説明

超電導磁石装置および磁気共鳴画像システム

【課題】高価なアルミニウム合金巻型の必要性を回避するだけでなく、クエンチ圧力を効果的に下げることができる超電導磁石装置を提供する。
【解決手段】本発明の超電導磁石装置は、第1の巻型(1)と、第1の巻型に巻き付けられた超電導ワイヤによって形成された第1のコイル(4)と、前記第1の巻型および第1のコイルを覆うバッフル(6)とを備え、前記バッフルと第1のコイルとの間にギャップが存在するものとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気共鳴画像(MRI)機器の分野に係わり、特に、超電導磁石装置と、超電導磁石装置を備える磁気共鳴画像システムとに関する。
【背景技術】
【0002】
磁気共鳴システム内の超電導磁石装置は、超電導コイルを臨界点より低い温度まで冷却するために、冷却剤、例えば、液体ヘリウムを必要とする。このために、このような超電導磁石装置が製造されているときに、超電導ワイヤが巻型に乾式巻き付けまたは湿式巻き付けされなければならない。一般に、安定した均一な磁場強度を維持するために、複数のコイルが巻き付けられなければならない。巻き付けによって形成されたコイルは、真空槽内でエポキシ樹脂が含浸され、コイルは、その後、真空槽内の低温容器内に置かれ、そして、コイルが冷却剤中に浸漬されるように冷却剤が低温容器内に注入される。
【0003】
図1は、従来の超電導磁石装置の構造図であり、この超電導磁石装置は、内層コイルおよび外層コイルと巻型とを有している、現在普及している構造を採用する。複数の内層コイル4は、内層巻型1に巻き付けられ、複数の外層コイル3は、外層巻型2に巻き付けられ、2つの巻型を組み付け、内層巻型1と相対的に固定されるように外層巻型2を支持することを目的とするフレーム5が内層巻型1と外層巻型2との間に配設されている。
【0004】
超電導磁石装置の製造中または動作中に、超電導コイルにクエンチが起こるとき、超電導ワイヤ内の電流から生じるジュール熱と、巻型および/または低温容器内に誘導される渦電流とが超電導コイルを囲む冷却剤を急速に沸騰・蒸発させることになり、この場合、冷却剤の体積が急激に膨張する。短時間のうちに気体を放出する低温容器の能力が限られているので、低温容器内の圧力(以下、「クエンチ圧力」という。)は、この時点で急速に上昇することになる。
【0005】
当然ながら、過度に高いクエンチ圧力は、低温容器の安全性と、さらには超電導磁石装置の信頼性をも損なう危険をもたらす。以下の3つの解決方法が、この危険を取り除くため従来技術において既に提案されている。
1)より高いクエンチ圧力に耐えることができるための低温容器の強化。この解決方法の不利な点は、より多くのステンレス鋼またはアルミニウム合金材料が低温容器の構造を強化するために一般に必要とされるので、コストが増加することである。
2)排気通路および排気ポートのサイズの増大。この解決方法の不利な点は、排気通路および排気ポートの寸法が設置スペースによって制限され、排気通路および排気ポートのサイズをむやみに増大することは、(特に、比較的大きいネック管設計が超電導磁石装置で使用されるとき)低温容器の付加的な熱負荷を増大することである。
3)より低い抵抗率および熱伝導率をもつアルミニウム合金から巻型を作る。この解決策は、クエンチ圧力を効果的に下げることができるが、このようなアルミニウム合金を使用するコストは、かなり高い。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
以上に鑑みて、本発明の課題は、高価なアルミニウム合金巻型の必要性を回避するだけでなく、クエンチ圧力を効果的に下げることができる超電導磁石装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、したがって、請求項に規定されたような超電導磁石装置および磁気共鳴画像システムを提供する。
【0008】
本発明によれば、超電導磁石装置は、第1の巻型と、第1の巻型に巻き付けられた超電導ワイヤによって形成された第1のコイルと、前記第1の巻型および第1のコイルを覆うバッフルとを備え、前記バッフルと第1のコイルとの間にギャップが存在するものとする。
【0009】
第1のコイル内でクエンチが起こるとき、バッフルは、第1のコイルから冷却剤への熱の拡散を遅らせ、それによって、クエンチ圧力を下げるために役立つ。
【0010】
超電導磁石装置は、第1の巻型および第1のコイルの外側を覆う第2の巻型と、第2の巻型に巻き付けられた超電導ワイヤによって形成された第2のコイルと、第1の巻型と第2の巻型との間にあり、第2の巻型を支持し、第2の巻型を第1の巻型と相対的に固定させるフレームとをさらに備えることができる。フレームは、ボルトによって第1の巻型と第2の巻型とを接続することができ、第1の巻型および第2の巻型は、アルミニウム5083またはアルミニウムAC4Aから作られることができる。
【0011】
好ましくは、超電導磁石装置は、第2の巻型および第2のコイルを覆うバッフルをさらに備えることがあり、バッフルと第2のコイルとの間にギャップが存在する。
【0012】
内層コイルおよび外層コイルと巻型とがバッフルによって覆われる場合、クエンチ圧力は、さらに下げることができる。
【0013】
好ましくは、バッフルは、複数の穴を使って取り付けられる。複数の穴は、バッフル上に均一に分布していることができる。
【0014】
非クエンチ状態では、バッフル上の穴は、バッフルの両側で液体および気体の通常の循環を維持するために役立つが、クエンチ状態では、穴の寸法は、バッフルの内側からバッフルの外側の液体へ熱が拡散する速度を制限することができる。
【0015】
バッフルは、非金属材料から作られた板とすることができる。好ましくは、非金属材料は、ガラスファイバ強化プラスチックである。
【0016】
前述の通り、低い熱伝導率をもつ材料を使用することは、クエンチ圧力を下げるために役立つ。
【0017】
フレームは、ボルト、溶接、ネジまたはリベットによって、第1の巻型と第2の巻型とを接続する。
【0018】
第1の巻型および第2の巻型は、アルミニウム5083、もしくは、アルミニウムAC4A、または、類似したアルミニウム合金から作られる。
【0019】
さらに、本発明は、前述されているような超電導磁石装置を備える磁気共鳴画像システムを提供する。
【発明の効果】
【0020】
要約すると、本発明の実施形態によって提供される技術的な解決手段は、クエンチ圧力を効果的に下げ、超電導磁石装置の信頼性を改善し、その上、巻型またはより強固な低温容器に対してより低い熱伝導率をもつ材料を選択する必要がなく、よって、巻型および低温容器のための材料のコストが削減される。
【0021】
本発明の上記特性、技術的な特徴、利点および実施形態は、好適な実施例の説明と図面の参照とを通じて、明瞭、かつ、より理解し易いように以下にさらに説明される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1は、従来の超電導磁石装置の構造図である。
【図2】図2は、クエンチが、異なった巻型材料を利用する超電導磁石内で起こったときの、クエンチ圧力および磁場減衰の経時的な変化を示す図である。
【図3】本発明の実施形態によって提供される超電導磁石装置の構造図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の目的、技術的解決手段および利点を明瞭にするために、実施形態および図面を参照して、以下に本発明をさらに詳細に説明する。
【0024】
既に記載されたように、低い抵抗率および熱伝導率をもつアルミニウム合金から巻型を作ることにより、クエンチ圧力は、効果的に下げることができる。この点に鑑み、本発明の実施形態では、クエンチ試験が2つの典型的なタイプの巻型:すなわち、それぞれにアルミニウム5083(AL 5083)巻型およびアルミニウムAC4A(AL AC4A)巻型をもつ超電導磁石装置を使用して、まず実行された。これらの中で、低温物理性能に関して、アルミニウム5083は、より低い抵抗率および熱伝導率を有するが、アルミニウム5083を使用するコストの方が現在のところより高い。
【0025】
図2が示すように、クエンチ試験の結果は、アルミニウム5083巻型を使用する超電導磁石において、磁場減衰がより速く、クエンチ圧力がより低いことを示す。具体的には、アルミニウム5083巻型に対するピーク・クエンチ圧力は、アルミニウムAC4A巻型の場合より0.5バール低い。さらに、これらの2つの材料による巻型を使用する超電導磁石に対し、磁場の減衰は、約7秒を要するが、ピーク圧力は、10から12秒で現れることが図2から分かる。これは、コイルおよび巻型から冷却剤への熱伝導の速度が低いほど、液体がよりゆっくりと沸騰・蒸発し、その結果、ピーク・クエンチ圧力がより低くなることを示す。このように、低い熱伝導率をもつ材料を使用することは、低温容器のピーク・クエンチ圧力を下げるために役立つ。同時に、コイルおよび巻型によって吸収される熱の増加は、ピーク・クエンチ圧力を下げる際に同様に役立つ。
【0026】
このことに基づいて、本発明は、高価なアルミニウム合金巻型の必要性を回避するだけでなく、クエンチ圧力を効果的に低下させること、そして、巻型と、巻型に巻き付けられた超電導ワイヤによって形成されたコイルと、巻型およびコイルを覆うバッフルとを備え、バッフルとコイルとの間にギャップが存在する超電導磁石装置を提案する。
【0027】
図3は、本発明の実施形態によって提供される超電導磁石装置の構造図である。この超電導磁石は、内側および外側の両方でコイルおよび巻型の構造を採用し、この超電導磁石のフレームは、図1に示された従来の超電導磁石装置のフレームと基本的に同じであり、主な相違点は、この超電導磁石装置がバッフル6をさらに備えることである。
【0028】
図3が示すように、バッフル6は、内層巻型1および内層コイル4を覆い、このバッフルと内層コイル4との間に小さいギャップがある。取り付け中に、バッフル6は、フレーム5に固定されるか、または、別のコンポーネントを使用して固定されることができる。バッフル6は、低い熱伝導率をもつ非金属材料の板、例えば、ガラスファイバ強化プラスチック(GRP)から作られることができる。
【0029】
図3が示すように、バッフル6は、穴を使って取り付けられることができ、これは、液体流および気体流が非クエンチ状態において通常の温度環境を維持することを可能にする点で有利である。クエンチ状態においては、バッフル6と内層巻型1との間のギャップ内の気体は、穴の寸法によって制限されて、短時間のうちにこれらの穴を急速に通過することができず、これに応じて、液体は、内層巻型1および内層コイル4の表面に接触すべく、これらの穴を通ってギャップの中まで容易に進まない。このように、内層巻型1および内層コイル4は、気体の膜によって連続的に囲まれる。この気体の膜の存在は、短時間のうちに液体冷却剤へ拡散される熱の量を顕著に低減する。このようにして、このような構造は、冷却剤の沸騰を抑制し、クエンチ圧力を下げることができる。穴は、バッフル6の上に均一に分布されることができ、または、バッフル6上の穴の位置および分布は、気体および液体流の解析に基づいて決定されることができる。
【0030】
さらに、内層巻型1および内層コイル4をバッフル6によって覆うことに加えて、外層巻型2および外層コイル3が、クエンチ圧力をさらに下げるために、バッフル(図示せず)によってさらに覆われることができる。
【0031】
本発明の実施形態では、フレーム5は、ボルトによって内層巻型1と外層巻型2とを接続する。当然ながら、フレーム5を内層巻型1および外層巻型2に接続する方法は、これに限定されることがなく、フレーム5は、ボルト、溶接、ネジまたはリベットのような他の接続方法によって内層巻型1および外層巻型2に接続されることができる。代替的に、これらのコンポーネントの製造中に、フレーム5は、内層巻型1および外層巻型2のうちの一方と一体的に製造されることができ、フレーム5は、その後、上記接続方法によって内層巻型1および外層巻型2のうちのもう一方に接続されることができる。
【0032】
本発明の実施形態では、内層巻型1および外層巻型2は、アルミニウム5083(AL5083)もしくはアルミニウムAC4A(AL AC4A)、または他の適当なアルミニウム合金材料から作られることができる。
【0033】
本発明の実施形態によって提供される超電導磁石装置は、一例として、内層コイルおよび外層コイルと巻型との構造を利用して説明されている。しかし、超電導磁石装置は、内層コイルおよび外層コイルと巻型との構造に限定されるものではなく、例えば、単層コイルおよび巻型構造が使用されることもあり得る。
【0034】
本発明の実施形態は、上記超電導磁石装置を備える磁気共鳴画像システムをさらに提供する。
【0035】
上記記載は、本発明の好ましい実施形態について単に説明するものであり、本発明を限定することは意図されず、本発明の原理から逸脱することなく行われる修正、等価な置換、改良などは、請求項によって規定されるような本発明の保護の範囲内に含まれるべきである。
【符号の説明】
【0036】
1:内層巻型/第1の巻型
2:外層巻型/第2の巻型
3:外層コイル/第2のコイル
4:内層コイル/第1のコイル
5:フレーム
6:バッフル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の巻型(1)と、
前記第1の巻型(1)に巻き付けられた超電導ワイヤによって形成された第1のコイル(4)と、
前記第1の巻型(1)および前記第1のコイル(4)を覆うバッフル(6)と
を備え、
前記バッフル(6)と前記第1のコイル(4)との間にギャップが存在する、超電導磁石装置。
【請求項2】
前記第1の巻型(1)および前記第1のコイル(4)の外側の周りにある第2の巻型(2)と、
前記第2の巻型(2)に巻き付けられた超電導ワイヤによって形成された第2のコイル(3)と、
前記第1の巻型(1)と前記第2の巻型(2)との間にあり、前記第2の巻型(2)を支持し、前記第2の巻型(2)を前記第1の巻型(1)と相対的に固定させるフレーム(5)と
をさらに備えることを特徴とする、請求項1に記載の超電導磁石装置。
【請求項3】
前記第2の巻型(2)および前記第2のコイル(3)を覆うバッフルをさらに備え、前記バッフルと前記第2のコイル(3)との間にギャップが存在することを特徴とする、請求項2に記載の超電導磁石装置。
【請求項4】
前記バッフルは、複数の穴を使って取り付けられていることを特徴とする、請求項1または3に記載の超電導磁石装置。
【請求項5】
前記複数の穴は、前記バッフル上に均一に分布していることを特徴とする、請求項4に記載の超電導磁石装置。
【請求項6】
前記バッフルは、非金属材料から作られた板であることを特徴とする、請求項4に記載の超電導磁石装置。
【請求項7】
前記非金属材料は、ガラスファイバ強化プラスチックであることを特徴とする、請求項6に記載の超電導磁石装置。
【請求項8】
前記フレーム(5)は、ボルト、溶接、ネジまたはリベットによって、前記第1の巻型(1)と前記第2の巻型(2)とを接続することを特徴とする、請求項2に記載の超電導磁石装置。
【請求項9】
前記第1の巻型(1)および前記第2の巻型(2)は、アルミニウム5083もしくはアルミニウムAC4A、または、類似したアルミニウム合金から作られることを特徴とする、請求項2に記載の超電導磁石装置。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか一項に記載の超電導磁石装置を備える磁気共鳴画像システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−21324(P2013−21324A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−151578(P2012−151578)
【出願日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【出願人】(512177849)シーメンス シェンジェン マグネチック レゾナンス リミテッド (1)
【Fターム(参考)】