説明

超電導材料の作製方法

【発明の詳細な説明】
「発明の利用分野」
本発明は、酸化物セラミック系超電導材料を焼成している際、同時に磁界を加えることによりその結晶を配向せしめ、大きな臨界電流を得んとするものである。
「従来の技術」
従来、超電子材料は、水銀、鉛等の元素、NbN,Nb3Ge,Nb3Ga等の合金またはNb3(Al0.8Ge0.2)等の三元素化合物よりなる金属材料が用いられている。しかしこれらのTc(超電導臨界温度)オンセットは25Kまでであった。
他方、近年、セラミック系の超電導材料が注目されている。この材料は最初IBMのチューリッヒ研究所よりBa−La−Cu−O(バラクオ)系酸化物高温超電導体として報告され、さらにLSCO(第二銅酸−ランタン−ストロンチウム)として知られてきた。これらは(A1-xBx)yCuOzにおけるそれぞれの酸化物を混合し焼成するのみであるため、Tcオンセットが30Kしか得られなった。
「従来の問題点」
これら酸化物セラミックスの超電導の可能性は1層ペロブスカイト型の構造を利用しており、その構造物の中には多数のボイドおよび結晶粒界を含有するため、そのTcも30Kが限界であった。
このため、このTc0(抵抗が零となる温度)をさらに高くし、望むべくは液体窒素温度(77K)またはそれ以上の温度で動作せしめるとともに、磁場電流密度を向上させることが強く求められていた。かかる目的のために、本発明人による『超電導材料の作製方法』(昭和62年3月27日 特願昭62−75205)がある。
本発明はかかる発明をさらに発展させたものである。
「問題を解決すべき手段」
本発明は、室温により近い高温で超電導を呈するべくせしめるとともに、高い臨界電流密度を得るため、加熱工程をへて酸化物超電導材料を作製するに際し、ペロブスカイト構造を有する結晶のC軸を有すべき方向に平行または概略平行に磁界方向を合わせて加え、結晶の生成面を一定方向に配設するものである。その結果、500℃以上の焼成中に0.3T以上の磁場を同時に印加することにより、臨界電流密度を1×104A/cm2以上まで向上させ得ることが明らかになった。
本発明に用いる代表的な超電導材料は元素周期表III a族およびII a族の元素および銅を用いた酸化物セラミックスである。
本発明の超電導性材料は(A1-xBx)yCuzOw,x=0〜1,y=2.0〜4.0好ましくは2.5〜3.5,z=1.0〜4.0好しくは1.5〜3.5,w=4.0〜10.0好ましくは6〜8で一般的に示し得るものである。Aはイットリウム族より選ばれた元素およびその他のランタノイドより選ばれた元素のうちの1種類または複数種類を用いている。イットリウム族とは、理化学辞典(岩波書店 1963年4月1日発行)によればY(イットリウム),Gd(ガドリニウム),Yb(イッテリビウム),Eu(ユーロピウム),Tb(テルビウム),Dy(ジスプロシウム),Ho(ホルミウム),Er(エルビウム),Tm(ツリウム),Lu(ルテチウム),Sc(スカンジウム)およびその他のランタノイドを用いる。
またBはRa(ラジウム),Ba(バリウム),Sr(ストロンチウム),Ca(カルシウム),Mg(マグネシウム),Be(ベリリウム)より選ばれた元素のうち1種類または複数種類を用いている。
尚、本明細書における元素周期表は理化学辞典(岩波書店 1963年4月1日発行)によるものである。
本発明に示される酸化物超電導材料は、第1図にその結晶構造が示されているが、変形ペルブスカイト構造を有する。そして銅(2)とその他の銅(3)とその周辺に位置する酸素(6),酸素ベイカンシ(1)とを有する。元素周期表III a族の元素(1)例えばY,元素周期表II a族の元素例えばBa(4)とを有する。そして超電導を発生するメカニズムとして、層構造を有する酸素(5)とその中心にある銅(2)との相互作用により、対をなす電子(電子対)がその面を移動するとされている。さらにその対をなす電子が生成される理由として、これまではBCS理論に基づきフォノンとされていた。しかし本発明人はかかる理由としてスクリュー磁性体である希土類またはこれと酸素ベイカンシとの相互作用によるマグノンという準粒子を仲立ちとして、スピンが反対の一対の電子を形成することができることを仮定している。かかるマグノンが影武者的働きをして層構造を有する面での電子対の移動をさせるものと考えることができる。
かかる構造においては、1つの銅(2)の周囲の4ケの酸素原子(5)をより層構造とし、この層をキャリアが移動しやすくするため、本発明構造における(A1-xBx)yCuzOwにおけるA,Bの選ばれる元素が重要である。特にAの元素はイットリウム族の元素またはランタノイドの元素、一般的には元素周期表におけるIII aの族である。さらに本発明はBとして元素周期表におけるII a族であるRa(ラジウム),Ba(バリウム),Sr(ストロンチウム),Ca(カルシウム),Mg(マグネシウム),Be(ベリリウム)より選ばれた元素を用いている。
すると本発明に用いられる酸化物超電導材料は単結晶であることが望ましい。
第1図のC面(ab軸と平行の面でありab面とも呼ばれる)に平行な方向は、それと垂直方向に比べて2桁以上も電流が流れやすい。このため、結晶方位がバラバラな多結晶を一方向に軸を配設することが高い臨界電流密度を得るためにきわめて重要である。
第1図より明らかなように、C軸はC面を方向付ける軸であり、a軸及びb軸と垂直な方向として表される。
本発明は、かかる元素を用いた酸化物材料を仮焼成して酸化するに際し、その固形物(タブレット)、膜状にスパッタ法等で積層している際に、磁場好ましくは0.3ステラ(T)以上の磁場を加えることにより、その磁場によりその磁界の方向と同じ方向またはそれにより近く再配列すべき概略同じ方向にC軸方向を有する多結晶が配列しつつ結晶を成長させることができることを見出した。かくすることにより、前記した一般式におけるA,Bに対し、選択の余地を与えるとともに、多結晶を呈する1つの結晶粒を大きくでき、ひいてはその結晶粒界でのバリア(障壁)をより消失させ得る構成とせしめた。そしてそれぞれの結晶をすべてab面(C軸に垂直な面、即ちC面)に合わせることが可能となる。その結果、臨界電流密度をこれまでの102A/cm2(77K)より104〜105A/cm2(77Kにて測定)に増し、単結晶の約4/5にまで近づけることが可能となった。そしてその理想の単結晶構造をより作りやすくせしめた。
本発明は出発材料の酸化物または炭酸化物の微粉末を混合し、一度加圧、酸化焼成(これを仮焼成という)をする。かくして出発材料の酸化物または炭酸塩より(A1-xBx)yCuzOw型の変形ペルブスカイト構造を有する超電導材料を作り得る。
さらにこれを再び微粉末化し、再び加圧して成形物、例えばタブレット化し、本焼成を磁場を加えつつ行う工程を有せしめている。また、かかる本焼成を行ってしまったものに対し、再び熱アニールを磁場を加えつつ行うことにより、結晶粒のすべてを一方向に合わせこむことができる。
「作用」
本発明の酸化物超電導材料は、加熱焼成中でもきわめて簡単に作ることができる。特にこれらはその出発材料として3N〜6Nの純度の酸化物または炭酸塩を用いる。これをボールミル等で微粉末に粉砕し混合すると、化学量論的に(A1-xBx)yCuzOwのx,y,z,wのそれぞれの値を任意に変更、制御することができる。
本発明においては、かかる軸配列をした超電導材料を作るのに、それより十分離れた位置で磁場を作り鉄等の磁性体で加熱されている酸化物超電導材料近傍に磁界を誘導すればよく、特に高価な設備を用いなくともよいという他の特徴も有する。
以下に実施例に従い、本発明を記す。
「実施例1」
本発明の実施例として、AとしてY,BとしてBaを用いた。
出発材料は、Y化合物として酸化イットリウム(Y2O3),Ba化合物としてBaCO3,銅化合物としてCuOを用いた。これらは高純度化学工業株式会社より入手し、純度は99.95%またはそれ以上の微粉末を用い、例えばx=0.67、y=3,z=3,w=6〜9(YBa2)Cu3O6となるべく選んだ。
これらを十分乳鉢で混合しカプセルに封入し、30Kg/cm2の荷重を加えてタブレット化(外径15mmφ,厚さ3mm円筒状)した。さらに酸化性雰囲気例えば大気中で500〜1400℃、例えば950℃で8時間加熱酸化をした。この工程を仮焼成とした。この時外部より磁場を加えた。この磁場は磁石より導出された金属の端面をタブレットの上下に密接し、一方をN、他方をSとするべく直流磁場とし、強さは0.3T以上例えば0.5Tとした。この磁場の強さは強ければ強いほど好ましいことはいうまでもない。
次にこれを粉砕し、乳鉢で混合した。そしてその粉末の平均粉粒径が200μm〜0.03μm、例えば10μm以下の大きさとなるようにした。
さらにこれをカプセルに封入し50Kg/cm2の圧力でタブレットに加圧して成型した。
次に500〜1200℃、例えば900℃の酸化物雰囲気、例えば大気中で酸化して、本焼成を10〜50時間、例えば15時間行った。
次にこの試料を酸素中で加熱(600〜1200℃,3〜30時間、例えば950℃、20時間)して、酸化させた。この時、本発明方法においてはこのタブレットの上下より外部磁場を加えた。この磁場は直流磁場とし、0.5Tをタブレットに対し加えた。この磁場は少なくとも10分以上加え続けると、臨界電流密度の向上、Tc0の上昇の効果がみられた。
この試料を用いて固有抵抗と温度との関係を調べた。すると最高温度が得られたものとしてのTcオンセットとして101K,Tc0として99Kを観察することができた。そして臨界電流密度として3×104A/cm2(77K)を得た。
磁場を加えない場合はこの値はTcオンセット93K,Tc076Kでしかなかった。また臨界電流密度は4.5×102A/cm2にすぎなかった。
「実施例2」
この実施例として、AとしてYおよびYbを1:1でその酸化物を混合した。BとしてBaおよびSr=1:1で用いた。すると(Y0.5Yb0.5BaSr)Cu3O6として示される構造を有する。出発材料は酸化イットリウムおよび酸化イッテルビウム、BaとしてBaCO3、炭酸ストロンチウムまた銅化合物としてCuOを用いた。この場合、仮焼は1200℃としてこれらを溶融させた。その時ここに0.3Tを加えつつ100℃/時間で930℃ま徐冷し、さらに930℃にて15時間同じ磁場中で保存した。この後これらを徐冷した。その他は実施例1と同様である。
Tcオンセットとして109K、Tc0として93Kを得ることができた。また出来上がったタブレットは単結晶となり、それぞれの粒径が1mm以上を得た。そして臨界電流密度も1.5×105A/cm2を得た。
磁場を加えない場合は、Tcオンセット94K,Tc081Kであり、また102A/cm2のオーダーしか得られなかった。
「実施例3」
実施例1において、本焼成の際、この950℃での焼成中、磁場を0.5T加えると、同時にこのタブレットを成形器で50Kg/cm2の圧力で磁界に垂直な面、即ち厚さをより薄くする方向に加圧した。すると加熱されて微粒子が動きやすい状態であり、かつ磁場で再配列しそこに加圧されるため、さらにこの成形物を緻密(気孔率を100%以下即ちほとんど気孔のない状態)にすることができた。
「実施例4」
この実施例は、スパッタ法、電子ビーム蒸着法により得られた基板上に、実施例1と同一成分を500〜950℃で熱アニールを行う際、その面に垂直方向に磁界を同時に加えた。するとこの膜の磁界電流密度を1×102の磁界を加えずに行った場合に比べて3.1×104A/cm2と約2桁も向上させることができた。
本発明において、成形物はタブレット形状とした。しかしこの形はその市場のニーズに従って膜構造、帯構造、線構造に変形改良し得る。特に膜構造とする場合は、膜面に垂直方向に磁界を加えつつ膜形成をすることにより、この膜面にそってab面が形成され、その方向により高い臨界電流密度ができるだけ好ましかった。
「効果」
本発明により、これまでまったく不可能とされていた液体窒素温度以上の温度で動作する酸化物超電導セラミックスを作ることができるようになった。
本発明において仮焼成をした後に微粉末化する工程により、初期状態でのそれぞれの出発材料の化合物を到達材料、即ち(A1-xBx)yCuzOwで示される材料を含む化合物とするものである。
さらにこの到達材料の化合物における多結晶構造間で銅の層構造をより一致させやすくするため、元素周期表におけるII a、III aの元素を複数個混合させ得る。
本発明に示す如く、加熱中に磁場を加えて分子配列をより統一化することにより、最終完成化合物中に、ボイドおよび結晶粒界の障壁の高さを低くすること等の存在をより除去することができ、ひいてはTcオンセット、Tc0をより高温化できるものと推定される。
本発明の実施例は、タブレット(固形物)にしたものである。しかしタブレットにするのではなく、仮焼成または本焼成の後、再び粉末化し、その粉末を溶媒にとかし、基板等にその溶液をコーティングしてこれを乾燥させ、さらに酸化性雰囲気で磁場を加えつつ焼成し、その後還元性雰囲気で焼成をすることにより薄膜の超電導セラミックスとすることも可能である。
本発明はすでに所望のタブレットに完成しているものを再び熱アニールを500℃以上で行い、その際同時にタブレットを構成する材料に磁界を加えて結晶方位を一方向に合わせこむことも有効である。
【図面の簡単な説明】
第1図は本発明に用いられる酸化物超電導材料の結晶構造の1例を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】加熱工程を経て超電導材料を形成するに際し、前記加熱工程中に前記超電導材料に対して磁場を加える工程を有し、前記磁場は前記超電導材料の臨界電流密度を向上させんとする方向に対して垂直または概略垂直な方向に加えられることを特徴とする超電導材料の作製方法。
【請求項2】特許請求の範囲第1項において、500℃以上の温度で加熱中の超電導材料に対し、0.3T以上の磁場を印加せしめたことを特徴とする超電導材料の作製方法。
【請求項3】特許請求の範囲第1項において、超電導材料は(A1-xBx)yCuOz,x=0〜1,y=2.0〜4.0,z=1.0〜4.0,w=4.0〜10.0を有し、AはY(イットリウム),Gd(ガドリニウム),Yb(イッテリビウム),Eu(ユーロピウム),Tb(テルビウム),Dy(ジスプロシウム),Ho(ホルミウム),Er(エルビウム),Tm(ツリウム),Lu(ルテチウム),Sc(スカンジウム)およびその他のランタノイドより選ばれた1種または複数種の元素よりなり、BはRa(ラジウム),Ba(バリウム),Sr(ストロンチウム),Ca(カルシウム),Mg(マグネシウム),Be(ベリリウム)より選ばれた元素よりなることを特徴とする超電導材料の作製方法。

【第1図】
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【特許番号】第2585621号
【登録日】平成8年(1996)12月5日
【発行日】平成9年(1997)2月26日
【国際特許分類】
【出願番号】特願昭62−213758
【出願日】昭和62年(1987)8月26日
【公開番号】特開平1−56357
【公開日】平成1年(1989)3月3日
【審判番号】平6−19370
【出願人】(999999999)株式会社半導体エネルギー研究所
【合議体】
【参考文献】
【文献】特開 昭63−282153(JP,A)
【文献】特開 昭63−239112(JP,A)
【文献】特開 昭63−233069(JP,A)