説明

超電導体及びその製造方法

【課題】従来の超伝導体と比して、安価で、且つ供給量が安定している構成元素のみで構成される超伝導体を実現する。
【解決手段】超伝導体は、8族の元素、15族の元素、及び16族の元素のみを含む。15族の元素及び16族の元素の合計モル数が、8族の元素のモル数と等しくなる組成比となるように混合を行うことが好ましい。更には、上記混合工程では、8族の元素:15族の元素:16族の元素のモル比が3:2:1〜5:4:1の範囲内となるように混合を行うことがより好ましく、更に好ましくは10:6:4〜10:7:3の範囲内であり、最も好ましくは4:3:1である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、安価で、且つ資源供給量が安定している構成元素のみからなる超伝導体に関する。より詳しくは、アルカリ土類金属元素、及び希土類元素を含まず、8族の元素、15族の元素、及び16族の元素のみからなる超伝導体に関する。
【背景技術】
【0002】
1911年に初めて超伝導現象が発見されて以来、多様な金属材料が極低温で超伝導現象を示すことが明らかとなってきた。超伝導状態では、物質の電気抵抗がなくなるため、強力な電磁石や低損失送電への利用など広い応用が期待できる。現在の超伝導体は、動作温度領域が低温にとどまっており、実用化のためにより高い転移温度の材料開発が望まれている。
【0003】
これまでに発見された高温超電導体としては、銅酸化物系(超伝導転移温度Tcは最高135K)やMgB(Tc=39K)などが知られていた。
【0004】
最近、東京工業大学の細野教授のグループによりFeAs系の高温超伝導体が新たに発見され、この物質系の研究が急速に進展している。最初に発見されたのは、La(O、F)FeAsにおける超伝導(Tc=26K)であった(非特許文献1)。その後、La(O、F)FeAsのLaをNd、Smなどの他の希土類元素で置き換えると、Tcが50K以上まで上昇することが報告された(非特許文献2、3)。また、上記のFeAs系とは構造が異なる(Ba、K)FeAsは、最高38KのTcを示すことが報告されている(非特許文献4)。
【非特許文献1】Y. Kamihara et al., “Iron-Based Layered Superconductor La [O1-xFx] (x=0.05-0.12) with Tc=26K” J.AM.CHEM.SOC. 130, 3296-3297, (2008)
【非特許文献2】ZHI-AN REN et al., “Superconductivity in the iron-based F-doped layerd quaternary compound Nd [O1-xFx] FeAs” EPL, 82 (2008) 57002
【非特許文献3】D. Johrendt and R. Pottgen., “Pnictide Oxides: A New Class of High-Tc Superconductors ” Angew. Chem. Int. Ed., 47, 4782-4784, (2008)
【非特許文献4】M.Rotter et al., “Superconductivity at 38K in the iron arsenide (Ba1-xKx) Fe2As2” arXiv:0805.4630v2 [cond-mat. supr-con] 17 Jul 2008
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、これらの超伝導体は、BaやSr等のアルカリ土類金属元素や、LaやNd等の希土類元素を必須に含んでいるため、コスト、資源供給の将来的安定性の面で問題があった。
【0006】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、高コストで資源供給の安定性に問題のあった従来の超伝導体と比べて、安価で、且つ供給量が安定している構成元素のみで構成される超伝導体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討を重ねた結果、アルカリ土類金属、希土類金属を含まず、8族の元素、15族の元素、及び16族の元素のみを構成元素とする超伝導体の作製が可能であることを新たに見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち、本発明の超伝導体は、上記課題を解決するために、8族の元素、15族の元素、及び16族の元素のみを含むことを特徴としている。
【0009】
上記構成によれば、8族の元素、15族の元素、及び16族の元素のみを含むため、安価で、且つ供給量が安定している構成元素のみで構成される超伝導体を提供することができるという効果を奏する。
【0010】
本発明の超伝導体は、上記8族の元素はFeであり、上記15族の元素はAsであり、上記16族の元素はOであることが好ましい。
【0011】
上記構成によれば、より安価で、且つより供給量が安定している構成元素のみで構成される超伝導体を提供することができる。
【0012】
本発明の超伝導体の製造方法は、上記課題を解決するために、構成元素が8族の元素、15族の元素、及び16族の元素のみである混合物を作製する混合工程と、上記混合物を焼成する焼成工程とを含むことを特徴としている。
【0013】
上記方法によれば、8族の元素、15族の元素、及び16族の元素のみを含む原料から超伝導体を製造することができるため、安価で、且つ供給量が安定している構成元素のみで構成される超伝導体を製造することができるという効果を奏する。
【0014】
本発明の超伝導体の製造方法において、上記混合工程では、8族の元素と、8族の元素及び15族の元素の化合物と、8族の元素及び16族の元素の化合物とを混合することが好ましい。
【0015】
本発明の超伝導体の製造方法において、上記混合工程では、15族の元素及び16族の元素の合計モル数が、8族の元素のモル数と等しくなる組成比となるように混合を行うことが好ましい。
【0016】
本発明の超伝導体の製造方法において、上記混合工程では、8族の元素:15族の元素:16族の元素のモル比が3:2:1〜5:4:1の範囲内となるように混合を行うことが好ましい。
【0017】
本発明の超伝導体の製造方法では、上記8族の元素はFeであり、上記15族の元素はAsであり、上記16族の元素はOであることが好ましい。
【0018】
上記方法によれば、より安価で、且つより供給量が安定している構成元素のみで構成される超伝導体を製造することができる。
【0019】
本発明の超伝導体は、上記課題を解決するために、本発明の超伝導体の製造方法により得られることを特徴としている。
【0020】
上記構成のよれば、8族の元素、15族の元素、及び16族の元素のみを含む原料から製造されるため、安価で、且つ供給量が安定している構成元素のみで構成される超伝導体を提供することができるという効果を奏する。
【発明の効果】
【0021】
本発明の超伝導体は、以上のように、安価で、且つ供給量が安定している構成元素のみで構成される超伝導体を提供することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明の実施の形態について詳細に説明すれば以下のとおりであるが、本発明はこれに限定されるものではない。また本明細書中の「〜」は「以上、以下」を意味し、例えば明細書中で「A〜B」と記載されていれば「A以上、B以下」を示す。また本明細書中の「及び/又は」は、いずれか一方又は両方を意味する。
【0023】
<1.超伝導体の製造方法>
本実施の形態に係る超伝導体の製造方法は、混合工程と、焼成工程とを含む。なお、超伝導体とは、ある温度以下で電気抵抗がゼロとなる物質である。
【0024】
(1−1)混合工程
上記混合工程は、構成元素が8族の元素、15族の元素、及び16族の元素のみである混合物を作製する工程である。
【0025】
上記混合物は、例えば、8族の元素、15族の元素、16族の元素、8族の元素及び15族の元素の化合物、8族の元素及び16族の元素の化合物、並びに15族の元素及び16族の元素の化合物からなる群から選択される物質を、得られる混合物の構成元素が、8族の元素、15族の元素、及び16族の元素を全て含むように混合することにより得られる。
【0026】
上記混合工程では、8族の元素と、8族の元素及び15族の元素の化合物と、8族の元素及び16族の元素の化合物とを混合することが好ましい。
【0027】
上記8族の元素としては、Fe、Ruが挙げられ、Feが好ましい。
【0028】
また、上記15族の元素としては、As、Sbが挙げられ、Asが好ましい。
【0029】
上記16族の元素としては、O、Sが挙げられ、Oが好ましい。
【0030】
上記8族の元素及び16族の元素の化合物としては、例えば、Fe、Fe等のFeの酸化物が挙げられ、Feが好ましい。
【0031】
上記8族の元素及び15族の元素の化合物としては、FeAsが挙げられる。
【0032】
上記15族の元素及び16族の元素の化合物としては、例えば、As等のAsの酸化物が挙げられ、Asが好ましい。
【0033】
上記混合工程では、15族の元素及び16族の元素の合計モル数が、8族の元素のモル数と等しくなる組成比となるように混合を行うことが好ましい。更には、上記混合工程では、8族の元素:15族の元素:16族の元素のモル比が3:2:1〜5:4:1の範囲内となるように混合を行うことがより好ましく、更に好ましくは10:6:4〜10:7:3の範囲内であり、最も好ましくは4:3:1である。
【0034】
上記混合物は、焼結工程前に成型することが好ましい。具体的には、上記混合物をプレス機を用いて棒状に押し固め、その後さらに熱処理を加えてもよい。また、金属管に上記混合物を詰め込み、成型加工後さらに熱処理を加えてもよい。
【0035】
(1−2)焼成工程
上記焼成工程は、混合工程により得られる上記混合物を焼成する工程である。
【0036】
上記焼成工程に使用する反応管としては、例えば石英ガラスが使用可能である。
【0037】
反応管の加熱は、例えば、アルゴン等の不活性ガス雰囲気中又は真空中において700〜900℃で24〜48時間行う。
【0038】
<2.超伝導体>
本実施の形態に係る超伝導体は、8族の元素、15族の元素、及び16族の元素のみを含む。上記超伝導体は、上述した製造方法により得られる。
【0039】
アルカリ土類金属及び希土類元素はコストが高く、将来的に資源供給量が安定しないことが予測されているが、従来の超伝導体の多くはアルカリ土類金属及び希土類金属を含んでいる。一方、本実施の形態に係る超伝導体は、アルカリ土類金属及び希土類金属を含まず、コストが低く、供給量も安定している8族の元素、15族の元素、及び16族の元素のみから作製可能である。
【0040】
なお、8族の元素、15族の元素、及び16族の元素のみを構成元素とする超伝導体はこれまでに当業者に知られておらず、本発明は、従来の課題を解決するための全く新しい物質を提供するものである。
【0041】
なお、本発明は上記の各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種種の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0042】
以下、本発明の具体例を挙げてさらに詳細に説明するが、以下の例により本発明は限定されるものではない。
【0043】
<実施例1.超伝導体の作製>
Fe、As、及びOの原料としては、それぞれFe、Fe、及びあらかじめ作製したFeAsを用いた。各試薬をFe:As:Oのモル比が4:3:1になるように秤量して混合し、プレス機によって棒状に押し固めた。これを、石英ガラスの管に少量のアルゴンガスと共に封じ、900℃までの昇温によって焼成することによって、焼結体を得た。なお、焼成は2回以上行った。
【0044】
上記のようにして得られた焼結体をMPMS(Quantum Design社)を用いて帯磁率を測定した。また、上記の焼結体の抵抗率を自作した装置を用いて交流4端子法により測定した。焼結体の帯磁率及び抵抗率の温度依存性の例を図1及び2に示す。
【0045】
図1中の(a)はフィールドクール時の上記焼結体の帯磁率を示し、(b)はゼロフィールドクール時の上記焼結体の帯磁率を示す。
【0046】
図1の帯磁率(b)では、50K以下で超伝導の反磁性に起因すると考えられる帯磁率の減少が弱いながらも観測された。(なお、この焼結体には強磁性体であるFeが不純物として含まれており、大きなバックグラウンドの帯磁率とヴァーヴェイ転移に伴う125K付近での異常の両方を生じた。)
図2に示す抵抗率の振る舞いでは、約150Kから顕著に減少し、最終的に約20Kでゼロ抵抗となった。帯磁率と抵抗率のデータを合わせて考えると、焼結体中に20〜50K程度のTcを有する超伝導相が存在していると考えられる。
【0047】
以上のことから、上記焼結体は超伝導体であることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明の超伝導体は、安価であり、且つ資源供給の安定性に優れている。従って、超伝導電力ケーブル、リニアモーターカー、超伝導発電機、超伝導電力貯蔵装置、及び強力電磁石(NMR用、MRI用、加速機用、及び核融合炉用など)などの分野において実用化の範囲を拡大することができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明のFe−As−O超伝導体(Fe:As:O=4:3:1)の帯磁率の温度依存性を示す図である。
【図2】本発明のFe−As−O超伝導体(Fe:As:O=4:3:1)の抵抗率の温度依存性を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
8族の元素、15族の元素、及び16族の元素のみを含むことを特徴とする超伝導体。
【請求項2】
上記8族の元素はFeであり、上記15族の元素はAsであり、上記16族の元素はOであることを特徴とする請求項1に記載の超伝導体。
【請求項3】
構成元素が8族の元素、15族の元素、及び16族の元素のみである混合物を作製する混合工程と、
上記混合物を焼成する焼成工程と、
を含むことを特徴とする超伝導体の製造方法。
【請求項4】
上記混合工程では、8族の元素と、8族の元素及び15族の元素の化合物と、8族の元素及び16族の元素の化合物とを混合することを特徴とする請求項3に記載の超伝導体の製造方法。
【請求項5】
上記混合工程では、15族の元素及び16族の元素の合計モル数が、8族の元素のモル数と等しくなる組成比となるように混合を行うことを特徴とする請求項3又は4に記載の製造方法。
【請求項6】
上記混合工程では、8族の元素:15族の元素:16族の元素のモル比が3:2:1〜5:4:1の範囲内となるように混合を行うことを特徴とする請求項3〜5に記載の製造方法。
【請求項7】
上記8族の元素はFeであり、上記15族の元素はAsであり、上記16族の元素はOであることを特徴とする請求項3〜6の何れか1項に記載の超伝導体の製造方法。
【請求項8】
請求項3〜7の何れか1項に記載の方法により得られることを特徴とする超伝導体。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−70441(P2010−70441A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−243148(P2008−243148)
【出願日】平成20年9月22日(2008.9.22)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【Fターム(参考)】