説明

超音波流量計

【課題】ゼロクロス電圧のドリフト変化に対して影響を受けにくく、超音波伝播時間を正確に測定できる超音波流量計を提供する。
【解決手段】流体が流れる流路に超音波素子を設ける。送信側の超音波素子には、一定周期の駆動信号を印加する。受信側の超音波素子から出力される受信信号と、駆動信号との位相差を検出することにより、超音波が流路を伝播する時間を求める。受信信号は、一定周期を持つ波形なので、ゼロクロス電圧のドリフト変化による影響を受けにくい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は超音波流量計に関するものである。
【背景技術】
【0002】
【特許文献1】特開2004−239868号公報
【0003】
従来から、都市ガス、水などの流体の流量を計測する流量計測装置として、超音波を利用して流速を測定する超音波流量計が知られている。その際の測定原理として、一般には「伝搬時間差法」が用いられる。これは、流路の流体流れ方向上手側及び下手側に一対の超音波素子(超音波送受信素子)を設け、超音波の送受信を交互に切り替えて、流れ方向上手側の超音波素子から発信された超音波が流れ方向下手側の超音波素子に到達するまでの時間(順方向伝播時間)と、流れ方向下手側の超音波素子から発信された超音波が流れ方向上手側の超音波素子に到達するまでの時間(逆方向伝播時間)とを計測して、両者の時間差から流路を流れる流体の平均流速度及び流量を求める方法である。
【0004】
流量測定をする際には、まず一方の超音波素子に駆動信号を入力して超音波を発信させる。その超音波は流路を伝播し、他方の超音波素子で受信される。超音波を受信すると超音波素子は電気信号(受信信号)を出力し、その受信信号は受信回路に入力される。受信回路では、超音波素子が出力した受信信号を増幅し、増幅した信号をコンパレータなどの比較器に入力する。そして、ゼロクロス電圧と増幅信号の比較をして二値化する。得られた二値化信号をつかってゼロクロス検出信号を出力させ、駆動信号が入力されてからゼロクロス検出信号が出力されるまでの時間(超音波伝播時間)を計測する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
コンパレータでは、ゼロクロス電圧と超音波受信信号を比較するが、ノイズなどによりゼロクロス電圧がドリフトすると、超音波伝播時間を正確に測定できない問題がある。
【0006】
また、従来の計測方式は、超音波受信信号の位相雑音や温度変化によるドリフトに対しても影響を受けやすく、厳密な計測ができない可能性がある。
【0007】
本発明は上述のような事情を背景になされたもので、特に、ゼロクロス電圧のドリフト変化に対して影響を受けにくく、超音波伝播時間を正確に測定できる超音波流量計を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段および発明の効果】
【0008】
請求項1記載の発明は、
流体が流通する流路と、
その流路に設けられ、前記流体の流れ方向上手側または下手側に向けて超音波を発信した後、流れ方向上手側または下手側から到来する超音波を受信して受信信号を出力する一対の超音波素子と、
超音波送信側の前記超音波素子に対して一定周期の駆動信号を送り、該超音波素子に超音波を発信させる送信手段と、
超音波受信側の前記超音波素子から出力された前記受信信号と、前記駆動信号との位相差を検出する位相差検出手段と、
検出された位相差に基づいて、前記流路を前記超音波が伝播する時間を計測する時間計測手段と、
を備えることを特徴とする超音波流量計である。
【0009】
上記発明によると、超音波素子に一定周期の駆動信号を送ることにより、その超音波素子から一定周期の超音波を発信させている。受信側の超音波素子がこの超音波を受信すると、始めのうちは自己の固有振動数で振動するが、次第に発信された超音波の周期で振動するようになる。これにより、駆動信号と同一周期の受信信号が出力される。ある特定の超音波が送信されてから受信されるまでの時間と、駆動信号と受信信号の位相差を測定することにより、超音波が流路を伝播する時間を正確に求めることができる。また、この方法はノイズや温度変化によってゼロクロス電圧が変化しても、影響を受けにくい。
【0010】
また、請求項2記載の発明は、
前記位相差検出手段は、前記駆動信号を特定位相ずらした位相ずれ信号と、前記受信信号との排他的論理和から前記位相差を求める超音波流量計である。この発明によると、ゼロクロス電圧がずれても、正確に位相差を求めることができる。
【0011】
請求項3記載の発明は、
互いに位相が異なる複数の前記位相ずれ信号が予め用意され、その複数の位相ずれ信号の中から、前記受信信号との位相ずれが最小の位相ずれ信号を選択し、前記受信信号と排他的論理和をとり、得られた信号の幅を高分解能時間計測手段を使って測定することにより、前記超音波伝播時間を計測する超音波流量計である。
【0012】
上記発明によると、位相ずれ信号と受信信号の排他的論理和をとり、得られた信号の幅を高分解能時間計測手段を使って計測するため、超音波伝播時間を正確に計測できる。
【0013】
請求項4記載の発明は、請求項3記載の発明を具体的にしたもので、
前記高分解能時間計測手段としてリングオシレーターを用いることを特徴とする超音波流量計である。リングオシレーターを使うとシンプルなデジタル回路になるため、安価な超音波流量計を実現できる。
【0014】
請求項5記載の発明は、請求項3記載の発明を具体的にしたもので、
前記高分解能時間計測手段として三角波回路を用いることを特徴とする超音波流量計である。このようにすると、三角波の充放電を複数回繰り返し、その後、三角波を1回求めるだけで積算時間を求めることが可能となり、シンプルな超音波流量計が実現できる。
【0015】
請求項6記載の発明は、
前記駆動信号の周期を用いて、前記高分解能時間計測手段による計測時間を補正する超音波流量計である。
【0016】
高分解能時間計測手段は温度や回路電圧により計測時間が変化するが、上記発明のように、駆動信号の周期を用いて補正すれば、安定して時間計測を行うことが可能になる。
【0017】
請求項7記載の発明は、
流体が流通する流路と、
その流路に設けられ、前記流体の流れ方向上手側または下手側に向けて超音波を発信した後、流れ方向上手側または下手側から到来する超音波を受信して受信信号を出力する一対の超音波素子と、
超音波送信側の前記超音波素子に対して一定周期の駆動信号を送り、該超音波素子に超音波を発信させる送信手段と、
前記駆動信号の周期をφ0、前記駆動信号に対して位相差φaずれた位相ずれ信号と前記受信信号との位相差をφ、前記駆動信号が送信されてから超音波を受信するまでに検知された駆動周期のパルス数をN、前記位相差φをm回(mは2以上の自然数)計測した平均値をΣφ/mとした場合、前記流路を前記超音波が伝播する時間Tudを、
Tud=φ0・N+φa+Σφ/m
から求める時間計測手段と、
を備えることを特徴とする超音波流量計である。
【0018】
上記発明によると、超音波素子に一定周期の駆動信号を送ることにより、その超音波素子から一定周期の超音波を発信させている。受信側の超音波素子がこの超音波を受信すると、駆動信号と同一周期の受信信号が出力される。このような受信信号を使って超音波伝播時間を計測すると、ノイズ等によるゼロクロス電圧のドリフトの影響が少なくなる。また、位相ずれ信号と受信信号の位相差φを複数回(m回)計測して、その平均をとっているので、測定値が正確である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の実施形態を、図面を参照しながら説明する。
図1Aは、一般住宅用ガスメータ等として用いられる超音波流量計の一実施例のブロック図である。超音波流量計1の流量測定用の流路2には、流量測定用ガス(流体)が図示の流れ方向に流通している。流路2には、流れ方向上手側に上手側超音波素子3が設けられ、流れ方向下手側に下手側超音波素子4が設けられている。これらの超音波素子3,4は圧電素子などから構成され、駆動電圧を印加すると超音波を発信する超音波発信機能と、超音波を受信すると電気信号(受信信号)を出力する超音波受信機能とを複合して備えるものである。
【0020】
測定対象がガスの場合、測定用流路2は閉鎖されており、その軸断面形状は、例えば円形状、楕円形状、正方形状、矩形状等が採用される。本実施形態の流路2は矩形状に形成され、断面図(図1B)に示すように上壁11aに上手側超音波素子3及び下手側超音波素子4が取り付けられている。上手側超音波素子3または下手側超音波素子4から発信した超音波は底壁11bによって角度θで反射し、相手側の超音波素子に到達する構造になっている。なお、図1では超音波が底壁11bで反射するV字型構造を採用したが、例えば上手側超音波素子3を上壁11aに配置し、下手側超音波素子4を底壁11bに配置し、超音波を反射させないで送受信する構造(Z型)を採用することもできる。
【0021】
また、図1Aに示すように、超音波流量計1には送信手段12、送信側スイッチ8、受信側スイッチ9、制御手段10、増幅手段5、位相差検出手段6、時間計測手段7が設けられている。送信手段12は、超音波素子3,4に対して駆動信号を入力するための回路である。送信側スイッチ8、受信側スイッチ9を切り替えることにより、送信側の超音波素子と受信側の超音波素子の切り替えを行う。制御手段10は超音波流量計1の全体的な動作制御を行うもので、駆動信号の発信タイミングの制御や流量演算、スイッチ8,9の切り替え制御等を行う。
【0022】
図1Aのように、送信側スイッチ8をa側に接続し、受信側スイッチ9をb側に接続することにより、上手側超音波素子3を送信側にし、下手側超音波素子4を受信側にする。そして、送信手段12から上手側超音波素子3に対して駆動信号を送信する。これにより上手側超音波素子3から超音波が発信され、流路2を伝播して底壁11bで反射する。反射した超音波を下手側超音波素子4が受信すると受信信号が出力され、その受信信号はスイッチ9を通って増幅手段5へ送信される。この後、受信信号を用いて、超音波が流路2を伝播した時間(順方向超音波伝播時間Tud)を計測するが、その方法の詳細については後述する。
【0023】
その後、送信側スイッチ8をb側に切り替え、受信側スイッチ9をa側に切り替えることにより、上手側超音波素子3を受信側にし、下手側超音波素子4を送信側にする。そして、送信手段から駆動信号を発信し、上述と同様の動作を行うことにより逆方向超音波伝播時間Tduを求める。
【0024】
図1Aにおいて、ガスの平均流速をv、ガス中を伝搬する音速をc、超音波の反射角をθ、超音波の伝搬距離をLとすると、順方向超音波伝播時間Tud及び逆方向超音波伝播時間Tduはそれぞれ次のように表わされる。
Tud=L/(c+v・cosθ) (1)
Tdu=L/(c−v・cosθ) (2)
(1)、(2)式の逆数をとり、その差をとれば次式が得られる。
1/Tud−1/Tdu=2v・cosθ/L (3)
したがって、順方向超音波伝播時間Tudと逆方向超音波伝播時間Tduの測定から、ガスの平均流速vと流量Qが次式により求められる。ただし、Aは流路1の断面積である。
v=L/2cosθ(1/Tud−1/Tdu) (4)
Q=v・A (5)
このように、ガスの温度・含有成分等に依存する音速cを(4)式から消去することで、測定値(超音波伝播時間Tud,Tdu)と一定値(伝搬距離L,反射角θ)とから流速v、流量Qが算出できる。
【0025】
次に図2を用いて、超音波伝播時間を計測する原理について説明する。まず送信手段12から上手側超音波素子3へ複数発の駆動信号Vaを入力する。この駆動信号Vaは周期φ0が一定である。これにより、上手側超音波素子3から、周期φ0の超音波が発信される。この超音波は流路2を伝播し、下手側超音波素子4に到達する。超音波を受信した下手側超音波素子4は、図2に示すように受信信号Vbを出力する。
【0026】
受信信号Vbは、超音波を受信した始めのうちは振幅が小さいため、検出しにくい。従って、振幅が十分に大きくなるまで超音波の受信を続ける。超音波受信直後は、下手側超音波素子4は素子固有の共振周波数で振動するため、超音波の周期φ0とは異なる周期で振動し、周期が不安定である。振幅が十分に大きくなるまで待つと、受信信号Vbの周期は超音波の周期φ0と同調し、安定してくる。
【0027】
例えば、上手側超音波素子3から50発の超音波を発信すると、20発目には十分安定した受信信号が得られる。従って、上手側超音波素子3が20発目の超音波を発信してから、下手側超音波素子4がその20発目の受信信号を出力するまでの時間を計測すれば、超音波が流路を伝播する時間(順方向伝播時間Tud)が求まる。なお、図2では簡略化のため、4発目の超音波を受信した時点で受信信号Vbが安定するように記載してある。
【0028】
ここで仮に、超音波を連続で発射せず、単発で発信すると、下手側超音波素子4は素子固有の共振周波数で振動してしまう。この状態では振幅が小さいため、受信信号Vbを検出しにくく、またノイズ等の影響を受けやすい。そのため本発明では、一定周期の超音波を発信し、下手側超音波素子4がその超音波に同調するまで待つことにより、受信信号Vbを安定させ、ノイズ等の影響を受けにくくしている。
【0029】
受信信号Vbは、増幅手段5(図1A)によって増幅され、増幅信号Vcとなる。この増幅信号Vcは後述のコンパレータによって2値化され、図2に示すように二値化信号Vdが得られる。二値化信号Vdの(1)〜(6)波は、それぞれ駆動信号Vaの(1)〜(6)波に対応している。
【0030】
一方、図4に示すように、駆動信号Vaと周期φ0が同じで位相が少しずつ異なる位相ずれ信号Veを複数個用意しておく。この位相ずれ信号は、例えば送信手段12から出力させることができる。
【0031】
図2に戻る。複数個の位相ずれ信号Veの中から、二値化信号Vdとの位相差が最小で、且つ0でない位相ずれ信号を選択し、その位相ずれ信号Veと二値化信号との排他的論理和をとる。その結果、図2のEXOR信号Vfが得られる。
【0032】
下手側超音波素子4が4発目の超音波を受信した時には受信信号Vbの周期が安定していると仮定した場合、図2に示すように、4発目の駆動信号Vaを発信してから、4発目の二値化信号Vdを受信するまでの時間を計測することにより、順方向超音波伝播時間Tudを計測できる。すなわち、4発目の駆動信号Vaを発信してから位相ずれ信号をカウントし、その数Nを求める(図2では9発となっている)。そして、位相ずれ信号Veと二値化信号Vdの位相差φを、EXOR信号Vfの幅を使って計測する。この計測は、リングオシレーターや三角波回路を使って行う。すなわち、図6に示すように、リングオシレーター等を使って短い周期clkを持つ信号を出力させ、その信号をカウントすることにより、EXOR信号Vfの幅φを計測する。この際、1回だけ計測するのではなく、複数回(m回)計測し、その加算平均をとる。これにより、EXOR信号Vfの幅φを正確に求めることができる。
【0033】
図2に戻る。上述したように、用意された複数の位相ずれ信号の中から、二値化信号Vdとの位相差φが最小で且つ0でない位相ずれ信号Veを選択し、二値化信号Vdとの排他的論理和をとっている。ここで位相差φが最小のものを選択するのは、リングオシレーター等を使って時間計測をする時のカウント数が少なくてすむからである。また、位相差φが0のものを選択すると、φを計測することができない。そのため、位相差φが0でない位相ずれ信号Veを選択している。
【0034】
EXOR信号Vfの幅φをm回計測した加算平均をΣφ/m、位相ずれ信号Veと駆動信号Vaの位相差をφa、位相ずれ信号Veの周期をφ0、位相ずれ信号Veのカウント数をNとした場合、順方向超音波伝播時間Tudは、
Tud=φ0・N+φa+Σφ/m (6)
として求めることができる。また、逆方向超音波伝播時間Tduは、下手側超音波素子4から超音波を発信し、上手側超音波素子3で受信することで、計測することができる。
【0035】
なお上記説明では、連続して送信される二値化信号Vdのうち、4発目の信号を検出しているが、受信直後の受信信号Vbの波形は不安定なので、1発目の信号を確実に検出できないことがある。そのため、5発目の信号を4発目の信号だと間違えて検出してしまう恐れがある。しかし実際は、超音波伝播時間の測定を何回も繰り返し行っており、間違えて検出した場合は、いきなり超音波伝播時間が長くなったと分かるため、補正することができる。例えば、駆動信号Vaの周期φ0を5μsにすると、家庭用の超音波流量計では1波長ずれた場合、流量換算で5000L/h変化したことになる。このような急激な流量変化は誤検出だと判断することができる。この判断は、例えば上述の制御手段10によって行うことができる。
【0036】
次に、増幅手段5、位相差検出手段6、時間計測手段7の具体的な構成を図3に示す。このように、増幅手段5は増幅器51(オペアンプ)から構成され、位相差検出手段6はコンパレータ61、EXOR回路62から構成される。また、時間計測手段7は高分解能時間計測手段7a(高分解能パルスカウンタ回路71および高分解能クロックパルス発生回路72)とパルスカウンタ回路73からなる。高分解能クロックパルス発生回路72はリングオシレーターや三角波回路からなる。
【0037】
超音波素子3,4から出力された受信信号Vbは、増幅器51に入力され、ここで電圧増幅されて増幅信号Vcとして出力される。増幅信号Vcはコンパレータ61へ入力される。コンパレータ61は増幅信号Vcとゼロクロス電圧の比較をし、ゼロクロス電圧よりも電圧が高い部分と低い部分を二値化した信号(二値化信号Vd)を出力する。二値化信号VdはEXOR回路62に入力される。一方、送信手段12から位相ずれ信号VeがEXOR回路62に入力され、EXOR回路62は二値化信号Vdと位相ずれ信号Veとの排他的論理和をとってEXOR信号Vfを出力する。
【0038】
高分解能時間計測手段7aでは、このEXOR信号Vfの幅φを計測する。すなわち、高分解能クロックパルス発生回路72からパルスを出力して、そのパルスを高分解能パルスカウンタ回路71でカウントするのである。得られた結果(すなわち、二値化信号Vdと位相ずれ信号との位相差φ)は制御手段10へ送信される。位相差φは、上述したように複数回計測され、制御手段10でその加算平均Σφ/mを算出する。
【0039】
一方、パルスカウンタ回路73は位相ずれ信号Veのパルス数Nをカウントし、その結果を制御手段10へ送信する。制御手段10は、これらの結果から順方向超音波伝播時間Tudを算出し、流体の流量を求める。
【0040】
次に図5を用いて、排他的論理和をとる利点について説明する。上述したように、受信信号Vbとゼロクロス電圧の比較をして二値化信号Vdを出力している。ゼロクロス電圧がノイズ等の影響を受けない場合は、二値化信号Vdは(1)のようになり、これと位相ずれ信号Veの排他的論理和から、EXOR信号Vfは(1)のようになる。この場合、信号の幅φxとφyは殆ど等しい。
【0041】
ノイズ等によりゼロクロス電圧にオフセットがかかった場合、二値化信号Vdは(2)のようになり、EXOR信号Vfは(2)のようになる。この場合、φx’はφy’よりも短くなるが、
φx+φy=φx’+φy’ (7)
の関係が成立する。従って、φx’とφy’の加算平均をとれば、ノイズ等によってゼロクロス電圧がドリフトする影響を全く受けなくてすむ。
【0042】
次に図7を用いて、高分解能時間計測手段7aの補正について説明する。上述したように、高分解能時間計測手段7aはリングオシレーターや三角波回路等を用いている。これらのパルス発生回路は、回路電圧や温度の影響を受けて周波数が変化しやすい。そこで、駆動信号Vaの周期φ0をリングオシレーターの発信周波数を使ってカウントする。駆動信号Vaは水晶発信子等を用いているため、周期φ0は比較的安定している。リングオシレーターの発信周波数をclkとし、その発信周波数を使ってφ0を測定した時のカウント数をN0とすると、
φ0=clk・N0 (8)
である。これから、
clk=φ0/N0 (9)
が求められる。一方、図6に示すように、EXOR信号Vfの幅φをリングオシレーターのパルスで測定した時のカウント数をN1とすると、
φ=clk・N1 (10)
(10)式に(9)式を代入して、
φ=φ0・N1/N0 (11)
となる。(11)式にはリングオシレーターの発信周波数clkが無いため、温度や回路電圧の影響を受けず、EXOR信号Vfの幅φを安定して計測できる。
【0043】
次に、制御手段10の具体例を図8に示す。制御手段10は例えばマイコンであって、CPU14、ROM15、RAM16、I/O17、これらを接続するバスライン13を備える。ROM15には、図9に示すように伝播時間演算プログラム15a、位相ずれ信号発生・選択プログラム15b、Σφ/m演算プログラム15c、流量演算プログラム15d、補正プログラム15e等の各種プログラムが記憶されている。伝播時間演算プログラム15aは、上述した(6)式を使って超音波伝播時間を算出するプログラムである。また、位相ずれ信号発生・選択プログラムは、図4のように複数個の位相ずれ信号Veを発生させ、その中から、二値化信号Vdとの位相差が最小で且つ0でないものを選択するプログラムである。Σφ/m演算プログラムは、EXOR信号Vfの幅φの加算平均を求めるプログラムである。また、流量演算プログラム15dは、上述した(4)式および(5)式を使って流体の流量を求めるプログラムである。さらに、補正プログラム15eは、(11)式を使ってEXOR信号Vfの幅φを求めるプログラムである。
【0044】
図10は従来例である。従来は、超音波素子に駆動信号を単発で送信していた。そのため超音波は単発で送られ、受信側の超音波素子は図10に示す波形の受信信号を出力していた。超音波受信時の過渡応答は、素子固有の共振周波数、反共振周波数、Q値などによって決まるため、超音波流量計を量産する場合、個々の素子の特性を流量計に反映させるのは難しい。また、受信信号の始めの方はノイズ等がのりやすいため、例えば第3波が発生した時点でゼロクロス信号を発生させ、駆動信号を発信してからそのゼロクロス信号が出力されるまでの時間を使って、超音波伝播時間を求めていた。しかしこの方法では受信信号が比較的弱いので、ゼロクロス電圧がノイズ等でドリフトすると、例えば第5波が発生した時点でゼロクロス信号が発生してしまい、超音波伝播時間を正確に測定できない問題があった。これに対して本発明は一定周期の駆動信号を複数回送信するため、受信信号の振幅が大きくなり、かつ周期が安定した時点で超音波伝播時間を計測できる。このため、ノイズ等でゼロクロス電圧がドリフトしても影響を受けにくい。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明に係る超音波流量計のブロック図。
【図2】駆動信号、受信信号、位相ずれ信号、EXOR信号の関係を示す図。
【図3】受信回路の具体例。
【図4】複数の位相ずれ信号が用意されている状態を説明する図。
【図5】受信信号のゼロクロス電圧が変動した場合の、位相ずれ信号との位相差を説明する図。
【図6】リングオシレーターのパルスとEXOR信号との関係
【図7】駆動信号の周期を使ってリングオシレーターの計測時間を補正する図。
【図8】制御手段10の構成例
【図9】ROM15の例
【図10】従来例
【符号の説明】
【0046】
1 超音波流量計
2 流路
3 上手側超音波素子
4 下手側超音波素子
5 増幅手段
6 位相差検出手段
7 時間計測手段
8 送信側スイッチ
9 受信側スイッチ
10 制御手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体が流通する流路と、
その流路に設けられ、前記流体の流れ方向上手側または下手側に向けて超音波を発信した後、流れ方向上手側または下手側から到来する超音波を受信して受信信号を出力する一対の超音波素子と、
超音波送信側の前記超音波素子に対して一定周期の駆動信号を送り、該超音波素子に超音波を発信させる送信手段と、
超音波受信側の前記超音波素子から出力された前記受信信号と、前記駆動信号との位相差を検出する位相差検出手段と、
検出された位相差に基づいて、前記流路を前記超音波が伝播する時間を計測する時間計測手段と、
を備えることを特徴とする超音波流量計。
【請求項2】
前記位相差検出手段は、前記駆動信号を特定位相ずらした位相ずれ信号と、前記受信信号との排他的論理和から前記位相差を求める請求項1記載の超音波流量計。
【請求項3】
互いに位相が異なる複数の前記位相ずれ信号が予め用意され、その複数の位相ずれ信号の中から、前記受信信号との位相ずれが最小の位相ずれ信号を選択し、前記受信信号と排他的論理和をとり、得られた信号の幅を高分解能時間計測手段を使って測定することにより、前記超音波伝播時間を計測する請求項2記載の超音波流量計。
【請求項4】
前記高分解能時間計測手段としてリングオシレーターを用いることを特徴とする請求項3記載の超音波流量計。
【請求項5】
前記高分解能時間計測手段として三角波回路を用いることを特徴とする請求項3記載の超音波流量計。
【請求項6】
前記駆動信号の周期を用いて、前記高分解能時間計測手段による計測時間を補正する請求項3ないし5のいずれか1項に記載の超音波流量計。
【請求項7】
流体が流通する流路と、
その流路に設けられ、前記流体の流れ方向上手側または下手側に向けて超音波を発信した後、流れ方向上手側または下手側から到来する超音波を受信して受信信号を出力する一対の超音波素子と、
超音波送信側の前記超音波素子に対して一定周期の駆動信号を送り、該超音波素子に超音波を発信させる送信手段と、
前記駆動信号の周期をφ0、前記駆動信号に対して位相差φaずれた位相ずれ信号と前記受信信号との位相差をφ、前記駆動信号が送信されてから超音波を受信するまでに検知された駆動周期のパルス数をN、前記位相差φをm回(mは2以上の自然数)計測した平均値をΣφ/mとした場合、前記流路を前記超音波が伝播する時間Tudを、
Tud=φ0・N+φa+Σφ/m
から求める時間計測手段と、
を備えることを特徴とする超音波流量計。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−232659(P2007−232659A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−57192(P2006−57192)
【出願日】平成18年3月3日(2006.3.3)
【出願人】(000006932)リコーエレメックス株式会社 (708)
【Fターム(参考)】