説明

超硬合金製ドリル

【課題】特に鋳鉄のような被削材に貫通穴を穴明け加工するのに用いても、切刃強度を確保して摩耗やチッピング、欠損を防ぎつつ、鋭い切れ味は維持してバリやコバ欠けの発生を効果的に抑制する。
【解決手段】軸線O回りに回転されるドリル本体1の先端部外周に形成された切屑排出溝4のドリル回転方向Tを向く壁面と先端逃げ面3との交差稜線部に切刃5が形成され、ドリル本体1は超硬合金により形成されているとともに、切刃5は、ドリル本体1内周側の主切刃8と、この主切刃8よりも先端角θが小さくて長さLの短い外周側のバリ取り刃12とを備え、主切刃8にはホーニングが施される一方、バリ取り刃12には、ホーニングが施されないか、または主切刃12よりもホーニング幅の小さいホーニングが施される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に鋳鉄等の貫通穴明け加工における加工穴出口のバリの発生やコバ欠けを防止することが可能な超硬合金製ドリルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
このような、被削材に貫通穴を穴明け加工する際の加工穴の出口におけるバリの発生を抑制する機能を備えたドリルとしては、例えば特許文献1に、先端に切れ刃をそなえると共に切り屑排出用のねじれ溝をそなえたツイストドリルにおいて、切れ刃に連続して面取りを設け、切れ刃の先端角αを118°〜135°とし、面取りの面取り角βを60°〜90°とし、ねじれ溝のねじれ角γを30°〜45°としたツイストドリルが提案されている。
【特許文献1】特開平9−277109号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、この特許文献1に記載のドリルでは、面取り角βが小さくされた面取り部分における切刃の長さが長くされており、被削材との接触長さも長くなるために切削抵抗が増大して、この部分の切刃の摩耗進行が速くなり、切れ味が鈍くなってバリの抑制効果が早期に失われるおそれがある。特に、特許文献1に記載のドリルは、クロム鋼のような鋼材穴明け用の高速度工具鋼製のハイスドリルであって、鋳鉄のような被削材の穴明け加工では切刃の摩耗が一層促進されることになる。
【0004】
ここで、このような切刃の摩耗を抑えるため、耐摩耗性が高い超硬合金製のドリルを鋳鉄の穴明け加工に用いると、切刃の摩耗は抑制できるものの、ドリル本体と被削材とがともに硬くて脆い材質となるため、切刃にチッピングや欠損が生じ易くなる。そこで、切刃強度を確保してこのようなチッピングや欠損を防ぐために切刃にホーニングを施すと、バリ取りに用いられる切刃の面取りにおいても切れ味が鈍くなって、バリやコバ欠けの抑制効果が一層損なわれる結果となる。
【0005】
本発明は、このような背景の下になされたもので、特に鋳鉄のような被削材に貫通穴を穴明け加工するのに用いても、切刃強度を確保して摩耗やチッピング、欠損を防ぎつつ、鋭い切れ味は維持してバリやコバ欠けの発生を効果的に抑制することが可能な超硬合金製ドリルを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決して、このような目的を達成するために、本発明は、軸線回りに回転されるドリル本体の先端部外周に切屑排出溝が、上記ドリル本体の先端逃げ面に開口して後端側に延びるように形成され、この切屑排出溝のドリル回転方向を向く壁面と上記先端逃げ面との交差稜線部に切刃が形成されてなるドリルであって、上記ドリル本体は超硬合金により形成されているとともに、上記切刃は、上記ドリル本体の内周側の主切刃と、この主切刃よりも先端角が小さくて長さの短い外周側のバリ取り刃とを備え、上記主切刃にはホーニングが施される一方、上記バリ取り刃には、ホーニングが施されないか、または上記主切刃よりもホーニング幅の小さいホーニングが施されていることを特徴とする。
【0007】
従って、このように構成されたドリルにおいては、ドリル本体が超硬合金製であるので耐摩耗性が高く、鋳鉄のような被削材に対しても切刃の摩耗を抑制することができる。そして、このドリル本体に形成される切刃が、内周側の主切刃と、これよりも先端角が小さい外周側のバリ取り刃とを備え、このうちバリ取り刃よりも切刃長さの長い主切刃にはホーニングが施されているので、その強度を確保してチッピングや欠損の発生を防止することができる。
【0008】
その一方で、先端角の小さいバリ取り刃は、切刃長さが短いため必要以上に被削材との接触長さが長くなることはなく、ドリル本体が超硬合金製であることとも相俟って摩耗の進行を抑えることができる。そして、このバリ取り刃には、ホーニングが施されないか、あるいはホーニングが施されるにしても主切刃よりもホーニング幅が小さくされているので、鋭い切れ味を与えることができ、しかも摩耗の進行が抑制されるためにこの鋭い切れ味を長期に亙って維持して、加工穴の出口でのバリやコバ欠けの発生を防止することが可能となる。
【0009】
ここで、このようにホーニングが施される主切刃のホーニング幅は0.025mm〜0.1mmの範囲とされるのが望ましく、これよりもホーニング幅が小さいとチッピングや欠損が生じるおそれがある一方、これよりもホーニング幅が大きいと主切刃自体の切れ味が鈍って切削抵抗の増大を招くおそれがある。また、バリ取り刃のホーニング幅は、ホーニングが施されない場合の0mmから、ホーニングが施される場合でも0.025mmまでの範囲で主切刃のホーニング幅より小さくされるのが望ましく、この範囲よりも大きいと、バリやコバ欠けの発生を防止するための鋭い切れ味を確保することができなくなるおそれが生じる。
【0010】
また、上記バリ取り刃は、上記軸線回りの回転軌跡において一直線状に上記主切刃と交差するように形成されていてもよく、この場合にはバリ取り刃の上記先端角は30°〜60°の範囲とされているのが望ましい。特許文献1に記載のドリルのようにバリ取りを行う面取りした切刃の面取り角が60°〜90°と比較的大きな範囲であると、鋳鉄などのコバ欠けし易い被削材では加工穴の抜け際で欠けやむしれが生じて十分なバリ抑制効果を得られないおそれがある。
【0011】
さらに、こうしてバリ取り刃を軸線回りの回転軌跡で一直線状に主切刃と交差するように形成した場合には、このバリ取り刃の長さは、外周端までの切刃全体の外径Dに対して0.05×D〜0.15×Dの範囲とされるのが望ましい。バリ取り刃の長さがこの範囲よりも短いと、確実にバリを削り取ることができなくなるおそれがある一方、バリ取り刃の長さがこの範囲よりも長いと、被削材との接触長さが長くなって切削抵抗の増大を招くおそれが生じる。
【0012】
一方、上記バリ取り刃は、上記ドリル本体の内周側に向かうに従い先端角が大きくなる複数のバリ取り刃部によって構成されていてもよい。外周側のバリ取り刃部によって先端角を小さくして鋳鉄のような被削材でもコバ欠けによるバリを一層確実に防ぎつつ、内周側に向けて先端角の大きくなるバリ取り刃部を設けることで、被削材との接触長さをさらに短く抑えて切削抵抗の低減を図ることができる。
【0013】
なお、こうしてバリ取り刃を複数のバリ取り刃部によって構成した場合において、当該バリ取り刃が、上記ドリル本体の外周側の第1バリ取り刃部と内周側の第2バリ取り刃部とを備えているときには、第1バリ取り刃部の先端角は、上述のようにバリ取り刃が一直線状の場合と同様に30°〜60°の範囲とされるのが望ましい。そして、このとき、第2バリ取り刃部の先端角は60°〜90°の範囲とされ、かつこれら第1、第2バリ取り刃部の長さは、それぞれ上記切刃の外径Dに対して0.03×D〜0.10×Dの範囲とされるのが望ましい。
【0014】
すなわち、第2バリ取り刃部の先端角が上記範囲よりも小さいと、第1バリ取り刃部との角度差が小さくなる一方、第2バリ取り刃部の先端角が上記範囲よりも大きいと、主切刃との角度差が小さくなり、いずれの場合もバリ取り刃を複数のバリ取り刃部によって構成することによる上記効果が損なわれるおそれがある。さらに、これら第1、第2バリ取り刃部の長さが上記範囲よりも短いと、やはり確実にバリ取りできなくなるおそれがある一方、上記範囲よりも長いと、被削材との接触長さが長くなって切削抵抗の増大を招くおそれがある。
【発明の効果】
【0015】
以上説明したように、本発明によれば、ドリル本体を超硬合金製とすることにより耐摩耗性の向上を図りつつ、先端角が大きくて切刃長さの長い主切刃にはホーニングを施してチッピングや欠損の発生を防ぐことができる一方、先端角の小さいバリ取り刃は切刃長さを短くして被削材との接触による摩耗を抑えるとともに、ホーニングを施さないか、主切刃のホーニングよりも小さなホーニング幅とすることにより、鋭い切れ味を維持することができる。このため、特に鋳鉄のような被削材に貫通穴を穴明け加工する場合でも、加工穴出口でのバリやコバ欠けの発生を長期に亙って抑制することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
図1は、本発明の第1の実施形態の超硬合金製ドリルの先端部の側面図である。本実施形態において、ドリル本体1は、軸線Oを中心とした概略円柱状をなし、図示されないその後端部は円柱状のままのシャンク部とされるとともに、先端部は刃部2とされ、上記シャンク部が工作機械の主軸に把持されて軸線O回りにドリル回転方向Tに回転されつつ該軸線O方向先端側(図1における左側)に送り出されることにより、例えば鋳鉄のような被削材に貫通穴を形成する。そして、このドリル本体1は、上記シャンク部から刃部2の先端にかけてのその全体が、超硬合金によって一体に形成されている。
【0017】
刃部2には、その外周に、ドリル本体1の先端側を向く先端逃げ面3から後端側に向けて延びる切屑排出溝4が、後端側に向かうに従い軸線O回りにドリル回転方向Tの後方側に捩れるように、該軸線Oを挟んで対称に一対形成されており、この切屑排出溝4のドリル回転方向T側を向く壁面と上記先端逃げ面3との交差稜線部に切刃5が形成されている。ここで、先端逃げ面3には、切刃5からドリル回転方向T後方側に向かうに従い軸線O方向後端側に向かうように逃げ角が与えられるとともに、該軸線Oからドリル本体1の外周側に向けても軸線O方向後端側に向かうように形成されていて、これにより切刃5には所定の先端角が与えられる。
【0018】
また、切刃5の内周側においては、軸線O近傍の切屑排出溝4の内壁面が該軸線O側に向けて切り欠かれるようにしてシンニング面6が形成されることにより、このシンニング面6と先端逃げ面3との交差稜線部にシンニング刃7が形成されている。さらに、このシンニング刃7から外周側に向けての切刃5部分には135°〜150°の範囲内の略一定の先端角αが与えられていて、この部分が主切刃8とされている。
【0019】
そして、このシンニング刃7も含めた主切刃8には、図1にハッチングで示したようにホーニングが施されている。ここで、この主切刃8に施されるホーニングは、先端逃げ面3と切屑排出溝4の壁面とに角度をもって交差するようにされた平坦なチャンファホーニングでもよく、また凸曲面状の丸ホーニングでもよく、これらの複合ホーニングでもよい。ただし、そのホーニング幅は、0.025mm〜0.1mmの範囲内の一定幅とされるのが望ましい。
【0020】
一方、刃部2の外周面には、その切屑排出溝4のドリル回転方向Tを向く壁面との交差稜線部に沿って、後述する切刃5の外径Dと等しい外径で軸線Oを中心とした断面凸円弧状をなす外周面を有するマージン9が形成されている。また、このマージン9のドリル回転方向T後方側に連なる外周面は、該マージン9よりも外径が僅かに一段小さくされた外周逃げ面10とされている。
【0021】
そして、こうしてマージン9と外周逃げ面10とが形成された刃部2の外周面と上記先端逃げ面3との交差稜線部には、これら外周面と先端逃げ面3とに角度をもって交差するように面取部11が形成されており、この面取部11と切屑排出溝4のドリル回転方向Tを向く壁面との交差稜線部に、切刃5の外周側部分を構成するバリ取り刃12が形成されている。従って、このバリ取り刃12は、外周面とはマージン部9と交差させられるとともに、切刃5の主切刃8とも角度をもって交差するように形成されていて、本実施形態では軸線O回りの回転軌跡において一直線状に延びて主切刃8と交差させられており、その先端角θは主切刃8の先端角αよりも小さく、30°〜60°の範囲とされている。
【0022】
ここで、上記面取部11は、切屑排出溝4のドリル回転方向T後方側を向く壁面との交点からドリル回転方向T側に向けて、その幅が大きくなるように形成されており、バリ取り刃12が形成された切屑排出溝4のドリル回転方向Tを向く壁面との交差稜線で最も幅広となるようにされている。ただし、この面取部11の幅が最大となるバリ取り刃12の部分においても、その幅すなわちバリ取り刃12の長さLは、シンニング刃7も含めた主切刃8の長さよりは十分短く、本実施形態では切刃5の外径Dに対して0.05×D〜0.15×Dの範囲とされている。なお、切刃5の外径Dは、このバリ取り刃12の外周端が軸線O回りになす円の直径となる。
【0023】
さらに、このバリ取り刃12は、上記主切刃8に施されていたホーニングが施されずに面取部11が切屑排出溝4のドリル回転方向Tを向く壁面と鋭角に交差させられたままのシャープエッジとされるか、あるいはホーニングが施されるにしても、主切刃8に施されていたものよりはホーニング幅が小さな、極微小ホーニングとされている。すなわち、このバリ取り刃12に与えられるホーニング幅は、ホーニングが施されない場合の0mmを含み、ホーニングが施されるにしても主切刃8に施されるホーニングの幅0.025mm〜0.1mm以下となる、0mm〜0.025mmの範囲とされるのが望ましい。
【0024】
このように構成されたドリルでは、上述のようにドリル本体1が送り出されて切刃5が被削材を貫通する抜け際で、まず切刃5のうち先端内周側の主切刃8が被削材を突き抜け、このとき主切刃8の大きな先端角αによって被削材が押し広げられるようにして変形したり欠けたりすることにより貫通穴出口周縁に発生したバリやコバ欠けを、続いて切刃5のうち後端外周側の小さな先端角θとされたバリ取り刃12が抜け出るときに削り取ってバリ取りしてゆく。
【0025】
そして、上記構成の超硬合金製ドリルでは、このようにドリル本体1が超硬合金製であって耐摩耗性が高いため、切刃5のうち、特にホーニングが施されないシャープエッジか極微小ホーニングとされたバリ取り刃12の摩耗を抑えることができる。しかも、このバリ取り刃12は、その切刃長さLが主切刃8の長さよりも短く、特に本実施形態では切刃5の外径Dに対して0.05×D〜0.15×Dの範囲とされているので、被削材との接触長さを極短くすることができ、これによっても摩耗を抑えることができて、バリやコバ欠けを削り取るための鋭い切れ味を長期に亙って維持することが可能となる。
【0026】
すなわち、バリ取り刃12の長さLが上記範囲よりも長いと、被削材との接触長さも長くなって摩耗が促進されるおそれがある。ただし、上記範囲より短いと、ドリル本体1の送りを高くして高速で穴加工したときに、バリやコバ欠けを確実に抑制することができなくなるおそれが生じる。
【0027】
その一方で、被削材に貫通穴を専ら形成することになる主切刃8にはホーニングが施されているので、その切刃強度を十分に確保することができ、ドリル本体1が超硬合金製であるとともに被削材が鋳鉄である場合のように、どちらも硬くて脆い材質であっても、食い付き時等の衝撃的な負荷によって主切刃8にチッピングや欠損が生じたりするのを防ぐことができる。従って、上記構成の超硬合金製ドリルによれば、このような鋳鉄製の被削材に対しても、バリやコバ欠けのない高品位の貫通穴を安定して形成することが可能となる。
【0028】
特に、本実施形態では、この主切刃8に施されるホーニングの幅が0.025mm〜0.1mmの範囲とされており、主切刃8についても切れ味を損なうことなくチッピングや欠損の発生をより確実に防止することができる。すなわち、この主切刃8のホーニング幅が0.025mmを下回るほど小さいと切刃強度を十分に確保することができなくてチッピングや欠損が生じ易くなるおそれがある一方、0.1mmを越えるほど大きいと主切刃8の切れ味が鈍って切削抵抗の増大を招き、被削材の貫通穴出口にバリやコバ欠けが発生し易くなるおそれがある。
【0029】
また、これに対して、バリ取り刃12に与えられるホーニング幅は、最大でも0.025mmとされて、主切刃8のホーニング幅よりも小さくされており、上述のような鋭い切れ味によって確実にバリやコバ欠けを削り取ることができる。すなわち、このバリ取り刃12のホーニング幅が0.025mmを上回るほど大きいと、貫通穴出口に生じたバリやコバ欠けを鋭く削り取って除去することができなくなるおそれが生じる。
【0030】
さらに、本実施形態では、このホーニングが施された主切刃8の先端角αが135°〜150°と、特許文献1に記載のドリルなどに対して比較的大きな範囲とされている一方で、バリ取り刃12の先端角θは30°〜60°と逆に比較的小さな範囲とされており、特に鋳鉄のような被削材に対して、切刃5全体の長さが長くなることによる切削抵抗の増大は防ぎつつ、バリやコバ欠けは確実に除去することが可能となる。
【0031】
すなわち、切刃長の長い主切刃8の先端角αが上記範囲よりも小さいと切刃5が全体的に長くなって被削材との接触長さも長くなることにより切削抵抗が増大するおそれがあり、またバリ取り刃12の先端角θが上記範囲よりも大きいと、主切刃8による貫通穴出口に生じたバリがバリ取り刃12によっても押し広げられるようにして変形したり、特にコバ欠けしやすい鋳鉄では欠けが広がったりむしれを生じたりして、貫通穴出口を高品位に形成することができなくなるおそれが生じる。
【0032】
ただし、主切刃8の先端角αが大きくなりすぎて軸線Oに垂直に近くなると、貫通穴の抜け際で被削材を押し広げる作用が大きくなりすぎて、バリ取り刃12によっても除去しきれない大きさのバリやコバ欠けが発生するおそれがあり、またバリ取り刃12の先端角θが小さすぎても、バリ取り刃12が軸線Oに平行に近くなってマージン9と同じように貫通穴の内周に摺接するだけとなり、十分なバリ取り効果が期待できない。このため、本実施形態では主切刃8の先端角αは135°〜150°の範囲とするとともにバリ取り刃12の先端角θは30°〜60°の範囲としている。なお、主切刃8の先端角αは135°よりも大きくされるのがより望ましく、またバリ取り刃12の先端角θは60°未満とされるのがより望ましい。
【0033】
次に、図2は、本発明の第2の実施形態の超硬合金製ドリルの先端部を示す側面図であり、図1に示した第1の実施形態と共通する部分には同一の符号を配して説明を省略する。すなわち、上記第1の実施形態では、超硬合金によって一体形成されたドリル本体1の先端部(刃部2)に形成された切刃5のうちのバリ取り刃12が回転軌跡において一直線状に延びるようにされていたのに対し、本第2の実施形態におけるバリ取り刃21は、ドリル本体1の内周側に向かうに従い先端角θが大きくなる複数のバリ取り刃部(本実施形態では第1、第2バリ取り刃部21A、21Bの2つのバリ取り刃部)によって構成されていることを特徴とする。
【0034】
ここで、これら第1、第2バリ取り刃部21A、21Bは、それぞれが軸線O回りの回転軌跡において一直線状をなすように延びているとともに、ドリル本体1の外周側に位置する第1バリ取り刃部21Aは、その先端角θ1が第1の実施形態のバリ取り刃12と同じく30°〜60°の範囲とされている。これに対して内周側の第2バリ取り刃部21Bの先端角θ2は、上記先端角θ1よりは大きく、かつ主切刃8の先端角αよりは小さい60°〜90°の範囲とされている。
【0035】
なお、このような複数のバリ取り刃部21A、21Bを形成するには、図2に示すように面取部11を複数段の面取部11A、11Bによって構成すればよい。本実施形態では、同図2に示すようにマージン9の先端面が概ね外周側の第1面取部11Aとされるとともに、このマージン9よりも外径が僅かに一段小さくされた外周逃げ面10と先端逃げ面3との交差稜線に沿った部分が内周側の第2面取部とされ、それぞれ切屑排出溝4のドリル回転方向Tを向く壁面との交差稜線に上述のような先端角θ1、θ2の第1、第2バリ取り刃部21A、21Bが形成されるように面取りされている。
【0036】
また、これら第1、第2バリ取り刃部21A、21Bの切刃長さL1、L2は、それぞれ上記切刃5の外径(第1バリ取り刃部21Aの外周端が軸線O回りになす円の直径)Dに対して0.03×D〜0.10×Dの範囲とされて、いずれもシンニング刃7も含めた主切刃8の長さよりは短く、またこれらの切刃長さL1、L2を合わせたバリ取り刃21の長さでも主切刃8の長さよりは十分短くされている。なお、本実施形態では図示のように第1バリ取り刃部21Aの長さL1が第2バリ取り刃部21Bの長さL2よりもさらに短くされており、すなわち複数のバリ取り刃部21A、21Bはドリル本体1の外周側に向かうに従いその切刃長さが短くされている。
【0037】
このように構成された第2の実施形態の超硬合金製ドリルでも、切刃5のうちドリル本体1内周側の主切刃8にはホーニングが施されるとともに、外周側のバリ取り刃12を構成する第1、第2バリ取り刃部21A、21Bにはホーニングが施されないか、施されるにしても主切刃8より幅狭のホーニングであるので、主切刃8におけるチッピングや欠損を防ぎつつ、バリ取り刃12においては鋭い切れ味を確保して、鋳鉄等の被削材に対しても貫通穴の出口でのバリやコバ欠けの発生を抑制することができる。また、バリ取り刃21は主切刃8より短いので、その摩耗を抑えて長期に亙ってこの鋭い切れ味を維持することができる。
【0038】
そして、第2の実施形態では、このバリ取り刃21自体もさらに内周側で先端角が大きくなる複数のバリ取り刃部21A、21Bによって構成されているので、第1の実施形態のように先端角の小さいバリ取り刃12が一直線状に延びて主切刃8と交差している場合に比べ、バリ取り刃12、21と主切刃8の交点の位置、切刃5の外径D、およびバリ取り刃12の先端角θと外周側の第1バリ取り刃部21Aの先端角θ1とが同じであれば、バリ取り刃21の切刃長さを一層短くすることができる。従って、被削材との接触長さも一層短くすることができ、ドリル本体1が超硬合金製であることとも相俟って、バリ取り刃21の摩耗をさらに効果的に抑制することが可能となり、鋭い切れ味をより長期に亙って維持してバリやコバ欠けの防止を図ることができる。
【0039】
また、この第2の実施形態における複数のバリ取り刃部である第1、第2バリ取り刃部21A、21Bは、その長さL1、L2がそれぞれ切刃5の外径Dに対して0.03×D〜0.10×Dの範囲とされており、従って第1の実施形態と同様にバリやコバ欠けを除去するのに必要な長さは確保しつつ、一層確実に被削材との接触長さを抑えて摩耗の抑制を図ることができる。さらに、このうち外周側の第1のバリ取り刃部21Aは、その先端角θ1が、第1の実施形態のバリ取り刃12の先端角θと同じ30°〜60°の範囲とされていて、十分なバリ取り効果を奏しつつ高品位の貫通穴を形成することができる。
【0040】
一方、バリ取り刃21のうち内周側の第2バリ取り刃部21Bは、その先端角θ2が60°〜90°の範囲とされていて、主切刃8の135°〜150°の先端角αよりは十分小さく、チッピングや欠損は防ぎつつも、第1のバリ取り刃部21Aによるバリ取りに先立ってある程度のバリやコバ欠けの除去を図ることができる。
【0041】
すなわち、この先端角θ2が上記範囲より大きいと主切刃8の先端角αに近くなり、ホーニングが施されないか、主切刃8よりも小さな幅のホーニングが施されているだけの第2バリ取り刃部21Bではチッピングや欠損を防ぐことができなくなるおそれが生じる。また、先端角θ2が上記範囲よりも小さいと第1バリ取り刃部21Aとの角度差が小さくなって、複数のバリ取り刃部21A、21Bを設ける効果が少なくなる。
【0042】
なお、本実施形態では、この第2バリ取り刃部21Bの切刃長さL2よりも第1バリ取り刃部21Aの切刃長さL1が短くされており、貫通穴の抜け際で最終的にバリを除去する第1バリ取り刃部21Aの被削材との接触長さを一層短く抑えて、摩耗をより確実に防止することができる。ただし、望ましくは上記範囲内であれば、逆に第1バリ取り刃部21Aの長さL1よりも第2バリ取り刃部21Bの切刃長さL2が短くされていてもよく、またこれらが互いに等しい長さとされていてもよい。
【0043】
また、これら第1、第2バリ取り刃部21A、21Bには、その両方にホーニングが施されていなくてもよく、あるいは逆に、その両方に主切刃8のホーニング幅よりも小さな幅の、望ましくは0.025mm以下の幅のホーニングが施されていてもよい。さらに、複数のバリ取り刃部21A、21Bのうち、一部のバリ取り刃部(例えば、第1バリ取り刃部21A)にはホーニングが施されず、残りのバリ取り刃部(例えば、第2バリ取り刃部21B)に主切刃8よりも幅狭のホーニングが施されていたり、すべてのバリ取り刃部にホーニングが施されるにしても、一部のバリ取り刃部(例えば、第1バリ取り刃部21A)のホーニング幅が残りのバリ取り刃部(例えば、第2バリ取り刃部21B)のホーニング幅より小さくされていたりしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の第1の実施形態を示すドリル本体1の先端部の側面図である。
【図2】本発明の第2の実施形態を示すドリル本体1の先端部の側面図である。
【符号の説明】
【0045】
1 ドリル本体
2 刃部(ドリル本体1の先端部)
3 先端逃げ面
4 切屑排出溝
5 切刃
8 主切刃
9 マージン
10 外周逃げ面
11 面取部
12、21 バリ取り刃
21A 第1バリ取り刃部
21B 第2バリ取り刃部
O ドリル本体1の軸線
T ドリル回転方向
α 主切刃8の先端角
θ バリ取り刃12の先端角
θ1 第1バリ取り刃部21Aの先端角
θ2 第2バリ取り刃部21Bの先端角
L バリ取り刃12の長さ
L1 第1バリ取り刃部21Aの長さ
L2 第2バリ取り刃部21Bの長さ
D 切刃5の外径

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線回りに回転されるドリル本体の先端部外周に切屑排出溝が、上記ドリル本体の先端逃げ面に開口して後端側に延びるように形成され、この切屑排出溝のドリル回転方向を向く壁面と上記先端逃げ面との交差稜線部に切刃が形成されてなるドリルであって、上記ドリル本体は超硬合金により形成されているとともに、上記切刃は、上記ドリル本体の内周側の主切刃と、この主切刃よりも先端角が小さくて長さの短い外周側のバリ取り刃とを備え、上記主切刃にはホーニングが施される一方、上記バリ取り刃には、ホーニングが施されないか、または上記主切刃よりもホーニング幅の小さいホーニングが施されていることを特徴とする超硬合金製ドリル。
【請求項2】
上記主切刃のホーニング幅が0.025mm〜0.1mmの範囲とされるとともに、上記バリ取り刃のホーニング幅は0mm〜0.025mmの範囲とされていることを特徴とする請求項1に記載の超硬合金製ドリル。
【請求項3】
上記バリ取り刃は、上記軸線回りの回転軌跡において一直線状に上記主切刃と交差するように形成されていて、上記先端角が30°〜60°の範囲とされていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の超硬合金製ドリル。
【請求項4】
上記バリ取り刃の長さが、上記切刃の外径Dに対して0.05×D〜0.15×Dの範囲とされていることを特徴とする請求項3に記載の超硬合金製ドリル。
【請求項5】
上記バリ取り刃は、上記ドリル本体の内周側に向かうに従い先端角が大きくなる複数のバリ取り刃部によって構成されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の超硬合金製ドリル。
【請求項6】
上記バリ取り刃は、上記ドリル本体の外周側の第1バリ取り刃部と内周側の第2バリ取り刃部とを備え、上記第1バリ取り刃部の先端角が30°〜60°の範囲とされるとともに、上記第2バリ取り刃部の先端角は60°〜90°の範囲とされ、かつこれら第1、第2バリ取り刃部の長さが、それぞれ上記切刃の外径Dに対して0.03×D〜0.10×Dの範囲とされていることを特徴とする請求項5に記載の超硬合金製ドリル。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−115750(P2010−115750A)
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−291026(P2008−291026)
【出願日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】