所付近には、該支持部63の内側に、前後方向にやや長い長孔71が形成されており、転倒防止手段側リンク部材75(以下、「リンク部材75」という)の一端76が回動自在にかつ、長孔内を前後に移動可能に取り付けられている。
また、このリンク部材75の一端76は、図6に表れているように、第1の支持フレーム61−1が後方に延びて、後輪33の車軸と接続された付近で下方へ90度曲折され、第2の支持フレーム61−2と結合される付近のやや上の箇所で、支軸78に対して、回動可能に取り付けられた短いステー78aに固定されている。
また、支持部63と第1の支持フレーム61−1の間には、長さ方向に沿って収縮力を付与する付勢手段として、引っ張りバネ74が張架されている。
【0032】
上記リンク部材75は、歩行車20の後方から前方に向かって上がり傾斜で細く延びており、水平に折り曲げられて、支軸77の箇所で回動自在にブレーキの操作手段である手動レバー62に接続されている。
手動レバー62は、後輪33よりもやや前の位置で第1の支持フレーム61−1に固定されたボックスB内で、L字状の基部金具64に固定されている。この基部金具64はブレーキ側リンク部材65(以下、「リンク部材65」という)の一端と回動自在に固定されている。そして、リンク部材65の他端は、ステー部材69の中間付近に支軸69で回動自在に固定されている。このステー部材69は、その上端付近が支軸69aにより第1の支持フレーム61−1もしくは、これに取り付けた図示ボックスBに固定されている。ステー部材69の下端は後輪33であるタイヤ表面に押付けられる押し付け部であり、タイヤの回転を規制し、走行車20を静止させることができるようになっている。
【0033】
本実施形態は以上のように構成されており、以下のように動作する。
走行車20にあっては、使用者が座面部21に座った状態で、介助者がハンドル55を把持し、押すことで走行することができるのは、第1の実施形態と同じである。
また、介助者がいないで、使用者自身が手動により後輪33を回転操作したり、あるいは、介助者が押すのではなく、図示しない別付けの動力付駆動手段等によって、後輪33を回転駆動できるようにすることも可能な構成とされている。
ここで、例えば、介助者が歩行車20から一時的に離れなければならない場合がある。
この状態では、歩行車20が動かないようにブレーキをかける必要があり、同時にチルト等の機能により後方へ転倒の危険がある場合がある。
【0034】
そこで、介助者や使用者は操作手段としての手動レバー62を図7の矢印D1に示すように後方に移動させる。
これにより、支軸77で連結されたリンク部材75が後方(図7において右方)へ押されるので、短いステー78aも後方へ、長孔71内を図において右端(後端)まで移動し、該長孔71のある支持部63は支軸72を中心に矢印E1方向に時計回りに回転変位し、その下端である当接部63aを設置面もしくは地面に当接させる。これにより、走行車20は、後輪33の後端付近で、後方に突出した支持部63が支えるので、後方への転倒が防止される。
これと同時にボックスB内では、基部金具64が時計回りの回転することでリンク部材65を後方(図7において右方)へ押すよう、基部金具64とリンク部材65が直線的に変位し、ステー部材69は支軸69aを中心に反時計回りに旋回することで後輪33に対して接近変位し、ステー部材69下端の押し付け部が、後輪33のゴムタイヤ表面に強く押付けられて、後輪の回転を規制するので、ブレーキがかかることになる。
【0035】
次に、ブレーキ手段を解除する場合には、介助者は、手動レバー62を図8の矢印D2に示すように移動させる。
これにより、支軸77で連結されたリンク部材75が前方(図8において左方)へ引かれるので、短いステー78aは支軸78を中心として時計回りに回転し、このため、その下端部は、長孔71内を図において左端まで移動しつつ僅かに上昇した位置に変位する。このため、該長孔71のある支持部63は支軸72を中心に矢印E2方向に反時計回りに回転し、その後方に離間した位置に形成された下端である当接部63aが設置面もしくは地面から離間するように上方に変位する。これにより、転倒防止手段が解除される。
これと同時にボックスB内では、基部金具64が反時計回りの回転することで、リンク部材65を時計回りに回転させながら前方(図8において左方)へ移動させる。このため、ステー部材69は支軸69aを中心に時計回りに旋回し、ステー部材69下端の押し付け部が、後輪33から離間するように変位して、ゴムタイヤ表面から離れるので、ブレーキが解除され、後輪33は回転できるようになる。
【0036】
このように、本実施形態の歩行車20においても、ブレーキをかけると、これに連動して、同時に、後方への転倒を防止することができる。このため、介助者などがその場を離れても、使用者が後方へ身体をあずけて、重心が後方に移動した状態で静止していながら、その後方への転倒が適切に防止されるという第1の実施形態と同じ作用効果を発揮することができる。
さらに、第2の実施形態では、手動レバー62を倒すだけで、ブレーキ手段が押し付け部を後輪のタイヤ表面に押し付け、車輪の回転を規制して走行車を止めるだけでなく、転倒防止手段が後方への転倒を防止するので、使用者が手動による簡単な操作でブレーキ操作ができ、同時に転倒防止を図ることができ、きわめて操作性に優れている。
【0037】
本発明は上述の実施形態に限定されない。
例えば、ブレーキと転倒防止手段の連携構造は、上述の構成例に限らず種々のものが考えられるが、ブレーキと連動して転倒防止手段が働くものであれば、本発明の範囲に含まれるものである。また、本発明は、ウオーカーや車椅子など、名称を問わず、使用者が着座して背もたれ部が後傾できるあらゆる走行車を含むものである。また、ステー部材49やリンク部材44等は、バランスよく確実にブレーキした状態を保持できるよう、左右両側で後輪33,33に対応して形成されているが、左右の一方にのみ形成されていても良い。さらに、通常の車椅子や介助車等に取り付け部を設け、使用者の状態に応じて後付けで転倒防止手段を装着するよう構成してもよい。
上述の各実施形態における各構成は相互に組み合わせたり、必要により、その一部を省略したり、他の構成と入れ換えて、異なる構成の組み合わせのもとで実施されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る走行車の概略側面図。
【図2】図1の走行車の下部フレーム部の概略斜視図。
【図3】図1の走行車の要部の動作を示す説明図。
【図4】図1の走行車の要部の動作を示す説明図。
【図5】本発明の第2の実施形態に係る走行車の概略側面図。
【図6】図5の走行車の下部フレーム部の概略斜視図。
【図7】図5の走行車の要部の動作を示す説明図。
【図8】図5の走行車の要部の動作を示す説明図。
【符号の説明】
【0039】
10,20・・・走行車、21・・・座面部、25・・・背もたれ部、30・・・車輪部、32・・・前輪、33・・・後輪、40・・・下部フレーム部、50・・・上部フレーム部、60・・・フレーム部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用者が着座できるようにされた座面部、該座面部の後方に起立する背もたれ部を備え、前輪および後輪を有する車輪部を有しており、
さらに、
前記車輪部と前記座面部とを支持するフレーム部と、
前記座面部の前記背もたれ部が前記座面部とともに、あるいは独立して起立角度を変更する背もたれ角度の調整手段と、
前記車輪部の前輪および/または後輪である車輪に対して変位することで該車輪の回転を規制するためのブレーキ手段および該ブレーキ手段を操作するための操作手段と、
少なくとも前記後輪の接地箇所よりも後方で、走行車の載置面に対して当接することにより転倒を防止するための転倒防止手段と
を備えていて、
前記操作手段により前記ブレーキ手段を操作して前記車輪の回転を規制すると、これに連動して前記転倒防止手段が変位して、その当接部が前記載置面に当接または近接する位置に移動し、
前記操作手段により前記ブレーキ手段を操作して前記車輪の回転に対する規制を解除すると、これに連動して前記転倒防止手段が変位して、その当接部が前記載置面に当接または近接する前記位置から離間して、前記転倒防止手段を解除する構成とした
ことを特徴とする走行車。
【請求項2】
前記フレーム部には、前記後輪に近接して、該フレーム部の幅方向に延びるように配置された足踏み式の操作バーと、該操作バーの踏み込み位置で、前記操作バーと連動して起立し、前記設置面に当接または近接する位置に移動する構成とした前記転倒防止手段の支持部と、前記操作バーの踏み込み位置で、リンクにより連動して、前記後輪のタイヤ表面に押し付けられる前記ブレーキ手段の押し付け部とを備えることを特徴とする請求項1に記載の走行車。
【請求項3】
前記ブレーキ手段が、手動レバーと、該手動レバーの倒れ位置に応じて、該手動レバーに連動して起立し、前記設置面に当接または近接する位置に移動する構成とした前記転倒防止手段の支持部と、前記手動レバーの倒れ位置に応じて、前記後輪のタイヤ表面に押し付けられる前記ブレーキ手段の押し付け部とを備えることを特徴とする請求項1に記載の走行車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−132255(P2008−132255A)
【公開日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−321903(P2006−321903)
【出願日】平成18年11月29日(2006.11.29)
【出願人】(000112288)ピジョン株式会社 (144)
【Fターム(参考)】