説明

超音波振動子エレメントおよび超音波内視鏡

【課題】特性が安定した超音波振動子エレメント20を提供する。
【解決手段】超音波振動子エレメント20は、シリコン基板11と、下部電極層12と、第1絶縁層13と、キャビティ14Aおよびチャネル14Bが形成された第2絶縁層15と、上部電極層16と、有し、第1キャビティ14A1と第2キャビティ14A2とは大きさが異なり、第1開口部15C1から第1キャビティ14A1の中心までの第1チャネル14B1を介した最短距離d1と、第2開口部15C2から第2キャビティ14A2の中心までの第2チャネル14B2を介した最短距離d2と、が同じである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電容量型の超音波振動子エレメント、および、超音波振動子エレメントを具備する超音波内視鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
下部電極と上部電極との間にキャビティ(空隙部)があり、上部電極を含むメンブレンが振動する、静電容量型の超音波振動子セルが知られている。複数の超音波振動子セルが2次元配列した超音波振動子エレメントを、MEMS技術を用いて作製する場合、キャビティ形成には、犠牲層エッチング技術が用いられる。
【0003】
米国特許第5870351号明細書には、酸化シリコンからなる犠牲層の上に形成した上部絶縁層の開口部から、フッ酸溶液等のエッチング剤を流し込み、犠牲層を除去するキャビティ形成方法が開示されている。また、上記明細書には、異なる大きさのキャビティの複数の超音波振動子セルを有する超音波振動子エレメントは、送受信する超音波周波数の広帯域化が可能なことが開示されている。
【0004】
しかし、犠牲層のエッチングにより、異なる大きさのキャビティを作製するのは容易ではないことがあった。すなわち、キャビティの大きさが異なると、犠牲層のエッチング完了までに要する時間が異なる。このために、小さいキャビティの上部絶縁層はエッチング完了後も、大きなキャビティのエッチングが完了するまでエッチング剤に曝される。
【0005】
メンブレンを構成する上部絶縁層が長時間、エッチング剤に曝されると、侵食され薄くなることがある。すると、キャビティ厚さ(高さ)が増大するため超音波の送受信感度が低下したり、共振周波数が変化したりして、超音波振動子エレメントの特性が不安定化するおそれがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第5870351号明細書
【特許文献2】特開2008−118632号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の実施形態は、特性が安定した超音波振動子エレメントおよび特性が安定した超音波内視鏡を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の実施形態の超音波振動子エレメントは、基体と、下部電極層と、第1絶縁層と、キャビティおよびチャネルが形成された第2絶縁層と、上部電極層と、有し、複数の第1超音波セルおよび複数の第2超音波セルが作製されており、前記第2絶縁層に、それぞれの前記第1超音波セルの第1キャビティが複数の第1チャネルを介して流入したエッチング剤による犠牲層のエッチングにより形成されているとともに、それぞれの前記第2超音波セルの第2キャビティが複数の第2チャネルを介して流入した前記エッチング剤による前記犠牲層のエッチングにより形成されており、更に、複数の前記第1チャネルのそれぞれの第1開口部と複数の前記第2チャネルのそれぞれの第2開口部とが形成されており、前記第1キャビティが前記第2キャビティよりも大きく、前記第1開口部から前記第1キャビティの中心までの前記第1チャネルを介した最短距離と、前記第2開口部から前記第2キャビティの中心までの前記第2チャネルを介した最短距離と、が同じである。
【0009】
本発明の別の実施形態の超音波内視鏡は、上記超音波振動子エレメントが配設された先端硬性部を有する挿入部と、前記挿入部の基端に位置する操作部と、前記操作部の側部から延出するユニバーサルコードと、を具備する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の実施形態によれば、特性が安定した超音波振動子エレメントおよび特性が安定した超音波内視鏡を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】第1実施形態の超音波内視鏡を説明するための外観図である。
【図2】第1実施形態の超音波内視鏡の先端部を説明するための斜視図である。
【図3】第1実施形態の超音波内視鏡の先端部の超音波振動子部の構成を説明するための斜視図である。
【図4】第1実施形態の超音波振動子エレメントの超音波振動子セルの構造を説明するための分解図である。
【図5】第1実施形態の超音波振動子エレメントの第2絶縁層のパターンを説明するための上面図である。
【図6】第1実施形態の超音波振動子エレメントの説明するための断面図である。
【図7】第1実施形態の超音波振動子エレメントの第2絶縁層のパターンを説明するための上面図である。
【図8】第1実施形態の超音波振動子エレメントの犠牲層のエッチング処理を説明するための上面図である。
【図9】第2実施形態の超音波振動子エレメントの第2絶縁層のパターンを説明するための分解図である。
【図10】第2実施形態の超音波振動子エレメントの第2絶縁層のパターンを説明するための上面図である。
【図11】第2実施形態の変形例の超音波振動子エレメントの第2絶縁層のパターンを説明するための分解図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<第1実施形態>
以下、図面を参照して第1実施形態の超音波振動子エレメント(以下、「USエレメント」という)20、およびUSエレメント20を有する超音波内視鏡(以下、「US内視鏡」という)2について説明する。
【0013】
<超音波内視鏡の構成>
図1に示すようにUS内視鏡2は、超音波観測装置3およびモニタ4とともに超音波内視鏡システム1を構成する。US内視鏡2は、体内に挿入される細長の挿入部21と、挿入部21の基端に配された操作部22と、操作部22の側部から延出したユニバーサルコード23と、を具備する。
【0014】
ユニバーサルコード23の基端部には、光源装置(不図示)に接続されるコネクタ24Aが配設されている。コネクタ24Aからは、カメラコントロールユニット(不図示)にコネクタ25Aを介して着脱自在に接続されるケーブル25と、超音波観測装置3にコネクタ26Aを介して着脱自在に接続されるケーブル26と、が延出している。超音波観測装置3にはモニタ4が接続される。
【0015】
挿入部21は、先端側から順に、先端硬性部37と、先端硬性部37の後端に位置する湾曲部38と、湾曲部38の後端に位置して操作部22に至る細径かつ長尺で可撓性を有する可撓管部39と、を連設して構成されている。そして、先端硬性部37の先端側には、複数の細長いUSエレメント20(図2等参照)を配設した、超音波送受部である超音波振動子部(以下「US振動部」という)9が配設されている。
【0016】
操作部22には、湾曲部38を所望の方向に湾曲制御するアングルノブ22Aと、送気および送水操作を行う送気送水ボタン22Bと、吸引操作を行う吸引ボタン22Cと、体内に導入する処置具の入り口となる処置具挿入口22D等と、が配設されている。
【0017】
図2に示すように、US振動子部9は、複数の細長いUSエレメント20の長辺が連結され、円筒状に湾曲配置されたラジアル型振動子である。US振動子部9が、設けられた先端硬性部37には、照明光学系を構成する照明用レンズカバー31と、観察光学系の観察用レンズカバー32と、吸引口を兼ねる鉗子口33と、図示しない送気送水ノズルと、が配設されている。
【0018】
図3に示すように、複数のUSエレメント20の電極と接続される複数の電極パッドを備えたケーブル接続基板部34が、US振動子部9の基端側に配設されている。そして、US振動子部9からは、ケーブル接続基板部34と接続された同軸ケーブル束35が延設している。同軸ケーブル束35は、先端硬性部37と、湾曲部38と、可撓管部39と、操作部22と、ユニバーサルコード23と、超音波ケーブル26と、に挿通され、超音波コネクタ26aを介して、超音波観測装置3と接続されている。
【0019】
なお、それぞれのUSエレメント20は信号電極とグランド電極とを有する。それぞれの信号電極には、超音波ケーブル26の一の同軸ケーブルと接続されている。すなわち、複数のUSエレメント20の、複数の信号電極は、互い部電気的に非接続である。一方、複数のUSエレメント20の、それぞれのグランド電極は、互いに電気的に接続されている。
【0020】
なお、後述するように、それぞれのUSエレメント20が共振周波数の異なるUSセル毎に信号電極を有していてもよい。また、US振動子部9は、ラジアル型振動子であるが、US振動子部は、凸形状に湾曲したコンベックス型振動子であってもよい。
【0021】
<超音波セルの基本構造および基本作製方法>
次に、図4を用いて、USエレメント20の超音波セル(以下、「USセル」という)10の基本構造および基本作製方法について説明する。なお、以下の図は説明のための模式図であり、各層の厚さおよび各パターンの大きさ等の比率は実際のUSセルとは大きく異なる。
【0022】
また後述するように、USエレメント20には、キャビティ14Aの大きさが異なる3種類のUSセル10A、10B、10Cが作製されているが、その基本構成は同じであるため、USセル10として説明する。
【0023】
図4に示すように、USセル10は、基体であるシリコン基板11上に、順に積層された、信号電極と接続された下部電極層12と、第1絶縁層(下部絶縁層)13と、空隙部14が形成された第2絶縁層(上部絶縁層)15と、グランド電極と接続された上部電極層16と、保護層17と、を有する。空隙部14は、円筒状のキャビティ14Aと、4本のチャネル14Bとからなる。キャビティ14Aの直上の、第2絶縁層15の一部15B〜保護層17が、振動膜であるメンブレン18を構成している。
【0024】
シリコン基板11は、シリコン11Aの表面にシリコン熱酸化膜11B、11Cを形成した基板である。シリコン基板11の厚さは、例えば、100〜600μmであり、好ましくは200〜300μmである。シリコン熱酸化膜11B、11Cの厚さは、例えば、5〜25μmであり、好ましくは10〜20μmである。
【0025】
シリコン基板11の一面上に形成される下部電極層12は、モリブデン等の金属、またシリコンなどの導電性材料からなる。下部電極層12の厚さは、例えば、0.1〜0.5μmであり、好ましくは0.2〜0.4μmである。導電性材料はシリコン基板11の全面にスパッタ法等により成膜される。そして、フォトリソグラフィによるマスクパターンを形成後にエッチングにより部分的に除去することにより、下部電極12Aおよび伝導部12Bが形成される。
【0026】
すなわち、下部電極層12は、円形の下部電極12Aと、下部電極12Aの縁辺部の四方から延設している伝導部12Bとからなる。伝導部12Bにより、下部電極12Aは、同じUSエレメント20のUSセルの下部電極と電気的に接続されている。
【0027】
なお、キャビティ14Aの大きさが異なる3種類のUSセル10A、10B、10Cは共振周波数が異なる。このため同じ種類のUSセルの下部電極は接続し、異なる種類のUSセルの下部電極とは接続されていなくともよい。
【0028】
次に、下部電極層12が形成されたシリコン基板11の一面に、SiN等の絶縁性材料からなる第1絶縁層13がCVD法(化学気相成長法)等により成膜される。第1絶縁層13の厚さは、例えば、0.10〜0.20μmである。
【0029】
そして第1絶縁層13上に、犠牲層材料を成膜した後、部分的に除去することで、キャビティ14Aの形状の犠牲層とチャネル14Bの形状の犠牲層と、が形成される。チャネルは、キャビティにエッチング剤を流入するための流路である。
【0030】
チャネル形状犠牲層は、円柱状のキャビティ形状犠牲層の縁辺部の四方から延設されている。すなわち、キャビティ14Aの中心から放射状に、互いに直交する4方向に、4本のチャネル14Bが延設されている。
【0031】
このため、後述するように、犠牲層エッチング工程(空隙部作製工程)では、キャビティ14Aには4方向からエッチング剤が流入し、キャビティ14Aの中心部の犠牲層が溶解すると犠牲層エッチングが終了する。
【0032】
犠牲層の厚さは、キャビティ14Aの高さとなるために、例えば、0.05〜0.3μmであり、好ましくは0.05〜0.15μmである。犠牲層材料としては、例えば、リンガラス(PSG:含リン酸化シリコン)、二酸化ケイ素、ポリシリコン、または金属などを用いる。
【0033】
犠牲層が形成された第1絶縁層13の上面に、第2絶縁層15が、例えば第1絶縁層13と同様の方法および同様の材料により形成される。第2絶縁層15の厚さは、例えば0.20〜0.50μmであり、好ましくは0.3〜0.45μmである。なお図4に示すように、第2絶縁層15は、犠牲層と同じ厚さの第2絶縁層15Aと、犠牲層の上に形成される第2絶縁層15Bと、からなるとみなすこともできる。もちろん、第2絶縁層15Aと第2絶縁層15Bとは同時に形成される。そして、キャビティ14Aの形状の犠牲層の上に形成された第2絶縁層15Bが、メンブレン18の一部となる。
【0034】
そして、第2絶縁層15の所定の位置に、犠牲層を除去するために、エッチング剤を流入する円柱形状の開口部15Cが、フォトリソグラフィ/エッチングにより形成される。すなわち、開口部15Cは、貫通孔である。そして、4本のチャネル形状犠牲層の端部側の上に、それぞれ1個の開口部15Cが形成されている。なお、開口部15Cは、四角柱形状等でもよい。
【0035】
次に、犠牲層のエッチングによりキャビティ14Aおよびチャネル14Bからなる空隙部14が形成される。
【0036】
エッチング剤は、第1絶縁層、第2絶縁層および犠牲層の材料により適宜選択される液体または気体である。例えば犠牲層としてリンガラスを用い、第1絶縁層13および第2絶縁層15としてSiNを用いた場合には、エッチング剤としてフッ酸溶液(バッファードHF溶液)を用いる。HF溶液はリンガラスを溶解するが、SiNは溶解しにくい。このため、犠牲層が除去され、第1絶縁層13と第2絶縁層15との間に、キャビティ14Aおよびチャネル14Bからなる空隙部14が形成される。
【0037】
空隙部形成工程では、開口部15Cからチャネル14Bを介して流入したエッチング剤により、犠牲層が除去される。すなわち、開口部15Cから流入したエッチング剤は、まずチャネル形状犠牲層を溶解し、チャネル形状犠牲層が除去された後に、キャビティ形状犠牲層を溶解する。このため後述するように、チャネル長が長いとキャビティ形状犠牲層の溶解開始までの時間が長くなる。
【0038】
次に、上部電極16Aと伝導部16Bとからなる上部電極層16が、下部電極層12と同様に形成される。ここで、上部電極層16の一部は開口部15Cを封止する封止部16Cとしての機能を有する。上部電極層16の厚さは、例えば0.5〜1.0μmである。
なお、円形の上部電極16Aおよび下部電極12Aは、キャビティ14Aと略同径である。
【0039】
キャビティ14Aは円柱形状に限られるものではなく、多角柱形状等でもよい。キャビティ14Aが多角柱形状の場合には、上部電極16Aおよび下部電極12Aの形状も多角形とすることが好ましい。また、例えば、上部電極層16はパターニングされていない導電層であってもよい。
【0040】
最後に、上部電極層16を覆う保護層17が形成される。保護層17は、第2絶縁層15と同様の方法および同様の材料により形成される絶縁層である。なお、保護層17はSiN等からなる絶縁層の上に、更にポリパラキシリレン等の生体適合性のある外皮膜が形成された2層構造であってもよい。保護層17の厚さは、例えば0.2〜1.5μmであり、好ましくは0.5〜1.0μmである。
【0041】
図4に示す上記構造のUSセル10では、キャビティ14Aの直上領域の、第2絶縁層15Bと上部電極層16と保護層17とが、振動部であるメンブレン18を構成する。
【0042】
なお、USセルの封止部は上記に限られるものではなく、例えば、CVD法で形成したSiN等の絶縁膜で開口部15Cを封止し、その上に上部電極層16を形成してもよいし、保護層17が封止部の機能を有していてもよい。
【0043】
<超音波振動子エレメントの構成>
すでに説明したように、USエレメント20には、マトリックス状に2次元配置されたキャビティ14Aの平面寸法の大きさが異なる3種類のUSセル10A、10B、10Cが作製されている。3種類のUSセル10A、10B、10Cの、それぞれの基本構成は、いずれもUSセル10として説明した構成と同じである。
【0044】
すなわち、図5に示すように、第2絶縁層15の第2絶縁層15Aは、3種類のキャビティ14A1、14A2、14A3と、3種類のチャネル14B1、14B2、14B3と、が形成されている。例えば、第1USセル10Aのキャビティ14A1の直径(2r1)は40μmであり、第2USセル10Bのキャビティ14A2の直径(2r2)は30μmであり、第3USセル10Cのキャビティ14A3の直径(2r3)は20μmである。
【0045】
大きさの異なる3種類のキャビティ14A1〜14A3は等間隔に格子状に配置されている。すなわち、3種類のUSセルのキャビティ14A1〜14A3の中心間の距離dは、例えば同じ50μmである。なお、キャビティ14A1、14A2、14A3の配置、すなわち、USセル10A、10B、10Cの配置は、規則的な格子配置、千鳥配置、または、三角メッシュ配置等であってもよいし、ランダム配置であってもよい。
【0046】
それぞれのキャビティ14Aは、中心から放射状に互いに直交する4方向に、延設された4本のチャネル14Bと挿通している。なお、後述するように互いに隣り合うUSセル10の開口部15Cは、同一の共通開口部により構成されている。すなわち隣り合うUSセル10の共通の開口部15Cが、それぞれのチャネル14Bが交差する部分に形成されている。
【0047】
3種類のキャビティ14A1〜14A3は等間隔に配置されているため、それぞれのキャビティ14A1〜14A3から延設されたチャネル14B1〜14B3は長さが異なる。すなわち、最も大きなキャビティ14A1のチャネル14B1が最も短く、最も小さなキャビティ14A3のチャネル14B3が最も長い。
【0048】
そして、3種類のUSセル10A、10B、10Cは、同一のシリコン基板11上に同時に作製される。ここで、図6は図5のVI−VI線に沿った断面構造を示している。図6に示すように、USエレメント20は、シリコン基板11と、下部電極層12と、第1絶縁層13と、キャビティ14Aおよびチャネル14Bが形成された第2絶縁層15と、上部電極層16と、保護層17と、を有する。
【0049】
例えば、下部電極層12は、複数の第1USセル10Aの、それぞれの第1の下部電極12A1と、複数の第2USセル10Bの、それぞれの第2の下部電極12A2と、複数の第3USセル10Cの、それぞれの第3の下部電極12A3と、複数の第1の下部電極12A1と複数の第2の下部電極12A2と複数の第3の下部電極12A3とを互いに接続する下部電極配線である伝導部12Bと、を有する。
【0050】
そして、第1絶縁層13と第2絶縁層15との間に3種類のキャビティ14A1、14A2、14A3と、3種類の長さが異なるチャネル14B1、14B2、14B3と、が形成されている。
【0051】
すなわち、第2絶縁層15には、それぞれの第1USセル10Aの第1キャビティ14A1が、第1チャネル14B1を介して流入したエッチング剤による犠牲層のエッチングにより形成されている。また、第2絶縁層15には、それぞれの第2USセル10Bの第2キャビティ14A2が、第2チャネル14B2を介して流入したエッチング剤による犠牲層のエッチングにより形成されている。また、第2絶縁層15には、それぞれの第3USセル10Cの第3キャビティ14A3が、第3チャネル14B3を介して流入したエッチング剤による犠牲層のエッチングにより形成されている。
【0052】
図7に示すように、第2絶縁層15Bには、複数の第1チャネル14B1のそれぞれの第1開口部15C1と、複数の第2チャネル14B2のそれぞれの第2開口部15C2と、複数の第3チャネル14B3のそれぞれの第3開口部15C3と、が形成されている。
【0053】
そして、第1開口部15C1から第1キャビティ14A1の中心CA1までの第1チャネル14B1を介した最短距離d1と、第2開口部15C2から第2キャビティ14A2の中心CA2までの第2チャネル14B2を介した最短距離d2と、第3開口部15C3から第3キャビティ14A3の中心CA3までの第3チャネル14B3を介した最短距離d3と、が同じである。
【0054】
なお、USエレメント20では、互いに隣り合う第1USセル10Aの第1開口部15C1と第1USセル10Bの第2開口部15C2と第3USセル10Cの第3開口部15C3とが、マトリックス状に配置された同一の共通開口部により構成されている。
【0055】
例えば、図7に引き出し線で示した第1開口部15C1は、1つの第1USセル10Aと、1つの第2USセル10Bと、2つの第3USセル10Cと、の共通の開口部である。
【0056】
そして、図8に示すように、USエレメント20では、例えば開口部15C1から流入したエッチング剤によりキャビティ14A1のエッチングが終了するのに要する時間と、開口部15C2から流入したエッチング剤によりキャビティ14A2のエッチングが終了するのに要する時間と、開口部15C3から流入したエッチング剤によりキャビティ14A3のエッチングが終了するのに要する時間と、が同じである。
【0057】
図8は、引き出し線で示した開口部15Cから流入したエッチング剤は4本のチャネルに沿って犠牲層を溶解している様子を示している。すなわち、エッチング液がチャネル内の犠牲層を溶解する速度と、キャビティ内の犠牲層を溶解する速度は同じである。これは、犠牲層溶解反応が、反応速度律速で進行することに起因する。すなわち、犠牲層溶解の反応速度が、エッチング剤の進入速度よりも十分に遅く、犠牲層とエッチング剤の溶解反応のみがエッチングの進行速度を決定している。
【0058】
このため、大きさの違うキャビティ14Aを、同時に犠牲層エッチングにより作製しても、チャネル14Bの長さが異なるため、小さいキャビティの第2絶縁層15(および第1絶縁層13)だけが長時間にわたりエッチング剤に曝されることがない。すなわち、エレメント20では、キャビティ14Aの大きさ(直径)の相違によるエッチング時間の相違を、チャネル14Bの長さにより調整して、キャビティ14Aの大きさに関係なく同時にエッチングが完了するようにしている。
【0059】
このため、USエレメント20は、特性が安定している。また、USエレメント20を有するUS内視鏡2は特性が安定している。
【0060】
また、エレメント20では、それぞれのキャビティ14Aの中心から放射状に、互いに直交する4方向に、4本のチャネル14Bが延設されおり、それぞれのチャネル14Bに開口部15Cが形成されている。このため、エレメント20では、4方向からエッチング剤が流入されるため、エッチング時間が短縮できる。
【0061】
1個のキャビティ14Aに挿通するチャネル14Bが複数あれば前記効果が得られる。エッチング流入経路は多いほど、前記効果が高いが、チャネル本数が増える。このため、1個のキャビティ14Aに挿通するチャネル14Bは3本以上6本以下が好ましく、特に好ましくは4本である。
【0062】
キャビティ14Aの大きさの異なる3種類のUSセル10A、10B、10Cは、共振周波数が異なる。このため、USエレメント20Aは送受信可能な超音波周波数が広い。なお、異なる共振周波数の複数のUSセルを駆動するための駆動信号は例えば広帯域の周波数帯の中心周波数で駆動してもよいし、駆動信号の周波数を切り替えてもよいし、3波混合型等の特殊波形で駆動してもよい。もちろん、USセル10A、10B、10Cの下部電極が接続されていない場合には、それぞれの共振周波数の駆動信号を用いる。
【0063】
また、USエレメント20が、有する3種類のUSセル10A、10B、10Cは、略同数でもよいが、キャビティの大きいUSセルの数がキャビティの小さいUSセルの数よりも少ないことが好ましい。これは、キャビティの大きいUSセルのメンブレンは、キャビティの小さいUSセルのメンブレンよりも同じ電圧の駆動信号、または同じ強さの超音波に対して振動しやすいためである。3種類のUSセルの個数が異なるUSエレメントは、送受信感度の周波数による影響を小さくすることができる。
【0064】
また、USエレメント20における3種類のUSセル10A、10B、10Cの2次元配置も均等配置である必要はない。例えば、細長いエレメントの中央領域に、低周波送受信用の大きなキャビティの複数のUSセルを配置し、端部領域に高周波送受信用の小さなキャビティの複数のUSセルを配置することも、指向性を調整できるため好ましい。
【0065】
なお、USエレメント20Aには、それぞれのキャビティ14Aの大きさの異なる3種類のUSセル10が作製されているが、キャビティ14Aの大きさの異なる2種類の第1のUSセル10Aと第2のUSセル10Bとが作製されていてもUSエレメント20Aと同様の効果を有することは明らかである。
【0066】
逆に、それぞれのキャビティ14Aの大きさの異なる4種類以上のUSセル10が作製されているUSエレメントでも、USエレメント20Aと同様の効果を有することは明らかである。すなわち、実施形態の、USエレメントのUSセル10の種類は、2種類以上であればよく、上限は例えば10種類である。言い換えれば、実施形態のUSエレメントには、第1USセル10Aおよび第2USセル10Bと同一の構成でキャビティ14Aの大きさが異なる少なくとも1種類の超音波セルが作製されている。
【0067】
またそれぞれのキャビティ14Aの大きさの異なる2種類以上のUSセル10が作製されているUSエレメントを有するUS内視鏡が、US内視鏡2と同様の効果を有することも明らかである。
【0068】
<第2実施形態>
以下、第2実施形態のUSエレメント20A、およびUSエレメント20Aを有するUS内視鏡2Aについて説明する。USエレメント20A、US内視鏡2Aは、それぞれUSエレメント20、US内視鏡2と類似しているので、同じ構成要素には同じ符号を付し説明は省略する。
【0069】
第1実施形態のUSエレメント20は、大きさの異なるキャビティのUSセルが等間隔(距離d)に2次元配置されていた。すなわち、最も大きなキャビティ14A1のUSセル10Aを基準に他のすべてのUSセルが配置されていた。このため、高密度にUSセル10を配置することができないため、USエレメント20の小型化が容易ではなかった。
【0070】
また、複数のキャビティ14Aが開口部15Cを共通化しているため、製造時のトラブルから、1つの開口部15Cが所定の寸法で形成できなかった場合等であっても、複数のUSセル10が不良となってしまう可能性があった。
【0071】
これに対して、図9(A)〜図9(C)に示す第2絶縁層パターン15A1のように、USエレメント20Aには、大きさの異なる3種類のUSセル10D、10E、10Fが作製されている。USセル10Dのキャビティ14ADは直径40μmであり、USセル10Eのキャビティ14AEは直径30μmであり、USセル10Fのキャビティ14AFは直径20μmである。
【0072】
そして、USセル10Dの4本のチャネル14BDと、USセル10Eの4本のチャネル14BEと、USセル10Fの4本のチャネル14BFと、は経路形状が異なる。
チャネル14BDは直線状であるが、チャネル14BEとチャネル14BFとは、湾曲部のある曲線状である。
【0073】
また、それぞれのチャネル14Bは、それぞれ専用の四角柱状の開口部15Cを有する。すなわち、4本のチャネル14BDのそれぞれの端部には開口部15CDがあり、4本のチャネル14BEのそれぞれの端部には開口部15CEがあり、4本のチャネル14BFのそれぞれの端部には開口部15CFがある。
【0074】
3種類のUSセル10D、10E、10Fは空隙部14のパターン形状が大きく異なるが、それぞれのキャビティ中心CAから開口部15Cまでの最短距離は、同じである。すなわち、図9(A)に示すキャビティ中心CA4から開口部15CDまでの最短距離d4と、図9(B)に示すキャビティ中心CA5から開口部15CEまでの最短距離d5と、図9(C)に示すキャビティ中心CA6から開口部15CFまでの最短距離d6と、は同じである。
【0075】
このため、USエレメント20Aは、第1実施形態のUSエレメント20と同じ効果を有し、USエレメント20Aを有するUS内視鏡2Aは、第1実施形態のUS内視鏡2と同じ効果を有する。
【0076】
更に、USエレメント20Aでは、第1USセル10Dの4個の第1開口部15CDにより囲まれる面積が、第2USセル10Eの4個の第2開口部15CEにより囲まれる面積よりも広い。そして、第2USセル10Eの4個の第2開口部15CEにより囲まれる面積が、第3USセル10Fの4個の第3開口部15CFにより囲まれる面積よりも広い。なお、USセル10の専有面積は、開口部に囲まれる面積で近似できる。
【0077】
このため、図10に示すように、USエレメント20Aは、所定面積に配設可能なUSセル10の合計数が、同じ所定面積に配設可能な最も大きなキャビティ14ADのあるUSセル10Dの数よりも、多い。
【0078】
言い換えれば、図10に示すように、USエレメント20Aは、例えばUSセル10Dのキャビティの中心CADから、隣り合う複数のUSセルのキャビティの中心までの距離は、d7、d8、d9、d10であり、同じではない。
【0079】
USエレメント20Aは、USセル10がUSエレメント20よりも高密度に配設されているため、より小型である。
【0080】
更に、USエレメント20Aは、製造時のトラブルから、いずれかの開口部15Cが所定の寸法で形成できなかった場合でも、不良となるのは1個のUSセル10だけである。このため、USエレメント20と比べると、USエレメント20Aは製造歩留まりが高い。すなわち、USエレメントは多くのUSセル10を有するため、一部のUSセル10が不良であっても仕様の範囲内として使用可能である。
【0081】
また、キャビティ14Aの大きさの異なる2種類の第1のUSセルと第2のUSセルとだけが作製されているUSエレメントが、3種類のUSセルが作製されているUSエレメント20Aと同様の効果を有することは明らかである。
【0082】
すなわち、第1チャネルと前記第2チャネルとは経路形状が異なり、それぞれの前記第1チャネルに1個の第1開口部が形成されており、それぞれの前記第2チャネルに1個の第2開口部が形成されており、前記第1超音波セルの4個の前記第1開口部により囲まれる面積が、前記第2超音波セルの4個の前記第2開口部により囲まれる面積よりも広い超音波振動子エレメントは、超音波振動子エレメント20Aと同様の効果を有する。
【0083】
<第2実施形態の変形例>
次に、図10(A)および図10(B)を用いて、第2実施形態の変形例のUSエレメント20B、20Cについて説明する。
【0084】
USエレメント20BのUSセル10GおよびUSエレメント20CのUSセル10Hは、それぞれ折り返し部のあるジグザグ状の経路形状のチャネル14Bを有する。しかしそれぞれの開口部15Cからそれぞれのキャビティ14Aの中心CAまでの最短距離が同じになるように設計することで、第2実施形態のUSセル10E、10Fと同様に用いることができる。
【0085】
そして、USセル10GまたはUSセル10Hを有するUSエレメント20B、20Cは、USエレメント20Aのキャビティと同じ効果を有する。また、USエレメント20B、20CのあるUS内視鏡2B、2CはUS内視鏡2Aと同じ効果を有する。
【0086】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変えない範囲において、種々の変更、改変等が可能である。
【符号の説明】
【0087】
1…超音波内視鏡システム、2…US内視鏡、3…超音波観測装置、9…振動子部、10…USセル、11…シリコン基板、12…下部電極層、12B…伝導部、13…絶縁層、14…空隙部、14A…キャビティ、14B…チャネル、15…絶縁層、15A…絶縁層、15B…絶縁層、15C…開口部、16…上部電極層、16A…上部電極、16B…伝導部、16C…封止部、17…保護層、18…メンブレン、20…USエレメント

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体と、下部電極層と、第1絶縁層と、キャビティおよびチャネルが形成された第2絶縁層と、上部電極層と、有し、
複数の第1超音波セルおよび複数の第2超音波セルが作製されており、
前記第2絶縁層に、それぞれの前記第1超音波セルの第1キャビティが複数の第1チャネルを介して流入したエッチング剤による犠牲層のエッチングにより形成されているとともに、それぞれの前記第2超音波セルの第2キャビティが複数の第2チャネルを介して流入した前記エッチング剤による前記犠牲層のエッチングにより形成されており、更に、複数の前記第1チャネルのそれぞれの第1開口部と複数の前記第2チャネルのそれぞれの第2開口部とが形成されており、
前記第1キャビティが前記第2キャビティよりも大きく、
前記第1開口部から前記第1キャビティの中心までの前記第1チャネルを介した最短距離と、前記第2開口部から前記第2キャビティの中心までの前記第2チャネルを介した最短距離と、が同じであることを特徴とする超音波振動子エレメント。
【請求項2】
それぞれの第1キャビティの中心から放射状に、互いに直交する4方向に、4本の前記第1チャネルが延設されており、
それぞれの第2キャビティの中心から放射状に、互いに直交する4方向に、4本の前記第2チャネルが延設されていることを特徴とする請求項1に記載の超音波振動子エレメント。
【請求項3】
互いに隣り合う前記第1超音波セルの前記第1開口部と前記第1超音波セルの前記第2開口部とが、同一の共通開口部により構成されていることを特徴とする請求項2に記載の超音波振動子エレメント。
【請求項4】
前記第1チャネルと前記第2チャネルとは経路形状が異なり、
それぞれの前記第1チャネルに1個の第1開口部が形成されており、それぞれの前記第2チャネルに1個の第2開口部が形成されており、
前記第1超音波セルの4個の前記第1開口部により囲まれる面積が、前記第2超音波セルの4個の前記第2開口部により囲まれる面積よりも広いことを特徴とする請求項2に記載の超音波振動子エレメント。
【請求項5】
前記第1超音波セルおよび前記第2超音波セルと同一の構成でキャビティの大きさが異なる少なくとも1種類の超音波セルが作製されていることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の超音波振動子エレメント。
【請求項6】
前記上部電極層の一部が、複数の前記第1開口部および複数の第2開口部を封止していることを特徴とする請求項5に記載の超音波振動子エレメント。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の超音波振動子エレメントが配設された先端硬性部を有する挿入部と、
前記挿入部の基端に位置する操作部と、
前記操作部の側部から延出するユニバーサルコードと、を具備することを特徴とする超音波内視鏡。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−239713(P2012−239713A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−113906(P2011−113906)
【出願日】平成23年5月20日(2011.5.20)
【出願人】(304050923)オリンパスメディカルシステムズ株式会社 (1,905)
【Fターム(参考)】