説明

超耐久性有機樹脂被覆鋼材

【課題】ノンクロメート化成処理を用いて長期にわたって耐海水密着性を向上させた新たな樹脂被覆鋼材を提供する。
【解決手段】鋼材表面に、Al、P、Mg、B、O、Hから成る無機酸化物層、有機樹脂層を順に積層してなる有機樹脂被覆鋼材において、前記無機酸化物層を構成する金属元素イオンのモル数とその価数の積の総和をμ、水素イオンのモル数をθとしたとき、前記無機酸化物層の元素モル組成比μ/θが、0.8〜1.2を満たすことを特徴とする超耐久性有機樹脂被覆鋼材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腐食の厳しい環境、例えば海浜近辺における鋼構造物の防食技術に関する。
【背景技術】
【0002】
重防食用樹脂被覆は、海洋環境−日照による温度差が大きく、高濃度塩分で、乾湿繰返しのあるいは常時水没した環境−のような厳しい腐食環境にある鋼構造物に対する防食の目的で用いられる。
【0003】
重防食用被覆樹脂には、一般にポリエチレン、ポリウレタンが用いられ、その被覆厚さは2〜10mmと厚い。鋼材の防食は主にこの厚い樹脂被覆層が担うため、下地のプライマーや化成処理は、防食性よりもまず長期間にわたる被覆樹脂との密着力維持(長期耐海水密着性)が要求され、両者が相まって、鋼材の長期防食が可能となる。現在では、ポリエチレン樹脂被覆自体は約40年程度の寿命が見込まれているが、5〜20年程度で密着力が低下し、樹脂被覆の剥離が開始する。
【0004】
近年では時代の要請もあって、樹脂被覆が剥離するまでの期間(寿命)をさらに長くし、かつ環境負荷物質である六価クロム等を用いないという条件が課されてきている。これは開発側からみると非常に厳しいものとなっている。
【0005】
このような条件の下、りん酸アルミニウムが、表面処理分野でノンクロメート処理の点から注目されている。
りん酸アルミニウムは、もともと無機接着剤として古くから知られており、非常に強い密着性と耐久性が要求される歯科用セメントでは、りん酸アルミにII、III族の酸化物、水酸化物等の硬化剤を添加して用いられている。歯科用セメントは発熱量が多く、粘性が高いので、1g程度の少量を手作業で混練し、パテで塗布するにはよいが、ライン生産に使用するには全くの不向きであった。
【0006】
このような理由で、従来、りん酸アルミニウムは樹脂被覆鋼材の製造に使用されていなかったが、近年、ノンクロメート処理の点からその利用が検討されるようになり、例えば次のような技術が提案されている。
【0007】
特許文献1では、無水酸化物換算のモル比で、Al23/P25=0.2〜0.6、B23/P25=0.01〜0.1、MO/P25=0.01〜0.2(Mはアルカリ土類金属)である無機酸化物層を形成することにより、クロメート材に匹敵するノンクロメート樹脂被覆鋼材を製造する技術が開示されているが、長期耐海水密着性の向上についてはさらに検討が必要である。
【0008】
特許文献2では、トランスの鉄芯に用いる電磁鋼板用の絶縁皮膜形成剤にりん酸アルミニウムを用い、良好な密着性、溶接性、耐食性、絶縁性を発現する技術が開示されている。しかしここでいう密着性は、形成された絶縁皮膜と基材との密着性であり、さらにその上に形成される樹脂層との密着性ではないため、この技術では重防食鋼材の厳しい要求性能(長期耐海水密着性)を満たすことができない。
【0009】
特許文献3では、電磁鋼板に絶縁皮膜を形成するための処理液の組成において、リン酸塩と有機酸の組成比を、有機酸中の酸素原子と金属イオン総電荷数の比で規定することによって、クロムを用いずに低温焼付でも成膜性に優れる技術が開示されている。また、特許文献4では、水性エポキシ樹脂、シランカップリング剤、りん酸アルミニウム等の水溶性リン酸塩、を含有する化成処理液により亜鉛めっき鋼板のクロメートシーリング処理材と同等の耐白錆性・塗装性を有する化成処理剤が開示されている。しかし特許文献3、4のように、化成処理層に有機樹脂成分があると、厳しい腐食環境では徐々に加水分解を起こすため、長期耐海水密着性の点では不安がある。
【0010】
【特許文献1】特開2007−313885号公報
【特許文献2】特開2003−147543号公報
【特許文献3】特許第3935664号公報
【特許文献4】特開2006−9065号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
以上のように、薄板(めっき鋼板)分野で用いられているノンクロメート化成処理では、一般に長期耐海水密着性は期待できず、また、特許文献1で開示されているような耐水性及び耐陰極剥離性を両立した化成処理でも、長期耐海水密着性についてはさらに向上させる必要がある。そのため、ノンクロメート化成処理を用いて長期耐海水密着性を向上させた新たな樹脂被覆鋼材が必要となっている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、無機質である鉱石、ホーロー、陶器なみの高耐水性を実現するためには、有機樹脂を含まず、無機系物質だけで化成処理層を構成する必要があると考えた。しかし、無機質層の形成には、一般に数百度の温度で数時間の焼成が必要である。
【0013】
そこで、特許文献1などに開示されている、取り扱い易い液体で、かつ、焼成温度が低いほう酸入りりん酸アルミニウムを主成分とした処理液を用いる技術に着目した。そして、りん酸アルミニウムを主成分とした無機系化成処理層を用いた場合の長期耐海水密着性は、無機系処理層中の構成元素のモル比ではなく、構成金属元素の電荷の総量と水素イオン(PO43-に配位しているものを含む)の比によって決定される知見を得た。
【0014】
図1は、後記の実施例にて得られた値を図示したものであるが、構成金属元素のモル数とその価数の積の総量μと水素イオンのモル数θを調整したりん酸アルミニウムニウムを主成分とする処理液を用いて鋼材表面に無機酸化物層を形成し、その上を有機樹脂により被覆したサンプルを作成し、そのサンプルに海水浸漬促進試験を実施した後の有機樹脂被覆層の剥離距離を調査した結果得られたもので、μ/θの値が1前後の範囲において剥離距離が大きく低下しているのがわかる。
さらに、この比は、化成処理液に顔料を添加した場合、顔料が化成処理液中で溶解すると変化するため、顔料の溶解性に対する制限要件も必要であることもわかった。
【0015】
本発明者は、これらの知見に基づきさらに検討した結果、以下のような本発明に到達した。すなわち、
(1) 鋼材表面に、Al、P、Mg、B、O、Hから成る無機酸化物層、有機樹脂層を順に積層してなる有機樹脂被覆鋼材において、前記無機酸化物層の元素モル組成比が、下記(式1)の条件を満たすことを特徴とする超耐久性有機樹脂被覆鋼材。
μ/θ=0.8〜1.2 ・・・(式1)
ここで、μ:金属元素イオンのモル数とその価数の積の総和
θ:水素イオンのモル数
【0016】
(2) 前記無機酸化物層が、pH2のりん酸溶液に8mass%添加された時のpH増加が0.05以下である無機顔料を含み、その含有量が無機酸化物層に対して、10〜50mass%である(1)に記載の超耐久性有機樹脂被覆鋼材。
(3) 前記有機樹脂層のうちトップ層が、厚さ1.5mm以上のポリエチレン樹脂層あるいはポリウレタン樹脂層であることを特徴とする(1)あるいは(2)記載の超耐久性有機樹脂被覆鋼材。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、環境負荷物質の使用を低減した樹脂被覆鋼材であって、かつ従来のクロメート化成処理材と同等以上の長期耐海水密着性及び耐食性を有する有機樹脂被覆鋼材、特に重防食用の有機樹脂被覆鋼材を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下本発明の実施の形態を順次説明する。
本発明で用いられる鋼材は、一般に鋼構造物に使用される鋼材であればよく、特に限定されるものではないが、鋼材を構成する鋼種としては、普通鋼、低合金鋼、高合金鋼が例示できる。また、鋼材の品種としては、重防食被覆が適用される厚板、鋼管、鋼管杭、鋼管矢板、鋼矢板、H形鋼、線材等が例示できる。
本発明で用いる鋼材は、被覆前に、その表面のスケール、汚染物等を除去するための下地処理を行う必要がある。下地処理としては、アルカリ脱脂、酸洗、サンドブラスト処理、グリッドブラスト処理、ショットブラスト処理等がある。
【0019】
本発明では、前述のように、鋼材表面に無機酸化物層を形成することにより、有機樹脂被覆層との長期耐海水密着性を確保する。
無機酸化物層は、全てイオン性結合物質であり、酸化数0の単体元素のような金属結合性物質、有機化合物のような共有結合性物質は不純物等不可避なものを除き含まない。但し、イオン分子の中に共有結合があってもよい。
【0020】
本発明の無機化成処理層は、Al、P、Mg、B、O、Hの各元素によって構成される。前述の特許文献1に開示されているように、りん酸アルミニウム系バインダーは、アルミニウム、りん、酸素、水素から成り、これに、焼成温度を低温にするためにほう素を、また、耐水性・密着性を向上させるためにマグネシウムを添加することにより構成される。
【0021】
無機酸化物層は、イオン性物質であるためイオンとして存在し、各元素のモル数×酸化数(電荷数)の総和は0という制約がある。さらに、この無機酸化物層は不定組成物であるため、定まった化学式がないが、主成分は第一りん酸アルミニウムAl(H2PO43であり、各元素の構成は、次の範囲が好ましい。
Alは、Pに対するモル比で、Al/P=0.23〜0.43の範囲が好ましく、より好ましくは、0.35〜0.4である。Mg、Bは添加元素であり、同様にPに対するモル比で、それぞれ0.01〜0.2の範囲が好ましく、より好ましくは、Mgが0.01〜0.05、Bが、0.05〜0.1である。
【0022】
本発明の無機酸化物では、前記の金属元素あるいは典型元素の陽イオン及び酸素原子が存在していればよく、その存在形態は問わない。すなわち、酸素原子は、酸化物イオンO2−、オキソ陰イオンXn−、水酸化物イオンOHで存在していても構わない。
【0023】
無機酸化物層を構成する陽イオンは、Al3+、B3+、Mg2+、H+、である。Pは酸化数+5で、PO3−として存在し、これにHが順次配位すれば、順次HPO2−、HPO、となるが、本発明では、これらの陰イオンはHとPO3−から構成されるものとして数える。
【0024】
本発明では、無機酸化物層の元素モル組成比μ/θが、下記(1)式の条件を満たすようにする。
μ/θ=0.8〜1.2 ・・・(1)
(1)式において、μは金属イオンの総電荷量であり、以下の(2)式で表わされる。
μ=ΣXi×ni ・・・(2)
ここで、Xiは、無機酸化物層を構成する金属イオンiのモル数、niは金属イオンiのイオン価数である。無機酸化物層を構成する金属イオン全て(Al、Mg、B)についてそのモル数と価数の積を総和することによって、μは得られる。
【0025】
また、θは水素イオンの総電荷量(モル数)である。無機酸化物層中の陰イオンはPO3−のみのため、陰イオンの総電荷量は、りん元素のモル量Xの3倍になる。電荷保存則より、陽イオンの総電荷量もこれと等しいので、水素イオン以外の陽イオン(全て金属イオン)の総電荷量を差し引くと、水素イオンの総量が求められる。水素イオン以外の陽イオンの総電荷量はμであるから、θは以下の(3)式で表せる。
θ=3X−μ・・・(3)
【0026】
本発明者は、図1に示されるように、μ/θの値が1前後の時に耐海水密着性が最大になることを見出したが、μ/θ=1±0.2を上下限とする範囲で実用性が認められるので、(1)式の範囲とした。ただし、1.0に近いほど耐海水密着性は良好であり、好ましくは1±0.1の範囲が薦められる。さらに可能であれば、1±0.05の範囲がより好ましい。わずかな性能の差も、超長期間では大きく開くからである。
【0027】
無機酸化物層の付着量は、Al元素平均付着量で、0.01〜10g/m2であることが好ましい。これは、皮膜組成が酸化物表記法でAl23・3P25・2H2Oの場合、0.1〜100g/m2に相当する。より好ましい付着量はAl元素平均付着量で、0.1〜3g/m2、さらに好ましくは、0.5〜1g/m2である。膜厚(μm)に換算する場合、皮膜の組成によって若干変化するが、Al元素平均付着量(g/m2)の30倍である。
【0028】
無機酸化物層のAl元素平均付着量は、10g/m2を超えると、緻密で均質な層でも密着性は飽和し、0.01g/m2より小さいと、十分な密着性が得られにくくなる。
【0029】
本発明では、耐海水密着性をさらに向上させるため、りん酸アルミニウム溶液中に無機顔料を添加して、無機酸化物層中に無機顔料を含有させてもよい。
しかし、りん酸アルミニウム溶液は約pH2の酸性であるため、無機顔料を添加すると、種類によっては若干溶解する場合がある。その場合、μが変化し、(1)式の範囲からずれる場合も生じる。そのため、添加する無機顔料は酸性溶液に不溶でなくてはならない。
【0030】
そこで、簡便な不溶性試験とその合格基準として、pH2のりん酸溶液に顔料を8mass%添加した時のpH増加量を用いることにした。溶液のpHと顔料の添加量は、実際の化成処理溶液を模倣したものである。この溶液中で酸化物顔料が溶解すると、液相のpHが増加する。
そこで、pH変化を不溶性の指標として増加量0.05以下と規定した。現在の一般的なpH計の読み取り精度は0.01であるが、校正誤差を考慮し、0.05の幅であれば、不溶、あるいは溶解による影響を無視できるので、上記のように定めた。
【0031】
この基準を満たす顔料として、チタニア、シリカ、沈降性硫酸バリウムが例示できる。
顔料の添加量は、量が少ないと添加効果が薄く、多すぎると耐海水剥離性に悪影響を与えるので、好ましい量として10〜50mass%と規定した。
【0032】
なお、酸化物顔料を添加した場合は、無機酸化物層は、バインダー(連続固相)中に無機顔料が粒子状に分散している構造となるが、上記の(1)式はバインダー相のみに適用される条件である。
【0033】
無機酸化物層の形成は、りん酸アルミニウム水溶液を含み、顔料等の不溶性分散粒子を除いた液相の組成が前記(1)式を満たす化成処理液で鋼材を処理することにより可能である。例えば、特許文献1で開示されているような、りん酸アルミニウム系バインダーに、焼成温度を低温にするためにほう素を1〜2mass%、耐水性・密着性を向上させるためにマグネシウムを0.5〜5mass%それぞれ添加する。通常は、第一りん酸アルミニウム(重りん酸アルミニウム)水溶液に、B、Mgの酸化物・水酸化物を溶解させる。
【0034】
この水溶液に、酸化マグネシウム、あるいは酸化マグネシウムとオルトりん酸を添加・混合して、μ、θを前記(1)式を満たす値に調整する。
この水溶液は酸性のため、塩基性である酸化マグネシウム、酸化ホウ素あるいは水酸化マグネシウムを添加すると溶解し、μ値を増加させることができる。また、オルトりん酸を添加すると、水素イオンが増加し、θを増加させることができる。
μ、θを用いることの利点は、乾燥皮膜の成分から計算されるため、処理液の希釈度、pH、水素イオンの解離度に依存しない点である。
【0035】
この処理液を、ローラ法やスプレー法などを用いて鋼材表面に塗布し、ついで焼付して無機酸化物層を形成する。焼付け温度は、限定するものではないが、鋼材が変質・溶融しない条件を前提として、180℃以上、500℃以下の範囲である。μ/θの比率は、焼付け・硬化後も水溶液の比率と同じである。
【0036】
以上で説明した無機酸化物層の上に有機樹脂による重防食被覆が形成される。
重防食被覆は、腐食因子(水、酸素、電解質)を鋼材から遮断することにより防食するため、被覆は厚い方が好ましく、長期にわたる耐久性を実現するためには、少なくとも1.5mm以上の厚さが望ましい。
【0037】
被覆に用いる有機樹脂の種類は特に限定されず、一般に用いられている、エポキシ樹脂、フッ素樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリオレフィン等の樹脂(いづれも変性物も含む)のいずれかであればよい。特に、ポリエチレンは遮断性の点で、ポリウレタンは容易に厚膜を形成できる点で優れている。
この有機樹脂層は、単層あるいは積層のどちらでもよいが、プライマー層/接着剤層/ポリエチレン層、あるいは、プライマー層/ポリウレタン層が例示できる。
【0038】
有機樹脂層の鋼材最表面を構成するトップ層は鋼材の耐久性にとって重要である。トップ層は、有機樹脂層が単層ならそれ自身、積層構造であれば、一番外側の有機樹脂層である。本発明で使用する化成処理層は、非常に長期にわたり樹脂層との接着性に優れているが、トップ層に十分な耐久性が無いと、被覆鋼材としての耐久性はないことになる。そのためトップ層には一定以上の厚みが必要であり、実際的には、1.5mm以上の有機樹脂層が望まれる。耐久性に優れるポリエチレン樹脂では2〜3mmが推奨され、厚膜化が可能なポリウレタン樹脂では3〜10mmが推奨されるが、特にこれらの例に限定されるものではない。
【0039】
以下、実施例を用いて、本発明の実施可能性及び効果についてさらに説明する。
なお、実施例に用いた条件はその確認のための一条件例であり、本発明は、この例に限定されるものではない。
【実施例】
【0040】
鋼材には、厚さ4mmの普通鋼を用い、表面をグリッドブラストで3a(錆が完全に除去された光沢面)にブラスト処理した。
鋼材表面に無機酸化物層を形成するために、mass%で、Al23:9%、P25:31%、MgO:9%、B23:1.5%で構成されるホウ酸入り第一りん酸アルミニウムニウム水溶液(燐酸Al)を準備し、これに酸化マグネシウム、あるいは酸化マグネシウムとオルトりん酸を添加・混合して、μ、θを種々の値に調整した処理液を作成した。粘性が濃い場合は、水を加えて調整した。また、それぞれの処理液にさらに無機顔料を添加した処理液も作成した。
表1、2に、処理液の組成やμ/θの値、添加した顔料の種類と量を示す。
【0041】
この処理液を鋼材に塗布し、それを乾燥した後、PMT(最高到達温度)200℃、保持時間0分で鋼材表面に焼き付けた。
比較材用に行うクロメート処理は、シリカ含有の塗布型3価クロメートを200℃で焼き付けることにより行った。その際のクロム元素付着量は500mg/m2である。
【0042】
無機顔料の溶解性を調べる試験は、pH2のりん酸溶液に8mass%添加された時のpH増加量ΔpHを測定することにより行った。pHは5分後に読み取った。何種類かの酸化物顔料を試験した結果を表3に示した。表1で、顔料を添加する場合は、発明例としてチタニア顔料(TiO2入)を、比較例として酸化亜鉛顔料(ZnO入)を用い、それぞれ30mass%添加した。
【0043】
得られた鋼材の無機酸化物層上に次のように有機樹脂被覆層を種々の厚さで形成した。
ポリウレタン被覆材は、プライマーとして、ポリオールとイソシアネート硬化剤による2液混合硬化型のウレタン樹脂塗料を60μmになるようにスプレー塗布・硬化させ、その表面にカオリンクレー微粉末含有2液硬化ウレタンエラストマーをスプレー塗装で3mmあるいは0.5mm厚さのポリウレタン樹脂層を形成した。作成したサンプルをPUと記す。
【0044】
ポリエチレン被覆材は、まず、ビスフェノールA系エポキシ樹脂に、ジシアンジアミド、シリカを添加した一液硬化型プライマーでプライマー層を形成した(60μm)。プライマー層の上に、300μm無水マレイン酸変性ポリオレフィン接着剤層、2mmあるいは0.5mm厚さのポリエチレン樹脂層を順次積層した。このサンプルをPEと記す。
【0045】
以上のようにして得られたサンプルの耐海水密着性は、次のような海水浸漬促進試験で評価した。まず、約7.5cm角のサンプルの一辺に沿って、1×7.5cmの被覆を剥いで鋼面を露出させる。裏面・側面はシール塗装する。50℃に保たれた人工海水槽に入れ、下から空気泡を吹き込み、その泡がかかるようにサンプルを浸漬する。2ヶ月後、サンプルを取り出し、被覆をはつり、被覆を剥いだ端面からの平均剥離距離を求めた。被覆が基材から全て剥離した場合は、35mmと記した。
【0046】
表1、2に結果を示した。表1より、μ/θの値を0.8〜1.1の範囲に調整した本発明例は、μ/θの値がその範囲外の比較例に比べて優れた耐海水密着性を有することが示されている。特に、1.5mm以上のトップ層厚みを有する本発明例は、クロメート材よりも優れた耐海水密着性を示すことがわかる。
また、表1、2より、りん酸溶液に添加された時のpH増加が0.05以下である無機顔料を好適な範囲で添加した場合は、耐海水密着性がさらに向上することが示されている。さらに、pH増加が0.05以下である無機顔料でも、添加量が50mass%を超えると耐海水密着性が劣化することが示されている。
【0047】
【表1】

【0048】
【表2】

【0049】
【表3】

【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】μ/θと剥離距離の関係を示すための図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼材表面に、Al、P、Mg、B、O、Hから成る無機酸化物層、有機樹脂層を順に積層してなる有機樹脂被覆鋼材において、前記無機酸化物層の元素モル組成比が、下記(1)式の条件を満たすことを特徴とする超耐久性有機樹脂被覆鋼材。
μ/θ=0.8〜1.2 ・・・(1)
ここで、μ:金属元素イオンのモル数とその価数の積の総和
θ:水素イオンのモル数
【請求項2】
前記無機酸化物層が、pH2のりん酸溶液に8mass%添加された時のpH増加が0.05以下である無機顔料を含み、その含有量が無機酸化物層に対して、10〜50mass%である請求項1に記載の超耐久性有機樹脂被覆鋼材。
【請求項3】
前記有機樹脂層のうちトップ層が、厚さ1.5mm以上のポリエチレン樹脂層あるいはポリウレタン樹脂層であることを特徴とする請求項1あるいは2記載の超耐久性有機樹脂被覆鋼材。

【図1】
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【公開番号】特開2009−263716(P2009−263716A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−114290(P2008−114290)
【出願日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】