説明

超音波探触子および超音波診断装置

【課題】本発明は、駆動層に湿気が侵入するおそれが少なく、湿気による絶縁破壊の危険性が少なく、しかも、製作容易な超音波探触子および超音波診断装置の提供を目的とする。
【解決手段】本発明の超音波探触子は、駆動層62と基材層61とを積層した可動膜としてのダイヤフラム6と、ダイヤフラム6を支持した支持部材8と備える。又、ダイヤフラム6は、基材層61が超音波の送信方向における駆動層62の前方側に配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波を送受信することができる超音波探触子およびこの超音波探触子を備えた超音波診断装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
超音波診断装置は、簡易に内部組織の観察ができ、又、リアルタイムで観察ができるといった特徴を有するため、診断への応用場面が益々増加している。この超音波診断装置の超音波探触子として、例えばシリコンなどの基板(基材層)にPZTなどの圧電薄膜(駆動層)を形成したユニモルフ構造のダイヤフラム(可動膜)を太鼓状に振動させて超音波の送受信を行なうpMUT(Piezoelectric Micromachined Ultrasonic Transducer)が知られている。
【0003】
このようなpMUTの超音波探触子は、バルクPZTをダイシングにより分割したものに比し、周波数帯域を広くでき、微細化して高解像度ができるとともに、3次元画像を取得するための振動子(セル)の2次元配列化に適しており、また、小型薄型化可能であるために超音波内視鏡への応用に適している等の利点を有する。特に1次元配列の振動子では、取得できる画像が断層画像であるため、操作による偽陰性の危険性があることから、操作者(医師、超音波診断技師)の熟練度が要求される。このような課題を軽減するため、3次元画像を取得できる2次元配列の超音波探触子のニーズは高い。
【0004】
このようなpMUTの駆動層は、厚さが数ミクロン程度であるが、十分な送信強度を得るために、印加される電界強度は、1〜10V/μmに達する。このような非常に薄い膜に大きな電界が印加されるため、電極材料のエレクトロマイグレーションによる絶縁破壊が問題となる。通常、ダイヤフラムの超音波を送信する方向の前方側には、披検体である人体に当接する当接部としてゴム系樹脂等からなる被覆層が設けられている。しかし、被覆層によって湿度に対する侵入速度を低下させることができるが、完全な遮断性能を得ることは難しい。特に、超音波内視鏡への応用においては、非常に高い湿度環境にさらされるため、湿気による絶縁破壊が大きな問題となる。
【0005】
又、このようなpMUTとして、例えば特許文献1に開示されたものがある。このものは、駆動層を、超音波送信方向における基板の前方側に配置されるように構成されているとともに、駆動層の電極と電気接続させるための貫通電極(貫通ウエハビア)を基板に設けたものである(特許文献1、図11参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2006−516368号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1においては、駆動層を、超音波送信方向における基板の前方側に配置しているため、診断に際して被検体から湿気が駆動層に侵入するおそれが高く、湿気による絶縁破壊の危険性が高いという問題点がある。
【0008】
又、特許文献1においては、基板に電気配線部として貫通電極を設けているため、貫通電極の形成中に駆動層の圧電薄膜が劣化するおそれが生じる。そのため、圧電薄膜に被覆層を形成して行わなければならない等、製作が複雑化する。
【0009】
本発明は、駆動層に湿気が侵入するおそれが少なく、湿気による絶縁破壊の危険性が少なく、しかも、製作容易な超音波探触子および超音波診断装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明の一態様に係る超音波探触子は、電気機械変換素子からなる駆動層と基材層とを積層した可動膜を備え、前記駆動層に電界を印加することによって駆動層に変位を発生させて前記可動膜を振動させることにより超音波を所定の方向に送信させて被検体に前記超音波を送信できるようにした超音波探触子であって、前記可動膜は、前記基材層が前記超音波の送信方向における前記駆動層の前方側に配置されるように構成されていることを特徴とする。
【0011】
この構成によれば、可動膜は、基材層が超音波送信方向における駆動層の前方側に配置されるように構成されているため、例えば診断に際して被検体から駆動層へ湿気が侵入するおそれの少ないものにでき、絶縁破壊に対する信頼性の高いものにできる。従って、電界強度を上げることができ、大きな送信強度を得ることができる。
【0012】
又、基材層に、駆動層に設けられた電極に電気接続するための貫通配線を設けることなく、可動膜の後方側から駆動層の電極に容易に電気接続でき、製作容易なものにできる。
【0013】
他の一態様では、上述の超音波探触子において、上述の超音波探触子において、前記可動膜の駆動層側に、封止部材が設けられ、前記駆動層は、前記封止部材と基材層との間に、真空封止されていることを特徴とする。
【0014】
この構成によれば、可動膜の駆動層側に、封止部材が設けられ、駆動層は、封止部材と基材層との間に、真空封止されているため、駆動層へ湿気を、より確実に侵入し難いものにできる。
【0015】
他の一態様では、上述の超音波探触子において、前記駆動層には、前記電界を印加するための電極が設けられ、前記封止部材には、前記電極と電気接続を行なう電気配線部が設けられていることを特徴とする。
【0016】
この構成によれば、封止部材は、駆動層の電極と電気接続を行なう電気配線部を備えているため、可動膜の後方側から駆動層の電極への電気接続を容易なものにできる。
【0017】
他の一態様では、上述の超音波探触子において、前記電気配線部は、前記封止部材に設けられた前記貫通孔と、前記電極と電気接続可能に前記貫通孔に充填された電極材料とを備えていることを特徴とする。
【0018】
この構成によれば、例えば封止部材を基材層に真空プロセスである陽極接合により接合するようにすれば、駆動層を真空空間に真空封止できるとともに、その接合時に電気配線部と駆動層の電極とを接続でき、製作容易なものにできる。
【0019】
他の一態様では、これら上述の超音波探触子において、前記可動膜の駆動層側には、超音波減衰材料が配設されていることを特徴とする。
【0020】
この構成によれば、可動膜の駆動層側には、超音波減衰材料が封入されているため、可動膜から駆動層側に放射された超音波を超音波減衰材料によって減衰でき、可動膜の駆動層側に配設された部材に超音波が反射、帰還して可動膜を振動させ、送信パルスの尾引きや受信時のノイズになるようなことを防止できる。
【0021】
他の一態様では、これら上述の超音波探触子において、前記電気機械変換素子は、圧電材料であることを特徴とする。
【0022】
この構成によれば、電気機械変換素子として圧電材料を用いた場合に適したものにできる。
【0023】
本発明の一態様に係る超音波診断装置は、請求項1〜6の何れか一項に記載の超音波探触子を備えている。
【0024】
この構成によれば、診断に際して被検体から駆動層へ湿気が侵入するおそれが少なく、絶縁破壊に対する信頼性の高いものにでき、電界強度を上げることができ、大きな送信強度を得ることができる。又、基材層に、駆動層に設けられた電極に電気接続するための貫通配線を設けることなく、可動膜の後方側から駆動層の電極に容易に電気接続でき、製作容易な超音波診断装置を提供できる。
【発明の効果】
【0025】
本発明の超音波探触子は、駆動層に湿気が侵入するおそれが少なく、湿気による絶縁破壊の危険性が少なく、しかも、製作容易なものである。又、駆動層に湿気が侵入するおそれが少なく、湿気による絶縁破壊の危険性が少なく、しかも、製作容易な超音波探触子を有する超音波診断装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】実施形態における超音波診断装置の外観構成を示す図である。
【図2】実施形態における超音波診断装置の電気的な構成を示すブロック図である。
【図3】実施形態の超音波診断装置における超音波探触子の構成を示す断面図である。
【図4】超音波探触子における超音波送受信部の平面図である。
【図5】超音波送受信部の要部を拡大した背面図である。
【図6】図5のVI−VI線断面図である。
【図7】他の実施形態の超音波送受信部の平面図である。
【図8】図7の超音波送受信部の要部の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。図1は、実施形態における超音波診断装置の外観構成を示す図である。図2は、実施形態における超音波診断装置の電気的な構成を示すブロック図である。図3は、実施形態の超音波診断装置における超音波探触子の構成を示す断面図である。
【0028】
実施形態における超音波診断装置Sは、図1に示すように、図略の生体等の被検体に対して超音波(第1超音波信号)を送信すると共に、この第1超音波信号に基づく被検体内から来た超音波(第2超音波信号)を受信する超音波探触子2と、超音波探触子2とケーブル3を介して接続され、超音波探触子2へケーブル3を介して電気信号の送信信号を送信することによって超音波探触子2に被検体に対して第1超音波信号を送信させると共に、超音波探触子2で受信された被検体内から来た第2超音波信号に応じて超音波探触子2で生成された電気信号の受信信号に基づいて被検体内の内部状態を超音波画像として画像化する超音波診断装置本体1とを備えて構成される。
【0029】
この第1超音波信号に基づく被検体内から来た超音波は、被検体内における音響インピーダンスの不整合によって被検体内で第1超音波信号が反射した反射波(エコー)だけでなく、例えば微小気泡(マイクロバブル)等の超音波造影剤(コントラスト剤)が用いられている場合には、第1超音波信号に基づいて超音波造影剤の微小気泡で生成される超音波もある。超音波造影剤では、超音波の照射を受けると、超音波造影剤の微小気泡は、共振もしくは共鳴し、さらに一定の閾値以上の音圧では崩壊、消失する。超音波造影剤では、微小気泡の共振によって、あるいは微小気泡の崩壊、消失によって、超音波が生じている。
【0030】
超音波診断装置本体1は、例えば、図2に示すように、操作入力部11と、送信部12と、受信部13と、画像処理部14と、表示部15と、制御部16とを備えて構成されている。
【0031】
操作入力部11は、例えば、診断開始等を指示するコマンドや被検体の個人情報等のデータを入力するための装置であり、例えば、複数の入力スイッチを備えた操作パネルやキーボード等である。
【0032】
送信部12は、例えば制御部16からの制御信号を超音波探触子2に送信する。受信部13は、例えば超音波探触子2から送られてくる受信信号を受信して画像処理部14へ出力する。
【0033】
画像処理部14は、制御部16の制御に従って、受信部13で受信された、第1超音波信号に基づく被検体内から来た第2超音波信号における所定の周波数成分に基づいて被検体内の内部状態を表す画像(超音波画像)を形成する回路である。前記所定の周波数成分は、例えば、基本波成分、ならびに、例えば2次高調波成分、3次高調波成分および4次高調波成分等の高調波成分を挙げることができる。画像処理部14は、複数の周波数成分を用いて超音波画像を形成するように構成されてもよい。画像処理部14は、例えば、受信部13の出力に基づいて被検体の超音波画像を生成するDSP(Digital Signal Processor)、および、表示部15に超音波画像を表示すべく、前記DSPで処理された信号をディジタル信号からアナログ信号へ変換するディジタル−アナログ変換回路(DAC回路)等を備えて構成される。前記DSPは、例えば、Bモード処理回路、ドプラ処理回路およびカラーモード処理回路等を備え、いわゆるBモード画像、ドプラ画像およびカラーモード画像の生成が可能とされている。
【0034】
表示部15は、制御部16の制御に従って、画像処理部14で生成された被検体の超音波画像を表示する装置である。表示部15は、例えば、CRTディスプレイ、LCD(液晶ディスプレイ)、有機ELディスプレイおよびプラズマディスプレイ等の表示装置やプリンタ等の印刷装置等である。
【0035】
制御部16は、例えば、マイクロプロセッサ、記憶素子およびその周辺回路等を備えて構成され、これら超音波探触子2、操作入力部11、送信部12、受信部13、画像処理部14および表示部15を当該機能に応じてそれぞれ制御することによって超音波診断装置Sの全体制御を行う回路である。
【0036】
超音波探触子(超音波プローブ)2は、図3に示すように探触子本体4と、探触子本体4に設けられ超音波の送受信を行なう超音波送受信部5とを備えている。尚、図3のX方向を前方側として説明する。後述の図6において同じである。
【0037】
探触子本体4は、前端に設けられた被覆層41と、後端側に設けられた信号処理回路部42と、被覆層41と信号処理回路部42との間に配設されたバッキング材層43とを備えている。
【0038】
被覆層41は、診断に際して、例えば被検体としての生体と当接し、その当接に際し不快感を与えることがないものであって、音響インピーダンスが人体に近いシリコーンゴム等から形成されている。
【0039】
バッキング材層43は、超音波送受信部4に発生する不要振動を減衰する等の役割を果たす。
【0040】
信号処理回路部42は、ケーブル3を介して超音波診断装置Sと接続されているとともに、超音波送信用のパルス信号の生成、或いは、受信パルス信号の処理などを行なう。
【0041】
詳しくは、制御部16の制御に従って、上記送信部12から送られてくる電気信号の送信信号を供給して超音波送受信部5に第1超音波信号を発生させる。例えば、高電圧のパルスを生成する高圧パルス発生器等を備えて構成される。この信号処理回路部42で生成された駆動信号は、後述の複数のダイヤフラム6それぞれに対し適宜に遅延時間を個別に設定した、パルス状の複数の信号であり、ダイヤフラム6のそれぞれに供給される。この複数の駆動信号によっては、各ダイヤフラム6から放射された超音波の位相が特定方向(特定方位)(あるいは、特定の送信フォーカス点)において一致し、その特定方向にメインビームを形成した送信ビームの第1超音波信号を発生する。
【0042】
又、信号処理回路部42は、制御部16の制御に従って、超音波送受信部5から電気信号の受信信号を受信し処理する。そして、送信時の送信ビームの形成と同様に、受信時もいわゆる整相加算することによって受信ビームが形成されてよい。すなわち、ダイヤフラム6それぞれから出力される複数の出力信号に対し適宜に遅延時間を個別に設定し、これら遅延された複数の出力信号を加算することによって、各出力信号の位相が特定方向(特定方位)(あるいは、特定の受信フォーカス点)において一致し、その特定方向にメインビームが形成される。このような場合において、例えば、前記増幅器で増幅された各出力信号が入力される受信ビームフォーマ等も備えてよい。尚、この信号処理回路部42は、超音波診断装置本体1に設けるようにしてもよく、適宜変更できる。
【0043】
超音波送受信部5は、探触子本体4の被覆層41とバッキング材層43との間に配設されている。この実施形態の超音波送受信部5は、ダイヤフラム(可動膜)6と、ダイヤフラム6を支持した支持部材8とを備えている(図4〜図6参照)。
【0044】
ダイヤフラム6は、図6に示すように基材層61と、基材層61の背面側に積層された駆動層62とを備えたユニモルフ構造を採っており、図4に示すように左右方向及び上下方向に配列された複数の円形状のセルから構成されている。
【0045】
基材層61は、この実施形態では、図6に示すように前面にシリコン酸化膜(SiO)61aを有するシリコン製の薄板状体61bの一部から構成されている。詳しくは、薄板状体61bは、駆動層62が積層された複数の円形状の基材層61と、支持部材8に保持される被保持部61cとを備えている。
【0046】
駆動層62は、電気機械変換素子としての圧電材料から構成されている。又、この実施形態における圧電材料は、PZTから構成されている。又、この駆動層62の前面には、図6に示すように白金等から構成された共通電極層64が設けられている。一方、駆動層62における背面には、金等から構成された個別電極層63が設けられている。
【0047】
そして、この共通電極層64と個別電極層63とが積層された駆動層62は、基材層61の背面側に積層され、これにより、複数の円形状のセルから構成された薄膜状のダイヤフラム6が形成されている。又、この実施形態では、図4、図5に示すように、4つのダイヤフラム6を1素子66(図4、図5の一点鎖線で囲んだ4つ)として共通接続されて同調して動作するように構成され、複数の素子66が左右上下に2次元的に配列されている。
【0048】
より詳しくは、図5に示すように個別電極層63は、4つのダイヤフラム6夫々から延設されたセル連結部63aを備えており、このセル延設部63aを介して4つのダイヤフラム6ごとに配設された個別電極層63同士が連結されている。
【0049】
又、共通電極層64は、個別電極層63と同様に、4つのダイヤフラム6夫々から延設されたセル連結部64aを備えているとともに、その4つのダイヤフラム6からなる1素子66夫々から延設された素子延設部64bを備えており、その素子延設部64bによって上記素子66同士を連結している。尚、図5では、素子延設部64bを1つだけ表し、他を省略している。
【0050】
支持部材8は、この実施形態では、図6に示すようにシリコン製の板状体から構成されており、支持部材本体80と、ダイヤフラム6を支持した支持部83と、その支持したダイヤフラム6よりも前方側(超音波送信方向の前方側)に突出するように形成された突出部84と、ダイヤフラム6の前方側を開口するように形成された開口部81とを備えている。
【0051】
支持部83は、支持部材本体80の背面に形成されており、この支持部83に上記薄板状体61bにおける被保持部61cが保持されている。これにより、ダイヤフラム6は、支持部材8の背面側に配設されて被保持部61cを介して支持され、支持部材本体80の全体がダイヤフラム6から前方側に突出している。
【0052】
突出部84は、この実施形態では、上記のようにしてダイヤフラム6から前方側に突出した支持部材本体80の全体から構成されている。
【0053】
開口部81は、ダイヤフラム6に対応する位置に、ダイヤフラム6とほぼ同じ大きさの円形状に、支持部材本体80の前面から背面に貫通するように形成されている。
【0054】
又、この開口部81には、突出部84よりも剛性の低い音響伝達部材82が充填されている。この音響伝達部材82は、その音響インピーダンスがダイヤフラム6と人体との夫々の音響インピーダンスの中間にあたるもの、例えばシリコーンゴム、或いは、水などの液体等から構成される。
【0055】
音響伝達部材82を、例えばシリコーンゴムから構成するとともに、上記被覆層41を同じシリコーンゴムから構成すれば、両者を一体的に形成することもでき、製作を容易なものできる。又、開口部81に充填された音響伝達部材82は、被覆層41によって開口部81内に封入された状態になり、被覆層41がキャップとして機能する。
【0056】
又、この実施形態では、駆動層62の背面側には、封止部材としてのスルーシリコンビア(TSV)基板7が設けられている。このスルーシリコンビア基板7は、前面側に凹部71を備えているとともに、はんだバンプ72aを有する個別電極用貫通電極72と、はんだバンプ73aを有する共通電極用貫通電極73とを備えている。これらの個別電極用貫通電極72及び共通電極用貫通電極73は、スルーシリコンビア基板7に設けられた貫通穴74に銅などの電極材料をメッキなどにより充填するようにして形成されている。
【0057】
そして、スルーシリコンビア基板7は、その凹部71内に駆動層62、個別電極層63及び共通電極層64が収納されるとともに、凹部71内が真空空間になるようにして、スルーシリコンビア基板7の全周部が薄板状体61bの全周部に封止されている。
【0058】
又、この状態で、個別電極用貫通電極72のはんだバンプ72aが個別電極層63に通電可能に接続されていると共に、共通電極用貫通電極73のはんだバンプ73aが共通電極層64に通電可能に接続されている。尚、個別電極用貫通電極72と共通電極用貫通電極73との基端側は、夫々、バッキング材層43を介して信号処理回路部42に通電可能に接続される。
【0059】
このように構成される超音波送受信部5は、この実施形態では、次のようにして形成されている。シリコン製の板状体とシリコン酸化膜61aとシリコン製の薄板状体61bとの積層構造からなるSOIウエハにおけるその薄板状体61bに、白金をスパッタなどにより製膜して共通電極層64を形成する。
【0060】
又、共通電極層64に、PZTを、スパッタ又はゾルゲン法などにより成膜して駆動層62を形成する。更に、駆動層62に、金をスパッタなどにより製膜して個別電極層63を形成する。
【0061】
次に、個別電極層63、駆動層62、共通電極層64を、順次、パターニングによって円形状のセル形状に形成するとともに、板状体におけるダイヤフラム6に対応する位置に、開口部81をエッチング等によって形成する。
【0062】
これにより、個別電極層63と駆動層62と共通電極層64と、薄板状体61bの一部とが積層されて前方側を開口した複数のダイヤフラム6を形成できるとともに、板状体が支持部材8となって、その背面側にダイヤフラム6を支持している。
【0063】
そして、支持部材8とスルーシリコンビア基板7とを、真空プロセスである陽極接合により接合することによって、ダイヤフラム6の背面に真空空間を形成する。又、その接合時の圧力によりはんだバンプ72a、73aを、個別電極層63、共通電極層64夫々に圧接する。尚、この接合方法には、共晶接合や常温接合を用いることもできる(共晶接合の場合は、両接合面に金などの金属材料を製膜する)。
【0064】
最後にダイシングを行い、チップ状に切り出して、超音波送受信部5を得る。尚、PZTは、接合時の高温により脱分極が発生するため、分極電圧を印加し再分極を行なう。
【0065】
以上のように構成された超音波診断装置Sで診断する場合、例えば、操作入力部11から診断開始の指示が入力されると、制御部16の制御に従い、信号処理回路部42で超音波送信用のパルス信号が生成される。
【0066】
この生成されたパルス信号は、超音波送受信部5の複数のダイヤフラム6の素子66ごとに所定の遅延時間でパルス電圧を印加する。ダイヤフラム6は、このパルス電圧が印加されることによって駆動層62が伸縮するが、駆動層62に積層された基材層61が伸縮しないため、駆動層62と基材層61とが太鼓状に振動する。この振動によって、ダイヤフラム6は、第1超音波信号を、ダイヤフラム6の厚さ方向の前後方向に放射する。尚、ダイヤフラム6の素子間に時間差を設けてパルス電圧を発信することで、超音波を所定距離、方向にフォーカスすることができる。
【0067】
その際、駆動層62の背面側に真空空間75を設けていない場合には、ダイヤフラム6から駆動層62の背面側へ放射された第1超音波信号は、背面側の部材に反射、帰還し、ダイヤフラム6を振動させてしまい、その結果、送信パルスの尾引きや受信時のノイズとなってしまう。しかし、この実施形態では、駆動層62の背面側に真空空間75を設けているため、ダイヤフラム6から駆動層62の背面側へ放射された第1超音波信号の伝達を防止でき、受信時のノイズの発生を抑えることができる。従って、ダイヤフラム6は、第1超音波信号を、前方側(図3、図6のX方向)に放射する。
【0068】
ダイヤフラム6から前方側の被覆層25方向へ放射された第1超音波信号は、被覆層25を介して放射される。被覆層25が被検体に例えば当接されていると、これによって超音波探触子2から被検体に対して第1超音波信号が送信される。
【0069】
なお、超音波探触子2は、被検体の表面上に当接して用いられてもよいし、被検体の内部に挿入して、例えば、生体の体腔内に挿入して用いられてもよい。
【0070】
その際、被覆層25から湿気が超音波送受信部5に侵入するおそれがあるが、超音波送受信部5の基材層61が駆動層62よりも超音波送信方向の前方側に配設されているため、駆動層62へ湿気が侵入するおそれの少ないものにでき、駆動層(PZT)の絶縁破壊に対する信頼性の高いものにできる。従って、電界強度を上げることができ、大きな送信強度を得ることができる。
【0071】
被検体に対して送信された超音波は、被検体内部における音響インピーダンスが異なる1または複数の境界面で反射され、超音波の反射波となる。あるいは超音波造影剤が被検体内に注入されている場合には、第1超音波信号に起因して超音波造影剤によって超音波が生成される。この超音波には、送信された第1超音波信号の周波数(基本波の基本周波数)成分だけでなく、基本周波数の整数倍の高調波の周波数成分も含まれる。例えば、基本周波数の2倍、3倍および4倍等の2次高調波成分、3次高調波成分および4次高調波成分等も含まれる。この超音波は、超音波探触子2で受信される。
【0072】
より具体的には、この超音波は、被覆層25を介してダイヤフラム6で受信され、機械的な振動が電気信号に変換されて受信信号として個別電極層63に電荷が発生する。そして、この電気信号の受信信号は、信号処理回路部42で処理され、画像処理部14へ出力される。
【0073】
そして、画像処理部14は、制御部16の制御によって、受信された受信信号に基づいて、送信から受信までの時間により被検体までの距離が、素子間の時間差により被検体までの距離が、夫々検出され、被検体の超音波画像を生成する。例えば、画像処理部14では、フィルタ法によって受信信号から高調波成分が抽出され、この抽出された高調波成分に基づいてハーモニックイメージング技術を用いて被検体内部の内部状態の超音波画像が生成される。また例えば、画像処理部14では、位相反転法(パルスインバージョン法)によって受信信号から高調波成分が抽出され、この抽出された高調波成分に基づいてハーモニックイメージング技術を用いて被検体内部の内部状態の超音波画像が生成される。そして、表示部15は、制御部16の制御によって、画像処理部14で生成された被検体の超音波画像を表示する。
【0074】
以上のように、超音波探触子2における超音波送受信部5の基材層61が駆動層62よりも超音波送信方向の前方側に配設されているため、基材層61に貫通配線を設ける必要がなく、スルーシリコンビアなどの従来技術によって容易に配線構造がとれるとともに、セル配置の自由度を低下させることなく、高密度化が可能である。
【0075】
尚、上記実施形態では、超音波探触子2の超音波送受信部5のダイヤフラム6を2次元配列に配設したが、1次元配列に配設してもよく、適宜変更できる。詳しくは、例えば図7に示すように、超音波送受信部105のダイヤフラム106は、10個(図中の一点鎖線で囲んだ10個)が電気的に共通接続されて、同調して動作を行なう1素子166となるように構成されている。そして、このように10個のダイヤフラム106から構成される1素子166が左右方向に配列されている。
【0076】
このように構成すれば、例えば個別電極取り出し部163を、各素子の下方側に、共通電極取り出し部164を、素子全体の右方側に集中させることができるため、スルーシリコンビアなどによる貫通配線を設ける必要がなく、バッキング材層143に設けられた貫通電極(図示せず)で直接接続できる。
【0077】
より詳しくは、図8に示すようにバッキング材層143は、前面側に凹部143aを有する。そして、バッキング材層143の凹部143aに駆動層62を収納させるようにして、バッキング材層143の全周部が薄板状体61bの全周部に接着剤等により直接接着されている。
【0078】
又、その際、凹部143aに、ダイヤフラム106から発せられた超音波を減衰するための音響減衰部材143bを収納しておくのが好ましい。この音響減衰部材143bとしては、例えばゴム状物質、ゴム状物質にタングステン等の金属粒子を分散させたもの、或いは、ゲル状物質に金属粒子を分散させたもの、更には、絶縁性のオイル等の液体などを挙げることができる。又、凹部143aの深さは、超音波が十分減衰する距離とされるのが好ましい。
【0079】
又、この図8に示すものでは、被覆層として音響レンズ141が用いられている。音響レンズ141は、超音波の波長帯域の波にレンズ作用を及ぼし、被検体に向けて送信される超音波を収束する。音響レンズ141は、図示しないが円弧状に膨出した形状とされている。
【0080】
又、上記実施形態では、駆動層を、PZTから構成したが、この形態のものに限らず、例えば駆動層を、水晶、ニオブ酸リチウム(LiNbO3)、ニオブ酸タンタル酸カリウム(K(Ta,Nb)O3)、チタン酸バリウム(BaTiO3)、タンタル酸リチウム(LiTaO3)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO3)、PZN−PTおよびPMN−PT等から構成することもでき、適宜変更できる。
【符号の説明】
【0081】
1 超音波診断装置本体
2 超音波探触子
5、105 超音波送受信部
6、106 ダイヤフラム(可動膜)
61 基材層
62 駆動層
63 個別電極層
64 共通電極層
S 基板超音波診断装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気機械変換素子からなる駆動層と基材層とを積層した可動膜を備え、前記駆動層に電界を印加することによって駆動層に変位を発生させて前記可動膜を振動させることにより超音波を所定の方向に送信させて被検体に前記超音波を送信できるようにした超音波探触子であって、
前記可動膜は、前記基材層が前記超音波の送信方向における前記駆動層の前方側に配置されるように構成されていることを特徴とする超音波探触子。
【請求項2】
前記可動膜の駆動層側に、封止部材が設けられ、
前記駆動層は、前記封止部材と基材層との間に、真空封止されていることを特徴とする請求項1記載の超音波探触子。
【請求項3】
前記駆動層には、前記電界を印加するための電極が設けられ、
前記封止部材には、前記電極と電気接続を行なう電気配線部が設けられていることを特徴とする請求項2記載の超音波探触子。
【請求項4】
前記電気配線部は、前記封止部材に設けられた前記貫通孔と、前記電極と電気接続可能に前記貫通孔に充填された電極材料とを備えていることを特徴とする請求項3記載の超音波探触子。
【請求項5】
前記可動膜の駆動層側には、超音波減衰材料が配設されていることを特徴とする請求項1〜4の何れか一項に記載の超音波探触子。
【請求項6】
前記電気機械変換素子は、圧電材料であることを特徴とする請求項1〜5の何れか一項に記載の超音波探触子。
【請求項7】
請求項1〜6の何れか一項に記載の超音波探触子を備えていることを特徴とする超音波診断装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2011−255024(P2011−255024A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−132820(P2010−132820)
【出願日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【出願人】(303000420)コニカミノルタエムジー株式会社 (2,950)
【Fターム(参考)】