説明

起泡性油中水型乳化物

【課題】従来使用が困難であったパーム油及びパーム油加工品を多量に含んだ油脂を使用して起泡性の良好なバタークリーム用起泡性油中水型乳化物を提供することにある。
【解決手段】 パーム油及びパーム由来の加工油脂を油脂中90重量%以上配合した油脂に乳化剤としてポリソルベートを使用することにより起泡性の良好なバタークリーム用起泡性油中水型乳化物を得ることができた。また、トランス脂肪酸を実質的に含有しないものを容易に得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、起泡性油中水型乳化物に関する。
【背景技術】
【0002】
バター、マーガリン、ショートニング等の油脂に、必要に応じ糖類等を配合したものを攪拌して起泡させたバタークリームは、種々の菓子、ケーキ等に用いられている。しかし、バタークリームは、油脂が連続相であるか、油中水型乳化物であるため、保存性に優れるものの、生クリームに代表される水中油型乳化物と比べるとどうしても口溶けが悪く重い食感となってしまう。
そこで、起泡性を高めバタークリームをより軽い比重のものにすることにより食感を改良する試みが従来より行われている。
例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4は、いずれも特定の乳化剤により起泡性を向上させようとするものである。
一方、マーガリン等に用いられる油脂として水素添加により硬化した油脂がしばしば使用されるが、完全に水素添加した、すなわち極度硬化した油脂は別として硬化油はトランス脂肪酸を含有する。トランス脂肪酸は近年の市場・需要者における健康意識の高まりとともに忌避されつつあるのが現状である。そこで、パーム油など硬化しなくても可塑性を有する油脂が注目されている。
しかし、パーム油及びパーム油由来の加工油脂を多量に含んだマーガリンはトランス脂肪酸を含有する硬化油などを使用したマーガリンに比べて起泡性が低く、起泡性を必要とするバタークリーム用油脂へのパーム油及びパーム油由来の加工油脂の使用量は制限される。
特許文献5(特開平8-47373)は、特定の乳化剤を使用することにより、かかる問題を解決しようとするものであるが、十分な効果は得られていない。
【0003】
【特許文献1】特開2006−273925号公報
【特許文献2】特開2005−176738号公報
【特許文献3】特開2004−290185号公報
【特許文献4】特開平6−153793号公報
【特許文献5】特開平8−47373号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、本発明者らは、可塑性に優れ、入手容易なパーム油及びパーム油由来の加工油脂に着目し、鋭意研究の結果、これを多量に用いてもポリソルベートを用いることにより、バタークリームに適する起泡性が良好な油中水型乳化物が得られ、かつ、トランス脂肪酸の問題が解決できるとの知見を得、本発明を完成するに到った。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち、本発明は、1)油脂中にパーム油及び/またはパーム由来の加工油脂を90重量%以上配合し、油中水型乳化物中にポリソルベートを0.001〜5重量%含有することを特徴とする起泡性油中水型乳化物。2)実質的にトランス脂肪酸を含まない1記載の起泡性油中水型乳化物。3)1記載の起泡性油中水型乳化物を起泡させて得られるバタークリーム。を骨子とする。
【発明の効果】
【0006】
油脂中にパーム油及び/またはパーム油由来の加工油脂を90重量%以上配合し、油中水型乳化物中にポリソルベートを0.001〜5重量%含有することを特徴とする起泡性油中水型乳化物を用いることによって、実質的にトランス脂肪酸を含まない起泡性の優れたバタークリームを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
パーム油及びパーム由来の加工油脂としては、パーム油、パーム油中融点分別油、パームオレイン、パームスーパーオレイン、パームステアリン、およびこれらの油脂の単独または混合油あるいはこれらの極度硬化、分別等を施した油脂が例示でき、実質的にトランス脂肪酸を含まないものである。これを、油脂中に中90重量%以上となるように配合する。
【0008】
他の油脂を併用する場合は、実質的にトランス脂肪酸を含まない油脂を選択するのが好ましい。具体的には、菜種油、大豆油、ヒマワリ種子油、綿実油、落花生油、米ぬか油、コーン油、サフラワー油、オリーブ油、カポック油、ゴマ油、月見草油、パーム油、シア脂、サル脂、カカオ脂、椰子油、パーム核油等の植物性油脂並びに乳脂、牛脂、ラード、魚油、鯨油等の動物性油脂が例示でき、上記油脂類の単独または混合油あるいはそれらの極度硬化、分別を施した実質的にトランス脂肪酸を含まない加工油脂が例示できる。但し、乳脂など微量にトランス酸を含有する天然油脂を除外するものではない。
尚、当業者の常識として言うまでもないことだが、バタークリームとして使用するためには、10℃におけるSFCは10以上である必要があり、また、口溶け感を考慮した場合、35℃におけるSFCは5以下が好ましい。
【0009】
本発明において、実質的にトランス脂肪酸を含まないとは、油脂中に含まれるトランス脂肪酸の量が、天然油脂中のトランス脂肪酸量と同等以下であることを意味する。従って、例えば乳脂など微量ながらトランス脂肪酸を含む天然油脂を用いる場合には、当該トランス脂肪酸量は考慮しない趣旨である。
【0010】
本発明におけるポリソルベートは、ソルビタン脂肪酸エステルにエチレンオキシド約20モルを付加させた非イオン性界面活性剤で、ポリソルベート20(ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート)、ポリソルベート60(ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノステアレート)、ポリソルベート65(ポリオキシエチレン(20)ソルビタントリステアレート)、ポリソルベート80(ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノオレエート)等が用いられる。
ポリソルベートの起泡性油中水型乳化物に対する含量は0.001〜5重量%、好ましくは0.01〜2重量%、さらに好ましくは0.02〜1重量%である。0.001重量%未満ではその機能が十分に発揮されず。5重量%を超えると起泡性油中水型乳化物の風味が大きく損なわれる。
【0011】
本発明の起泡性油中水型乳化物の具体的製造法は、例えば50〜70℃に加温調整した油相と水相とをプロペラ或いはホモミキサー等にて攪拌して乳化した後ボテーター或いはコンビネーター等の従来公知の混捏機を使用して冷却可塑化することによって得ることができる。
【0012】
本発明の起泡性油中水型乳化物を製造するに際しては、パーム油の結晶粗大化防止のためおよび油中水型乳化安定化のため、従来より使用されてきた蔗糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステルおよび酢酸モノグリセリド、酒石酸モノグリセリド、酢酸酒石酸混合モノグリセリド、クエン酸モノグリセリド、ジアセチル酒石酸モノグリセリド、乳酸モノグリセリド、コハク酸モノグリセリド、リンゴ酸モノグリセリド等各種有機酸モノグリセリドのような合成乳化剤を併用するのが好ましい。これらの合成乳化剤を使用した場合は、油中水型乳化物を容易に得ることができる。
本発明の油脂組成物は、以上の他に、所望により食塩、粉乳、糖類、香料や色素などを使用することができる。
【実施例】
【0013】
以下に本発明の実施例を示す。なお、例中、%及び部は、いずれも重量基準を意味する。
【0014】
【表1】

【0015】
【表2】

【0016】
【表3】

【0017】
(実施例1)
表1の実施例1〜4に示す配合に従って、全原料を添加混合した後、コンビネーターで急冷混捏して油中水型乳化物を得た。尚、油脂のSFCは10℃で22%、35℃で1%であった。得られた油中水型乳化物をホイップしてバタークリームとし、ホイップ時間5分、10分、12分、15分におけるバタークリームの比重を測定した。
尚、ホイップは室温20℃で1kgの油中水型乳化物をケンウッドミキサーにてホイップした(125rpm)。ホイップした結果を表2に示す。
5分で比重が0.5以下となり、さらにホイップすると15分で0.35以下となった。
【0018】
(実施例2)
実施例1のポリソルベート60をポリソルベート80に変え実施例1と同じ条件で油中水型乳化物を得、ホイップテストをおこなった。
実施例1と同様に、5分で比重が0.5以下となり、さらにホイップすると15分で0.35以下となった。
【0019】
(実施例3)
実施例2のポリソルベート80の添加量を0.5%から0.001%に変え実施例1と同じ条件で油中水型乳化物を得、ホイップテストをおこなった。
実施例1と比べると、5分で比重が0.55となり、やや高かったが、さらにホイップすると15分で0.39となった。
【0020】
(実施例4)
実施例2のパーム油極度硬化油をハイエルシン菜種極度硬化油に変え実施例1と同じ条件で油中水型乳化物を得、ホイップテストをおこなった。
実施例1と同様に、5分で比重が0.5以下となり、さらにホイップすると15分で0.35以下となった。
【0021】
(実施例5)
実施例2の乳化剤をポリソルベート80のみとし、実施例1と同じ条件で油中水型乳化物を得、ホイップテストをおこなった。乳化安定性や経時でのパームの結晶化は実施例2に対して劣るが(結晶が粗大化してしまう)、ホイップ性に関しては実施例1と同様に、5分で比重が0.53となり、さらにホイップすると15分で0.37となった。
【0022】
(比較例1)
実施例1の油脂配合に魚油硬化油(融点36℃)を使用し、ポリソルベートを使用しないで実施例1と同じ条件で油中水型乳化物を得、ホイップテストをおこなった。5分で比重が0.5以下とならず、さらにホイップしても15分で0.4以上であった。なお、トランス脂肪酸の量は、油中水型乳化物中20重量%であった。
【0023】
(比較例2)
実施例1の油脂配合でポリソルベートを使用しないで実施例1と同じ条件で油中水型乳化物を得、ホイップテストをおこなった。
5分で比重が0.5以下とならず、さらにホイップしても15分で0.4以上であった。
【0024】
(比較例3)
実施例1の油脂配合でポリソルベートを使用しないで、不飽和のモノグリセリン脂肪酸エステルを添加し実施例1と同じ条件で油中水型乳化物を得、ホイップテストをおこなった。
5分で比重が0.5以下とならず、さらにホイップしても15分で0.4以上であった。
【0025】
(比較例4)
実施例1の油脂配合でポリソルベートを使用しないで、飽和グリセリン物ステアレートのみを使用し実施例1と同じ条件で油中水型乳化物を得、ホイップテストをおこなった。
5分で比重が0.5以下とならず、さらにホイップしても15分で0.4以上であった。
【0026】
(比較例5)
実施例1の油脂配合でポリソルベートを使用しないで、構成脂肪酸が飽和脂肪酸からなるポリグリセリン脂肪酸エステルを使用し実施例1と同じ条件で油中水型乳化物を得、ホイップテストをおこなった。
5分で比重が0.5以下とならず、さらにホイップしても15分で0.4以上であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
油脂中にパーム油及び/またはパーム由来の加工油脂を90重量%以上配合し、油中水型乳化物中にポリソルベートを0.001〜5重量%含有することを特徴とする起泡性油中水型乳化物。
【請求項2】
実質的にトランス脂肪酸を含まない請求項1記載の起泡性油中水型乳化物。
【請求項3】
請求項1記載の起泡性油中水型乳化物を起泡させて得られるバタークリーム。

【公開番号】特開2010−57378(P2010−57378A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−223634(P2008−223634)
【出願日】平成20年9月1日(2008.9.1)
【出願人】(000236768)不二製油株式会社 (386)
【Fターム(参考)】