説明

超音波式濃度計

【課題】時間差式の超音波流量計の原理を利用して、温度センサを用いることなく、流体の濃度を精度良く測定可能な超音波式濃度計を得る。
【解決手段】所定の温度、濃度の水溶液に対する受信波形Wの自由振動部分Wbのゼロクロス点から振動の平均周期を求めると、平均周期は温度のみに依存する。流体である水溶液に対し上流と下流から超音波ビームを発し、水溶液中を伝播する伝播時間から水溶液の音速を求める。音速は濃度と比例関係にあり、音速は水溶液の温度によって変化するので、得られた音速と温度によって、温度補正がされた濃度を算出できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、時間差式の超音波流量計の原理を利用して、流体の濃度を測定する超音波式濃度計に関するものである。
【背景技術】
【0002】
時間差式の超音波流量計は図9に示すように、例えば流体が矢印方向に流れるコ字型の管路1の両側に、超音波振動子である圧電素子2、3を取り付けた構造とされている。一方の圧電素子2に電圧を印加して発振させることにより、流体中に超音波ビームを伝播させることができる。他方の圧電素子3はこの超音波ビームを受信すると、その応力から圧電効果を生じ、誘起された電荷を読み取ることで、超音波ビームの受信信号を得ることができる。圧電素子2、3による超音波ビームの送信、受信を交互に行って、流体中の超音波ビームの上流から下流へ、下流から上流への伝播時間をそれぞれ検出する。
【0003】
このようにして、超音波ビームを上流の圧電素子2から流体を経て下流の圧電素子3に伝播させたときの伝播時間Tdと、下流の圧電素子3から上流の圧電素子2に伝播させたときの伝播時間Tuの時間差を基に、流量を測定することは例えば特許文献1等において公知である。
【0004】
即ち、管路1の長さをL、流体の音速をC、管路1内の流体の流速をVとすると、伝播時間Td、Tuは次式のようになる。
Td=L/(C+V) ・・・(1)
Tu=L/(C−V) ・・・(2)
【0005】
これらの式(1)、(2)から音速Cを消去すると、流速Vに関する式(3)が得られる。逆に、流速Vを消去することで、音速Cに関する式(4)を得ることができる。これらの式(3)、(4)は超音波ビームの伝播時間Tu、Tdを求めれば、流速V、音速Cを得ることができることを示している。
V=L(Tu−Td)/(2・Td・Tu) ・・・(3)
C=(L/2)(1/Td+1/Tu) ・・・(4)
【0006】
超音波流量計では、式(3)を用いて流速Vを求め、これに次式(5)のように、管路1の断面積Sを乗ずることにより流体の流量Fを算出できる。
F=V・S ・・・(5)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−25680号公報
【特許文献2】特開2004−309450号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
液体の濃度と音速は相関関係があり、超音波ビームによる反射時間等を用いて流体の濃度を測定することは、例えば特許文献2等で知られている。予め、液体の濃度と音速の関係をテーブルとして記憶しておくことで、液体内の超音波ビームの音速を測定し濃度に換算することができる。
【0009】
しかし、音速は液体の温度により変動するので、濃度測定中に温度を計測し、得られた濃度を温度により補正する必要がある。また、従来の超音波ビームを利用した濃度計は、所定の容器等に液体を充填して測定するものであり、配管中を流れる流体を対象としたものは少ない。
【0010】
本発明の目的は、上述の課題を解決し、従来の超音波流量計の原理を利用して、温度センサを用いることなく、流体の濃度を精度良く測定可能な超音波式濃度計を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するための本発明に係る超音波式濃度計は、流体が流れる管体に距離を隔てて一対の超音波送受信素子を配置し、これらの超音波送受信素子間で前記管体中の流体に対し超音波ビームをそれぞれ送信、受信し、前記超音波ビームの上流から下流へ、下流から上流への伝播時間をそれぞれ検出する伝播時間検出手段と、超音波ビームの受信波形の前半の強制振動部分と後半と自由振動部分のうち、前記後半の自由振動部分の受信パルスの周期を基に流体の温度を算出する温度算出手段と、前記伝播時間検出手段で得られた前記2つの伝播時間から流体の音速を算出する音速算出手段と、該音速算出手段により得られた音速から流体の濃度を算出する濃度算出手段と、前記音速又は前記濃度を前記温度算出手段で得られた温度により補正する温度補正手段とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る超音波式濃度計によれば、流体の温度補正がなされた濃度を求めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施例の超音波式濃度計のブロック回路構成図である。
【図2】超音波ビームの発信及び受信波形図である。
【図3】ゼロクロス法による伝播時間の求め方の説明図である。
【図4】強制振動部分から立ち上り点の時間t0を算出する説明図である。
【図5】ゼロクロス法による時間と最初の立ち上がり点の時間の温度に対する流速の関係のグラフ図である。
【図6】自由振動部分における温度と平均周期のグラフ図である。
【図7】自由振動部分の平均周期を求める説明図である。
【図8】水溶液の濃度と音速の関係のグラフ図である。
【図9】超音波流量計の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明を図1〜図8に図示の実施例に基づいて詳細に説明する。
図1は実施例の超音波式濃度計のブロック回路構成図である。例えば、合成樹脂製の円管から成る管体11に対して、上流及び下流の2個所の所定位置に、超音波送受信素子として超音波ビームを送信、受信するための圧電素子12、13が固定されている。圧電素子12、13は管体11と一体に射出成型された合成樹脂製の取付ベース14、15に固定されている。
【0015】
圧電素子12、13には送受信切換スイッチ16を介して、送信部17、受信部18がそれぞれ択一的に接続されている。送信部17、受信部18は制御演算部19に接続され、更に制御演算部19にはメモリ部20、表示部21が接続されている。制御演算部19は例えばCPUであり、送受信切換スイッチ16、送信部17、受信部18、メモリ部20、表示部21を制御すると共に、内蔵のメモリに記憶したプログラムに従って所定の演算を行う。
【0016】
測定に際しては、制御演算部19の指令で送受信切換スイッチ16により送信部17に圧電素子12を切換え、受信部18を圧電素子13に切換える。図2に示すように、送信部17から圧電素子12に駆動用のパルス電圧を加え、圧電素子12から発生した超音波ビームを流体中に伝達する。超音波ビームは流体中を伝播し、圧電素子13において受信波形Wが得られ、この受信波形Wは受信部18、制御演算部19を経てメモリ部20に記憶される。制御演算部19はメモリ部20に記憶した受信波形Wから超音波ビームの伝播時間Tdを検出する。
【0017】
次に、送受信切換スイッチ16を切換えて、圧電素子13から超音波ビームを送信し、圧電素子12で得られた受信波形Wから同様にして伝播速度Tuを検出する。本実施例においては、これらの伝播速度Td、Tuを基に、前述の式(4)により濃度と相関のある音速Cを求める。
【0018】
本来、超音波ビームの伝播時間とは、図2に示すように正確には送信側の圧電素子にパルスを印加した時間から、受信側の圧電素子による超音波ビームの受信波形の最初の受信パルスが0Vから正の電圧に変わる立ち上がり点の時間t0までのことである。しかし、この立ち上がり点はそれ以前の必要な負の波形データが得られないことから検出が困難であり、一般に近似的な方法としてゼロクロス法が用いられている。
【0019】
ゼロクロス法とは受信波形Wの測定できる部分のうち、受信波形Wの電圧レベルが0Vとなる点であり、パルス印加時間から例えば特定の何番目かの受信パルスのゼロクロス点までの時間、或いは幾つか受信パルスのゼロクロス点の平均時間を求め、超音波ビームの伝播時間としている。
【0020】
本実施例における音速Cの測定においては、制御演算部19によってこのような従来のゼロクロス法によって伝播時間を求めることができる。例えば図3に示すように、1受信波形ごとにドット間隔50ns(クロック周波数20MHz)で100点の波形データを取り込む。各波形について取り込んだデータの中で、最も大きい電圧の点を100mVとし、最も小さい電圧の点を−100mVとして規格化し、0V近傍の4点(正の点2、負の点2)を最小二乗法で線形近似し、その直線と時間軸の交点を求めるべきゼロクロス点とする。
【0021】
一定の流速で、15、20、25、30℃の水の超音波ビームの受信波形を各160波形ずつ、つまり圧電素子12から圧電素子13に伝播させた80個の受信波形、圧電素子13から圧電素子12に伝播させた80個の受信波形を使用した。このようなゼロクロス法から求めた伝播時間Td、Tuを80波形分平均し、制御演算部19によって式(3)から流速Vを求めると、温度の順に0.647、0.654、0.631、0.624(m/s)となった。
【0022】
ゼロクロス法以外にも伝播時間を検出するには相関法が知られているが、更に正確な伝播時間を得るためには、次に説明するように受信波形から最初の立ち上がりの時間t0を推定して使用することが好ましい。
【0023】
復元力のあるばねモデルとして運動方程式を解くと、得られた変位は圧電素子による超音波ビームの受信波形Wと考えられる。図2の受信波形Wのうち、前半の4周期は入力パルス由来の力による強制振動部分Waで、後半は外力が働かない周波数の復元力による自由振動部分Wbである。
【0024】
受信波形Wの前半の強制振動部分Waの周波数は、入力された超音波ビームの共振周波数に支配されているため温度依存性が少なく、超音波ビームの伝播時間の検出に適している。一方、5周期目以降は自由振動部分Wbであり、その共振周波数は弾性スティフネスの影響を受けるため温度変化によって変化する。
【0025】
そこで本実施例においては、音速Cを求めるための伝播時間Td、Tuの検出は、温度依存性が少ない前半の強制振動部分Waから求めることが好ましく、温度情報を後半の自由振動部分Wbから求める。
【0026】
図4に示すように、制御演算部19によって強制振動部分Waのゼロクロス点の位置と時間の例えば4つのプロット点に対し最小二乗法を用いて直線を引くと、その時間軸に対して交叉する切片は最初の立ち上がり点の時間t0を示すことになる。このように、強制振動部分Waから求めた最初の立ち上がり点の時間t0を基に超音波ビームの伝播時間が得られる。
【0027】
強制振動部分Waからの時間t0により、先のゼロクロス法と同じ条件で制御演算部19によって伝播時間Td、Tuを求めて、式(3)から流速Vを算出すると、温度の順に0.647、0.650、0.650、0.649(m/s)となった。
【0028】
図5はゼロクロス法と立ち上り点の時間t0による流速の関係をグラフ図としたものである。従来のゼロクロス法による普遍分散は1.90×10-4で、最初の立ち上がり点を算出して用いる場合には1.78×10-6である。
【0029】
この結果から、ゼロクロス法を用いるよりも、強制振動部分Waにより最初の受信パルスの立ち上がり点を求めた伝播時間の検出は、温度に対する影響が少ないことが確認できた。
【0030】
超音波ビームの受信波形Wの自由振動部分Wbは、流体の温度変化の影響を受け、例えば温度が上昇すると共振周波数が下がるため、自由振動部分Wbの周期が長くなる。制御演算部19によってこの自由振動部分Wbの周波数を算出し、その変化から流体の温度情報を得ることができる。
【0031】
メタノールを水で希釈して作製した濃度0、5、10、15、20%の水溶液について、温度を15、20、25、30℃と変化させ、自由振動部分Wbの平均周期を求めたところ、表1のデータが得られた。
【0032】
表1 自由振動部分の平均周期(ns)
0% 5% 10% 15% 20%
15℃ 472.9 472.9 472.9 472.9 473.0
20℃ 473.6 473.6 473.6 473.6 473.5
25℃ 474.2 474.3 474.3 474.3 474.2
30℃ 474.8 474.7 474.7 474.8 474.8
【0033】
表1は所定の濃度、温度の水溶液に関し、自由振動部分Wbの11番目〜19番目までのゼロクロス点から求めた振動の平均周期を示している。これを図6に示すと、何れの濃度においても平均周期は温度に対しほぼ一定値であり、自由振動部分Wbの平均周期は濃度によらず温度によって定まるパラメータであることが分かる。このように、超音波ビームの自由振動部分Wbの平均周期は、メタノール水溶液濃度0〜20%の間では、温度変化のみに依存することが実験により確認できた。従って、平均周期が得られれば図6から温度を求めることができる。
【0034】
自由振動部分Wbの平均周期を得るためには、制御演算部19は自由振動部分Wbのゼロクロス点を適当に2つ選択し、その差から求めればよい。しかし本実施例では、約2MHzの受信波形Wに対し50nsの間隔で波形を取り込んでいるため、単純に差を求めると分散が大きく、明確な温度依存性が得られない。
【0035】
そこで、本実施例では図7に示すように、各受信パルスのゼロクロス点を番号順にプロットし、自由振動部分Wbの平均周期を求めている。この方法はゼロクロス点まで時間をプロットしているので、その直線の傾きが用いたゼロクロス点に関する平均周期となっており、直線の傾きが大きいほど温度が高くなっている。
【0036】
また、メタノールを水で希釈して作製した濃度0、5、10、15、20%の水溶液について、温度を15、20、25、30℃と変化させ、各音速Cを求めたところ、表2のデータが得られた。
【0037】
表2 メタノール水溶液の音速(m/s)
0% 5% 10% 15% 20%
15℃ 1555 1573 1594 1614 1631
20℃ 1566 1582 1600 1618 1633
25℃ 1577 1590 1606 1621 1633
30℃ 1586 1597 1610 1622 1632
【0038】
流体の濃度が変化すると音速Cが変化し、また温度が変化すると音速Cが変化し、温度が一定の条件であれば、音速Cと濃度は比例関係にあることが実験により確められた。この表2をグラフ化すると図8に示すようになり、予めテーブルとしてメモリ部20に記憶しておけば、制御演算部19は表1で得られた温度を基に、音速Cを濃度に換算することができる。
【0039】
このように、本実施例では超音波ビームの伝播速度から音速Cを求めることができ、先の算出した自由振動部分Wbから得られた平均周期から求めた温度により温度補正を行って、制御演算部19は水溶液の濃度を算出し、表示部21に表示することができる。なお、演算の過程で音速に対し温度補正を行っても濃度に対し温度補正を行っても何れでもよい。
【符号の説明】
【0040】
11 管体
12、13 圧電素子
16 送受信切換スイッチ
17 送信部
18 受信部
19 制御演算部
20 メモリ部
21 表示部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体が流れる管体に距離を隔てて一対の超音波送受信素子を配置し、これらの超音波送受信素子間で前記管体中の流体に対し超音波ビームをそれぞれ送信、受信し、前記超音波ビームの上流から下流へ、下流から上流への伝播時間をそれぞれ検出する伝播時間検出手段と、超音波ビームの受信波形の前半の強制振動部分と後半と自由振動部分のうち、前記後半の自由振動部分の受信パルスの周期を基に流体の温度を算出する温度算出手段と、前記伝播時間検出手段で得られた前記2つの伝播時間から流体の音速を算出する音速算出手段と、該音速算出手段により得られた音速から流体の濃度を算出する濃度算出手段と、前記音速又は前記濃度を前記温度算出手段で得られた温度により補正する温度補正手段とを有することを特徴とする超音波式濃度計。
【請求項2】
前記伝播時間検出手段は前記強制振動部分の波形から前記受信波形の最初の立ち上がり点の時間を算出して前記伝播時間を検出することを特徴とする請求項1に記載の超音波式濃度計。
【請求項3】
前記伝播時間検出手段は前記受信波形のゼロクロス点の時間を基に前記伝播時間を検出することを特徴とする請求項1又は2に記載の超音波式濃度計。
【請求項4】
前記温度算出手段は前記自由振動部分の複数のゼロクロス点の時間間隔から周期を算出することを特徴とする請求項1〜3の何れか1つの請求項に記載の超音波式濃度計。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−226844(P2011−226844A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−94973(P2010−94973)
【出願日】平成22年4月16日(2010.4.16)
【出願人】(305000482)株式会社アツデン (17)
【Fターム(参考)】