説明

超音波計測方法、及び超音波計測装置

【課題】 製造ラインで製造される塗布製品に対し、インライン上で、塗布製品に塗布された塗布材の厚みを、低コストで、信頼性の高い計測精度で計測することができる超音波計測方法、及び超音波計測装置を提供する。
【解決手段】 第1超音波センサ11と第2超音波センサ12とを一対で有し、ロール状に捲回されていた金属製の金属箔61の一面61aに電極ペースト62を塗布した電極60の厚み方向TDに対し、一方側に第1超音波センサ11を、他方側に第2超音波センサ12を、それぞれ空気層ARを介して配置し、第1超音波センサ11と第2超音波センサ12との間で超音波USを伝播させることにより、電極ペースト62の厚みを計測する超音波計測方法において、第1超音波センサ11に、超音波USの伝播がフラットタイプの送信センサを用いること、第2超音波センサ12に、超音波USの伝播がフラットタイプの受信センサを用いること、を特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば、電池製造工程において電極製造ラインで金属箔に塗布された電極ペーストの目付け量等、塗布材の厚みを、インラインで計測する超音波計測方法、及び超音波計測装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電池製造工程の中には、電極製造ラインで電極ペーストを金属箔に塗布して電極を製造する工程がある。電極は、製品となった電池の性能に大きく影響を及ぼすため、品質管理上、塗布後に、塗布された電極ペーストの目付け量や目付けプロファイルについて、品質検査を行うことが重要である。
従来、品質検査は、電極製造ラインで製造される電極から任意に抜き取った所定形状のサンプルを、アウトラインで、電極ペースト塗布前との重量差を計測して行っているほか、X線またはβ線による計測装置(以下、「放射線計測装置」という。)を用いて行っている。
【0003】
その一方で、塗布材の目付け量及び目付けプロファイルの品質検査では、品質管理上、電極製造ラインで製造される電極の電極ペーストに対し、インライン上で広範囲にわたって満遍なく実施したい場合がある。
そこで、出願人は、例えば、特許文献1に開示されているような超音波計測装置を用いて、電極製造ラインで製造される電極に対し、その電極ペーストの目付け量及び目付けプロファイルを、インライン上で全数検査ができないかを考えた。
図22に、特許文献1に開示された超音波計測装置の説明図を示す。特許文献1は、図22に示すように、一対の超音波送信手段81と超音波受信手段82とを計測対象物90の上方に配置し、超音波送信手段81から送信された入射波を計測対象物90に透過させ、計測対象物90からの反射波を超音波受信手段82で受信する超音波計測装置である。超音波送信手段81及び超音波受信手段82は、超音波の伝播がスポットタイプのセンサである。
【0004】
特許文献1は、超音波送信手段81の入射信号と、超音波受信手段82で受信する反射信号とに基づき、伝播時間測定手段83により計測対象物90を伝播する超音波の伝播速度を測定すると共に、速度校正手段85により、温度測定手段84a,84bで測定した液相91、固相92の各温度に基づき、伝播時間測定手段83で演算した伝播速度を校正する。伝播経路長測定手段86は、伝播時間測定手段83により得られた超音波の伝播速度と、速度校正手段85による伝播速度の校正値とに基づいて、計測対象物90の厚みのほか、液相91と固相92とが積層された計測対象物90の相変化の位置を計測できるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−102160号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来技術には、以下のような問題があった。
金属箔に対し、電極ペーストの塗布前後の重量差を計測する方法は、稼動中の電極製造ラインに適用できないため、電極製造ラインからサンプリングした電極を対象に、アウトラインで実施していたが、電極ペーストの重量差によるこの方法では、作業者が、電極ペーストの目付け量及び目付けプロファイルについて、正確に確認できない。
【0007】
また、放射線計測装置を用いて、電極ペーストの目付け量及び目付けプロファイルの品質検査をインラインで実施しようとすると、一般的に放射線計測装置は非常に高価であり、設備コストが過大にかかる。
しかも、このような放射線計測装置は、線源から放射線を集束して被計測物の測定部位に照射することにより、被計測物における測定部位の厚みを計測するようになっているため、厚みが測定できる範囲として、例えば、Φ0.3(mm)等、非常に微小な領域でしか計測できない。そのため、電極を電極製造ラインからサンプリングして計測しているが、そのサンプリングした電極でさえも、放射線計測装置では、電極に、密度の高い金属箔を含んでいるため、電極ペーストの目付け量及び電極ペーストの目付けプロファイルを、信頼性が高い測定精度で計測することができない。
【0008】
また、特許文献1のように、スポットタイプの超音波センサを用いた超音波計測装置では、超音波センサで測定できる範囲は、上記の放射線計測装置と同様、測定部位に向けて窄まり非常に狭い。そのため、電極ペーストの厚み、すなわち電極ペーストの目付け量は、局部的にしか測定できない。
また、電極ペーストの目付けプロファイルの検査は、電極ペーストのエッジ部で厚みを所定範囲にかけて測定することにより、エッジ部全体の形状を把握する検査であることから、スポットタイプの超音波センサでは、電極ペーストの目付けプロファイルを、信頼性が高い測定精度で計測することができない。
従って、従来の超音波計測装置では、電極製造ラインで製造される電極に対し、その電極ペーストの目付け量及び目付けプロファイルの品質検査を、インライン上で広範囲にわたって満遍なく実施することができない問題があった。
【0009】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであり、製造ラインで製造される塗布製品に対し、インライン上で、塗布製品に塗布された塗布材の厚みを、低コストで高精度に計測することができる超音波計測方法、及び超音波計測装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の問題点を解決するために、本発明の超音波計測方法、及び超音波計測装置は、次の構成を有している。
(1)第1超音波センサと第2超音波センサとを一対で有し、ロール状に捲回されていた金属製の基材の片面または両面に塗布材を塗布した塗布製品の厚み方向に対し、一方側に第1超音波センサを、他方側に第2超音波センサを、それぞれ空気層を介して配置し、第1超音波センサと第2超音波センサとの間で超音波を伝播させることにより、塗布材の厚みを計測する超音波計測方法において、第1超音波センサに、超音波の伝播がフラットタイプの送信センサを用いること、第2超音波センサに、超音波の伝播がフラットタイプの受信センサを用いること、を特徴とする。
【0011】
なお、本発明の超音波計測方法では、「超音波の伝播がフラットタイプの送信センサ」とは、第1超音波センサで超音波を送波する第1振動面が、1つの振動面、または複数に分割された振動面からなり、第1振動面の全体形状が、例えば、矩形状、円形状等に形成された超音波センサである。また、送波した超音波を、空気層を介して、塗布製品のうち、第1振動面と対向するエリア内に少なくとも伝播させることができる超音波センサをいう。
また、「超音波の伝播がフラットタイプの受信センサ」とは、第2超音波センサで超音波を受波する第2振動面が、1つの振動面、または複数に分割された振動面からなり、第2振動面の全体形状が、例えば、矩形状、円形状等に形成された超音波センサである。また、第1超音波センサから送波、照射されて塗布製品を少なくとも透過した超音波(透過波)を、空気層を介して第2振動面で受波することができる超音波センサをいう。
【0012】
(2)(1)に記載する超音波計測方法において、第1超音波センサ及び第2超音波センサには、超音波を送信及び受信が可能なセンサが用いられ、第1超音波センサ及び第2超音波センサに対し、超音波の送受信を制御する超音波発振制御手段を備え、第1超音波センサが送波し、第2超音波センサが受波する状態を第1状態とし、第1超音波センサが受波し、第2超音波センサが送波する状態を第2状態としたときに、超音波発振制御手段は、第1超音波センサと第2超音波センサとに対し、互いに異なるよう、第1状態と第2状態とを交互に置換させることを特徴とする。
【0013】
(3)(1)または(2)に記載する超音波計測方法において、第3超音波センサとして、超音波の伝播がフラットタイプのセンサが用いられ、第1超音波センサと第3超音波センサとを、空気層を介して塗布製品の一方側に、超音波が第1超音波センサと第3超音波センサとの間で正反射する位置に配置すること、第2超音波センサを、第1超音波センサの軸心方向に向けて塗布製品を透過した位置に配置すること、を特徴とする。
【0014】
なお、「超音波の伝播がフラットタイプのセンサ」とは、第3超音波センサで超音波を受波する第3振動面が、1つの振動面、または複数に分割された振動面からなり、第3振動面の全体形状が、例えば、矩形状、円形状等に形成された超音波センサである。また、第1超音波センサから送波されて塗布製品で少なくとも反射した超音波(反射波)を、空気層を介して第3振動面で受波することができる超音波センサをいう。
【0015】
(4)(1)乃至(3)のいずれか1つに記載する超音波計測方法において、第1超音波センサと第2超音波センサとの間で、超音波が伝播するのを阻む超音波阻害手段を備え、塗布製品と第2超音波センサとの間のうち、塗布材のエッジ部の周囲に相当する位置に、超音波阻害手段を移動させて配置した後、第1超音波センサが塗布材のエッジ部に向けて超音波を送波し、第2超音波センサで受波することを特徴とする。
(5)(1)乃至(4)のいずれか1つに記載する超音波計測方法において、空気層を伝播する超音波を受波する受波側超音波センサで、受波後、時間の経過と共に、生じる複数群の音波波形のうち、最初に検出される音波波形を第1群音波波形と、第1群音波波形に次いで検出される音波波形を第2群音波波形としたときに、第2群音波波形と第1群音波波形とが重ならない条件の下、少なくとも第1超音波センサ及び第2超音波センサの各周波数を、塗布材の厚みに応じて、より低く設定することを特徴とする。
【0016】
(6)(1)乃至(5)のいずれか1つに記載する超音波計測方法において、塗布材の厚みを、第1超音波センサ乃至第3超音波センサのうち、受波側超音波センサで受波した超音波の減衰率に基づいて算出することを特徴とする。
(7)(5)または(6)に記載する超音波計測方法において、塗布製品を挟み、第1超音波センサと第2超音波センサとを、第1超音波センサで超音波振動する第1振動面、及び第2超音波センサで超音波振動する第2振動面に対し垂直方向に、第1振動面と第2振動面との距離が100mm以下で、配置すること、第2群音波波形で、振幅が最大値となる状態にあるときに、塗布材の厚みを計測することを特徴とする。
(8)(7)に記載する超音波計測方法において、塗布材の厚さを、第1群音波波形による受信信号に基づいて計測することを特徴とする。
【0017】
(9)第1超音波センサと第2超音波センサとを一対で有し、ロール状に捲回されていた金属製の基材の片面または両面に塗布材を塗布した塗布製品の厚み方向に対し、一方側に第1超音波センサを、他方側に第2超音波センサを、それぞれ空気層を介して配置し、第1超音波センサと第2超音波センサとの間で超音波を伝播させることにより、塗布材の厚みを計測する超音波計測装置において、第1超音波センサは、超音波の伝播がフラットタイプの送信センサであること、第2超音波センサは、超音波の伝播がフラットタイプの受信センサであること、を特徴とする。
(10)(9)に記載する超音波計測装置において、第1超音波センサ及び第2超音波センサは、超音波を送信及び受信が可能なセンサであり、第1超音波センサ及び第2超音波センサに対し、超音波の送受信を制御する超音波発振制御手段を有し、第1超音波センサが送波し、第2超音波センサが受波する状態を第1状態とし、第1超音波センサが受波し、第2超音波センサが送波する状態を第2状態としたときに、超音波発振制御手段は、第1超音波センサと第2超音波センサとに対し、互いに異なるよう、第1状態と第2状態とを交互に置換させることを特徴とする。
【0018】
(11)(9)または(10)に記載する超音波計測装置において、超音波の伝播がフラットタイプのセンサである第3超音波センサを有し、第1超音波センサと第3超音波センサとが、空気層を介して塗布製品の一方側で、超音波が第1超音波センサと第3超音波センサとの間で正反射する位置に配置されていること、第2超音波センサは、第1超音波センサの軸心方向に向けて塗布製品を透過した位置に配置されていること、を特徴とする。
(12)(9)乃至(11)のいずれか1つに記載する超音波計測装置において、第1超音波センサが超音波を送波し、第2超音波センサが第1超音波センサから送波した超音波を受波すること、第1超音波センサと第2超音波センサとの間で、超音波が伝播するのを阻む超音波阻害手段を備え、超音波阻害手段は、塗布製品と第2超音波センサとの間のうち、塗布材のエッジ部の周囲に相当する位置に移動可能に設けられていることを特徴とする。
【0019】
(13)(9)乃至(12)のいずれか1つに記載する超音波計測装置において、空気層を伝播する超音波を受波する受波側超音波センサで、受波後、時間の経過と共に、生じる複数群の音波波形のうち、最初に検出される音波波形を第1群音波波形と、第1群音波波形に次いで検出される音波波形を第2群音波波形としたときに、少なくとも第1超音波センサ及び第2超音波センサは、塗布材の厚みに応じて、第2群音波波形が第1群音波波形と重ならない条件を満たす周波数のうち、周波数をより低くしたセンサであることを特徴とする。
(14)(9)乃至(13)のいずれか1つに記載する超音波計測装置において、第1超音波センサ乃至第3超音波センサのうち、受波側超音波センサで受波した超音波の減衰率に基づいて、塗布材の厚みを算出する厚み演算手段を備えていることを特徴とする。
【0020】
(15)(13)または(14)に記載する超音波計測装置において、第1超音波センサ及び第2超音波センサは、塗布製品を挟み、第1超音波センサで超音波振動する第1振動面、及び第2振動面に対し垂直方向に、第1振動面と第2振動面との距離が100mm以下で、配置されていること、第2群音波波形で、振幅が最大値となる状態にあるときに、厚み演算手段が、塗布材の厚みを計測することを特徴とする。
(16)(15)に記載する超音波計測装置において、厚み演算手段は、第1群音波波形による受信信号に基づいて、塗布材の厚さを計測することを特徴とする。
(17)(9)乃至(16)のいずれか1つに記載する超音波計測装置において、空気層の密度の変化を抑止する空気対流抑止手段が少なくとも1つ設けられていることを特徴とする。
【0021】
(18)(9)乃至(17)のいずれか1つに記載する超音波計測装置において、捲回されている基材は、長尺状であり、少なくとも第1超音波センサ及び第2超音波センサは、空気対流抑止手段の内部に、基材の短辺に沿う幅方向に少なくとも1対または1組設けられ、空気対流抑止手段は、塗布材の厚みを求める計測エリア内で、基材の長辺に沿う長手方向と幅方向とに対し、移動可能に設けられていることを特徴とする。
(19)(17)または(18)に記載する超音波計測装置において、空気対流抑止手段には、空気層の温度を測定する温度計測手段が設けられていることを特徴とする。
(20)(9)乃至(19)のいずれか1つに記載する超音波計測装置において、空気対流抑止手段は、少なくとも第1超音波センサ及び第2超音波センサに、対地からの外部振動が伝播するのを阻止する防振手段を備えていることを特徴とする。
(21)(9)乃至(20)のいずれか1つに記載する超音波計測装置において、基材は、塗布製品である電池の電極に用いる金属箔であり、塗布材は、金属箔に塗布された電極ペーストであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
上記構成を有する本発明の超音波計測方法、及び超音波計測装置の作用・効果について説明する。
本発明の超音波計測方法では、
(1)第1超音波センサと第2超音波センサとを一対で有し、ロール状に捲回されていた金属製の基材の片面または両面に塗布材を塗布した塗布製品の厚み方向に対し、一方側に第1超音波センサを、他方側に第2超音波センサを、それぞれ空気層を介して配置し、第1超音波センサと第2超音波センサとの間で超音波を伝播させることにより、塗布材の厚みを計測する超音波計測方法において、第1超音波センサに、超音波の伝播がフラットタイプの送信センサを用いること、第2超音波センサに、超音波の伝播がフラットタイプの受信センサを用いること、を特徴とするので、例えば、電池製造工程において、金属箔(基材)に電極ペースト(塗布材)を塗布して電極(塗布製品)を製造する製造ラインで、塗布材の目付け量、及び目付けプロファイル等、塗布材の厚みを、インラインで計測する場合、第1超音波センサから送波した超音波が、塗布製品に対し広い面積にわたって照射されて塗布製品中の基材と塗布材とを透過し、第2超音波センサが、より広範囲にわたって基材及び塗布材を透過した超音波(透過波)を受波することにより、塗布材の厚みを求めるための受信信号が、特許文献1のような従来のスポットタイプの超音波センサに比べ、塗布製品の広い範囲で得られる。
【0023】
すなわち、第1超音波センサに、超音波の伝播がフラットタイプの送信センサが、第2超音波センサに、超音波の伝播がフラットタイプの受信センサが用いられている。
これにより、第1超音波センサが、送波した超音波を、空気層を介して、塗布製品のうち、第1振動面と対向するエリア内に少なくとも伝播させ、第2超音波センサが、第1超音波センサより送波、照射されて塗布製品を少なくとも透過した超音波(透過波)を、空気層を介して第2超音波センサの第2振動面で受波する。
よって、本発明の超音波計測方法では、第2超音波センサにおいて、塗布材の厚みを求めるための受信信号が、スポットタイプの超音波センサに比べて、塗布製品の広い範囲で得られ、例示したような電極ペーストの目付け量や目付けプロファイル等、塗布材の厚みに係る品質検査を、塗布製品の製造ライン上で実施することができる。
【0024】
また、第2超音波センサで受波した透過波による受信信号を、塗布製品の広域から得ることができるため、塗布製品において塗布材の厚みをより広い範囲で検出できることから、計測範囲内で塗布材の厚みのバラツキ等がより正確に把握でき、塗布材の目付け量等、塗布製品の所定範囲内における塗布材の全体的な厚みを、高い信頼性で計測することができる。
その一方で、塗布材の目付けプロファイル等の検査は、塗布材のエッジ部で塗布材の厚みを所定範囲にかけて測定することにより、エッジ部全体の形状を把握することから、塗布製品において塗布材の厚みをより広い範囲で検出できる分、塗布材の目付けプロファイル等の検査を、放射線計測装置や、特許文献1のような従来のスポットタイプの超音波センサによる従来の検査方法に比べ、より精度良く計測することができる。
【0025】
また、電極ペーストの塗布前後の重量差を計測する従来の品質検査では、電極ペーストの目付け量及び目付けプロファイルの品質検査が正確に確認できないほか、品質検査は製造ラインからサンプリングした電極を用いてアウトラインで行っていたため、品質検査を実施するのに、工程が余分に増えて、コスト高となっていた。また、放射線計測装置を用いた品質検査でも、放射線計測装置が非常に高価であり、設備コストが過大にかかっていた。
【0026】
これに対し、本発明の超音波計測方法では、塗布製品を製造する製造ラインを停止させる必要がなく、ライン稼働中に品質検査が実施できるため、品質検査を実施するのに余分な工程が増えず、コスト高になることもない。また、本発明の超音波計測方法で用いる第1超音波センサ及び第2超音波センサ等を構成する装置の設備コストは、放射線計測装置に比して安価であり、塗布製品に反映されるコストが大きく削減できる。
従って、本発明の超音波計測方法によれば、製造ラインで製造される塗布製品に対し、インライン上で、塗布製品に塗布された塗布材の厚みを、低コストで、信頼性の高い計測精度で計測することができる、という優れた効果を奏する。
【0027】
(2)第1超音波センサ及び第2超音波センサには、超音波を送信及び受信が可能なセンサが用いられ、第1超音波センサ及び第2超音波センサに対し、超音波の送受信を制御する超音波発振制御手段を備え、第1超音波センサが送波し、第2超音波センサが受波する状態を第1状態とし、第1超音波センサが受波し、第2超音波センサが送波する状態を第2状態としたときに、超音波発振制御手段は、第1超音波センサと第2超音波センサとに対し、互いに異なるよう、第1状態と第2状態とを交互に置換させるので、第1状態のときに、第2超音波センサが受波した第2受波信号と、第2状態のときに、第1超音波センサが受波した第1受波信号との2種類の受波信号に基づき、計測の信頼性をより高くして、塗布材の厚みを求めることができる。
【0028】
すなわち、本発明の超音波計測方法では、第1超音波センサ及び第2超音波センサには、公称の周波数として、同じ周波数帯の超音波センサが用いられる。
超音波センサは、同じ周波数帯でも厳密に言えば、個々の超音波センサ毎に微妙に周波数が異なっており、それぞれ固有の周波数となっているのが一般的である。本発明の超音波計測方法は、超音波センサの性能上、このような周波数差が必然的に生じ得る現象を、第1超音波センサと第2超音波センサとに利用している。
すなわち、第1超音波センサは、周波数f1(f)を固有の特性値とし、第2超音波センサは、周波数f2(f)を固有の特性値とする超音波センサであり、周波数f1と周波数f2とは、f1≒f2の関係にある。
【0029】
ここで、空気における音速、密度、及び音響インピーダンスは、次式より求められる。
(1)音速
C=f×λ…式1
C:音速(m/sec)、f:周波数(kHz)、λ:波長(m)
また、
C=331.5+(0.61×t)…式2
t:温度(℃)
(2)密度
ρ=1.293×(273.15/(273.15+t))×(P/1013.25)…式3
ρ:密度(kg/m)(ntp)、t:温度(℃)、P:気圧(atm)
(3)音響インピーダンス
Z=ρ×C…式4
Z:音響インピーダンス(Pa・s/m)
【0030】
式1及び式4より、λ=Z/f/ρ…式5が得られる。大気圧の下、空気における音速、密度、及び音響インピーダンスは、式1乃至式3により、空気の温度に比例するため、式5において、音響インピーダンス及び密度を、温度変化に対応した定数とみなすと、波長λは、周波数fに反比例する関係にある。
【0031】
すなわち、第1状態のときに、周波数f1(f)の第1超音波センサから送波した超音波が塗布製品を透過し、周波数f2(f)の第2超音波センサで受波した超音波(透過波)の波長λ2(第2受波信号)は、式5より、
λ2=Z2/f2/ρ2
λ2:第2超音波センサで受波する超音波の波長(m)、Z2及びρ2:定数
また、第2状態のときに、周波数f2(f)の第2超音波センサから送波した超音波が塗布製品を透過し、周波数f1(f)の第1超音波センサで受波した透過波の波長λ1(第1受波信号)は、波長λ2と同様、式5より、
λ1=Z1/f1/ρ1
λ1:第1超音波センサで受波する超音波の波長(m)、Z1及びρ1:定数
となり、定数は、Z1≒Z2、ρ1≒ρ2の関係にあり、周波数は、f1≒f2の関係にあることから、第1受波信号である波長λ1と、第2受波信号である波長λ2とは、λ1≒λ2の関係となる。
【0032】
塗布材の厚みを求めるとき、1つの超音波センサだけで受波した受波信号に基づいていると、作業者が、この受波信号が計測時に正常な状態で得られたものであるかを判断し難く、計測の信頼性にも欠ける。
これに対し、本発明の超音波計測方法では、超音波発振制御手段により、第1超音波センサと第2超音波センサとに対し、互いに異なるよう、第1状態と第2状態とを交互に置換させている。
これにより、計測時の空気の温度変化に対応しつつ、塗布材の厚みを求めるのに、第1状態のときに、第2超音波センサで受波した超音波の第2受波信号(λ2)と、第2状態のときに、第1超音波センサで受波した超音波の第1受波信号(λ1)との2種類の受信信号に基づいて計測できている。
【0033】
第1受波信号と第2受波信号とを用いることにより、第1受波信号と第2受波信号とがλ1≒λ2の関係で得られれば、作業者は、受波信号が計測時に正常な状態で得られたものであると判断することができる。
特に、超音波センサでは、音波伝播の特性上、超音波の受信パワー(超音波強度)の大きさと受波する超音波の波長の大きさとの間には、一般的に相関関係がある。超音波強度は、ある波長の大きさをピーク値とする正規分布で変化し、波長の大きさがこのピーク値から前後に外れると、超音波強度が上記ピーク値より大きく低下する特性がある。
そのため、第1受波信号と第2受波信号とがλ1≒λ2の関係になると、第1受波信号λ1に対応する超音波強度のピーク値と、第2受波信号λ2に対応する超音波強度のピーク値とが、いずれもほぼ同じ大きさのピーク値に近づき、第1受波信号及び第2受波信号による超音波強度も同じような大きさとなる。
【0034】
本発明の超音波計測方法では、塗布材の厚みを計測する前に、超音波が金属製の基材を透過するときの減衰率等の基材透過信号、あるいは基材の厚みを予め把握しておいた上で、超音波強度がほぼ同じ大きさのピーク値になる第1受波信号及び第2受波信号に基づいて、塗布材の厚みを算出すれば、信頼性が高く、高精度な計測を実現することができる。
従って、第1受波信号と第2受波信号とに基づき、塗布材の厚みを高精度に求めることができる。
【0035】
(3)第3超音波センサとして、超音波の伝播がフラットタイプのセンサが用いられ、第1超音波センサと第3超音波センサとを、空気層を介して塗布製品の一方側に、超音波が第1超音波センサと第3超音波センサとの間で正反射する位置に配置すること、第2超音波センサを、第1超音波センサの軸心方向に向けて塗布製品を透過した位置に配置するので、塗布材が基材の両面に塗布された塗布製品に対し、基材一面側の塗布材の厚みを、第3超音波センサで受波した超音波の横波による受信信号に基づいて、基材他面側の塗布材の厚みを、第2超音波センサで受波した超音波の縦波による受信信号に基づいて、それぞれ同時に計測することができ、塗布材の厚みを計測する設備の簡素化を図ることができる。
【0036】
すなわち、塗布材の厚みを計測する前には、塗布材が塗布されていない状態の基材に対し、超音波が金属製の基材を透過するときの減衰率等の基材透過信号により、基材の厚み、あるいは基材の目付け量を予め把握しておく。
本発明の超音波計測方法では、第1超音波センサから送波した超音波が、横波として、基材一面側の塗布材を介して基材に伝播し、第3超音波センサが、基材で正反射した反射波を、再び基材一面側の塗布材を介して受波する。
これにより、第3超音波センサが、基材の一面で正反射した反射波を受波するときの基材反射信号を取得し、この基材反射信号に基づき、基材一面側の塗布材の厚み、あるいは基材一面側の塗布材の目付け量を把握する。
【0037】
その一方で、第1超音波センサから超音波を第3超音波センサに送波すると同時に、第1超音波センサから送波した超音波が、縦波として、基材一面側の塗布材、基材、及び基材他面側の塗布材に伝播し、第2超音波センサが、基材他面側の塗布材まで透過した透過波を受波する。
これにより、第2超音波センサが、基材の他面側まで透過した透過波を受波するときの塗布製品透過信号を取得し、この塗布製品透過信号に基づき、塗布製品の厚みを算出し、算出した塗布製品の厚みから、基材の厚みと、基材一面側の塗布材の厚みとを減算し、基材他面側の塗布材の厚みを求める。
【0038】
あるいは、塗布製品透過信号に基づき、塗布製品の目付け量を算出し、算出した塗布製品の目付け量から、基材の目付け量と、基材一面側の塗布材の目付け量とを減算し、基材他面側の塗布材の目付け量を求める。
従って、基材一面側の塗布材の厚みは、第3超音波センサで受波した超音波の横波による受信信号に基づいて、基材他面側の塗布材の厚みは、第2超音波センサで受波した超音波の縦波による受信信号に基づいて、それぞれ同時に計測することができ、塗布材の厚み計測する設備の簡素化を図ることができる。
【0039】
ところで、第1超音波センサ乃至第3超音波センサに対し、キャリブレーションを行うには、第3超音波センサを、超音波を送信及び受信が可能なセンサとしておき、第1超音波センサ及び第2超音波センサに加え、第1超音波センサと第3超音波センサとに対しても、超音波発振制御手段により、超音波の送受信が制御できるようにしておく必要がある。
第1超音波センサと第2超音波センサとのキャリブレーションは、超音波発振制御手段により、送波側と受波側とを相互に切り換えて行う。また、第1超音波センサと第3超音波センサとのキャリブレーションは、超音波発振制御手段により、送波側と受波側とを相互に切り換えて行う。
【0040】
(4)第1超音波センサと第2超音波センサとの間で、超音波が伝播するのを阻む超音波阻害手段を備え、塗布製品と第2超音波センサとの間のうち、塗布材のエッジ部の周囲に相当する位置に、超音波阻害手段を移動させて配置した後、第1超音波センサが塗布材のエッジ部に向けて超音波を送波し、第2超音波センサで受波するので、第1超音波センサから第2超音波センサに向けて送波した超音波のうち、エッジ部周囲を伝播した振動は、超音波阻害手段により阻まれ、エッジ部を透過する振動より大きく減衰し、第2超音波センサまで伝播し難く、または伝播しなくなる。
【0041】
一方、エッジ部には、その形状に応じて厚みが異なる部位がある。エッジ部で部位によって厚みが異なると、エッジ部を伝播し透過する距離が、伝播する部位によって異なることから、第2超音波センサで受波される透過波の減衰率等の受信信号が、エッジ部の形状に対応して異なったものになる。
よって、超音波阻害手段によりエッジ部周囲の形状がほとんど露出せず、例示した電極ペーストの目付けプロファイル等、塗布材のエッジ部の形状が、第2超音波センサで受信された受信信号に基づき、塗布材の厚みに対応してはっきりと検出できる。
【0042】
(5)空気層を伝播する超音波を受波する受波側超音波センサで、受波後、時間の経過と共に、生じる複数群の音波波形のうち、最初に検出される音波波形を第1群音波波形と、第1群音波波形に次いで検出される音波波形を第2群音波波形としたときに、第2群音波波形と第1群音波波形とが重ならない条件の下、少なくとも第1超音波センサ及び第2超音波センサの各周波数を、塗布材の厚みに応じて、より低く設定するので、塗布材を伝播するときに生じる超音波の減衰をより小さく抑えることができると共に、受波側超音波センサで受波した受信信号の分解能をより高くして、塗布材の厚みを高精度に求めることができる。
【0043】
すなわち、受波側超音波センサで検出される複数群の音波波形のうち、第1群音波波形は、送波した超音波が基材と塗布材とを透過した透過波だけの受信信号となり、ノイズとなるエコーを含まない。
第2群音波波形は、送波した超音波が塗布製品を透過せず塗布製品でいったん反射した後に、塗布製品を透過して受波された第1反射波による受信信号と、送波した超音波が塗布製品を透過して受波側超音波センサ側でいったん反射した後、塗布製品に戻ってここで反射して受波された第2反射波による受信信号とを含むエコーであり、塗布材の厚みを求めるのに必要な受信信号にとってノイズとなることがある。
従って、第1群音波波形と第2群音波波形とが重ならない条件が前提となる。
【0044】
ところで、塗布製品では、基材は、密度の大きい金属製であり、超音波は、波長が長く、低い周波数でも基材を伝播し易い。また、基材を伝播する間、超音波の減衰は小さく、超音波の波長から得られる分解能も良好である。その一方で、超音波の伝播距離が同じでも、周波数がより低いと、伝播時間は長くなることから、第1群音波波形に第2群音波波形が重なる現象が生じ得る。
【0045】
また、例えば、電極ペースト等の塗布材は、密度が基材より低い非金属の材質であり、塗布材には、波長が長く、周波数の低い超音波は、基材に比して伝播し難く、波長が短く、周波数の高い超音波が伝播し易い。その一方で、塗布材を伝播させる超音波の周波数をむやみに高くすると、超音波の伝播距離が同じである場合、伝播時間はより短くなるが、塗布材を伝播するときに生じる超音波の減衰はより大きくなり、超音波の波長から得られる分解能は悪化する。
【0046】
本発明の超音波計測方法では、第1超音波センサ乃至第3超音波センサの各周波数は、第1群音波波形と第2群音波波形とが重ならない条件を満たし、かつ超音波が塗布材を正常に伝播できる周波数で、塗布材の厚みに応じて、より低く設定されている。
これにより、塗布材を伝播するときに生じる超音波の減衰をより小さく抑えることができると共に、受波側超音波センサで受波した受信信号の分解能をより高くして、塗布材の厚みが高精度に求められる。
【0047】
(6)塗布材の厚みを、第1超音波センサ乃至第3超音波センサのうち、受波側超音波センサで受波した超音波の減衰率に基づいて算出するので、例えば、超音波の減衰率に対応する塗布製品の目付け量から、超音波の減衰率に対応する基材の目付け量を減算することにより、塗布材の目付け量を求めることができる。
超音波の減衰率は、媒質の密度及び媒質の厚さをパラメータとして変化する。基材を透過するとき超音波の減衰率と基材の目付け量とに関する検量線、及び塗布製品において超音波の減衰率と塗布材の目付け量に関する検量線に基づき、塗布製品の目付け量から基材の目付け量を減算することにより、塗布材の目付け量を求めることができる。
【0048】
すなわち、塗布材が基材の片面に塗布された塗布製品の場合には、例えば、片面に塗布された塗布製品向けの実測用検量線により、塗布製品(基材及び塗布材)の目付け量が得られる。また、基材向けの実測用検量線により、基材の目付け量が得られる。
よって、塗布製品の目付け量と基材の目付け量との差から、塗布材の目付け量が簡単に得られる。
【0049】
また、塗布材が基材の両面に塗布された塗布製品の場合には、基材向けの実測用検量線により、基材の目付け量が得られる。
その一方で、塗布材が基材の一面に塗工された塗布製品向けの片面塗工実測用検量線により、塗布製品の目付け量を得ておき、この塗布製品の目付け量から基材の目付け量を減算し、基材の一面側の塗布材の目付け量を得る。
【0050】
塗布材が基材の両面に塗工された塗布製品向けの両面塗工実測用検量線により、両面に塗布された塗布材の目付け量を得て、基材の目付け量と、基材一面側の塗布材の目付け量とを減算し、基材他面側の塗布材の目付け量を得る。
よって、塗布製品の目付け量と基材の目付け量との差から、塗布材の目付け量が簡単に得られる。
【0051】
(7)塗布製品を挟み、第1超音波センサと第2超音波センサとを、第1超音波センサで超音波振動する第1振動面、及び第2超音波センサで超音波振動する第2振動面に対し垂直方向に、第1振動面と第2振動面との距離が100mm以下で、配置すること、第2群音波波形で、振幅が最大値となる状態にあるときに、塗布材の厚みを計測するので、計測時に、製造ラインに製造される塗布製品が、第1超音波センサと第2超音波センサとのちょうど中央位置に配置され、ロール状に捲回されていた基材にうねりがなく、作業者は、塗布材が良好な状態で基材に塗布されていることを確認することができる。
【0052】
すなわち、複数群の音波波形は、受波側超音波センサで受波後、時間の経過と共に、断続的に検出されるが、前述したように、受波側超音波センサで検出される複数群の音波波形のうち、第1群音波波形は、送波した超音波が基材と塗布材とを透過した透過波だけの受信信号となり、ノイズとなるエコーを含まない。
特に、第1振動面及び第2振動面に対し、第1超音波センサの第1振動面と第2超音波センサの第2振動面との距離が100mm以下で配置されていると、第1群音波波形以降の奇数群の音波波形については、第1群音波波形と同様の傾向となるが、送信後、伝播距離が長くなり超音波の減衰が大きくなり、超音波強度が小さくなる。そのため、塗布材の厚みを求めるのには、第1群音波波形による受信信号を用いるのが適切である。
また、第2群音波波形は、前述したように、第1反射波による受信信号と第2反射波とによる受信信号とを共に含むエコーとなり、塗布材の厚みを求めるのに必要な受信信号にとってノイズとなる。
【0053】
ここで、第1超音波センサと第2超音波センサとの間で塗布製品を配置する位置と、第2群音波波形との関係について説明する。
(a)塗布製品が第1超音波センサと第2超音波センサとのちょうど中央位置にある場合
この場合には、第2群音波波形は、前述の第1反射波と第2反射波とが同周期で合成し、このときの合成波の振幅は最大となる。
(b)塗布製品が第1超音波センサと第2超音波センサとの中央位置から少し片側寄りに位置する場合
この場合には、第2群音波波形は、前述の第1反射波と第2反射波との位相がずれて干渉し合い、第1反射波と第2反射波との位相が半周期ずれたところで、第2群音波波形の振幅は最小となる。
(c)塗布製品が第1超音波センサと第2超音波センサとの中央位置から大きく片側寄りに位置する場合
この場合には、第2群音波波形は、第1反射波と第2反射波との位相が完全にずれてしまい、第1反射波と第2反射波とが2つに分離する。
なお、第1群音波波形は、上記の(a)乃至(c)の何れの場合においても、送波した超音波が基材と塗布材とを透過した透過波だけの受信信号となり、第1反射波及び第2反射波による多重反射波の影響を受けない。
【0054】
本発明の超音波計測方法では、第1超音波センサの第1振動面と第2超音波センサの第2振動面との距離が100mm以下で、第2群音波波形で、振幅が最大値となる状態にあるときに、塗布材の厚みを計測する。
従って、計測時に、製造ラインに製造される塗布製品が、第1超音波センサと第2超音波センサとのちょうど中央位置に配置され、ロール状に捲回されていた基材にうねりがなく、作業者は、良好な状態にある基材に塗布材が塗布されていることを確認することができる。
【0055】
(8)塗布材の厚さを、第1群音波波形による受信信号に基づいて計測するので、ロール状に捲回されていた基材に残留するうねりによる計測誤差の要因を排除して、塗布材の厚みを計測することができる。
【0056】
また、本発明の超音波計測装置では、
(9)第1超音波センサと第2超音波センサとを一対で有し、ロール状に捲回されていた金属製の基材の片面または両面に塗布材を塗布した塗布製品の厚み方向に対し、一方側に第1超音波センサを、他方側に第2超音波センサを、それぞれ空気層を介して配置し、第1超音波センサと第2超音波センサとの間で超音波を伝播させることにより、塗布材の厚みを計測する超音波計測装置において、第1超音波センサは、超音波の伝播がフラットタイプの送信センサであること、第2超音波センサは、超音波の伝播がフラットタイプの受信センサであること、を特徴とするので、前述で例示したように、電池製造工程において、金属箔(基材)に電極ペースト(塗布材)を塗布して電極(塗布製品)を製造する製造ラインで、塗布材の目付け量、及び目付けプロファイル等、塗布材の厚みを、インラインで計測する場合、第1超音波センサから送波した超音波が、塗布製品に対し広い面積にわたって照射されて塗布製品中の基材と塗布材とを透過し、第2超音波センサが、より広範囲にわたって基材及び塗布材を透過した超音波(透過波)を受波することにより、塗布材の厚みを求めるための受信信号が、塗布製品の広い範囲で得られる。
【0057】
すなわち、本発明の超音波計測装置では、第2超音波センサにおいて、塗布材の厚みを求めるための受信信号が、スポットタイプの超音波センサに比べて、塗布製品の広い範囲で得られ、例示したような電極ペーストの目付け量や目付けプロファイル等、塗布材の厚みに係る品質検査を、塗布製品の製造ライン上で実施することができる。
特に、製造ラインで製造される塗布製品に対し、塗布材の目付け量及び目付けプロファイル等の品質検査を、品質管理上、インライン上で広範囲にわたって満遍なく実施したい場合でも、次々と製造される塗布製品に対し、塗布材の厚みを、インラインで全数検査ができるようになる。
【0058】
また、第2超音波センサで受波した透過波による受信信号を、塗布製品の広域から得ることができるため、塗布製品において塗布材の厚みをより広い範囲で検出できることから、計測範囲内で塗布材の厚みのバラツキ等がより正確に把握でき、塗布材の目付け量等、塗布製品の所定範囲内における塗布材の全体的な厚みを、高い信頼性で計測することができる。
また、塗布製品において塗布材の厚みをより広い範囲で検出できる分、塗布材の目付けプロファイル等の検査が、放射線計測装置や、特許文献1のような従来のスポットタイプの超音波センサによる従来の検査方法に比べ、より精度良く計測できる。
【0059】
また、電極ペーストの塗布前後の重量差を計測する従来の品質検査では、電極ペーストの目付け量及び目付けプロファイルの品質検査が正確に確認できないほか、品質検査は製造ラインからサンプリングした電極を用いてアウトラインで行っていたため、品質検査を実施するのに、工程が余分に増えて、コスト高となっていた。また、放射線計測装置を用いた品質検査でも、放射線計測装置が非常に高価であり、設備コストが過大にかかっていた。
【0060】
これに対し、本発明の超音波計測装置では、塗布製品を製造する製造ラインを停止させる必要がなく、ライン稼働中に品質検査を実施することができ、品質検査を実施するのに余分な工程が増えず、コスト高になることもない。
また、本発明の超音波計測装置の設備コストは、放射線計測装置に比して安価であり、塗布製品に反映されるコストが大きく削減できる。
【0061】
特に、本発明の超音波計測装置は、塗布製品を製造する製造ラインに対し、新設または既設にかかわらず容易に組み込むことができるため、本発明の超音波計測装置を製造ラインに設備するときのコストも安価である。
従って、本発明の超音波計測装置では、製造ラインで製造される塗布製品に対し、インライン上で、塗布製品に塗布された塗布材の厚みを、低コストで、信頼性の高い計測精度で計測することができる、という優れた効果を奏する。
【0062】
(10)第1超音波センサ及び第2超音波センサは、超音波を送信及び受信が可能なセンサであり、第1超音波センサ及び第2超音波センサに対し、超音波の送受信を制御する超音波発振制御手段を有し、第1超音波センサが送波し、第2超音波センサが受波する状態を第1状態とし、第1超音波センサが受波し、第2超音波センサが送波する状態を第2状態としたときに、超音波発振制御手段は、第1超音波センサと第2超音波センサとに対し、互いに異なるよう、第1状態と第2状態とを交互に置換させるので、第1状態のときに、第2超音波センサが受波した第2受波信号と、第2状態のときに、第1超音波センサが受波した第1受波信号との2種類の受波信号に基づき、計測の信頼性をより高くして、塗布材の厚みを高精度に求めることができる。
【0063】
すなわち、塗布材の厚みを求めるとき、1つの超音波センサだけで受波した受波信号に基づいていると、作業者が、この受波信号が計測時に正常な状態で得られたものであるかを判断し難く、計測の信頼性にも欠ける。
これに対し、本発明の超音波計測装置では、超音波発振制御手段により、第1超音波センサと第2超音波センサとに対し、互いに異なるよう、第1状態と第2状態とを交互に置換させている。
これにより、計測時の空気の温度変化に対応しつつ、塗布材の厚みを求めるのに、第1状態のときに、第2超音波センサで受波した超音波の第2受波信号(λ2)と、第2状態のときに、第1超音波センサで受波した超音波の第1受波信号(λ1)との2種類の受信信号に基づいて計測できている。
【0064】
第1受波信号と第2受波信号とを用いることにより、第1受波信号と第2受波信号とがλ1≒λ2の関係が得られれば、作業者は、受波信号が計測時に正常な状態で得られたものであると判断することができ、塗布材の厚みを求めるのに、信頼性が高く、高精度な計測が可能となる。
【0065】
(11)超音波の伝播がフラットタイプのセンサである第3超音波センサを有し、第1超音波センサと第3超音波センサとが、空気層を介して塗布製品の一方側で、超音波が第1超音波センサと第3超音波センサとの間で正反射する位置に配置されていること、第2超音波センサは、第1超音波センサの軸心方向に向けて塗布製品を透過した位置に配置されていること、を特徴とするので、塗布材が基材の両面に塗布された塗布製品に対し、基材一面側の塗布材の厚みを、第3超音波センサで受波した超音波の横波による受信信号に基づいて、基材他面側の塗布材の厚みを、第2超音波センサで受波した超音波の縦波による受信信号に基づいて、それぞれ同時に計測することができ、塗布材の厚み計測する設備の簡素化を図ることができる。
【0066】
すなわち、塗布材の厚みを計測する前には、塗布材が塗布されていない状態の基材に対し、超音波が金属製の基材を透過するときの減衰率等の基材透過信号により、基材の厚み、あるいは基材の目付け量を予め把握しておく。
本発明の超音波計測装置では、第1超音波センサから送波した超音波が、横波として、基材一面側の塗布材を介して基材に伝播し、第3超音波センサが、基材で正反射した反射波を、再び基材一面側の塗布材を介して受波する。
これにより、第3超音波センサが、基材の一面で正反射した反射波を受波するときの基材反射信号を取得し、この基材反射信号に基づき、基材一面側の塗布材の厚み、あるいは基材一面側の塗布材の目付け量を把握する。
【0067】
その一方で、第1超音波センサから超音波を第3超音波センサに送波すると同時に、第1超音波センサから送波した超音波が、縦波として、基材一面側の塗布材、基材、及び基材他面側の塗布材に伝播し、第2超音波センサが、基材他面側の塗布材まで透過した透過波を受波する。
これにより、第2超音波センサが、基材の他面側まで透過した透過波を受波するときの塗布製品透過信号を取得し、この塗布製品透過信号に基づき、塗布製品の厚みを算出し、算出した塗布製品の厚みから、基材の厚みと、基材一面側の塗布材の厚みとを減算し、基材他面側の塗布材の厚みを求める。
【0068】
あるいは、塗布製品透過信号に基づき、塗布製品の目付け量を算出し、算出した塗布製品の目付け量から、基材の目付け量と、基材一面側の塗布材の目付け量とを減算し、基材他面側の塗布材の目付け量を求める。
従って、基材一面側の塗布材の厚みは、第3超音波センサで受波した超音波の横波による受信信号に基づいて、基材他面側の塗布材の厚みは、第2超音波センサで受波した超音波の縦波による受信信号に基づいて、それぞれ同時に計測することができ、塗布材の厚み計測する設備の簡素化を図ることができる。
【0069】
ところで、第1超音波センサ乃至第3超音波センサに対し、キャリブレーションを行うには、第3超音波センサを、超音波を送信及び受信が可能なセンサとしておき、第1超音波センサ及び第2超音波センサに加え、第1超音波センサと第3超音波センサとに対しても、超音波発振制御手段により、超音波の送受信が制御できるようにしておく必要がある。
第1超音波センサと第2超音波センサとのキャリブレーションは、超音波発振制御手段により、送波側と受波側とを相互に切り換えて行う。また、第1超音波センサと第3超音波センサとのキャリブレーションは、超音波発振制御手段により、送波側と受波側とを相互に切り換えて行う。
【0070】
(12)第1超音波センサが超音波を送波し、第2超音波センサが第1超音波センサから送波した超音波を受波すること、第1超音波センサと第2超音波センサとの間で、超音波が伝播するのを阻む超音波阻害手段を備え、超音波阻害手段は、塗布製品と第2超音波センサとの間のうち、塗布材のエッジ部の周囲に相当する位置に移動可能に設けられているので、第1超音波センサから第2超音波センサに向けて送波した超音波のうち、エッジ部周囲を伝播した振動は、超音波阻害手段により阻まれ、エッジ部を透過する振動より大きく減衰し、第2超音波センサまで伝播し難く、または伝播しなくなる。
【0071】
一方、エッジ部には、その形状に応じて厚みが異なる部位がある。エッジ部で部位によって厚みが異なると、エッジ部を伝播し透過する距離が、伝播する部位によって異なることから、第2超音波センサで受波される透過波の減衰率等の受信信号が、エッジ部の形状に対応して異なったものになる。
よって、超音波阻害手段によりエッジ部周囲の形状がほとんど露出せず、例示した電極ペーストの目付けプロファイル等、塗布材のエッジ部の形状が、第2超音波センサで受信された受信信号に基づき、塗布材の厚みに対応してはっきりと検出できる。
【0072】
なお、超音波阻害手段は、例えば、ゴム、スポンジ、フエルト等、超音波振動を吸収し易い材質で形成する。
【0073】
(13)空気層を伝播する超音波を受波する受波側超音波センサで、受波後、時間の経過と共に、生じる複数群の音波波形のうち、最初に検出される音波波形を第1群音波波形と、第1群音波波形に次いで検出される音波波形を第2群音波波形としたときに、少なくとも第1超音波センサ及び第2超音波センサは、塗布材の厚みに応じて、第2群音波波形が第1群音波波形と重ならない条件を満たす周波数のうち、周波数をより低くしたセンサであるので、塗布材を伝播するときに生じる超音波の減衰をより小さく抑えることができると共に、受波側超音波センサで受波した受信信号の分解能をより高くして、塗布材の厚みを高精度に求めることができる。
【0074】
(14)第1超音波センサ乃至第3超音波センサのうち、受波側超音波センサで受波した超音波の減衰率に基づいて、塗布材の厚みを算出する厚み演算手段を備えているので、厚み演算部手段が、超音波の減衰率に対応する塗布製品の目付け量から、超音波の減衰率に対応する基材の目付け量を減算することにより、塗布材の目付け量を求めることができる。
超音波の減衰率は、媒質の密度及び媒質の厚さをパラメータとして変化する。基材を透過するとき超音波の減衰率と基材の目付け量とに関する検量線、及び塗布製品において超音波の減衰率と塗布材の目付け量に関する検量線に基づき、塗布製品の目付け量から基材の目付け量を減算することにより、塗布材の目付け量を求めることができる。
【0075】
(15)第1超音波センサ及び第2超音波センサは、塗布製品を挟み、第1超音波センサで超音波振動する第1振動面、及び第2振動面に対し垂直方向に、第1振動面と第2振動面との距離が100mm以下で、配置されていること、第2群音波波形で、振幅が最大値となる状態にあるときに、厚み演算手段が、塗布材の厚みを計測するので、計測時に、製造ラインに製造される塗布製品が、第1超音波センサと第2超音波センサとのちょうど中央位置に配置されていることから、作業者が、ロール状に捲回されていた基材にうねりが残留せず、厚み演算手段により塗布材の厚みが求められた塗布製品に対し、塗布材が良好な状態で基材に塗布されていることを確認することができる。
【0076】
(16)厚み演算手段は、第1群音波波形による受信信号に基づいて、塗布材の厚さを計測するので、ロール状に捲回されていた基材のうねりに起因した計測誤差の要因を排除して、塗布材の厚みを計測することができる。
【0077】
ところで、特許文献1では、温度測定手段84a,84bが液相91、固相92の各温度を測定し、速度校正手段85が、超音波が伝播する媒質の一つである(液相91、固相92)の音響インピーダンスを、測定したそれぞれの温度に基づいて検知し、伝播時間測定手段83により得られた超音波の伝播速度を校正している。伝播経路長測定手段86は、伝播時間測定手段83により得られた超音波の伝播速度と、速度校正手段85による伝播速度の校正値とに基づいて、計測対象物90の厚みのほか、液相91と固相92とが積層された計測対象物90の相変化の位置を計測できるようになっている。
【0078】
しかしながら、超音波送信手段81から計測対象物90に向けて送波された超音波や、計測対象物90から反射して超音波受信手段82で受波した超音波は、計測対象物90以外の媒質の一つである空気層を伝播する。この空気層の温度が一定でなければ、温度変化に伴って空気層での音響インピーダンスは変動してしまい、空気層を伝播する超音波の波長が変化してしまう。その結果、伝播時間測定手段83により得られた超音波の伝播速度を、たとえ速度校正手段85で校正しても、計測対象物90の厚み等をより正確に計測することができない。
【0079】
特に、送波側の超音波センサと受波側の超音波センサとの間に空気層を介して、この空気層に塗布製品を配置し、挟まれた塗布製品の内部にある塗布材の厚みを計測するときに、空気層での対流により、空気層の温度(密度)が送波側と受波側で異なる場合がある。また、稼働中の製造ラインで連続的に製造される塗布製品が、ライン上で部分的に僅かに動いて生じる微妙な空気層の対流のほか、ライン近傍に作業者が移動したときに生じる空気層の対流等により、空気層の密度が部分的に変化する場合がある。
このような場合、超音波が伝播する媒質の一つでもある空気層の密度が、超音波センサで計測する部分と、その他の部分とで異なると、塗布材の厚みをより正確に計測することができない。
【0080】
また、送波側の超音波センサと受波側の超音波センサとの間に空気層を介して、この空気層に塗布製品を配置し、挟まれた塗布製品の内部にある塗布材の厚みを計測するときに、塗布製品を通じた透過波や塗布製品で反射した反射波が受波側超音波センサに受波される間に、外部から何らかの外部振動が受波側超音波センサに伝わると、この外部振動に上記透過波または上記反射波が合成されてしまうことがある。
受波側超音波センサが、このような合成波を受波すると、外部振動の影響を受けずに送信側超音波センサから送波された超音波の波長と、受波側超音波センサで受波した合成波の波長に差異が生じてしまい、受信感度が悪化する問題がある。
【0081】
これに対し、
(17)本発明の超音波計測装置では、空気層の密度の変化を抑止する空気対流抑止手段が少なくとも1つ設けられているので、塗布製品の製造ライン上で、塗布された塗布材の目付け量や目付けプロファイル等、塗布材の厚みをインラインで計測するときに、空気対流抑止手段により、空気層を伝播する超音波の波長が変動し難く、塗布材の厚みを、より正確で高精度に計測することができる。
【0082】
すなわち、前述したように、例えば、電池製造工程において、金属箔(基材)に電極ペースト(塗布材)を塗布して電極(塗布製品)を製造する製造ラインでは、温度管理された雰囲気の下、基材に塗布材を塗布し乾燥させて塗布製品が製造され、本発明の超音波計測装置は、このような雰囲気の下、製造ラインにインラインで設置される。
このような製造ラインは、温度管理された場所で設置されているため、製造ラインで次々と連続して製造される塗布製品に対し、その基材及び塗布材そのものの温度は、ライン稼働中、変化せず一定とみなすことができる。そのため、ライン稼働中、超音波が基材及び塗布材を透過するときには、基材及び塗布材における音響インピーダンスは変化しないため、塗布材の厚みの計測時に、基材及び塗布材の各温度による影響は生じない。
【0083】
その一方で、本発明の超音波計測装置は、一方側に第1超音波センサを、他方側に第2超音波センサを、それぞれ空気層を介して配置し、第1超音波センサと第2超音波センサとの間で超音波を伝播させることにより、塗布材の厚みを計測する。
本発明の超音波計測装置は、温度管理された雰囲気の下に設置されるものの、設置室内には空気の対流が生じ得るため、本発明の超音波計測装置の空気層に、空気密度の変化を抑止する空気対流抑止手段を少なくとも1つ設けている。
これにより、本発明の超音波計測装置の空気層には、空気等の気体の対流に起因して空気の温度にバラツキがほとんど生じず、例えば、第1超音波センサと塗布製品との間の温度分布、塗布製品と第2超音波センサとの間の温度分布、場合によって第3超音波センサと塗布製品との間の温度分布、及び塗布製品を挟む両側の温度分布等、空気層全体で温度差を持たないより均一な温度分布とすることができる。
【0084】
空気層全体が均一な温度分布になることで、前述した式2より、温度に比例して変化する空気の音速は、空気層全体でより均一になると共に、前述した式3より、温度に比例して変化する空気の密度も、空気層全体でより均一な分布となる。
また、前述した式2乃至式4より、空気層全体が均一な温度分布になることで、音響インピーダンスは変化しない。
【0085】
換言すれば、空気層全体が均一な温度分布となり、空気の密度がより均一な分布になることで、前述した式5において、音響インピーダンス及び密度を、温度変化に対応した定数とみなすことができ、波長λは、周波数fに反比例した関数となる。
前述したように、第1超音波センサは、周波数f1(f)を固有の特性値とし、第2超音波センサは、周波数f2(f)を固有の特性値とし、第3超音波センサは、周波数f3(f)を固有の特性値とする超音波センサである。
第1超音波センサと塗布製品との間の空気層では、周波数f1(f)の第1超音波センサが伝播する超音波の波長λ1は変化しない。第3超音波センサがある場合、第3超音波センサと塗布製品との間の空気層では、周波数f3(f)の第3超音波センサが伝播する超音波の波長λ3は変化しない。
また、塗布製品と第2超音波センサとの間の空気層では、周波数f2(f)の第2超音波センサが伝播する超音波の波長λ2は変化しない。
【0086】
特に、本発明の超音波計測装置をインライン上に設けた製造ラインにおいて、次々と連続して製造される塗布製品に対し、その塗布材の厚みを連続して計測している間、第2超音波センサが塗布材を透過した透過波(超音波)を受波したときの波長や、第3超音波センサが塗布材を反射した反射波(超音波)を受波したときの波長は、ライン稼働中、ほとんど変化しない。
【0087】
ところで、超音波センサでは、音波伝播の特性上、超音波の持つパワー(超音波強度)の大きさと波長の大きさとの間には、一般的に相関関係がある。超音波強度は、ある波長の大きさをピーク値とする正規分布で変化し、波長の大きさがこのピーク値から前後に外れると、超音波強度が上記ピーク値より低下する特性がある。
【0088】
本発明の超音波計測装置では、超音波強度が上記ピーク値となる波長の大きさを変化させず維持することで、第1超音波センサから送波する超音波が、超音波強度が最も大きい状態で、空気層を伝播し塗布製品に向けて伝播する。
これにより、塗布製品を透過する透過波(超音波)も、超音波強度が最も大きい状態で、塗布製品に伝播し、この塗布製品から再び空気層を伝播して第2超音波センサで受波される超音波についても、超音波強度が最も大きい状態で、伝播し受波される。
【0089】
また、塗布製品を反射する反射波(超音波)も、超音波強度が最も大きい状態で、塗布製品に伝播し、この塗布製品で反射して再び空気層を伝播して第3超音波センサで受波される超音波についても、超音波強度が最も大きい状態で、伝播し受波される。
従って、受波した超音波において、その波長の大きさ、到達時間、減衰率等の受信信号に基づいて塗布製品の塗布材の厚みを計測すると、塗布製品ごと、あるいは塗布製品の測定部位ごとによって、厚みの測定誤差は生じ難く、塗布材の厚みを高精度に計測することができる。
【0090】
(18)捲回されている基材は、長尺状であり、少なくとも第1超音波センサ及び第2超音波センサは、空気対流抑止手段の内部に、基材の短辺に沿う幅方向に少なくとも1対または1組設けられ、空気対流抑止手段は、塗布材の厚みを求める計測エリア内で、基材の長辺に沿う長手方向と幅方向とに対し、移動可能に設けられているので、本発明の超音波計測装置をインラインで設けた製造ラインにおいて、連続で次々と製造される塗布製品に対し、その塗布材の厚みを、ラインを停止しないでライン稼働中に計測することができる。また、塗布材の目付け量及び目付けプロファイル等の品質検査を、インライン上で広範囲にわたって満遍なく実施することができるようになることから、品質管理上、信頼性の高い品質検査を行うことが可能となる。
【0091】
(19)空気対流抑止手段には、空気層の温度を測定する温度計測手段が設けられているので、第1超音波センサ乃至第3超音波センサにおいて、例えば、超音波センサ自体からの発熱等に起因して空気層に温度変化が生じた場合でも、空気層における音速、密度、音響インピーダンスを、温度計測手段により計測した温度に基づいて補正し、空気層を伝播する超音波を受波する受波側超音波センサの受信信号を、空気層の実際の温度または温度分布に対応するよう、適切な状態にすることができる。これにより、計測精度を高くして塗布材の厚みを求めることができる。
【0092】
(20)空気対流抑止手段は、少なくとも第1超音波センサ及び第2超音波センサに、対地からの外部振動が伝播するのを阻止する防振手段を備えているので、例えば、塗布製品の製造ライン等で生じる機械的振動が、第1超音波センサ及び第2超音波センサのほか、第3超音波センサが存在する場合には、この第3超音波センサにも伝わることに起因して、送受する超音波の指向性の精度が悪化するのを防止することができる。
【0093】
(21)基材は、塗布製品である電池の電極に用いる金属箔であり、塗布材は、金属箔に塗布された電極ペーストであるので、電池製造工程において、金属箔に電極ペーストを塗布して電極を製造する製造ラインで、ライン稼働中に、電極に対し、電極ペーストの目付け量及び目付けプロファイルに係る品質検査を満遍なく広範囲にわたって実施できるようになる上、電極の全数検査をも可能にできるようになることから、高品質で高性能な電池が提供できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1】実施形態のうち、第1実施例に係る超音波計測装置を示す斜視図である。
【図2】図1中、A−A矢視断面図であり、主要部を説明する図である。
【図3】図2中、C−C矢視断面図であり、図2と同様、主要部を説明する図である。
【図4】第1実施例に係る超音波計測装置の構成を説明する模式図である。
【図5】図1中、A−A矢視に相当する方向から見た電極の断面図である。
【図6】電極ペーストの目付けプロファイルを検査する様子を説明する図である。
【図7】電極を透過する超音波の減衰率と、電極の目付け量との関係を示す検量線を示す図である。
【図8】実施形態に係る超音波計測装置で、第1,第2超音波センサのキャリブレーションの手順を示すフローチャート図である。
【図9】電極が、送波側超音波センサ及び受波側超音波センサに対し、その中央位置にある場合を模式的に示す説明図である。
【図10】電極が図9に示す位置に配置された場合に、受波側超音波センサで受波される超音波の音波波形を示すグラフである。
【図11】電極が、送波側超音波センサ及び受波側超音波センサに対し、その中央位置から少し片側寄りに位置する場合を模式的に示す説明図であり、(a)は送波側超音波センサ側寄りの場合、(b)は受波側超音波センサ側寄りの場合である。
【図12】電極が図11に示す位置に配置された場合に、受波側超音波センサで受波される超音波の音波波形を示すグラフである。
【図13】電極が、送波側超音波センサ及び受波側超音波センサに対し、その中央位置から大きく片側寄りに位置する場合を模式的に示す説明図であり、(a)は送波側超音波センサ側寄りの場合、(b)は受波側超音波センサ側寄りの場合である。
【図14】電極が図13に示す位置に配置された場合に、受波側超音波センサで受波される超音波の音波波形を示すグラフである。
【図15】受波側超音波センサにおける受信パワーと発熱温度との関係を示すグラフである。
【図16】実施形態に係る超音波計測装置で、電極ペーストの目付け量を算出するまでの手順を示すフローチャート図である。
【図17】実施形態のうち、第2実施例に係る超音波計測装置の構成を説明する模式図であり、図を見易くするために、カバーと一体であるセンサ取付け部の図示を省略した図である。
【図18】電極を幅方向からみた側面図であり、金属箔両面に塗工された電極ペーストに対し、目付け量の検査をするときの説明図である。
【図19】送波側超音波センサと受波側超音波センサとのプローブ間距離と、受波側超音波センサで受波する超音波の受信波最大振幅との関係について、スポット型の超音波センサとフラット型の超音波センサとを対比させたグラフを示す。
【図20】受波された超音波における波長と受信パワーとの関係を示すグラフである。
【図21】受波された超音波において、伝播する温度と、音響インピーダンスと、音圧透過率との関係を説明する説明図である。
【図22】特許文献1に開示された超音波計測装置の説明図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0095】
以下、本発明に係る超音波計測方法、及び超音波計測装置について、実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
本実施形態に係る超音波計測装置は、電池製造工程において、金属箔(基材)に電極ペースト(塗布材)を塗布して電極(塗布製品)を製造する電極製造ラインにインラインで設置され、乾燥した電極ペーストの目付け量、及び目付けプロファイルの品質検査を行う目的で設置される。
また、本実施形態に係る超音波計測方法は、この超音波計測装置を用いて電極ペーストの目付け量、及び目付けプロファイルの品質検査を行うときの方法である。
【0096】
(実施例1)
本実施例では、電極ペーストを金属箔片面に塗工する場合について説明する。
図1は、第1実施例に係る超音波計測装置を示す斜視図である。図2は、図1中、A−A矢視断面図であり、図3は、図2中、C−C矢視断面図であり、図2及び図3は、超音波計測装置の主要部を説明する図である。図4は、第1実施例に係る超音波計測装置の構成を説明する図である。図5は、図1中、A−A矢視に相当する方向から見た電極の断面図を示す。図6は、電極ペーストの目付けプロファイルを検査する様子を説明する図である。
【0097】
なお、本実施形態では、図1において、金属箔61の長辺、及びこの長辺に沿う超音波計測装置1の方向を、長手方向LDとし、金属箔61の短辺、及びこの短辺に沿う超音波計測装置1の方向を、幅方向WDとする。また、電極60(金属箔61及び電極ペースト62)の厚み、及びこの厚みに沿う超音波計測装置1の方向を、厚み方向TDとする。以下、図2以降の図についても、図1に準ずる。
【0098】
はじめに、電極について、簡単に説明する。
本発明において、基材は、塗布製品である電池の電極に用いる金属箔であり、塗布材は、金属箔に塗布された電極ペーストである。
具体的には、電極60は、例えば、電気自動車やハイブリッド自動車等の電源として、二次電池に用いる電極であり、図5に示すように、Al,Cu等の金属箔61の一面61aに電極ペースト62を塗布してなる。
【0099】
長尺状の金属箔61は、その厚さが20μm程度であり、図示しない電極製造ラインの捲回コンベア50に、ロール状に捲回されている。金属箔61は、送出コンベア51によりロール状から水平状に送出されながら、電極ペースト62が、このような状態の金属箔61に塗布される。
電極60は、電極ペースト62を金属箔61に押圧してから乾燥させた後、電極ペースト62の厚みが40〜50μm程度に形成され、コンベア50により、連続的に製造される電極60の切断等、次工程に向けて送出される。
【0100】
次に、超音波計測装置について、図1乃至図4を用いて説明する。
超音波計測装置1は、前述したように、電極製造ラインで電極ペースト62を乾燥させた後、図1に示すように、コンベア51により電極60を次工程に送出する前の位置に、配設されている。
超音波計測装置1は、ロール状に捲回されていた金属箔61の一面61aに電極ペースト62を塗布した電極60の厚み方向TDに対し、一方側に第1超音波センサ11を、他方側に第2超音波センサ12を、それぞれ空気層ARを介して配置している。この超音波計測装置1は、第1超音波センサ11と第2超音波センサ12との間で超音波USを伝播させることで、電極60中の電極ペースト62の厚みを計測する。
【0101】
本実施形態に係る超音波計測装置1は、説明の便宜上、4つの第1超音波センサ11と、4つの第2超音波センサ12とをそれぞれ有し、1つの第1超音波センサ11と1つの第2超音波センサ12とが一対となって、4組の第1,第2超音波センサ11,12を備えている。また、超音波計測装置1は、超音波発振制御部10(超音波発振制御手段)、厚み演算部20(厚み演算手段)、カバー35(空気対流抑止手段)、8つの温度計37(温度計測手段)、防振プレート38(防振手段)、及びマスク40(超音波阻害手段)等を有している。
【0102】
第1,第2超音波センサについて説明する。
第1超音波センサ11は、超音波USの伝播がフラットタイプの送信センサであり、超音波の受信をも可能とする超音波センサである。
フラットタイプの送信センサとは、第1超音波センサ11で超音波USを送波する第1振動面11aが、本実施形態では、1つであり、第1振動面11aの全体形状が矩形状に形成された超音波センサである。また、送波した超音波USを、空気層ARを介して、電極60のうち、第1振動面11aと対向するエリア内に少なくとも伝播させることができる超音波センサをいう。
第2超音波センサ12が送信側になる場合についても、第1振動面11aが第2振動面12aに変わるだけで、第1超音波センサ11と実質的に同じである。
【0103】
第2超音波センサ12は、超音波USの伝播がフラットタイプの受信センサであり、超音波の送信をも可能とする超音波センサである。
フラットタイプの受信センサとは、第2超音波センサ12で超音波USを受波する第2振動面12aが、本実施形態では、1つであり、第2振動面12aの全体形状が矩形状に形成された超音波センサである。また、第1超音波センサ11から送波、照射されて電極60を少なくとも透過した超音波(透過波)USを、空気層ARを介して第2振動面12aで受波することができる超音波センサをいう。
第1超音波センサ11が受信側になる場合についても、第2振動面12aが第1振動面11aに変わるだけで、第2超音波センサ12と実質的に同じである。
【0104】
ここで、第1,第2超音波センサ11,12の周波数について、説明する。
第1,第2超音波センサ11,12のうち、空気層ARを伝播する超音波USを受波する受波側超音波センサ12Aで、受波後、時間の経過と共に、生じる複数群の音波波形のうち、最初に検出される音波波形を第1群音波波形と、第1群音波波形に次いで検出される音波波形を第2群音波波形とする(図9及び図10等参照)。
第1超音波センサ11及び第2超音波センサ12は、電極ペースト62の厚みtに応じて、第2群音波波形が第1群音波波形と重ならない条件を満たす周波数のうち、周波数をより低くした超音波センサであり、具体的には、周波数400kHz以下の超音波センサである。
第1超音波センサ11と、第2超音波センサ12とは、公称周波数として同じ周波数帯の超音波センサである。
【0105】
超音波計測装置1には、空気層ARの密度の変化を抑止するカバー35が1つ設けられている。4組の第1,第2超音波センサ11,12は、このカバー35の内部空間にあるセンサ取付け部30に、幅方向WDに並んで設けられている。
センサ取付け部30は、図2及び図3に示すように、開口部32を有したコ字型形状の本体部31と、この本体部31から下方に立設された支柱を介して接続する平板状の支持部33とからなる。
カバー35は、電極60の送出経路である送出口36を除き、センサ取付け部30の開口部32と本体部31との周囲をすっぽりと覆い、センサ取付け部30と一体で形成されている。
【0106】
4つの第1超音波センサ11は、本体部31の上部で、幅方向WDに対し所定の間隔で一列に配列され、各第1超音波センサ11の第1振動面11aが、何れも鉛直方向下方に向けて配置されている。
また、4つの第2超音波センサ12は、本体部31の下部で、幅方向WDに対し所定の間隔で一列に配列され、各第2超音波センサ11の第2振動面12aが、何れも鉛直方向上方に向けて配置されている。
【0107】
一対の第1,第2超音波センサ11,12において、これらの第1振動面11aと第2振動面12aとが対向する配置で、第1振動面11a及び第2振動面12aに対し、垂直方向に、第1振動面11aと第2振動面12aとのプローブ間距離が、電極60を挟み、100(mm)以下に配置され、本実施形態では、そのプローブ間距離が70(mm)となっている。
4つの第1超音波センサ11は、図1及び図6に示すように、電極60の幅方向WDに対し、両側にあるエッジ部62Cを含む電極ペースト62全体の照射エリアMBに、超音波USを照射できるようになっている。電極60中の金属箔61の他面61bでは、照射エリアMBにおいて、4つの第1超音波センサ11により送波された超音波USが、4つの第2超音波センサ12に向けて空気層ARを伝播するようになっている。
【0108】
センサ取付け部30の本体部31の開口部32は、一対の第1,第2超音波センサ11,12において、超音波USが伝播する媒質の一つである空気層ARとなっている。開口部32では、本体部31の上部と下部との間は、このようなプローブ間距離を確保できる大きさとなっており、開口部32は、幅方向WDに対し、電極60の幅寸法に対応させた大きさとなっている。
【0109】
カバー35の内部空間に存在する開口部32の内部には、空気層ARの温度を測定する温度計37が、図2に示すように、本実施形態では、電極60が開口部32を送出する経路の上方側と下方側にそれぞれ4箇所、計8箇所に、設けられている。
【0110】
図2及び図3に示すように、床面である超音波計測装置1の設置面GLには、4つの第1,第2超音波センサ11,12のそれぞれに、対地からの外部振動が伝播するのを阻止する防振プレート38が敷設されている。防振プレート38は、例えば、ゴム、ダンパ、フエルト等、振動を吸収し易い弾性を有する材料からなり、支持部33よりも大きく形成され、この防振プレート38上に支持部33が載置されている。
センサ取付け部30及びカバー35は、図1に示すように、電極ペースト62の厚みを求める計測エリアMA内で、長手方向LD及び幅方向WDに対し、図示しない駆動源により、防振プレート38と相対的に移動可能に配設されている。
【0111】
図4に示すように、4つの第1超音波センサ11は、第1超音波発振器11Fと電気的に接続されている。第1超音波発振器11Fは、第1振動面11aに電圧を印加して超音波振動させるための発振回路と、第1振動面11aで受波した超音波振動を電圧に変換して受信するための受信回路とを有している。
【0112】
4つの第2超音波センサ12は、第2振動面12aに超音波振動を発振させる第2超音波発振器12Fと電気的に接続されている。第2超音波発振器12Fは、第2振動面12aに電圧を印加して超音波振動させるための発振回路と、第2振動面12aで受波した超音波振動を電圧に変換して受信するための受信回路とを有している。
第1超音波発振器11Fと第2超音波発振器12Fとは、超音波発振制御部10と電気的に接続されている。
【0113】
超音波発振制御部10は、第1超音波センサ11及び第2超音波センサ12に対し、超音波USの送受信を制御する。
具体的には、第1超音波センサ11が送波し、第2超音波センサ12が受波する状態を第1状態とし、第1超音波センサ11が受波し、第2超音波センサ12が送波する状態を第2状態としたときに、超音波発振制御部10が、第1超音波センサ11と第2超音波センサ12とに対し、互いに異なるよう、第1状態と第2状態とを交互に置換させる。
【0114】
超音波発振制御部10は、モニタ21に接続した厚み演算部20と電気的に接続されている。厚み演算部20は、第1超音波センサ11及び第2超音波センサ12のうち、いずれか一方の受波側超音波センサで受波した超音波USの受信信号に基づいて、電極ペースト62の目付け量及び目付けプロファイル、すなわち電極ペースト62の厚みを算出する。
具体的には、第1群音波波形と第2群音波波形については、後に詳述するが、厚み演算部20は、第2群音波波形で、振幅が最大値となる状態にあるときに、第1群音波波形による受信信号に基づいて、電極ペースト62の厚みを計測する。
【0115】
すなわち、この厚み演算部20は、CPU、RAM及びROM等公知の構成のマイクロコンピュータ(図示しない)を備えている。
RAMには、超音波が空気層ARを伝播するときの減衰率、超音波が金属箔61を透過するときの減衰率または金属箔61の厚み、温度計37により計測した空気層ARの温度、第1振動面11aと第2振動面12aとのプローブ間距離、空気層ARにおいて、温度に対応した音速、密度、及び音響インピーダンス等が、設定値として入力できるようになっている。
【0116】
また、ROMには、第1,第2超音波センサ11,12のキャリブレーションを実行するプログラム、第1超音波センサ11または第2超音波センサ12により受波され、電極60(電極ペースト62)を透過した透過波の減衰率を算出するプログラム、受波した透過波の音波波形をサイン波に近似補正するプログラム、算出された透過波の減衰率に基づいて、電極ペースト62の厚み、目付け量を演算処理する目付け量算出プログラム、演算処理した結果をモニタ21に数値や画像で表示するプログラム、その他のプログラムが記憶されている。
【0117】
厚み演算部20では、CPUにロードすることにより、電極ペースト62の目付け量及び目付けプロファイルをモニタ21に数値や画像で表示することのほか、カバー35と一体のセンサ取付け部30を長手方向LD及び幅方向WDへ移動すること、次述するマスク40を電極ペースト62のエッジ部62Cまで移動させること等の所定の動作が実行できるようになっている。
【0118】
次に、マスク40について、図2、図4及び図6を用いて説明する。
マスク40は、センサ取付け部30の本体部31の開口部32において、電極60と第2超音波センサ12との間に空気層ARのうち、図2に示すように、電極60の幅方向WD両側にある電極ペースト62のエッジ部62Cの周囲に相当する位置に、図示しない駆動源により、長手方向LD及び幅方向WDに移動可能に設けられている。
【0119】
マスク40は、例えば、スポンジ、ゴム、フエルト等、超音波振動を吸収し易い材質からなり、図4及び図6に示しように、幅方向WDに対し、エッジ部62Cの範囲より大きいマスク開口部41を有した平板状の部材である。マスク40は、本実施形態では、2つ有している。
第1超音波センサ11が超音波USを送波し、第2超音波センサ12が第1超音波センサ11から送波した超音波USを受波する前述の第1状態のときに、マスク40は、第1超音波センサ11と第2超音波センサ12との間で、超音波USが伝播するのを阻む。このマスク40は、幅方向WDに対する電極60の大きさと、金属箔61に形成されたエッジ部62Cの位置に対応する位置に固定されるようになっている。
【0120】
次に、超音波計測装置1を用いて電極ペースト62の厚みを計測し、電極ペースト62の目付け量及び目付けプロファイルの品質検査を行う方法について、説明する。
図7に、電極を透過する超音波の減衰率と、電極の目付け量との関係を示す検量線のグラフを示す。超音波計測装置1により、電極ペースト62の目付け量及び目付けプロファイルを検査するには、電極ペースト62の厚みを計測する前に、第1,第2超音波センサ11,12のキャリブレーションを行うほか、図7に示すような検量線を、予め作成しておく必要がある。
【0121】
なお、図7には、参考までに受波側の超音波センサの周波数が92kHzと165kHzの場合について図示しているが、検量線は、実際に使用する第1超音波センサ11、第2超音波センサ12の周波数に応じて作成する必要がある。
特に、計測対象である電極60において、金属箔61の厚みや電極ペースト62の塗工条件によっては、受波側となる超音波センサの周波数が高くなると、分解能の高い目付け量が検量線から得られる。
また、検量線は、図7に示す電極60向けの実測用検量線のほか、後述する第1,第2超音波センサ11,12のキャリブレーション向けに用いる検量線、及び金属箔61向けの実測用検量線を予め作成しておく必要がある。
【0122】
金属箔61向けの実測用検量線は、電極ペースト62を塗布する前の段階で、金属箔61を透過する透過波USの減衰率に基づいて、金属箔61の目付け量を算出した検量線である。
電極60向けの実測用検量線は、電極ペースト62の実測時に用いるもので、電極60(金属箔61及び電極ペースト62)を透過する透過波USの減衰率に基づいて、電極60の目付け量を算出した検量線である。
キャリブレーション向けの検量線、金属箔61向けの実測用検量線、及び電極60向けの実測用検量線を作成するときには、第1超音波センサ11と第2超音波センサ12とも同じ超音波センサを用い、それぞれの検量線毎に、第1超音波センサ11の周波数と第2超音波センサ12の周波数とがそれぞれ変化しないようにしておく。
【0123】
ここで、検量線の求め方について簡単に説明する。
検量線は、室内において、温度一定、及び湿度10%以下で一定に保たれた雰囲気の下、一対の送信側超音波センサ及び受信側超音波センサにより、厚みが異なる複数種の基準被検体に対し、送波した超音波をそれぞれの基準被検体に透過させ、このときに受信側超音波センサで受波する透過波(超音波)の減衰率を求める。
キャリブレーション向けの検量線を求めるのに用いる基準被検体は、酸化等に起因した材質変化のない材質として、Cu製の箔を用いる。基準被検体は、所定厚さのものを用いられる。勿論、Cuの密度は、JIS規格等の機械的性質で自明となっている。
【0124】
一般的に超音波の減衰率は、基準被検体の密度が一定(定数)の場合、基準被検体の厚みに反比例する関係にある。
電極ペースト等の目付け量は密度と同じディメンジョンであり、基準被検体の厚さは定数であることから、次式により、
目付け量=A/超音波の減衰率
A:定数(基準被検体の厚み、密度の単位換算に必要な係数、及び温度変化に対応した補正係数)
の関係が得られる。
【0125】
次に、各種の検量線を作成した後、超音波計測装置1により電極ペースト62の厚みを計測する前に、第1,第2超音波センサ11,12のキャリブレーションを行う。
第1,第2超音波センサ11,12では、第1状態の場合と第2状態の場合の何れの場合でも、キャリブレーションは、実質的に同じ手順で行われるため、ここでは、第1状態のキャリブレーションの手順を代表して、図8を用いて説明する。図8は、第1,第2超音波センサのキャリブレーションの手順を示すフローチャート図である。
【0126】
キャリブレーションを行う前提として、図示しない電極製造ラインに設置された超音波計測装置1において、電極60が存在しない位置までセンサ取付け部30を移動させておき、第1超音波センサ11と第2超音波センサ12との間の空気層ARに、被検体(電極ペースト62に相当)を有していない基準被検体を配置しておく。また、キャリブレーションを行うときの条件(空気層ARにおいて、温度に対応した音速、密度、及び音響インピーダンス等の設定値、基準被検体の温度等)を、厚み演算部20に入力しておく。
【0127】
また、超音波計測装置1では、送波側の第1超音波センサ11が、受波側の第2超音波センサ12に向けて送波し、空気層ARを介して超音波USを第2超音波センサ12で受波できる状態にしておく。第2状態でキャリブレーションを行う場合には、送波側の第2超音波センサ12が、受波側の第1超音波センサ11に向けて送波し、空気層ARを介して超音波USを第1超音波センサ11で受波できる状態にしておく。
【0128】
はじめに、ステップS11では、カバー35内のうち、本体部31の開口部32内の空気層ARの温度を、温度計37により測定する。
次に、ステップS12では、下記の式2乃至式4と、8つの温度計37により検出された温度(例えば、開口部32内の8箇所の平均温度等)とに基づき、空気層ARの温度に対応した音速、密度、及び音響インピーダンスを、補正定数として決定する。
〔空気における音速、密度、及び音響インピーダンス〕
(1)音速
C=f×λ…式1
C:音速(m/sec)、f:周波数(kHz)、λ:波長(m)
また、
C=331.5+(0.61×t)…式2
t:温度(℃)
(2)密度
ρ=1.293×(273.15/(273.15+t))×(P/1013.25)…式3
ρ:密度(kg/m)(ntp)、t:温度(℃)、P:気圧(atm)
(3)音響インピーダンス
Z=ρ×C…式4
Z:音響インピーダンス(Pa・s/m)
【0129】
次に、ステップS13では、第1超音波センサ11により、超音波USを所定時間(所定回数のパルス)、第2超音波センサ12に向けて基準被検体に送波する。第2超音波センサ12は、第1超音波センサ11から送波した超音波USを受波し、厚み演算部20が、第2超音波発振器12F及び超音波発振制御部10を介して受波した超音波USの受信信号として、超音波USの音波波形(縦軸:受信電圧(mV)、横軸:時間(μs))を取得する(図10等参照)。
ステップS14では、基準被検体を透過して受波した超音波USで、所定回数分のパルスの音波波形を、厚み演算部20により、正弦波に近似させた音波波形に補正し、補正した正弦波近似波形の最大の振幅値F1を算出する。
【0130】
次に、ステップS15では、第1超音波センサ11と第2超音波センサ12との間から基準被検体を取り外し、第1超音波センサ11により、超音波USを所定時間(所定回数のパルス)、第2超音波センサ12に向けて送波する。第2超音波センサ12は、第1超音波センサ11から送波した超音波USを受波し、厚み演算部20が、第2超音波発振器12F及び超音波発振制御部10を介して受波した超音波USの受信信号として、超音波USの音波波形(縦軸:受信電圧(mV)、横軸:時間(μs))を取得する。
ステップS16では、第1超音波センサ11から第2超音波センサ12に直接受波した超音波USで、所定回数のパルス分の音波波形を、厚み演算部20により、正弦波に近似させた音波波形に補正し、補正した正弦波近似波形の最大の振幅値F2を算出する。
【0131】
次に、ステップS17では、第2超音波センサ12で受波する超音波USの減衰率αを算出する。具体的には、減衰率αは、厚み演算部20により、ステップS14で算出した最大振幅値F1と、ステップS16で算出した最大振幅値F2とに基づいて算出され、F1/F2×100の積である。
次に、ステップS18では、予め作成したキャリブレーション向けの検量線により、ステップS17で算出された減衰率αに対応する目付け量、すなわち基準被検体の密度を算出する。
【0132】
次に、ステップS19では、ステップS18で算出された基準被検体の密度が、機械的性質で示されているCuの密度と整合しているかを比べて、キャリブレーションの精度確認を行う。整合(YES)していれば、キャリブレーションは終了し、後述する電極ペースト62の厚みを実測する。
整合(NO)していなければ、再度ステップS11に戻り、基準被検体の密度が規定の密度と整合するまで、上述した流れのステップを実行する。
【0133】
次に、本実施形態に係る超音波計測方法について説明する。
電極ペースト62における目付け量及び目付けプロファイルを検査するのに、超音波計測装置1が用いられる。
すなわち、本実施形態に係る超音波計測方法は、第1超音波センサ11と第2超音波センサ12とを一対で有し、ロール状に捲回されていた金属製の金属箔61の一面61aに電極ペースト62を塗布した電極60の厚み方向TDに対し、上方側に第1超音波センサ11を、下方側に第2超音波センサ12を、それぞれ空気層ARを介して配置する。
【0134】
第1超音波センサ11には、超音波USの伝播がフラットタイプの送信センサを用い、第2超音波センサ12には、超音波USの伝播がフラットタイプの受信センサを用いる。この第1超音波センサ11及び第2超音波センサ12を、超音波USを送信及び受信が可能なセンサとする。
このような第1,第2超音波センサ11,12に対し、超音波USの送受信を制御する超音波発振制御部10を備えておく。
【0135】
第1超音波センサ11が送波し、第2超音波センサ12が受波する状態を第1状態とし、第1超音波センサ11が受波し、第2超音波センサ12が送波する状態を第2状態としたときに、超音波発振制御部10が、第1超音波センサ11と第2超音波センサ12とに対し、互いに異なるよう、第1状態と第2状態とを交互に置換させる。
以下、超音波USを送波する超音波センサを送波側超音波センサ11Aと称し、透過した超音波USを受波する超音波センサを受波側超音波センサ12Aと称する。
【0136】
また、第1,第2超音波センサ11,12のうち、空気層ARを伝播する超音波USを受波する受波側超音波センサ12Aで、受波後、時間の経過と共に、生じる複数群の音波波形のうち、最初に検出される音波波形を第1群音波波形と、第1群音波波形に次いで検出される音波波形を第2群音波波形とする(図9及び図10等参照)。
この第2群音波波形と第1群音波波形とが重ならない条件の下、第1超音波センサ11及び第2超音波センサ12の各周波数を、電極ペースト62の厚みtに応じて、より低く設定する。具体的には、第1超音波センサ11及び第2超音波センサ12を、周波数400kHz以下の超音波センサとし、第1超音波センサ11と第2超音波センサ12に、公称周波数として同じ周波数帯の超音波センサを用いる。
【0137】
電極ペースト62の厚みは、第1超音波センサ11及び第2超音波センサ12のうち、受波側超音波センサ12Aで受波した超音波USの減衰率に基づいて算出する。
また、電極60を挟み、第1超音波センサ11と第2超音波センサ12とを、第1超音波センサ11で超音波振動する第1振動面11a、及び第2超音波センサ12で超音波振動する第2振動面12aに対し垂直方向に、第1振動面11aと第2振動面12aとのプローブ間距離を100mm以下(本実施形態では、70(mm))にして配置する。
その上で、第2群音波波形で、振幅が最大値となる状態にあるときに、第1群音波波形による受信信号、すなわち第1群音波波形の減衰率に基づいて、電極ペースト62の厚みを計測する。
【0138】
このようにして、本実施形態に係る超音波計測方法は、第1超音波センサ11と第2超音波センサ12との間で超音波USを伝播させることによって、電極ペースト62の厚みを計測する。
【0139】
ここで、送波側超音波センサ11Aと受波側超音波センサ12Aとの間で電極60を配置する位置と、第2群音波波形との関係について、図9乃至図14を用いて説明する。
図9は、電極が、送波側超音波センサ及び受波側超音波センサに対し、その中央位置にある場合を模式的に示す説明図であり、電極が図9に示す位置に配置された場合、受波側超音波センサで受波される超音波の音波波形を、図10に示す。
図11は、電極が、送波側超音波センサ及び受波側超音波センサに対し、その中央位置から少し片側寄りに位置する場合を模式的に示す説明図であり、(a)は送波側超音波センサ側寄りの場合、(b)は受波側超音波センサ側寄りの場合である。電極が図11に示す位置に配置された場合に、受波側超音波センサで受波される超音波の音波波形を、図12に示す。
図13は、電極が、送波側超音波センサ及び受波側超音波センサに対し、その中央位置から大きく片側寄りに位置する場合を模式的に示す説明図であり、(a)は送波側超音波センサ側寄りの場合、(b)は受波側超音波センサ側寄りの場合である。電極が図13に示す位置に配置された場合に、受波側超音波センサで受波される超音波の音波波形を、図14に示す。
【0140】
前述したように、受波側超音波センサ12Aでは、受波後、時間の経過と共に、複数群の音波波形が生じる。複数群の音波波形のうち、第1群音波波形は、送波側超音波センサ11Aにより電極60に向けて送波した超音波USは金属箔61と電極ペースト62とを透過した透過波だけの受信信号となり、ノイズとなるエコーを含まない。また、第1群音波波形以降の奇数群音波波形についても、第1群音波波形と同様の傾向となる。
【0141】
一方、第1群音波波形に次いで検出される第2群音波波形は、第1反射波による受信信号と、第2反射波による受信信号とを含むエコーであり、電極ペースト62の厚みを求めるのに必要な受信信号にとってノイズとなることがある。
第1反射波による受信信号は、送波した超音波USが電極60の照射エリアMBを透過せず電極60でいったん反射した後に、電極60を透過して受波された受信信号である。
第2反射波による受信信号は、送波した超音波USが電極60の照射エリアMBを透過して受波側超音波センサ側12Aでいったん反射した後、電極60に戻ってここで反射して受波された受信信号である。
【0142】
特に、送波側超音波センサ11Aと受波側超音波センサ12Aとのプローブ間距離が100mm以下であるときには、第1群音波波形と第2群音波波形とは、次述する(1)乃至(3)に記載する関係にある。
(1)図9に示すように、電極60が送波側超音波センサ11Aと受波側超音波センサ12Aとのちょうど中央位置にある場合
この場合には、図10に示すように、第2群音波波形は、第1反射波と第2反射波とが同周期で合成し、このときの合成波の振幅は最大となる。
(2)図11に示すように、電極60が送波側超音波センサ11Aと受波側超音波センサ12Aとの中央位置から少し片側寄りに位置する場合
この場合には、第2群音波波形は、第1反射波と第2反射波との位相がずれて干渉し合い、第1反射波と第2反射波との位相が半周期ずれたところで、第2群音波波形の振幅は最小となる。
【0143】
(3)図13に示すように、電極60が送波側超音波センサ11Aと受波側超音波センサ12Aとの中央位置から大きく片側寄りに位置する場合
この場合には、第2群音波波形は、第1反射波と第2反射波との位相が完全にずれてしまい、第1反射波と第2反射波とが2つに分離する。
なお、第1群音波波形は、上記の(1)乃至(3)の何れの場合においても、送波側超音波センサ11Aにより送波した超音波USが金属箔61と電極ペースト62とを透過した透過波だけの受信信号となり、第1反射波及び第2反射波による多重反射波の影響を受けない。
従って、第1群音波波形と第2群音波波形とが重ならない条件が前提となる。
【0144】
ところで、電極60内の金属箔61は、密度の大きい金属製であり、超音波USは、波長が長く、低い周波数でも金属箔61を伝播し易い。また、金属箔61を伝播する間、超音波USの減衰は小さく、超音波USの波長から得られる分解能も良好である。
その一方で、超音波USの伝播距離が同じでも、周波数がより低いと、伝播時間は長くなることから、第1群音波波形に第2群音波波形が重なる現象が生じ得る。
【0145】
また、電極ペースト62は、密度が金属箔61より低い非金属の材質であり、電極ペースト62には、波長が長く、周波数の低い超音波USは、金属箔61に比して伝播し難く、波長が短く、周波数の高い超音波USが伝播し易い。
その一方で、電極ペースト62を伝播させる超音波USの周波数をむやみに高くすると、超音波USの伝播距離が同じである場合、伝播時間はより短くなるが、電極ペースト62を伝播するときに生じる超音波USの減衰はより大きくなり、超音波USの波長から得られる分解能は悪化する。
よって、第2群音波波形と第1群音波波形とが重ならない条件の下で、送波側超音波センサ11A及び受波側超音波センサ12A(第1超音波センサ11及び第2超音波センサ12)の各周波数を、前述したように、電極ペースト62の厚みt(図5参照)に応じて、周波数400kHz以下の範囲内でより低く設定することが好ましい。
【0146】
ここで、受波側超音波センサ12Aで受波する超音波USの受信パワーと、受波側超音波センサ12Aの発熱温度との関係について、図15を用いて簡単に触れる。図15は、受波側超音波センサにおける受信パワーと発熱温度との関係を示すグラフである。
受波側超音波センサ12Aの作動時間が長くなると、当該受波側超音波センサ12Aで発熱し、図10に示すように、受波側超音波センサ12A自体の温度が上昇するにつれ、受波した超音波を電圧に変換した受信パワーは低下する。
電極ペースト62の目付け量及び目付けプロファイルの計測時に、第1超音波センサ11及び第2超音波センサ12を冷却して、受波側超音波センサ12A自体の温度上昇を防ぎ、受信パワーの低下を抑止しておくことが好ましい。
【0147】
次に、本実施形態に係る超音波計測方法により、電極ペースト62の厚みの計測、すなわち電極ペースト62において目付け量及び目付けプロファイルの検査を行う手順について、図16を用いて説明する。図16は、電極ペースト62の目付け量を算出するまでの手順を示すフローチャート図である。
【0148】
超音波計測装置1で電極ペースト62の目付け量を算出するにあたり、超音波計測装置1では、前述した第1,第2超音波センサ11,12のキャリブレーションが完了していることが前提となる。
また、図1に示すように、図示しない電極製造ライン上にある電極60に対し、その電極ペースト62の目付け量を計測する計測エリアMAで、電極ペースト62の厚みが計測できるよう、カバー35と一体のセンサ取付け部30を移動させておく。
【0149】
はじめに、ステップS31では、カバー35内にある本体部31の開口部32内の空気層ARの温度を、温度計37により測定する。
次に、ステップS32では、前述した式2乃至式4と、8つの温度計37により検出された温度(例えば、開口部32内の8箇所の平均温度等)とに基づき、空気層ARの温度に対応した音速、密度、及び音響インピーダンスを、補正定数として決定する。
【0150】
次に、ステップS33では、第1超音波センサ11と第2超音波センサ12との間の空気層ARに配置した電極60に対し、第1状態では、第1超音波センサ11を1回発振させて、第1超音波センサ11から送波した超音波USを、電極60内の金属箔61、及び電極ペースト62(被検体)に透過させる。
このとき、第1超音波センサ11及び第2超音波センサ12の公称周波数が400kHz近傍で、第1,第2超音波センサ11,12のプローブ間距離が70(mm)程度の場合には、第1超音波センサ11を1回発振させると、第2超音波センサ12で、受信信号が、被検体、金属箔61を透過した約30パルス分の超音波US(透過波)による音波波形となって得られる。
【0151】
また、超音波発振制御部10により、第1状態と交互に置換させて第2状態となったときでは、第2超音波センサ12を1回発振させて、第2超音波センサ12から送波した超音波USを、電極60内の電極ペースト62(被検体)、及び金属箔61に透過させる。
このとき、第2超音波センサ12を1回発振させると、第1超音波センサ11で、受信信号が、金属箔61、被検体を透過した約30パルス分の超音波US(透過波)による音波波形となって得られる。
ステップS33では、第1状態、第2状態に関わらず、取得する透過波US約30パルス分の音波波形は、図9及び図10に示すように、送波側超音波センサ11Aと受波側超音波センサ12Aとのちょうど中央位置に電極60を配置した場合に生じる第2群音波波形で、この波形の振幅が最大値となる状態を前提とした第1群音波波形である。
【0152】
次に、ステップS34では、ステップS33で上述した第1群音波波形に基づき、補正した正弦波近似波形の最大の振幅値F3を算出する。
具体的には、取得した透過波US約30パルス分のうち、立ち上がりまでのはじめの約5パルス分の透過波USについては、安定した受信信号として取得できないため、安定化する残りの約25パルス分の透過波USを、平均化等により正弦波に近似させた音波波形に補正し、補正した正弦波近似波形の最大振幅値F3を算出する。
最大振幅値F3は、第1状態と第2状態の場合で2種類得られる。
【0153】
次に、ステップS35では、電極60を透過するときの透過波USの減衰率βを、第1状態及び第2状態の場合について、それぞれ算出する。
具体的には、減衰率βは、ステップS34で算出した最大振幅値F3と、図8中、ステップS14で算出した最大振幅値F1とに基づいて算出され、F3/F1×100の積で求められる。
【0154】
次に、ステップS36では、予め作成した電極60の実測向けの検量線により、ステップS35で算出された2つの減衰率βに対応する電極60の目付け量を、それぞれ算出する。
具体的には、例えば、第1状態において、受波側超音波センサ12Aが周波数165kHzのセンサで、減衰率βが1.0%であった場合には、電極ペースト62の目付け量は、図10に示す実測向けの検量線から、約75(g/m)であると読み取れる。
また、上記第1状態から置換された第2状態において、受波側超音波センサ12Aが周波数92kHzのセンサで、減衰率βが1.7%であった場合には、電極ペースト62の目付け量は、図10に示す電極60向けの実測用検量線から、約80(g/m)であると読み取れる。
【0155】
次に、ステップS37では、ステップS36において算出された2種類の電極60の目付け量と金属箔61の目付け量との差から、電極ペースト62の目付け量を算出し、電極ペースト62の目付け量の算出値が、計測誤差の許容範囲に入り、信頼性のある値であるか否かを判断する。
すなわち、ステップS36で例示した場合において、第1状態において、周波数165kHzの受波側超音波センサ12Aで、金属箔61を透過する透過波の減衰率がγ1であった場合には、金属箔61の目付け量は、予め用意した金属箔61向けの実測用検量線からs1(g/m)を読み取る。
また、第2状態において、周波数92kHzの受波側超音波センサ12Aで、金属箔61を透過する透過波の減衰率がγ2であった場合には、金属箔61の目付け量は、予め用意した金属箔61向けの実測用検量線からs2(g/m)を読み取る。
【0156】
ステップS36において、第1状態で算出した電極ペースト62の目付け量約75(g/m)から、同じ第1状態で算出した金属箔61の目付け量s1(g/m)を減算し、この差が、第1状態で算出される電極ペースト62の目付け量t1(g/m)となる。
また、第2状態で算出した電極ペースト62の目付け量約80(g/m)から、同じ第2状態で算出した金属箔61の目付け量s2(g/m)を減算し、この差が、第2状態で算出される電極ペースト62の目付け量t2(g/m)となる。
【0157】
第1状態における電極ペースト62の目付け量t1(g/m)と、第2状態における電極ペースト62の目付け量t2(g/m)との各算出値が、実際に電極製造ラインで製造される電極60の電極ペースト62の目付け量として、計測誤差の許容範囲内にあり、信頼性のある値であるか否かを、作業者が判断する。
電極ペースト62の目付け量t1,t2(g/m)の算出値が、正常値として判断されれば、出力として、2種類の目付け量t1,t2(g/m)について、平均化等の演算処理を行い、演算処理後の計測値が、ライン上で計測した電極60の電極ペースト62の目付け量として得られ、計測を終了する(YES)。
【0158】
目付け量t1,t2(g/m)の算出値が、互いに大きくかけ離れた数値である場合や、電極製造ラインで製造される電極60に対し、電極ペースト62が設計上の目付け量と大きく異なる数値である場合等には、正常値として判断されず、2種類の目付け量t1,t2(g/m)について、上記した演算処理を行わず、再度ステップS33に戻る(NO)。ステップS33に戻ったら、目付け量を算出するまでの計測に問題がある場合には、この問題が解決するまで、上述した流れのステップを実行する。
【0159】
次に、電極ペースト62の目付けプロファイルの計測について、図6を用いて説明する。
4つの第1超音波センサ11の照射エリアMB(図1参照)内に、幅方向WD両側にエッジ部62Cが入るよう、4つの第1超音波センサ11のうち、幅方向WD両側にある2つの第1超音波センサ11と、これらの第1超音波センサ11の対となる第2超音波センサ12とが配置されていることが前提となる。
本実施形態に係る超音波計測方法は、第1超音波センサ11と第2超音波センサ12との間で、超音波USが伝播するのを阻むマスク40を用い、電極60と第2超音波センサ12との間のうち、電極ペースト62のエッジ部62Cの周囲に相当する位置に、マスク40を移動させて配置した後、第1超音波センサ11が電極ペースト62のエッジ部62Cに向けて超音波USを送波し、第2超音波センサ12で受波する。
【0160】
すなわち、実際に電極製造ラインで製造される電極60では、その仕様によって金属箔61及び電極ペースト62の幅寸法がそれぞれ異なることがある。
電極60には、電極ペースト62の幅方向WD両側にエッジ部62Cが存在する。エッジ部62Cは、図5及び図6に示すように、金属箔61の一面61aに対して傾斜しており、電極ペースト62の厚みtがt=0から徐々に大きく変化している部分である。
2つのマスク40は、このような電極ペースト62のエッジ部62Cの位置するところまでそれぞれ移動させ、図6に示すように、マスク開口部41の内側に相当する部分にエッジ部62Cが配置されたところで停止させる。
【0161】
次いで、4組の第1,第2超音波センサ11,12のうち、幅方向WD両側にある2組の第1,第2超音波センサ11,12において、第1超音波センサ11が、電極60に向けて超音波USを送波し照射する。
第1超音波センサ11はフラットタイプの送信センサであり、第2超音波センサ12はフラットタイプの受信センサであるため、第1超音波センサ11から送波した超音波USは、図6に示すように、電極60を透過した後、マスク40へ伝わる部分と、マスク40のマスク開口部41を通過して第2超音波センサ12に受波される部分とに分かれる。
マスク40に伝わった超音波USは、マスク40から透過しないよう、マスク40に吸収させる。
【0162】
(実施例2)
本実施例では、電極ペーストを金属箔両面に塗工する場合について説明する。
本実施例は、第3超音波センサ13の有無、第1,第2超音波センサ11,12の配置等の点で、実施例1と異なるが、それ以外の部分は、実施例1と同様である。
従って、実施例2は、実施例1とは異なる部分を中心に説明し、その他について説明を簡略または省略する。
【0163】
図17は、第2実施例に係る超音波計測装置の構成を説明する模式図であり、図を見易くするために、カバーと一体であるセンサ取付け部の図示を省略した図である。図18は、電極を幅方向WDからみた側面図であり、金属箔両面に塗工された電極ペーストに対し、目付け量の検査をするときの説明図である。
【0164】
本実施例に係る超音波計測装置101では、図17及び図18に示すように、超音波の伝播がフラットタイプのセンサである第3超音波センサ13を4つ有し、第1超音波センサ11と第3超音波センサ13とが、空気層ARを介して電極60の一方側で、超音波USが第1超音波センサ11と第3超音波センサ13との間で正反射する位置に配置されている。また、第2超音波センサ12は、第1超音波センサ11の軸心方向AXに向けて電極60を透過した位置に配置されている。
【0165】
第3超音波センサ13において、フラットタイプのセンサとは、第3超音波センサ13で超音波USを受波する第3振動面13aが、本実施形態では、1つであり、第3振動面13aの全体形状が、矩形状に形成された超音波センサである。また、第1超音波センサ11から送波されて電極60で少なくとも反射した超音波(反射波)USを、空気層ARを介して第3振動面13aで受波することができる超音波センサをいう。
第3超音波センサ13は、第1,第2超音波センサ11,12と同様、超音波の受信をも可能とする超音波センサであり、周波数400kHz以下の同じ周波数帯の超音波センサである。
【0166】
1つの第1超音波センサ11と、1つの第2超音波センサ12と、1つの第3超音波センサ13とが1組をなし、図17に図示していないが、4組の第1超音波センサ11乃至第3超音波センサ13が、実施例1と同様、カバー35と一体であるセンサ取付け部30に配設されている。
第1超音波センサ11と第2超音波センサ12は、電極60の金属箔61に対し、例えば、θ=13°の角度に配置され、第3超音波センサ13は、第1超音波センサ11から送波した超音波USが電極60で正反射する角度に配置されている。
【0167】
図17に示すように、4つの第3超音波センサ13は、第3超音波発振器13Fと電気的に接続されている。第3超音波発振器13Fは、第3振動面13aに電圧を印加して超音波振動させるための発振回路と、第3振動面13aで受波した超音波振動を電圧に変換して受信するための受信回路とを有している。
第1超音波発振器11F、第2超音波発振器12F、及び第3超音波発振器13Fは、超音波発振制御部10と電気的に接続されている。
【0168】
超音波発振制御部10は、第1超音波センサ11及び第2超音波センサ12に対し、超音波USの送受信を制御すると共に、第1超音波センサ11及び第3超音波センサ13に対し、超音波USの送受信を制御する。
第1超音波センサ11と第3超音波センサ13との間で行うキャリブレーションは、実施例1で説明した第1超音波センサ11と第3超音波センサ13との間で行うキャリブレーションと同じ要領で、超音波発振制御部10により、送波側と受波側とを相互に切り換えて行う。
【0169】
次に、本実施形態に係る超音波計測方法について説明する。
金属箔61の一面61aと他面61bの両面に塗工した電極ペースト62の目付け量を、一面61a側と他面61b側で検査するのに、超音波計測装置101を用いる。
検査の前には、電極60を透過するときの超音波USの減衰率と、金属箔61を透過するときの超音波USの減衰率βとを予め把握し、第1超音波センサ11乃至第3超音波センサ13でキャリブレーションを完了しておく。
電極ペースト62が金属箔61の一面61aと他面61bの両面に塗工された電極60向けの両面塗工実測用検量線、電極ペースト62が金属箔61の一面61aに塗工された電極60向けの片面塗工実測用検量線、及び金属箔61向けの実測用検量線を予め作成しておく。
【0170】
本実施形態に係る超音波計測方法は、第3超音波センサ13として、超音波USの伝播がフラットタイプのセンサが用いられ、第1超音波センサ11と第3超音波センサ13とを、空気層ARを介して電極60の一方側に、超音波USが第1超音波センサ11と第3超音波センサ13との間で正反射する位置に配置すること、第2超音波センサ12を、第1超音波センサ11の軸心方向AXに向けて電極60を透過した位置に配置する.
【0171】
前述した構成を有する本実施形態に係る超音波計測方法、及び超音波計測装置の作用・効果について説明する。
本実施形態に係る超音波計測方法では、
(1)第1超音波センサ11と第2超音波センサ12とを一対で有し、ロール状に捲回されていた金属箔61の一面61aまたは両面61a,61bに電極ペースト62を塗布した電極60の厚み方向TDに対し、一方側に第1超音波センサ11を、他方側に第2超音波センサ12を、それぞれ空気層ARを介して配置し、第1超音波センサ11と第2超音波センサ12との間で超音波USを伝播させることにより、電極ペースト62の厚みtを計測する超音波計測方法において、第1超音波センサ11に、超音波USの伝播がフラットタイプの送信センサを用いること、第2超音波センサ12に、超音波USの伝播がフラットタイプの受信センサを用いること、を特徴とするので、電池製造工程において、金属箔61に電極ペースト62を塗布して電極60を製造する製造ラインで、電極ペースト62の目付け量、及び目付けプロファイル等、電極ペースト62の厚みtを、インラインで計測する場合、第1超音波センサ11から送波した超音波USが、電極60に対し広い面積(照射エリアMB)にわたって照射されて電極60中の金属箔61と電極ペースト62とを透過し、第2超音波センサUSが、より広範囲にわたって金属箔61及び電極ペースト62を透過した超音波(透過波)USを受波することにより、電極ペースト62の厚みtを求めるための受信信号が、特許文献1のような従来のスポットタイプの超音波センサに比べ、電極60の広い範囲で得られる。
【0172】
すなわち、第1超音波センサ11に、超音波USの伝播がフラットタイプの送信センサが、第2超音波センサ12に、超音波USの伝播がフラットタイプの受信センサが用いられている。
これにより、第1超音波センサ11が、送波した超音波USを、空気層ARを介して、電極60のうち、第1振動面11aと対向するエリア内に少なくとも伝播させ、第2超音波センサ12が、第1超音波センサ12より送波、照射されて電極60を少なくとも透過した超音波(透過波)USを、空気層ARを介して第2超音波センサ12の第2振動面12aで受波する。
よって、本実施形態に係る超音波計測方法では、第2超音波センサ12において、電極ペースト62の厚みtを求めるための受信信号が、スポットタイプの超音波センサに比べて、電極60の広い範囲で得られる。そのため、電極ペースト62の目付け量や目付けプロファイル等、電極ペースト62の厚みtに係る品質検査を、電極60の製造ライン上で実施することができる。
【0173】
また、第2超音波センサ12で受波した透過波USによる受信信号を、電極60の広域から得ることができるため、電極60において電極ペースト62の厚みtをより広い範囲で検出できることから、計測範囲内で電極ペースト62の厚みtのバラツキ等がより正確に把握でき、電極ペースト62の目付け量等、電極60に対し、第1,第2超音波センサ11,12による照射エリアMB内におけるペースト62の全体的な厚みtを、高い信頼性で計測することができる。
その一方で、電極ペースト62の目付けプロファイルの検査は、電極ペースト62のエッジ部62Cで電極ペースト62の厚みを所定範囲にかけて測定することにより、エッジ部62C全体の形状を把握することから、電極60において電極ペースト62の厚みtをより広い範囲で検出できる分、電極ペースト62の目付けプロファイルの検査を、放射線計測装置や、特許文献1のような従来のスポットタイプの超音波センサによる従来の検査方法に比べ、より精度良く計測することができる。
【0174】
ここで、図19に、送波側超音波センサと受波側超音波センサとのプローブ間距離と、受波側超音波センサで受波する超音波の受信波最大振幅との関係について、スポット型の超音波センサとフラット型の超音波センサとを対比させたグラフを示す。
図19に示すように、フラット型の超音波センサでは、プローブ間距離が大きく変化しても、受波側超音波センサで受波される受信波の振幅の大きさは、プローブ間距離によって大きく変化しない。
これに対し、特許文献1のような従来のスポット型の超音波センサでは、フラット型の超音波センサと比較して、同じプローブ間距離の範囲でも、プローブ間距離がたとえ1(mm)ずれても、受波側超音波センサで受波される受信波の振幅の大きさは、プローブ間距離によっては10%〜20%も低下してしまう。
よって、電極ペースト62の目付け量や目付けプロファイルの検査では、フラット型の超音波センサを用いると、プローブ間距離が多少変化しても、計測精度に影響が少なくなく、高精度に計測することができる。
【0175】
また、電極ペースト62の塗布前後の重量差を計測する従来の品質検査では、電極ペースト62の目付け量及び目付けプロファイルの品質検査が正確に確認できないほか、品質検査は製造ラインからサンプリングした電極60を用いてアウトラインで行っていたため、品質検査を実施するのに、工程が余分に増えて、コスト高となっていた。また、放射線計測装置を用いた品質検査でも、放射線計測装置が非常に高価であり、設備コストが過大にかかっていた。
【0176】
これに対し、本実施形態に係る超音波計測方法では、電極60を製造する製造ラインを停止させる必要がなく、ライン稼働中に品質検査が実施できるため、品質検査を実施するのに余分な工程が増えず、コスト高になることもない。また、本実施形態に係る超音波計測方法で用いる第1超音波センサ11及び第2超音波センサ12等を構成する装置(超音波計測装置1)の設備コストは、放射線計測装置に比して安価であり、電極60に反映されるコストが大きく削減できる。
従って、本実施形態に係る超音波計測方法によれば、製造ラインで製造される電極60に対し、インライン上で、電極60に塗布された電極ペースト62の厚みtを、低コストで、信頼性の高い計測精度で計測することができる、という優れた効果を奏する。
【0177】
(2)また、本実施形態に係る超音波計測方法では、第1超音波センサ11及び第2超音波センサ12には、超音波USを送信及び受信が可能なセンサが用いられ、第1超音波センサ11及び第2超音波センサ12に対し、超音波USの送受信を制御する超音波発振制御部10を備え、第1超音波センサ11が送波し、第2超音波センサ12が受波する状態を第1状態とし、第1超音波センサ11が受波し、第2超音波センサ12が送波する状態を第2状態としたときに、超音波発振制御部10は、第1超音波センサ11と第2超音波センサ12とに対し、互いに異なるよう、第1状態と第2状態とを交互に置換させるので、第1状態のときに、第2超音波センサ12が受波した第2受波信号と、第2状態のときに、第1超音波センサ11が受波した第1受波信号との2種類の受波信号に基づき、計測の信頼性をより高くして、電極ペースト62の厚みtを高精度に求めることができる。
【0178】
すなわち、本実施形態に係る超音波計測方法では、第1超音波センサ11及び第2超音波センサ12には、公称の周波数として、同じ周波数帯の超音波センサが用いられる。
超音波センサは、同じ周波数帯でも厳密に言えば、個々の超音波センサ毎に微妙に周波数が異なっており、それぞれ固有の周波数となっているのが一般的である。本実施形態に係る超音波計測方法は、超音波センサの性能上、このような周波数差が必然的に生じ得る現象を、第1超音波センサ11と第2超音波センサ12とに利用している。
すなわち、第1超音波センサ11は、周波数f1(f)を固有の特性値とし、第2超音波センサ12は、周波数f2(f)を固有の特性値とする超音波センサであり、周波数f1と周波数f2とは、f1≒f2の関係にある。
【0179】
前述したように、空気における音速、密度、及び音響インピーダンスは、次式より求められる。
(1)音速
C=f×λ…式1
C:音速(m/sec)、f:周波数(kHz)、λ:波長(m)
また、
C=331.5+(0.61×t)…式2
t:温度(℃)
(2)密度
ρ=1.293×(273.15/(273.15+t))×(P/1013.25)…式3
ρ:密度(kg/m)(ntp)、t:温度(℃)、P:気圧(atm)
(3)音響インピーダンス
Z=ρ×C…式4
Z:音響インピーダンス(Pa・s/m)
【0180】
式1及び式4より、λ=Z/f/ρ…式5が得られる。大気圧の下、空気における音速、密度、及び音響インピーダンスは、式1乃至式3により、空気の温度に比例するため、式5において、音響インピーダンス及び密度を、温度変化に対応した定数とみなすと、波長λは、周波数fに反比例する関係にある。
【0181】
すなわち、第1状態のときに、周波数f1(f)の第1超音波センサ11から送波した超音波USが電極60を透過し、周波数f2(f)の第2超音波センサ12で受波した超音波(透過波)USの波長λ2(第2受波信号)は、式5より、
λ2=Z2/f2/ρ2
λ2:第2超音波センサ12で受波する超音波USの波長(m)、Z2及びρ2:定数
また、第2状態のときに、周波数f2(f)の第2超音波センサ12から送波した超音波USが電極60を透過し、周波数f1(f)の第1超音波センサ11で受波した透過波USの波長λ1(第1受波信号)は、波長λ2と同様、式5より、
λ1=Z1/f1/ρ1
λ1:第1超音波センサ11で受波する超音波USの波長(m)、Z1及びρ1:定数
となり、定数は、Z1≒Z2、ρ1≒ρ2の関係にあり、周波数は、f1≒f2の関係にあることから、第1受波信号である波長λ1と、第2受波信号である波長λ2とは、λ1≒λ2の関係となる。
【0182】
電極ペースト62の厚みtを求めるとき、1つの超音波センサだけで受波した受波信号に基づいていると、作業者が、この受波信号が計測時に正常な状態で得られたものであるかを判断し難く、計測の信頼性にも欠ける。
これに対し、本実施形態に係る超音波計測方法では、超音波発振制御部10により、第1超音波センサ11と第2超音波センサ12とに対し、互いに異なるよう、第1状態と第2状態とを交互に置換させている。
これにより、計測時の空気の温度変化に対応しつつ、電極ペースト62の厚みtを求めるのに、第1状態のときに、第2超音波センサ12で受波した超音波USの第2受波信号(λ2)と、第2状態のときに、第1超音波センサ11で受波した超音波USの第1受波信号(λ1)との2種類の受信信号に基づいて計測できている。
【0183】
第1受波信号と第2受波信号とを用いることにより、第1受波信号と第2受波信号とがλ1≒λ2の関係で得られれば、作業者は、受波信号が計測時に正常な状態で得られたものであると判断することができる。
【0184】
ここで、図20に、受波された超音波における波長と受信パワーとの関係を示すグラフを示す。
超音波センサでは、音波伝播の特性上、超音波の受信パワー(超音波強度)の大きさと受波する超音波の波長の大きさとの間には、一般的に相関関係がある。超音波強度は、図20に示すように、ある波長の大きさをピーク値とする正規分布で変化し、波長の大きさがこのピーク値から前後に外れると、超音波強度が上記ピーク値より大きく低下する特性がある。また、図20に示すように、受波する超音波P,Qの波長が異なり、波長のピーク値が異なると、受波する超音波P,Qの超音波強度の大きさに大きく差異が生じる。
第1受波信号と第2受波信号とがλ1≒λ2の関係になると、第1受波信号λ1に対応する超音波強度のピーク値と、第2受波信号λ2に対応する超音波強度のピーク値とが、いずれもほぼ同じ大きさのピーク値に近づき、超音波強度も同じような大きさとなる。
【0185】
本実施形態に係る超音波計測方法では、電極ペースト62の厚みtを計測する前に、超音波USが金属箔61を透過するときの減衰率、あるいは金属箔61の厚みを予め把握しておいた上で、超音波強度がほぼ同じ大きさのピーク値になる第1受波信号及び第2受波信号に基づいて、電極ペースト62の厚みtを算出すれば、信頼性が高く、高精度な計測を実現することができる。
従って、第1受波信号と第2受波信号とに基づき、電極ペースト62の厚みtを高精度に求めることができる。
【0186】
(3)また、本実施形態に係る超音波計測方法では、第3超音波センサ13として、超音波USの伝播がフラットタイプのセンサが用いられ、第1超音波センサ11と第3超音波センサ13とを、空気層ARを介して電極60の一方側に、超音波USが第1超音波センサ11と第3超音波センサ13との間で正反射する位置に配置すること、第2超音波センサ12を、第1超音波センサ11の軸心方向AXに向けて電極60を透過した位置に配置するので、電極ペースト62が金属箔61の両面61a,61bに塗布された電極60に対し、金属箔61の一面61a側の電極ペースト62の厚みtを、第3超音波センサ13で受波した超音波USの横波による受信信号に基づいて、金属箔61の他面61b側の電極ペースト62の厚みtを、第2超音波センサ12で受波した超音波USの縦波による受信信号に基づいて、それぞれ同時に計測することができる。
【0187】
すなわち、電極ペースト62の厚みtを計測する前には、電極ペースト62が塗布されていない状態の金属箔61に対し、超音波USが金属箔61を透過するときの基材透過信号として、減衰率に基づいて作成された金属箔61向けの検量線により、金属箔61の目付け量を予め把握しておく。
本実施形態に係る超音波計測方法では、第1超音波センサ11から送波した超音波USが、横波として、金属箔61の一面61a側の電極ペースト62を介して金属箔61に伝播し、第3超音波センサ13が、金属箔61で正反射した反射波USを、再び金属箔61の一面61a側の電極ペースト62を介して受波する。
これにより、第3超音波センサ13が、金属箔61の一面61aで正反射した反射波USを受波するときの基材反射信号を取得し、この基材反射信号に基づき、金属箔61の一面61a側の電極ペースト62の目付け量(厚みt)を把握する。
【0188】
その一方で、第1超音波センサ11から超音波USを第3超音波センサ13に送波すると同時に、第1超音波センサ11から送波した超音波USが、縦波として、金属箔61の一面61a側の電極ペースト62、金属箔61、及び金属箔61の他面61b側の電極ペースト62に伝播し、第2超音波センサ12が、電極透過信号として、金属箔61の他面61b側の電極ペースト62まで透過した透過波USを受波する。
これにより、電極透過信号に基づき、電極60の目付け量を算出し、算出した電極60の目付け量から、金属箔61の目付け量と、金属箔61の一面61a側の電極ペースト62の目付け量とを減算し、金属箔61の他面61b側の電極ペースト62の目付け量(厚みt)を求める。
【0189】
従って、金属箔61の一面61a側の電極ペースト62の厚みtは、第3超音波センサ13で受波した超音波USの横波による受信信号に基づいて、金属箔61の他面61b側の電極ペースト62の厚みtは、第2超音波センサ12で受波した超音波USの縦波による受信信号に基づいて、それぞれ同時に計測することができる。
よって、電極60において両面61a,61bに塗布された電極ペースト62の厚みをそれぞれ計測する設備の簡素化を図ることができる。
【0190】
(4)本実施形態に係る超音波計測方法では、第1超音波センサ11と第2超音波センサ12との間で、超音波USが伝播するのを阻むマスク40を備え、電極60と第2超音波センサ12との間のうち、電極ペースト62のエッジ部62Cの周囲に相当する位置に、マスク40を移動させて配置した後、第1超音波センサ11が電極ペースト62のエッジ部62Cに向けて超音波USを送波し、第2超音波センサ12で受波するので、第1超音波センサ11から第2超音波センサ12に向けて送波した超音波USのうち、エッジ部62C周囲を伝播した振動は、カバー40により阻まれ、エッジ部62Cを透過する振動はカバー40に吸収され、第2超音波センサまで伝播しなくなる。
【0191】
一方、エッジ部62Cには、その形状に応じて厚みが異なる部位がある。エッジ部62Cで部位によって厚みが異なると、エッジ部62Cを伝播し透過する距離が、伝播する部位によって異なることから、第2超音波センサ12で受波される透過波USの減衰率の受信信号が、エッジ部62Cの形状に対応して異なったものになる。
よって、カバー40によりエッジ部62C周囲の形状が露出せず、電極ペースト62の目付けプロファイル、すなわち電極ペースト62のエッジ部62Cの形状が、第2超音波センサ12で受信された受信信号に基づき、電極ペースト62の厚みtに対応してはっきりと検出できる。
【0192】
(5)本実施形態に係る超音波計測方法では、空気層ARを伝播する超音波USを受波する受波側超音波センサ12Aで、受波後、時間の経過と共に、生じる複数群の音波波形のうち、最初に検出される音波波形を第1群音波波形と、第1群音波波形に次いで検出される音波波形を第2群音波波形としたときに、第2群音波波形と第1群音波波形とが重ならない条件の下、少なくとも第1超音波センサ11及び第2超音波センサ12の各周波数を、電極ペースト62の厚みtに応じて、より低く設定するので、電極ペースト62を伝播するときに生じる超音波USの減衰をより小さく抑えることができると共に、受波側超音波センサ12Aで受波した受信信号の分解能をより高くして、電極ペースト62の厚みtを高精度に求めることができる。
【0193】
(6)本実施形態に係る超音波計測方法では、電極ペースト62の厚みtを、第1超音波センサ11乃至第3超音波センサ12のうち、受波側超音波センサ12Aで受波した超音波USの減衰率βに基づいて算出するので、金属箔61を透過するときの超音波USの減衰率が予め把握され、金属箔61において超音波USの減衰率γと目付け量との関係を示す検量線が予め作成されている上で、超音波USの減衰率βに対応する電極60の目付け量から、超音波USの減衰率γに対応する金属箔61の目付け量を減算することで、電極ペースト62の厚みtがより簡単に算出することができる。
【0194】
(7)本実施形態に係る超音波計測方法では、電極60を挟み、第1超音波センサ11と第2超音波センサ12とを、第1超音波センサ11で超音波振動する第1振動面11a、及び第2超音波センサ12で超音波振動する第2振動面12aに対し垂直方向に、第1振動面11aと第2振動面12aとの距離が100mm以下(本実施形態では70(mm))で、配置すること、第2群音波波形で、振幅が最大値となる状態にあるときに、電極ペースト62の厚みtを計測するので、計測時に、製造ラインに製造される電極60が、第1超音波センサ11と第2超音波センサ12とのちょうど中央位置に配置され、ロール状に捲回されていた金属箔61にうねりがなく、作業者は、電極ペースト62が良好な状態で金属箔61に塗布されていることをも確認することができ、ひいては電極60の品質が良好であることが確認できる。
【0195】
すなわち、複数群の音波波形は、受波側超音波センサ12Aで受波後、時間の経過と共に、断続的に検出されるが、前述したように、受波側超音波センサ12Aで検出される複数群の音波波形のうち、第1群音波波形は、送波した超音波が金属箔61と電極ペースト62とを透過した透過波USだけの受信信号となり、ノイズとなるエコーを含まない。
特に、第1振動面11a及び第2振動面12aに対し、第1超音波センサ11の第1振動面11aと第2超音波センサ12の第2振動面12aとの距離が100mm以下で配置されていると、第1群音波波形以降の奇数群の音波波形については、第1群音波波形と同様の傾向となり、送信後、伝播距離が長くなり超音波USの減衰が大きくなり、超音波強度が小さくなる。そのため、電極ペースト62の厚みtを求めるのには、第1群音波波形による受信信号を用いるのが適切である。
また、第2群音波波形は、前述したように、第1反射波による受信信号と第2反射波とによる受信信号とを共に含むエコーとなり、電極ペースト62の厚みtを求めるのに必要な受信信号にとってノイズとなる。
【0196】
本実施形態に係る超音波計測方法では、第1超音波センサ11の第1振動面11aと第2超音波センサ12の第2振動面12aとの距離が100mm以下で、第2群音波波形で、振幅が最大値となる状態にあるときに、塗布材の厚みを計測する。
従って、計測時に、製造ラインに製造される電極60が、第1超音波センサ11と第2超音波センサ12とのちょうど中央位置に配置され、ロール状に捲回されていた金属箔61にうねりがなく、作業者は、良好な状態にある金属箔61に電極ペースト62が塗布されていることをも確認することができる。
【0197】
(8)本実施形態に係る超音波計測方法では、電極ペースト62の厚さを、第1群音波波形による受信信号に基づいて計測するので、ロール状に捲回されていた金属箔61に残留するうねりによる計測誤差の要因を排除して、電極ペースト62の厚みを計測することができる。
【0198】
また、本実施形態に係る超音波計測装置1,101では、
(9)第1超音波センサ11と第2超音波センサ12とを一対で有し、ロール状に捲回されていた金属箔61の一面61aまたは両面61a,61bに電極ペースト62を塗布した電極60の厚み方向TDに対し、一方側に第1超音波センサ11を、他方側に第2超音波センサ12を、それぞれ空気層ARを介して配置し、第1超音波センサ11と第2超音波センサ12との間で超音波USを伝播させることにより、電極ペースト62の厚みtを計測する超音波計測装置1,101において、第1超音波センサ11は、超音波USの伝播がフラットタイプの送信センサであること、第2超音波センサ12は、超音波USの伝播がフラットタイプの受信センサであること、を特徴とするので、電池製造工程において、金属箔61に電極ペースト62を塗布して電極60を製造する製造ラインで、電極ペースト62の目付け量、及び目付けプロファイル等、電極ペースト62の厚みtを、インラインで計測する場合、第1超音波センサ11から送波した超音波USが、電極60に対し広い面積(照射エリアMB)にわたって照射されて電極60中の金属箔61と電極ペースト62とを透過し、第2超音波センサUSが、より広範囲にわたって金属箔61及び電極ペースト62を透過した超音波(透過波)USを受波することにより、電極ペースト62の厚みtを求めるための受信信号が、電極60の広い範囲で得られる。
【0199】
すなわち、本実施形態に係る超音波計測装置1,101では、第2超音波センサ12において、電極ペースト62の厚みtを求めるための受信信号が、スポットタイプの超音波センサに比べて、電極60の広い範囲で得られ、電極ペースト62の目付け量や目付けプロファイル等、電極ペースト62の厚みtに係る品質検査を、電極60の製造ライン上で実施することができる。
特に、製造ラインで製造される電極60に対し、電極ペースト62の目付け量及び目付けプロファイル等の品質検査を、品質管理上、インライン上で広範囲にわたって満遍なく実施したい場合でも、次々と製造される電極60に対し、電極ペースト62の厚みtを、インラインで全数検査ができるようになる。
【0200】
また、第2超音波センサ12で受波した透過波USによる受信信号を、電極60の広域から得ることができるため、電極60において電極ペースト62の厚みtをより広い範囲で検出できることから、計測範囲内で電極ペースト62の厚みtのバラツキ等がより正確に把握でき、電極ペースト62の目付け量等、電極60に対し、第1,第2超音波センサ11,12による照射エリアMB内におけるペースト62の全体的な厚みtを、高い信頼性で計測することができる。
また、電極60において電極ペースト62の厚みtをより広い範囲で検出できる分、電極ペースト62の目付けプロファイルの検査が、放射線計測装置や、特許文献1のような従来のスポットタイプの超音波センサによる従来の検査方法に比べ、より正確に精度良く計測できる。
【0201】
また、電極ペースト62の塗布前後の重量差を計測する従来の品質検査では、電極ペースト62の目付け量及び目付けプロファイルの品質検査が正確に確認できないほか、品質検査は製造ラインからサンプリングした電極60を用いてアウトラインで行っていたため、品質検査を実施するのに、工程が余分に増えて、コスト高となっていた。また、放射線計測装置を用いた品質検査でも、放射線計測装置が非常に高価であり、設備コストが過大にかかっていた。
【0202】
これに対し、超音波計測装置1,101では、電極60を製造する製造ラインを停止させる必要がなく、ライン稼働中に品質検査を実施することができ、品質検査を実施するのに余分な工程が増えず、コスト高になることもない。
また、超音波計測装置1,101の設備コストは、放射線計測装置に比して安価であり、電極60に反映されるコストが大きく削減できる。
特に、超音波計測装置1,101は、電極60を製造する製造ラインに対し、新設または既設にかかわらず容易に組み込むことができるため、超音波計測装置1,101を製造ラインに設備するときのコストも安価である。
従って、本実施形態に係る超音波計測装置1,101では、製造ラインで製造される電極60に対し、インライン上で、電極60に塗布された電極ペースト62の厚みtを、低コストで、信頼性の高い計測精度で計測することができる、という優れた効果を奏する。
【0203】
(10)本実施形態に係る超音波計測装置1,101では、第1超音波センサ11及び第2超音波センサ12は、超音波USを送信及び受信が可能なセンサであり、第1超音波センサ11及び第2超音波センサ12に対し、超音波USの送受信を制御する超音波発振制御部10を有し、第1超音波センサ11が送波し、第2超音波センサ12が受波する状態を第1状態とし、第1超音波センサ11が受波し、第2超音波センサ12が送波する状態を第2状態としたときに、超音波発振制御部10は、第1超音波センサ11と第2超音波センサ12とに対し、互いに異なるよう、第1状態と第2状態とを交互に置換させるので、第1状態のときに、第2超音波センサ12が受波した第2受波信号と、第2状態のときに、第1超音波センサ11が受波した第1受波信号との2種類の受波信号に基づき、計測の信頼性をより高くして、電極ペースト62の厚みtを高精度に求めることができる。
【0204】
すなわち、電極ペースト62の厚みtを求めるとき、1つの超音波センサだけで受波した受波信号に基づいていると、作業者が、この受波信号が計測時に正常な状態で得られたものであるかを判断し難く、計測の信頼性にも欠ける。
これに対し、超音波計測装置1,101は、超音波発振制御部10により、第1超音波センサ11と第2超音波センサ12とに対し、互いに異なるよう、第1状態と第2状態とを交互に置換させている。
これにより、計測時の空気ARの温度変化に対応しつつ、電極ペースト62の厚みtを求めるのに、第1状態のときに、第2超音波センサ12で受波した超音波USの第2受波信号(λ2)と、第2状態のときに、第1超音波センサ11で受波した超音波USの第1受波信号(λ1)との2種類の受信信号に基づいて計測できている。
【0205】
第1受波信号と第2受波信号とを用いることにより、第1受波信号と第2受波信号とがλ1≒λ2の関係が得られれば、作業者は、受波信号が計測時に正常な状態で得られたものであると判断することができ、電極ペースト62の厚みを求めるのに、信頼性が高く、高精度な計測が可能となる。
【0206】
(11)本実施形態に係る超音波計測装置101では、超音波USの伝播がフラットタイプのセンサである第3超音波センサ13を有し、第1超音波センサ11と第3超音波センサ13とが、空気層ARを介して電極60の一方側で、超音波USが第1超音波センサ11と第3超音波センサ13との間で正反射する位置に配置されていること、第2超音波センサ12は、第1超音波センサ11の軸心方向AXに向けて電極60を透過した位置に配置されていること、を特徴とするので、電極ペースト62が金属箔61の両面61a,61bに塗布された電極60に対し、金属箔61の一面61a側の電極ペースト62の厚みtを、第3超音波センサ13で受波した超音波USの横波による受信信号に基づいて、金属箔61の他面61b側の電極ペースト62の厚みtを、第2超音波センサ12で受波した超音波USの縦波による受信信号に基づいて、それぞれ同時に計測することができる。
【0207】
すなわち、電極ペースト62の厚みtを計測する前には、電極ペースト62が塗布されていない状態の金属箔61に対し、超音波USが金属箔61を透過するときの基材透過信号として、減衰率に基づいて作成された金属箔61向けの検量線により、金属箔61の目付け量を予め把握しておく。
超音波計測装置101では、第1超音波センサ11から送波した超音波USが、横波として、金属箔61の一面61a側の電極ペースト62を介して金属箔61に伝播し、第3超音波センサ13が、金属箔61で正反射した反射波USを、再び金属箔61の一面61a側の電極ペースト62を介して受波する。
これにより、第3超音波センサ13が、金属箔61の一面61aで正反射した反射波USを受波するときの基材反射信号を取得し、この基材反射信号に基づき、金属箔61の一面61a側の電極ペースト62の目付け量(厚みt)を把握する。
【0208】
その一方で、第1超音波センサ11から超音波USを第3超音波センサ13に送波すると同時に、第1超音波センサ11から送波した超音波USが、縦波として、金属箔61の一面61a側の電極ペースト62、金属箔61、及び金属箔61の他面61b側の電極ペースト62に伝播し、第2超音波センサ12が、電極透過信号として、金属箔61の他面61b側の電極ペースト62まで透過した透過波USを受波する。
これにより、厚み演算部20が、電極透過信号に基づき、電極60の目付け量を算出し、算出した電極60の目付け量から、金属箔61の目付け量と、金属箔61の一面61a側の電極ペースト62の目付け量とを減算し、金属箔61の他面61b側の電極ペースト62の目付け量(厚みt)を求める。
【0209】
従って、金属箔61の一面61a側の電極ペースト62の厚みtは、第3超音波センサ13で受波した超音波USの横波による受信信号に基づいて、金属箔61の他面61b側の電極ペースト62の厚みtは、第2超音波センサ12で受波した超音波USの縦波による受信信号に基づいて、それぞれ同時に計測することができる。
よって、電極60において両面61a,61bに塗布された電極ペースト62の厚みをそれぞれ計測する設備の簡素化を図ることができる。
【0210】
(12)本実施形態に係る超音波計測装置1では、第1超音波センサ11が超音波USを送波し、第2超音波センサ12が第1超音波センサ11から送波した超音波USを受波すること、第1超音波センサ11と第2超音波センサ12との間で、超音波USが伝播するのを阻むマスク40を備え、マスク40は、電極60と第2超音波センサ12との間のうち、電極ペースト62のエッジ部62Cの周囲に相当する位置に移動可能に設けられているので、第1超音波センサ11から第2超音波センサ12に向けて送波した超音波USのうち、エッジ部62C周囲を伝播した振動は、マスク40により吸収され、第2超音波センサ12まで伝播しなくなる。
【0211】
一方、エッジ部62Cには、その形状に応じて厚みが異なる部位がある。エッジ部62Cで部位によって厚みが異なると、エッジ部62Cを伝播し透過する距離が、伝播する部位によって異なることから、第2超音波センサ12で受波される透過波USの減衰率の受信信号が、エッジ部62Cの形状に対応して異なったものになる。
よって、カバー40によりエッジ部62C周囲の形状が露出せず、電極ペースト62の目付けプロファイル、すなわち電極ペースト62のエッジ部62Cの形状が、第2超音波センサ12で受信された受信信号に基づき、電極ペースト62の厚みtに対応してはっきりと検出できる。
【0212】
(13)本実施形態に係る超音波計測装置1,101では、空気層ARを伝播する超音波USを受波する受波側超音波センサ12Aで、受波後、時間の経過と共に、生じる複数群の音波波形のうち、最初に検出される音波波形を第1群音波波形と、第1群音波波形に次いで検出される音波波形を第2群音波波形としたときに、少なくとも第1超音波センサ11及び第2超音波センサ12は、電極ペースト62の厚みtに応じて、第2群音波波形が第1群音波波形と重ならない条件を満たす周波数のうち、周波数を400kHz以下でより低くしたセンサであるので、電極ペースト62を伝播するときに生じる超音波USの減衰をより小さく抑えることができると共に、受波側超音波センサ12Aで受波した受信信号の分解能をより高くして、電極ペースト62の厚みtを高精度に求めることができる。
【0213】
(14)本実施形態に係る超音波計測装置1,101では、第1超音波センサ11乃至第3超音波センサ13のうち、受波側超音波センサ12Aで受波した超音波USの減衰率に基づいて、電極ペースト62の厚みを算出する厚み演算部20を備えているので、厚み演算部20が、超音波USの減衰率βに対応する電極60の目付け量から、超音波USの減衰率γに対応する金属箔61の目付け量を減算することにより、電極ペースト62の目付け量を求めることができる。
超音波の減衰率は、媒質の密度及び媒質の厚さをパラメータとして変化する。金属箔61を透過するとき超音波USの減衰率γと金属箔61の目付け量に関する検量線、及び電極60において超音波USの減衰率βと電極60の目付け量に関する検量線に基づき、電極60の目付け量から金属箔61の目付け量を減算することにより、電極ペースト62の目付け量を求めることができる。
【0214】
すなわち、実施例1のように、電極ペースト62が金属箔61の一面61aに塗布された電極60の場合には、図7に示すような電極60向けの実測用検量線により、電極60(金属箔61及び電極ペースト62)の目付け量が得られる。また、金属箔61向けの実測用検量線により、金属箔61の目付け量が得られる。
よって、電極60の目付け量と金属箔61の目付け量との差から、電極ペースト62の目付け量が簡単に得られる。
【0215】
また、実施例2のように、電極ペースト62が金属箔61の両面61a,61bに塗布された電極60の場合には、金属箔61向けの実測用検量線により、金属箔61の目付け量が得られる。
その一方で、電極ペースト62が金属箔61の一面61aに塗工された電極60向けの片面塗工実測用検量線により、電極60の目付け量を得ておき、この電極60の目付け量から金属箔61の目付け量を減算し、金属箔61の一面61a側の電極ペースト62の目付け量を得る。
【0216】
電極ペースト62が金属箔61の一面61aと他面61bの両面に塗工された電極60向けの両面塗工実測用検量線により、両面61a,61bに塗布された電極60の目付け量を得て、金属箔61の目付け量と、金属箔61の一面61a側の電極ペースト62の目付け量とを減算し、金属箔61の他面61b側の電極ペースト62の目付け量を得る。
よって、電極60の目付け量と金属箔61の目付け量との差から、電極ペースト62の目付け量が簡単に得られる。
【0217】
(15)本実施形態に係る超音波計測装置1,101では、第1超音波センサ11及び第2超音波センサ12は、電極60を挟み、第1超音波センサ11で超音波振動する第1振動面11a、及び第2振動面12aに対し垂直方向に、第1振動面11aと第2振動面12aとの距離が100mm以下で、配置されていること、第2群音波波形で、振幅が最大値となる状態にあるときに、厚み演算部20が、電極ペースト62の厚みtを計測するので、計測時に、製造ラインに製造される電極60が、第1超音波センサ11と第2超音波センサ12とのちょうど中央位置に配置されていることから、作業者は、ロール状に捲回されていた金属箔61にうねりが残留せず、厚み演算部10により電極ペースト62の厚みtが求められた電極60に対し、電極ペースト62が良好な状態で金属箔61に塗布されていることを確認することができる。
【0218】
(16)本実施形態に係る超音波計測装置1,101では、厚み演算部10は、第1群音波波形による受信信号に基づいて、電極ペースト62の厚さを計測するので、ロール状に捲回されていた金属箔61のうねりに起因した計測誤差の要因を排除して、電極ペースト62の厚みtを計測することができる。
【0219】
ところで、特許文献1では、温度測定手段84a,84bが液相91、固相92の各温度を測定し、速度校正手段85が、超音波が伝播する媒質の一つである(液相91、固相92)の音響インピーダンスを、測定したそれぞれの温度に基づいて検知し、伝播時間測定手段83により得られた超音波の伝播速度を校正している。伝播経路長測定手段86は、伝播時間測定手段83により得られた超音波の伝播速度と、速度校正手段85による伝播速度の校正値とに基づいて、計測対象物90の厚みのほか、液相91と固相92とが積層された計測対象物90の相変化の位置を計測できるようになっている。
【0220】
しかしながら、超音波送信手段81から計測対象物90に向けて送波された超音波や、計測対象物90から反射して超音波受信手段82で受波した超音波は、計測対象物90以外の媒質の一つである空気層を伝播する。この空気層の温度が一定でなければ、温度変化に伴って空気層での音響インピーダンスは変動してしまい、空気層を伝播する超音波の波長が変化してしまう。その結果、伝播時間測定手段83により得られた超音波の伝播速度を、たとえ速度校正手段85で校正しても、計測対象物90の厚み等をより正確に計測することができない。
【0221】
特に、送波側の超音波センサと受波側の超音波センサとの間に空気層を介して、この空気層に塗布製品を配置し、挟まれた塗布製品の内部にある塗布材の厚みを計測するときに、空気層での対流により、空気層の温度(密度)が送波側と受波側で異なる場合がある。また、稼働中の製造ラインで連続的に製造される塗布製品が、ライン上で部分的に僅か動いて生じる微妙な空気層の対流のほか、ライン近傍に作業者が移動したときに生じる空気層の対流等により、空気層の密度が部分的に変化する場合がある。
このような場合、超音波が伝播する媒質の一つでもある空気層の密度が、超音波センサで計測する部分と、その他の部分とで異なると、塗布材の厚みを正確に計測することができない。
【0222】
また、送波側の超音波センサと受波側の超音波センサとの間に空気層を介して、この空気層に塗布製品を配置し、挟まれた塗布製品の内部にある塗布材の厚みを計測するときに、塗布製品を通じた透過波や塗布製品で反射した反射波が受波側超音波センサに受波される間に、外部から何らかの外部振動が受波側超音波センサに伝わると、この外部振動に上記透過波または上記反射波が合成されてしまうことがある。
受波側超音波センサが、このような合成波を受波すると、外部振動の影響を受けずに送信側超音波センサから送波された超音波の波長と、受波側超音波センサで受波した合成波の波長に差異が生じてしまい、受信感度が悪化する問題がある。
【0223】
これに対し、
(17)本実施形態に係る超音波計測装置1,101では、空気層ARの密度の変化を抑止するカバー35が少なくとも1つ設けられているので、電極60の製造ライン上で、塗布された電極ペースト62の目付け量や目付けプロファイル等、電極ペースト62の厚みtをインラインで計測するときに、カバー35により、空気層ARを伝播する超音波USの波長が変動し難く、電極ペースト62の厚みを、より正確で高精度に計測することができる。
【0224】
すなわち、前述したように、電池製造工程において、金属箔61に電極ペースト62を塗布して電極60を製造する製造ラインでは、温度管理された雰囲気の下、金属箔61に電極ペースト62を塗布し乾燥させて電極60が製造され、超音波計測装置1,101は、このような雰囲気の下、製造ラインにインラインで設置される。
このような製造ラインは、温度管理された場所で設置されているため、製造ラインで次々と連続して製造される電極60に対し、その金属箔61及び電極ペースト62そのものの温度は、ライン稼働中、変化せず一定とみなすことができる。そのため、ライン稼働中、超音波USが金属箔61及び電極ペースト62を透過するときには、金属箔61及び電極ペースト62における音響インピーダンスは変化しないため、電極ペースト62の厚みtの計測時に、金属箔61及び電極ペースト62の各温度による影響は生じない。
【0225】
その一方で、超音波計測装置1,101は、一方側に第1超音波センサ11を、他方側に第2超音波センサ12を、それぞれ空気層ARを介して配置し、第1超音波センサ11と第2超音波センサ12との間で超音波USを伝播させることにより、電極ペースト62の厚みtを計測する。
超音波計測装置1,101は、温度管理された雰囲気の下に設置されるものの、設置室内には空気の対流が生じ得るため、超音波計測装置1,101の空気層ARに、空気密度の変化を抑止するカバー40を少なくとも1つ設けている。
これにより、超音波計測装置1,101の空気層ARには、空気等の気体の対流に起因して空気の温度にバラツキがほとんど生じず、例えば、第1超音波センサ11と電極60との間の温度分布、電極60と第2超音波センサ12との間の温度分布、場合によって第3超音波センサ13と電極60との間の温度分布、及び電極60を挟む両側の温度分布等、空気層AR全体で温度差を持たないより均一な温度分布とすることができる。
【0226】
空気層AR全体が均一な温度分布になることで、前述した式2より、温度に比例して変化する空気の音速は、空気層全体でより均一になると共に、前述した式3より、温度に比例して変化する空気の密度も、空気層全体でより均一な分布となる。
また、前述した式2乃至式4より、空気層AR全体が均一な温度分布になることで、音響インピーダンスは変化しない。
【0227】
ここで、図21に、受波された超音波において、伝播する温度と、音響インピーダンスと、音圧透過率との関係を説明する説明図を示す。
超音波センサには、音波伝播の特性上、図21に示すような相関関係があり、音響インピーダンスが変化しなければ、超音波の音圧透過率も変化しない。
【0228】
換言すれば、空気層AR全体が均一な温度分布となり、空気の密度がより均一な分布になることで、前述した式5において、音響インピーダンス及び密度を、温度変化に対応した定数とみなすことができ、波長λは、周波数fに反比例した関数となる。
前述したように、第1超音波センサ11は、周波数f1(f)を固有の特性値とし、第2超音波センサ12は、周波数f2(f)を固有の特性値とし、第3超音波センサ13は、周波数f3(f)を固有の特性値とする超音波センサである。
第1超音波センサ11と電極60との間の空気層ARでは、周波数f1(f)の第1超音波センサ11が伝播する超音波USの波長λ1は変化しない。第3超音波センサ13がある場合、第3超音波センサ13と電極60との間の空気層ARでは、周波数f3(f)の第3超音波センサ13が伝播する超音波USの波長λ3は変化しない。
また、電極60と第2超音波センサ12との間の空気層ARでは、周波数f2(f)の第2超音波センサ12が伝播する超音波USの波長λ2は変化しない。
【0229】
特に、超音波計測装置1,101をインライン上に設けた製造ラインにおいて、次々と連続して製造される電極60に対し、その電極ペースト62の厚みtを連続して計測している間、第2超音波センサ12が電極ペースト62を透過した透過波(超音波)USを受波したときの波長や、第3超音波センサ13が電極ペースト62を反射した反射波(超音波)USを受波したときの波長は、ライン稼働中、ほとんど変化しない。
【0230】
ところで、超音波センサでは、音波伝播の特性上、超音波の受信パワー(超音波強度)の大きさと波長の大きさとの間には、一般的に相関関係がある。超音波強度は、ある波長の大きさをピーク値とする正規分布で変化し、波長の大きさがこのピーク値から前後に外れると、超音波強度が上記ピーク値より低下する特性がある。
【0231】
超音波計測装置1,101では、超音波強度が上記ピーク値となる波長の大きさを変化させず維持することで、第1超音波センサ11から送波する超音波USが、超音波強度が最も大きい状態で、空気層ARを伝播し電極60に向けて伝播する。
これにより、電極60を透過する透過波(超音波)USも、超音波強度が最も大きい状態で、電極60に伝播し、この電極60から再び空気層ARを伝播して第2超音波センサ12で受波される超音波USについても、超音波強度が最も大きい状態で、伝播し受波される。
【0232】
また、電極60を反射する反射波(超音波)USも、超音波強度が最も大きい状態で、電極60に伝播し、この電極60で反射して再び空気層ARを伝播して第3超音波センサ13で受波される超音波USについても、超音波強度が最も大きい状態で、伝播し受波される。
従って、受波した超音波USにおいて、その波長の大きさ、到達時間、減衰率等の受信信号に基づいて電極60の電極ペースト62の厚みを計測すると、電極60ごと、あるいは電極60の測定部位ごとによって、厚みの測定誤差は生じ難く、電極ペースト62の厚みtを高精度に計測することができる。
【0233】
(18)本実施形態に係る超音波計測装置1,101では、捲回されている金属箔61は、長尺状であり、少なくとも第1超音波センサ11及び第2超音波センサ12は、カバー40の内部に、金属箔61の短辺に沿う幅方向WDに4組設けられ、カバー40は、電極ペースト62の厚みtを求める計測エリアMA内で、金属箔61の長辺に沿う長手方向LDと幅方向WDとに対し、移動可能に設けられているので、超音波計測装置1,101をインラインで設けた製造ラインにおいて、連続で次々と製造される電極60に対し、その電極ペースト62の厚みt(電極ペースト62の目付け量及び目付けプロファイル)を、ラインを停止しないでライン稼働中に計測することができる。
また、電極ペースト62の目付け量及び目付けプロファイル等の品質検査を、インライン上で広範囲にわたって満遍なく実施することができるようになることから、品質管理上、信頼性の高い品質検査を行うことが可能となる。
【0234】
(19)本実施形態に係る超音波計測装置1,101では、カバー40には、空気層ARの温度を測定する8つの温度計37が設けられているので、第1超音波センサ11乃至第3超音波センサ13において、例えば、超音波センサ自体からの発熱等に起因して空気層ARに温度変化が生じた場合でも、空気層ARにおける音速、密度、音響インピーダンスを、温度計37により計測した温度に基づいて、厚み演算部20で補正し、空気層ARを伝播する超音波USを受波する受波側超音波センサ12Aの受信信号を、空気層ARの実際の温度または温度分布に対応するよう、適切な状態にすることができる。これにより、計測精度を高くして電極ペースト62の厚みtを求めることができる。
【0235】
(20)本実施形態に係る超音波計測装置1,101では、センサ取付け部30と一体のカバー40は、少なくとも第1超音波センサ11及び第2超音波センサ12に、対地からの外部振動が伝播するのを阻止する防振プレート38を備えているので、例えば、電極60の製造ライン等で生じる機械的振動が、第1超音波センサ11及び第2超音波センサ12のほか、第3超音波センサ13が存在する場合には、この第3超音波センサ13にも伝わることに起因して、送受する超音波USの指向性の精度が悪化するのを防止することができる。
【0236】
(21)本実施形態に係る超音波計測装置1,101では、基材は、塗布製品である電池の電極60に用いる金属箔61であり、塗布材は、金属箔61に塗布された電極ペースト62であるので、電池製造工程において、金属箔61に電極ペースト62を塗布して電極60を製造する製造ラインで、ライン稼働中に、電極60に対し、電極ペースト62の目付け量及び目付けプロファイルに係る品質検査を満遍なく広範囲にわたって実施できるようになる上、電極の全数検査をも可能にできるようになることから、高品質で高性能な電池が提供できるようになる。ひいては、製品となった電池において、充放電容量、耐久性、反応ムラによる不良等の品質保証ができる電池が提供できるようになる。
【0237】
以上において、本発明を実施形態に即して説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で、適宜変更して適用できる。
【符号の説明】
【0238】
1,101 超音波計測装置
10 超音波発振制御部(超音波発振制御手段)
11 第1超音波センサ
11a 第1振動面
12 第2超音波センサ
12a 第2振動面
13 第3超音波センサ
12A 受波側超音波センサ
20 厚み演算部(厚み演算手段)
35 カバー(空気対流抑止手段)
37 温度計(温度計測手段)
38 防振プレート(防振手段)
40 マスク(超音波阻害手段)
60 電極(塗布製品)
61 金属箔(基材)
61a 一面
61b 他面
62 電極ペースト(塗布材)
62C エッジ部62
t (塗布材の)厚み
LD 長手方向
WD 幅方向
TD 厚み方向
AX 軸心方向
US 超音波
AR 空気層
MA 計測エリア

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1超音波センサと第2超音波センサとを一対で有し、ロール状に捲回されていた金属製の基材の片面または両面に塗布材を塗布した塗布製品の厚み方向に対し、一方側に前記第1超音波センサを、他方側に前記第2超音波センサを、それぞれ空気層を介して配置し、前記第1超音波センサと前記第2超音波センサとの間で超音波を伝播させることにより、前記塗布材の厚みを計測する超音波計測方法において、
前記第1超音波センサに、超音波の伝播がフラットタイプの送信センサを用いること、
前記第2超音波センサに、超音波の伝播がフラットタイプの受信センサを用いること、
を特徴とする超音波計測方法。
【請求項2】
請求項1に記載する超音波計測方法において、
前記第1超音波センサ及び前記第2超音波センサには、超音波を送信及び受信が可能なセンサが用いられ、
前記第1超音波センサ及び前記第2超音波センサに対し、超音波の送受信を制御する超音波発振制御手段を備え、
前記第1超音波センサが送波し、前記第2超音波センサが受波する状態を第1状態とし、
前記第1超音波センサが受波し、前記第2超音波センサが送波する状態を第2状態としたときに、
前記超音波発振制御手段は、前記第1超音波センサと前記第2超音波センサとに対し、互いに異なるよう、前記第1状態と前記第2状態とを交互に置換させることを特徴とする超音波計測方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載する超音波計測方法において、
第3超音波センサとして、超音波の伝播がフラットタイプのセンサが用いられ、
前記第1超音波センサと前記第3超音波センサとを、前記空気層を介して前記塗布製品の前記一方側に、超音波が前記第1超音波センサと前記第3超音波センサとの間で正反射する位置に配置すること、
前記第2超音波センサを、前記第1超音波センサの軸心方向に向けて前記塗布製品を透過した位置に配置すること、
を特徴とする超音波計測方法。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか1つに記載する超音波計測方法において、
前記第1超音波センサと前記第2超音波センサとの間で、超音波が伝播するのを阻む超音波阻害手段を備え、
前記塗布製品と前記第2超音波センサとの間のうち、前記塗布材のエッジ部の周囲に相当する位置に、前記超音波阻害手段を移動させて配置した後、前記第1超音波センサが前記塗布材のエッジ部に向けて超音波を送波し、前記第2超音波センサで受波することを特徴とする超音波計測方法。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか1つに記載する超音波計測方法において、
空気層を伝播する超音波を受波する受波側超音波センサで、受波後、時間の経過と共に、生じる複数群の音波波形のうち、最初に検出される音波波形を第1群音波波形と、前記第1群音波波形に次いで検出される音波波形を第2群音波波形としたときに、
前記第2群音波波形と前記第1群音波波形とが重ならない条件の下、少なくとも前記第1超音波センサ及び前記第2超音波センサの各周波数を、前記塗布材の厚みに応じて、より低く設定することを特徴とする超音波計測方法。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれか1つに記載する超音波計測方法において、
前記塗布材の厚みを、前記第1超音波センサ乃至前記第3超音波センサのうち、前記受波側超音波センサで受波した超音波の減衰率に基づいて算出することを特徴とする超音波計測方法。
【請求項7】
請求項5または請求項6に記載する超音波計測方法において、
前記塗布製品を挟み、前記第1超音波センサと前記第2超音波センサとを、前記第1超音波センサで超音波振動する第1振動面、及び前記第2超音波センサで超音波振動する前記第2振動面に対し垂直方向に、前記第1振動面と前記第2振動面との距離が100mm以下で、配置すること、
前記第2群音波波形で、振幅が最大値となる状態にあるときに、前記塗布材の厚みを計測することを特徴とする超音波計測方法。
【請求項8】
請求項7に記載する超音波計測方法において、
前記塗布材の厚さを、前記第1群音波波形による受信信号に基づいて計測することを特徴とする超音波計測方法。
【請求項9】
第1超音波センサと第2超音波センサとを一対で有し、ロール状に捲回されていた金属製の基材の片面または両面に塗布材を塗布した塗布製品の厚み方向に対し、一方側に前記第1超音波センサを、他方側に前記第2超音波センサを、それぞれ空気層を介して配置し、前記第1超音波センサと前記第2超音波センサとの間で超音波を伝播させることにより、前記塗布材の厚みを計測する超音波計測装置において、
前記第1超音波センサは、超音波の伝播がフラットタイプの送信センサであること、
前記第2超音波センサは、超音波の伝播がフラットタイプの受信センサであること、
を特徴とする超音波計測装置。
【請求項10】
請求項9に記載する超音波計測装置において、
前記第1超音波センサ及び前記第2超音波センサは、超音波を送信及び受信が可能なセンサであり、
前記第1超音波センサ及び前記第2超音波センサに対し、超音波の送受信を制御する超音波発振制御手段を有し、
前記第1超音波センサが送波し、前記第2超音波センサが受波する状態を第1状態とし、
前記第1超音波センサが受波し、前記第2超音波センサが送波する状態を第2状態としたときに、
前記超音波発振制御手段は、前記第1超音波センサと前記第2超音波センサとに対し、互いに異なるよう、前記第1状態と前記第2状態とを交互に置換させることを特徴とする超音波計測装置。
【請求項11】
請求項9または請求項10に記載する超音波計測装置において、
超音波の伝播がフラットタイプのセンサである第3超音波センサを有し、
前記第1超音波センサと前記第3超音波センサとが、前記空気層を介して前記塗布製品の前記一方側で、超音波が前記第1超音波センサと前記第3超音波センサとの間で正反射する位置に配置されていること、
前記第2超音波センサは、前記第1超音波センサの軸心方向に向けて前記塗布製品を透過した位置に配置されていること、
を特徴とする超音波計測装置。
【請求項12】
請求項9乃至請求項11のいずれか1つに記載する超音波計測装置において、
前記第1超音波センサが超音波を送波し、前記第2超音波センサが前記第1超音波センサから送波した超音波を受波すること、
前記第1超音波センサと前記第2超音波センサとの間で、超音波が伝播するのを阻む超音波阻害手段を備え、
前記超音波阻害手段は、前記塗布製品と前記第2超音波センサとの間のうち、前記塗布材のエッジ部の周囲に相当する位置に移動可能に設けられていることを特徴とする超音波計測装置。
【請求項13】
請求項9乃至請求項12のいずれか1つに記載する超音波計測装置において、
空気層を伝播する超音波を受波する受波側超音波センサで、受波後、時間の経過と共に、生じる複数群の音波波形のうち、最初に検出される音波波形を第1群音波波形と、前記第1群音波波形に次いで検出される音波波形を第2群音波波形としたときに、
少なくとも前記第1超音波センサ及び前記第2超音波センサは、前記塗布材の厚みに応じて、前記第2群音波波形が前記第1群音波波形と重ならない条件を満たす周波数のうち、周波数をより低くしたセンサであることを特徴とする超音波計測装置。
【請求項14】
請求項9乃至請求項13のいずれか1つに記載する超音波計測装置において、
前記第1超音波センサ乃至前記第3超音波センサのうち、前記受波側超音波センサで受波した超音波の減衰率に基づいて、前記塗布材の厚みを算出する厚み演算手段を備えていることを特徴とする超音波計測装置。
【請求項15】
請求項13または請求項14に記載する超音波計測装置において、
前記第1超音波センサ及び前記第2超音波センサは、前記塗布製品を挟み、前記第1超音波センサで超音波振動する第1振動面、及び前記第2振動面に対し垂直方向に、前記第1振動面と前記第2振動面との距離が100mm以下で、配置されていること、
前記第2群音波波形で、振幅が最大値となる状態にあるときに、前記厚み演算手段が、前記塗布材の厚みを計測することを特徴とする超音波計測装置。
【請求項16】
請求項15に記載する超音波計測装置において、
前記厚み演算手段は、前記第1群音波波形による受信信号に基づいて、前記塗布材の厚さを計測することを特徴とする超音波計測装置。
【請求項17】
請求項9乃至請求項16のいずれか1つに記載する超音波計測装置において、
前記空気層の密度の変化を抑止する空気対流抑止手段が少なくとも1つ設けられていることを特徴とする超音波計測装置。
【請求項18】
請求項9乃至請求項17のいずれか1つに記載する超音波計測装置において、
捲回されている前記基材は、長尺状であり、
少なくとも前記第1超音波センサ及び前記第2超音波センサは、前記空気対流抑止手段の内部に、前記基材の短辺に沿う幅方向に少なくとも1対または1組設けられ、
前記空気対流抑止手段は、前記塗布材の厚みを求める計測エリア内で、前記基材の長辺に沿う長手方向と前記幅方向とに対し、移動可能に設けられていることを特徴とする超音波計測装置。
【請求項19】
請求項17または請求項18に記載する超音波計測装置において、
前記空気対流抑止手段には、前記空気層の温度を測定する温度計測手段が設けられていることを特徴とする超音波計測装置。
【請求項20】
請求項9乃至請求項19のいずれか1つに記載する超音波計測装置において、
前記空気対流抑止手段は、少なくとも前記第1超音波センサ及び前記第2超音波センサに、対地からの外部振動が伝播するのを阻止する防振手段を備えていることを特徴とする超音波計測装置。
【請求項21】
請求項9乃至請求項20のいずれか1つに記載する超音波計測装置において、
前記基材は、前記塗布製品である電池の電極に用いる金属箔であり、前記塗布材は、前記金属箔に塗布された電極ペーストであることを特徴とする超音波計測装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2012−154744(P2012−154744A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−13302(P2011−13302)
【出願日】平成23年1月25日(2011.1.25)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000243881)名古屋電機工業株式会社 (107)
【Fターム(参考)】