説明

超電導ケーブルの接続部

【課題】 接続部における直流電界分布を平滑化できる超電導ケーブルの接続部を提供する。
【解決手段】 本発明超電導ケーブルの接続部30は、超電導導体12と、超電導導体12と接続対象とをつなぐ導体接続部(導体接続スリーブ32)と、超電導導体を部分的に露出させて覆う絶縁層13と、少なくとも導体接続部、露出した超電導導体12および絶縁層13の端部を覆う補強絶縁層31とを有する。補強絶縁層31は、直流電界分布を制御するように、局部的に抵抗率が相違する箇所を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超電導ケーブルの接続部に関するものである。特に、直流電界分布を制御できる超電導ケーブルの接続部に関するものである。
【背景技術】
【0002】
超電導ケーブルとして、図7に記載の直流超電導ケーブルが提案されている。この超電導ケーブル100は、3条のケーブルコア10を撚り合わせた多芯コアを断熱管20内に収納した構成である。
【0003】
各ケーブルコア10は、中心から順にフォーマ11、超電導導体12、絶縁層13、外部導体層14、保護層15を具えている。通常、絶縁層13は絶縁紙を巻回して構成される。超電導導体12及び外部導体層14はいずれも、超電導線材にて形成されている。外部導体層14は、例えば超電導導体12を電流往路とした場合の電流帰路として利用される。一方、断熱管20は、内管21と外管22とからなる二重管の間に断熱材(図示せず)が配置され、かつ二重管内が真空引きされた構成である。断熱管20の外側には、防食層23が形成されている。このようなケーブルにおいて、通常、内管21と各ケーブルコア10とで囲まれる空間が冷媒の流路となる。
【0004】
このような超電導ケーブルを用いて長距離に亘る線路を構築する場合、線路途中において、異なるケーブルから引き出したケーブルコア同士を接続する中間接続部が必要となる。この中間接続部として、例えば、特許文献1に記載のものがある。この中間接続部は、接続箱に収納したケーブルコア端部を段剥ぎして超電導導体を露出させ、各コアの超電導導体同士を接続スリーブにて接続し、露出した超電導導体及び接続スリーブの外周にストレスコーンを形成する構成である。
【0005】
一方、常電導ケーブルでは、絶縁層における直流電界の高くなる箇所に局部的なρグレーディングを形成して、その部分の直流電界を下げることが行われている(例えば特許文献2)。
【0006】
常電導ケーブル、例えば直流OFケーブルでは、負荷に応じて絶縁層の径方向に温度勾配が発生し、それに伴って絶縁層の直流電界分布が大きく変化する。これは、直流の電界分布を決める絶縁層の抵抗率(ρ)が温度により大きく変化し、温度が高いほど抵抗率が小さくなるためである。図8に示すように、例えば、負荷がないときは、絶縁層中の温度がほぼ一定のため、電界の円筒座標構造により、導体側(内周側)の電界が高く、シース側(外周側)の電界が低い。一方、負荷がかかると導体側の温度がシース側の温度に比べて高くなり、導体側の抵抗率が小さく、シース側の抵抗率が大きくなる。そのため、抵抗率に依存する直流の電界分布は、シース側の電界が高くなり、導体側の電界が低くなる。
【0007】
このように、常電導ケーブルでは負荷によって最大電界強度となる位置が変化し、通常、最大負荷時のシース側の電界ストレスが絶縁層の弱点になることから、絶縁層におけるシース側の電界強度を下げるために、シース側に抵抗率の小さいクラフト紙を適用して局部的なρグレーディングを施すことが行われている。
【0008】
【特許文献1】特開2000-340274号公報(図1)
【特許文献2】特開平11-224546号公報(図13、図14)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、従来の超電導ケーブルでは、絶縁層が内周側から外周側にわたって一様な電気特性の材料で構成されており、最大電界強度となる箇所の電界強度を局部的に緩和することはもちろん、絶縁層の厚さ方向全体にわたって直流の電界分布を平滑化するための工夫もなされていない。このような工夫がなされていないことは中間接続部あるいは終端接続部においても同様である。そのため、超電導ケーブルの接続部においても、より絶縁特性に優れた絶縁構造が求められている。
【0010】
その際、常電導ケーブルで既に利用されているρグレーディングなどの絶縁設計技術をそのまま超電導ケーブルの接続部に転用することも考えられる。しかし、常電導ケーブルでは負荷の状態によって絶縁層の径方向の温度分布が大きく変化するのに対し、超電導ケーブルおよびその接続部では絶縁層が極低温状態に保持されているという特殊事情がある。そのため、超電導ケーブルの接続部では、その直流電界分布を負荷時・無負荷時の区別なく一義的に設計することが可能で、この事情を考慮して常電導ケーブルとは異なった手法により絶縁設計がなされるべきである。
【0011】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたもので、その主目的は、接続部における直流電界分布を制御できる超電導ケーブルの接続部を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、超電導ケーブルの接続部には超電導ケーブルの接続部に適した絶縁設計の手法があるはずであるとの考えの下、超電導ケーブルの接続部における直流の電界分布に関して種々の検討を行った結果、本発明を完成するに至った。
【0013】
本発明超電導ケーブルの接続部は、超電導導体と、超電導導体と接続対象とをつなぐ導体接続部と、超電導導体を部分的に露出させて覆う絶縁層と、少なくとも導体接続部、露出した超電導導体および絶縁層の端部を覆う補強絶縁層とを有する超電導ケーブルの接続部である。ここで、補強絶縁層には、直流電界分布を制御するように、局部的に抵抗率ρが相違する箇所を設けたことを特徴とする。
【0014】
超電導ケーブルは、そのケーブルに用いられる超電導線材を極低温に冷却する必要上、負荷の変動による絶縁層の温度変化も小さく、常電導ケーブルに比べれば非常に温度が安定した絶縁層を有している。そのため、超電導ケーブルの絶縁層では負荷に関わらずほぼ一様な電界分布となっており、常電導ケーブルの絶縁層のように、無負荷時と最大負荷時で最大電界強度となる位置が変わることもない。このことは接続部の構成部材として用いられる補強絶縁層においても同様である。そこで、接続部の補強絶縁層において、局部的に抵抗率ρが相違する箇所を設けることで、適切に直流電界分布を制御することができ、接続部の電気特性を向上させることができる。
【0015】
以下、本発明の接続部をより詳しく説明する。
本発明接続部は、中間接続部はもちろん、終端接続部においても適用できる。これらの接続部は、超電導ケーブルの端部に形成される。超電導ケーブルの構成は特に問わない。代表的には、ケーブルコアと、ケーブルコアを収納する断熱管とから構成される超電導ケーブルの端部に接続部が形成される。そのうち、ケーブルコアは、フォーマ、超電導導体、絶縁層を有することを基本構成とする。中間・終端接続部のいずれであっても、ケーブル端部を段剥ぎし、超電導導体や絶縁層を部分的に露出させて、その露出箇所に接続部の形成が行われる。中間接続部の場合、通常、一方のケーブルの超電導導体を他方のケーブルの超電導導体と突き合せて導体接続部を介して接続される。終端接続部の場合、通常、超電導ケーブルの超電導導体は銅などの電流リードと導体接続部を介して接続される。導体接続部は、例えば、少なくとも両端部が中空部なった導電部材を用い、超電導導体を中空部にはめ込んで半田付けしたり、電流リードを中空部にはめ込んで圧縮接続あるいはマルチコンタクトで接続することにより構成される。そして、少なくとも導体接続部、露出した超電導導体、絶縁層の端部までの範囲を補強絶縁層で覆う。
【0016】
このような接続部における直流電界分布を制御するには、大別して2通りの考え方がある。一つは直流電界が高い箇所に他の箇所よりも抵抗率が低い材料を用いて、その箇所の電界を緩和することであり、もう一つは直流電界が高い箇所に他の箇所よりも抵抗率が高く、かつ直流耐電圧特性の高い材料を用いることで直流電界ストレスに耐えられるようにすることである。以下、前者を低ρタイプ、後者を高ρタイプと呼ぶ。
【0017】
接続部で直流電界が他の箇所に比べて高くなる箇所としては、導体接続部の直上、絶縁層の端部をテーパー状に形成したペンシルダウン部の外側および絶縁層の外側に形成されるストレスコーンの立ち上がり部近傍が挙げられる。低ρタイプの場合、これら直流電界が高くなる箇所の少なくとも1箇所に他の箇所に比べて抵抗率が低い絶縁材料を適用する。高ρタイプの場合、これら直流電界が高くなる箇所の少なくとも1箇所に他の箇所に比べて抵抗率が高く、直流耐電圧特性の高い絶縁材料を適用する。
【0018】
補強絶縁層に局部的に抵抗率の異なる箇所を形成する具体的な形態としては、補強絶縁層の厚さ方向にわたって抵抗率が異なる層を形成してρグレーディングを施すことや、直流電界の高くなる箇所のみ部分的に抵抗率の異なる材料を用いることでρグレーディングを施すことが挙げられる。
【0019】
補強絶縁層の厚さ方向にわたって抵抗率が異なる層を形成した場合、補強絶縁層は抵抗率が段階的または連続的に異なる複数層から構成されることになる。その際、層数は特に問わない。実用的には、2層あるいは3層程度が好ましいが、この層数を増やすことで補強絶縁層の厚さ方向に実質的に連続して抵抗率が変化する補強絶縁層を構成することができる。
【0020】
低ρタイプにおいて、補強絶縁層の内周側の抵抗率が低く、外周側の抵抗率が高くなるように、その厚さ方向の全体にわたってρグレーディングを施せば、補強絶縁層の厚さ方向全体の直流電界分布を平滑化でき、補強絶縁層の厚みを低減することができる。特に、補強絶縁層を構成する各層の厚みは極力均等にすることが望ましい。抵抗率の異なる各層の厚みが均等であれば、絶縁層の厚さ方向における直流電界分布の平滑化がより効果的に行える。
【0021】
一方、直流電界の高くなる箇所のみ部分的に抵抗率の異なる材料を用いた場合、低ρタイプでは、その箇所の直流電界を緩和し、高ρタイプでは、その箇所の直流電界は高いが、その電界に十分に耐えられる直流耐電圧特性を備えることとなる。
【0022】
直流電界の高くなる箇所のみ抵抗率の異なる材料を配するには、例えば、両端部がテーパー状に形成された抵抗率ρ1の補強絶縁層の主要部を形成し、このテーパー部の上にのみ抵抗率ρ2(但し、ρ2<ρ1)の絶縁材料をほぼ均等な厚さに巻回して、ストレスコーンの立ち上がり部の直流電界ストレスを緩和することが挙げられる。一般に、補強絶縁層の材料は、テープ材であるため、抵抗率の異なる複数のテープ材を用いることで局部的に抵抗率の異なる箇所を容易に形成できる。
【0023】
その他、エポキシベルマウスを用いても良い。エポキシベルマウスであれば予め所定形状に成形しておくため、補強絶縁層の主要部を形成した後、この主要部に局部的に装着でき、作業性よく直流電界の高くなる箇所のみ抵抗率の異なる材料を配することができる。エポキシ樹脂の抵抗率ρは、石英配合材で約2.0×1017Ω・cm(0℃)、溶融石英配合材で約7.0×1017Ω・cm(0℃)、アルミナ配合材で約5.0×1017Ω・cm(0℃)である。従って、低ρタイプか高ρタイプかに応じて、適宜エポキシベルマウスの抵抗率を選択すればよい。
【0024】
もちろん、径方向に抵抗率の異なる層を形成することに加え、直流電界の高くなる箇所に局部的に抵抗率の異なる材料を配することを組み合わせても良い。
【0025】
ρグレーディングを施すには、抵抗率(ρ)の異なる絶縁材料を用いる必要がある。抵抗率を変える代表的な手段としては、次のものがある。
【0026】
絶縁紙の場合、例えばクラフト紙の密度を変えることで抵抗率を変えることができる。また、クラフト紙にジシアンジアミドを添加したり、クラフト紙をシアノエチル紙で構成することにより、抵抗率が一般的なクラフト紙よりも低い低抵抗クラフト紙とすることができる。一般的なクラフト紙の抵抗率ρ(20℃)は1014〜1017Ω・cm程度、低抵抗クラフト紙の同抵抗率は一般的なクラフト紙の抵抗率の半分ぐらいである。
【0027】
絶縁紙とプラスチックフィルムからなる複合紙には、代表的にはポリプロピレンフィルムにクラフト紙をラミネートしたもの(PPLP:住友電気工業株式会社の登録商標)が挙げられる。この種の複合紙において、複合紙全体の厚みTに対するプラスチックフィルムの厚みtpの比率(tp/T)×100を変えることにより抵抗率の異なる複合紙を得ることができる。ここでは、この比率(tp/T)×100をk値とし、この比率kの値を例えば40%〜90%程度の範囲で変化させることにより抵抗率を変えればよい。通常、比率kが大きいほど抵抗率ρが大きくなる。例えば、比率kが40%の複合紙の抵抗率ρ(20℃)は1016〜1018Ω・cm程度、同60%の複合紙の抵抗率ρ(20℃)は1017〜1019Ω・cm程度、同80%の複合紙の抵抗率ρ(20℃)は1018〜1020Ω・cm程度である。さらに、複合紙を構成する絶縁紙の密度、材質、添加物などを変えることでも複合紙の抵抗率を変えることができる。
【0028】
以上の絶縁紙と複合紙を用いて補強絶縁層にρグレーディングを構成する場合、例えば、次の構成が考えられる。
【0029】
A:絶縁紙だけを用いる場合
(1)密度の低い絶縁紙で低ρ層を形成し、その外側に密度の高い絶縁紙で高ρ層を形成する。
(2)抵抗率の低い材質からなる絶縁紙で低ρ層を形成し、その外側に抵抗率の高い材質からなる絶縁紙で高ρ層を形成する。
(3)添加物を加えることで抵抗率を低くした絶縁紙で低ρ層を形成し、その外側に添加物のない絶縁紙で高ρ層を形成する。
【0030】
B:複合紙だけを用いる場合
(1)比率kの低い複合紙で低ρ層を形成し、その外側に比率kの高い複合紙で高ρ層を形成する。
(2)複合紙を構成する絶縁紙の抵抗率を上記Aの手法で変えて、絶縁層の内側に低ρ層を形成し、その外側に高ρ層を形成する。
【0031】
C:絶縁紙と複合紙を組み合わせる場合
(1)絶縁紙と複合紙を交互に巻いて低ρ層を形成し、その低ρ層の外周に複合紙だけを巻いて高ρ層を形成する。
(2)絶縁紙と複合紙を交互に巻いて絶縁層を構成し、上記AまたはBの手法で絶縁紙または複合紙の抵抗率を変えることにより絶縁層の内側に低ρ層を形成し、その外側に高ρ層を形成する。例えば、絶縁紙と比率kが低い複合紙を交互に巻いて低ρ層を形成し、その外側に絶縁紙と比率kが高い複合紙を交互に巻いて高ρ層を形成する。
(3)絶縁紙だけで低ρ層を形成し、その外側に複合紙だけで高ρ層を形成する。その場合、低ρ層は内側から外側に向けて抵抗率が高くなるように絶縁紙を巻くことが好ましい。
【0032】
以上の各構成において、絶縁紙だけで補強絶縁層を構成する構造が最も低コストである。複合紙と絶縁紙とを複合して用いれば、複合紙のみで補強絶縁層を構成する場合に比べて高価な複合紙の使用量を低減でき、接続部を構成する材料のコストを下げることができる。
【0033】
複合紙を補強絶縁層に用いる場合、比率kが60%以上の複合紙を用いてρグレーディングを形成することが好ましい。より好ましくは、補強絶縁層の全てを比率kが60%以上の複合紙で構成することである。複合紙を構成する絶縁紙とプラスチックフィルムの各抵抗率の違いにより、直流電界ストレスは直流耐電圧特性に優れたプラスチックフィルムに大きくかかる。そのため、補強絶縁層に占めるプラスチックフィルムの比率を高めることで補強絶縁層の直流耐電圧特性を改善し、補強絶縁層の厚みを低減することが可能となる。さらに好ましくは、比率kが70%以上の複合紙を用いてρグレーディングを形成すればよい。
【発明の効果】
【0034】
本発明超電導ケーブルの接続部によれば、次の効果を奏することができる。
【0035】
(1)補強絶縁層に、局部的に抵抗率が相違する箇所を設けることで、接続部の直流電界分布を制御することができ、電気的弱点を補強することができる。特に、導体接続部の直上、ケーブルの絶縁層の端部をテーパー状に形成したペンシルダウン部の外側、絶縁層の外側に形成されるストレスコーンの立ち上がり部の周辺などにρグレーディングを形成することで接続部の直流電界分布を効果的に調整することができる。
【0036】
(2)補強絶縁層のうち、直流電界が高くなる箇所の抵抗率を他の箇所の抵抗率よりも低くすることで、電気的弱点となりやすい箇所の直集電界ストレスを緩和できる。それに伴い、電界設計の裕度を上げられ、接続部の外径や長さを小さくすることができる。特に、接続部の内周側の抵抗率が低く、外周側の抵抗率が高くなるようにρグレーディングを施すことで、補強絶縁層の厚さ方向の全体にわたって直流電界分布を平滑化することができる。
(3)補強絶縁層のうち、直流電界が高くなる箇所を、他の箇所の抵抗率よりも高く、かつ直流耐電圧特性の高い材料で構成することで、直流電界ストレスが高くても十分な直流耐電圧特性を有する接続部とすることができる。
【0037】
(4)補強絶縁層のρグレーディングは、絶縁紙と複合紙の組合せ、あるいは複合紙におけるプラスチックフィルムの厚さの比率を変えることで自由度の高い設計が可能である。そのため、要求される接続部の特性に応じて、様々な特性の接続部を作製することができる。
【0038】
(5)比率kの高い複合紙を補強絶縁層に用いることや、補強絶縁層に占めるプラスチックフィルムの比率を高めることで補強絶縁層の直流耐電圧特性やImp.(インパルス)耐電圧特性を改善し、絶縁層の厚みを低減することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
以下、本発明の実施の形態を説明する。ここでは、直流超電導ケーブルの中間接続部を例として、以下の各実施の形態を説明する。各実施の形態で参照する図面において、共通する部材には同一符号を付している。
【0040】
(実施の形態1)
まず、図1に基づいて径方向の直流電界分布を平滑化できる本発明の実施の形態を説明する。
【0041】
[接続部の構成]
この中間接続部は、直流超電導ケーブルの一対のケーブルコアを突き合わせ、各ケーブルコア同士を接続する構造である。
【0042】
各ケーブルコアは、図1では簡略化して示しているが、図7のコアと同様に中心から順に、フォーマ、超電導導体12、絶縁層13、外部導体層、保護層を具える。フォーマには、素線絶縁された複数本の銅素線を撚り合せた撚り線を用いた。超電導導体12および外部導体層には、Bi2223系Ag-Mnシーステープ線材を用いた。このテープ線材をフォーマの上に多層に巻回して超電導導体を、絶縁層13の上に多層に巻回して外部導体層を構成する。また、絶縁層13は、PPLP(登録商標)を巻回して構成した。この絶縁層13も、後述する補強絶縁層31と同様に、内周側の抵抗率が低く、外周側の抵抗率が高くなるようにρグレーディングを施すことが好ましい。保護層は絶縁紙を巻回して形成した。
【0043】
このようなケーブルコアの端部を段剥ぎし、超電導導体12、絶縁層13を段階的に露出させる。実際には、他の層も段階的に露出させるが、図1では説明の便宜上、超電導導体12、絶縁層13を露出した状態を示している。その際、絶縁層13の端部には、先端側ほど径が小さくなるテーパー状のペンシルダウン部13Aが形成されている。
【0044】
ここで、各コアの端部は、フォーマ同士を接続スリーブを介して圧縮接続されており(図示せず)、その外周の超電導導体12同士を導体接続スリーブ32に挿入して、半田にて接続されている。導体接続スリーブ32の外径は、両端側が小さく、中央部が大きく形成されており、その中央部の外径は絶縁層の外径と実質的に等しく構成されている。このような導体接続スリーブ32、露出された超電導導体12、絶縁層13の端部の範囲を覆うように補強絶縁層31が形成される。
【0045】
この補強絶縁層31を抵抗率ρが異なる3層で構成した。つまり、内層31A、中間層31B、外層31Cの各抵抗率ρが、内層31A<中間層31B<外層31Cとなるように補強絶縁層31の絶縁材料を選択した。いずれの層もポリプロピレンにクラフト紙をラミネートした複合紙テープ(PPLP:登録商標)を巻き付けることで構成されている。
【0046】
より具体的には、内層31Aは、絶縁層のペンシルダウン部13A、露出された超電導導体12および導体接続スリーブ32における両端のテーパー部の外周を覆い、内層31Aの外径をケーブルコアの絶縁層13の外径にほぼ対応させている。次に、中間層31Bは、一方のケーブルコアの絶縁層13におけるペンシルダウン部以外の箇所から他方のケーブルコアの絶縁層13におけるペンシルダウン部以外の箇所までの範囲を覆っている。その際、中間層31Bの両端部は、導体接続スリーブ32から離れるほど外径が小さくなるようにテーパー状に形成されている。この中間層31Bの両端部は、その上に半導電材料で形成される電界緩和層(図示せず)の立ち上がり部に相当する。さらに、外層31Cは、中間層31Bの上を覆うように形成されている。この外層31Cも両端部が導体接続スリーブ32から離れるほど外径が小さくなるようにテーパー状に形成されている。そして、中間層31Bの両端部のテーパーと外層31Cの両端部のテーパーが同一の傾斜で連続するように外層31Cを形成した。
【0047】
各層31A-31Cの構成材料の比率k(複合紙全体の厚みに対するポリプロピレンフィルムの厚みの比率)と抵抗率ρ並びに誘電率εは次の通りである。下記のAおよびBは各々定数を示している。
内層:比率k=60%、抵抗率ρ1(20℃)=AΩ・cm、誘電率ε=B
中間層:比率k=70%、抵抗率ρ2(20℃)=約1.2AΩ・cm、誘電率ε=約0.95B
外層:比率k=80%、抵抗率ρ3(20℃)=約1.4AΩ・cm、誘電率ε=約0.9B
【0048】
この構成によれば、補強絶縁層31の外周側ほど比率kの高いPPLP(登録商標)を用いているため、補強絶縁層31の外周側ほど高ρになると同時に外周側ほど低εとなっている。
【0049】
この構成の接続部では、例えば補強絶縁層31のうち露出した超電導導体12の外側における厚さ方向の直流電界分布は図2に示すように抵抗率の相違に応じた3つの段階を有する分布となる。そのため、補強絶縁層31の厚さ方向における直流電界分布を平滑化でき、補強絶縁層31の厚みを低減することができる。
【0050】
また、本実施の形態により、(1)導体接続スリーブ32の直上、(2)ケーブルの絶縁層の端部をテーパー状に形成したペンシルダウン部13Aの外側、(3)その絶縁層13の外側に形成される電界緩和層の立ち上がり部にもρグレーディングが施されたことになり、これら電界ストレスが高くなりやすい箇所の電界緩和を効果的に行なうことができる。特に、比率kの高いPPLP(登録商標)で補強絶縁層31を構成することで、直流耐電圧特性に優れるポリプロピレンが補強絶縁層31に占める割合を高めることができ、補強絶縁層31の厚み低減効果がより一層期待できる。
【0051】
(実施の形態2)
電界緩和層の立ち上がり部の直流電界ストレスを緩和するための本発明実施の形態を図3に基づいて説明する。
【0052】
本実施の形態も実施の形態1と同様に3層からなる補強絶縁層31を備えるが、導体接続スリーブ32の中間部の外径がケーブルの絶縁層13の外径よりも小さくなっている点、内層31Aと外層31Cの抵抗率が同じで、中間層31Bの抵抗率のみが低く構成されている点が実施の形態1と異なる。
【0053】
まず、内層31Aはペンシルダウン部13A、露出された超電導導体12、導体接続スリーブ32の上を覆い、ケーブルの絶縁層13の外径と同等の外径に形成されている。次に、中間層31Bは、両端部をテーパー状に形成して、中間部を均等な厚さとし、絶縁層13および内層31Aの上に形成されている。また、外層31Cは、その両端部を中間層31Bの両端部に連続するテーパー状に形成して、中間部を均等な厚さとし、中間層31Bの上に形成されている。
【0054】
そして、内層31A、中間層31B、外層31Cの各抵抗率ρ1〜ρ3を、ρ1=ρ3>ρ2となるようにしている。例えば、内層31Aと外層31Cを比率kの高いPPLPで構成し、中間層31Bをクラフト紙または比率kの低いPPLPで構成する。
【0055】
この構成の接続部によれば、電界緩和層の立ち上がり部に低ρの絶縁材料を配することになるため、この箇所の直流電界ストレスを緩和することができる。また、低ρの中間層31Bはほぼ一様な厚さの層に形成でき、補強絶縁層31の形成作業も容易に行える。さらに、補強絶縁層31は抵抗率の異なる2種類の材料で構成することができる。
【0056】
(実施の形態3)
電界緩和層の立ち上がり部の直流電界ストレスを緩和するための別の本発明実施の形態を図4に基づいて説明する。
【0057】
本実施の形態は、補強絶縁層31の構成が実施の形態2と相違しており、それ以外の構成は、実施の形態2と共通である。ここでの補強絶縁層31は、主要部31Dと傾斜端部31Eとから構成される。主要部31Dは、各ケーブルコアの絶縁層外周の一部、ペンシルダウン部13A、露出された超電導導体12および導体接続スリーブ32の上を覆い、両端部がテーパー状に、中間部が円筒状に構成されている。一方、傾斜端部31Eは、絶縁層の一部およびテーパー状の主要部31Dの両端部を覆い、主要部両端のテーパーに沿ったほぼ一定の厚さに形成されている。
【0058】
ここで、主要部31Dの抵抗率ρ1と傾斜端部31Eの抵抗率ρ2をρ1>ρ2となるようにする。例えば、主要部31Dを比率kの高いPPLPで構成し、傾斜端部31Eをクラフト紙または比率kの低いPPLPで構成する。
【0059】
この構成の接続部によれば、電界緩和層の立ち上がり部に局部的に低ρの絶縁材料を配することになるため、この箇所の直流電界ストレスを緩和することができる。また、補強絶縁層31は抵抗率の異なる2種類の材料で構成することができる。
【0060】
(実施の形態4)
次に、導体接続スリーブの直上、ペンシルダウン部の外側、電界緩和層の立ち上がり部の直流電界ストレスを緩和するための本発明の実施の形態を図5に基づいて説明する。
【0061】
本実施の形態は、実施の形態3における主要部を内側主要部31DIと外側主要部31DOとで構成し、内側主要部31DIも低ρの絶縁材料で構成している。内側主要部31DIは、ペンシルダウン部13A、露出された超電導導体12、導体接続スリーブ32の上を覆い、ケーブルの絶縁層13の外径と同等の外径に形成されている。外側主要部31DOは、両端部をテーパー状に、中間部を円筒状とし、絶縁層13の一部および内側主要部31DIの上に形成されている。傾斜端部31Eは、実施の形態2と同様に、外側主要部31DOの両端部のテーパーに沿って形成されている。
【0062】
ここで、内側主要部31DI、外側主要部31DO、傾斜端部31Eの各抵抗率ρ1〜ρ3を、ρ1=ρ3<ρ2となるようにしている。例えば、外側主要部31DOを比率kの高いPPLPで構成し、内側主要部31DIと傾斜端部31Eをクラフト紙または比率kの低いPPLPで構成する。
【0063】
この構成の接続部によれば、導体接続スリーブ32の直上、ペンシルダウン部13Aの外側、電界緩和層の立ち上がり部のいずれにも低ρの絶縁材料を配することになるため、この箇所の直流電界ストレスを緩和することができる。また、補強絶縁層31は抵抗率の異なる2種類の材料で構成することができる。
【0064】
(実施の形態5)
次に、エポキシベルマウスを用いた本発明の実施の形態を図6に基づいて説明する。
【0065】
本実施の形態は、実施の形態3における主要部31Dの形状を若干変更し、傾斜端部31Eの一部をエポキシベルマウス31Fに置き換えている。主要部31Dは、各ケーブルコアの絶縁層外周の一部、ペンシルダウン部13A、露出された超電導導体12および導体接続スリーブ32の上を覆っている。主要部31Dの中間部は円筒状に構成され、両端部は内周側が円錐状のテーパー部に、外周側がテーパー部に連続する段差部に形成されている。一方、傾斜端部31Eは、絶縁層13の一部およびテーパー部を覆い、このテーパー部のテーパーに沿ったほぼ一定の厚さに形成されている。さらにエポキシベルマウス31Fは、主要部31Dの段差部にはめ込まれるように環状に構成されている。
【0066】
ここで、主要部31D、傾斜端部31E、エポキシベルマウス31Fの各抵抗率ρ1〜ρ3を、ρ1>ρ2≒ρ3となるようにしている。例えば、主要部31Dを比率kの高いPPLPで構成し、傾斜端部31Eをクラフト紙または比率kの低いPPLPで構成して、エポキシベルマウス31Fを石英配合のエポキシ樹脂で構成する。
【0067】
この構成の接続部によれば、傾斜端部31Eとエポキシベルマウス31Fの複合により電界緩和層の立ち上がり部の直流電界ストレスを緩和することができる。また、予め直流電界分布に応じた形状にモールドされたエポキシベルマウス31Fを用いることで、より効果的に直流電界ストレスを緩和することができ、かつ接続部を容易に形成することができる。
【0068】
(実施の形態6)
次に、上記実施の形態1〜6とは逆に、直流電界の高い箇所に高ρの絶縁材料を用いた本発明の実施の形態を説明する。
【0069】
本実施の形態では、図1、図3〜図6において低ρの絶縁材料を用いた箇所に高ρの絶縁材料を用いる。つまり、図1の構成では、外周から内周に向かって順次高ρとなるように内層31A、中間層31B、外層31Cを形成する。図3の構成では、中間層31Bの抵抗率を内層31Aおよび外層31Cの抵抗率よりも高くする。図4の構成では、傾斜端部31Eの抵抗率を主要部31Dの抵抗率よりも高くする。図5の構成では、内側主要部31DIと傾斜端部31Eの抵抗率を外側主要部31DOの抵抗率よりも高くする。図6の構成では、傾斜端部31Eとエポキシベルマウス31Fの抵抗率を主要部31Dの抵抗率よりも高くする。
【0070】
そして、いずれの構成においても高ρの絶縁材料は他の箇所に比べて直流耐電圧特性の高い材料とする。例えば、高ρの絶縁材料として比率kの高いPPLP(登録商標)を用い、他の箇所に比率kの低いPPLP(登録商標)を用いる。その他、高ρの絶縁材料としてPPLP(登録商標)を用い、他の箇所にクラフト紙を用いてもよい。
【0071】
これらの構成により、高ρの絶縁材料を用いた箇所は、直流電界ストレスが他の箇所に比べて高くかかっても、直流耐電圧特性が高いため、電気特性の高い接続部とすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明超電導ケーブルの接続部は、直流の電力輸送手段として用いる超電導ケーブル線路に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明実施の形態1の接続部を示す模式部分縦断面図である。
【図2】本発明接続部の補強絶縁層における直流電界分布を示すグラフである。
【図3】本発明実施の形態2の接続部を示す模式部分縦断面図である。
【図4】本発明実施の形態3の接続部を示す模式部分縦断面図である。
【図5】本発明実施の形態4の接続部を示す模式部分縦断面図である。
【図6】本発明実施の形態5の接続部を示す模式部分縦断面図である。
【図7】超電導ケーブルの横断面図である。
【図8】OFケーブルの絶縁層における直流電界分布を示すグラフである。
【符号の説明】
【0074】
100 超電導ケーブル
10 コア
11 フォーマ 12 超電導導体 13 絶縁層
13A ペンシルダウン部 14 外部導体層 15 保護層
20 断熱管
21 内管 22 外管 23 防食層
30 中間接続部
31 補強絶縁層 31A 内層 31B 中間層 31C 外層
31D 主要部 31DI 内側主要部31DO 外側主要部 31E 傾斜端部
31F エポキシベルマウス
32 導体接続スリーブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超電導導体と、超電導導体と接続対象とをつなぐ導体接続部と、超電導導体を部分的に露出させて覆う絶縁層と、少なくとも導体接続部、露出した超電導導体および絶縁層の端部を覆う補強絶縁層とを有する超電導ケーブルの接続部であって、
前記補強絶縁層には、直流電界分布を制御するように、局部的に抵抗率が相違する箇所を設けたことを特徴とする超電導ケーブルの接続部。
【請求項2】
前記補強絶縁層のうち、直流電界が高くなる箇所の抵抗率を他の箇所の抵抗率よりも低くしたことを特徴とする請求項1に記載の超電導ケーブルの接続部。
【請求項3】
前記補強絶縁層のうち、直流電界が高くなる箇所を、他の箇所の抵抗率よりも高く、かつ直流耐電圧特性の高い材料で構成したことを特徴とする請求項1に記載の超電導ケーブルの接続部。
【請求項4】
前記直流電界が高くなる箇所は、導体接続部の直上、絶縁層の端部をテーパー状に形成したペンシルダウン部の外側および絶縁層の外側に形成されるストレスコーンの立ち上がり部近傍の少なくとも1箇所であることを特徴とする請求項2または3に記載の超電導ケーブルの接続部。
【請求項5】
前記の局部的な抵抗率の相違は、絶縁紙とプラスチックフィルムからなる複合紙と絶縁紙との組合せにより形成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の超電導ケーブルの接続部。
【請求項6】
前記の局部的な抵抗率の相違は、絶縁紙とプラスチックフィルムからなる複合紙の厚さに対するプラスチックフィルムの厚さの比率kが異なる複合紙の組合せにより形成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の超電導ケーブルの接続部。
【請求項7】
前記比率kが60%以上の複合紙を用いていることを特徴とする請求項6に記載の超電導ケーブルの接続部。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2006−320115(P2006−320115A)
【公開日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−140429(P2005−140429)
【出願日】平成17年5月12日(2005.5.12)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】