説明

超音波流量計

【課題】従来よりも計測感度を高速化させた(高分解能)とした場合に発生する測定誤差を最初から発生させないようにする超音波流量計を得る。
【解決手段】超音波流量計200は、流体が流通する測定経路である配管(流路)20に着脱可能な超音波プローブ21と、超音波プローブ21と接続されている制御部30とを備えている。制御部30は、送信波発振部31、39と、受信部32、40と、フィルタ部33、41と、増幅部34、42と、正規化部35、43と、高速演算部36と、流量算出部37と、CPU37と、を有している。CPU37は、超音波の応答時間を計測し補正可能な時間計測部37aと、超音波の応答時間の値などを用いて流体の流量を算出できる流量算出部37bとを有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波を用いて気体又は液体の流速を求める超音波流量計に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、都市ガス、水などの流体の流量を計測する流量計測装置として、超音波を利用して流速を測定する超音波流量計が知られている。その際の測定原理として、一般には、「伝搬時間差法」が用いられる。これは、流路の流体の流れ方向上手側および下手側に一対の超音波送受信部(振動子)を設け、超音波信号の送受信を交互に切り替えて、流れ方向上手側の超音波送信部(送信側の振動子)から流れ方向下手側の超音波受信部(受信側の振動子)に到達するまでの時間(以下、順方向応答時間という)と、流れ方向下手側の超音波送信部(送信側の振動子)から流れ方向上手側の超音波受信部(受信側超音波素子)に到達するまでの時間(以下、逆方向応答時間という)とを計測して、両者の時間差から流路を流れる流体の平均流速および流量を求める方法である。
【0003】
ここで、「伝搬時間差法」の中でも、超音波送受信部の配設位置によって、一般に「V透過法」と呼ばれる測定方法と、一般に「斜め透過法」と呼ばれる測定方法の2つがある。以下、これら「V透過法」及び「斜め透過法」のそれぞれについて説明する。
【0004】
「V透過法」においては、例えば、図9(a)に示したように、配管300の外表面に配設されている超音波プローブ301が用いられる。この超音波プローブ301は、プローブケース302と、プローブケース302内部に配設されている一対の超音波送受信部(振動子)303、304とを備えているものである。以下、図9(a)、図10、図11(a)を用いて、超音波プローブ301を用いた「V透過法」について説明する。まず、図9(a)に示したように、超音波送受信部(振動子)303において、配管300底面側へ所定角度で入射するように超音波305を発信して配管300底面において反射させ、受信波306として超音波送受信部(振動子)304で受信し、順方向応答時間Taを計測する。続いて、流れに対して反対に超音波送受信部(振動子)304において、配管300底面側へ所定角度で入射するように超音波307を発信して配管300底面において反射させ、受信波308として超音波送受信部(振動子)303で受信し、逆方向応答時間Tbを計測する。このようにして計測された順方向応答時間Taと逆方向応答時間Tbとの伝播時間差Tb−Taを検出する(図10参照)。なお、予め、超音波伝播距離L(=L+L)、超音波の入射角度θ(図11(a)参照)は測定しておく。これらのようにして検出した伝播時間差Tb−Taなどの各値と下記式(1)とを用いて、流速vを算出する。
【0005】
v=L/2cosθ・(Tb−Ta)/(Ta・Tb) (1)
ここで、v(m/sec)は流速、L(m)は超音波送受信部(振動子)301、超音波送受信部(振動子)302間の超音波伝播距離(図11(a)における距離Lと距離Lとを加算したもの)、Ta(sec)は順方向応答時間、Tb(sec)は逆方向応答時間、θ(rad)は配管表面を基準とした超音波の入射角度である。
【0006】
上記式(1)は超音波流量計の計測原理として、最もよく使われている伝播時間逆数差法と呼ばれるものであって、音速の項が計算式から除かれている。したがって、上記式(1)を用いれば、一般的に流体の成分、温度、圧力などにより影響を受ける音速が変化しても、流速演算に影響することがないため、安定した計測が可能となる。また、流量は、上記式(1)で算出した流速vに配管断面積Aを乗じることによって、求めることができる(下記式(2)参照)。
【0007】
Q=V×A (2)
ここで、Q(m/s)は流量、A(m)は配管の断面積である。
【0008】
一方、「斜め透過法」においては、例えば、図9(b)に示したように、配管310の外表面に配設されている超音波プローブ311と、超音波プローブ311と反対側の配管310外表面に配設されている超音波プローブ312とが用いられる。なお、超音波プローブ311は、プローブケース313と、プローブケース313内部に配設されている超音波送受信部(振動子)314とを備えているものである。超音波プローブ312は、プローブケース315と、プローブケース315内部に配設されている超音波送受信部(振動子)316とを備えているものである。以下、図9(b)、図10、図11(b)を用いて、超音波プローブ301を用いた「V透過法」について説明する。まず、図9(b)に示したように、超音波送受信部(振動子)314において、配管310底面側へ所定角度で入射するように超音波317を発信して超音波送受信部(振動子)316で受信し、順方向応答時間Taを計測する。続いて、流れに対して反対に超音波送受信部(振動子)316において、配管3100上面側へ所定角度で入射するように超音波318を発信して超音波送受信部(振動子)303で受信し、逆方向応答時間Tbを計測する。このようにして計測された順方向応答時間Taと逆方向応答時間Tbとの伝播時間差Tb−Taを検出する(図10参照)。なお、予め、超音波伝播距離L、超音波の入射角度θ(図11(b)参照)は測定しておく。これらのようにして検出した時間差Tb−Taなどの各値と上記式(1)、(2)を用いて、「V透過法」と同様に、流速V及び流量Qを算出することができる。
【0009】
また、「伝搬時間差法」を用いた従来の超音波流量計の他例として、下記特許文献1に開示されているものがある。具体的には、測定経路に設置した超音波送受信器間の被測定流体中に超音波を伝搬させ、その伝搬時間から被測定流体の移動速度を測定する装置であって、第一の超音波プローブの共振周波数と駆動周波数との差が一定となるように周波数コントロール手段によって超音波プローブ駆動周波数をコントロールしているものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平9−304138号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上記特許文献1に代表される従来の超音波流量計において計測感度を高速化させる(分解能を向上させる)と、例えば従来のサンプリング時間(ナノ秒オーダー程度)では問題とならなかった現象が発生した。ここで、該現象について説明する。図10に示した受信波(超音波)のパルス幅Twa又はパルス幅Twbは、図12(a)に示すようなものであるが、超音波送受信部(探触子)に温度変化があると、波形の振幅が変化し、結果として到達時間のずれT2−T1(応答時間の基準からの差ΔT)が発生する(図12(b)参照)。なお、パルス幅の実際の波形にはノイズ成分が含まれていることから(図12(b)参照)、実際には―定電圧Vaで波形をとらえることで、パルス波形の応答時間を検出している。
【0012】
上述したような状況から、従来のサンプリング時間(ナノ秒オーダー程度)で超音波流量計を使用した場合、温度変化があっても基準からの時間に差が生じなかった(図13(a)参照)のが、ピコ秒オーダー程度のサンプリング時間で従来の超音波流量計を使用した場合、計測感度の高速化に伴う温度影響によって、基準からの応答時間が変化してしまう。例えば、同じ流速であるにもかかわらず温度が高くなった場合には、基準からの応答時間が遅くなり(図13(b)参照)、遅い流速を算出してしまうことになって、実際の流量との測定誤差を発生させてしまうことがあった。
【0013】
そこで、本発明の目的は、従来よりも計測感度を高速化させた(高分解能)とした場合に発生する測定誤差を最初から発生させないようにする超音波流量計を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
(1) 本発明の超音波流量計は、流体が流通する流路に、前記流体の流れ方向上手側または下手側に向けて超音波を発振することが可能であって、流れ方向上手側または下手側から到来する超音波を受信することが可能な一対の超音波送受信部と、前記一対の超音波送受信部の温度を所定温度に調整する温度調整部と、前記超音波が前記一対の超音波送受信部間を伝搬する時間を計測する時間計測部と、前記時間計測部によって得られた計測結果に基づいて流量を算出する流量算出部と、を備えているものである。
【0015】
上記(1)の構成によれば、従来よりも高分解能の超音波流量計とした場合に発生する測定誤差を最初から発生させないようにすることが可能である。すなわち、従来よりも高分解能でありながら、高精度な流量測定が可能な超音波流量計を提供できる。特に、配管を低流速で流れる流体についても高精度な流量測定が可能な超音波流量計を提供できる。
【0016】
(2) 別の観点として、本発明の超音波流量計は、流体が流通する流路に、前記流体の流れ方向上手側または下手側に向けて超音波を発振することが可能であって、流れ方向上手側または下手側から到来する超音波を受信することが可能な一対の超音波送受信部と、前記超音波が前記一対の超音波送受信部間を伝搬する時間を計測する時間計測部と、前記一対の超音波送受信部のそれぞれが受信した受信波形を、予め基準として得ておいた所定温度の前記一対の超音波送受信部のそれぞれが受信した受信波形に、必要に応じて補正処理する受信波形処理部と、必要に応じて前記受信波形処理部で得られた情報を用いて、前記時間計測部によって得られた情報に基づいて流量を算出する流量算出部と、を備えているものであってもよい。
【0017】
上記(2)の構成によれば、従来よりも高分解能の超音波流量計とした場合に発生する測定誤差を最初から発生させないようにすることが可能である。すなわち、従来よりも高分解能でありながら、高精度な流量測定が可能な超音波流量計を提供できる。特に、配管を低流速で流れる流体についても高精度な流量測定が可能な超音波流量計を提供できる。また、上記(1)の超音波流量計においては、超音波送受信部の温度が予め定めた基準となる所定温度になるまで測定を待機する必要があるのに対し、上記(2)の構成によれば、最初に一度又は定期的に、予め基準として所定温度の一対の超音波送受信部のそれぞれが受信した受信波形を得ておけば、異なる場所の配管における流量測定を即時に行うことができるので、異なる場所で多数の測定を短時間且つ高精度で行うことが可能であり、様々な場所で行う流量測定の全体作業効率を向上させることが可能となる。
【0018】
(3) 上記(2)の超音波流量計においては、前記受信波形処理部が、前記一対の超音波送受信部のそれぞれが受信した受信波形の波高値の情報と、予め得ておいた所定温度の前記一対の超音波送受信部のそれぞれが受信した受信波形の波高値の情報と、前記時間計測部で得られた時間の情報とに基づいて、前記補正処理を行うものであることが好ましい。
【0019】
上記(3)の構成によれば、簡易な構成でありながら、従来よりも高分解能の超音波流量計とした場合に発生する測定誤差を最初から発生させないようにすることが可能となる。
【0020】
(4) 上記(2)又は(3)の超音波流量計においては、前記超音波送受信部から検出した受信波形の情報について、予め前記超音波送受信部から取得しておいた所定温度毎の受信波形の情報のうちいずれの情報に合致するか判定し、前記所定温度毎の受信波形の情報のうち合致した受信波形における温度を、流路内を流れる流体の温度として検出する温度検出部を有しているものであってもよい。
【0021】
上記(4)の構成によれば、流体の流量を測定できるだけでなく、流体の温度検出も可能である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の第1実施形態に係る超音波流量計の概略構成図である。
【図2】本発明の第2実施形態に係る超音波流量計の概略構成図である。
【図3】本発明の実施例1における調査に用いた装置構成の概略構成図である。
【図4】(a)が本発明の実施例1に係るグラフであって、超音波流量計における超音波送受信部(振動子)の温度(8℃〜18℃)と応答時間の基準からの差との相関関係を示すもの、(b)が本発明の実施例2に係るグラフであって、(a)とは別の超音波流量計における超音波送受信部(振動子)の温度(20℃〜65℃)と応答時間差との相関関係を示すものである。
【図5】本発明の実施例2における調査に用いた装置構成の概略構成図である。
【図6】本発明の実施例2での測定結果に係るグラフであって、(a)が超音波受信部(振動子)の温度を10℃とした場合における超音波の受信波形の測定結果を示すもの、(b)が超音波受信部(振動子)の温度を40℃とした場合における超音波の受信波形の測定結果を示すものである。
【図7】本発明の実施例2に係るグラフであって、受信波の波高値と温度との相関関係を示したものである。
【図8】本発明の実施例3に係る超音波流量計についての動作確認実験結果(温度変化と流速との相関関係)を示したグラフである。
【図9】従来の超音波流量計の概略構成図であって、(a)が測定原理にV透過法を用いたもの、(b)が測定原理に斜め透過法を用いたものである。
【図10】図9(a)、(b)に示した超音波流量計の計測原理を説明するためのタイムチャートである。
【図11】(a)が図9(a)に示した超音波流量計の計測原理を説明するための概略図、(b)が図9(b)に示した超音波流量計の計測原理を説明するための概略図である。
【図12】パルス幅の温度影響を説明するためのグラフであって、(a)がパルス幅、(b)が実際のパルス波形である。
【図13】温度によるパルス幅の変化を示すグラフであって、(a)がサンプリング時間をナノ秒オーダー程度とした場合のもの、(b)がサンプリング時間をピコ秒オーダー程度とした場合のものである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
<第1実施形態>
以下、図面を参照しながら、本発明の第1実施形態に係る超音波流量計について説明する。
【0024】
図1に示すように、本実施形態に係る超音波流量計100は、流体が流通する測定経路(流路)1に着脱可能な第一の超音波送受信部2及び第二の超音波送受信部3と、第一の超音波送受信部2を内部に収容している第一の恒温槽4と、第二の超音波送受信部3を内部に収容している第二の恒温槽5と、第一の超音波送受信部2の温度を検知可能な第一の温度検知部8と、第二の超音波送受信部3の温度を検知可能な第二の温度検知部9と、第一のヒーター6及び第二のヒーター7を制御可能な温度制御部10と、所定部位の制御等を行う制御部11と、を備えているものである。
【0025】
第一の超音波送受信部2及び第二の超音波送受信部3のそれぞれは、発振回路(図示せず)によって駆動し、測定経路1内部の流体の流れ方向上手側または下手側に向けて超音波を発生することができるものである。また、第一の超音波送受信部2及び第二の超音波送受信部3のそれぞれは、流れ方向上手側または下手側から到来した超音波を受信できるものでもある。
【0026】
第一の恒温槽4及び第二の恒温槽5の内部には液体が封入されており、第一のヒーター6及び第二のヒーター7において発生した熱を、間接的に第一の超音波送受信部2及び第二の超音波送受信部3のそれぞれに伝導することができるようになっている。
【0027】
第一の温度検知部8は、第一の恒温槽4の内部を加熱可能な第一のヒーター6と、第一の超音波送受信部2の温度検知に用いる温度検知素子(図示せず)とを、第一の恒温槽4の内部に有している。同様に、第二の温度検知部9は、第二の恒温槽5の内部を加熱可能な第二のヒーター7と、第二の超音波送受信部3の温度検知に用いる温度検知素子(図示せず)とを、第二の恒温槽5の内部に有している。
【0028】
温度制御部10は、第一の温度検知部8及び第二の温度検知部9において検知した第一の超音波送受信部2及び第二の超音波送受信部3の温度に基づいて、第一のヒーター6及び第二のヒーター7の出力を制御するものである。
【0029】
なお、第一の温度検知部8、第二の温度検知部9、及び、温度制御部10は、第一の超音波送受信部2及び第二の超音波送受信部3の温度を所定温度に調整する温度調整部の主要部を構成している。
【0030】
制御部11は、超音波が第一の超音波送受信部2、第二の超音波送受信部3間を伝搬する時間を計測する時間計測部12と、時間計測部12によって得られた計測結果に基づいて流量を算出する流量算出部13とを有しているものである。
【0031】
次に、超音波流量計100の動作について説明する。まず、第一の温度検知部8及び第二の温度検知部9において、測定経路1外表面に取り付けられた第一の超音波送受信部2及び第二の超音波送受信部3の温度をそれぞれ検知する。次に、検知した該温度に基づいて、温度制御部10は、第一の超音波送受信部2及び第二の超音波送受信部3の温度が予め定めた所定温度(例えば、温度変化による測定誤差が生じないように予め定めた基準温度)となるように、第一のヒーター6及び第二のヒーター7の出力を制御し、第一の恒温槽4及び第二の恒温槽5の内部における液体を介して第一の超音波送受信部2及び第二の超音波送受信部3の温度調整を行う。続いて、第一の超音波送受信部2及び第二の超音波送受信部3が所定温度になった後、測定経路1内部に流体が流れている状態において、第一の超音波送受信部2及び第二の超音波送受信部3のそれぞれから超音波を送信し、第一の超音波送受信部2及び第二の超音波送受信部3は相互に受信波を受信する。このとき、時間計測部12によって、第一の超音波送受信部2及び第二の超音波送受信部3のそれぞれから送信された超音波が、第一の超音波送受信部2、第二の超音波送受信部3間を伝搬する時間を計測しておく。そして、流量算出部13において、時間計測部12によって得られた計測結果と、上記式(1)と、上記式(1)に代入するために予め得ておいた各値とを用いて流量を算出する。
【0032】
本実施形態によれば、第一の超音波送受信部2及び第二の超音波送受信部3を、予め定めた所定温度、例えば、温度変化による測定誤差が生じないように予め定めた基準温度に調整できるので、従来よりも高分解能の超音波流量計とした場合に発生する測定誤差を最初から発生させないようにすることが可能である。すなわち、従来よりも高分解能でありながら、高精度な流量測定が可能な超音波流量計100を提供できる。
【0033】
<第2実施形態>
次に、本発明の第2実施形態に係る超音波流量計について説明する。なお、本実施形態における符合20、23、24の部位は、順に、第1実施形態における符合1、2、3の部位と同様であるので、説明を省略することがある。
【0034】
図2に示すように、本実施形態に係る超音波流量計200は、流体が流通する測定経路である配管(流路)20に着脱可能な超音波プローブ21と、超音波プローブ21と接続されている制御部30とを備え、上述した「V透過法」と呼ばれる測定方法を用いるものである。
【0035】
超音波プローブ21は、プローブケース22と、プローブケース22内部の別室にそれぞれ配設されている超音波送受信部(振動子)23、24とを備えているものである。
【0036】
制御部30は、送信波発振部31と、受信部32と、フィルタ部33と、増幅部34と、正規化部35と、高速演算部36と、流量算出部37と、CPU37と、を有している。また、制御部30は、上記符号31〜35の部位と順に同様の送信波発振部39、受信部40、フィルタ部41、増幅部42、正規化部43、を有している。
【0037】
送信波発振部31、39は、CPU37から発せられた発振開始信号によって、超音波送受信部(振動子)23、24を駆動し、超音波25、27を発生させるものである。
【0038】
超音波送受信部(振動子)23、24は、図2に示したように、超音波25、27を発生した後、超音波25、27が測定経路(流路)20の底部で反射してなる受信波26、28をそれぞれ受信することができるものである。
【0039】
受信部32は、超音波送受信部(振動子)24で受信した受信波28の信号を検出する回路(図示せず)を有しているものである。同様に、受信部40は、超音波送受信部(振動子)24で受信した受信波26の信号を検出する回路(図示せず)を有しているものである。
【0040】
フィルタ部33、41は、入力された電気信号に帯域制限をかけたり、特定の周波数成分を取り出したりすることが可能なフィルタ回路を有しているものである。
【0041】
増幅部34、42は、フィルタ部33、41から出力された信号を増幅する増幅回路を有しているものである。
【0042】
正規化部35は、増幅部34から出力された信号を正規化し、正規化パルスを生成する正規化回路(図示せず)と、増幅部34から出力された信号と基準電圧または基準電流とを比較し、どちらが大きいかで出力が切り替わるコンパレータとを有しているものである。同様に、正規化部43は、増幅部42から出力された信号を正規化し、正規化パルスを生成する正規化回路(図示せず)と、増幅部42から出力された信号と基準電圧または基準電流とを比較し、どちらが大きいかで出力が切り替わるコンパレータとを有しているものである。なお、正規化部35、43は、後述する高速演算部36、補正処理部37bなどとともに、受信波形処理部(図示せず)の主要部を構成するものでもある。
【0043】
高速演算部36は、正規化部35、43から出力された正規化パルス信号を受信し、正規化パルスの計測を行うものである。
【0044】
CPU37は、時間計測部37aと流量算出部37bとを有している。時間計測部37aは、送信波発振部31、39のそれぞれに超音波の発振開始信号が送信されてから予め設定された一定時間経過後の基準時間から、各正規化パルスの信号を検出するまでの時間を各応答時間として計測するものである。流量算出部37bは、補正処理部37a1で補正処理された応答時間差の値と上記式(1)、(2)とを用いて流体の流速及び流量を算出する処理を行うものである。
【0045】
なお、補正処理部37a1における温度に対する応答時間差の補正処理は、例えば、実際の測定前に、使用する超音波流量計ごとに予め求めておいた下記式(3)のうちいずれか一つを用いて行う。ここで、下記式(3)におけるyは補正時間(ns)、xは温度(℃)である。なお、下記式(3)の求め方は、後述する本発明の実施例において説明する。ここで、上記補正に用いる式については、下記式(3)に限られず、一次関数、二次関数、指数関数、対数関数、多項式など各種の近似式で表すこともできるが、最も高い相関関係を有した近似式を用いることが好ましい。
【0046】
y=0.208x+2.306 (3)
【0047】
また、図12(b)に示したように、超音波の受信波形の波高値は、温度が高くなるほど波高値が低くなるという温度依存特性を示す。ここで、該波高値と温度との相関関係を予め検出しておき、正規化部35、43において、例えば、該相関関係から得られる下記式(4)を用いて、受信波形の波高値から温度データを算出し、上記式(3)のうち用いる方に入力することで温度補正処理を行うこととしてもよい。ここで、下記式(4)におけるyはエコー電圧(mV)、xは温度(℃)である。このような補正処理を行えば、温度計などを用いた別途の温度検出を不要とすることができる。なお、下記式(4)の求め方は、後述する本発明の実施例において説明する。
【0048】
=−0.2327x+2.1855x+1307.6 (4)
【0049】
次に、超音波流量計200の動作について説明する。まず、CPU37から送信波発信部31、39に発振開始信号を発すると同時に、受信部32、40の時間計測部32a、40aに時間計測開始信号を送信する。CPU37から発信開始信号を受信した送信波発信部31、39は、超音波送受信部(振動子)23、24を駆動して、超音波25、27(図2参照)を発生させる。一方、時間計測開始信号を受信した時間計測部32a、40aは、時間計測を開始する。次に、超音波送受信部(振動子)23、24において、超音波25、27が反射してなる受信波28、26を受信し、送信波発信部31、39を介して受信信号を受信部32、40に送信する。このとき、時間計測部32a、40aは、時間計測を終了し、時間計測結果信号を受信信号とともに、フィルタ部33、41に出力する。フィルタ部33、41から受信した信号を増幅部34、42によって増幅した後、正規化部35、43に信号を送信する。信号を受信した正規化部35、43は、温度に対する応答時間差の補正処理を行うとともに増幅部34から出力された信号を正規化し、正規化パルスを生成する。このとき、正規化部35、43内のコンパレータによって、増幅部34から出力された信号と基準電圧とを比較し、増幅部34から出力された信号が基準電圧よりも大きい場合、正規化パルス信号が高速演算部36に出力される。正規化パルス信号を受信した高速演算部36は、CPU37で設定した基準時間から数マイクロ秒の時間範囲をピコ秒オーダー(例えば、65ピコ秒)毎に正規化パルスの計測を行う。そして、高速演算部36からの正規化パルスの計測結果の信号を受信した流量算出部37は、流体の流速及び流量を算出する処理を行う。
【0050】
上記構成によれば、温度変化による超音波の応答時間差を補正できるので、従来よりも高分解能の超音波流量計とした場合に発生する測定誤差を最初から発生させないようにすることが可能である。すなわち、従来よりも高分解能でありながら、高精度な流量測定が可能な超音波流量計200を提供できる。また、上記第1実施形態の超音波流量計100においては、超音波送受信部22、23の温度が予め定めた基準となる所定温度になるまで測定を待機する必要があるのに対し、本実施形態によれば、最初に一度又は定期的に、予め基準として所定温度の超音波送受信部22及び超音波送受信部23のそれぞれが受信した受信波形を得ておけば、異なる場所の配管における流量測定を即時に行うことができるので、異なる場所で多数の測定を短時間且つ高精度で行うことが可能であり、様々な場所で行う流量測定の全体作業効率を向上させることが可能となる。
【実施例】
【0051】
(実施例1)
ここで、上述の第2実施形態における補正の式(3)の算出方法について説明する。具体的には、上述の第2実施形態と同様の超音波流量計について、超音波送受信部(振動子)の温度(8℃〜18℃の範囲)と応答時間差との相関関係を調査して、算出した。以下に、該調査に用いた装置構成について説明する。
【0052】
図3に示したように、恒温槽50と、恒温槽50の内部に設けられた水槽51と、水槽51の底部に設けられた固定冶具52と、水槽51内の水温計測に用いるK型熱電対53に接続された温度計54と、本発明に係る超音波流量計と、を備えた実験装置を用いて調査した。なお、本発明に係る超音波流量計は、第2実施形態の制御部30(図2参照)と同様の制御部60と、固定冶具52の内側において対向するように且つ互いに超音波の送受信ができるように任意の距離を離して設けられた一対の超音波送受信部61、62(超音波プローブ)とを有している。また、制御部60及び温度計54で検出されたデータは、記憶部(図示せず)において蓄積されるようになっている。
【0053】
次に、上記装置を用いた応答時間差の調査方法を示す。恒温槽50において、水槽51内の水温を5℃〜20℃に徐々に変化させるように制御することによって、超音波送受信部61、62の温度を経時的に変化させつつ8℃〜18℃までの範囲で、第2実施形態の動作と同様に超音波の送受信を行った際のK型熱電対54による水温のデータと、第2実施形態の動作と同様にして制御部60で得た応答時間差のデータとを検出して、調査した。なお、水温と超音波送受信部61、62の温度とが十分に一致するようにしてから、調査は行った。このようにして得られたデータから作成した超音波送受信部(振動子)の温度(8℃〜18℃の範囲)と応答時間差ΔTとの相関関係を図4に示す。
【0054】
図4から、最小二乗法により近似関数を作成するとよい相関があることがわかる。そして、温度x(℃)、応答時間差y(nsec)とすると,yはxの1次関数で近似することができる。すなわち、上記式(3)に示したように、1℃あたり0.208(nsec)程度の補正をする必要があることがわかる。
【0055】
(実施例2)
次に、上述の第2実施形態における補正の式(4)の算出方法について説明する。
【0056】
まず、以下の装置構成を用いて、超音波の受信波形の温度依存特性について調査した。すなわち、図5に示したように、恒温槽70と、恒温槽70の内部に設けられた水槽71と、水槽71の底部に設けられた固定冶具72と、オシロスコープ73と、水槽71内の水温計測に用いるK型熱電対74に接続された温度計75と、本発明に係る超音波流量計と、を備えた実験装置を用いて調査した。なお、本発明に係る超音波流量計は、第2実施形態の制御部30(図2参照)と同様の制御部80と、固定冶具72の内側において対向するように且つ互いに超音波の送受信ができるように任意の距離を離して設けられた一対の超音波送受信部81、82(超音波プローブ)とを有している。
【0057】
超音波流量計における超音波受信部(振動子)の温度が10℃の場合と40℃の場合とにおける超音波の受信波形をオシロスコープ73で実測すると、図6(a)(10℃の場合)、図6(b)(40℃の場合)に示すような結果が得られた。すなわち、温度が高くなるほど、受信波形の波高値が低くなることがわかった。したがって、適正な温度補正を行えば、温度計などによる実測定ごとの別途温度検出を不要とすることができる。
【0058】
次に、上記温度補正を行うための式を得るために、受信波の波高値と温度との相関関係を、図5に示した装置構成を用いて調査した。具体的には、恒温槽70において、水槽71内の水温を5℃〜50℃に徐々に変化させるように制御することによって、超音波送受信部81、82の温度を経時的に変化させつつ5℃〜50℃までの範囲で第2実施形態の動作と同様に超音波の送受信を行い、K型熱電対74による水温のデータと、オシロスコープ73から受信波形を取得し、制御部70で計測した波高値とを検出して、超音波送受信部81、82の温度と受信波の波高値との相関関係を調査した。なお、水温と超音波送受信部81、82の温度とが十分に一致するようにしてから、調査を行った。
【0059】
上述のようにして得られた受信波の波高値と超音波送受信部81、82の温度との相関関係を図7に示す。この相関関係から補正の式(4)が得られた。受信波形の波高値から温度データを算出し、応答時間差の補正の式(3)に入力することで温度補正を行った。この結果、実測定ごとの別途温度検出を不要とすることができた。
【0060】
(実施例3)
上記第2実施形態と同様の装置構成で作製した超音波流量計について動作確認実験を行った。具体的には、配管内を60mm/sの一定流速で流れる水について、水温を8℃〜60℃まで経時的に変化させつつ、時間、温度及び流速の相関関係を調査した。その結果を図8に示す。
【0061】
図8の結果から、流速の計測値については、補正前が25mm/s〜88mm/sの範囲で経時的に変化したのに対し、補正後は53mm/s〜67mm/sの範囲で安定して計測ができた。したがって、上記第2実施形態と同様の装置構成で作製した超音波流量計について、温度の変化が生じても、一定流速を安定して計測できることが確認できた。
【0062】
(実施例4)
実施例3と同様の超音波流量計により基準流量を設定し、実施例3と同様の超音波流量計と、従来の外付型の超音波流量計(計測可能な最小流速が30mm/s)との流量計測性能を比較した。
【0063】
上記比較の結果を下記表1に示す。下記表1の結果から、実施例4と同様の超音波流量計においては、従来の超音波流量計では測定不可能な流速30mm/s以下の流量域において計測できるということが確認できた。
【0064】
【表1】

【0065】
なお、本発明は上記実施形態及び実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づいて種々の変形が可能であり、これらを本発明の範囲から排除するものではない。例えば、第1実施形態において、所定温度を高く設定したとしても冷却して所定温度に調整できるように、ヒーターの代わりに冷却装置を設けた超音波流量計としてもよい。
【0066】
また、上記第1実施形態の超音波流量計においては、超音波送受信部を点対称配置としたが、第2実施形態に示したような並列配置としてもよい。逆に、第2実施形態の超音波流量計においては、超音波送受信部を並列配置としたが、第1実施形態に示したような点対称配置としてもよい。
【0067】
また、上記第1実施形態と第2実施形態とを組み合わせた超音波流量計としてもよい。すなわち、上記恒温槽を温度制御部等によって所定温度に調整して温度変化による測定誤差を発生させないようにすることができるとともに、超音波送受信部に温度変化が生じても補正処理して温度変化による測定誤差を発生させないようにすることができる超音波流量計としてもよい。
【0068】
また、上記第2実施形態においては、実際に超音波送受信部から検出した受信波形の情報について、予め超音波送受信部から取得し記憶部(図示せず)に記憶させておいた所定温度毎の受信波形の情報のうちいずれの情報に合致するか判定し、所定温度毎の受信波形の情報のうち合致した受信波形における温度を、配管(流路)内を流れる流体の温度として検出する温度検出部(図示せず)をCPU37内に有していてもよい。なお、上記温度検出部による温度検出は、実測した際の超音波送受信部、配管、流体の温度がほぼ同様になった時点以降に行うことが好ましい。
【0069】
上記第2実施形態及び変形例においては、CPUの内部に時間計測部、流量算出部、温度算出部などを設け作動させることができる構成としているが、これに限られず、時間計測部、流量算出部、温度検出部などを実行するプログラムをCPU外部の記憶装置内に設け、必要に応じてCPUに読み込んで実行する構成としてもよい。
【符号の説明】
【0070】
1 測定経路
2、3、23、24、61、62、81、82、303、304、314、315 超音波送受信部(振動子)
4、5、50、70 恒温槽
6、7 ヒーター
8、9 温度検知部
10 温度制御部
11、32、60、80 制御部
12、32a 時間計測部
13、37 流量算出部
20、300、310 配管
21、301、311、312 超音波プローブ
22、302、313、315 プローブケース
51、71 水槽
52、72 固定冶具
53、73 K型熱電対
54、75 温度計
73 オシロスコープ
100、200 超音波流量計


【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体が流通する流路に、前記流体の流れ方向上手側または下手側に向けて超音波を発振することが可能であって、流れ方向上手側または下手側から到来する超音波を受信することが可能な一対の超音波送受信部と、
前記一対の超音波送受信部の温度を所定温度に調整する温度調整部と、
前記超音波が前記一対の超音波送受信部間を伝搬する時間を計測する時間計測部と、
前記時間計測部によって得られた計測結果に基づいて流量を算出する流量算出部と、を備えていることを特徴とする超音波流量計。
【請求項2】
流体が流通する流路に、前記流体の流れ方向上手側または下手側に向けて超音波を発振することが可能であって、流れ方向上手側または下手側から到来する超音波を受信することが可能な一対の超音波送受信部と、
前記超音波が前記一対の超音波送受信部間を伝搬する時間を計測する時間計測部と、
前記一対の超音波送受信部のそれぞれが受信した受信波形を、予め得ておいた所定温度の前記一対の超音波送受信部のそれぞれが受信した受信波形に、必要に応じて補正処理する受信波形処理部と、
必要に応じて前記受信波形処理部で得られた情報を用いて、前記時間計測部によって得られた情報に基づいて流量を算出する流量算出部と、を備えていることを特徴とする超音波流量計。
【請求項3】
前記受信波形処理部が、前記一対の超音波送受信部のそれぞれが受信した受信波形の波高値の情報と、予め得ておいた所定温度の前記一対の超音波送受信部のそれぞれが受信した受信波形の波高値の情報と、前記時間計測部で得られた時間の情報とに基づいて、前記補正処理を行うことを特徴とする請求項2に記載の超音波流量計。
【請求項4】
前記超音波送受信部から検出した受信波形の情報について、予め前記超音波送受信部から取得しておいた所定温度毎の受信波形の情報のうちいずれの情報に合致するか判定し、前記所定温度毎の受信波形の情報のうち合致した受信波形における温度を、流路内を流れる流体の温度として検出する温度検出部を有していることを特徴とする請求項2又は3に記載の超音波流量計。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−232297(P2011−232297A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−105473(P2010−105473)
【出願日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【出願人】(000156938)関西電力株式会社 (1,442)
【出願人】(000163419)株式会社きんでん (37)
【Fターム(参考)】