説明

超音波照射装置及び超音波の照射方法

【課題】不要なキャビテーションの発生を抑制する超音波照射装置を提供する。
【解決手段】超音波射出部112は、駆動信号設定部140によって作成された駆動信号に基づき、駆動部150によって駆動され、駆動周波数を有する超音波を射出する。超音波受信部114は、前記超音波の射出方向から到来する超音波を受信する。超音波受信部114が受信した信号は、低周波信号検出部120内の低周波フィルタ122とピーク成分検出部124とによって、駆動周波数よりも低い低周波成分の音波の周波数と強度とを取得する。比較部126は、取得した低周波成分の音波の周波数と強度とに基づいて、キャビテーション気泡群が発生したか否かを判定する。キャビテーション気泡群が発生したら、照射条件変更部130は、駆動信号設定部140に駆動信号を変更させる。このようにして超音波照射装置100は、キャビテーション気泡群の発生を防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波照射装置及び超音波の照射方法に関する。
【背景技術】
【0002】
媒質に対して強力な超音波を照射すると、その媒質中で大きな負圧が生じ、キャビテーションが発生する。キャビテーションの発生により生じる衝撃波やマイクロジェット等の効果で、例えば生体組織の破砕や加熱凝固を行えることが知られている。近年、このようなキャビテーションによる生体組織の破砕や加熱凝固を、治療用の処置に応用する技術が注目されている。
【0003】
例えば特許文献1には、次のような治療用超音波装置に係る技術が開示されている。この治療用超音波装置は、周波数fの集束する第1の超音波を生体の表面から生体内部の所望の部位に向けて断続的に照射する手段を有する。この治療用超音波装置では、集束超音波を照射することにより、生体内に注入された光増感性物質又はキレート生成能を有する物質を局所的に抗癌活生化させる。また、キャビテーションにより、第1の超音波の分調波成分(周波数がf/2の成分)又は高調波成分(周波数が2nf(nは自然数)の成分)が放射される。そこで、この治療用超音波装置は、分調波成分や高調波成分を受信してそれら超音波の放射位置を検出する位置検出手段を有する。また、例えば特許文献2には、次のような治療用超音波装置に係る技術が開示されている。治療用の集束超音波の照射位置を、マーク手段によって画面表示部に表示しておく。一方、トランスデューサ2を治療部位近傍で固定し、駆動手段12で駆動する。そして、治療用の集束超音波の照射期間中に治療用の集束超音波の照射位置がトランスデューサ2の位置からずれたときに、その集束超音波の照射を停止する治療用超音波装置に係る技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第2741907号公報
【特許文献2】特許第4095729号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のような超音波照射装置において、目標位置の近傍にキャビテーションが発生すると、そのキャビテーションに由来する気泡が照射超音波の目標位置への到達を妨げてしまう。そのため、例えば、照射超音波がキャビテーション気泡によって反射され、目標位置とは異なる位置に収束することや、キャビテーション自体によって、目標位置以外の組織に対して損傷を与えかねない。
【0006】
そこで本発明は、目標位置以外におけるキャビテーションの発生を素早く抑制する超音波照射装置及び超音波の照射方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を果たすため、本発明の超音波照射装置の一態様は、超音波設定値に基づいて、対象部位に向けて周波数がf(fは正の実数)である第1の周波数成分を含む第1の超音波を射出する超音波射出部と、前記対象部位方向から到来する第2の超音波を受信する超音波受信部と、前記第2の超音波に含まれる周波数がf/r(rは2より大きい実数)以下の低周波信号を検出する低周波信号検出部と、前記低周波信号に基づいて、前記超音波設定値を変更させる条件変更部とを具備することを特徴とする。
【0008】
また、前記目的を果たすため、本発明の超音波の照射方法の一態様は、超音波を射出する超音波射出部と、超音波を受信する超音波受信部とを備える超音波照射装置を用いた超音波の照射方法であって、前記超音波射出部から対象部位に向けて射出する第1の超音波が含むべき第1の周波数f(fは実数)を設定するための周波数設定値を含む超音波設定値を設定し、前記超音波設定値に基づいて、前記超音波射出部に前記第1の超音波を射出させ、前記対象部位方向から到来する第2の超音波を前記超音波受信部に受信させ、前記第2の超音波に含まれる周波数がf/r(rは2より大きい実数)以下の低周波信号を抽出し、前記低周波信号のピーク値及び該ピーク値を示すピーク周波数を取得し、前記ピーク値及び前記ピーク周波数を予め設定された閾値と比較することで、前記対象部位よりも前記超音波射出部側の領域におけるキャビテーションの発生状態を判定し、前記判定の結果に基づいて、前記超音波設定値を変更させる、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、超音波照射対象部位から到来する超音波を受信し、その超音波に含まれる低周波信号に基づいて超音波設定値を変更するので、目標位置以外におけるキャビテーションの発生を素早く抑制する超音波照射装置及び超音波の照射方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】第1の実施形態に係る超音波照射装置の構成例を示す図。
【図2】第1の実施形態に係る超音波照射装置の動作例を示すフローチャート。
【図3】超音波照射によって生じるキャビテーション気泡群の一例を説明するための図。
【図4】第1の実施形態に係る超音波受信部が受信する超音波の、時間と周波数と強度との関係の一例を示す図。
【図5】第1の実施形態に係る超音波受信部が受信する超音波の、時間と周波数と強度との関係の一例を示す図。
【図6】第1のピークの強度の時間変化の一例を示す図。
【図7】第1の実施形態の変形例に係る超音波照射装置の動作例を示すフローチャート。
【図8】第1のピークの周波数の時間変化の一例を示す図。
【図9】本発明の第2の実施形態に係る超音波照射装置の駆動信号設定部周辺の構成例を示す図。
【図10】第2の実施形態に係る超音波受信部が受信する超音波の、時間と周波数と強度との関係の一例を示す図。
【図11】第1のピーク及び第2のピークの強度の時間変化の一例を示す図。
【図12】第2の実施形態に係る超音波照射装置の動作例を示すフローチャート。
【図13】第1のピーク及び第2のピークの周波数の時間変化の一例を示す図。
【図14】第2の実施形態の変形例に係る超音波照射装置の駆動信号設定部周辺の構成例を示す図。
【図15】本発明の第3の実施形態に係る超音波照射装置の構成例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[第1の実施形態]
本発明の第1の実施形態について図面を参照して説明する。本実施形態に係る超音波照射装置100は、例えば臓器の所望の箇所に集束超音波を照射し、その所望の箇所の組織を加熱凝固させるために用いられる。超音波照射装置100の構成を図1に示す。この図に示すように、超音波照射装置100は、超音波入出力部110と、低周波信号検出部120と、照射条件変更部130と、駆動信号設定部140と、駆動部150と、表示部160と、入力部170とを有する。
【0012】
超音波入出力部110は、超音波射出部112と、超音波受信部114とを有する。超音波射出部112は、例えば凹面型の表面形状を有する圧電素子である。この圧電素子を挟んで対向するように、凹面側と凸面側に沿って、図示しない電極がそれぞれ形成されている。超音波射出部112は、駆動部150によって電極間に交流電圧を印加されることで駆動され、集束超音波(第1の超音波)を射出する。超音波射出部112は、例えば超音波照射対象物900に向けられる。このとき、集束超音波は、超音波照射対象物900内において焦点920に集束する。
【0013】
超音波受信部114は、例えば広帯域特性を有する圧電素子であり、ハイドロホンとして機能する。すなわち、超音波受信部114は、焦点920及びその近傍から放射され超音波入出力部110に入射する音波を受信する。このとき、受信する音波には、集束超音波によって生じたキャビテーション気泡からの音波も含まれている。超音波受信部114は、受信した音波に応じた信号を低周波信号検出部120に出力する。超音波受信部114は、例えば超音波射出部112の射出面中央に設けられている。超音波受信部114の位置は、超音波射出部112の中央に限定されるものではない。超音波受信部114は、超音波照射対象物900から到来する音波を検出できる構成であれよい。
【0014】
低周波信号検出部120は、低周波フィルタ122と、ピーク成分検出部124と、比較部126とを有する。超音波受信部114から出力された受信信号は、低周波フィルタ122に入力される。低周波フィルタ122は、超音波受信部114から入力された受信信号のうち、所望の周波数以下の周波数成分の受信信号が通過するように設定されている。ここで、所望の周波数は、超音波射出部112から射出される超音波の周波数をf(fは実数)としたときに、例えばf/4とする。ピーク成分検出部124は、低周波フィルタ122を通過した受信信号の低周波成分、すなわち低周波信号をFFT処理する。このようにしてピーク成分検出部124は、低周波信号における周波数毎の信号強度、特にピークをとる周波数とその強度を所定の時刻毎に算出する。比較部126は、ピーク成分検出部124で算出された周波数毎の信号強度と予め設定された設定値との比較を行い、その結果を照射条件変更部130に出力する。
【0015】
照射条件変更部130は、低周波信号検出部120からの入力に応じて、集束超音波の照射停止の指示、又は集束超音波の超音波設定値(変更値)を駆動信号設定部140に出力する。駆動信号設定部140は、入力部170から入力されるユーザの指示に基づいて、集束超音波の超音波設定値(初期値)を設定し、その周波数や強度に基づく駆動信号を作成する。また、駆動信号設定部140は、照射条件変更部130から入力された超音波設定値(変更値)に基づいて、駆動信号を作成する。駆動信号設定部140は、作成した駆動信号を駆動部150に出力する。また、駆動信号設定部140は、照射条件変更部130から入力された信号に基づいて集束超音波の照射条件を変更するときは、その変更内容を表示部160に表示させ、ユーザにその内容を報知する。この変更内容を、音を用いてユーザに報知するようにしてもよい。駆動部150は、駆動信号設定部140から入力された駆動信号に基づいて、超音波射出部112を駆動する。なお、超音波設定値とは、周波数や強度などの照射パラメータの種類や照射パラメータの値、あるいは治療や処置の術式等のことであって、これらは照射条件でもある。以下の説明では、これらの用語を適宜使って説明している。
【0016】
表示部160は、駆動信号設定部140の制御下で、集束超音波の照射条件等を表示する。入力部170は、ユーザの指示を受け取り、その指示を駆動信号設定部140に出力する。ユーザは、表示部160に表示される情報から超音波照射装置100の状況や、集束超音波の情報を知ることができる。またユーザは、入力部170を介して、集束超音波の照射の開始及び終了の情報や、集束超音波の超音波設定値を超音波照射装置100に入力することができる。
【0017】
このように、例えば超音波射出部112は、超音波設定値に基づいて、対象部位に向けて周波数がf(fは正の実数)である第1の周波数成分を含む第1の超音波を射出する超音波射出部として機能し、例えば超音波受信部114は、対象部位方向から到来する第2の超音波を受信する超音波受信部として機能し、例えば低周波信号検出部120は、第2の超音波に含まれる周波数がf/r(rは2より大きい実数)以下の低周波信号を検出する低周波信号検出部として機能し、例えば照射条件変更部130は、低周波信号に基づいて超音波設定値を変更させる条件変更部として機能する。また、表示部160は、条件変更部が超音波設定値を変更させることをユーザに報知する報知部として機能する。
【0018】
本実施形態に係る超音波照射装置100の動作を、図2に示すフローチャートを参照して説明する。まず、ユーザは超音波照射対象物900に超音波入出力部110を向ける。ここで、超音波照射対象物900と超音波入出力部110との間には、カップリング材を挟むようにしてもよい。このカップリング材は、超音波照射対象物900と超音波入出力部110との音響インピーダンスを整合させるためのものである。また、超音波照射対象物900には、予め例えば超音波造影剤としてのソナゾイド(登録商標)等を投与しておいてもよい。
【0019】
ステップS101において、駆動信号設定部140は、入力部170からユーザの指示を取得し、その指示に基づいて集束超音波の超音波設定値を設定する。より詳しくは以下のとおりである。ユーザは、入力部170を用いて超音波照射装置100に、超音波照射対象物900に照射する集束超音波の超音波設定値を入力する。ここで、超音波設定値は、上記のように、照射パラメータの種類、照射パラメータの値、治療や処置の術式等である。例えば、照射パラメータの種類と照射パラメータの初期値をユーザが直接入力(選択)してもよいし、ユーザが治療や処置の術式等を入力し、その術式に応じて照射パラメータの種類や照射パラメータの初期値を駆動信号設定部140が設定するようにしてもよい。入力部170は、入力された超音波設定値を駆動信号設定部140に出力する。駆動信号設定部140は、入力部170から入力された超音波設定値に基づいて、集束超音波の照射パラメータの種類や照射パラメータの初期値を設定する。駆動信号設定部140は、設定された初期値に基づいて、駆動部150に出力する駆動信号を作成する。なお、照射パラメータの種類は、超音波の強度や周波数に限られない。
【0020】
ステップS102において、駆動信号設定部140は、駆動部150に駆動信号を出力し、超音波射出部112から集束超音波を射出させる。より詳しくは以下のとおりである。ユーザは、入力部170を用いて超音波照射装置100(駆動信号設定部140)に集束超音波の射出開始の指示を入力する。集束超音波の射出開始の指示が入力された駆動信号設定部140は、駆動信号を駆動部150に出力する。駆動部150は、駆動信号設定部140から入力された駆動信号を増幅し、超音波射出部112に駆動信号に基づいた交流信号を印加する。超音波射出部112は、駆動部150から印加された交流信号に基づいて駆動される。すなわち、超音波射出部112は振動する。その結果、超音波射出部112から超音波照射対象物900に向けて集束超音波が射出される。ここで、集束超音波の周波数をf(fは実数)とする。
【0021】
集束超音波は、焦点920に集束する。集束超音波の照射によって焦点920において、キャビテーションが発生する。焦点920において、例えばこのキャビテーションによる加熱によって組織が凝固する。集束超音波の照射によって生じるキャビテーション気泡群の様子の一例を図3に示す。図3に示す画像は、集束超音波をしばらく照射してその後停止した直後に、超音波診断装置で取得した画像である。図3において、焦点920は、キャビテーションを発生させて加熱凝固させたい部位である。超音波照射を長時間継続すると、焦点920よりも超音波入出力部110側を含む領域940に、キャビテーション気泡群が発生している。図3の画像では、キャビテーション気泡群は白く認められ、焦点920から左側に扇状に広がっている。このキャビテーション気泡群は、集束超音波の照射時間の経過とともにその量が増えていく。これらのキャビテーション気泡群は、集束超音波の照射を停止すると、ただちに消滅し超音波診断装置では認識できない状態になる。
【0022】
キャビテーション気泡は、その大きさが超音波診断装置で取得する画像では認識できない程度であれば、焦点920における組織の加熱凝固を促進させる効果を示す。一方、キャビテーション気泡は、その大きさが超音波診断装置で取得する画像で認識できるほどの大きさに成長すると、キャビテーション気泡群を形成する。このようになると、焦点920よりも超音波入出力部110側を含む領域940が加熱凝固されてしまう。すなわち、治療処置すべきでない部位の組織に損傷を与えてしまう。したがって、安全に治療や処置を行うためには、キャビテーション気泡の状態に応じて、タイミングよく集束超音波の出力強度を変化させたり、集束超音波の射出を停止させたりする必要がある。本実施形態では、超音波受信部114で受信した音波の情報に基づいて、集束超音波の射出を停止させる。
【0023】
ステップS103において、低周波信号検出部120は、受信音波を解析する。より詳しくは以下のとおりである。超音波受信部114は、焦点920方向から到来する音波を受信する。超音波受信部114は、特にキャビテーション気泡群に由来する音波を受信することになる。超音波受信部114は、受信した信号を、低周波信号検出部120の低周波フィルタ122に出力する。
【0024】
低周波信号検出部120において低周波フィルタ122は、超音波受信部114から入力された信号のうち、所望の周波数以下の周波数の受信信号(低周波信号)を抽出する。低周波フィルタ122は、抽出した低周波信号をピーク成分検出部124に出力する。ピーク成分検出部124は、低周波フィルタ122を通過した低周波信号をFFT解析し、周波数毎の信号強度、特にピークをとる周波数とその強度を所定の時刻毎に算出し、比較部126に出力する。
【0025】
本実施形態では、例として低周波フィルタ122で周波数f/4以下の低周波信号を抽出し、それを解析することでキャビテーション気泡群の発生を判定する。このため、低周波フィルタ122は、周波数f/4以下の低周波信号を透過するローパスフィルタとする。なお、低周波フィルタ122のカットオフ周波数は、これに限らず、f/2より小さければよい。ただし低周波フィルタ122のカットオフ周波数は、f/5以上であることが好ましい。
【0026】
超音波受信部114が受信する音波のうち、キャビテーション気泡群から発せられる音波の周波数及び強度の時間変化の一例を図4及び図5に示す。図4は、照射開始後の経過時間と周波数と強度との関係を3次元グラフに示し、図5は、照射時間毎に、周波数と強度との関係を2次元グラフに示している。ここで、集束超音波の周波数、すなわち駆動周波数はfである。照射時間は、集束超音波の照射開始時刻をt0とし、その後t1、t2、t3、t4と時間が経過するものとする。図5(a)は時刻t0における周波数と強度との関係を示し、図5(b)は時刻t1及びt2における周波数と強度との関係を示し、図5(c)は時刻t3及びt4における周波数と強度との関係を示す。
【0027】
集束超音波の照射開始時(時刻t0)においては、駆動周波数fに対応するピークのみが超音波受信部114によって検出される。集束超音波の照射開始から時間が経過した時刻t1においては、駆動周波数fの成分に加えて、駆動周波数の約1/6倍の周波数f/6近傍にピークが認められる。この周波数f/6近傍のピークを第1のピークと称することにする。第1のピークの発生は、キャビテーション気泡群の発生に起因する。さらに時間が経過した時刻t2のとき、第1のピークの強度は、時刻t1の時よりも高くなり、キャビテーション気泡群が成長していることがわかる。
【0028】
さらに時間が経過(時刻t3及び時刻t4)すると、第1のピークの周波数が徐々に低下する。例えば数十秒間超音波照射を継続すると、第1のピークの周波数は、f/6近傍からf/8近傍まで低下する。このように、ピーク周波数は、時間経過につれて連続的に低下していく。このようなピーク周波数の低下は、キャビテーション気泡群の気泡の大きさが大きくなることに由来している。このため、ピーク周波数とキャビテーション気泡群の成長との間には強い相関がある。なお、集束超音波の照射時間が増加すると、周波数f/2近傍にもピークが認められるようになる。この周波数f/2のピークは、駆動周波数fの分調波に相当する。なお、周波数f/2近傍のピークの強度は、第1のピークの強度よりも低い。
【0029】
第1のピークの強度の時間変化を図6に示す。この図に示すように、キャビテーションの発生時である時刻t2において強度が一端高くなり、その後低下する。この低下の後、第1のピークの強度は高低に変化するが、そのベースラインは図6中に破線で示すように徐々に高くなる。
【0030】
ステップS104において、低周波信号検出部120の比較部126は、取得した低周波信号に基づいて、キャビテーション気泡群が発生したか否かを判定する。より詳しくは以下のとおりである。例えば、図5に示すように、比較部126に閾値Th1を設定しておく。ピーク成分検出部124によって検出される低周波信号の第1のピークの強度、すなわち周波数f/6近傍のピークの強度が、閾値Th1よりも高くなったとき、比較部126はキャビテーション気泡群が発生したと判定する。ここで閾値Th1は、ノイズレベルよりも十分に高い値が設定される。例えば閾値Th1は、ノイズレベルの2倍等とすることができる。
【0031】
なお、図4及び図5では、駆動周波数fのピークやその分調波である周波数f/2のピークも示しているが、低周波信号検出部120における処理では、低周波フィルタ122によって例えば周波数f/4以上の信号は遮断されている。すなわち、低周波フィルタ122のカットオフ周波数をf/2よりも小さくすることで、駆動周波数fの信号やその分調波である周波数f/2の信号がピーク成分検出部124に入力されないようにすることができる。
【0032】
ステップS104の判定でキャビテーション気泡群が発生していないと判定されれば、処理はステップS102に戻され、超音波照射装置100は照射条件を変更せずに集束超音波の照射を継続する。一方、ステップS104の判定でキャビテーション気泡群が発生していると判定されれば、ステップS105において、超音波照射装置100は、集束超音波の照射を停止する。より詳しくは以下のとおりである。キャビテーション気泡群が発生しているとの情報が、比較部126から照射条件変更部130に入力される。この情報を受領した照射条件変更部130は、超音波射出部112からの集束超音波の射出を停止するように駆動信号設定部140に指示を出力する。駆動信号設定部140は、照射条件変更部130からの指示に基づいて、駆動部150への駆動信号の出力を停止する。その結果、超音波射出部112は、集束超音波の射出を停止する。この際、駆動信号設定部140は、表示部160に集束超音波の射出を停止する旨の表示をさせる。その後、超音波照射装置100は、処理を終了する。
【0033】
本実施形態によれば、超音波照射装置100は、超音波受信部114で受信した音波を低周波信号検出部120が解析することで、焦点920よりも超音波入出力部110側の領域940におけるキャビテーション気泡群の発生を検出することができる。キャビテーション気泡群の発生が検出されたら、超音波照射装置100は集束超音波の照射を停止する。この集束超音波の照射停止によって、焦点920よりも超音波入出力部110側の領域940に集束超音波が照射されなくなる。よって、目標位置以外の組織、例えば本来加熱凝固されるべきでない組織が損傷することを防止できる。
【0034】
[第1の実施形態の変形例]
第1の実施形態の変形例について説明する。ここでは、第1の実施形態との相違点について説明し、同一の部分については、同一の符号を付してその説明を省略する。本変形例では、キャビテーション気泡群の発生を検出したら集束超音波の照射条件を変更し、その後キャビテーション気泡群の成長を検出したら集束超音波の照射を停止する。
【0035】
本変形例に係る処理の一例を表すフローチャートを図7に示す。本変形例のステップS201乃至ステップS203は、図2を参照して説明した第1の実施形態のステップS101乃至ステップS103とそれぞれ同じである。すなわち、ステップS201において、駆動信号設定部140は、例えば入力部170からユーザ指示情報を取得する。そして、そのユーザ指示情報に基づいて、超音波照射装置100から射出する集束超音波の照射パラメータの種類及び初期値を設定する。ステップS202において、駆動信号設定部140は、駆動部150に駆動信号を出力し、超音波射出部112から集束超音波を射出させる。ステップS203において、超音波受信部114は音波を受信し、低周波信号検出部120はその受信信号を解析する。
【0036】
ステップS204において、低周波信号検出部120の比較部126は、取得した低周波信号に基づいて、キャビテーション気泡群が発生したか否かを判定する。より詳しくは以下のとおりである。例えば比較部126に、第1の実施形態と同様に閾値Th1を設定しておく。ピーク成分検出部124によって検出される低周波信号の第1のピーク、すなわち周波数f/6近傍の第1のピークの強度が閾値Th1よりも高くなったとき、比較部126はキャビテーション気泡群が発生したと判定する。
【0037】
ステップS204の判定でキャビテーション気泡群が発生していないと判定されれば、処理はステップS202に戻され、超音波照射装置100は照射条件を変更せずに集束超音波の射出を継続する。一方、ステップS204の判定でキャビテーション気泡群が発生していると判定されれば、ステップS205において、駆動信号設定部140は、集束超音波の照射条件を変更する。より詳しくは以下のとおりである。
【0038】
照射条件変更部130は、低周波信号検出部120から入力された比較結果に基づいて、照射条件を変更する。具体的には、照射パラメータの種類や照射パラメータの数値を変更して、駆動信号の変更値を算出する。照射条件変更部130は、算出した駆動信号の変更値を駆動信号設定部140に出力すると共に、その変更値に基づいて駆動信号を変更するように駆動信号設定部140に指示を出力する。例えば照射条件変更部130は、集束超音波の強度を低下させるように、駆動信号設定部140へ駆動信号の変更値を出力する。ここで照射条件変更部130は、集束超音波の強度を、予め設定しておいた強度にするように変更値を決定してもよいし、ピーク成分検出部124によって検出された第1のピークの強度に基づいた強度とするように変更値を決定してもよい。
【0039】
駆動信号設定部140は、照射条件変更部130から入力された変更値に基づいて、変更した駆動信号を作成する。駆動信号設定部140は、変更後の駆動信号を駆動部150に出力する。駆動部150は、変更後の駆動信号に基づいて超音波射出部112を駆動する。その結果、超音波射出部112は、変更後の例えば強度が低下した集束超音波を射出する。なおこの際、駆動信号設定部140は、変更内容を表示部160に表示させ、その内容をユーザに報知する。
【0040】
ステップS206において、低周波信号検出部120の比較部126は、取得した低周波信号に基づいて、キャビテーション気泡群が成長したか否かを判定する。より詳しくは以下のとおりである。第1のピークの周波数の時間変化の例を図8に示す。前述のとおり、キャビテーション気泡群に由来する低周波信号の第1のピークは周波数f/6近傍に検出された後、時間経過とともに徐々に低下する。ステップS206では、比較部126は第1のピークの周波数の低下に基づいてキャビテーション気泡群の成長を検出する。例えば、第1のピークの周波数について閾値Th2を設定し、第1のピークの周波数が閾値Th2よりも低くなったときキャビテーション気泡群が成長したと判断する。ここで、閾値Th2は、例えば図8に示すように、周波数f/8とすることができる。
【0041】
ステップS206の判定でキャビテーション気泡群が成長していないと判定されれば、処理はステップS202に戻される。その結果、ステップS205で変更された照射条件に従って、ステップS202において超音波射出部112は集束超音波を射出する。一方、ステップS206の判定でキャビテーション気泡群が成長していると判定されれば、処理はステップS207に進められる。ステップS207において照射条件変更部130は、第1の実施形態のステップS105と同様に、集束超音波の照射を停止するように駆動信号設定部140に指示する。その結果、超音波照射装置100は、集束超音波の射出を停止する。その後一連の処理は終了する。
【0042】
周波数f/6近傍に第1のピークが検出されるキャビテーション気泡群の発生は、ただちに目標位置以外の組織、例えば本来加熱凝固されるべきでない組織に悪影響を与えないときもある。このような場合、本変形例によれば、キャビテーション気泡群の発生からしばらくの間、すなわち、集束超音波の照射が効果を有する間であって、集束超音波の照射が目標位置以外の組織に悪影響を与えない間、集束超音波の照射を続けることができる。その後、低周波信号検出部120によって第1のピークの周波数の変化をチェックすることで、キャビテーション気泡群が成長して目標位置以外の組織に悪影響を与える状況になったことを検知して、照射条件変更部130に伝達する。その結果、照射条件変更部130は、駆動信号設定部140に指示をして集束超音波の射出を停止させることができる。
【0043】
また、本変形例では、ステップS206の判定において、第1のピークの周波数が閾値Th2よりも低くなったときにキャビテーション気泡群が成長したと判定している。しかしながら、ステップS206において、例えば図8に示した第1のピークの周波数変化ΔFが、所定の閾値Th3よりも大きくなった時、キャビテーション気泡群が成長したと判定するようにしてもよい。
【0044】
また、ステップS206の判定において、低周波信号の周波数の変化ではなく、キャビテーション気泡群の発生が検出されてから所定の時間の経過後に、集束超音波の射出を停止してもよい。ここで所定の時間とは、例えば1秒程度とすることができる。
【0045】
また、図6において破線で示したように、第1のピークの強度は徐々に増加する。そこで、ステップS206の判定において、第1のピークの強度の時間平均値を所定の時間間隔で取得し、その時間平均強度が所定の閾値以上になったとき、集束超音波の射出を停止するようにしてもよい。
【0046】
以上の何れの方法を用いても、キャビテーション気泡群の発生直後でなく、キャビテーション気泡群が成長して目標位置以外の組織に悪影響が生じる前に、集束超音波の照射を停止することができる。また、上記した複数の判定条件のうち何れかを用いて、予め定めた1つの条件を満たしたときに集束超音波の強度を低下させ、予め定めた他の条件を満たしたときに集束超音波の射出を停止するようにしてもよい。これら判定条件の組み合わせは超音波照射装置100の設計や使用条件に応じて適宜選択され得る。
【0047】
[第2の実施形態]
第2の実施形態について説明する。ここでは、第1の実施形態との相違点について説明し、同一の部分については、同一の符号を付してその説明を省略する。本実施形態では、2つの異なる周波数を重畳した駆動信号を超音波射出部112に印加する。本実施形態においては、例として、2つの駆動周波数をf1=4.64MHz、f2=9.28MHzとする。駆動信号設定部140において2種類の周波数の信号がそれぞれ作成された後に、それらが合成されることにより駆動信号は作成され、駆動部150を介して超音波射出部112に印加される。
【0048】
本実施形態に係る駆動信号設定部140周辺の構成を図9に示す。この図に示すように、駆動信号設定部140は、f1生成回路141と、f2生成回路142と、加算器143とを有する。f1生成回路141は、周波数f1の信号を生成して出力する。f2生成回路142は、周波数f2の信号を生成して出力する。f1生成回路141から出力された周波数f1の信号と、f2生成回路142から出力された周波数f2の信号とは、加算器143に入力される。加算器143は、f1生成回路141から出力された信号と、f2生成回路142から出力された信号とを重畳する。加算器143で重畳された駆動信号は、駆動部150に出力される。駆動部150は、第1の実施形態の場合と同様に、駆動信号設定部140から入力した駆動信号に基づいて超音波射出部112を駆動する。
【0049】
超音波受信部114が受信する音波のうち、キャビテーション気泡群から発せられる音波の周波数及び強度の時間変化の一例を図10に示す。図10は、照射開始後の経過時間と周波数と強度との関係を、3次元グラフを用いて示している。なお、本実施形態では、周波数f1やf2は駆動周波数であると同時に、超音波受信部114で受信した音波の周波数でもある。集束超音波の照射の開始時(時刻t0)においては、駆動周波数f1及び駆動周波数f2に対応する音波のピークのみが超音波受信部114によって検出される。超音波照射開始から時間が経過した時刻t1においては、駆動周波数f1及び駆動周波数f2のピークに加えて、駆動周波数f2の約1/6倍の周波数f2/6にピークが認められる。この周波数f2/6近傍ピークを第1のピークと称することにする。この第1のピークの発生は、キャビテーション気泡群の発生に起因する。なお、時刻t1は、第1の実施形態(図4を参照)における時刻t2に相当するタイミングである。
【0050】
さらに時間が経過した時刻t2のとき、第1のピークの強度は低くなっている。この時刻t2において、第1のピークに加えて周波数f1/6近傍にピークが検出される。この周波数f1/6近傍のピークを第2のピークと称することにする。この第2のピークの音波成分も、キャビテーション気泡群の発生に起因する。時刻t3、t4、t5と時間が経過すると、第2のピークの強度は徐々に高くなり、周波数は徐々に低下する。一方、第1のピークの周波数はほとんど変化せず、強度はわずかに上昇していく。
【0051】
第1のピーク及び第2のピークの強度の時間変化を図11に示す。この図に示すように、キャビテーションの発生時である時刻t1において、第1のピークにおいて高い強度が確認され、第1のピークの強度はその後低くなる。さらにその後は、第1のピークの強度はなだらかに高くなる。一方、第2のピークの強度は、時刻t1以降徐々に高くなりやがて飽和する。
【0052】
これら第1のピーク及び第2のピークは、キャビテーション気泡群の大きさのみならず、その挙動にも関連する。すなわち、第1のピーク及び第2のピークという異なる2つの低周波信号をモニタリングすることで、キャビテーション気泡群の発生のみならず、その状態をも判定できる。例えば、超音波照射対象物900において局所的な組織破砕を行う治療を想定した場合、敢えてキャビテーション気泡群を発生させる必要がある。ここで異なる2つの低周波成分をモニタリングすれば、発生したキャビテーション気泡群の状態が、施す処置の上で安全なものか否かを判定できる。すなわち、キャビテーション気泡群を安全に有効に利用することができる。
【0053】
本実施形態に係る処理の一例を示すフローチャートを図12に示す。本実施形態のステップS301乃至ステップS305は、図7を参照して説明した第1の実施形態の変形例のステップS201乃至ステップS205とそれぞれ同様である。すなわち、ステップS301において、駆動信号設定部140は、例えば入力部170からユーザの指示を取得し、その指示に基づいて集束超音波の周波数や強度などの照射パラメータの種類と、それらの初期値を設定する。ステップS302において、駆動信号設定部140は、駆動部150に駆動信号を出力し、集束超音波を射出させる。ステップS303において、超音波受信部114は音波を受信し、低周波信号検出部120はその受信信号を解析する。
【0054】
ステップS304において、低周波信号検出部120の比較部126は、取得した低周波信号に基づいて、キャビテーション気泡群が発生したか否かを判定する。より詳しくは以下のとおりである。例えば比較部126に、第1の実施形態と同様に閾値Th1を設定しておく。ピーク成分検出部124によって検出される低周波信号の第1のピーク、すなわち周波数f2/6近傍の第1のピークの強度が、閾値Th1よりも高くなったとき、比較部126はキャビテーション気泡群が発生したと判定する。
【0055】
ステップS304の判定でキャビテーション気泡群が発生していないと判定されれば、処理はステップS302に戻され、超音波照射装置100は集束超音波の照射を継続する。一方、ステップS304の判定でキャビテーション気泡群が発生していると判定されれば、ステップS305において、駆動信号設定部140は、照射条件変更部130の設定に基づいて集束超音波の条件を変更する。
【0056】
ステップS306において、低周波信号検出部120の比較部126は、取得した低周波信号に基づいて、キャビテーション気泡群の挙動が所望のものからはずれたか否かを判定する。より詳しくは、例えば周波数f1/6の近傍である第2のピークが検出されたとき、キャビテーション気泡群の挙動が所望のものからはずれたと判定する。あるいは、第2のピークの周波数がf1/8近傍に設定した閾値Th2よりも低くなったとき、キャビテーション気泡群の挙動が所望のものからはずれたと判定する。
【0057】
ステップS306の判定でキャビテーション気泡群の挙動が所望のものからはずれていないと判定されれば、処理はステップS302に戻される。その結果、ステップS305で変更された照射条件に従って、ステップS302において超音波射出部112は集束超音波を射出する。一方、ステップS306の判定でキャビテーション気泡群の挙動が所望のものからはずれたと判定されれば、ステップS307において、照射条件変更部130は、集束超音波の照射を停止するように駆動信号設定部140に指示する。その結果、超音波照射装置100は、集束超音波の射出を停止する。その後一連の処理は終了する。
【0058】
例えば、第1のピークと第2のピークとの周波数の時間変化を図13に示す。前述のとおり、まずキャビテーション気泡群に由来する第1のピークが周波数f2/6近傍に検出される。ステップS304では、この第1のピークの検出の有無に基づいてキャビテーション気泡群の発生の有無を判定する。その後、第1のピークの周波数は時間経過とともに徐々に低下する。また、第1のピークの検出後しばらくして、第1のピークよりも低い周波数に第2のピークが検出されるようになる。第2のピークの周波数も時間経過とともに徐々に低下する。ここで、第1のピークの周波数低下の割合よりも、第2のピークの周波数低下の割合の方が大きい。ステップS306において、比較部126は、第2のピークの検出の有無に基づいてキャビテーション気泡群の挙動が所望のものからはずれたか否かを判定する。あるいは比較部126は、第2のピークの周波数が閾値Th2よりも低くなったか否かに基づいて、キャビテーション気泡群の挙動が所望のものからはずれたか否かを判定する。
【0059】
なお、ステップS306における判定では、第2のピークの周波数の低下が所定の値以上起こったときに、キャビテーション気泡群の挙動が所望のものからはずれたと判定してもよい。また、第1のピーク又は第2のピークが検出されてから所定の時間が経過したときに、キャビテーション気泡群の挙動が所望のものからはずれたと判定してもよい。また、第1のピーク及び/又は第2のピークの強度が所定値以上となったときに、キャビテーション気泡群の挙動が所望のものからはずれたと判定してもよい。また、超音波照射装置100の使用において、照射条件をより安全側に設定したい場合、第1のピークが閾値Th1を超えて検出された時点で、集束超音波の射出を停止するように構成してもよい。
【0060】
本実施形態では、異なる2つの駆動周波数f1及びf2の組み合わせとして、f2=2×f1の関係を有する場合を例に挙げて説明したが、駆動周波数f1及びf2の組み合わせは任意の組み合わせとすることができる。ここで低周波フィルタ122の通過帯域は、2つの駆動周波数のうち高い方の分調波の周波数以下とすればよい。すなわち、低周波フィルタ122のカットオフ周波数は、f2/2以下とすればよい。
【0061】
本実施形態によっても第1の実施形態又はその変形例と同様の効果が得られる。さらに、第1のピーク及び第2のピークという異なる2つの低周波信号をモニタリングすることで、キャビテーション気泡群の発生のみならず、その状態をも判定できる。したがって、発生したキャビテーション気泡群を安全に有効に用いることができる。
【0062】
[第2の実施形態の変形例]
第2の実施形態の変形例について説明する。ここでは、第2の実施形態との相違点について説明し、同一の部分については、同一の符号を付してその説明を省略する。第2の実施形態では、1つの超音波射出部112から駆動周波数f1と駆動周波数f2とが重畳された集束超音波を射出している。これに対して本変形例では、超音波入出力部110は、周波数f1の集束超音波を射出する第1の超音波射出部1121と、周波数f2の集束超音波を射出する第2の超音波射出部1122とを有する。
【0063】
本変形例に係る超音波照射装置100の駆動信号設定部140周辺の構成を図14に示す。この図に示すように、駆動信号設定部140は、f1生成回路141と、f2生成回路142とを有する。駆動部150は、第1の増幅器151と第2の増幅器152とを有する。また、超音波入出力部110は、第1の超音波射出部1121と第2の超音波射出部1122とを有する。
【0064】
f1生成回路141で生成された駆動周波数f1を有する駆動信号は、第1の増幅器151に入力される。第1の増幅器151に入力され増幅された駆動周波数f1を有する駆動信号は、第1の超音波射出部1121に入力される。その結果、第1の超音波射出部1121は、駆動周波数f1を有する集束超音波を射出する。f2生成回路142で生成された駆動周波数f2を有する駆動信号は、第2の増幅器152に入力される。第2の増幅器152に入力され増幅された駆動周波数f2を有する駆動信号は、第2の超音波射出部1122に入力される。その結果、第2の超音波射出部1122は、駆動周波数f2を有する集束超音波を射出する。
【0065】
第1の超音波射出部1121と第2の超音波射出部1122とは、第1の超音波射出部1121から射出された集束超音波と第2の超音波射出部1122から射出された集束超音波とが、焦点920において交差するように配置されている。したがって、焦点920においては、周波数f1の集束超音波と周波数f2の集束超音波とが重畳する。その結果、周波数f1の信号と周波数f2の信号とが重畳されている焦点920において、第2の実施形態と同様の効果が得られる。
上記のような本変形例による構成でも、第2の実施形態と同様に動作し、同様の効果を得ることができる。
【0066】
[第3の実施形態]
第3の実施形態について説明する。ここでは、第1の実施形態との相違点について説明し、同一の部分については、同一の符号を付してその説明を省略する。本実施形態では、超音波入出力部110が軟性内視鏡の先端に配置されており、さらにその軟性内視鏡には、超音波照射対象領域(図1の超音波照射対象物900に相当)に超音波造影剤としてソナゾイド(登録商標)を投与するための機構が備えられている。ソナゾイド(登録商標)はある程度の粒度分布はあるものの、約4.2〜4.8MHz付近に共振周波数をもつことが知られている。
【0067】
本実施形態に係る超音波治療装置の構成図を図15に示す。この図に示すように、本実施形態に係る超音波治療装置は注入手段を有している。軟性の内視鏡190の経口的に挿入される先端部には、超音波入出力部110が配置されている。超音波入出力部110は、超音波射出部112と超音波受信部114を有する。超音波射出部112に接続する駆動部150と、超音波受信部114に接続する低周波信号検出部120とは、内視鏡190の基端側に配置されている。超音波射出部112と駆動部150とは、内視鏡190を挿通する配線によって接続されており、また、超音波受信部114と低周波信号検出部120とも、内視鏡190を挿通する配線によって接続されている。第1の実施形態と同様に低周波信号検出部120には、照射条件変更部130が接続されており、照射条件変更部130には、駆動信号設定部140が接続されており、駆動信号設定部140には、駆動部150が接続されている。また、駆動信号設定部140には、表示部160と入力部170とが接続されている。
【0068】
内視鏡190の先端の超音波入出力部110の近傍には、さらに穿刺部180が配置されている。この穿刺部180には、内視鏡190の基端側に配置された加圧部185が接続されている。穿刺部180は、超音波射出部112が射出する集束超音波の焦点920の近傍に、加圧部185から供給された超音波造影剤等を投与することができる。このように、穿刺部180及び加圧部185は、超音波を反射又は散乱させる微小物質を、対象部位に注入する注入部として機能する。その他の構成は第1の実施形態の場合と同様である。このとき、照射する超音波の周波数fはソナゾイド(登録商標)の共振周波数又はその高次の周波数に設定することが望ましい。なお、穿刺部180による超音波造影剤等の投与位置及び集束超音波の焦点位置は、音源に対して治療対象領域の中心よりも後方とすることが望ましい。このような位置関係とすることにより、造影剤などによる遮蔽効果を低減しつつ、高い治療効果を得ることが出来る。
【0069】
本実施形態によれば、例えば消化管越しに例えば膵臓や胆嚢に集束超音波を照射することができる。さらに、この集束超音波の焦点920の近傍のみに穿刺部180によって超音波造影剤等を投与できるので、超局所での超音波照射による加熱増強効果が見込める。この際、超音波照射装置を第1の実施形態や第2の実施形態のように駆動することで、第1の実施形態や第2の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0070】
なお、第2の実施形態と同様に、駆動周波数f1と駆動周波数f2とで超音波射出部112を駆動するようにしてもよい。また、内視鏡190は軟性内視鏡に限らず、硬性鏡を用いてもよい。また、注入する薬液は、超音波造影剤に限定されず、ナノバブルや金などの微粒子といった超音波を反射する物質でもよい。超音波を反射する物質を投与すると、その部分でキャビテーションが起こりやすくなり、さらに、反射超音波を有効に利用することができるようになる。超音波造影剤等は、静脈注射等で投与することも可能である。
【0071】
なお、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除しても、発明が解決しようとする課題の欄で述べられた課題が解決でき、かつ、発明の効果が得られる場合には、この構成要素が削除された構成も発明として抽出され得る。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0072】
100…超音波照射装置、110…超音波入出力部、112…超音波射出部、1121…第1の超音波射出部、1122…第2の超音波射出部、114…超音波受信部、120…低周波信号検出部、122…低周波フィルタ、124…ピーク成分検出部、126…比較部、130…照射条件変更部、140…駆動信号設定部、141…f1生成回路、142…f2生成回路、143…加算器、150…駆動部、151…第1の増幅器、152…第2の増幅器、160…表示部、170…入力部、180…穿刺部、185…加圧部、190…内視鏡、900…超音波照射対象物、920…焦点。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波設定値に基づいて、対象部位に向けて周波数がf(fは正の実数)である第1の周波数成分を含む第1の超音波を射出する超音波射出部と、
前記対象部位方向から到来する第2の超音波を受信する超音波受信部と、
前記第2の超音波に含まれる周波数がf/r(rは2より大きい実数)以下の低周波信号を検出する低周波信号検出部と、
前記低周波信号に基づいて、前記超音波設定値を変更させる条件変更部と、
を具備することを特徴とする超音波照射装置。
【請求項2】
前記超音波設定値の変更は、前記第1の超音波の射出を停止させる変更であることを特徴とする請求項1に記載の超音波照射装置。
【請求項3】
前記超音波設定値の変更は、前記第1の超音波の強度を低下させる変更であることを特徴とする請求項1に記載の超音波照射装置。
【請求項4】
前記低周波信号検出部が所定の閾値以上の強度を有する前記低周波信号を検出したら、前記条件変更部は前記超音波設定値を変更させることを特徴とする請求項1乃至3のうち何れか1項に記載の超音波照射装置。
【請求項5】
前記低周波信号検出部が所定の閾値以上の強度を有する前記低周波信号を検出してから所定の時間が経過したら、前記条件変更部は前記超音波設定値を変更させることを特徴とする請求項1乃至3のうち何れか1項に記載の超音波照射装置。
【請求項6】
前記低周波信号検出部が所定の閾値以上の強度を有する前記低周波信号を検出し該低周波信号の周波数が所定の値だけ低下したことを検出したら、前記条件変更部は前記超音波設定値を変更させることを特徴とする請求項1乃至3のうち何れか1項に記載の超音波照射装置。
【請求項7】
前記低周波信号検出部が所定の閾値以上の強度を有する前記低周波信号を検出し該低周波信号の周波数が所定値以下になったことを検出したら、前記条件変更部は前記超音波設定値を変更させることを特徴とする請求項1乃至3のうち何れか1項に記載の超音波照射装置。
【請求項8】
前記低周波信号検出部が所定の閾値以上の強度を有する前記低周波信号を検出し該低周波信号の強度が所定の値だけ変化したことを検出したら、前記条件変更部は前記超音波設定値を変更させることを特徴とする請求項1乃至3のうち何れか1項に記載の超音波照射装置。
【請求項9】
前記rは4であることを特徴とする請求項1乃至8のうち何れか1項に記載の超音波照射装置。
【請求項10】
前記第1の超音波は、周波数が前記fである前記第1の周波数成分と、周波数がf´(f´はfよりも小さな正の実数)である第2の周波数成分とを含むことを特徴とする請求項1乃至3のうち何れか1項に記載の超音波照射装置。
【請求項11】
前記第1の超音波は、周波数が前記fである前記第1の周波数成分と、周波数がf´(f´はfよりも小さな正の実数)である第2の周波数成分とを含み、
前記低周波信号検出部が、f/rよりも低い周波数を有し所定の閾値以上の強度を有する第1の低周波信号と、該第1の低周波信号と異なるf´/rよりも低い周波数を有し所定の閾値以上の強度を有する第2の低周波信号とである2つの前記低周波信号を検出したら、前記条件変更部は前記超音波設定値を変更させることを特徴とする請求項1に記載の超音波照射装置。
【請求項12】
前記第1の超音波は、周波数が前記fである前記第1の周波数成分と、周波数がf´(f´はfよりも小さな正の実数)である第2の周波数成分とを含み、
前記低周波信号検出部がf/rよりも低い周波数を有し所定の閾値以上の強度を有する第1の低周波信号を検出したら、前記条件変更部は前記第1の超音波の強度を低下させ、
前記低周波信号検出部が前記第1の低周波信号と異なるf´/rよりも低い周波数を有し所定の閾値以上の強度を有する第2の低周波信号を検出したら、又は該第2の低周波数信号が所定の変化をしたことを検出したら、前記条件変更部は前記第1の超音波の射出を停止させる、
ことを特徴とする請求項1に記載の超音波照射装置。
【請求項13】
f=2×f´であることを特徴とする請求項10乃至12のうち何れか1項に記載の超音波照射装置。
【請求項14】
前記条件変更部が前記超音波設定値を変更させることをユーザに報知する報知部をさらに具備することを特徴とする請求項1乃至13のうち何れか1項に記載の超音波照射装置。
【請求項15】
前記超音波を反射又は散乱させる微小物質を、前記対象部位に注入する注入部をさらに具備することを特徴とする請求項1乃至14のうち何れか1項に記載の超音波照射装置。
【請求項16】
超音波を射出する超音波射出部と、超音波を受信する超音波受信部とを備える超音波照射装置を用いた超音波の照射方法であって、
前記超音波射出部から対象部位に向けて射出する第1の超音波が含むべき第1の周波数f(fは実数)を設定するための周波数設定値を含む超音波設定値を設定し、
前記超音波設定値に基づいて、前記超音波射出部に前記第1の超音波を射出させ、
前記対象部位方向から到来する第2の超音波を前記超音波受信部に受信させ、
前記第2の超音波に含まれる周波数がf/r(rは2より大きい実数)以下の低周波信号を抽出し、
前記低周波信号のピーク値及び該ピーク値を示すピーク周波数を取得し、
前記ピーク値及び前記ピーク周波数を予め設定された閾値と比較することで、前記対象部位よりも前記超音波射出部側の領域におけるキャビテーションの発生状態を判定し、
前記判定の結果に基づいて、前記超音波設定値を変更させる、
ことを特徴とする超音波の照射方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2013−269(P2013−269A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−133063(P2011−133063)
【出願日】平成23年6月15日(2011.6.15)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】