説明

超音波接合検査装置および方法

【課題】亀裂の発生を高精度で予測できる超音波接合検査装置および方法を提供する。
【解決手段】振動するホーン112をワークWに押付けて超音波接合する超音波接合装置100の内部データを用いて、あらかじめ、複数のワーク試料に対して、特徴的数値を算出し、当該複数のワーク試料に対して算出された前記特徴的数値と、対応する複数のワーク試料の変形量とから、これらの関係を示す特徴的数値−変形量関係式を取得する。前記ワーク試料とは別のワークに対し、前記超音波接合装置の内部データから前記特徴的数値を算出し、前記取得された特徴的数値−変形量関係式に基づいて前記ワークの変形量の推定値を算出し、この変形量の推定値に基づいて超音波接合された前記ワークの亀裂発生の可能性を予測する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波接合検査装置および超音波接合検査方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電池の電極タブを接続する方法として超音波接合法が採用されているが、電池の電極タブなどは薄板であるため、接合時の亀裂の発生を防止する接合構造が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−26945号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来の接合構造によれば亀裂の発生は抑制できるものの、実際には亀裂の発生は予測が困難であるため、完全になくすことはできない。そのため、たとえば所定ロットごとに亀裂の有無の目視検査を実施するなど、作業者による検品工程が必要となる。
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、亀裂の発生を高精度で予測できる超音波接合検査装置および方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、あらかじめ特徴的数値と変形量との関係を示す特徴的数値−変形量関係式を取得しておき、この特徴的数値−変形量関係式に基づいて、特徴的数値からワークの変形量の推定値を算出し、この変形量の推定値に基づいて超音波接合された前記ワークの亀裂発生の可能性を予測することによって、上記課題を解決する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、亀裂発生に相関する特徴的数値と変形量との関係を示す特徴的数値−変形量関係式をあらかじめ取得しておき、この特徴的数値−変形量関係式に基づいてワークの亀裂発生の可能性を予測するので、亀裂の発生を高い精度で予測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の一実施の形態を適用した超音波接合システムを示す構成図である。
【図2】図1の超音波接合システムを示すブロック図である。
【図3】図1の検査装置の構成を示すブロック図である。
【図4】図1の超音波接合装置によりワークを超音波接合している間に取得される内部データを示すグラフである。
【図5】図1の検査装置における事前評価処理手順を示すフローチャートである。
【図6】図1の検査装置における検査処理手順を示すフローチャートである。
【図7】本発明の他の実施の形態において算出される特徴的数値を説明するためのグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。なお、図面において同一の部材には同一の符号を用いている。
[第1実施形態]
図1は、本発明の一実施の形態を適用した超音波接合システムを示す構成図であり、超音波接合装置100に接合良否検査装置200を適用した超音波接合システムを例に挙げて本発明を説明する。図2は同じく超音波接合システムのブロック図、図3は接合良否検査装置のブロック図である。
【0010】
超音波接合装置100は、超音波接合機110および制御部120を有し、接合良否検査装置200は、この制御部120に電気的に接続されている。
【0011】
超音波接合機110は、アンビル111上に載置されるワークW(たとえば、2枚の金属板)に対し、超音波で振動するホーン112を押付けることによってワークWを超音波接合するものであり、各駆動部は制御部120によって制御される。これに対し接合良否検査装置200は、超音波接合装置100がワークWを超音波接合している間に超音波接合装置100において時系列に生成される内部データを取得して、超音波接合されたワークWの接合状態の良否、ここでは接合部分に亀裂の発生があるか否かを判定するものである。
【0012】
超音波接合機110は、図1及び図2に示すように、ワークWが載置されるアンビル(anvil,受け金具)111と、アンビル111上に載置されるワークWに押付けられて振動を付与するホーン(振幅側金具,ソノトロードともいう。)112と、を備える。ホーン112は、振動子113に連結されて所定の振幅および周波数で振動されるとともに、エアシリンダなどの加圧機構114によって所定の加圧力でワークWに押付けられる。ワークWに押付けられるホーン112の上下方向の変位は、ホーン112又は加圧機構114の駆動部に装着されたリニアスケール115によって検出される。
【0013】
制御部120は、制御回路121、パワーモジュール122、および電力モニタ123を備える。制御回路121は、パワーモジュール122を介して振動子113と電気的に接続され、パワーモジュール122の出力端は、電力モニタ123を介して制御回路121と電気的に接続されている。制御回路121は、パワーモジュール122に電力指令値を送信し、その指令値に基づいてパワーモジュール122が振動子113に指令電力を供給する。指令電力は、電力モニタ123によって検出され、制御回路121にフィードバックされる。
【0014】
また、制御回路121は、加圧機構114およびリニアスケール115に電気的に接続され、リニアスケール115により検出されたホーン112の変位がフィードバックされるとともに、加圧機構114に圧力指令値を送信する。そしてし、ホーン112の変位を検出しつつ圧力指令値を送信し、この指令値に基づいて加圧機構114がホーン112を加圧する。
【0015】
接合良否検査装置200は、制御部120の制御回路121と電気的に接続されており、制御回路121を介して超音波接合機110から内部データを取得する。本例の接合良否検査装置200は、内部データから外乱の影響を受け難く、しかも亀裂発生に強く相関する4つの特徴的数値を算出し、算出した3つの特徴的数値に基づいて、ワークの接合状態の良否、すなわち亀裂発生の有無を判定する。なお、本例の接合良否検査装置200は、超音波接合装置100の制御部120を構成するモニタリング端末の一機能として、当該モニタリング端末に組み込まれている。
【0016】
本例の接合良否検査装置200は、図3に示すように、CPU210、RAM220、ROM230、ハードディスク240、入力部250、表示部260、およびインタフェース270を備え、これらの各部はバスを介して相互に接続されている。
【0017】
CPU210は、超音波接合装置100の内部データなどに対して種々の演算を実行するものである。CPU210は、本発明における、特徴的数値−変形量関係式を取得する関係式取得手段と、特徴的数値を算出する第1算出手段と、特徴的数値からワークの変形量の推定値を算出する第2算出手段と、超音波接合されたワークの亀裂発生の可能性を予測する予測手段に相当する。
【0018】
すなわちCPU210は、超音波接合装置100の内部データから、4つの特徴的数値を算出し、特徴的数値−変形量関係式を取得するものである。またCPU210は、算出された4つの特徴的数値に基づいて、超音波接合されたワークの接合状態の良否を判定するものである。この具体的な処理内容については後述する。
【0019】
RAM220は、上述した内部データを一時的に記憶するものであり、ROM230は、制御プログラムおよびパラメータなどを予め記憶するものである。またハードディスク240は、上述した4つの特徴的数値などを記憶するものであり、超音波接合装置100の内部データから4つの特徴的数値を算出する算出プログラム、および4つの特徴的数値に基づいて超音波接合されたワークの接合状態の良否を判定する判定プログラムを格納する。なお、ROM,RAMおよびハードディスクはいずれもメモリであるため、これらに格納する具体例は上述したものに限定されるものではない。
【0020】
入力部250は、たとえば、キーボード、タッチパネル、およびマウスなどのポインティングデバイスであり、表示部260は、たとえば、液晶ディスプレイおよびCRTディスプレイなどである。またインタフェース270は、超音波接合装置100から送信される内部データなどを受信する。
【0021】
以上のとおり構成された本例の接合良否検査装置200では、まず、ワーク試料を用いて超音波接合装置100の内部データに基づいて亀裂発生に関係する事前評価を行い、特徴的数値とワークの変形量との関係式を求めておく。そして、実際のワークを超音波接合する際に、超音波接合装置100の内部データから4つの特徴的数値を算出し、この算出された4つの特徴的数値と上記予め求めておいた関係式とに基づいて、ワークの変形量を推定し、このワークの変形量の推定値に基づいて超音波接合されたワークの亀裂発生の有無を判定する。以下、接合良否検査装置200の処理内容について詳細に説明する。
【0022】
まず、図4を参照しつつ、本例におけるワークWの亀裂発生の有無の判定に用いられる4つの特徴的数値について説明する。本例では、外乱の影響を受け難くかつ亀裂発生に強く相関する4つの特徴的数値を用いて判定する。
【0023】
図4は、ワークを超音波接合している間(発振時間T)に時系列に生成される超音波接合装置100の内部データを示す図であり、図4(A)の実線は、ワークWを超音波接合している間に押付け方向に移動するホーン112の移動量(以下、沈込量Dと称する)を示し、同図の破線は、ホーン112の振動子113に供給される電力P(電圧×電流)を示す。図4(A)に示すとおり、ホーン112の沈込量Dは、発振時間の増加にともなって増加したのち飽和傾向を示す。本例では、外乱の影響を受け難くかつ亀裂発生に強く相関する第1及び第2の特徴的数値として、ワークWを超音波接合している発振時間Tおよびホーン112の沈込量Dの最大値Dmaxを用いる。なお、ワークによってはホーン112の沈込量Dの最大値Dmaxが亀裂発生にそれほど相関しない場合があり、そのような場合は、ホーン112の沈込量Dの最大値Dmaxを特徴的数値から除外してもよい。
【0024】
また、図4(B)に示すとおり、ワークWを超音波接合している間に振動子113に供給される電力Pは、発振時間Tの増加にともなって増加したのち飽和傾向を示す。本例では、外乱の影響を受け難くかつ亀裂発生に強く相関する第3および第4の特徴的数値として、ワークを超音波接合している間に振動子113に供給される電力Pの時間積分値E(電力の総和、エネルギー)および振動子113に供給される電力の最大値Pmax(ピークパワー)を用いる。
【0025】
次に本例の検査方法を説明する。
【0026】
図5は、本例における事前評価処理手順を示すフローチャートであり、複数のワーク試料W(実際に生産される製品としてのワークWと区別する意味で別の符号を付するが、物の構造や材質はワークWと同じものである。)を用いて、実際の生産工程で考えられる接合条件を適宜変更しつつ、超音波接合し、このときの上記4つの特徴的数値を算出するとともに、各ワーク試料Wの変形量を測定し、これら4つの特徴的数値とワーク試料Wの変形量のデータから亀裂発生の有無を推定するための特徴的数値−変形量関係式を事前に求めておく。
【0027】
すなわち、図5のステップS101では、ワーク試料Wを超音波接合する際の接合条件が設定される。本例では、振動子113の振幅、加圧力および発振時間などの接合条件が制御部120を通じて設定される。
【0028】
次にステップS102では、ステップS101で設定された複数の接合条件で、複数のワーク試料Wが超音波接合される。本例では、ステップS101に示す処理で設定された加圧力でワーク試料Wに押付けられるホーン112が、設定された振幅で振動してワーク試料Wに振動を付与することにより、ワーク試料Wを超音波接合する。
【0029】
次にステップS103では、ワーク試料Wを超音波接合している発信時間T、ワーク試料Wを超音波接合している間のホーン112の沈込量の最大値Dmax、振動子113に供給された電力の時間積分値E、および電力の最大値Pmaxよりなる4つの特徴的数値をそれぞれ算出する。本例では、超音波接合装置100のリニアスケール115および電力モニタ123の出力から、CPU210が上記4つの特徴的数値を算出する。なお、ホーン112の沈込量の最大値Dmaxを特徴的数値から除外する場合にはその算出は省略する。また、発信時間Tは制御部120に設定された値を用いてよい。これら算出された4つの特徴的数値は、ハードディスク240に格納される。
【0030】
次にステップS104では、超音波接合された各ワーク試料Wの変形量が測定される。本例では、超音波接合されたワーク試料の変形量を、発生した亀裂の長さで代用し、この亀裂の長さの測定値を変形量とする。ただし、本発明のワーク試料の変形量は、発生した亀裂の長さだけでなく、これに代えて塑性変形した部分の長さで代用することもできる。実際に亀裂が発生していなくても塑性変形量が大きい場合には亀裂発生の可能性が高いといえるからである。こうして測定されたワーク試料の変形量は、ハードディスク240に格納される。
【0031】
そしてステップS105では、すべての接合条件において超音波接合が完了したか否かが判断される。すべての接合条件において超音波接合が完了していない場合には(ステップS105:NO)、すべての接合条件で特徴的数値およびワークの変形量が取得されるまで、ステップS101〜S104の処理が繰り返される。
【0032】
一方、すべての接合条件において、超音波接合が完了した場合には(ステップS105:YES)、ステップS106へ進み、ステップS103〜S104に示す処理で取得された特徴的数値およびワーク試料の変形量に基づいて、特徴的数値と変形量との関係を示す特徴的数値−変形量関係式が算出され、処理が終了される。
【0033】
本例では、種々の接合条件で超音波接合された複数のワーク試料Wに対して算出された特徴的数値および変形量から、CPU210が重回帰分析により特徴的数値−変形量関係式を算出する。具体的には、発振時間T、沈込量の最大値Dmax、電力の時間積分値E、および電力の最大値Pmaxよりなる4つの特徴的数値を説明変数とし、かつ変形量を目的変数とする重回帰分析が実行され、Y=A+BX+CX+DX+EX(ここで、A,B,C,D,E:定数、Y:変形量、X:発振時間T、X:沈込量の最大値Dmax、X:電力の時間積分値E、X:電力の最大値Pmax)で表される重回帰式が算出される。なお、沈込量の最大値Dmaxを特徴的数値から除外する場合の重回帰式は、Y=A+BX+DX+EX(ここで、A,B,D,E:定数、Y:変形量、X:発振時間T、X:電力の時間積分値E、X:電力の最大値Pmax)で表される。
【0034】
ちなみに、複数のデータから重回帰式を算出する重回帰分析自体は、一般的な統計的手法であるため詳細な説明は省略する。また、特徴的数値−変形量関係式の求め方はこの重回帰法にのみ限定されず、他の幾何学的解析法やニューラルネットワークなどの他の統計分析法を用いることもできる。算出された重回帰式は、ハードディスク240に格納される。
【0035】
以上により、複数のワーク資料Wに対して算出された発振時間T、沈込量の最大値Dmax、電力の時間積分値E、および電力の最大値Pmaxと、ワークの変形量の実測値とに基づいて、特徴的数値−変形量関係式が算出される。そして、図5に示す手順で算出された特徴的数値−変形量関係式(Y=A+BX+CX+DXEX)に基づいて、以下に説明する図6の処理にて4つの特徴的数値から実際のワークWの変形量の推定値が算出される。なお、沈込量の最大値Dmaxを特徴的数値から除外する場合は、特徴的数値−変形量関係式(Y=A+BX+DX+EX)に基づいて、以下に説明する図6の処理にて4つの特徴的数値から実際のワークWの変形量の推定値が算出される。
【0036】
図6は、本例における亀裂発生検査の処理手順を示すフローチャートであり、発振時間T、ホーン112の沈込量の最大値Dmax、振動子113に供給される電力の時間積分値E、および振動子113に供給される電力の最大値Pmaxに基づいて推定されるワークの変形量から、超音波接合されたワークの亀裂発生の有無が判定される。
【0037】
まずステップS201では、実際のワークWに対し超音波接合が実施され、このとき超音波接合装置100から内部データが取得される。本例では、接合良否検査装置200が、インタフェース270を介して、超音波接合装置100のリニアスケール115および電力モニタ123の出力を内部データとして取得する。
【0038】
次にステップ202では、取得された内部データから、ワークを超音波接合している発振時間T、超音波接合している間のホーン112の沈込量の最大値Dmaxが算出される。本例では、超音波接合装置100に設定された発振時間Tを発振時間Tとし、またステップS201で取得されたリニアスケール115の出力から、CPU210がホーン112の沈込量の最大値Dmaxを算出する。なお、ホーン112の沈込量の最大値Dmaxを特徴的数値から除外した場合にはこの算出は省略する。
【0039】
またステップS202では、取得された内部データから、ワークWを超音波接合している間に振動子113に供給された電力の時間積分値Eが算出される。本例では、ステップS201で取得された電力モニタ123の出力から、CPU210が電力の時間積分値Eを算出する。
【0040】
さらにステップS202では、取得された内部データから、ワークWを超音波接合している間に振動子113に供給された電力の最大値Pmaxが算出される。本例では、ステップS201で取得された電力モニタ123の出力から、CPU210が電力の最大値Pmaxを算出する。
【0041】
次にステップS203では、算出された4つの特徴的数値から、超音波接合されたワークWの変形量の推定値が算出される。本例では、図5に示す事前評価処理によって予め求められた特徴的数値と変形量との関係を示す特徴的数値−変形量関係式に、ステップS202で算出された4つの特徴的数値を代入することによって、CPU210が変形量の推定値を算出する。
【0042】
次にステップS204では、変形量の推定値が上限基準値以下か否かが判断される。本例では、CPU210が、ステップS203で算出された変形量の推定値を、予め設定されている変形量の上限基準値(亀裂発生の可能性が低いと判断できる変形量の最大閾値)と比較する。
【0043】
ステップS204にて変形量の推定値が上限基準値を越える場合には(ステップS204:NO)、ステップS206へ進み、超音波接合されたワークの接合状態は不良、すなわち亀裂発生の可能性が高いと判断され、処理が終了する。なお、このステップS206にて、ワークWには亀裂発生の可能性が高い旨を作業者等に喚起するべく警報等を出力したり、生産管理装置に出力してそのワークWを生産ライン外へ跳ね出したりしてもよい。
【0044】
一方、変形量の推定値が上限基準値以下の場合には(ステップS204:YES)、超音波接合されたワークの接合状態は良好、すなわち亀裂発生の可能性が低いと判断され、処理が終了する。良否の判定結果は、接合良否検査装置200の表示部260に表示される。
【0045】
以上のとおり、図5に示す判定処理によれば、超音波接合中に発振時間T、ホーン112が降下した沈込量の最大値Dmax(場合によっては除外してもよい)、振動子113に供給された電力の時間積分値E、および振動子113に供給された電力の最大値Pmaxに基づいて、亀裂発生に相関が強いワークの変形量が推定される。そして、推定された変形量に基づいて亀裂発生の有無が判定される。
【0046】
なお、アルミニウム板と銅板とを超音波接合するワーク試料を用い、図5に示す手順で特徴的数値−変形量関係式を重回帰分析にて求めたところ、発振時間をT、沈込量の最大値をDmax、電力の時間積分値をE、電力の最大値をPmaxとして、ワークの変形量Y=−41.3+26.8T−0.049E+1.3Pmaxという関係式が得られた。このときの重回帰の分散比は、定数項が2.2、発振時間Tの項が0.16、電力の時間積分値Eの項が0.41、電力の最大値Pmaxの項が2.9であった。また、このワーク試料では、沈込量の最大値Dmaxは、ワークの変形量に相関がなかった。
【0047】
本例によれば、振動するホーン112を押付けてワークWを超音波接合する超音波接合装置100の内部データから、ワークWを超音波接合している発振時間T、超音波接合している間に押付け方向に移動するホーンの沈込量の最大値Dmax(場合によっては除外してもよい)、ホーン112の振動子113に供給される電力Pの時間積分値E、および電力Pの最大値Pmaxよりなる4つ(または3つ)の特徴的数値を算出し、算出された4つ(または3つ)の特徴的数値に基づいて、超音波接合されたワークWの亀裂発生の有無を判定する。したがって、外乱の影響を受け難く、しかも亀裂発生に相関性が強い4つ(または3つ)の特徴的数値に基づいてワークWの亀裂発生の有無を判定するため、亀裂発生の判定精度が向上する。
【0048】
また、ワークの亀裂発生の有無判定する場合は、算出された4つ(または3つ)の特徴的数値から超音波接合されたワークの変形量の推定値を算出し、算出された変形量の推定値と変形量の上限基準値とを比較し、変形量の推定値が上限基準値以下である場合には、ワークの亀裂発生の可能性が低いと判定する一方で、変形量の推定値が上限基準値を越えている場合は、ワークの亀裂発生の可能性が高いと判定する。したがって、ワークの亀裂発生の有無を画一的に判定することができると同時に、超音波接合したワークの変形量の推定値が上限基準値からどの程度離れているかも知ることができるため、亀裂発生可能性の度合いを定量的に知ることもできる。
【0049】
[第2実施形態]
図7は本発明の他の実施の形態を適用した超音波接合システムにおいて、亀裂発生の有無の判定に用いられる特徴的数値を説明するグラフであり、上述した第1実施形態に係る4つ(または3つ)の特徴的数値に付加される他の特徴的数値を示す図である。
【0050】
図7の破線で示すとおり、超音波接合装置100の内部データにおいて、振動子113に供給される電力Pと発振時間Tとの関係を示す電力−時間曲線は、発振時間Tの増加にともなって増加する電力Pが飽和傾向となるときに極大点を示す。このような極大点は、ワークWの固相接合が開始される時点と考えられる。
【0051】
そこで本例では、振動子113に供給される電力Pが極大点に達するまでの間の内部データから、外乱の影響を受けにくい他の特徴的数値を算出する。なお、下記のとおり第5の特徴的数値を付加して、超音波接合されたワークの亀裂発生の有無を判定することを除いては、上述した第1実施形態と同様であるため、共通部分はここに援用する。
【0052】
図7に示すとおり、本例では、電力Pが極大点に達するまでの時間T1、電力Pが極大点に達したときの電力の値P1、電力Pが極大点に達するまでのホーン112の沈込量D1、または電力Pが極大点に達するまでのホーン112の沈込量と時間との関係を示す沈込量−時間曲線の傾きθの少なくとも一つを、外乱の影響を受け難くかつ亀裂発生に強く相関する第5の特徴的数値として算出する。2以上の特徴的数値を付加する場合には、それが第6の特徴的数値、第7の特徴的数値…となる。
【0053】
ここで、沈込量−時間曲線の傾きθは、たとえば、電力が極大点に達するまでの間の所定時間における沈込量−時間曲線の近似直線の傾きとして算出することができる。
【0054】
本例では、第1実施形態について図5で示した手順と同じ手順で、発振時間T、沈込量の最大値Dmax、電力の時間積分値E、および電力の最大値Pmaxと、上述した第5の特徴的数値とワーク試料の変形量の実測値とから、あらかじめ特徴的数値−変形量関係式を求めておき、実際のワークについては、5つの特徴的数値と上記関係式とに基づいて、ワークの変形量の推定値を算出し、このワークの変形量の推定値からワークWの亀裂発生の有無を判定する。このように特徴的数値を付加することにより、ワークの亀裂発生の有無の判定精度がさらに向上する。
【符号の説明】
【0055】
100…超音波接合装置
111…アンビル
112…ホーン
113…振動子
200…接合良否検査装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動するホーンをワークに押付けて超音波接合する超音波接合装置の内部データを用いて、あらかじめ、複数のワーク試料に対して、前記ワーク試料を超音波接合している発振時間、前記ホーンの振動子に供給された電力の総和および前記電力の最大値という特徴的数値を算出し、当該複数のワーク試料に対して算出された前記特徴的数値と、対応する複数のワーク試料の変形量とから、これらの関係を示す特徴的数値−変形量関係式を取得する関係式取得手段と、
前記ワーク試料とは別のワークに対し、前記超音波接合装置の内部データから前記特徴的数値を算出する第1算出手段と、
前記取得された特徴的数値−変形量関係式に基づいて、前記第1算出手段で算出された前記特徴的数値から前記ワークの変形量の推定値を算出する第2算出手段と、
前記第2算出手段で算出された変形量の推定値に基づいて、超音波接合された前記ワークの亀裂発生の可能性を予測する予測手段と、を備える超音波接合検査装置。
【請求項2】
請求項1に記載の超音波接合検査装置において、
前記関係式取得手段は、前記特徴的数値を説明変数とし、前記変形量を目的変数とする重回帰分析により前記特徴的数値−変形量関係式を取得する超音波接合検査装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の超音波接合検査装置において、
前記関係式取得手段は、前記特徴的数値に、前記ワーク試料を超音波接合している間に押付け方向に移動した前記ホーンの移動量の最大値、前記電力が極大点に達するまでの時間、前記電力が極大点に達したときの電力の値、前記電力が極大点に達するまでの前記ホーンの移動量および前記電力が極大点に達するまでの前記ホーンの移動量と時間との関係を示す移動量−時間曲線の傾きのうち少なくともいずれかを加えて、前記特徴的数値−変形量関係式を取得する超音波接合検査装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の超音波接合検査装置において、
前記予測手段は、前記第2算出手段で算出された変形量の推定値と、あらかじめ設定された変形量の上限基準値とを比較し、
前記変形量の推定値が前記上限基準値以上の場合に、前記ワークに亀裂発生の可能性がある旨を出力する超音波接合検査装置。
【請求項5】
振動するホーンをワークに押付けて超音波接合する超音波接合装置の内部データを用いて、あらかじめ、複数のワーク試料に対して、前記ワーク試料を超音波接合している発振時間、前記ホーンの振動子に供給された電力の総和および前記電力の最大値という特徴的数値を算出し、当該複数のワーク試料に対して算出された前記特徴的数値と、対応する複数のワーク試料の変形量とから、これらの関係を示す特徴的数値−変形量関係式を取得するステップと、
前記ワーク試料とは別のワークに対し、前記超音波接合装置の内部データから前記特徴的数値を算出し、当該算出された前記特徴的数値と前記特徴的数値−変形量関係式から前記ワークの変形量の推定値を算出するステップと、
前記変形量の推定値に基づいて、超音波接合された前記ワークの亀裂発生の可能性を予測する超音波接合検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−56557(P2011−56557A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−210267(P2009−210267)
【出願日】平成21年9月11日(2009.9.11)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】