説明

超電導ケーブル

【課題】 冷却時の常電導線材の収縮分を簡易な構成にて吸収できる超電導ケーブルを提供する。
【解決手段】 本発明超電導ケーブルは、超電導層(超電導導体層12、超電導シールド層16)と、この超電導層の内側および外側の少なくとも一方に配される常電導層(常電導導体層11、常電導シールド層17)とを有する超電導ケーブルである。この常電導層の内側に応力緩和層を有し、応力緩和層11により、冷媒の冷却に伴う常電導層の径方向への収縮分を吸収するように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は超電導ケーブルに関するものである。特に、超電導ケーブルを構成する常電導層の冷却による収縮を吸収可能な超電導ケーブルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
超電導ケーブルとして、図4に記載の超電導ケーブルが提案されている。この超電導ケーブル100は、3心のケーブルコア10を断熱管20内に収納した構成である(例えば特許文献1)。
【0003】
ケーブルコア10は、中心から順にフォーマ11、超電導導体層12、絶縁層15、超電導シールド層16、保護層18を具えている。通常、フォーマ11は、撚り線やパイプ材で構成される。導体層12は、フォーマ11上に超電導線材を多層に螺旋状に巻回して構成される。代表的には、超電導線材には、酸化物超電導材料からなる複数本のフィラメントが銀シースなどのマトリクス中に配されたテープ状のものが用いられる。交流ケーブルの場合、導体層12の外周側に位置する超電導線材ほど電流密度が大きくなる偏流を抑制して交流損失を低減させるため、各層の超電導線材の巻回ピッチを変えることも行われる。絶縁層15は絶縁紙を巻回して構成される。シールド層16は、絶縁層15上に導体層12と同様の超電導線材を螺旋状に巻回して構成する。そして、保護層18には絶縁紙などが用いられる。
【0004】
また、断熱管20は、内管21と外管22とからなる二重管の間に断熱材(図示せず)が配置され、かつ二重管内が真空引きされた構成である。断熱管20の外側には、防食層23が形成されている。そして、フォーマ11(中空の場合)内や内管21とコア10の間に形成される空間に液体窒素などの冷媒を充填・循環し、絶縁層15に冷媒が含浸された状態で使用状態とされる。
【0005】
一方、上記のような超電導ケーブルにおいては、短絡事故などの際、事故電流が超電導線材に流れ、過度の温度上昇により同線材が損傷することを防止するために、事故電流の分流路を確保する必要がある。そのため、超電導ケーブルの構成材料に常電導材料を組み合わせることが提案されている。例えば、特許文献2では、超電導線材からなる導体層の外側に事故電流の分流路となる常電導の金属層を形成することが開示されている。また、特許文献3には、芯材(フォーマ)の構成材料に常電導材料からなる絶縁被覆線材の撚り線構造を用い、事故電流の分流路とすることが開示されている。
【0006】
【特許文献1】特開2001-202837公報(図1)
【特許文献2】特開2000-67663公報
【特許文献3】特開2001-325838公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上記のような超電導ケーブルでは、運転時、冷媒により極低温に冷却されてケーブルの構成材料が収縮する。そのため、この収縮分を吸収する構造が求められる。しかし、超電導ケーブルの構成材料のうち、特に常電導材料で構成される部材については、その収縮分を吸収するための適切な構造が提案されていない。
【0008】
3心のケーブルコアを有する構成では、これらコアの撚り合わせにたるみを持たせるなどによりケーブル構成材料の収縮分を吸収する対策を講じることができる。しかし、その場合は、コアにたるみを持たせた分だけケーブル外径を大きくする必要がある。一方、単心の超電導ケーブルでは、3心ケーブルのような対策を採ることができない。そのため、冷却に伴う超電導線材および常電導線材の収縮が十分に吸収できないと、これら両線材に応力が作用する。その際、超電導線材の劣化を招いたり、ケーブルの収縮に伴って、ケーブルの曲がり部において断熱管に側圧が加わり、断熱性能が低下する場合がある。
【0009】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたもので、その主目的は、超電導ケーブルの構成材料のうち、冷却に伴う常電導層の収縮分を簡易な構成にて極力吸収できる超電導ケーブルを提供することにある。
【0010】
本発明の他の目的は、超電導ケーブルの構成材料のうち、冷却に伴う常電導層の収縮分を簡易な構成にて極力吸収し、さらに超電導層の収縮分も極力吸収できる超電導ケーブルを提供することにある。
【0011】
また、本発明の別の目的は、冷却に伴う常電導層の収縮分を簡易な構成にて極力吸収でき、かつ常電導材料の使用量をも低減できる超電導ケーブルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明超電導ケーブルは、超電導層と、この超電導層の内側および外側の少なくとも一方に配される常電導層とを有する超電導ケーブルであって、この常電導層の内側に応力緩和層を有し、この応力緩和層により、冷媒の冷却に伴う常電導層の径方向への収縮分を吸収するように構成されていることを特徴とする。
【0013】
常電導層の内側に応力緩和層を設けることで、冷却により常電導層が収縮した際、この収縮に伴う常電導層の縮径量(冷却により常電導層の径が小さくなる量)に相当する分の少なくとも一部を応力緩和層で吸収する。それにより、常電導層に生じる張力を減じることができる。また、常電導層が縮径することで、超電導層にも縮径作用が生じ、特に短ピッチで巻かれた超電導線材の冷却時の収縮に伴って生じる応力を減じることができる。
【0014】
以下、本発明超電導ケーブルの構成を詳しく説明する。
【0015】
本発明超電導ケーブルは、代表的には、ケーブルコアと、ケーブルコアを収納する断熱管とから構成される。そのうち、ケーブルコアは、応力緩和層、常電導層、超電導導体層、絶縁層を有することを基本構成とする。通常は、ケーブルコアにケーブル構成部材となるフォーマも設けられている。その場合、例えばフォーマに応力緩和層と常電導導体層とを形成する。
【0016】
応力緩和層は、常電導層の熱収縮分を吸収するための層である。常電導層は、ケーブルの構成材料のうち、常電導材料で構成された層のことで、代表的には、短絡時などの事故電流が分流するために常電導材料で形成した分流路が該当する。より具体的には、フォーマの一部を常電導材料で構成することが挙げられる。
【0017】
フォーマは、超電導導体層を所定形状に保形するために超電導導体層の内側に配されるものである。本発明ケーブルでは、このフォーマに常電導層と応力緩和層とを形成することが好適である。例えば、内側から順に応力緩和層、常電導導体層を形成し、常電導導体層の縮径分を応力緩和層で吸収する。
【0018】
常電導層は、例えば常電導線材で構成する。より具体的には、常電導線材として銅線やアルミ線を用いる。銅線やアルミ線は、導電率が高いため、過電流の分流路として好適であり、非磁性であるため交流損失の低減の点からも好ましい。常電導線材の断面形状は特に限定されず、丸線でも良いし、テープ状線材でもよい。フォーマの一部を構成する常電導導体層の場合、通常、巻き付け径が小さいため、丸線の方が巻回しやすい。ただし、丸線により常電導導体層を構成した場合、その外周面を平滑化するために、常電導導体層の上にテープ巻き層を設けたり、外周面付近のみ径の小さい常電導線材を用いるなどすることが好ましい。
【0019】
この常電導層は、撚り線構造として構成することが好ましい。例えば、次述する応力緩和層の外側に常電導線材を螺旋状に巻回して構成する。常電導線材を螺旋状に巻回することで、常電導線材自身が冷却時に容易に縮径することができる。また、この撚り線構造は、複数本の素線を撚り合わせてセグメント導体を構成し、そのセグメント導体を複数本集合して構成してもよい。
【0020】
常電導層を構成する常電導線材は、素線絶縁されていることが好ましい。素線絶縁した常電導線材を螺旋状に巻回することで、常電導線材の間の渦電流パスを切断してロスをより小さくすることができる。
【0021】
一方、応力緩和層は、冷媒によりケーブルが極低温に冷却された際、この常電導層の縮径分の少なくとも一部を吸収できるような収縮量を持ったものとすれば良い。応力緩和層は、この所定の収縮量を得られるような材質と厚さを有する構成とすれば良い。
【0022】
この応力緩和層の構成材料としては、クラフト紙、プラスチックテープおよびクラフト紙とプラスチックテープとの複合テープの少なくとも1種が好適に利用できる。プラスチックテープには、ポリオレフィン、特にポリプロピレンが好適に利用できる。通常、クラフト紙は安価であり、冷却による収縮量が少ないものの、セルロース繊維のクッション効果が期待される。プラスチックテープは、冷却による収縮量が大きい。クラフト紙とポリプロピレンとの複合テープは高価であるが、ポリプロピレンの厚みの大きなものを用いれば、大きな収縮量を確保することができ、かつクラフト紙を構成するセルロース繊維のクッション効果も期待される。これらの材料で応力緩和層を構成することにより、常電導線材の縮径量が大きい場合でも常電導線材に過度の張力がかからないような応力緩和層を形成することができる。その他、クラフト紙ではクレープクラフト紙や調湿クラフト紙が大きな収縮量を確保することができる。そして、これらの材料を単独で或いは組み合わせて、常電導層の縮径量の少なくとも一部を吸収できるような厚みの応力緩和層を構成すればよい。
【0023】
応力緩和層の内側には、芯材を配しても良い。この芯材は応力緩和層の形成を容易にすると共に、芯材の径により応力緩和層の厚さを調整して、常電導層の収縮分の吸収量を調整することができる。芯材の形態としては、中空でも中実でも良い。中空芯材の具体例としては、パイプ材やスパイラルに成形した帯状体が挙げられる。パイプ材は、屈曲性を考慮してコルゲートパイプとすることが好ましい。中実芯材の具体例としては、撚り線構造が挙げられる。
【0024】
超電導導体層は、超電導線材から構成される導体部分である。例えば、超電導線材をフォーマの外側に螺旋状に多層に巻回することで導体層を形成する。超電導線材の具体例としては、Bi2223系酸化物超電導材料からなる複数本のフィラメントが銀シースなどのマトリクス中に配されたテープ状のものが挙げられる。超電導線材の巻回は単層でも多層でもよい。通常、導体層の偏流を抑制して交流損失を低減させるため、各層ごと或いは複数層ごとに超電導線材の巻き付け方向または巻き付けピッチが変えられる。また、多層とする場合、層間絶縁層を設けてもよい。層間絶縁層は、クラフト紙などの絶縁紙やPPLP(住友電気工業株式会社製、登録商標)などの複合紙を巻回して設けることが挙げられる。
【0025】
絶縁層は、導体層の電圧に応じた絶縁耐力を有する絶縁材料で構成する。例えば、クラフト紙、プラスチックテープおよびクラフト紙とプラスチックテープとの複合テープの少なくとも1種が好適に利用できる。
【0026】
以上の各材料において、クラフト紙だけで絶縁層を構成する構造が最も低コストである。複合テープとクラフト紙とを複合して用いれば、複合テープのみで絶縁層を構成する場合に比べて高価な複合テープの使用量を低減でき、ケーブルコストを下げることができる。
【0027】
一方、絶縁層に複合テープを用いることは、電気特性上好ましい。複合テープとしては、クラフト紙とポリプロピレンフィルムをラミネートしたものが好適である。
【0028】
この絶縁層の外側に超電導シールド層を設けてもよい。超電導シールド層は、超電導導体層とほぼ同じ大きさで逆方向の電流が誘導されることで超電導導体層から生じる磁場を相殺し、外部への磁場の漏洩を防止する。この超電導シールド層も、超電導導体層と同様の超電導線材を螺旋状に巻回して構成される。通常、超電導導体層と同様に、偏流を抑制するために各層ごと或いは所定の複数層ごとに超電導シールド層を構成する超電導線材の巻き付け方向または巻き付けピッチが変えられる。
【0029】
一方、常電導シールド層は、例えば超電導シールド層に近接して配される常電導材料からなるシールド層である。通常のケーブル運用時、上述したように、超電導シールド層には、超電導導体層とほぼ同じ大きさで逆方向の電流が誘導される。これに対して、短絡事故などにより過電流が超電導導体層に流れ、それに応じて超電導シールド層にも過電流が流れる場合に、常電導シールド層は、その分流路として機能することで、過度の温度上昇による超電導シールド層の損傷を抑制する。
【0030】
この常電導シールド層は、常電導導体層と同様に常電導線材で構成し、螺旋状に巻回して構成することが好適である。特に、常電導シールド層は、テープ状常電導線材で構成することが好ましい。常電導シールド層は、常電導導体層に比べて巻き付け径が大きいため、テープ線材でも巻回しやすく、必要な断面積の常電導シールド層を薄く形成できる。また、テープ線材は丸線に比べて各線材間のギャップが非常に小さく、常電導層の断面に占める常電導線材の割合(占積率)を高めることができる。
【0031】
この常電導シールド層の縮径分も、前述したようにフォーマに形成した応力緩和層で吸収できるように構成することが好適である。つまり、フォーマが縮径すると絶縁層が縮径しやすくなり、常電導シールド層の収縮に寄与することになる。その他、絶縁層自体を常電導シールド層の縮径分を吸収するための応力緩和層として利用しても良い。絶縁層自体を応力緩和層として利用すれば、ケーブルコアの小径化に寄与することができる。
【0032】
さらに、ケーブルコアの最外周に保護層を設けることが好ましい。この保護層は、外部導体層の機械的保護と共に、断熱管との絶縁の機能を有する。保護層の材質としては、クラフト紙などの絶縁紙やプラスチックテープが利用できる。
【0033】
一方、断熱管は、冷媒の断熱が維持できる構造であれば、どのような構造でも構わない。例えば、外管と内管とからなる二重構造の二重管の間に断熱材を配置し、内管と外管との間を真空引きする構成が挙げられる。通常、内管と外管との間には、金属箔とプラスチックメッシュを積層したスーパーインシュレーションが配置される。内管内には、少なくとも導体層が収納されると共に、導体層を冷却する液体窒素などの冷媒が充填される。
【0034】
この冷媒は、超電導線材を超電導状態に維持できるものとする。現在、冷媒には液体窒素の利用が最も実用的と考えられているが、その他、液体ヘリウム、液体水素などの利用も考えられる。特に、液体窒素の場合、ポリプロピレンを膨潤させない液体絶縁であり、ポリプロピレンを用いた複合テープで絶縁層を構成した場合でも直流耐電圧特性やImp.耐圧特性に優れた超電導ケーブルを構成することができる。
【0035】
その他、上述した本発明ケーブルにおいて、次の構成を単独で或いは複合して設けることが好ましい。
【0036】
(1)常電導線材の巻き付けピッチを、巻き付け径の4〜6倍とする。
巻き付け径とは、常電導線材が巻き付けられる部材の径、つまり常電導線材により構成された層の内径のことである。巻き付け径に対する巻き付けピッチの比率を上記のように限定することで、冷却により常電導線材が収縮した際の縮径量を小さくできる短ピッチで、かつ常電導線材の使用量も抑制できる巻き付けピッチとすることができる。
【0037】
常電導線材の巻き付けピッチが小さくなれば、冷却により常電導線材が収縮した際の縮径量、すなわち応力緩和層で吸収すべき量も小さくなるため、応力緩和層を形成しやすくできる。ところが、巻き付けピッチが小さくなると、常電導線材の使用量が増え、コスト増につながるため、常電導線材の使用量の増加を極力抑えた巻き付けピッチの選択が重要となる。そこで、巻き付け径に対する巻き付けピッチの比率を上記のように限定することで、冷却により常電導線材が収縮した際の縮径量を小さくできる短ピッチで、かつ常電導線材の使用量も比較的抑えたピッチにて超電導ケーブルを構成することができる。
【0038】
このような常電導線材の好ましい巻き付けピッチは、次のように試算あるいは実測することで求めることができる。まず、常電導層を構成する常電導線材の巻き付けピッチと巻き付け径の比率「(ピッチ/径)比」と常電導線材の冷却時の縮径量との関係を調べる。次に、「(ピッチ/径)比」と常電導線材の使用量との関係を調べる。そして、常電導線材の縮径量を規定値以下にでき、かつ常電導線材の使用量を規定値以下にできる常電導線材の巻き付けピッチおよび巻き付け径を選択する。
【0039】
なお、常電導層(常電導導体層や常電導シールド層)を多層に巻回した常電導線材で構成した場合、各層ごと或いは所定の複数層ごとに常電導線材の巻き付け方向または巻き付けピッチを変えることが好ましい。これにより、常電導層における偏流を抑制することができる。そして、このように超電導線材の巻き付けピッチを変える場合でも、縮径量と線材使用量の観点からは常電導線材の巻き付けピッチを巻き付け径の4〜6倍の範囲内で変えることが望ましい。
【0040】
(2)半導電層を形成する。
例えば、絶縁層の内外周の少なくとも一方、つまり超電導導体層と絶縁層との間や、絶縁層と超電導シールド層との間に半導電層を形成しても良い。前者の内部半導電層、後者の外部半導電層を形成することで、電気性能の安定に有効である。半導電層は、カーボン紙の巻回などにより構成すればよい。
【0041】
(3)加圧焼成法により製造されたBi系酸化物超電導線材を用いる。
超電導線材を螺旋状に巻回して超電導層(超電導導体層や超電導シールド層)を構成する場合、通常、偏流抑制の観点から種々の異なるピッチを組み合わせて超電導線材を巻き付けている。一方、超電導線材の巻き付け径が同じであれば、巻き付けピッチが長いほど縮径量は大きい。そのため、応力緩和層による吸収量によっては、巻き付けピッチの大きい超電導線材には収縮に伴う応力の作用を許容する必要がある。その場合、超電導線材が抗張力性に優れた線材であれば、十分実用的な超電導ケーブルを構成することが可能である。この抗張力性に優れた超電導線材を得る手段の一つとして、加圧焼成法により超電導線材を製造することが挙げられる。
【0042】
加圧焼成法は、超電導線材を製造するPowder in tube法において、超電導線材の元線材を二次焼結する際にガスによる加圧を行って線材に外圧を等方的に加える方法である。この加圧により線材のフィラメント密度の低下を抑制して、高い引張強度の超電導線材を得ることができる。本発明ケーブルの場合、常電導層の縮径量を応力緩和層により吸収して超電導線材への応力の作用を緩和しているが、それでも超電導線材に応力、特に引張応力が作用することが考えられる。そのため、抗張力性に優れた超電導線材であれば、超電導線材への張力の作用を許容でき、超電導線材の劣化を効果的に抑制できる。
【0043】
特に、巻き付けピッチの異なる超電導線材で超電導層を構成している場合、巻き付けピッチの大きな超電導線材に加圧焼成法により得られた超電導線材を適用することが好ましい。巻き付けピッチが大きい超電導線材は巻き付けピッチが小さい超電導線材に比べ縮径量が大きいため、その縮径量をうまく吸収できないと超電導電材に張力が作用する。そのため、張力の作用しやすい超電導線材に加圧焼成法により得られた超電導線材を適用すれば、超電導線材の劣化を効果的に抑制できる。
【0044】
加圧焼成法による加圧時のガスとしては不活性ガスと酸素の混合ガスが好適であり、加圧圧力は15〜30MPaが好適である。この加圧焼成法については、例えば「ビスマス系超電導線材の開発」山崎浩平など「SEIテクニカルレビュー」 第164号 36-41ページ 2004年3月に示されている。
【0045】
(4)超電導線材に、その引張強度を補強する補強層を設ける。
超電導線材の引張強度が高ければ、超電導線材への応力の作用を許容できて好ましいことは前述したとおりであるが、超電導線材に補強層を設けることでも抗張力性の超電導線材を構成することができる。この補強層としては、例えば、超電導線材にステンレステープを貼り合わせたり、超電導線材にエナメルなどの樹脂コーティングを施すことが挙げられる。
【0046】
(5)押え巻き層、クッション層を設ける。
超電導層(超電導導体層や超電導シールド層)の外側に押え巻き層を形成してもよい。超電導層の外側に押え巻き層を形成することで、超電導層に対して内側に締め付ける作用が期待できる。その締付作用により、超電導層の縮径を円滑に挙動させることができる。押え巻き層の材質は、超電導層に所定の締付力を生じさせられるものであればよく、例えば金属テープ、特に銅テープなどが好適に利用できる。
【0047】
この押え巻き層を用いた場合、押え巻き層と超電導層との間にクッション層を介在させることも好ましい。押え巻き層に金属テープを用いた場合、通常、超電導線材も銀などの金属が用いられているため、押え巻き層と超電導層とは金属同士の接触となり超電導線材が損傷する可能性がある。そのため、両層の間にクッション層を介在させれば、これら金属同士の直接接触を回避して、超電導線材の損傷を防止することができる。クッション層の具体的材質としては、絶縁紙やカーボン紙が好適に利用できる。
【発明の効果】
【0048】
本発明超電導ケーブルによれば、次の効果を奏することができる。
【0049】
(1)常電導層の内側に応力緩和層を設けることで、冷却により常電導線材が収縮した際、この収縮に伴う常電導層の縮径量に相当する分の少なくとも一部を応力緩和層で吸収することができる。これにより、特に短ピッチで巻かれた超電導線材への応力の作用も緩和あるいは解消することができる。
【0050】
(2)常電導層の縮径量に相当する分の少なくとも一部を応力緩和層で吸収することで、ケーブルコアに作用する張力が低減し、ケーブル端末にかかる応力を小さくすることができる。それに伴い、ケーブル端末の設計が簡易に行える。さらに、ケーブルコアに作用する張力の低減により、ケーブル曲がり部の側圧による断熱層の断熱性能の低下も抑制することができる。
【0051】
(3)ケーブルコア自身に熱収縮を吸収する機構を設けたことで、多心超電導ケーブルはもちろん、従来、吸収機構を設けることが難しいと考えられていた単心超電導ケーブルにおいても常電導線材および超電導線材の収縮分の少なくとも一部を吸収することが可能になる。3心ケーブルなどの多心ケーブルの場合、より合わせのたるみを小さくでき、ケーブル外径を小さくすることができる。
【0052】
(4)常電導線材の巻き付けピッチを巻き付け径の4〜6倍とすることで、冷却時の常電導線材の収縮分を簡易な構成にて吸収でき、かつ常電導線材の使用量をも極力低減できる超電導ケーブルとすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0053】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0054】
(実施例1)
[全体構造]
図1に示すように、本発明交流超電導ケーブル100は、1心のケーブルコア10と、そのコア10を収納する断熱管20とから構成される。
【0055】
[コア]
このコア10は、中心から順に、フォーマ11、超電導導体層12、クッション層13、押え巻き層14、絶縁層15、超電導シールド層16、常電導シールド層17、保護層18を有する。
【0056】
<フォーマ>
フォーマ11は、超電導線材からなる超電導導体層12を形成するための芯となる部材で、中心から順に、芯材11A、応力緩和層11B、常電導導体層11Cを備えている。ここでは、芯材11Aにスパイラル鋼帯を用い、その芯材11A上に絶縁テープを巻き付けて応力緩和層11Bとし、さらに応力緩和層11Bの上に常電導線材を巻回して常電導導体層11Cとしている。
【0057】
芯材11Aには、応力緩和層11Bを形成するための芯となる部材で、巾6mm×厚さ0.8mmのSUS316鋼帯を螺旋状に巻回して構成している。
【0058】
応力緩和層11Bは、常電導導体層11Cが熱収縮した際の縮径量を吸収できるような材質・厚みを選択する。より具体的には、絶縁テープとして、クラフト紙とポリプロピレンフィルムをラミネートした住友電気工業株式会社製複合テープPPLP(登録商標)を用いた。このPPLPにおける複合テープ全体の厚みに対するポリプロピレンフィルムの厚みの比率は60%である。
【0059】
また、常電導導体層11Cは、短絡事故などの際、過大な事故電流が超電導導体層12に流れて超電導導体層12が損傷することを抑制するために、事故電流の分流路となるものである。ここでは、ポリフッ化ビニルを被覆した銅線を応力緩和層11B上に螺旋状に巻き付けて構成している。この常電導導体層11Cは2層から構成され、内周側の銅線は直径1.5mm、外周側の銅線は直径1.1mmである。常電導導体層11Cの各層の巻回方向は、内層側から順にS-Zとした。
【0060】
<超電導導体層>
超電導導体層12には、厚さ0.24mm、幅3.8mmのBi2223系Ag-Mnシーステープ線材を用いた。このテープ線材は、加圧焼成法により製造されている。このテープ線材をフォーマ11(常電導導体層11C)の上に多層に巻回して超電導導体層12を構成する。ここでは、4層に超電導線材を巻き付ける。各層の巻回方向は、内層側から順にS-S-Z-Zとした。
【0061】
<クッション層と押え巻き層>
超電導導体層12の上にクッション層13を形成し、さらにその上に押え巻き層14を形成した。クッション層13は、超電導導体層12上に数層のクラフト紙を巻きつけることで構成し、押え巻き層14は銅テープを巻き付けることで構成した。クッション層13は超電導導体層12と押え巻き層14による金属同士の接触を回避し、押え巻き層14はクッション層13を介して超電導導体層12を内周側に締め付けて冷却時の超電導導体層12の縮径、さらには常電導導体層11Cの縮径を円滑に挙動させる。
【0062】
<絶縁層>
押え巻き層14の上には絶縁層15が形成される。この絶縁層15は、導体層12に流れる交流に対する電気絶縁の機能を有する。ここでは、PPLPで絶縁層15を構成した。また、この絶縁層15は、後に述べる常電導シールド層17の冷却に伴う縮径量を吸収する外部応力緩和層としての機能も有する。絶縁層15自体を外部応力緩和層とすることで、別個に外部応力緩和層を形成する必要がなく、ケーブルコアの外径が大きくなることを抑制できる。
【0063】
また、図示していないが、この絶縁層15の内周側には内部半導電層が、外周側には外部半導電層が形成されている。いずれの半導電層もカーボン紙の巻回により形成した。
【0064】
<超電導シールド層>
絶縁層15の外側には、超電導シールド層16を設けた。この超電導シールド層16は、ケーブル運用時、超電導導体層12とほぼ同じ大きさで逆方向の電流が誘導されることで超電導導体層12から生じる磁場を相殺し、外部への磁場の漏洩を防止する。ここでは、超電導導体層12と同様の超電導線材で構成した。より具体的には、2層に構成され、各層の巻回方向はS-Sとしている。
【0065】
<常電導シールド層>
続いて、超電導シールド層16の上に常電導シールド層17を形成した。この常電導シールド層17は、短絡事故時などに過大な事故電流が超電導シールド層16に誘導されて超電導シールド層16が損傷することを抑制するために、事故電流の分流路となるものである。ここでは、ポリフッ化ビニルを被覆した銅線を超電導シールド層16上に螺旋状に巻き付けて構成している。この常電導シールド層17は2層から構成され、テープ状銅線が用いられている。常電導シールド層17の各層の巻回方向は、内層側から順にS-Zとした。
【0066】
<保護層>
この常電導シールド層17の外側には絶縁材料で構成される保護層18が設けられている。ここでは、クラフト紙の巻回により保護層18を構成している。この保護層18により、常電導シールド層17の機械的保護と共に、断熱管(内管21)との絶縁をとり、断熱管20への誘導電流の分流を防ぐことができる。
【0067】
[断熱管]
断熱管20は内管21および外管22を具える2重管からなり、内外管21、22の間に真空断熱層が構成される。真空断熱層内には、プラスチックメッシュと金属箔を積層したいわゆるスーパーインシュレーションが配置されている。内管21の内側とコア10との間に形成される空間は冷媒の流路となる。また、必要に応じて、断熱管20の外周にポリ塩化ビニルなどで防食層23を形成しても良い。
【0068】
(試算例)
次に、上記の超電導ケーブルを作製するのに際し、常電導線材の縮径量を小さくできるように同線材の短ピッチ化を目指しながら、常電導線材の使用量を少なくできるように以下の試算を行った。
【0069】
まず、常電導層を構成する常電導線材の巻き付けピッチと巻き付け径の比率「(ピッチ/径)比」と常電導線材の縮径量との関係を調べてみた。ここでは、巻き付け径を20mmφ、30mmφ、40mmφの3通りとして、各場合における「(ピッチ/径)比」と、運転時の冷却により常電導線材が0.3%収縮するとした場合の縮径量を各材料の線膨張係数を用いて試算した。その結果を図2のグラフに示す。
【0070】
このグラフに示すように、「(ピッチ/径)比」が同じであれば、巻き付け径が大きいほど縮径量は小さいことがわかる。また、同じ巻き付け径であれば、「(ピッチ/径)比」が小さい方が縮径量も小さいことがわかる。この結果からすれば、短ピッチを選択した方が吸収すべき縮径量が小さくて済むことがわかる。
【0071】
次に、「(ピッチ/径)比」と常電導線材の使用量との関係を調べてみた。ここでは、常電導線材を巻き付け対象の長手方向に沿わせた場合、つまり縦添えした場合の常電導線材の使用量を1.0とし、「(ピッチ/径)比」を変えた場合に常電導線材の使用量がどのように変化するかを相対値で示した。その結果を図3のグラフに示す。
【0072】
このグラフに示すように、「(ピッチ/径)比」が6.0程度までは常電導線材の使用量は極端に多くはならないが、同比が4.0未満となったあたりから急激に常電導線材の使用量が大きくなることがわかる。
【0073】
以上の2つの試算結果から、冷却時の常電導線材の収縮分を容易に吸収しやすい程度として、かつ常電導線材の使用量も少なくしようとすれば、「(ピッチ/径)比」を4.0〜6.0程度にすればよいことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明超電導ケーブルは、電力輸送手段として利用することができる。特に、単心の交流電力輸送手段として好適に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明超電導ケーブルの横断面図である。
【図2】「(ピッチ/径)比」と常電導線材の冷却時の縮径量との関係を示すグラフである。
【図3】「(ピッチ/径)比」と常電導線材の使用量との関係を示すグラフである。
【図4】従来の超電導ケーブルの横断面図である。
【符号の説明】
【0076】
100 超電導ケーブル
10 コア
11 フォーマ 11A 芯材 11B 応力緩和層 11C 常電導導体層
12 超電導導体層 13 クッション層 14 押え巻き層
15 絶縁層 16 超電導シールド層 17 常電導シールド層 18 保護層
20 断熱管
21 内管 22 外管 23 防食層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超電導層と、この超電導層の内側および外側の少なくとも一方に配される常電導層とを有する超電導ケーブルであって、
この常電導層の内側に応力緩和層を有し、
この応力緩和層により、冷媒の冷却に伴う常電導層の径方向への収縮分の少なくとも一部を吸収するように構成されていることを特徴とする超電導ケーブル。
【請求項2】
前記常電導層は、螺旋状に巻回される常電導線材で構成されることを特徴とする請求項1に記載の超電導ケーブル。
【請求項3】
前記常電導線材の巻き付けピッチが、巻き付け径の4〜6倍であることを特徴とする請求項2に記載の超電導ケーブル。
【請求項4】
前記超電導ケーブルは、フォーマと、フォーマの外側に超電導層として形成される超電導導体層と、超電導導体層の外側に形成される絶縁層とを有し、
前記フォーマは、前記常電導層と応力緩和層とを有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の超電導ケーブル。
【請求項5】
さらに前記超電導ケーブルは、前記絶縁層の外側に超電導層として形成される超電導シールド層と、超電導シールド層の外側に常電導層として形成される常電導シールド層とを有することを特徴とする請求項4に記載の超電導ケーブル。
【請求項6】
前記超電導層は超電導線材により構成され、
この超電導線材が加圧焼成法により製造されたBi系酸化物超電導線材であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の超電導ケーブル。
【請求項7】
前記超電導層は超電導線材により構成され、
この超電導線材には、その引張強度を補強する補強層が設けられていることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の超電導ケーブル。
【請求項8】
前記応力緩和層が、クラフト紙、プラスチックテープおよびクラフト紙とプラスチックテープとの複合テープの少なくとも1種から構成されることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の超電導ケーブル。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate