超音波検査システム
【課題】超音波検査システムにおいて、物体に存在する損傷等からの検出信号のSN比を向上させることを可能とすることである。
【解決手段】超音波検査システム10は、レーザ光を物体に照射して超音波振動を物体に励起させるためのレーザ駆動装置12、物体50の表面にレーザ光を走査させるためのガルバノスキャナ14、物体50に配置される複数の受信手段である超音波探触子16,18、制御装置30等を含んで構成される。制御装置30は、レーザ光の走査のタイミングに対応して各受信手段が受信した検出信号に基づき、物体における超音波振動分布を各受信手段ごとに2次元面に画像化する個別画像化処理部32と、複数の個別画像化データについて、同一位置における複数の画像データを和演算または積演算してその位置の強調処理データとする強調処理を行う強調画像化処理部34を含む。
【解決手段】超音波検査システム10は、レーザ光を物体に照射して超音波振動を物体に励起させるためのレーザ駆動装置12、物体50の表面にレーザ光を走査させるためのガルバノスキャナ14、物体50に配置される複数の受信手段である超音波探触子16,18、制御装置30等を含んで構成される。制御装置30は、レーザ光の走査のタイミングに対応して各受信手段が受信した検出信号に基づき、物体における超音波振動分布を各受信手段ごとに2次元面に画像化する個別画像化処理部32と、複数の個別画像化データについて、同一位置における複数の画像データを和演算または積演算してその位置の強調処理データとする強調処理を行う強調画像化処理部34を含む。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波検査システムに係り、特に、超音波振動を与える位置を物体に対し2次元的に移動走査する走査手段を備える超音波検査システムに関する。
【背景技術】
【0002】
超音波振動を用いて固体材料内部状態を画像化する装置としては、被検体である物体を水槽等において、水を介して超音波探触子を直動的に走査する水浸法によるものが市販されている。水を介するのは、被検体に対し非接触とした方が、走査を容易にでき、また走査の高速化を図ることができる等のためである。この場合、水に浸けることのできない被検体には適用できず、また、場合によっては大型水槽を必要とするため、他の非接触走査法が望まれている。他の非接触走査法としては、レーザ光を被検体の表面に走査し、その走査点において熱励起によって発生する超音波を利用することが知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、超音波伝播の映像化装置等として、発振レーザによって被検体の表面を走査してパルスレーザ光を走査路に沿って複数の計測点に照射し、これら複数の計測点で熱励起超音波を発生させ、この超音波を、被検体に装着し固定した受信用圧電センサで照射するレーザ光のパルスと同期して検出し、この検出した信号をディジタルオシロスコープ等のA/D変換器により波形列データとしてパーソナルコンピュータに収録し、パーソナルコンピュータによって、収録した波形列データを各時刻における振幅値を輝度変調して画像化することが開示されている。
【0004】
また、本発明に係る発明者等は、非特許文献1において、ガイド波としてのラム波をレーザによって励振し、離れた点の斜角探触子によってラム波A0モードを検出することで励振点の板厚情報を取得できる手法を開発したことを開示した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−300634号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】林等,発振レーザ走査法によって励振されたガイド波を用いた高速厚み測定,日本非破壊検査協会,第16回超音波による材料の非破壊評価シンポジウム講演論文集8−1,平成21年1月29日,p107−111
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来技術によれば、超音波振動を与える位置を物体に対し2次元的に移動走査し、物体に予め固定して配置された探触子によって超音波振動を検出し、検出された信号を処理することで、物体における2次元的な超音波振動分布を画像化することができる。
【0008】
しかしながら、超音波振動の受信に際しては、非接触式走査あるいは接触式走査において、受信点が走査点から離れるに従い、超音波減衰による画像の乱れが生じ、また、反射波の影響によってアーチファクトと呼ばれる虚像が生じることがある。このような画像の乱れの原因の1つである反射波は、物体における損傷の形状、その寸法、用いられる超音波の周波数等によって発生状況が異なる。また、画像乱れの他の原因である超音波減衰は超音波振動の伝播距離に大きく影響を受ける。
【0009】
このような画像の乱れ、虚像等が生じると、物体に存在する損傷等からの検出信号に対してノイズとなり、SN比が低下し、十分な検査を行うことが困難となる。
【0010】
本発明の目的は、超音波振動の受信に際し、物体に存在する損傷等からの検出信号のSN比を向上させることを可能とする超音波検査システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る超音波検査システムは、超音波振動を与える位置を物体に対し2次元的に移動走査する走査手段と、物体に予め定めた所定位置関係で配置され、物体を伝播する超音波振動信号を検出信号として受信する複数の受信手段と、移動走査のタイミングに対応して各受信手段が受信した検出信号に基づき、物体における超音波振動分布を各受信手段ごとに2次元面に画像化する個別画像化手段と、各受信手段について得られる複数の2次元面の画像化データについて、同一位置における複数の画像データを処理してその位置の強調処理データとする強調処理を行い、各位置における強調処理データを2次元面に画像化し、これを物体の検査用画像として出力する強調画像化手段と、を備えることを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係る超音波検査システムにおいて、強調画像化手段は、同一位置における複数の画像データを相互に和演算処理または積演算処理してその位置の強調処理データとすることが好ましい。
【0013】
また、本発明に係る超音波検査システムにおいて、強調画像化手段は、同一位置における複数の画像データのそれぞれについて、予め定めた基準に従って重み付けを行う重み付け手段を含むことが好ましい。
【0014】
また、本発明に係る超音波検査システムにおいて、走査手段は、物体に超音波振動としてラム波を伝播させるようにして、超音波振動を与える点を移動走査することが好ましい。
【0015】
また、本発明に係る超音波検査システムにおいて、走査手段は、レーザを物体に照射して超音波振動を物体に励起させるレーザ照射手段を有することが好ましい。
【0016】
また、本発明に係る超音波検査システムにおいて、走査手段は、レーザ手段からのレーザを受け止めて反射して物体に照射するミラーと、ミラーを物体の形状に合わせて傾斜させる手段であって、物体に照射するレーザの入射角度を予め定めた所定の角度となるように、ミラーの反射面を傾斜させる傾斜手段と、を有することが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
上記構成により、超音波検査システムは、超音波振動を与える位置を物体に対し2次元的に移動走査し、物体を伝播する超音波振動信号を検出信号として受信する複数の受信手段を備える。そして、各受信手段ごとに、物体における超音波振動分布を2次元面に画像化する個別画像化手段と、各受信手段について得られる複数の2次元面の画像化データについて、同一位置における複数の画像データを処理してその位置の強調処理データとする強調処理を行い、各位置における強調処理データを2次元面に画像し、これを物体の検査用画像として出力する強調画像化手段を備える。
【0018】
超音波振動を1つの受信手段で検出して画像化するときは、超音波振動の伝播に依存して様々なノイズも同時に検出するので、物体に存在する損傷等からの検出信号のSN比がばらつく。超音波振動を伝播経路が異なる複数の受信手段で検出すると、物体に存在する損傷等からの検出信号は全ての受信手段において同じ信号となる。一方で、伝播経路に依存するノイズは、各受信手段によって異なる。上記構成によれば、同一位置における複数の画像データを処理してその位置の強調処理データとする強調処理を行い、各位置における強調処理データを2次元面に画像化するので、物体に存在する損傷等からの検出信号がノイズに対し強調される。これによって、物体に存在する損傷等からの検出信号のSN比を向上させることができる。
【0019】
なお、2次元面に画像化するとは、2次元面を構成する各点における超音波振動の程度を濃淡差、色の相違等で表示できるようにすることで、超音波振動に関する振幅分布を表示できるようにすることである。このような画像化による表示は、超音波探傷技術において、いわゆるCスコープ法と呼ばれるものに似ている。
【0020】
また、超音波検査システムにおいて、強調画像化手段は、同一位置における複数の画像データを相互に和演算処理または積演算処理してその位置の強調処理データとする。例えば、4つの受信装置を用いることを考えると、同一位置における4つの画像データを相互に和演算処理することで、物体に存在する損傷等からの検出信号のSN比は、1つの画像データに基づく場合のSN比に対し、計算上、4倍に向上する。同一位置における4つの画像データを相互に積演算処理することで、物体に存在する損傷等からの検出信号のSN比は、計算上、1つの画像データに基づく場合のSN比の4乗に向上する。
【0021】
また、超音波検査システムにおいて、同一位置における複数の画像データのそれぞれについて、予め定めた基準に従って重み付けを行う。例えば、複数の受信手段ごとに検出感度等が相違する場合があっても、予め検出感度を調べておいて、その検出感度の相違に応じて重み付けを行うようにすれば、物体に存在する損傷等からの検出信号のSN比を安定して向上させることができる。
【0022】
また、超音波検査システムにおいて、物体に超音波振動としてラム波を伝播させるようにして、超音波振動を与える点を移動走査する。ラム波は、薄板中を屈曲伸縮しながら板に沿って伝播する波動である。ラム波は、超音波振動の波長に対する板厚の比である(板厚/波長)が小さいときに発生しやすく、また、斜角入射することで、ラム波を主とする超音波振動を伝播させることができる。例えば薄板におけるラム波は、薄板の板厚が薄くなるとその振幅が大きくなる。このことを利用して、ラム波が発生するような超音波周波数帯を用いることで、損傷等によって板厚が局部的に変動することを効果的に検査することができる。
【0023】
また、超音波検査システムにおいて、レーザを物体に照射して超音波振動を物体に励起させるレーザ照射手段を有するので、超音波振動を与える位置を物体に対し2次元的に移動走査することを非接触式で行うことができる。これにより、水浸法を用いることなく、高速走査が可能となる。
【0024】
また、超音波検査システムにおいて、レーザ手段からのレーザをミラーで受け止めて反射して物体に照射するものとし、ミラーを物体の形状に合わせて、物体に照射するレーザの入射角度を予め定めた所定の角度となるように、ミラーの反射面を傾斜させる。これにより、物体が曲面であっても、曲面である物体表面にレーザを適切に入射できるので、正確な超音波検査を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明に係る実施の形態の超音波検査システムの構成を説明する図である。
【図2】本発明に係る実施の形態において、検査の対象である物体の1例を説明する図である。
【図3】本発明に係る実施の形態において、超音波検査の手順を示すフローチャートである。
【図4】本発明に係る実施の形態において、受信信号の1例を説明する図である。
【図5】本発明に係る実施の形態において、検査対象の物体に4つの探触子を設けた場合の各探触子について、それぞれの超音波振動分布を2次元面に画像化したときの例の様子を説明する図である。
【図6】図5において、1つの探触子の超音波振動分布を2次元面に画像化したときの様子を説明する図である。
【図7】図5において、別の探触子の超音波振動分布を2次元面に画像したときの様子を説明する図である。
【図8】図5で説明した4つの探触子のそれぞれの超音波振動分布を2次元面に画像化したデータについて、和演算によって強調処理して検査用画像とした様子を説明する図である。
【図9】図5で説明した4つの探触子のそれぞれの超音波振動分布を2次元面に画像化したデータについて、積演算によって強調処理して検査用画像とした様子を説明する図である。
【図10】本発明に係る実施の形態において、検査対象の物体に4つの探触子を設けた場合の各探触子について、それぞれの超音波振動分布を2次元面に画像化したときの別の例について、1つの探触子の超音波振動分布を2次元面に画像化したときの様子を説明する図である。
【図11】図10の例において別の探触子の超音波振動分布を2次元面に画像化したときの様子を説明する図である。
【図12】図10の例において、4つの探触子のそれぞれの超音波振動分布を2次元面に画像化したデータについて、和演算によって強調処理して検査用画像とした様子を説明する図である。
【図13】図10の例において、4つの探触子のそれぞれの超音波振動分布を2次元面に画像化したデータについて、積演算によって強調処理して検査用画像とした様子を説明する図である。
【図14】本発明に係る実施の形態において、検査の対象として曲面を有する物体の例を説明する図である。
【図15】図14の例において、レーザを照射する面の様子を説明する図である。
【図16】図15の例において、検査対象の物体に4つの探触子を設けた場合の各探触子について、それぞれの超音波振動分布を2次元面に画像化したときの例について、1つの探触子の超音波振動分布を2次元面に画像化したときの様子を説明する図である。
【図17】図15の例において別の探触子の超音波振動分布を2次元面に画像化したときの様子を説明する図である。
【図18】図15の例において、4つの探触子のそれぞれの超音波振動分布を2次元面に画像化したデータについて、和演算によって強調処理して検査用画像とした様子を説明する図である。
【図19】図15の例において、4つの探触子のそれぞれの超音波振動分布を2次元面に画像化したデータについて、積演算によって強調処理して検査用画像とした様子を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下に図面を用いて本発明に係る実施の形態につき、詳細に説明する。以下では、走査手段として、検査対象である物体の表面に集光してレーザを照射し、物体の内部に超音波を励起するものを説明するが、これ以外の超音波供給装置を用いてもよい。例えば、レーザ照射についてその焦点を物体の表面から離れたところに設定し、レーザによってプラズマを構造物の表面から離れたところを起点として発生させ、そのプラズマによって超音波を物体表面に励起させてもよい。その際に、物体の表面に平行にレーザ光を放射し、焦点を物体の表面から離れたところに設定するものとしてもよい。また、超音波励起を、放電、マイクロ波照射等によって行うものとしてもよい。また、圧電素子等を用いた超音波送信装置を物体に接触させる構成としてもよい。また、物体を水中、油中等の媒体中に配置するものとしてもよい。
【0027】
以下では、受信手段として、圧電素子を用いた接触式の超音波探触子を説明するが、これ以外の超音波振動検出装置を用いてもよい。例えば、非接触式のレーザ干渉計を用いた振動検出装置、非接触式の圧電素子を用いるいわゆる空中超音波センサ、光電式振動検出装置、静電容量型振動検出装置、磁気式振動検出装置等を用いるものとしてもよい。
【0028】
以下では、受信手段を4つ用いる場合を説明するが、これは説明のための例示であって、受信手段の数は複数であればよい。また、個別画像化の方法として、各受信手段ごとにレーザ走査を行うものとして述べるが、これは画像化の説明のためであって、実際の超音波検査システムの構成においては、1回の走査で、同時に複数の受信装置の画像化を行うものとしてもよい。
【0029】
以下では、検査対象の物体として、平板状のもの、曲面を有するものを説明するが、勿論、これは説明のための一例であって、様々な形状の物体、例えば凹凸を有する物体、貫通穴等を有する物体等を検査対象とすることができる。
【0030】
また、以下で説明する材質、寸法、物質の表面形状、損傷の形状等は、説明のための一例であって、超音波検査の対象である物質の特徴、検査の仕様に応じて適宜変更することができる。
【0031】
以下では、全ての図面において同様の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、本文中の説明においては、必要に応じそれ以前に述べた符号を用いるものとする。
【0032】
図1は、超音波検査システム10の構成を説明する図である。図1には、超音波検査システム10の構成要素ではないが、検査対象の物体50の一部分が図示されている。検査対象の物体50としては超音波振動を伝播するものであればよいが、以下では、平板状金属板に適当な模擬損傷を設けた物体50と、曲面を有する金属板に適当な模擬損傷を設けた物体170を用いて説明する。具体的に検査対象とした物体50,170の内容についてはその都度後述する。
【0033】
超音波検査システム10は、レーザを物体に照射して超音波振動を物体に励起させるためのレーザ駆動装置12、レーザ駆動装置12からのレーザ光の進路を変更し予め定めた入射角度で物体50の表面にレーザ光を走査させるためのガルバノスキャナ14、物体50に予め定めた所定位置関係で配置される複数の超音波探触子16,18、超音波探触子16,18からの検出信号を増幅するアンプ20,22、アンプ20,22のアナログ信号をディジタル信号に変換するADボード24,26、ADボード24,26の出力データの処理等を行う制御装置30、制御装置30によって行われたデータ処理の結果を表示する表示装置36を含んで構成される。制御装置30と表示装置36とは、データ処理に適した適当なコンピュータで構成することができる。
【0034】
レーザ駆動装置12は、所定の間隔でパルスレーザ光を出力する装置で、例えばYAGレーザ等を用いることができる。所定の間隔は、期待される検査速度によるが、例えば、20Hzから1kHz程度の周期でパルスレーザ光を出力するものとできる。レーザ駆動装置12がパルスレーザ光を出力するタイミングを示す信号は、トリガ信号として、適当な信号線を用いて制御装置30に伝送される。
【0035】
ガルバノスキャナ14は、複数の可動反射鏡で構成される光学的装置であり、複数の反射鏡の反射方向を適当に変更することで、レーザ駆動装置12から出力されるパルスレーザ光を物体50の表面に予め定めた照射順序の軌跡に従って走査させる機能を有する。また、ガルバノスキャナ14は、複数の反射鏡の反射方向を適当に変更することで、物体50が曲面を有する場合に、その曲面に対し予め定めた入射角度でパルスレーザ光を照射させる機能を有する。図1の例では、走査領域60の中をジグザグ状の移動軌跡62でパルスレーザ光が走査されている様子が示される。
【0036】
複数の反射鏡は、平面鏡、曲面鏡等を用いることができ、各反射鏡の反射方向の変更には小型モータあるいは電気駆動プランジャ等のアクチュエータを用いることができる。ガルバノスキャナ14の駆動制御は、レーザ駆動装置12のトリガ信号等に基き、制御装置30によって実行される。
【0037】
このようにパルスレーザ光が物体50の表面に照射されることによって、物体50において熱励起された超音波振動が発生する。発生した超音波振動は、走査点から物体50の周辺に向かって伝播する。したがって、ガルバノスキャナ14は、レーザ駆動装置12によって超音波振動が与えられる位置を物体50に対し2次元的に移動走査する走査手段である。
【0038】
超音波探触子16,18は、圧電素子で構成され、レーザ駆動装置12とガルバノスキャナ14によって物体50にパルスレーザ光が照射され、それによって走査点において発生する超音波振動が物体50を伝播する超音波振動信号を検出信号として受信する機能を有する超音波振動の受信手段である。圧電素子の受信帯域は、例えば中心周波数1MHzのものを用いることができる。
【0039】
超音波探触子16,18は、物体50の表面に予め定めた所定位置関係で配置される。具体的には、超音波探触子16,18は、物体50の表面におけるパルスレーザ光の走査領域60の外側に、物体50に接触し、検査中は固定位置として配置される。つまり、超音波探触子16,18は、固定位置において超音波振動の検出を行い、パルスレーザ光のように走査して受信するものではない。
【0040】
図1において、超音波探触子16,18は、走査領域60の外側に2つ配置されているが、配置数は2よりも多いほうが好ましい。以下では4つの超音波探触子を配置する例についての実験結果等を説明するが、仮に使用できる超音波探触子が2つしか準備できないときには、2回に分けて検査を行うものとしてもよい。例えば、図1のようにまず走査領域60の左右両側に超音波探触子16,18を配置して固定し、パルスレーザ光による超音波振動の検出信号をこの2つの超音波探触子16,18で取得する。必要な検出信号のデータを取得し終わったら、この2つの超音波探触子16,18を例えば走査領域60の上下両側に配置し、パルスレーザ光による超音波振動の検出信号をこの2つの超音波探触子16,18で取得する。
【0041】
このようにして、2つの超音波探触子16,18を用いて、走査領域60の外側の4つの位置において超音波振動の検出信号を取得することができる。同様にして、1つの超音波探触子しか準備できないときでも、複数回に分けて検査を行うことで、超音波振動を与える位置を物体に対し2次元的に移動走査し、物体に予め定めた所定位置関係における複数の受信位置で、物体を伝播する超音波振動信号を検出信号としてそれぞれ受信するものとすることができる。その意味で、複数の受信手段とは、同時受信の場合には文字通り複数受信手段が物体50に配置されるが、複数の検査に分けて行う場合には、複数の受信位置において超音波振動の検出信号を取得することを含むことになる。
【0042】
アンプ20,22は、超音波探触子16,18からのアナログ検出信号を増幅する増幅器である。また、ADボード24,26は、アンプ20,22によって適当な大きさに増幅されたアナログ信号をディジタル信号に変換する回路である。アンプとADボードは、検出信号を検出する超音波探触子ごとにそれぞれ独立して設けることが好ましい。図1の例では、4箇所の受信位置に対し2個の超音波探触子16,18を設けるものであるので、各超音波探触子16,18に対応してアンプ20,22とADボード24,26が設けられる。
【0043】
制御装置30は、上記のようにガルバノスキャナ14の走査駆動を行う機能を有する他に、ADボード24,26の出力データの処理を行い、その結果を表示装置36に2次元面の画像40として表示させる機能を有する。
【0044】
ADボード24,26の出力データの処理として、制御装置30は、移動走査のタイミングに対応して各受信手段が受信した検出信号に基づき、物体における超音波振動分布を各受信手段ごとに2次元面に画像化する個別画像化処理部32と、各受信手段について得られる複数の2次元面の画像化データについて、同一位置における複数の画像データを処理してその位置の強調処理データとする強調処理を行い、各位置における強調処理データを2次元面に画像化し、これを物体の検査用画像として出力する強調画像化処理部34とを含んで構成される。
【0045】
かかる機能は、ソフトウェアで実現でき、具体的には、対応する超音波検査ソフトウェアを実行することで実現できる。なお、必要に応じ、これらの機能の一部をハードウェアで実現することもできる。
【0046】
次に、検査対象とした物体50の内容を説明する。物体50は、平板状金属板に適当な模擬損傷を設けたもので、具体的には、板厚3.0mmのアルミニウム平板の裏面に、深さ1.0mmの直線状溝52と、平面形状がT字形状のT字状溝54を設け、これを超音波検査して検出すべき模擬損傷としたものである。図2には物体50の上面図が示されているので、直線状溝52、T字状溝54は目視できない状態であり、破線で示されている。この直線状溝52を含む60mm×100mmの走査領域60、T字状溝54を含む100mm×100mmの走査領域61が、ガルバノスキャナ14によってパルスレーザ光が走査される範囲である。
【0047】
図2に示される受信位置70,72,74,76,80,83,84,86は、超音波探触子16,18が設置される位置である。これらの受信位置70,72,74,76,80,83,84,86は、物体50の上面、つまり模擬損傷が設けられる面とは反対側の面に設定される。受信位置70,72,74,76は、直線状溝52を検査するために超音波探触子16,18が設置される位置であり、受信位置80,82,84,86は、T字状溝54を検査するために超音波探触子16,18が設置される位置である。
【0048】
図3は、図1の構成において、超音波を用いて物体50の模擬損傷を検査する手順を示すフローチャートである。物体50には直線状溝52とT字状溝54の2つの模擬損傷があるが、以下では、直線状溝52の模擬損傷を検査する場合を例として説明する。図1の例では2つの超音波探触子16,18が用いられているので、検査を2回に分け、最初に超音波探触子16,18を受信位置70,74に配置し、そこでの計測が終了したら超音波探触子16,18を受信位置72,76に配置して残りの計測を行うものとして説明する。なお、T字状溝54の模擬損傷を検査する場合も、受信位置が異なるのみで、同様の手順で検査を行うことができる。
【0049】
最初に、レーザ走査のためのガルバノスキャナ14の角度制御の計算を行う。具体的には、走査領域60の全てのレーザ走査点の座標を決定し、各走査点ごとにガルバノスキャナ14のミラー角度を計算する(S10)。走査点とは、走査の移動軌跡62においてパルスレーザ光が照射される複数の点である。パルスレーザ光が所定の時間間隔で出力されるとき、各パルスレーザ光ごとに走査点が異なるものとされる。つまり、ある走査点で1つのパルスレーザ光が出力され、物体50の表面に照射されると、次にガルバノスキャナ14のミラー角度が変更されて、次のパルスレーザ光は、その照射点から所定の距離移動した次の照射点において照射が行われる。1例を述べると、パルスレーザ光のパルス間隔を50msとして、そのパルス間隔の50msの間に、ガルバノスキャナ14のミラー角度の変更が行われる。そして、物体50の表面上で照射点が移動するが、その移動量として例えば1mmとすることができる。この場合、隣接する走査点は、互いに1mm離間していることになり、パルスレーザ光は、50msごとに1mm間隔で物体50の表面を走査移動することになる。
【0050】
このように、ミラー角度は、物体50の表面における照射点すなわち走査点が所定の移動軌跡62の上で所定の間隔距離となるように算出が行われる。具体的には、物体50の表面に2次元的に設定される移動軌跡62上で移動走査する全ての点の(x,y)座標を求めておき、それに対応するガルバノスキャナ14のミラー角度をそれぞれ計算する。
【0051】
ここでミラー角度とは、ガルバノスキャナ14を構成する反射鏡の基準方向についての傾き角度である。ガルバノスキャナ14は複数の反射鏡から構成されるので、ミラー角度は、それぞれの反射鏡について計算される。ミラー角度の計算というのは、平面の所定の位置にレーザ光を入射させるために必要なミラー角度を計算することである。操作する際には、多数の点にパルスレーザ光を移動させるために、予め全ての点についてのミラー角度を計算で求めておくことがよい。このようにすることで走査時間を早くすることができる。
【0052】
この走査点ごとのミラー角度の計算は、平板について検査を行うときには定型的な走査となるので、ガルバノスキャナ14と物体50の走査領域60の位置関係に関連付けて、予めマップ化して準備しておくことが可能である。後述する物体170のように、検査対象の物体の表面が曲面あるいは複雑な凹凸を有するときは、予め物体の表面における走査領域60について移動軌跡62を設定し、この移動軌跡62上で、適当な間隔となる各点の(x,y,z)座標を予め求め、この各(x,y,z)座標に対するそれぞれのミラー角度を計算することになる。
【0053】
全ての走査点についてのミラー角度が準備されると、レーザ走査が開始する(S12)。具体的には、まずレーザ走査初期位置へ移動が行われる(S14)。レーザ走査初期位置とは、物体50の走査領域60内に設定された移動軌跡62のスタート位置である。このスタート位置に対応するミラー角度になるようにガルバノスキャナ14が駆動され、その状態でレーザ駆動装置12が作動してまず1つのパルスレーザ光を出力する。出力されたパルスレーザ光はガルバノスキャナ14によって光路が変更されて、物体50のレーザ走査初期位置に所定の入射角度で照射が行われる。
【0054】
このパルスレーザ光の照射によって、物体50において熱励起された超音波振動が発生し、走査点から超音波振動が物体50の周辺に向かって伝播する。伝播する超音波振動は、走査領域60の外側の所定位置に接触固定された超音波探触子16,18によって検出され、超音波振動の検出信号として制御装置30に伝送される。
【0055】
このパルスレーザ光の出力の際に、レーザ駆動装置12からトリガ信号が制御装置30に伝送されるので、制御装置30は、このトリガ信号を取得し、超音波探触子16,18が検出する検出信号について、このパルスレーザ光による超音波振動の検出信号を特定し、トリガ信号に対応するものとしての現在の受信波形を収録する(S16)。
【0056】
図4に、超音波探触子16が検出した超音波振動波形の例を示す。図4の横軸は時間で、縦軸は超音波振動の振幅である。横軸の原点、すなわちt=0は、トリガ信号を取得した時間である。縦軸は、実際にはADボード24の出力で電圧値である。
【0057】
図4に示されるように、トリガ信号を取得してから、すなわちパルスレーザ光が照射されてから約50msのところに振幅のピーク90が現れるが、このピーク90を含む波形が、パルスレーザ光の照射点から模擬損傷である直線状溝52を経由して超音波探触子16の受信位置まで伝播して到達した超音波振動の波形であり、その最大振幅であるピーク90が直線状溝52からの超音波振動を示している。このピーク90以外にも、約60ms、約80msのところにやや小さなピークが現れ、さらに約90msのところに大きなピーク92が現れている。これらは、模擬損傷である直線状溝52における多重反射波、物体50の側面からの反射波によるものである。
【0058】
このように、超音波探触子16の検出信号には、模擬損傷である直線状溝52による超音波振動のピーク90の他に、様々な反射波によるノイズピークが現れる。図4からも分かるように、反射波によるノイズピークは、模擬損傷である直線状溝52による超音波振動のピーク90よりも遅い時間に現れる。そこで、適当なウィンドゲートWGを設けることで、直線状溝52による超音波振動のピーク90と、反射波によるノイズピークとを適切に分離できる。
【0059】
ウィンドゲートWGは、超音波探触子16が設定される受信位置からみて最も近い走査領域60の位置である最短伝播距離に対応する最短伝播時間と、超音波探触子16が設定される受信位置からみて最も遠い走査領域60の位置である最遠伝播距離に対応する最長伝播距離に対応する最長伝播時間との間として設定することができる。図4の例では、最短伝播時間が25ms、最長伝播時間が80msとして、ウィンドゲートWGが設定されている。このようにウィンドゲートWGを設けることで、走査位置から超音波探触子16への直接到達波を抽出でき、その直接到達波とは到達時刻が大きく異なる側面からの反射波をできるだけ含まないようにすることができる。
【0060】
再び図3に戻り、そこで、受信波形においてウィンドゲートWG内の振幅最大値を取得する(S18)。図4の例では、ピーク92が画面上で振幅最大値であるが、ウィンドゲートWGの外であるので、ウィンドゲートWGの内での振幅最大値としてピーク90の振幅値が取得される。取得された振幅最大値は、レーザ走査位置と関連付けて適当なメモリに記憶される。例えば振幅最大値をA0として、その振幅最大値A0を含む超音波振動が励起された物体50上の位置を(x0,y0)とすると、A0と(x0,y0)とが関連付けて記憶される。
【0061】
このように、パルスレーザ光の1つの照射ごとに、超音波探触子16におけるウィンドゲートWG内の最大振幅値が取得される。上記の例では、超音波探触子は2つ用いられているので、パルスレーザ光の1つの照射ごとに、2箇所に設置される超音波探触子16,18のそれぞれにおいて、それぞれのウィンドゲートWG内の最大振幅値が取得される。
【0062】
このように各超音波探触子16,18においてウィンドゲートWG内の最大振幅値が走査位置に関連付けて記憶されると、次にレーザ走査位置が最後の点か否かが判断される(S22)。いまの場合、レーザ走査初期位置であるので、判断の結果は否定となり、レーザ走査位置が次の点に移動される(S24)。すなわち、走査領域60内に設定された移動軌跡62における初期位置の次の点にパルスレーザ光が照射されるように、ガルバノスキャナ14のミラー角度が変更され、ついで次のパルスレーザ光がレーザ駆動装置12から出力される。上記の例では、次の点の位置は、移動軌跡62上で初期位置から1mm離れたところである。
【0063】
レーザ走査位置が移動されてパルスレーザ光がその移動された位置に照射されると、S16以下の工程が実行され、次の点における最大振幅値が取得される。そして取得された振幅最大値をA1とし、対応する走査位置を(x1,y1)とすると、A1と(x1,y1)とが関連付けて記憶される。そして再びS22において、レーザ走査位置が最後の点か否かが判断される。
【0064】
これを繰り返して、走査領域60内に設定された移動軌跡62の最後の点における最大振幅がその最後の点の位置に関連付けて記憶されると、S22の判断結果が肯定され、S26に進む。ここでは、別の受信点の計測があるか否かが判断される。図2で説明したように、走査領域60については、4つの受信位置70,72,74,76が設けられている。そこで、受信点はこれら4つの受信位置70,72,74,76に対応して4つあるが、上記の例では、受信位置70,74に超音波探触子16,18が配置されている。したがって、受信位置72,76における計測がまだであり、S26における判断結果は否定となる。
【0065】
その場合には、受信点が次の点とされる(S28)。具体的には、受信位置72,76に超音波探触子16,18が改めて配置される。そして、S14以下の工程がS24も含めて実行される。
【0066】
これによって、次の受信点においても全ての走査位置において最大振幅値とその走査位置とが関連付けられて記憶されると、S26の判断が再度行われる。S26の判断結果が肯定されると、全ての計測が終了したとされる(S30)。
【0067】
全ての計測が終了すると、記憶されているデータである走査位置に関連付けられた最大振幅値データについてデータ処理が行われる。まず、個別画像化処理(S32)が行われる。この工程は、制御装置30の個別画像化処理部32の機能によって実行される。個別画像化処理は、パルスレーザ光の物体50の上の移動走査のタイミングに対応して各受信手段である超音波探触子16,18が受信した検出信号に基づき、物体50における超音波振動分布を各受信手段ごとに2次元面に画像化する処理である。
【0068】
物体50における超音波振動分布を各受信手段ごとに2次元面に画像化するとは、2次元面を構成する各点における超音波振動の程度を濃淡差、色の相違等で表示し、超音波振動に関する断層像を表示できるようにすることである。このような画像化による表示は、超音波探傷技術において、いわゆるCスコープ法と呼ばれるものに相当する。上記の例では、走査領域60の移動軌跡62における各走査位置の(x,y)座標の点における最大振幅値を、濃淡差、色の相違等で表示する。濃淡差は、等濃度線で示すこともできる。
【0069】
図5は、走査領域60において、4つの受信位置70,72,74,76のそれぞれにおいて取得された走査位置に関連付けられた最大振幅値の分布の様子を等濃度線で示した概略模式図である。濃度の相違は斜線の密度で示し、斜線の密度が密のほど濃度が高く、濃度が高いほど最大振幅値が大きいことを示す。
【0070】
例えば、受信位置70における個別画像化データ100は、図3で説明したように、受信位置70に配置された超音波探触子16によって取得された走査位置に関連付けられた最大振幅値が、等濃度線で2次元面に画像化されている。この個別画像化データ100においては、走査領域のほぼ中央に、直線状溝52に対応するように高濃度領域があり、また、走査領域の右側端部に、超音波探触子16の最も近傍領域に対応するように中濃度領域があり、その他にいくつかの低濃度領域があることが示されている。
【0071】
また、受信位置74における個別画像化データ104においては、走査領域のほぼ中央に、直線状溝52に対応するように高濃度領域があり、また、走査領域の左側端部に、超音波探触子18の最も近傍領域に対応するように中濃度領域があり、その他にいくつかの低濃度領域があることが示されている。
【0072】
また、受信位置72における個別画像化データ102は、上記のように、2回目の計測において超音波探触子16を受信位置72に配置して取得された最大振幅値の分布の様子を示すものである。ここでは、走査領域のほぼ中央に、直線状溝52に対応するように高濃度領域があり、また、走査領域の下側端部に、超音波探触子16の最も近傍領域に対応するように中濃度領域があり、その他にいくつかの低濃度領域があることが示されている。
【0073】
同様に、受信位置76における個別画像化データ106は、上記のように、2回目の計測において超音波探触子18を受信位置76に配置して取得された最大振幅値の分布の様子を示すものである。ここでは、走査領域のほぼ中央に、直線状溝52に対応するように高濃度領域があり、また、走査領域の上側端部に、超音波探触子18の最も近傍領域に対応するように中濃度領域があり、その他にいくつかの低濃度領域があることが示されている。
【0074】
図6、図7は個別画像化データ100,102の詳細模式図である。上記のように走査領域60については4つの受信位置70,72,74,76が設けられ、4つの個別画像化データがあるが、ここではそのうちの2つを代表として示した。
【0075】
図6の個別画像化データ100では、走査領域のほぼ中央に、直線状溝52に対応するように高濃度領域112があり、また、走査領域の右側端部に、超音波探触子16の最も近傍領域に対応するように中濃度領域114があり、その他にいくつかの低濃度領域がある。
【0076】
中央部の高濃度領域112は、直線状溝52がある位置に対応している。直線状溝52は、上記の例で深さ1.0mmであり、その他の部位における板厚3.0mmに比べ、物体50において板厚が薄くなっている箇所である。
【0077】
パルスレーザ光を薄板状の物体50に入射することで励起される超音波は、ラム波になりやすい。平板を伝播するラム波は、板厚の薄いところで振幅が大きくなることが知られているので、上記のように3mmのアルミニウム板の場合では、模擬損傷である直線状溝52のところでラム波の振幅が他の箇所に比べ大きくなると考えられる。したがって、直線状溝52のところを走査点としたときの超音波探触子16の検出信号は、他の板厚が3.0mmのところを走査点としたときの超音波探触子16の検出信号よりも、最大振幅値が大きくなる。このような理由で、2次元面の画像化データでは、直線状溝52に対応する箇所が高濃度領域となる。
【0078】
走査領域60の右側端部の中濃度領域114は、超音波探触子16の最も近傍の領域に対応している。この中濃度領域114は、濃淡が波動状に繰り返しており、一種のアーチファクト、つまり虚像が発生しているものと考えることができる。また、走査領域60において高濃度領域112を挟んで超音波探触子16から最も遠い箇所116は、濃度が低く、一部に画像の乱れが見られる。これは、超音波振動の伝播が長くなるために超音波振動の減衰が大きく、そのために最大振幅値が小さくまたバラツキが大きくなるためと考えられる。
【0079】
図7の個別画像化データ102でも、走査領域のほぼ中央に、直線状溝52に対応するように高濃度領域122が見られる。また、走査領域の右側端部に、超音波探触子16の最も近傍領域に対応するようにアーチファクトと見られる波動状の中濃度領域124がある。そして、走査領域60において高濃度領域122を挟んで超音波探触子16から最も遠い箇所126には、画像の乱れが見られる。
【0080】
図6、図7を比較して分かるように、走査領域60に対し、受信位置が異なるだけで、個別画像化データはかなり相違する。特に、直線状溝52に対応する高濃度領域112,122よりも、中濃度領域114,124におけるアーチファクト、超音波探触子16から最も遠い箇所116,126における画像の乱れ等が、発生箇所、発生態様においてかなり相違する。
【0081】
再び図3に戻り、複数の個別画像化データが得られると、それらのデータについて強調演算が行われ(S34)、2次元面の画像とする強調画像化処理が行われる(S36)。強調画像化処理された2次元面の画像40は、物体の検査用画像として出力されて表示装置36に表示される。これによって、超音波による検査は終了する。これらの工程は、制御装置30の強調画像化処理部34の機能によって実行される。
【0082】
これらの処理は、図6、図7に関連して説明したように、走査領域60に対し、受信位置が異なるだけで、個別画像化データはかなり相違することを解決するために行われるものである。
【0083】
図6、図7に関連して説明したように、直線状溝52に対応する高濃度領域112,122の発生位置、発生態様は、個別画像データの間での相違は少ない。これに対し、アーチファクト、画像の乱れ等は、個別画像データの間での相違が大きい。この理由は、模擬損傷である直線状溝52は、いずれの受信位置における検出信号において共通の部分であるのに対し、それ以外のものは、走査位置と受信位置との間の超音波伝播の様子がそれぞれ個別に相違するためと考えられる。
【0084】
したがって、異なる受信位置で得られた複数の個別画像化データを重ね合わせることでノイズの少ない正確な超音波振動分布が得られるものと予想できる。さらに、共通の部分である直線状溝52に対応するデータを信号データとし、他の箇所に対応するデータをノイズデータとして、信号データをノイズデータに比べ、強調する処理を行うことで、(信号データの大きさ/ノイズデータの大きさ)=SN比を大幅に向上させることができる。このように、強調演算処理は、各受信手段について得られる複数の2次元面の画像化データについて、同一位置における複数の画像データを処理してSN比を向上させてその位置の強調演算処理データとする処理である。
【0085】
例えば、4つの受信装置を用いることを考えると、同一位置における4つの画像データを相互に和演算処理することで、物体に存在する損傷等からの検出信号のSN比は、1つの画像データに基づく場合のSN比に対し、計算上、4倍に向上する。同一位置における4つの画像データを相互に積演算処理することで、物体に存在する損傷等からの検出信号のSN比は、計算上、1つの画像データに基づく場合のSN比の4乗に向上する。
【0086】
図8は、図5で説明した受信位置が異なる4つの個別画像化データ100,102,104,106に強調演算処理として和演算処理を行い、その結果を2次元面に画像化して強調画像化データ130とした様子を示す図である。具体的には、各受信手段について得られる複数の2次元面の画像化データについて、同一位置における複数の画像データを相互に加算して、和演算処理が行われる。
【0087】
図8は、図5で説明した受信位置が異なる4つの個別画像化データ100,102,104,106に強調演算処理として和演算処理を行い、その結果を2次元面に画像化して強調画像化データ130とした様子を示す図である。具体的には、各受信手段について得られる複数の2次元面の画像化データについて、同一位置における複数の画像データを相互に加算して、和演算処理が行われる。同一位置における画像データは、その位置における最大振幅値に対応するものであるので、実質的には、走査領域60の同一の位置における最大振幅値を相互に加算することに相当する。
【0088】
図8では、中央部において各個別画像化データの高濃度領域のデータが4つ加算されてさらに高濃度となった強調高濃度領域132が現れている。それ以外の領域は、4つの個別画像化データにおいて現れる箇所が異なるアーチファクト、画像の乱れが、それぞれ加算されることなく、元々の箇所に現れる。したがって、結果として、各個別画像化データ100,102,104,106のそれぞれに比較して、中央部に強調高濃度領域132が周囲から際立って現れ、これによって、模擬損傷である直線状溝52の領域が明確に識別できるようになる。
【0089】
図9は、受信位置が異なる4つの個別画像化データ100,102,104,106に強調演算処理として積演算処理を行い、その結果を2次元面に画像化して強調画像化データ134とした様子を示す図である。具体的には、各受信手段について得られる複数の2次元面の画像化データについて、同一位置における複数の画像データを相互に積算して、積演算処理が行われる。同一位置における画像データは、その位置における最大振幅値に対応するものである。最大振幅値は、例えば電圧値であるが、積演算においては、単位を除いて無単位値として相互に掛け合わせるものとできる。あるいは、最大振幅値を規格化して無次元数とし、これらを相互に掛け合わせるものとしてもよい。
【0090】
図9では、中央部において各個別画像化データの高濃度領域のデータが4つ積算されてさらに高濃度となった強調高濃度領域136が現れている。それ以外の領域は、4つの個別画像化データにおいて現れる箇所が異なるアーチファクト、画像の乱れが、それぞれ積算されることなく、むしろバックグランド値に掛け算されて小さな値となって元々の箇所に現れる。したがって、結果として、図8に比較して、強調高濃度領域136が周囲からさらに際立って現れ、これによって、模擬損傷である直線状溝52の領域が明確に識別できるようになる。
【0091】
なお、各超音波探触子16,18の間に受信感度等の受信性能が相違することがあり、また、各受信位置70,72,74,76における超音波探触子16,18の取付状態が相違することがある。その影響を抑制するために、同一位置における複数の画像データのそれぞれについて、予め定めた基準に従って重み付けを行うことが好ましい。予め定めた基準としては、標準的試料を用いて複数回計測した標準的受信感度等を用いることができる。
【0092】
上記では、図2における直線状溝52を模擬損傷とする場合の検査について説明したが、図2におけるT字状溝54を模擬損傷とする場合も、図3の手順に従って、個別画像化処理と強調画像化処理を行って、強調画像化データを出力することができる。
【0093】
図10は、図2の受信位置80に超音波探触子16を配置したときに得られる個別画像化データ140の詳細模式図である。ここでも図6と同様に、走査領域のほぼ中央に、T字状溝54に対応するように高濃度領域142が見られる。また、走査領域の右側端部に、超音波探触子16の最も近傍領域に対応するようにアーチファクトと見られる波動状の中濃度領域144がある。そして、走査領域60において高濃度領域142を挟んで超音波探触子16から最も遠い箇所146には、画像の乱れが見られる。
【0094】
図11は、図2の受信位置82に超音波探触子16を配置したときに得られる個別画像化データ150の詳細模式図である。ここでも図7と同様に、走査領域のほぼ中央に、T字状溝54に対応するように高濃度領域152が見られる。また、走査領域の下側端部に、超音波探触子16の最も近傍領域に対応するようにアーチファクトと見られる波動状の中濃度領域154がある。そして、走査領域60において高濃度領域152を挟んで超音波探触子16から最も遠い箇所156には、画像の乱れが見られる。
【0095】
T字状溝54に対する検査でも、4つの受信位置80,82,84,86に超音波探触子16,18が配置されて、4つの個別画像化データが得られる。強調演算処理等においては、これらの4つの個別画像化データについて、和演算処理または積演算処理が行われる。
【0096】
図12は、受信位置が異なる4つの個別画像化データに強調演算処理として和演算処理を行い、その結果を2次元面に画像化して強調画像化データ160とした様子を示す図である。図12では、図8と同様に、中央部において各個別画像化データの高濃度領域のデータが4つ加算されてさらに高濃度となった強調高濃度領域162が現れている。それ以外の領域は、4つの個別画像化データにおいて現れる箇所が異なるアーチファクト、画像の乱れが、それぞれ加算されることなく、元々の箇所に現れる。したがって、結果として、図10、図11に示される個別画像化データ140,150のそれぞれに比較して、中央部に強調高濃度領域162が周囲から際立って現れ、これによって、模擬損傷であるT字状溝54の領域が明確に識別できるようになる。
【0097】
図13は、受信位置が異なる4つの個別画像化データに強調演算処理として積演算処理を行い、その結果を2次元面に画像化して強調画像化データ164とした様子を示す図である。図13では、図9と同様に、中央部において各個別画像化データの高濃度領域のデータが4つ積算されてさらに高濃度となった強調高濃度領域166が現れている。それ以外の領域は、4つの個別画像化データにおいて現れる箇所が異なるアーチファクト、画像の乱れが、それぞれ積算されることなく、むしろバックグランド値に掛け算されて小さな値となって元々の箇所に現れる。したがって、結果として、図12に比較して、強調高濃度領域166が周囲からさらに際立って現れ、これによって、模擬損傷であるT字状溝54の領域が明確に識別できるようになる。
【0098】
上記では、物体50として模擬損傷を設けた薄板アルミニウムを説明したが、曲面を有する物体についても、図3の手順に従って、個別画像化処理と強調画像化処理を行って、強調画像化データを出力することができる。
【0099】
図14は、曲面を有する物体170の様子を示す図である。この物体170は、厚さ3.0mmを有する円筒状のアルミニウムパイプを中心軸に沿って半分に切断したものである。物体170は、その凹状内面に、模擬損傷として深さ1.0mmの直線状溝176と、やはり深さ1.0mmのT字状溝178が設けられている。なお、図14は、模擬損傷である直線状溝176とT字状溝178とが見えるように、凹面を上面側とするように示したが、超音波検査は、凸面174の側にパルスレーザ光を照射して行われる。
【0100】
図15は、パルスレーザ光が照射される凸面174を上面として、物体170の上面図である。物体170は曲面を有しているため、直線状溝176に対する走査領域180も、T字状溝178に対する走査領域182も、上面図では鼓形形状となっているが、物体170が置かれた平面に対する走査領域は矩形形状である。もっとも、ミラー角度を予めきちんと計算しておくことで、曲面上の走査領域を矩形形状とすることもできる。なお、直線状溝176の走査領域180の外側に4つの受信位置190,192,194,196が設けられ、T字状溝178の走査領域182の外側に4つの受信位置200,202,204,206が設けられる。
【0101】
物体170が曲面を有していても、図3の超音波検査の手順は、平板状の物体50の場合と基本的に同じである。相違するのは、S10のミラー角度の計算が平板の場合に比べ複雑となることである。すなわち、物体170の曲面形状に合わせて、物体170に照射するパルスレーザ光の入射角度を予め定めた所定の角度となるように、ミラーの反射面の傾斜角度を計算する。具体的には、予め物体170の表面における走査領域180,182についてそれぞれ移動軌跡を設定し、この移動軌跡上で、適当な間隔となる各点の(x,y,z)座標を予め求め、この各(x,y,z)座標に対するそれぞれのミラー角度を計算することになる。
【0102】
このようにしてミラー角度が物体170の曲面に対応して求められた後は、平板状の物体50におけると同様の手順で、走査位置に関連付けられた最大振幅値が取得され、それに基いて個別画像化データが得られる。そして得られた4つの個別画像化データに基いて、和演算または積演算を用いて、強調演算処理が行われ、1つの強調画像化データが得られる。
【0103】
図16は、模擬損傷としての直線状溝176について、受信位置が異なる4つの個別画像化データに強調演算処理として和演算処理を行い、その結果を2次元面に画像化して強調画像化データ210とした様子を示す図である。図16では、図8、図12と同様に、中央部において各個別画像化データの高濃度領域のデータが4つ加算されてさらに高濃度となった強調高濃度領域212が現れている。それ以外の領域は、4つの個別画像化データにおいて現れる箇所が異なるアーチファクト、画像の乱れが、それぞれ加算されることなく、元々の箇所に現れる。したがって、図8、図12に関連して説明したように、結果として、個別画像化データのそれぞれに比較して、中央部に強調高濃度領域212が周囲から際立って現れ、これによって、模擬損傷である直線状溝176の領域が明確に識別できるようになる。
【0104】
図17は、模擬損傷としての直線状溝176について、受信位置が異なる4つの個別画像化データに強調演算処理として積演算処理を行い、その結果を2次元面に画像化して強調画像化データ214とした様子を示す図である。図17では、図9、図13と同様に、中央部において各個別画像化データの高濃度領域のデータが4つ積算されてさらに高濃度となった強調高濃度領域216が現れている。それ以外の領域は、4つの個別画像化データにおいて現れる箇所が異なるアーチファクト、画像の乱れが、それぞれ積算されることなく、むしろバックグランド値に掛け算されて小さな値となって元々の箇所に現れる。したがって、結果として、図9、図13に関連して説明したように、強調高濃度領域216が周囲からさらに際立って現れ、これによって、模擬損傷である直線状溝176の領域が明確に識別できるようになる。
【0105】
図18は、模擬損傷としてのT字状溝178について、受信位置が異なる4つの個別画像化データに強調演算処理として和演算処理を行い、その結果を2次元面に画像化して強調画像化データ218とした様子を示す図である。ここでも、中央部に強調高濃度領域220が周囲から際立って現れ、これによって、模擬損傷であるT字状溝178の領域が明確に識別できるようになる。
【0106】
図19は、和演算処理に代えて積演算処理を行った場合の強調画像化データ222とした様子を示す図である。ここでも、中央部に強調高濃度領域224が周囲からさらに際立って現れ、これによって、模擬損傷であるT字状溝178の領域が明確に識別できるようになる。
【0107】
図16から図19に示されるように、物体170が曲面を有する場合でも、平板状の物体50と同様に、図1の構成の超音波検査システム10において、図3の手順を実行することで、強調化画像データを得ることができる。これによって、物体170が曲面を有する場合でも、物体170に存在する損傷等からの検出信号のSN比を向上させることが可能になる。
【産業上の利用可能性】
【0108】
本発明に係る超音波検査システムは、物体の形状が平板状、曲面状を問わず、物体に含まれる損傷等を検査する超音波検査に利用できる。
【符号の説明】
【0109】
10 超音波検査システム、12 レーザ駆動装置、14 ガルバノスキャナ、16,18 超音波探触子、20,22 アンプ、24,26 ADボード、30 制御装置、32 個別画像化処理部、34 強調画像化処理部、36 表示装置、40 画像、50,170 物体、52,176 直線状溝、54,178 T字状溝、60,61,180,182 走査領域、62 移動軌跡、70,72,74,76,80,83,84,86,190,192,194,196,200,202,204,206 受信位置、90,92 ピーク、100,102,104,106,140,150 個別画像化データ、112,122,142,152 高濃度領域、114,124,144,154 中濃度領域、116,126,146,156 (最も遠い)箇所、130,134,160,164,210,214,218,222 強調画像化データ、132,136,162,166,212,216,220,224 強調高濃度領域、174 凸面。
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波検査システムに係り、特に、超音波振動を与える位置を物体に対し2次元的に移動走査する走査手段を備える超音波検査システムに関する。
【背景技術】
【0002】
超音波振動を用いて固体材料内部状態を画像化する装置としては、被検体である物体を水槽等において、水を介して超音波探触子を直動的に走査する水浸法によるものが市販されている。水を介するのは、被検体に対し非接触とした方が、走査を容易にでき、また走査の高速化を図ることができる等のためである。この場合、水に浸けることのできない被検体には適用できず、また、場合によっては大型水槽を必要とするため、他の非接触走査法が望まれている。他の非接触走査法としては、レーザ光を被検体の表面に走査し、その走査点において熱励起によって発生する超音波を利用することが知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、超音波伝播の映像化装置等として、発振レーザによって被検体の表面を走査してパルスレーザ光を走査路に沿って複数の計測点に照射し、これら複数の計測点で熱励起超音波を発生させ、この超音波を、被検体に装着し固定した受信用圧電センサで照射するレーザ光のパルスと同期して検出し、この検出した信号をディジタルオシロスコープ等のA/D変換器により波形列データとしてパーソナルコンピュータに収録し、パーソナルコンピュータによって、収録した波形列データを各時刻における振幅値を輝度変調して画像化することが開示されている。
【0004】
また、本発明に係る発明者等は、非特許文献1において、ガイド波としてのラム波をレーザによって励振し、離れた点の斜角探触子によってラム波A0モードを検出することで励振点の板厚情報を取得できる手法を開発したことを開示した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−300634号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】林等,発振レーザ走査法によって励振されたガイド波を用いた高速厚み測定,日本非破壊検査協会,第16回超音波による材料の非破壊評価シンポジウム講演論文集8−1,平成21年1月29日,p107−111
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来技術によれば、超音波振動を与える位置を物体に対し2次元的に移動走査し、物体に予め固定して配置された探触子によって超音波振動を検出し、検出された信号を処理することで、物体における2次元的な超音波振動分布を画像化することができる。
【0008】
しかしながら、超音波振動の受信に際しては、非接触式走査あるいは接触式走査において、受信点が走査点から離れるに従い、超音波減衰による画像の乱れが生じ、また、反射波の影響によってアーチファクトと呼ばれる虚像が生じることがある。このような画像の乱れの原因の1つである反射波は、物体における損傷の形状、その寸法、用いられる超音波の周波数等によって発生状況が異なる。また、画像乱れの他の原因である超音波減衰は超音波振動の伝播距離に大きく影響を受ける。
【0009】
このような画像の乱れ、虚像等が生じると、物体に存在する損傷等からの検出信号に対してノイズとなり、SN比が低下し、十分な検査を行うことが困難となる。
【0010】
本発明の目的は、超音波振動の受信に際し、物体に存在する損傷等からの検出信号のSN比を向上させることを可能とする超音波検査システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る超音波検査システムは、超音波振動を与える位置を物体に対し2次元的に移動走査する走査手段と、物体に予め定めた所定位置関係で配置され、物体を伝播する超音波振動信号を検出信号として受信する複数の受信手段と、移動走査のタイミングに対応して各受信手段が受信した検出信号に基づき、物体における超音波振動分布を各受信手段ごとに2次元面に画像化する個別画像化手段と、各受信手段について得られる複数の2次元面の画像化データについて、同一位置における複数の画像データを処理してその位置の強調処理データとする強調処理を行い、各位置における強調処理データを2次元面に画像化し、これを物体の検査用画像として出力する強調画像化手段と、を備えることを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係る超音波検査システムにおいて、強調画像化手段は、同一位置における複数の画像データを相互に和演算処理または積演算処理してその位置の強調処理データとすることが好ましい。
【0013】
また、本発明に係る超音波検査システムにおいて、強調画像化手段は、同一位置における複数の画像データのそれぞれについて、予め定めた基準に従って重み付けを行う重み付け手段を含むことが好ましい。
【0014】
また、本発明に係る超音波検査システムにおいて、走査手段は、物体に超音波振動としてラム波を伝播させるようにして、超音波振動を与える点を移動走査することが好ましい。
【0015】
また、本発明に係る超音波検査システムにおいて、走査手段は、レーザを物体に照射して超音波振動を物体に励起させるレーザ照射手段を有することが好ましい。
【0016】
また、本発明に係る超音波検査システムにおいて、走査手段は、レーザ手段からのレーザを受け止めて反射して物体に照射するミラーと、ミラーを物体の形状に合わせて傾斜させる手段であって、物体に照射するレーザの入射角度を予め定めた所定の角度となるように、ミラーの反射面を傾斜させる傾斜手段と、を有することが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
上記構成により、超音波検査システムは、超音波振動を与える位置を物体に対し2次元的に移動走査し、物体を伝播する超音波振動信号を検出信号として受信する複数の受信手段を備える。そして、各受信手段ごとに、物体における超音波振動分布を2次元面に画像化する個別画像化手段と、各受信手段について得られる複数の2次元面の画像化データについて、同一位置における複数の画像データを処理してその位置の強調処理データとする強調処理を行い、各位置における強調処理データを2次元面に画像し、これを物体の検査用画像として出力する強調画像化手段を備える。
【0018】
超音波振動を1つの受信手段で検出して画像化するときは、超音波振動の伝播に依存して様々なノイズも同時に検出するので、物体に存在する損傷等からの検出信号のSN比がばらつく。超音波振動を伝播経路が異なる複数の受信手段で検出すると、物体に存在する損傷等からの検出信号は全ての受信手段において同じ信号となる。一方で、伝播経路に依存するノイズは、各受信手段によって異なる。上記構成によれば、同一位置における複数の画像データを処理してその位置の強調処理データとする強調処理を行い、各位置における強調処理データを2次元面に画像化するので、物体に存在する損傷等からの検出信号がノイズに対し強調される。これによって、物体に存在する損傷等からの検出信号のSN比を向上させることができる。
【0019】
なお、2次元面に画像化するとは、2次元面を構成する各点における超音波振動の程度を濃淡差、色の相違等で表示できるようにすることで、超音波振動に関する振幅分布を表示できるようにすることである。このような画像化による表示は、超音波探傷技術において、いわゆるCスコープ法と呼ばれるものに似ている。
【0020】
また、超音波検査システムにおいて、強調画像化手段は、同一位置における複数の画像データを相互に和演算処理または積演算処理してその位置の強調処理データとする。例えば、4つの受信装置を用いることを考えると、同一位置における4つの画像データを相互に和演算処理することで、物体に存在する損傷等からの検出信号のSN比は、1つの画像データに基づく場合のSN比に対し、計算上、4倍に向上する。同一位置における4つの画像データを相互に積演算処理することで、物体に存在する損傷等からの検出信号のSN比は、計算上、1つの画像データに基づく場合のSN比の4乗に向上する。
【0021】
また、超音波検査システムにおいて、同一位置における複数の画像データのそれぞれについて、予め定めた基準に従って重み付けを行う。例えば、複数の受信手段ごとに検出感度等が相違する場合があっても、予め検出感度を調べておいて、その検出感度の相違に応じて重み付けを行うようにすれば、物体に存在する損傷等からの検出信号のSN比を安定して向上させることができる。
【0022】
また、超音波検査システムにおいて、物体に超音波振動としてラム波を伝播させるようにして、超音波振動を与える点を移動走査する。ラム波は、薄板中を屈曲伸縮しながら板に沿って伝播する波動である。ラム波は、超音波振動の波長に対する板厚の比である(板厚/波長)が小さいときに発生しやすく、また、斜角入射することで、ラム波を主とする超音波振動を伝播させることができる。例えば薄板におけるラム波は、薄板の板厚が薄くなるとその振幅が大きくなる。このことを利用して、ラム波が発生するような超音波周波数帯を用いることで、損傷等によって板厚が局部的に変動することを効果的に検査することができる。
【0023】
また、超音波検査システムにおいて、レーザを物体に照射して超音波振動を物体に励起させるレーザ照射手段を有するので、超音波振動を与える位置を物体に対し2次元的に移動走査することを非接触式で行うことができる。これにより、水浸法を用いることなく、高速走査が可能となる。
【0024】
また、超音波検査システムにおいて、レーザ手段からのレーザをミラーで受け止めて反射して物体に照射するものとし、ミラーを物体の形状に合わせて、物体に照射するレーザの入射角度を予め定めた所定の角度となるように、ミラーの反射面を傾斜させる。これにより、物体が曲面であっても、曲面である物体表面にレーザを適切に入射できるので、正確な超音波検査を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明に係る実施の形態の超音波検査システムの構成を説明する図である。
【図2】本発明に係る実施の形態において、検査の対象である物体の1例を説明する図である。
【図3】本発明に係る実施の形態において、超音波検査の手順を示すフローチャートである。
【図4】本発明に係る実施の形態において、受信信号の1例を説明する図である。
【図5】本発明に係る実施の形態において、検査対象の物体に4つの探触子を設けた場合の各探触子について、それぞれの超音波振動分布を2次元面に画像化したときの例の様子を説明する図である。
【図6】図5において、1つの探触子の超音波振動分布を2次元面に画像化したときの様子を説明する図である。
【図7】図5において、別の探触子の超音波振動分布を2次元面に画像したときの様子を説明する図である。
【図8】図5で説明した4つの探触子のそれぞれの超音波振動分布を2次元面に画像化したデータについて、和演算によって強調処理して検査用画像とした様子を説明する図である。
【図9】図5で説明した4つの探触子のそれぞれの超音波振動分布を2次元面に画像化したデータについて、積演算によって強調処理して検査用画像とした様子を説明する図である。
【図10】本発明に係る実施の形態において、検査対象の物体に4つの探触子を設けた場合の各探触子について、それぞれの超音波振動分布を2次元面に画像化したときの別の例について、1つの探触子の超音波振動分布を2次元面に画像化したときの様子を説明する図である。
【図11】図10の例において別の探触子の超音波振動分布を2次元面に画像化したときの様子を説明する図である。
【図12】図10の例において、4つの探触子のそれぞれの超音波振動分布を2次元面に画像化したデータについて、和演算によって強調処理して検査用画像とした様子を説明する図である。
【図13】図10の例において、4つの探触子のそれぞれの超音波振動分布を2次元面に画像化したデータについて、積演算によって強調処理して検査用画像とした様子を説明する図である。
【図14】本発明に係る実施の形態において、検査の対象として曲面を有する物体の例を説明する図である。
【図15】図14の例において、レーザを照射する面の様子を説明する図である。
【図16】図15の例において、検査対象の物体に4つの探触子を設けた場合の各探触子について、それぞれの超音波振動分布を2次元面に画像化したときの例について、1つの探触子の超音波振動分布を2次元面に画像化したときの様子を説明する図である。
【図17】図15の例において別の探触子の超音波振動分布を2次元面に画像化したときの様子を説明する図である。
【図18】図15の例において、4つの探触子のそれぞれの超音波振動分布を2次元面に画像化したデータについて、和演算によって強調処理して検査用画像とした様子を説明する図である。
【図19】図15の例において、4つの探触子のそれぞれの超音波振動分布を2次元面に画像化したデータについて、積演算によって強調処理して検査用画像とした様子を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下に図面を用いて本発明に係る実施の形態につき、詳細に説明する。以下では、走査手段として、検査対象である物体の表面に集光してレーザを照射し、物体の内部に超音波を励起するものを説明するが、これ以外の超音波供給装置を用いてもよい。例えば、レーザ照射についてその焦点を物体の表面から離れたところに設定し、レーザによってプラズマを構造物の表面から離れたところを起点として発生させ、そのプラズマによって超音波を物体表面に励起させてもよい。その際に、物体の表面に平行にレーザ光を放射し、焦点を物体の表面から離れたところに設定するものとしてもよい。また、超音波励起を、放電、マイクロ波照射等によって行うものとしてもよい。また、圧電素子等を用いた超音波送信装置を物体に接触させる構成としてもよい。また、物体を水中、油中等の媒体中に配置するものとしてもよい。
【0027】
以下では、受信手段として、圧電素子を用いた接触式の超音波探触子を説明するが、これ以外の超音波振動検出装置を用いてもよい。例えば、非接触式のレーザ干渉計を用いた振動検出装置、非接触式の圧電素子を用いるいわゆる空中超音波センサ、光電式振動検出装置、静電容量型振動検出装置、磁気式振動検出装置等を用いるものとしてもよい。
【0028】
以下では、受信手段を4つ用いる場合を説明するが、これは説明のための例示であって、受信手段の数は複数であればよい。また、個別画像化の方法として、各受信手段ごとにレーザ走査を行うものとして述べるが、これは画像化の説明のためであって、実際の超音波検査システムの構成においては、1回の走査で、同時に複数の受信装置の画像化を行うものとしてもよい。
【0029】
以下では、検査対象の物体として、平板状のもの、曲面を有するものを説明するが、勿論、これは説明のための一例であって、様々な形状の物体、例えば凹凸を有する物体、貫通穴等を有する物体等を検査対象とすることができる。
【0030】
また、以下で説明する材質、寸法、物質の表面形状、損傷の形状等は、説明のための一例であって、超音波検査の対象である物質の特徴、検査の仕様に応じて適宜変更することができる。
【0031】
以下では、全ての図面において同様の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、本文中の説明においては、必要に応じそれ以前に述べた符号を用いるものとする。
【0032】
図1は、超音波検査システム10の構成を説明する図である。図1には、超音波検査システム10の構成要素ではないが、検査対象の物体50の一部分が図示されている。検査対象の物体50としては超音波振動を伝播するものであればよいが、以下では、平板状金属板に適当な模擬損傷を設けた物体50と、曲面を有する金属板に適当な模擬損傷を設けた物体170を用いて説明する。具体的に検査対象とした物体50,170の内容についてはその都度後述する。
【0033】
超音波検査システム10は、レーザを物体に照射して超音波振動を物体に励起させるためのレーザ駆動装置12、レーザ駆動装置12からのレーザ光の進路を変更し予め定めた入射角度で物体50の表面にレーザ光を走査させるためのガルバノスキャナ14、物体50に予め定めた所定位置関係で配置される複数の超音波探触子16,18、超音波探触子16,18からの検出信号を増幅するアンプ20,22、アンプ20,22のアナログ信号をディジタル信号に変換するADボード24,26、ADボード24,26の出力データの処理等を行う制御装置30、制御装置30によって行われたデータ処理の結果を表示する表示装置36を含んで構成される。制御装置30と表示装置36とは、データ処理に適した適当なコンピュータで構成することができる。
【0034】
レーザ駆動装置12は、所定の間隔でパルスレーザ光を出力する装置で、例えばYAGレーザ等を用いることができる。所定の間隔は、期待される検査速度によるが、例えば、20Hzから1kHz程度の周期でパルスレーザ光を出力するものとできる。レーザ駆動装置12がパルスレーザ光を出力するタイミングを示す信号は、トリガ信号として、適当な信号線を用いて制御装置30に伝送される。
【0035】
ガルバノスキャナ14は、複数の可動反射鏡で構成される光学的装置であり、複数の反射鏡の反射方向を適当に変更することで、レーザ駆動装置12から出力されるパルスレーザ光を物体50の表面に予め定めた照射順序の軌跡に従って走査させる機能を有する。また、ガルバノスキャナ14は、複数の反射鏡の反射方向を適当に変更することで、物体50が曲面を有する場合に、その曲面に対し予め定めた入射角度でパルスレーザ光を照射させる機能を有する。図1の例では、走査領域60の中をジグザグ状の移動軌跡62でパルスレーザ光が走査されている様子が示される。
【0036】
複数の反射鏡は、平面鏡、曲面鏡等を用いることができ、各反射鏡の反射方向の変更には小型モータあるいは電気駆動プランジャ等のアクチュエータを用いることができる。ガルバノスキャナ14の駆動制御は、レーザ駆動装置12のトリガ信号等に基き、制御装置30によって実行される。
【0037】
このようにパルスレーザ光が物体50の表面に照射されることによって、物体50において熱励起された超音波振動が発生する。発生した超音波振動は、走査点から物体50の周辺に向かって伝播する。したがって、ガルバノスキャナ14は、レーザ駆動装置12によって超音波振動が与えられる位置を物体50に対し2次元的に移動走査する走査手段である。
【0038】
超音波探触子16,18は、圧電素子で構成され、レーザ駆動装置12とガルバノスキャナ14によって物体50にパルスレーザ光が照射され、それによって走査点において発生する超音波振動が物体50を伝播する超音波振動信号を検出信号として受信する機能を有する超音波振動の受信手段である。圧電素子の受信帯域は、例えば中心周波数1MHzのものを用いることができる。
【0039】
超音波探触子16,18は、物体50の表面に予め定めた所定位置関係で配置される。具体的には、超音波探触子16,18は、物体50の表面におけるパルスレーザ光の走査領域60の外側に、物体50に接触し、検査中は固定位置として配置される。つまり、超音波探触子16,18は、固定位置において超音波振動の検出を行い、パルスレーザ光のように走査して受信するものではない。
【0040】
図1において、超音波探触子16,18は、走査領域60の外側に2つ配置されているが、配置数は2よりも多いほうが好ましい。以下では4つの超音波探触子を配置する例についての実験結果等を説明するが、仮に使用できる超音波探触子が2つしか準備できないときには、2回に分けて検査を行うものとしてもよい。例えば、図1のようにまず走査領域60の左右両側に超音波探触子16,18を配置して固定し、パルスレーザ光による超音波振動の検出信号をこの2つの超音波探触子16,18で取得する。必要な検出信号のデータを取得し終わったら、この2つの超音波探触子16,18を例えば走査領域60の上下両側に配置し、パルスレーザ光による超音波振動の検出信号をこの2つの超音波探触子16,18で取得する。
【0041】
このようにして、2つの超音波探触子16,18を用いて、走査領域60の外側の4つの位置において超音波振動の検出信号を取得することができる。同様にして、1つの超音波探触子しか準備できないときでも、複数回に分けて検査を行うことで、超音波振動を与える位置を物体に対し2次元的に移動走査し、物体に予め定めた所定位置関係における複数の受信位置で、物体を伝播する超音波振動信号を検出信号としてそれぞれ受信するものとすることができる。その意味で、複数の受信手段とは、同時受信の場合には文字通り複数受信手段が物体50に配置されるが、複数の検査に分けて行う場合には、複数の受信位置において超音波振動の検出信号を取得することを含むことになる。
【0042】
アンプ20,22は、超音波探触子16,18からのアナログ検出信号を増幅する増幅器である。また、ADボード24,26は、アンプ20,22によって適当な大きさに増幅されたアナログ信号をディジタル信号に変換する回路である。アンプとADボードは、検出信号を検出する超音波探触子ごとにそれぞれ独立して設けることが好ましい。図1の例では、4箇所の受信位置に対し2個の超音波探触子16,18を設けるものであるので、各超音波探触子16,18に対応してアンプ20,22とADボード24,26が設けられる。
【0043】
制御装置30は、上記のようにガルバノスキャナ14の走査駆動を行う機能を有する他に、ADボード24,26の出力データの処理を行い、その結果を表示装置36に2次元面の画像40として表示させる機能を有する。
【0044】
ADボード24,26の出力データの処理として、制御装置30は、移動走査のタイミングに対応して各受信手段が受信した検出信号に基づき、物体における超音波振動分布を各受信手段ごとに2次元面に画像化する個別画像化処理部32と、各受信手段について得られる複数の2次元面の画像化データについて、同一位置における複数の画像データを処理してその位置の強調処理データとする強調処理を行い、各位置における強調処理データを2次元面に画像化し、これを物体の検査用画像として出力する強調画像化処理部34とを含んで構成される。
【0045】
かかる機能は、ソフトウェアで実現でき、具体的には、対応する超音波検査ソフトウェアを実行することで実現できる。なお、必要に応じ、これらの機能の一部をハードウェアで実現することもできる。
【0046】
次に、検査対象とした物体50の内容を説明する。物体50は、平板状金属板に適当な模擬損傷を設けたもので、具体的には、板厚3.0mmのアルミニウム平板の裏面に、深さ1.0mmの直線状溝52と、平面形状がT字形状のT字状溝54を設け、これを超音波検査して検出すべき模擬損傷としたものである。図2には物体50の上面図が示されているので、直線状溝52、T字状溝54は目視できない状態であり、破線で示されている。この直線状溝52を含む60mm×100mmの走査領域60、T字状溝54を含む100mm×100mmの走査領域61が、ガルバノスキャナ14によってパルスレーザ光が走査される範囲である。
【0047】
図2に示される受信位置70,72,74,76,80,83,84,86は、超音波探触子16,18が設置される位置である。これらの受信位置70,72,74,76,80,83,84,86は、物体50の上面、つまり模擬損傷が設けられる面とは反対側の面に設定される。受信位置70,72,74,76は、直線状溝52を検査するために超音波探触子16,18が設置される位置であり、受信位置80,82,84,86は、T字状溝54を検査するために超音波探触子16,18が設置される位置である。
【0048】
図3は、図1の構成において、超音波を用いて物体50の模擬損傷を検査する手順を示すフローチャートである。物体50には直線状溝52とT字状溝54の2つの模擬損傷があるが、以下では、直線状溝52の模擬損傷を検査する場合を例として説明する。図1の例では2つの超音波探触子16,18が用いられているので、検査を2回に分け、最初に超音波探触子16,18を受信位置70,74に配置し、そこでの計測が終了したら超音波探触子16,18を受信位置72,76に配置して残りの計測を行うものとして説明する。なお、T字状溝54の模擬損傷を検査する場合も、受信位置が異なるのみで、同様の手順で検査を行うことができる。
【0049】
最初に、レーザ走査のためのガルバノスキャナ14の角度制御の計算を行う。具体的には、走査領域60の全てのレーザ走査点の座標を決定し、各走査点ごとにガルバノスキャナ14のミラー角度を計算する(S10)。走査点とは、走査の移動軌跡62においてパルスレーザ光が照射される複数の点である。パルスレーザ光が所定の時間間隔で出力されるとき、各パルスレーザ光ごとに走査点が異なるものとされる。つまり、ある走査点で1つのパルスレーザ光が出力され、物体50の表面に照射されると、次にガルバノスキャナ14のミラー角度が変更されて、次のパルスレーザ光は、その照射点から所定の距離移動した次の照射点において照射が行われる。1例を述べると、パルスレーザ光のパルス間隔を50msとして、そのパルス間隔の50msの間に、ガルバノスキャナ14のミラー角度の変更が行われる。そして、物体50の表面上で照射点が移動するが、その移動量として例えば1mmとすることができる。この場合、隣接する走査点は、互いに1mm離間していることになり、パルスレーザ光は、50msごとに1mm間隔で物体50の表面を走査移動することになる。
【0050】
このように、ミラー角度は、物体50の表面における照射点すなわち走査点が所定の移動軌跡62の上で所定の間隔距離となるように算出が行われる。具体的には、物体50の表面に2次元的に設定される移動軌跡62上で移動走査する全ての点の(x,y)座標を求めておき、それに対応するガルバノスキャナ14のミラー角度をそれぞれ計算する。
【0051】
ここでミラー角度とは、ガルバノスキャナ14を構成する反射鏡の基準方向についての傾き角度である。ガルバノスキャナ14は複数の反射鏡から構成されるので、ミラー角度は、それぞれの反射鏡について計算される。ミラー角度の計算というのは、平面の所定の位置にレーザ光を入射させるために必要なミラー角度を計算することである。操作する際には、多数の点にパルスレーザ光を移動させるために、予め全ての点についてのミラー角度を計算で求めておくことがよい。このようにすることで走査時間を早くすることができる。
【0052】
この走査点ごとのミラー角度の計算は、平板について検査を行うときには定型的な走査となるので、ガルバノスキャナ14と物体50の走査領域60の位置関係に関連付けて、予めマップ化して準備しておくことが可能である。後述する物体170のように、検査対象の物体の表面が曲面あるいは複雑な凹凸を有するときは、予め物体の表面における走査領域60について移動軌跡62を設定し、この移動軌跡62上で、適当な間隔となる各点の(x,y,z)座標を予め求め、この各(x,y,z)座標に対するそれぞれのミラー角度を計算することになる。
【0053】
全ての走査点についてのミラー角度が準備されると、レーザ走査が開始する(S12)。具体的には、まずレーザ走査初期位置へ移動が行われる(S14)。レーザ走査初期位置とは、物体50の走査領域60内に設定された移動軌跡62のスタート位置である。このスタート位置に対応するミラー角度になるようにガルバノスキャナ14が駆動され、その状態でレーザ駆動装置12が作動してまず1つのパルスレーザ光を出力する。出力されたパルスレーザ光はガルバノスキャナ14によって光路が変更されて、物体50のレーザ走査初期位置に所定の入射角度で照射が行われる。
【0054】
このパルスレーザ光の照射によって、物体50において熱励起された超音波振動が発生し、走査点から超音波振動が物体50の周辺に向かって伝播する。伝播する超音波振動は、走査領域60の外側の所定位置に接触固定された超音波探触子16,18によって検出され、超音波振動の検出信号として制御装置30に伝送される。
【0055】
このパルスレーザ光の出力の際に、レーザ駆動装置12からトリガ信号が制御装置30に伝送されるので、制御装置30は、このトリガ信号を取得し、超音波探触子16,18が検出する検出信号について、このパルスレーザ光による超音波振動の検出信号を特定し、トリガ信号に対応するものとしての現在の受信波形を収録する(S16)。
【0056】
図4に、超音波探触子16が検出した超音波振動波形の例を示す。図4の横軸は時間で、縦軸は超音波振動の振幅である。横軸の原点、すなわちt=0は、トリガ信号を取得した時間である。縦軸は、実際にはADボード24の出力で電圧値である。
【0057】
図4に示されるように、トリガ信号を取得してから、すなわちパルスレーザ光が照射されてから約50msのところに振幅のピーク90が現れるが、このピーク90を含む波形が、パルスレーザ光の照射点から模擬損傷である直線状溝52を経由して超音波探触子16の受信位置まで伝播して到達した超音波振動の波形であり、その最大振幅であるピーク90が直線状溝52からの超音波振動を示している。このピーク90以外にも、約60ms、約80msのところにやや小さなピークが現れ、さらに約90msのところに大きなピーク92が現れている。これらは、模擬損傷である直線状溝52における多重反射波、物体50の側面からの反射波によるものである。
【0058】
このように、超音波探触子16の検出信号には、模擬損傷である直線状溝52による超音波振動のピーク90の他に、様々な反射波によるノイズピークが現れる。図4からも分かるように、反射波によるノイズピークは、模擬損傷である直線状溝52による超音波振動のピーク90よりも遅い時間に現れる。そこで、適当なウィンドゲートWGを設けることで、直線状溝52による超音波振動のピーク90と、反射波によるノイズピークとを適切に分離できる。
【0059】
ウィンドゲートWGは、超音波探触子16が設定される受信位置からみて最も近い走査領域60の位置である最短伝播距離に対応する最短伝播時間と、超音波探触子16が設定される受信位置からみて最も遠い走査領域60の位置である最遠伝播距離に対応する最長伝播距離に対応する最長伝播時間との間として設定することができる。図4の例では、最短伝播時間が25ms、最長伝播時間が80msとして、ウィンドゲートWGが設定されている。このようにウィンドゲートWGを設けることで、走査位置から超音波探触子16への直接到達波を抽出でき、その直接到達波とは到達時刻が大きく異なる側面からの反射波をできるだけ含まないようにすることができる。
【0060】
再び図3に戻り、そこで、受信波形においてウィンドゲートWG内の振幅最大値を取得する(S18)。図4の例では、ピーク92が画面上で振幅最大値であるが、ウィンドゲートWGの外であるので、ウィンドゲートWGの内での振幅最大値としてピーク90の振幅値が取得される。取得された振幅最大値は、レーザ走査位置と関連付けて適当なメモリに記憶される。例えば振幅最大値をA0として、その振幅最大値A0を含む超音波振動が励起された物体50上の位置を(x0,y0)とすると、A0と(x0,y0)とが関連付けて記憶される。
【0061】
このように、パルスレーザ光の1つの照射ごとに、超音波探触子16におけるウィンドゲートWG内の最大振幅値が取得される。上記の例では、超音波探触子は2つ用いられているので、パルスレーザ光の1つの照射ごとに、2箇所に設置される超音波探触子16,18のそれぞれにおいて、それぞれのウィンドゲートWG内の最大振幅値が取得される。
【0062】
このように各超音波探触子16,18においてウィンドゲートWG内の最大振幅値が走査位置に関連付けて記憶されると、次にレーザ走査位置が最後の点か否かが判断される(S22)。いまの場合、レーザ走査初期位置であるので、判断の結果は否定となり、レーザ走査位置が次の点に移動される(S24)。すなわち、走査領域60内に設定された移動軌跡62における初期位置の次の点にパルスレーザ光が照射されるように、ガルバノスキャナ14のミラー角度が変更され、ついで次のパルスレーザ光がレーザ駆動装置12から出力される。上記の例では、次の点の位置は、移動軌跡62上で初期位置から1mm離れたところである。
【0063】
レーザ走査位置が移動されてパルスレーザ光がその移動された位置に照射されると、S16以下の工程が実行され、次の点における最大振幅値が取得される。そして取得された振幅最大値をA1とし、対応する走査位置を(x1,y1)とすると、A1と(x1,y1)とが関連付けて記憶される。そして再びS22において、レーザ走査位置が最後の点か否かが判断される。
【0064】
これを繰り返して、走査領域60内に設定された移動軌跡62の最後の点における最大振幅がその最後の点の位置に関連付けて記憶されると、S22の判断結果が肯定され、S26に進む。ここでは、別の受信点の計測があるか否かが判断される。図2で説明したように、走査領域60については、4つの受信位置70,72,74,76が設けられている。そこで、受信点はこれら4つの受信位置70,72,74,76に対応して4つあるが、上記の例では、受信位置70,74に超音波探触子16,18が配置されている。したがって、受信位置72,76における計測がまだであり、S26における判断結果は否定となる。
【0065】
その場合には、受信点が次の点とされる(S28)。具体的には、受信位置72,76に超音波探触子16,18が改めて配置される。そして、S14以下の工程がS24も含めて実行される。
【0066】
これによって、次の受信点においても全ての走査位置において最大振幅値とその走査位置とが関連付けられて記憶されると、S26の判断が再度行われる。S26の判断結果が肯定されると、全ての計測が終了したとされる(S30)。
【0067】
全ての計測が終了すると、記憶されているデータである走査位置に関連付けられた最大振幅値データについてデータ処理が行われる。まず、個別画像化処理(S32)が行われる。この工程は、制御装置30の個別画像化処理部32の機能によって実行される。個別画像化処理は、パルスレーザ光の物体50の上の移動走査のタイミングに対応して各受信手段である超音波探触子16,18が受信した検出信号に基づき、物体50における超音波振動分布を各受信手段ごとに2次元面に画像化する処理である。
【0068】
物体50における超音波振動分布を各受信手段ごとに2次元面に画像化するとは、2次元面を構成する各点における超音波振動の程度を濃淡差、色の相違等で表示し、超音波振動に関する断層像を表示できるようにすることである。このような画像化による表示は、超音波探傷技術において、いわゆるCスコープ法と呼ばれるものに相当する。上記の例では、走査領域60の移動軌跡62における各走査位置の(x,y)座標の点における最大振幅値を、濃淡差、色の相違等で表示する。濃淡差は、等濃度線で示すこともできる。
【0069】
図5は、走査領域60において、4つの受信位置70,72,74,76のそれぞれにおいて取得された走査位置に関連付けられた最大振幅値の分布の様子を等濃度線で示した概略模式図である。濃度の相違は斜線の密度で示し、斜線の密度が密のほど濃度が高く、濃度が高いほど最大振幅値が大きいことを示す。
【0070】
例えば、受信位置70における個別画像化データ100は、図3で説明したように、受信位置70に配置された超音波探触子16によって取得された走査位置に関連付けられた最大振幅値が、等濃度線で2次元面に画像化されている。この個別画像化データ100においては、走査領域のほぼ中央に、直線状溝52に対応するように高濃度領域があり、また、走査領域の右側端部に、超音波探触子16の最も近傍領域に対応するように中濃度領域があり、その他にいくつかの低濃度領域があることが示されている。
【0071】
また、受信位置74における個別画像化データ104においては、走査領域のほぼ中央に、直線状溝52に対応するように高濃度領域があり、また、走査領域の左側端部に、超音波探触子18の最も近傍領域に対応するように中濃度領域があり、その他にいくつかの低濃度領域があることが示されている。
【0072】
また、受信位置72における個別画像化データ102は、上記のように、2回目の計測において超音波探触子16を受信位置72に配置して取得された最大振幅値の分布の様子を示すものである。ここでは、走査領域のほぼ中央に、直線状溝52に対応するように高濃度領域があり、また、走査領域の下側端部に、超音波探触子16の最も近傍領域に対応するように中濃度領域があり、その他にいくつかの低濃度領域があることが示されている。
【0073】
同様に、受信位置76における個別画像化データ106は、上記のように、2回目の計測において超音波探触子18を受信位置76に配置して取得された最大振幅値の分布の様子を示すものである。ここでは、走査領域のほぼ中央に、直線状溝52に対応するように高濃度領域があり、また、走査領域の上側端部に、超音波探触子18の最も近傍領域に対応するように中濃度領域があり、その他にいくつかの低濃度領域があることが示されている。
【0074】
図6、図7は個別画像化データ100,102の詳細模式図である。上記のように走査領域60については4つの受信位置70,72,74,76が設けられ、4つの個別画像化データがあるが、ここではそのうちの2つを代表として示した。
【0075】
図6の個別画像化データ100では、走査領域のほぼ中央に、直線状溝52に対応するように高濃度領域112があり、また、走査領域の右側端部に、超音波探触子16の最も近傍領域に対応するように中濃度領域114があり、その他にいくつかの低濃度領域がある。
【0076】
中央部の高濃度領域112は、直線状溝52がある位置に対応している。直線状溝52は、上記の例で深さ1.0mmであり、その他の部位における板厚3.0mmに比べ、物体50において板厚が薄くなっている箇所である。
【0077】
パルスレーザ光を薄板状の物体50に入射することで励起される超音波は、ラム波になりやすい。平板を伝播するラム波は、板厚の薄いところで振幅が大きくなることが知られているので、上記のように3mmのアルミニウム板の場合では、模擬損傷である直線状溝52のところでラム波の振幅が他の箇所に比べ大きくなると考えられる。したがって、直線状溝52のところを走査点としたときの超音波探触子16の検出信号は、他の板厚が3.0mmのところを走査点としたときの超音波探触子16の検出信号よりも、最大振幅値が大きくなる。このような理由で、2次元面の画像化データでは、直線状溝52に対応する箇所が高濃度領域となる。
【0078】
走査領域60の右側端部の中濃度領域114は、超音波探触子16の最も近傍の領域に対応している。この中濃度領域114は、濃淡が波動状に繰り返しており、一種のアーチファクト、つまり虚像が発生しているものと考えることができる。また、走査領域60において高濃度領域112を挟んで超音波探触子16から最も遠い箇所116は、濃度が低く、一部に画像の乱れが見られる。これは、超音波振動の伝播が長くなるために超音波振動の減衰が大きく、そのために最大振幅値が小さくまたバラツキが大きくなるためと考えられる。
【0079】
図7の個別画像化データ102でも、走査領域のほぼ中央に、直線状溝52に対応するように高濃度領域122が見られる。また、走査領域の右側端部に、超音波探触子16の最も近傍領域に対応するようにアーチファクトと見られる波動状の中濃度領域124がある。そして、走査領域60において高濃度領域122を挟んで超音波探触子16から最も遠い箇所126には、画像の乱れが見られる。
【0080】
図6、図7を比較して分かるように、走査領域60に対し、受信位置が異なるだけで、個別画像化データはかなり相違する。特に、直線状溝52に対応する高濃度領域112,122よりも、中濃度領域114,124におけるアーチファクト、超音波探触子16から最も遠い箇所116,126における画像の乱れ等が、発生箇所、発生態様においてかなり相違する。
【0081】
再び図3に戻り、複数の個別画像化データが得られると、それらのデータについて強調演算が行われ(S34)、2次元面の画像とする強調画像化処理が行われる(S36)。強調画像化処理された2次元面の画像40は、物体の検査用画像として出力されて表示装置36に表示される。これによって、超音波による検査は終了する。これらの工程は、制御装置30の強調画像化処理部34の機能によって実行される。
【0082】
これらの処理は、図6、図7に関連して説明したように、走査領域60に対し、受信位置が異なるだけで、個別画像化データはかなり相違することを解決するために行われるものである。
【0083】
図6、図7に関連して説明したように、直線状溝52に対応する高濃度領域112,122の発生位置、発生態様は、個別画像データの間での相違は少ない。これに対し、アーチファクト、画像の乱れ等は、個別画像データの間での相違が大きい。この理由は、模擬損傷である直線状溝52は、いずれの受信位置における検出信号において共通の部分であるのに対し、それ以外のものは、走査位置と受信位置との間の超音波伝播の様子がそれぞれ個別に相違するためと考えられる。
【0084】
したがって、異なる受信位置で得られた複数の個別画像化データを重ね合わせることでノイズの少ない正確な超音波振動分布が得られるものと予想できる。さらに、共通の部分である直線状溝52に対応するデータを信号データとし、他の箇所に対応するデータをノイズデータとして、信号データをノイズデータに比べ、強調する処理を行うことで、(信号データの大きさ/ノイズデータの大きさ)=SN比を大幅に向上させることができる。このように、強調演算処理は、各受信手段について得られる複数の2次元面の画像化データについて、同一位置における複数の画像データを処理してSN比を向上させてその位置の強調演算処理データとする処理である。
【0085】
例えば、4つの受信装置を用いることを考えると、同一位置における4つの画像データを相互に和演算処理することで、物体に存在する損傷等からの検出信号のSN比は、1つの画像データに基づく場合のSN比に対し、計算上、4倍に向上する。同一位置における4つの画像データを相互に積演算処理することで、物体に存在する損傷等からの検出信号のSN比は、計算上、1つの画像データに基づく場合のSN比の4乗に向上する。
【0086】
図8は、図5で説明した受信位置が異なる4つの個別画像化データ100,102,104,106に強調演算処理として和演算処理を行い、その結果を2次元面に画像化して強調画像化データ130とした様子を示す図である。具体的には、各受信手段について得られる複数の2次元面の画像化データについて、同一位置における複数の画像データを相互に加算して、和演算処理が行われる。
【0087】
図8は、図5で説明した受信位置が異なる4つの個別画像化データ100,102,104,106に強調演算処理として和演算処理を行い、その結果を2次元面に画像化して強調画像化データ130とした様子を示す図である。具体的には、各受信手段について得られる複数の2次元面の画像化データについて、同一位置における複数の画像データを相互に加算して、和演算処理が行われる。同一位置における画像データは、その位置における最大振幅値に対応するものであるので、実質的には、走査領域60の同一の位置における最大振幅値を相互に加算することに相当する。
【0088】
図8では、中央部において各個別画像化データの高濃度領域のデータが4つ加算されてさらに高濃度となった強調高濃度領域132が現れている。それ以外の領域は、4つの個別画像化データにおいて現れる箇所が異なるアーチファクト、画像の乱れが、それぞれ加算されることなく、元々の箇所に現れる。したがって、結果として、各個別画像化データ100,102,104,106のそれぞれに比較して、中央部に強調高濃度領域132が周囲から際立って現れ、これによって、模擬損傷である直線状溝52の領域が明確に識別できるようになる。
【0089】
図9は、受信位置が異なる4つの個別画像化データ100,102,104,106に強調演算処理として積演算処理を行い、その結果を2次元面に画像化して強調画像化データ134とした様子を示す図である。具体的には、各受信手段について得られる複数の2次元面の画像化データについて、同一位置における複数の画像データを相互に積算して、積演算処理が行われる。同一位置における画像データは、その位置における最大振幅値に対応するものである。最大振幅値は、例えば電圧値であるが、積演算においては、単位を除いて無単位値として相互に掛け合わせるものとできる。あるいは、最大振幅値を規格化して無次元数とし、これらを相互に掛け合わせるものとしてもよい。
【0090】
図9では、中央部において各個別画像化データの高濃度領域のデータが4つ積算されてさらに高濃度となった強調高濃度領域136が現れている。それ以外の領域は、4つの個別画像化データにおいて現れる箇所が異なるアーチファクト、画像の乱れが、それぞれ積算されることなく、むしろバックグランド値に掛け算されて小さな値となって元々の箇所に現れる。したがって、結果として、図8に比較して、強調高濃度領域136が周囲からさらに際立って現れ、これによって、模擬損傷である直線状溝52の領域が明確に識別できるようになる。
【0091】
なお、各超音波探触子16,18の間に受信感度等の受信性能が相違することがあり、また、各受信位置70,72,74,76における超音波探触子16,18の取付状態が相違することがある。その影響を抑制するために、同一位置における複数の画像データのそれぞれについて、予め定めた基準に従って重み付けを行うことが好ましい。予め定めた基準としては、標準的試料を用いて複数回計測した標準的受信感度等を用いることができる。
【0092】
上記では、図2における直線状溝52を模擬損傷とする場合の検査について説明したが、図2におけるT字状溝54を模擬損傷とする場合も、図3の手順に従って、個別画像化処理と強調画像化処理を行って、強調画像化データを出力することができる。
【0093】
図10は、図2の受信位置80に超音波探触子16を配置したときに得られる個別画像化データ140の詳細模式図である。ここでも図6と同様に、走査領域のほぼ中央に、T字状溝54に対応するように高濃度領域142が見られる。また、走査領域の右側端部に、超音波探触子16の最も近傍領域に対応するようにアーチファクトと見られる波動状の中濃度領域144がある。そして、走査領域60において高濃度領域142を挟んで超音波探触子16から最も遠い箇所146には、画像の乱れが見られる。
【0094】
図11は、図2の受信位置82に超音波探触子16を配置したときに得られる個別画像化データ150の詳細模式図である。ここでも図7と同様に、走査領域のほぼ中央に、T字状溝54に対応するように高濃度領域152が見られる。また、走査領域の下側端部に、超音波探触子16の最も近傍領域に対応するようにアーチファクトと見られる波動状の中濃度領域154がある。そして、走査領域60において高濃度領域152を挟んで超音波探触子16から最も遠い箇所156には、画像の乱れが見られる。
【0095】
T字状溝54に対する検査でも、4つの受信位置80,82,84,86に超音波探触子16,18が配置されて、4つの個別画像化データが得られる。強調演算処理等においては、これらの4つの個別画像化データについて、和演算処理または積演算処理が行われる。
【0096】
図12は、受信位置が異なる4つの個別画像化データに強調演算処理として和演算処理を行い、その結果を2次元面に画像化して強調画像化データ160とした様子を示す図である。図12では、図8と同様に、中央部において各個別画像化データの高濃度領域のデータが4つ加算されてさらに高濃度となった強調高濃度領域162が現れている。それ以外の領域は、4つの個別画像化データにおいて現れる箇所が異なるアーチファクト、画像の乱れが、それぞれ加算されることなく、元々の箇所に現れる。したがって、結果として、図10、図11に示される個別画像化データ140,150のそれぞれに比較して、中央部に強調高濃度領域162が周囲から際立って現れ、これによって、模擬損傷であるT字状溝54の領域が明確に識別できるようになる。
【0097】
図13は、受信位置が異なる4つの個別画像化データに強調演算処理として積演算処理を行い、その結果を2次元面に画像化して強調画像化データ164とした様子を示す図である。図13では、図9と同様に、中央部において各個別画像化データの高濃度領域のデータが4つ積算されてさらに高濃度となった強調高濃度領域166が現れている。それ以外の領域は、4つの個別画像化データにおいて現れる箇所が異なるアーチファクト、画像の乱れが、それぞれ積算されることなく、むしろバックグランド値に掛け算されて小さな値となって元々の箇所に現れる。したがって、結果として、図12に比較して、強調高濃度領域166が周囲からさらに際立って現れ、これによって、模擬損傷であるT字状溝54の領域が明確に識別できるようになる。
【0098】
上記では、物体50として模擬損傷を設けた薄板アルミニウムを説明したが、曲面を有する物体についても、図3の手順に従って、個別画像化処理と強調画像化処理を行って、強調画像化データを出力することができる。
【0099】
図14は、曲面を有する物体170の様子を示す図である。この物体170は、厚さ3.0mmを有する円筒状のアルミニウムパイプを中心軸に沿って半分に切断したものである。物体170は、その凹状内面に、模擬損傷として深さ1.0mmの直線状溝176と、やはり深さ1.0mmのT字状溝178が設けられている。なお、図14は、模擬損傷である直線状溝176とT字状溝178とが見えるように、凹面を上面側とするように示したが、超音波検査は、凸面174の側にパルスレーザ光を照射して行われる。
【0100】
図15は、パルスレーザ光が照射される凸面174を上面として、物体170の上面図である。物体170は曲面を有しているため、直線状溝176に対する走査領域180も、T字状溝178に対する走査領域182も、上面図では鼓形形状となっているが、物体170が置かれた平面に対する走査領域は矩形形状である。もっとも、ミラー角度を予めきちんと計算しておくことで、曲面上の走査領域を矩形形状とすることもできる。なお、直線状溝176の走査領域180の外側に4つの受信位置190,192,194,196が設けられ、T字状溝178の走査領域182の外側に4つの受信位置200,202,204,206が設けられる。
【0101】
物体170が曲面を有していても、図3の超音波検査の手順は、平板状の物体50の場合と基本的に同じである。相違するのは、S10のミラー角度の計算が平板の場合に比べ複雑となることである。すなわち、物体170の曲面形状に合わせて、物体170に照射するパルスレーザ光の入射角度を予め定めた所定の角度となるように、ミラーの反射面の傾斜角度を計算する。具体的には、予め物体170の表面における走査領域180,182についてそれぞれ移動軌跡を設定し、この移動軌跡上で、適当な間隔となる各点の(x,y,z)座標を予め求め、この各(x,y,z)座標に対するそれぞれのミラー角度を計算することになる。
【0102】
このようにしてミラー角度が物体170の曲面に対応して求められた後は、平板状の物体50におけると同様の手順で、走査位置に関連付けられた最大振幅値が取得され、それに基いて個別画像化データが得られる。そして得られた4つの個別画像化データに基いて、和演算または積演算を用いて、強調演算処理が行われ、1つの強調画像化データが得られる。
【0103】
図16は、模擬損傷としての直線状溝176について、受信位置が異なる4つの個別画像化データに強調演算処理として和演算処理を行い、その結果を2次元面に画像化して強調画像化データ210とした様子を示す図である。図16では、図8、図12と同様に、中央部において各個別画像化データの高濃度領域のデータが4つ加算されてさらに高濃度となった強調高濃度領域212が現れている。それ以外の領域は、4つの個別画像化データにおいて現れる箇所が異なるアーチファクト、画像の乱れが、それぞれ加算されることなく、元々の箇所に現れる。したがって、図8、図12に関連して説明したように、結果として、個別画像化データのそれぞれに比較して、中央部に強調高濃度領域212が周囲から際立って現れ、これによって、模擬損傷である直線状溝176の領域が明確に識別できるようになる。
【0104】
図17は、模擬損傷としての直線状溝176について、受信位置が異なる4つの個別画像化データに強調演算処理として積演算処理を行い、その結果を2次元面に画像化して強調画像化データ214とした様子を示す図である。図17では、図9、図13と同様に、中央部において各個別画像化データの高濃度領域のデータが4つ積算されてさらに高濃度となった強調高濃度領域216が現れている。それ以外の領域は、4つの個別画像化データにおいて現れる箇所が異なるアーチファクト、画像の乱れが、それぞれ積算されることなく、むしろバックグランド値に掛け算されて小さな値となって元々の箇所に現れる。したがって、結果として、図9、図13に関連して説明したように、強調高濃度領域216が周囲からさらに際立って現れ、これによって、模擬損傷である直線状溝176の領域が明確に識別できるようになる。
【0105】
図18は、模擬損傷としてのT字状溝178について、受信位置が異なる4つの個別画像化データに強調演算処理として和演算処理を行い、その結果を2次元面に画像化して強調画像化データ218とした様子を示す図である。ここでも、中央部に強調高濃度領域220が周囲から際立って現れ、これによって、模擬損傷であるT字状溝178の領域が明確に識別できるようになる。
【0106】
図19は、和演算処理に代えて積演算処理を行った場合の強調画像化データ222とした様子を示す図である。ここでも、中央部に強調高濃度領域224が周囲からさらに際立って現れ、これによって、模擬損傷であるT字状溝178の領域が明確に識別できるようになる。
【0107】
図16から図19に示されるように、物体170が曲面を有する場合でも、平板状の物体50と同様に、図1の構成の超音波検査システム10において、図3の手順を実行することで、強調化画像データを得ることができる。これによって、物体170が曲面を有する場合でも、物体170に存在する損傷等からの検出信号のSN比を向上させることが可能になる。
【産業上の利用可能性】
【0108】
本発明に係る超音波検査システムは、物体の形状が平板状、曲面状を問わず、物体に含まれる損傷等を検査する超音波検査に利用できる。
【符号の説明】
【0109】
10 超音波検査システム、12 レーザ駆動装置、14 ガルバノスキャナ、16,18 超音波探触子、20,22 アンプ、24,26 ADボード、30 制御装置、32 個別画像化処理部、34 強調画像化処理部、36 表示装置、40 画像、50,170 物体、52,176 直線状溝、54,178 T字状溝、60,61,180,182 走査領域、62 移動軌跡、70,72,74,76,80,83,84,86,190,192,194,196,200,202,204,206 受信位置、90,92 ピーク、100,102,104,106,140,150 個別画像化データ、112,122,142,152 高濃度領域、114,124,144,154 中濃度領域、116,126,146,156 (最も遠い)箇所、130,134,160,164,210,214,218,222 強調画像化データ、132,136,162,166,212,216,220,224 強調高濃度領域、174 凸面。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波振動を与える位置を物体に対し2次元的に移動走査する走査手段と、
物体に予め定めた所定位置関係で配置され、物体を伝播する超音波振動信号を検出信号として受信する複数の受信手段と、
移動走査のタイミングに対応して各受信手段が受信した検出信号に基づき、物体における超音波振動分布を各受信手段ごとに2次元面に画像化する個別画像化手段と、
各受信手段について得られる複数の2次元面の画像化データについて、同一位置における複数の画像データを処理してその位置の強調処理データとする強調処理を行い、各位置における強調処理データを2次元面に画像化し、これを物体の検査用画像として出力する強調画像化手段と、
を備えることを特徴とする超音波検査システム。
【請求項2】
請求項1に記載の超音波検査システムにおいて、
強調画像化手段は、
同一位置における複数の画像データを相互に和演算処理または積演算処理してその位置の強調処理データとすることを特徴とする超音波検査システム。
【請求項3】
請求項2に記載の超音波検査システムにおいて、
強調画像化手段は、
同一位置における複数の画像データのそれぞれについて、予め定めた基準に従って重み付けを行う重み付け手段を含むことを特徴とする超音波検査システム。
【請求項4】
請求項1に記載の超音波検査システムにおいて、
走査手段は、物体に超音波振動としてラム波を伝播させるようにして、超音波振動を与える点を移動走査することを特徴とする超音波検査システム。
【請求項5】
請求項1に記載の超音波検査システムにおいて、
走査手段は、レーザを物体に照射して超音波振動を物体に励起させるレーザ照射手段を有することを特徴とする超音波検査システム。
【請求項6】
請求項5に記載の超音波検査システムにおいて、
走査手段は、
レーザ手段からのレーザを受け止めて反射して物体に照射するミラーと、
ミラーを物体の形状に合わせて傾斜させる手段であって、物体に照射するレーザの入射角度を予め定めた所定の角度となるように、ミラーの反射面を傾斜させる傾斜手段と、
を有することを特徴とする超音波検査システム。
【請求項1】
超音波振動を与える位置を物体に対し2次元的に移動走査する走査手段と、
物体に予め定めた所定位置関係で配置され、物体を伝播する超音波振動信号を検出信号として受信する複数の受信手段と、
移動走査のタイミングに対応して各受信手段が受信した検出信号に基づき、物体における超音波振動分布を各受信手段ごとに2次元面に画像化する個別画像化手段と、
各受信手段について得られる複数の2次元面の画像化データについて、同一位置における複数の画像データを処理してその位置の強調処理データとする強調処理を行い、各位置における強調処理データを2次元面に画像化し、これを物体の検査用画像として出力する強調画像化手段と、
を備えることを特徴とする超音波検査システム。
【請求項2】
請求項1に記載の超音波検査システムにおいて、
強調画像化手段は、
同一位置における複数の画像データを相互に和演算処理または積演算処理してその位置の強調処理データとすることを特徴とする超音波検査システム。
【請求項3】
請求項2に記載の超音波検査システムにおいて、
強調画像化手段は、
同一位置における複数の画像データのそれぞれについて、予め定めた基準に従って重み付けを行う重み付け手段を含むことを特徴とする超音波検査システム。
【請求項4】
請求項1に記載の超音波検査システムにおいて、
走査手段は、物体に超音波振動としてラム波を伝播させるようにして、超音波振動を与える点を移動走査することを特徴とする超音波検査システム。
【請求項5】
請求項1に記載の超音波検査システムにおいて、
走査手段は、レーザを物体に照射して超音波振動を物体に励起させるレーザ照射手段を有することを特徴とする超音波検査システム。
【請求項6】
請求項5に記載の超音波検査システムにおいて、
走査手段は、
レーザ手段からのレーザを受け止めて反射して物体に照射するミラーと、
ミラーを物体の形状に合わせて傾斜させる手段であって、物体に照射するレーザの入射角度を予め定めた所定の角度となるように、ミラーの反射面を傾斜させる傾斜手段と、
を有することを特徴とする超音波検査システム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【公開番号】特開2011−43416(P2011−43416A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−191989(P2009−191989)
【出願日】平成21年8月21日(2009.8.21)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年8月21日(2009.8.21)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】
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