説明

超音波画像診断方法及びシステム

適切なドプラゲインを決定してドプラスペクトルにおけるノイズ出現を抑制するために、血流速度を測定する際に超音波診断システムによって出力されるドプラスペクトル信号を分析するシステムおよび方法が開示される。ドプラスペクトルに存在するノイズは分析され、最適ゲインの基準として使用される。所定のレベルに照らしてドプラゲインが高すぎるまたは低すぎる場合には、全体のゲインが適宜調整される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して超音波画像の分野に関する。具体的には、本発明の実施形態は、血流速度を測定するのに使用されるドプラ信号において、自動的にゲインを調整し、ノイズ出現を抑制する方法及びシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
超音波は、種々の臓器、心臓、肝臓、胎児、血管を画像化するのに使用される。心臓血管疾病の診断には、通常、スペクトルドプラを使用して血流速度を測定する。パルスドプラ法がよく使用されるが、これは、空間識別能がなく超音波ビームに沿ってすべての信号をサンプリングする連続波(CW)ドプラと比較して、パルスドプラ法には特有の血管内の速度サンプリングを可能にする空間サンプリング能があるためである。CWドプラは、パルス繰り返し周波数(PRF)制限(ナイキストサンプリング定理)によって制限されないため、特に、高血流速度の測定が予測される場合に使用される。CWドプラは、それでも、FFT(高速フーリエ変換)やその他の分析を実施する際の信号サンプリングに起因して最大速度を制限される可能性がある。
【0003】
ドプラシステムは、典型的には、超音波を送信し、受信した超音波信号の周波数における偏移として血流速度(ドプラシフト周波数)を検出する。同相成分(I)及び直交成分(Q)を有する複素信号である参照信号を用いて、受信された超音波を送信周波数と同周波数で復号化する。ローパスフィルタを施した後、二次高調波などの高周波成分を遮断してベースバンド信号のみを通過させる。ベースバンド信号に対して、ウォールフィルタ(すなわち、ハイパスフィルタ)をかけて、静止組織や血管壁などのゆっくりと動く組織からクラッタノイズ出現を除去し、複素I−Qドプラ信号を得る。複素I−Qドプラ信号を、FFTアナライザなどのスペクトラムアナライザに入力して、血流速度を表すドプラ周波数スペクトルを得る。典型的には、128点、256点、512点FFTが使用される。
【0004】
ドプラスペクトルは、一般的に、血流の時間変動特性があるため、図12において示されるように経時的に表示される。横軸は時間であり、縦軸は周波数である。スペクトルパワーは、図12において示されるように、輝度として表示される。スペクトルパワーは、図3に示されるように、所与の時間におけるスペクトルパワー対周波数として座標で示すことができる。ドプラスペクトルは、超音波診断システム電子装置やその他の発生源に起因してノイズを示すことがある。図3は、FFTによって広範に分散されたランダムノイズを示すノイズフロアを有するドプラスペクトルを示す。ドプラフロー信号ゲインが低すぎる場合、ノイズが真の血流信号を隠してしまう可能性がある。逆に、図1は、高すぎるドプラフロー信号ゲインを有するドプラスペクトルにおいて、ピークドプラスペクトルがクリッピングされている(clipped)ことを示している。
【0005】
ドプラフロー信号のゲインは、FFTスペクトラムアナライザに入力されたドプラ信号の振幅を決定する。ドプラスペクトルの出力は、通常、8ビット、12ビット、16ビット、またはその他の解像度のダイナミックレンジに圧縮される。超音波診断システムに対して適切なドプラフロー信号ゲインが出力されると、ドプラスペクトルのSNR(信号対ノイズ比)が改善され、表示の際の画像の質が改善されることが認められる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
今日の超音波診断システムの多くが、最良のスペクトルを得るために、ユーザが、ドプラゲイン設定を手動で調整することができるようになっている。しかし、これらの設定を調整する際に、ユーザは、診断に費やしたほうがよいであろう時間を浪費することになる。これらの課題を克服する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明者は、適切なドプラゲインを決定してドプラスペクトルにおけるノイズ出現を抑制するために、血流速度を測定する際に超音波診断システムによって出力されるドプラスペクトル信号を分析するシステムおよび方法を有することが望ましいことを発見した。ドプラスペクトルに存在するノイズを分析して、最適ゲインの基準として使用する。所定のレベルに照らしてドプラゲインが高すぎるまたは低すぎる場合には、全体のゲインを調整する。
【0008】
本発明の一態様では、超音波画像化の際にドプラ信号処理器からのゲインを自動的に制御する方法が提供される。本発明のこの態様による方法は、戻り超音波信号を入力し、戻り超音波信号を復調し、戻り信号にウォールフィルタをかけてドプラフロー信号を生成し、ドプラフロー信号に対してスペクトル分析を行いドプラスペクトルを生成し、高レベル信号閾値を設定し、低レベル信号閾値を設定し、ノイズフロアレベル閾値を設定し、ドプラフロー信号から、ピークドプラスペクトルレベルと、ドプラスペクトル最大ノイズフロアとを検出し、ピークドプラスペクトル振幅が低レベル信号閾値よりも小さい場合にはピークドプラスペクトル振幅が高レベル信号閾値と等しくなるかまたは最大ノイズフロアがノイズフロアレベル閾値と等しくなるまでドプラフロー信号ゲインを増加させ、ピークドプラスペクトル振幅が高レベル信号閾値よりも大きい場合にはピークドプラスペクトル振幅が高レベル信号閾値と等しくなるかまたは最大ノイズフロアがノイズフロアレベル閾値と等しくなるまでドプラフロー信号ゲインを減少させる。
【0009】
本発明の別の態様では、超音波画像化の際にドプラスペクトル処理器のゲインを自動的に制御するシステムが提供される。本発明のこの態様によるシステムは、戻り超音波信号を受信するように構成され、出力部を有する受信器と、受信器の出力部に接続された入力部と、出力部とを有し、戻り超音波信号を復調してウォールフィルタをかけ、ドプラフロー信号を出力するように構成されたドプラ信号処理器と、ドプラ信号処理器の出力部に接続された入力部と、ゲイン制御信号入力部と、出力部と、を有し、ドプラフロー信号のゲインを変化させるように構成された可変利得増幅器と、可変利得増幅器の出力部と接続された入力部と、出力部とを有し、ドプラフロー信号をその対応する周波数スペクトルに変換するように構成されたスペクトラムアナライザと、スペクトラムアナライザの出力部に接続され、ドプラスペクトルを受信し、ピークドプラスペクトル振幅と最大ノイズフロアとを検出するように構成された自動ゲインエンジンであって、ゲイン制御信号をドプラフロー信号のスペクトルに存在する最大ノイズフロアと、所定の高信号レベル閾値と、所定の低信号レベル閾値と、所定のノイズフロア信号レベル閾値とに基づいて計算して可変利得増幅器のゲイン制御信号入力部に接続し、ピークドプラスペクトル振幅が高レベル信号閾値より大きい場合または低レベル信号閾値より小さい場合には、全体のゲインを調整してピークドプラスペクトル振幅が低レベル信号閾値より大きくかつ高レベル信号閾値より小さくなるように維持する、自動ゲインエンジンと、を備える。
【0010】
本発明の別の態様では、ドプラスペクトル信号でのノイズ出現を抑制する方法が提供される。本発明のこの態様による方法は、ドプラスペクトル信号を入力し、ドプラゲイン制御信号を受信し、ドプラゲイン制御信号に対応するノイズ抑制ゲイン曲線g(p)を使用し、ノイズ抑制ゲイン曲線g(p)を用いてドプラスペクトル振幅を処理し、ドプラスペクトル振幅の各周波数は、ノイズ抑制ゲイン曲線の応答によって調整される。
【0011】
本発明の別の態様では、ドプラスペクトル信号でのノイズ出現を抑制するノイズサプレッサが提供される。本発明のこの態様によるノイズサプレッサは、ゲイン調整されたドプラスペクトル信号を受信するように構成された入力部と、ゲイン調整されたドプラスペクトル信号のゲインを調整するために使用されるゲイン制御信号を受信するように構成され、ノイズ抑制ゲイン曲線g(p)を生成するゲイン制御信号入力部と、ノイズ抑制信号曲線g(p)を用いてゲイン調整されたドプラスペクトル信号を処理するように構成されたゲイン関数処理器であって、ドプラスペクトル信号入力部の各スペクトル成分の振幅がノイズ抑制ゲイン曲線g(p)の応答にしたがって調整されるゲイン関数処理器と、ノイズ抑制されゲイン調整されたドプラフロー信号を出力するように構成された出力部と、を備える。
【0012】
本発明の一つまたは複数の実施態様の詳細を、添付の図面および以下の説明において説明する。本発明の他の特徴、目的および利点は、説明および図面から、また特許請求の範囲から明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】例示的な高ゲインのドプラスペクトルプロットを表す図である。
【図2】例示的な低ゲインのドプラスペクトルプロットを表す図である。
【図3】ノイズフロアのある例示的なドプラスペクトルを表す図である。
【図4】例示的なノイズ抑制ゲイン関数g(p)を表す図である。
【図5A】ノイズ抑制前の例示的ドプラスペクトルを表す図である。
【図5B】ノイズ抑制後の例示的ドプラスペクトルを表す図である。
【図6】自動ドプラゲイン制御システムとノイズサプレッサとを備えた例示的ドプラスペクトル処理器を表す図である。
【図7】自動ドプラゲイン制御方法を説明する例示的フローチャートである。
【図8】例示的な複数のノイズ抑制ゲイン曲線を表す図である。
【図9】ノイズ抑制方法を説明するための例示的なフローチャートである。
【図10】自動ドプラゲイン制御とノイズ抑制とを備えた例示的な超音波画像診断システムを表す図である。
【図11A】例示的なゲイン関数g(p)処理器とゲイン関数g(p)生成器とを表す図である。
【図11B】生成器を備えた例示的なゲイン関数g(p)処理器を表す図である。
【図12】例示的な経時的ドプラスペクトルを表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施形態を添付の図面を参照して説明するが、図面全体を通じて同一番号は同一要素を表している。本発明の実施形態を詳細に説明する前に、本発明は、その適用において、以下の説明において説明された、または図面に図示された実施例の詳細に限定されないことを理解されたい。本発明は、他の実施形態も可能であり、種々の応用において、また種々の方法において実施または実行することが可能である。また、本明細書で使用される言語の使用方法や専門用語は、説明を目的としたものであり制限的なものとしてみなされるべきではないことを理解されたい。本明細書では、「含む」、「備える」、「有する」およびこれらの変化形は、それら以降に記載される項目とその同等物、さらに追加項目を包含することを意味している。「搭載した」、「接続した」、「連結した」という用語も広義に使用され、直接的および間接的な、搭載、接続、連結を包含している。さらに「接続した」および「連結した」は、物理的あるいは機械的な接続または連結に制限されるものではない。
【0015】
本発明は、図面において説明または含意されたどんな特定のソフトウェア言語にも限定されないことを留意されたい。本願の実装において種々の代替のソフトウェア言語を用いてもよいことは当業者には明らかである。当分野ではよくあることだが、構成要素および項目の中にはハードウェア要素であるかのように図示および説明されるものがあるということを理解されたい。しかし、当業者がこの詳細な説明を読めば、少なくとも一実施形態において本方法および本システムの構成要素がソフトウェアまたはハードウェアのいずれで実装されるかが理解されるだろう。
【0016】
図10は、自動ドプラゲインおよびノイズ抑制システムを備えたドプラスペクトル処理器1010を含む超音波診断システムを示している。図6は、自動ゲインエンジン619とノイズサプレッサ617とを備えたドプラ処理器1010を示している。図7は、自動ドプラゲイン方法を説明するフローチャートを示している。図9はノイズ抑制方法を説明するためのフローチャートを示している。超音波信号は、送信器1002によって駆動される超音波プローブ1006から送信/受信スイッチ1004を介して送信される。受信器1008は、プローブ1006からスイッチ1004を介して超音波信号を受信し、信号1009を処理する(ステップ705)。
【0017】
受信器1008は、処理された信号1009をドプラスペクトル処理器1010と、カラーフロー処理器1012と、Bモード画像処理器1014とに出力する。ドプラスペクトル処理器1010は、信号1009を処理して、ドプラスペクトルをスキャンコンバータ1016へ出力する。カラーフロー処理器1012は、信号1009を処理し、カラーフロー画像をスキャンコンバータ1016へ出力する。Bモード画像処理器1014は、信号1009を処理し、Bモード画像をスキャンコンバータ1016へ出力する。スキャンコンバータ1016は、Bモード画像、カラーフロー画像、ドプラスペクトルから1つまたは複数の信号を受信し、それらの画像を表示モニタ1018への出力のための走査変換画像へ変換する。
【0018】
処理された信号1009は、ドプラフロー信号612を時間領域で演算するドプラ信号処理器611に接続される(ステップ710)。ドプラフロー信号612は、ドプラ信号のゲインを調節する可変利得増幅器(VGA)613に接続される。ゲイン調節されたドプラ信号614は、時間領域ドプラ信号をそのスペクトル周波数成分に変換するスペクトラムアナライザ615に接続される(ステップ715)。周波数成分またはスペクトル616は、ノイズサプレッサ617と自動ゲインエンジン619とに接続される。ノイズサプレッサ617は、図4に示されるように、曲線g(p)となる入出力関係を有する。図11Aおよび図11Bに示されるように、ノイズサプレッサ617は、入出力関係としてのg(p)1102または1110、あるいは計算器としての1110またはそれらの組み合わせと、これもまたLUTまたは計算器であるゲイン曲線生成器1104、とを備えたルックアップテーブル(LUT)として実装される。生成器1104としての計算器と組み合わされたLUTの場合、ノイズ抑制曲線は、LUTに記憶され、計算器は抑制曲線を受信して、ゲイン制御信号642に対応する曲線を生成する。
【0019】
LUTのみで生成器1104とする場合は、複数のノイズ抑制曲線がLUTに記憶され、ノイズ抑制曲線が、ゲイン制御信号642に応じて選択される。あるいは、計算器のみで生成器1104とする場合は、ドプラゲイン曲線に応じたノイズ抑制曲線を生成することができる。次に、生成器1104は、その曲線をLUTであるゲイン関数処理器1102に転送して、ノイズ抑制曲線g(p)をドプラスペクトル616に適用させる。あるいは、図11Bにおいて示されるように、ゲイン関数g(p)処理器1102とノイズ抑制曲線生成器1104とが、1つの装置1110として実装されることも可能である。ドプラスペクトル616の入力とゲイン制御信号642の入力とを有するLUTが使用される。あるいは、計算器1110は、ドプラスペクトル616にゲイン関数g(p)を適用するだけではなくノイズ抑制曲線を生成するのに使用されてもよい。
【0020】
ノイズサプレッサ617は、ドプラスペクトル616上のノイズ出現を抑制する。ノイズサプレッサ617は、ノイズ抑制されたドプラスペクトル(出力625)を出力する。自動ゲインエンジン619は、ローパスフィルタ626と信号閾値処理器629とを含む。ローパスフィルタ626は、スペクトラムアナライザ615によって出力されたスペクトル周波数成分616にフィルタをかけて、平滑化されたスペクトル627を生成して信号閾値処理器629へ出力する。未処理のドプラスペクトル616もまた、信号閾値処理器629に接続される(ステップ720)。
【0021】
信号閾値処理器629は、平滑化されたスペクトル627のレベルを検出するための高レベル閾値631と、低レベル閾値633と、ノイズフロアレベル閾値635と、周波数成分を検出するための周波数ビンカウンタ637とを含む。同様に、信号閾値処理器629は、未処理のドプラスペクトル616のレベルを検出するための高レベル閾値631と、低レベル閾値633と、ノイズフロアレベル閾値635と、周波数成分を検出するための周波数ビンカウンタ637とを含む(ステップ725)。図3は、最大スペクトル振幅レベルに対して高レベル閾値631と、低レベル閾値633と、ノイズフロアレベル閾値635とを有する例示的な平滑化されたドプラスペクトルを示している。典型的には、最大スペクトル振幅レベルは、255(8ビット)か、511(9ビット)か、1023(10ビット)か、またはその他のレベルである。高信号レベル閾値631は、例えば、最大値255に対して、255か、250か、225か、または200となる。低信号レベル閾値633は、最大スペクトルレベル値255に対して、例えば、128となり、ノイズフロアレベル閾値635は、最大スペクトルレベル値255に対して、例えば、16となる。
【0022】
自動ゲインエンジン619は、スペクトラムアナライザ615によるドプラスペクトル出力の頂点と、高信号レベル閾値631と低信号レベル閾値633とを比較することによってドプラフロー信号のゲインを最適化する。周波数ビンカウンタ637は、振幅が高信号レベル閾値631より大きい連続するドプラスペクトル周波数616の数をカウントする。また、周波数ビンカウンタ637は、振幅が低信号レベル閾値633より大きい連続するドプラスペクトル周波数の数をカウントする。また、周波数ビンカウンタ637は、ドプラスペクトルにおける平坦部分であるノイズフロア301の最大レベルを検出する。
【0023】
図1は、ドプラスペクトル627のうちクリッピングされたピーク103を示すドプラスペクトル101を表している。クリッピングは、ドプラスペクトル振幅が最大スペクトルレベルを超える場合に発生する。クリッピングは、ドプラゲインが高すぎることを示している。本発明では、振幅が高信号レベル閾値631より大きい連続するスペクトル周波数(または周波数ビン)の数が、所定の数(例えば10)より大きい場合に、ドプラゲイン613は高すぎると考えられる。
【0024】
図2は、ドプラスペクトルであって、ドプラゲインが低すぎることを示す、ドプラスペクトラム627または617の振幅(またはパワー)の低頂点201を表している。本発明では、振幅が低信号レベル閾値633より大きい連続するスペクトル周波数(または周波数ビン)の数が所定の数(例えば10)より小さい場合に、可変利得増幅器613のゲイン(ドプラゲイン)が低すぎると考えられる。
【0025】
未処理の(すなわち、単一の)ドプラスペクトル616ではなく、平滑化された(ローパスフィルタを施された)ドプラスペクトル627を、より小さく事前設定された(カウント)数および/またはより低い高信号レベルとともに使用してもよい。
【0026】
自動ゲインエンジン619は、大部分の電子ノイズがランダムであることに起因して周波数範囲全体にわたって拡散している可能性のあるノイズフロアを検出する。ドプラスペクトルを計算した場合、ノイズはその広帯域特性に起因して周波数範囲全体にわたって拡散している。血流速度が最大速度より小さい場合、またはドプラスペクトル帯域幅がPRFより小さい場合、ノイズは容易に検出される。図3は、ドプラスペクトルに関する最大のノイズフロア301と、高信号レベル閾値631と低信号レベル閾値633との間のデッドバンド303とを表している。ノイズフロアからのみなる周波数帯域は、図3に示されるように容易に認識され(低レベルの波状)、ノイズフロアの最大レベル301は、この周波数範囲において決定される。例えば、ベースライン(周波数0)の近くの周波数成分を除く(ウォールフィルタの効果によりこの領域ではノイズがないため)、全てのスペクトル周波数成分について、所定の数(例えば10)の連続する周波数成分の平均振幅が計算される。ノイズフロア領域からの平均振幅は、図3に示されるように血流のスペクトル周波数成分よりもずっと小さい。このように、ノイズフロア領域は、血流領域との比較で決定される。最小平均振幅が取得されると、所定の係数で乗算され、最大ノイズフロアが推定される。血流速度は心房収縮期に高く、心房拡張期に低くなるというように経時的に変化する。したがって、拡張期には、血流が低く高周波数がないため(すなわちノイズフロアのみが示される)、ノイズフロアは、通常、高周波領域において現れる。これはまたノイズフロアを特定するのにも使用可能である。
【0027】
ピークドプラスペクトル627または616が、低信号レベル閾値633よりも小さい場合には、自動ゲインエンジン619が、ゲイン制御信号630を生成し、可変利得増幅器613へ出力する(ステップ730)。ゲイン制御信号630は、自動/手動ドップラゲインモードスイッチ639を介して可変利得増幅器613に接続される。スイッチ639により、ユーザは、生成されたゲイン制御信号630とユーザによって調整された手動ゲイン制御信号641とを切り替えることによって自動ゲイン制御かユーザによるゲイン制御かを選択することができる。ゲイン制御信号630は、複数の制御方式から生成されてもよく、また、修正ゲインに達するまでピークドプラスペクトルを上昇させるために必要な修正量に相当しており、つまり、高レベル閾値631を超える振幅を有する連続するスペクトル周波数の数は、上記所定の数、または所定の数から事前設定された小さい数を引いた数に等しくなる。ノイズフロア301が存在し、ノイズフロアレベル閾値635の上へピークドプラスペクトル627とともに整合的に上昇した場合、ドプラゲインを、ノイズフロアがノイズフロアレベル閾値635以下になるように減少させながら、ゲイン制御信号630を調整する(ステップ735)。
【0028】
高レベル閾値631を超えた振幅を有する連続するドプラスペクトル周波数(すなわち、周波数ビン)の数が所定の数より大きい場合には高ゲインが検出され、自動ゲインエンジン619はゲイン制御信号630を生成して可変利得増幅器613へ出力する(ステップ740)。ゲイン制御信号630は、修正ゲインに達するまでピークドプラスペクトル627を減少させるのに必要な修正量に相当する。つまり、高レベル閾値631を超える振幅を有する連続するスペクトル周波数627または616の数は、上記所定の数か、または所定の数から事前設定された数を引いた数に等しくなる。ノイズフロア301が存在し、ノイズフロアレベル閾値635よりも大きい場合には、ノイズフロアがノイズフロアレベル閾値635以下になるようにドプラゲインを減少させながら、ゲイン制御信号630を調整する(ステップ745)。
【0029】
ピークドプラスペクトル627または616が、高信号レベル閾値631の条件以下であった場合(すなわち、高レベル閾値を超える振幅を有する連続するスペクトル周波数の数が所定の数を超えた場合)、かつ、最大ノイズフロア301がノイズフロアレベル閾値635より大きい場合、ゲイン制御信号630は調整される。ドプラゲインは、最大ノイズフロアがノイズフロアレベル閾値635以下になるように減少される。
【0030】
ノイズサプレッサ617は、ドプラ信号616でのノイズ出現を抑制する。図9は、ノイズ抑制方法について説明したフローチャートを示している。ノイズフロアはゲイン(ドプラゲイン)に伴って変化するので、ノイズサプレッサ617はゲイン制御信号642に依存している(ステップ905、910)。ドプラゲインが上昇すると、ノイズサプレッサ617は、ゲイン制御信号642を受信し、ゲイン曲線生成器1104または1110において記憶または生成される複数のゲイン曲線からノイズ抑制ゲイン曲線を選択する(ステップ915)。
【0031】
図8は、生成器1104または1110において、低ゲイン、中ゲイン、高ゲイン条件用に記憶または生成された3つのノイズ抑制ゲイン曲線の例を表している。ゲイン曲線生成器1104または1110において記憶または生成された抑制ゲイン曲線は、ゲイン設定に一致する。ゲイン制御信号によって示されるドプラゲインが低い場合は、図8に示されるように「低ゲイン」ノイズ抑制曲線が選択または生成される。ドプラゲインが中の場合は、「中ゲイン」ノイズ抑制曲線が選択または生成される。ゲインが高の場合は、「高ゲイン」ノイズ抑制曲線が選択または生成される。選択されたノイズ抑制ゲイン曲線は、ゲイン関数処理器1102または1110においてゲイン関数g(p)として取り込まれる(ステップ920)。別の例では、ドプラゲイン制御信号642が1に設定された場合、1番目の抑制曲線が選択または生成される。ドプラゲイン制御信号642が2に設定されると、2番目の抑制曲線が選択または生成される。同様に、ドプラゲイン制御信号がNの場合、N番目の抑制曲線が選択または生成される。選択されたノイズ抑制ゲイン曲線は、ゲイン関数g(p)1102または1110として取り込まれる(ステップ920)。ノイズサプレッサ617は、図11Aおよび図11Bに示されるように、1つの計算器のみか、LUT付きの計算器か、または複数のLUTからなり、ゲイン制御信号642を使用する。
【0032】
ノイズサプレッサ617は、ドプラスペクトル616を受信し、各スペクトル強度pを応答g(p)1102または1110を使用して変換する。ゲイン関数g(p)1102または1110は、ゲイン曲線生成器1104または1110からのゲイン曲線である。図4は、曲線であるゲイン関数g(p)を表している。
【0033】
図5Aは、ノイズのあるドプラスペクトルを表している。図5Bは、ノイズサプレッサ617の結果を表している(ステップ925)。ノイズサプレッサ617は、ノイズフロアを低くするノイズ抑制曲線の技術を利用している。
【0034】
以上、本発明の一または複数の実施形態を説明したが、本発明の精神および範囲に逸脱しない範囲で種々の変更が可能であることは明らかである。本発明の信号処理の順序は変更してもよい。本発明のシステム処理器の順序を変更してもよい。各処理器を他の処理器と置換してもよい。方法ステップの順序を変更してもよい。方法を変更してもよい。したがって、他の実施形態も添付の請求項の範囲内となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波画像化の際にドプラ信号処理器からのゲインを自動的に制御する方法であって、
戻り超音波信号を入力し、
前記戻り超音波信号を復調し、
前記戻り信号にウォールフィルタをかけてドプラフロー信号を生成し、
前記ドプラフロー信号に対してスペクトル分析を行いドプラスペクトルを生成し、
高レベル信号閾値を設定し、
低レベル信号閾値を設定し、
ノイズフロアレベル閾値を設定し、
前記ドプラフロー信号から、ピークドプラスペクトルレベルと、ドプラスペクトル最大ノイズフロアとを検出し、
前記ピークドプラスペクトル振幅が前記低レベル信号閾値よりも小さい場合には、前記ピークドプラスペクトル振幅が前記高レベル信号閾値と等しくなるか、または前記最大ノイズフロアが前記ノイズフロアレベル閾値と等しくなるまでドプラフロー信号ゲインを増加させ、
前記ピークドプラスペクトル振幅が前記高レベル信号閾値よりも大きい場合には、前記ピークドプラスペクトル振幅が前記高レベル信号閾値と等しくなるか、または前記最大ノイズフロアが前記ノイズフロアレベル閾値と等しくなるまでドプラフロー信号ゲインを減少させる、方法。
【請求項2】
ローパスフィルタを使用して前記ドプラスペクトルを平滑化することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
請求項1に記載の方法であって、前記ピークドプラスペクトル振幅が前記高レベル信号閾値より大きいかどうかの決定は、さらに、
前記高レベル信号閾値よりも大きい振幅を有する連続するドプラスペクトル周波数成分の数をカウントし、
前記高レベル信号閾値よりも大きい振幅を有する連続するドプラスペクトル周波数成分の数を所定の数と比較し、前記連続する周波数成分の数が前記所定の数より大きい場合には、前記ピークドプラスペクトル振幅は前記高レベル信号閾値より大きいとする、方法。
【請求項4】
請求項1に記載の方法であって、前記ピークドプラスペクトルが前記低レベル信号閾値より小さいかの決定は、さらに、
前記低レベル信号閾値よりも大きい振幅を有する連続するドプラスペクトル周波数成分の数をカウントし、
前記低レベル信号閾値よりも大きい振幅を有する連続するドプラスペクトル周波数成分の数を所定の数と比較し、前記連続する周波数成分の数が前記所定の数より小さい場合には、前記ピークドプラスペクトル振幅は前記低レベル信号閾値より小さいとする、方法。
【請求項5】
請求項1に記載の方法であって、前記ドプラスペクトルの最大ノイズフロアの検出は、さらに、
所定の数の前記連続するドプラスペクトル周波数成分の平均振幅を、ゼロ周波数ベースラインの近くの周波数成分を除く全ての周波数成分について計算し、
前記平均振幅のうち最小平均振幅を決定し、
前記最小平均振幅を所定係数で乗算して前記最大ノイズフロアを決定する、方法。
【請求項6】
超音波画像化の際にドプラスペクトル処理器のゲインを自動的に制御するシステムであって、
戻り超音波信号を受信するように構成され、出力部を有する受信器と、
前記受信器の出力部に接続された入力部と、出力部とを有し、前記戻り超音波信号を復調してウォールフィルタをかけてドプラフロー信号を出力するように構成されたドプラ信号処理器と、
前記ドプラ信号処理器の出力部に接続された入力部と、ゲイン制御信号入力部と、出力部と、を有し、前記ドプラフロー信号のゲインを変化させるように構成された可変利得増幅器と、
前記可変利得増幅器の出力部と接続された入力部と、出力部とを有し、前記ドプラフロー信号をその対応する周波数スペクトルに変換するように構成されたスペクトラムアナライザと、
前記スペクトラムアナライザの出力部に接続され、前記ドプラスペクトルを受信し、ピークドプラスペクトル振幅と最大ノイズフロアとを検出するように構成された自動ゲインエンジンであって、ゲイン制御信号を、前記ドプラフロー信号のスペクトルに存在する前記最大ノイズフロアと、所定の高信号レベル閾値と、所定の低信号レベル閾値と、所定のノイズフロア信号レベル閾値とに基づいて計算して前記可変利得増幅器のゲイン制御信号入力部に接続し、前記ピークドプラスペクトル振幅が前記高レベル信号閾値より大きい場合、または前記低レベル信号閾値より小さい場合には、全体のゲインを調整して前記ピークドプラスペクトル振幅が前記低レベル信号閾値より大きくかつ前記高レベル信号閾値より小さくなるように調整する、自動ゲインエンジンと、を備えるシステム。
【請求項7】
前記自動ゲインエンジンは、さらに、前記ピークドプラスペクトル振幅が前記低レベル信号閾値より小さい場合には、前記ピークドプラスペクトルが前記高レベル信号閾値と等しくなるか、または前記最大ノイズフロアが前記ノイズフロアレベル閾値と等しくなるまで前記ドプラゲイン信号を増加させるように構成される、請求項6に記載のシステム。
【請求項8】
前記自動ゲインエンジンは、さらに、前記ピークドプラスペクトル振幅が前記低レベル信号閾値より大きい場合には、前記ピークドプラスペクトル振幅が前記高レベル信号閾値と等しくなるか、または前記最大ノイズフロアが前記ノイズフロアレベル閾値と等しくなるまで前記ドプラゲイン信号を減少させるように構成される、請求項6に記載のシステム。
【請求項9】
前記自動ゲインエンジンは、さらに、前記ドプラスペクトルを平滑化するように構成されたローパスフィルタ備える、請求項6に記載のシステム。
【請求項10】
請求項6に記載のシステムであって、
前記自動ゲインエンジンは、さらに、前記高レベル信号閾値より大きい振幅を有する前記ピークドプラスペクトルの連続する周波数成分の数をカウントし、前記高レベル信号閾値より大きい振幅を有する前記ピークドプラスペクトルの連続する周波数成分の数を所定の数と比較するように構成され、
前記連続する周波数成分の数が前記所定の数より大きい場合には、前記ピークドプラスペクトル振幅は前記高レベル信号閾値よりも大きいとする、システム。
【請求項11】
請求項6に記載のシステムであって、
前記自動ゲインエンジンは、さらに、前記低レベル信号閾値より大きい振幅を有する前記ピークドプラスペクトルの連続する周波数成分の数をカウントし、前記低レベル信号閾値より大きい振幅を有する前記ピークドプラスペクトルの連続する周波数成分の数を所定の数と比較するように構成され、
前記連続する周波数成分の数が前記所定の数より小さい場合には、前記ピークドプラスペクトル振幅は前記低レベル信号閾値よりも小さいとする、システム。
【請求項12】
請求項6に記載のシステムであって、
前記自動ゲインエンジンは、さらに、ゼロ周波数ベースラインに近い周波数成分を除く全てのスペクトル周波数成分について、所定数の前記連続するドプラスペクトル周波数成分の平均振幅から前記ドプラスペクトルの最大ノイズフロアを検出し、前記平均振幅のうちの最小平均振幅を決定するように構成され、
前記最大ノイズフロアは、前記最小平均振幅を所定係数で乗算したものである、システム。
【請求項13】
ドプラスペクトル信号でのノイズ出現を抑制する方法であって、
前記ドプラスペクトル信号を入力し、
ドプラゲイン制御信号を受信し、
前記ドプラゲイン制御信号に対応するノイズ抑制ゲイン曲線g(p)を使用し、
前記ノイズ抑制ゲイン曲線g(p)を用いて前記ドプラスペクトル振幅を処理し、前記ドプラスペクトル振幅の各周波数は、前記ノイズ抑制ゲイン曲線の応答によって調整される、方法。
【請求項14】
ノイズ抑制ゲイン曲線の使用は、さらに、前記ドプラゲイン制御信号に対応するノイズ抑制曲線g(p)を生成する、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
ノイズ抑制ゲイン曲線の使用は、さらに、前記ドプラゲイン制御信号に対応するノイズ抑制曲線g(p)を選択する、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
ドプラスペクトル信号でのノイズ出現を抑制するノイズサプレッサであって、
ゲイン調整されたドプラスペクトル信号を受信するように構成された入力部と、
前記ゲイン調整されたドプラスペクトル信号の前記ゲインを調整するために使用されるゲイン制御信号を受信するように構成され、ノイズ抑制ゲイン曲線g(p)を生成するゲイン制御信号入力部と、
前記ノイズ抑制信号曲線g(p)を用いて前記ゲイン調整されたドプラスペクトル信号を処理するように構成されたゲイン関数処理器であって、前記ドプラスペクトル信号入力部の各スペクトル成分の振幅が前記ノイズ抑制ゲイン曲線g(p)の応答にしたがって調整される、ゲイン関数処理器と、
ノイズ抑制されゲイン調整されたドプラフロー信号を出力するように構成された出力部と、を備えたノイズサプレッサ。
【請求項17】
前記ゲイン関数処理器は、さらに、前記ゲイン抑制信号に応答してノイズ抑制ゲイン曲線を生成するノイズ抑制曲線生成器から受信されるノイズ抑制ゲイン曲線g(p)を含む第1のルックアップテーブルを備える、請求項16に記載のノイズサプレッサ。
【請求項18】
前記ゲイン制御信号は、前記ゲイン制御信号に対応する所定の応答を有する前記ノイズ抑制ゲイン曲線g(p)のうち1つを選択する、請求項16に記載のノイズサプレッサ。
【請求項19】
前記ゲイン関数処理器は、さらに、記憶されたノイズ抑制と前記ゲイン抑制曲線とからノイズ抑制曲線を生成する、ルックアップテーブルと組み合わされた計算器を備える、請求項16に記載のノイズサプレッサ。
【請求項20】
前記ゲイン関数処理器は、計算器、計算器およびルックアップテーブル、または複数のルックアップテーブルからなるグループから選択される、請求項16に記載のノイズサプレッサ。
【請求項21】
前記ノイズ抑制曲線生成器は、さらに、計算器と、複数のノイズ抑制ゲイン曲線を含むルックアップテーブルとを備える、請求項17に記載のノイズサプレッサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11A】
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【図11B】
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【図12】
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【公表番号】特表2011−501997(P2011−501997A)
【公表日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−530679(P2010−530679)
【出願日】平成20年10月15日(2008.10.15)
【国際出願番号】PCT/JP2008/069080
【国際公開番号】WO2009/057486
【国際公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【出願人】(390029791)アロカ株式会社 (899)
【Fターム(参考)】