超電導導体及びそれを用いた超電導コイル
【課題】 交流損失の抑制が可能であり、小さい曲率半径を有するコイルにも対応でき、製造が容易な並列化超電導導体を得、超電導コイルとしては、電流容量の増大の容易化や励磁突入時や突発短絡事故時等における過電流による導体の焼損防止等を図る。
【解決手段】 超電導導体は、電気的絶縁材料または高抵抗材料を被覆した酸化物超電導線材20aを、導体幅方向に複数本並列配置したものとし、超電導コイルは、前記超電導導体を、単独で単層もしくは複数層巻回するか、あるいは、超電導導体を複数個、コイル軸方向に並列配置してなる二次並列導体とし、この二次並列導体を単層もしくは複数層巻回し、かつ、超電導コイルの構造もしくは配置上、超電導コイルによって生じる磁場分布によって超電導導体の各酸化物超電導線材間に作用する垂直鎖交磁束が、互いに打ち消し合うように作用する部分を、少なくとも一部に有してなるものとする。
【解決手段】 超電導導体は、電気的絶縁材料または高抵抗材料を被覆した酸化物超電導線材20aを、導体幅方向に複数本並列配置したものとし、超電導コイルは、前記超電導導体を、単独で単層もしくは複数層巻回するか、あるいは、超電導導体を複数個、コイル軸方向に並列配置してなる二次並列導体とし、この二次並列導体を単層もしくは複数層巻回し、かつ、超電導コイルの構造もしくは配置上、超電導コイルによって生じる磁場分布によって超電導導体の各酸化物超電導線材間に作用する垂直鎖交磁束が、互いに打ち消し合うように作用する部分を、少なくとも一部に有してなるものとする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、通電電流が高速で変動する電気機器、例えばエネルギー貯蔵,磁場応用,変圧器,リアクトル,限流器,モータ,発電機等に用いる超電導導体及びそれを用いた超電導コイルに関する。
【背景技術】
【0002】
超電導コイルは、高磁界発生手段として種々の分野で実用されている。一方、前記変圧器やリアクトルなどのような交流機器への超電導コイルの適用は、超電導導体が交流によって損失を発生するという現象があることから、その実用化は、あまり進んでいない。
【0003】
しかしながら、近年、超電導導体素線の細線化による交流損失の小さな超電導線が開発されて以来、変圧器などの交流機器への適用研究が進展し、その超電導コイルの構成に関しても、種々の提案が行われている。
【0004】
この場合の超電導導体としては、液体ヘリウムの蒸発温度である4Kの極低温で超電導状態を維持する金属超電導体を使用した超電導線が、実用的な超電導材料として、主に使用されるが、最近では、酸化物超電導体を適用した超電導コイルの開発も進められている。この酸化物超電導体は、高温超電導体とも呼ばれており、この高温超電導体を使用した場合には、金属超電導体を使用した場合に比べて運転コストが低い利点がある。
【0005】
ところで、通電電流が高速で変動する、例えば変圧器のような交流機器において、複数の導体を並列に使用するときには、導体の転位が行われる。これは、複数の導体の相対位置を変えることによってそれぞれの導体を磁気的に一致させて誘起電圧の差を小さくし、これによってそれぞれの導体の電流分担を均一にするためである。
【0006】
通電電流によって発生した磁束によるそれぞれの並列導体の誘起電圧の差によって、循環電流が誘起されるが、銅やアルミなどの通常の導体の場合には、インピーダンスは抵抗性成分が主であるので、循環電流は通電電流に対し位相がおよそ90°ずれたものになる。そのため、例えば30%の循環電流が発生したとしても、1本の導体に流れる電流は、通電電流の100%とこれに90°の位相差のある30%の循環電流とのベクトル和となって、その絶対値はそれぞれの二乗の和の平方根になることから、約105%となり、循環電流の割には電流値の増加は小さい。
【0007】
一方、導体として超電導線を用いた場合、超電導状態では抵抗はほぼ零であるので、循環電流をきめるインピーダンスはほとんどインダクタンスで決まる。従って循環電流は通電電流と同相になり、仮に循環電流が30%とすると、通電電流にこの循環電流が加算されて超電導線には130%の電流が流れることになる。この電流値が、後に詳述する臨界電流に達すると、交流損失が増大したり、偏流が増進する。
【0008】
また、超電導コイルの巻線に用いられる超電導導体(または超電導線)には、臨界温度,臨界電流,臨界磁場が存在する。即ち、超電導線が超電導状態を維持するためには、温度,電流,磁場が、所定の臨界値以下である必要がある。
【0009】
循環電流によって超電導線に臨界電流以上の電流が流れた場合には、超電導状態から常電導状態、すなわち抵抗を持った通常の導体になり、ジュール発熱により超電導線は破損する可能性が生じる。
【0010】
このように、超電導線を用いたコイルでは、循環電流を抑制することは非常に重要である。そのために、前述のように転位を行い、循環電流を抑制することが行われている。なお、酸化物超電導線の場合には、合金超電導体に比べて曲げの力に弱い性質を持っており、性能を発揮するための許容曲げ半径が存在する。従って、並列本数が多いほど、すなわち転位部が多いほど不安定箇所が多くなるので、転位作業には細心の注意を要する。
【0011】
循環電流を抑制しつつ不安定箇所としての転位部を少なくし、転位作業を簡単にして低コスト化を図ることを目的とした超電導コイルの構成は、例えば、特許文献1に開示されている。特許文献1に記載された発明の骨子は、下記のとおりである。即ち、「複数の超電導線を並列化し巻回してなる超電導コイルにおいて、巻線端部のみで転位を行なう構成とすること、加えてコイルの層数を、並列化している超電導線の並列本数の4倍(本数×4倍)の整数倍とすることで、転位部を少なくし、循環電流を抑制しつつ不安定部を少なくし得る。その結果、転位のための作業,時間が短縮されて安価となるだけでなく、少ない不安定部で循環電流を抑制できることから、高速の励磁,消磁を安定に行なうことが可能になるという利点も得られる。」ことにある。
【0012】
図12は、特許文献1の図1に記載された超電導コイルの転位構成の一例を示す。図12においては、例えば、コイルの半径方向に3本重ねた超電導線3aを、巻枠1aから巻枠1bの方向に巻回して形成するに当たり、超電導線3aが巻枠1a側の巻線の始まりではコイル内径方向から、例えば、図示しない(A1,A2,A3)の順に重ねて巻かれているとして、巻線端部の転位部2bにおいて、まず(A3)を次のターンに曲げ、同様に(A2,A1)と転位作業を行なうことで、巻枠1b側の巻線の終わりでは、例えば(A3,A2,A1)の順にする。上記により、特許文献1の図4に記載された従来の転位構成に比較して、転位部や巻線の曲げ数が少なくなるので、作業が著しく簡単になる。
【0013】
なお、前記の「コイルの層数を、並列化している超電導線の並列本数の4倍(本数×4倍)の整数倍とする」構成例については、ここでは説明を省略する(詳細は、特許文献1参照)。
【0014】
上記特許文献1に記載のような転位構成を採用することにより、導体を構成している超電導線のインダクタンスの均一化および電流分担の均一化を図ることができる。これにより、超電導線の並列本数を増加させることで電流容量を増大でき、かつ、並列本数増加による付加的な損失をなくすことができる。
【0015】
次に、前記酸化物超電導材料(高温超電導線材)の従来技術について述べる。高温超電導線材の量産性の高い好ましい製造方法として、例えば、フレキシブルなテープ基板上に、酸化物超電導材料を膜状に形成する方法が考えられ、レーザアブレーション法、CVD法等の気相法を用いた製造方法の開発が進められている。上記のような、テープ基板上に酸化物超電導膜が形成された構造を有する高温超電導線材は、最外層に超電導膜が露出し、露出した側の表面は何ら安定化処理が施されていない。そのため、このような高温超電導線材に比較的大きな電流を流した場合に、局所的な熱発生のため、超電導膜が局所的に超電導状態から常電導状態へ転移し、電流輸送が不安定になるという問題があった。
【0016】
前記問題点を解決し、高い臨界電流値を有し、安定した電流輸送を行なうことができる、ならびに、長期間の保存によってもその安定性が低下しない酸化物超電導導体およびその製造方法を提供することを目的として、特許文献2には、下記のような構成を備えたテープ状の超電導線が開示されている。
【0017】
即ち、「フレキシブルなテープ基板とテープ基板上に形成された中間層と、中間層上に形成された酸化物超電導膜と、酸化物超電導膜上に形成された、厚さが0.5μm以上の金または銀からなる膜(常電導の金属層)とを備える超電導線」である。特許文献2に記載された実施例の一例としては、「基板としてのハステロイテープの上に、中間層としてイットリア安定化ジルコニア層もしくは酸化マグネシウム層が設けられ、この上にY−Ba−Cu−O系酸化物超電導膜が形成され、さらにこの上に金または銀からなるコーティング膜が形成される。」
さらに、常電導の金属層を備えることにより、交流損失による発生熱を有効に放散して、熱的安定性を向上することを目的として、特許文献3には、下記のような構成を備えたテープ状の超電導線の製造方法が開示されている。
【0018】
即ち、同公報の記載によれば、「基板面上に高温超電導薄膜を被着したテープ状材の前記高温超電導薄膜を、1本乃至間隔をおいて平行に配置した複数本の長波長レーザ光により長手方向に照射して照射部分を非超電導化(常電導化)すると共に、前記複数本の長波長レーザ光のビーム径およびその間隔を選定して、前記非超電導部分間に位置する長波長レーザ光の非照射にもとづく超電導部分の幅を制御するようにしたことを特徴とする高温超電導線材の製造方法」である。
【0019】
しかしながら、上記特許文献2および3に記載されたような量産性が高いテープ状の超電導線材を交流機器に用いた場合、超電導線材に発生する交流損失は、偏平なテープの形状異方性により、テープの偏平な面に垂直に作用する垂直磁界中の交流損失が支配的となり、交流損失が増大する問題がある。また、転位構成に関しても難があり、これ等の問題を解消するため、本願発明の一部の発明者等は、国際出願(PCT/JP2004/009965)により、以下のような超電導線材および同線材を用いた超電導コイルを開示している。
【0020】
即ち、前記国際出願は、「交流損失の抑制が可能な超電導線材を提供し、さらにこの超電導線材を用いた超電導コイルは、転位なしの簡便な構成により線材に対する垂直磁界による鎖交磁束がキャンセル可能な構成で、かつ、垂直磁界による線材内循環電流を抑制して電流分流を均一化でき、これにより低損失の超電導コイルを提供すること」を目的とし、「基板面上に超電導薄膜を形成してテープ状にしてなる超電導線材において、少なくとも超電導層としての超電導薄膜部に、スリットを加工し、断面が矩形状の複数の超電導薄膜部に電気的に分離して並列化した並列導体、即ち、複数の要素導体を並列化した並列導体としてなるものとし、また、前記超電導線材を巻回してなる超電導コイルとしては、超電導コイルの構造もしくは配置上、超電導コイルによって生ずる磁場分布によって前記並列導体の各導体要素間に作用する垂直鎖交磁束が、互いに打ち消すように作用する部分を、少なくとも一部に有してなる、転位なしの簡便なコイル構成」を開示する。
【0021】
なお、前記国際出願に開示した超電導導体は、例えば、基板としてのハステロイテープの上に、電気絶縁層の機能を有する中間層を設け、この上に超電導層としてY−Ba−Cu−O系酸化物超電導膜を形成し、さらにこの上に、常電導の金属層として、例えば金または銀からなるコーティング膜を形成したものを用いる。また、前記中間層としては、ガドリニウムジルコニウム酸化物(Gd2Zr2O7)層上に酸化セリウム(CeO2)層を形成した2層構造を用いる。上記超電導導体を、超電導導体の長手方向にスリット加工し、スリット加工して形成された溝の中および導体の周囲全体にわたって、エポキシ樹脂,エナメルなどの可とう性をもつ電気絶縁性材料を充填して並列導体を構成する。(詳細は、前記国際出願参照)。
【0022】
次に、変圧器の短絡事故等の過電流対策について述べる。変圧器が短絡事故を起こすとコイルに大きな短絡電流が流れて過大な電磁力が働く。超電導変圧器の場合には、常電導変圧器に比較して電流密度が高く、言い換えれば同じ電流容量であれば超電導変圧器の方が導体断面積が小さい。従って、同じ電磁力が導体に作用した場合、超電導変圧器の方がより大きな応力が導体に作用することになる。酸化物超電導変圧器の場合には、導体が酸化物であるので機械的強度が比較的低く、この過電流時の電磁力に耐えられない可能性がある。
【0023】
この問題を解決するための手段が、特許文献4に開示されている。特許文献4の要約の記載を引用すれば、即ち、「円筒状の絶縁巻枠の外周面側に螺旋状の溝を形成し、この溝に沿ってテープ状の超電導線材を巻回してなる超電導コイルにおいて、前記超電導線材に重ねてその外周側に銅,銅合金,チタン,ステンレス鋼等の常導電体を用いた金属テープを巻き付けて樹脂の硬化処理などによりバインドし、さらに金属テープを超電導線材と電気的に並列接続する。これにより、短絡事故などの際に超電導線材に加わる半径方向の電磁力を外周側から金属テープで支持し、さらに、過電流によるジュール発熱で超電導線材が常電導化した場合には、電流の一部を金属テープに分流させて急激な温度上昇によるコイル焼損を防ぐ。」
【特許文献1】特開平11−273935号公報(第2−4頁、図1−4)
【特許文献2】特開平7−37444号公報(第2−7頁、図1)
【特許文献3】特開平3−222212号公報(第1−2頁、図3)
【特許文献4】特開2001−244108号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
ところで、前記国際出願(PCT/JP2004/009965)に開示された線材によれば、交流損失の抑制が可能な超電導線材が得られるが、曲率半径が比較的小さい部分を有する超電導コイルを形成する場合には、上記超電導線材は不向きであり、曲率半径が比較的小であっても容易に巻回可能であって、かつ製造が一層容易な超電導導体の提供が望まれる。
【0025】
さらに、特許文献2および3や国際出願(PCT/JP2004/009965)に記載されたような、量産性の高いテープ状の超電導線材の臨界電流は、自己磁界、液体窒素温度(77K)下において約100Aである。超電導コイルの状態においては、磁界の発生により、臨界電流はさらに低下し、機器として使用できる電流は、上述した臨界電流100Aより大幅に低下する。
【0026】
一方、要求される電流容量は、機器や用途によって様々であり、例えば変圧器の低圧巻線のように大電流が必要な場合には、前記特許文献2および3や国際出願に記載された方法では対応できない可能性がある。
【0027】
さらに、交流機器としては、例えば励磁突入時や突発的な短絡事故時等において、短時間ではあるが定格電流以上の電流を流しても耐えることができる、いわゆる過電流対策を要求される場合がある。前記特許文献2および3や国際出願に記載されたテープ状の超電導線には、前述のように、安定化層として銀や金等の金属層が形成されている。この金属層は主として超電導性能向上を目的として配設するもので、この金属層の厚さは一般的に10μm以下で、過電流対策としては不十分な場合がある。
【0028】
この発明は、上記のような問題点を解消するためになされたもので、この発明の課題は、交流損失の抑制が可能な並列化超電導導体であり、曲率半径が比較的小さい超電導コイルであっても容易に巻回可能であって、かつ製造が一層容易な超電導導体を提供し、さらに、かかる超電導導体を用いてコイルの電流容量の増大を図り、励磁突入時や突発的な短絡事故時等における過電流による導体の焼損を防止し、安全な大容量の超電導コイルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0029】
前述の課題を解決するため、この発明の超電導導体は、電気的絶縁材料または高抵抗材料を被覆した酸化物超電導線材を、導体幅方向に複数本並列配置してなるものとする(請求項1)。上記において、酸化物超電導線材としては、公知のBi系酸化物超電導線材(Bi2223、Bi2212)、Hg系酸化物超電導線材、Tl系酸化物超電導線材等を使用することができる。その他、酸化物ではないが、公知のMgB2超電導線材を用いることもできる。また、前記電気的絶縁材料としては、例えば、PVF(ポリビニルフォルマール)が好ましい。さらに、高抵抗材料としては、超電導線材表面を酸化することによって得られる酸化層や超電導線材表面へのCrメッキ層が適用できる。なお、酸化物超電導線材を、導体幅方向に複数本並列配置した線材同士は、お互いに接着して固定することができるが、後述するように、例えば、樹脂により一体化することもできる。
【0030】
上記請求項1の発明により、電気的に並列化してなる複数の酸化物超電導線材が、マルチフィラメント超電導体として機能し、電流分流の均一化が図れるとともに、交流機器用コイルに適用した場合の前記垂直磁界中の交流損失が低減できる。また、上記超電導導体構成によれば、曲率半径が比較的小さい超電導コイルであっても容易に巻回可能であって、かつ製造が一層容易となる。
【0031】
ところで、前述のように、前記特許文献3に開示されたテープ状の超電導線材も、超電導薄膜部が構造的に分離されているが、常電導薄膜部と超電導薄膜部とが交互に形成されているので、常電導薄膜部において渦電流損失が発生し、損失が増大する問題があるのに対して、上記本発明の超電導導体によれば、各酸化物超電導線材が電気的に分離しているので、前記特許文献3のような問題は生じない。
【0032】
なお、上記請求項1の発明において、前記酸化物超電導線材の断面形状は、製造方法にもよるが、円形、矩形、場合によっては台形状となる場合や、さらに、矩形や台形の角が面取りされる場合等、種々の変形があり得る。
【0033】
上記請求項1の発明の実施態様としては、下記請求項2ないし5の発明が好ましい。即ち、前記請求項1に記載の超電導導体において、金属材料または非導電性材料からなる基板面上に、前記酸化物超電導線材を並列配置したものとする(請求項2)。前記金属材料としては、例えば、CuやSUS(ステンレス鋼)が好ましく、また非導電性材料としては、GFRPが好ましい。
【0034】
また、前記請求項1または2に記載の超電導導体において、前記酸化物超電導線材はツイストしてなるものとする(請求項3)。前記ツイストにより、交流損失の更なる低減効果が得られる。このツイストによる低減効果は、インシチュー(in-situ)法によるNb3Sn超電導線材において得られる公知の効果である。このようなツイストされた超電導線材は、フィラメント間の超電導接触により電磁気的にはモノフィラメント的(単芯線的)特性を有するが、ツイストにより、任意の印加角度を有する外部磁界に対して、交流損失を低減することができる。
【0035】
さらに、前記請求項1ないし3のいずれか1項に記載の超電導導体において、前記複数本の酸化物超電導線材を、もしくは前記複数本の酸化物超電導線材と基板とを、電気絶縁性材料により一体化してなるものとする(請求項4)。一体化用の電気絶縁性材料としては、例えば、エポキシ樹脂が好ましい。
【0036】
また、前記請求項1に記載の超電導導体において、高抵抗材料を被覆した酸化物超電導線材を、導体幅方向に複数本並列配置し、半田付けにより一体化するか、もしくは、高抵抗材料を被覆した酸化物超電導線材を、金属材料からなる基板面上に、導体幅方向に複数本並列配置し、前記複数本の酸化物超電導線材と基板とを、半田付けにより一体化してなるものとする(請求項5)。
【0037】
次に、超電導コイルの発明としては、下記請求項6ないし8の発明が好ましい。即ち、前記請求項1ないし5のいずれか1項に記載の超電導導体を、単独で単層もしくは複数層巻回するか、あるいは、前記超電導導体を複数個、コイル軸方向に並列配置してなる二次並列導体をユニットとし、この二次並列導体ユニットを単層もしくは複数層巻回してなる超電導コイルであって、前記超電導コイルの構造もしくは配置上、超電導コイルによって生じる磁場分布によって前記超電導導体の各酸化物超電導線材間に作用する垂直鎖交磁束が、互いに打ち消し合うように作用する部分を、少なくとも一部に有してなるコイル構成を備えたことを特徴とする(請求項6)。
【0038】
また、前記請求項1ないし5のいずれか1項に記載の超電導導体を複数個コイル軸方向に並列配置してなる二次並列導体をユニットとし、前記単独の超電導導体もしくは前記二次並列導体ユニットを複数層並列に積層してなる三次並列導体を、単層もしくは複数層巻回してなる超電導コイルであって、前記超電導コイルの構造もしくは配置上、超電導コイルによって生ずる磁場分布によって前記超電導導体の各酸化物超電導線材間に作用する垂直鎖交磁束が、互いに打ち消し合うように作用する部分を、少なくとも一部に有してなるコイル構成を備えたことを特徴とする(請求項7)。
【0039】
さらに、電流分担の均一化の観点から、前記請求項7に記載の超電導コイルにおいて、前記二次並列導体ユニットを複数層並列に積層してなる三次並列導体を巻回する際に、前記各層の二次並列導体ユニットを転位してなることを特徴とする(請求項8)。
【0040】
詳細は後述するが、例えば前記請求項6または7の発明のように、二次並列導体ユニット中に、複数本の酸化物超電導線材を電気的に分離して多数配置することで、二次並列導体または三次並列導体は、マルチフィラメントとして機能する導体となり、大電流容量超電導コイルの巻線が容易になると共に、電流分流均一化及び交流損失低減が図れる。また、前記二次並列導体ユニットの各酸化物超電導線材間に作用する垂直鎖交磁束が、互いに打ち消すように作用する部分を、少なくとも一部に有するものとするコイル構成に基づき、コイル構成上、垂直磁界に基づく交流損失が抑制される。この場合、コイル軸方向の酸化物超電導線材間で転位は不要であり、前記請求項8の発明のように、各層の二次並列導体ユニットを転位すればよく、並列化して電流容量増大を図る上でコイル構成を容易にすることができる。なお、コイル構造を最も簡略化する観点からは、前記請求項6の発明のようにすることが好ましい。
【0041】
また、過電流対策の観点から、下記請求項9ないし14の超電導導体ないし超電導コイルの発明が好ましい。即ち、前記請求項1ないし5のいずれか1項に記載の超電導導体において、少なくとも1本の酸化物超電導線材は、常電導導体材料からなる常電導線材に置き換えてなるものとする(請求項9)。また、前記請求項6に記載の超電導コイルにおいて、前記二次並列導体のうち少なくとも1本の超電導線材は、常電導導体材料からなる常電導線材に置き換えてなるものとする(請求項10)。さらに、前記請求項6に記載の超電導コイルにおいて、前記二次並列導体のうち少なくとも1個の超電導導体は、常電導導体材料からなる常電導導体に置き換えてなるものとする(請求項11)。さらにまた、前記請求項7に記載の超電導コイルにおいて、前記二次並列導体のうち少なくとも1個の超電導導体は、常電導導体材料からなる常電導導体に置き換えてなるものとする(請求項12)。
【0042】
上記構成によれば、励磁突入時や突発的な短絡事故時などにおける過電流により超電導線材または超電導導体が抵抗状態になった場合に電流が常電導線材または常電導導体に分流することによりジュール発熱による焼損を防止できる。
【0043】
前述したように、二次素線を構成する素線のインダクタンスは、コイルの軸方向に配置することで均一化され、超電導素線と常電導素線とではほぼ同一となる。一方で、常電導素線は電気抵抗が存在し、超電導素線は通常の使用範囲では電気抵抗は無視できるほど小さい。従って常電導素線のインピーダンスは超電導素線より大きくなり、電流のほとんどは超電導素線を流れ、常電導素線での電流による発熱はほとんどない。この関係は、常電導素線を含む二次並列導体を用いた超電導コイルにおいても成立する。よって常電導素線を並列配置したことによる損失は無視できるほど小さい。ところが、超電導素線に臨界電流を超えるような過電流が流れると、磁束フローによる電気抵抗が発生する。超電導素線の電気抵抗と、常電導素線の電気抵抗の関係により、常電導素線にも電流が流れる。従って電流を常電導素線に流すことができるので、超電導素線に過度の電流を流すことを回避できる。結果として定格電流以上の過電流が発生しても特性劣化のない超電導コイルを提供できる。
【0044】
なお、超電導線材または超電導導体を、常電導線材または常電導導体に置き換える位置は、一ヶ所に限らない。置き換える数とその位置は、超電導コイルの設計仕様による。さらに、例えば、三次並列導体におけるコイル軸方向の最上部または最下部の全てとすることもできる。また、置き換える位置を、コイル層方向の1つの層全てとすることもできるが、過電流時の電磁力支持の観点から、常電導素線に電流分流の機能と電磁力支持機能を兼用させることが好ましい。この観点から、下記請求項13の発明が好ましい。
【0045】
即ち、前記請求項8に記載の超電導コイルにおいて、前記三次並列導体における複数層の二次並列導体のうち、最外層の二次並列導体は常電導導体からなる二次並列導体に置き換え、この常電導導体からなる最外層は転位しない構成としたことを特徴とする(請求項13)。この場合、複数本の常電導導体は、超電導線材と同様に絶縁被覆される。
【0046】
常電導線材または常電導導体の材料としては、銅,銅合金,チタン,ステンレス鋼等の常導電材料を用いることができるが、コイルの仕様にもよるが、電磁力支持を重視する場合には、電気伝導率が比較的小さくても、機械的強度が高い材料を用いるのが望ましい。場合によっては、電気伝導率が大きい材料と機械的強度が高い材料とを、組み合わせることもできる。
【0047】
また、過電流時の電磁力支持を重視する観点からは、下記請求項14の発明が好ましい。即ち、請求項8に記載の超電導コイルにおいて、前記三次並列導体における複数層の二次並列導体のうち、最外層の二次並列導体は、常電導材料もしくは高強度の絶縁材料からなる電磁力支持部材に置き換えてなるものとする(請求項14)。
【発明の効果】
【0048】
この発明によれば、交流損失の抑制が可能な並列化超電導導体であり、曲率半径が比較的小さい超電導コイルであっても容易に巻回可能であって、かつ製造が一層容易な超電導導体を提供し、さらに、かかる超電導導体を用いてコイルの電流容量の増大を図り、励磁突入時や突発的な短絡事故時等における過電流による導体の焼損を防止し、安全な大容量の超電導コイルが提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0049】
図1ないし図11に基づき、本発明の実施の形態について以下に述べる。
【0050】
図1は、本発明の実施形態を示す超電導導体の模式的断面図であり、(a)図は、酸化物超電導線材として丸線材を用いた場合、(b)および(c)は、矩形断面の線材を用いた場合であって、それぞれアスペクト比が異なるケースを示す。図1において、それぞれ20a,20b,20cで示す酸化物超電導線材は、電気的絶縁材料または高抵抗材料により被覆されて、導体幅方向に複数本並列配置されており、電気的には実質的に並列化した超電導導体として構成されている。
【0051】
酸化物超電導線材としては、前述のような公知の線材が適用できるが、例えば、Bi系酸化物超電導線材(Bi2223、Bi2212)を使用する。電気的絶縁材料としては、例えば、PVF(ポリビニルフォルマール)、高抵抗材料としては、Crメッキ層とする。導体幅方向に複数本並列配置した線材同士は、お互いに接着して固定するか、もしくは、後述する実施態様のように樹脂により一体化し、超電導コイルに適用する場合には、上記並列化した超電導導体を、コイル中心軸を中心として巻回する。なお、超電導コイルの構成については後述する。
【0052】
次に、図1とは異なる超電導導体の実施形態について、図2ないし図6に基づいて述べる。図2は、金属材料または非導電性材料からなる基板31面上に、電気的絶縁材料により被覆された酸化物超電導線材20a,20b,20cを並列配置した実施形態を示す。図3は、前記基板31面上に、高抵抗材料により被覆された酸化物超電導線材21a,21b,21cを並列配置した実施形態を示す。
【0053】
図4および図5は、それぞれ、図1および図2に示す超電導導体の外周を、例えばエポキシ樹脂により、絶縁被覆して一体化した実施形態を示す。この実施形態によれば、電気絶縁に対する信頼性が向上するとともに、一体化により超電導導体の扱いが容易となる。
【0054】
図6は、酸化物超電導線材20a,20b,20cと基板31との間を、例えばエポキシ樹脂により接合して一体化するか、もしくは、前記請求項5に関わり、高抵抗材料を被覆した酸化物超電導線材(21a,21b,21c)を、金属材料からなる基板31面上に、導体幅方向に複数本並列配置し、前記複数本の酸化物超電導線材と基板とを、半田付けにより一体化した実施形態を示す。なお、前記請求項5に関わる超電導導体の構成としては、上記の基板31を省略して、高抵抗材料を被覆した酸化物超電導線材(21a,21b,21c)を、導体幅方向に複数本並列配置し、半田付けにより一体化してなるものとしてもよい。
【0055】
次に、超電導コイルの実施形態について、図7から図11に基づいて述べる。
【0056】
図7は、請求項6の発明に関わる実施形態を示す。図7に示す超電導コイルは、複数本の超電導導体40をコイル軸方向に並列配置してなる二次並列導体50を、単層もしくは複数層巻回してなる超電導コイルであり、超電導コイルの軸方向の対称性に基づき、超電導コイルによって生ずる磁場分布によって前記二次並列導体50の各超電導線材間に作用する垂直鎖交磁束が、互いに打ち消すように作用する(詳細は、前記国際出願PCT/JP2004/009965参照)。
【0057】
なお、図7においては、超電導導体40には、説明の便宜上、各超電導導体40に1〜4の番号を付して示す。図7の実施形態の超電導コイルの場合には、二次並列導体50を転位する必要はない。従って、全ての二次並列導体50内部の前記超電導導体の番号を、軸方向に(1,2,3,4)、(1,2,3,4)、…………(1,2,3,4)の列とし、この列を層方向に繰り返す配列となるように巻回する。
【0058】
次に、図8について述べる。図8は、図7とは異なる実施の形態の一例を示す超電導コイルの模式的断面図である。図8(a)は基板31面上に、電気的に分離して並列化してなる複数の酸化物超電導線材20bを有する超電導導体40を示す。この超電導導体40としては、前記図1ないし図6に示すような超電導導体が適用できる。
【0059】
図8(b)は図8(a)に示す超電導導体40を、コイル軸方向に4本並列配置したものであり、これが二次並列導体50となる。なお、図8(b)において、4本の超電導導体40は、それぞれ電気的に絶縁されている。
【0060】
図8(b)の場合において、並列配置された各々の超電導導体40のインダクタンスは同一であるので、二次並列導体50における超電導導体40は転位をする必要がない。結果として、二次並列導体50は、超電導導体40の並列本数倍の電流容量を持った導体と等価となる。
【0061】
次に、図8(c)について述べる。図8(c)は二次並列導体50を3層並列に積層して導体化した三次並列導体60である。なお、図8(c)において、各二次並列導体50の間は電気的に絶縁されている。積層した二次並列導体50同士のインダクタンスは、コイル径方向の位置に起因して異なるので、転位を施す必要がある。この転位構成としては、前述の特許文献1に記載のような転位構成、即ち、コイルの軸方向端部で転位させる構成を採用することにより、導体を構成している超電導線のインダクタンスの均一化および電流分担の均一化を図り、コイルとしての電流密度の低下防止を図ることができる。詳細は後述する。
【0062】
次に、図8(d)について述べる。図8(d)は前記三次並列導体60を、コイル半径方向に複数層巻回し、かつコイル軸方向に複数ターン巻回してなるコイル構成の模式的断面を示す。なお、図8(d)において、層数は省略して破線で示す。また、部番54はコイルフランジ、55は巻枠を示す。なお、巻枠は、図示のように円筒状でなくともよく、レーストラック状や、角に丸みを備えた矩形等の種々の形状があり得る。
【0063】
上記図8の実施形態のように超電導コイルを構成することにより、コイルの電流容量は、超電導導体40の4並列×3重ね分、すなわち12倍の電流容量を確保することが可能になる。大電流容量化を図る場合に、導体素線として、電流容量の大きな超電導素線を用いる場合と比較して、本発明のように、小電流容量の単位並列導体を用いて図8のような構成とする方が、製作が容易であり、かつ安価となる。
【0064】
また、電気的に分離された二次並列導体50、およびこれを構成する超電導導体40、さらには電気的に分離された酸化物超電導線材20bに作用する垂直鎖交磁界は、前記国際出願で開示されているように、超電導コイルの軸方向の対称性に基づき、超電導線材全体としては、互いに打ち消すように作用するので、垂直磁界に基づく交流損失は抑制される。さらに、分割した酸化物超電導線材20bが独立したフィラメントとして振舞うことができ、さらに交流損失低減が可能になる。
【0065】
なお、前記図8の場合には、二次並列導体を転位させることが望ましく、これについては、次の図9で述べる。図9は、転位構成の説明を行うために簡略化した超電導コイルの実施形態を示す。図9の実施形態は、コイル軸方向に超電導導体40を4個並列配置した二次並列導体を、半径方向に3層積層し、かつ最外層に常電導導体70を配置して構成した三次並列導体60aを導体ユニットとして巻回してなる超電導コイルを示す。
【0066】
転位を行う場合、前述のように、「コイルの層数を、並列化している超電導線の並列本数の4倍(本数×4倍)の整数倍とする」構成が好ましいので、図9においては、3本(二次並列導体)×4倍で、12層とした実施形態を示し、図9の下方に、1層、2層……12層として各層を示す。また、超電導導体40には、転位の説明の便宜上、各超電導導体40に1〜12の番号を付して示す。
【0067】
図9のように三次並列導体60aを重ねて配置すると、図8と同様に、二次並列導体間でインダクタンスが変わるので、少なくとも超電導導体40は、層間で転位を施す必要がある。転位をすることで、二次並列導体間のインダクタンスは均等になる。
【0068】
常電導導体は転位しなくとも、常電導導体の材料や温度、積層枚数及び動作周波数等にもよるが、通常、常電導導体に流れる電流は抵抗により制限され、発熱が問題とならない場合が多いので、図9においては、常電導導体70の二次並列導体に相当する導体間は、転位しない構成を示している。なお、必要に応じて転位する場合には、三次並列導体間で必要な転位を行う。
【0069】
図9において、図の左上の方から、太線の矢印に沿って電流が流入し、図の右上の方から流出するが、その間は、三次並列導体60aの図の上下の層間において、太線で示すように、各超電導導体40が、順次転位する。例えば、コイル中心軸14に最も近い三次並列導体60aの3層の内、番号1〜4で示すコイル中心軸に最も近い二次並列導体は、図の左上方に示す位置Aから導入され、図示B,C,D,E,F………Wを経て、図の右上に示す位置Xに導出するものとし、上記のように転位させることで、二次並列導体間のインダクタンスは均等になる。
【0070】
次に、図10について述べる。図10は、図8とは異なる本発明の実施形態を示し、過電流対策として、図8に示す二次並列導体50における複数本の超電導導体40の内、1本の超電導導体40を、常電導導体材料からなる常電導導体70に置き換えてなる実施形態を示す。図10において、二次並列導体は50aで示し、三次並列導体は60aで示す。その他の部材は、図8と同様である。
【0071】
図10(a)は、図8(a)と同様の超電導導体40である。これを図10(b)のように超電導コイルの軸方向に並べて配置する際に、全てを超電導導体40とはせずに、常電導導体70を含んで二次並列導体50aを構成する。配設された導体同士のインダクタンスは前述のように同一である。
【0072】
常電導導体70には電気抵抗が常に存在するのに対し、超電導導体40は通常の状態では電気抵抗が無視できるほど小さい。従って電流は超電導導体40に流れ、常電導導体70におけるジュール発熱は無く、常電導導体を配置したことによる損失は増えない。なお、常電導導体70は、テープ状導体でも、撚り線からなる導体でもよい。
【0073】
また、図10(c)は、二次並列導体50aを3層重ねて導体化した三次並列導体60aである。この三次並列導体60aを図8と同様に一層あたり4ターン巻回してコイルを形成したのが図10(d)である。層数は省略してある。
【0074】
通常時には、電流は、超電導導体40を流れるが、変圧器の励磁突入時のように過電流が流れる場合には、超電導導体40に臨界電流以上の電流が流れる。臨界電流を超えると超電導導体40に電気抵抗が発生する。この場合の超電導導体40の電気抵抗と、常電導導体70の電気抵抗の関係で、各導体に流れる電流が決定する。
【0075】
ところで、初期の臨界電流の所定の倍率(線材によって異なる倍率)まで過電流が流れても、通電後の臨界電流は低下しないが、これを越えた過電流が流れると通電後の臨界電流が低下する、いわゆる臨界電流の劣化が生ずることが知られている。
【0076】
本発明では、超電導導体40の電気抵抗と、常電導導体70の電気抵抗を適切に設定することで、過電流時の電流を常電導導体70に分担できるので、超電導導体40に流れる電流を低減でき、結果として超電導導体40の前記臨界電流の劣化を抑止できる。
【0077】
次に、図11について述べる。図11は、三次並列導体における複数層の二次並列導体の内、最外層の二次並列導体を、常電導材料もしくは高強度の絶縁材料からなる電磁力支持部材71に置き換えてなる実施形態を示す。
【0078】
図11(a)および(b)は、図10(a)および(b)と同一であるので説明は省略する。図11(c)は、二次並列導体50aを3層重ねて導体化したものに、常電導材料からなる電磁力支持部材71をさらに重ねた三次並列導体60aを示す。図11(d)は図11(c)の三次並列導体を用いて複数ターン巻回してコイルを形成したものである。なお、電磁力支持部材71は、図9と同様に、コイル軸方向に4分割してもよい。
【0079】
常電導導体70の効果は、前述した図10と同様であるので省略する。図11のような超電導コイルでは、大きな電磁力に耐えることのできる超電導コイルを提供できる。なお、この機械的支持材71の材質としては、ステンレスなどの高強度の金属材料を用いることができる。また、安定化機能は常電導導体70に委ね、電磁力支持部材71には電磁力支持機能のみを委ねる場合には、機械的支持材71の材質は、ガラステープなどの高強度の絶縁材料とすることもできる。
【0080】
以上、本発明の各種の超電導コイルの実施形態について、ソレノイドコイルを対象にして述べたが、ソレノイドコイル以外に、パンケーキコイルや、主に超電導回転機に使用される鞍形コイル等の超電導コイルにも、本発明は適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】本発明の実施形態を示す超電導導体の模式的断面図。
【図2】図1とは異なる実施形態を示す超電導導体の模式的断面図。
【図3】図2とは異なる実施形態を示す超電導導体の模式的断面図。
【図4】図1とはさらに異なる実施形態を示す超電導導体の模式的断面図。
【図5】図4とは異なる実施形態を示す超電導導体の模式的断面図。
【図6】図4とはさらに異なる実施形態を示す超電導導体の模式的断面図。
【図7】本発明の実施形態を示す超電導コイルの模式的断面図。
【図8】図7とは異なる実施形態を示す超電導コイルの模式的断面図。
【図9】図8とは異なる実施形態において転位構成を説明する図。
【図10】図8とはさらに異なる実施形態を示す超電導コイルの模式的断面図。
【図11】図10とは異なる実施形態を示す超電導コイルの模式的断面図。
【図12】特許文献1に開示された超電導コイルの転位構成の一例を示す図。
【符号の説明】
【0082】
1〜12 各超電導導体の表示番号
14 コイル中心軸
20a〜20c,21a〜21c 酸化物超電導線材
31 基板
36 電気絶縁性材料
40 超電導導体
50、50a 二次並列導体
54 コイルフランジ
55 巻枠
60、60a 三次並列導体
70 常電導導体
71 電磁力支持部材
【技術分野】
【0001】
この発明は、通電電流が高速で変動する電気機器、例えばエネルギー貯蔵,磁場応用,変圧器,リアクトル,限流器,モータ,発電機等に用いる超電導導体及びそれを用いた超電導コイルに関する。
【背景技術】
【0002】
超電導コイルは、高磁界発生手段として種々の分野で実用されている。一方、前記変圧器やリアクトルなどのような交流機器への超電導コイルの適用は、超電導導体が交流によって損失を発生するという現象があることから、その実用化は、あまり進んでいない。
【0003】
しかしながら、近年、超電導導体素線の細線化による交流損失の小さな超電導線が開発されて以来、変圧器などの交流機器への適用研究が進展し、その超電導コイルの構成に関しても、種々の提案が行われている。
【0004】
この場合の超電導導体としては、液体ヘリウムの蒸発温度である4Kの極低温で超電導状態を維持する金属超電導体を使用した超電導線が、実用的な超電導材料として、主に使用されるが、最近では、酸化物超電導体を適用した超電導コイルの開発も進められている。この酸化物超電導体は、高温超電導体とも呼ばれており、この高温超電導体を使用した場合には、金属超電導体を使用した場合に比べて運転コストが低い利点がある。
【0005】
ところで、通電電流が高速で変動する、例えば変圧器のような交流機器において、複数の導体を並列に使用するときには、導体の転位が行われる。これは、複数の導体の相対位置を変えることによってそれぞれの導体を磁気的に一致させて誘起電圧の差を小さくし、これによってそれぞれの導体の電流分担を均一にするためである。
【0006】
通電電流によって発生した磁束によるそれぞれの並列導体の誘起電圧の差によって、循環電流が誘起されるが、銅やアルミなどの通常の導体の場合には、インピーダンスは抵抗性成分が主であるので、循環電流は通電電流に対し位相がおよそ90°ずれたものになる。そのため、例えば30%の循環電流が発生したとしても、1本の導体に流れる電流は、通電電流の100%とこれに90°の位相差のある30%の循環電流とのベクトル和となって、その絶対値はそれぞれの二乗の和の平方根になることから、約105%となり、循環電流の割には電流値の増加は小さい。
【0007】
一方、導体として超電導線を用いた場合、超電導状態では抵抗はほぼ零であるので、循環電流をきめるインピーダンスはほとんどインダクタンスで決まる。従って循環電流は通電電流と同相になり、仮に循環電流が30%とすると、通電電流にこの循環電流が加算されて超電導線には130%の電流が流れることになる。この電流値が、後に詳述する臨界電流に達すると、交流損失が増大したり、偏流が増進する。
【0008】
また、超電導コイルの巻線に用いられる超電導導体(または超電導線)には、臨界温度,臨界電流,臨界磁場が存在する。即ち、超電導線が超電導状態を維持するためには、温度,電流,磁場が、所定の臨界値以下である必要がある。
【0009】
循環電流によって超電導線に臨界電流以上の電流が流れた場合には、超電導状態から常電導状態、すなわち抵抗を持った通常の導体になり、ジュール発熱により超電導線は破損する可能性が生じる。
【0010】
このように、超電導線を用いたコイルでは、循環電流を抑制することは非常に重要である。そのために、前述のように転位を行い、循環電流を抑制することが行われている。なお、酸化物超電導線の場合には、合金超電導体に比べて曲げの力に弱い性質を持っており、性能を発揮するための許容曲げ半径が存在する。従って、並列本数が多いほど、すなわち転位部が多いほど不安定箇所が多くなるので、転位作業には細心の注意を要する。
【0011】
循環電流を抑制しつつ不安定箇所としての転位部を少なくし、転位作業を簡単にして低コスト化を図ることを目的とした超電導コイルの構成は、例えば、特許文献1に開示されている。特許文献1に記載された発明の骨子は、下記のとおりである。即ち、「複数の超電導線を並列化し巻回してなる超電導コイルにおいて、巻線端部のみで転位を行なう構成とすること、加えてコイルの層数を、並列化している超電導線の並列本数の4倍(本数×4倍)の整数倍とすることで、転位部を少なくし、循環電流を抑制しつつ不安定部を少なくし得る。その結果、転位のための作業,時間が短縮されて安価となるだけでなく、少ない不安定部で循環電流を抑制できることから、高速の励磁,消磁を安定に行なうことが可能になるという利点も得られる。」ことにある。
【0012】
図12は、特許文献1の図1に記載された超電導コイルの転位構成の一例を示す。図12においては、例えば、コイルの半径方向に3本重ねた超電導線3aを、巻枠1aから巻枠1bの方向に巻回して形成するに当たり、超電導線3aが巻枠1a側の巻線の始まりではコイル内径方向から、例えば、図示しない(A1,A2,A3)の順に重ねて巻かれているとして、巻線端部の転位部2bにおいて、まず(A3)を次のターンに曲げ、同様に(A2,A1)と転位作業を行なうことで、巻枠1b側の巻線の終わりでは、例えば(A3,A2,A1)の順にする。上記により、特許文献1の図4に記載された従来の転位構成に比較して、転位部や巻線の曲げ数が少なくなるので、作業が著しく簡単になる。
【0013】
なお、前記の「コイルの層数を、並列化している超電導線の並列本数の4倍(本数×4倍)の整数倍とする」構成例については、ここでは説明を省略する(詳細は、特許文献1参照)。
【0014】
上記特許文献1に記載のような転位構成を採用することにより、導体を構成している超電導線のインダクタンスの均一化および電流分担の均一化を図ることができる。これにより、超電導線の並列本数を増加させることで電流容量を増大でき、かつ、並列本数増加による付加的な損失をなくすことができる。
【0015】
次に、前記酸化物超電導材料(高温超電導線材)の従来技術について述べる。高温超電導線材の量産性の高い好ましい製造方法として、例えば、フレキシブルなテープ基板上に、酸化物超電導材料を膜状に形成する方法が考えられ、レーザアブレーション法、CVD法等の気相法を用いた製造方法の開発が進められている。上記のような、テープ基板上に酸化物超電導膜が形成された構造を有する高温超電導線材は、最外層に超電導膜が露出し、露出した側の表面は何ら安定化処理が施されていない。そのため、このような高温超電導線材に比較的大きな電流を流した場合に、局所的な熱発生のため、超電導膜が局所的に超電導状態から常電導状態へ転移し、電流輸送が不安定になるという問題があった。
【0016】
前記問題点を解決し、高い臨界電流値を有し、安定した電流輸送を行なうことができる、ならびに、長期間の保存によってもその安定性が低下しない酸化物超電導導体およびその製造方法を提供することを目的として、特許文献2には、下記のような構成を備えたテープ状の超電導線が開示されている。
【0017】
即ち、「フレキシブルなテープ基板とテープ基板上に形成された中間層と、中間層上に形成された酸化物超電導膜と、酸化物超電導膜上に形成された、厚さが0.5μm以上の金または銀からなる膜(常電導の金属層)とを備える超電導線」である。特許文献2に記載された実施例の一例としては、「基板としてのハステロイテープの上に、中間層としてイットリア安定化ジルコニア層もしくは酸化マグネシウム層が設けられ、この上にY−Ba−Cu−O系酸化物超電導膜が形成され、さらにこの上に金または銀からなるコーティング膜が形成される。」
さらに、常電導の金属層を備えることにより、交流損失による発生熱を有効に放散して、熱的安定性を向上することを目的として、特許文献3には、下記のような構成を備えたテープ状の超電導線の製造方法が開示されている。
【0018】
即ち、同公報の記載によれば、「基板面上に高温超電導薄膜を被着したテープ状材の前記高温超電導薄膜を、1本乃至間隔をおいて平行に配置した複数本の長波長レーザ光により長手方向に照射して照射部分を非超電導化(常電導化)すると共に、前記複数本の長波長レーザ光のビーム径およびその間隔を選定して、前記非超電導部分間に位置する長波長レーザ光の非照射にもとづく超電導部分の幅を制御するようにしたことを特徴とする高温超電導線材の製造方法」である。
【0019】
しかしながら、上記特許文献2および3に記載されたような量産性が高いテープ状の超電導線材を交流機器に用いた場合、超電導線材に発生する交流損失は、偏平なテープの形状異方性により、テープの偏平な面に垂直に作用する垂直磁界中の交流損失が支配的となり、交流損失が増大する問題がある。また、転位構成に関しても難があり、これ等の問題を解消するため、本願発明の一部の発明者等は、国際出願(PCT/JP2004/009965)により、以下のような超電導線材および同線材を用いた超電導コイルを開示している。
【0020】
即ち、前記国際出願は、「交流損失の抑制が可能な超電導線材を提供し、さらにこの超電導線材を用いた超電導コイルは、転位なしの簡便な構成により線材に対する垂直磁界による鎖交磁束がキャンセル可能な構成で、かつ、垂直磁界による線材内循環電流を抑制して電流分流を均一化でき、これにより低損失の超電導コイルを提供すること」を目的とし、「基板面上に超電導薄膜を形成してテープ状にしてなる超電導線材において、少なくとも超電導層としての超電導薄膜部に、スリットを加工し、断面が矩形状の複数の超電導薄膜部に電気的に分離して並列化した並列導体、即ち、複数の要素導体を並列化した並列導体としてなるものとし、また、前記超電導線材を巻回してなる超電導コイルとしては、超電導コイルの構造もしくは配置上、超電導コイルによって生ずる磁場分布によって前記並列導体の各導体要素間に作用する垂直鎖交磁束が、互いに打ち消すように作用する部分を、少なくとも一部に有してなる、転位なしの簡便なコイル構成」を開示する。
【0021】
なお、前記国際出願に開示した超電導導体は、例えば、基板としてのハステロイテープの上に、電気絶縁層の機能を有する中間層を設け、この上に超電導層としてY−Ba−Cu−O系酸化物超電導膜を形成し、さらにこの上に、常電導の金属層として、例えば金または銀からなるコーティング膜を形成したものを用いる。また、前記中間層としては、ガドリニウムジルコニウム酸化物(Gd2Zr2O7)層上に酸化セリウム(CeO2)層を形成した2層構造を用いる。上記超電導導体を、超電導導体の長手方向にスリット加工し、スリット加工して形成された溝の中および導体の周囲全体にわたって、エポキシ樹脂,エナメルなどの可とう性をもつ電気絶縁性材料を充填して並列導体を構成する。(詳細は、前記国際出願参照)。
【0022】
次に、変圧器の短絡事故等の過電流対策について述べる。変圧器が短絡事故を起こすとコイルに大きな短絡電流が流れて過大な電磁力が働く。超電導変圧器の場合には、常電導変圧器に比較して電流密度が高く、言い換えれば同じ電流容量であれば超電導変圧器の方が導体断面積が小さい。従って、同じ電磁力が導体に作用した場合、超電導変圧器の方がより大きな応力が導体に作用することになる。酸化物超電導変圧器の場合には、導体が酸化物であるので機械的強度が比較的低く、この過電流時の電磁力に耐えられない可能性がある。
【0023】
この問題を解決するための手段が、特許文献4に開示されている。特許文献4の要約の記載を引用すれば、即ち、「円筒状の絶縁巻枠の外周面側に螺旋状の溝を形成し、この溝に沿ってテープ状の超電導線材を巻回してなる超電導コイルにおいて、前記超電導線材に重ねてその外周側に銅,銅合金,チタン,ステンレス鋼等の常導電体を用いた金属テープを巻き付けて樹脂の硬化処理などによりバインドし、さらに金属テープを超電導線材と電気的に並列接続する。これにより、短絡事故などの際に超電導線材に加わる半径方向の電磁力を外周側から金属テープで支持し、さらに、過電流によるジュール発熱で超電導線材が常電導化した場合には、電流の一部を金属テープに分流させて急激な温度上昇によるコイル焼損を防ぐ。」
【特許文献1】特開平11−273935号公報(第2−4頁、図1−4)
【特許文献2】特開平7−37444号公報(第2−7頁、図1)
【特許文献3】特開平3−222212号公報(第1−2頁、図3)
【特許文献4】特開2001−244108号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
ところで、前記国際出願(PCT/JP2004/009965)に開示された線材によれば、交流損失の抑制が可能な超電導線材が得られるが、曲率半径が比較的小さい部分を有する超電導コイルを形成する場合には、上記超電導線材は不向きであり、曲率半径が比較的小であっても容易に巻回可能であって、かつ製造が一層容易な超電導導体の提供が望まれる。
【0025】
さらに、特許文献2および3や国際出願(PCT/JP2004/009965)に記載されたような、量産性の高いテープ状の超電導線材の臨界電流は、自己磁界、液体窒素温度(77K)下において約100Aである。超電導コイルの状態においては、磁界の発生により、臨界電流はさらに低下し、機器として使用できる電流は、上述した臨界電流100Aより大幅に低下する。
【0026】
一方、要求される電流容量は、機器や用途によって様々であり、例えば変圧器の低圧巻線のように大電流が必要な場合には、前記特許文献2および3や国際出願に記載された方法では対応できない可能性がある。
【0027】
さらに、交流機器としては、例えば励磁突入時や突発的な短絡事故時等において、短時間ではあるが定格電流以上の電流を流しても耐えることができる、いわゆる過電流対策を要求される場合がある。前記特許文献2および3や国際出願に記載されたテープ状の超電導線には、前述のように、安定化層として銀や金等の金属層が形成されている。この金属層は主として超電導性能向上を目的として配設するもので、この金属層の厚さは一般的に10μm以下で、過電流対策としては不十分な場合がある。
【0028】
この発明は、上記のような問題点を解消するためになされたもので、この発明の課題は、交流損失の抑制が可能な並列化超電導導体であり、曲率半径が比較的小さい超電導コイルであっても容易に巻回可能であって、かつ製造が一層容易な超電導導体を提供し、さらに、かかる超電導導体を用いてコイルの電流容量の増大を図り、励磁突入時や突発的な短絡事故時等における過電流による導体の焼損を防止し、安全な大容量の超電導コイルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0029】
前述の課題を解決するため、この発明の超電導導体は、電気的絶縁材料または高抵抗材料を被覆した酸化物超電導線材を、導体幅方向に複数本並列配置してなるものとする(請求項1)。上記において、酸化物超電導線材としては、公知のBi系酸化物超電導線材(Bi2223、Bi2212)、Hg系酸化物超電導線材、Tl系酸化物超電導線材等を使用することができる。その他、酸化物ではないが、公知のMgB2超電導線材を用いることもできる。また、前記電気的絶縁材料としては、例えば、PVF(ポリビニルフォルマール)が好ましい。さらに、高抵抗材料としては、超電導線材表面を酸化することによって得られる酸化層や超電導線材表面へのCrメッキ層が適用できる。なお、酸化物超電導線材を、導体幅方向に複数本並列配置した線材同士は、お互いに接着して固定することができるが、後述するように、例えば、樹脂により一体化することもできる。
【0030】
上記請求項1の発明により、電気的に並列化してなる複数の酸化物超電導線材が、マルチフィラメント超電導体として機能し、電流分流の均一化が図れるとともに、交流機器用コイルに適用した場合の前記垂直磁界中の交流損失が低減できる。また、上記超電導導体構成によれば、曲率半径が比較的小さい超電導コイルであっても容易に巻回可能であって、かつ製造が一層容易となる。
【0031】
ところで、前述のように、前記特許文献3に開示されたテープ状の超電導線材も、超電導薄膜部が構造的に分離されているが、常電導薄膜部と超電導薄膜部とが交互に形成されているので、常電導薄膜部において渦電流損失が発生し、損失が増大する問題があるのに対して、上記本発明の超電導導体によれば、各酸化物超電導線材が電気的に分離しているので、前記特許文献3のような問題は生じない。
【0032】
なお、上記請求項1の発明において、前記酸化物超電導線材の断面形状は、製造方法にもよるが、円形、矩形、場合によっては台形状となる場合や、さらに、矩形や台形の角が面取りされる場合等、種々の変形があり得る。
【0033】
上記請求項1の発明の実施態様としては、下記請求項2ないし5の発明が好ましい。即ち、前記請求項1に記載の超電導導体において、金属材料または非導電性材料からなる基板面上に、前記酸化物超電導線材を並列配置したものとする(請求項2)。前記金属材料としては、例えば、CuやSUS(ステンレス鋼)が好ましく、また非導電性材料としては、GFRPが好ましい。
【0034】
また、前記請求項1または2に記載の超電導導体において、前記酸化物超電導線材はツイストしてなるものとする(請求項3)。前記ツイストにより、交流損失の更なる低減効果が得られる。このツイストによる低減効果は、インシチュー(in-situ)法によるNb3Sn超電導線材において得られる公知の効果である。このようなツイストされた超電導線材は、フィラメント間の超電導接触により電磁気的にはモノフィラメント的(単芯線的)特性を有するが、ツイストにより、任意の印加角度を有する外部磁界に対して、交流損失を低減することができる。
【0035】
さらに、前記請求項1ないし3のいずれか1項に記載の超電導導体において、前記複数本の酸化物超電導線材を、もしくは前記複数本の酸化物超電導線材と基板とを、電気絶縁性材料により一体化してなるものとする(請求項4)。一体化用の電気絶縁性材料としては、例えば、エポキシ樹脂が好ましい。
【0036】
また、前記請求項1に記載の超電導導体において、高抵抗材料を被覆した酸化物超電導線材を、導体幅方向に複数本並列配置し、半田付けにより一体化するか、もしくは、高抵抗材料を被覆した酸化物超電導線材を、金属材料からなる基板面上に、導体幅方向に複数本並列配置し、前記複数本の酸化物超電導線材と基板とを、半田付けにより一体化してなるものとする(請求項5)。
【0037】
次に、超電導コイルの発明としては、下記請求項6ないし8の発明が好ましい。即ち、前記請求項1ないし5のいずれか1項に記載の超電導導体を、単独で単層もしくは複数層巻回するか、あるいは、前記超電導導体を複数個、コイル軸方向に並列配置してなる二次並列導体をユニットとし、この二次並列導体ユニットを単層もしくは複数層巻回してなる超電導コイルであって、前記超電導コイルの構造もしくは配置上、超電導コイルによって生じる磁場分布によって前記超電導導体の各酸化物超電導線材間に作用する垂直鎖交磁束が、互いに打ち消し合うように作用する部分を、少なくとも一部に有してなるコイル構成を備えたことを特徴とする(請求項6)。
【0038】
また、前記請求項1ないし5のいずれか1項に記載の超電導導体を複数個コイル軸方向に並列配置してなる二次並列導体をユニットとし、前記単独の超電導導体もしくは前記二次並列導体ユニットを複数層並列に積層してなる三次並列導体を、単層もしくは複数層巻回してなる超電導コイルであって、前記超電導コイルの構造もしくは配置上、超電導コイルによって生ずる磁場分布によって前記超電導導体の各酸化物超電導線材間に作用する垂直鎖交磁束が、互いに打ち消し合うように作用する部分を、少なくとも一部に有してなるコイル構成を備えたことを特徴とする(請求項7)。
【0039】
さらに、電流分担の均一化の観点から、前記請求項7に記載の超電導コイルにおいて、前記二次並列導体ユニットを複数層並列に積層してなる三次並列導体を巻回する際に、前記各層の二次並列導体ユニットを転位してなることを特徴とする(請求項8)。
【0040】
詳細は後述するが、例えば前記請求項6または7の発明のように、二次並列導体ユニット中に、複数本の酸化物超電導線材を電気的に分離して多数配置することで、二次並列導体または三次並列導体は、マルチフィラメントとして機能する導体となり、大電流容量超電導コイルの巻線が容易になると共に、電流分流均一化及び交流損失低減が図れる。また、前記二次並列導体ユニットの各酸化物超電導線材間に作用する垂直鎖交磁束が、互いに打ち消すように作用する部分を、少なくとも一部に有するものとするコイル構成に基づき、コイル構成上、垂直磁界に基づく交流損失が抑制される。この場合、コイル軸方向の酸化物超電導線材間で転位は不要であり、前記請求項8の発明のように、各層の二次並列導体ユニットを転位すればよく、並列化して電流容量増大を図る上でコイル構成を容易にすることができる。なお、コイル構造を最も簡略化する観点からは、前記請求項6の発明のようにすることが好ましい。
【0041】
また、過電流対策の観点から、下記請求項9ないし14の超電導導体ないし超電導コイルの発明が好ましい。即ち、前記請求項1ないし5のいずれか1項に記載の超電導導体において、少なくとも1本の酸化物超電導線材は、常電導導体材料からなる常電導線材に置き換えてなるものとする(請求項9)。また、前記請求項6に記載の超電導コイルにおいて、前記二次並列導体のうち少なくとも1本の超電導線材は、常電導導体材料からなる常電導線材に置き換えてなるものとする(請求項10)。さらに、前記請求項6に記載の超電導コイルにおいて、前記二次並列導体のうち少なくとも1個の超電導導体は、常電導導体材料からなる常電導導体に置き換えてなるものとする(請求項11)。さらにまた、前記請求項7に記載の超電導コイルにおいて、前記二次並列導体のうち少なくとも1個の超電導導体は、常電導導体材料からなる常電導導体に置き換えてなるものとする(請求項12)。
【0042】
上記構成によれば、励磁突入時や突発的な短絡事故時などにおける過電流により超電導線材または超電導導体が抵抗状態になった場合に電流が常電導線材または常電導導体に分流することによりジュール発熱による焼損を防止できる。
【0043】
前述したように、二次素線を構成する素線のインダクタンスは、コイルの軸方向に配置することで均一化され、超電導素線と常電導素線とではほぼ同一となる。一方で、常電導素線は電気抵抗が存在し、超電導素線は通常の使用範囲では電気抵抗は無視できるほど小さい。従って常電導素線のインピーダンスは超電導素線より大きくなり、電流のほとんどは超電導素線を流れ、常電導素線での電流による発熱はほとんどない。この関係は、常電導素線を含む二次並列導体を用いた超電導コイルにおいても成立する。よって常電導素線を並列配置したことによる損失は無視できるほど小さい。ところが、超電導素線に臨界電流を超えるような過電流が流れると、磁束フローによる電気抵抗が発生する。超電導素線の電気抵抗と、常電導素線の電気抵抗の関係により、常電導素線にも電流が流れる。従って電流を常電導素線に流すことができるので、超電導素線に過度の電流を流すことを回避できる。結果として定格電流以上の過電流が発生しても特性劣化のない超電導コイルを提供できる。
【0044】
なお、超電導線材または超電導導体を、常電導線材または常電導導体に置き換える位置は、一ヶ所に限らない。置き換える数とその位置は、超電導コイルの設計仕様による。さらに、例えば、三次並列導体におけるコイル軸方向の最上部または最下部の全てとすることもできる。また、置き換える位置を、コイル層方向の1つの層全てとすることもできるが、過電流時の電磁力支持の観点から、常電導素線に電流分流の機能と電磁力支持機能を兼用させることが好ましい。この観点から、下記請求項13の発明が好ましい。
【0045】
即ち、前記請求項8に記載の超電導コイルにおいて、前記三次並列導体における複数層の二次並列導体のうち、最外層の二次並列導体は常電導導体からなる二次並列導体に置き換え、この常電導導体からなる最外層は転位しない構成としたことを特徴とする(請求項13)。この場合、複数本の常電導導体は、超電導線材と同様に絶縁被覆される。
【0046】
常電導線材または常電導導体の材料としては、銅,銅合金,チタン,ステンレス鋼等の常導電材料を用いることができるが、コイルの仕様にもよるが、電磁力支持を重視する場合には、電気伝導率が比較的小さくても、機械的強度が高い材料を用いるのが望ましい。場合によっては、電気伝導率が大きい材料と機械的強度が高い材料とを、組み合わせることもできる。
【0047】
また、過電流時の電磁力支持を重視する観点からは、下記請求項14の発明が好ましい。即ち、請求項8に記載の超電導コイルにおいて、前記三次並列導体における複数層の二次並列導体のうち、最外層の二次並列導体は、常電導材料もしくは高強度の絶縁材料からなる電磁力支持部材に置き換えてなるものとする(請求項14)。
【発明の効果】
【0048】
この発明によれば、交流損失の抑制が可能な並列化超電導導体であり、曲率半径が比較的小さい超電導コイルであっても容易に巻回可能であって、かつ製造が一層容易な超電導導体を提供し、さらに、かかる超電導導体を用いてコイルの電流容量の増大を図り、励磁突入時や突発的な短絡事故時等における過電流による導体の焼損を防止し、安全な大容量の超電導コイルが提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0049】
図1ないし図11に基づき、本発明の実施の形態について以下に述べる。
【0050】
図1は、本発明の実施形態を示す超電導導体の模式的断面図であり、(a)図は、酸化物超電導線材として丸線材を用いた場合、(b)および(c)は、矩形断面の線材を用いた場合であって、それぞれアスペクト比が異なるケースを示す。図1において、それぞれ20a,20b,20cで示す酸化物超電導線材は、電気的絶縁材料または高抵抗材料により被覆されて、導体幅方向に複数本並列配置されており、電気的には実質的に並列化した超電導導体として構成されている。
【0051】
酸化物超電導線材としては、前述のような公知の線材が適用できるが、例えば、Bi系酸化物超電導線材(Bi2223、Bi2212)を使用する。電気的絶縁材料としては、例えば、PVF(ポリビニルフォルマール)、高抵抗材料としては、Crメッキ層とする。導体幅方向に複数本並列配置した線材同士は、お互いに接着して固定するか、もしくは、後述する実施態様のように樹脂により一体化し、超電導コイルに適用する場合には、上記並列化した超電導導体を、コイル中心軸を中心として巻回する。なお、超電導コイルの構成については後述する。
【0052】
次に、図1とは異なる超電導導体の実施形態について、図2ないし図6に基づいて述べる。図2は、金属材料または非導電性材料からなる基板31面上に、電気的絶縁材料により被覆された酸化物超電導線材20a,20b,20cを並列配置した実施形態を示す。図3は、前記基板31面上に、高抵抗材料により被覆された酸化物超電導線材21a,21b,21cを並列配置した実施形態を示す。
【0053】
図4および図5は、それぞれ、図1および図2に示す超電導導体の外周を、例えばエポキシ樹脂により、絶縁被覆して一体化した実施形態を示す。この実施形態によれば、電気絶縁に対する信頼性が向上するとともに、一体化により超電導導体の扱いが容易となる。
【0054】
図6は、酸化物超電導線材20a,20b,20cと基板31との間を、例えばエポキシ樹脂により接合して一体化するか、もしくは、前記請求項5に関わり、高抵抗材料を被覆した酸化物超電導線材(21a,21b,21c)を、金属材料からなる基板31面上に、導体幅方向に複数本並列配置し、前記複数本の酸化物超電導線材と基板とを、半田付けにより一体化した実施形態を示す。なお、前記請求項5に関わる超電導導体の構成としては、上記の基板31を省略して、高抵抗材料を被覆した酸化物超電導線材(21a,21b,21c)を、導体幅方向に複数本並列配置し、半田付けにより一体化してなるものとしてもよい。
【0055】
次に、超電導コイルの実施形態について、図7から図11に基づいて述べる。
【0056】
図7は、請求項6の発明に関わる実施形態を示す。図7に示す超電導コイルは、複数本の超電導導体40をコイル軸方向に並列配置してなる二次並列導体50を、単層もしくは複数層巻回してなる超電導コイルであり、超電導コイルの軸方向の対称性に基づき、超電導コイルによって生ずる磁場分布によって前記二次並列導体50の各超電導線材間に作用する垂直鎖交磁束が、互いに打ち消すように作用する(詳細は、前記国際出願PCT/JP2004/009965参照)。
【0057】
なお、図7においては、超電導導体40には、説明の便宜上、各超電導導体40に1〜4の番号を付して示す。図7の実施形態の超電導コイルの場合には、二次並列導体50を転位する必要はない。従って、全ての二次並列導体50内部の前記超電導導体の番号を、軸方向に(1,2,3,4)、(1,2,3,4)、…………(1,2,3,4)の列とし、この列を層方向に繰り返す配列となるように巻回する。
【0058】
次に、図8について述べる。図8は、図7とは異なる実施の形態の一例を示す超電導コイルの模式的断面図である。図8(a)は基板31面上に、電気的に分離して並列化してなる複数の酸化物超電導線材20bを有する超電導導体40を示す。この超電導導体40としては、前記図1ないし図6に示すような超電導導体が適用できる。
【0059】
図8(b)は図8(a)に示す超電導導体40を、コイル軸方向に4本並列配置したものであり、これが二次並列導体50となる。なお、図8(b)において、4本の超電導導体40は、それぞれ電気的に絶縁されている。
【0060】
図8(b)の場合において、並列配置された各々の超電導導体40のインダクタンスは同一であるので、二次並列導体50における超電導導体40は転位をする必要がない。結果として、二次並列導体50は、超電導導体40の並列本数倍の電流容量を持った導体と等価となる。
【0061】
次に、図8(c)について述べる。図8(c)は二次並列導体50を3層並列に積層して導体化した三次並列導体60である。なお、図8(c)において、各二次並列導体50の間は電気的に絶縁されている。積層した二次並列導体50同士のインダクタンスは、コイル径方向の位置に起因して異なるので、転位を施す必要がある。この転位構成としては、前述の特許文献1に記載のような転位構成、即ち、コイルの軸方向端部で転位させる構成を採用することにより、導体を構成している超電導線のインダクタンスの均一化および電流分担の均一化を図り、コイルとしての電流密度の低下防止を図ることができる。詳細は後述する。
【0062】
次に、図8(d)について述べる。図8(d)は前記三次並列導体60を、コイル半径方向に複数層巻回し、かつコイル軸方向に複数ターン巻回してなるコイル構成の模式的断面を示す。なお、図8(d)において、層数は省略して破線で示す。また、部番54はコイルフランジ、55は巻枠を示す。なお、巻枠は、図示のように円筒状でなくともよく、レーストラック状や、角に丸みを備えた矩形等の種々の形状があり得る。
【0063】
上記図8の実施形態のように超電導コイルを構成することにより、コイルの電流容量は、超電導導体40の4並列×3重ね分、すなわち12倍の電流容量を確保することが可能になる。大電流容量化を図る場合に、導体素線として、電流容量の大きな超電導素線を用いる場合と比較して、本発明のように、小電流容量の単位並列導体を用いて図8のような構成とする方が、製作が容易であり、かつ安価となる。
【0064】
また、電気的に分離された二次並列導体50、およびこれを構成する超電導導体40、さらには電気的に分離された酸化物超電導線材20bに作用する垂直鎖交磁界は、前記国際出願で開示されているように、超電導コイルの軸方向の対称性に基づき、超電導線材全体としては、互いに打ち消すように作用するので、垂直磁界に基づく交流損失は抑制される。さらに、分割した酸化物超電導線材20bが独立したフィラメントとして振舞うことができ、さらに交流損失低減が可能になる。
【0065】
なお、前記図8の場合には、二次並列導体を転位させることが望ましく、これについては、次の図9で述べる。図9は、転位構成の説明を行うために簡略化した超電導コイルの実施形態を示す。図9の実施形態は、コイル軸方向に超電導導体40を4個並列配置した二次並列導体を、半径方向に3層積層し、かつ最外層に常電導導体70を配置して構成した三次並列導体60aを導体ユニットとして巻回してなる超電導コイルを示す。
【0066】
転位を行う場合、前述のように、「コイルの層数を、並列化している超電導線の並列本数の4倍(本数×4倍)の整数倍とする」構成が好ましいので、図9においては、3本(二次並列導体)×4倍で、12層とした実施形態を示し、図9の下方に、1層、2層……12層として各層を示す。また、超電導導体40には、転位の説明の便宜上、各超電導導体40に1〜12の番号を付して示す。
【0067】
図9のように三次並列導体60aを重ねて配置すると、図8と同様に、二次並列導体間でインダクタンスが変わるので、少なくとも超電導導体40は、層間で転位を施す必要がある。転位をすることで、二次並列導体間のインダクタンスは均等になる。
【0068】
常電導導体は転位しなくとも、常電導導体の材料や温度、積層枚数及び動作周波数等にもよるが、通常、常電導導体に流れる電流は抵抗により制限され、発熱が問題とならない場合が多いので、図9においては、常電導導体70の二次並列導体に相当する導体間は、転位しない構成を示している。なお、必要に応じて転位する場合には、三次並列導体間で必要な転位を行う。
【0069】
図9において、図の左上の方から、太線の矢印に沿って電流が流入し、図の右上の方から流出するが、その間は、三次並列導体60aの図の上下の層間において、太線で示すように、各超電導導体40が、順次転位する。例えば、コイル中心軸14に最も近い三次並列導体60aの3層の内、番号1〜4で示すコイル中心軸に最も近い二次並列導体は、図の左上方に示す位置Aから導入され、図示B,C,D,E,F………Wを経て、図の右上に示す位置Xに導出するものとし、上記のように転位させることで、二次並列導体間のインダクタンスは均等になる。
【0070】
次に、図10について述べる。図10は、図8とは異なる本発明の実施形態を示し、過電流対策として、図8に示す二次並列導体50における複数本の超電導導体40の内、1本の超電導導体40を、常電導導体材料からなる常電導導体70に置き換えてなる実施形態を示す。図10において、二次並列導体は50aで示し、三次並列導体は60aで示す。その他の部材は、図8と同様である。
【0071】
図10(a)は、図8(a)と同様の超電導導体40である。これを図10(b)のように超電導コイルの軸方向に並べて配置する際に、全てを超電導導体40とはせずに、常電導導体70を含んで二次並列導体50aを構成する。配設された導体同士のインダクタンスは前述のように同一である。
【0072】
常電導導体70には電気抵抗が常に存在するのに対し、超電導導体40は通常の状態では電気抵抗が無視できるほど小さい。従って電流は超電導導体40に流れ、常電導導体70におけるジュール発熱は無く、常電導導体を配置したことによる損失は増えない。なお、常電導導体70は、テープ状導体でも、撚り線からなる導体でもよい。
【0073】
また、図10(c)は、二次並列導体50aを3層重ねて導体化した三次並列導体60aである。この三次並列導体60aを図8と同様に一層あたり4ターン巻回してコイルを形成したのが図10(d)である。層数は省略してある。
【0074】
通常時には、電流は、超電導導体40を流れるが、変圧器の励磁突入時のように過電流が流れる場合には、超電導導体40に臨界電流以上の電流が流れる。臨界電流を超えると超電導導体40に電気抵抗が発生する。この場合の超電導導体40の電気抵抗と、常電導導体70の電気抵抗の関係で、各導体に流れる電流が決定する。
【0075】
ところで、初期の臨界電流の所定の倍率(線材によって異なる倍率)まで過電流が流れても、通電後の臨界電流は低下しないが、これを越えた過電流が流れると通電後の臨界電流が低下する、いわゆる臨界電流の劣化が生ずることが知られている。
【0076】
本発明では、超電導導体40の電気抵抗と、常電導導体70の電気抵抗を適切に設定することで、過電流時の電流を常電導導体70に分担できるので、超電導導体40に流れる電流を低減でき、結果として超電導導体40の前記臨界電流の劣化を抑止できる。
【0077】
次に、図11について述べる。図11は、三次並列導体における複数層の二次並列導体の内、最外層の二次並列導体を、常電導材料もしくは高強度の絶縁材料からなる電磁力支持部材71に置き換えてなる実施形態を示す。
【0078】
図11(a)および(b)は、図10(a)および(b)と同一であるので説明は省略する。図11(c)は、二次並列導体50aを3層重ねて導体化したものに、常電導材料からなる電磁力支持部材71をさらに重ねた三次並列導体60aを示す。図11(d)は図11(c)の三次並列導体を用いて複数ターン巻回してコイルを形成したものである。なお、電磁力支持部材71は、図9と同様に、コイル軸方向に4分割してもよい。
【0079】
常電導導体70の効果は、前述した図10と同様であるので省略する。図11のような超電導コイルでは、大きな電磁力に耐えることのできる超電導コイルを提供できる。なお、この機械的支持材71の材質としては、ステンレスなどの高強度の金属材料を用いることができる。また、安定化機能は常電導導体70に委ね、電磁力支持部材71には電磁力支持機能のみを委ねる場合には、機械的支持材71の材質は、ガラステープなどの高強度の絶縁材料とすることもできる。
【0080】
以上、本発明の各種の超電導コイルの実施形態について、ソレノイドコイルを対象にして述べたが、ソレノイドコイル以外に、パンケーキコイルや、主に超電導回転機に使用される鞍形コイル等の超電導コイルにも、本発明は適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】本発明の実施形態を示す超電導導体の模式的断面図。
【図2】図1とは異なる実施形態を示す超電導導体の模式的断面図。
【図3】図2とは異なる実施形態を示す超電導導体の模式的断面図。
【図4】図1とはさらに異なる実施形態を示す超電導導体の模式的断面図。
【図5】図4とは異なる実施形態を示す超電導導体の模式的断面図。
【図6】図4とはさらに異なる実施形態を示す超電導導体の模式的断面図。
【図7】本発明の実施形態を示す超電導コイルの模式的断面図。
【図8】図7とは異なる実施形態を示す超電導コイルの模式的断面図。
【図9】図8とは異なる実施形態において転位構成を説明する図。
【図10】図8とはさらに異なる実施形態を示す超電導コイルの模式的断面図。
【図11】図10とは異なる実施形態を示す超電導コイルの模式的断面図。
【図12】特許文献1に開示された超電導コイルの転位構成の一例を示す図。
【符号の説明】
【0082】
1〜12 各超電導導体の表示番号
14 コイル中心軸
20a〜20c,21a〜21c 酸化物超電導線材
31 基板
36 電気絶縁性材料
40 超電導導体
50、50a 二次並列導体
54 コイルフランジ
55 巻枠
60、60a 三次並列導体
70 常電導導体
71 電磁力支持部材
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気的絶縁材料または高抵抗材料を被覆した酸化物超電導線材を、導体幅方向に複数本並列配置したことを特徴とする超電導導体。
【請求項2】
請求項1に記載の超電導導体において、金属材料または非導電性材料からなる基板面上に、前記酸化物超電導線材を並列配置したことを特徴とする超電導導体。
【請求項3】
請求項1または2に記載の超電導導体において、前記酸化物超電導線材はツイストしてなることを特徴とする超電導導体。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載の超電導導体において、前記複数本の酸化物超電導線材を、もしくは前記複数本の酸化物超電導線材と基板とを、電気絶縁性材料により一体化してなることを特徴とする超電導導体。
【請求項5】
請求項1に記載の超電導導体において、高抵抗材料を被覆した酸化物超電導線材を、導体幅方向に複数本並列配置し、半田付けにより一体化するか、もしくは、高抵抗材料を被覆した酸化物超電導線材を、金属材料からなる基板面上に、導体幅方向に複数本並列配置し、前記複数本の酸化物超電導線材と基板とを、半田付けにより一体化してなることを特徴とする超電導導体。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項に記載の超電導導体を、単独で単層もしくは複数層巻回するか、あるいは、前記超電導導体を複数個、コイル軸方向に並列配置してなる二次並列導体をユニットとし、この二次並列導体ユニットを単層もしくは複数層巻回してなる超電導コイルであって、前記超電導コイルの構造もしくは配置上、超電導コイルによって生じる磁場分布によって前記超電導導体の各酸化物超電導線材間に作用する垂直鎖交磁束が、互いに打ち消し合うように作用する部分を、少なくとも一部に有してなるコイル構成を備えたことを特徴とする超電導コイル。
【請求項7】
請求項1ないし5のいずれか1項に記載の超電導導体を複数個コイル軸方向に並列配置してなる二次並列導体をユニットとし、前記単独の超電導導体もしくは前記二次並列導体ユニットを複数層並列に積層してなる三次並列導体を、単層もしくは複数層巻回してなる超電導コイルであって、前記超電導コイルの構造もしくは配置上、超電導コイルによって生ずる磁場分布によって前記超電導導体の各酸化物超電導線材間に作用する垂直鎖交磁束が、互いに打ち消し合うように作用する部分を、少なくとも一部に有してなるコイル構成を備えたことを特徴とする超電導コイル。
【請求項8】
請求項7に記載の超電導コイルにおいて、前記二次並列導体ユニットを複数層並列に積層してなる三次並列導体を巻回する際に、前記各層の二次並列導体ユニットを転位してなることを特徴とする超電導コイル。
【請求項9】
請求項1ないし5のいずれか1項に記載の超電導導体において、少なくとも1本の酸化物超電導線材は、常電導導体材料からなる常電導線材に置き換えてなることを特徴とする超電導導体。
【請求項10】
請求項6に記載の超電導コイルにおいて、前記二次並列導体のうち少なくとも1本の超電導線材は、常電導導体材料からなる常電導線材に置き換えてなることを特徴とする超電導コイル。
【請求項11】
請求項6に記載の超電導コイルにおいて、前記二次並列導体のうち少なくとも1個の超電導導体は、常電導導体材料からなる常電導導体に置き換えてなることを特徴とする超電導コイル。
【請求項12】
請求項7に記載の超電導コイルにおいて、前記二次並列導体のうち少なくとも1個の超電導導体は、常電導導体材料からなる常電導導体に置き換えてなることを特徴とする超電導コイル。
【請求項13】
請求項8に記載の超電導コイルにおいて、前記三次並列導体における複数層の二次並列導体のうち、最外層の二次並列導体は常電導導体からなる二次並列導体に置き換え、この常電導導体からなる最外層は転位しない構成としたことを特徴とする超電導コイル。
【請求項14】
請求項8に記載の超電導コイルにおいて、前記三次並列導体における複数層の二次並列導体のうち、最外層の二次並列導体は、常電導材料もしくは高強度の絶縁材料からなる電磁力支持部材に置き換えてなることを特徴とする超電導コイル。
【請求項1】
電気的絶縁材料または高抵抗材料を被覆した酸化物超電導線材を、導体幅方向に複数本並列配置したことを特徴とする超電導導体。
【請求項2】
請求項1に記載の超電導導体において、金属材料または非導電性材料からなる基板面上に、前記酸化物超電導線材を並列配置したことを特徴とする超電導導体。
【請求項3】
請求項1または2に記載の超電導導体において、前記酸化物超電導線材はツイストしてなることを特徴とする超電導導体。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載の超電導導体において、前記複数本の酸化物超電導線材を、もしくは前記複数本の酸化物超電導線材と基板とを、電気絶縁性材料により一体化してなることを特徴とする超電導導体。
【請求項5】
請求項1に記載の超電導導体において、高抵抗材料を被覆した酸化物超電導線材を、導体幅方向に複数本並列配置し、半田付けにより一体化するか、もしくは、高抵抗材料を被覆した酸化物超電導線材を、金属材料からなる基板面上に、導体幅方向に複数本並列配置し、前記複数本の酸化物超電導線材と基板とを、半田付けにより一体化してなることを特徴とする超電導導体。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項に記載の超電導導体を、単独で単層もしくは複数層巻回するか、あるいは、前記超電導導体を複数個、コイル軸方向に並列配置してなる二次並列導体をユニットとし、この二次並列導体ユニットを単層もしくは複数層巻回してなる超電導コイルであって、前記超電導コイルの構造もしくは配置上、超電導コイルによって生じる磁場分布によって前記超電導導体の各酸化物超電導線材間に作用する垂直鎖交磁束が、互いに打ち消し合うように作用する部分を、少なくとも一部に有してなるコイル構成を備えたことを特徴とする超電導コイル。
【請求項7】
請求項1ないし5のいずれか1項に記載の超電導導体を複数個コイル軸方向に並列配置してなる二次並列導体をユニットとし、前記単独の超電導導体もしくは前記二次並列導体ユニットを複数層並列に積層してなる三次並列導体を、単層もしくは複数層巻回してなる超電導コイルであって、前記超電導コイルの構造もしくは配置上、超電導コイルによって生ずる磁場分布によって前記超電導導体の各酸化物超電導線材間に作用する垂直鎖交磁束が、互いに打ち消し合うように作用する部分を、少なくとも一部に有してなるコイル構成を備えたことを特徴とする超電導コイル。
【請求項8】
請求項7に記載の超電導コイルにおいて、前記二次並列導体ユニットを複数層並列に積層してなる三次並列導体を巻回する際に、前記各層の二次並列導体ユニットを転位してなることを特徴とする超電導コイル。
【請求項9】
請求項1ないし5のいずれか1項に記載の超電導導体において、少なくとも1本の酸化物超電導線材は、常電導導体材料からなる常電導線材に置き換えてなることを特徴とする超電導導体。
【請求項10】
請求項6に記載の超電導コイルにおいて、前記二次並列導体のうち少なくとも1本の超電導線材は、常電導導体材料からなる常電導線材に置き換えてなることを特徴とする超電導コイル。
【請求項11】
請求項6に記載の超電導コイルにおいて、前記二次並列導体のうち少なくとも1個の超電導導体は、常電導導体材料からなる常電導導体に置き換えてなることを特徴とする超電導コイル。
【請求項12】
請求項7に記載の超電導コイルにおいて、前記二次並列導体のうち少なくとも1個の超電導導体は、常電導導体材料からなる常電導導体に置き換えてなることを特徴とする超電導コイル。
【請求項13】
請求項8に記載の超電導コイルにおいて、前記三次並列導体における複数層の二次並列導体のうち、最外層の二次並列導体は常電導導体からなる二次並列導体に置き換え、この常電導導体からなる最外層は転位しない構成としたことを特徴とする超電導コイル。
【請求項14】
請求項8に記載の超電導コイルにおいて、前記三次並列導体における複数層の二次並列導体のうち、最外層の二次並列導体は、常電導材料もしくは高強度の絶縁材料からなる電磁力支持部材に置き換えてなることを特徴とする超電導コイル。
【図9】
【図12】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図10】
【図11】
【図12】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2006−196720(P2006−196720A)
【公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−7008(P2005−7008)
【出願日】平成17年1月14日(2005.1.14)
【出願人】(595113392)
【出願人】(000173784)財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【出願人】(591083244)富士電機システムズ株式会社 (1,717)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年1月14日(2005.1.14)
【出願人】(595113392)
【出願人】(000173784)財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【出願人】(591083244)富士電機システムズ株式会社 (1,717)
【Fターム(参考)】
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