説明

超電導磁石装置

【課題】 CFRP製熱シールド板の線膨張係数をLN2冷却配管の線膨張係数に近づけることによって、信頼性を向上した超電導磁石装置を得る。
【解決手段】 超電導コイルと、超電導コイルを収納する内槽と、内槽を冷却するための冷却剤を封入している冷却配管と、冷却配管を備え、内槽を被覆して熱侵入を抑制する輻射熱シールド板とを備えた超電導磁石装置において、輻射熱シールド板は、±60度に繊維配向したプリプレグシートを積層して形成した炭素繊維強化プラスチックから成る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、磁気浮上式鉄道に使用される超電導磁石装置に関し、特に超電導コイルを収納した内槽の輻射熱シールド板に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の磁気浮上式鉄道に使用される超電導磁石装置においては、軽量で電気抵抗が高く、熱伝導率も高い材質として炭素繊維に樹脂を含浸した強化プラスチック材(CFRP)を使用して輻射熱シールド板を構成している(例えば特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開平6−232461号公報(第2頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の超電導磁石装置では、主に熱伝導性を向上させることによって輻射熱シールド板の温度分布を均一に保ち、内槽への熱侵入量低減が図られている。即ち、輻射熱シールド板を構成する液体窒素(LN2)冷却配管、金属製熱シールド板、CFRP製熱シールド板の温度分布の均一化が図られている。
【0005】
しかし、剛性確保と熱伝導のため、アルミニウム或いは銅などの合金が使用されるLN2冷却配管と金属製熱シールド板は、CFRP製熱シールド板との熱膨張率の差が顕著であり、超電導磁石装置が極低温に冷却される際、熱膨張差から生じる熱応力に留意する必要があった。
【0006】
この発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、CFRP製熱シールド板の熱膨張率をLN2冷却配管の熱膨張率に近づけることによって、超電導磁石装置の信頼性を向上することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明に係る超電導磁石装置は、超電導コイルと、前記超電導コイルを収納する内槽と、
前記内槽を間接的に冷却するための液体窒素を封入している冷却配管と、
前記冷却配管を備え、前記内槽を被覆して熱侵入を抑制する輻射熱シールド板とを備えた超電導磁石装置において、
前記輻射熱シールド板は、±60度に繊維配向したプリプレグシートを積層して形成した炭素繊維強化プラスチックから成ることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
この発明によれば、輻射熱シールド板を構成するLN2冷却配管、金属製熱シールド板、CFRP製熱シールド板の熱膨張差が小さくなり、超電導磁石装置冷却時の熱応力に対する信頼性を向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
実施の形態
図1は、本発明の超電導磁石装置を適用した磁気浮上式鉄道の概略図である。
図1において、超電導磁石装置1は車両2の台車3の両側に取り付けられ、U字型のガイドウェイ4に設置されている地上コイル5と電磁気的に作用することにより、車両2を浮上走行させている。
【0010】
図2は、本発明の超電導磁石装置の断面図である。
図2において、超電導磁石装置1は、超電導コイル6を収納する内槽7に液体ヘリウムなどの冷却剤を満たして冷却し、さらに、外部からの熱侵入を抑制するための輻射熱シールド板8で内槽7を被覆し、内部を真空断熱した外槽9に荷重支持材10によって結合支持されている。
【0011】
この輻射熱シールド板8は、磁場中での振動による渦電流発熱を抑制する目的で、軽量で電気抵抗が高く、熱伝導率が高い材質として炭素繊維に樹脂を含浸した強化プラスチック材(以下CFRPと略する)によって構成されている。
【0012】
図3に輻射熱シールド板8の構成を示す。図3において、輻射熱シールド板8の全面を構成するCFRP製熱シールド板11には、液体窒素などの冷却剤が封入された金属製の冷却配管12が引き回され、Alなどの金属製熱シールド板13を介して温度分布が均一となるように冷却されている。
【0013】
冷却配管12と金属製熱シールド板13は、溶接などによって固定され、金属製熱シールド板13とCFRP製熱シールド板11は、リベット止めによって接合されているため、それぞれに適用されている材料の線膨張係数に大きな差があると熱応力が発生する。
【0014】
銅やアルミニウム合金などから成る冷却配管12、及び金属製熱シールド板13の線膨張係数は10〜25ppm/Kであり、CFRP製熱シールド板11の線膨張係数−1ppm/Kとの差が顕著であり、超電導磁石装置1の冷却・昇温過程毎に熱応力が発生し、特に冷却配管12の接合部などに熱応力の厳しい部分が生じる可能性があった。
【0015】
そのため、例えば図4に示すようにCFRP製熱シールド板11として、弾性率850GPa以上で熱伝導率300W/m・K以上の炭素繊維からなる第1のプリプレグシート14を外側に、その内側に弾性率850GPa未満で熱伝導率300W/m・K未満の炭素繊維からなる第2のプリプレグシート15を、それぞれ繊維配向角度(θ)を±θとして積層し、成形・加工した。
【0016】
図5は、上述のように積層し、成形・加工したCFRP製熱シールド板11の繊維配向角度と線膨張係数の関係を示したものである。この結果、繊維配向角度を90度に近づけるほど、CFRP製熱シールド板11の線膨張係数が大きくなることがわかる。
【0017】
一方、図6は上述のように積層し、成形・加工したCFRP製熱シールド板11の繊維配向角度と弾性率の関係を示したものである。各繊維配向角度(±45〜75度)で積層したCFRPにおいて、(1)θ=0度(配管方向)、(2)θ=45度、(3)θ=90度の3方向の弾性率を示している。
この結果、(3)は繊維配向角度が90度に近づくほど弾性率が増大しているが、(1)及び(2)は繊維配向角度が90度に近づくほど弾性率が低下し、繊維配向角度が60度を超えるとCFRP製熱シールド板11が従来並の剛性(10GPa)を確保できなくなる。
【0018】
以上の結果より、第1のプリプレグシート14と第2のプリプレグシート15を繊維配向角度を60度として積層し、成形・加工することにより、(1)〜(3)の全ての方向で従来並の剛性を確保し、且つ線膨張係数が冷却配管12とほぼ同等の10ppm/KであるCFRP製熱シールド板11を得ることができる。
【0019】
例えば、超電導磁石装置が極低温に冷却された状態では、冷却配管12とCFRP製熱シールド板11は−196℃になり、冷却配管12と従来のCFRP製熱シールド板11の間に生じる熱収縮差は、0.00424であったが、冷却配管12と本実施の形態のCFRP製熱シールド板11の間に生じる熱収縮差は、0.00178となり、熱収縮差を従来のCFRP製熱シールド板を使用したときと比較して約60%低減でき、発生する熱応力も約60%低減することができる。
【0020】
また、超電導磁石装置を常温に戻して保守・点検を行い、その終了後再び極低温に冷却する冷却・昇温過程の度にも冷却配管12とCFRP製熱シールド板11の間に同様の熱応力が生じていたが、これについても本実施の形態のCFRP製熱シールド板11を使用することにより、繰り返し発生する熱応力が約60%低減することができる。
【0021】
以上、本実施の形態では、第2のプリプレグシート15を1層ずつ配向させて積層したが、複合則によれば線対称に積層すれば特性差は生じないため、2層ずつ、3層ずつとして配向させて積層する、或いは厚さ(繊維密度)が第1のプリプレグシート14の2倍、3倍の第2のプリプレグシート15を配向させて積層しても同様のCFRP製熱シールド板11を得ることができ、作業効率が向上する。
【0022】
以上のように本発明の実施の形態に係る超電導磁石装置は、従来並の剛性を有し、且つ、冷却配管12や金属製熱シールド板13とほぼ同等の線膨張係数を有することによって、繰り返し冷却・昇温された場合でも各々の接合面で生じる熱応力が緩和され、信頼性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施の形態の磁気浮上式鉄道の概略断面図である。
【図2】本発明の実施の形態の超電導磁石装置の断面図である。
【図3】本発明の実施の形態の輻射熱シールド板の構成図である。
【図4】本発明の実施の形態のCFRP製熱シールド板の構成図である。
【図5】本発明の実施の形態のCFRP製熱シールド板の繊維配向角度と線膨張係数の関係を示した図である。
【図6】本発明の実施の形態のCFRP製熱シールド板の繊維配向角度と弾性率の関係を示した図である。
【符号の説明】
【0024】
1 超電導磁石装置、 2 車両、 3 台車、 4 ガイドウェイ、 5 地上コイル、 6 超電導コイル、 7 内槽、 8 輻射熱シールド板、 9 外槽、 10 荷重支持材、 11 CFRP製熱シールド板、 12 冷却配管、 13 金属製熱シールド板、 14 第1のプリプレグシート、 15 第2のプリプレグシート。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超電導コイルと、前記超電導コイルを極低温で収納する内槽と、
前記内槽を間接的に冷却するための液体窒素を封入している冷却配管と、
前記冷却配管を備え、前記内槽を被覆して熱侵入を抑制する輻射熱シールド板とを備えた超電導磁石装置において、
前記輻射熱シールド板は、±60度に繊維配向したプリプレグシートを積層して形成した炭素繊維強化プラスチックから成ることを特徴とする超電導磁石装置。
【請求項2】
輻射熱シールド板は、
弾性率850GPa以上で熱伝導率300W/m・K以上の炭素繊維からなる第1のプリプレグシートを外側に積層し、
弾性率850GPa未満で熱伝導率300W/m・K未満の炭素繊維からなる第2のプリプレグシートをその内側に積層して、成形・加工した炭素繊維強化プラスチックから成ることを特徴とする請求項1に記載の超電導磁石装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−311471(P2007−311471A)
【公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−137621(P2006−137621)
【出願日】平成18年5月17日(2006.5.17)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【出願人】(390021577)東海旅客鉄道株式会社 (413)
【Fターム(参考)】