説明

超音波画像診断装置

【課題】受信超音波信号を所定の参照信号との相関処理(マッチトフィルタ処理)を行うことによって、受信波のパルス圧縮を行う超音波画像診断装置において、時々刻々と変化している被検体の状態や関心領域に対応する。
【解決手段】相関部4に前記参照信号の係数列から成るテンプレートを設定するコントローラ10に、テンプレート最適化部23および更新制御部24を設け、入力操作部25からユーザが画質アップを要求している間、および出力信号(t)をモニタし、現在のS/Nから自動判定して、更新(最適化)した方が望ましい状況で、更新制御部24は前記テンプレート最適化部23に更新のトリガを与える。したがって、テンプレートを、デフォルト値から、或いは一旦変更された値からさらに、最適化アルゴリズムに従って逐次最適化させ、時々刻々と変化している被検体の状態や関心領域に対応することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波画像診断装置に関し、特に受信超音波信号と予め定められる時間経過に対応した係数列から成る参照信号との相関処理(マッチトフィルタ処理)を行うことによって、受信波のパルス圧縮を行い、分解能を向上するものに関する。
【背景技術】
【0002】
被検体内に超音波信号を送信し、それによる被検体内からの超音波信号から、被検体内の画像を表示するようにした超音波画像診断装置において、時間的に或る程度の幅を有するパルスを送信超音波信号として用い、前記のように、受信超音波信号と所定の参照信号との相関処理(マッチトフィルタ処理)を行うことによって、受信波のパルス圧縮を行い、距離方向および方位方向の分解能を向上するようにしたものが、従来から提案されている。そのようなパルス圧縮技術を用いる超音波画像診断装置において、前記相関処理(マッチトフィルタ処理)に用いられる参照信号は、時間経過に対応した係数列から成り、テンプレートとして予め格納されている。
【0003】
そして、特許文献1では、前記テンプレート(圧縮フィルタ)の係数kの最適化を図っている。すなわち、knxy(前記係数k)を予め決定し、この係数kからフィルタ特性RFnxyを算出し、与えられた参照波の特性rnxyのもとで、形成されるピークの幅を少なくし、S/Nを最大にするknxy(前記係数k)を求めている。
【特許文献1】特開平11−174031号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
診断用途にあっては、体動や拍動などがあるために、上述の従来技術では、検査に先立ってフィルタを最適化しているので、必ずしも良好なパルス圧縮が得られるとは限らないという問題がある。また、診断ではプローブを動かしながら検査が行われるので、動きに合わせて検査対象の組成も連続的に変化して、最適なフィルタ特性も時々刻々と変化していることになり、これによってもまた、上述のように検査に先立って最適化されたフィルタでは、診断に充分なS/Nの画像が得られないという問題がある。特に、解像度を上げることができるティシューハーモニックイメージングにおいては、高調波の抽出にあたって、受信波の信号強度が極めて低く、また、基本波と同じフィルタ特性が高調波にも適しているとは限らないので、最適なフィルタ特性の決定は重要である。
【0005】
本発明の目的は、時々刻々と変化している被検体の状態や関心領域に最も適合したパルス圧縮処理を行うことができる超音波画像診断装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の超音波画像診断装置は、送信部から被検体内に第1の超音波信号を送信し、それによる被検体内からの第2の超音波信号を受信部で受信し、相関部が、前記受信部で受信された第2の超音波信号と予め定められる時間経過に対応した係数列から成る参照信号との相関処理を行うことによって、前記第2の超音波信号中に含まれる所望周波数成分を抽出し、その抽出結果から、画像処理部が前記被検体内の画像を作成し、表示部に表示させる超音波画像診断装置において、前記参照信号の係数列から成るテンプレートを最適化アルゴリズムに従って最適化し、その最適化結果に更新するテンプレート最適化部と、予め定めるトリガ入力に応答して、前記テンプレート最適化部に更新のトリガを与える更新制御部とを含むことを特徴とする。
【0007】
上記の構成によれば、送信部から被検体内に基本波となる第1の超音波信号を送信し、それによる被検体内からの第2の超音波信号を受信部で受信し、相関部が、前記受信部で受信された第2の超音波信号と予め定められる時間経過に対応した係数列から成る参照信号との相関処理(マッチトフィルタ処理)を行うことによって、受信波のパルス圧縮を行い、前記第2の超音波信号中に含まれる前記基本波成分や高調波成分などの所望周波数成分を抽出し、その抽出結果から、画像処理部が前記被検体内の画像を作成し、表示部に表示させる超音波画像診断装置において、前記相関部で使用され、前記参照信号の係数列から成るテンプレートは、体動や手技操作等で少し部位が変わっただけで、或いは白黒Bモードからドップラーモードのようにモードが変わると、現在のテンプレートが最適である(最もS/Nが高い画像が得られている)とは限らなくなる。そこで本発明では、前記テンプレートを、デフォルト値から、或いは一旦変更された値からさらに、最適化アルゴリズムに従って逐次最適化させることができるテンプレート最適化部を設け、更新制御部が、検査技師や医師などのユーザ操作に応答してその更新(最適化)が要求されている間は、或いは装置側が現在のS/Nから自動判定して更新(最適化)した方が望ましい状況では、前記テンプレート最適化部に更新のトリガを与え、更新(最適化)を継続させる。
【0008】
したがって、時々刻々と変化している被検体の状態や関心領域に最も適合したパルス圧縮処理を行うことで、より鮮明な診断用画像を得ることができる。
【0009】
また、本発明の超音波画像診断装置は、前記受信部で受信された第2の超音波信号を記録してゆく信号記録部をさらに備え、前記相関部のテンプレートがデフォルト値に設定された状態で、前記信号記録部への記録が行われるとともに、前記更新制御部からは、予め定める選択画像または選択領域であることを表すマークが入力可能であり、前記信号記録部は、そのマークを前記第2の超音波信号に合わせて記録することを特徴とする。
【0010】
上記の構成によれば、前記検査技師や医師などのユーザが、表示部への表示画像を確認しながらリアルタイムで前記テンプレートの更新(最適化)を行うだけでなく、前記検査技師などが前記受信部で受信された第2の超音波信号を信号記録部に記録して、後に医師などがその画像を確認して診断を行うような場合、その記録の段階で、前記更新制御部から、予め定める選択画像または選択領域であることを表すマークを入力するようにする。そして、前記信号記録部は、そのマークを前記第2の超音波信号に合わせて記録しておく。
【0011】
したがって、後に画像を確認する際は、ユーザは前記選択画像や選択領域だけを注目すればよく、或いは前記選択画像や選択領域だけしか表示が行われず、診断用画像の確認作業を大幅に簡略化することができるとともに、前記テンプレート最適化部によるテンプレートの更新(最適化)処理を削減することができる。また、前記テンプレート最適化部によるテンプレートの更新(最適化)処理にリアルタイム性は要求されず、該テンプレート最適化部の能力、すなわちコストを低く抑えることができる。
【0012】
さらにまた、本発明の超音波画像診断装置では、前記テンプレート最適化部における最適化アルゴリズムは、山登り法に、大域的探索法であり、該テンプレート最適化部は、前記山登り法による最適化によっても所定レベルのS/Nが得られず、さらに前記更新制御部から更新のトリガが与えられる場合に、遺伝的アルゴリズム法に代表される大域的探索法を使用することを特徴とする。
【0013】
上記の構成によれば、最適化アルゴリズムを複数切換えて使用することで、或る最適化アルゴリズムが適していなくても、他の最適化アルゴリズムでS/Nの高い診断画像を作成することができる。さらに、山登り法を優先して使用することで、計算時間や調整パラメータを少なくすることができるとともに、特異的に効果のある係数列、すなわち局所解を探索することができる。
【0014】
好ましくは、前記テンプレートは、前記時間経過に伴って周波数を変化させるチャープ波形F(t)を形成するものであり、波形歪み係数をw(t)とし、チャープ開始周波数をF1とし、チャープ終了周波数をF2とし、チャープ長をdとし、β=(F2−F1)/dとするとき、F(t)=w(t)sin(2π(F1+βt)t)であり、前記デフォルト値は、各周波数F1,F2、チャープ長d、波形歪み係数w(t)の初期値であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の超音波画像診断装置は、以上のように、受信超音波信号を所定の参照信号との相関処理(マッチトフィルタ処理)を行うことによって、受信波のパルス圧縮を行う超音波画像診断装置において、前記相関処理に使用され、前記参照信号の係数列から成るテンプレートを、最適化アルゴリズムに従って逐次最適化させることができるテンプレート最適化部を設け、更新制御部が、ユーザ操作に応答してその更新(最適化)が要求されている間は、或いは装置側が現在のS/Nから自動判定して更新(最適化)した方が望ましい状況では、前記テンプレート最適化部に更新のトリガを与え、更新(最適化)を継続させる。
【0016】
したがって、時々刻々と変化している被検体の状態や関心領域に最も適合したパルス圧縮処理を行うことで、より鮮明な診断用画像を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
図1は、本発明の実施の一形態に係る超音波画像診断装置1の電気的構成を示すブロック図である。この超音波画像診断装置1は、大略的に、図略の生体等の被検体に対して送信部2から第1の超音波信号f1を送信すると共に、それによって被検体から来た第2の超音波信号(エコー)f2を受信部3で受信し、相関部4が、前記受信部3で受信された第2の超音波信号f2と予め定められる時間経過に対応した係数列から成る参照信号との相関処理(マッチトフィルタ処理)を行うことによって、受信波のパルス圧縮を行い、前記第2の超音波信号f2中に含まれる前記基本波成分や高調波成分などの所望周波数成分を抽出し、その抽出結果から、画像処理部5が前記被検体内の画像を作成し、表示部6に表示させるものである。
【0018】
前記送信部2および受信部3は圧電素子から成り、1次元や2次元のマトリクス状に配列されて成る多数のこの圧電素子に対して、前記送信部2、受信部3および相関部4等がそれぞれ対応して設けられることになるが、この図1では、図面の簡略化のために、1素子分で説明している。また、前記相関処理(マッチトフィルタ処理)によって、前記第2の超音波信号f2中に含まれる基本波成分や所望とする高調波成分を抽出可能であるが、複数の周波数帯を同時に使用する場合には、各圧電素子に対して、前記送信部2、受信部3および相関部4等が、周波数帯数分設けられることになる。
【0019】
前記送信部2は、コントローラ10の制御部11からの送信信号に応答して、送信ビームフォーマ回路12で作成されたアレイ駆動信号によって駆動され、前記第1の超音波信号f1を送信する。前記各圧電素子への送信信号には、送信ビームフォーマ回路12によって、フォーカルポイント(フォーカス点)および/またはステアリング角度(方位)に対応した時間差が付与されている。本実施の形態でこの送信部2から送信される前記第1の超音波信号f1は、後述の相関部4による相関処理によって検出することが容易であるという観点から、周波数を時間経過に伴って所定割合で変化させるチャープ波が用いられる。図2には、周波数が時間経過に従って徐々に高くなるチャープ波を示している。この図2では、周波数変移の中心周波数に対する割合は、認識し易くするために100%程度で示しているけれども、実際は、圧電素子のバンド幅内で、最大で70%程度である。
【0020】
一方、受信部3で受信された第2の超音波信号f2は、アンプ13で増幅された後、アナログ/デジタル変換器14でデジタルデータに変換されて、前記相関部4に入力される。前記相関部4は、多段(n段)の遅延器D1〜Dnから成るシフトレジスタ15と、その各段の遅延器D1〜Dnからの出力に、予め定める係数をそれぞれ乗算する乗算器g1〜gnと、各乗算器g1〜gnからの出力を相互に加算する加算器16とを備えて構成される。
【0021】
前記各相関部4からの出力ya,yb,・・・は、遅延補正部17で遅延時間が調整された後、整相加算回路18で相互に加算されることで受信ビームフォーミングが行われ、得られた出力信号Y(t)が前記画像処理部5に入力されるとともに、前記コントローラ10に入力される。
【0022】
上述のように構成される超音波画像診断装置1において、注目すべきは、本実施の形態では、相関部4において、遅延器D1〜Dnからの出力に各乗算器g1〜gnが、それぞれ係数を乗算する、すなわち前記受信部3で受信された第2の超音波信号f2と所定の参照信号との相関処理(マッチトフィルタ処理)を行い、受信波のパルス圧縮を行うにあたって、コントローラ10が、その係数列から成るテンプレートを最適化アルゴリズムに従って、適宜最適化することである。このため、コントローラ10は、最適化された、すなわち前記各乗算器g1〜gnに設定されている現在のテンプレート値を記憶する記憶部21と、前記テンプレートのデフォルト値(初期値)を記憶している記憶部22と、前記記憶部21,22に記憶されているテンプレートを最適化アルゴリズムに従って最適化し、前記各乗算器g1〜gnに設定するとともに、記憶部21の記憶内容をその最適化結果に更新させるテンプレート最適化部23と、所定のトリガ入力に応答して、前記テンプレート最適化部23に更新のトリガを与える更新制御部24と、前記制御部11とを備えて構成される。
【0023】
前記更新制御部24は、検査技師や医師などのユーザが、Bモード表示画像を確認しながら、入力操作部25から操作を行い、更新(最適化)が要求されている間は、前記テンプレート最適化部23へのトリガ入力を行う。或いは、前記更新制御部24は、前記整相加算回路18からの出力信号Y(t)をモニタし、現在のS/Nから自動判定して、更新(最適化)した方が望ましい状況で、前記テンプレート最適化部23に更新のトリガを与える。その更新の停止は、前記入力操作部25、すなわちユーザから更新(最適化)が要求されなくなった時点、もしくはS/Nが所定値以上となった時点、または所定回、たとえば100回更新した時点などである。これによって、前記テンプレートを、デフォルト値から、或いは一旦変更された値からさらに、最適化アルゴリズムに従って逐次最適化させることができるようになっている。
【0024】
ここで、前記テンプレートは、前記時間経過に伴って周波数を変化させるチャープ波形F(t)を形成するものであり、波形歪み係数をw(t)とし、チャープ開始周波数をF1とし、チャープ終了周波数をF2とし、チャープ長をdとし、β=(F2−F1)/dとするとき、
F(t)=w(t)sin(2π(f1+βt)t)
であり、前記デフォルト値は、各周波数F1,F2、チャープ長d、波形歪み係数w(t)の初期値である。なお、
w(t)=w1(t)・w2(t)・w3(t)
であり、w1(t)はトランスデューサ出力帯域特性による歪み、w2(t)は生体伝播による歪み、w3(t)はケーブル等の伝送系による歪みである。
【0025】
そして、異なる次元をもつパラメータを同時に最適化することは困難であるので、先ず周波数F1,F2を最適化し、次にチャープ長dを最適化し、最後に波形歪み係数w(t)を最適化する等の複数のステップに分けて最適化が行われる。各ステップでの最適化手法には、同じ手法に限らず、異なる手法が、また組合せて用いられてもよい。
【0026】
このようなデフォルト値のテンプレートを使用して、前記図2で示す送信波形に対する図3の受信波形をパルス圧縮すると、たとえば図4で示すようになる。これに対して、図5の最適化したテンプレートを使用してパルス圧縮すると、たとえば図6で示すようになる。図4と図6とを比べると、図6では、明らかにパルスの時間幅が短くなっている。またノイズとピークの比も大きくなっている。
【0027】
ここで、超音波画像診断装置1において、前記相関部4で使用され、前記参照信号の係数列から成るテンプレートは、体動や手技操作等で少し部位が変わっだけで、或いは白黒Bモードからドップラーモードのようにモードが変わると、現在のテンプレートが最適である(最もS/Nが高い画像が得られている)とは限らなくなる。そこで上述のように前記テンプレートを、記憶部22のデフォルト値から、或いは記憶部21での一旦変更された値からさらに、最適化アルゴリズムに従って逐次最適化させることができるテンプレート最適化部23を設け、更新制御部24が、前記ユーザ操作に応答して、或いは現在のS/Nから自動判定して、前記テンプレート最適化部23に更新のトリガを与え、更新(最適化)を継続させることで、時々刻々と変化している被検体の状態や関心領域に最も適合したパルス圧縮処理が行え、距離方向のS/Nが向上し、より鮮明な診断用画像を得ることができるとともに、装置固有のばらつきを補償することもできる。
【0028】
また、テンプレート最適化部23によって、前記テンプレートを逐次最適化させることで、状況に応じた多数のテンプレートを記憶しておく必要はなく、テンプレートのデータベースを作成しておく必要もない。さらに、前記コントローラ10内の各機能は、汎用のデジタルシグナルプロセッサなどのハードウェアに、ソフトウェアで実装することができ、ハードウェアへの負担を小さくすることができる。さらにまた、前記テンプレート最適化部23によって、自動的にテンプレートが最適化されるので、ユーザに超音波の生体減衰等の予備知識が不要になる。
【0029】
また注目すべきは、本実施の形態の超音波画像診断装置1は、前記第2の超音波信号f2のデジタル値(RAW(生)データ)を記録してゆく信号記録部31をさらに備えることである。これに対応して、前記入力操作部25から前記信号記録部31へ記録を行うことが指示されると、前記更新制御部24は、テンプレート最適化部23に、記憶部22のデフォルトテンプレートを選択させて相関部4の各乗算器g1〜gnに設定させる。そして、前記表示部6での表示画像を確認しながら、検査技師などのユーザが、前記入力操作部25から、選択画像または選択領域であることを表すマークを入力すると、前記信号記録部31は、そのマークを前記第2の超音波信号f2のデジタル値(RAWデータ)に合わせて記録する。前記選択画像とは、時系列の連続画像における任意の時刻の画像全体を示し、前記選択領域は、その任意の時刻の画像において、深さ方向に2点が指定されて引かれたライン間の範囲、或いは矩形や円形の窓で囲まれた範囲(関心領域)などである。
【0030】
図7および図8は、上述のような一時記録によるテンプレート最適化動作を説明するためのフローチャートであり、図7は記録時の動作を示し、図8は再生時の動作を示す。記録時には、図7を参照して、検査室にて、前記検査技師などのユーザが、前記デフォルトテンプレートによるBモード画像再生の状態で、信号記録部31に記録を開始させると、ステップS1に移り、病変と疑われる部分などが前記選択領域としてマークキングされ、ステップS2では、前記デジタル値(RAWデータ)が順次圧縮されて、ステップS3で保存される。その後、前記デフォルトテンプレートが合わせて記録され、前記ステップS1に戻る。なお、デフォルトテンプレートが固定である場合、このステップS4は省略されてもよい。
【0031】
これに対して、再生時には、図8を参照して、診察室にて、前記医師などのユーザが再生を指示するとステップS11に移り、前記信号記録部31から圧縮信号が再生され、伸長処理されて相関部4に入力されてゆく。ステップS12では、その再生されたデジタル値(RAWデータ)から、相関部4が前記基本波のデフォルトテンプレートに対応した状態でBモード画像表示が行われる。続いてステップS13では、高調波モード、すなわち前記第2調波を使用したハーモニックイメージングのモードが選択されたか否かが判断され、選択されない場合は前記ステップS11に戻って、次のフレームでも通常の基本波によるBモード画像再生の状態が継続され、高調波モードが選択されるとステップS14に移る。
【0032】
ステップS14では、伸長処理されたデータ(RAWデータ)が相関部4に入力され、ステップS15では、更新制御部24によって、先ず第2調波のデフォルトテンプレートが選択されて、以降、出力信号Y(t)が所定のS/Nレベルに達するまで、所定回、たとえば100回を限度として、前記テンプレート最適化部23に、いわゆる山登り法によって、最適化処理を行わせる。こうしてステップS16で所定のS/Nレベルの第2調波が抽出されると、ステップS17で画像処理部5は表示部6にその第2調波に基づく画像を表示させる。次に、ステップS18で所望とするレベルの画質が得られているか否かが判断され、得られているとステップS19で再生が終了であるか否かが判断され、終了である場合は処理を終了し、終了でない場合は前記ステップS11に戻って、次のフレームの処理を継続する。前記ステップS18での判定は、更新制御部24によって行われ、前記入力操作部25からのユーザ操作に応答するものであってもよく、整相加算された前記出力信号Y(t)のS/Nに基づくものであってもよい。
【0033】
一方、前記ステップS18で所望とするレベルの画質が得られていない場合にはステップS20に移り、前記更新制御部24は、前記テンプレート最適化部23に、いわゆる大域的探索法(本実施の形態では、その代表の遺伝的アルゴリズム法)によって最適化処理を行わせる。その後、さらにステップS21で、前記山登り法によって最適化処理を行わせ、前記ステップS16と同様にステップS22で所定のS/Nレベルの第2調波が抽出されると、ステップS17と同様にステップS23で、画像処理部5は表示部6にその第2調波に基づく画像を表示させ、前記ステップS19に移る。
【0034】
この第2調波による画像表示時には、前記ステップS1での選択領域のデータだけが抽出されて、前記テンプレートの最適化から画像表示が行われてもよい。また、ステップS3での記録自体を、選択画像または選択領域の部分だけ行うようにしてもよい。
【0035】
このように構成することで、前記検査技師や医師などのユーザが、表示部6への表示画像を確認しながらリアルタイムで前記テンプレートの更新(最適化)を行うだけでなく、前記検査技師などが前記受信部3で受信された第2の超音波信号f2のデジタル値(RAWデータ)を信号記録部31に記録して、後に医師などがその画像を確認して診断を行うような場合、その記録の段階で、前記入力操作部24から、前記選択画像または選択領域であることを表すマークを入力するようにし、前記信号記録部31は、そのマークを前記第2の超音波信号f2のデジタル値(RAWデータ)に合わせて記録しておくことで、後に画像を確認する際は、ユーザは前記選択画像や選択領域だけを注目すればよく、或いは前記選択画像や選択領域だけしか表示が行われず、診断用画像の確認作業を大幅に簡略化することができるとともに、前記テンプレート最適化部23によるテンプレートの更新(最適化)処理を削減することができる。また、前記テンプレート最適化部23によるテンプレートの更新(最適化)処理にリアルタイム性は要求されず、該テンプレート最適化部の能力、すなわちコストを低く抑えることができる。こうして、リアルタイムで検査しているときには判別に迷うような診断画像を、演算処理負荷を過大にすることなく、最適なテンプレートで処理された鮮明な患部の(高調波)画像を表示できる。
【0036】
また、前記テンプレート最適化部23における最適化アルゴリズムに、山登り法に、遺伝的アルゴリズム法を用いるので、それら複数の最適化アルゴリズムを切換えて使用することで、或る最適化アルゴリズムが適していなくても、他の最適化アルゴリズムでS/Nの高い診断画像を作成することができる。また、前記更新制御部24は、先ず山登り法を優先して使用することで、計算時間や調整パラメータを少なくすることができる。また、その山登り法による最適化によっても所定レベルのS/Nが得られない場合および入力操作部25から更新のトリガが与えられる場合に、遺伝的アルゴリズム法を使用させ、再び山登り法を実施するので、特異的に効果のある係数列、すなわち局所解を探索することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の実施の一形態に係る超音波画像診断装置の電気的構成を示すブロック図である。
【図2】本実施の形態での送信波であるチャープ波の波形図例である。
【図3】パルス圧縮前の受信波形の例を示す波形図である。
【図4】デフォルトテンプレートを使用して受信波形をパルス圧縮した例を示す波形図である。
【図5】前記図3の波形に対して最適化したテンプレートの波形図の例である。
【図6】前記図3の波形に対して最適化したテンプレートを使用した場合の波形図である。
【図7】一時記録によるテンプレート最適化動作を説明するためのフローチャートであり、記録時の動作を示す。
【図8】一時記録によるテンプレート最適化動作を説明するためのフローチャートであり、再生時の動作を示す。
【符号の説明】
【0038】
1 超音波画像診断装置
2 送信部
3 受信部
4 相関部
5 画像処理部
6 表示部
10 コントローラ
11 制御部
12 送信ビームフォーマ回路
13 アンプ
14 アナログ/デジタル変換器
15 シフトレジスタ
16 加算器
17 遅延補正部
18 整相加算回路
21,22 記憶部
23 テンプレート最適化部
24 更新制御部
25 入力操作部
31 信号記録部
D1〜Dn 遅延器
g1〜gn 乗算器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信部から被検体内に第1の超音波信号を送信し、それによる被検体内からの第2の超音波信号を受信部で受信し、相関部が、前記受信部で受信された第2の超音波信号と予め定められる時間経過に対応した係数列から成る参照信号との相関処理を行うことによって、前記第2の超音波信号中に含まれる所望周波数成分を抽出し、その抽出結果から、画像処理部が前記被検体内の画像を作成し、表示部に表示させる超音波画像診断装置において、
前記参照信号の係数列から成るテンプレートを最適化アルゴリズムに従って最適化し、その最適化結果に更新するテンプレート最適化部と、
予め定めるトリガ入力に応答して、前記テンプレート最適化部に更新のトリガを与える更新制御部とを含むことを特徴とする超音波画像診断装置。
【請求項2】
前記受信部で受信された第2の超音波信号を記録してゆく信号記録部をさらに備え、
前記相関部のテンプレートがデフォルト値に設定された状態で、前記信号記録部への記録が行われるとともに、前記更新制御部からは、予め定める選択画像または選択領域であることを表すマークが入力可能であり、前記信号記録部は、そのマークを前記第2の超音波信号に合わせて記録することを特徴とする請求項1記載の超音波画像診断装置。
【請求項3】
前記テンプレート最適化部における最適化アルゴリズムは、山登り法に、大域的探索法であり、該テンプレート最適化部は、前記山登り法による最適化の後に、さらに前記更新制御部から更新のトリガが与えられる場合に、大域的探索法を使用することを特徴とする請求項1または2記載の超音波画像診断装置。
【請求項4】
前記テンプレートは、前記時間経過に伴って周波数を変化させるチャープ波形F(t)を形成するものであり、波形歪み係数をw(t)とし、チャープ開始周波数をF1とし、チャープ終了周波数をF2とし、チャープ長をdとし、β=(F2−F1)/dとするとき、
F(t)=w(t)sin(2π(F1+βt)t)
であり、前記デフォルト値は、各周波数F1,F2、チャープ長d、波形歪み係数w(t)の初期値であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の超音波画像診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−142442(P2010−142442A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−323305(P2008−323305)
【出願日】平成20年12月19日(2008.12.19)
【出願人】(303000420)コニカミノルタエムジー株式会社 (2,950)
【Fターム(参考)】