説明

超薄膜ベリリウム箔及びその製造方法

【課題】厚さ10μm程度でありながら欠陥密度が小さく、真空気密性に優れた大面積のベリリウム箔を提供する。
【解決手段】ベリリウム箔の厚さが15〜60μmの間で定められた所定のしきい値以下になっていない場合には、第1の圧延工程を繰り返し実行し、その後、ベリリウム箔の厚さがしきい値以下になった場合には、第2の圧延工程をベリリウム箔の厚さが5〜20μmの間でしきい値より小さい値に定められた目標厚さになるまで繰り返し実行する。ここで、第1の圧延工程では、ベリリウム箔とステンレス鋼からなる一対のシースとの間に固体潤滑剤である窒化ホウ素(BN)を塗布してなる積層体を作製し、該積層体の熱間圧延加工を繰り返し行う。第2の圧延工程は、BNを塗布しない以外は第1の圧延工程と同じである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超薄膜ベリリウム箔及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ベリリウム箔は、X線や電子線の透過率が高いことから、X線発生装置のX線用窓材や電子線発生装置の電子線用窓材として用いられている(例えば特許文献1参照)。こうしたベリリウム箔は、厚さが薄いほど透過率が高くエネルギーロスも小さいことから好ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−260121号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ベリリウムは、一般の金属材料と異なり、延性が小さく、室温で塑性加工することは困難である。具体的には、酸化防止のためにステンレス鋼板などのシースで原料のベリリウム板を挟み込んだ状態で加熱し、圧延機に挿入することが考えられるが、その場合には、ベリリウム箔がステンレス鋼板と密着し、剥離する際に、ベリリウムが破れたり、加熱により鋭敏化したステンレスが脱落し、ベリリウムに押し込まれ貫通したりすることで、ベリリウムに穴が生じ、それが窓材として必要な真空気密性を阻害する欠陥となる。この点を改善しようとして、ベリリウム板とシースとの間に密着防止のための固体潤滑剤を塗布すると、最終的に固体潤滑剤がベリリウム箔の表面に残ってX線や電子線の透過率に悪影響を及ぼすことがあった。なお、例えば、特許文献1の特許請求の範囲には厚さが10〜100μmの範囲のベリリウム箔を用いた真空容器が記載されているものの、実施例で用いられているベリリウム箔は厚さが60μmのものと89μmのものにすぎない。
【0005】
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであり、厚さ10μm程度でありながら欠陥密度が小さくかつ、リーク量が小さく真空気密性に優れた大面積のベリリウム箔を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、厚肉のベリリウム板を熱間圧延加工を繰り返すことにより薄肉化して厚さ10μm程度のベリリウム箔を製造する方法を鋭意検討した。その結果、シースとベリリウム板との間に固体潤滑剤として窒化ボロン(BN)を塗布すると、圧延加工時にシースとベリリウム箔とが密着するのを防止すると共に欠陥密度を有効に抑制できることを見いだした。また、熱間圧延加工を繰り返し行うにあたり、シースの延性が低下する前に新たなシースでベリリウム板を挟み直す必要があるが、その際にベリリウム板をある厚さまで薄肉化したら、それ以降はBNを用いることなく目的とする10μm程度の厚さに仕上げることが最終品にBNを残留させないのに有効であると共に、BNを使用していないにもかかわらず、シースとベリリウム板との密着がほとんど起こらなくなることを見いだした。こうした知見をもとに、本発明者らは本発明を完成するに至った。
【0007】
本発明の超薄膜ベリリウム箔の製造方法は、ベリリウム箔とステンレス鋼からなる一対のシースとの間に固体潤滑剤である窒化ホウ素(BN)を塗布してなる積層体を作製し、該積層体の熱間圧延加工を繰り返し行う、第1の圧延工程と、ベリリウム箔とステンレス鋼からなる一対のシースとの間にBNを塗布することなく積層体を作製し、該積層体の熱間圧延加工を繰り返し行う、第2の圧延工程とを実行するにあたり、ベリリウム箔の厚さが15〜60μmの間で定められた所定のしきい値以下になっていない場合には、前記第1の圧延工程を繰り返し実行し、その後、ベリリウム箔の厚さが前記しきい値以下になった場合には、前記第2の圧延工程をベリリウム箔の厚さが5〜20μmの間で前記しきい値より小さい値に定められた目標厚さになるまで繰り返し実行するものである。
【0008】
本発明の超薄膜ベリリウム箔は、厚さ5〜20μm、面積1000mm2以上、光透過により測定される欠陥個数がゼロのものでかつ、リーク量が1×10−10Pa・m/sec以下である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の超薄膜ベリリウム箔の製造方法では、ベリリウム箔の厚さが所定のしきい値以下になっていない場合には、BNの塗布を伴う第1の圧延工程を繰り返し実行する。この第1の圧延工程では、ベリリウム箔とこれを挟み込む一対のシースとの間に固体潤滑剤としてのBNが介在しているため、圧延加工後にベリリウム箔とシースとが密着して剥がすのが困難になるという事態を招くことはない。一方、ベリリウム箔の厚さが目標厚さになるまで第1の圧延工程を繰り返すと、最終的に得られるベリリウム箔にBNが残存してX線や電子線の透過性能に悪影響を及ぼすおそれがあるが、本発明では、ベリリウム箔の厚さが所定のしきい値以下になったあとはBNの塗布を行わない第2の圧延工程を実行するため、最終的に得られるベリリウム箔にBNが残留しない。また、第2の圧延工程では、BNを使用していないにもかかわらずシースとベリリウム板との密着がほとんど起こらないし、欠陥の発生も有効に抑制される。その結果、本発明の製造方法によれば、厚さ10μm程度でありながら欠陥密度が小さくかつ、リーク量が小さく真空気密性に優れ、圧延加工時の固体潤滑剤が残留しないベリリウム箔が得られる。
【0010】
なお、第1の圧延工程から第2の圧延工程に切り替える際、第1の圧延工程後のベリリウム箔にはBNが残留しているが、最終的にそのBNがベリリウム箔に残留しないのは、おそらくその後の第2の圧延工程においてベリリウム箔上のBNがシース側に付着して除去されるからと推察している。また、第2の圧延工程では、ベリリウム箔とシースとの間にBNを塗布していないにもかかわらず、ベリリウム箔とシースとが密着してしまうことがないが、その理由は第1の圧延でベリリウムの表面に残留しているBNが第2の圧延中に除去されつつ、密着防止の効果も持続していることによるものと推察する。
【0011】
本発明の超薄膜ベリリウム箔によれば、厚さが非常に薄いため、X線や電子線が透過しやすくエネルギーロスが少ない。しかも、超薄膜であるにもかかわらず気体がほとんどリークしない。また、ベリリウム箔としては異例の1000mm2以上という大面積であるため、例えばX線用窓材や電子線用窓材を大型化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】積層体の説明図であり、(a)は平面図、(b)はA−A断面図である。
【図2】しきい値(第1の圧延工程と第2の圧延工程を切り替える厚み)と厚み10μmでの欠陥密度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の超薄膜ベリリウム箔の製造方法において、第1の圧延工程では、ベリリウム箔とステンレス鋼からなる一対のシースとの間に固体潤滑剤であるBNを塗布してなる積層体を作製し、該積層体の熱間圧延加工を繰り返し行う。また、 第2の圧延工程では、ベリリウム箔とステンレス鋼からなる一対のシースとの間にBNを塗布することなく積層体を作製し、該積層体の熱間圧延加工を繰り返し行う。
【0014】
ここで、ベリリウム箔としては、特に限定されないが、純度98%以上のものが好ましく、特に純度が99%以上のものがより好ましい。シースとしては、軟鋼やステンレス鋼製が望ましいが、ステンレス鋼については、オーステナイト系ステンレス鋼製(例えばSUS304,SUS316など)やマルテンサイト系ステンレス鋼製(例えばSUS403など)、フェライト系ステンレス鋼製(例えばSUS405など)が挙げられる。このうちオーステナイト系ステンレス鋼製のものがより好ましい。固体潤滑剤としては、BNを使用する。二硫化モリブデンなど他の固体潤滑剤では、圧延時の温度に対し十分な耐熱性が無いため、ベリリウム箔とシースとの密着を有効に防止することができないからである。BNは、スプレーで塗布してもよいし、ローラーやハケで塗布してもよい。ベリリウム箔とステンレス鋼からなる一対のシースとの間に固体潤滑剤であるBNを塗布してなる積層体は、ベリリウム箔を挟み込んだ一対のシース同士を溶接やロウ付け等で一体化した上で、熱間圧延加工するのが好ましい。ステンレス鋼からなるシースは、熱間圧延加工を繰り返すにつれて徐々に硬くなり延性が低下する。このため、熱間圧延加工の加工率は、延性が維持される範囲で適宜設定するのが好ましい。なお、延性が維持されるとは、圧延の前後でシースの延びが確認できることをいう。熱間圧延加工では、圧延温度を300〜1000℃の間で設定するのが好ましく、500〜700℃の間で設定するのがより好ましい。また、圧延機としては、通常市販されているもの、例えば2段圧延機を利用すればよい。
【0015】
本発明の超薄膜ベリリウム箔の製造方法において、ベリリウム箔の厚さが15〜60μmの間で定められた所定のしきい値以下になっていない場合には、第1の圧延工程を繰り返し実行し、その後、ベリリウム箔の厚さがしきい値以下になった場合には、第2の圧延工程をベリリウム箔の厚さが5〜20μmの間でしきい値より小さい値に定められた目標厚さになるまで繰り返し実行する。
【0016】
ここで、しきい値は、ベリリウム箔の厚さが15〜60μmの間で定められている。しきい値が15μm未満の場合には、BNの塗布が難しいため好ましくない。また、しきい値が60μmを超える場合には、第2の圧延工程で、BNが完全に無くなり、ステンレス鋼と密着する可能性が高いため好ましくない。また、目標厚さは、5〜20μmの間で定められている。目標厚さが5μm未満の場合には、厚さが薄すぎて熱間圧延加工を実行する際に破損しやすいため好ましくない。また、目標厚さが20μmを超える場合には、第2の圧延工程だけでも良好なベリリウム箔を得ることが出来るため、本発明の方法を適用する意義が低い。このように極めて薄いベリリウム箔は、他の方法では作製するのが極めて困難であるため、本発明の方法を適用する意義が高い。
【0017】
本発明の超薄膜ベリリウム箔の製造方法において、シースは、カーボン含有率0.03重量%以下のステンレス鋼からなることが好ましい。カーボン含有率が0.03重量%を超えるステンレス鋼からなるシースを用いて熱間圧延加工を行うと、ステンレス鋼が鋭敏化により脆弱になりやすく、シースから結晶粒が脱落してベリリウム箔に押し込まれ、穴を開けることがある。そのように結晶粒が脱落するのは、熱間加工時に結晶粒界にカーボンが集まって起こる鋭敏化が原因と考えられる。
【0018】
本発明の超薄膜ベリリウム箔は、厚さ5〜20μm、面積1000mm2以上、光透過により測定される欠陥個数がゼロのものである。こうした超薄膜ベリリウム箔は、上述した超薄膜ベリリウム箔の製造方法で厚さ5〜20μmのベリリウム箔を作製したあと、欠陥個数がゼロで面積の大きなところを切り出すことにより得ることができる。欠陥個数は、超薄膜ベリリウム箔の裏面から光を照射したときに表側に光が透過した部位をカウントしたものである。この超薄膜ベリリウム箔は、空気の漏れ試験を行ったときに、リークレート値が1×10-8Pa・m3/sec以下であることが好ましく、リークレート値が1×10-10Pa・m3/sec以下であることがより好ましい。リークレートに対する要求値は、使用される用途において必要な真空度により、変わるが、リークレートが小さいほど、より高真空度を必要とする用途で使用することが可能である。
【実施例】
【0019】
[一般的手順]
A:第1の圧延工程は、以下の手順により実施した。なお、手順A1〜A6の一連の操作をチャンネル(ch)と称する。
(手順A1)加工対象品のベリリウム箔の両面にBNをスプレーした。なお、初回は、純度99%以上のベリリウム箔(厚さ1mm)を用意し、研磨加工により厚さを750μmとし、幅を120mmにしたものを加工対象品とした。
(手順A2)BNをスプレーしたベリリウム箔をSUS304(カーボン含有率0.07重量%)製の一対のシースで挟み込み、外周をTIG溶接して積層体とした。この積層体の平面図及び断面図を図1に示す。
(手順A3)積層体を電気炉中で所定の圧延温度に加熱し保持した。
(手順A4)上下ロールで板材を圧延する構造の2段圧延機を用意し、ロール間ギャップを設定した。
(手順A5)加熱した積層体をロール間に通して圧延した。
(手順A6)上述した手順A3〜A5を繰り返し、所定の厚みになるまで圧延した。具体的には、手順A6で得られたベリリウム箔を新たに加工対象品として手順A3以降を実施した。2段圧延機のロール間に通す回数をパス回数と呼ぶが、このパス回数が多くなるにつれてシースが硬くなるため、経験的にシースの延性が維持される範囲でパス回数を設定した。
【0020】
B:第2の圧延工程は、以下の手順により実施した。なお、手順B1〜B5の一連の操作もチャンネル(ch)と称する。
(手順B1)加工対象品のベリリウム箔の両面にBNをスプレーすることなく、SUS304(カーボン含有率0.07重量%)製の一対のシースで挟み込み、外周8箇所をTIG溶接して積層体とした。
(手順B2)積層体を電気炉中で所定の圧延温度に加熱し保持した。
(手順B3)上下ロールで板材を圧延する構造の2段圧延機を用意し、ロール間ギャップを設定した。
(手順B4)加熱した積層体をロール間に通して圧延した。
(手順B5)上述した手順B2〜B4を繰り返した。具体的には、手順B4で得られたベリリウム箔を新たに加工対象品として手順B2以降を実施した。また、パス回数が多くなるにつれてシースが硬くなるため、経験的にシースの延性が維持される範囲でパス回数を設定した。なお、手順B2〜B5は上述した手順A3〜A6と同じである。
【0021】
[実施例1]
第1の圧延工程から第2の圧延工程へ切り替えるしきい値を60μmとし、目標厚み10μm及び15μmのベリリウム箔を製作した。圧延温度は650−700℃とし、シースにはステンレス鋼SUS304材を使用した。1〜6chまでは第1の圧延工程を採用したが、6ch終了後にベリリウム箔の厚さがしきい値である60μm以下になったため、7ch以降は第2の圧延工程を採用し、目標厚みとなるまで圧延を行った。作業完了後の作業完了後のベリリウム箔の欠陥密度を求めたところ、10μmで0.68個/cm2、15μmで0.05個/cm2であった(表1参照)。欠陥は丸穴であり、破断箇所(裂け目)は見られなかった。なお、欠陥密度は、現像フィルムを見るための白色光源の上にベリリウム箔を置き、光が透過した箇所(欠陥)の総数を計測し、ベリリウム箔の面積でその総数を除した値とした。また、作業完了後のベリリウム箔のホウ素残留の有無を確認するために、SEMを使用し、500倍で観察したところ、BNの残留が認められず、更に、EDXを使用し、表面の定性分析を行なったが、B及びNの検出ピークは認めらなかった。この作業完了後のベリリウム箔から欠陥個数のゼロの領域を切り出し(面積1000mm2)、アルバック社製のヘリウムリークディテクターを用いて、空気の漏れ量を測定した。測定した結果、リークレートは1×10-10Pa・m3/sec以下であった。
【0022】
[実施例2]
第1の圧延工程から第2の圧延工程へ切り替えるしきい値を25μmとし、目標厚み10μm及び15μmのベリリウム箔を製作した。圧延温度は650−700℃とし、シースにはステンレス鋼SUS304材を使用した。1〜9chまでは第1の圧延工程を採用したが、9ch終了後にベリリウム箔の厚さがしきい値である25μm以下になったため、10ch以降は第2の圧延工程を採用し、目標厚みとなるまで圧延を行った。作業完了後のベリリウム箔の欠陥密度を求めたところ、10μmで0.41個/cm2、15μmで0.03個/cm2であった(表1参照)。欠陥は丸穴であり、破断箇所(裂け目)は見られなかった。なお、欠陥密度は、実施例1と同じ方法で計測した。また、作業完了後のベリリウム箔のホウ素残留の有無を確認するために、SEMを使用し、500倍で観察したところ、BNの残留が認められず、更に、EDXを使用し、表面の定性分析を行なったが、B及びNの検出ピークは認めらなかった。この作業完了後のベリリウム箔から欠陥個数のゼロの領域を切り出し(面積1500mm2)、アルバック社製のヘリウムリークディテクターを用いて、空気の漏れ量を測定した。測定した結果、リークレートは1×10-10Pa・m3/sec以下であった。
【0023】
[実施例3]
第1の圧延工程から第2の圧延工程へ切り替えるしきい値を15μmとし、目標厚み10μmのベリリウム箔を製作した。圧延温度は650−700℃とし、シースにはステンレス鋼SUS304材を使用した。1〜11chまでは第1の圧延工程を採用したが、11ch終了後にベリリウム箔の厚さがしきい値である15μm以下になったため、12ch以降は第2の圧延工程を採用し、目標厚みとなるまで圧延を行った。作業完了後のベリリウム箔の欠陥密度を求めたところ、0.31個/cm2であった(表1参照)。欠陥は丸穴であり、破断箇所(裂け目)は見られなかった。なお、欠陥密度は、実施例1と同じ方法で計測した。また、作業完了後のベリリウム箔のホウ素残留の有無を確認するために、SEMを使用し、500倍で観察したところ、BNの残留が認められず、更に、EDXを使用し、表面の定性分析を行なったが、B及びNの検出ピークは認めらなかった。この作業完了後のベリリウム箔から欠陥個数のゼロの領域を切り出し(面積1800mm2)、アルバック社製のヘリウムリークディテクターを用いて、空気の漏れ量を測定した。測定した結果、リークレートは1×10-10Pa・m3/sec以下であった。
【0024】
[比較例1]
1ch目からすべて第2の圧延工程(つまりBN不使用)を実施し、ベリリウム箔の厚さが10μmとなったところで作業を完了したところ、作業完了後のベリリウム箔の欠陥密度は7.02個/cm2であった(表1参照)。これは、実施例1〜3の欠陥密度の約10〜20倍である。また、作業完了後のベリリウム箔から欠陥個数のゼロの領域をできるだけ大面積となるように選び出したところ、その面積は100mm2程度であった。こうして得られた欠陥個数ゼロのベリリウム箔につき、空気の漏れ量を測定したところ、7×10-9Pa・m3/secであった。
【0025】
ここで、実施例1〜3につき、しきい値(第1の圧延工程と第2の圧延工程を切り替える厚み)と厚み10μmでの欠陥密度との関係を示すグラフを図2に示す。第1の圧延工程が目標厚みに近いところまで実施されるほど欠陥密度が小さくなることが分かる。実施例1〜3の欠陥は丸穴であったため、圧延工程でシースがベリリウム箔に押し込まれたことにより発生したと考えられる。また、実施例1〜3では、シースの材料としてSUS304(カーボン含有量 規格値0.08重量%以下、実測値0.07重量%)を採用したが、SUS304L(カーボン含有量 規格値0.03重量%以下、実測値0.02重量%)を採用すれば、シースからの粒子の脱落を有効に防止することができるため、欠陥密度が一層小さくなると推察される。ここで、SUS304の小片とSUS304Lの小片を、電気炉にて700℃で60分熱処理を施した後、JIS G0571(ステンレス鋼のシュウ酸エッチング試験)に準じた耐腐食性試験を実施した。具体的には、熱処理を施した試験片を樹脂に埋め込んだ後、鏡面研磨を施し、シュウ酸で腐食させ、光学顕微鏡(400倍)でミクロ観察して腐食程度を評価した。そうしたところ、SUS304Lの小片では、腐食後も熱処理前の結晶構造を維持していたのに対し、SUS304の小片では、粒界が際立ってくっきりと見え、鋭敏化により脆弱となり、粒子が脱落しやすい状態になった。このことから、SUS304L製のシースを使用すれば、実施例1〜3に比べて欠陥密度が一層小さくなるといえる。
【0026】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明は、非常に薄いベリリウム箔が要求される技術分野、例えばX線用窓材や電子線用窓材に利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚さ5〜15μm、面積1000mm2以上、光透過により測定される欠陥個数がゼロである、超薄膜ベリリウム箔。
【請求項2】
光透過により測定される欠陥密度が1個/cm2以下である、請求項1に記載の超薄膜ベリリウム箔。
【請求項3】
リークレートが1×10-10Pa・m3/sec以下である、請求項1又は2に記載の超薄膜ベリリウム箔。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の超薄膜ベリリウム箔を製造する方法であって、
ベリリウム箔とステンレス鋼からなる一対のシースとの間に固体潤滑剤である窒化ホウ素(BN)を塗布してなる積層体を作製し、該積層体の熱間圧延加工を繰り返し行う、第1の圧延工程と、ベリリウム箔とステンレス鋼からなる一対のシースとの間にBNを塗布することなく積層体を作製し、該積層体の熱間圧延加工を繰り返し行う、第2の圧延工程と、を実行するにあたり、
ベリリウム箔の厚さが15〜60μmの間で定められた所定のしきい値(厚み)以下になっていない場合には、前記第1の圧延工程を繰り返し実行し、その後、ベリリウム箔の厚さが前記しきい値以下になった場合には、前記第2の圧延工程をベリリウム箔の厚さが5〜20μmの間で前記しきい値より小さい値に定められた目標厚さになるまで繰り返し実行する、
超薄膜ベリリウム箔の製造方法。
【請求項5】
前記シースは、カーボン含有率0.03重量%以下のステンレス鋼からなる、請求項4に記載の超薄膜ベリリウム箔の製造方法。

【図1】
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【図2】
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