説明

超電導機器および超電導ケーブル

本発明の超電導機器は酸化物超電導線材を有している。酸化物超電導線材における酸化物超電導体の焼結密度は93%以上であり、好ましくは95%以上であり、さらに好ましくは99%以上である。これにより、温度制御なしに昇温してもバルーニングの発生を抑止することのできる超電導機器を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は超電導機器および超電導ケーブルに関し、特に温度制御なしに昇温してもバルーニングの発生を抑止することのできる超電導機器および超電導ケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
超電導ケーブルなどの超電導機器を使用する際には、超電導機器中の超電導体フィラメントを臨界温度(T)以下に冷却するために、たとえば液体窒素や液体ヘリウムなどの液体冷媒に超電導機器が浸漬され、極低温に保持される。一方、たとえば点検などの際には、液体冷媒から超電導機器が取り出され、室温の気体冷媒などを超電導機器の周りに流入することにより、極低温から室温にまで温度上昇される。しかしながら、液体冷媒浸漬後に室温へ温度上昇する際、従来の超電導機器には以下のような問題が生じていた。
【0003】
すなわち、超電導機器を構成している酸化物超電導線材の表面には、微小なピンホールが存在していることが多い。この酸化物超電導線材を長期間液体冷媒に浸漬すると、そのピンホールを介して酸化物超電導線材内の超電導体フィラメントの空隙に液体冷媒が浸入する。この状態から常温へ温度上昇する場合、その温度上昇速度が大きいと酸化物超電導線材内に浸入した液体冷媒が気化し、気化したガスが外に放出されない。これにより、酸化物超電導線材内部の圧力が上昇し、酸化物超電導線材が膨張する(バルーニングが発生する)。バルーニングが発生すると、超電導体フィラメントが破壊され、臨界電流密度の低下などの特性低下が生じるという問題があった。
【0004】
そこで、超電導ケーブルのバルーニングの発生を抑止する気化速度制御方法が、たとえば特開2002−260458号公報(特許文献1)に開示されている。上記公報に開示された気化速度制御方法は、超電導ケーブルの超電導導体の昇温速度を10K/hour以下として冷媒の気化速度を制御する方法である。具体的には、超電導ケーブルに流入する際の冷媒の温度を通常冷却時よりも高くして供給する手段や、超電導ケーブルに流入する際の冷媒の流速を通常冷却時よりも小さくして供給する手段や、超電導ケーブルに流入する際の冷媒に、通常冷却時の冷媒の温度以上である昇温用流体を流入する手段や、冷媒の温度が沸点以下で沸点近くにある状態から、冷媒の圧力を徐々に大きくして超電導ケーブルに供給する手段などにより、超電導ケーブルの超電導導体の昇温速度を10K/hour以下として冷媒の気化速度が制御される。これにより、超電導素線内部に侵入した液体冷媒の気化速度が相対的に小さくなるので、素線の膨張を抑制することができる。
【特許文献1】特開2002−260458号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記公報に開示された方法は、極低温から室温までの超電導導体の昇温速度を制御する必要があり、昇温の際の温度制御が複雑になる。また、超電導導体の昇温速度が10K/hour以下と小さいので、昇温するのに長時間かかってしまう。
【0006】
ここで、温度制御なしに昇温してもバルーニングの発生を抑止することのできる方法として、以下の方法も考えられる。すなわち、超電導機器を構成する酸化物超電導線材のシース部の周囲に金属をメッキしてピンホールを塞ぐことにより、酸化物超電導線材内の超電導体フィラメントの空隙に液体冷媒が浸入することを抑制し、バルーニングの発生を抑制する方法も考えられる。
【0007】
しかしながら、この方法によれば、メッキされた金属の分だけ超電導機器の重量が増加し、超電導機器が大型化する。また、超電導機器の製造工程も増加する。
【0008】
したがって、本発明の目的は、温度制御なしに昇温してもバルーニングの発生を抑止することのできる超電導機器および超電導ケーブルを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の超電導機器は酸化物超電導線材を有している。酸化物超電導線材における酸化物超電導体の焼結密度は93%以上である。
【0010】
本発明の超電導ケーブルは酸化物超電導線材を有している。酸化物超電導線材における酸化物超電導体の焼結密度は93%以上である。
【0011】
本発明の超電導機器および超電導ケーブルによれば、酸化物超電導体の空隙が著しく少ないため、酸化物超電導体の空隙に液体冷媒が浸入しにくくなる。したがって、液体冷媒に浸漬された状態から常温へ温度上昇される際に温度制御なしに昇温しても、気化する液体冷媒の量は非常に少ない。その結果、酸化物超電導線材内部の圧力が上昇しにくくなり、バルーニングの発生を抑止することができる。
【0012】
本発明の超電導機器において好ましくは、酸化物超電導線材における酸化物超電導体の焼結密度は95%以上である。
【0013】
本発明の超電導ケーブルにおいて好ましくは、酸化物超電導線材における酸化物超電導体の焼結密度は95%以上である。
【0014】
これにより、酸化物超電導体の空隙が著しく少ないため、酸化物超電導体の空隙に液体冷媒が一層浸入しにくくなる。したがって、液体冷媒に浸漬された状態から常温へ温度上昇される際に、温度制御なしに昇温しても、バルーニングの発生を一層抑止することができる。
【0015】
本発明の超電導機器において好ましくは、酸化物超電導線材における酸化物超電導体の焼結密度は99%以上である。
【0016】
本発明の超電導ケーブルにおいて好ましくは、酸化物超電導線材における酸化物超電導体の焼結密度は99%以上である。
【0017】
これにより、酸化物超電導体の空隙が著しく少ないため、酸化物超電導体の空隙に液体冷媒がより一層浸入しにくくなる。したがって、液体冷媒に浸漬された状態から常温へ温度上昇される際に、温度制御なしに昇温しても、バルーニングの発生をより一層抑止することができる。
【0018】
酸化物超電導体が上記の焼結密度である酸化物超電導線材は、以下の製造方法によって製造することができる。
【0019】
酸化物超電導体の原材料粉末を金属で被覆した形態を有する線材が作製される。そして、線材が加圧雰囲気中で熱処理される。加圧雰囲気の全圧力は1MPa以上50MPa未満である。
【0020】
本発明の酸化物超電導線材の製造方法によれば、1MPa以上という大きな線材外部の圧力によって、熱処理時に生成する超電導結晶の塑性流動およびクリープ変形が起こるため、酸化物超電導結晶間の空隙は減少される(酸化物超電導体の焼結密度が向上する)。また、熱処理時に生成する酸化物超電導結晶粉末の隙間内のガスや熱処理時に生成する酸化物超電導結晶粉末に付着したガスが熱処理時に膨張することを、金属管外部からの圧力により抑制することができるので、酸化物超電導線材の膨れの生成は抑止される。以上の結果、臨界電流密度が向上する。
【0021】
また、安定した酸化物超電導相を生成するには、加圧雰囲気中の全圧力の値にかかわらず酸素分圧を常に一定範囲に制御する必要がある。しかし、この場合、加圧雰囲気中の全圧力が50MPaを超える場合には、その全圧力に対する酸素分圧が小さくなる。これにより、加圧雰囲気中の酸素濃度の値が非常に小さくなるため、測定誤差等の影響を強く受けるようになるので、酸素分圧の制御が困難になるという問題がある。本発明の酸化物超電導線材の製造方法によれば、50MPa未満の加圧雰囲気中で熱処理が行なわれるので、加圧雰囲気中の全圧力に対する酸素分圧が小さくなり過ぎず、加圧雰囲気中の酸素濃度の値がある程度高いので、測定誤差等の影響をそれほど受けないで酸素分圧の制御が容易となる。全圧力が1MPa以上50MPa未満の加圧雰囲気中で線材を熱処理することにより、酸化物超電導体の焼結密度が93%以上96%以下程度である酸化物超電導線材が得られる。
【0022】
上記の酸化物超電導線材の製造方法において好ましくは、熱処理する工程は、熱間等方圧加圧法(HIP:Hot Isostatic Pressing)により行なわれる。
【0023】
これにより、酸化物超電導線材は等方的に加圧されるので、均一に線材の空隙および膨れは防止される。
【0024】
上記の酸化物超電導線材の製造方法において好ましくは、酸化物超電導体は、ビスマスと鉛とストロンチウムとカルシウムと銅とを含み、その原子比として(ビスマスと鉛):ストロンチウム:カルシウム:銅が2:2:2:3と近似して表されるBi2223相を含むBi−Pb−Sr−Ca−Cu−O系の酸化物超電導体である。
【0025】
これにより、結晶間の空隙および酸化物超電導線材の膨れの生成が抑止される結果、臨界電流密度を向上できる。
【0026】
上記の酸化物超電導線材の製造方法において好ましくは、熱処理する工程は、酸素雰囲気中で行なわれ、かつ、酸素分圧は0.003MPa以上0.02MPa以下である。
【0027】
このように酸素分圧を0.003MPa以上0.02MPa以下の範囲に保つことにより、安定した酸化物超電導相が生成し、臨界電流密度を向上させることが可能となる。なお、酸素分圧が0.02MPaを超えると異相が生成し、0.003MPa未満では酸化物超電導相が生成しにくくなり臨界電流密度が低下する。
【0028】
上記の酸化物超電導線材の製造方法において好ましくは、熱処理する工程における熱処理前の昇温時には、加圧雰囲気中の温度上昇に伴なって酸素分圧が増加するように制御される。
【0029】
酸化物超電導相の生成に最適な酸素分圧の値は、温度上昇とともに大きくなる。これにより、熱処理する工程における熱処理前の昇温時においても適切な酸素分圧となるので、安定した酸化物超電導相が生成し、臨界電流密度を向上させることが可能となる。
【0030】
上記の酸化物超電導線材の製造方法において好ましくは、熱処理時には加圧雰囲気中の全圧力が一定となるように制御される。
【0031】
熱処理時には、加圧容器中で線材を支える支持具の酸化により酸素ガスが消費されることや、保圧弁などの圧力調整器の圧力制御時のハンチングや、消費された酸素を補うために追加するガス導入時の圧力変動などにより、全圧力が減少傾向を示すことがある。これにより容器内で急激な減圧が生じると、線材内部の圧力が線材外部の圧力と比較して高くなり、線材の膨れが生成する。しかし、本発明の好ましい局面では熱処理時の全圧力が一定となるように制御されているため、熱処理時の急激な減圧による線材の膨れの生成を防止することが可能となる。
【0032】
上記の酸化物超電導線材の製造方法において好ましくは、熱処理する工程は、酸素雰囲気中で行なわれ、かつ、熱処理時の酸素分圧が10%以内の変動範囲で一定となるように制御される。
【0033】
これにより、温度の変動があっても、酸化物超電導相の生成に最適な酸素分圧の範囲内に酸素分圧をおさめることができるので、安定した酸化物超電導相が生成し、臨界電流密度を向上させることが可能となる。
【0034】
上記の酸化物超電導線材の製造方法において好ましくは、熱処理直後の降温時には、降温による圧力の低下を補うようにガスが注入される。
【0035】
熱処理直後の降温時には温度変化に伴なう圧力低下が起こる。このときに加熱容器内が急激に減圧されると、線材内部の圧力が線材外部の圧力と比較して高くなり、線材の膨れが生成する。しかし、本発明の好ましい局面では降温による圧力低下を補うようにガスが注入されるため、熱処理直後の降温時の急激な減圧による線材の膨れの生成を防止することが可能となる。
【0036】
上記の酸化物超電導線材の製造方法において好ましくは、原材料粉末を被覆する金属が銀を含み、熱処理する工程後の線材の横断面における酸化物超電導体部分の面積に対する金属部分の面積の比(以下、銀比)が1.5である場合には、熱処理直後の降温時の減圧速度が0.05MPa/min以下に制御される。
【0037】
これにより、銀比が1.5である場合において、急激な減圧による線材の膨れの生成を防止する効果がより顕著である。
【0038】
上記の酸化物超電導線材の製造方法において好ましくは、原材料粉末を被覆する金属が銀を含み、銀比が1.5である場合には、熱処理する工程において、雰囲気中の温度が200℃以上の場合には、加圧雰囲気中の全圧力の減圧速度が0.05MPa/min以下となるように制御される。
【0039】
雰囲気中の温度が200℃以上の場合に加熱容器内が急激に減圧されると、線材内部の圧力が線材外部の圧力と比較して高くなり、それにより線材の膨れが生成する。そこで、これにより、銀比が1.5である場合において、熱処理する工程中(熱処理前、熱処理時、熱処理後)における急激な減圧による線材の膨れの生成を抑止する効果がより顕著である。
【0040】
上記の酸化物超電導線材の製造方法において好ましくは、原材料粉末を被覆する金属が銀を含み、銀比が3.0である場合には、熱処理直後の降温時の減圧速度が0.03MPa/min以下に制御される。
【0041】
これにより、銀比が3.0である場合において、急激な減圧による線材の膨れの生成を防止する効果がより顕著である。
【0042】
上記の酸化物超電導線材の製造方法において好ましくは、原材料粉末を被覆する金属が銀を含み、銀比が3.0であり、熱処理する工程において、雰囲気中の温度が200℃以上の場合には、加圧雰囲気中の全圧力の減圧速度が0.03MPa/min以下となるように制御される。
【0043】
雰囲気中の温度が200℃以上の場合に加熱容器内が急激に減圧されると、線材内部の圧力が線材外部の圧力と比較して高くなり、それにより線材の膨れが生成する。そこで、これにより、銀比が3.0である場合において、熱処理する工程中(熱処理前、熱処理時、熱処理後)における急激な減圧による線材の膨れの生成を抑止する効果がより顕著である。
【0044】
上記の酸化物超電導線材の製造方法において好ましくは、熱処理する工程において、加圧雰囲気の全圧力が1MPa以上の場合には、加圧雰囲気中の全圧力の減圧速度が0.05MPa/min以下となるように制御される。
【0045】
雰囲気中の全圧力が1MPa以上の場合に加熱容器内が急激に減圧されると、線材内部の圧力が線材外部の圧力と比較して高くなり、それにより線材の膨れが生成する。これにより、熱処理する工程中(熱処理前、熱処理時、熱処理後)における急激な減圧による線材の膨れの生成を抑止する効果がより顕著である。
【0046】
上記の酸化物超電導線材の製造方法において好ましくは、線材を作製する工程の後であって熱処理する工程の前に、線材をロールにより圧延する工程をさらに備え、圧延する工程後の線材の外皮厚みは20μm以上である。
【0047】
ピンホールは、線材と圧延のロールとの摩擦により線材の表面が荒らされて、外部から酸化物超電導体フィラメントまで貫通することにより主に形成される。しかし、圧延する工程後において酸化物超電導線材の外皮厚みがどの部分でも20μm以上となるような状態で圧延されれば、線材の表面が圧延で荒らされたとしても、外部から酸化物超電導体フィラメントまで穴が貫通することがないため、ピンホールが生成することはない。これにより、上記熱処理する工程により空隙や膨れの生成が抑止され、臨界電流密度を向上できる。なお、本明細書中においてピンホールとは、外部から酸化物超電導体線材フィラメントまで貫通して液体冷媒が通り得る大きさの径を有する穴を意味している。また、ピンホールのある線材とは、1000mの長さの線材中にピンホールが2個以上含まれている線材を意味している。
【0048】
上記の酸化物超電導線材の製造方法において好ましくは、線材を作製する工程の後であって熱処理する工程の前に、銀もしくは銀合金を前記線材の表面に付着させる工程をさらに備えている。
【0049】
単位面積当たりに流すことのできる超電導電流を増やすため、酸化物超電導線材の銀比はできるだけ小さくされている。しかし、銀比が小さい線材は、金属部分の割合が少ないため、外皮厚みを大きくすることができない。特に、熱処理する工程後の外皮厚みが20μm未満の線材は、熱処理する工程前の圧延等の処理の際にピンホールが形成されやすい。ピンホールのある線材は、上記の加圧雰囲気中で熱処理する工程が行なわれても、加圧している気体がピンホールから線材内部に侵入する。このため、線材内外での圧力差がなくなり、加圧により空隙や膨れの生成が抑止されることにより、臨界電流密度の低下が防止される効果が小さい。そこで、線材を作製する工程後であって熱処理する工程前に、銀もしくは銀合金を線材の表面に付着させることにより、ピンホールが銀や銀合金で被覆されて表面から消滅する。したがって、前もってピンホールがない線材にされてから熱処理する工程が行なわれるので、熱処理する工程の際に、加圧している気体がピンホールから線材内部に侵入しなくなる。これにより、上記加圧雰囲気中で熱処理する工程により空隙や膨れの生成が抑止され、臨界電流密度を向上できる。
【0050】
上記の酸化物超電導線材の製造方法において好ましくは、線材を作製する工程の後であって熱処理する工程の前に、線材をロールにより圧延する工程をさらに備え、ロールの線材が接する部分の表面粗さRyは320nm以下である。
【0051】
これにより、線材とロールとの摩擦が小さくなるので、線材の表面が荒らされにくくなり、線材の外皮厚みに関係なくピンホールのない線材が得られる。したがって、熱処理する工程の際に、加圧している気体がピンホールから線材内部に侵入しなくなる。これにより、線材の外皮厚みに関係なく、上記加圧雰囲気中で熱処理する工程により、空隙や膨れの生成が抑止され、臨界電流密度を向上できる。なお、表面粗さRyとは、JIS(Japanese Industrial Standards)に規定された最大高さのことである。
【0052】
上記の酸化物超電導線材の製造方法において好ましくは、熱処理する工程における熱処理前の昇温時には、雰囲気中の温度上昇に伴なって段階的に圧力が増加するように制御される。
【0053】
ピンホールのある線材は、通常の加圧方法で加圧雰囲気中で熱処理する工程が行なわれても、加圧している気体がピンホールから線材内部に侵入するため、線材内外での圧力差がなくなり、加圧により空隙や膨れによる臨界電流密度の低下が防止される効果が小さい。しかし、雰囲気中の温度上昇に伴なって段階的に圧力が増加するように制御されることにより、加圧している気体がピンホールから線材内部に侵入する前に外部圧力が増加される。これにより、線材内外での圧力差が生じ、熱処理する工程前の線材がピンホールを有しているか否かにかかわらず、空隙や膨れの生成が抑止され、臨界電流密度を向上できる。
【0054】
上記超電導線材の製造方法において好ましくは、熱処理する工程における熱処理前の昇温時には、0.05MPa/min以上の速度で雰囲気の全圧力が増加するように制御される。
【0055】
本願発明者らは、線材を熱処理する工程において、加圧している気体がピンホールから線材内部に侵入する速度は約0.05MPa/min未満であることを見出した。したがって、熱処理前の昇温時において、0.05MPa/min以上の速度で雰囲気の全圧力が増加し続けるように制御することで、常に線材内部の圧力よりも雰囲気中の圧力を高く保ち続けることができる。これにより、熱処理する工程前の線材がピンホールを有しているか否かにかかわらず、熱処理前の昇温時において線材に対して圧縮する力を加えることができるので、空隙や膨れの生成が抑止される。その結果、1MPa以上50MPa未満の加圧雰囲気中での熱処理により臨界電流密度の低下を効果的に抑止することができる。
【0056】
上記超電導線材の製造方法において好ましくは、熱処理する工程における熱処理時には、雰囲気中の全圧力が増加し続けるように制御される。
【0057】
これにより、熱処理時において、線材内部の圧力と雰囲気中の圧力とが等しくなるのを遅らせることができ、線材内部の圧力よりも雰囲気中の圧力が高い状態をより長く保ち続けることができる。したがって、熱処理時において空隙や膨れの生成が抑止され、1MPa以上50MPa未満の加圧雰囲気中での熱処理により臨界電流密度の低下を効果的に抑止することができる。
【0058】
上記超電導線材の製造方法において好ましくは、線材を作製する工程の後であって熱処理する工程の前に、線材を圧延する工程をさらに備え、圧延する工程における線材の圧下率は84%以下であり、好ましくは80%以下である。
【0059】
線材を熱処理する工程が1MPa以上50MPa未満の加圧雰囲気中で行なわれる場合には、酸化物超電導線材は熱処理する工程の際においても圧縮される。したがって、線材を圧延する工程が、従来の圧下率より低い84%以下の圧下率で行なわれても、その後の熱処理する工程において原材料粉末が圧縮されるので、結果的に超電導体フィラメントの密度を高くすることができる。一方で、線材を圧延する工程が、従来の圧下率より低い84%以下の圧下率で行なわれることにより、原材料粉末中に空隙が生じにくくなるので、酸化物超電導線材の長手方向に垂直な方向に伸びる空隙の発生を抑止することができる。以上の理由により、酸化物超電導線材の臨界電流密度を向上することができる。また、線材を圧延する工程が、80%以下の圧下率で行なわれることにより、原材料粉末中に空隙が生じなくなるので、酸化物超電導線材の長手方向に垂直な方向に伸びる空隙の発生を一層抑止することができる。
【0060】
なお、本明細書中において、圧下率(%)は以下の式で定義されるものである。
【0061】

【0062】
上記の酸化物超電導線材の製造方法において好ましくは、線材に複数回の熱処理が施され、その複数回の熱処理のうち少なくとも1つの熱処理は、全圧力が1MPa以上50MPa未満の加圧雰囲気中で行なわれる。
【0063】
これにより、熱処理時に発生する酸化物超電導結晶間の空隙および酸化物超電導線材の膨れの生成を抑止することが可能となる。
【0064】
また、以下の製造方法により、酸化物超電導体の焼結密度が一層高い酸化物超電導線材を製造することができる。さらに、以下の改質方法により、酸化物超電導体の焼結密度が一層高い酸化物超電導線材に改質することができる。
【0065】
本発明の酸化物超電導線材の製造方法は、酸化物超電導体の原材料粉末を金属で被覆した形態を有する線材を作製する工程と、熱処理時の全圧力が1MPa以上50MPa未満である加圧雰囲気中で線材を熱処理する熱処理工程とを備えている。熱処理工程における熱処理前の昇温時には、被覆に用いられる金属の0.2%耐力が熱処理時の全圧力よりも小さくなる温度から加圧が開始される。
【0066】
本発明の酸化物超電導線材の改質方法は、酸化物超電導体を金属で被覆した形態を有する酸化物超電導線材を、熱処理時の全圧力が1MPa以上50MPa未満である加圧雰囲気中で熱処理する熱処理工程を備えている。熱処理工程における熱処理前の昇温時には、被覆に用いられる金属の0.2%耐力が熱処理時の全圧力よりも小さくなる温度から加圧が開始される。
【0067】
本発明の酸化物超電導線材の製造方法または改質方法によれば、被覆に用いられる金属の0.2%耐力が熱処理時の加圧雰囲気の全圧力よりも小さくなっている状態で、線材に圧力が加えられる。このため、熱間加工と同様の効果により、加圧による圧縮力を受けて金属の部分が圧縮しやすくなる。したがって、加圧している気体がピンホールから線材内部に侵入する前に線材が圧縮されるため、加圧により空隙や膨れの生成を十分抑止することができる。その結果、酸化物超電導体の焼結密度を向上することができ、酸化物超電導線材の臨界電流密度を向上することができる。
【0068】
本発明の酸化物超電導線材の製造方法は、酸化物超電導体の原材料粉末を銀を含む金属で被覆した形態を有する線材を作製する工程と、熱処理時の全圧力が1MPa以上50MPa未満である加圧雰囲気中で線材を熱処理する熱処理工程とを備えている。熱処理工程における熱処理前の昇温時には、雰囲気の温度が400℃以上となってから加圧が開始される。
【0069】
本発明の酸化物超電導線材の改質方法は、酸化物超電導体を銀を含む金属で被覆した形態を有する酸化物超電導線材を、熱処理時の全圧力が1MPa以上50MPa未満である加圧雰囲気中で熱処理する熱処理工程を備えている。熱処理工程における熱処理前の昇温時には、雰囲気の温度が400℃以上となってから加圧が開始される。
【0070】
本発明の酸化物超電導線材の製造方法または改質方法によれば、熱処理時の加圧雰囲気の全圧力と同程度にまで銀を含む金属の0.2%耐力が低下している状態で、線材に圧力が加えられる。このため、熱間加工と同様の効果により、加圧による圧縮力を受けて金属の部分が圧縮しやすくなる。したがって、加圧している気体がピンホールから線材内部に侵入する前に線材が圧縮されるため、加圧により空隙や膨れの生成を十分抑止することができる。その結果、酸化物超電導体の焼結密度を向上することができ、酸化物超電導線材の臨界電流密度を向上することができる。上記製造方法または改質方法によって、ピンホールの有無にかかわらず酸化物超電導体の焼結密度が95%以上の酸化物超電導線材が得られる。
【0071】
上記製造方法および改質方法において好ましくは、熱処理工程における熱処理前の昇温時には、雰囲気の温度が600℃以上となってから加圧が開始される。
【0072】
これにより、熱処理時の加圧雰囲気の全圧力の2分の1程度にまで銀を含む金属の0.2%耐力が低下している状態で、線材に圧力が加えられる。このため、加圧による圧縮力を受けて金属の部分が一層圧縮しやすくなる。その結果、酸化物超電導体の焼結密度を一層向上することができ、酸化物超電導線材の臨界電流密度を一層向上することができる。また、上記製造方法または改質方法によって、ピンホールの有無にかかわらず酸化物超電導体の焼結密度が97%以上の酸化物超電導線材が得られる。
【0073】
上記製造方法および改質方法において好ましくは、加圧の速度は0.05MPa/min以上である。
【0074】
本願発明者らは、熱処理工程において、加圧している気体がピンホールから線材内部に侵入する速度は約0.05MPa/min未満であることを見出した。したがって、熱処理前の昇温時において、0.05MPa/min以上の速度で雰囲気の全圧力が増加し続けるように制御することで、常に線材内部の圧力よりも雰囲気中の圧力を高く保ち続けることができる。これにより、熱処理工程前の線材がピンホールを有しているか否かにかかわらず、熱処理前の昇温時において線材に対して圧縮する力を加えることができるので、空隙や膨れの生成が抑止される。その結果、1MPa以上50MPa未満の加圧雰囲気中での熱処理により酸化物超電導体の焼結密度を効果的に向上することができ、酸化物超電導線材の臨界電流密度を効果的に向上することができる。
【0075】
上記製造方法および改質方法において好ましくは、加圧の速度は0.1MPa/min以上である。
【0076】
これにより、線材内部の圧力よりも雰囲気中の圧力をさらに高く保ち続けることができる。したがって、熱処理工程前の線材がピンホールを有しているか否かにかかわらず、熱処理前の昇温時において線材に対して圧縮する力をさらに大きく加えることができるので、空隙や膨れの生成が抑止される。その結果、1MPa以上50MPa未満の加圧雰囲気中での熱処理により酸化物超電導体の焼結密度を一層効果的に向上することができ、酸化物超電導線材の臨界電流密度を一層効果的に向上することができる。
【0077】
さらに、雰囲気の温度が400℃となってから加圧を開始した場合、および600℃となってから加圧を開始した場合の両方の場合で、加圧速度を0.15MPa/min以上とした場合には、ピンホールの有無にかかわらず酸化物超電導体の焼結密度が99%以上の酸化物超電導線材が得られる。
【0078】
上記製造方法において好ましくは、酸化物超電導体の原材料粉末はBi2223相を含み、熱処理工程において、100℃以上600℃以下の温度の酸素を含む雰囲気中で酸化物超電導線材がアニールされる。
【0079】
これにより、線材全体として20K程度の低温での臨界電流密度Jが向上する。
【発明の効果】
【0080】
本発明の超電導機器によれば、酸化物超電導体の空隙が著しく少ないため、酸化物超電導体の空隙に液体冷媒が浸入しにくくなる。したがって、液体冷媒に浸漬された状態から常温へ温度上昇される際に温度制御なしに昇温しても、気化する液体冷媒の量は非常に少ない。その結果、酸化物超電導線材内部の圧力が上昇しにくくなり、バルーニングの発生を抑止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0081】
[図1A]本発明の実施の形態1における超電導ケーブルの断面図である。
[図1B]図1Aにおけるケーブルコアの拡大図である。
[図2]酸化物超電導線材の構成を概念的に示す部分断面斜視図である。
[図3]酸化物超電導線材の一の製造工程を示す図である。
[図4]熱間等方圧加圧法(HIP)装置の概略断面図である。
[図5](a)〜(d)酸化物超電導結晶間の空隙の挙動を段階的に示す概念図である。
[図6]加圧雰囲気の全圧力P(MPa)と線材の膨れ数(個/10m)の関係を示す図である。
[図7]窒素が約80%、酸素が約20%の割合の混合ガスについての全圧力と酸素分圧を表した図である。
[図8]酸素分圧を一定にした場合の全圧力と酸素濃度値の関係を表した図である。
[図9A]熱処理直後の減圧速度制御を行なった場合の時間と線材の温度との関係を示す図である。
[図9B]熱処理直後の減圧速度制御を行なった場合の時間と容器内の全圧力との関係を示す図である。
[図10A]加圧雰囲気中における熱処理前後におけるピンホールのない酸化物超電導線材の線材厚さを示すグラフである。
[図10B]加圧雰囲気中における熱処理前後におけるピンホールのある酸化物超電導線材の線材厚さを示すグラフである。
[図11]ピンホールのある酸化物超電導線材の構成を概念的に示す部分断面斜視図である。
[図12]実施の形態2における圧延方法を示す模式断面図である。
[図13]酸化物超電導線材の他の製造工程を示す図である。
[図14]銀もしくは銀合金を線材にメッキする工程後の酸化物超電導線材の構成を概念的に示す部分断面斜視図である。
[図15]実施の形態2の第4の手法における熱処理時の温度および圧力と時間との関係を示す図である。
[図16A]本発明の実施の形態2における銀比が1.5である場合の熱処理する工程の温度と時間の関係を示す図である。
[図16B]本発明の実施の形態2における銀比が1.5である場合の熱処理する工程の圧力と時間の関係を示す図である。
[図16C]本発明の実施の形態2における銀比が1.5である場合の熱処理する工程の酸素濃度と時間の関係を示す図である。
[図16D]本発明の実施の形態2における銀比が1.5である場合の熱処理する工程の酸素分圧と時間との関係を示す図である。
[図17]本発明の実施の形態2の第5の手法における熱処理する工程の温度および圧力と時間との関係を示す図である。
[図18]熱処理時における温度と酸素分圧との最適な組み合わせを示した図である。
[図19]空隙が残る酸化物超電導線材の構成を概念的に示す部分断面斜視図である。
[図20]酸化物超電導線材における1次圧延における圧下率と臨界電流密度との関係を模式的に示した図である。
[図21]本発明の実施の形態6の第6の手法における熱処理前の昇温時および熱処理時の温度、全圧力および酸素分圧と、時間との関係の一例を示す図である。
[図22]加圧を開始する温度を変えた場合の加圧速度と焼結密度との関係を示す図である。
[図23]銀の0.2%耐力の温度依存性を示す図である。
[図24]酸化物超電導体の焼結密度と酸化物超電導線材の臨界電流値との関係を示す図である。
[図25]本発明の実施の形態7における熱処理後にアニールを行なう場合の温度、全圧力および酸素分圧と、時間との関係の一例を示す図である。
[図26]アニールを行なう前と、500℃の温度でアニールを行なった後との酸化物超電導線材の各温度(K)における臨界電流値Iを示す図である。
【符号の説明】
【0082】
1,1a,1b 酸化物超電導線材、2 酸化物超電導体フィラメント、3 シース部、4 ガス導入口、5 上蓋、6 圧力容器円筒、7 断熱層、8 処理品、9 ヒータ、10 支持具、11 下蓋、12 超電導結晶、13 熱間等方圧加圧装置、14 ピンホール、15 ロール、15a ロールの表面、16 銀または銀合金、20 空隙、30 超電導ケーブル、31 ケーブルコア、32 フォーマ、34 絶縁紙、35 クラフト紙、37 冷媒流通路、38 断熱管、39 防食層。
【発明を実施するための最良の形態】
【0083】
以下、本発明の実施の形態について、図に基づいて説明する。
【0084】
(実施の形態1)
図1Aは、本発明の実施の形態1における超電導ケーブルの断面図、図1Bは、図1Aにおけるケーブルコアの拡大図である。
【0085】
図1Aおよび図1Bを参照して、超電導ケーブル30は、ケーブルコア31と、断熱管38と、防食層39とを備えている。断熱管38および防食層39の内側に形成された冷媒流通路37内に、単芯或いは複数芯撚り合わせたケーブルコア31が挿入されている。そして、冷媒流通路37内のケーブルコア31の外周に冷媒が流通される。ケーブルコア31は、内側から順にフォーマ(複数の銅の撚り線)32と、複数の酸化物超電導線材1aと、クラフト紙35と、複数の酸化物超電導線材1bと、絶縁紙34とから構成されている。外径がたとえば20mmの複数の銅の撚り線よりなるフォーマ32の外周には、テープ状の酸化物超電導線材1a、1bがスパイラル状に巻き付けられている。複数の酸化物超電導線材1a、1bは、クラフト紙35を挟んで互いに絶縁された積層構造となっている。下層である複数の酸化物超電導線材1aは、たとえば13本の酸化物超電導線材1aが200mmピッチで配置されている。また、上層である複数の酸化物超電導線材1bは、たとえば14本の酸化物超電導線材1aが200mmピッチで配置されている。酸化物超電導線材1a、1bの1本あたりの断面は、たとえば縦0.21mm、横4.1mmの長方形の形状を有している。酸化物超電導線材1bの外側には、たとえばポリプロピレンラミネート紙(PPLP(R))よりなる絶縁紙34で覆われている。
【0086】
次に、超電導ケーブルを構成する酸化物超電導線材の構成について説明する。
【0087】
図2は、酸化物超電導線材の構成を概念的に示す部分断面斜視図である。
【0088】
図2を参照して、たとえば、多芯線の酸化物超電導線材について説明する。酸化物超電導線材1は、長手方向に伸びる複数本の酸化物超電導体フィラメント2と、それらを被覆するシース部3とを有している。複数本の酸化物超電導体フィラメント2の各々の材質は、たとえばBi−Pb−Sr−Ca−Cu−O系の組成が好ましく、特に、(ビスマスと鉛):ストロンチウム:カルシウム:銅の原子比がほぼ2:2:2:3の比率で近似して表されるBi2223相を含む材質が最適である。シース部3の材質は、たとえば銀よりなっている。
【0089】
なお、上記においては多芯線について説明したが、1本の酸化物超電導体フィラメント2がシース部3により被覆される単芯線構造の酸化物超電導線材が用いられてもよい。
【0090】
次に、上記の酸化物超電導線材の製造方法について説明する。
【0091】
図3は、酸化物超電導線材の一の製造工程を示す図である。
【0092】
図3を参照して、まず、酸化物超電導体の原材料粉末が金属管に充填される(ステップS1)。この酸化物超電導体の原材料粉末は、たとえば、Bi2223相を含む材質よりなっている。
【0093】
なお、金属管としては熱伝導率の高い銀や銀合金などを用いるのが好ましい。これにより、超電導体がクエンチ現象を部分的に生じた場合に発生した熱を金属管から速やかに取り去ることができる。
【0094】
次に、原材料粉末を充填した金属管は、伸線加工により所望の直径の線材とされる(ステップS2)。これにより、酸化物超電導線材の原材料粉末を金属で被覆した形態を有する線材が得られる。ここで、多芯線を製造する場合には、複数の伸線された線材を金属管に挿入してさらに伸線を行なう。この線材に1次圧延が行なわれ(ステップS3)、その後に1回目の熱処理が行なわれる(ステップS4)。これらの操作により原材料粉末から酸化物超電導相が生成される。この熱処理を施された線材に2次圧延が施される(ステップS5)。これにより1回目の熱処理で生じたボイドが除去される。2次圧延された線材に2回目の熱処理が施される。(ステップS6)。2回目の熱処理で酸化物超電導相の焼結が進むと同時に酸化物超電導相の単相化が行なわれる。
【0095】
上記の製造方法により、たとえば図2に示す酸化物超電導線材を製造することができる。
【0096】
本実施の形態においては、1回目の熱処理(ステップS4)および2回目の熱処理(ステップS6)の少なくともいずれかが、全圧力として1MPa以上50MPa未満の圧力を加えた加圧雰囲気中で行なわれる。
【0097】
この加圧雰囲気中における熱処理は、たとえば熱間等方圧加圧法(HIP)により行なわれる。この熱間等方圧加圧法について以下に説明する。
【0098】
図4は、熱間等方圧加圧法(HIP)装置の概略断面図である。
【0099】
図4を参照して、熱間等方圧加圧法を行なう装置13は、圧力容器円筒6と、その圧力容器円筒6の両端を密閉する上蓋5および下蓋11と、圧力容器円筒6中にガスを導入するために上蓋5に設けられたガス導入口4と、処理品8を加熱するヒータ9と、断熱層7と、処理品8を支える支持具10とにより構成されている。
【0100】
本実施の形態では、原材料粉末を金属管に充填した後に伸線・圧延した線材が、処理品8として圧力容器円筒6内で支持具10に支持される。この状態で、ガス導入口4から所定のガスが圧力容器円筒6内に導入されることで、圧力容器円筒6内は1MPa以上50MPa未満の加圧雰囲気とされ、その加圧雰囲気下でヒータ9により線材8が所定温度に加熱される。この熱処理は酸素雰囲気中で行なわれることが好ましく、酸素分圧は0.003MPa以上0.02MPa以下であることが好ましい。このようにして線材8に熱間等方圧加圧による熱処理が施される。
【0101】
本実施の形態によれば、上記のように1MPa以上50MPa未満の加圧雰囲気中で熱処理を行なうことにより、主に以下の3つの効果が得られる。
【0102】
第一に、熱処理時に酸化物超電導結晶間に生成する空隙を少なくすることができる。
【0103】
本願発明者は、1MPa以上の加圧雰囲気中で熱処理することにより、主に熱処理時に生成する酸化物超電導結晶間の空隙を、1MPa未満の場合よりも格別に少なくできることを見出した。
【0104】
図5(a)〜(d)は、酸化物超電導結晶間の空隙の挙動を段階的に示す概念図である。
【0105】
すなわち、図5(a)〜(d)を参照して、加圧雰囲気中で熱処理すると、熱処理時に生成する酸化物超電導結晶間の接触面積が塑性流動により増加し、超電導結晶間に存在している数μm〜数十μmオーダーの空隙が減少する(図5(a)→(b))。この状態で保持すると、図5(c)のようにクリープ変形を起こし、接合界面に存在している空隙が収縮するとともに、酸化被膜などの汚染部が一部破壊・分解し、原子の拡散が生じ焼結が進行する。そして最終的に図5(d)のように超電導結晶間の空隙がほとんどなくなり、安定した接合界面が形成される。
【0106】
ここで、超電導線に電流を流すということは、超電導線材を構成する超電導結晶間に電流を流すことである。通常、超電導線を使用する冷媒中(たとえば液体窒素や液体ヘリウム)、または冷凍機冷却において、超電導状態(電気抵抗を発生しない)を維持して流すことができる電流量を制限するのは超電導状態が弱い超電導結晶間の接合部である(超電導結晶の方が結晶間の接合部より超電導性は強い)。超電導結晶間の接合部の隙間は、通常の大気圧焼成ではどうしても残留する。このため、加圧雰囲気中での熱処理により、超電導結晶間の隙間を減らす(超電導体の焼結密度を向上する)ことができるので、超電導線の性能が良くなり、臨界電流密度の低下を防止することができる。
【0107】
具体的には、Bi2223相を含む酸化物超電導線材について、大気圧中で熱処理した場合の酸化物超電導体の焼結密度は80〜90%であるのに対し、加圧雰囲気の全圧力を10MPaとして、本発明における製造方法により作製した場合の酸化物超電導体フィラメントの焼結密度は93%以上であり、酸化物超電導体結晶間に生成する空隙の減少が見られた。
【0108】
上記製造方法により得られた酸化物超電導線材を超電導ケーブルなどの超電導機器に適用することにより、酸化物超電導体の空隙に液体冷媒が浸入しにくくなる。したがって、超電導機器が液体冷媒に浸漬された状態から常温へ温度上昇される際に温度制御なしに昇温しても、気化する液体冷媒はほとんどない。その結果、酸化物超電導線材内部の圧力が上昇しにくくなり、超電導ケーブルなどの超電導機器のバルーニングの発生を抑止することができる。
【0109】
第二に、熱処理時に生成する酸化物超電導線材の膨れを防止することができる。
【0110】
本願発明者は、酸化物超電導線材を加圧雰囲気中で熱処理する際に全圧力を変えたときの熱処理後の線材に生じた膨れ数を調べた。図6は、加圧雰囲気の全圧力P(MPa)と線材の膨れ数(個/10m)の関係を示す図である。
【0111】
図6を参照して、加圧雰囲気の全圧力が0.5MPaを超えると酸化物超電導線材中の膨れが大幅に減少し、さらに1MPa以上になると、酸化物超電導線材中の膨れがほぼなくなることがわかる。このような結果が得られた理由は以下のように考えられる。
【0112】
金属管中の酸化物超電導体の粉末は通常、焼結前には理論密度の約80%の充填率であるため、粉末の隙間内にはガスが存在する。この粉末の隙間内のガスは熱処理時に高温になると体積膨張し、線材に膨れを生じさせる。しかし、本実施の形態では1MPa以上の加圧雰囲気で熱処理が行なわれるため、金属管内部の圧力よりも金属管外部の圧力を大きくできる。このため、粉末の隙間内のガスによる線材の膨れが防止されるものと考えられる。
【0113】
また、本願発明者が線材の膨れの原因をさらに検討したところ、酸化物超電導体の原材料粉末に付着している炭素(C)、水(HO)、酸素(O)などの吸着物が焼結中に気化して、この気体によって金属管内の体積が膨張して線材の膨れが発生することもわかった。しかし、この粉末の吸着物の気化による線材の膨れも、1MPa以上の加圧雰囲気で熱処理を行なうことにより、金属間の内部の圧力よりも外部の圧力を大きくできるため防止できるものと考えられる。
【0114】
以上により、加圧雰囲気の全圧力を1MPa以上とすることで、このような酸化物超電導体の原料粉末の隙間に存在するガスによる膨れだけでなく、その粒子の表面に付着している吸着物の気化による膨れもほとんどなくすことができると考えられる。酸化物超電導線材の膨れは臨界電流密度を低下させる原因となるものであるので、線材の膨れを防止することで、臨界電流密度の低下を防止することができる。
【0115】
第三に、熱処理時における酸素分圧の制御を容易にすることができる。
【0116】
本願発明者は、全圧力にかかわらず、酸素分圧を0.003MPa以上0.02MPa以下に制御することにより、Bi系酸化物超電導体の2223相が安定して生成することを見出した。すなわち、酸素分圧が0.02MPaを超えるとCaPbOのような異相が生成してしまい、0.003MPa未満になるとBi2223相が生成しにくくなり、臨界電流密度が低くなる。
【0117】
図7は、窒素が約80%、酸素が約20%の割合の混合ガスについての全圧力と酸素分圧を表した図である。図8は、酸素分圧を一定にした場合の全圧力と酸素濃度値の関係を表した図である。
【0118】
図7を参照して、たとえば、加圧雰囲気の全圧力が1気圧(0.1MPa)の大気圧である場合には、酸素分圧制御を行なわなくとも、酸素分圧が点線で示す0.2気圧(0.02MPa)のレベルと同等であるため、Bi2223相が安定して生成する。しかしながら、加圧雰囲気の全圧力が2気圧(0.2MPa)、3気圧(0.3MPa)・・・と大きくなるにつれて、酸素分圧も大きくなるため、点線で示す0.2気圧(0.02MPa)のレベルを超えてしまう。その結果Bi2223相が安定して生成しなくなる。そこで、図8に示すように混合ガス中の酸素ガスの混合割合を変えることにより酸素分圧を0.003MPa以上0.02MPa以下に制御する必要がある。なお、図8の点線は図7の点線と同様に0.2気圧(0.02MPa)のレベルを示している。
【0119】
実際の酸素分圧制御は、全圧力と酸素濃度とがモニターされることで行なわれる。すなわち、酸素分圧は全圧力の値に酸素濃度を掛けることで算出される。このため、たとえば、全圧力が50MPaのときには、0.005MPaの酸素分圧で熱処理を行なう場合、酸素濃度は0.01%となる。したがって、0.01%の酸素濃度を測定して、注入する混合ガスを制御する必要がある。しかしながら、0.01%の酸素濃度の測定は測定誤差が大きいため、注入する混合ガス中の酸素ガスを制御して、処理室中の酸素分圧を正確に制御することは困難である。本実施の形態では、加圧雰囲気中の全圧力を50MPa未満とすることにより、酸素濃度を測定誤差の影響が小さいレベルに保つことができるため、酸素分圧を容易に制御することが可能となる。
【0120】
ところで、1MPa以上の加圧雰囲気中で熱処理を行なう際には、熱処理時および熱処理後に加圧雰囲気で急激な減圧が起こらないように減圧速度を制御することが好ましい。
【0121】
すなわち、1MPa以上の加圧雰囲気中で熱処理を行なう際には、線材のピンホールから外部のガスが線材内部に入り込み、線材の内部と外部とが同じ圧力になっていると考えられる。このような高圧力雰囲気中では、急激な減圧により外部の圧力が下がると、内部からのガスの放出が外部圧力の減少に追いつけなくなり、内部圧力が外部圧力よりも高くなって膨れを生成することを本願発明者は発見した。
【0122】
したがって、このような膨れを防止するために好ましくは、熱処理時には、全圧力が一定となるようにAr(アルゴン)やN(窒素)などの不活性ガスとOガスとの混合ガスが容器内に注入される。また、熱処理直後の降温時には、降温による圧力の低下を補うように不活性ガスと酸素ガスとの混合ガスが容器内に注入される。熱処理時および熱処理直後の降温時にこれらの減圧速度の制御を行なうことにより、急激な減圧による膨れの生成を防止することができる。
【0123】
図9Aは、熱処理直後の減圧速度制御を行なった場合の時間と線材の温度との関係を示す図である。図9Bは、熱処理直後の減圧速度制御を行なった場合の時間と容器内の全圧力との関係を示す図である。
【0124】
図9Aおよび図9Bを参照して、図9Aの熱処理時(約800℃の温度)には図9Bに示すように全圧力が一定となるように制御される。つまり、熱処理時には加熱容器中で線材を支える支持具の酸化などにより容器中の酸素ガスが消費されるため、容器内の圧力が減少する。これを防止するために、混合ガスが容器中に注入されて圧力が一定に保たれる。そして、図9Aの熱処理直後の降温時(約800℃〜約300℃の温度範囲)には図9Bに示すように降温による圧力の低下を補うように混合ガスが容器中に注入され、減圧速度が制御される。つまり、降温時には、温度の低下により気体の状態方程式に基づいてガスの圧力も急激に低下しようとするため、混合ガスを注入して減圧を緩やかにする必要がある。なお、300℃以下では、約800℃〜約300℃の場合と比較して温度が低いので、線材内部の圧力が既に十分低くなっている。したがって、減圧速度を制御しなくても線材の膨れが生成しないと考えられる。
【0125】
また、酸化物超電導線材の膨れの生成防止のために必要な減圧速度の範囲は、熱処理後の線材の横断面における酸化物超電導体部分の面積に対する金属部分の面積の比(銀比)により異なることを本願発明者は見出した。すなわち、好ましくは、銀比が1.5である場合には、熱処理直後の降温時(800℃〜300℃の温度範囲)の減圧速度は0.05MPa/min以下であり、銀比が3.0である場合には、熱処理直後の降温時(800℃〜300℃の温度範囲)の減圧速度は0.03MPa/min以下である。
【0126】
なお、本実施の形態においては、熱間等方圧加圧法によるBi2223相を有する酸化物超電導線材の製造方法について説明を行なっているが、1MPa以上50MPa未満の加圧雰囲気で熱処理する方法であれば、熱間等方圧加圧法以外の加圧法により本発明を実施することも可能である。また、本発明はビスマス系以外のイットリウム系などの他の組成を有する酸化物超電導線材の製造方法についても適応できる。
【0127】
(実施の形態2)
図10Aは、加圧雰囲気中における熱処理前後におけるピンホールのない酸化物超電導線材の線材厚さを示すグラフである。図10Bは、ピンホールのある酸化物超電導線材の線材厚さを示すグラフである。図10Aおよび図10Bの熱処理の条件は、全圧力20MPa、酸素分圧0.008MPa、雰囲気中の温度825℃、熱処理時間50時間である。
【0128】
図10Aを参照して、ピンホールのない酸化物超電導線材は、熱処理後において厚さが約0.006mm〜0.01mm減少している。これは、全圧力20MPaの加圧雰囲気中で熱処理されることにより、酸化物超電導結晶間の空隙が減少され、酸化物超電導線材の膨れの生成が抑止されているためである。一方、図10Bを参照して、ピンホールのある酸化物超電導線材は、熱処理後において厚さが約0.002mm〜0.005mmしか減少せず、酸化物超電導結晶間の空隙の減少および酸化物超電導線材の膨れの抑制が十分にされていない。また、線材中のピンホールがあった部分(A部分)は、熱処理前よりも熱処理後の方が厚さが大きくなっている。
【0129】
以上により、ピンホールがない場合には、実施の形態1の圧力範囲(1MPa以上50MPa未満)で熱処理すれば空隙や膨れの生成が効果的に抑止できるが、ピンホールがある場合には、実施の形態1の圧力範囲で熱処理するだけでは空隙や膨れの生成が十分に抑止できないことがわかった。
【0130】
本発明における加圧雰囲気中での熱処理においては、1MPa以上という大きな線材外部の圧力によって、熱処理時に生成する超電導結晶の塑性流動およびクリープ変形が起こるため、熱処理時に生成する酸化物超電導結晶間の空隙は抑止される。また、熱処理時に生成する酸化物超電導結晶粉末の隙間内のガスや熱処理時に生成する酸化物超電導結晶粉末に付着したガスが、熱処理時に膨張することを、金属管外部からの圧力により抑制することができるので、酸化物超電導線材の膨れの生成は抑止される。以上の結果、空隙や膨れによる臨界電流密度の低下は防止される。
【0131】
しかし、ピンホールのある線材は、上記の加圧雰囲気中での熱処理が行なわれても、加圧している気体がピンホールから線材内部に侵入するため、線材内外での圧力差がなくなり、加圧により空隙や膨れの生成が十分抑止されない。この結果、臨界電流密度の低下が防止される効果が小さくなっている。
【0132】
そこで本願発明者らは、鋭意検討し、熱処理前にピンホールのない線材とすることで空隙や膨れの生成を十分抑止可能な手法を見出した。
【0133】
第1の手法は、図3の圧延(ステップS3またはS5)後であって熱処理(ステップS4またはステップS6)前の酸化物超電導線材の外皮厚みを20μm以上にすることである。
【0134】
また、第2の手法は、図3の圧延(ステップS3またはS5)に用いるロールの線材が接する部分の表面粗さRyを320nm以下にすることである。
【0135】
また、第3の手法は、図3の圧延(ステップS3またはS5)後であって熱処理(ステップS4またはS6)前に酸化物超電導線材に銀または銀合金をメッキすることである。
【0136】
以下、これらの各手法について具体的に説明する。
【0137】
第1の手法として、図3の圧延(ステップS3またはS5)後であって熱処理(ステップS4またはS6)前の酸化物超電導線材の外皮厚みWが、どの部分でも20μm以上となるようにすることで、圧延(ステップS3またはS5)の際ピンホールが生成しないことを本願発明者らは見出した。
【0138】
図11は、ピンホールのある酸化物超電導線材の構成を概念的に示す部分断面斜視図である。
【0139】
ここで外皮厚みWとは、図11に示されるように、線材1の断面において外周部に並んでいる酸化物超電導体フィラメント2と線材1の外表面との圧延後における距離Wを意味している。外皮厚みWを20μm以上となるようにすることでピンホール14が生成しない理由は、以下のように考えられる。
【0140】
ピンホール14は、線材1と圧延のロールとの摩擦により線材1の表面が荒らされて、外部から酸化物超電導体フィラメント2まで貫通することにより主に形成される。しかし、圧延後において酸化物超電導線材1の外皮厚みWがどの部分でも20μm以上となるような状態で圧延されれば、線材1の表面が圧延で荒らされたとしても、外部から酸化物超電導体フィラメント2まで穴が貫通することがないため、ピンホール14が生成することはないと考えられる。なお、図11の上述した以外の構成は、図2に示す構成とほぼ同じであるため、同一部材には同一符号を付し、その説明を省略する。
【0141】
また、圧延後の酸化物超電導線材の外皮厚みWが20μm未満であっても、上述の第2、第3の手法を用いれば、熱処理の前にピンホール14のない線材が得られ、その結果、加圧雰囲気中で熱処理により空隙や膨れの生成が抑止され、臨界電流密度の低下が効果的に防止されることを本願発明者らは見出した。
【0142】
図12は、実施の形態2における圧延方法を示す模式断面図である。
【0143】
図12を参照して、圧延は、回転する複数(通常2本)のロール15間に板状または棒状の材料を通して、その厚さまたは断面積を減じ、同時に断面を目的の形状に成形する加工法である。圧延の際、酸化物超電導線材1はロール15からの摩擦力によって複数のロール15間に引き込まれ、そこでロール15の表面15aからの圧縮力を受けて変形する。
【0144】
第2の手法においては、図3に示す1次圧延(ステップS3)および2次圧延(ステップS5)の少なくともいずれかにおいて、線材1が接する部分である表面15aにおける表面粗さRyが320nm以下であるロール15が用いられる。
【0145】
すなわち、圧延の際に用いられるロール15の表面15aの表面粗さRyが320nm以下であれば、線材1とロール15の表面15aの摩擦が小さくなるので、線材1の表面が荒らされにくくなり、線材1の外皮厚みに関係なくピンホールのない線材1が得られる。したがって、熱処理する工程の際に、加圧している気体がピンホールから線材1内部に侵入しなくなる。これにより、線材1の外皮厚みWに関係なく、上記加圧雰囲気中で熱処理する工程により空隙や膨れの生成が抑止され、臨界電流密度の低下が効果的に防止される。
【0146】
図13は、酸化物超電導線材の他の製造工程を示す図である。
【0147】
また、第3の手法においては、図13に示すように圧延(ステップS3またはS5)の後であって熱処理(ステップS4またはS6)前において、銀もしくは銀合金を線材の表面にメッキする工程(ステップS11またはS12)が行なわれる。なお、メッキする工程(ステップS11またはS12)を追加した以外は図3の方法とほぼ同じであるため、対応する工程には対応する符号を付し、その説明を省略する。
【0148】
図14は、銀もしくは銀合金を線材にメッキする工程後の酸化物超電導線材の構成を概念的に示す部分断面斜視図である。
【0149】
図14を参照して、シース部3の外周部分には銀もしくは銀合金16がメッキされていて、これにより外部に開口していたピンホール14は銀もしくは銀合金16により塞がれている。なお、これ以外の構成は、図2の構成とほぼ同じであるため、同一の部材については同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0150】
通常、単位面積あたりに流すことのできる超電導電流を増やすため、酸化物超電導線材1の銀比はできるだけ小さくされている。しかし、銀比が小さい線材1は、金属部分の割合が少ないため、外皮厚みWを大きくすることができない。したがって、銀比が小さい線材1は外皮厚みが20μm未満となり、熱処理する工程前の処理(たとえば圧延等)でピンホール14が形成されやすい。ピンホール14のある線材1は、上述のように加圧により空隙や膨れの生成が十分抑止されない。この結果、臨界電流密度の低下が防止される効果が小さくなっている。そこで、熱処理する工程前に銀もしくは銀合金16を線材1の表面にメッキさせることにより、ピンホール14が銀もしくは銀合金16で塞がれて、表面から消滅する。したがって、線材1からピンホール14が消滅されてから熱処理する工程が行なわれるので、熱処理する工程の際に、加圧している気体がピンホール14から線材1内部に侵入しなくなる。これにより、線材1の外皮厚みWの値および圧延に用いられるロール15の表面粗さRyの値に関係なく、上記加圧雰囲気中で熱処理する工程により空隙や膨れの生成が抑止され、臨界電流密度の低下が効果的に防止される。
【0151】
また、次に説明する第4の手法または第5の手法を用いれば、ピンホール14のある線材1であっても空隙や膨れの生成が抑止され(焼結密度が向上され)、臨界電流密度の低下が効果的に防止されることを本願発明者らは見出した。第4の手法においては、図3に示す1回目の熱処理(ステップS4)および2回目の熱処理(ステップS6)の少なくともいずれかにおいて、熱処理前の昇温時には、温度上昇に伴なって段階的に圧力が増加するように制御される。また、第5の手法においては、図3に示す1回目の熱処理(ステップS4)および2回目の熱処理(ステップS6)の少なくともいずれかにおいて、熱処理前の昇温時には、0.05MPa/min以上の速度で雰囲気の全圧力が増加するように制御される。そして、熱処理時には、雰囲気中の全圧力が増加し続けるように制御される。さらに、熱処理直後の降温時には、降温による圧力の低下を補うように(圧力を追加するように)制御される。はじめに、第4の手法について説明する。
【0152】
図15は、実施の形態2の第4の手法における熱処理時の温度および圧力と時間との関係を示す図である。
【0153】
図15を参照して、熱処理温度800℃、圧力20MPaという条件で熱処理が行なわれている。このとき、温度上昇に伴なって段階的に圧力が増加するように制御されている。つまり、圧力増加時に、所定圧力で一定時間保持した後に圧力を増加させ、増加後の圧力で再度一定時間保持するというプロセスを繰り返すように圧力が制御されている。具体的には、圧力増加過程において、7MPa程度、10MPa程度、12.5MPa程度、15MPa程度、および17MPa程度で一定時間圧力が保持される。また、圧力を一定時間保持した後に増加させるタイミングは、雰囲気中の温度の測定値に基づいて行なわれる。つまり、室温で圧力を7MPa程度に増加させ、温度が400℃程度に達した時点で圧力を10MPa程度に増加させ、500℃に達した時点で圧力を12.5MPaに増加させ、600℃に達した時点で圧力を15MPa程度に増加させ、700℃に達した時点で圧力を17MPa程度に増加させるようにして圧力が制御される。なお、安定した酸化物超電導相を生成するために、酸素分圧は常に0.003〜0.008MPaの範囲となるように制御される。
【0154】
ピンホールのある線材は、通常の加圧方法で加圧雰囲気中で熱処理する工程が行なわれても、加圧している気体がピンホールから線材内部に侵入するため、線材内外での圧力差がなくなり、加圧により空隙や膨れによる臨界電流密度の低下が防止される効果が小さい。しかし、第4の手法のように、温度上昇に伴なって段階的に圧力が増加するように制御されることにより、加圧している気体がピンホールから線材内部に侵入する前に外部圧力が増加する。これにより、線材内外での圧力差が生じ、熱処理する工程前の線材がピンホールを有しているか否かにかかわらず、空隙や膨れの生成が抑止され(焼結密度が向上され)、臨界電流密度の低下が効果的に防止される。
【0155】
さらに、上記手法1〜4に以下の手法を組み合わせることにより、線材の空隙および膨れの生成をさらに効果的に抑止することができる。以下、その手法について説明する。
【0156】
その手法においては、図3に示す1回目の熱処理(ステップS4)および2回目の熱処理(ステップS6)の少なくともいずれかにおいて、熱処理する工程において、雰囲気中の温度が200℃以上の場合には、加圧雰囲気中の全圧力の減圧速度が一定速度未満となるように制御される。
【0157】
図16Aは、本発明の実施の形態2における銀比が1.5である場合の熱処理する工程の温度と時間の関係を示す図である。図16Bは、本発明の実施の形態2における銀比が1.5である場合の熱処理する工程の圧力と時間の関係を示す図である。図16Cは、本発明の実施の形態2における銀比が1.5である場合の熱処理する工程の酸素濃度と時間の関係を示す図である。図16Dは、本発明の実施の形態2における銀比が1.5である場合の熱処理する工程の酸素分圧と時間との関係を示す図である。
【0158】
図16A〜図16Dを参照して、熱処理前の昇温時には、上述した第4の手法と同様、雰囲気中の温度上昇に伴なって段階的に圧力が増加するように制御されている。なお、図16Bでは、所定圧力で一定時間保持されていないように見えるが、これは図15よりも図16Bの経過時間のスケールが大きすぎるため、圧力保持部が省略されたように見えるだけで、実際には図15の場合と同様に所定圧力で一定時間保持されている。この昇温工程により、温度815℃、圧力20MPaとされ、その状態で50時間の熱処理が行なわれる。熱処理前の昇温時および熱処理時においては、雰囲気中の温度が200℃以上の場合には、加圧雰囲気中の全圧力の減圧速度が0.05MPa/min以下となるように制御される。そして熱処理後においては、50℃/hの速度で温度が降温される。熱処理後においても、雰囲気中の温度が200℃以上である場合には、加圧雰囲気中の全圧力の減圧速度が0.05MPa/min以下となるように制御される。なお、熱処理後の降温速度が50℃/hである場合には、温度低下に伴なう自然減圧速度は常に0.05MPa/min以下となるので、減圧速度を制御する必要はない。さらに、熱処理前、熱処理時、熱処理後にわたって、酸素濃度は0.04%に保たれている。これにより、酸素分圧は常に0.003〜0.008MPaの範囲となり、安定した酸化物超電導相が生成可能である。
【0159】
雰囲気中の温度が200℃以上の場合に加熱容器内が急激に減圧されると、線材内部の圧力が線材外部の圧力と比較して高くなり、線材の膨れが生成する。そこで、加圧雰囲気中の全圧力の減圧速度が一定速度未満となるように制御されることにより、熱処理中(熱処理前、熱処理時、熱処理後)における急激な減圧による線材の膨れの生成を抑止する効果がより顕著である。
【0160】
なお、銀比が3.0である線材については、雰囲気中の温度が200℃以上の場合に、減圧速度は0.03MPa/min以下となるように制御される。
【0161】
次に、第5の手法について説明する。第5の手法においては、1回目の熱処理(ステップS4)および2回目の熱処理(ステップS6)の少なくともいずれかにおいて、熱処理前の昇温時には、0.05MPa/min以上の速度で雰囲気の全圧力が増加し続けるように制御される。そして、熱処理時には、雰囲気中の全圧力が増加し続けるように制御される。さらに、熱処理直後の降温時には、降温による圧力の低下を補うように(圧力を追加するように)制御される。
【0162】
図17は、本発明の実施の形態2の第5の手法における熱処理する工程の温度および圧力と時間との関係を示す図である。
【0163】
図17を参照して、熱処理前の昇温時には、雰囲気の温度がたとえば700℃以下の場合には、気体の状態方程式にしたがって緩やかに圧力が増加される。そして、雰囲気の温度が700℃を超えるあたりで、雰囲気中の圧力が10MPa程度まで増加される。このとき、雰囲気中の圧力は0.05MPa/min以上の加圧速度で一気に増加される。
【0164】
ここで、本願発明者らは、ピンホールのある酸化物超電導線材を加圧雰囲気中で熱処理する際に、加圧している気体がピンホールから線材内部に侵入する速度は約0.05MPa/min未満であることを見出した。したがって、熱処理前の昇温時において、0.05MPa/min以上の速度で雰囲気の全圧力が増加し続けるように制御することで、熱処理前の昇温時において線材内部よりも雰囲気中の圧力を高く保ち続けることができる。
【0165】
その後、熱処理時において温度はたとえば830℃に保たれる。一方で雰囲気中の圧力は増加され続ける。熱処理時における加圧速度はなるべく速いことが好ましいが、加圧速度があまり速すぎると全圧力が50MPaを超えてしまうので、熱処理時の全圧力が50MPaを超えないような適切な加圧速度で圧力が増加され続ける必要がある。図17においては、30MPa程度まで圧力が増加されている。これにより、熱処理時において圧力が一定に保たれる場合と比べて、線材内部の圧力と雰囲気中の圧力とが等しくなる時間を時間tから時間tに遅らせることができる。このように、熱処理中において線材内部の圧力よりも雰囲気中の圧力が高い状態をより長く保ち続けることができる。
【0166】
その後、熱処理直後の降温時には、気体の状態方程式にしたがって、雰囲気中の温度の低下とともに圧力も低下しようとする。このとき、降温による圧力の低下を補うように(圧力を追加するように)圧力が制御される。なお、安定した酸化物超電導相を生成するために、酸素分圧は常に0.003〜0.02MPaの範囲となるように制御される。
【0167】
第5の手法によれば、熱処理前の昇温時において線材内部の圧力よりも雰囲気中の圧力が高くなるので、線材に対して圧縮する力を加えることができる。また、熱処理時において線材内部の圧力よりも雰囲気中の圧力が高い状態をより長く保ち続けることができる。その結果、熱処理前の昇温時および昇温時において空隙や膨れの生成が抑止され、1MPa以上50MPa未満の加圧雰囲気中での熱処理により臨界電流密度の低下を効果的に抑止することができる。
【0168】
本実施の形態においては、銀もしくは銀合金を線材にメッキする工程が行なわれる場合について示したが、銀もしくは銀合金が線材に付着される工程であれば、たとえばスパッタする工程により本発明を実施することも可能である。加えて、図15、図16A〜図16Dにおいては、温度と圧力と酸素濃度と酸素分圧との具体的な制御条件が示されているが、本発明はこの条件に限定されるものではなく、温度上昇に伴なって段階的に圧力が増加するように制御され、雰囲気中の温度が200℃以上の場合には、加圧雰囲気中の全圧力の減圧速度が0.05MPa/min以下となるように制御されればよい。
【0169】
本実施の形態の第1〜第5の手法は、実施の形態1の熱処理条件と組み合せられることにより、ピンホールの発生を防止でき、またはピンホールが発生した場合でも、線材の空隙や膨れの生成を効果的に抑止することができる。
【0170】
また、本実施の形態の第1〜第5の手法は、適宜組み合わせることにより、線材の空隙や膨れの生成をより効果的に抑止することができる。
【0171】
さらに、本実施の形態の第5の手法においては、熱処理直後の降温時には、降温による圧力の低下を補うように(圧力を追加するように)制御される場合について示したが、本発明はこのような場合に限定されるものではなく、少なくとも熱処理時に雰囲気中の圧力が増加し続けるように制御されればよい。
【0172】
(実施の形態3)
酸化物超電導線材の臨界電流密度をさらに向上するために、本願発明者らは、熱処理前の昇温時および熱処理時における最適な酸素分圧について鋭意検討を行なった。それにより、図18に示す結果が得られた。
【0173】
図18は、熱処理時における温度と酸素分圧との最適な組み合わせを示した図である。
【0174】
図18を参照して、たとえば酸素分圧が0.007MPaである場合には、815℃以上825℃以下の温度範囲であれば、安定した酸化物超電導相が生成し、臨界電流密度が向上することがわかる。また、図には示されていないが、酸素分圧が0.003MPaである場合には、750℃以上800℃以下の温度範囲、好ましくは770℃以上大きく800℃以下の温度範囲であれば、安定した酸化物超電導相が生成し、臨界電流密度が向上する。また、酸素分圧が0.02MPaである場合には、820℃以上850℃以下の温度範囲、好ましくは830℃以上845℃以下の温度範囲であれば、安定した酸化物超電導相が生成し、臨界電流密度が向上する。さらに、温度が650℃以下の場合には酸素分圧を0.00005MPa以上0.02MPa以下の範囲に制御する必要があることもわかった。
【0175】
以上の温度と酸素分圧との関係から、酸化物超電導相の生成に最適な酸素分圧の値は、温度上昇とともに大きくなっている。したがって、熱処理前の昇温時においては、雰囲気中の温度上昇に伴なって酸素分圧を増加するように制御することにより、酸素分圧を酸化物超電導相の生成に最適な範囲にすることができる。これにより、安定した酸化物超電導相が生成し、臨界電流密度を向上することができる。
【0176】
また、熱処理時の一定温度で線材が保持される際には、温度に数℃の変動(誤差)が生じることが多い。この温度の変動と、最適な酸素分圧の範囲との関係を考えると、たとえば822.5℃で線材が保持される場合には、最適な酸素分圧は0.006MPa以上0.01MPa以下となるが、825℃に温度が変動した場合には、最適な酸素分圧は0.007MPa以上0.011MPa以下となる。また、820℃に温度が変動した場合には、最適な酸素分圧は0.005MPa以上0.009MPa以下となる。そこで、このような温度の変動があっても常に最適な酸素分圧となるようにするためには、822.5℃で線材が保持される場合には、酸素分圧は0.007MPa以上0.009MPa以下の変動範囲(図18中斜線部分)で一定となるように制御すればよいこととなる。
【0177】
ところで、この酸素分圧の変動範囲は酸素分圧の値の10%程度となっている。したがって、熱処理時の酸素分圧が10%以内の変動範囲で一定となるように制御されることにより、温度の変動があっても最適な酸素分圧の範囲内に酸素分圧をおさめることができるので、安定した酸化物超電導相が生成し、臨界電流密度を向上させることが可能となる。
【0178】
本実施の形態においては、熱処理前の昇温時および熱処理時における最適な酸素分圧の数値範囲の一例が示されたが、本発明はこの数値範囲で酸素分圧を制御する場合に限定されるものではなく、雰囲気中の温度上昇に伴なって酸素分圧が増加するように制御するものであればよい。
【0179】
(実施の形態4)
酸化物超電導線材の臨界電流密度をさらに向上するために、本願発明者らは、熱処理中の全圧力の減圧速度が0.05MPa/minとなるように制御し、全圧力の値と線材の膨れの生成との関係について鋭意検討を行なった。
【0180】
Bi:Pb:Sr:Ca:Cu=1.82:0.33:1.92:2.01:3.02の組成比の原料粉末を調整した。この原料粉末を750℃で10時間熱処理した後、800℃で8時間熱処理した。その後、粉砕により得られた粉末を850℃で4時間熱処理した後、再び粉砕を行なった。粉砕により得られた粉末を減圧下で加熱処理した後、外径36mm、内径31mmの銀からなる金属管に充填した。次に、粉末を充填した金属管について伸線加工を行なった。さらに、伸線した線材を61本に束ねて、外径36mm、内径31mmの金属管に嵌合した。次に、伸線加工および1次圧延を行ない、厚さ0.25mm、幅3.6mmのテープ形状のBi2223相を有する超電導線材を得た。次に、この線材に1回目の熱処理を行なった。1回目の熱処理は、大気中で行ない、熱処理温度を842℃とし、熱処理時間を50時間として行なった。次に2次圧延を行なった後、2回目の熱処理を行なった。2回目の熱処理は、酸素分圧を0.008MPaとし、熱処理温度を825℃とし、熱処理時間を50時間とし、熱処理中の全圧力の減圧速度が0.05MPa/min以下となるように制御し、表1に示すように全圧力を変化させて行なった。2回目の熱処理後、線材の膨れの有無を調べた。全圧力と線材の膨れの有無とを表1に併せて示す。
【0181】

【0182】
表1の結果から、全圧力が1MPa以上の場合には線材の膨れが発生している。これにより、線材の膨れを抑止するためには、全圧力が1MPa以上の場合に加圧雰囲気中の減圧速度が0.05MPa/min以下となるように制御する必要がある。
【0183】
続いて、2回目の熱処理の熱処理温度を500℃として、同様に線材の膨れの有無を調べた。全圧力と線材の膨れの有無とを表2に併せて示す。
【0184】


【0185】
表2の結果から、熱処理温度が500℃の場合においても全圧力が1MPa以上の場合には線材の膨れが発生している。これにより、熱処理温度が500℃の場合においても、線材の膨れを抑止するためには、全圧力が1MPa以上の場合に加圧雰囲気中の減圧速度が0.05MPa/min以下となるように制御する必要がある。
【0186】
(実施の形態5)
図19は、空隙が残る酸化物超電導線材の構成を概念的に示す部分断面斜視図である。
【0187】
図19を参照して、全圧力が1MPa以上50MPa未満の加圧雰囲気中における熱処理後の酸化物超電導線材1の超電導体フィラメント2においては、長手方向(図19中横方向)に長い空隙はほぼ無くなっているのに対して、長手方向に垂直な方向に伸びる空隙20がわずかに残っている。なお、図19においては、超電導体フィラメントが1本である単芯線の酸化物超電導線材について示している。
【0188】
すなわち、本願発明者らは、酸化物超電導線材1の長手方向に垂直な方向に伸びる空隙20は、加圧雰囲気中での熱処理によっても減少し難いことを見出した。これは以下の理由によるものと考えられる。加圧雰囲気中においては、圧力が酸化物超電導線材の全ての面に等しく加わる。そして、この圧力により酸化物超電導結晶がクリープ変形を起こし、結晶同士の接合界面に存在している空隙が収縮する。このようにして、酸化物超電導結晶間に生成する空隙は減少する。しかしながら、酸化物超電導線材1は長手方向に長く伸びた形状を有しているので、長手方向には力が伝わりにくく、線材1は長手方向に圧縮されにくい。その結果、酸化物超電導線材1の長手方向に垂直な方向に伸びる空隙20は、加圧雰囲気中での熱処理によっても減少し難い。
【0189】
酸化物超電導線材1の長手方向に垂直な方向に伸びる空隙20は、超電導体フィラメント中の電流を遮っているので、酸化物超電導線材1の臨界電流密度が低下する原因の1つとなっている。したがって、この空隙20の生成を抑えれば、酸化物超電導線材1の臨界電流密度をさらに向上することができる。
【0190】
そこで、図3の1次圧延(ステップS5)において、酸化物超電導線材の圧下率を84%以下、好ましくは80%以下とすることで、酸化物超電導線材の長手方向に垂直な方向に伸びる空隙の生成を熱処理前に抑えることができ、その結果酸化物超電導線材の臨界電流密度を向上できることを本願発明者らは見出した。この理由について以下に説明する。
【0191】
1次圧延は、金属管に充填された原材料粉末の密度を高めるために行なわれる工程である。1次圧延において、酸化物超電導線材の圧下率を大きくする(加工率を大きくする)程、金属管に充填された原材料粉末の密度は高くなる。原材料粉末の密度が高くなると、その後の熱処理(ステップS4およびステップS5)により生成する超電導結晶の密度が高くなり、酸化物超電導線材の臨界電流密度が向上する。
【0192】
一方で、1次圧延において、酸化物超電導線材の圧下率を大きくすると、加工率が大きくなることに起因する以下の3つの現象が認められる場合がある。第1に、原材料粉末中に空隙(クラック)が生じる。第2に、酸化物超電導線材中のフィラメントの形状が長手方向に不均一になるソーセージングが生成しやすくなる。第3に、ソーセージングの発生により、超電導体フィラメントの断面積が局所的に大きくなった部分において別の超電導体フィラメントと接触するブリッジングが発生しやすくなる。これらの現象は、いずれも酸化物超電導線材の臨界電流密度を低下させる原因となり得る。
【0193】
したがって、1次圧延は、原材料粉末の密度が高くなり、かつ原材料粉末中に空隙等が生じないような圧下率で行なわれる必要がある。従来の1次圧延においては、酸化物超電導線材は約86〜90%という圧下率で圧延されていた。
【0194】
しかしながら、熱処理が1MPa以上50MPa未満の加圧雰囲気中で行なわれる場合には、熱処理の際においても酸化物超電導線材が圧縮される効果が得られる。したがって、1次圧延が84%以下の圧下率で行なわれても、その後の加圧雰囲気中での熱処理において原材料粉末が圧縮されるので、結果的に酸化物超電導線材の超電導体フィラメントの密度を高くすることができる。一方で、1次圧延が84%以下の圧下率で行なわれることにより、原材料粉末中に空隙が生じにくくなるので、酸化物超電導線材の長手方向に垂直な方向に伸びる空隙が生じることを抑止できる。さらに、1次圧延が80%以下の圧下率で行なわれることにより、原材料粉末中に空隙が完全に生じなくなる。以上の理由により、酸化物超電導線材の臨界電流密度を向上できる。
【0195】
図20は、酸化物超電導線材における1次圧延における圧下率と臨界電流密度との関係を模式的に示した図である。
【0196】
図20を参照して、大気中で熱処理を行なう場合には、1次圧延が約86%の圧下率で行なわれるときに酸化物超電導線材の臨界電流密度が最も高くなっている。一方、本発明の加圧雰囲気中で熱処理を行なう場合には、1次圧延が約82%の圧下率で行なわれるときに酸化物超電導線材の臨界電流密度が最も高くなっている。このように、熱処理が1MPa以上50MPa未満の加圧雰囲気中で行なわれる場合、酸化物超電導線材の臨界電流密度を向上するための最適な1次圧延の圧下率は、低圧下率側にシフトすることがわかる。
【0197】
本願発明者らは、上記の効果を確認すべく、本実施の形態における酸化物超電導線材を以下の条件で作製し、臨界電流密度の計測を行なった。
【0198】
図3に示す酸化物超電導線材の製造工程に基づいて、原材料粉末を金属管に充填し、伸線加工を行なった。次に1次圧延を行ない、テープ形状の超電導線材を得た。1次圧延は82%、87%の2種類の圧下率で行なった。また、1次圧延は、直径100mmのロールを用い、動粘度が10mm/sである潤滑油を用いた。次に、この線材に1回目の熱処理を行なった。1回目の熱処理は、酸素分圧を0.008MPaとし、熱処理温度を830℃とし、熱処理時間を30時間として行なった。次に、2次圧延加工を行なった。2次圧延は、5〜30%の圧下率で、直径300mmのロールを用い、潤滑油を用いずに行なった。次に、2回目の熱処理を行なった。2回目の熱処理は、全圧力を25MPaとし、酸素分圧を0.008MPaとし、熱処理温度を820℃とし、熱処理時間を50時間として行なった。2回目の熱処理後、得られた酸化物超電導線材の臨界電流密度の計測を行なった。
【0199】
その結果、1次圧延において、圧下率を87%とした酸化物超電導線材では30kA/cmの臨界電流密度となった。一方、圧下率を82%とした酸化物超電導線材では40kA/cmの臨界電流密度となった。また以上の結果により、1次圧延(ステップS5)において、酸化物超電導線材の圧下率を84%以下とすることで、酸化物超電導線材の長手方向に垂直な方向に伸びる空隙の生成を熱処理前に抑えることができ、その結果酸化物超電導線材の臨界電流密度を向上できることがわかる。
【0200】
本実施の形態においては、圧延時の潤滑油の動粘度や圧延に用いられるロールの直径についての一例が示されたが、本発明はこのような圧延条件に限定されるものではなく、圧延する工程における線材の圧下率が84%以下であればよい。
【0201】
(実施の形態6)
本願発明者らは、さらに鋭意検討し、次に説明する第6の手法を用いれば、ピンホール14のある線材1であっても空隙や膨れの生成が一層抑止され、臨界電流密度の低下が効果的に防止されることを本願発明者らは見出した。また、第6の手法を用いて製造された酸化物超電導線材により、温度制御なしに昇温してもバルーニングの発生を一層抑止することができることを見出した。
【0202】
第6の手法においては、図3に示す1回目の熱処理(ステップS4)および2回目の熱処理(ステップS6)の少なくともいずれかの熱処理工程における熱処理前の昇温時に、雰囲気の温度が400℃以上、好ましくは600℃以上となってから加圧が開始される。また、好ましくは加圧の速度は0.05MPa/min以上、さらに好ましくは0.1MPa/min以上とされる。
【0203】
図21は、本発明の実施の形態6の第6の手法における熱処理前の昇温時および熱処理時の温度、全圧力および酸素分圧と、時間との関係の一例を示す図である。
【0204】
図21を参照して、雰囲気の温度が820℃まで緩やかに上昇されている。雰囲気の圧力は、温度が600℃未満の場合には気体の状態方程式に従って緩やかに上昇している。そして、雰囲気の温度が600℃となってから加圧が開始され、約0.1MPa/minの加圧速度で約25MPaまで加圧される。なお、酸素分圧は0.003MPa以上0.02MPa未満の範囲に保たれている。このような条件で熱処理を行なうことにより、酸化物超電導線材の臨界電流密度を一層向上することができる。本願発明者らは、上記熱処理方法の効果を確認すべく、加圧を開始する温度を以下のように変化させて酸化物超電導線材を熱処理し、作製したそれぞれの酸化物超電導線材について焼結密度の計測を行なった。
【0205】
図22は、加圧を開始する温度を変えた場合の加圧速度と焼結密度との関係を示す図である。
【0206】
図22を参照して、雰囲気の温度が30℃のときから加圧を開始した場合、加圧速度0.05MPa/min以上で酸化物超電導体フィラメント(酸化物超電導体)の焼結密度は約93%〜96%となっている。一方、雰囲気の温度が400℃となってから加圧を開始した場合、加圧速度0.05MPa/min以上で酸化物超電導体フィラメントの焼結密度はおよそ95%以上となっている。さらに、雰囲気の温度が600℃となってから加圧を開始した場合、加圧速度0.05MPa/min以上で酸化物超電導体フィラメントの焼結密度はおよそ97%以上となっており、加圧速度0.1MPa/min以上で酸化物超電導体フィラメントの焼結密度はおよそ98%以上となっている。さらに、雰囲気の温度が400℃となってから加圧を開始した場合、および600℃となってから加圧を開始した場合の両方の場合で、加圧速度0.15MPa/min以上で酸化物超電導体フィラメントの焼結密度はおよそ99%以上となっている。
【0207】
ここで、0.05MPa/min以上の加圧速度で焼結密度が向上するのは、加圧している気体がピンホールから線材内部に侵入する速度は約0.05MPa/min未満であり、この侵入速度よりも速い速度で線材が加圧されているために、常に線材内部の圧力よりも雰囲気中の圧力を高く保ち続けることができるからであると考えられる。図12の結果により、雰囲気の温度が400℃以上、好ましくは600℃以上となってから加圧を開始すると、酸化物超電導体フィラメントの焼結密度が向上する。また、好ましくは加圧の速度を0.05MPa/min以上、さらに好ましくは0.1MPa/min以上とすると、酸化物超電導体フィラメントの焼結密度が一層向上することがわかる。これは、以下の理由によるものと考えられる。
【0208】
図23は、銀の0.2%耐力の温度依存性を示す図である。
【0209】
図23を参照して、銀の0.2%耐力は、雰囲気の温度が室温である場合には約370MPaとなっており、雰囲気の温度上昇とともに低下している。具体的には、雰囲気の温度が400℃となると0.2%耐力は約50MPaにまで低下し、雰囲気の温度が600℃となると0.2%耐力は約25MPaにまで低下している。このように、雰囲気の温度が400℃の場合には上記の加圧雰囲気の全圧力(1MPa以上50MPa未満)と同程度にまで銀の0.2%耐力が低下している。また、雰囲気の温度が600℃の場合には上記の加圧雰囲気の全圧力(1MPa以上50MPa未満)の2分の1程度にまで銀の0.2%耐力が低下している。上記の手法では、シース部の強度が低下している状態で線材に圧力を加えることになる。このため、熱間加工と同様の効果により、加圧による圧縮力を受けてシース部が圧縮しやすくなる。その結果、加圧している気体がピンホールから線材内部に侵入する前に線材が圧縮されるため、加圧により空隙や膨れの生成を十分抑止することができ、酸化物超電導体フィラメントの焼結密度を向上することができる。なお、図23に示す0.2%耐力は、JIS(Japan Industrial Standard)に規定された引張試験を直径1.5mmの純銀線に対して行なうことにより得られた値である。
【0210】
また、図22における酸化物超電導体フィラメントの焼結密度は以下の方法により算出されている。始めに、5g(=M(g))の酸化物超電導線材が切り分けられる。次に、切り分けられた酸化物超電導線材をアルコールに浸し、アルコール中での線材の重量(W(g))を計測し、酸化物超電導線材に働く浮力が算出される。そして、既知のアルコール密度(ρ=0.789(g/cm)を用いて酸化物超電導線材の体積(V(cm))が算出される。具体的には、浮力をFとすると、以下の式(1)、(2)によりVが算出される。
【0211】
=M−W ・・・(1)
=F/ρ ・・・(2)
続いて、酸化物超電導線材を硝酸に溶解し、その溶液をICP(Inductive Coupled Plasma)発光分析することにより銀を定量し、酸化物超電導線材の重量に占める銀の割合(Y)が算出される。そして、酸化物超電導線材の重量から、酸化物超電導体フィラメント部との重量(M(g))と、シース部の重量(M(g))の重量とが以下の式(3)、(4)により算出される。
【0212】
=M×Y ・・・(3)
=M−M ・・・(4)
次に、シース部の体積(V(cm))が既知の銀比重(10.5(g/cm))より算出され、シース部の体積から酸化物超電導体フィラメントの体積(V(cm))が算出される。そして、酸化物超電導体フィラメントの体積から酸化物超電導体フィラメントの密度ρが算出される。具体的には、以下の式(5)〜(7)によりρが算出される。
【0213】
=M/10.5 ・・・(5)
=V−V ・・・(6)
ρ=M/V ・・・(7)
一方、酸化物超電導体フィラメントの理論密度は、6.35g/cmという値が採用されている。この値は以下の方法によって算出されている。すなわち、ICP発光分析およびEDX(energy dispersive X−ray spectroscopy)分析により酸化物超電導体フィラメント中のBi2223相の原子比が算出される。そして、X線回折法によりBi2223相の格子定数を求め、a軸およびc軸の値を算出する。そして、これらの値から理論密度が算出される。
【0214】
以上の方法により求められた酸化物超電導体フィラメントの密度と酸化物超電導体フィラメントの理論密度との比から、酸化物超電導体フィラメントの焼結密度が算出される。具体的には、式(8)により焼結密度が算出される。
【0215】
焼結密度(%)=(ρ/6.35)×100 ・・・(8)
図24は、酸化物超電導体フィラメントの焼結密度と酸化物超電導線材の臨界電流値との関係を示す図である。
【0216】
図24を参照して、約95%以下の焼結密度の酸化物超電導線材の臨界電流値は80A未満となっているのに対して、約95%以上の焼結密度の酸化物超電導線材の臨界電流値は主に80Aを超える範囲にある。臨界電流値は、臨界電流密度と酸化物超電導体フィラメントの断面積とを乗じた値であるので、臨界電流密度は臨界電流値に比例する。したがって、焼結密度の高い酸化物超電導線材では、臨界電流密度が向上している。これは、焼結密度の高い酸化物超電導線材は超電導体フィラメントの結晶間の空隙が少ないので、超電導体フィラメントに多くの電流が流れるためであると考えられる。
【0217】
以上の図22および図24に示す結果から、雰囲気の温度が400℃以上、好ましくは600℃以上となってから、好ましくは0.05MPa/min以上、さらに好ましくは0.1MPa/min以上の速度で加圧を開始すると、酸化物超電導体フィラメントの焼結密度が向上し、酸化物超電導線材の臨界電流密度が向上することがわかる。
【0218】
上記製造方法により、焼結密度が95%以上、好ましくは99%以上である酸化物超電導線材が得られる。上記製造方法により得られる酸化物超電導線材を超電導ケーブルなどの超電導機器に適用することにより、酸化物超電導体の空隙に液体冷媒が一層浸入しにくくなる。したがって、超電導機器が液体冷媒に浸漬された状態から常温へ温度上昇される際に、温度制御なしに昇温しても、液体冷媒はほとんど気化しない。その結果、酸化物超電導線材内部の圧力が上昇しにくくなり、超電導ケーブルなどの超電導機器のバルーニングの発生を一層抑止することができる。
【0219】
本願発明者らは、上記効果を確認するために、以下の実験を行なった。
【0220】
まず、図3に示された製造方法を用いて、2種類の酸化物超電導線材を製造した。一方の酸化物超電導線材は、2回目熱処理(ステップS6)において30MPaの圧力および0.008MPaの酸素分圧で、820℃の温度で50時間熱処理を行なった。また、2回目熱処理(ステップS6)における熱処理前の昇温時には、雰囲気中の温度が600℃となってから加圧を開始し、図21に示されるような全圧力、酸素分圧、および温度の制御とほぼ同様の制御を行なった。もう一方の酸化物超電導線材は、1回目の熱処理(ステップS4)および2回目の熱処理(ステップS6)の両方において大気圧で熱処理を行なった。このようにして得られた2種類の酸化物超電導線材の各々を用いて、図1Aに示されるような超電導ケーブル30をそれぞれ作製した。そして、各々の超電導ケーブル30を液体窒素中に24時間浸漬し、昇温速度を制御することなく超電導ケーブルを室温まで昇温した。その後、バルーニングの発生の有無について調べた。その結果、大気圧で熱処理を行なった酸化物超電導線材を用いた超電導ケーブルに30にはバルーニングの発生がみられた。一方、図21に示されるような全圧力、酸素分圧、および温度の制御を行なった酸化物超電導線材を用いた超電導ケーブル30にはバルーニングの発生は一切見られなかった。これにより、上記製造方法により製造された酸化物超電導線材を有する超電導ケーブルを用いれば、超電導ケーブルのバルーニングの発生を抑止可能であることがわかる。
【0221】
また、本実施の形態における酸化物超電導線材の製造方法によれば、熱処理時の加圧雰囲気の全圧力と同程度にまでシース部の0.2%耐力が低下している状態で、線材に圧力が加えられる。このため、熱間加工と同様の効果により、加圧による圧縮力を受けてシース部が圧縮しやすくなる。したがって、加圧している気体がピンホールから線材内部に侵入する前に線材が圧縮されるため、加圧により空隙や膨れの生成を十分抑止することができる。その結果、酸化物超電導体フィラメントの焼結密度を向上することができ、酸化物超電導線材の臨界電流密度を向上することができる。
【0222】
上記製造方法において好ましくは、熱処理工程における熱処理前の昇温時には、雰囲気の温度が600℃以上となってから加圧が開始される。
【0223】
これにより、熱処理時の加圧雰囲気の全圧力の2分の1程度にまでシース部の0.2%耐力が低下している状態で、線材に圧力が加えられる。このため、加圧による圧縮力を受けてシース部が一層圧縮しやすくなる。その結果、酸化物超電導線材フィラメントの焼結密度を一層向上することができ、酸化物超電導線材の臨界電流密度を一層向上することができる。
【0224】
上記製造方法において好ましくは、加圧の速度は0.05MPa/min以上であり、さらに好ましくは0.1MPa/min以上である。
【0225】
これにより、酸化物超電導体フィラメントの焼結密度を一層向上することができ、酸化物超電導線材の臨界電流密度を一層向上することができる。
【0226】
上記製造方法において好ましくは、熱処理工程は酸素雰囲気中で行なわれ、かつ、酸素分圧は0.003MPa以上0.02MPa以下である。
【0227】
これにより、安定した酸化物超電導相が生成し、臨界電流密度を向上させることが可能となる。なお、酸素分圧が0.02MPaを超えると異相が生成し、0.003MPa未満では酸化物超電導相が生成しにくくなり臨界電流密度が低下する。
【0228】
なお、本実施の形態においては、図3に示す1回目の熱処理(ステップS4)および2回目の熱処理(ステップS6)の少なくともいずれかの熱処理工程において、所定の熱処理方法を行なうことにより臨界電流密度を向上する方法(酸化物超電導線材の製造方法)について示した。しかしながら、本発明はこのような場合の他、製造された酸化物超電導線材(すなわち、図3におけるステップS1〜ステップS6の工程終了後の酸化物超電導線材)に対して行なう熱処理工程、すなわち酸化物超電導線材の改質方法としても適用可能である。本発明の熱処理を酸化物超電導線材の改質方法として用いた場合でも、酸化物超電導体の焼結密度を向上することができ、酸化物超電導線材の臨界電流密度を向上することができる。
【0229】
また、本実施の形態においては、シース部が銀よりなる酸化物超電導線材を、熱処理時の全圧力が1MPa以上50MPa未満である加圧雰囲気中で熱処理し、熱処理工程における熱処理前の昇温時には、雰囲気の温度が400℃以上となってから加圧が開始される場合について示した。しかしながら、本発明はこのような場合に限定されるものではなく、酸化物超電導体を金属で被覆した形態を有する酸化物超電導線材全般について適用可能である。この場合、熱処理時の全圧力が1MPa以上50MPa未満である加圧雰囲気中で熱処理が行なわれ、熱処理工程における熱処理前の昇温時には、少なくとも金属の0.2%耐力が熱処理時の全圧力(1MPa以上50MPa未満)よりも小さくなる温度から加圧が開始される。これにより、金属の0.2%耐力が熱処理時の加圧雰囲気の全圧力よりも小さくなっている状態で線材に圧力が加えられるので、加圧による圧縮力を受けて金属の部分が圧縮しやすくなる。したがって、上述のシース部が銀よりなる酸化物超電導線材と同様の理由により、酸化物超電導体の焼結密度を向上することができ、酸化物超電導線材の臨界電流密度を向上することができる。
【0230】
(実施の形態7)
従来、酸化物超電導線材の1つとして、ビスマス(Bi)系の酸化物超電導線材が知られている。このBi系の酸化物超電導線材は、液体窒素温度での使用が可能であり、比較的高い臨界電流密度を得ることができる。また、このBi系の酸化物超電導線材は、長尺化が比較的容易なため、超電導ケーブルやマグネットへの応用が期待されている。しかしながら、従来のBi系酸化物超電導線材は、20K程度の低温における臨界電流密度(J)が低いため、低温で高性能が必要とされる用途には適さないという問題点があった。
【0231】
そこで、本願発明者らは、上記手法に以下の手法を組み合わせることにより、20K程度の低温におけるBi系酸化物超電導線材の臨界電流密度を向上することができることを見出した。以下、その手法について説明する。
【0232】
その手法においては、図3に示す1回目の熱処理(ステップS4)および2回目の熱処理(ステップS6)の少なくともいずれかの熱処理工程において、酸素を含む雰囲気中で線材が100℃以上600℃以下の温度でアニールされる。
【0233】
図25は、本発明の実施の形態7における熱処理後にアニールを行なう場合の温度、全圧力および酸素分圧と、時間との関係の一例を示す図である。
【0234】
図25を参照して、雰囲気の温度が820℃、圧力が25MPaの状態で酸化物超電導線材が一定時間保持された後、雰囲気の温度が降温される。このとき、雰囲気の全圧力も緩やかに減圧される。そして、雰囲気の温度が約300℃、圧力が約16MPaとなったところで一定温度に保持され、約30時間アニールされる。一定温度に保持されている間、全圧力はさらに緩やかに減圧され続ける。そして、アニール終了後に再び雰囲気の温度が降温される。なお、熱処理中の酸素分圧は約0.008MPaであり、アニール中は約0.024MPaに上昇されている。そして、アニール後には全圧力とともに減圧されている。
【0235】
本願発明者らは、上記アニールの効果を確認するために、以下の実験を行なった。
【0236】
熱処理工程においてアニールを行なった場合とアニールを行なわない場合とにおいて、20Kでの臨界電流値がどれだけ向上するかについて調べた。なお、アニールを行なう際には、アニール時間および酸素分圧を変化させて行なった。各試料についての、熱処理工程後における77Kでの臨界電流値に対する22Kでの臨界電流値の増加率の平均値を表3に示す。なお、臨界電流値は3Tの磁界中における測定値である。
【0237】

【0238】
表3を参照して、アニールを行なわない場合の22Kでの臨界電流値の増加率の平均値は、それぞれ1.6、1.7、1.5となっている。一方、アニールを行なった場合の22Kでの臨界電流値の増加率の平均値は、それぞれ2.1、1.9、2となっている。したがって、アニールを行なった場合の方が、アニールを行なわない場合よりも20Kにおける臨界電流値を向上できることがわかる。なお、77KにおけるIの変化は認められなかった。
【0239】
続いて、酸素を含む雰囲気中で線材を100℃以上600℃以下の温度でアニールすることの効果を確認するために、以下の実験を行なった。
【0240】
まず、61芯を持つ多芯構造で、外径サイズが幅4.2mm、厚さ0.24mmで、銀比が1.5のテープ形状のBi系酸化物超電導線材を作製した。さらに、この酸化物超電導線材に熱処理を行ない、この熱処理においてアニールを行なった。アニールは、酸素気流中で行ない、アニール時間を20時間とし、下の表4に示すようにアニール温度を変化させて行なった。また、酸化物超電導体中のBi2212相((BiPb)SrCaCu8+z超電導相)の量も変化させた。各試料のアニール前の77Kおよび20Kでの各臨界電流値Iとアニール後の77Kおよび20Kでの各臨界電流値Iとを表4に併せて示す。
【0241】
なお、使用した線材は同一ロットから選択し、各線材中の超電導部の断面積はすべて同じとする。よって、下の表4における臨界電流値Iの大きさは臨界電流密度J(J=I/超電導部断面積)に比例する。
【0242】

【0243】
表4の結果より、酸素雰囲気中で100℃以上600℃以下の温度でアニールを行なうことにより、低温(20K)での臨界電流値I(臨界電流密度J)がアニール前よりも向上していることがわかる。特に、300℃以上600℃以下のアニール温度であって、かつ酸化物超電導体中のBi2212相の量が5mol%以上20mol%以下である場合には、アニール後の臨界電流値Iが530A以上となっており、臨界電流値I(臨界電流密度J)の絶対値が大きくなっていることがわかる。
【0244】
また、アニールを行なう前と、500℃の温度でアニールを行なった後との酸化物超電導線材の各温度(K)における臨界電流値Iを調べた。その結果を図26に示す。
【0245】
図26の結果より、20K程度以下から臨界電流値Iは、アニール後の試料の方がアニール前の試料よりも高くなっていることがわかる。
【0246】
本実施の形態の酸化物超電導線材の製造方法において、酸化物超電導線材はBi2223相を含み、熱処理工程において、100℃以上600℃以下の温度の酸素を含む雰囲気中で酸化物超電導線材がアニールされる。これにより、20K程度の低温における酸化物超電導線材の臨界電流密度が向上する。
【0247】
なお、本実施の形態においては、図3に示す1回目の熱処理(ステップS4)および2回目の熱処理(ステップS6)の少なくともいずれかの熱処理工程において、所定の熱処理方法を行なうことにより臨界電流密度を向上する方法について示した。しかしながら、本発明はこのような場合の他、製造された酸化物超電導線材(すなわち、図3におけるステップS1〜ステップS6の工程終了後の酸化物超電導線材)に対して行なう熱処理工程、すなわち酸化物超電導線材の改質方法としても適用可能である。本発明の熱処理を酸化物超電導線材の改質方法として用いた場合でも、20K程度の低温における酸化物超電導線材の臨界電流密度を向上することができる。
【0248】
本発明は、酸化物超電導線材から構成される超電導マグネットを用いた超電導変圧器、超電導限流器および磁場発生装置や、酸化物超電導線材を用いた超電導ケーブルおよび超電導ブスバー、超電導コイルなどの超電導機器に適用可能であり、特に酸化物超電導線材が冷媒中に浸漬した状態で使用される超電導機器に適用可能である。また、本発明は、超電導機器の中でも特に超電導ケーブルに適用した場合にバルーニングの発生を効果的に抑止することができる。
【0249】
以上に開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考慮されるべきである。本発明の範囲は、以上の実施の形態ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての修正や変形を含むものと意図される。

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】



【図11】

【図12】

【図13】

【図14】

【図15】


【図17】

【図18】

【図19】

【図20】

【図21】

【図22】

【図23】

【図24】

【図25】

【図26】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物超電導体(2)の焼結密度が93%以上である酸化物超電導線材(1)を有する、超電導機器(30)。
【請求項2】
前記酸化物超電導体(2)の前記焼結密度が95%以上である前記酸化物超電導線材(1)を有する、請求項1に記載の超電導機器(30)。
【請求項3】
前記酸化物超電導体(2)の前記焼結密度が99%以上である前記酸化物超電導線材(1)を有する、請求項2に記載の超電導機器(30)。
【請求項4】
酸化物超電導体(2)の焼結密度が93%以上である酸化物超電導線材(1)を有する、超電導ケーブル(30)。
【請求項5】
前記酸化物超電導体(2)の前記焼結密度が95%以上である前記酸化物超電導線材(1)を有する、請求項4に記載の超電導ケーブル(30)。
【請求項6】
前記酸化物超電導体(2)の前記焼結密度が99%以上である前記酸化物超電導線材(1)を有する、請求項5に記載の超電導ケーブル(30)。

【国際公開番号】WO2005/029511
【国際公開日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【発行日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−514004(P2005−514004)
【国際出願番号】PCT/JP2004/010930
【国際出願日】平成16年7月30日(2004.7.30)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】