説明

超音波探触子、および超音波探触子を用いた超音波診断装置

【課題】摩耗や変形が少なく長期間使用可能な音響レンズを備えた超音波探触子、および該超音波探触子を用いた超音波診断装置を提供する。
【解決手段】被検体表面に接触させ、該音響レンズによって送信する超音波を所定の距離に収束させる音響レンズを備えた超音波探触子であって、音響レンズは、曲げ弾性率が500MPa以上、1300MPa以下で、かつ音波の伝播速度が1300m/sec以上、2200m/sec以下の樹脂材料から成ることを特徴とする超音波探触子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波探触子、および超音波探触子を用いた超音波診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波画像診断用の超音波探触子(「超音波探触子」ともいう。)は、患者身体内へ超音波を放射し、身体内からの反射波を受波するためのものであり、通常、多数の圧電素子を1列に配列し、放射・受波面側に音響整合層、音響レンズなどを設けて構成されている。当該超音波探触子を使用する際には、放射・受波面を被検体表面、すなわち、身体(皮膚)表面に接触させて使用されるが、接触させたときに、わずかに発生する隙間に存在する空気の影響を除去するため、ゼリー状の物質を体表に塗り、そのゼリー状物質を介して超音波の送受波をすることが一般的である。そのため、使用後にはゼリーをふき取る作業が必要となるが、そのふき取り作業で音響レンズ面が徐々に磨耗し、フォーカス位置が当初の設計から合わなくなってくる。本来なら、磨耗し、ある限界を超えたら交換しなければならないが、その限界を超えた状態で診断行為を行うと、重要な疾患を見逃す可能性も出てくるという問題を生じる。
【0003】
従来の超音波探触子では、摩耗しやすいシリコンゴムから成る音響レンズ面が凸面形状の音響レンズが用いられてきた。このような音響レンズが磨耗すると、その厚さは初期状態より薄くなるとともに音響レンズ面の曲率半径が大きくなる。すなわち、フォーカス距離が長くなってしまう。すると、音響レンズとしての性能の劣化が生じるとともに、安全面でも問題が惹起される。
【0004】
音響レンズとしての性能の劣化については、フォーカス距離が長くなるというレンズ特性の変化により、放射される超音波ビームの特性に悪影響があり、超音波断層像などの画像の画質が劣化し、診断能力の低下がもたらされてしまう。
【0005】
安全面では、次のような問題が生じる。
【0006】
第1に、圧電素子より発生した超音波は音響レンズを通って身体内に放射されるが、音響レンズ内での超音波の減衰量は比較的大きい。音響レンズが薄くなると、その減衰量が小さくなるため、初期状態よりも大きな音響出力が身体内に放射される。
【0007】
第2に、音響レンズの皮膚に接する表面温度が高くなる問題を生じる。超音波を放射する振動子は、診断装置本体から供給される電気エネルギーを音響エネルギーに変換するものであるが、その変換効率は100%ではなく、一部は音響エネルギーとはならずに熱となる。このため、振動子は一種の熱源となっており、実際、音響レンズの表面でもその熱を感じることができる。そのため、皮膚が熱による障害を受けないよう、超音波探触子の表面温度についての規格にその上限が定められている。圧電素子の上に設けられた音響レンズの厚さが薄くなると、音響レンズ表面と熱源である圧電素子との距離が近くなって、音響レンズ表面の温度が規格を超えて高くなり、皮膚に損傷を与えるおそれが生じる。
【0008】
このような問題に対する改善策として、音響レンズの下層に音響レンズとは異なる色の色違い部を設け、音響レンズが摩耗すると色違い部が露出し、超音波探触子の使用者が気づくように構成した超音波探触子が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第4222050号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1に開示されている方法は、音響レンズの耐摩耗性を改善するものではなく、使用者は音響レンズの摩耗に気づく毎に超音波探触子を交換する必要があった。従来の超音波探触子では、およそ400回〜500回程度診断する毎に超音波探触子を交換する必要があり、使用者には大変な負担になっていた。
【0011】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、摩耗や変形が少なく長期間使用可能な音響レンズを備えた超音波探触子、および該超音波探触子を用いた超音波診断装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る上記課題は、以下の手段により解決される。
【0013】
1.被検体表面に接触させる音響レンズを備え、該音響レンズによって送信する超音波を所定の距離に収束させる超音波探触子であって、
前記音響レンズは、
曲げ弾性率が500MPa以上、1300MPa以下で、かつ音波の伝播速度が1300m/sec以上、2200m/sec以下の樹脂材料から成ることを特徴とする超音波探触子。
【0014】
2.前記樹脂材料は、
4−メチル−1−ペンテンと、モノマー分子の総炭素数が12以上18以下であるα−オレフィンから選ばれる化合物のうち1種、もしくは2種との共重合体であることを特徴とする前記1に記載の超音波探触子。
【0015】
3.超音波を被検体に向けて送信し、該被検体からの反射波を受信する超音波探触子を有し、該超音波探触子の受信した反射波に応じて画像を生成する超音波診断装置において、
前記超音波探触子は、
前記1または2に記載の超音波探触子であることを特徴とする超音波診断装置。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、音響レンズは、曲げ弾性率が500MPa以上、1300MPa以下で、かつ音波の伝播速度が1300m/sec以上、2200m/sec以下の樹脂材料から形成される。このことにより、摩耗や変形が少なく長期間使用可能な音響レンズを備えた超音波探触子、および該超音波探触子を用いた超音波診断装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】超音波診断装置100の外観構成を示す図である。
【図2】超音波診断装置100の電気的な構成を示すブロック図である。
【図3】実施形態の超音波探触子のヘッド部の構成を示す断面図である。
【図4】実施例の音響レンズの斜視図である。
【図5】比較例の音響レンズの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る実施の一形態を図面に基づいて説明するが、本発明は該実施の形態に限られない。なお、各図において同一の符号を付した構成は、同一の構成であることを示し、その説明を省略する。
【0019】
(超音波診断装置および超音波探触子の各構成および動作)
図1は、実施形態における超音波診断装置の外観構成を示す図である。図2は、実施形態における超音波診断装置の電気的な構成を示すブロック図である。
【0020】
超音波診断装置100は、図略の生体等の被検体に対して超音波(超音波信号)を送信し、受信した被検体で反射した超音波の反射波(エコー、超音波信号)から被検体内の内部状態を超音波画像として画像化し、表示部45に表示する。
【0021】
超音波探触子1は、音響レンズ7を介して被検体に対して超音波(超音波信号)を送信し、被検体で反射した超音波の反射波を受信する。超音波探触子1は、図2に示すように、ケーブル33を介して超音波診断装置本体31と接続されており、送信回路42、受信回路43と電気的に接続されている。
【0022】
送信回路42は、制御部46の指令により、超音波探触子1へケーブル33を介して電気信号を送信し、超音波探触子1から被検体に対して超音波を送信させる。
【0023】
受信回路43は、制御部46の指令により、超音波探触子1からケーブル33を介して、被検体内からの超音波の反射波に応じた電気信号を受信する。
【0024】
画像処理部44は、制御部46の指令により、受信回路43が受信した電気信号に基づいて被検体内の内部状態を超音波画像として画像化する。
【0025】
表示部45は、液晶パネルなどから成り、制御部46の指令により、画像処理部44が画像化した超音波画像を表示する。
【0026】
操作入力部41は、スイッチやキーボードなどから構成され、ユーザが診断開始を指示するコマンドや被検体の個人情報等のデータを入力するために設けられている。
【0027】
制御部46は、CPU、メモリなどから構成され、操作入力部41の入力に基づいてプログラムされた手順により超音波診断装置100各部の制御を行う。
【0028】
図3は、実施形態の超音波探触子のヘッド部の構成を示す断面図、図4は、実施形態の音響レンズ7の斜視図である。
【0029】
本実施形態では、送信用圧電素子と受信用圧電素子とを別体とし、超音波の送信時と受信時における動作を分離したアレイ型超音波探触子に本発明を適用した例を説明するが、特に限定されるものではなく単一の圧電素子で送受信を行うシングル型超音波探触子にも適用できる。
【0030】
以降の説明では図中のX、Y、Zで示す座標軸に基づいて説明する。X方向はエレベーション方向(ダイシングを行う方向)であり、Z軸正方向は超音波を送信する方向である。また、Z軸方向は積層方向である。
【0031】
図3に示す超音波探触子1は、バッキング材5の上に第4電極15、送信素子層2、第3電極14、中間層13、第2電極10、受信素子層3、第1電極9、整合層6、音響レンズ7の順に積層されている。
【0032】
(音響レンズ)
音響レンズ7は、送信素子層2が送信する超音波を所定の距離に収束させる。
【0033】
音響レンズ7を形成する材料に曲げ弾性率と音波の伝播速度(以下、音速ともいう)が所定範囲内の材料を用いることにより、音響レンズ面に付着したゼリーをふき取る際の音響レンズ面の磨耗や変形を低減できるので、超音波探触子1を長期間使用することができる。具体的には、曲げ弾性率が500MPa以上、1300MPa以下、で、かつ音波の伝播速度が1300m/sec以上、2200m/sec以下の範囲の樹脂材料を成型して音響レンズ7を形成することが好ましい。曲げ弾性率が500MPa未満、または音速が1300m/sec未満の樹脂材料は繰り返しゼリーをふき取ると音響レンズ面が変形するおそれがある。また、曲げ弾性率が1300MPa、または音速が2200m/secを越える樹脂材料は傷が付きやすく、繰り返しゼリーをふき取ると音響レンズ面が摩耗するおそれがある。
【0034】
より好ましくは、曲げ弾性率が600MPa以上、1000MPa以下の範囲の樹脂材料を成型して音響レンズ7を形成すると、磨耗や変形をさらに低減することができる。
【0035】
また、音響レンズ7に用いる樹脂材料は、生体の音響インピーダンス(1.4〜1.6Pa・s・m−1)に近く、送受信する超音波の周波数での減衰率が少ないことが望ましい。
【0036】
以上に述べた曲げ弾性率、音響インピーダンス、減衰率の条件を満たす樹脂材料として、4−メチル−1−ペンテンと、モノマー分子の総炭素数が12以上18以下であるα−オレフィンから選ばれる化合物のうち1種、もしくは2種との共重合体を用いることができる。これらの共重合体の音響インピーダンスは、人体の音響インピーダンスに近い1.8Pa・s・m−1程度であり、音速は人体に近い1900〜2200m/s程度である。
【0037】
本発明に係る共重合体を構成するモノマー分子の総炭素数が12以上18以下であるα−オレフィンは、特に限定されるものではないが、以下に列記するα−オレフィンを用いることが好ましい。例えば、1−ドデセン、1−トリデセン、1−テトラデセン、1−ペンタデセン、1−ヘキサデセン、1−ヘプタデセン、1−オクタデセン、2−エチルヘキシル−1−デセン、10−メチル−1−ウンデセン、8−エチル−1−デセン、8−エチル−1−ドデセン、8−ブチル−1−ドデセン、8,11−ジメチル−1−テトラデセンなどが挙げられる。
【0038】
また、ポリウレタン樹脂なども用いることができる。
【0039】
これらの共重合体やポリウレタン樹脂のように人体の音速(約1500m/s)より音速が速い材料で音響レンズ7を形成する場合は、図3、図4に示すように、音響レンズ7の超音波を送信する側の面を凹面形状にする。すると、凹面形状の音響レンズ面7aの中央の厚みの薄い部分を通過する超音波は、厚みの厚い部分より遅くなり、音響レンズ7を通過した超音波を所定の距離に収束させることができる。
【0040】
また、これらの共重合体の超音波の減衰率はシリコン樹脂など他の材質と比べて低く、高次高調波の伝搬損失が少ない。例えば、周波数15MHzでの減衰率は−15.0dB/mm程度である。そのためアレイ型超音波探触子を用いて、10MHz以上の高調波信号を利用する場合も高感度で受信することができる。
【0041】
さらに、これらの共重合体やポリウレタン樹脂はガスや液体を透過しにくいので、超音波探触子1の被検体と接する側の面から消毒用ガス、または液体が侵入して、受信素子層3や送信素子層2の特性が劣化するのを防止することができる。
【0042】
以降、積層順に各構成要素を説明する。
【0043】
(送信素子層)
送信素子層2は、ジルコン酸チタン酸鉛などの圧電材料から成る圧電素子であり、互いに厚み方向に対向する両面にそれぞれ第3電極14、第4電極15を備えている。送信素子層2の厚みは320μm程度である。
【0044】
第3電極14、第4電極15は、図示せぬコネクタによりケーブル33と接続され、ケーブル33を介して送信回路42と接続する。第3電極14、第4電極15に電気信号を入力すると圧電素子が振動し、送信素子層2からZ軸正方向に超音波を送信するように構成されている。
【0045】
第3電極14、第4電極15は、金、銀、アルミなどの金属材料を用いて、送信素子層2の両面に蒸着法やフォトリソグラフィー法を用いて成膜する。
【0046】
(中間層)
中間層13は、受信素子層3が被検体で反射した超音波の反射波を受信して振動した際に、送信素子層2が共振して振動しないように受信素子層3の振動を吸収するために設けられている。
【0047】
このような中間層13は、樹脂材料を成型して形成することができる。中間層13に用いる樹脂材料としては、例えばポリビニルブチラール、ポリオレフィン、ポリアクリレート、ポリイミド、ポリアミド、ポリエステル、ポリスルホン、エポキシ、オキセタン、などを用いることができる。
【0048】
中間層13の厚みは、求める感度や周波数特性により選択されるが、例えば180〜190μm程度である。
【0049】
なお、求める感度や周波数特性によっては中間層13を省略することもできる。
【0050】
(受信素子層)
受信素子層3は、有機圧電材料から成る複数の圧電素子から構成されている。
【0051】
受信素子層3に用いる有機圧電材料として、例えば、フッ化ビニリデンの重合体を用いることができる。また例えば、有機圧電材料は、フッ化ビニリデン(VDF)系コポリマを用いることができる。このフッ化ビニリデン系コポリマは、フッ化ビニリデンと他の単量体との共重合体(コポリマ)であり、他の単量体としては、3フッ化エチレン(TrFE)、テトラフルオロエチレ(TeFE)、パーフルオロアルキルビニルエーテル(PFA)、パーフルオロアルコキシエチレン(PAE)およびパーフルオロヘキサエチレン等を用いることができる。
【0052】
一般に、ジルコン酸チタン酸鉛などの圧電材料から成る圧電素子は、基本波の周波数に対する2倍程度の周波数帯域の超音波しか受信することができないが、有機圧電材料の圧電素子は、基本波の周波数に対する例えば4〜5倍程度の周波数帯域の超音波を受信することができ、受信周波数帯域の広帯域化に適している。このような超音波を広い周波数に亘って受信可能な特性を持つ有機圧電素子によって超音波信号が受信されるので、本実施形態における超音波探触子1および超音波診断装置100は、比較的簡単な構造で周波数帯域を広帯域にすることができる。
【0053】
受信素子層3の厚さtは、受信すべき超音波の周波数や有機圧電材料の種類等によって適宜に設定される。受信すべき超音波の波長をλとすると、受信素子層3の厚さtがt=λ/4のとき最も受信素子層3の受信効率が良い。
【0054】
このような受信素子層3は、有機圧電材料の溶液から流延して所定の厚さの膜を作製し、加熱して結晶化を行った後、所定の大きさのシート状に成型して作製する。
【0055】
受信素子層3の厚み方向(Z軸方向)に互いに対向する両面には、それぞれ第1電極9、第2電極10が形成されている。
【0056】
第1電極9、第2電極10は、ケーブル33を介して受信回路43と接続する。
【0057】
受信素子層3が被検体で反射した超音波の反射波を受信して振動すると、反射波に応じて圧電素子に第1電極9、第2電極10の間に電気信号が発生する。第1電極9、第2電極10の間に発生した電気信号は、ケーブル33を介して受信回路43で受信され、画像処理部44で画像化される。
【0058】
(整合層)
整合層6は、被検体の一つである人体と受信素子層3の音響インピーダンスの中間の音響インピーダンスを有し、音響インピーダンスの整合を図る。整合層6は、例えば、樹脂材料を成型して形成することができる。
【0059】
整合層6に用いる材料は、音響インピーダンスが1.7〜1.8程度で、音速が人体に近い1300m/sec以上、2200m/sec以下の材料を用いることが好ましい。例えば、ポリメチルペンテンなどを用いることができる。
【0060】
バッキング材5の上に、これまでに説明した第3電極14と第4電極15とが形成された送信素子層2、中間層13、第1電極9と第2電極10とが形成された受信素子層3、整合層6の順に、接着剤により接着して図3のように積層する。積層後、整合層6から超音波放射方向と反対の方向に向かってダイシングを行い、バッキング材5と第4電極15の接着層からさらにZ軸負方向に100μmの深さまでダイシングを行う。ダイシングによりできた溝部に、シリコン樹脂などから成る充填剤を充填した後、最上層に音響レンズ7を接着する。
【実施例】
【0061】
以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0062】
以降に説明する曲げ弾性率は、すべてASTM D790に準拠して測定した値である。
【0063】
[実施例1〜6]
(音響レンズの作製)
4−メチル−1−ペンテンと1−ドデセン、1−テトラデセンとを質量比を複数種変えて重合した4−メチル−1−ペンテン・1−ドデセン・1−テトラデセン共重合体の曲げ弾性率と音速をそれぞれ測定し、実施例1の曲げ弾性率500MPa、音速1960m/secの樹脂材料A、実施例2の曲げ弾性率600MPa、音速2053m/secの樹脂材料Bを得た。
【0064】
同様に、4−メチル−1−ペンテンと1−ヘキサデセン、1−オクタデセンとを質量比を複数種変えて重合した4−メチル−1−ペンテン・1−ヘキサデセン・1−オクタデセン共重合体の曲げ弾性率をそれぞれ測定し、実施例3の曲げ弾性率800MPa、音速2098m/secの樹脂材料C、実施例4の曲げ弾性率1000MPa、音速2127m/secの樹脂材料D、実施例5の曲げ弾性率1300MPa、音速2148m/secの樹脂材料Eを得た。また、実施例6の樹脂材料Fは、曲げ弾性率1270MPa、音速1620m/secのポリウレタン樹脂とした。
【0065】
金型を用いて射出成型を行い、樹脂材料A〜Fから成る図4に示すような凹面形状の音響レンズ面7aを有する音響レンズ7を作製した。音響レンズ7のX方向の長さ10mm、Y方向の長さ55mm、Z方向の最大長さ(厚み)170μm、凹面部の曲率半径は20mmとした。
【0066】
このようにして、6種類の樹脂材料A〜Fから成る実施例1〜6の音響レンズをそれぞれ6つ作製した。作製した実施例1〜6の音響レンズの樹脂材料A〜Fと曲げ弾性率および音速との関係を表1に示す。
【0067】
【表1】

【0068】
(超音波探触子の作製)
試作した超音波探触子1は、次のように作製した。
【0069】
送信素子層2は、ジルコン酸チタン酸鉛を材料として、X方向の長さ10mm、Y方向の長さ55mm、Z方向の長さ(厚み)320μmのシート状にラップ仕上げで作製した。
【0070】
次に、送信素子層2の両面に、金を真空蒸着して0.3μm厚の第3電極14と第4電極15とを作製した。
【0071】
中間層13は、ポリビニルブチラールを材料としてX方向の長さ10mm、Y方向の長さ55mm、Z方向の長さ(厚み)を185μmに成形した。
【0072】
受信素子層3は、フッ化ビニリデン(以下VDF)とトリフルオロエチレン(以下3FE)のモル比率が75:25であるポリフッ化ビニリデン共重合体粉末(重量平均分子量29万)を50℃に加熱したエチルメチルケトン(以下MEK)、ジメチルホルムアミド(以下DMF)の9:1混合溶媒に溶解した液をガラス板上に流延した。その後、50℃にて溶媒を乾燥させ、厚さ約140μm、融点155℃のフィルム(有機圧電材料)を得た。
【0073】
このフィルムをチャックにかかる荷重が測定できるロードセル付きの一軸延伸機によって、室温で4倍に延伸した。4倍延伸終了時点での延伸軸方向の張力は、単位幅(mm)あたり2.2Nであった。延伸した長さを保ったまま延伸機を加熱し、135℃で1時間熱処理を行った。その後、張力が0にならないように、チャック間距離を制御しながら(弛緩処理)、室温まで冷却した。得られた熱処理後のフィルムの膜厚は40μmであった。
【0074】
その後、Y方向の長さ55mm、X方向の長さ10mmのシート状に成形した。ここで得られたフィルムの両面に、表面抵抗が20Ω以下になるように金、またはアルミニウムを蒸着塗布して両面に0.3μm厚の表面電極(第1電極9と第2電極10)付の試料を得た。
【0075】
続いて、この電極に室温にて、0.1Hzの交流電圧を印加しながら分極処理を行った。分極処理は低電圧から行い、最終的に電極間電場が100MV/mになるまで徐々に電圧をかけて行った。最終的な分極量は、圧電材料をコンデンサと見たてた際の残留分極量、すなわち膜厚、電極面積、印加電場に対する電荷蓄積量から求め、前記の各大きさの有機圧電材料を得た。
【0076】
整合層6は、4−メチル−1−ペンテンと、1−オクテンの共重合体を材料としY方向の長さ55mm、X方向の長さ10mm、Z方向の長さ(厚み)140μmに作製した。
【0077】
バッキング材5の上に、第3電極14と第4電極15とが形成された送信素子層2、中間層13、第1電極9と第2電極10とが形成された受信素子層3、整合層6の順に、接着剤により接着して図3のように積層する。積層後、整合層6からZ軸負方向に向かってダイシングを行い、バッキング材と第4電極の接着層からさらにZ軸負方向に100μmの深さまでダイシングを行った。
【0078】
最後に最上層に、実施例1〜6の音響レンズを接着し、実施例1〜6の6種類の超音波探触子1を各6個作製した。
【0079】
[比較例1〜4]
(音響レンズの作製)
4−メチル−1−ペンテンと1−ドデセン、1−テトラデセンとを質量比を複数種変えて重合した4−メチル−1−ペンテン・1−ドデセン・1−テトラデセン共重合体の曲げ弾性率をそれぞれ測定し、比較例1の曲げ弾性率450MPa、音速1908m/secの樹脂材料Gを得た。
【0080】
同様に、4−メチル−1−ペンテンと1−デセンとを質量比を複数種変えて重合した4−メチル−1−ペンテン・1−デセン共重合体の曲げ弾性率をそれぞれ測定し、比較例2の曲げ弾性率1600MPa、音速2224m/secの樹脂材料Hを得た。また、曲げ弾性率1400MPa、音速1000m/secのシリコン樹脂からなる樹脂材料Iと、曲げ弾性率2080MPa、音速1690m/secのポリウレタン樹脂からなる樹脂材料Jを比較例3、比較例4として用いた。
【0081】
実施例と同様に金型を用いて射出成型を行い、樹脂材料G、Hから成る図4に示すような凹面形状の音響レンズ面7aを有する比較例1、2の音響レンズ7を作製した。音響レンズ7のX方向の長さ10mm、Y方向の長さ55mm、Z方向の最大長さ(厚み)170μm、凹面部の曲率半径は20mmとした。
【0082】
また、樹脂材料Iのシリコン樹脂を用いて比較例3の音響レンズを作製した。シリコン樹脂の音速は1000m/sであり、人体の音速より低いので図5に示すような凸面形状の音響レンズ面70aを有する音響レンズ70を作製した。音響レンズ70のX方向の長さ10mm、Y方向の長さ55mm、Z方向の最大長さ(厚み)170μm、凸面部の曲率半径は20mmとした。
【0083】
さらに、樹脂材料Jのポリウレタン樹脂を用いて、図4に示すような凹面形状の音響レンズ面7aを有する音響レンズ7を作製した。音響レンズ7のX方向の長さ10mm、Y方向の長さ55mm、Z方向の最大長さ(厚み)150μm、凹面部の曲率半径は43mmとした。
【0084】
このようにして、樹脂材料Gから成る比較例1の音響レンズと、樹脂材料Hから成る比較例2の音響レンズと、樹脂材料Iから成る比較例3の音響レンズと、樹脂材料Jから成る比較例4の音響レンズをそれぞれ6つ作製した。
【0085】
比較例の樹脂材料G、H、I、Jの曲げ弾性率と音速を表2に示す。
【0086】
【表2】

【0087】
(超音波探触子の作製)
実施例と同じ手順で各層を積層し、最後に最上層に、比較例1〜4の音響レンズ7を接着し、比較例1〜4の4種類の超音波探触子1を各6個作製した。
【0088】
[評価方法]
実施例と比較例のそれぞれ5個の超音波探触子の音響レンズ面にエコーゼリーを3g塗り、旭化成(株)製BEMCOT M−3II(商品名)でふき取る作業をそれぞれ200回、400回、600回、800回、1000回繰り返した。実施例と比較例のそれぞれ1個の超音波探触子は、エコーゼリーの塗布とふき取りを行わなかった。
【0089】
(目視評価)
エコーゼリーの塗布とふき取りを行わなかった実施例と比較例のそれぞれ1個と、200回、400回、600回、800回、1000回繰り返しふき取りを行った実施例と比較例のそれぞれ5個とを目視で比較した。目視での比較で、エコーゼリーの塗布とふき取りを行わなかった超音波探触子と変化がわからないものを◎、擦り傷が音響レンズ面の一部に認められるものを○、擦り傷が音響レンズ面の全面に認められるもの、音響レンズ面が変形しているものを×とした。
【0090】
(画像診断)
エコーゼリーの塗布とふき取りを行わなかった実施例と比較例のそれぞれ1個と、ふき取りを200回、400回、600回、800回、1000回それぞれ繰り返し行った実施例と比較例の5個を取り替えて、超音波診断装置100に接続し、同一の被検者の同じ患部の画像診断を行った。画像診断は、どの超音波探触子が超音波診断装置100に接続されているか分からない状態で、6名の医師、及び2名のソノグラファーが行った。
【0091】
エコーゼリー塗布、ふき取りを全く行っていない実施例と比較例の超音波探触子で、前記8名による診断を行ったところ、全ての超音波探触子で8名全員が病変をみつけ、同じ診断をした。この診断を正しい診断とする。
【0092】
画像診断の結果は、8名全員が正しい診断を行った場合を◎、1名のみ診断ができないと判断し、残りの全員が正しい診断を行った場合を○、1名でも診断を誤った場合を×とした。
【0093】
[結果]
(目視評価)
目視評価の結果を表3に示す。
【0094】
【表3】

【0095】
表3に示すように、400回ふき取り後、実施例には特に変化は見られなかったが、比較例4の音響レンズ面は明らかに摩耗していた。600回ふき取り後では比較例1の音響レンズ面の全面に無数の傷が認められた。また、比較例2、比較例3、比較例4は明らかに摩耗し、音響レンズ面の最も厚みのある部分がすり減って、下層の整合層6が露出していた。
【0096】
800回ふき取り後、比較例2の音響レンズ面の傷は顕著になりエッジ部分の一部が欠損し、比較例2、比較例3、比較例4は整合層6の露出している範囲がさらに広がった。また、800回ふき取り後、比較例1の音響レンズ面が変形し、エッジ部分には欠損した部分も認められた。
【0097】
一方、800回ふき取り後も実施例1〜5の音響レンズ面には傷が認められなかったが、実施例6の音響レンズ面の一部には傷が認められた。
【0098】
1000回ふき取り後、実施例1、実施例5、実施例6の音響レンズ面の一部には傷が認められたが、実施例2、実施例3、実施例4の音響レンズ面には傷が認められなかった。
【0099】
(画像診断)
画像診断の結果を表4に示す。
【0100】
【表4】

【0101】
表4のように、実施例2、3、4では1000回ふき取り後まで8名全員が正しい診断を行った。実施例1、実施例5では800回ふき取り後まで8名全員が正しい診断を行ったが、1000回ふき取り後は、1名が診断できないと判断し、残りの7名が正しい診断を行った。また、実施例6では600回ふき取り後まで8名全員が正しい診断を行ったが、800回ふき取り後と1000回ふき取り後は、1名が診断できないと判断し、残りの7名が正しい診断を行った。
【0102】
一方、比較例1では、600回ふき取り後は全員が診断を誤り、比較例2、比較例4では、400回ふき取り後以降は全員が診断を誤った。比較例3では、400回ふき取り後に、1名が診断を誤り、600回ふき取り後以降は全員が診断を誤った。
【0103】
以上このように、本発明によれば、摩耗や変形が少なく長期間使用可能な音響レンズを備えた超音波探触子、および該超音波探触子を用いた超音波診断装置を提供することができる。
【符号の説明】
【0104】
1 超音波探触子
2 送信素子
3 受信素子
5 バッキング材
6 整合層
7 音響レンズ
9 第1電極
10 第2電極
13 中間層
14 第3電極
15 第4電極
31 超音波診断装置本体
33 ケーブル
41 操作入力部
42 送信回路
43 受信回路
44 画像処理部
45 表示部
46 制御部
70 音響レンズ
100 超音波診断装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体表面に接触させる音響レンズを備え、該音響レンズによって送信する超音波を所定の距離に収束させる超音波探触子であって、
前記音響レンズは、
曲げ弾性率が500MPa以上、1300MPa以下で、かつ音波の伝播速度が1300m/sec以上、2200m/sec以下の樹脂材料から成ることを特徴とする超音波探触子。
【請求項2】
前記樹脂材料は、
4−メチル−1−ペンテンと、モノマー分子の総炭素数が12以上18以下であるα−オレフィンから選ばれる化合物のうち1種、もしくは2種との共重合体であることを特徴とする請求項1に記載の超音波探触子。
【請求項3】
超音波を被検体に向けて送信し、該被検体からの反射波を受信する超音波探触子を有し、該超音波探触子の受信した反射波に応じて画像を生成する超音波診断装置において、
前記超音波探触子は、
請求項1または2に記載の超音波探触子であることを特徴とする超音波診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−263407(P2010−263407A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−112602(P2009−112602)
【出願日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.VDF
【出願人】(303000420)コニカミノルタエムジー株式会社 (2,950)
【Fターム(参考)】