説明

起立姿勢保持機構を備える止水施設

【課題】止水施設が、低水位側に押し倒されようとする問題を解決すること、波高の大きな津波の進入を阻止し、閉鎖可能幅の大きい格納式止水施設を実現させること、止水施設によって守ることのできる地域を拡大させること。
【解決手段】少なくとも起立状態の止水板の高さとほぼ等しい高さが確保できる長さの腕木の端部付近に支点を設け、起立状態の止水板基底部付近にも支点を設け、これを腕木上の支点と組み合わせて腕木を揺動自在に取り付けるとともに、腕木の揺動支点から離れた端部付近に繋着部を設け、この腕木に設けた繋着部を起立状態の止水板の頂部付近から止水板の高水位に晒される側方のやや離れた地点に設けるアンカーとを結ぶ鎖、あるいは綱上に繋着させる構成の止水板起立姿勢保持機構を備える止水施設とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異常な水位の上昇に備えて設ける格納式の防波堤や防潮堤、水門などの止水施設に関するものである。
【背景技術】
【0002】
日本列島周辺は地震の発生が非常に多い地域に属しており、海底を震源とする地震によって惹き起される津波にしばしば襲われる。また、台風による気圧低下と吹き寄せる風が主な原因となる高潮の被害を受けることもある。日本列島周辺は地震活動の活発な時期に差し掛かりつつあると考えられる一方、地球温暖化の傾向には歯止めが掛からず、高潮被害も増加傾向にあると懸念されている。津波と高潮では、詳細に比較すれば異なる点も多くあるが、わが国の沿岸部については防災上、津波のもたらす高水位が高潮のもたらす高水位を上回ると考える必要があるので、津波に対する止水施設は高潮に対する止水施設を兼ねるものであるといえる。以下では、特に断らない場合、「津波など」の語は高潮を含むものとして使用する。
【0003】
津波や高潮の被害を防ぐには、沿岸に津波や高潮に耐えられる堤防や水門などの止水施設を設けることが効果的である。しかし、従来の止水施設は、防波堤などの止水施設を大きく、重く、堅固にすることで津波の衝撃に耐えるという考えで設計されていることから、きわめて多量のコンクリートや土石、金属などの資材を用いて建設しなければならず、建設には長い期間や多額の建設費用が必要であり、自然環境や漁業に与える悪影響も深刻で景観上からも好ましいものではなかった。また、船舶の航行や水流に与える障害を軽微にするために、水路を開放する必要があり、防災上完璧な止水施設を建設することができなかった。
【0004】
このため上記の問題を解決すべく、嚢体や膜状部材等を使用した止水施設や、格納式止水板を展開させる形式などの止水施設が提唱されているが、これらの止水施設では、多量のコンクリートや土石、金属などの資材を用いて建設したものに比較すると、止水施設が軽量かつ柔軟なものとなるので、閉鎖できる幅が小さな型式ものや、衝撃を止水施設の基底部のみで受け止める方式のものを除いては、止水施設の各部を海底や陸上部の適当な場所にアンカーを設ける方法により繋ぎ止められている。
【0005】
津波襲来時の高水位に晒される止水施設の止水板や止水杭、止水膜、嚢体には大荷重が掛かり、陸地側に押し倒す力が作用するので、止水施設の主要部分を構成している止水板や止水杭、止水膜、嚢体が変位し止水施設の機能が損なわれる。このため、波高の大きな津波の進入を阻止できる閉鎖可能幅の大きい格納式止水施設の建設は困難であった。
【特許文献1】特開平09−273130号公報
【特許文献2】特開2003−342938
【特許文献3】特開2004−100231
【特許文献4】特開2004−116130
【特許文献5】特開2005−105775
【特許文献6】特開2005−207220
【非特許文献1】大矢雅彦ほか著「自然災害を知る・防ぐ」古今書院 1996
【非特許文献2】日経産業新聞記事(2005年10月5日の17面に記載)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
発明が解決しようとする課題は、止水板や止水杭、止水膜、嚢体を使用した止水施設が、津波や高潮によってもたらされる高水位や流れの衝撃によって大きな荷重を受け、低水位側となる陸地側に押し倒されようとする問題を解決することにより、波高の大きな津波などの進入が阻止でき、閉鎖可能幅の大きい格納式止水施設を実現させることであり、止水施設の建設によって守ることのできる地域を拡大させることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を達成するために、本発明は、揺動起立式の止水板を立てる形式の止水施設においては、少なくとも起立状態の止水板の高さと等しい高さが確保できる長さの腕木の端部付近に支点を設け、起立状態の止水板基底部付近にも支点を設け、これを腕木上の支点と組み合わせて腕木を揺動自在に取り付けるとともに、腕木の揺動支点から離れた端部付近に繋着部を設け、この腕木に設けた繋着部を起立状態の止水板の頂部付近から止水板の高水位に晒される側方のやや離れた地点に設けるアンカーとを結ぶ鎖、あるいは綱上に繋着させる構成の止水板起立姿勢保持機構を備える止水施設とする。
【0008】
また、浮力によって浮上させる鋼管製止水杭を立てる形式の止水施設においては、少なくとも海底から浮上状態の止水杭の高さを超える長さの腕木の端部付近に支点を設け、浮上状態の止水杭基底部付近にも支点を設け、これを腕木上の支点と組み合わせて腕木を揺動自在に取り付けるとともに、腕木の揺動支点から離れた端部付近に繋着部を設け、この腕木に設けた繋着部を浮上状態の止水杭の頂部付近から止水杭の高水位に晒される側方のやや離れた地点に設けるアンカーとを結ぶ鎖、あるいは綱上に繋着させる構成の止水杭起立姿勢保持機構を備える止水施設とする。
【0009】
可撓性の止水膜を展開する形式の止水施設においては、少なくとも展開状態の止水板の高さと等しい高さが確保できる長さの腕木の端部付近に支点を設け、展開状態の止水幕基底部付近にも支点を設け、これを腕木上の支点と組み合わせて腕木を揺動自在に取り付けるとともに、腕木の揺動支点から離れた端部付近に繋着部を設け、この腕木に設けた繋着部を展開状態の止水膜の頂部付近から止水膜の高水位に晒される側方のやや離れた地点に設けるアンカーとを結ぶ鎖あるいは綱上に繋着させた止水膜の起立姿勢保持機構を備える止水施設とする。
【0010】
嚢体に流体を充填して膨張させることで展開する形式の止水施設においては、少なくとも展開状態の嚢体の高さと等しい高さが確保できる長さの腕木の端部付近に支点を設け、展開状態の嚢体基底部付近にも支点を設け、これを腕木上の支点と組み合わせて腕木を揺動自在に取り付けるとともに、腕木の揺動支点から離れた端部付近に繋着部を設け、この腕木に設けた繋着部を展開状態の嚢体の頂部付近から嚢体の高水位に晒される側方のやや離れた地点に設けるアンカーとを結ぶ鎖あるいは綱上に繋着させた嚢体の起立姿勢保持機構を備える止水施設にする。
【0011】
可撓性の止水膜に浮体を取り付け、浮体の浮力によって止水膜を展開する形式の止水施設においては、少なくとも展開状態の止水幕の高さに浮体の高さを加える高さと等しい高さが確保できる長さの腕木の端部付近に支点を設け、展開状態の止水幕基底部付近にも支点を設け、これを腕木上の支点と組み合わせて腕木を揺動自在に取り付けるとともに、腕木の揺動支点から離れた端部付近に繋着部を設け、この腕木に設けた繋着部を展開状態の浮体の頂部付近から止水膜の高水位に晒される側方のやや離れた地点に設けるアンカーとを結ぶ鎖あるいは綱上に繋着させた止水膜の起立姿勢保持機構を備える止水施設とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の起立姿勢保持機構を備える止水施設は、止水施設が低水位側となる陸地側に押し倒されようとする問題を解決し、止水施設の安定を増加させることによって、波高の大きな津波などの進入が阻止でき、閉鎖可能幅の大きい格納式止水施設を実現させた。また、従来は困難であった波高の大きな津波などの進入が阻止でき、閉鎖可能幅の大きい格納式止水施設を実現させたことから、止水施設の建設によって守ることのできる地域を飛躍的に拡大させた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明を実施するための最良の形態を図に基づいて説明する。以下の説明では、止水施設に対して津波等の押し寄せて来る高水位を受ける側に沖側、その逆側には陸側の語を用いる。
【0014】
図1は、本発明特許請求の範囲請求項1記載の揺動起立式の止水板を立てる形式の止水施設の横断面図である。図では、止水施設の揺動起立式止水板1が高水位24を堰き止めている状態を表しており、図の左方が沖側である。図の止水施設には少なくとも起立状態の止水板の高さと等しい高さが確保できる長さの腕木2の端部3付近に支点4を設け、起立状態の止水板基底部5付近にも支点6を設け、これを腕木上の支点と組み合わせて腕木を揺動自在に取り付けるとともに、腕木の揺動支点から離れた端部付近7に繋着部8を設け、この腕木に設けた繋着部を起立状態の止水板の頂部付近9から止水板の沖側10のやや離れた地点11に設けるアンカー12とを結ぶ鎖あるいは綱13上に繋着させた止水板の起立姿勢保持機構を備えている。なお、「沖側のやや離れた地点」とは、止水板起立時の腕木繋着部直下より沖側の地点を指しているが、沖側に向かっては、効果や経済性、また、アンカーを設置する際の誤差や鎖あるいは綱の伸縮を考慮すると、自ずから限定された範囲となる地点である。
【0015】
図1のものは、水位の上昇を伴う異常時に格納式の止水板を立てる形式の止水施設の例として、沖合の海中に建設する津波防波堤としているが、沿岸部や河口に設ける防潮堤や津波水門においても同様な構成のものを適用できる。また、図では、腕木を独立した棒状の部材としているが、例えば、腕木を梯子状に複数組み合わせ、横に寝かせる形とすることで腕木に掛かる衝撃を複数の腕木に分散でき、腕木自体の安定を得やすくすることも可能である。アンカーは、止水施設が受け止める衝撃の主要な部分を受け止めなければならないので、衝撃に相応のものを用意する必要があり、止水板基底部付近にも止水板下部に加わる衝撃に対して十分な固定処置が必要であることは、言うまでもない。図中では、腕木に設ける揺動支点と止水板の揺動支点を同軸としているが、必ずしも同軸である必要はなく、近い位置に置かれていれば良い。
【0016】
図11は、図1と同様に、揺動起立式の止水板を立てる形式の止水施設の断面図であるが、本発明と異なり、止水板起立姿勢保持機構を持たないものである。この場合には、止水板の揺動支点と止水板の頂部付近の繋着点を結ぶ線14と止水板頂部付近9から止水板の沖側10のやや離れた地点に設けるアンカー12とを結ぶ線の成す角度15が小さく、止水板の頂部付近9とアンカー12とを結ぶ鎖あるいは綱13やアンカー自体に掛かる荷重が大きい。この荷重は、90度時の値が最小となることが知られているが、図1では、この角度を大きく取れることによって、鎖あるいは綱13やアンカー自体に掛かる荷重を小さくできる。また、図1および図11では、止水板の揺動支点とアンカーの垂直位置とを同じにしているが、通常は沖側に向かうに従って深さが増すので、止水板の揺動支点と止水板の頂部付近の繋着点を結ぶ線14と止水板頂部付近9から止水板の沖側10のやや離れた地点に設けるアンカー12とを結ぶ線の成す角度はますます小さくなり、鎖あるいは綱13やアンカー自体に掛かる荷重は増加するが、図1のものは、鎖あるいは綱13やアンカー自体に掛かる衝撃を腕木の圧縮方向(図では矢印方向16)に変換して吸収でき、しかも、腕木に設ける揺動支点と止水板の揺動支点を同軸もしくは、相互に接近して強固に結ばれている場合、矢印は止水施設を下方に押し下げる力となるので、本発明の止水施設は、止水板起立姿勢保持機構を持たない止水施設に比較して安定が大きく増加する。
【0017】
図2は、本発明特許請求の範囲請求項1記載の揺動起立式の止水板を立てる形式の止水施設の断面図である。図では、平時に止水施設の揺動起立式止水板1が畳まれている状態を表しており、図の左方が沖側10である。図の止水施設においては、腕木2が止水板側方の止水板と止水板の間に格納されているが、畳まれる止水板の下方や沖側に置かれてもよい。
【0018】
図3は、本発明特許請求の範囲請求項2記載の浮力によって浮上させる鋼管製止水杭17を立てる形式の止水施設の断面図である。図では、止水施設の鋼管製止水杭が高水位24を堰き止めている状態を表しており、図の左方が沖側である。図3の浮力によって浮上させる鋼管製止水杭を立てる形式の止水施設には、少なくとも海底18から浮上状態の止水杭の高さを超える長さの腕木2の端部付近に支点4を設け、浮上状態の止水杭基底部付近にも支点を設け、これを腕木上の支点と組み合わせて腕木を揺動自在に取り付けるとともに、腕木の揺動支点から離れた端部付近に繋着部を設け、この腕木に設けた繋着部を浮上状態の止水杭の頂部付近から止水杭の高水位に晒される側方のやや離れた地点に設けるアンカー12とを結ぶ鎖、あるいは綱13上に繋着させる構成の止水杭起立姿勢保持機構を備えている。
【0019】
図3のものは、水位の上昇を伴う異常時に浮力によって浮上させる鋼管製止水杭を立てる形式の止水施設の例として、沖合の海中に建設する津波防波堤としているが、沿岸部や河口に設ける防潮堤や津波水門においても同様な構成のものを適用できる。また、図では、腕木を独立した棒状の部材としているが、例えば、腕木を梯子状に複数組み合わせ、横に寝かせる形とすることで腕木に掛かる衝撃を複数の腕木に分散でき、腕木自体の安定を得やすくすることも可能である。アンカーは、止水施設が受け止める衝撃の主要な部分を受け止めなければならないので、衝撃に相応のものを用意する必要があり、止水杭基底部付近にも止水杭下部に加わる衝撃に対して十分な固定処置が必要であることは言うまでもない。図中では、腕木に設ける揺動支点を止水杭基底部付近の止水杭外筒19上端部に設けているが、腕木の揺動支点に作用する衝撃を受け止めることができるならば、付近の他の箇所に設けても良い。
【0020】
図12は、図3と同様に、異常時に浮力によって浮上させる鋼管製止水杭17を立てる形式の止水施設の断面図であるが、本発明のものと異なり、止水杭起立姿勢保持機構を持たないものである。この場合、高水位24を受け止める止水杭には、止水杭を陸側に押し倒そうとする大きな力が作用するので、止水杭は図で示すように変位するとともに、止水杭外筒19上部に過大な力が集中する。図12のものでは、止水杭の変位と止水杭外筒上部に集中する過大な力を避けるために、止水杭や止水杭外筒上部の厚さを増して強度を増したり、浮上時の止水杭外筒と止水杭の重なり部分を多く取る必要がある。このことによって、止水杭の浮上量が多く取れないという問題や、止水施設のために肉厚の材料を使用しなければならないことから、建設費用が多く掛かる不利益があるが、図3で示す本発明の止水施設では、専ら止水杭起立姿勢保持機構が津波などによってもたらされる衝撃を受け止めることとなるので、止水杭の浮上量を多く取れ、強度を犠牲にすることなく止水杭や止水杭外筒の厚さを少なくでき、止水杭の浮上量が多く取れる止水杭形式の止水施設を経済的に建設できる利点がある。
【0021】
異常時に浮力によって浮上させる鋼管製止水杭を立てる形式の止水施設を水深の大きな地点に設けたい場合には、図4で示すように、止水杭外筒19を海底から突出させ、突出部を覆う形にマウンド20を設け、本発明の止水杭起立姿勢保持機構を装備する止水施設とすることで、長大な鋼管製止水杭を使用しても止水杭17の強度を充分に確保することできる。従来、大深度地点に止水施設を設けることは困難とされてきたが、このことによって建設が可能となり、また、止水施設の設置工事にともなう掘削作業を少なくできることから、工事期間の短縮化ができるという利点も生まれた。
【0022】
図5は、本発明特許請求の範囲請求項3記載の可撓性の止水膜21を展開する形式の止水施設の横断面図である。図では、止水施設の可撓性の止水膜が高水位24を堰き止めている状態を表しており、図の左方が沖側である。図の止水施設には、少なくとも展開状態の止水幕の高さと等しい高さが確保できる長さの腕木2の端部付近に支点4を設け、起立状態の止水幕基底部付近にも支点6を設け、これを腕木上の支点と組み合わせて腕木を揺動自在に取り付けるとともに、腕木の揺動支点から離れた端部付近に繋着部を設け、この腕木に設けた繋着部を展開状態の止水幕の頂部付近から止水幕の沖側のやや離れた地点に設けるアンカー12とを結ぶ鎖あるいは綱13上に繋着させた止水幕の起立姿勢保持機構を備えている。
【0023】
図6は、本発明特許請求の範囲請求項4記載の嚢体22に流体を充填して膨張させることで展開する形式の止水施設の横断面図である。図では、止水施設の嚢体が高水位24を堰き止めている状態を表しており、図の左方が沖側である。図の止水施設には、少なくとも展開状態の嚢体の高さと等しい高さが確保できる長さの腕木2の端部付近に支点4を設け、展開状態の嚢体基底部付近にも支点6を設け、これを腕木上の支点と組み合わせて腕木を揺動自在に取り付けるとともに、腕木の揺動支点から離れた端部付近に繋着部を設け、この腕木に設けた繋着部を展開状態の嚢体の頂部付近から嚢体の沖側のやや離れた地点に設けるアンカー12とを結ぶ鎖あるいは綱13上に繋着させた嚢体の起立姿勢保持機構を備えている。
【0024】
図7は、本発明特許請求の範囲請求項5記載の可撓性の止水膜21に浮体23を取り付け、浮体の浮力によって止水膜を展開する形式の止水施設の横断面図である。図では、止水施設の浮体を取り付けた可撓性の止水膜が高水位24を堰き止めている状態を表しており、図の左方が沖側である。図の止水施設には、少なくとも展開状態の止水幕の高さに浮体の高さを加える高さと等しい高さが確保できる長さの腕木2の端部付近に支点4を設け、展開状態の止水幕基底部付近にも支点6を設け、これを腕木上の支点と組み合わせて腕木を揺動自在に取り付けるとともに、腕木の揺動支点から離れた端部付近に繋着部を設け、この腕木に設けた繋着部を展開状態の止水幕上部に取付けた付帯の頂部付近から止水幕の沖側のやや離れた地点に設けるアンカー12とを結ぶ鎖あるいは綱13上に繋着させた止水幕の起立姿勢保持機構を備えている。
【0025】
本発明特許請求の範囲請求項3記載の可撓性の止水膜を展開する形式の止水施設を示す図5、本発明特許請求の範囲請求項4記載の嚢体に流体を充填して膨張させることで展開する形式の止水施設を示す図6、および、本発明特許請求の範囲請求項5記載の可撓性の止水膜に浮体を取り付け、浮体の浮力によって止水膜を展開する形式の止水施設を示している図7のものは、いずれも津波などの高水位24によって止水施設が低水位側25となる陸側に押し倒されようとするが、止水幕あるいは、嚢体は、起立姿勢保持機構によって上方に引き上げられ、沖側からの高水位を受ける止水幕や嚢体の高さが常に維持される。これらの止水幕や嚢体による止水施設は、マウンド20を併用することによって図8のように、従来建設が不可能であった大水深の地点にも設置が可能であり、また、図9で示すように、沖側10に向かって水深の大きくなる地点においても採用できる。
【実施例1】
【0026】
図10は、本発明の止水施設の1実施例斜視図である。図の津波防波堤は、津波先端の水流によって起立するものであり、図の左側から津波による高水位24に襲われるが、津波水流の運動エネルギーよって止水板1を起立させた津波防波堤で津波防波堤陸側への高水位の流入が阻止されている。また、平時は図2のように止水板1を倒伏格納させることで、潮流や船舶の航行を阻害することがない。沖側のやや離れた地点に設けるアンカーや、これを結ぶ鎖あるいは綱は、想定される津波などの勢力や設置される地点の状況により、適切に数を増減させ、また、長さや重さ、形状を適したものとする。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明の止水施設は、津波防波堤のほかに津波防潮堤や河口などに設ける津波水門として、また、高潮に対する防災施設としても適応できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明特許請求の範囲請求項1記載の止水施設の止水板起立時における断面図である。
【図2】本発明特許請求の範囲請求項1記載の止水施設の止水板格納時における断面図である。
【図3】本発明特許請求の範囲請求項2記載の止水施設の止水杭浮上時における断面図である。
【図4】本発明特許請求の範囲請求項2記載の止水施設に止水杭外筒を海底から突出させ、突出部を覆う形にマウンドを設けたものの止水杭浮上時における断面図である。
【図5】本発明特許請求の範囲請求項3記載の止水施設の止水幕展開時における断面図である。
【図6】本発明特許請求の範囲請求項4記載の止水施設の嚢体展開時における断面図である。
【図7】本発明特許請求の範囲請求項5記載の止水施設の止水幕展開時における断面図である。
【図8】本発明の止水施設にマウンドを設けたものの止水幕展開時における断面図である。
【図9】本発明の止水施設を大水深の地点に設置した展開時における断面図である。
【図10】本発明の止水施設を閉鎖すべき幅の大きい地点に設置した展開時における斜視図である。
【図11】起立姿勢保持機構を持たない止水施設の止水板展開時における断面図である。
【図12】起立姿勢保持機構を持たない止水施設の止水杭浮上時における断面図である。
【符号の説明】
【0029】
1 止水板
2 腕木
3 腕木の端部
4 腕木の支点
5 起立状態の止水板基底部
6 基底部付近の支点
7 腕木の揺動支点から離れた端部付近
8 繋着部
9 止水板の頂部付近
10 沖側
11 沖側のやや離れた地点
12 アンカー
13 鎖あるいは綱
14 止水板の揺動支点と止水板頂部付近の繋着点を結ぶ線
15 角度を示す矢印
16 腕木にかかる圧縮方向の力を示す矢印
17 鋼管製止水杭
18 海底
19 止水杭外筒
20 マウンド
21 可撓性の止水幕
22 嚢体
23 浮体
24 高水位時の水面
25 低水位時の水面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
揺動起立式の止水板を立てる形式の止水施設において、少なくとも起立状態の止水板の高さと等しい高さが確保できる長さの腕木の端部付近に支点を設け、起立状態の止水板基底部付近にも支点を設け、これを腕木上の支点と組み合わせて腕木を揺動自在に取り付けるとともに、腕木の揺動支点から離れた端部付近に繋着部を設け、この腕木に設けた繋着部を起立状態の止水板の頂部付近から止水板の高水位に晒される側方のやや離れた地点に設けるアンカーとを結ぶ鎖、あるいは綱上に繋着させる構成の止水板起立姿勢保持機構を備える止水施設。
【請求項2】
浮力によって浮上させる鋼管製止水杭を立てる形式の止水施設において、少なくとも海底から浮上状態の止水杭の高さを超える長さの腕木の端部付近に支点を設け、浮上状態の止水杭基底部付近にも支点を設け、これを腕木上の支点と組み合わせて腕木を揺動自在に取り付けるとともに、腕木の揺動支点から離れた端部付近に繋着部を設け、この腕木に設けた繋着部を浮上状態の止水杭の頂部付近から止水杭の高水位に晒される側方のやや離れた地点に設けるアンカーとを結ぶ鎖、あるいは綱上に繋着させる構成の止水杭起立姿勢保持機構を備える止水施設。
【請求項3】
可撓性の止水膜を展開する形式の止水施設において、少なくとも起立状態の止水幕の高さと等しい高さが確保できる長さの腕木の端部付近に支点を設け、起立状態の止水幕基底部付近にも支点を設け、これを腕木上の支点と組み合わせて腕木を揺動自在に取り付けるとともに、腕木の揺動支点から離れた端部付近に繋着部を設け、この腕木に設けた繋着部を展開状態の止水膜の頂部付近から止水膜の高水位に晒される側方のやや離れた地点に設けるアンカーとを結ぶ鎖あるいは綱上に繋着させた止水膜の起立姿勢保持機構を備える止水施設。
【請求項4】
嚢体に流体を充填して膨張させることで展開する形式の止水施設において、少なくとも展開状態の嚢体の高さと等しい高さが確保できる長さの腕木の端部付近に支点を設け、展開状態の嚢体基底部付近にも支点を設け、これを腕木上の支点と組み合わせて腕木を揺動自在に取り付けるとともに、腕木の揺動支点から離れた端部付近に繋着部を設け、この腕木に設けた繋着部を展開状態の嚢体の頂部付近から嚢体の高水位に晒される側方のやや離れた地点に設けるアンカーとを結ぶ鎖あるいは綱上に繋着させた嚢体の起立姿勢保持機構を備える止水施設。
【請求項5】
可撓性の止水膜に浮体を取り付け、浮体の浮力によって止水膜を展開する形式の止水施設において、少なくとも展開状態の止水幕の高さに浮体の高さを加える高さと等しい高さが確保できる長さの腕木の端部付近に支点を設け、起立状態の止水幕基底部付近にも支点を設け、これを腕木上の支点と組み合わせて腕木を揺動自在に取り付けるとともに、腕木の揺動支点から離れた端部付近に繋着部を設け、この腕木に設けた繋着部を展開状態の浮体の頂部付近から止水膜の高水位に晒される側方のやや離れた地点に設けるアンカーとを結ぶ鎖あるいは綱上に繋着させた止水膜の起立姿勢保持機構を備える止水施設。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2007−113261(P2007−113261A)
【公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−305295(P2005−305295)
【出願日】平成17年10月20日(2005.10.20)
【出願人】(391021938)
【Fターム(参考)】