説明

超音波流量計の設計製造支援システム及び方法

【課題】超音波流量計の精度を向上する設計製造支援を提供する。
【解決手段】実機条件データ記憶装置101に記憶したデータを用いて流体・構造連成解析手段103で実機運転条件での乱流及び構造解析を行い、それによる流速分布解析データ104a及びスプール変位解析データ104bを用いて超音波伝搬解析手段105で各測線の超音波伝搬解析データを求め、次に超音波伝搬解析データを用いて流量計測精度解析手段107で実流量と超音波流量計を用いた際に計算される流量の誤差を評価して流量解析データ記憶装置108に記憶し、次に、感度解析手段109が超音波流量計の構成や製造条件の各パラメータを変更し、その変更の都度既述の流量計測精度解析を繰返しは流量計測精度の感度を計算して感度解析データ記憶装置110に記憶し、設計製造支援データ出力装置111が各パラメータの変化と感度との関係の情報を設計製造支援データとして出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波流量計の設計製造支援システム及び方法に関わる。
【背景技術】
【0002】
原子力発電プラントにおいて、原子炉熱出力一定の下で定格電気出力以上の発電電力を得る運転を行う場合、熱出力目標値は、熱出力定格値に対して、原子炉熱出力監視装置による熱出力演算の誤差に相当する余裕を見込んだ値とする必要がある。
【0003】
熱出力演算は主蒸気エンタルピーと給水エンタルピーの差に給水流量を乗じる計算である。したがって、熱出力監視の信頼性において、主蒸気流量,主蒸気温度等の計測精度と比較して、給水流量の計測精度の寄与が大きい。
【0004】
従来の給水流量計には、フローノズル(差圧式)流量計が用いられており、この計測精度が約2%であるため、100%+2%=102%までの出力における安全運転を確認していた。
【0005】
したがって給水流量の計測精度を向上し、熱出力演算における見込誤差を小さくすることができれば、安全を担保したまま、熱出力目標値を現状の100%から102%近くまで増強することができる。これは、プラント全体に変更を加えなくても、流量計を変えるだけで出力を向上し、プラントの運転効率を向上することができることを示している。
【0006】
図2に、その概念を具体例で示す。図2のグラフは従来のフローノズル流量計を使用した時の熱出力目標値を100%とした場合の熱出力演算値の確率分布を表しており、横軸は熱出力、縦軸は確率である。
【0007】
フローノズル流量計を利用した場合の確率分布201では、熱出力演算精度が小さいため標準偏差が大きく、幅広な確率分布となる。したがって、安全基準として例えば97.7%の確率を考えると、熱出力102%までが含まれるため、熱出力102%までの安全解析が実施される。
【0008】
それに対し、例えば熱出力演算精度が0.3%となる流量計を利用すれば、確率分布は202のようになり、同じ安全基準を適用して97.7%の確率で熱出力が102%を超えないようにすると、熱出力目標値は101.7%になり、1.7%の増出力が可能となる。
【0009】
流量計測精度が高い流量計として超音波流量計がある。超音波流量計には、ドップラー式,伝搬時間差式,相関式等、種々あるが、中でも配管内に直接超音波センサを挿入した伝搬時間差式流量計は、複数の計測線における平均流速を同時に計測することができるため高い計測精度を持つことが知られている。
【0010】
以上に述べた原子炉給水流量計においてフローノズル流量計の代わりに超音波流量計を利用することで計測精度を高め、それに応じて出力増強しプラントの運転効率を向上する方法については、例えば非特許文献1で解説されている。
【0011】
ここで図3を用いて、8測線伝播時間差式超音波流量計の構造及び原理を説明する。図3(a)は、超音波流量計を設置した配管であるスプール300の一断面を示している。スプールには、超音波センサ(正確には超音波センサを設置したセンサハウジング)を挿入する枝管(ボス)が16本溶接されている。各ボスは、挿入された超音波センサが管軸方向に45°の角度で向かい合うように配置される。例えば、ボス302aに挿入された超音波センサ302bは、ボス303aに挿入された超音波センサ303bと正対している。この正対した二つの超音波センサが測線をなし、8対の超音波センサについてそれぞれ、流れに沿った方向(以下、下流方向と記す)と流れに逆らう方向(以下、上流方向と記す)の超音波伝播時間差を計測することにより超音波センサ間の線平均流速を算出する。
【0012】
例えば、水の流れ方向が、配管スプール内流速分布301が示すように紙面左から右であるとき、超音波センサ302bと303bのセンサ間の線平均流速は、まず上流側の超音波センサ302bで発信し下流側の超音波センサ303bで受信したときの下流方向伝播時間Tdownを計測し、次に下流側の超音波センサ303bで発信し上流側の超音波センサ302bで受信したときの上流方向伝播時間Tupを計測する。このとき、流れ方向の流速Vの影響により、超音波伝播経路方向の見かけの音速がV′=Vsin45だけ、下流方向では速く、上流方向では遅くなる。したがって、伝播時間差ΔTはΔT=Tup−Tdownで計算され、この値とセンサ間距離及び音速から、センサ間の線平均流速Vが求まる。
【0013】
図3(b)は、スプール300の管軸方向に垂直な断面を示している。図3(a)で説明したように、超音波センサ302bと超音波センサ303bとが対となり、超音波センサ304bと超音波センサ305bが対となっている。また、超音波センサ306bと超音波センサ307bとが対となり、超音波センサ308bと超音波センサ309bが対となっている。また、超音波センサ310bと超音波センサ311bとが対となり、超音波センサ312bと超音波センサ313bが対となっている。また、超音波センサ314bと超音波センサ315bとが対となり、超音波センサ316bと超音波センサ317bが対となっている。このように、各超音波センサの対は、平行な4対と4対が直交するように配置されており、8測線型となっている。
【0014】
8測線それぞれについて求められた線平均流速を用いて、配管スプール内の平均流量を計算する。これには有限の離散値から高精度に積分可能なガウス積分を利用する。ガウス積分では、線平均流速の計測位置が予め定められており、各位置の計測値に重みづけをして積算される。8測線型では、302−303,306−307,310−311,314−315の4測線と304−305,308−309,312−313,316−317の4測線それぞれでガウス積分を行い、その平均をとることで計測精度を高めている。
【0015】
以上に述べたように、超音波流量計の主構造物であるスプールは、高精度の計測機器であるために、形状精度高く製造することが求められる。特に、8対のボスの設置位置や角度精度の要求は非常に高く、公差は厳しく定められる。
【0016】
一方、スプールの製造方法は、多箇所の溶接を基本とするために、高精度に製造するのは非常な技術と労力を要する。例えば、ボス302aを設置する際には、位置がずれないように固定した上で、スプールに溶接するが、溶接金属の入熱によるスプールの変形やボスの角度のずれが生じる可能性がある。
【0017】
したがって、超音波流量計スプールの設計製造に当たっては、流量計測精度を保証しつつ、かつ製造が可能な範囲に設計公差を修正するような設計製造支援システムが必要となってくる。
【0018】
従来の設計製造支援システムには、例えば特許文献1や、特許文献2がある。特許文献1は、設計・製造・検査において共有できる一元的な設計製造データとして、設計意図となる公差データ、製造ノウハウとなる加工目標値データを記憶・表示するシステムであり、設計製造一般に適用できるものである。特許文献2は、射出成型金型の設計製造に対するもので、射出成型時の肉厚変動やひけを熱応力歪シミュレーションにより予測するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】特開2005−327059号公報
【特許文献2】特開平6−55597号公報
【非特許文献】
【0020】
【非特許文献1】「原子炉出力向上に関する技術検討評価の結果について」原子力学会誌vol.50 No.12 (2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
上述のように、超音波流量計の中でも特に高精度な伝搬時間差式超音波流量計を給水流量計として利用することで計測精度を高めることができ、それに伴ってプラントの運転効率を向上できることが知られている。また構造上経年劣化や圧力損失を生じるフローノズル流量計の代わりに超音波流量計を利用するメリットも大きいことが分かっている。
【0022】
しかしながら、原子炉熱出力の監視に際しては万全の安全確認が求められ、そのような超音波流量計を製造するにあたって、流量計測精度に寄与する部位が、必要な公差内の位置及び角度で製造されているかを検証し、保証することが非常に重要である。しかしながら、従来のシステムでは、超音波流量計の流量計測精度を保証するために有効な設計製造支援方法は提示されていなかった。
【0023】
本発明は、以上のような事情を背景になされたものであり、超音波流量計による流量の計測精度に対する信頼性を高めることができる超音波給水流量計の設計製造支援システムとその方法の提供を目的としている。
【0024】
このような本発明が達成されることにより、原子力発電プラントに本発明の超音波流量計を原子力発電プラントの熱出力演算の際に利用する給水流量値の計測に採用して、熱出力演算における見込誤差を小さくして、プラントの運転効率を向上することを可能に出来る。
【課題を解決するための手段】
【0025】
上記の本発明の目的を達成するためのシステムは、超音波流量計のスプールのスプール構造データと、計測対象の流体が流れる流路の配管流路データと、前記流体の流体条件データと、前記流体の温度条件データとを記憶する実機条件記憶手段と、前記スプール構造データと、前記給水配管流路データと、前記流体条件データと、前記温度条件データとを利用して、流量計測時の前記各データの条件下での前記スプール内での流速分布及び前記スプールの変位を計算する乱流解析・構造解析の連成解析手段と、前記流速分布及び前記スプールの変位のデータを記憶する解析結果記憶手段と、前記解析結果を利用して、前記超音波流量計の各計測線の超音波伝搬解析を行う超音波伝搬解析手段と、前記各計測線の超音波伝搬解析結果から、流量計測精度を計算する流量計測精度解析手段と、前記スプール構造データ,前記配管流路データ,前記流体条件データ,前記温度条件データの少なくとも一種のデータに偏差を与えて、前記超音波伝播解析及び流量解析を行い、各パラメータの感度解析を行う感度解析手段と、前記感度解析結果に基づき設計製造支援データを出力する設計製造支援データ出力手段とを備えた超音波流量計の設計製造支援システムである。
【0026】
また、上記の本発明の目的を達成するための方法は、設計製造支援システムに入力されている超音波流量計のスプールのスプール構造データと、計測対象の流体が流れる流路の配管流路データと、前記流体の流体条件データと、前記流体の温度条件データとを利用して、流量計測時の前記各データの条件下での前記スプール内での流速分布及び前記スプールの変位を計算する乱流解析・構造解析の連成解析ステップと、前記流速分布及び前記スプールの変位のデータを利用して、前記超音波流量計の各計測線の超音波伝搬解析を行う超音波伝搬解析ステップと、前記各計測線の超音波伝搬解析結果から、流量計測精度を計算する流量計測精度解析ステップと、前記スプール構造データ,前記配管流路データ,前記流体条件データ,前記温度条件データの少なくとも一種のデータに偏差を与えて、前記超音波伝播解析及び流量解析を行い、各パラメータの感度解析を行う感度解析ステップと、前記感度解析結果に基づき設計製造支援データを出力する設計製造支援データ出力ステップとを備えた超音波流量計の設計製造支援方法である。
【発明の効果】
【0027】
本発明は、超音波流量計による流量の計測精度に対する信頼性を高める効果を奏する。
【0028】
従って、本発明の超音波流量計を、例えば、原子力発電所における熱出力演算を行う際の給水流量のデータ収集に用いると、見込誤差をより小さく設定して原子力発電プラントの運転効率を向上することに寄与できる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の実施例による超音波流量計の設計製造支援システムの構成を説明するための概略図である。
【図2】原子力発電プラントにおける高精度な超音波流量計を超音波給水流量計として利用することによる出力向上の方法を説明する概略図である。
【図3】8測線伝搬時間差式超音波流量計の構造及び原理を説明する概略図である。
【図4】本発明の実施例による超音波流量計の設計製造支援データ表示画面の一例を示す概略図である。
【図5】本発明の実施例による超音波流量計の設計製造支援方法の手順を説明するためのフローチャート図である。
【図6】本発明の実施例による超音波流量計の設計製造支援方法の一変形例における手順を説明するためのフローチャート図である。
【図7】本発明の実施例による超音波流量計の設計製造支援システムの一変形例における構成を説明するための概略図である。
【図8】本発明の実施例による超音波流量計の設計製造支援方法の一変形例における手順を説明するためのフローチャート図である。
【図9】本発明の実施例による超音波流量計の設計製造支援方法の一変形例における手順を説明するためのフローチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
原子力発電プラントにおける熱出力演算は主蒸気エンタルピーと給水エンタルピーの差に給水流量を乗じる計算である。そのため、熱出力演算による熱出力監視の信頼性においては、プラントでの主蒸気流量,主蒸気温度等の計測精度と比較して、給水流量の計測精度の寄与度度合いが大きい。
【0031】
本発明の実施例では、超音波流量計の中でも高い計測精度を持つことが知られている伝搬時間差式超音波流量計であって、8計測線を有するものを原子力発電プラントの熱出力演算に用いる給水流量値の計測に超音波給水流量計として採用することを念頭においている。その8測線伝播時間差式超音波流量計の構造と計測原理の解説は図3を背景の欄で解説した内容と同じなので、本実施例では重複を避けるべく解説を省略した。
【0032】
本発明の代表的な実施例においては、原子力発電プラントの超音波給水流量計の設計製造支援システムにおいて、スプール構造データと、給水配管流路データと、給水の流体条件データと、運転時の温度条件データとを記憶する条件記憶手段と、前記スプール構造データと、前記給水配管流路データと、前記流体条件データと、前記温度条件データとを利用して、スプール内での流速分布及びスプールの運転時の変位を計算する乱流解析・構造解析の連成解析手段と、前記流速分布及びスプールの変位データを記憶する解析結果記憶手段と、前記解析結果を利用して、各計測線の超音波伝搬解析を行う超音波伝搬解析手段と、全計測線の超音波伝搬解析結果から、流量計測精度を計算する流量計測精度解析手段と、前記スプール構造データ及び/または、前記給水配管流路データ及び/または、前記流体条件データ及び/または、前記温度条件データに偏差を与えて、前記超音波伝播解析及び流量解析を行い、各パラメータの感度解析を行う感度解析手段と、前記感度解析結果に基づき設計製造支援データを主力する設計製造支援データ出力手段とを備えたことを特徴としている。
【0033】
また本発明の実施例では、上記のような超音波給水流量計の設計製造支援システムにおいて、前記実機条件記憶手段が記憶するデータには、初期図面公差データを含み、前記設計製造支援データ出力手段は、初期図面公差に対する変更箇所を出力することを特徴としている。
【0034】
さらには、本発明の実施例では、上記のような超音波給水流量計の設計製造支援システムにおいて、スプール構造計測手段と、その結果得られたスプール構造計測データを記憶するスプール構造計測データ記憶手段を備え、前記感度解析手段は、製造途中のスプール構造計測データを用いて感度解析を行い、前記設計製造支援データ出力装置は、随時設計製造支援データを出力することを特徴としている。
【0035】
また本発明の実施例では、上記のような超音波給水流量計の設計製造支援システムにおいて、製造条件入力手段と、製造工程の構造解析手段を備え、前記感度解析手段は、製造時に生じる変形の解析データを用いて感度解析を行い、前記設計製造支援データ出力装置は、設計製造支援データとして、改訂された製造条件を出力することを特徴としている。
【実施例1】
【0036】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。図1は、本発明の超音波流量計の設計製造支援システムの一実施形態における構成図である。
【0037】
この図1のように、設計製造支援システム100は、実機条件データ記憶装置101と、実機条件入力装置102と、流体・構造連成解析手段103と、流体・構造解析データ記憶装置104と、超音波伝搬解析手段105と、超音波伝搬解析データ記憶装置106と、流量計測精度解析手段107と、流量解析データ記憶装置108と、感度解析手段109と、感度解析データ記憶装置110と、設計製造支援データ出力装置111から構成される。
【0038】
まず、実機条件入力装置102により、実機条件データ記憶装置101に、実機条件が入力される。ここで、実機条件入力装置102や実機条件データ記憶装置とは、例えばコンピュータとそれに付随したキーボードや電子的記憶装置である。実機条件データには、スプール構造データ101a,給水配管流路データ101b,給水流体条件データ101c,温度条件データ101dが含まれる。
【0039】
ここで、スプール構造データ,給水配管流路データとは、例えば3次元CADで記述された実機の設計データである。また、給水流体条件データとは、実機給水の圧力,密度,温度,粘度,流量等の条件データであり、温度条件データとは、スプール部の温度分布等の条件データである。
【0040】
これらのデータを利用して、流体・構造連成解析手段103により、原子力発電所のプラントの実機運転条件における乱流解析及び構造解析が行われ、流速分布解析データ104a及びスプール変位解析データ104bが求められ、流体・構造解析データ記憶装置104に記憶される。
【0041】
ここで、流体・構造連成解析手段とは、例えば構造解析による熱膨張結果の流路形状を入力として流体解析を行うアルゴリズムが組み込まれたソフトウェアプログラム等が組み込まれたコンピュータ等である。また流体・構造解析データ記憶手段とは、例えばコンピュータに付随する電子的記憶装置である。
【0042】
次に、実機条件データ及び流体・構造解析データを利用して、超音波伝搬解析手段105により、各測線における超音波伝播時間や経路等の超音波伝搬解析データが求められ、超音波伝搬解析データ記憶装置106に記憶される。
【0043】
ここで、超音波伝播解析手段とは、例えばレイトレース法を利用した流体中の超音波伝播を計算するソフトウェアプログラム等が組み込まれたコンピュータである。
【0044】
次に、実機条件データ及び超音波伝搬解析データを利用して、流量計測精度解析手段107により、実流量と超音波流量計により計算される流量の誤差が評価され、解析結果が流量解析データ記憶装置108に記憶される。
【0045】
ここで、流量計測精度解析手段とは、例えば前記の超音波伝播解析結果として得られる各計測線の線平均流速から実機の超音波流量計と同様の手順で流量を計算するソフトウェアプログラム等が組み込まれたコンピュータである。
【0046】
以上の一連の流れに対して、感度解析手段109は、例えば、スプール構造データ101aのうちの一つのボスの角度をずらして、再度、超音波伝搬解析手段105による超音波伝搬解析から流量計測精度解析手段107による流量計測精度解析を行う。感度解析手段109は、これを各パラメータについて繰り返して、それぞれの場合に対する流量計測精度解析結果から、各パラメータの偏差に対する流量計測精度の感度を計算し、感度解析データ記憶装置110に記憶する。
【0047】
ここで、各パラメータとは、例えばセンサの設置位置やセンサの設置角度等の設計データであり、感度解析手段とはどのパラメータの誤差がどれだけ流量計測精度に影響するかを定量的に比較評価するソフトウェアプログラム等が組み込まれたコンピュータである。
【0048】
設計製造支援データ出力装置111は、スプールやボス,センサハウジングの設計製造支援データを出力する。設計製造支援データとしては、スプールやボス,センサハウジングの製造公差や、各部位の感度解析データなどがある。製造公差は、全ての部位が製造公差範囲内であれば流量計測精度が目標精度以内になるように算出される。
【0049】
ここでは感度解析する際に偏差を与えるパラメータをボスの角度にした際の感度解析結果の一例を図4に基づいて説明する。コンピュータに付随する表示画面400中のグラフにおいて、実線401は、一つのボスの角度偏差に対する流量計測精度を示したものである。流量計測精度の設定値が破線402及び403で示され、この設定値を満足するための角度偏差の最小値及び最大値を点線404及び405で示している。この結果を各ボスについて表示することで、製造工程で精度を要求される部位を示すことができる。
【0050】
図5は、本発明の超音波流量計の設計製造支援方法の一実施形態におけるフローチャートである。まずステップS101において、スプール構造データ,給水配管流路データ,給水流体条件データ,温度条件データ等の実機条件が入力される。次に、ステップS102において、前記実機条件を利用して、流体・構造連成解析が行われ、解析結果の流速分布データ及びスプール変位データが求められる。
【0051】
次に、ステップS103において、実機条件データ及び流体・構造解析データを利用して、各測線における超音波伝播時間や経路等の超音波伝搬解析データが求められる。次に、ステップS104において、実機条件データ及び超音波伝搬解析データを利用して、実流量と超音波流量計により計算される流量の誤差が評価される。
【0052】
次に、ステップS105において、感度解析を行う。ステップS106において、実機条件データ中のスプール構造データの一部、ボス角度等のパラメータを変更して、再度ステップS105の超音波伝搬解析を行う。ステップS105において、感度解析終了と判断したら、ステップS107において、設計製造支援データを出力する。
【0053】
このように、設計製造支援システム100は、実機条件データ記憶装置101と、実機条件入力装置102と、流体・構造連成解析手段103と、流体・構造解析データ記憶装置104と、超音波伝搬解析手段105と、超音波伝搬解析データ記憶装置106と、流量計測精度解析手段107と、流量解析データ記憶装置108と、感度解析手段109と、感度解析データ記憶装置110と、設計製造支援データ出力装置111から構成される。
【0054】
そして、支援データ出力までの経過は、以下の通りである。即ち、実機条件入力装置102により、実機条件データ記憶装置101に、実機条件が入力される。このデータを利用して、流体・構造連成解析手段103により、実機運転条件における乱流解析及び構造解析が行われ、流速分布解析データ104a及びスプール変位解析データ104bが求められ、流体・構造解析データ記憶装置104に記憶される。
【0055】
次に、実機条件データ及び流体・構造解析データを利用して、超音波伝搬解析手段105により、各測線における超音波伝播時間や経路等の超音波伝搬解析データが求められ、超音波伝搬解析データ記憶装置106に記憶される。
【0056】
次に、実機条件データ及び超音波伝搬解析データを利用して、流量計測精度解析手段107により、実流量と超音波流量計により計算される流量の誤差が評価され、解析結果が流量解析データ記憶装置108に記憶される。
【0057】
次に、感度解析手段109は、一つのパラメータを変更し、再度、超音波伝搬解析手段105による超音波伝搬解析から流量計測精度解析手段107による流量計測精度解析を行う。感度解析手段109は、これを各パラメータについて繰り返して、それぞれの場合に対する流量計測精度解析結果から、各パラメータの偏差に対する流量計測精度の感度を計算し、感度解析データ記憶装置110に記憶する。最後に、設計製造支援データ出力装置111が各パラメータの変化と感度との関係の情報を設計製造支援データとして出力する。
【0058】
図6は、本発明の超音波流量計の設計製造支援方法の一変形例における手順を説明するためのフローチャートである。
【0059】
この図6において、おおよその手順は図5で示した手順と同じであるので説明を省略し、図5と異なる部分のみ説明する。まず、ステップS201において、初期図面公差を入力する。ここで、図面公差とは、例えばセンサの設置位置やセンサの設置角度等の設計交差である。この図面公差に基づき、S202〜S206では、図5と同様に感度解析までが行われる。
【0060】
次にステップS207では、流量計の目標精度と比較検討し、図面公差を初期図面公差よりも厳しくするか緩くするかの判断をした場合には、公差を再設定して再度感度評価を行う。ステップS207において、図面公差の再設定が必要なしと判断した場合には、ステップS209において図面公差を出力し、終了する。この方法により、感度解析を網羅的に行う手間を省くことができ、短期間に図面公差を適切な値に再設定することができる。
【0061】
図7は、本発明の超音波流量計の設計製造支援システムの一変形例における構成を説明するための概略図である。
【0062】
この図7において、おおよその構成は図1で示した構成と同じであるので説明を省略し、図1と異なる部分のみ説明する。図7の超音波流量計の設計製造支援システム500では、図1のシステム100に加えて、製造中のスプール構造を計測するスプール構造計測手段502により求められたスプール構造計測データの記憶装置501を備える。
【0063】
ここで、スプール構造計測手段とは、例えばスプール中心軸をx軸とし、全計測線に直交する直線をz軸とする冶具等を備え、冶具による基準に対してセンサの設置位置やセンサの設置角度等を計測する3次元計測装置等である。
【0064】
この計測データを感度解析手段503に利用することで、これから製造する部分に求められる製造公差を算出し、感度解析データ記憶装置504に記憶され、設計製造支援データ出力装置505により出力される。これにより、例えば、ボス302aを溶接した段階で位置及び角度を計測し、その結果得られた製造誤差によりボス303aに要求される溶接位置・角度とその精度が再設定され、最終的に、流量計の目標精度を満たすように製造することができる。また、万が一目標精度を満たさないことが分かった場合に、以降の無駄な工程を省き、再製造することができる。
【0065】
図8は、本発明の超音波流量計の設計製造支援方法の一変形例における手順を説明するためのフローチャートである。
【0066】
この図8において、おおよその手順は図5で示した手順と同じであるので説明を省略し、図5と異なる部分のみ説明する。ステップS305において、製造中のスプールの構造を計測する。次にステップS306において、製造した部分の計測結果に基づいて感度解析を行う。この結果から、ステップS307において、流量計測精度を目標精度以内にできるかどうかが確認され、不可の場合には、ステップS308において、目標精度以内になるように未製造の部分の公差が再設定される。こうしてスプールの製造が完了するまで繰り返され、ステップS309でスプール製造完了を確認したら終了する。
【0067】
図9は、本発明の超音波流量計の設計製造支援方法の一変形例における手順を説明するためのフローチャートである。
【0068】
この図9において、おおよその手順は図5で示した手順と同じであるので説明を省略し、図5と異なる部分のみ説明する。ステップS405において、設計製造支援システム100へスプール等の超音波流量計を製造する際の条件を製造条件として設計製造支援システム100を校正するコンピュータに付随するキーボード等の製造条件入力手段により入力する。そのほか、キーボードの代わりに製造条件を記憶したデスクをコンピュータに読み込ませて入力する手段を用いても良い。ここで言う製造条件とは、例えば溶接金属の温度や質量,溶接方法等である。
【0069】
次に、ステップS406において、前記製造条件に基づいて製造した場合の変形を構造解析により求める。次に、ステップS407において、製造工程の構造解析結果を用いて、感度解析を行い、ステップS408において、流量計の目標精度を満たすかどうか確認する。満たさない場合は、ステップS409において、製造条件を変更し、再度製造工程の構造解析を行う。流量計の目標精度を満たしていれば、図面公差を出力し、終了する。これにより、製造工程で問題となる変形を予め見積もることができ、モックアップ試験等による予備工程を短縮できるほか、好適な製造条件を設定することができる。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明は、原子力発電所の原子炉圧力容器への給水系統の配管に設置されて、給水流量を計測する超音波流量計の設計製造支援データを提供するシステムに利用可能性がある。
【符号の説明】
【0071】
101 実機条件データ記憶装置
102 実機条件入力装置
103 流体・構造連成解析手段
104 流体・構造解析データ記憶装置
105 超音波伝搬解析手段
106 超音波伝播解析データ記憶装置
107 流量計測精度解析手段
108 流量解析データ記憶装置
109 感度解析手段
110 感度解析データ記憶装置
111 設計製造支援データ出力装置
201 フローノズル流量計利用時の熱出力計算確率分布
202 超音波流量計利用時の熱出力計算確率分布
300 スプール
301 配管スプール内流速分布
302a〜317a ボス
302b〜317b 超音波センサ
400 表示画面
S101 実機条件入力ステップ
S102 流体・構造連成解析ステップ
S103 超音波伝搬解析ステップ
S104 流量計測精度解析ステップ
S105 感度解析ステップ
S107 設計製造支援データ出力ステップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波流量計のスプールのスプール構造データと、計測対象の流体が流れる流路の配管流路データと、前記流体の流体条件データと、前記流体の温度条件データとを記憶する実機条件記憶手段と、前記スプール構造データと、前記給水配管流路データと、前記流体条件データと、前記温度条件データとを利用して、流量計測時の前記各データの条件下での前記スプール内での流速分布及び前記スプールの変位を計算する乱流解析・構造解析の連成解析手段と、前記流速分布及び前記スプールの変位のデータを記憶する解析結果記憶手段と、前記解析結果を利用して、前記超音波流量計の各計測線の超音波伝搬解析を行う超音波伝搬解析手段と、前記各計測線の超音波伝搬解析結果から、流量計測精度を計算する流量計測精度解析手段と、前記スプール構造データ,前記配管流路データ,前記流体条件データ,前記温度条件データの少なくとも一種のデータに偏差を与えて、前記超音波伝播解析及び流量解析を行い、各パラメータの感度解析を行う感度解析手段と、前記感度解析結果に基づき設計製造支援データを出力する設計製造支援データ出力手段とを備えた超音波流量計の設計製造支援システム。
【請求項2】
請求項1において、前記実機条件記憶手段が記憶するデータには、超音波流量計の図面上の公差を表す図面公差データを含み、前記設計製造支援データ出力手段は、前記公差に対する変更箇所を出力することを特徴とする超音波流量計の設計製造支援システム。
【請求項3】
請求項1において、前記スプールの製造途中のスプール構造を計測するスプール構造計測手段と、その結果得られたスプール構造計測データを記憶するスプール構造計測データ記憶手段と、前記スプール構造データを前記スプール構造計測データで更新するデータ更新手段と、製造途中の設計製造支援データを出力する設計製造支援データ出力装置とを備えたことを特徴とする超音波流量計の設計製造支援システム。
【請求項4】
請求項1において、超音波流量計の製造の条件を設計製造支援システムへ入力する製造条件入力手段と、製造工程の構造解析手段を備え、前記感度解析手段は、製造時に生じる変形の解析データを用いて感度解析を行い、前記設計製造支援データ出力装置は、設計製造支援データとして、改訂された製造条件を出力することを特徴とする超音波流量計の設計製造支援システム。
【請求項5】
設計製造支援システムに入力されている超音波流量計のスプールのスプール構造データと、計測対象の流体が流れる流路の配管流路データと、前記流体の流体条件データと、前記流体の温度条件データとを利用して、流量計測時の前記各データの条件下での前記スプール内での流速分布及び前記スプールの変位を計算する乱流解析・構造解析の連成解析ステップと、前記流速分布及び前記スプールの変位のデータを利用して、前記超音波流量計の各計測線の超音波伝搬解析を行う超音波伝搬解析ステップと、前記各計測線の超音波伝搬解析結果から、流量計測精度を計算する流量計測精度解析ステップと、前記スプール構造データ,前記配管流路データ,前記流体条件データ,前記温度条件データの少なくとも一種のデータに偏差を与えて、前記超音波伝播解析及び流量解析を行い、各パラメータの感度解析を行う感度解析ステップと、前記感度解析結果に基づき設計製造支援データを出力する設計製造支援データ出力ステップとを備えた超音波流量計の設計製造支援方法。
【請求項6】
請求項5において、超音波流量計の図面上の公差を表す図面公差データを前記設計製造支援システムに入力するステップを備え、前記設計製造支援データ出力ステップは、前記図面公差データに対する変更箇所を出力することを特徴とする超音波流量計の設計製造支援方法。
【請求項7】
請求項5において、前記スプールの製造途中の構造を計測するスプール構造計測ステップを備え、前記感度解析ステップは、前記計測にて取得したスプール構造計測データを用いて感度解析を行い、前記設計製造支援データ出力ステップは、随時設計製造支援データを出力することを特徴とする超音波流量計の設計製造支援方法。
【請求項8】
請求項5において、超音波流量計の製造の条件を前記設計製造支援システムへ入力する製造条件入力ステップと、超音波流量計の製造工程の構造を解析する製造工程構造解析ステップを備え、前記感度解析ステップは、超音波流量計の製造時に生じる変形の解析データを用いて感度解析を行い、前記設計製造支援データ出力ステップは、設計製造支援データとして、改訂された製造条件を出力することを特徴とする超音波流量計の設計製造支援方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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