説明

超速硬セメント組成物、超速硬セメントコンクリート組成物、及び超速硬セメントコンクリート

【課題】 初期材齢で高い曲げ強度を発現するばかりでなく、圧縮強度も高めた超速硬セメントコンクリートが得られる、超速硬セメント組成物、超速硬セメントコンクリート組成物を提供する。
【解決手段】 セメント、CaO/Al2O3モル比が0.75〜1.5のカルシウムアルミネート、無水セッコウ、水酸化カルシウム、引張強度が1,000N/mm2以上の鋼繊維、炭酸リチウム、炭酸リチウム以外のアルカリ炭酸塩、及び有機酸を含有してなる超速硬セメント組成物、鋼繊維の平均径が0.1〜1.5mmである、及び/又は鋼繊維の長さが3〜40mmである該超速硬セメント組成物、該超速硬セメント組成物と骨材とを含有してなる超速硬セメントコンクリート組成物、並びに、該超速硬セメントコンクリート組成物と水を含有してなる超速硬セメコンクリートを構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に、土木・建築業界において使用される超速硬セメント組成物、超速硬セメントコンクリート組成物、及び超速硬セメントコンクリートに関する。
【背景技術】
【0002】
超速硬モルタルや超速硬コンクリートなど超速硬セメントコンクリートは、合理化施工には欠かすことのできない材料である。超速硬モルタルは様々なものが提案されている(特許文献1〜特許文献4参照)。
超速硬モルタルは、材齢3時間で所要の圧縮強度を発現するため、圧縮応力を担う役割を果たす用途への展開が図られている。
【0003】
しかしながら、従来の超速硬セメントコンクリートは、高い曲げ強度を発現するものではなかった。そのため、曲げ体力を必要とする部材への利用が制限されるものであった。具体的には、曲げ強度で10N/mm2以上を必要とする用途への利用はできないものであった。
【0004】
近年では、超速硬セメントコンクリートに対する要求は益々高まっており、従来の超速硬セメントコンクリートにはない、高い曲げ強度を発現する材料の開発が強く求められている現状にある。
【0005】
一方、高い曲げ強度を発現する材料としては、高強度セメントコンクリートが挙げられる。
しかしながら、これら高強度セメントコンクリートは、初期材齢で高い強度を発現するものではなく、必然的に、初期材齢で高い曲げ強度を発現するものではなかった。
【0006】
そこで、本発明者は、前記課題を解決すべく、種々の努力を重ねた結果、初期材齢で高い曲げ強度を発現するばかりでなく、圧縮強度も高めた超速硬セメントコンクリートが得られることを知見し、本発明を完成するに至った。
【0007】
【特許文献1】特開平03−012350号公報
【特許文献2】特開平01−230455号公報
【特許文献3】特開平11−021160号公報
【特許文献4】特開平11−139859号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、初期材齢で高い曲げ強度を発現するばかりでなく、圧縮強度も高めた超速硬セメントコンクリートが得られる、超速硬セメント組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、セメント、CaO/Al2O3モル比が0.75〜1.5のカルシウムアルミネート、無水セッコウ、水酸化カルシウム、引張強度が1,000N/mm2以上の鋼繊維、炭酸リチウム、炭酸リチウム以外のアルカリ炭酸塩、及び有機酸を含有してなる超速硬セメント組成物であり、セメント、CaO/Al2O3モル比が0.75〜1.5のカルシウムアルミネート、無水セッコウ、及び水酸化カルシウムからなる結合材、引張強度が1,000N/mm2以上の鋼繊維、炭酸リチウム、炭酸リチウム以外のアルカリ炭酸塩、並びに、有機酸を含有してなる超速硬セメント組成物であり、鋼繊維の平均径が0.1〜1.5mmである該超速硬セメント組成物であり、鋼繊維の長さが3〜40mmである該超速硬セメント組成物であり、セメント、CaO/Al2O3モル比が0.75〜1.5のカルシウムアルミネート、無水セッコウ、及び水酸化カルシウムの合計100部に対して、炭酸リチウム0.3〜2部、炭酸リチウム以外のアルカリ炭酸塩0.1〜1部、及び有機酸0.1〜0.5部である該超速硬セメント組成物であり、無水セッコウが酸性無水セッコウである該超速硬セメント組成物であり、該超速硬セメント組成物と骨材とを含有してなる超速硬セメントコンクリート組成物であり、該超速硬セメントコンクリート組成物と水を含有してなる超速硬セメコンクリートである。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、初期材齢で高い曲げ強度を発現するばかりでなく、圧縮強度も高めた超速硬セメントコンクリートが得られる、超速硬セメント組成物を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
なお、本発明における部や%は特に規定しない限り質量基準で示す。
また、本発明におけるセメントコンクリートとは、セメントペースト、モルタル、又はコンクリートを総称するものである。
【0012】
本発明で使用するセメントとしては、普通、早強、超早強、低熱、及び中庸熱等の各種ポルトランドセメント、これらポルトランドセメントに、高炉スラグ、フライアッシュ、又はシリカを混合した各種混合セメント、また、これらポルトランドセメントに、石灰石粉末や高炉徐冷スラグ微粉末を混合したフィラーセメント、各種の産業廃棄物を主原料として製造される環境調和型セメント、いわゆるエコセメントなどが挙げられ、これらのうちの一種又は二種以上が使用可能である。本発明では、初期強度発現性の面から、また、材料分離抵抗性の面から、早強ポルトランドセメントを使用することが好ましい。
【0013】
本発明で使用するカルシウムアルミネートは、CaOとAl2O3を主成分とする化合物を総称するものであり、その具体例としては、例えば、CaO・2Al2O3、CaO・Al2O3、12CaO・7Al2O3、11CaO・7Al2O3・CaF2、及び3CaO・3Al2O3・CaSO4などと表される結晶性のカルシウムアルミネートや、CaOとAl2O3成分を主成分とする非晶質の化合物が挙げられる。
カルシウムアルミネート(以下、CAという)のCaO/Al2O3モル比は、0.75〜1.5が好ましく、0.9〜1.2がより好ましい。0.75未満では充分な初期強度発現性が得られない場合があり、逆に、CaO/Al2O3モル比が1.5を超えると充分な流動性や可使時間が得られない場合がある。
【0014】
CAを得る方法としては、CaO原料とAl2O3原料等をロータリーキルンや電気炉等によって熱処理して得る方法が挙げられる。
CAを製造する際のCaO原料としては、例えば、石灰石や貝殻等の炭酸カルシウム、消石灰等の水酸化カルシウム、あるいは、生石灰等の酸化カルシウムを挙げることができる。
また、Al2O3原料としては、例えば、ボーキサイトやアルミ残灰と呼ばれる産業副産物のほか、アルミニウム粉等が挙げられる。
【0015】
CAを工業的に得る場合、不純物が含まれることがある。その具体例としては、例えば、SiO2、Fe2O3、MgO、TiO2、MnO、Na2O、K2O、Li2O、S、P2O5、及びFなどが挙げられる。これらの不純物の存在は本発明の目的を実質的に阻害しない範囲では特に問題とはならない。具体的には、これらの不純物の合計が10%以下の範囲では特に問題とはならない。
【0016】
また、化合物としては、4CaO・Al2O3・Fe2O3、6CaO・2Al2O3・Fe2O3、6CaO・Al2O3・2Fe2O3などのカルシウムアルミノフェライト、2CaO・Fe2O3やCaO・Fe2O3などのカルシウムフェライト、ゲーレナイト2CaO・Al2O3・SiO2、アノーサイトCaO・Al2O3・2SiO2などのカルシウムアルミノシリケート、メルビナイト3CaO・MgO・2SiO2、アケルマナイト2CaO・MgO・2SiO2、モンチセライトCaO・MgO・SiO2などのカルシウムマグネシウムシリケート、トライカルシウムシリケート3CaO・SiO2、ダイカルシウムシリケート2CaO・SiO2、ランキナイト3CaO・2SiO2、ワラストナイトCaO・SiO2などのカルシウムシリケート、カルシウムチタネートCaO・TiO2、遊離石灰、リューサイト(K2O、Na2O)・Al2O3・SiO2などを含む場合がある。本発明ではこれらの結晶質又は非晶質が混在していても良い。
【0017】
CAの粒度は特に限定されるものではないが、通常、ブレーン比表面積値(以下、ブレーン値という)で3,000〜9,000cm2/gが好ましく、4,000〜8,000cm2/gがより好ましい。3,000cm2/g未満では初期強度発現性が充分でない場合があり、9,000cm2/gを超えると流動性や可使時間の確保が困難になる場合がある。
【0018】
本発明で使用する無水セッコウは特に限定されるものではないが、II型の無水セッコウを使用することが好ましく、なかでも、pHが4.5以下の酸性無水セッコウを使用することが、可使時間の確保のしやすさと、その後の強度増進が良好なことから好ましい。
ここで、無水セッコウのpHとは、純水100ccに無水セッコウ1gを入れて撹拌した際の上澄液のpHを意味する。
無水セッコウの粒度は、ブレーン値で3,000〜9,000cm2/gが好ましく、4,000〜8,000cm2/gがより好ましい。3,000cm2/g未満では寸法安定性が悪くなる場合があり、9,000cm2/gを超えるものは流動性の確保が困難になる場合がある。
【0019】
本発明で使用する水酸化カルシウムは特に限定されるものではない。Ca(OH)2と表される化合物を総称するものである。その不純物も環境に有害なものを含まなければ特に限定されるものではない。
水酸化カルシウムのCa(OH)2含有量は、80%以上が好ましく、90%以上がより好ましい。80%未満では初期強度発現性が低下する場合がある。不純物としては、炭酸カルシウムや酸化カルシウムを含む場合がある。
水酸化カルシウムの比表面積は特に限定されるものではないが、通常、BET比表面積で20m2/g以下が好ましく、15m2/g以下がより好ましい。水酸化カルシウムのBET比表面積が20m2/gを超えると、流動性が悪くなったり、可使時間の確保が困難になる場合がある。
【0020】
本発明の超速硬セメント組成物における各材料の配合割合は、セメント、CaO/Al2O3モル比が0.75〜1.5のCA、無水セッコウ、及び水酸化カルシウムの合計100部中、セメントが35〜50部、CaO/Al2O3モル比が0.75〜1.5のCAが20〜40部、無水セッコウが10〜25部、水酸化カルシウムが1〜10部であることが好ましい。
【0021】
セメントが35部未満では、可使時間の確保が困難になる場合や長期耐久性が得られにくい場合があり、50部を超えると優れた初期強度発現性が得られない場合がある。
【0022】
また、CaO/Al2O3モル比が0.75〜1.5のCAが20部未満では優れた初期強度発現性が得られない場合があり、40部を超えると可使時間の確保が困難になる場合や長期耐久性が得られにくい場合がある。
【0023】
さらに、無水セッコウが10部未満では可使時間の確保が困難になる場合があり、25部を超えると優れた初期強度発現性が得られない場合や過膨張が生じる場合がある。
【0024】
そして、水酸化カルシウムが1部未満では充分な初期強度発現性が得られない場合や、材料分離抵抗性が得られない場合があり、10部を超えると初期強度や長期強度の発現性が悪くなる場合があり、また、練り混ぜ水量が増加する傾向や流動化剤を多く必要とする場合があり、その結果、品質の安定性を確保することが困難になる場合がある。
【0025】
本発明で使用する鋼繊維の引張強度は1,000N/mm2以上であり、1,500N/mm2以上が好ましく、2,000N/mm2以上がより好ましい。引張強度が1,000N/mm2未満では曲げ強度の飛躍的な向上や、圧縮強度の向上効果が期待できない場合がある。
鋼繊維の密度は7〜10g/cm3が好ましい。
鋼繊維の平均径は、0.1〜1.5mmが好ましく、0.1〜1.1mmがより好ましい。平均径がこの範囲外では、曲げ強度の飛躍的な向上や、圧縮強度の向上効果が期待できない。
鋼繊維の繊維長は、3〜40mmが好ましく、5〜30mmがより好ましい。3mm未満では曲げ強度の飛躍的な向上が期待できない場合があり、40mmを超えると分散性が悪くなり、曲げ強度の飛躍的な向上が期待できない場合がある。
本発明では、二種類以上の繊維長の鋼繊維を組み合わせて使用することが可能であり、曲げ強度の飛躍的な向上や、安定的に高い曲げ強度を得る面から、二種類以上の繊維長の鋼繊維を組み合わせて使用することが好ましい。
鋼繊維としては、普通炭素鋼やステンレスなどの金属繊維が挙げられ、ステンレス繊維を用いることが、曲げ強度の飛躍的な向上や、長期耐久性の面から好ましい。
ステンレス繊維としては、表面にめっきやその他の防食処理が施されているものを使用することが可能である。
鋼繊維の形状としては、成形加工されていないスレート型でも有効であるが、波型加工やインデント加工の他、繊維両端部に曲げ加工等の引き抜け防止加工が施された繊維を使用することも可能である。
さらに、繊維の断面形状についても、円形のみならず、三日月型や長方形型等の繊維も有効である。
鋼繊維の使用量は特に限定されるものではないが、練り上げたセメントコンクリート中、容量換算で、0.1〜5.0容量%が好ましく、0.3〜3容量%がより好ましい。0.1容量%未満では、曲げ強度の飛躍的な向上や、安定的に高い曲げ強度を得ることができない場合があり、5容量%を超えると、練り混ぜが困難となり、繊維の分散が不充分となり、改悪傾向となる場合がある。
【0026】
本発明では、CAの硬化を促進し、短時間での強度発現性を実現するために炭酸リチウムを使用する。炭酸リチウム以外のリチウム塩も、CAの硬化を促進することは知られているが、炭酸リチウム以外のリチウム塩を使用すると、まず、流動化することができず、また、可使時間も確保できない場合がある。
炭酸リチウムの使用量は、セメント、CaO/Al2O3モル比が0.75〜1.5のCA、無水セッコウ、及び水酸化カルシウムからなる結合材100部に対して、0.3〜2部が好ましい。0.3部未満では、初期強度発現性が得られない。即ち、初期材齢で高い曲げ強度を発現することができない場合があり、2部を超えて使用してもさらなる効果の増進が期待できす、むしろ、強度発現性が改悪方向に向く場合がある。
【0027】
本発明では、流動化や可使時間の確保のために、炭酸リチウム以外のアルカリ炭酸塩を使用する。
本発明で使用する炭酸リチウム以外のアルカリ炭酸塩(以下、炭酸アルカリという)は特に限定されるものではないが、その具体例としては、例えば、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、重炭酸ナトリウム、及び重炭酸カリウムなど挙げられ、本発明では、炭酸アンモニウムや重炭酸アンモニウムも炭酸アルカリとして使用可能である。
炭酸アルカリの使用量は、結合材100部に対して、0.1〜1部が好ましい。0.1部未満では、流動性や充分な可使時間が確保できない場合があり、1部を超えると凝結遅延が強くなり、初期材齢で高い曲げ強度を発現することができない場合がある。
【0028】
また、本発明では、流動化や可使時間の確保のため、炭酸アルカリとともに有機酸を使用する。
本発明で使用する有機酸は特に限定されるものではないが、その具体例としては、例えば、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、グルコン酸、及びコハク酸等のオキシカルボン酸又はそれらのナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、アンモニウム、及びアルミニウム塩等が挙げられ、本発明では、これらのうちの一種又は二種以上が使用可能である。そのうち、クエン酸やその塩が好ましい。
有機酸の使用量は、結合材100に対して、0.1〜0.5部が好ましい。0.1部未満では、流動性や充分な可使時間が得られない場合があり、0.5部を超えると凝結遅延が強くなり、初期材齢で高い曲げ強度を発現することができない場合がある。
【0029】
本発明では、セメントコンクリートの練り混ぜを容易にし、各材料の分散を助けるとともに、練りあがったセメントコンクリートの流動性を付与するために流動化剤を使用することが可能である。
流動化剤は特に限定されるものではないが、その具体例としては、例えば、ナフタレン系としては、エヌエムビー社製商品名「レオビルドSP-9シリーズ」、花王社製商品名「マイティ2000シリーズ」、及び日本製紙社製商品名「サンフローHS-100」などが挙げられ、また、メラミン系としては、日本シーカ社製商品名「シーカメント1000シリーズ」や日本製紙社製商品名「サンフローHS-40」などが挙げられる。さらに、アミノスルホン酸系としては、フローリック社製商品名「FP-200シリーズ」などが挙げられ、ポリカルボン酸系としては、エヌエムビー社製商品名「レオビルドSP-8シリーズ」、グレースケミカルズ社製商品名「ダーレックススーパー100PHX」、及び竹本油脂社製商品名「チューポールHP-8シリーズ」や「チューポールHP-11シリーズ」などが挙げられる。本発明ではこれら流動化剤のうちの一種又は二種以上が使用可能である。
【0030】
流動化剤には粉末状のものも存在する。具体的には、ポリアルキルアリルスルホン酸塩の縮合物としては、第一工業製薬社製商品名「セルフロー110P」や出光石油化学社製商品名「IPC」などが、また、ナフタレンスルホン酸塩の縮合物としては、花王社製商品名「マイティ100」や三洋化成工業社製商品名「三洋レベロンP」などが、メラミン系のものとしては、シーカ社製「シーカメントFF」などが、さらに、ポリカルボン酸系としては、例えば、三菱化学社製商品名「クインフロー750」や花王社製商品名「CAD9000P」などが挙げられる。
流動化剤の使用量は特に限定されるものではないが、通常、結合材100部に対して、固形分換算で0.1〜1.5部が好ましい。0.1部未満では流動性が充分でない場合があり、1.5部を超えると材料分離を起す場合がある。
【0031】
本発明では、発熱量や寸法変化の低減や耐久性の確保のため骨材を使用する。
本発明で使用する細骨材の具体例としては、例えば、ケイ砂系、石灰石系、高炉水砕スラグ系、及び再生骨材系等に分類される。本発明では、品質安定性等の面からケイ砂系又は石灰系の細骨材を選定することが好ましい。
細骨材の使用量は、セメント、CaO/Al2O3モル比が0.75〜1.5のカルシウムアルミネート、無水セッコウ、及び水酸化カルシウムの合計100部に対して、50〜200部が好ましく、100〜150部がより好ましい。50部未満では、発熱量が大きすぎて作業性が困難な場合がある。また、収縮が大きくなり、ひび割れが生じやすい場合もある。逆に、200部を超えると優れた流動性や初期強度発現性が得られない場合がある。
さらに、発熱量や寸法変化の低減や耐久性を確保するために粗骨材を配合することが可能である。
粗骨材の具体例としては、例えば、豆砂利、玉砂利、砕石、及び再生骨材等が使用可能である。
粗骨材の配合割合は、単位量で250〜1,000kg/m3が好ましく、500〜750kg/m3がより好ましい。250kg/m3未満では発熱量の低減効果の増大が期待できない場合があり、1,000kg/m3を超えるとコンクリートが荒々しくなり、ワーカビリティーが悪くなったり、強度不足を生じる場合がある。
【0032】
本発明で使用する水の量は、使用する目的・用途や各材料の配合割合によって変化するため特に限定されるものではないが、通常、水結合材比で20〜60%が好ましく、30〜50%がより好ましい。水結合材比が20%未満では流動性を得ることが難しい場合や、発熱量が極めて大きくなる場合があり、60%を超えると強度発現性を確保することが困難な場合がある。
【0033】
本発明では、セメント、CaO/Al2O3モル比が0.75〜1.5のカルシウムアルミネート、無水セッコウ、及び水酸化カルシウム、引張強度が1,000N/mm2以上の鋼繊維、炭酸リチウム、炭酸アルカリ、及び有機酸とともに、強度発現性の改善や耐酸性の向上、可使時間の確保に加えて、寸法安定性を良好にするためにシリカ質微粉末を併用することが可能である。
【0034】
シリカ質微粉末とは、高炉水砕スラグ微粉末、フライアッシュ、及びシリカヒュームなどの潜在水硬性物質やポゾラン物質を挙げることができる。本発明では、シリカフュームの使用が好ましく、なかでも酸性シリカフュームの使用がより好ましい。
酸性シリカフュームとは、シリカフューム1gを純粋100ccに入れて攪拌した時の上澄み液のpHが5.0以下の酸性を示すものを言う。
シリカ質物質の粉末度は特に限定されるものではないが、通常、高炉水砕スラグ微粉末やフライアッシュは、ブレーン値で3,000〜9,000cm2/g程度の範囲にあり、シリカヒュームは、BET比表面積で2〜20万m2/g程度の範囲にある。
シリカ質微粉末の使用量は、CAと無水セッコウからなる急硬成分100部に対して、5〜100部が好ましく、10〜50部がより好ましい。5部未満では強度発現性の改善や耐酸性の向上、可使時間の確保に加えて、寸法安定性を良好にするなどの効果が得られない場合があり、100部を超えると流動性が得られにくい場合があり、また、初期の強度発現性が改悪される場合もある。
【0035】
本発明では、石灰石微粉末、高炉徐冷スラグ微粉末、下水汚泥焼却灰やその溶融スラグ、都市ゴミ焼却灰やその溶融スラグ、パルプスラッジ焼却灰等の混和材料、消泡剤、増粘剤、防錆剤、防凍剤、収縮低減剤、ガス発泡物質、ポリマー、ベントナイトなどの粘土鉱物、並びに、ハイドロタルサイトなどのアニオン交換体等のうちの一種又は二種以上を、本発明の目的を実質的に阻害しない範囲で使用することが可能である。
【0036】
本発明において、各材料の混合方法は特に限定されるものではなく、それぞれの材料を施工時に混合しても良いし、あらかじめ一部を、あるいは全部を混合しておいても差し支えない。
【0037】
混合装置としては、既存のいかなる装置も使用可能であり、例えば、傾胴ミキサ、オムニミキサ、ヘンシェルミキサ、V型ミキサ、及びナウタミキサなどの使用が可能である。
【実施例】
【0038】
以下、本発明の実験例に基づいて、本発明をさらに説明する。
【0039】
実験例1
セメント45部、表1に示すCA30部、無水セッコウ20部、水酸化カルシウム5部からなる結合材100部に対して、炭酸リチウム1部、炭酸アルカリa0.3部、有機酸α0.2部、及び細骨材150部を配合し、水/結合材比43%となるように水を加えて練混ぜ、モルタルを調製した。
このモルタルに、練り上がりモルタル中、2容量%になるよう鋼繊維Aを添加して超速硬モルタルを調製した。
調製した超速硬モルタルの硬化時間、圧縮強度、及び曲げ強度を測定した。結果を表1に併記する。
【0040】
<使用材料>
セメント :市販の普通ポルトランドセメント、ブレーン値4,500cm2/g、密度3.15g/cm3
CAイ :CaO/Al2O3モル比0.75、結晶質、主成分CaO・Al2O3とCaO・2Al2O3、ブレーン値5,000cm2/g、密度3.02g/cm3
CAロ :CaO/Al2O3モル比0.75、結晶質、主成分CaO・Al2O3、ブレーン値5,000cm2/g、密度2.99g/cm3
CAハ :CaO/Al2O3モル比1.0、結晶質、主成分CaO・Al2O3、ブレーン値5,000cm2/g、密度2.97g/cm3
CAニ :CaO/Al2O3モル比1.2、結晶質、主成分CaO・Al2O3、ブレーン値5,000cm2/g、密度2.96g/cm3
CAホ :CaO/Al2O3モル比1.50、結晶質、主成分CaO・Al2O3と12CaO・7Al2O3、ブレーン値5,000cm2/g、密度2.95g/cm3
CAヘ :CaO/Al2O3モル比1.00、非晶質、CAハに試薬1級のシリカを5%添加して、1,650℃で溶融後、急冷して合成、ブレーン値5,000cm2/g、密度2.95g/cm3
CAト :CaO/Al2O3モル比1.50、非晶質、CAホに試薬1級のシリカを3%添加して、1,650℃で溶融後、急冷して合成、ブレーン値5,000cm2/g、密度2.93g/cm3
無水セッコウ:II型無水セッコウ、pH3.0、ブレーン値5,000cm2/g、密度2.97g/cm3
水酸化カルシウム:市販品、BET比表面積値10m2/g
炭酸リチウム:試薬1級
鋼繊維A :引張強度2,000N/mm2、平均径0.2mm、繊維長20mm、密度8.5g/cm3
炭酸アルカリa:炭酸カリウム、試薬1級
有機酸α :試薬1級のクエン酸
細骨材 :石灰砂、4mm下品、粗粒率2.73、密度2.60g/cm3
水 :水道水
【0041】
<測定方法>
硬化時間 :JIS A 1147に準じて凝結時間を測定し、凝結の終結時間を硬化時間とした。
圧縮強度 :モルタルを型枠に詰めて4cm×4cm×16cmの成形体を作成し、各材齢の圧縮強度をJIS R 5201に準じて測定した。
曲げ強度:モルタルを型枠に詰めて4cm×4cm×16cmの成形体を作成し、各材齢の曲げ強度をJIS R 5201に準じて測定した。
【0042】
【表1】

【0043】
実験例2
CAハを使用し、表2に示す鋼繊維を使用したこと以外は実験例1と同様に行った。
なお、比較のため、鋼繊維の代わりに、ビニロンファイバーを用いた場合についても同様に行った。結果を表2に併記する。
【0044】
<使用材料>
鋼繊維B :引張強度 500N/mm2、平均径0.2mm、繊維長20mm、密度8.5g/cm3
鋼繊維C :引張強度1,000N/mm2、平均径0.2mm、繊維長20mm、密度8.5g/cm3
鋼繊維D :引張強度1,500N/mm2、平均径0.2mm、繊維長20mm、密度8.5g/cm3
繊維X :ビニロンファイバー、引張強度1,300N/mm2、平均径14μm、繊維長6mm、集束タイプ、密度1.3g/cm3、市販品
【0045】
【表2】

【0046】
実験例3
CAハを使用し、表3に示す鋼繊維を使用したこと以外は実験例1と同様に行った。
結果を表3に併記する。
【0047】
<使用材料>
鋼繊維E :引張強度1,500N/mm2、平均径0.1mm、繊維長20mm、密度8.5g/cm3
鋼繊維F :引張強度1,500N/mm2、平均径0.3mm、繊維長20mm、密度8.5g/cm3
鋼繊維G :引張強度1,500N/mm2、平均径0.5mm、繊維長20mm、密度8.5g/cm3
鋼繊維H :引張強度1,500N/mm2、平均径0.7mm、繊維長20mm、密度8.5g/cm3
鋼繊維I :引張強度1,500N/mm2、平均径0.9mm、繊維長20mm、密度8.5g/cm3
鋼繊維J :引張強度1,500N/mm2、平均径1.1mm、繊維長20mm、密度8.5g/cm3
鋼繊維K :引張強度1,500N/mm2、平均径1.3mm、繊維長20mm、密度8.5g/cm3
鋼繊維L :引張強度1,500N/mm2、平均径1.5mm、繊維長20mm、密度8.5g/cm3
鋼繊維M :引張強度2,000N/mm2、平均径0.2mm、繊維長3mm、密度8.5g/cm3
鋼繊維N :引張強度2,000N/mm2、平均径0.2mm、繊維長5mm、密度8.5g/cm3
鋼繊維O :引張強度2,000N/mm2、平均径0.2mm、繊維長10mm、密度8.5g/cm3
鋼繊維P :引張強度2,000N/mm2、平均径0.2mm、繊維長30mm、密度8.5g/cm3
鋼繊維Q :引張強度2,000N/mm2、平均径0.2mm、繊維長40mm、密度8.5g/cm3
【0048】
【表3】

【0049】
実験例4
CAハを使用し、表4に示すセメント、CA、無水セッコウ、及び水酸化カルシウムを使用したこと以外は実験例1と同様に行った。結果を表4に併記する。
【0050】
【表4】

【0051】
実験例5
セメント45部、CAハ30部、無水セッコウ20部、及び水酸化カルシウム5部からなる結合材100部に対して、表5に示す炭酸リチウム、炭酸アルカリa0.3部、及び有機酸α0.2部を使用したこと以外は実験例1と同様に行った。結果を表5に併記する。
【0052】
【表5】

【0053】
実験例6
結合材100部に対して、炭酸リチウム1.0部、表6に示す炭酸アルカリ、及び有機酸α0.2部を使用したこと以外は実験例5と同様に行った。結果を表6に併記する。
【0054】
<使用材料>
炭酸アルカリb:炭酸ナトリウム、試薬1級
炭酸アルカリc:重炭酸ナトリウム、試薬1級
【0055】
【表6】

【0056】
実験例7
結合材100部に対して、炭酸リチウム1.0部、炭酸アルカリa0.3部、及び表7に示す有機酸を使用したこと以外は実験例5と同様に行った。結果を表7に併記する。
【0057】
<使用材料>
有機酸β :酒石酸、試薬1級
有機酸γ :グルコン酸ナトリウム、試薬1級
【0058】
【表7】

【0059】
実験例8
CAハを使用し、結合材100部に対して表8に示す細骨材を使用したこと以外は実験例1と同様に行った。結果を表8に併記する。
【0060】
【表8】

【0061】
実験例9
セメント45部、CAB30部、無水セッコウ20部、水酸化カルシウム5部からなる結合材100部を使用し、結合材100部に対して、炭酸リチウム1部、炭酸アルカリa0.3部、有機酸α0.2部、及び細骨材150部を配合し、水/結合材比37%となるように水を加えて練混ぜ、モルタルを調製した。
調製したモルタルに、練り上がりモルタル中、2容量%になるよう鋼繊維Aを添加して超速硬モルタルを調製し、表9に示す粗骨材を配合して超速硬コンクリートを調製した。
調製した超速硬コンクリートの硬化時間、圧縮強度、及び曲げ強度を測定した。結果を表9に併記する。
【0062】
<使用材料>
粗骨材 :市販の砕石、ケイ石系、Gmax15mm、密度2.65g/cm3
【0063】
<測定方法>
硬化時間 :JIS A 1147に準じて凝結時間を測定し、凝結の終結時間を硬化時間とした。
圧縮強度 :JIS A 1108に準じて測定した。
曲げ強度 :JIS A 1106に準じて測定した。
【0064】
【表9】

【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の超速硬セメント組成物は、初期材齢で高い曲げ強度を発現するばかりでなく、圧縮強度も高めた超速硬セメントコンクリートが得られるため、土木・建築分野及び建材用途に広範に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント、CaO/Al2O3モル比が0.75〜1.5のカルシウムアルミネート、無水セッコウ、水酸化カルシウム、引張強度が1,000N/mm2以上の鋼繊維、炭酸リチウム、炭酸リチウム以外のアルカリ炭酸塩、及び有機酸を含有してなる超速硬セメント組成物。
【請求項2】
セメント、CaO/Al2O3モル比が0.75〜1.5のカルシウムアルミネート、無水セッコウ、及び水酸化カルシウムからなる結合材、引張強度が1,000N/mm2以上の鋼繊維、炭酸リチウム、炭酸リチウム以外のアルカリ炭酸塩、並びに、有機酸を含有してなる超速硬セメント組成物。
【請求項3】
鋼繊維の平均径が0.1〜1.5mmである請求項1又は請求項2に記載の超速硬セメント組成物。
【請求項4】
鋼繊維の長さが3〜40mmである請求項1〜請求項3のうちのいずれか一項に記載の超速硬セメント組成物。
【請求項5】
セメント、CaO/Al2O3モル比が0.75〜1.5のカルシウムアルミネート、無水セッコウ、及び水酸化カルシウムの合計100部に対して、炭酸リチウム0.3〜2部、炭酸リチウム以外のアルカリ炭酸塩0.1〜1部、及び有機酸0.1〜0.5部である請求項1〜請求項4のうちのいずれか一項に記載の超速硬セメント組成物。
【請求項6】
無水セッコウが酸性無水セッコウである請求項1〜請求項5記載のうちのいずれか一項に記載の超速硬セメント組成物。
【請求項7】
請求項1〜請求項6のうちのいずれか一項に記載の超速硬セメント組成物と骨材とを含有してなる超速硬セメントコンクリート組成物。
【請求項8】
請求項7に記載の超速硬セメントコンクリート組成物と水を含有してなる超速硬セメコンクリート。

【公開番号】特開2007−320835(P2007−320835A)
【公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−155776(P2006−155776)
【出願日】平成18年6月5日(2006.6.5)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【Fターム(参考)】