説明

超電導線材の製造方法

【課題】 高い臨界電流を有するビスマス系酸化物超電導体を含む超電導線材の従来よりも簡便な製造方法を提供する。
【解決手段】 焼結によりビスマス系酸化物超電導体の2223相を主成分として生成し得る材料の粉末が充填された金属シースに、塑性加工を施す工程および熱処理を施す工程をそれぞれ1回以上行ない、熱処理工程における少なくとも1回の熱処理工程は、酸素分圧が5.05×103Pa以上1.01×104Pa以下の雰囲気下、熱処理温度Tが熱処理時間の経過とともに低下し、最高熱処理温度T1が835℃より高く855℃より低く、最低熱処理温度T2が805℃より高く825℃より低く、その温度差T1−T2が25℃以上40℃以下であることを特徴とする超電導線材の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビスマス系酸化物超電導体からなるフィラメントを有する超電導線材の製造方法に関し、特に、高い臨界電流(Ic、以下同じ)を有する超電導線材を製造することができる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
Bi系酸化物超電導材料を用いた線材を製造する方法の1つとして、実用化に最も適した方法として考えられているパウダー・イン・チューブ法がある。この方法では、まず、超電導体またはその原料の粉末を金属(銀)シースに充填し、圧延加工を含む塑性加工を施してテープ形状の線材を得る。得られたテープ形状の線材は、酸化物超電導体の焼結のため熱処理される。熱処理の後、線材は再び圧延加工され、次いで再度熱処理される。このように圧延加工および熱処理を繰り返すことによって、比較的高いIcを有する線材を得ることができる。このプロセスにおいて、熱処理はそれぞれ数十時間行なわれる。
【0003】
かかるパウダー・イン・チューブ法において、従来は一定温度で熱処理を行なうことにより焼結を行なっており、高いIcを得るために熱処理を繰り返す必要があり、超電導線材の製造に長時間および高コストを要した。
【0004】
そのため、超電導線材の製造時間を短縮し製造コストを低減するため、ビスマス系酸化物超電導体の2223相(以下、Bi2223相という)を生成するための材料粉末の焼結工程において、850℃〜870℃の温度で1分間〜30分間加熱した後、引続きそれより低い温度でアニールしながら冷却することにより、それ以上の熱処理を行なうことなく高いIcを有する超電導線材が得られることを提案している(たとえば、特許文献1を参照)。
【0005】
しかし、上記熱処理においては、Bi2223相の体積分率が95体積%以上であるフィラメントを調製すること、850℃〜870℃の温度で1分間〜30分間加熱することなど製造工程における精密な制御が必要であり、製造コストが高くなる問題があった。
【特許文献1】特開平08−64044号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、高い臨界電流を有するビスマス系酸化物超電導体を含む超電導線材の従来よりも簡便な製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、Bi2223相を主成分とするフィラメントを含む超電導線材の製造方法であって、焼結によりBi2223相を主成分として生成し得る材料の粉末(以下、前駆体粉末という)が充填された金属シースに、塑性加工を施す工程および熱処理工程をそれぞれ1回以上行ない、熱処理を施す工程における少なくとも1回の熱処理工程は、酸素分圧が5.05×103Pa以上1.01×104Pa以下の雰囲気下、熱処理温度Tが熱処理時間の経過とともに低下し、最高熱処理温度T1が835℃より高く855℃より低く、最低熱処理温度T2が805℃より高く825℃より低く、その温度差T1−T2が25℃以上40℃以下であることを特徴とする超電導線材の製造方法である。
【0008】
本発明にかかる超電導線材の製造方法において、最高熱処理温度T1を840℃以上850℃以下とし、最低熱処理温度T2を810℃以上820℃以下とすることができる。また、上記少なくとも1回の熱処理工程における熱処理時間tを30時間以上100時間以下とすることができる。さらに、上記金属シースは銀を含有することができる。
【発明の効果】
【0009】
上記のように、本発明によれば、高い臨界電流を有するビスマス系酸化物超電導体を含む超電導線材の従来よりも簡便な製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明にかかる一の超電導線材の製造方法は、図1を参照して、Bi2223相を主成分とするフィラメントを有する超電導線材の製造方法であって、前駆体粉末が充填された金属シースに、塑性加工を施す工程および熱処理を施す工程をそれぞれ1回以上行ない、かかる熱処理工程における少なくとも1回の熱処理工程は、酸素分圧が5.05×103Pa以上1.01×104Pa以下(0.05atm以上0.1atm以下)の雰囲気下、熱処理温度Tが熱処理時間の経過とともに低下し、最高熱処理温度T1が835℃より高く855℃より低く、最低熱処理温度T2が805℃より高く825℃より低く、その温度差T1−T2が25℃以下40℃以上であることを特徴とすることを特徴とする。
【0011】
本発明にかかる一の超電導線材の製造方法は、Bi2223相を主成分とするフィラメントを有する超電導線材の製造方法である。ここで、Bi2223相とは、化学式(Bi,Pb)2Sr2Ca2Cu310+xで表わされる相をいい、この相の形成により、臨界電流の高い超電導体が得られる。また、Bi2223相を主成分とするフィラメントとは、超電導体中にBi2223相を50体積%以上、好ましくは85体積%以上含有するフィラメントをいう。Bi2223相を主成分とするフィラメントを含むことにより、臨界電流の高い超電導線材が得られる。また、フィラメントとは、塑性加工により伸長された線状の超電導体(多芯の場合は個々の芯を形成する線状の超電導体)をいう。
【0012】
また、本発明にかかる一の超電導線材の製造方法では、前駆体粉末が充填された金属シースに、塑性加工を施す工程(以下、塑性加工工程という)および熱処理を施す工程(以下、熱処理工程という)をそれぞれ1回以上行なう。すなわち、本製造方法においては、まず、前駆体粉末を金属シースに充填し、この前駆体粉末が充填された金属シースに、圧延加工、プレス加工などを含む塑性加工を施し、さらに上記前駆体粉末を焼結して超電導体を生成するために熱処理を施す。上記塑性加工および熱処理は1回以上行なうことができる。かかる製造方法により、Bi2223相を主成分とするフィラメントを有する超電導線材を形成することができる。
【0013】
ここで、前駆体粉末は、熱処理により主成分としてBi2223相を含有する超電導体を形成するものであれば特に制限はないが、上記前駆体粉末におけるBi、Pb、Sr、CaおよびCuの原子比は、たとえば、Bi:Pb:Sr:Ca:Cu=(1.7〜2.1):(0〜0.4):(1.7〜2.1):(1.7〜2.3):(2.9〜3.1)とすることができる。
【0014】
また、金属シースとしては、導電性の高い金属であれば特に制限はないが、前駆体粉末との反応性が乏しく、加工しやすく、かつ、融点が高い観点から、銀を含有するシースであることが好ましい。たとえば、銀シース、銀合金シースなどが好ましく用いられる。
【0015】
また、本発明にかかる一の超電導線材の製造方法では、少なくとも1回の熱処理工程は、酸素分圧が5.05×103Pa以上1.01×104Pa以下の雰囲気下、熱処理温度Tが熱処理時間の経過とともに低下し、最高熱処理温度T1が835℃より高く855℃より低く、最低熱処理温度T2が805℃より高く825℃より低く、その温度差T1−T2が25℃以上40℃以下であることを特徴とする。
【0016】
前駆体粉末を焼結させるための少なくとも1回の熱処理工程は、大気圧における酸素分圧2.01×104Paよりも低い5.05×103Pa以上1.01×104Pa以下の酸素分圧の雰囲気下で、熱処理温度Tを熱処理工程の開始時から終了時にかけてその熱処理時間の経過とともに低下することにより行なわれる。焼結をさせるための部分溶融を起こさせる最高熱処理温度T1ではBi2223相の成長が不十分であり、上記部分溶融した部分が凝固する最低熱処理温度T2まで、熱処理時間の経過とともに熱処理温度を低下させることによりBi2223相を大きく成長させることができ、Bi2223相の単相化が促進され、臨界電流の高い超電導線材が得られる。ここで、Bi2223相の単相化とは、超電導体のフィラメントを構成する種々の相全体(たとえば、Bi2223相、Bi2212相、非超電導相など)に対してBi2223相の割合が増加し、超電導体のフィラメントがBi2223相で単相化されることをいう。このとき、5.05×103Pa以上1.01×104Pa以下の低酸素分圧雰囲気下で熱処理を行なうことにより、Bi2223相の単相化が促進される。ここで、熱処理温度Tが熱処理時間の経過とともに低下するとは、熱処理温度Tの低下割合の大小および増減を問わない意味であり、熱処理温度が熱処理時間内の一定時間維持される場合をも含む。なお、Bi2223相をより大きく成長させる観点から、熱処理温度は単調にかつ一定の割合で低下させることが好ましい。
【0017】
ここで、最高熱処理温度T1は835℃より高く855℃より低い。5.05×103Pa以上1.01×104Pa以下の酸素分圧雰囲気下では、835℃<T1<855℃の温度領域において焼結が適切に進む部分溶融が起こる。かかる観点から、T1は840℃以上850℃以下であることが好ましい。
【0018】
また、最低熱処理温度T2は805℃より高く825℃より低い。5.05×103Pa以上1.01×104Pa以下の酸素分圧雰囲気下では、805℃<T2<825℃の温度領域において上記部分溶融が凝固し、Bi2223相の結晶同士の強固な結合が達成され、また、Bi2223相の成長が他の相の成長に比べて大きくなる。かかる観点から、T2は810℃以上820℃以下であることが好ましい。
【0019】
ここで、本発明にかかる超電導線材の製造方法における最高熱処理温度T1、最低熱処理温度T2およびそれらの温度差T1−T2は、図2を参照して、835℃<T1<855℃、805℃<T2<825℃、25℃≦T1−T2≦40℃を満たす領域P(図2において、IBMNDLで囲まれた領域、ただし、IB、BM、NDおよびDLの線分上の点を除く)内に存在する。好ましくは、T1、T2およびT1−T2は、840℃≦T1≦850℃、810℃≦T2≦820℃、25℃≦T1−T2≦40℃を満たす領域Q(図2において、JFGHKで囲まれた領域)内に存在する。ここで、領域Qは、T1において30℃≦T1−T2≦40℃、T2において25℃≦T1−T2≦30℃を満たしている。なお、図2の上記領域P,Qにおいて、黒丸点はその点を含むことを、白丸点はその点を含まないことを、実線はその線を含むことを、破線はその線を含まないことを示す。
【0020】
本発明にかかる一の超電導線材の製造方法において、上記少なくとも1回の熱処理工程における熱処理時間tには特に制限はないが、30時間以上100時間以下であることが好ましい。熱処理時間tが、30時間未満であるとBi2223の成長時間が短くなるためBi2223相の成長が進まず単相化も進まず、100時間を超えると成長したBi2223相が分解するためBi2223相の単相化が抑制される。ここで、図1を参照して、tとは熱処理開始時刻t1から熱処理終了時刻t2までの時間t2−t1をいう。
【実施例】
【0021】
(実施例1)
前駆体粉末を得るために、まず、Bi2 3 、PbO、CaCO3 、SrCO3 、CuOを用いてBi:Pb:Sr:Ca:Cu=1.81:0.40:1.97:2.00:3.00(原子比)の組成比の粉末を調製した。この粉末に熱処理を施し、粉砕を行なった後、主にBi2212相と非超電導相からなる前駆体粉末を得た。得られた前駆体粉末を銀パイプに充填した。この前駆体粉末を充填した銀パイプに伸線加工を施して単芯線材を得た。この単芯線材55本を束ねて再び銀シースに嵌合して多芯線材を得た。この多芯線材に伸線加工および圧延加工を施して、厚さ0.23mm、幅4.1mmの多芯(55芯)テープ線材を作製した。なお、Bi2212相とは、化学式(Bi,Pb)2Sr2CaCu28+yで表わされる相をいう。
【0022】
次に、得られた多芯テープ線材を100mmごとに複数に分割した。得られたセグメントを、図1を参照して、酸素分圧8.08×103Pa(0.08atm)の低酸素分圧雰囲気下において、最高熱処理温度T1が840℃、最低熱処理温度T2が815℃となるように熱処理温度を単調かつ一定の割合で低下させて、50時間の熱処理を行ない、超電導線材を得た。
【0023】
得られた超電導線材の銀比(銀の断面積比率/超電導体の断面積比率をいう、以下同じ)は1.5であり、X線回折法によりフィラメントにおけるBi系2223相の体積分率は93体積%であり、77.3KにおけるIcは39Aと大きくなった。結果を表1にまとめた。
【0024】
(実施例2,3、比較例1〜5)
表1に示す熱処理条件とした他は、実施例1と同様にして超電導線材を得た。得られた超電導線材のIcを表1にまとめた。ここで、比較例1〜比較例3においては、熱処理温度を変化させることなく、それぞれ815℃、825℃、845℃で一定とした。比較例4においては、T1を835℃とした。比較例5においては、T1を855℃とした。
【0025】
【表1】

【0026】
表1より明らかなように、T2を815℃としたとき、835℃<T1<855℃において、従来よりもIcの高い超電導線材が一度の熱処理により簡便に得られた。
【0027】
(比較例6,7)
表2に示す熱処理条件とした他は、実施例1と同様にして超電導線材を得た。得られた超電導線材のIcを実施例2および比較例2の結果とともに表2にまとめた。なお、比較例6においては、T2を805℃とした。比較例7においては、T2を825℃とした。
【0028】
【表2】

【0029】
表2より明らかなように、T1を845℃としたとき、805℃<T2<825℃において、従来よりもIcの高い超電導線材が一度の熱処理により簡便に得られた。
【0030】
(実施例5〜7)
表3に示す熱処理条件とした他は、実施例1と同様にして超電導線材を得た。得られた超電導線材のIcを実施例2および比較例2の結果とともに表3にまとめた。
【0031】
【表3】

【0032】
表3より明らかなように、T1を845℃、T2を815℃としたとき、熱処理時間が30時間以上100時間以下において、従来よりもIcの高い超電導線材が一度の熱処理により簡便に得られた。
【0033】
したがって、表1〜表3から明らかなように、835℃<T1<855℃、805℃<T2<825℃、25℃≦T1−T2≦40℃において、Icの高い超電導線材が従来よりも簡便に得られることがわかった。
【0034】
なお、今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明にかかる一の超電導線材の熱処理条件を示す模式図である。
【図2】本発明にかかる一の超電導線材の熱処理条件におけるT1、T2およびT1−T2の関係を示す模式図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビスマス系酸化物超電導体の2223相を主成分とするフィラメントを含む超電導線材の製造方法であって、
焼結によりビスマス系酸化物超電導体の2223相を主成分として生成し得る材料の粉末が充填された金属シースに、塑性加工を施す工程および熱処理を施す工程をそれぞれ1回以上行ない、
前記熱処理工程における少なくとも1回の熱処理工程は、酸素分圧が5.05×103Pa以上1.01×104Pa以下の雰囲気下、熱処理温度Tが熱処理時間の経過とともに低下し、最高熱処理温度T1が835℃より高く855℃より低く、最低熱処理温度T2が805℃より高く825℃より低く、その温度差T1−T2が25℃以上40℃以下であることを特徴とする超電導線材の製造方法。
【請求項2】
前記最高熱処理温度T1が840℃以上850℃以下、前記最低熱処理温度T2が810℃以上820℃以下であることを特徴とする請求項1に記載の超電導線材の製造方法。
【請求項3】
前記少なくとも1回の熱処理工程における熱処理時間tが、30時間以上100時間以下であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の超電導線材の製造方法。
【請求項4】
前記金属シースが銀を含有する請求項1から請求項3のいずれかに記載の超電導線材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−85980(P2006−85980A)
【公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−268320(P2004−268320)
【出願日】平成16年9月15日(2004.9.15)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】