説明

超電導線材の多重転位方法

本発明は1次に転位された2世代超電導線材をそれぞれの超電導線材ユニットで構成して、それぞれの超電導線材ユニット相互間を長手方向に沿ってお互いの位相が変化するように転位させる超電導線材の多重転位方法に関する。本方法は、超電導線材をジグザグ形状にスリットして屈曲部を形成し、上記屈曲部が繰り返し形成されて所望の長さに加工された素線を用意する段階と;上記用意した複数の素線を隣接した素線同士の屈曲部がお互いに触れ合うように重畳させて結合して1次転位された超電導線材ユニットを形成する段階と;上記1次転位された超電導線材ユニットを複数個用意し、上記複数の超電導線材ユニットを長手方向に沿って並列に配置して超電導線材ユニットバンドルを用意する段階と;上記複数の超電導線材ユニットを上記超電導線材ユニットバンドルの中心軸を基準として長手方向に沿って回転させ、上記複数の超電導線材ユニットをお互いによじって結合して2次転位させる段階とを含む。素線のパターンを減らしながらも多くの数の素線を転位させることができるので、大電流の超電導装置でも超電導線材の転位が容易で、超電導線材の製作及び取り扱いが容易で、工程が簡単で生産コストを低減することができる利点がある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は超電導線材の多重転位方法に関し、さらに詳しくは、1次に転位された2世代超電導線材をそれぞれの超電導線材ユニットで構成して、それぞれの超電導線材ユニット相互間を長手方向に沿ってお互いの位相が変化するように転位させる多重転位方法に関する。
【背景技術】
【0002】
超電導現象とは、温度、磁場及び電流が特定のスレッシュホールド値以下に維持される場合に電気抵抗が「0」になる現象を言う。
【0003】
ある物質は一定の温度以下で抵抗が消える現象を見せ、このような物質を使えば、熱を発生させずに電気を流すことができ、エネルギー損失がない。上記のような物質を超電導体と言い、超電導現象は特定の物質でのみ現われ、温度、磁場そして通電電流に影響を受ける。
【0004】
超電導体は、超電導転移温度(Tc)以下及びスレッシュホールド磁場(Hc)以下でのみ抵抗なしに電流を流すことができ、この時抵抗なしに流すことができる最大通電電流密度であるスレッシュホールド電流密度(Jc)が存在する。上記超電導体を応用するにあたって、線あるいはテープ形態の加工が有用で、上記加工された超電導体を使って高い磁場を生成させる超電導電磁石が広く使われている。
【0005】
コイルは線材を多くの幾何学的形態のコイルに巻き上げて製作され、線材を通じて電流を流せば、コイルから磁場が発生するようになる。線材が超電導体なら、抵抗による電力損失がない。これを超電導コイルと言う。
【0006】
上記超電導コイルまたは巻線は、変圧器とモーター、MRI(Magnetic Resonance Imaging)及びNMR(Nuclear Magnetic Resonance)のSpectroscopyなどに使われる。超電導変圧器を含む各種の電力機器の巻線に超電導体を使うためには、超電導現象が維持される最大電流であるスレッシュホールド電流以下の電流を維持しなければならない。特に大電流が流れるようにするためにいくつか以上の超電導体を並列で使って巻線を製作する場合、各並列導体の間の電流の分担が均等でなければならない。並列導体の間の電流分担が均等でない場合、超電導並列導体の中の特定の導体が電流の分流を発生して自らのスレッシュホールド電流を超過し、超電導特性を失ってしまうようになって、超電導巻線が破損する現象が発生する可能性がある。
【0007】
多数本の超電導線材を重ねてコイルを製造する場合には、各線材のインピーダンスの均衡を保つことによって線材全体のスレッシュホールド電流を増加させ、同時に交流損失を低減させ、超電導コイル巻線において上述した電流の分流を防止するために、転位(Transposition)が非常に重要である。
【0008】
超電導線材を使った転位の従来技術として、ドイツのSimens社で開発されたRoebel Barがある。これ以外では、コイルを製作した後、電流導入端子で転位を具現するものが大多数であり、1世代超電導線材の代わりをする2世代超電導線材では、ニッケル合金の基板上に超電導層を蒸着して製作する方式を取るため、Roebel Barのような方法で転位させるのが大変である。また、電流導入端子で転位を具現する方法はコイルの数が多い場合に転位の具現が難しくて、電流導入端子で発生する熱による損失の発生で超電導線材の長所を活かしにくいという問題点があった。
【0009】
これによって本発明者たちは図1に示したところのような転位方法を提案した事がある。
【0010】
図1に示す超電導線材の転位方法は、エピタキシャル(Epitaxial)成長させた多層薄膜の超電導線材をジグザグ形状にスリット(Slit)して形成された屈曲部が連続的に繰り返されて、作業しようとする長さくらいに加工されることによって複数個の素線が用意され、用意した複数個の素線を屈曲部がお互いに触れ合うようにお互いによじって結合することによって転位する方法である。
【0011】
また、このような超電導線材の素線の加工方法として、セン断力加工法やワイヤ放電加工法、プレス加工法などがある。
【0012】
しかし、必要となる電流の大きさが数千〜数万アンペアであってとても大きいため、数十〜数百個の素線が転位線材を形成しなければならない場合、上記セン断力加工法やワイヤ放電加工法によって素線を加工すれば、転位のために屈曲部を数十〜数百個形成しなければならないので、数十〜数百メートル単位の線材を加工しなければならなくなり、屈曲部間の距離が非常に大きくなって線材を連続的に加工する際に生産性が非常に低下し、加工後の線材の結合もとても難しくなると言う問題点があった。
【0013】
また、プレス加工法によって加工する場合、転位のために屈曲部を形成する素線の数に応じて屈曲部間の距離を調整しなければならないし、これによってプレスのヘッド部分の金型を別に製造しなければならないので、製造コストが大きく上がって、数十〜数百個の多くの素線を同時によじる過程がとても複雑で、生産性が落ちて転位の品質が劣悪になるという問題点があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明はこのような問題点を鑑みて提出されたもので、本発明は一定数の素線から形成されて1次転位される超電導線材ユニットを利用し、超電導線材ユニットを2次転位させることによって、生産しなければならない素線のパターンを減らしながらも多くの数の素線を転位することができる超電導線材の多重転位方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は上記目的を達するために、本発明による転位された2世代超電導線材の多重転位方法は、エピタキシャル成長させた多層薄膜からなる超電導線材をジグザグ形状にスリットして屈曲部を形成し、上記屈曲部が繰り返し形成されて所望の長さに加工された素線を用意する段階と、上記用意した複数の素線を、隣接した素線同士の屈曲部がお互いに触れ合うように重畳させて結合することによって、1次転位された超電導線材ユニットを形成する段階と、上記1次転位された超電導線材ユニットを複数個用意し、上記複数の超電導線材ユニットを長手方向に沿って並列に配置して超電導線材ユニットバンドルを用意する段階と、上記複数の超電導線材ユニットを上記超電導線材ユニットバンドルの中心軸を基準として長手方向に沿って回転させ、上記複数の超電導線材ユニットをお互いによじって結合して2次転位させる段階を含んで構成されることを特徴とする。
【0016】
ここで、上記超電導線材ユニットの回転において、上記超電導線材ユニット自らの上下が変化しないように回転させることを特徴とする。
【0017】
ここで、2次転位された上記超電導線材ユニットバンドルを複数個並列に配置し、それら複数個の超電導線材ユニットバンドルを長手方向に沿って回転させることにより、上記複数の超電導線材ユニットバンドルをお互いによじって結合して3次転位する段階をさらに含んで構成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
上述した構成を持つ本発明による超電導線材の多重転位方法によれば、比較的少ない数(例えば3〜5本)の素線から形成されて1次転位される超電導線材ユニットを利用して、複数の超電導線材ユニットを2次転位させることにとって、生産しなければならない素線のパターンを減らしながらも多くの数の素線を転位させることができるので、大電流の超電導装置でも超電導線材の転位が容易で、超電導線材の製作及び取り扱いが容易で、工程が簡単で生産コストを低減することができる利点がある。
【0019】
また、上記本発明によれば、2次転位された超電導線材を更に3次以上に多重転位させることが可能なので、必要となる電流の大きさに応じて転位される超電導線材の数を調節するのが容易であると言う利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明による超電導線材の多重転位方法において超電導線材ユニットを製造することを示す図面。
【図2】本発明による2次転位を示す図面。
【図3】図2のA−A´線による断面図。
【図4】図2のB−B´線による断面図。
【図5】図2のC−C´線による断面図。
【図6】本発明による超電導線材の多重転位方法を示す流れ図。
【符号の説明】
【0021】
10、11、12、13: 超電導線材ユニット
10a、10b、10c、10d、10e: 素線
20: 超電導線材ユニットバンドル
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、添付された図面を参照して、本発明による超電導線材の多重転位方法に対して実施形態として説明する。
【0023】
本実施形態においては、超電導線材はニッケル合金の基板上に超電導層を蒸着して製作された2世代超電導線材を基準として説明する。
【0024】
本発明による超電導線材の多重転位方法は、まずエピタキシャル(Epitaxial)成長させた多層薄膜の超電導線材をジグザグ形状にスリット(Slit)して屈曲部を形成し、上記屈曲部を繰り返し形成して所望の長さに加工して素線を用意する。
【0025】
ここで、加工しようとする超電導線材を、作業しようとする幅を持つようにジグザグ形状にスリットした後、上記スリットされた形態に沿って超電導線材を、例えば125mm以下の長さを持つ屈曲部が形成された一つの周期を連続的に繰り返して、作業しようとする長さくらい加工して素線10a、10b、10c、10d、10eを用意する。
【0026】
上記のように超電導線材をスリットして屈曲部を形成することは超電導線材で発生する交流損失を減らすためであり、交流損失の重要な理由は超電導線材に損失が多ければ多いほど冷凍負荷が大きくなるからである。
【0027】
その後、上記用意した複数の素線10a、10b、10c、10d、10eを隣接した素線同士の屈曲部がお互いに触れ合うように重畳させて結合する。
【0028】
本実施形態において、上記素線の数は5本にすることを例にしたが、必ずしもこれに限定されず、必要によって3本以上の適切な数にすることができることは勿論である。
【0029】
ここで複数の素線の結合は、一番目の素線10aの下部で二番目の素線10bを附着するが、一番目の素線10aの屈曲部に二番目の素線10bの屈曲部が触れ合うように重畳させて、隣接した2本の素線をお互いによじって結合するようにする。このような方式で5本の素線をお互いに結合することによって、1次転位された超電導線材ユニット10を形成する。
【0030】
その後、上記1次転位された超電導線材ユニットを複数個用意して、複数の超電導線材ユニット10、11、12、13を長手方向に沿って並列に配置して超電導線材ユニットバンドル20を用意する。
【0031】
本実施形態において、上記超電導線材ユニットの数は4個を例にしたが、必要となる電流の大きさに応じて3個または5個など適切な数にできることは勿論である。
【0032】
本実施形態において、上記複数の超電導線材ユニット10、11、12、13は上下に2個ずつ配置した「2×2」の配置構造を持っており、上記のように配置された複数の超電導線材ユニットの束を「超電導線材ユニットバンドル20」と略称する。
【0033】
また、本実施形態において、それぞれの上記超電導線材ユニット10、11、12、13は、幅(w)12mm、厚さ100μmの薄いテープ形状に製造されたことを例にした。
【0034】
その後、上記超電導線材ユニットをお互いによじって上記超電導線材を2次転位させる。
【0035】
ここで上記2次転位は、上記複数の超電導線材ユニット10、11、12、13を上記超電導線材ユニットバンドル20の中心軸を基準として位置が変化するように長手方向に沿って回転させることによって達成される。
【0036】
図2乃至図5にはそれぞれの超電導線材ユニットを90゜回転させることを例として示すが、必要となる線材の長さに応じて180゜または360゜回転させることができることは勿論である。
【0037】
本実施形態において、幅12mm、厚さ100μmの超電導線材ユニットを利用して90゜回転する位置までの長さLは50cmであり、このように構成することによって、それぞれの薄いテープ形状の超電導線材ユニットが捻れたり捩れる事なしに2次転位させることができる。
【0038】
図2のA−A´の断面で見れば、左側上端に一番目の超電導線材ユニット10が、右側上端に二番目の超電導線材ユニット11が、左側下端に三番目の超電導線材ユニット12が、右側下端に四番目の超電導線材ユニット13が配置されている。
【0039】
上述のように配置されたそれぞれの上記超電導線材ユニット10、11、12、13を上記超電導線材ユニットバンドル20の中心軸を基準として左回りで徐々に回転させる。
【0040】
この時、90゜の角度位相変化の中間部分であるB−B´の断面で見れば、上側には二番目の超電導線材ユニット11が、中央左側には一番目の超電導線材ユニット10が、中央右側には四番目の超電導線材ユニット13が、下端には三番目の超電導線材ユニット12が配置される。
【0041】
また、90゜回転したC−C´の断面で見れば、左側上端に二番目の超電導線材ユニット11が、右側上端に四番目の超電導線材ユニット13が、左側下端に一番目の超電導線材ユニット10が、右側下端に三番目の超電導線材ユニット13が配置される。
【0042】
上述したところのように、上記複数の超電導線材ユニット10、11、12、13を上記超電導線材ユニットバンドル20の中心軸を基準として位置が変化するように長手方向に沿って回転させることによって、上記複数の超電導線材ユニットをお互いによじって結合して2次転位させることができる。
【0043】
この時、上記超電導線材ユニットの回転では、上記超電導線材ユニット自らの上下が変化しないように回転させる。すなわち、上記超電導線材ユニット自体はよじれたり捻れたりする事なしに、上部面はいつも上側を向き、下部面はいつも下側を向いたまま、上記超電導線材ユニットバンドルを中心に回転させる。
【0044】
上述したところのように、上記超電導線材ユニットは幅12mm、厚さ100μmのとても薄いテープ形状なので、それ自体をよじったりねじった場合、超電導線材に割れ目や破裂が発生する心配があるからである。
【0045】
また、上記それぞれの超電導線材ユニットの間は1mm程度の間隔lで維持されていて、幅が12mm程度であるので、90゜回転される位置までの長さ(L)が50cm程度でも、上記超電導線材ユニット自らの上下が変化しないように回転させても超電導線材ユニットによじれや捻れが生じることなしに上記超電導線材ユニットバンドルを中心に回転させることができる。
【0046】
これによって、5本のパターンの素線だけでも20本位の多くの数の素線を転位させることができるので、大電流の超電導装置でも超電導線材の転位が容易で、超電導線材の製作及び取り扱いが容易で、工程が簡単で生産コストを低減することができる利点がある。
【0047】
一方、2次転位された上記超電導線材を更に転位して3次転位された超電導線材を形成することができる。
【0048】
すなわち、上記超電導線材ユニットを2次転位することと同じ方法で上記超電導線材ユニットバンドル20を3次転位することができる。2次転位された上記超電導線材ユニットバンドル20を複数個並列で配置し、複数個の超電導線材ユニットバンドルをその束の長手方向に沿って位相が変化するように回転させ、上記複数の超電導線材ユニットバンドルをお互いによじって結合して3次転位させることができる。
【0049】
これによって、2次転位された超電導線材を更に3次以上に多重転位させることが可能なので、少ない数のパターンの素線だけでも多くの数の素線を転位させることができるし、必要となる電流の大きさに応じて転位される超電導線材の数を調節するのが容易で、工程が簡単で生産コストを低減することができる。
【0050】
本実施形態は本発明に含まれる技術的思想の一部を明確に現わしたことに過ぎなくて、本発明の明細書に含まれた技術的思想の範囲内で当業者が容易く類推することができる変形例と具体的な実施形態とも本発明の技術的思想に含まれることは自明である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超電導線材の転位方法において、
エピタキシャル成長させた多層薄膜からなる超電導線材をジグザグ形状にスリットして屈曲部を形成し、上記屈曲部が繰り返し形成されて所望の長さに加工された素線を用意する段階と;
上記用意した複数の素線を、隣接した素線同士の屈曲部がお互いに触れ合うように重畳させて結合することによって、1次転位された超電導線材ユニットを形成する段階と;
上記1次転位された超電導線材ユニットを複数個用意し、上記複数の超電導線材ユニットを長手方向に沿って並列に配置して超電導線材ユニットバンドルを用意する段階と;
上記複数の超電導線材ユニットを上記超電導線材ユニットバンドルの中心軸を基準として長手方向に沿って回転させ、上記複数の超電導線材ユニットをお互いによじって結合して2次転位させる段階を含んで構成されることを特徴とする超電導線材の多重転位方法。
【請求項2】
上記超電導線材ユニットの回転において、上記超電導線材ユニット自らの上下が変化しないように回転させることを特徴とする請求項1に記載の超電導線材の多重転位方法。
【請求項3】
2次転位された上記超電導線材ユニットバンドルを複数個並列に配置し、それら複数個の超電導線材ユニットバンドルを長手方向に沿って回転させることにより、上記複数の超電導線材ユニットバンドルをお互いによじって結合して3次転位する段階をさらに含んで構成されることを特徴とする請求項1に記載の超電導線材の多重転位方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2012−502446(P2012−502446A)
【公表日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−542022(P2011−542022)
【出願日】平成22年7月5日(2010.7.5)
【国際出願番号】PCT/KR2010/004355
【国際公開番号】WO2011/062344
【国際公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【出願人】(508006861)韓国産業技術大学 校産学協力団 (4)
【氏名又は名称原語表記】Korea Polytechnic University Industry Academic Cooperation Foundation
【住所又は居所原語表記】2121,Jungwang−Dong,Shinung−city,Kyonggi−Do 429−793,KOREA
【出願人】(510232359)ウソク大学 校産学協力団 (2)
【Fターム(参考)】