説明

超音波プローブ及び超音波診断装置

【課題】圧電体単結晶からなる振動子を脱分極させることなく低電圧のバイポーラパルスによって駆動し、かつ高いペネトレーションを得る。
【解決手段】超音波プローブ11の先端部内に、圧電体単結晶からなる複数の振動子15を配列し、各振動子15にプリアンプ23を接続する。各振動子15は、超音波観測器12のパルサ34から供給された低電圧のバイポーラパルスにより駆動され、脱分極を生じることなく超音波を発生する。振動子15が反射波を受信して出力したエコー信号は、プリアンプ23により増幅されて超音波観測器12に伝送されるので、ケーブル29の電気容量による影響を受けることがなく、ペネトレーションの向上を図ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波を送受信する振動子を備えた超音波プローブと、超音波プローブに超音波を送受信させる超音波観測器を備えた超音波診断装置とに関する。
【背景技術】
【0002】
被検者に送信した超音波の反射波を受信し、反射波の強弱を輝度に変換して画像を生成する超音波パルス反射法を用いた医療機器として、超音波診断装置が知られている。超音波診断装置は、先端部内に振動子を備えた超音波プローブと、振動子に超音波を発生させ、振動子が受信した超音波を画像化する超音波観測器とから構成されている。
【0003】
超音波観測器は、ケーブルを介して接続された超音波プローブの振動子に駆動信号を入力する。振動子は、超音波観測器から入力された駆動信号に基づいて超音波を発生する。振動子が発生した超音波は、被検者の体内に向けて送信され、音響インピーダンスの境界で反射し、振動子により反射波が受信される。振動子は、受信した反射波の強弱に応じたエコー信号を発生する。超音波観測器は、エコー信号の強弱を輝度に変換して画像を生成する。
【0004】
振動子は、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(以下、PZTと呼ぶ)等の強誘電体に分極処理を施して圧電性が付与された圧電セラミックス等からなる。分極処理とは、強誘電体に高電界を印加して自発分極の向きを揃え、残留分極を持たせる処理であり、分極処理後のPZTは、図5に示すようなヒステリシス特性を有している。強誘電体は、自身が有する分極方向と逆方向の電界が、ある一定以上の大きさで加えられると自発分極が弱まり(脱分極またはデポールという)、抗電界Ec以上の逆電界が加えられると完全に脱分極され、自発分極は消失し、変位能、受信能を失ってしまう。そのため、超音波観測器から振動子に供給される駆動信号の電圧は、振動子に印加される電界が、振動子の自発分極と逆方向について抗電界を超えないように設定されている。
【0005】
超音波診断装置には、体内のより深部を高精細な画像で確かな診断を行いたいという要求から、高分解能及び高感度であることが望まれており、これらの性能を実現するため様々な発明がなされている。例えば、高分解能を得るため、振動子の駆動信号として一般的なユニポーラパルス(図6参照)に代えて、バイポーラパルス(図2参照)を用いた超音波診断装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
バイポーラパルスは、最初のパルスによる振動子の振動を次の逆極性のパルスが打ち消すように印加される。このため、バイポーラパルスに基づく超音波は、ユニポーラパルスのそれよりも発振時間が短くなり、ユニポーラパルスの場合の冗長部分をカットしたものとなる。バイポーラパルスに基づく超音波は、周波数分析にかけてスペクトル図を描くと、ユニポーラのそれよりも広帯域である。したがって、画像の分解能を向上させることができる。
【0007】
また、感度を向上させて高いペネトレーション(深達度ともいう)を得るため、電気機械結合係数が高く、超音波及び反射波の送受信能力に優れた圧電体単結晶からなる振動子を用いた超音波診断装置も知られている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2000−005180号公報
【特許文献2】特開2000−014672号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
高分解能及び高感度を両立するため、圧電体単結晶からなる振動子をバイポーラパルスによって駆動させることが考えられている。しかし、図3に示すように、圧電体単結晶は、抗電界Ec、−Ecの範囲がPZTのような圧電体セラミックスに比べて狭いため、電圧幅が広いバイポーラパルスでは余計に脱分極が発生しやすくなる。脱分極を防止するには、抗電界を超えないように駆動信号の電圧を低くせざるをえないが、振動子から送信される超音波のパワーが弱くなり、ペネトレーションが低下してしまう。
【0010】
本発明の目的は、圧電体単結晶からなる振動子を脱分極させることなく低電圧のバイポーラパルスによって駆動し、高いペネトレーションを得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の超音波プローブは、圧電体単結晶からなる振動子であって、超音波観測器の送信回路から供給されたバイポーラパルスにより超音波を発生し、反射波を受信してエコー信号を出力する振動子と、電気容量性の伝送線路を介さずに振動子に直接接続されてエコー信号を増幅する増幅手段とを備えている。
【0012】
圧電体単結晶は、少なくともチタン酸鉛を含み、Pb[(B1,B2)1−XTi]Oにて表される固溶系圧電体単結晶であって、Xが0.05〜0.55であり、B1がZn、Mg、Ni、Sc、In、Ybのいずれか1つであり、B2がNbあるいはTaのいずれか一方である。
【0013】
振動子の使用電界強度は、250V/mm以下であることが好ましい。
【0014】
本発明の超音波診断装置は、上述した超音波プローブと、この超音波プローブにバイポーラパルスを出力する送信回路、及び超音波プローブによって増幅されたエコー信号を受信する受信回路を有する超音波観測器とを備えている。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、圧電体単結晶からなる振動子をバイポーラパルスで駆動させ、電気容量性の伝送線路を介さずに増幅手段と振動子を直接接続するので、振動子と増幅手段間のエコー信号の減衰が低減され、振動子に脱分極が発生しないよう低電圧で駆動させてもペネトレーションを向上させることができる。
【0016】
圧電体単結晶として、チタン酸鉛を含む様々な種類のものを用いることができるので、超音波プローブの用途やコスト等を考慮して最適な圧電体単結晶を選定することができる。
【0017】
また、圧電体単結晶の抗電界を考慮して使用電界強度を規定したので、振動子に脱分極が発生することはない。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の超音波診断装置の構成を示すブロック図である。
【図2】バイポーラパルスの一例を示すグラフである。
【図3】圧電体単結晶のヒステリシス特性を示すグラフである。
【図4】診断部位に応じた超音波の使用周波数を示す表である。
【図5】PZTのヒステリシス特性を示すグラフである。
【図6】ユニポーラパルスの一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を実施した超音波診断装置の実施形態について説明する。図1に示すように、超音波診断装置10は、超音波プローブ11と、超音波観測器12とを備えている。超音波プローブ11は、例えば、被検者の体表面に先端部が当接される体外式のものであり、被検者の体表面から体内に向けて超音波を送信し、音響インピーダンスの境界で反射した反射波を受信する。超音波観測器12は、超音波プローブ11に超音波を送信させ、超音波プローブ11が反射波を受信して出力したエコー信号を画像化する。
【0020】
超音波プローブ11の先端部には、振動子アレイ14が配設されている。振動子アレイ14には、例えば、凸状に形成された支持体上に、1次元または2次元アレイ状に複数の振動子15が配列されたコンベックス電子走査方式が採用されている。
【0021】
振動子15は、分極処理を施して圧電性を付与した圧電体単結晶からなり、超音波観測器12から供給された駆動信号に基づいて超音波を発生し、反射波を受信してエコー信号を出力する。圧電体単結晶は、PZTに比べて極めて高い電気機械結合係数を有し、超音波の送受信能力に優れている。
【0022】
振動子15に用いられる圧電体単結晶には、Pb[(B1,B2)1−XTi]Oの一般式にて表された、少なくともチタン酸鉛を含む固溶系圧電体単結晶が用いられている。前記一般式のXは、0.05〜0.55であることが好ましく、B1はZn、Mg、Ni、Sc、In、Ybのいずれか1つであり、B2がNbあるいはTaのいずれか一方であることが好ましい。
【0023】
上記条件に該当する固溶系圧電体単結晶として、例えば、亜鉛ニオブ酸鉛−チタン酸鉛(Pb[(Zn1/3Nb2/3)Ti]O)(PZNT)、あるいはマグネシウムニオブ酸鉛−チタン酸鉛(Pb[(Mg1/3Nb2/3)Ti]O)(PMNT)等の2成分系単結晶を用いることができる。なお、上記一般式においてXを0.05〜0.55の範囲に規定しているのは、圧電体単結晶のキュリー温度及び電気機械結合係数を一定以上に維持するためである。また、PZTの単結晶を用いてもよい。
【0024】
振動子15に用いる圧電体単結晶は、例えば固相エピタキシー法(SPE法)によって作製するのが好ましい。固相エピタキシー法は、基材上にイオン注入や蒸着等によって形成された非晶質層を比較的低温で熱処理し、固相のままエピタキシャル薄膜を成長させる方法であり、安価に圧電体単結晶を作製することができる。なお、固相エピタキシー法を用いて作製された圧電体単結晶は、分極処理後の抗電界がその他の方法により作製されたものよりも低くなるが、本実施形態では振動子15を脱分極が発生しない低電圧で駆動するため、問題は生じない。
【0025】
振動子15は、上記圧電体単結晶の対向する2面を一対の電極16で挟んでいる。一方の電極16は、各振動子15の共通電極であり、グランドに接続されている。他方の電極16には、第1共通伝送路17が接続されている。第1共通伝送路17は、超音波観測器12から供給された駆動信号、及び振動子15が発生したエコー信号を伝送する。
【0026】
第1共通伝送路17の後段には、第1スイッチ19の一端が接続されている。第1スイッチ19の二股に分岐した他端には、第1、第2分岐伝送路20、21がそれぞれ接続されている。第1スイッチ19は、第1、第2分岐伝送路20、21のうち、第1共通伝送路17に接続する分岐伝送路を選択的に切り替える。
【0027】
第1、第2分岐伝送路20、21は、それぞれ駆動信号とエコー信号を伝送する。第2分岐伝送路21には、エコー信号を増幅するプリアンプ23が介挿されている。プリアンプ23は、例えば、エミッタフォロア回路を構成するトランジスタからなる。
【0028】
第1、第2分岐伝送路20、21は、プリアンプ23の後段で第2スイッチ25の2つの分岐端にそれぞれ接続している。第2スイッチ25の他端には、駆動信号及びエコー信号を伝送する第2共通伝送路26が接続されている。第2スイッチ25は、第1スイッチ19に連動して、第1、第2分岐伝送路20、21のうち、第2共通伝送路26に接続する分岐伝送路を選択的に切り替える。
【0029】
第2共通伝送路26は、その途中からシールド線28となり、複数本が束ねられてケーブル29となっている。ケーブル29は、一般的な体外式で1〜2m、内視鏡の先端に振動子を内蔵した超音波内視鏡では3.5m程の長さとなる。ケーブル29の後端には、コネクタ部(図示せず)が設けられており、このコネクタ部を超音波観測器12のソケット部(図示せず)に差し込むことにより、超音波プローブ11と超音波観測器12とが電気的に接続される。
【0030】
第1共通伝送路17及び第2分極伝送路21は、数mの長さを有するケーブル29と比べて極めて短く、電気容量及びその線抵抗による電圧降下量も微小である。したがって、プリアンプ23は、伝送線路を介さずに振動子15と直接接続しているのにほぼ等しい状態となる。
【0031】
超音波観測器12のソケット部は、マルチプレクサ(以下、MUXと表記する。)31に接続されている。MUX31は、振動子アレイ14の中から駆動させる振動子15を選択的に切り替える。
【0032】
MUX31には、第3スイッチ33の一端に接続されている。第3スイッチ33の2つの分岐端には、超音波を発生させるための駆動信号を出力するパルサ34と、エコー信号を受信するレシーバ35とがそれぞれ接続されている。第3スイッチ33は、第1スイッチ19及び第2スイッチ25に連動して、パルサ34、レシーバ35が繋がれた分岐伝送路のうち、第2共通伝送路26に接続する分岐伝送路を選択的に切り替える。
【0033】
第1〜第3スイッチ19、25、33は、切り替え制御信号を外部から入力する必要のない、決まった方向に電力を伝送するサーキュレータなどの電子スイッチからなる。振動子15から被観察部位に超音波を照射する際には、図示のように第1〜第3スイッチ19、25、33が第1分岐伝送路20、パルサ34に接続し、被観察部位からの反射波を受信する際には、第1〜第3スイッチ19、25、33が第2分岐伝送路21、レシーバ35に接続する。
【0034】
なお、第1〜第3スイッチ19、25、33は、実際には第1、第2分岐伝送路20、21、パルサ34及びレシーバ35に繋がる伝送路の両方と接続しており、パルサ34を起点として、第2共通伝送路26から第1分岐伝送路20、第1共通伝送路17を通って振動子15に至る駆動信号を伝送する方向と、振動子15を起点として、第1共通伝送路17から第2分岐伝送路21、第2共通伝送路26を通ってレシーバ35に至るエコー信号を伝送する方向の2つの決まった方向にのみ電力を伝送する。
【0035】
パルサ34は、図2に示すように、駆動信号として双極性のバイポーラパルスを発生し、振動子15に印加する。バイポーラパルスは、最初のパルスによる振動子15の振動を次の逆極性のパルスが打ち消すように印加されるので、バイポーラパルスに基づく超音波は、ユニポーラパルスのそれよりも発振時間が短くなり、ユニポーラパルスの場合の冗長部分をカットしたものとなる。バイポーラパルスに基づく超音波は、周波数分析にかけてスペクトル図を描くと、ユニポーラのそれよりも広帯域になるので、画像の分解能を向上させることができる。
【0036】
図3に示すように、圧電体単結晶からなる振動子15は、図5に示すPZTよりも抗電界Ec、−Ecの範囲が狭いので、脱分極が発生しやすいという性質を有している。例えば、圧電体単結晶の抗電界|Ec|は350V/mmであり、PZTの抗電界|Ec|は1kV/mmである。したがって、パルサ34から出力されるバイポーラパルスは、振動子15に脱分極が発生しないように、従来のPZTからなる振動子よりも低電圧となっている。
【0037】
本実施形態では、例えば、振動子15が256個、第3スイッチ33、パルサ34及びレシーバ35からなる送受信回路が48個設けられている。MUX31は、256個の振動子15のうち、隣り合う48個の振動子15を1つのブロックとして同時に駆動させるように、パルサ34に接続された伝送路を選択し、駆動信号及びエコー信号の1回の送受信毎に、駆動させる振動子15を1〜数個ずつずらしていく。
【0038】
パルサ34にはタイミングコントローラ37が、レシーバ35にはメモリ38がそれぞれ接続されている。タイミングコントローラ37は、CPU39の制御の下に、駆動信号を発生させるためのタイミング信号をパルサ34に出力する。パルサ34は、タイミング信号に基づいて、振動子15に駆動信号を送信する。メモリ38は、レシーバ35で受信されたエコー信号を一旦格納する。
【0039】
メモリ38には、位相整合演算部40が接続されている。位相整合演算部40は、CPU39の制御の下に、メモリ38からの各エコー信号に対して、時間差に応じた遅延を与えた後、各エコー信号を加算する。
【0040】
位相整合演算部40から出力された加算されたエコー信号は、検波、Log圧縮後、表示画像演算部42に入力される。表示画像演算部42は、位相整合演算部40からの信号に各種画像処理を施した後、テレビ信号の走査方式(NTSC方式)に変換する。表示画像演算部42によりNTSC方式に変換された信号は、アナログ信号に変換され、モニタ43に超音波画像として表示される。
【0041】
次に、上記実施形態の作用について説明する。超音波プローブ11は、先端部が被検者の体表面に当接される。超音波観測器12では、CPU39の制御の下に、MUX31により駆動すべき振動子15に接続した第2共通伝送路26が選択され、タイミングコントローラ37からのタイミング信号によりパルサ34から駆動信号が発せられる。
【0042】
バイポーラパルスからなる駆動信号は、第2共通伝送路26、第1分岐伝送路20、第1共通伝送路17を通って、振動子15に伝送される。振動子15は、バイポーラパルスにより励振され、これにより、振動子15から被観察部位に向けて超音波が送信される。
【0043】
被観察部位に送信された超音波は、被検者の体内において、音響インピーダンスの境界で反射される。振動子15は、反射波を受信し、その強度に応じてエコー信号を出力する。エコー信号は、第1共通伝送路17、第2分岐伝送路21を通り、プリアンプ23により増幅され、第2共通伝送路26を通ってレシーバ35に受信される。
【0044】
駆動信号のバイポーラパルスは、振動子15の脱分極を防止するため、従来のPZTからなる振動子に供給されるものよりも低電圧となっている。したがって、振動子15から送信される超音波は、PZTからなる振動子を用いた従来の診断装置よりも弱くなり、エコー信号も小さくなってしまう。しかし、本実施形態では、振動子15から出力された直後のエコー信号を振動子15に直接接続したプリアンプ23により増幅しているので、振動子15を低電圧駆動させてもその分の感度低下をエコー信号の減衰を低減させることで補うことができ、ペネトレーションを向上させることができる。
【0045】
プリアンプ23を超音波観測器12に設け、ケーブル29を介して超音波観測器12に伝送した後にエコー信号を増幅すると、ケーブル29の電気容量によってエコー信号が減衰してしまうため、プリアンプ23による増幅率を大きくしなければならない。信号の増幅率を大きくするとノイズも大きくなってしまうため、本実施形態のように、振動子15に直結されたプリアンプ23によってエコー信号を増幅するのが最も効果的である。
【0046】
駆動信号及びエコー信号の1回の送受信が終了すると、MUX31により駆動させる振動子15が切り替えられて上記同様の処理が施され、被観察部位に超音波が走査される。
【0047】
レシーバ35で受信されたエコー信号は、メモリ38に一旦格納される。メモリ38に格納されたエコー信号は、CPU39の制御の下に、位相整合演算部40で時間差に応じた遅延がかけられて加算される。位相整合演算部40で加算されたエコー信号は、検波、Log圧縮後、表示画像演算部42によりNTSC方式に変換され、アナログ信号に変換されてモニタ43に超音波画像として表示される。
【実施例】
【0048】
図5に示すように、超音波プローブ11から被検者に送信する超音波の周波数は診断部位によって異なっており、例えば、腹部の診断では3.5MHzの超音波が使用され、乳腺または表皮の診断では10MHzの超音波が使用される。周波数は、バイポーラパルスのパルス幅や繰返し周期、振動子15の膜厚等によって調整されるため、バイポーラパルスの電圧が同じであっても、振動子15に印加される電界強度は、超音波が高周波になるほど高くなる。
【0049】
例えば、振動子15に供給されるバイポーラパルスの電圧が100Vであるとき、乳腺または表皮の診断では振動子15に1000V/mmの電界強度が印加され、心臓の診断では、振動子15に660V/mmの電界強度が印加される。腹部の診断では、振動子15に印加される電界強度が300V/mmであるため問題ないが、乳腺または表皮を診断する場合には、振動子15に印加される電界強度が抗電界|Ec|=350V/mm以下となるようにバイポーラパルスの電圧を設定しなければならない。
【0050】
図5の表の最下段に示すように、バイポーラパルスの電圧が25Vであれば、乳腺または心臓の診断時に振動子15に印加される電界強度が250V/mmとなる。この電界強度は、圧電体単結晶の抗電界|Ec|=350V/mm以下となるため、振動子15に脱分極が発生することはなく、圧電体単結晶からなる振動子15の使用電界強度として好ましい。
【0051】
上記実施形態では、圧電体単結晶として2成分系単結晶を用いたが、例えば、インジウムニオブ酸鉛−マグネシウムニオブ酸鉛−チタン酸鉛(PIMNT)、スカンジウムニオブ酸鉛−マグネシウムニオブ酸鉛−チタン酸鉛(PZMNT)等の3成分系単結晶を用いてもよい。また、圧電体単結晶の作製に固相エピタキシー法を用いたが、その他の固相法、または気相法あるいは液相法を用いて圧電体単結晶を作製してもよい。
【0052】
上記実施形態では、超音波パルス反射法を用いた体外式の超音波診断装置を例に説明したが、ドプラ法を用いた超音波診断装置、体内式の超音波診断装置にも適用可能である。また、複数の振動子からなる振動子アレイではなく、1個の振動子を機械的に移動させる機械走査式の超音波プローブ、無線プローブにも適用可能である。更には、MUX、パルサ及びレシーバを超音波プローブに内蔵した場合でも上記実施形態と同様の効果をえることができる。
【符号の説明】
【0053】
10 超音波診断装置
11 超音波プローブ
12 超音波観測器
15 振動子
23 プリアンプ
29 ケーブル
34 パルサ
35 レシーバ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電体単結晶からなる振動子であって、超音波観測器の送信回路から供給されたバイポーラパルスにより超音波を発生し、反射波を受信してエコー信号を出力する複数の前記振動子と、
前記振動子に接続されて前記エコー信号を増幅する増幅手段とを備えたことを特徴とする超音波プローブ。
【請求項2】
前記圧電体単結晶は、少なくともチタン酸鉛を含み、Pb[(B1,B2)1−XTi]Oにて表される固溶系圧電体単結晶であり、前記Xが0.05〜0.55であり、前記B1がZn、Mg、Ni、Sc、In、Ybのいずれか1つであり、前記B2がNbあるいはTaのいずれか一方であることを特徴とする請求項1記載の超音波プローブ。
【請求項3】
前記振動子の使用電界強度が250V/mm以下であることを特徴とする請求項1または2記載の超音波プローブ。
【請求項4】
請求項1〜3いずれか記載の前記超音波プローブと、
前記超音波プローブにバイポーラパルスを出力する送信回路、及び前記超音波プローブによって増幅されたエコー信号を受信する受信回路を有する超音波観測器とを備えたことを特徴とする超音波診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−50471(P2011−50471A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−200372(P2009−200372)
【出願日】平成21年8月31日(2009.8.31)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】