説明

超音波撮像装置

【課題】 TIC計測に基づく血流動態の評価値の計測を画素毎に行ない、その値に基づいて操作者が選択する造影相の血管を表示する。
【解決手段】 生体内部を伝播する過程で生じる振幅減衰を補正するTGC(Time−Gain Controller)と、画像データを構成するSC(Scan Converter)と、各画素のTICを計測するためのTIC計測部と、TICに基づいて血流動態を評価するための指標を入力するための評価指標入力部と、評価指標に対応する評価値を計測するための評価値計測部と、評価値に基づいて二次元画像を構成するためのTIC画像構成部と、表示画像に対応する領域をTIC画像から抽出する表示画像抽出部とを備え、各画素で計測したTICを利用して血流動態の違いを計測する超音波撮像装置を提供する。

【発明の詳細な説明】
【参照による取り込み】
【0001】
本出願は、2008年3月7日に出願された日本特許出願第2008−057167号の優先権を主張し、その内容を参照することにより本出願に取り込む。
【技術分野】
【0002】
本発明は、生体内に対して超音波を送受信し、その内部を画像化する技術に関するもので、特に造影剤による生体内組織の輝度変化を利用して撮像する超音波撮像装置に関する。
【背景技術】
【0003】
生体内にパルス状超音波を送信し、その受信信号から生体の内部情報を画像化する超音波撮像装置は、小型な装置、リアルタイムでの画像表示といった特徴を有し、X線やMRIと共に医療分野で汎用的に用いられている画像装置の一つである。
【0004】
また血管系の造影技術は微細な構造を含む血管網を周辺組織よりも高いコントラストで強調した画像を得る手法として一般的に知られており、各画像装置において臨床現場で汎用的に利用されている。
【0005】
超音波造影剤として用いられるのは直径数ミクロンの微小気泡(マイクロバブル)である。微小気泡が用いられる理由は、医用分野で使用される数MHzの超音波に共振し、送受信用のパルス信号と同程度の周波数帯域の散乱波を生ずることによる。超音波による造影技術は他の画像装置に比べて視野や撮像可能な領域に制限があるものの、造影剤自体に毒性がない他、被曝等の重大な侵襲がなくリアルタイムで造影血管を観察できる特徴を有する。
【0006】
従来の超音波造影剤は、気泡を高音圧照射により圧懐させて造影信号を増強させるものであった。撮像面内の気泡を消失させて画像を取得するため、同一断面を撮像できる時間が数秒に限られる問題があった。つまり、造影剤が組織に充満した状態で超音波照射を行ない、気泡が消失する数秒の間に取得した信号で画像を構成する必要があった。これに対し、近年新たに認可された造影剤は、低音圧照射により気泡を振動させて造影信号の増強を図るものである。撮像面内の気泡が消失しないため、従来の造影剤では困難であった同一断面の連続撮像が可能であり、これにより超音波造影診断の実用性が飛躍的に向上しただけでなく、造影画像に時間情報を導入した造影診断の高度化が期待されている。
【0007】
造影診断が有効な対象のひとつは肝臓である。正常な肝臓にはクッパー細胞と呼ばれる食細胞が存在し、血流中の造影剤を外敵とみなして取り込む働きをする。このクッパー細胞の貪食作用により正常な肝臓は造影画像上で高輝度に映るが、クッパー細胞を持たない腫瘍等の異常領域は造影剤が取り込まれない分正常領域に比べて低輝度となり、当該領域を高いコントラスト比で描出できる。
【0008】
クッパー細胞の特性を利用した造影画像と共に肝臓腫瘍の鑑別で重要なのは腫瘍新生性血管の描出である。腫瘍新生性の血管を造影してその構造や密度を観察することにより、正常組織に埋もれた腫瘍組織の検出や腫瘍の鑑別に必要な情報を得ることができる。特に動脈性血管の造影観察は肝細胞癌の鑑別に有効であり、診断上で必須の検査項目になっている。
【0009】
しかし、肝臓には肝動脈の他に小腸を経由した血液が流入する肝門脈があり、造影画像から両者を正確に識別することは難しい。そこで、造影剤濃度によって変化する画像上の輝度の時間変化(TIC:Time−Intensity Curve)を利用して血流動態を識別する技術が注目されている。静注投与された造影剤は、心臓から血液が直接流入する肝動脈(動脈相)、小腸を経由した血液が流入する肝門脈、クッパー細胞を有する組織(組織相)の順に造影するため、各造影相で異なるTICの形状を示す。したがってTICの計測結果から動脈相の血管を判断できることが期待され、同じ目的で現状で最も利用されているCTA(CT−Angiography)と同等の情報を持つ画像提示が期待される。
【0010】
例えば、特許文献1に記載の技術は、表示する情報の値と画面上の輝度や色との対応関係はカラーバーで示しており、これを参考に表示レンジを最適に設定する。
【0011】
また、特許文献2では、低輝度でかつ不規則に変動する輝度変化を示す画素であるノイズ又は生体信号の典型的な輝度変化のパタンを予め用意しておき、それらパタンと計測した画素の輝度変化を比較して概領域の信号起源を判別している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2005−81073号公報
【特許文献2】特開平8−252253号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上述したように、血流動態の画像化は腫瘍の鑑別に重要な情報を与えるため、臨床現場でのニーズは高い。また、特定の造影相に特化した血管の画像化にはTICの利用が有効であるが、消失させずに造影が可能な新規造影剤の出現は、TICの高精度計測に非常に合致している。
【0014】
各造影相の血流動態は非常に複雑であり、特に動脈相と門脈相の血流動態は似た傾向を示す。そのため、特定のTICから血流動態を判別するための評価指標を決定することは困難であり、また評価指標によって二次元画像を色分けする際、二次元画像から最適なレンジを設定することは困難である。
【0015】
また、画素の輝度変化を利用して信号の起源を判別しようとする際、輝度変化が生じる相対的な時間差を比較する必要がある血流動態の判別は困難である。
【0016】
本発明の目的は、TIC計測に基づく血流動態の評価値の計測を画素毎に行ない、その値に基づいて操作者が選択する造影相の血管を表示する超音波撮像装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は一例として、被検体に超音波を送受信する探触子と、前記探触子による複数の受信信号に基づいて複数の画像データを生成する画像データ生成部と、前記画像データを保存するフレームメモリと、前記画像データの画素毎の輝度の時間変化を計測する時間変化計測部と、時間変化計測部の計測結果に基づいて評価画像を構成する画像構成部と、前記評価画像についての表示項目情報を入力する入力部と、前記評価画像から画素を抽出し抽出画像を構成する表示画素抽出部とを有する。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば血流動態の違いを画像化し、診断に必要な造影相の血管を特異的に表示することができる。
【0019】
本発明の他の目的、特徴及び利点は添付図面に関する以下の本発明の実施例の記載から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】実施例1の構成例を示すブロック図。
【図2】実施例1の画像データの保存から血流動態画像の構成に至るまでの処理工程図。
【図3】実施例1の特定の画素のTIC計測に関する説明図。
【図4】実施例1の体動補正部を含む構成例を示すブロック図。
【図5】実施例1の各画素で計測されるTICの典型例。
【図6】実施例1のTICによる評価指標となる評価値の計測手法に関する説明図。
【図7】実施例1のTICによる閾値輝度の計測手法に関する説明図。
【図8】実施例1の評価画像および抽出画像を示す図。
【図9】実施例1の表示画像の第一の例を示す図。
【図10】実施例1の、表示画像の第二の例を示す図。
【図11】実施例1のTICおよび度数分布表を含む表示形態の一例を示す図。
【図12】実施例1の度数分布表から動脈相を判別する手法を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施例について図を用いて説明する。
【実施例1】
【0022】
図1は本発明の実施例1になる超音波撮像装置の構成を示すブロック図である。
【0023】
撮像対象1に対して超音波を送受信する探触子2と、探触子2を構成する圧電素子に所望の送受信ビームを形成する所定の時間遅延を与える送信ビームフォーマ3と受信ビームフォーマ7と、送受信信号をアナログ・デジタル変換するA/D変換器6及びD/A変換器4と、生体内部を伝播する過程で生じる振幅減衰を補正するTGC5と、受信したRF信号を検波し画像信号に変換する包落線検波部8と、画像信号から二次元画像を構成するSC9と、取得した二次元画像を保存するフレームメモリ10と、保存した画像データから各画素のTICを計測するTIC計測部11(時間変化計測部)と、計測したTICに基づいて血流動態を評価するための評価指標をとなる値を計測して算出する評価値計測部(計測値算出部)13と、各画素で計測した評価値に基づいて二次元画像を構成する評価画像構成部(画像構成部)14と、着目対象及び表示形態などの表示項目に関する情報を入力する表示画像入力部(入力部)16と、入力された表示画像に対応する領域をTIC画像から抽出する表示画像抽出部15と、入力された表示形態の画像を構成する表示画像構成部17と、構成された画像を表示する表示部18とを有する。
【0024】
画像データの生成に関しては、ここでは簡単に説明する。探触子2の超音波照射面は、複数の圧電素子が一列に配列した構成になっており、各素子が超音波の送受信を担う。送信ビームフォーマ3からの電圧パルスがD/A変換器4を介して各圧電素子に入力され、素子の圧電振動によって撮像対象1に向けて超音波が照射される。この時、各圧電素子には所定の時間遅延が電子的に与えられており、各圧電素子から送信された超音波は撮像対象1の内部の所定の位置で焦点を結ぶ。
【0025】
撮像対象1からの反射エコーは各圧電素子で受信され、伝播過程で生じた信号の減衰分を補正するためにTGC5で伝播距離に応じた振幅補正がなされる。続いて、受信信号はA/D変換器6を介して受信ビームフォーマ7に送られ、焦点位置から各圧電素子までの距離に応じた遅延時間を掛けて加算結果が出力される(整相加算)。この超音波送受信を、圧電素子列に沿った全ての走査線で行なうことで、撮像対象1の2次元的な反射エコー分布が得られる。受信ビームフォーマ7からは実部と虚部に分けられたRF信号が出力され、包絡線検波部8に送られる。包絡線検波部8に送られた信号は、ビデオ信号に変換された後、SC9で走査線間の画素補間が加えられ、二次元画像データに再構成された後、表示部18に表示される。
【0026】
TIC計測部11においてTIC計測の際にフレームメモリ10から一定のサンプリング間隔で画像データを読み出すことで処理時間を短縮できる。原理的には動脈相の時間(数秒)内に3枚以上の画像データがあればTICの概略を曲線として判定できるため、例えばt秒の動脈相に対してn(>3)枚の画像データを保存すると仮定した場合、サンプリング間隔をn/tにできる。
【0027】
フレームメモリ10に保存された画像データから血流動態を示す表示画像の構成に至る処理を図1の構成に基づいて説明する。図2は実際の処理工程を示す。
【0028】
造影剤の導入から組織に充分に充満するまでの画像データをフレームメモリ10に保存した後(工程1)、工程2では画素のTICを計測する。ここで、全ての画素のTICを計測してもよく、また、保存されている時系列の画像データを表示部18に表示し、入力部を介して操作者が関心のある範囲を指定することにより、TIC計測を含む後段の処理の対象範囲を限定すれば、処理時間の短縮が図れる。また、SC9からの画像データを随時表示部18に表示し、造影剤が流入する前後の適当なタイミングで操作者が入力部である画面またはパネル上のボタンでトリガを発信することにより、フレームメモリ10に保存する画像データを限定することも可能である。また、画像全体の輝度変化に着目することにより、自動的に計測領域を限定される。例えば動脈相に関心がある場合、初期状態では全画素のTICを計測し、その結果を時相毎に加算する。加算結果は動脈相において上昇を続けるが、動脈相の後半になるに従って上昇率が低下する。この時間を閾値とし、それまでにTICが上昇傾向を示した画素のみを抽出または継続して計測することにより、TIC計測の領域を関心がある領域に自動的に限定することが可能である。この手法によれば加算結果の上昇開始のタイミング、つまり造影剤が流入開始するタイミングを判別できるため、動脈相が開始するフレームの特定も容易である。TIC計測は、体動の影響が小さい場合、各画像上で同位置の画素の輝度値を計測し、その値を時系列に配列することで容易に当該位置のTIC計測がなされる。例えば図3に示すように時刻tから時刻tにかけて取得した画像データを時系列にf、f、fとし、画像データf上の画素32(x、y、t)のTIC計測を行う場合、画像データf、fから各々同じ座標を有する画素34(x、y、t)、画素36(x、y、t)の輝度値を計測する。
【0029】
体動の影響が大きい場合、図4に示すブロック図のようにフレームメモリ10とTIC計測部11の間に体動補正部41を設置し、フレーム間に生じた体動を補正する必要がある。体動の補正手法は様々考えられるが、最も容易な方法としてはTIC計測に用いる時系列の画像群から補正処理の基準となる画像を選択し、最小二乗フィッティングや相互相関演算といった一般的なパタンマッチング処理を用いる。また前記画像群から等間隔にサンプリングした画像データに対して補正処理を行ない、その結果から全体の動きを推定することにより処理時間の短縮を図れる。
【0030】
工程3では評価値計測部13にて血流動態の評価指標となる値(評価値)の計測を行なう。造影剤による輝度(I)の時間変化(t)つまりTICを式で表すと、I=Imax(1−exp(−竄煤j)となる。ここでImaxは造影剤の流量が飽和したときの飽和輝度値、竄ヘ造影剤流入量の加速度を示す値である(図5)。画素毎に計測する、これらのTICの特徴的な値または特徴的な変化が生じる時間変化の特定変化時間(tTIC)の少なくともいずれかが評価値となる。
【0031】
図6の(a)は各画素で計測されるTICの典型的な例である。評価値計測部13ではこのTICに対し、Low−Pass Filterやリサンプリング処理によりTICの傾きを単純化したTIC概略図(図6の(b))を構成する。この段階で飽和輝度値Imaxと造影前の輝度平均値Ibaseが計測される。さらに前記TIC概略図の時間微分(艨i輝度)/艪煤jにより、造影剤の流量の加速度竄ェ計測される(図6の(c))。
【0032】
また、ここでのtTICは時間変化の特定変化時間であり、前述した飽和輝度や予め設定する閾値輝度等の特徴的な値に達する時間を示す。閾値輝度は、例えば図7の(a)に示すようにTICが平坦になる飽和輝度Imaxに適当な定数瘁A例えば0.8を乗じた値、または、図7の(b)に示すように造影前の輝度平均値Ibaseと造影後の飽和輝度Imaxとの平均値((Imax+Ibase)/2)を用いてもよい。また、図6の(c)に示す微分結果をもとに、造影剤の流入開始時間(t)と飽和時間(t)を計測し、その中間の時間((t−t)/2)をtTICにすることもできる。
【0033】
上述した閾値輝度の設定および時間変化の特定変化tTICの計測は操作者が手動で行なってもよいが、閾値輝度の定義を予め装置に入力することによって自動的に行なってもよい。手動の場合には、画像データから操作者が着目する領域を入力部を介して選択することにより、表示されるTICから画面をポインタ等で選択することにより設定される。術者が着目する領域のTICの全体像に基づいて閾値輝度を設定することにより、所望の領域に対して最適な設定が可能になる。
【0034】
工程4では、計測した評価値の値(すなわち、画素毎の輝度の時間変化に基づく情報)に応じて画像データ上の全画素の色分けがなされ、評価画像81が構成される(図8)。図8はtTICを評価値とした場合の評価画像81の一例であり、tTICの時間差によって色分けされた血管82、血管83、および組織領域が示されている。カラーバー84はtTICの値と評価画像81上の色の濃淡との対応を示すものである。造影剤が流入しない領域のTICは閾値輝度に達せず、概領域画素のtTICは計測されない。そのような画素は予め設定することにより、自動的に排除もしくは確実に認識できる所定の色(黒などの単一の色)で表示される。この処理により造影領域と非造影領域の区別が、視覚的にだけでなく信号処理としても容易に可能になる。
【0035】
工程5では表示画像に関する情報が入力される。表示部18には、動脈相、門脈相、組織相等の項目が表示され、操作者は画面上のポインタで所望の項目を自由に選択する。他にも表示項目の例として、動脈相、門脈相、組織相に属さない異常血管の項目や、特定の腫瘍に特異的な血流動態を示す項目を設ける。
【0036】
工程6では評価画像から工程5で入力された項目に応じて必要な画素を評価画像から抽出する。評価値と評価画像の色との対応、及び画素毎の輝度の時間変化のいずれかによって抽出する画素を判断する。例えば工程5で動脈相が選択された場合には、図8のカラーバー84から比較的tTICが小さい値を示す領域が選択され、その配色に該当する画素が全て抽出され、動脈相のみが表示される抽出画像85が構成される。動脈相の動態を示す画素を特異的に抽出し画像化することにより、腫瘍の鑑別や活性度の診察が可能である。
【0037】
工程7では、工程6で抽出した画素を元に表示する画像を構成する。表示形態の一例を図9に示す。図9の(a)の表示形態では、全体像を把握するためにSC9から読み出される画像データ91と動脈相に相当する領域を強調した抽出画像85が並列表示される。画像データ91は静止画像でもよく、また動画表示でもよい。また、画像データ91に抽出画像85を重畳した重畳画像の例1(92)により、着目している領域を容易に判別できる。また、図10に示すように、画像データ91に評価画像81を重畳させ、その上で抽出画像の領域を強調させて表示する重畳画像の例2(101)の形態もある。
【0038】
構成された表示画像は、表示部18に表示される(工程8)。
【0039】
基本的な構成では、操作者の操作は工程5にて表示画像入力部16に所望の表示項目を入力するのみである。残りの処理は全て自動的になされるため表示項目の入力と同時に、図9または図10に示す形態の表示がなされる。但し、本超音波撮像装置の構成では工程4で構成した評価画像81は常にメモリに保持されているため、表示する情報はいつでも変更できる。そのため、工程5の操作は省略することも可能であり、その場合には工程6において評価画像が抽出画像として表示画像構成部17に送り、表示部18に表示される表示画像をもとに操作者が後述する手法により所望の画像に編集する。
【0040】
表示画像をもとに工程4で計測した評価指標や閾値輝度の変更や調整をする手法について説明する。表示画像の着目領域を入力部を介してポインタ等で選択することにより、当該領域のTIC及び評価値計測部13で求めた評価値が図11に示すように表示部18に表示され、それを元に操作者は評価指標や閾値輝度の微調整をする。調整内容は評価画像構成部14に送られ、表示画像が更新された後に表示部18に再表示される。表示画像および着目領域のTICに基づく評価指標や閾値輝度の微調整を適宜行なうことにより、術者の関心に即した表示画像の最適化が図れる。例えば本来異なる血流動態を示す二つの血管が、表示画像上で同程度の評価値と判断された場合、その二つの血管のTICを表示し、設定した閾値輝度を確認することにより閾値輝度の妥当性が判断でき、閾値を上下させて微調整することにより最適な設定が可能である。
【0041】
さらに、表示部18に設けられた度数分布表示部をポインタで選択することにより横軸に評価値、縦軸に各評価値を有する画素数を示す度数分布表が表示される。図11はその表示形態の一例である。度数分布表112では評価値をtTICとし、左から右にかけて値が大きくなる。例えば操作者が度数分布表112の任意の部分を入力部を介してポインタで選択すると、該当するtTICを持つ画素が評価画像構成部14で抽出され、表示画像が更新される。また選択する部分を指定領域にすることも可能である。
【0042】
度数分布表を利用することにより、特定の部位、例えば特に肝動脈の抽出が容易になる。撮像対象が肝臓の場合、度数分布表112は動脈相、門脈相、組織相に応じた三つのピークを持つが、動脈相と門脈相は血流動態が類似しているため、各血管上の画素のtTICは近い値を持つ。そのためtTICにより色分けした画像や特定のTICにより、表示画像を動脈相に最適化させることは難しい。度数分布表示部により表示されている全画素のtTICの頻度が確認できるため、例えば図11に示すように最初のピークに指定領域を設置することにより、動脈相をより正確に抽出することができる。なお、度数分布表は度数分布のテーブルとして表示してもよい。
【0043】
また、度数分布表の構成を工程3に予め含めることで、TICによる微調整を必要とせずに、工程4の段階で各造影相に最適化した画像表示が可能になる。この場合、度数分布を表示部に表示して操作者が動脈相など特定のカテゴリーを選択する。また図12に示すように横軸にtTIC、縦軸に累積画素数をプロットし、その時間微分値の高さから、輝度上昇が顕著な時間範囲、つまり造影剤の流入が顕著な時間範囲の特定が可能で、工程4において動脈相など特定のカテゴリーを自動的に判別することもできる。
【0044】
また、上述した装置構成および処理手法は主に動脈相、門脈相、組織相に対応する画素を識別して抽出する内容であったが、動脈相、門脈相、組織相およびtTICが計測されない領域を評価画像から除することにより、異常な造影動態を示す血管ないし組織を抽出し表示画像上で色分けして表示することも可能である。また上述したように度数分布で指定する領域を調整することによっても動脈と門脈の間の動態を示す血管を特異的に抽出することも可能である。
【0045】
また、本技術は組織に特徴的な輝度変化が生じる時間を、画像データ上の輝度情報を利用して計測、画像化する技術であり、用いる画像データを限定しない。つまり、上述の装置構成ではSC9からの画像データを用いた処理工程を記載したが、例えば受信ビームフォーマ7からのRF信号を利用してもよい。包絡線検波部8により検波される前のRF信号は組織の輝度情報を直接計測したものであり、SC9からの画像データに比べて組織に生じた輝度変化をより高い感度で抽出できる。また、画像データの取得方法も限定しない。超音波の送信信号と同じ周波数帯域の受信信号に基づいて構成された画像データを用いてもよく、また、非線形の挙動を示す造影剤の特徴を利用し、送信信号と異なる周波数帯域の受信信号を利用して得た画像データを利用してもよい。
【0046】
以上記載の構成により、一回の造影剤の使用によっても、動脈相、門脈相、組織相を各々特定するなど、被検体の造影相の違いを判別することができる。
【0047】
上記記載は実施例についてなされたが、本発明はそれに限らず、本発明の精神と添付の請求の範囲の範囲内で種々の変更および修正をすることができることは当業者に明らかである。
【符号の説明】
【0048】
1 撮像対象
2 探触子
3 送信ビームフォーマ
4 D/A変換器
5 TGC
6 A/D変換器
7 受信ビームフォーマ
8 包落線検波部
9 SC
10 フレームメモリ
11 TIC計測部
13 評価値計測部
14 評価画像構成部
15 表示画素抽出部
16 入力部
17 表示画像構成部
18 表示部
32 画素(x、y、t
34 画素(x、y、t
36 画素(x、y、t
41 体動補正部
81 評価画像
82 肝門脈
83 肝動脈
84 カラーバー
85 抽出画像
91 画像データ
92 重畳画像の例1
101 重畳画像の例2
111 TIC表示
112 度数分布表。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
造影剤により対象部位が造影された被検体に超音波を送受信する探触子と、
前記探触子による複数の受信信号に基づいて複数の画像データを生成する画像データ生成部と、
前記画像データを保存するフレームメモリと、
前記画像データの画素毎の輝度の時間変化を計測する時間変化計測部と、
前記画素毎の輝度の時間変化を色で識別する評価画像を構成する画像構成部と、
前記画素毎の輝度の時間変化に基づいて前記評価画像から画素を抽出し抽出画像を構成する表示画素抽出部と、
を有する超音波撮像装置。
【請求項2】
前記抽出画像と前記画像データを用いて表示画像を構成する表示画像構成部と、前記表示画像を表示する表示部をさらに有する請求項1に記載の超音波撮像装置。
【請求項3】
前記フレームメモリに保存された画像データについて体動影響を補正する体動補正部をさらに有する請求項1に記載の超音波撮像装置。
【請求項4】
前記表示部は、前記時間変化の特定変化時間に対する対応画素の数を表示する度数分布表示部を有する請求項2に記載の超音波撮像装置。
【請求項5】
前記時間変化の特定変化時間を、前記画素の輝度に基づいて計測する請求項1に記載の超音波撮像装置。
【請求項6】
前記画素毎の輝度の時間変化の微分値から、前記被検体の造影相の違いを判別する請求項1に記載の超音波撮像装置。
【請求項7】
前記評価画像についての表示項目情報を入力する入力部をさらに有し、
前記入力部は表示項目を表示し、操作者の前記表示項目の選択を入力として受ける請求項1に記載の超音波撮像装置。
【請求項8】
前記表示部は、操作者が選択する領域の前記時間変化の特定変化時間および評価値を表示する請求項2に記載の超音波撮像装置。
【請求項9】
前記表示画像構成部は、前記画像データ、前記評価画像、前記抽出画像を任意に組み合わせた画像を前記表示画像とする請求項2に記載の超音波撮像装置。
【請求項10】
前記表示画像構成部は、動画像で表示される画像データ上に色分けした前記評価画像を半透明で重畳した画像、動画像で表示される画像データ上に色分けした前記抽出画像を半透明で重畳させた画像、及び特定の領域を強調した画像のいずれかを前記表示画像とする請求項2に記載の超音波撮像装置。
【請求項11】
前記評価画像についての表示項目情報を入力する入力部と、計測した時間変化に基づいて評価値を算出する評価値算出部と、をさらに有し、
前記入力部は、表示画像の領域の選択入力を受け、前記表示部は、前記選択入力に基づいて選択される領域の前記画素毎の輝度の時間変化および評価値を表示する請求項2に記載の超音波撮像装置。
【請求項12】
前記画素毎の輝度の時間変化および評価値に関する閾値に基づいて前記選択入力を行うことを特徴とする請求項11に記載の超音波撮像装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−210507(P2012−210507A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−175484(P2012−175484)
【出願日】平成24年8月8日(2012.8.8)
【分割の表示】特願2010−501841(P2010−501841)の分割
【原出願日】平成21年2月17日(2009.2.17)
【出願人】(000153498)株式会社日立メディコ (1,613)
【Fターム(参考)】