説明

超音波診断装置および超音波画像生成方法

【課題】超音波プローブの内部温度の上昇を抑制しながらも高画質の超音波画像を得ることができる超音波診断装置を提供する。
【解決手段】浅部領域Aに対応して周波数Faの超音波ビームBaを送信すると共に深部領域Bに対応して超音波ビームBaの周波数Faとは異なる周波数Fbの超音波ビームBbを送信し、浅部領域Aに対する受信時の同時開口チャンネル数Naを深部領域Bに対する受信時の同時開口チャンネル数Nbより小さくし、浅部領域Aと深部領域Bのそれぞれに対応した周波数の超音波エコーを受信することにより同一のフレームを形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、超音波診断装置および超音波画像生成方法に係り、特に、超音波プローブの振動子アレイから超音波を送受信することにより生成された超音波画像に基づいて診断を行う超音波診断装置の超音波プローブ内における発熱量の抑制に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、医療分野において、超音波画像を利用した超音波診断装置が実用化されている。一般に、この種の超音波診断装置は、振動子アレイを内蔵した超音波プローブと、この超音波プローブに接続された装置本体とを有しており、超音波プローブから被検体に向けて超音波を送信し、被検体からの超音波エコーを超音波プローブで受信して、その受信信号を装置本体で電気的に処理することにより超音波画像が生成される。
【0003】
このような超音波診断装置では、振動子アレイから超音波を送信することで、振動子アレイから熱が生じる。
ところが、通常、操作者が片手で超音波プローブを把持して振動子アレイの超音波送受信面を被検体の表面に当接しつつ診断を行うので、超音波プローブは操作者が片手で容易に把持し得る程度の小さな筺体内に収容されることが多い。このため、振動子アレイからの発熱により超音波プローブの筺体内が温度上昇することがある。
【0004】
また、近年、超音波プローブに信号処理のための回路基板を内蔵し、振動子アレイから出力された受信信号をデジタル処理した上で無線通信あるいは有線通信により装置本体に伝送することにより、ノイズの影響を低減して高画質の超音波画像を得るようにした超音波診断装置が提案されている。
この種のデジタル処理を行う超音波プローブでは、受信信号の処理時においても回路基板からの発熱により、回路基板の各回路の安定した動作を保証するために筺体内の温度上昇を抑制する必要がある。
【0005】
超音波プローブの温度上昇対策については、例えば特許文献1に、超音波プローブの表面温度に応じて振動子アレイを駆動する条件を自動的に変化させる超音波診断装置が開示されている。表面温度が高くなるほど、超音波の送信時における振動子アレイの各トランスデューサの駆動電圧、送信開口数、送信パルスの繰り返し周波数、フレームレート等を低減することにより、超音波プローブの表面温度が適切な温度に維持される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−253776号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、送信時の振動子アレイの駆動条件を変化させる特許文献1の装置では、上述したようなデジタル処理を行う超音波プローブにおける受信時の発熱に対処することができない。
この発明は、このような従来の問題点を解消するためになされたもので、超音波プローブの内部温度の上昇を抑制しながらも高画質の超音波画像を得ることができる超音波診断装置および超音波画像生成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明に係る超音波診断装置は、送信駆動部から供給された駆動信号に基づいて超音波プローブの振動子アレイから被検体に向けて超音波ビームが送信されると共に被検体による超音波エコーを受信した超音波プローブの振動子アレイから出力された受信信号を受信信号処理部で処理し、処理された受信信号に基づいて画像生成部で超音波画像を生成する超音波診断装置であって、超音波プローブが有する複数チャンネルのうち受信時の同時開口チャンネルを選択するチャンネル選択部と、複数の測定深度領域にそれぞれ対応して互いに周波数の異なる複数の超音波ビームが振動子アレイから順次送信されるように送信駆動部を制御すると共に複数の測定深度領域毎に対応した周波数の超音波エコーを受信することにより同一のフレームが形成されるように受信信号処理部および画像生成部を制御し、複数の測定深度領域のうち測定深度が浅い領域ほど受信時の同時開口チャンネル数が減少するようにチャンネル選択部を制御する制御部を備えたものである。
【0009】
好ましくは、制御部は、複数の測定深度領域のうち測定深度が浅い領域ほど周波数の高い超音波ビームが送信されるように送信駆動部を制御する。
また、超音波プローブの内部温度を検出する温度センサをさらに備え、制御部は、温度センサにより検出された超音波プローブの内部温度が高いほど受信時の同時開口チャンネル数を減少させる領域を拡大するように構成してもよい。
制御部は、複数の測定深度領域に対して互いに波数の異なる超音波が送受信されるように送信駆動部および受信信号処理部を制御することが好ましい。
【0010】
この発明に係る超音波画像生成方法は、送信駆動部から供給された駆動信号に基づいて超音波プローブの振動子アレイから被検体に向けて超音波ビームが送信されると共に被検体による超音波エコーを受信した超音波プローブの振動子アレイから出力された受信信号を受信信号処理部で処理し、処理された受信信号に基づいて画像生成部で超音波画像を生成する超音波画像生成方法であって、複数の測定深度領域にそれぞれ対応して互いに周波数の異なる複数の超音波ビームを振動子アレイから順次送信し、複数の測定深度領域のうち測定深度が浅い領域ほど受信時の同時開口チャンネル数を減少させ、複数の測定深度領域毎に対応した周波数の超音波エコーを受信することにより同一のフレームを形成する方法である。
【0011】
好ましくは、複数の測定深度領域のうち測定深度が浅い領域ほど周波数の高い超音波ビームが送信される。
また、超音波プローブの内部温度を検出し、検出された超音波プローブの内部温度が高いほど受信時の同時開口チャンネル数を減少させる領域を拡大するようにしてもよい。
複数の測定深度領域に対して互いに波数の異なる超音波を送受信させることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
この発明によれば、複数の測定深度領域にそれぞれ対応して互いに周波数の異なる複数の超音波ビームを振動子アレイから順次送信し、複数の測定深度領域のうち測定深度が浅い領域ほど受信時の同時開口チャンネル数を減少させ、複数の測定深度領域毎に対応した周波数の超音波エコーを受信することで同一のフレームを形成するので、超音波プローブ内における発熱量を抑制しながらも高画質の超音波画像を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】この発明の実施の形態1に係る超音波診断装置の構成を示すブロック図である。
【図2】実施の形態1における撮像領域の分割の様子を示す図である。
【図3】実施の形態1における超音波送受信の動作を示すタイミングチャートである。
【図4】実施の形態1においてフレーム相関処理を行う様子を示し、(A)は第1フレームにおけるタイミングチャート、(B)は第2フレームにおけるタイミングチャート、(C)は第3フレームにおけるタイミングチャートである。
【図5】実施の形態2における超音波プローブの構成を示すブロック図である。
【図6】実施の形態2における超音波プローブの内部温度の時間変化と温度しきい値とを示すグラフである。
【図7】実施の形態2における温度域に応じた撮像領域の分割の様子を示す図である。
【図8】実施の形態3における撮像領域の分割の様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、この発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
実施の形態1
図1に、この発明の実施の形態1に係る超音波診断装置の構成を示す。超音波診断装置は、超音波プローブ1と、この超音波プローブ1と無線通信により接続された診断装置本体2とを備えている。
【0015】
超音波プローブ1は、1次元又は2次元の振動子アレイの複数チャンネルを構成する複数の超音波トランスデューサ3を有し、これらトランスデューサ3にチャンネル選択部4を介してそれぞれ対応して受信信号処理部5が接続され、さらに受信信号処理部5にパラレル/シリアル変換部6を介して無線通信部7が接続されている。また、複数のトランスデューサ3に送信駆動部8を介して送信制御部9が接続され、複数の受信信号処理部5に受信制御部10が接続され、無線通信部7に通信制御部11が接続されている。そして、チャンネル選択部4、パラレル/シリアル変換部6、送信制御部9、受信制御部10および通信制御部11にプローブ制御部12が接続されている。
【0016】
複数のトランスデューサ3は、それぞれ送信駆動部8から供給される駆動信号に従って超音波を送信すると共に被検体からの超音波エコーを受信して受信信号を出力する。各トランスデューサ3は、例えば、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)に代表される圧電セラミックや、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)に代表される高分子圧電素子、PMN−PT(マグネシウムニオブ酸・チタン酸鉛固溶体)に代表される圧電単結晶等からなる圧電体の両端に電極を形成した振動子によって構成される。
そのような振動子の電極に、パルス状又は連続波の電圧を印加すると、圧電体が伸縮し、それぞれの振動子からパルス状又は連続波の超音波が発生して、それらの超音波の合成により超音波ビームが形成される。また、それぞれの振動子は、伝搬する超音波を受信することにより伸縮して電気信号を発生し、それらの電気信号は、超音波の受信信号として出力される。
【0017】
送信駆動部8は、例えば、複数のパルサを含んでおり、送信制御部9によって選択された送信遅延パターンに基づいて、複数のトランスデューサ3から送信される超音波が被検体内の組織のエリアをカバーする幅広の超音波ビームを形成するようにそれぞれの駆動信号の遅延量を調節して複数のトランスデューサ3に供給する。
チャンネル選択部4は、それぞれ互いに対応するトランスデューサ3と受信信号処理部5との間を接続/遮断する複数のスイッチからなり、プローブ制御部12からの指令に基づいて振動子アレイの複数チャンネルのうち受信時の同時開口チャンネルを選択し、選択されたチャンネルのトランスデューサ3を対応する受信信号処理部5に接続する。
【0018】
各チャンネルの受信信号処理部5は、受信制御部10の制御の下で、対応するトランスデューサ3から出力される受信信号に対して直交検波処理又は直交サンプリング処理を施すことにより複素ベースバンド信号を生成し、複素ベースバンド信号をサンプリングすることにより、組織のエリアの情報を含むサンプルデータを生成して、サンプルデータをパラレル/シリアル変換部6に供給する。受信信号処理部5は、複素ベースバンド信号をサンプリングして得られるデータに高能率符号化のためのデータ圧縮処理を施すことによりサンプルデータを生成してもよい。
パラレル/シリアル変換部6は、複数チャンネルの受信信号処理部5によって生成されたパラレルのサンプルデータを、シリアルのサンプルデータに変換する。
【0019】
無線通信部7は、シリアルのサンプルデータに基づいてキャリアを変調して伝送信号を生成し、伝送信号をアンテナに供給してアンテナから電波を送信することにより、シリアルのサンプルデータを送信する。変調方式としては、例えば、ASK(Amplitude Shift Keying)、PSK(Phase Shift Keying)、QPSK(Quadrature Phase Shift Keying)、16QAM(16 Quadrature Amplitude Modulation)等が用いられる。
無線通信部7は、診断装置本体2との間で無線通信を行うことにより、サンプルデータを診断装置本体2に送信すると共に、診断装置本体2から各種の制御信号を受信して、受信された制御信号を通信制御部11に出力する。通信制御部11は、プローブ制御部12によって設定された送信電波強度でサンプルデータの送信が行われるように無線通信部7を制御すると共に、無線通信部7が受信した各種の制御信号をプローブ制御部12に出力する。
【0020】
プローブ制御部12は、診断装置本体2から送信される各種の制御信号に基づいて、超音波プローブ1の各部の制御を行う。
超音波プローブ1には、図示しないバッテリが内蔵され、このバッテリから超音波プローブ1内の各回路に電源供給が行われる。
なお、超音波プローブ1は、リニアスキャン方式、コンベックススキャン方式、セクタスキャン方式等の体外式プローブでもよいし、ラジアルスキャン方式等の超音波内視鏡用プローブでもよい。
【0021】
一方、診断装置本体2は、無線通信部14を有し、この無線通信部14にシリアル/パラレル変換部15を介してデータ格納部16が接続され、データ格納部16に画像生成部17が接続されている。さらに、画像生成部17に表示制御部18を介して表示部19が接続されている。また、無線通信部14に通信制御部20が接続され、シリアル/パラレル変換部15、画像生成部17、表示制御部18および通信制御部20に本体制御部21が接続されている。さらに、本体制御部21には、オペレータが入力操作を行うための操作部22と、動作プログラムを格納する格納部23がそれぞれ接続されている。
【0022】
無線通信部14は、超音波プローブ1との間で無線通信を行うことにより、各種の制御信号を超音波プローブ1に送信する。また、無線通信部14は、アンテナによって受信される信号を復調することにより、シリアルのサンプルデータを出力する。
通信制御部20は、本体制御部21によって設定された送信電波強度で各種の制御信号の送信が行われるように無線通信部14を制御する。
シリアル/パラレル変換部15は、無線通信部14から出力されるシリアルのサンプルデータを、パラレルのサンプルデータに変換する。データ格納部16は、メモリまたはハードディスク等によって構成され、シリアル/パラレル変換部15によって変換された少なくとも1フレーム分のサンプルデータを格納する。
【0023】
画像生成部17は、データ格納部16から読み出される1フレーム毎のサンプルデータに受信フォーカス処理を施して、超音波診断画像を表す画像信号を生成する。画像生成部17は、整相加算部24と画像処理部25とを含んでいる。
整相加算部24は、本体制御部21において設定された受信方向に応じて、予め記憶されている複数の受信遅延パターンの中から1つの受信遅延パターンを選択し、選択された受信遅延パターンに基づいて、サンプルデータによって表される複数の複素ベースバンド信号にそれぞれの遅延を与えて加算することにより、受信フォーカス処理を行う。この受信フォーカス処理により、超音波エコーの焦点が絞り込まれたベースバンド信号(音線信号)が生成される。
【0024】
画像処理部25は、整相加算部24によって生成される音線信号に基づいて、被検体内の組織に関する断層画像情報であるBモード画像信号を生成する。画像処理部25は、STC(sensitivity time control)部と、DSC(digital scan converter:デジタル・スキャン・コンバータ)とを含んでいる。STC部は、音線信号に対して、超音波の反射位置の深度に応じて、距離による減衰の補正を施す。DSCは、STC部によって補正された音線信号を通常のテレビジョン信号の走査方式に従う画像信号に変換(ラスター変換)し、階調処理等の必要な画像処理を施すことにより、Bモード画像信号を生成する。
【0025】
表示制御部18は、画像生成部17によって生成される画像信号に基づいて、表示部19に超音波診断画像を表示させる。表示部19は、例えば、LCD等のディスプレイ装置を含んでおり、表示制御部18の制御の下で、超音波診断画像を表示する。
【0026】
このような診断装置本体2において、シリアル/パラレル変換部15、画像生成部17、表示制御部18、通信制御部20および本体制御部21は、CPUと、CPUに各種の処理を行わせるための動作プログラムから構成されるが、それらをデジタル回路で構成してもよい。上記の動作プログラムは、格納部23に格納される。格納部23における記録媒体としては、内蔵のハードディスクの他に、フレキシブルディスク、MO、MT、RAM、CD−ROMまたはDVD−ROM等を用いることができる。
【0027】
この実施の形態1においては、図2に示されるように、予め撮像領域が所定の深さDにより測定深度に応じて浅部領域Aと深部領域Bの2つの領域に分割され、これら浅部領域Aと深部領域Bに対して、互いに周波数および送信タイミングの異なる2つの超音波ビームが送信されると共に互いに異なる同時開口チャンネル数によって受信される。
例えば、超音波プローブの振動子アレイが全48チャンネルを有する場合に、図3に示されるように、浅部領域Aの測定のために、周波数Fa、波数Maの超音波ビームBaが送信されると共に受信時の同時開口チャンネル数がNa=16チャンネルに設定され、一方、深部領域Bの測定のために、周波数Fb、波数Mbの超音波ビームBbが送信されると共に受信時の同時開口チャンネル数がNb=48チャンネルに設定される。
【0028】
なお、深部領域B用の超音波ビームBbの周波数Fbは、浅部領域A用の超音波ビームBaの周波数Faよりも低い値に設定され、深部領域B用の超音波ビームBbは、浅部領域A用の超音波ビームBaよりも所定時間ΔTだけ遅れたタイミングで送信される。
上記の撮像領域の所定の深さD、超音波ビームBaの周波数Faおよび波数Ma、超音波ビームBbの周波数Fbおよび波数Mb、受信時の同時開口チャンネル数NaおよびNb、所定時間ΔT等の測定条件は、予め診断装置本体2の操作部22から入力することができ、また、格納部23に格納することができる。
【0029】
また、超音波プローブ1の各受信信号処理部5は、周波数Faの超音波ビームBaは透過するが周波数Faよりも低い周波数Fbの超音波ビームBbを遮断するような周波数特性を有するハイパスフィルタを内蔵しており、受信制御部10の制御の下で、対応するトランスデューサ3から出力される受信信号をハイパスフィルタに通すか否かを選択できるように構成されている。
【0030】
次に、実施の形態1の動作について図3を参照して説明する。
予め、格納部23に格納されている測定条件が本体制御部21によって読み出され、本体制御部21から通信制御部20および無線通信部14を介して超音波プローブ1へ無線伝送され、さらに、超音波プローブ1の無線通信部7および通信制御部11を介してプローブ制御部12に入力されているものとする。
【0031】
超音波診断が開始されると、まず、プローブ制御部12により送信制御部9を介して送信駆動部8が駆動され、送信駆動部8から振動子アレイの全チャンネルのトランスデューサ3に駆動信号が供給されることにより、時刻T1に周波数Faおよび波数Maを有する浅部領域A測定用の超音波ビームBaが送信される。この超音波ビームBaの送信直後から、浅部領域Aの各部からの超音波エコーが各トランスデューサ3で受信され、各トランスデューサ3から受信信号がそれぞれ出力されるが、このとき、同時開口チャンネル数が浅部領域Aに応じて予め設定された数値Na=16チャンネルとなるように、プローブ制御部12によりチャンネル選択部4の各スイッチのオン/オフが制御される。
【0032】
すなわち、全48チャンネルのうち16チャンネルに対応するチャンネル選択部4の各スイッチがオン状態となり、残りの32チャンネルに対応するスイッチはオフされる。ここで、16チャンネルの選択の方法は、例えば、振動子アレイの全体にわたってほぼ均等な間隔で同時開口チャンネルとなる16チャンネルを選択してもよく、あるいは、振動子アレイの全48チャンネルのうち中央部に配置された16チャンネルを選択することもできる。
【0033】
このようにして時刻T1に超音波ビームBaを用いた浅部領域Aの測定が開始されるが、超音波ビームBaの送信から所定時間ΔTが経過した時刻T2に、再びプローブ制御部12により送信制御部9を介して送信駆動部8が駆動され、送信駆動部8から振動子アレイの全チャンネルのトランスデューサ3に駆動信号が供給されることにより、深部領域Bを測定するための超音波ビームBbが送信される。この超音波ビームBbは、浅部領域A測定用の超音波ビームBaの周波数Faよりも低い周波数Fbと超音波ビームBaの波数Maとは異なる波数Mbを有している。
【0034】
超音波ビームBbの送信直後から、浅部領域Aの各部からの超音波エコーが各トランスデューサ3で受信されるが、このとき、同時開口チャンネルとなっている16チャンネルの各受信信号処理部5は、内蔵されたハイパスフィルタで周波数Fbの超音波ビームBbを遮断するように、受信制御部10によって制御される。このため、浅部領域Aの各部で反射されて戻る浅部領域A測定用の超音波ビームBaのみに対応したサンプルデータが各受信信号処理部5で生成される。
【0035】
このようにして超音波ビームBaのみに対応したサンプルデータの生成が続けられ、時刻T3に超音波ビームBaに対応する浅部領域Aの最深部すなわち浅部領域Aと深部領域Bとの境界部からの超音波エコーが受信されたところで、浅部領域Aに対する超音波エコーの受信が終了する。
【0036】
その後、時刻T4に、浅部領域A測定用の超音波ビームBaよりも所定時間ΔTだけ遅れたタイミングで送信された深部領域B測定用の超音波ビームBbによる深部領域Bの最浅部すなわち浅部領域Aと深部領域Bとの境界部からの超音波エコーが受信されるが、このとき、振動子アレイの全48チャンネルが同時開口チャンネルとなるように、プローブ制御部12によりチャンネル選択部4の各スイッチがすべてオンされる。また、同時開口チャンネルとなっている48チャンネルの各受信信号処理部5は、内蔵されたハイパスフィルタを使用することなく周波数Fbの超音波ビームBbを透過させるように、受信制御部10によって制御される。これにより、深部領域Bの各部で反射されて戻る深部領域B測定用の超音波ビームBbに対応したサンプルデータが各受信信号処理部5で生成されることとなる。
【0037】
このようにして超音波ビームBbに対応したサンプルデータの生成が続けられ、時刻T5に超音波ビームBbによる深部領域Bの最深部からの超音波エコーが受信されたところで、深部領域Bに対する超音波エコーの受信が終了すると共に、これにより浅部領域Aと深部領域Bを含めた撮像領域全体に対する1回の超音波の送受信が完了する。
【0038】
なお、深部領域Bを測定するための超音波ビームBbが送信される時刻T2には、浅部領域Aの各部からの超音波エコーの受信が行われているが、同一の振動子アレイを用いて送受信を行うため、超音波ビームBbが送信されている間は浅部領域Aの各部からの超音波エコーの受信を行うことができず、図4に示されるように、受信が中断される。ただし、フレーム毎に超音波ビームBaと超音波ビームBbの送信の時間差ΔTを変化させて、フレーム相関処理を行うことにより、受信が中断された間の受信信号を形成することができる。
例えば、図4(A)および(C)に示されるように、第1および第3フレームでは超音波ビームBaと超音波ビームBbの送信の時間差をΔT1とし、図4(B)に示されるように、第2フレームでは超音波ビームBaと超音波ビームBbの送信の時間差を第1および第3フレームにおける時間差ΔT1とは異なる値ΔT2に設定する。そして、受信が中断された深さに対して、前後のフレームの相関から画像を形成する。例えば、第2フレームの不足分については、第1および第3フレームの該当深さのデータから画像を形成する。
この場合、時間差ΔT1およびΔT2をそれぞれ小さい値に設定して、診断に支障を来すことのないような浅い領域でフレーム相関処理を行うことが好ましい。
【0039】
以上のようにして各受信信号処理部5で生成されたサンプルデータは、順次パラレル/シリアル変換部6でシリアル化された後に無線通信部7から診断装置本体2へ無線伝送される。診断装置本体2の無線通信部14で受信されたサンプルデータは、シリアル/パラレル変換部15でパラレルのデータに変換され、データ格納部16に格納される。さらに、データ格納部16から1フレーム毎のサンプルデータが読み出され、画像生成部17で画像信号が生成され、この画像信号に基づいて表示制御部18により超音波診断画像が表示部19に表示される。
【0040】
図3から明らかなように、浅部領域Aからの超音波エコーの受信が終了する時刻T3と深部領域Bからの超音波エコーの受信が開始する時刻T4は、超音波ビームBaと超音波ビームBbの送信タイミングの差に相当する所定時間ΔTだけずれているため、画像生成部17は、この所定時間ΔTのずれを考慮して浅部領域A測定用の超音波ビームBaに基づくサンプルデータと深部領域B測定用の超音波ビームBbに基づくサンプルデータを用いて整相加算を行うことで同一のフレームを形成する。
【0041】
以上のように、浅部領域Aと深部領域Bにそれぞれ対応して互いに周波数の異なる複数の超音波ビームを順次送信し、浅部領域Aに対する受信時の同時開口チャンネル数Naを深部領域Bに対する受信時の同時開口チャンネル数Nbより小さくし、浅部領域Aと深部領域Bのそれぞれに対応した周波数の超音波エコーを受信することにより同一のフレームを形成するので、受信信号処理部5における消費電力が低減され、超音波プローブ1の筺体内で発生する熱量も低減する。これにより、超音波診断を継続しながらも、超音波プローブ1の温度上昇を抑制することが可能となる。
【0042】
また、浅部領域Aについては、深部領域Bよりも、受信時の同時開口チャンネル数Naを減少させると共に比較的高周波数Faの超音波ビームBaを用いているので、画質の低下が効率よく抑えられている。
一方、深部領域Bについては、浅部領域Aよりも、受信時の同時開口チャンネル数Nbが多いだけでなく、比較的低周波数Fbの超音波ビームBbを用いているので、ビーム伝搬時における減衰が小さく、高画質の画像が得られる。
さらに、超音波ビームBaの波数Maと超音波ビームBbの波数Mbとを互いに異ならせているので、超音波ビームBaと超音波ビームBbを互いに分離しやすく、このため、精度の高い測定が可能となる。
【0043】
なお、浅部領域Aを測定するための超音波ビームBaの周波数Faと深部領域Bを測定するための超音波ビームBbの周波数Fbは、それぞれ例えば超音波プローブ1が有する周波数帯域内で且つ帯域の中心周波数を挟んだ高周波数側と低周波数側の値に設定することができる。
【0044】
実施の形態2
図5に実施の形態2に係る超音波診断装置に用いられた超音波プローブ31の構成を示す。この超音波プローブ31は、図1に示した実施の形態1における超音波プローブ1において、温度センサ13をプローブ制御部12に接続したものであり、他の部材は実施の形態1における超音波プローブ1と同様である。
温度センサ13は、超音波プローブ31の内部温度Tを検出するためのもので、検出した内部温度Tをプローブ制御部12に出力する。
【0045】
図6に示されるように、被検体の体表温度T0(約33℃)より高温側に第1の温度しきい値Tth1が予め設定されると共に、第1の温度しきい値Tth1よりもさらに高温側に第2の温度しきい値Tth2が予め設定される。
さらに、図7に示されるように、超音波プローブ31の内部温度TがT0≦T<Tth1のときには、第1の深さD1で浅部領域Aと深部領域Bとを分割し、Tth1≦T<Tth2のときには、第1の深さD1よりも大きな第2の深さD2で浅部領域Aと深部領域Bとを分割する。
【0046】
すなわち、この実施の形態2は、超音波プローブ31の内部温度Tが第1の温度しきい値Tth1以上になると、受信時の同時開口チャンネル数を減少させる浅部領域Aが拡大される。
第1の温度しきい値Tth1および第2の温度しきい値Tth2は、例えばそれぞれ37℃および43℃に設定され、第1の深さD1および第2の深さD2と共に診断装置本体2の格納部23に格納することができる。
【0047】
超音波診断が開始されると、まず、温度センサ13により超音波プローブ31の内部温度Tが検出され、プローブ制御部12、通信制御部11および無線通信部7を介して診断装置本体2へ無線伝送される。診断装置本体2の無線通信部14で受信された内部温度Tは、通信制御部20を介して本体制御部21に入力される。
【0048】
本体制御部21は、格納部23に格納されている第1の温度しきい値Tth1および第2の温度しきい値Tth2を読み出し、入力された超音波プローブ31の内部温度Tを第1の温度しきい値Tth1および第2の温度しきい値Tth2と比較する。比較結果に応じて本体制御部21により第1の深さD1および第2の深さD2のいずれかが選択され、格納部23に予め格納されている他の測定条件と共に本体制御部21から通信制御部20および無線通信部14を介して超音波プローブ31へ無線伝送され、さらに、超音波プローブ31の無線通信部7および通信制御部11を介してプローブ制御部12に入力される。
そして、上述した実施の形態1と同様にして浅部領域Aと深部領域Bに対する超音波の送受信が行われ、診断装置本体2の画像生成部17で生成された超音波診断画像が表示部19に表示される。
【0049】
このように、超音波プローブ31の内部温度Tが第1の温度しきい値Tth1以上になったときに、受信時の同時開口チャンネル数を減少させる浅部領域Aを拡大することにより、さらなる消費電力および発熱量の低減を図ることが可能となる。
なお、超音波プローブ31の内部温度Tが第2の温度しきい値Tth2以上にまで上昇した場合には、再び第2の温度しきい値Tth2未満に内部温度Tが下降するまで超音波の送受信が停止される。
温度センサ13は、超音波診断装置の運転時に特に発熱が予想される受信信号処理部5の近傍に配置されることが好ましい。
【0050】
なお、超音波プローブ31の内部温度Tを判断するための温度域をT0≦T<Tth1、Tth1≦T<Tth2の2つの温度域を用いたが、これに限るものではなく、3つ以上の温度域を用いて超音波プローブ31の内部温度Tを判断してもよい。この場合、超音波プローブ31の内部温度Tが高いほど浅部領域Aが拡大される。
【0051】
実施の形態3
上述した実施の形態1および2では、撮像領域を測定深度に応じて浅部領域Aと深部領域Bの2つの領域に分割したが、これに限るものではなく、例えば図8に示されるように、撮像領域を測定深度に応じて浅部領域A、中部領域C、深部領域Bの3つの領域に分割し、これらの領域に対して、互いに周波数および送信タイミングの異なる3つの超音波ビームを送信すると共に互いに異なる同時開口チャンネル数によって超音波エコーを受信することもできる。
【0052】
この場合、浅部領域A、中部領域C、深部領域Bのうち測定深度が浅い領域ほど、受信時の同時開口チャンネル数を減少させると共に周波数の高い超音波ビームを送信し、各領域に対応した周波数の超音波エコーを受信することで同一のフレームを形成することが好ましい。
さらに、同様にして、撮像領域を測定深度に応じて4つ以上の領域に分割することもできる。
この実施の形態3においても、実施の形態2と同様に、超音波プローブの内部温度Tを検出し、検出された内部温度Tが高いほど、受信時の同時開口チャンネル数を減少させる浅部領域Aおよび中部領域Cを拡大することもできる。
【0053】
上述した実施の形態1および2では、診断装置本体2の格納部23に各種の測定条件が格納されていたが、超音波プローブ1内にこれらの測定条件を格納しておき、複数の測定深度領域にそれぞれ対応して互いに周波数の異なる複数の超音波ビームを順次送信し、複数の測定深度領域のうち測定深度が浅い領域ほど受信時の同時開口チャンネル数を減少させ、複数の測定深度領域毎に対応した周波数の超音波エコーを受信することにより同一のフレームを形成することもできる。
【0054】
上述した実施の形態1〜3においては、全48チャンネルの振動子アレイを有する超音波プローブ1または31について説明したが、48チャンネルは単に一例にすぎず、他のチャンネル数を有する振動子アレイを有する超音波プローブに対しても、同様にこの発明を適用することができる。
【0055】
また、上述した実施の形態1〜3では、超音波プローブ1または31と診断装置本体2とが互いに無線通信により接続されていたが、これに限るものではなく、接続ケーブルを介して超音波プローブ1または31が診断装置本体2に接続されていてもよい。この場合には、超音波プローブ1または31の無線通信部7および通信制御部11、診断装置本体2の無線通信部14および通信制御部20等は不要となる。
【符号の説明】
【0056】
1,31 超音波プローブ、2 診断装置本体、3 トランスデューサ、4 チャンネル選択部、5 受信信号処理部、6 パラレル/シリアル変換部、7 無線通信部、8 送信駆動部、9 送信制御部、10 受信制御部、11 通信制御部、12 プローブ制御部、13 温度センサ、14 無線通信部、15 シリアル/パラレル変換部、16 データ格納部、17 画像生成部、18 表示制御部、19 表示部、20 通信制御部、21 本体制御部、22 操作部、23 格納部、24 整相加算部、25 画像処理部、D 所定の深さ、D1 第1の深さ、D2 第2の深さ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信駆動部から供給された駆動信号に基づいて超音波プローブの振動子アレイから被検体に向けて超音波ビームが送信されると共に被検体による超音波エコーを受信した前記超音波プローブの振動子アレイから出力された受信信号を受信信号処理部で処理し、処理された受信信号に基づいて画像生成部で超音波画像を生成する超音波診断装置であって、
前記超音波プローブが有する複数チャンネルのうち受信時の同時開口チャンネルを選択するチャンネル選択部と、
複数の測定深度領域にそれぞれ対応して互いに周波数の異なる複数の超音波ビームが前記振動子アレイから順次送信されるように前記送信駆動部を制御すると共に前記複数の測定深度領域毎に対応した周波数の超音波エコーを受信することにより同一のフレームが形成されるように前記受信信号処理部および前記画像生成部を制御し、前記複数の測定深度領域のうち測定深度が浅い領域ほど受信時の同時開口チャンネル数が減少するように前記チャンネル選択部を制御する制御部を備えたことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記複数の測定深度領域のうち測定深度が浅い領域ほど周波数の高い超音波ビームが送信されるように前記送信駆動部を制御する請求項1に記載の超音波診断装置。
【請求項3】
前記超音波プローブの内部温度を検出する温度センサをさらに備え、
前記制御部は、前記温度センサにより検出された前記超音波プローブの内部温度が高いほど受信時の同時開口チャンネル数を減少させる領域を拡大する請求項1または2に記載の超音波診断装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記複数の測定深度領域に対して互いに波数の異なる超音波が送受信されるように前記送信駆動部および前記受信信号処理部を制御する請求項1〜3のいずれか一項に記載の超音波診断装置。
【請求項5】
送信駆動部から供給された駆動信号に基づいて超音波プローブの振動子アレイから被検体に向けて超音波ビームが送信されると共に被検体による超音波エコーを受信した前記超音波プローブの振動子アレイから出力された受信信号を受信信号処理部で処理し、処理された受信信号に基づいて画像生成部で超音波画像を生成する超音波画像生成方法であって、
複数の測定深度領域にそれぞれ対応して互いに周波数の異なる複数の超音波ビームを前記振動子アレイから順次送信し、
前記複数の測定深度領域のうち測定深度が浅い領域ほど受信時の同時開口チャンネル数を減少させ、
前記複数の測定深度領域毎に対応した周波数の超音波エコーを受信することにより同一のフレームを形成する
ことを特徴とする超音波画像生成方法。
【請求項6】
前記複数の測定深度領域のうち測定深度が浅い領域ほど周波数の高い超音波ビームを送信する請求項5に記載の超音波画像生成方法。
【請求項7】
前記超音波プローブの内部温度を検出し、
検出された前記超音波プローブの内部温度が高いほど受信時の同時開口チャンネル数を減少させる領域を拡大する請求項5または6に記載の超音波画像生成方法。
【請求項8】
前記複数の測定深度領域に対して互いに波数の異なる超音波を送受信させる請求項5〜7のいずれか一項に記載の超音波画像生成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−161562(P2012−161562A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−26076(P2011−26076)
【出願日】平成23年2月9日(2011.2.9)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】