説明

超音波ドプラ血流計

【課題】S/N比が高く、フレームレートの高い超音波ドプラ血流計を提供する。
【解決手段】クラッタ成分の振幅及び速度を推定するクラッタ成分推定部10と、前記クラッタ成分推定手段は複数のエコー信号の相関演算処理により得られた相関ベクトルの位相角からクラッタ成分の速度を求めることにより推定されたクラッタ情報を元に前記エコー信号からクラッタ成分除去するクラッタ成分除去部11とを備え、クラッタ成分を除去した後にウォールフィルタ5に入力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医用分野において、超音波のドプラ現象を利用し、体内の血流を測定し、画像表示を行う超音波ドプラ血流計に関するものである。
【背景技術】
【0002】
超音波のドプラ現象を利用し、生体中の血流分布を色に対応させ、白黒の2次元断層像と重ね合わせて表示を行う、超音波ドプラ血流計(カラーフロー装置)が知られている。従来の超音波ドプラ血流計の構成を図9に示す。
【0003】
送信部91は、プローブ92を介して超音波パルスを照射する。照射された超音波パルスのエコーは、同じくプローブ92により電気信号に変換され、受信部93に入力される。受信部93では、微弱な信号を増幅し、図示しないA/D変換器により、アナログ信号からディジタル信号に変換される。その後、位相検波部94に入力され、ベースバンドに変換されたエコー信号となる。ベースバンドに変換されたエコー信号は、ウォールフィルタ95に入力される。このウォールフィルタ95は、一般的には数次のFIR型フィルタもしくはIIR型フィルタによって構成され、通常クラッタと呼ばれる低周波信号成分である不要な体内組織からの信号を除去する働きをする。
【0004】
図10に、2次のIIR型フィルタにより構成されたウォールフィルタの一例の要部を示す。このように構成されたウォールフィルタ95は、フィードバック係数K1,K2を変化させることによりカットオフ特性を柔軟に変化させることができる。ウォールフィルタ95によりクラッタを除去されたエコー信号は、速度演算部96において血流速度が算出され、包絡線検波部97からのBモード信号とともにディジタルスキャンコンバータ(以降DSCと称す)98に入力される。DSC98では、Bモード信号と血流信号を混合し、モニタ99に二次元血流像が映出される(例えば、非特許文献1)。
【非特許文献1】瀬尾、飯沼著「カラードプラ断層法の原理と装置」日本ME学会学会誌 BME、Vol.1、No.4、1987年(P22−27)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の超音波ドプラ血流計においては、より正確な血流情報を得るためにはウォールフィルタに急峻な特性を持たせることが望ましい。しかしながら、その一方で大きな過渡応答が発生し、このような過渡応答を含んだデータによっては、正確な血流情報を得ることはできない。
【0006】
また、正確に血流速度を演算するには過渡応答の影響を除去するために、多くのデータを破棄しなければならず、そのため速度演算部に送られるデータ点数が減り、平均回数が減るので信号/ノイズ比の低下を招く。
【0007】
さらに、破棄データを補うためにデータサンプル数を増やすためには、同一方向への音波の繰り返し送受信回数を増やすこととなり、フレームレートが低下するという問題があった。
【0008】
本発明は、従来の問題を解決するためになされたもので、急峻な特性のウォールフィルタを使うこと無しに、エコー信号からクラッタ信号成分を除去することのできる超音波ドプラ血流計を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の超音波ドプラ血流計は、被検生体中に送信した複数の超音波パルスに対する複数のエコー信号から、クラッタ成分の振幅及び速度を推定するクラッタ成分推定手段と、前記クラッタ成分推定手段により推定されたクラッタ成分の振幅及び速度情報を元に前記エコー信号からクラッタ成分除去するクラッタ成分除去手段部を有した構成となっている。この構成により、急峻なウォールフィルタを用いなくても十分なクラッタ成分の除去が可能となり、信号/ノイズ比の向上、フレームレートの向上が可能となる。
【0010】
また、本発明の超音波ドプラ血流計では、クラッタ成分推定手段は、前記複数のエコー信号の相関演算処理により得られた相関ベクトルの位相角からクラッタ成分の速度を求め、前記複数のエコー信号の振幅の平均値から、クラッタ成分の振幅を求める構成を有している。この構成により、クラッタの速度成分および振幅成分が比較的簡易なハードウェアで求めることが可能である。
【0011】
さらに、本発明の超音波ドプラ血流計では、クラッタ成分除去手段は、推定されたクラッタ速度とクラッタ振幅から、各エコー信号に対する各クラッタ信号を演算し、各エコー信号から各クラッタ信号を減算する構成を有している。この構成により、クラッタ信号を各エコー毎に算出し減算することで、クラッタ成分の除去が可能となる。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、クラッタ成分の振幅及び速度を推定するクラッタ成分推定手段と、前記クラッタ成分推定手段により推定されたクラッタ成分の振幅及び速度情報を元に前記エコー信号からクラッタ成分除去するクラッタ成分除去手段部を設けることにより、急峻なウォールフィルタを用いなくても十分なクラッタ成分の除去が可能となり、信号/ノイズ比の向上、フレームレートの向上が可能という効果を有する超音波ドプラ血流計を提供することができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態の超音波ドプラ血流計について、図面を用いて説明する。
【0014】
(実施の形態1)
本発明の第1の実施の形態の超音波ドプラ血流計を図1に示す。
【0015】
図1において、
送信部1、プローブ2、受信部3、位相検波部4、速度演算部6、包絡線検波部7、DSC8、モニタ9の構成および動作については、上述した背景技術と同様であるのでその説明を省略する。
【0016】
本発明の特徴は、ウォールフィルタ5の前段に、クラッタ成分推定部10およびクラッタ成分除去部11を備えたことにある。本発明の第1の実施例におけるクラッタ成分推定部10およびクラッタ成分除去部11の詳細なブロック図を図2に示す。
【0017】
クラッタ成分推定部10は、
位相検波部4からのベースバンドエコー信号を入力とし、各サンプルデータに含まれるクラッタ信号の位相角を推定する位相角推定部12と、
位相検波部4からのベースバンドエコー信号を入力とし、各サンプルデータに含まれるクラッタ信号の振幅を推定する振幅推定部13と、
位相角推定部12からの位相角と振幅推定部13からの振幅からクラッタ信号を算出するクラッタ信号算出部14から構成される。
【0018】
クラッタ成分除去部11は、位相検波部4からのベースバンドエコー信号を一旦蓄えるメモリ15と、メモリ15から出力されるエコー信号とクラッタ成分推定部10からのクラッタ信号との差を計算する減算器16から構成される。
【0019】
以上のように構成されたクラッタ成分推定部10およびクラッタ成分除去部11について、数式を用いてその動作を説明する。
【0020】
以降では、位相検波部4からのベースバンド信号を、その同相成分を実部、直交成分を虚部とする複素数として扱う。位相検波部4からのベースバンドエコー信号(E(t))は、クラッタ信号成分(C(t))および血流信号成分(B(t))が合成されたものとして(数1)で表す。
【0021】
【数1】

【0022】
クラッタ信号成分(C(t))は、その振幅をac(t)、その位相角をθc(t)として(数2)で表す。
【0023】
【数2】

【0024】
もし、クラッタ成分に移動がなかった場合、ac(t)は定数、θc(t)も定数となり、C(t)は直流成分となる。
【0025】
しかし、一般的に、被検生体の呼吸運動もしくは心拍運動により生体組織が移動することによりクラッタ信号は、時間により変動するものとなる。ただし、生体組織が移動する周期は1〜数秒であるのに比べ、一連のエコー信号のサンプリング期間は、長くても数ミリ秒と非常に短いので、一連のエコーのサンプリング期間中では、クラッタの振幅(ac(t))および位相角(θc(t))は、時間に関する比較的低次の多項式で近似が可能である。
【0026】
以下は、一次式で近似した場合を説明する。
【0027】
クラッタの振幅(ac(t))および位相角θc(t)を以下の様に、時刻tの一次式で表す(数3〜4)。
【0028】
【数3】

【0029】
【数4】

【0030】
(数1)での、クラッタ信号成分(C(t))と血流信号成分(B(t))の信号振幅を比較すると、実際の生体からのエコー信号においては、クラッタ信号成分(C(t))の振幅は、血流信号成分(B(t))の数十から数百倍と非常に大きな振幅となっている。よって、エコー信号(E(t))の位相角および振幅は、ほぼクラッタ信号成分(C(t))の位相角および振幅に等しいとみなすことができる。すなわち、(数3)のg、hおよび(数4)のm、nを推定するにあたっては、エコー信号(E(t))をクラッタ信号成分(C(t))としてみなすこと可能である。
【0031】
位相角推定部12では、まず、(数4)のm、nの算出を行う。N個のエコー信号のサンプリング時刻を順に
T1、T2、・・・TN
とし、
毎の等間隔のサンプリング時刻とする。また、実際のエコー信号のサンプルデータを、
E1、E2、・・・EN
とする。各サンプルの位相差nを求めるために、血流情報演算部6で用いられる相関演算を用いる(数5)、(数6)。
【0032】
【数5】

【0033】
【数6】

【0034】
なお、サンプリング時刻が等間隔でなかった場合は、(数6)の代わりに、以下の様に各サンプル間での位相差を平均することで算出することもできる(数7)。
【0035】
【数7】

【0036】
また、一連のサンプルの最初と最後の時刻のエコーE1,ENから(数8)
として、簡略化して求めることも可能である。この場合、nを算出する演算リソースが少なくて済むという利点がある。
【0037】
【数8】

【0038】
以上の様に求めたm、nから、時刻(Tk)でのエコー信号に対する位相角推定部12の出力を(数9)により算出する。
【0039】
【数9】

【0040】
振幅推定部13では、まず、(数3)のg、hを算出する。その方法は、時刻
T1、T2、・・・TN
での(ac(t))の値が、サンプルデータE1、E2、・・・ENの絶対値
|E1|、|E2|、・・・|EN|となるよう、最小2乗法により求める(数10〜11)。
【0041】
【数10】

【0042】
【数11】

【0043】
なお、振幅に関しては、一連のサンプル期間中T1、T2、・・・TNにおいて、振幅は定数と見なすことが多くの場合において可能であり(数12〜13)、とすることで、振幅推定部13演算リソースを少なくすることが可能である。
【0044】
【数12】

【0045】
【数13】

【0046】
以上の様に求めたg、hから、時刻(Tk)でのエコー信号に対する振幅推定部13の出力を、(数14)により算出する。
【0047】
【数14】

【0048】
クラッタ信号算出部14は、位相角推定部12の出力(θc(Tk))および振幅推定部13の出力(ac(Tk))から、クラッタ信号(C(Tk))を(数15)の式に従い出力する。
【0049】
【数15】

【0050】
クラッタ成分除去部11内のメモリ15は、クラッタ成分推定部10から出力されるクラッタ信号(C(Tk))のタイミングに合わせてエコー信号(Ek)を減算器16に供給する働きをする、データ遅延用の記憶部である。
【0051】
減算器16は、エコー信号(Ek)から、クラッタ成分推定部10にて推定されたクラッタ信号(C(Tk))を減算することにより((数1)からB(t)=E(t)−C(t))、エコー信号(Ek)中の血流信号成分のみを後段のウォールフィルタ5に供給する。
【0052】
ウォールフィルタ5に入力される信号は、血流信号成分のみを含む信号となるため、従来のウォールフィルタに比べ緩やかな特性のハイパスフィルタでも十分な性能が得られる。例えば、(数16)に表す
【0053】
【数16】

【0054】
といった1次のフィルタをウォールフィルタ5に用いても血流情報演算部6における血流速度算出が十分な精度で行える。
【0055】
以上の処理について模擬信号を入力として施した場合の各部の信号について図示する。
【0056】
図3は、位相検波部4からの出力信号を模擬した複素信号を2次元平面に軌跡としてプロットしたものであり、
クラッタ成分振幅:100、速度 0.05、約1%の振幅の揺らぎを含む
血流成分 振幅:1 、速度 0.5
と想定した場合の模擬信号となっている。血流速度は、ナイキスト速度を1として正規化したものである。
【0057】
図4は、クラッタ成分除去部11からの出力信号である。図3の信号に比べると、信号の軌跡が原点に近づき回転する軌跡となっている。
【0058】
図5は、ウォールフィルタ5からの出力である。図4に比べさらに、信号の軌跡が原点に近づき、原点を中心とした回転軌跡となっており、クラッタ成分が十分に除去され、速度演算部6において、血流速度は約0.5であることから約90°づつ回転する血流成分となり、上記のように算出可能なものとなっている。
【0059】
一方図6は、従来の構成において、図3の信号をウォールフィルタ5に直接入力した場合の出力である。この信号では、クラッタ成分が十分に除去されておらず、速度演算部6において、血流速度を正確に推定することは不可能である。
【0060】
このような本発明の第1の実施の形態の超音波ドプラ血流計によれば、ウォールフィルタ5の前段に、クラッタ成分推定部10およびクラッタ成分除去部11を設けることにより、クラッタ成分を大きく除去したエコー信号をウォールフィルタ5に入力することが可能となり、特性の緩やかなウォールフィルタ5を用いても十分に血流情報のみを抽出することが可能である。これにより、ウォールフィルタ5の過渡応答によるデータ破棄数を大幅に減らすことが可能であり、信号/ノイズ比の向上、フレームレートの向上を図ることができる。
【0061】
(実施の形態2)
次に、本発明の第2の実施の形態の超音波ドプラ血流計におけるクラッタ成分推定部10およびクラッタ成分除去部11の詳細なブロック図を図7に示す。
【0062】
クラッタ成分推定部10は、
位相検波部4からのベースバンドエコー信号を入力とし、各サンプルデータに含まれるクラッタ信号の位相角を推定する位相角推定部12と、
位相角推定部12からの位相角からクラッタ信号を算出するクラッタ信号算出部17から構成される。
【0063】
クラッタ成分除去部11は、位相検波部4からのベースバンドエコー信号を一旦蓄えるメモリ15と、メモリ15から出力されるエコー信号とクラッタ成分推定部10からのクラッタ信号との除算を行う除算器18から構成される。
【0064】
以上のように構成された本発明の第2の実施の形態におけるクラッタ成分推定部10およびクラッタ成分除去部11について、数式を用いてその動作を説明する。
【0065】
位相角推定部12では、本発明の第1の実施の形態での動作と同様に、まず、(数4)のm、nの算出を行い、時刻(Tk)でのエコー信号に対する位相角推定部12の出力(θc(Tk))を、(数9)に従い算出する。
【0066】
クラッタ信号算出部17は、位相角推定部12の出力(θc(Tk))から、クラッタ信号(C(Tk))を以下の式に従い出力する。
【0067】
【数17】

【0068】
これは、クラッタ信号と同じ位相角を持つ単位ベクトルである。
【0069】
クラッタ成分除去部11内のメモリ15は、本発明の第1の実施の形態での動作と同様に、クラッタ成分推定部10から出力されるクラッタ信号(C(Tk))のタイミングに合わせてエコー信号(Ek)を除算器18に供給する働きをする、データ遅延用の記憶部である。
【0070】
除算器18は、エコー信号(Ek)を、クラッタ成分推定部10にて推定されたクラッタ信号(C(Tk))で除算を行う。これにより、除算器18からの出力信号E(Tk))は(数18)となる。
【0071】
【数18】

【0072】
(数18)の右辺第一項は、除算器18からの出力信号(E(Tk))には、クラッタの振幅の変動成分のみが含まれていることを意味しており、通常クラッタの振幅の変動成分は、非常にわずかであり、その周波数も非常に低いので、従来のウォールフィルタに比べ緩やかな特性のハイパスフィルタでも十分な性能が得られる。
【0073】
また、(数18)の右辺第二項は、血流成分に対し、クラッタの移動により加味された位相項を除去することを意味しており、クラッタの移動により、血管自身が動いたことによる血流の速度成分を相殺することができ、生体内での相対的な速度が算出できることを意味している。
【0074】
なお、除算器18は、複素数の除算を行うものであり、実際の演算は、クラッタ成分推定部10からのクラッタ信号(C(Tk))の共役複素数を、メモリ15からのエコー信号(Ek)に乗算することで実施可能である。
【0075】
このような本発明の第2の実施の形態の超音波ドプラ血流計によれば、位相角推定部12からの位相角からクラッタ信号を算出するクラッタ信号算出部17と、エコー信号とクラッタ信号算出部17からのクラッタ信号との除算を行う除算器18を設けることにより、クラッタ成分を大きく除去したエコー信号をウォールフィルタ5に入力することが可能となり、特性の緩やかなウォールフィルタ5を用いても十分に血流情報のみを抽出することが可能であると同時に、血管自身が動いたことによる血流の速度成分を相殺することができ、生体内での相対的な血流速度が算出可能となる。
【0076】
(実施の形態3)
次に、本発明の第3の実施の形態の超音波ドプラ血流計におけるクラッタ成分推定部10およびクラッタ成分除去部11の詳細なブロック図を図8に示す。
【0077】
クラッタ成分推定部10は、
位相検波部4からのベースバンドエコー信号を入力とし、各サンプルデータに含まれるクラッタ信号の位相角を推定する位相角推定部12と、
位相検波部4からのベースバンドエコー信号を入力とし、各サンプルデータに含まれるクラッタ信号の振幅を推定する振幅推定部13と、
位相角推定部12からの位相角からクラッタ信号を算出するクラッタ信号算出部17から構成される。
【0078】
クラッタ成分除去部11は、位相検波部4からのベースバンドエコー信号を一旦蓄えるメモリ15と、メモリ15から出力されるエコー信号とクラッタ成分推定部10からのクラッタ信号との除算を行う除算器18と、除算器18の出力信号から振幅推定部13からの信号を減算する減算器19から構成される。
【0079】
以上のように構成された本発明の第3の実施の形態におけるクラッタ成分推定部10およびクラッタ成分除去部11について、数式を用いてその動作を説明する。
【0080】
位相角推定部12では、本発明の第1および2の実施の形態での動作と同様に、まず、(数4)のm、nの算出を行い、時刻(Tk)でのエコー信号に対する位相角推定部12の出力(θc(Tk))を、(数9)に従い算出する。
【0081】
クラッタ信号算出部17は、位相角推定部12の出力(θc(Tk))から、クラッタ信号(C(Tk))を以下の式に従い出力する(数19)。
【0082】
【数19】

【0083】
これは、クラッタ信号と同じ位相角を持つ単位ベクトルである。
【0084】
振幅推定部13では、本発明の第1の実施の形態での動作と同様に、まず、(数3)のg、hを算出を行い、時刻(Tk)でのエコー信号に対する振幅推定部13の出力(ac(Tk))を、(数14)に従い算出する。
【0085】
クラッタ成分除去部11内のメモリ15は、本発明の第1および2の実施の形態での動作と同様に、クラッタ成分推定部10から出力されるクラッタ信号(C(Tk))のタイミングに合わせてエコー信号(Ek)を除算器18に供給する働きをする、データ遅延用の記憶部である。除算器18は、本発明の第2の実施の形態での動作と同様にエコー信号(Ek)を、クラッタ成分推定部10にて推定されたクラッタ信号(C(Tk))で除算を行い、(数18)で表す((E(Tk))を出力する。
【0086】
減算器19は、除算器18の出力(E(Tk))から、振幅推定部13の出力(ac(Tk))を減算する。これにより、減算器19の出力信号(E(Tk))は(数20)となる。
【0087】
【数20】

【0088】
(数19)より、減算器19の出力信号(E(Tk))には、クラッタの信号成分は含まれず、さらにクラッタの移動により、血管自身が動いたことによる血流の速度成分を相殺した血流成分が含まれていることを意味している。
【0089】
このような本発明の第3の実施の形態の超音波ドプラ血流計によれば、除算器18の出力信号から振幅推定部13からの信号を減算する減算器19を設けることにより、クラッタ成分をほとんど除去したエコー信号をウォールフィルタ5に入力することが可能となり、本発明の第2の実施の形態よりさらに特性の緩やかなウォールフィルタ5を用いても十分に血流情報のみを抽出することが可能であると同時に、血管自身が動いたことによる血流の速度成分を相殺することができ、生体内での相対的な血流速度が算出可能となる。
【0090】
なお以上の説明では、信号を処理する手段として別々のハードウェアを用いるものとして説明をしたが、高速のマイクロプロセッサを用いても同等の処理を行うことは可能である。
【0091】
本実施の形態1〜3では相関演算処理について述べたが、フーリエ変換を用いてもクラータ成分の速度を求めることができる。
【産業上の利用可能性】
【0092】
以上のように、本発明にかかる超音波ドプラ血流計は、
クラッタ成分の振幅及び速度を推定するクラッタ成分推定手段と、前記クラッタ成分推定手段により推定されたクラッタ成分の振幅及び速度情報を元に前記エコー信号からクラッタ成分除去するクラッタ成分除去手段を設けることにより、急峻なウォールフィルタを用いなくても十分なクラッタ成分の除去が可能となり、信号/ノイズ比の向上、フレームレートの向上が可能という効果を有し、医用分野において、体内の血流を測定し、画像表示を行う超音波ドプラ血流計等として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】本発明の第1の実施の形態における超音波ドプラ血流計のブロック図
【図2】本発明の第1の実施の形態におけるクラッタ成分推定手段とクラッタ成分除去手段の詳細な構成を説明したブロック図
【図3】本発明の第1の実施の形態における位相検波部から出力されるエコー信号を説明した図
【図4】本発明の第1の実施の形態におけるクラッタ成分除去部から出力されるエコー信号を説明した図
【図5】本発明の第1の実施の形態におけるウォールフィルタから出力されるエコー信号を説明した図
【図6】低次のウォールフィルタを用いた従来の超音波ドプラ血流計でのウォールフィルタから出力されるエコー信号を説明した図
【図7】本発明の第2の実施の形態における超音波ドプラ血流計でのクラッタ成分推定手段とクラッタ成分除去手段の詳細な構成を説明したブロック図
【図8】本発明の第3の実施の形態における超音波ドプラ血流計でのクラッタ成分推定手段とクラッタ成分除去手段の詳細な構成を説明したブロック図
【図9】従来の超音波ドプラ血流計のブロック図
【図10】従来の超音波ドプラ血流計に用いられるウォールフィルタのブロック図
【符号の説明】
【0094】
1,91 送信部
2,92 プローブ
3,93 受信部
4,94 位相検波部
5,95 ウォールフィルタ
6,96 血流情報演算部
7,97 包絡線検波部
8,98 ディジタルスキャンコンバータ
9,99 モニタ
10 クラッタ成分推定部
11 クラッタ成分除去部
12 位相角推定部
13 振幅推定部
14 クラッタ信号算出部
15 メモリ
16 減算器
17 本発明の第2および3の実施の形態におけるクラッタ信号算出部
18 本発明の第2および3の実施の形態における除算器
19 本発明の第3の実施の形態における減算器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検生体中に送信した複数の超音波パルスに対する複数のエコー信号から、少なくともクラッタ成分速度を推定するクラッタ成分推定手段と、前記クラッタ成分推定手段により推定されたクラッタ成分の速度情報を元に前記エコー信号からクラッタ成分除去するクラッタ成分除去手段とを有することを特徴とする超音波ドプラ血流計。
【請求項2】
クラッタ成分推定手段はクラッタ成分の振幅及び速度を推定し、クラッタ成分除去手段はクラッタ成分推定手段からのクラッタ成分の振幅及び速度情報を元に前記エコー信号からクラッタ成分除去することを特徴とする請求項1に記載の超音波ドプラ血流計。
【請求項3】
クラッタ成分推定手段は前記複数のエコー信号の相関演算処理により得られた相関ベクトルの位相角からクラッタ成分の速度を求めることを特徴とする請求項1に記載の超音波ドプラ血流計。
【請求項4】
クラッタ成分推定手段は前記複数のエコー信号の相関演算処理により得られた相関ベクトルの位相角からクラッタ成分の速度を求め、前記複数のエコー信号の振幅の平均値からクラッタ成分の振幅を求めることを特徴とする請求項2に記載の超音波ドプラ血流計。
【請求項5】
クラッタ成分推定手段は推定されたクラッタ速度とクラッタ振幅から各エコー信号に対する各クラッタ信号を演算し、クラッタ成分除去手段は各エコー信号から各クラッタ信号を減算することを特徴とする請求項2〜4いずれか1項に記載の超音波ドプラ血流計。
【請求項6】
クラッタ成分推定手段は推定されたクラッタ速度から各エコー信号に対する各クラッタ信号の位相角を演算し、クラッタ成分除去手段は各エコー信号を各クラッタ信号で除算することを特徴とした請求項1〜3いずれか1項に記載の超音波ドプラ血流計。
【請求項7】
クラッタ成分推定手段は推定されたクラッタ速度とクラッタ振幅から各エコー信号に対する各クラッタ信号の位相角および振幅を演算し、クラッタ成分除去手段は、各エコー信号を各クラッタ信号の位相角で除算した後、各クラッタ信号の振幅を減算することを特徴とする請求項2〜4いずれか1項に記載の超音波ドプラ血流計。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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