説明

超低周波音測定による構造体の状況評価方法

【課題】 地盤やコンクリート構造物等の構造体を伝播する超低周波音の影響を正確に把握、評価する。
【解決手段】 観測対象の構造体で発生あるいは伝播する超低周波音パルスの音圧強度を所定計測間隔で連続計測する。その計測結果として得られた超低周波音の音圧強度と卓越周波数との関係を求め、数値評価結果をもとに観測対象の状況、評価を行い、その結果を表示装置等で示す。評価の手法として、観測対象で得られた複数データの超低周波周波数(Hz)-1と、ピーク超低周波音圧強度ピーク低周波音音圧強度(×10-8W/m21/2との相関関係を図示し、その状況評価を行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は超低周波音測定による構造体の状況評価方法に係り、特に自然圏において発生し、地盤やコンクリート構造物等の構造体を伝播する超低周波音パルスの検知および解析を行うことで、自然圏における自然現象、伝播する構造体の地盤の状況等を、簡易に把握し、評価できる超低周波音測定による構造体の状況評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、生活圏で生じている各種の低周波音の問題については、その発生源の特定方法、対象騒音の測定方法、防止技術、及び対策技術が確立されている(非特許文献1,2)。 また、低周波音の場合に適用可能な音圧レベルの測定方法とその装置(特許文献1)が提案されている。
【0003】
これに対して、出願人は、自然圏において生じるいわゆる自然現象に起因して発生する、20Hz以下の超低周波音パルスについて、各種の事例観測と研究とを進めてきた。たとえば、火山活動の観測、土砂崩壊前兆現象の観測、河川掃流砂量等の自然外力の観測を例にその研究を行ってきた。また、構造体の劣化状態等の状況観察に着目した観測も行ってきた。たとえば橋梁等の土木構造物や、風力発電施設の基礎地盤に問題がある場合は、列車荷重列、車両走行、風荷重等によって、自然外力と同様の低周波音がこれら構造体において発生し、伝播することを見出している。これらの構造体での反応は、自然現象の観測のような連続的線形的な反応ではなく、間欠的なパルス反応であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−258239号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】環境庁大気保全局発行,平成12年10月,低周波音の測定方法に関するマニュアル
【非特許文献2】環境省環境管理局大気生活環境室発行,平成14年3月,低周波音の測定方法に関するマニュアル
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、出願人は、超低周波音が周辺環境に及ぼす影響の調査、研究を行ってきた経験から、対象としている超低周波音は、連続する発生音ではなく、パルスとしての間欠的な発生音であり、その超低周波音パルスの特性として、以下の点を考慮した計測を行うことが重要であることを知見として得た。
(1)パルスとしての発生音の継続時間は1秒以内である。
(2)音圧強度は場所により異なり、当然大きな幅を持っており、100〜200,000μPaの範囲のデータが出現する。
(3)バックグラウンド音圧値(当該地点の暗騒音)の平均値+3.5×偏差よりも値の大きい計測値をパルス音とする。
(4)卓越周波数は数Hz〜80Hzである。
(5)パルス音が連続的に発生しても、その発生周期は10〜15secである。また、その場合の連続時間は自然現象の観測の経験上、数分以内が多い。
【0007】
本発明は、これら超低周波音のパルス反応についての知見をもとにするものである。なお、本明細書では、これを「超低周波音パルス」と呼ぶ。
【0008】
これらの超低周波パルスの特性を考慮した場合、非特許文献1に開示されたような低周波音圧レベル計によるG特性音圧レベルでの測定、1/3オクターブバンドでの音圧レベル測定では、卓越的なデータとしてのパルスの収集が出来ないという問題がある。
【0009】
また、出願人(発明者)は、本願発明を完成させるために、自然の観測において計測対象を、音響エネルギー量(W/m2)で求め、dBへの表記を求められる場合は、自然圏での現象をとらえるのに、水中を基準とした方が解析に有効であると考えて、1μPaを0dBとして表記し、周波数特性については、実験等を参考に20Hzを0dBとして、40dB/octへ減衰係数を乗じている。そのため、特許文献1に開示された音圧データの量子化におけるロジックとはまったく異なるものとなっている。
【0010】
そこで、本発明の目的は上述した従来の技術が有する問題点を解消し、計測対象から発生し超低周波音パルスのうち、対象とした超低周波音パルスの卓越周波数と、その音圧エネルギーとに着目し、自然圏での現象観測、パルス音が伝播する構造体の劣化状態等の評価を簡易に行うことができるようにした超低周波音測定による構造体の状況評価方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明の超低周波音測定による構造体の状況評価方法は、観測対象の構造体で発生あるいは伝播する超低周波音響エネルギーを測定し、該超低周波音響エネルギーの音圧強度と卓越周波数との関係を求め、その数値評価結果をもとに前記観測対象の状況、評価を行うことを特徴とする。
【0012】
このとき、前記超低周波音響エネルギーはパルス値であり、該パルス値を所定計測間隔で連続計測して、前記観測対象のモニタリングを行うことが好ましい。
【0013】
また、測定点での暗騒音平均音圧強度+偏差×3.5より大きい測定値を、超低周波音のパルス値とすることが好ましい。
【0014】
前記超低周波音周波数は、16Hz以下とすることが好ましい。
【0015】
前記観測対象で得られた複数データの超低周波周波数(Hz)-1と、ピーク超低周波音圧強度ピーク低周波音音圧強度(×10-8W/m21/2との相関関係を図示し、その状況評価を行うことが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、自然圏において発生し、地盤やコンクリート構造物等の構造体を伝播する超低周波音パルスの測定および、そのピーク音圧強度、卓越周波数からの解析を行うことで、自然圏における自然現象、伝播する構造体の地盤の状況等を簡易に把握し、評価することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施例における計測機器の概略構成を示したブロック構成図。
【図2】本発明の超低周波音測定による構造体の状況評価方法の状況判断手順の一実施例を示したフローチャート。
【図3】超低周波周波数(Hz)-1と、ピーク超低周波音圧強度ピーク低周波音音圧強度(×10-8W/m21/2との相関関係の一例を示したグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の超低周波音測定による構造体の状況評価方法の実施するための形態として、以下の実施例について添付図面を参照して説明する。
【実施例】
【0019】
図1は、本発明の超低周波音測定による構造体の状況評価方法に用いる計測出力器、解析装置の概略構成を示したブロック構成図である。同図に示したように、計測出力器10は、地中に埋設可能な防水タイプのマイクロホン1からの信号を受信可能な、ボックスタイプの形態から構成されている。その内部構成は、図1のブロック図に示したように、マイクロホン1で、所定の計測時間間隔で得られた超低周波音パルス信号を増幅する増幅回路11、周波数帯域別音を計測するバンドパスフィルタ12及びA/D変換器13と、搭載されたソフトウエア(アプリケーション)に基づき計測時のパルス信号を6種類の測定データとして出力するように、データ処理可能な周波数・音圧データ解析部14と、パソコン20などの解析表示のための周辺機器と接続し、外部へデータ出力するための出力端子15と、操作手順、解析結果、システム情報等をユーザに伝える表示部16とから構成されている。周波数・音圧データ解析部14は、具体的には制御用CPU、演算ROMが装着された制御ボードを備えている。なお、解析、評価には、外部のパソコン20を用いてもよいし、この解析部14で測定データ処理に加えて、計測結果の周波数評価まで行えるようにしてもよい。図1に示したノートパソコン20とのデータ通信にはRS232C,有線、無線の各種LAN方式、携帯電話、PHSによるパケット通信、メモリー媒体(各種規格カード)接続によるデータ回収等各種のデータ出力手段を採用することができる。
【0020】
[超低周波音パルスの測定]
以下、本発明による超低周波音測定による構造体の状況評価方法の一実施例について、そのパルス測定からモニタリング結果出力までの手順を、図2を参照して説明する。
超低周波音パルスは、計測対象の地盤等の内部に埋設されたマイクロホンを用いて、15秒を周期に1パルスごとに測定する。具体的には、1Hz〜1000Hzの周波数音をフラット入力可能な圧電素子式の水中マイクロホン1(図1)を利用し、計測時定数(時間重み付け)特性として、5Hzパルスを1波として計測する。このとき、マイクロホンと媒質としての地盤等との間に十分な密着度が得られない場合がある。その点を考慮し、音響エネルギーとして、各測定地点ごとにおいて、その場の暗騒音相対値との比較を行い、音響エネルギー量(W/m2)を計測単位として計測する(図2:ステップ100、以下S100と略記する。)。
【0021】
マイクロホンを介して15秒ごとに測定されたデータのうち、直接計測されるのは、ピーク超低周波音音圧強度Lp(×10-8W/m2)と、卓越周波数(Hz)である。これら卓越周波数、音圧強度は、出願人が開示した特開2004−219168号公報による方法を用いることができる。なお、計測間隔を15秒としたため、長期のモニタリングが可能になる。その際、Lp>L(平均)+偏差×3.5の場合を、超低周波音パルスとして取り扱うことで、測定データ精度向上を図ることができる。
【0022】
このときの測定周波数帯域のA/D値としては、周波数3Hz(fO):音圧PO(平均)SDO(偏差)POm(最大値),10Hz(f1):P1(平均)SD1(偏差)Plm(最大値),100Hz(f2):P2(平均)SD2(偏差)P2m(最大値),300Hz(f3):P3(平均)SD3(偏差)P3m(最大値),1000Hz(f4):P4(平均)SD4(偏差)P4m(最大値)が求められる。なお、P0m〜P4mは、10HzのA/D値が最大の時の値とする。
【0023】
さらに、これら以外に周波数・音圧解析部でのデータ処理、解析により、以下の6種類の音圧、周波数を計測し、出力することができる(S110)。
EL:平均低周波音圧強度(×10-8W/m2
FL:平均低周波周波数(Hz)
ELm:ピーク低周波音音圧強度(×10-8W/m2
FLm:ピーク低周波周波数(Hz)
EH:平均可聴音音圧強度(×10-8W/m2
FH:平均可聴音周波数(Hz)
【0024】
さらに、10Hz(f1):P1(平均),100Hz(f2):P2(平均),300Hz(f3):P3(平均),1000Hz(f4):P4(平均)をもとに、計測された超低周波音については、その評価は出力信号値として、
R1:作動
R2:振動音発生
R3:可聴音発生
R4:低周波ピーク特性
の4種の信号として処理される(S120)。なお、R1は作動状態を表示するデータであり、状況を評価(識別)する出力信号としてはR2〜R4が該当する。さらに、これらの信号は、出力器10から外部のパソコン20等にデータ転送され、その画面上でその発生状況の定性評価結果が確認できるようになっている(S130〜S140)。このときの評価結果は、以下の表1の算定式を用いて行っている。この算定式のアルゴリズムに適用される各定数及び係数は、計測出力器固有の工場出荷時を基本としているが、ユーザ使用時にコマンド操作により適宜値に設定可能である。表1の算定式において、定数α、β、γは測定対象地盤に応じて設定された地盤特性係数である。現場での地盤試験や経験値から得られた値を採用することができる。係数M00,M01,M02,M03は使用した計測出力器における固有の周波数補正係数であり、製品出荷時に決定し、その後の利用時におけるキャリブレーション結果に応じて適宜調整することができる係数である。
【0025】

【0026】
[超低周波音パルス計測の現場適用例]
地盤層、水中などの自然圏とそれに組み込まれるように構築された各種構造体を伝播する超低周波音パルスの発生と伝播については、以下のように、発生原因や発生音の性質を推測し、測定器を設置して超低周波音パルスの効率的な測定を行うことが好ましい。
すなわち、測定対象となる地盤、コンクリート構造物、鋼構造物は複合構造体であり、超低周波音は騒音(空気伝播音)と振動(固体音)との混合中間的なものとして発生することが知られている。また、超低周波音が、車走行荷重、列車移動荷重列、風活荷重、動水圧、自然(地震)等によって発生する場合は、連続線形的ではなく、パルスとして発生するため、パルス音のみを長期計測で収集することで測定精度が向上する。
【0027】
[測定結果の判定・評価]
図3は、モニタリング結果出力として、上記測定結果を用いて、超低周波周波数(Hz)-1と、ピーク超低周波音圧強度ピーク低周波音音圧強度(×10-8W/m21/2との相関関係を示し、その相関関係の強度に応じた注意レベルの傾向を直観的に把握できるようにした関係グラフである。この判定・評価のために、同図のグラフ領域を、ピーク超低周波音圧強度、周波数がともに低い[通常レベル1]と、ピーク超低周波音圧強度が高く、周波数が低い[通常レベル2]と、ピーク超低周波音圧強度が低く、周波数が高い[注意レベル]と、ピーク超低周波音圧強度と周波数がともに高い、[警戒レベル]に領域分けしている。[通常レベル1]、[通常レベル2]を設定したのは、同じ周波数でも音圧強度が大きい方が高い注意度を要することを意味している。測定されたデータ群の傾向により、測定点での状況をおおよそ判定、評価することができる。これらの評価結果はパソコン20等で画像表示、あるいはプリンタ(図示せず)出力することが好ましい。これにより、対象構造体の状況評価を直観的に行うことができる。
【0028】
本発明の特徴、効果を明確にするために、以上に述べた状況評価方法を、実際の構造体に適用した例について、簡単に説明する。
(超低周波音の発生原因と状況評価)
超低周波音の状況評価の前提として、出願人は、超低周波音の発生原因について、以下の点を認識している。たとえば、構造体としてのコンクリート構造物と地盤との間の緩みがある場合、10Hz程度の超低周波音が発生し、音圧エネルギーが上昇する。このため、測定結果を適正に引き出すことで、その緩み状態や進行の傾向を把握できる。たとえば、橋梁において下部基礎の支持力が不十分な場合や、河川構造物の底板下や堤体の抜け上がりで生じた空隙でパイピング現象が生じた場合、新しいマグマの貫入により既存の溶岩ドームが破損して火山ガス放出がなされる揚合、断層(アスペリティ)が剥がれ滑り始める時などに、超低周波音パルスが顕著に計測される。よって、このような現場に本発明を適用することで、その現場の構造体(地盤、構造物など)の状況評価を確実に行うことができる。
【0029】
(現場適用例:下水管路の劣化状態)
劣化した構造物に自動車等の移動荷重列等が加わることで、超低周波音が発生することから、道路に沿って埋設された下水管路の健全箇所と、要工事箇所とで劣化状態の対比モニタリングを行った。要工事箇所である地点Xと複数対比点(健全箇所)とで超低周波音パルスの計測を行った。その結果、地点Xでは、各対比点に比較し、大きな音圧エネルギーが発生しており、中間測定点において、さらに低い低周波領域の音圧エネルギーが観測された。また、健全箇所では、ほとんど超低周波音圧は測定されなかった。
【0030】
このように、要工事箇所とは異なる理由で、超低周波音の発生が認められたのは管路のジョイント部であり、ジョイント部にズレ等の何らかの問題が生じている可能性を示唆している。超低周波音が計測されない点は、路盤面に工事跡等もなく一様に状態が良好な箇所や、信号の無い計測区間であった。後者では車輌が速度一定に通過するため、劣化程度はほとんどない。これらのことから、地中埋設物の構造状況、劣化状況とともに地盤自体の健全度の度合いが合わせて反映可能なことが明らかになった。
【0031】
このように、超低周波音圧と周波数をモニタリングし、周波数解析することにより、下水道施設等の要精密点検や要補修判断等の状態監視を簡易・安価で行うことができる。
モニタリングを行う施設等の詳細としては、下水管路の破損やジョイント部の変位の他に、地盤改良工事における薬液注入工程の診断等への活用が望める。
【0032】
なお、本発明は上述した実施例に限定されるものではなく、各請求項に示した範囲内での種々の変更が可能である。すなわち、請求項に示した範囲内で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態も、本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0033】
1 マイクロホン
10 計測出力器
20 パソコン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
観測対象の構造体で発生あるいは伝播する超低周波音響エネルギーを測定し、該超低周波音響エネルギーの音圧強度と卓越周波数との関係を求め、その数値評価結果をもとに前記観測対象の状況、評価を行うことを特徴とする超低周波音測定による構造体の状況評価方法。
【請求項2】
前記超低周波音響エネルギーはパルス値であり、該パルス値を所定計測間隔で連続計測して、前記観測対象のモニタリングを行うことを特徴とする請求項1に記載の超低周波音測定による構造体の状況評価方法。
【請求項3】
測定点での暗騒音平均音圧強度+偏差×3.5より大きい測定値を、超低周波音のパルス値としたことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の超低周波音測定による構造体の状況評価方法。
【請求項4】
前記超低周波音周波数は、16Hz以下であることを特徴とする請求項1に記載の超低周波音測定による構造体の状況評価方法。
【請求項5】
前記観測対象で得られた複数データの超低周波周波数(Hz)-1と、ピーク超低周波音圧強度ピーク低周波音音圧強度(×10-8W/m21/2との相関関係を図示し、その状況評価を行うことを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の超低周波音測定による構造体の状況評価方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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