説明

超音波屈折装置およびそれを用いた超音波診断装置

【課題】汎用超音波探触子にアタッチメントを具備し、超音波探触子の対象物に対する位置合わせを容易に行うことのできる超音波偏向アタッチメントおよびそれを用いた超音波診断装置を提供する。
【解決手段】汎用超音波探触子2の超音波ビームを送受信する面へ脱着可能なアタッチメント5を備え、前記アタッチメント5の一部に音速の異なる材料11を超音波ビームに対して傾斜をつけて挿入されている構造で、前記アタッチメント5の中を超音波ビームが通過することによって超音波ビームの一部分が屈折し、位置合わせに用いることにより、対象物に対する超音波探触子の位置合わせを容易に行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療用超音波診断装置に関し、特に頚動脈の計測技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
超音波診断装置は生体における臓器の形状や血流を描出する手段として広い範囲で用いられている。一般的な超音波診断装置の構成を図10に示す。
【0003】
図10において、超音波診断装置本体111に超音波探触子112が接続されており、超音波を体内(図示なし)への送受信は、超音波探触子112内に設けられた配列振動子113を用いて行なわれる。ここに示している超音波診断装置の構成は、電子走査と呼ばれる走査を行なうもので、探触子内に数十から数百の振動子から成る配列振動子113を有し、送受信を行なうための振動子を順次切り替えることで、体内の情報を2次元に表示することが可能である。
【0004】
超音波診断装置は生体の幅広い部位で用いられるが、最近、頸動脈を走査し、頸動脈の血管壁の厚さを測ることで動脈硬化の進行度合い等の情報を得る手法が注目されている。この手法は血管壁の内膜と中膜を合わせた厚さ(内中膜複合体厚)を計測するもので、一般にIMT(Intima Media Thickness)計測と呼ばれる。
【0005】
超音波診断装置を用いたIMT値は、頚動脈付近の首の体表に超音波探触子を接触させて、得られた血管壁の画像データから求める。
【0006】
IMT値を測定する際に正確な値を得るためには、血管に対する探触子の位置合わせが重要となってくる。正確な超音波探触子の位置は、超音波ビームが血管径の中央部(いわば血管の中心軸を含む面上)を通り、また、超音波ビームの走査方向が血管の長手方向と平行である位置であり、血管壁面に対して、超音波がほぼ垂直に通過し、反射波の強弱がより明確に区別できるようにすることが求められる。正確なIMT値を求めるためには、操作者が手で超音波探触子を動かし、位置を調整し、上記の位置に合わせる必要がある。この位置あわせ(調整)により、超音波ビームが血管の中心近傍(超音波ビームが血管を透過(通過)する通過長さが血管の直径相当の長さの位置)を通過することで、得られた超音波画像としては血管径が広く、上記の血管壁が明確に見える画像を抽出することで正確なIMT値が得られる。
【0007】
しかしながら、正確なIMT値が得られるよう、超音波探触子の位置を円滑に操作し、合わせることは熟練を要する。不慣れな操作者においては、正しい位置に超音波探触子を位置させることができず、超音波ビームが血管に対して正確にあたらないことが考えられる。
【0008】
超音波ビームが血管に対して正確に当っていない場合としては2通りのケースが考えられ、1つは超音波探触子が血管に対して平行に位置しているが、超音波ビームが血管径の中央(いわば血管の中心軸を含む面上を通る)位置ではなく幾分中心軸からは離れた、いわば血管の端に当っていることが考えられる。
【0009】
この場合、血管の前壁(超音波探触子に近い側の壁)および後壁(超音波探触子から遠い側の壁)からの反射波の距離間隔が狭くなるため血管径が細く描出され、このような場合、超音波ビームが血管壁を斜めに横切るため、IMT値は実際より大きな値が得られる。
【0010】
もう1つのケースにおいては、超音波探触子が血管の走行方向に対して平行になっていない場合である。この場合は、超音波ビームが血管の中心軸と交差する近傍付近の一部分しか描出されない。一般にIMT値を求めるにはある程度の血管の長軸方向の幅(長さ)の血管情報を得て、その平均を算出する必要があり、この場合にも正確なIMT値を得ることができない。
【0011】
上記の問題を解決し、超音波探触子を正確に位置させる方法として、例えば、特許文献1のような方法が知られている。図11は特許文献1における超音波探触子の構成を示したものである。
【0012】
特許文献1においては、複数の配列振動子を用い、位置合わせを容易にしている。例えば、図11(a)のように2本の配列振動子101,102をT字型に組み合わせ、一方の位置合わせ用配列振動子102で血管の短軸方向(中心軸に垂直な方向)の描出を行ない、この短軸像を血管の長手方向の決められた位置に合わせることで、もう一方の配列振動子101を血管長軸の中心部(血管径の中央部)に合わせられるようにしている。
【0013】
特許文献1においては、図11(b)、(c)に示したように3本の配列振動子101、103、104、101a、103a、104aをH字型またはI字型に直交するように組み合わせることで、位置合わせを容易にしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特表2001−521404
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながら、前記特許文献1のような超音波探触子は、1)超音波探触子の長軸側の端部に別な振動子を設けるためのクリアランスが必要なため、頚部血管などを観察する場合において、端部近傍の画像まで見る際には、位置合わせ用の配列振動子が場所を取るため障害となる点、2)IMT値測定以外の用途としては不向きで汎用性が低い点、また、3)製造過程が複雑なためコストが高く、さらに超音波探触子の幅が大きくなることから操作性が悪いこと、そして、4)診断装置本体にも特別な構成が必要なので物量も増えるという点などの問題を有する。
【0016】
本発明は、前記問題を解決するもので、IMT値の測定の際、安価な構成で、汎用の超音波探触子を所望の血管部位に対して正確な位置に簡単に当てることができる超音波屈折装置およびそれを用いた超音波診断装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
前記課題を解決するために、本発明の超音波屈折装置は、超音波ビームを送受信する超音波探触子にするための固定手段と、前記超音波探触子の前記超音波ビームの送受信面に対抗する対向部材とを有し、前記対向部材は超音波ビームを直進させる直進可能領域と、超音波ビームを屈折する屈折可能領域との2種類の領域を有している。
【0018】
さらに、本発明の超音波診断装置は、超音波屈折装置と、超音波屈折装置を介して超音波ビームを送受信する超音波探触子と、超音波探触子の受信信号から、超音波画像を生成し、表示する本体部と、を備えている。
【発明の効果】
【0019】
本発明の超音波屈折装置および超音波診断装置によれば、汎用超音波探触子を用いて血管の中心の正確な位置へ超音波ビームを当てる位置合わせが容易にできる。また、構造が単純でコストが安く、超音波探触子の幅を大きくすることがないため操作性が良く、超音波探触子および超音波診断装置に特別な構成を不必要とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の超音波屈折装置およびそれを備えた超音波診断装置
【図2】本発明の第1の実施の形態の超音波屈折装置およびそれを備えた超音波診断装置の超音波探触子の概略図
【図3】本発明の第1の実施の形態の超音波屈折装置であるアタッチメントの断面図
【図4】(a)本発明の第1の実施の形態の超音波屈折装置であるアタッチメントの正面図、(b)その側面図
【図5】超音波ビームの屈折を説明するための、材料9と材料11で構成されるアタッチメントの部分の拡大概略断面図
【図6】(a)本発明の第1の実施の形態の超音波屈折装置であるアタッチメントを用いた場合に得られる超音波画像の概念図、(b)それに対応した超音波ビームと血管の位置関係の図
【図7】(a)本発明の第2の実施の形態の超音波屈折装置であるアタッチメントの左側面図、(b)その正面図、(c)その右側面図
【図8】(a)本発明の第3の実施の形態の超音波屈折装置であるアタッチメントの正面、(b)その側面を通過する超音波ビームと血管の位置関係の図
【図9】(a)本発明の第4の実施の形態の超音波屈折装置であるアタッチメントの正面図、(b)その側面図
【図10】従来技術の超音波診断装置の説明図
【図11】(a)従来技術の特許文献1における探触子のT字形状の構成図、(b)H字形状の構成図、(c)カギ形状の構成図
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、本発明の超音波屈折装置および、それを用いた超音波診断装置の実施の形態を図面とともに詳細に説明する。
【0022】
(第1の実施の形態)
図2は、本発明の第1の実施の形態の超音波屈折装置であるアタッチメント5を有した超音波診断装置の超音波探触子の概略図を示す。図2において、超音波ビームを発生する超音波探触子2の先端部の送受信面がアタッチメント5内へ密着するように挿入されている。
【0023】
図3は、本発明の実施の形態1の超音波屈折装置であるアタッチメント5と超音波探触子2の断面図を示す。図3に示すように、超音波探触子2は超音波を送受信する配列振動子3を内蔵している。
【0024】
この配列振動子3に電気信号を印加することにより所定の超音波ビームが送信され、例えば生体を被検体とした場合、生体の組織の音響的な違いがある境界から一部反射され再び配列振動子3で受信されてその反射信号を超音波診断装置で信号処理され画像化される方式であり、これは既に公知である。
【0025】
本実施の形態では、固定手段として超音波探触子2とアタッチメント5にはそれぞれ、凸部分6と凹部分7を設けており、超音波探触子2とアタッチメント5は凸部分6と凹部分7で嵌合し固定される。超音波探触子2の超音波を送受信する面(送受信面)とアタッチメント5との間には空気などの気泡により音響的な不整合がおきて反射しないようにゼ
リー(図示せず)などの超音波伝達媒体を設けておく。
【0026】
なお、アタッチメント5と超音波探触子2の固定方法は凹凸の嵌合に限定するものではなく、また、凹凸の位置も、超音波探触子の長軸側の端部に限定するものでもなく、固定することができれば他の方式でも良い。
【0027】
図4は、本発明の第1の実施の形態の超音波屈折装置であるアタッチメント5の正面図4(a)、側面図4(b)を示す。アタッチメント5と超音波探触子2(図示せず)の超音波ビームの送受信面が接触する中央部分8は超音波ビームが直進するように単一の音速の材料9で構成された直進可能領域を形成しているが、少なくとも配列振動子3の一部、つまり配列振動子3の端部の数チャンネル分からの超音波ビームが通過する部分10は中央部分とは音速の異なる材料11が側面図4(b)のように斜めに挿入されており、材料9と材料11との境界面で超音波ビームを屈折させる(進行方向を変える)屈折可能領域を形成した構造としている。
【0028】
アタッチメント5の材料9の特性としては、超音波の多重反射をなくすように音響インピーダンスは被検体である生体の音響インピーダンス(1.5〜1.65MRayls)に近い値を有し、超音波減衰が小さく、また生体に対して安全であることが求められる。このような材料9としては、シリコーンゴム、ポリウレタン、合成ゴム、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリメチルペンテン、若しくは水、生食塩水、1,3ブタンジオールなどの液体が用いられる。
【0029】
しかし必ずしも、上記生体の音響インピーダンスの範囲に限定しなくとも画像診断に影響しないレベルの材料9を用いても良い。例えば、アタッチメント5の材料9と生体の境界での超音波の反射率10%以下の反射率であれば影響ないとするならば、本発明の第1の実施の形態の構造において、減衰を20dB以下に抑えることになる。超音波探触子2の超音波を送受信する面の領域とアタッチメント5の間に挿入するゼリーの音響インピーダンスを生体と同じ1.5MRaylsと仮定すると、材料の音響インピーダンスは1.2−1.8MRaylsの範囲の材料9をアタッチメント5に使用しても良い。
【0030】
図3に示すように、配列振動子3から送受信する超音波は、アタッチメント5の材料9に対してはほぼ垂直に入射するため、材料の音速が生体と違っていてもほぼ直進する。
【0031】
また、アタッチメント5の材料9のみで構成される部分と材料9と材料11で構成される部分のそれぞれの材料9,11の音速は違いがあることが必要であるが、どちらが速くても、遅くても効果は同じである。
【0032】
図4(b)に示す材料11はアタッチメントの材料9に対して角度を設け傾斜させた構成にしている。これは超音波ビームが直進(図4では上下方向に進行する)するものに対して材料11は角度をもたせて設けていることにより、超音波ビームが材料9と材料11の音速差で屈折させるようにするためである。
【0033】
なお、材料9と材料11の境界で反射が小さくなるように音響インピーダンスは近い値を有することが望ましく、また、材料11は材料9と同様に超音波の減衰が小さいことが望ましい。
【0034】
図5に、材料9と材料11で構成されるアタッチメント5の側面の拡大概略断面図を示す。以下、超音波ビームが音速の異なる材料に伝わる場合にスネルの法則により屈折することを説明する。
【0035】
材料9の中に任意の厚みを有する材料11が傾斜させた状態で構成されている。材料9が単一の音速の材料であり、その中に水平からの角度Aで材料9と音速の異なる材料11が挿入されている。図3、4に示すように材料11は、少なくとも配列振動子3の端部に設けられている。図5において超音波ビーム12は材料11が設けられていない部分は直進し、超音波ビーム14のようになるが、材料11の間に材料9を設けることにより、超音波ビーム12は材料11と材料9の音速差から材料11内に進行する際に屈折する。
【0036】
更に材料11から材料9に超音波ビームが進行する場合は、同様に音速差により屈折して超音波ビーム16のように進行する。このように、アタッチメント5の中に材料11を任意の角度に傾斜させて設けることにより、材料11を通過した超音波ビームは直進するビーム14から外れ、ビーム間距離18を有した位置に超音波ビーム16が進行することになる。
【0037】
受信の超音波ビームの進行に対しても送信の進行と同じ経路で逆向きに進行する。屈折の角度とビーム間距離18の関係は、例えば、単一の音速の材料9の音速が約1000m/sを有するシリコーンゴム、異なる音速の材料11の音速が約2000m/sを有するポリメチルペンテンの材料を用いた場合において、水平からの角度Aが15度の傾きで挿入されているとすると、材料11へ進行する超音波ビーム13‐15は、スネルの法則より超音波ビーム12より約16度(角度B)傾く。
【0038】
次に、単一の音速の材料9へ進入する際に図5に示す超音波ビーム15−16のように、再度、スネルの法則により屈折しアタッチメント5の材料9のみの部分を直進する超音波ビーム12‐13‐14に対して平行になって直進することになる。
アタッチメント5の材料9のみを有する領域の超音波ビーム12‐13‐14と、アタッチメント5の材料9の中に材料11を設けた領域の超音波ビーム15-16のビーム間距離18は、斜めに挿入する材料の厚さ17の厚さに依存する。
【0039】
例えば、ビーム間距離18を1mmとする場合、異なる音速の材料の厚さ17は約1.65mmとなる。また、ビーム間距離18は、音速の異なる材料11の挿入角度Aにも依存している。
【0040】
以上説明したように、この構造により、材料9の中に音速の異なる材料11が挿入されている部分(図4の10:屈折可能領域)では超音波ビームは屈折することでビームの位置が変わる。また、音速の異なる材料11が挿入されていないアタッチメント5の材料9のみの部分(図4の8:直進可能領域)では、超音波ビームは直進する。
【0041】
また、上記アタッチメント5は、構造が簡単なため専用の超音波探触子でなくても、汎用の超音波探触子に取付け可能な点が優れた特徴である。
【0042】
以上の構成のアタッチメント5を汎用の超音波探触子2に設け、超音波診断装置の本体に接続することで、例えば、頚動脈の血管の断層像を表示した場合には、アタッチメント5の材料9のみの部分は、超音波ビームが直進する状態で血管中心を捉えたとき、超音波ビームが屈折するアタッチメント5の端部分10では血管中心からずれた場所を検出することになる(図6参照)。
【0043】
このように、アタッチメント5の端の一部に材料9と音速が違う材料11を設けてその領域で超音波ビームの位置を変えることにより、アタッチメント5の端部分図4の10の領域の画像を観察しながらアタッチメント5の材料9のみの部分の領域の血管断層像を所望の中心部分に簡単に位置合わせすることが可能になる。
【0044】
図6(a)は、本発明の第1の実施の形態の超音波屈折装置であるアタッチメント5を用いた場合に得られる超音波画像(超音波診断装置本体に接続された表示部に表示される超音波画像)の概念図で、図6(b)は、それに対応した超音波ビームと血管の位置関係を示す。図6は、超音波ビーム19、20の走査方向が血管21の長手方向に対して平行で、超音波ビーム19が血管径の中央部分に当っている(超音波探触子が、正確な位置にある)場合に得られる画像の概略図と位置関係である。
【0045】
図6(b)において、超音波ビーム19は材料9のみの部分を通過し直進した超音波ビームを示しており、超音波ビームは血管21の中央に当っている。血管21の前壁22に超音波ビーム19が当り、さらに透過した超音波ビームが血管21の中を通過し、血管21の後壁23に超音波ビーム19が当る。
【0046】
超音波ビーム20は材料9に材料11を挿入した部分(屈折可能領域)を通過したために屈折した超音波ビームを示しており、ビームは血管21の中央からずれた部分に当っている。血管21の前壁24に超音波ビーム20が当り、さらに血管21の中を通過し、血管21の後壁25に超音波ビーム20が当る。
【0047】
図6(a)においてアタッチメント5の材料9のみで構成されている部分の超音波ビーム19が直進することにより得られた前壁の超音波画像22aと後壁の超音波画像23aは、概念画像に示したように、2つの血管壁間の幅(L1およびL1a)が概念画像24a、25aでの幅より広く、超音波ビーム19、20が血管21に対して平行であることから、血管壁は略平行に描出される。つまり、図6(a)の超音波ビーム19による血管壁画像(前壁22aと後壁23a)、および、超音波ビーム20による血管壁画像(前壁24aと後壁25a)とがそれぞれ平行に描出される。
【0048】
また、アタッチメント5の材料9と音速の異なる材料11から成る部分の屈折された超音波ビーム20により得られる血管壁の概念画像24a、25aは、血管21の中央から外れたところにビームが当る。そのため、血管壁およびその概念画像(前壁24aと後壁25a)の幅(L2およびL2a)が、直進した前壁22aと後壁23aの血管壁の幅、概念画像と比較すると狭く、上記同様2つの血管壁は略平行に描出される。
【0049】
以上のように、正確な位置に超音波探触子がある場合、アタッチメント5の材料9のみからなる部分で捉えた血管壁画像22a、23aとアタッチメント5の材料9と音速の異なる材料11の部分で得た血管壁画像24a、25aとを比較すると、前壁と後壁の血管壁の幅は、材料9のみの部分で捉えた血管壁画像22a、23aのほうが広く表示部に表示されることになる。
【0050】
ここで、アタッチメント5を備えた超音波探触子をその短軸方向に平行に移動すると、例えば、血管壁画像22a、23a間(L1a)は徐々に狭くなり、血管壁画像24a、25a間(L2a)は徐々に広くなり、超音波ビームが血管21の中央からズレ、血管21の中央から超音波ビーム19までの距離が超音波ビーム20までの距離と等しくなると血管壁画像22a、23a間(L1a)と、血管壁画像24a、25a間(L2a)とが等しい画像として表示されることとなる。
【0051】
超音波探触子がさらに移動すると、この血管の概念画像の表示の血管壁間が反対で、アタッチメント5の中央部分図4の8の領域が狭く、端部分図4の10の領域の血管の幅が広く表示されている状態であるならば、明らかに超音波探触子が正確に血管の位置に当てられていないことになり、以上の血管壁間と、超音波探触子との関係よりこの画像表示を確認しながら、アタッチメント5の中央部分8の領域の血管の幅が最も広く、端部分10の領域の血管の幅が最も狭く表示される状態に超音波探触子を移動させることで所望の位
置に調整することができる。
【0052】
なお、本実施の形態では材料11は超音波探触子の短軸方向を含み長軸方向に垂直な面内で傾斜させ、超音波ビームを図6の超音波ビームと血管の位置関係の図におけるビーム19からビーム20の方向へ屈折するようにしたが、さらに、図6(b)の奥行き方向へも屈折するように材料11を傾斜させて挿入してもよい。
【0053】
また、アタッチメント5は汎用超音波探触子2と着脱可能にすることにより、位置合せする以外の通常の超音波画像診断に使用したい場合には、アタッチメントを超音波探触子からはずして使用することが可能となり、汎用の超音波探触子を用いて簡単に位置合わせ用に切替えて使用することが可能となるため、構造が単純でコストが安く、さらに従来のT字、H字形状とは異なり、超音波探触子の長軸側、短軸側への寸法増加は嵌合時の支持分だけであることから超音波探触子の幅を格別大きくすることがないため操作性が良く、診断装置に特別な構成を不必要とすることができる。
【0054】
なお、アタッチメント5の材料9の音速が材料11の音速より遅い材料を用いた場合について説明したが、これに限定するものではなく、例えば材料9と材料11の音速が逆の場合であってもよく、材料9と材料11の音速差を持たせる組み合わせにすれば同様の効果が得られる。
【0055】
更にアタッチメント5の材料9内に設ける材料11の形状は均一の厚みを有した場合について説明したが、このほか超音波ビームを屈折させる位置を所望に可変させるように形状を任意に可変しても同様の効果が得られる。なお、それに伴い、屈折された超音波ビームが材料9のみの部分の屈折されていない超音波ビームと平行にならなくてもよい。
【0056】
このように、本発明の超音波屈折装置および、これを用いた超音波診断装置は構造が単純でコストが安く、汎用の超音波探触子を使用できることから、超音波探触子を専用化して幅を大きくする必要がないため操作性が良く、診断装置に特別な構成を不必要とすることができ、IMT値の測定の際、正確な位置に簡単に当てることができる。
【0057】
また、超音波診断装置内に、超音波探触子の位置が目標位置に合致したかどうかを判断する判定部と、判定部の出力により、操作者に目標位置に合致したことを報知する報知手段とを有することにより、超音波探触子の移動に伴い、血管壁間の距離(L1a、L2a)のデータを測定し、例えば距離L1aであれば、最大値になった時に、判定部から目標位置に合致したとの信号を出力し、その信号に基づき、報知手段で操作者に報知することでさらに容易に目標位置に正確に合わせることができる。
【0058】
(第2の実施の形態)
図7は、本発明の実施の形態2の超音波屈折装置であるアタッチメント5aの左側面図7(a)、正面図7(b)、右側面図7(c)を示す。図7において、第1の実施の形態の構成と異なるところは、アタッチメント5aの材料9aの中へ斜めに挿入する音速の異なる材料11aが超音波探触子の長軸方向に相当する左右両端の一部に挿入されていることである。この第2の実施の形態においても、音速の異なる材料11aが設けられている領域では、材料9aと材料11aの境界で超音波ビームが屈折し、材料9aのみの部分の超音波ビームが直進する場所とは異なるずれた場所を画像として得ることができる。
【0059】
このため、図6(a)の超音波画像(概念画像)24a、25aに相当する画像が、超音波画像22a、23aの左側にも表示されるようになる。この、両端の一部に設けた材料11aの領域の超音波画像(断層画像)を観察しながら、材料11aが左右で対象位置にあるとすれば、左右の超音波画像の間隔幅が同じになるように位置合わせを行えるため
、第1の実施の形態と同様の効果が得られる。
【0060】
つまり、この構成で頚動脈の血管の断層像を表示した場合には、超音波ビームが直進する材料9aのみの部分で血管を捉えたとき、材料9aと材料11aから成る超音波ビームが屈折する部分では位置合わせの指標となる前壁と後壁の画像が両端に描出される。両端の前壁と後壁の間の幅を等しくなるように調整することで、超音波ビームを血管に対して平行に当てるための位置合わせができる。
【0061】
なお、図7では、異なる材料11aを両端で逆の傾きに屈折するように挿入しているが、音速の異なる材料11aは両端で同じ傾きに超音波ビームが屈折するように挿入しても、逆の傾きに屈折するように挿入しても位置あわせに有効な形態であれば材料11aの挿入形態に限定されるものではない。
【0062】
なお、アタッチメントの片端に違う方向に超音波ビームが屈折するように音速の異なる材料11を2つ挿入しても、両端に傾きの異なる材料11を2つ挿入してもよい。
また、両端の前壁と後壁の間の幅を等しくなるように調整する際、等しくなったことを報知するような機能を超音波診断装置本体に付加することで、さらに操作性を向上することができる。
【0063】
(第3の実施の形態)
図8は、本発明の実施の形態3の超音波屈折装置であるアタッチメント5bの正面図8(a)、側面図8(b)を示す。図8において、第1、2の実施の形態の構成と異なるところは、アタッチメント5bに挿入する音速の異なる材料11bが超音波探触子の短軸方向の中央を対称軸にしてV字形状に挿入されていることである。この実施の形態においても、V字型に材料11bが設けられている領域は超音波ビームが曲げられ、材料11bが設けられていない材料9bのみで構成される部分のビームが直進する場所とは異なる場所を画像として得ることができるため、第1の実施の形態と同様の効果が得られ、第2の実施の形態と同様に位置合わせが行いやすい。
【0064】
さらに、この構成にすることにより、超音波探触子から発生した超音波ビームを超音波ビーム29、30のように2つに分けることができる。アタッチメント5bの材料11bが設けられていない材料9bのみで構成されている部分の直進する超音波ビーム31に対して屈折した超音波ビーム29と30までの幅が等しくなるように設計しておくことで、アタッチメント5bの材料9bのみで構成されている超音波ビームが直進する部分で血管中心を捉えた場合に、超音波ビーム29で得られる前壁35と超音波ビーム30で得られる前壁37の画像、超音波ビーム29で得られる後壁36と超音波ビーム30で得られる後壁38の画像は、血管がほぼ円形であると仮定すると、それぞれ重なりあって表示される。
【0065】
よって、もし2つの画像が重ならない場合には所望の位置に超音波ビームが当たっていないことから、超音波探触子を移動させ位置を調整すべきであることが容易に認識でき、調整することで所望の血管部位に対して正確な位置に簡単に合わせることができる。
【0066】
なお、本実施の形態では材料11はV字型に材料9に挿入されている構成について説明したが、このほか、材料9と材料11の音速の関係によりV字型以外の構成にしても同様の効果が得られる。
【0067】
(第4の実施の形態)
図9は、本発明の第4の実施の形態の超音波屈折装置であるアタッチメント5cの正面図9(a)、側面図9(b)を示す。図9において、第1、2、3の実施の形態の構成と
異なるところは、アタッチメント5cの両端の一部に下半分に設けた、材料9cの音速と異なる材料11cである。この実施の形態においても、材料9cのみが設けられている中央部分の超音波ビームが直進し得られる画像とは異なる場所を、超音波ビームを曲げて画像として得ることができるため、第3の実施の形態と同様の効果が得られる。
【0068】
この場合、両端の一部に設けた材料11cの領域の超音波ビームは、屈折する回数が上記の実施の形態とは異なり1回であるため、材料9cのみを設けた領域の超音波ビームに対してある角度を持って生体内を進行することになるが、血管の位置合わせをすることは可能である。さらに、上記したように第1、2、3の実施の形態と比較して、異なる材料へ超音波ビームが進行する回数が少なくなるので材料の音響インピーダンスの差による超音波ビームの反射が少なくなる利点もある。
【0069】
なお、本実施の形態では、材料9cの下部分に材料11cを設けた場合について説明したが、このほか材料9cを下に、材料11cを上に位置させた構成にしても同様の効果が得られる。 また、本実施の形態では、材料9cの下半分にV型の材料11cを設けた場合について説明したが、このほか、上面が斜面で、底面が水平の台形形状の材料11を短軸方向に傾斜させた構成にしても同様の効果が得られる。また、本実施の形態では、両端に材料11cを挿入した図を用いて説明したが、片端のみに材料11cを挿入してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明にかかる超音波ビーム屈折用アタッチメントを有した超音波診断装置は、汎用プローブを用いることができ、構造が単純でコストも安く、また、プローブの幅が小さく操作性が良いという特徴を有し、頚動脈の血管壁であるIMT値の測定に有用である。
【符号の説明】
【0071】
1 超音波診断装置本体
2 超音波探触子
3 配列振動子
5、5a、5b、5c 超音波屈折装置
6 凸部分
7 凹部分
8 アタッチメントの中央部分
9、9a、9b、9c 材料1
10 アタッチメントの端部分
11、11a、11b、11c 材料2
12、13、14、15、16 超音波ビーム
17 材料2の厚さ
18 直進超音波ビームと屈折超音波ビームのビーム間距離
19、20 超音波ビーム
21 血管
22 血管前壁
22a 血管前壁の超音波画像
23 血管後壁
23a 血管前壁の超音波画像
24 血管前壁
24a 血管前壁の超音波画像
25 血管後壁
25a 血管前壁の超音波画像
29、30、31 超音波ビーム
35 超音波ビーム29側の血管前壁
36 超音波ビーム29側の血管後壁
37 超音波ビーム30側の血管前壁
38 超音波ビーム30側の血管後壁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波ビームを送受信する超音波探触子に固定するための固定手段と、前記超音波探触子の前記超音波ビームの送受信面に対抗する対向部材とを有し、前記対向部材は前記超音波ビームを直進させる直進可能領域と、超音波ビームを屈折させる屈折可能領域との2種類の領域を有することを特徴とする超音波屈折装置。
【請求項2】
前記超音波屈折装置の前記屈折可能領域は、少なくとも一箇所、前記超音波ビームの直進可能領域の音速とは異なる音速を有する材料を設けることにより前記超音波ビームを屈折することを特徴とする請求項1記載の超音波屈折装置。
【請求項3】
前記超音波屈折装置は、前記超音波探触子の長軸方向の片端若しくは両端に異なる音速を有する材料を設けた請求項2記載の超音波屈折装置
【請求項4】
前記異なる音速を有する材料の形状が、前記超音波探触子の前記超音波ビームの送受信方向に対して傾斜させた構成であることを特徴とする請求項1ないし3記載の超音波屈折装置
【請求項5】
前記音速の異なる材料の形状が板状、V字型若しくは山型に構成されている請求項4に記載の超音波屈折装置。
【請求項6】
前記請求項1ないし5のいずれかに記載の超音波屈折装置と、
前記超音波屈折装置を介して超音波ビームを送受信する超音波探触子と、
前記超音波探触子の受信信号から、超音波画像を生成し、表示する本体部と、
を備えた超音波診断装置。
【請求項7】
前記超音波画像データから、前記超音波探触子の位置が目標位置に合致したかどうかを判断する判定部と、
前記判定部の出力により、操作者に目標位置に合致したことを報知する報知手段とを有する請求項6記載の超音波診断装置。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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