説明

超音波探触子用音響レンズおよび超音波探触子

【課題】音響特性に優れかつ耐久性に優れる超音波探触子用音響レンズおよびそれを用いた超音波探触子を提供する。
【解決手段】シリカで被覆された金属酸化物粒子およびシリコーンゴムを含有することを特徴とする超音波探触子1であって、前記金属酸化物粒子の含有量が、15〜50質量%であり、バッキング材6、電極2および圧電材料5を有する圧電素子上に、音響整合層8および超音波探触子用音響レンズ9を具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波を送信、受信して超音波検査を行う超音波探触子に用いられる超音波探触子用音響レンズおよびそれを用いた超音波探触子に関し、特に生体を対象とした超音波探触子に用いられる超音波探触子用音響レンズおよびそれを用いた超音波探触子(超音波プローブ)に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波を用いた検査を行う超音波検査装置は、被検体に超音波を送波し、この超音波の反射音波(エコー)を受波し、この反射波に基づいて被検体の内部を画像化して可視化するようになっている。超音波を送波し、反射音波を受波するには、超音波プローブが用いられる。超音波プローブは一般的に、バッキング材、圧電体、音響整合層および音響レンズを有している。
【0003】
バッキング材は、圧電体の背面に放射される不要な超音波を吸収し、余分な振動を抑制する。圧電体は、加電圧により振動して超音波を発生すると共に、超音波の振動を受けその音圧に対応する電圧を発生する機能を有し、電極が付加された状態で使用される。音響整合層は、被検体への超音波の伝搬を効率良く行うために、被検体の音響インピーダンスと圧電体の音響インピーダンスとの間の音響インピーダンスを有し、音響インピーダンスを整合させる層である。音響レンズは、超音波ビームを収束させる機能を有する層である。
【0004】
超音波プローブは、上記のようなバッキング材、圧電体、音響整合層、音響レンズがこの順に積層された構成を有する積層構造物であり、これらの各層は、一般的に接着によって一体化されている。したがって、超音波振動子部材の各層は、その用途により種々の特性を要求される。
【0005】
超音波プローブの用途としては、魚群探知器や生体を対象とする診断装置などがある。
【0006】
これらの用途のうち、特に生体を対象とする診断装置に用いられる場合、特に音響レンズは生体と密着させて使用される部分に相当するため、下記のような特性を有する必要があることが知られている。
1.生体との間における超音波の反射を小さくするために、音響インピーダンスが生体のそれに近い。
2.感度を高めるために、音波の減水率が、小さい。
3.凸面形状とするために、音速が生体内の音速以下である。
4.音響レンズの各種形状に対応するために、成形性が高い。
5.生体と接触する医療用途のため、化学的、物理的に安定である。
6.生体への接触時の圧による変形を防止するため、一定以上の硬度を有する。
【0007】
そして、これらの特性を総合的に高めたものとして下記の技術が知られている。
【0008】
たとえば、40質量%以上のシリコーンゴムを含有し、15〜60質量%の酸化亜鉛粉末を有するもの(特許文献1参照)、40質量%以上のシリコーンゴムを含有し、12〜56質量%の酸化イッテルビウム粉末を含有するものが知られている(特許文献2参照)。
【0009】
またこれらにおいては、酸化亜鉛粉末または酸化イッテルビウム粉末としてシリコーン樹脂で被覆されたものを用いること、さらにシリカ粉末を含有させた音響レンズが開示されている。
【0010】
しかしながら、これらの音響レンズにおいても、上記の特性が比較的向上するものの、特に繰り返し使用した場合に、変形などを生じ音響特性が劣化するなど耐久性が不充分であり、音響特性と耐久性を両立させることは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2005−125071号公報
【特許文献2】特開2009−72605号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、音響特性に優れかつ耐久性に優れる超音波探触子用音響レンズおよびそれを用いた超音波探触子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の上記課題は、下記の手段により達成される。
【0014】
1.シリカで被覆された金属酸化物粒子およびシリコーンゴムを含有することを特徴とする超音波探触子用音響レンズ。
【0015】
2.前記金属酸化物粒子の含有量が、15〜50質量%であることを特徴とする前記1に記載の超音波探触子用音響レンズ。
【0016】
3.バッキング材、該バッキング材上に設けられた、電極および圧電材料を有する圧電素子、該圧電素子上に設けられた音響整合層および該音響整合層上に設けられた前記1または2に記載の超音波探触子用音響レンズを具備することを特徴とする超音波探触子。
【発明の効果】
【0017】
本発明の上記手段により、音響特性に優れかつ、耐久性に優れる超音波探触子用音響レンズおよびそれを用いた超音波探触子が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の超音波探触子の好ましい態様の例の概略断面図である。
【図2】本発明の超音波探触子を具備する超音波画像検出装置の例の主要部の構成を示す概念図である。
【図3】本発明の超音波探触子の例の断面図である。
【図4】本発明の超音波探触子を具備する超音波画像検出装置の例の概略図である。
【図5】本発明の超音波探触子を具備する超音波画像検出装置の例の主要部の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、超音波探触子用音響レンズであって、シリカで被覆された金属酸化物粒子およびシリコーンゴムを含有することを特徴とする。
【0020】
本発明では、特に音響レンズとして、シリカで被覆された金属酸化物粒子およびシリコーンゴムを含有するものを用いることで、高い音響特性を有し、耐久性に優れる超音波探触子が得られる。
【0021】
(超音波探触子用音響レンズ)
本発明の超音波探触子用音響レンズ(以下単に、音響レンズとも称する)は、シリカで被覆された金属酸化物粒子とシリコーンゴムを含有する。
【0022】
シリコーンゴムは、Si−O結合であるシロキサン結合を複数有するゴム状シリコーン樹脂である。
【0023】
ゴム状シリコーン樹脂としては、ジメチルポリシロキサンを主成分とするものが好ましく、重合度としては3000から10000のものが好ましく用いられる。
【0024】
また、下記一般式(1)で表される、シリコーン化合物をさらに含有するものも好ましく用いられる。
【0025】
一般式(1)
(RSiO)(RSiO)SiR
(Rは1価炭化水素基または水素原子、Rはアルキル基、ポリエーテル基、Xは0以上の整数、Yは1以上の整数)。
【0026】
シリコーンゴムは、市販品として入手することができ、たとえば信越化学社製、KE742U、KE752U、KE931U、KE941U、KE951U、KE961U、KE850U、KE555U、KE575U等や、モメンティブパフォーマンスマテリアル社製、TSE221−3U、TE221−4U、TSE2233U、XE20−523−4U、TSE27−4U、TSE260−3U、TSE−260−4Uやダウコーニング東レ社製のSH35U、SH55UA、SH831U、SE6749U、SE1120USE4704Uなどを用いることができる。
【0027】
シリコーンゴムの含有量としては、音響レンズに対して、40質量%以上であることが好ましく、特に40〜80質量%であることが、音響特性、耐久性の面から好ましい。
【0028】
(シリカで被覆された金属酸化物粒子(以下単に、シリカ被覆金属酸化物粒子と略記する))
本発明において、シリカ被覆金属酸化物粒子とは、その表面にシリカを有する金属酸化物粒子である。シリカ被覆金属酸化物粒子に用いられる金属酸化物としては、TiO、SnO、ZnO、Bi、WO、ZrO、Fe、MnO、Y、MgO、BaO、Ybが挙げられる。これらの中でも、ZnO、TiO、Feが、音響特性の面から好ましく用いられる。
【0029】
シリカ被覆金属酸化物粒子は、これらの金属酸化物の粒子を、珪酸、水、アルカリおよび有機溶媒を含有するシリカ被膜形成用組成物と接触させ、金属酸化物の表面にシリカを選択的に沈着せしめることで得られる。選択的に沈着せしめるには、水/有機溶媒比が容量比で0.1〜10の範囲であり、かつ珪素濃度が0.0001〜5モル/リットルの範囲であることが好ましい条件である。
【0030】
シリカ被覆金属酸化物粒子の平均粒径は、1〜200nmが好ましく特に、5〜20nmであることが好ましい。平均粒径は、粒径を、100個について測定し、これらの値の数平均を求めた値である。粒径は、電子顕微鏡観察による画像から求めた、粒子の最大径と最小径との平均値である。
【0031】
シリカ被覆金属酸化物粒子のシリカ被膜の膜厚としては、0.1〜100nmが好ましく、特に1〜25nmが好ましく適用できる範囲である。
【0032】
シリカ被覆金属酸化物粒子の含有量としては、音響特性の面から、10〜60質量%が好ましく、特に、15〜50質量%であることが好ましい。
【0033】
シリカ被覆金属酸化物粒子は、市販品として入手することができ、昭和電工(株)製マックスライトZS−64(シリカ被覆酸化亜鉛)、昭和電工(株)製マックスライトTS−043(シリカ被覆酸化チタン)などを用いることができる。
【0034】
超音波探触子用音響レンズは、シリコーンゴムとシリカ被覆酸化物粒子を混合し混練し、混練物に加硫剤を添加して加硫成形することにより、音響レンズの形状を有する成形品とし、さらに必要に応じ2加硫を行うことにより作製される。加硫剤としては、たとえば2,5−ジメチル−2,5−ジターシャリーブチルパーオキシヘキサン、p−メチルベンゾイルパーオキサイド、ジターシャリーブチルパーオキサイドなどの過酸化物系の加硫剤を用いることができる。この過酸化物系の加硫剤の量は、たとえば音響レンズ組成物中のシリコーンゴムに対して0.3〜2質量%にすることが好ましい。また、前記過酸化物系の加硫剤以外の加硫剤を用いてもよい。
【0035】
シリコーンゴムとシリカ被覆酸化物粒子を混合する際には、金属酸化物粒子は、加熱などにより水分を取り除くことが好ましい。加硫成形の温度としては、100〜200℃が好ましく範囲である。
【0036】
本発明の超音波探触子用音響レンズには、シリカ粉末を、本発明の効果を損なわない範囲で含んでもよい。含まれるシリカ粉末の含有量としては、音響レンズに対して20質量%以下であることが好ましい。また、下記のような添加物を大略5質量%以下の範囲で含有してもよい。たとえば、たとえば酸化チタン、アルミナ、酸化セリウム、酸化鉄、硫酸バリウム、有機物フィラー、着色顔料などが挙げられる。
【0037】
本発明の上記構成が、高い音響特性を示し、耐久性に優れる理由は明確ではないが、以下のように推測される。分散されたシリカ被覆金属酸化物粒子は、シリコーンゴムに対する親和力が大きいために、シリコーンゴムと粒子との間の密着力が大きく、シリコーンゴムとより一体化して音響レンズ中で動作するため音響特性の劣化を生ずることがなく、また外部からの力が局部的に集中するのを防止して、外力を音響レンズ内で分散吸収しているためと推測される。
【0038】
(超音波探触子)
本発明の超音波探触子は、バッキング層、該バッキング層上に設けられた、電極および圧電体を有する圧電素子、この圧電素子上に設けられた音響整合層およびこの音響整合層上に設けられた本発明の超音波探触子用音響レンズを具備する。
【0039】
図1に本発明の超音波探触子の好ましい態様の例の概略断面図を示す。
【0040】
超音波探触子1は、バッキング層6上に、送信用圧電材料5に電極2が付された送信用圧電素子12を有し、送信用圧電素子12上に中間層7を有し、中間層7上に受信用圧電材料11に電極2が付された受信用圧電素子13を有し、さらにその上に音響整合層8および音響レンズ9を有する構成を有する。
【0041】
(バッキング層)
バッキング層は、圧電素子を支持し、不要な超音波を吸収し得る超音波吸収体である。バッキング層に用いられるバッキング材としては、天然ゴム、フェライトゴム、エポキシ樹脂に酸化タングステンや酸化チタン、フェライト等の粉末を入れてプレス成形した材料、塩化ビニル、ポリビニルブチラール(PVB)、ABS樹脂、ポリウレタン(PUR)、ポリビニルアルコール(PVAL)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリアセタール(POM)、ポリエチレンテレフタレート(PETP)、フッ素樹脂(PTFE)ポリエチレングリコール、ポリエチレンテレフタレート−ポリエチレングリコール共重合体などの熱可塑性樹脂などを用いることができる。
【0042】
好ましいバッキング材としては、ゴム系複合材料およびまたはエポキシ樹脂複合材からなるものであり、その形状は圧電体や圧電体を含むプローブヘッドの形状に応じて、適宜選択することができる。
【0043】
ゴム系複合材としては、ゴム成分および充填剤を含有する物が好ましく、JIS K6253に準拠したスプリング硬さ試験機(デュロメータ硬さ)におけるタイプAデュロメータでA70からタイプDデュロメータでD70までの硬さを有するものであり、さらに、必要に応じて各種の他の配合剤を添加することもできる。ゴム成分としては、たとえば、エチレンプロピレンゴム(EPDMまたはEPM)、水素化ニトリルゴム(HNBR)、クロロプレンゴム(CR)、シリコーンゴム、EPDMとHNBRのブレンドゴム、EPDMとニトリルゴム(NBR)のブレンドゴム、NBRおよび/またはHNBRと高スチレンゴム(HSR)のブレンドゴム、EPDMとHSRブレンドゴムなどが好ましい。より好ましくは、エチレンプロピレンゴム(EPDMまたはEPM)、水素化ニトリルゴム(HNBR)、EPDMとHNBRのブレンドゴム、EPDMとニトリルゴム(NBR)のブレンドゴム、NBRおよび/またはHNBRと高スチレンゴム(HSR)のブレンドゴム、EPDMとHSRブレンドゴムなどが挙げられる。本発明のゴム成分は、加硫ゴムおよび熱可塑性エラストマーなどのゴム成分の1種を単独で使用してもよいが、ブレンドゴムのように2種以上のゴム成分をブレンドしたブレンドゴムを用いてもよい。
【0044】
ゴム成分に添加される充填剤としては、通常使用されているものから比重の大きいものに至るまでその配合量と共に様々な形で選ぶことが出来る。たとえば、亜鉛華、チタン白、ベンガラ、フェライト、アルミナ、三酸化タングステン、酸化イットリビウムなどの金属酸化物、炭酸カルシウム、ハードクレイ、ケイソウ土などのクレイ類、炭酸カルシウム、硫酸バリウムなどの金属塩類、ガラス粉末などやタングステン、モリブデン等の各種の金属系微粉末類、ガラスバルーン、ポリマーバルーン等の各種バルーン類が挙げられる。これらの充填剤は、種々の比率で添加することができるが、好ましくはゴム成分100質量部に対して50〜3000質量部、より好ましくは100〜2000質量部、または300〜1500質量部程度が好ましい。また、これらの充填剤は1種または2種以上を組み合わせて添加してもよい。
【0045】
ゴム系複合材料には、さらに他の配合剤を必要に応じて添加することができ、このような配合剤としては、加硫剤、架橋剤、硬化剤、それらの助剤類、劣化防止剤、酸化防止剤、着色剤などが挙げられる。たとえば、カーボンブラック、二酸化ケイ素、プロセスオイル、イオウ(加硫剤)、ジクミルパーオキサイド(Dicup、架橋剤)、ステアリン酸などを配合することができる。これらの配合剤は必要に応じて使用されるものであるが、その使用量は、一般にゴム成分100質量部に対しそれぞれ1〜100質量部程度であるが全体的バランスや特性によって適宜変更することもできる。
【0046】
エポキシ樹脂複合剤としては、エポキシ樹脂成分および充填剤を含有するのが好ましく、さらに必要に応じて各種の配合剤を添加することもできる。エポキシ樹脂成分としては、たとえばビスフェノールAタイプ、ビスフェノールFタイプ、レゾールノボラックタイプ、フェノール変性ノボラックタイプ等のノボラック型エポキシ樹脂、ナフタレン構造含有タイプ、アントラセン構造含有タイプ、フルオレン構造含有タイプ等の多環芳香族型エポキシ樹脂、水添脂環型エポキシ樹脂、液晶性エポキシ樹脂などが挙げられる。本発明のエポキシ樹脂成分は単独で用いても良いが、ブレンド樹脂のように2種類以上のエポキシ樹脂成分を混合して用いても良い。
【0047】
エポキシ成分に添加される充填剤としては、上記ゴム成分に混合する充填剤と同様のものから、上記ゴム系複合剤を粉砕しさく作製した複合粒子までいずれも好ましく使用することができる。複合粒子としては、たとえばシリコーンゴム中にフェライトを充填したものを、粉砕器にて粉砕し200μm程度の粒径にしたものが挙げることができる。
【0048】
エポキシ樹脂複合剤を使用する際にはさたに架橋剤を添加する必要があり、たとえばジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ジプロピレンジアミン、ジエチルアミノプロピルアミン等の鎖状脂肪族ポリアミン、N−アミノエチルピペラジン、メンセンジアミン、イソフォロンジアミン等の環状脂肪族ポリアミン、m−キシレンジアミン、メタフェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルフォン等の芳香族アミン、ポリアミド樹脂、ピペリジン、NN−ジメチルピペラジン、トリエチレンジアミン、2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、ベンジルジメチルアミン、2−(ジメチルアミノメチル)フェノール等の2級および3級アミン等、2−メチルイミダゾール、2−エチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−ウンデシルイミダゾリウム・トリメリテート等のイミダゾール類、液状ポリメルカプタン、ポリスルフィド、無水フタル酸、無視トリメリット酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、メチルエンドメチレンテトラヒドロ無水フタル酸、メチルブテニルテトラヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロフタル酸等の酸無水物が挙げることができる。
【0049】
バッキング材の厚さは、概ね1〜10mmが好ましく、特に1〜5mmであることが好ましい。
【0050】
(圧電素子)
本発明に係る圧電素子は、電極および圧電材料を有し、電気信号を機械的な振動に、また機械的な振動を電気信号に変換可能で超音波の送受信が可能な素子である。圧電材料は、電気信号を機械的な振動に、また機械的な振動を電気信号に変換可能な圧電体を含有する材料である。圧電体としては、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)系セラミックス、PbTiO系セラミックなどの圧電セラミックス、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)などの有機高分子圧電材料、水晶、ロッシェル塩などを用いることができる。圧電材料の厚さとしては、概ね100μm〜500μmの範囲で用いられる。圧電材料は、その両面に電極が付された状態で、圧電素子として用いられる。
【0051】
(電極)
圧電材料に付される電極に用いられる材料としては、金(Au)、白金(Pt)、銀(Ag)、パラジウム(Pd)、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)、スズ(Sn)などが挙げられる。
【0052】
圧電材料に電極を付す方法としては、たとえば、チタン(Ti)やクロム(Cr)などの下地金属をスパッタ法により0.02〜1.0μmの厚さに形成した後、上記金属元素を主体とする金属およびそれらの合金からなる金属材料、さらには必要に応じ一部絶縁材料をスパッタ法、その他の適当な方法で1〜10μmの厚さに形成する方法が挙げられる。
【0053】
電極形成はスパッタ法以外でも、微粉末の金属粉末と低融点ガラスとを混合した導電ペーストをスクリーン印刷やディッピング法、溶射法で形成することもできる。電極は、圧電材料上に、探触子の形状に応じて、圧電体面の全面あるいは圧電体面の一部に、設けられる。
【0054】
圧電素子とバッキング材は、接着層を介して積層されていることが好ましい態様である。接着層を形成するための接着剤としては、エポキシ系の接着剤を用いることができる。
【0055】
圧電素子の、バッキング材側の表面の一部と、音響整合層側の表面の一部には電極が接触されており、バッキング材と電極が接着層11を介して積層されている部分を含む場合もある。
【0056】
(音響整合層)
本発明に係る音響整合層は、圧電素子と被検体の間の音響インピーダンスを整合させるもので、圧電素子と被検体との中間の音響インピーダンスを有する材料で構成される。音響整合層に用いられる、材料としてはアルミ、アルミ合金(たとえばAL−Mg合金)、マグネシウム合金、マコールガラス、ガラス、溶融石英、コッパーグラファイト、ポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)、ポリカーボネート(PC)、ABC樹脂、ポリフェニレンエーテル(PPE)、ABS樹脂、AAS樹脂、AES樹脂、ナイロン(PA6,PA6−6)、PPO(ポリフェニレンオキシド),PPS(ポリフェニレンスルフィド:ガラス繊維入りも可),PPE(ポリフェニレンエーテル),PEEK(ポリエーテルエーテルケトン),PAI(ポリアミドイミド),PETP(ポリエチレンテレフタレート),PC(ポリカーボネート)、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂等を用いることができる好ましくはエポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂に充填剤として亜鉛華、酸化チタン、シリカやアルミナ、ベンガラ、フェライト、酸化タングステン、酸化イットリビウム、硫酸バリウム、タングステン、モリブデン等を入れて成形したものを用いることができる。
【0057】
音響整合層は、単層でもよいし複数層から構成されてもよいが好ましくは2層以上である。音響整合層の層厚は、超音波の波長をλとすると、λ/4となるように定める必要がある。これを満たさない場合、本来の共振周波数とは異なる周波数ポイントに複数の不要スプリアスが出現し、基本音響特性が大きく変動してしまう。結果、残響時間の増加、反射エコーの波形歪みによる感度やS/Nの低下を引き起こしてしまい好ましくない。このような音響整合層の厚さとしては、概ね30μm〜500μmの範囲で用いられる。
【0058】
本発明の超音波探触子では、超音波の送受信の両方を一つの圧電素子で担ってもよいが、圧電素子として、送信用圧電素子と受信用圧電素子とを具備するものが、好ましく用いられる。送信用圧電素子と、受信用圧電素子の配列としては、各々を上下に配置する配列および並列に配置する配列のどちらでもよいが、上下に配置して積層する構造が好ましい。
【0059】
積層する場合の送信用圧電素子および受信用圧電素子の厚さとしては、40〜150μmであることが好ましい。
【0060】
本発明の超音波探触子は、種々の態様の超音波画像検出置に用いることができる。図2に本発明の超音波探触子を具備する超音波画像検出装置の例の主要部の構成を示す概念図を示す。
【0061】
超音波画像検出装置は、たとえば、生体などの被検体に対して超音波を送信し、被検体で反射した超音波をエコー信号として受信する圧電素子が配列されている超音波探触子(プローブ)を備えている。また当該超音波探触子に電気信号を供給して超音波を発生させると共に、当該超音波探触子の各圧電素子が受信したエコー信号を受信する送受信回路と、送受信回路の送受信制御を行う送受信制御回路を備えている。
【0062】
さらに、送受信回路が受信したエコー信号を被検体の超音波画像データに変換する画像データ変換回路を備えている。また当該画像データ変換回路によって変換された超音波画像データでモニタを制御して表示する表示制御回路と、超音波画像検出装置全体の制御を行う制御回路を備えている。
【0063】
制御回路には、送受信制御回路、画像データ変換回路、表示制御回路が接続されており、制御回路はこれら各部の動作を制御している。そして、超音波探触子の各圧電材料に電気信号を印加して被検体に対して超音波を送信し、被検体内部で音響インピーダンスの不整合によって生じる反射波を超音波探触子で受信する。
【実施例】
【0064】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明の態様はこれに限定されない。なお、実施例における「部」は、特に断りない限り「質量部」を表す。
【0065】
実施例1
(シート1〜7の作製)
平均粒径30nmの、シリカで被覆されたZnO粒子(ZS−64、昭和電工(株)製)をステンレスパッド上に薄く入れ、このパッドを140℃の高温槽に入れ4時間乾燥し付着した水分などを蒸発させた。
【0066】
この際、質量は、乾燥前と乾燥後で質量が0.4質量%減量した。
【0067】
シリコーンゴムとして分子鎖両末端がジメチルビニルシリル基で封鎖された粘度が530cStであり、ビニル基含有量が0.2モル%であるジメチルポリシロキサン(シリコーンゴム−1)100質量部、オルガノポリシロキサン20質量部および前記充分乾燥したシリカで被覆したZnO粒子65質量部を混合し、6インチのダブルロール混練り機を用いて混練りを行い、ゴム組成物−1を調整した。
【0068】
次いでこのゴム組成物−1、100質量部に、加硫剤としての2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン0.5質量部をロール混合して成形用コンパウンドを調製し、この成形用コンパウンド−1を165℃で10分間プレス成形し、さらに200℃、2hrにて2次加硫を行い、シート1を作製した。尚、シート1の厚さとしては、後述の測定に供するために、各々1mm、2mm、3mmのものを作製した。
【0069】
下記のようにして、音響インピーダンスの値および減衰率を測定し、音響特性の評価の指標とした。
【0070】
シート1の25℃における密度をJIS、C−2123に従って求め、このものの25℃における音速を音速測定装置・シングアラウンド式音速測定装置UVM−2型[超音波工業(株)製商品名]にて測定周波数5MHzにて測定し、この積からシートの音響インピーダンスを求めたところ、1.32MRaylsであった。
【0071】
また、シート1を水槽中に25℃の水を満たし、超音波パルサー・レシーバーJPR−10C[ジャパンプローブ社製]によって水中で15MHzの超音波を発生させ、超音波がシートを透過する前と後の振幅の大きさを測定したところ、25℃の水中における超音波減衰量は−6db/mmであった。
【0072】
尚、音響インピーダンスは、概ね1.20MRayls以上、超音波減衰量は、14db/mm以下が、実用上良好な範囲である。
【0073】
同様にして、シリコーンゴム、添加する粒子、各々の含有量を表1記載のものにしてシート2〜7を作製し、同様の評価を行った。
【0074】
(シート比較1〜比較4の作製)
実施例1と同じベースとなるシリコーンゴム−1、100質量部にオルガノポリシロキサン−1を20質量部、煙霧質シリカ31質量部、平均粒子径1.4μmの石英粉末65質量部を用い、実施例1と同様にして、シート比較1を作製した。
【0075】
比重は1.40で音響インピーダンスは1.41MRayls、超音波減衰量は−19db/mmであった。
【0076】
シート1の作製において、ZS−64の替わりに、1号亜鉛華(0.4μm)を用いた他はシート1と同様にして、シート比較2を作製した。
【0077】
シート1の作製において、ZS−64の替わりに、酸化亜鉛粒子(FINEX−30、堺化学(株)製)を用いた他はシート1と同様にして、シート比較3を作製した。
【0078】
シート1の作製において、ZS−64の替わりに、シリコーン樹脂被覆Yb(特開2009−72605号に記載の酸化イッテルビウム)を用いた他はシート1と同様にして、シート比較4を作製した。
【0079】
(耐久性の評価)
下記のようにして、音響レンズの硬度の測定、および老化試験を行い、耐久性の指標とした。
【0080】
(硬度強度変化、老化試験)
シート1〜7、比較1〜4について、硬度をJIS K6253に従い測定した。
【0081】
次いで、老化条件を、230℃24時間とし、老化後の硬度を測定し、ゴム強度変化を、老化前の硬度を100としたときの相対値で表し、結果を表1に示す。
【0082】
シート1〜7、比較1〜4について、ゴムの老化試験をJIS K6257に記載の方法に従い、評価した。老化前を100とした時の相対値にて示す。
【0083】
尚、老化の条件は230℃24時間とした。ゴム硬度、老化試験ともに103以下が、実用上良好な範囲である。
【0084】
上記測定結果を表1に示す。
【0085】
【表1】

【0086】
表1から、本発明の音響レンズは、優れた音響特性を維持して、耐久性に優れることが分かる。
【0087】
実施例2
(超音波探触子の作製)
(受信用圧電素子の作製)
圧電材料として、ポリフッ化ビニリデン膜を用い、この膜の両面に、蒸着によりアルミニウム電極を施し、高圧電源装置HARb−20R60(松定プレシジョン(株)製)と針状電極を用い、2.0MV/mの電界でコロナ放電分極処理を行い、受信用圧電素子を作製した。
【0088】
(送信用圧電素子の作製〉
成分原料であるCaCO、La、BiとTiO、および副成分原料であるMnOを準備し、成分原料については、成分の最終組成が(Ca0.97La0.03)Bi4.01Ti15となるように秤量した。
【0089】
次に、純水を添加し、純水中でジルコニア製メディアを入れたボールミルにて8時間混合し、十分に乾燥を行い、混合粉体を得た。得られた混合粉体を、仮成形し、空気中、800℃で2時間仮焼を行い、仮焼物を作製した。次に、得られた仮焼物に純水を添加し、純水中でジルコニア製メディアを入れたボールミルにて微粉砕を行い、乾燥することにより圧電セラミックス原料粉末を作製した。微粉砕においては、微粉砕を行う時間および粉砕条件を変えることにより、それぞれ粒子径100nmの圧電セラミックス原料粉末を得た。それぞれ粒子径の異なる各圧電セラミックス原料粉末にバインダーとして純水を6質量%添加し、プレス成形して、厚み100μmの板状仮成形体とし、この板状仮成形体を真空パックした後、235MPaの圧力でプレスにより成形した。次に、上記の成形体を焼成した。最終焼結体の厚さは20μmの焼結体を得た。尚、焼成温度は、それぞれ1100℃であった。1.5×Ec(MV/m)以上の電界を1分間印加して分極処理を施し送信用圧電素子を作製した。
【0090】
(超音波探触子)
次に、常法に従って、図3に示すようにバッキング層6、送信用フレキシブル基盤15、上記の送信用圧電素子12、中間層7、受信用圧電素子13、受信用フレキシブル基盤16、音響整合層8、の順に積層した。尚、バッキング層としては厚さ3mmのフェライトゴムを用いた。中間層としてはエポキシ樹脂100質量部に対してフェライト1200質量部を混合した厚さ0.145mmのものを、音響整合層としてはエポキシ樹脂の厚さ0.110mmのものを用いた。これらを積層して、ダイサーにて各素子にダイシングを行った。さらに実施例1と同様に作製した成形用コンパウンド−1を、金型を用いて同様の条件にてプレス成形することで音響レンズ9を成形した。このように作製した音響レンズ9を、音響整合層8上に、積層し、図3に示す超音波探触子1を作製した。
【0091】
これを用いて、図4および図5に示す構成の超音波画像検出装置により生体の画像を観測した。その結果、明瞭な画像を得ることができた。
【符号の説明】
【0092】
1 超音波探触子
2 電極
5 送信用圧電材料
6 バッキング層
7 中間層
8 音響整合層
9 音響レンズ
10 超音波振動子
11 受信用圧電材料
12 送信用圧電素子
13 受信用圧電素子
15 送信用フレキシブル基盤
16 受信用フレキシブル基盤
31 超音波画像表示装置
33 ケーブル
41 操作入力部
42 送信回路
43 受信回路
44 画像処理部
45 表示部
46 制御部
100 超音波画像検出装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリカで被覆された金属酸化物粒子およびシリコーンゴムを含有することを特徴とする超音波探触子用音響レンズ。
【請求項2】
前記金属酸化物粒子の含有量が、15〜50質量%であることを特徴とする請求項1に記載の超音波探触子用音響レンズ。
【請求項3】
バッキング材、該バッキング材上に設けられた、電極および圧電材料を有する圧電素子、該圧電素子上に設けられた音響整合層および該音響整合層上に設けられた請求項1または2に記載の超音波探触子用音響レンズを具備することを特徴とする超音波探触子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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