説明

超電導体

【発明の詳細な説明】
[発明の目的]
(産業上の利用分野)
本発明は、Bi−Sr−Ca−Cu−O系またはTl−Ba−Ca−Cu−O系の酸化物超電導体粉末を用いた超電導体に関する。
(従来の技術)
近年、La−Ba−Cu−O系の層条ペロブスカイト型の酸化物が高い臨界温度を有する可能性のあることが発表されて以来、各所で酸化物超電導体の研究が行われている(Z.Phys.B Condensed Matter 64,189−193(1986))。その中でもY−Ba−Cu−O系で代表される酸素欠陥を有する欠陥ペロブスカイト型の酸化物超電導体は、臨界温度Tcが90k以上と液体窒素以上の高い温度を有することが確認されている(Phys.Rev.Lett.vol.58 No.9,908−910)。
さらに、最近、臨界温度が105KのBi−Sr−Ca−Cu−O系やTl−Ba−Ca−Cu−O系の酸化物超電導体が発見されるに至った。
これらのBi−Sr−Ca−Cu−O系やTl−Ba−Ca−Cu−O系の酸化物超電導体は、La−Ba−Cu−O系やY−Ba−Cu−O系の酸化物超電導体に比べて、臨界温度が高いばかりでなく、高価な希土類元素が不要であること、水分に対する化学的安定性が高いことなどの利点があり、より優れた酸化物超電導体である。
ところで、この超電導体は、焼結体として得られる結晶性の酸化物であって、その単結晶のC面に平行に超電導電流を流したときの

とC面に垂直に流したときの

とでは、

の比で10〜1000と大きな差があり、また臨界磁場Bc2も、C面に垂直、平行に磁場をかけた場合、

で20以上も差があるという性質がある。
したがって、この酸化物超電導体の焼結体そのままや、これを粉砕した粉末を単に長尺化しただけでは、結晶の配列方向がランダムになり、所望の電流密度や臨界磁場が得られないという問題があった。
(発明が解決しようとする課題)
このように、Bi−Sr−Ca−Cu−O系やTl−Ba−Ca−Cu−O系の酸化物超電導体は、結晶のC面に沿って超電導電流が流れるため、この酸化物超電導体の焼結体そのままや、これを粉砕した粉末を単に長尺化しただけでは、結晶の配列方向がランダムになり、所望の臨界電流密度言Jcが得られないという問題があった。
本発明は、このような従来の難点を解消すべくなされたもので、Bi−Sr−Ca−Cu−O系またはTl−Ba−Ca−Cu−O系の超電導体粉末を用いた臨界電流密度の大きいテープ状または平角状の酸化物超電導体を提供することを目的とする。
[発明の構成]
(課題を解決するための手段)
本発明の酸化物超電導体は、下記式Bi2Sr2Ca1Cu2O8+δ、Bi2Sr2Ca2Cu3O10+δ、Tl2Ba2Ca1Cu2O8+δ、またはTl2Ba2Ca2Cu3O10+δ(δは酸素欠陥を表わす。以下同じ)
で表わされる酸化物超電導体粉末を、金属管に充填してなる超電導体において、前記酸化物超電導体の粉末が、前記金属管とともに圧延されて、厚さ100μm以下の層状とされていること、および上記酸化物超電導体粉末を、金属管に充填してコアとし、このコアの複数条を、共通の金属管中に収容してなる超電導体において、前記酸化物超電導体粉末が、前記コアの金属管とともに、または、前記コアの金属管および共通の金属管とともに圧延されて、厚さ100μm以下の層状とされていることを特徴としている。
本発明の酸化物超電導体および酸化物超電導体線材は、例えば以下に示す方法により得られる。
[酸化物超電導体粉末の製造]
まず、Bi、Sr、Ca、CuもしくはTl、Ba、Ca、CuなどのBi−Sr−Ca−Cu−O系またはTl−Ba−Ca−Cu−O系の構成元素の炭酸塩、酸化物、有機酸塩等を、化学量論化、すなわち、原子比で、2:2:1:2もしくは2:2:2:3となるよう配合し、これらを十分混合する。なお、これらの酸化物超電導体を構成する元素は、厳密に化学量論化である必要はなく、製造条件等とのかね合いで10%程度ずれていてもよい。また、微量のアルカリ金属化合物を添加して反応温度を低下させることも可能である。
前述の原料を混合した後、仮焼、粉砕し所望の形状にした後、焼成する。仮焼は必ずしも必要ではない。焼成、仮焼は十分な酸素が供給できるように酸素含有雰囲気で800℃以上、融点以下の温度、好ましくは870〜900℃が適当である。
そして、得られた酸化物超電導体焼結体を、ボールミル、その他公知の手段により粉砕する。このとき、酸化物超電導体の粉末は、へき開面から分割されて微粉末ろなる。平均粒径は1μm前後が適当である。なお、必要に応じて、粉砕した粉末を分級して用いてもよい。
[シングル超電導体の製造]
前述した酸化物超電導体の粉末を金属管に入れ、常法により、鍛造、圧延、線引き等の減面加工を順に行ない断面円形状態で細線化する。任意の外径まで縮径したところで、ロールにより酸化物超電導体層の厚さが100μm以下となるまて偏平に圧延する。
なお、加工硬化により減面加工が困難になった場合には、適宜焼鈍処理を行なうようにする。
また、断面円形に加工せずに、タークスヘッドロール等により側面を規制しながら矩形のままで減面加工を施すようにしてもよい。
金属管としては、Ag、Au、Pt、Pd、Cu、キュプロニッケル、ステンレス等の金属管を使用することができる。
第1図は、このようにして得られた超電導体を示すもので、1は矩形の金属管、2は厚さtが100μm以下にまで金属管1とともに圧延加工された酸化物超電導体であって、その配向率は、通常70%以上となっている。
なお、上記配向率は、金属を取り除き、内部の酸化物超電導体をX線回折を用いて回折強度を測定し、C面の(0010)ピークと(117)面ピークとの比率で示したものである。
このようにして製造された超電導体は、加工または線引きの過程で酸化物超電導体ほC面が加工方向と直交する方向、または線材の長手方向に配向さているので、線材全体としての電流容量が大きく向上し、また臨界磁場も向上する。
[マルチ超電導体の製造]
上記シングル超電導体をコアとして用い、これを第2図R>図に示すように、矩形金属管3中に積層して配置し、必要に応じて、さらに減面加工を施してマルチ超電導体とする。この金属管3用の素材としては、前記したコア用の金属を使用することができる。なお、コアの段階までは、酸化物超電導体3の層が100μmを超える範囲で圧延ておき、マルチ構成としてから、さらに圧延して最終的にこの層を100μm以下としてもよい。
また、高周波の交流やパルス電流用に用いる場合には、例えば第3図に示すように、内側を銅1aのように良導電金属とした外側をキュプロニッケル1bのような抵抗金属とした複合管を用いるようにすれば、高周波ロスを低減させることができる。
(作 用)
本発明の超電導体は、金属管内に充填されたBi−Sr−Ca−Cu−O系またはTl−Ba−Ca−Cu−O系の酸化物超電導体の結晶のC面が圧延過程で長さ方向、すなわち超電導電流の流れる方向に配向されるので、超電導電流は、金属管の長手方向に流れ易くなり、また、コイル形成時に偏平面を磁場の方向と平行に配置することにより、磁場による臨界電流密度の変化を少なくすることもできる。
さらに本発明の超電導体を製造する際に、金属管の延伸加工により、超電導体粉末が延伸方向にC面が平行となるように配向されるので、延伸加工の縮径の程度を考慮するだけで、圧延と同時に超電導体粉末が配向される。
またさらに、これをコアとして用い、矩形金属管内に複数条積層して収容した場合には電流容量が大きくなり、さらに圧延することにより容易に超電導体層を薄く加工することができる。この場合各コアの金属管は安定化材として機能する。さらに、各コアの金属管として銅のような良導電金属上にキュプロニッケルのような抵抗金属を被覆した複合金属管を使用した場合には、高周波特性が向上する。
(実施例)
次に本発明の実施例について説明する。
実施例1 Bi2O3、SrCO3、CaCO3、CuOの各粉末をモル比で、1:2:1:2で充分混合し、850℃で10時間空気中で仮焼し、これを2回繰り返したのち、ボールミルで24時間粉砕して、Bi2Sr2Ca1Cu2O8+δ粉末を得た。
この粉末を、一端を封止した外径20mm、内径17mm、長さ100mmのAg管中に入れ、通気孔を残して他端も封止した後、スゥージング加工と、ロール加工により、種々の厚み(酸化物超電導体層の厚み)まで圧延したテープを作成した。次にこのテープを880℃で5時間空気中で熱処理を行なった。
得られたテープについてそれぞれ臨界電流密度(77K)を測定し、またこれらのテープの金属被覆を剥ぎとって酸化物超電導体層の厚みと配向率との関係を測定した。測定結果を第4図に示す。なお、配向率は、X線回折のグラフに現れた結晶のC面の(0010)ピークと(117)面ピークとの比率で示した。同図から明らかなように、酸化物超電導体層の厚みが100μm以下になったところで配向性および臨界電流密度は急速に向上していることがわかる。
なお以上の実施例では、酸化物超電導体としてBi2Sr2Ca1Cu2O8+δを使用した例について説明した、Bi2Sr2Ca2Cu3O10+δ、Tl2Ba2Ca2Cu3O10+δ、およびTl2Ba2Ca1Cu2O8+δを使用して同様の実験を行なった場合にも配向による特性の著しい向上が認められた。
また、上記超電導体テープをコアとして第3図に示すようなマルチの超電導体を製造したが、実施例と同様の酸化物超電導体の厚み−配受率−臨界電流特性が得られた。
[発明の効果]
以上の実施例からも明らかなように、本発明の超電導体は、結晶のC面が電流の流れる方向に配向されているので、高い電流密度が得られ、また磁場による臨界電流密度の減少が少ない。また、この超電導体をコアとしてマルチ構造とすることにより電流容量を大きくすることができ、さらに酸化物超電導体層の薄膜化が容易となって高い臨界流密度が得られる。
【図面の簡単な説明】
第1図ないし第3図は、それぞれ本発明の実施例を概略的に示す拡大断面図、第4図は本発明の効果を示すグラフである。
1……矩形の金属管
1a……銅
1b……キュプロニッケル
2……酸化物超電導体
3……矩形金属管

【特許請求の範囲】
【請求項1】Bi、Sr、Ca、Cuを原子比で、2:2:1:2もしくは2:2:2:3で含む酸化物超電導体、またはTl、Ba、Ca、Cuを原子比で、2:2:1:2もしくは2:2:2:3で含む酸化物超電導体の粉末を、金属管に充填してなる超電導体において、前記酸化物超電導体の粉末が、前記金属管とともに圧延されて、厚さ100μm以下の層状とされていることを特徴とする超電導体。
【請求項2】Bi、Sr、Ca、Cuを原子比で、2:2:1:2もしくは2:2:2:3で含む酸化物超電導体、またはTl、Ba、Ca、Cuを原子比で、2:2:1:2もしくは2:2:2:3で含む酸化物超電導体の粉末を、金属管に充填してコアとし、このコアの複数条を、共通の金属管中に収容してなる超電導体において、前記酸化物超電導体粉末が、前記コアの金属管とともに、または、前記コアの金属管および共通の金属管とともに圧延されて、厚さ100μm以下の層状とされていることを特徴とする超電導体。

【第1図】
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【第2図】
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【第3図】
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【第4図】
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【特許番号】第2653462号
【登録日】平成9年(1997)5月23日
【発行日】平成9年(1997)9月17日
【国際特許分類】
【出願番号】特願昭63−87676
【出願日】昭和63年(1988)4月9日
【公開番号】特開平1−258832
【公開日】平成1年(1989)10月16日
【出願人】(999999999)株式会社東芝
【参考文献】
【文献】特開 昭63−304526(JP,A)
【文献】特開 昭59−198614(JP,A)
【文献】特開 昭64−7419(JP,A)
【文献】特開 平1−183012(JP,A)
【文献】特表 平3−501665(JP,A)