説明

超電導線材の製造方法、超電導多芯線材の製造方法および超電導機器

【課題】 超電導粉末の脱気処理を確実にすることにより、超電導特性、特に臨界電流に優れた超電導線材を製造する方法、超電導多芯線材の製造方法およびこれらを用いて製造された超電導機器を提供する
【解決手段】 超電導用原料粉末を処理して超電導前駆体粉末を調製する工程と、超電導前駆体粉末を第1の金属パイプに充填する工程と、金属パイプを封止する工程と、を包含する超電導線材の製造方法において、第1の金属パイプに充填する工程および第1の金属パイプを封止する工程を、減圧雰囲気下で行うことを特徴とする超電導線材の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超電導線材の製造方法、超電導多芯線材の製造方法および超電導機器に関する。
【背景技術】
【0002】
銅系酸化物超電導線材を金属被覆することからなる多芯超電導線材を製造する場合、まず酸化物粉末を銀などの金属パイプに充填し単芯材が作られる。その後に単芯材が複数本束ねられて別の銀などの金属パイプに挿入されることで多芯構造が得られる。その多芯構造の母線に伸線、圧延などの加工を施し、線材形状にした後、焼結することで超電導性を有する線材が得られる。
【0003】
このような製造方法において、金属パイプ内にはガス成分が自然と存在することになる。特に金属パイプ内に複数の素線を嵌合する方式では、多数の構成要素を含むため、下に記す多様なガスの元が存在することになる。このガス成分が線材内部で焼結時の温度上昇に伴い膨張し、そのため線材が膨れてしまうという現象が生じる。この膨れが局部的に生じた場合は、その箇所の性能(臨界電流)が大きく劣化する。また局部的ではなく、広く薄く生じる場合は内部の超電導セラミック部に隙間が生じ、電流の流れが悪くなり、全体的性能の低下が引き起こされる。
【0004】
また多芯構造の線材において、各フィラメント間にガス成分が残留している場合、各フィラメント間の密着(電気的接触)が悪くなり、各フィラメントに均一に電流が流れなくなり、性能が不均一となる。
【0005】
この膨れ現象を引き起こすガス成分の元としては以下のものが挙げられる。
(1) 酸化物粉末中に化学的結合した炭素、酸素、窒素、水酸基(−OH)。
【0006】
(2) 粉末表面に吸着した炭酸ガス、酸素、窒素、水。
(3) 線材内部の空間的隙間(粉末間、内挿される金属管同士の間)に存在する各種のガス(空気など)。
【0007】
(4) 内挿される金属パイプの内外表面および、嵌合用の外側の金属パイプの内表面に付着した油や異物が気化することによるもの。
【0008】
(5) 金属パイプに固溶したガス(特に銀は酸素を固溶しやすい)。
膨れ現象解決のため、下記特許文献1では、真空中あるいは低湿度下で粉末を金属パイプ内に充填し、蓋をする方法がとられている。また下記特許文献2では、孔のあけられた銀ボルト材(レンコンのような形状)に粉末が充填され、銀が再結晶化しないような温度(130℃)以下で蓋をする方法がとられている。また下記特許文献3では、脱気された粉末を金属管に詰め、室温で真空引きした後に蓋をするという方法がとられている。
【0009】
しかしながら、上記公報に開示された技術では、膨れ防止にそれぞれ効果は見られるが、完全に膨れを押え込むことは難しい。なぜならば、下記特許文献1の技術では膨れの元(3)のみが除去できるだけである。また下記特許文献2の技術でも同じく膨れの元(3)が除去できるのみである。さらにこの公報では、銀の固まりに孔をあけるため銀パイプの表面という概念がない。また下記特許文献3の技術でも膨れの元(3)を除去できる。また、一部膨れの元(1)および(2)も粉末の脱気という工程で除去することができるが、パイプ内へ粉末を充填する際のガス成分の再吸着を防ぐことはできない。
【0010】
また特許文献1と特許文献3との組合せによっても、膨れの元(1)、(2)および(3)を除去する方法は考えられる。しかし、従来技術では、膨れの元(4)および(5)を除去することはできない。またいずれの場合も単芯構造あるいは単一銀塊を想定しているため、粉末部のガスにしか着目されていない。
【0011】
また、いずれの場合でも高温で気化して発生するガス((1)および(2)の一部、(4)、(5))の対策が十分でないものが密封空間に閉じ込められる。このため、線材形成工程で偶然抜けるかもしれないガス成分をより抜けにくくし、逆に膨れ現象を多発させることもある。
【0012】
ところで、下記特許文献4には、多芯構造の超電導線材を製造する場合においても残留ガス成分による線材の膨れを防止できる超電導線材の製造方法が開示されている。
【0013】
しかしながら、当該特許文献4に記載された製造方法において、粉末に吸着したガスは、その後の脱気処理によりある程度は脱離可能であるが、完全に除去することが難しい。通常、少なくとも数ppmオーダーのガスが残存することになる。また、脱気には高温で熱処理する必要があるが、超電導線材用の原料粉末の化学反応や、金属パイプの組織変態を伴うため、製造条件に制約が生じ、場合によっては特性低下を招くこともある。
【特許文献1】特開平6−176635号公報
【特許文献2】特開平8−50827号公報
【特許文献3】特開平4−292811号公報
【特許文献4】特開2001−184956号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、上記従来の技術の問題を解決するためになされたものであり、その目的は、超電導粉末の脱気処理を確実にすることにより、超電導特性、特に臨界電流に優れた超電導線材を製造する方法、超電導多芯線材の製造方法およびこれらを用いて製造された超電導機器を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の1つの局面によれば、超電導用原料粉末を処理して超電導前駆体粉末を調製する工程と、超電導前駆体粉末を第1の金属パイプに充填する工程と、金属パイプを封止する工程と、を包含する超電導線材の製造方法において、第1の金属パイプに充填する工程および第1の金属パイプを封止する工程を、減圧雰囲気下で行うことを特徴とする超電導線材の製造方法が提供される。
【0016】
好ましくは、減圧雰囲気下は、10Pa以下である。
好ましくは、超電導前駆体粉末は、水分含有量が10ppm以下である。
【0017】
好ましくは、超電導前駆体粉末を調製する工程は固相法により行われ、その際の製造雰囲気は露点温度が−40℃以下である。
【0018】
好ましくは、超電導前駆体粉末を調製する工程は噴霧熱分解法により行われ、当該工程により得られた超電導前駆体粉末を第1の金属パイプに充填する前に−40℃以下の露点温度の雰囲気下で熱処理する工程をさらに含む。
【0019】
好ましくは、超電導前駆体粉末を調製する工程は噴霧熱分解法により行われ、当該工程により得られた超電導前駆体粉末を第1の金属パイプに充填する前に10Pa以下の減圧雰囲気下で熱処理する工程をさらに含む。
【0020】
好ましくは、超電導前駆体粉末を第1の金属パイプに充填する工程の後、第1の金属パイプを封止する工程の前に、100℃以上で第1の金属パイプを加熱する工程をさらに含む。
【0021】
好ましくは、超電導用原料粉末は、ビスマス系酸化物超電導線材用の原料粉末である。
好ましくは、ビスマス系酸化物超電導線材用の原料粉末は、Bi化合物、Sr化合物、Ca化合物、Cu化合物およびPb化合物を含有する。
【0022】
好ましくは、超電導前駆体粉末は、2212相および/または2223相の超電導相を含む。
【0023】
好ましくは、第1の金属パイプを封止する工程の後に、第1の金属パイプを伸線加工し、かつ圧延加工する工程をさらに含む。
【0024】
本発明の別の局面によれば、上記の超電導線材の製造方法によって製造された超電導線材の複数本を、第2の金属パイプに充填し、塑性加工を施す工程をさらに含む、超電導多芯線材の製造方法が提供される。
【0025】
好ましくは、塑性加工は、伸線加工、圧延加工および焼結加工の少なくとも1つ以上を含む。
【0026】
本発明のさらに別の局面によれば、超電導多芯線材の製造方法によって製造された超電導多芯線材を用いた超電導機器が提供される。
【発明の効果】
【0027】
本発明の超電導線材の製造方法によれば、超電導線材前駆体粉末に水分等の吸着ガスがないために、優れた超電導特性を有する超電導線材を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
本発明の超電導線材の製造方法は、超電導用原料粉末を処理して超電導前駆体粉末を調製する工程と、超電導前駆体粉末を第1の金属パイプに充填する工程と、第1の金属パイプを封止する工程と、を包含する超電導線材の製造方法において、第1の金属パイプに充填する工程および第1の金属パイプを封止する工程を、減圧雰囲気下で行うことを特徴とする。
【0029】
これにより、超電導前駆体粉末の水分含有量を低減でき、超電導特性、たとえば、臨界電流を大きく向上させることができる。以下、本発明について詳細に説明する。
【0030】
1.超電導前駆体粉末調製工程
(超電導用原料粉末)
本発明の超電導線材の製造方法は、まず、超電導用原料粉末を処理して超電導前駆体粉末を調製する。ここで、処理とは、当該分野で公知の処理である。具体的には、所定の温度で焼結する工程、その後粉砕する工程が挙げられる。また、これらの工程は、複数回繰り返されることが好ましい。
【0031】
また、上記超電導用原料粉末としては、ビスマス系酸化物超電導線材用材料、水銀系超電導材料、タリウム系超電導材料、希土類系超電導材料などを挙げることができる。特に、ビスマス系酸化物超電導材料が好ましい。
【0032】
当該ビスマス系酸化物超電導材料としては、Bi化合物、Sr化合物、Ca化合物、Cu化合物およびPb化合物を含有する。ここで、化合物は、炭酸塩または酸化物とすることを含む。
【0033】
(超電導前駆体粉末)
上記の処理により得られた超電導前駆体粉末は、超電導用原料粉末としてビスマス系酸化物超電導材料用の原料粉末を用いた場合、2212相および/または2223相の超電導相を含む。ここで、上記2223相とは、ビスマス(必要に応じて、ビスマスと共に鉛を含む)とストロンチウムとカルシウムと銅と酸素とを含み、その組成、すなわち原子比(酸素を除く)として、ビスマス(またはビスマス+鉛):ストロンチウム:カルシウム:銅が2:2:2:3と近似して表されるBi−Sr−Ca−Cu−O系の酸化物超電導体相のことである。これはBi−2223相と示す場合もある。なお、2223組成とは、上記のとおり上記原子比の近似値比をいう。
【0034】
同様に、上記2212相とは、ビスマス(必要に応じて、ビスマスと共に鉛を含む)とストロンチウムとカルシウムと銅と酸素とを含み、その原子比(酸素を除く)として、ビスマス(またはビスマス+鉛):ストロンチウム:カルシウム:銅が2:2:1:2と近似して表されるBi−Sr−Ca−Cu−O系の酸化物超電導体相のことである。これはBi−2212相と示す場合もある。なお、2212組成とは、上記のとおり上記原子比の近似値比をいう。
【0035】
なお、超電導前駆体粉末中に、2212相または2223相が含有されているか否かを確認する方法としては、SQUID(超電導量子干渉素子)用いることができる。
【0036】
また、超電導前駆体粉末の水分含有量は、10ppm以下、好ましくは、5ppm以下、さらに好ましくは、1ppm以下である。10ppmを超えると、線材焼結時の膨れが生じるおそれがあるためである。
【0037】
本発明において、超電導前駆体粉末とは、超電導体を作製するための反応における途中段階の粉末という意味であり、たとえば、ビスマス系の2:2:2:3の組成比の超電導材料を含むか、または全く含まない場合もある。なお、本発明において、超電導体は、Bi2223の組成比の超電導材料を略100%で生成された状態のものをいうが、Bi2223以外の化合物が僅かに残存しているものも含む。
【0038】
当該水分含有量は、たとえば、10−4Pa以下の真空中、質量分析計を用いた昇温脱離ガス分析法により測定することができる。
【0039】
上記の超電導前駆体粉末を調製する工程は固相法を用いることができ、その際の調製雰囲気の露点温度が−40℃以下であることが好ましい。ここで、固相法とは、粉末状の固体原材料を混合・焼結・粉砕(混合)を繰り返し、所望の化合物を得る手法であり、これを用いて調製することが挙げられる。
【0040】
また、当該固相法を用いる際の露点温度は−40℃以下が好ましく、より好ましくは、−70℃以下であり、さらに好ましくは、−100℃以下である。−40℃を超えると、超電導前駆体粉末に水分が吸着するおそれがあるためである。
【0041】
ここで、当該露点温度は、チルドミラー露点測定法により測定することができる。
また、本発明において、超電導前駆体粉末を調製する工程は噴霧熱分解法により行われることもできる。ただし噴霧熱分解法を用いる場合、当該工程により得られた超電導前駆体粉末を第1の金属パイプに充填する前に−40℃以下の露点温度の雰囲気下で熱処理する工程をさらに行う。
【0042】
ここで、噴霧熱分解法、すなわち、原材料を硝酸などの溶剤に溶かした後、高温の炉内に噴霧して反応させ、所望の化合物を得る手法を用いて調製することができる。
【0043】
また、当該工程の後の熱処理工程は、通常の熱処理、たとえば、ニッケル炉、管状炉などの雰囲気制御可能なものを用いることができる。当該熱処理の際の雰囲気は、露点温度が−40℃以下であることが好ましい。−40℃を超えると、超電導前駆体粉末に水分等の吸着ガスが残存するおそれがあるためである。より好ましくは、−70℃以下、さらに好ましくは、−100℃以下である。当該露点温度は、チルドミラー露点測定法により測定することができる。
【0044】
または、当該熱処理の際の雰囲気の圧力は、10Pa以下であることが好ましい。10Paを超えると、超電導前駆体粉末に水分等の吸着ガスが残存するおそれがあるためである。。より好ましくは、1Pa以下、さらに好ましくは、0.1Pa以下である。
【0045】
2.第1の金属パイプ充填工程
次いで、このようにして得られた超電導前駆体粉末を第1の金属パイプに充填する。充填の手法としては、振動充填、タッピング充填などを挙げることができる。
【0046】
また、当該第1の金属パイプは、特に銀材料を用いることが好ましい。銀材料であると、超電導材料との反応が最も少ないためである。
【0047】
また、第1の金属パイプの寸法は、当該分野で公知のものとすることができ、用途に応じて適宜設定することができるが、一例を挙げれば、直径20〜60mmφ、長さ1000〜2000mmとすることができる。
【0048】
本発明においては、上記の超電導前駆体粉末を第1の金属パイプに充填する際の雰囲気を減圧下で行うことに特徴を有する。当該減圧は、第1の金属パイプの周囲環境を10Pa以下の圧力に設定することにより達成することができる。
【0049】
このような減圧雰囲気の環境を達成する方法としては、真空排気系を備えた真空チャンバ内に金属パイプをセットすることにより達成することができるが、これに限定されるわけではない。
【0050】
本発明において、好ましくは、当該充填工程の後、第1の金属パイプを100℃以上の温度で加熱する工程を行うことが好ましい。これにより金属パイプ表面に吸着したガスの除去、前記熱処理後の粉末に再吸着してしまったガスの除去という効果を得ることができる。加熱の手法としては、赤外領域の波長をもつヒータを使用した輻射加熱を用いることができる。また、加熱の際の温度は、好ましくは400℃以上である。
【0051】
3.第1の金属パイプ封止工程
次いで、超電導前駆体粉末が充填された第1の金属パイプを封止する工程を行う。封止により、金属パイプの内部と外部との間で、空気、その他気体、液体、固体の流れの移動を遮断することができる。具体的には、金属パイプの開口部分を、ロウなどにより封止することができる。その他の封止の手法としては、電子ビーム溶接、レーザ溶接、MAG、MIG、TIG溶接などを挙げることができる。
【0052】
また、本発明においては、当該封止工程を減圧雰囲気にて行うことを特徴とする。減圧雰囲気を達成する手段としては、真空排気系を備えた真空チャンバ内で金属パイプを封止することにより達成することができる。
【0053】
また、当該減圧雰囲気は、完全に真空であることが好ましいが、完全に真空でなくてもよく、10Pa以下であることが好ましい。
【0054】
4.その後の工程
上記封止工程の後、当該分野で公知の工程により、超電導線材とすることができる。すなわち、伸線加工を行って伸線し、これらを複数本束ね、必要に応じて切断した後、複数本束ね、第2の金属パイプに嵌合し、多芯化することができる。
【0055】
また、多芯化の際には、塑性加工を行うことができる。すなわち、伸線加工、圧延加工、および焼結加工を所望により行うことができる。
【0056】
なお、その後の工程の際の条件は特に示さないが、当該分野で公知の条件に設定することができ、用途に応じて、適宜設定できるものである。
【0057】
以上のようにして製造された本発明の超電導線材について、図1および2を用いて説明する。図1は、本発明における超電導多芯線材の概略図であり、図2は図1の超電導多芯線材を長軸方向に垂直な方向で切断した概略断面図である。
【0058】
図1および2において、本発明における超電導多芯線材5は、超電導前駆体粉末1が第1の金属パイプ2に充填され伸線加工された超電導線材3が複数本束ねられており、それらが第2の金属パイプ4に嵌合され所定の塑性加工を経て製造された構造に係る超電導多芯線材である。また、図1および2において、超電導線材3の間には必要に応じてフィラー6が嵌合されている。
【0059】
(超電導機器)
本発明の超電導線材の製造方法、超電導多芯線材の製造方法によって製造された超電導線材または超電導多芯線材を超電導機器に用いることができる。当該超電導機器の具体例としては、たとえば、超電導ケーブル、超電導限流器、超電導変圧器、超電導電力貯蔵装置などを挙げることができるが、これに限定されるわけではない。なお、これらの機器への用い方としては、当該分野で公知または慣用されている手法により用いることができる。
【0060】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれに限定的に解釈されることを意図しない。
【実施例】
【0061】
(実施例1)
ビスマス、鉛、ストロンチウム、カルシウム、銅のそれぞれの炭酸塩または酸化物を所定の量で秤量し、混合して740〜860℃の間の温度で焼結し、粉砕する工程を複数回繰り返して超電導前駆体粉末を作製した。
【0062】
当該工程は、固相法によって行ったものであり、超電導前駆体粉末作製時の雰囲気は全て大気雰囲気である。また、マイクロフィルターを用いて大気中のダストを捕集し、エアードライヤーを用いて−40℃の露点温度に湿度調整を行った。作製後の粉末中に含まれる水分量を複数回測定したところ8ppm以下であった(240℃に加熱し蒸発した水分量を測定)。
【0063】
次に、真空槽内に前駆体粉末とAgパイプを別々にセットし、真空引きを行った。真空槽にセットするときは、雰囲気制御されていない大気に粉末が触れることのないように細心の注意を払った。真空引きは以下の水準で実施した。
【0064】
【表1】

【0065】
各資料とも所定の減圧度に到達した段階でAgパイプ内に粉末を充填した後、栓をしてロウ付け封止をした。真空槽から粉末が充填されたAgパイプを取り出し、栓をしてロウ付けした部分の真空漏れがないことを確認した。
【0066】
その後、伸線加工し、複数本に切断したAg−超電導前駆体複合線材を別のAgパイプ内に嵌合し、多芯化して、塑性加工、すなわち、伸線加工、圧延加工および焼結加工を経て、幅4.1mm、厚さ0.22mm、銀比2.2(銀断面積/超電導断面積)の超電導多芯線材を作製した。
【0067】
このようにして作製した超電導多芯線材について評価した。当該評価には、液体窒素中に線材を浸漬し、4端子法を用いて臨界電流を測定した。結果を下記の表2に示す。また、減圧度と臨界電流との関係を表すグラフを図3に示す。
【0068】
【表2】

【0069】
表2および図3の結果より、減圧度が100Paの試料は、粉末に吸着したガスの影響により、線材が全長にわたって膨れてしまい、臨界電流が悪くなった。また、20〜50Paの試料は全長にわたって膨れは生じなかったが、部分的に膨れが発生し、特性が悪いと考えられる。しかし、10Pa以下の減圧雰囲気では、臨界電流が格段に向上し、優れた超電導特性を示すとともに、超電導材料として所望する特性を得ることができた。特に、0.01Paの減圧雰囲気では、150Aを超える臨界電流値を得ることができた点は非常に注目すべきである。
【0070】
(実施例2)
ビスマス、鉛、ストロンチウム、カルシウム、銅のそれぞれの炭酸塩または酸化物を所定の量で秤量し、混合して740〜860℃の間の温度で焼結し、粉砕する工程を複数回繰り返して超電導前駆体粉末を作製した。
【0071】
当該工程は、固相法によって行ったものであり、超電導前駆体粉末作製時の雰囲気は全て大気雰囲気である。また、マイクロフィルターを用いて大気中のダストを捕集したエアーを用いた。ただし、湿度調整は行わず、製造時の湿度は20%であった。作製後の粉末中に含まれる水分量を複数回測定したところ2000ppm前後であった(240℃に加熱し蒸発した水分量を測定)。
【0072】
次に、この前駆体粉末を露点温度−40℃以下の乾燥エアーを用いて、100〜800℃の間の温度で約1時間程度熱処理し、吸着している水分量の調整を行った。次の表3に得られた粉末の水分量を示す。
【0073】
【表3】

【0074】
次いで、真空槽内に前駆体粉末とAgパイプを別々にセットし、真空引きを行った。真空槽にセットするときは、雰囲気制御されていない大気に粉末が触れることのないように細心の注意を払った。真空引きは0.1Paまで実施した。
【0075】
各試料とも所定の0.1Paに到達した段階でAgパイプ内に粉末を充填した後、栓をしてロウ付け封止をした。真空槽から粉末が充填されたAgパイプを取り出し、栓をしてロウ付けした部分の真空漏れがないことを確認した。
【0076】
その後、伸線加工し、複数本に切断したAg−超電導前駆体複合線材を別のAgパイプ内に嵌合し、多芯化して、塑性加工、すなわち、伸線加工、圧延加工および焼結加工を経て、幅4.1mm、厚さ0.22mm、銀比2.2(銀断面積/超電導断面積)の超電導多芯線材を作製した。
【0077】
このようにして作製した超電導多芯線材について評価した。当該評価には、液体窒素中に線材を浸漬し、4端子法を用いて臨界電流を測定した。結果を下記の表4に示す。また、水分量と臨界電流との関係を表すグラフを図2に示す。
【0078】
【表4】

【0079】
表4および図4の結果より、水分量が100ppm以下では比較的良好な臨界電流値を得ることができることがわかる。さらに、水分量が10ppm以下ではより顕著に臨界電流値が向上することがわかる。
【0080】
(実施例3)
ビスマス、鉛、ストロンチウム、カルシウム、銅のそれぞれの炭酸塩または酸化物を所定の量で秤量し、混合して740〜860℃の間の温度で焼結し、粉砕する工程を複数回繰り返して超電導前駆体粉末を作製した。
【0081】
当該工程は、固相法によって行ったものであり、超電導前駆体粉末作製時の雰囲気は全て大気雰囲気である。また、マイクロフィルターを用いて大気中のダストを捕集したエアーを用いた。ただし、湿度調整は行わず、製造時の湿度は20%であった。作製後の粉末中に含まれる水分量を複数回測定したところ2000ppm前後であった(240℃に加熱し蒸発した水分量を測定)。
【0082】
次に、この前駆体粉末を露点温度−40℃以下の乾燥エアーを用いて、500℃の温度で約1時間程度熱処理し、吸着している水分量の調整を行った。得られた粉末の水分量は200〜300ppmであった。
【0083】
次いで、真空槽内に前駆体粉末とAgパイプを別々にセットし、真空引きを行った。真空槽にセットするときは、雰囲気制御されていない大気に粉末が触れることのないように細心の注意を払った。真空引きは0.01Paまで実施した。
【0084】
各試料とも所定の0.01Paに到達した段階でAgパイプ内に粉末を充填した後、Agパイプを室温〜700℃の範囲で5時間加熱し、室温まで冷却後、栓をしてロウ付け封止をした。次の表5に各試料の加熱温度を示す。
【0085】
【表5】

【0086】
真空槽から粉末が充填されたAgパイプを取り出し、栓をしてロウ付けした部分の真空漏れがないことを確認した。その後、伸線加工し、複数本に切断したAg−超電導前駆体複合線材を別のAgパイプ内に嵌合し、多芯化して、塑性加工、すなわち、伸線加工、圧延加工および焼結加工を経て、幅4.1mm、厚さ0.22mm、銀比2.2(銀断面積/超電導断面積)の超電導多芯線材を作製した。
【0087】
このようにして作製した超電導多芯線材について評価した。当該評価には、液体窒素中に線材を浸漬し、4端子法を用いて臨界電流を測定した。結果を下記の表6に示す。また、加熱温度と臨界電流との関係を表すグラフを図5に示す。
【0088】
【表6】

【0089】
表6および図5の結果より、100℃以上加熱することにより、臨界電流が顕著に向上していることがわかる。700℃の加熱温度においては、若干の臨界電流の低下が見られるが、これは真空下で高温加熱されたことにより、酸化物超電導相の生成に必要な酸素が前駆体粉末から必要以上に抜けて異相の凝集等が発生し、その後の加工により一部で酸化物超電導相の生成が妨げられている事が確認された。
【0090】
以上の実施例1〜3により、前駆体粉末に吸着した水分量が超電導特性に大きく影響を与えることがわかった。さらに、前駆体粉末の製造段階から粉末への水分の吸着を防止した試料(実施例1)に関しては、特に真空下で充填、封止する効果が著しいことが明らかとなった。このことから、一度粉末に吸着した水分はその後の高温下における脱気処理によりある程度除去することが可能となるが、わずかに水分等の吸着ガスが残存し高真空下で充填および封止しても特性の低下の一因となっていることが明らかとなった。
【0091】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】本発明における超電導多芯線材の概略図である。
【図2】図1の超電導多芯線材の長軸方向に垂直な方向で切断した断面図である。
【図3】減圧度と臨界電流値との関係を、グラフを用いて表す図である。
【図4】水分量と臨界電流との関係を、グラフを用いて表す図である。
【図5】加熱温度と臨界電流との関係を、グラフを用いて表す図である。
【符号の説明】
【0093】
1 超電導前駆体、2 第1の金属パイプ、3 超電導線材、4 第2の金属パイプ、5 超電導多芯線材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超電導用原料粉末を処理して超電導前駆体粉末を調製する工程と、
前記超電導前駆体粉末を第1の金属パイプに充填する工程と、
前記第1の金属パイプを封止する工程と、を包含する超電導線材の製造方法において、
前記第1の金属パイプに充填する工程および第1の金属パイプを封止する工程を、減圧雰囲気下で行うことを特徴とする、超電導線材の製造方法。
【請求項2】
前記減圧雰囲気の圧力は、10Pa以下であることを特徴とする、請求項1に記載の超電導線材の製造方法。
【請求項3】
前記超電導前駆体粉末の水分含有量は、10ppm以下であることを特徴とする、請求項1または2に記載の超電導線材の製造方法。
【請求項4】
前記超電導前駆体粉末を調製する工程は固相法により行われ、その際の調製雰囲気の露点温度が−40℃以下であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の超電導線材の製造方法。
【請求項5】
前記超電導前駆体粉末を調製する工程は噴霧熱分解法により行われ、当該工程により得られた超電導前駆体粉末を第1の金属パイプに充填する前に−40℃以下の露点温度の雰囲気下で熱処理する工程をさらに含む、請求項1〜3のいずれかに記載の超電導線材の製造方法。
【請求項6】
前記超電導前駆体粉末を調製する工程は噴霧熱分解法により行われ、当該工程により得られた超電導前駆体粉末を第1の金属パイプに充填する前に10Pa以下の減圧雰囲気下で熱処理する工程をさらに含む、請求項1〜3のいずれかに記載の超電導線材の製造方法。
【請求項7】
前記超電導前駆体粉末を第1の金属パイプに充填する工程の後、前記第1の金属パイプを封止する工程の前に、100℃以上で第1の金属パイプを加熱する工程をさらに含む、請求項1〜6のいずれかに記載の超電導線材の製造方法。
【請求項8】
前記超電導用原料粉末は、ビスマス系酸化物超電導線材用の原料粉末であることを特徴とする、請求項1〜7のいずれかに記載の超電導線材の製造方法。
【請求項9】
前記ビスマス系酸化物超電導線材用の原料粉末は、Bi化合物、Sr化合物、Ca化合物、Cu化合物およびPb化合物を含有することを特徴とする、請求項8に記載の超電導線材の製造方法。
【請求項10】
前記超電導前駆体粉末は、2212相および/または2223相の超電導相を含むことを特徴とする、請求項8または9のいずれかに記載の超電導線材の製造方法。
【請求項11】
前記第1の金属パイプを封止する工程の後に、該第1の金属パイプを伸線加工し、かつ圧延加工する工程をさらに含む、請求項1〜10のいずれかに記載の超電導線材の製造方法。
【請求項12】
請求項11に記載の超電導線材の製造方法によって製造された超電導線材の複数本を、第2の金属パイプに充填し、塑性加工を施す工程をさらに含む、超電導多芯線材の製造方法。
【請求項13】
前記塑性加工は、伸線加工、圧延加工および焼結加工の少なくとも1つ以上を含むことを特徴とする、請求項12に記載の超電導多芯線材の製造方法。
【請求項14】
請求項12または13に記載の超電導多芯線材の製造方法によって製造された超電導多芯線材を用いた超電導機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−331687(P2006−331687A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−149643(P2005−149643)
【出願日】平成17年5月23日(2005.5.23)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】