説明

超音波振動子ユニット、及び超音波プローブ

【課題】機械的強度、長時間の動作での信頼性、及び送受信感度が既存のCMUTデバイスに比べて高く、周波数帯域が広いCMUT型超音波振動子ユニットの提供を目的とする。
【解決手段】超音波振動子10は、凹部22を有する基板20と、基板20に対して装着された振動膜30と、基板20及び振動膜30の間に形成されたキャビティ40とを有する。キャビティ40の内部には、凹部20の底面22a側から振動膜30側に隆起した柱状部26が形成されている。超音波振動子10においては、柱状部26によって振動膜30のばね定数が増加され、送受信感度が向上される。また、振動膜の変位量が少なくなるため、上下電極間の距離を狭めることができ、送受信感度が高くなる。更に、デバイス共振周波数の一次及び二次モードが近いため、送受信の周波数帯域が広くなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波振動子ユニット及び、超音波振動子を用いた超音波プローブに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、図4に示すような構造のCMUT(Capacitive Micromachined Ultrasonic Transducer)型超音波振動子ユニットが提供されている。従来のCMUT型超音波振動子ユニットは、超音波を送受する振動膜200と、基板204の一面に設けられ、基板204と対向するように振動膜200を支持する振動膜支持部201とを備えている。さらに、振動膜200に形成された膜側電極202と、基板204に形成された基板側電極203とが対向配置されている。
【0003】
このような構成のCMUT型超音波振動子ユニットは、受信した超音波(音圧)によって振動膜200及び膜側電極202が振動し、この際に起きる膜側電極202及び基板側電極203の間の静電容量変化に基づき、受信した超音波に係る電気信号を取得することができる。また、このCMUT型超音波振動子ユニットは、膜側電極202及び基板側電極203の間にDC及びAC電圧を印加することによって振動膜200を振動させることにより、超音波を送信することができる。
【0004】
また近年、送受信感度を更に向上させるべく、下記特許文献1〜4に開示されているような構造のCMUT型超音波振動子ユニットが提供されている。特許文献1に開示されている超音波振動子ユニットでは、基板と振動膜との間に形成されるキャビティの略中央部に支柱を設けると共に、支柱に対して被さるように振動膜とは異なる膜(以下、「下層膜」とも称す)を装着した構造とされている。このような構造とした場合、振動膜が振動すると下層膜に対して振動膜が衝突し、衝突による反発力が振動膜に作用する。そのため、下記特許文献1の超音波振動子ユニットにおいては、前述した反発力の分だけ振動膜の振動が増幅され、送受信感度が向上する。
【0005】
また、同様の知見に基づき、下記特許文献2の超音波振動子ユニットでは、振動膜に対して保持部材を装着することにより振動膜を基板側に撓ませた状態を維持可能とした構造とされている。このような構造とすることにより、振動膜が振動した際に、振動膜が基板に対して衝突し、衝突による反発力が振動膜に作用する。そのため、下記特許文献2の超音波振動子ユニットにおいても、上述した特許文献1の構造を採用した場合と同様に、前述した反発力の分だけ振動膜の振動を増幅し、送受信感度を向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】WO2009/077961号公報
【特許文献2】WO2010/097729号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来技術のCMUT型超音波振動子ユニットは優れた周波数特性を有し、設計及び作製の自由度が高い。しかしながら、従来技術のCMUT型超音波振動子ユニットは、長時間の使用ではメンブレンの破壊や損傷、電気・機械的特性低下などが発生しやすい。また、受信感度は比較的良いが、送信感度に制限があり、全体送受信感度が既存の圧電セラミックス方式に比べて低い。
【0008】
具体的には、上述した特許文献1及び特許文献2に開示されている超音波振動子ユニットは、使用に伴って振動膜、下層膜等が破損してしまう可能性がある。具体的には、特許文献1に開示されている超音波振動子ユニットにおいては、キャビティの略中央部に設けられた支柱によって下層膜が支持されており、支柱が存在しない部分においては空洞(真空)状態とされている。そのため、振動膜に対して下層膜が衝突すると、衝突に伴う応力が下層膜の局所に集中する傾向にある。また、下層膜は、数μm程度の薄膜によって構成されている。従って、特許文献1の構成においては、振動膜の衝突に伴う衝撃によって下層膜等が破損し、故障してしまう可能性がある。更に、特許文献1に開示されている超音波振動子ユニットは、構造が複雑であり、製造が困難である。
【0009】
また、下記特許文献2に開示されている超音波振動子ユニットにおいては、振動膜に装着されている保持部材によって振動膜が強制的に湾曲させられており、振動膜に対して常時応力が作用している。また、振動膜は、数μm程度の薄膜によって構成されており、振動に伴い基板に衝突することにより更に反発力を受けることになる。そのため、下記特許文献2に開示されている超音波振動子ユニットにおいては、振動膜の破損に伴う故障が発生しやすい傾向にある。また、特許文献2に開示されている超音波振動子ユニットは、保持部材を設ける等したものであるため、その分だけ構造が複雑であり、製造が困難である。
【0010】
このように、従来技術のCMUT型超音波振動子ユニットにおいては、長時間動作での信頼性、及び送受信感度の点に課題があり、製品化まで進んでいないのが現状である。これらの課題を解決するためには、機械的強度に加えて、電気・機械的変換効率が高く、送受信感度が高いデバイス構造及びその作製プロセスが要求される。
【0011】
そこで、本発明者は、上述した振動膜を下層膜等に衝突させることにより振動膜の振動及び送受信感度を増幅させるのではなく、他の技術的思想により振動膜の振動及び送受信感度を増幅させるべく更に検討を重ねた。その結果、超音波振動子ユニットの構造を、振動膜が一次モードで振動する周波数帯域と、二次モードで振動する周波数帯域の差を抑制することが可能な構造とすることにより、使用可能な周波数帯域を拡張することができるとの知見に至った。
【0012】
また、本発明者らが鋭意検討した結果、一次モードで振動膜が振動する周波数帯域と、二次モードにより振動膜が振動する周波数帯域とを近接させるためには、振動膜と基板との間に形成されたキャビティに柱状部を設け、この柱状部を振動膜の中途において接触させることが有効であることを見いだした。更に、超音波振動子ユニットをかかる構造とすることにより、超音波プローブの解像度、及び空間分解能を向上させることができるとの知見に至った。また、このような構成とすることにより、十分な機械的強度も得られるとの知見に至った。
【0013】
かかる知見に基づき、本発明は、振動膜が一次モードで振動する周波数帯域と、二次モードで振動する周波数帯域の差を最小限に抑制することが可能な構造を有し、超音波の送受信を実施可能な周波数帯域が広い超音波振動子ユニット、及びこのような構造の超音波振動子ユニットを備えた超音波プローブの提供を目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上述した課題を解決すべく提供される本発明の超音波振動子ユニットは、凹部を有する基板と、前記基板に対して装着された周辺部、及び前記周辺部間に形成され基板に対して近接・離反する方向に振動可能な中間部を有し、可撓性を備えた振動膜と、前記基板の前記凹部及び前記振動膜によって形成されたキャビティと、前記振動膜側に設けられた第一電極と、前記第一電極に対向する位置に設けられた第二電極とを有する。本発明の超音波振動子ユニットにおいては、前記キャビティ内に、前記凹部の底面側から前記振動膜側に向けて突出した柱状部が設けられており、前記振動膜及び前記柱状部が、前記中間部において面接触している。
【0015】
かかる構成とした場合は、柱状部を設けないときに比べて振動膜が一次モードで振動する周波数帯域と、二次モードで振動する周波数帯域を近接させ、両周波数帯域の差を抑制することができる。これにより、超音波の送受信のために使用できる周波数帯域を拡張することができる。
【0016】
また、柱状部を振動膜に対して面接触させた場合は、面接触部分に相当する面積の分だけ振動膜において振動に供する部分の面積が小さくなる。これにより、振動膜が振動することにより発生する弾性力が大きくなる。従って、上述した構成によれば、周波数帯域の拡張だけでなく、送受信感度についても向上させることが可能となる。
【0017】
また、本発明の超音波振動子ユニットは、振動膜と柱状部とを接触させることにより一次モード及び二次モードで振動する周波数帯域を近づけたものであり、従来技術のように振動膜を基板等に衝突させる構造を採用したものではない。従って、本発明の超音波振動子ユニットは、基板等との衝突により振動膜が破損等する不具合が発生しない。
【0018】
また、本発明の超音波振動子ユニットは、キャビティの内部に設けた柱状部を振動膜に面接触させたものであり、構造が極めてシンプルである。従って、本発明の超音波振動子ユニットは、容易に製造することができる。
【0019】
ここで、上述したような柱状部を設けた場合は、振動膜において柱状部と面接触している部位、及び周辺部との間の領域において振動膜が振動することになる。従って、本発明の超音波振動子ユニットは、前記振動膜において前記柱状部と面接触している部位、及び前記周辺部の間の領域に、第一電極が設けられたものであることが望ましい。
【0020】
かかる構成によれば、振動膜の振動に伴う容量変化を的確に検知することが可能となり、超音波の受信能力を十分確保することが可能となる。また、かかる構成によれば、第一電極及び第二電極間に電圧を印加することにより、振動膜が的確に振動することになり、超音波の送信能力を十分確保することが可能となる。従って、本発明の構成とすることにより、送受信性能に優れた超音波振動子ユニットを提供することができる。
【0021】
また、本発明の超音波振動子ユニットは、前記振動膜が、前記柱状部に対して接着されているものであることが好ましい。
【0022】
本発明の超音波振動子ユニットは、前記柱状部において前記振動膜と接触している部位が平面状であることが望ましい。
【0023】
かかる構成とすることにより、柱状部と振動膜とを確実に面接触させることが可能となる。これにより、振動膜が一次モードで振動する周波数帯域と、二次モードで振動する周波数帯域を近接させ、周波数帯域を拡張することができる。また、上述した構成とすることにより、振動膜において振動に供する部分の面積を容易かつ的確に最適な大きさとすることができる。これにより、振動膜が振動することにより発生する弾性力を増幅させ、送受信感度を向上させることが可能となる。
【0024】
本発明の超音波振動子ユニットは、前記柱状部が、前記凹部を形成する外縁部と同一の高さまで突出していることが好ましい。
【0025】
本発明の超音波プローブは、上述した本発明の超音波振動子ユニットを備えており、前記超音波振動子ユニットにより超音波を送受信可能であることを特徴とするものである。
【0026】
本発明の超音波プローブは、上述したように超音波の送受信を実施可能な周波数帯域が広く、送受信感度が高い超音波振動子ユニットを備えたものである。そのため、本発明の超音波プローブは、解像度及び空間分解能が高く、生体の表面状態だけでなく、深度が深い部位の状態まで検知することが可能となる。また、本発明の超音波プローブは、超音波振動子ユニットの構造がシンプルであるため、容易に製造することができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、振動膜が一次モードで振動する周波数帯域と、二次モードで振動する周波数帯域の差を最小限に抑制するが可能な構造を有し、超音波の送受信を実施可能な周波数帯域が広い超音波振動子ユニット、及びこのような構造の超音波振動子ユニットを備えた超音波プローブを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の一実施形態に係る超音波振動子ユニットを示す平面図である。
【図2】(a)は図1に示す超音波振動子ユニットを構成する超音波振動子の構造を示す断面図、(b)は(a)の平面図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る超音波プローブを示す斜視図である。
【図4】従来技術の超音波振動子ユニットを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明の一実施形態に係る超音波振動子ユニットUについて、図面を参照しつつ詳細に説明する。超音波振動子ユニットUは、いわゆる容量型マイクロマシンド超音波トランスデューサ(CMUT)であり、図1に示すように超音波振動子10を多数、同一平面上にパターン状に形成したものである。超音波振動子ユニットUは、各超音波振動子10において電気的エネルギー、及び振動による機械的エネルギーを相互変換させることが可能である。すなわち、各超音波振動子10に対して電気的エネルギーを付与することにより、振動による機械的エネルギーを発生させることができる。また、各超音波振動子10に対して振動による機械的エネルギーを付与することにより、電気的エネルギーを発生させることができる。
【0030】
超音波振動子10は、いわゆる超小型電気機械的デバイス(MEMS)であり、基板20、振動膜30、及びキャビティ40を備えている。また、超音波振動子10は、キャビティ40内に柱状部26を有する。超音波振動子10は、基板20側及び振動膜30側のそれぞれに、基板側電極28(第二電極)及び膜側電極36(第一電極)を有し、両電極間を繋ぐ回路12に、直流電源14、交流電源16、受信装置18を接続した構成とされている。
【0031】
超音波振動子10の各部の構成についてさらに詳細に説明すると、基板20は、1μm〜10000μm程度の厚みを有しており、シリコンウエェハー、ガラス、石英等の電気絶縁性を有する素材によって形成されている。本実施形態では、10000Ω・cm以上の高抵抗率を有するシリコンウェハーが基板20に用いられている。図2等に示すように、基板20は、凹部22、外縁部24、及び柱状部26を有する。凹部22は、基板20の一面側にパターニングを行うことにより形成されたものである。凹部22は、振動膜30との間にキャビティ40を形成するために設けられたものであり、略円形の開口形状を有する。凹部22の底面22aは、外縁部24を基準として0.1μm〜5.0μm程度の深さを有する。
【0032】
柱状部26は、凹部22の底面22aに対して略垂直であり、外観形状が円柱状となるように形成されている。柱状部26は、凹部22の略中央部に存在している。また、柱状部26は、基板20の一部をなすものであり、中実とされている。そのため、柱状部26は、頂部26a及び中腹部26cにおいて外力が作用したときに変形等しない。また、柱状部26の高さは凹部22の深さと略同一であり、頂部26aが外縁部24の表面と同一の高さとなるように形成されている。柱状部26の頂部26aは、略円形の平面とされており、後に詳述するように振動膜30と面接触している。
【0033】
柱状部26の頂部26aの大きさについては、一次モード及び二次モードの共振周波数、及び周波数帯域を考慮して適宜調整することができる。具体的には、振動膜30をSi単結晶により1.0μmの厚みに形成し、膜側電極36をAuにより0.1μmの厚みに形成した場合において、柱状部26の頂部26aの直径を2μm、凹部22の直径を35μmとした場合について有限要素法によるシミュレーションを行うと、一次モード及び二次モードの共振周波数はそれぞれ約24.1MHz及び24.8MHzとなる。一方、振動膜30及び膜側電極36を同一条件で形成した場合において、柱状部26の頂部26aの直径を10μm、凹部22の直径を35μmとした場合は、一次モード及び二次モードの共振周波数はそれぞれ約40.9MHz及び42.2MHzとなる。このように、凹部22の直径に対する柱状部26直径の比率を増加させることにより、一次モード及び二次モードの共振周波数が共に増加し、両振動モードの共振周波数の差が広がる。従って、上述した構成によれば、超音波の送受信のために使用できる周波数帯域を拡張することができる。
【0034】
凹部22の底面22aには、基板側電極28(第二電極)が設けられている。基板側電極28は、中央部26と凹部22を構成する周面(外縁部24)との間の領域に設けられている。基板側電極28は、柱状部26と同心円を描くように形成されたリング状の形状を有する。また、基板側電極28は、Ni,Cr,Al,Pt等の導電性に優れたものによって構成されている。図2(a)に示すように、基板側電極28は、直流電源14及び交流電源16に接続されている。
【0035】
基板側電極28は、従来公知の様々な手法によって形成することができる。具体的には、基板側電極28は、従来公知のイオン注入法により形成することが可能である。本実施形態においては、基板20が高純度の高抵抗シリコンウェハーにより形成され、基板側電極28は、前者のイオン注入法による手法により形成される。
【0036】
振動膜30は、上述した基板20の上方に蒸着により積層された膜状体である。振動膜30は、0.1μm〜100μm程度の厚みを有し、可撓性を有する薄膜によって構成されている。振動膜30は、Si,SiN等の他、電気絶縁性を有する樹脂膜等の素材によって形成することができる。振動膜30は、周辺部32及び中間部34を有する。振動膜30は、周辺部32が基板20の外縁部24に対して固定され、中間部34において基板20に対して近接・離反する方向に振動可能とされている。
【0037】
振動膜30は、中間部34において上述した柱状部26の頂部26aに対して接着により固定されている。言い換えれば、振動膜30は、中間部34の略中央において柱状部26によって支持されている。そのため、振動膜30は、主として基板20の外縁部24に対して固定された部位(周辺部32)から柱状部26と固定されている部位(以下、「面固定部38」とも称す)までの領域(図2(b)においてハッチングを付した領域:以下、「振動領域39」とも称す)において振動することができ、面固定部38においては殆ど振動が発生しない。
【0038】
振動膜30には、膜側電極36が設けられている。図2(b)に示すように、膜側電極36は、基板側電極28と同様に環状の外観形状を有しており、面固定部38を取り囲むように設けられている。膜側電極36は、凹部22の底面22aに形成されている基板側電極28に対向するように配置されている。膜側電極36は、基板側電極28と同様に直流電源14及び交流電源16に対して接続されている。
【0039】
振動膜30及び膜側電極36は、従来公知の蒸着等の手法により上述した基板20上に形成される。具体的には、SOI(Sillicon On Insulator)ウェハを基板20上に蒸着することにより固定させ、その後SOIウェハの表面をTMAH、KOH、HF等を用いてウェットエッチングを施すことによりシリコン層だけを残す。これにより、振動膜30が形成される。膜側電極36は、振動膜30の上面側に、膜側電極36となる蒸着物を蒸着することにより形成される。
【0040】
また、振動膜30及び膜側電極36を形成する場合は、上述した方法以外に他の方法を採用することができる。具体的には、基板20に対して凹部22及び柱状部26、基板側電極28を形成した後、エッチング層を全面蒸着してCMP(Chemical Mechanical Polishing)を施すことにより表面を平坦化し、その上に振動膜30を蒸着する。その後、振動膜30に穴を開け、エッチング溶液でエッチング層に対するwet etchingを行い、キャビティ40を形成する。振動膜30に設けられた穴は埋め込み層を蒸着することにより埋められる。その後の作製プロセスは上述したプロセスと同一である。
【0041】
キャビティ40は、基板20に対して振動膜30を蒸着等により積層することにより、凹部22に相当する位置において基板20と振動膜30との間に形成される。キャビティ40は、内部が略真空状態とされている。
【0042】
続いて、超音波振動子ユニットU及び超音波振動子10の動作について説明する。超音波振動子ユニットUは、超音波振動子10に対して電圧を印加することにより超音波を発信する動作(発信動作)、及び超音波を受信し電気信号を出力する動作(受信動作)の双方を実施させることができる。
【0043】
超音波振動子ユニットUに発信動作を行わせる場合は、先ず直流電源14により超音波振動子10の基板側電極28及び膜側電極36の間に直流電圧を印加した状態とする。その後、交流電源16により基板側電極28及び膜側電極36の間に交流電圧を印加すると、両電極間に静電気力が発生し、振動膜30が基板20に対して近接及び離反するように振動する。この際、振動膜30のうち、周辺部32と面固定部38との間に存在する振動領域39が主として振動する。このようにして振動膜30が振動すると、超音波振動子10から超音波が発信される。
【0044】
また、超音波振動子ユニットUが受信動作を行う場合は、直流電源14により超音波振動子10の基板側電極28及び膜側電極36の間に直流電圧を印加した状態とする。この状態において超音波が振動膜30に対して衝突すると、振動膜30が基板20に対して近接及び離反する方向に振動する。またこの際、送信動作のときと同様に、振動膜30のうち振動領域39が主として振動する。振動膜30が振動すると、超音波振動子10において容量変化が生じ、基板側電極28及び膜側電極36の間に交流電流による受信信号が発生する。
【0045】
上述したように、本実施形態の超音波振動子ユニットUにおいては、キャビティ40内に、凹部22の底面側から振動膜30側に向けて突出した柱状部26が設けられており、振動膜30の中間部34において柱状部26が面固定されている。これにより、振動膜のばね定数が増加することになり、送受信感度が向上する。また、振動膜30の変位量が少なくなるため、基板側電極28及び膜側電極36の距離を狭めることができ、送受信感度が高くなる。更に、振動膜30が一次モードで振動する周波数帯域と、二次モードで振動する周波数帯域を近接させ、両周波数帯域の差を抑制することが可能であり、送受信の周波数帯域を拡張することができる。
【0046】
また、超音波振動子10は、柱状部26の大きさ(直径又は面積)を変化させることにより、振動膜30が一次モードで振動する周波数帯域と、二次モードで振動する周波数帯域との差を増減させることができる。具体的には、柱状部26の大きさを大きくすることにより、各周波数モードの差を拡大することができる。従って、超音波振動子ユニットUは、各超音波振動子10における柱状部26の大きさを調整することにより、超音波の送受信のために使用できる周波数帯域の幅を変化させることができる。
【0047】
また、上述した超音波振動子10においては、面固定部38及び周辺部32の間に形成された振動領域39に膜側電極36が設けられており、振動領域39において振動が発生する構造とされている。このような構造とされているため、超音波振動子ユニットUは、振動膜30の振動に伴う容量変化を的確に検知することが可能であり、十分な受信能力を発揮することができる。また、振動領域39に設けられた膜側電極36に対向するように基板側電極28が設けられているため、基板側電極28及び膜側電極36の間に電圧を印加することにより振動膜30を的確に振動させることができる。従って、超音波振動子ユニットUによれば、十分な送受信性能を得ることができる。
【0048】
また、超音波振動子10においては、柱状部26を振動膜30に対して面固定させることにより、振動膜30において振動に供する部分(振動領域39)の面積が面固定部38に相当する面積の分だけ小さくなる。これにより、振動膜30が振動することにより発生する弾性力が大きくなる。従って、超音波振動子10によれば、十分な送受信感度を得ることができる。
【0049】
また、本実施形態の超音波振動子10では、主として振動領域39において振動膜30が振動し、面固定部38においては振動領域39ほど大きな振動は発生しない。そのため、柱状部26と振動膜30との衝突による衝撃はさほど大きくなく、振動膜30が破損等する不具合が発生しない。
【0050】
また、超音波振動ユニットUは、基板20に対して凹部22を形成する際に柱状部26を設けておき、その後基板20上に振動膜30を積層することにより超音波振動子10を形成することができる。従って、超音波振動ユニットUは、構造がシンプルであり製造が容易である。
【0051】
上述した柱状部26は、略円筒形の外観形状を有するものであるが、本発明はこれに限定されるものではなく、断面形状が楕円形や多角形、その他の形状の柱状体であってもよい。また、柱状部26は、上下方向に断面積が変化することなく一定の柱体であるが、本発明はこれに限定されるものではなく、頂部、基端部、あるいは中間部において断面積が変化した形状のものであってもよい。
【0052】
上述した柱状部26は、基板20を形成する際に形成されたものであり、基板20と一体化されたものであるが、本発明はこれに限定されるものではなく、基板20とは別に柱状部26に相当するものを形成し、これをキャビティ40(凹部20)内に配置したものであってもよい。
【実施例】
【0053】
上述した超音波振動子ユニットUの一実施例に係る超音波プローブ100について説明する。超音波プローブ100は、超音波検査装置に用いられるものであり、生体に対する超音波の送信、及び生体側から返ってくる超音波の受信を行うための送受信装置である。超音波プローブ100は、図3に示すように上述した超音波振動子ユニットUを内蔵している。また、超音波プローブ100は、超音波振動子ユニットUの他に音響レンズ(図示せず)等の部材を内蔵している。
【0054】
本実施例の超音波プローブ100は、上述した超音波振動子ユニットUを備えたものであるため、使用可能な周波数帯域が広く、送受信感度の面においても優れている。従って、本実施形態の超音波プローブによれば、生体の表面状態だけでなく、深度が深い部位の状態まで検知することが可能となる。
【符号の説明】
【0055】
10 超音波振動子
20 基板
22 凹部
24 外縁部
26 柱状部
26a 頂部
28 基板側電極(第二電極)
30 振動膜
32 周辺部
34 中間部
36 膜側電極(第一電極)
38 面接触部
39 振動領域
40 キャビティ
100 超音波プローブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
凹部を有する基板と、
前記基板に対して装着された周辺部、及び前記周辺部間に形成され基板に対して近接・離反する方向に振動可能なた中間部を有し、可撓性を備えた振動膜と、
前記基板の前記凹部及び前記振動膜によって形成されたキャビティと、
前記振動膜側に設けられた第一電極と、
前記第一電極に対向する位置に設けられた第二電極とを有し、
前記キャビティ内に、前記凹部の底面側から前記振動膜側に向けて突出した柱状部が設けられており、
前記振動膜及び前記柱状部が、前記中間部において面接触していることを特徴とする超音波振動子ユニット。
【請求項2】
前記振動膜において前記柱状部と面接触している部位、及び前記周辺部の間の領域に、第一電極が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の超音波振動子ユニット。
【請求項3】
前記振動膜が、前記柱状部に対して接着されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の超音波振動子ユニット。
【請求項4】
前記柱状部において前記振動膜と接触している部位が平面状であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の超音波振動子ユニット。
【請求項5】
前記柱状部が、前記凹部を形成する外縁部と同一の高さまで突出していることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の超音波振動子ユニット。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の超音波振動子ユニットを備えており、
前記超音波振動子ユニットにより超音波を送受信可能であることを特徴とする超音波プローブ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−119831(P2012−119831A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−266319(P2010−266319)
【出願日】平成22年11月30日(2010.11.30)
【出願人】(510054647)株式会社Ingen MSL (6)
【Fターム(参考)】