説明

超音波モータの駆動回路および駆動方法

【課題】各圧電素子の駆動のタイミングを分散でき、速度むら、外力の影響を防ぎ、被駆動体をスムーズに動かすことができる超音波モータの駆動回路および駆動方法を提供する。
【解決手段】独立に楕円軌道で駆動する複数の圧電素子102を駆動方向に並列に設けた超音波モータ101の駆動回路であって、圧電素子102毎に位相をずらしたパルス波の制御電圧を生成する制御電圧生成部108と、制御電圧に基づいて駆動電圧を印加する駆動電圧印加部109とを備える。これにより、各圧電素子102の駆動のタイミングを分散でき、速度むら、外力の影響を防ぎ、被駆動体107をスムーズに動かすことができる。被駆動体107に外力が加わっている状態でも、被駆動体107への効力がかかるタイミングを分散でき、安定した速度でスムーズに駆動することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摩擦駆動にて被駆動体を駆動する複数個の圧電素子を有する超音波モータの駆動回路および駆動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波モータは、固有の共振周波数の交流電圧が印加されることで、伸縮運動、たわみ運動等を行う。駆動の際には、外部から制御電圧をドライバに直流で印加し、ドライバから出力される交流電圧を駆動電圧として超音波モータに印加する。これにより、ステージ等の被駆動体を動かし、制御することが可能になる。
【0003】
特許文献1記載の超音波モータ装置は、2つの振動子を有するL1B4型モータと、各電源から出力される駆動電圧の位相をずらす位相制御装置と、振動子を保持して移動子に所定の力で押し付ける予圧機構とを有している。そして、各電源から出力される2種類の駆動電圧の位相を変化させ、位相差に応じて移動子の移動速度を変化させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−88815号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1記載の超音波モータ装置は、各圧電素子へ駆動電圧を印加し、L1B4モード付近で共振を生じさせるために位相を制御しており、各圧電素子が独立した楕円軌道で駆動するものではない。したがって、各圧電素子について所定の位相差で駆動することを前提とし、微妙な位相の調整を行うことで移動速度の制御を可能にしているに過ぎない。
【0006】
これに対して、独立に楕円軌道で駆動する複数の圧電素子を駆動方向に並列に設けた超音波モータが知られている。このような超音波モータは、パルス状の制御電圧を各圧電素子に印加し、いずれも同じ位相で駆動する。図8の例は、制御電圧をパルス状にして3つの圧電素子を駆動し、被駆動体を駆動した場合を示している。図8の最下段は、パルス状の制御電圧で超音波モータを駆動した際の被駆動体の速度を示している。
【0007】
しかしながら、図8に示す例のように駆動電圧を印加するものでは、被駆動体が加速、等速、減速、停止を繰り返し、速度むらの原因となる。このように各圧電素子に印加する駆動電圧の位相が等しいときは被駆動体と圧電素子の接点が全ての圧電素子で同時に離れ、被駆動体と超音波モータの摩擦力に変動が発生し、速度むらの原因となる。また、被駆動体に外力が働いている場合等では、被駆動体から圧電素子が離れた瞬間に、外力により被駆動体が移動しうる。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、各圧電素子の駆動のタイミングを分散でき、速度むら、外力の影響を防ぎ、被駆動体をスムーズに動かすことができる超音波モータの駆動回路および駆動方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)上記の目的を達成するため、本発明の超音波モータの駆動回路は、独立に楕円軌道で駆動する複数の圧電素子を駆動方向に並列に設けた超音波モータの駆動回路であって、圧電素子毎に位相をずらしたパルス状の制御電圧を生成する制御電圧生成部と、前記制御電圧に基づいて駆動電圧を印加する駆動電圧印加部を備えることを特徴としている。
【0010】
これにより、各圧電素子の駆動のタイミングを分散でき、速度むら、外力の影響を防ぎ、被駆動体をスムーズに動かすことができる。被駆動体に外力が加わっている状態でも、被駆動体への抗力がかかるタイミングを分散し、安定した速度でスムーズに駆動することができる。
【0011】
(2)また、本発明の超音波モータの駆動回路は、前記制御電圧生成部が、いずれの時点においても、前記圧電素子のうちの1つへの駆動電圧を印加すると同時に他の1つへの駆動電圧の印加を停止するよう制御電圧を生成することを特徴としている。
【0012】
これにより、常にいずれかの圧電素子が停止し、摺動チップが被駆動体と接触しているため、外力によって被駆動体が移動してしまう現象を防止できる。また、すべての圧電素子が同時にON/OFFしないため、被駆動体は加速、等速、減速、停止の大きな変動を繰り返さず、速度むらを防止できる。よって、被駆動体に外力が加わっている状態でも、被駆動体に均一な力が加わり、安定した速度でスムーズに駆動することができる。
【0013】
(3)また、本発明の超音波モータの駆動回路は、前記制御電圧生成部が、前記圧電素子毎にずらしたパルス状の制御電圧の位相差を均等にして制御電圧を生成することを特徴としている。これにより、被駆動体に均一な力が加わり、安定した速度でスムーズに駆動することができる。位相差による各圧電素子の駆動のタイミングは、圧電素子の共振周波数の10波長分の許容範囲をもつ。なお、圧電素子毎の磨耗の進行を均一化するには圧電素子毎にずらしたパルス状の制御電圧の位相差が均等であることが望ましい。
【0014】
(4)また、本発明の超音波モータの駆動回路は、前記制御電圧生成部が、前記複数の圧電素子について時間平均が一定になるように制御電圧を生成することを特徴としている。これにより、安定した速度でスムーズに駆動することができる。また、圧電素子毎の磨耗の進行を均一化することができる。
【0015】
(5)また、本発明の超音波モータの駆動方法は、独立に楕円軌道で駆動する複数の圧電素子を駆動方向に並列に設けた超音波モータの駆動方法であって、圧電素子毎に位相をずらしたパルス状の制御電圧によって出力された駆動電圧を印加することを特徴としている。
【0016】
これにより、各圧電素子の駆動のタイミングを分散でき、速度むら、外力の影響を防ぎ、被駆動体をスムーズに動かすことができる。被駆動体に外力が加わっている状態でも、被駆動体への抗力がかかるタイミングを分散し、安定した速度でスムーズに駆動することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、各圧電素子の駆動のタイミングを分散でき、速度むら、外力の影響を防ぎ、被駆動体をスムーズに動かすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】第1実施形態に係る超音波モータの駆動回路を示すブロック図である。
【図2A】第1実施形態に用いられる超音波モータを示す斜視図である。
【図2B】超音波モータと被駆動体との配置を示す斜視図である。
【図3】第1実施形態のパルスパターンおよび被駆動体速度を示す図である。
【図4】第1実施形態に係る超音波モータの駆動方法によるパルス幅とその間隔を示す概略図である。
【図5】第2実施形態に係る超音波モータの駆動回路を示すブロック図である。
【図6A】第3実施形態に用いられる超音波モータを示す斜視図である。
【図6B】超音波モータと被駆動体との配置を示す斜視図である。
【図7】第4実施形態の超音波モータの駆動回路を示すブロック図である。
【図8】従来技術のパルス状の制御電圧および被駆動体速度を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては同一の参照番号を付し、重複する説明は省略する。
【0020】
[第1実施形態]
図1は、超音波モータの駆動回路100を示すブロック図である。図1に示すように、駆動回路100は、制御電圧生成部108および駆動電圧印加部109を備えており、さらに制御電圧生成部108は、パルス生成部111を備えている。このような構成により、駆動回路100は、超音波モータ101を駆動する。超音波モータ101は、3つの圧電素子102を備えている。
【0021】
パルス生成部111は、各圧電素子102に対して個別の位相でパルス状の制御電圧を生成する。その際、各圧電素子102に対する位相をずらして生成する。制御電圧生成部108は、生成されたパルス状の制御電圧を用いてパルス状の制御電圧Vca〜Vccを生成し、駆動電圧印加部109に出力する。なお、後述のように駆動電圧印加部109に位相回路を設けて、位相を調整することもできるが、パルス生成部111により位相を調整する方が、制御が容易になり、回路構成も複雑にならないため好ましい。
【0022】
制御電圧生成部108は、いずれの時点においても、圧電素子102のうちの1つへの駆動電圧を印加すると同時に他の1つへの駆動電圧の印加を停止することが好ましい。これにより、常にいずれかの圧電素子102が停止すると同時に、摺動チップ103(摺動突起)が被駆動体107と接触しているため、外力による被駆動体107の移動を防止できる。また、すべての圧電素子102が同時にON/OFFしないため、被駆動体107は加速、等速、減速、停止の大きな変動を繰り返さず、速度むらを防止できる。よって、被駆動体107に外力が加わっている状態でも、被駆動体107に均一な力が加わり、安定した速度でスムーズに駆動することができる。
【0023】
制御電圧生成部108は、圧電素子102毎にずらしたパルス状の制御電圧の位相差を均等にして制御電圧を生成することが好ましい。これにより、被駆動体107に均一な力が加わり、安定した速度でスムーズに駆動することができる。位相差による各圧電素子の駆動のタイミングは、圧電素子の共振周波数の10波長分の許容範囲をもつ。なお、圧電素子毎の磨耗の進行を均一化するには圧電素子毎にずらしたパルス状の制御電圧の位相差が均等であることが望ましい。
【0024】
また、制御電圧生成部108は、複数の圧電素子102について時間平均が一定になるように制御電圧を生成する。これにより、安定した速度でスムーズに駆動することができる。また、圧電素子102毎の磨耗の進行を均一化することができる。
【0025】
駆動電圧印加部109は、全圧電素子102に対して単一のものとして構成されており、パルス状の制御電圧Vca〜Vccに基づいて駆動電圧Vda〜Vdcを生成し、各圧電素子102に印加する。駆動電圧Vda〜Vdcの印加により各圧電素子102が伸縮し、超音波モータ101が駆動する。
【0026】
図2Aは、超音波モータ101を示す斜視図である。超音波モータ101は2個つ以上の矩形型の圧電素子102を内部ケース105の内部に一定の空間を空けて配列するように組み込まれている。具体的には、内部ケース105内に独立に楕円軌道で駆動する複数の圧電素子102が駆動方向に並列に設けられている。圧電素子102の主面の一方の面には1つ以上の駆動電極が形成されており、主面の他方の面には、接地電位に保持された共通電極が形成されている。圧電素子102の側面104には摺動チップ103がエポキシ系樹脂接着剤により接着されている。ここで、圧電素子102と摺動チップ103とを強固に接着するには接着強度の大きいエポキシ系樹脂接着剤を使用することが好ましい。
【0027】
図2Bは、超音波モータ101と被駆動体107と配置を示す斜視図である。また、摺動チップ103には被駆動体107との接触によって磨耗粉が発生するのを防ぐためにアルミナ等の硬度の高いセラミックスを使用することが好ましい。内部ケース105は外部ケース106の内部に組み込まれ、内部ケース105の背面と外部ケース106の間にある図示しない予圧機構により、圧電素子102を組み込んだ内部ケース105が押圧されて摺動チップ103の先端部が被駆動体に接触する。
【0028】
圧電素子102の駆動電極に正弦波等の駆動電圧を印加すると、圧電素子102が駆動して、摺動チップ103の先端部が楕円運動する。このことより、摺動チップ103の先端部に接触している被駆動体107が圧電素子102の駆動方向と同一方向に移動することになる。駆動電極は、図示していない駆動電圧印加部109と結線されている。
【0029】
図2Aでは、超音波モータ101に3つの圧電素子102が組み込まれている。図2Aに示す超音波モータ101では、制御電圧をパルス状かつ、圧電素子毎に位相をずらすことで、2つの圧電素子102が駆動(ON)しつつ、1つの圧電素子102が停止(OFF)する状態を、各圧電素子に対して順に作り出す。よって、被駆動体107に外力が加わっている状態でも、被駆動体107に均一な力が加わり、安定した速度でスムーズに駆動することができる。また、3つの圧電素子102が同時にON/OFFしないため、速度むらを防ぐことができる。被駆動体107に外力が加わっている状態でも、被駆動体に均一な力が加わり、安定した速度でスムーズに駆動することができる。
【0030】
図3は、パルス状の制御電圧で超音波モータ101を駆動した際の被駆動体107の速度の一例を示している。制御電圧をパルス状かつ、ずらしたもので3つの圧電素子102を駆動し、被駆動体107を駆動した場合の例である。パルス状の制御電圧を、圧電素子102毎にずらして入力することで、各圧電素子102に印加される駆動電圧もずれ、常に駆動しているものと停止しているものがある状態を作り出す。これにより、被駆動体107に外力が加わっている状態でも、被駆動体107に均一な力が加わり、安定した速度でスムーズに駆動することができる。
【0031】
図4は、超音波モータの駆動方法によるパルス幅とその間隔を示す概略図である。圧電素子102を駆動するための駆動電圧の印加時間tは5ms以上が好ましい。そのような駆動電圧を生成するためには各制御電圧の印加時間も5ms以上である必要がある。また、各圧電素子102を停止しておく時間は圧電素子102の数をnとすると、t/(n−1) で求められる。また、ずらす間隔もt/(n−1)となる。これにより、一定間隔で圧電素子102の駆動および停止を制御する。
【0032】
[第2実施形態]
上記の実施形態では、駆動電圧印加部109が単一で構成されているが、圧電素子102の数に応じて複数で構成されていてもよい。図5は、超音波モータの駆動回路200を示すブロック図である。
【0033】
超音波モータの駆動回路200では、複数個の駆動電圧印加部209が、パルス状の制御電圧を用いて複数個の圧電素子102を駆動する。パルス生成部111を有する制御電圧生成部108は、各駆動電圧印加部209へ位相をずらしたパルス状の制御電圧Vca〜Vccを入力している。そして、各制御電圧Vca〜Vccに従って各駆動電圧印加部209が駆動電圧Vda〜Vdcを出力し、各圧電素子102が伸縮して駆動する。
【0034】
[第3実施形態]
上記の実施形態では、超音波モータ101は3つの圧電素子102を有しているが、2つを有するものでもよい。図6Aは、超音波モータ301を示す斜視図である。また、図6Bは、超音波モータ301と被駆動体107と配置を示す斜視図である。
【0035】
超音波モータ301の基本構造は、超音波モータ101のものと変わらないが、超音波モータ301には3つの圧電素子102が組み込まれているのに対して、超音波モータ201には2つの圧電素子102が組み込まれている。内部ケース305は、2つの圧電素子102を、外部ケース306は、内部ケース305をそれぞれ収容できるように形成されている。超音波モータ201では、制御電圧をパルス状かつ、圧電素子毎にずらすことで、1つの圧電素子102が駆動(ON)し、もう片方の圧電素子102が停止(OFF)するといったON/OFF動作を交互に行う状態を作り出す。これにより、常にどちらか1つの圧電素子102が停止し、摺動チップ103が被駆動体と接触しているため、外力による被駆動体107の移動を防止できる。
【0036】
[第4実施形態]
上記の実施形態では、制御電圧生成部408により制御電圧の位相を制御しているが、位相回路により位相を制御してもよい。図7は、超音波モータ101の駆動回路400を示すブロック図である。超音波モータ101は圧電素子102で構成され、駆動電圧Vda〜Vdcの位相を変えて複数個の圧電素子102を駆動するものである。制御電圧は直流で印加し、駆動電圧印加部409内部にある位相回路410で圧電素子102毎に印加する駆動電圧の位相を変え、各圧電素子102の伸縮のタイミングをずらしている。
【0037】
超音波モータ101に3つの圧電素子102が組み込まれている場合では、3つの圧電素子102への各駆動電圧の位相を120°ずらすことで各圧電素子102の伸縮のタイミングをずらし、摩擦力の変動を小さくすることで等速性能が向上すると共に被駆動体107に外力が加わっている状態でも、スムーズに駆動することができる。
【符号の説明】
【0038】
100 駆動回路
101 超音波モータ
102 圧電素子
103 摺動チップ(摺動突起)
104 圧電素子の側面
105 内部ケース
106 外部ケース
107 被駆動体
108 制御電圧生成部
109 駆動電圧印加部
111 パルス生成部
209 駆動電圧印加部
301 超音波モータ
305 内部ケース
306 外部ケース
400 駆動回路
408 制御電圧生成部
409 駆動電圧印加部
410 位相回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
独立に楕円軌道で駆動する複数の圧電素子を駆動方向に並列に設けた超音波モータの駆動回路であって、
圧電素子毎に位相をずらしたパルス状の制御電圧を生成する制御電圧生成部と、
前記制御電圧に基づいて駆動電圧を印加する駆動電圧印加部を備えることを特徴とする超音波モータの駆動回路。
【請求項2】
前記制御電圧生成部は、いずれの時点においても、前記圧電素子のうちの1つへの駆動電圧を印加すると同時に他の1つへの駆動電圧の印加を停止するよう制御電圧を生成することを特徴とする請求項1記載の超音波モータの駆動回路。
【請求項3】
前記制御電圧生成部は、前記圧電素子毎にずらしたパルス状の制御電圧の位相差を均等にして制御電圧を生成することを特徴とする請求項1または請求項2記載の超音波モータの駆動回路。
【請求項4】
前記制御電圧生成部は、前記複数の圧電素子について時間平均が一定になるように制御電圧を生成することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の超音波モータの駆動回路。
【請求項5】
独立に楕円軌道で駆動する複数の圧電素子を駆動方向に並列に設けた超音波モータの駆動方法であって、
圧電素子毎に位相をずらしたパルス状の制御電圧で駆動電圧を印加することを特徴とする超音波モータの駆動方法。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7】
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【図8】
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