説明

超音波診断装置および超音波画像生成方法

【課題】Bモード画像の生成を行いながらも環境音速値および局所音速値を精度よく演算することができる超音波診断装置を提供する。
【解決手段】Bモード画像上の中部領域内に関心領域R1が設定されると、制御部13が関心領域R1の大きさに応じて格子点を複数設定し、その設定された各格子点に送信焦点を形成するように周波数H1の基本波からなる超音波ビームをそれぞれ送信すると共に、基本波の高調波である周波数H2の超音波エコーをそれぞれ受信することにより音速測定用の受信データD1を取得するように送信回路2および受信回路4を制御し、取得された音速測定用の受信データD1に基づき関心領域R1の大きさに応じて設定された各格子点の環境音速値が演算される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、超音波診断装置および超音波画像生成方法に係り、特に、超音波プローブの振動子アレイから超音波を送受信することによりBモード画像の生成と音速測定の双方を行う超音波診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、医療分野において、超音波画像を利用した超音波診断装置が実用化されている。一般に、この種の超音波診断装置は、振動子アレイを内蔵した超音波プローブと、この超音波プローブに接続された装置本体とを有しており、超音波プローブから被検体内に向けて超音波ビームを送信し、被検体からの超音波エコーを超音波プローブで受信して、その受信信号を装置本体で電気的に処理することにより超音波画像が生成される。
【0003】
また、近年、被検体内の診断部位をより精度よく診断するために、診断部位における音速を測定することが行われている。
例えば、特許文献1には、診断部位の周辺に複数の格子点を設定し、各格子点に送信焦点を形成するように超音波ビームを送受信することにより得られる受信データに基づいて、環境音速値や局所音速値の演算を行う超音波診断装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−99452号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の装置では、超音波プローブから被検体内に向けて超音波ビームを送受信することで、診断部位における環境音速値を求めることができ、例えばBモード画像に環境音速値の情報を重畳させて表示することが可能となる。
しかしながら、環境音速値は、画像コントラストやシャープネスに基づいて求められるため、超音波の送信焦点の深度および超音波の周波数によっては位相のずれやノイズなどが生じて正確に演算できないおそれがある。
【0006】
この発明は、このような従来の問題点を解消するためになされたもので、環境音速値および局所音速値を精度よく演算することができる超音波診断装置および超音波画像生成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明に係る超音波診断装置は、送信回路から供給された駆動信号に基づいて超音波プローブの振動子アレイから被検体に向けて超音波ビームが送信されると共に被検体による超音波エコーを受信した前記超音波プローブの振動子アレイから出力される受信信号を受信回路で処理することで得られる受信データに基づいてBモード画像を生成する超音波診断装置であって、前記Bモード画像上の所定の領域内に関心領域を設定するための関心領域設定部と、前記所定の領域内の関心領域に応じて複数の格子点を設定し、設定された各格子点に送信焦点を形成するように第1の周波数の基本波からなる超音波ビームをそれぞれ送信すると共に、前記基本波の高調波である第2の周波数の超音波エコーをそれぞれ受信することにより音速測定用の受信データを取得するように前記送信回路および前記受信回路を制御する制御部と、取得された音速測定用の受信データに基づき前記複数の格子点の環境音速値を演算する音速演算部とを備えたものである。
【0008】
ここで、前記制御部は、前記第1の周波数の超音波ビームを送信して得られる前記第2の周波数の超音波エコーの強度に応じて前記所定の領域を設定すると共に前記所定の領域よりも浅い位置と深い位置にそれぞれ浅部領域および深部領域を設定するのが好ましい。
【0009】
また、前記関心領域設定部は、前記浅部領域内に関心領域をさらに設定し、前記制御部は、前記浅部領域内の関心領域に応じて複数の格子点を設定し、設定された各格子点に送信焦点を形成するように前記第2の周波数の超音波ビームをそれぞれ送信すると共に前記第2の周波数の超音波エコーをそれぞれ受信することにより音速測定用の受信データを取得するように前記送信回路および前記受信回路を制御し、前記音速演算部は、取得された音速測定用の受信データに基づき前記複数の格子点の環境音速値を演算することができる。
また、前記関心領域設定部は、前記深部領域内に関心領域をさらに設定し、前記制御部は、前記深部領域内の関心領域に応じて複数の格子点を設定し、設定された各格子点に送信焦点を形成するように前記第1の周波数の超音波ビームをそれぞれ送信すると共に前記第1の周波数の超音波エコーをそれぞれ受信することにより音速測定用の受信データを取得するように前記送信回路および前記受信回路を制御し、前記音速演算部は、取得された音速測定用の受信データに基づき前記複数の格子点の環境音速値を演算することもできる。
【0010】
また、前記関心領域設定部は、前記浅部領域と前記中部領域の境界線上および前記中部領域と前記深部領域の境界線上の少なくとも1つに関心領域を設定し、前記制御部は、前記境界線上に設定された関心領域に応じて複数の格子点を設定し、浅部領域内に位置する格子点に対しては第2の周波数の超音波ビームを送受信し、中部領域内に位置する格子点に対しては第1の周波数の超音波ビームを送信すると共に第2の周波数の超音波エコーを受信し、深部領域内に位置する格子点に対しては第1の周波数の超音波ビームを送受信することで音速測定用の受信データをそれぞれ取得するように前記送信回路および前記受信回路を制御し、前記音速演算部は、取得された音速測定用の受信データに基づき各格子点の環境音速値を演算することもできる。
【0011】
また、前記制御部は、送信される超音波ビームの前記第1の周波数が前記超音波プローブの備える中心周波数よりも低い周波数からなると共に受信される超音波エコーの前記第2の周波数が前記超音波プローブの備える中心周波数よりも高い周波数からなるように前記送信回路および前記受信回路を制御するのが好ましい。また、前記超音波プローブは、1〜5MHzの周波数帯域を備えると共に3MHzの中心周波数を備え、前記制御部は、前記所定の領域内に設定された関心領域の各格子点に送信焦点を形成するように前記第1の周波数が2MHzの超音波ビームを送信すると共に、前記第2の周波数が4MHzの超音波エコーを受信するように前記送信回路および前記受信回路を制御するのが好ましい。
【0012】
また、前記音速演算部は、複数の格子点に超音波ビームを送受信して得られた前記環境音速値に基づいて、その格子点間の領域における局所音速値を演算することができる。
また、前記制御部は、前記関心領域に対して複数の音速マップ用格子点を設定し、これらの音速マップ用格子点に送信焦点を形成してそれぞれ超音波ビームの送受信を行うことにより音速マップ用の受信データを取得するように前記送信回路および前記受信回路を制御し、前記音速演算部は、前記音速マップ用の受信データに基づいて前記複数の音速マップ用格子点の局所音速値を演算し、前記関心領域内の音速マップを生成することもできる。
【0013】
この発明に係る超音波画像生成方法は、送信回路から供給された駆動信号に基づいて超音波プローブの振動子アレイから被検体に向けて超音波ビームが送信されると共に被検体による超音波エコーを受信した前記超音波プローブの振動子アレイから出力される受信信号を受信回路で処理することで得られる受信データに基づいてBモード画像を生成する超音波画像生成方法であって、前記Bモード画像上の所定の領域内に関心領域を設定し、前記所定の領域内の関心領域に応じて複数の格子点を設定し、設定された各格子点に送信焦点を形成するように第1の周波数の基本波からなる超音波ビームをそれぞれ送信すると共に、前記基本波の高調波である第2の周波数の超音波エコーをそれぞれ受信することにより音速測定用の受信データを取得するように前記送信回路および前記受信回路を制御し、取得された音速測定用の受信データに基づき前記複数の格子点の環境音速値を演算するものである。
【発明の効果】
【0014】
この発明によれば、基本波からなる超音波ビームを送信すると共に基本波の高調波である超音波エコーを受信することにより音速測定用の受信データを取得するので、環境音速値および局所音速値を精度よく演算することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】この発明の実施の形態1に係る超音波診断装置の構成を示すブロック図である。
【図2】実施の形態1における音速演算の原理を模式的に示す図である。
【図3】実施の形態1において中部領域に設定された関心領域を示す図である。
【図4】実施の形態1において受信された超音波エコーの強度分布を示す図である。
【図5】実施の形態2において設定された関心領域を示す図である。
【図6】実施の形態2の変形例において設定された関心領域を示す図である。
【図7】実施の形態3において設定された格子点を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、この発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
実施の形態1
図1に、この発明の実施の形態1に係る超音波診断装置の構成を示す。超音波診断装置は、振動子アレイ1を備え、この振動子アレイ1に送信回路2および受信回路4が接続されている。受信回路4には、信号処理部5、DSC(Digital Scan Converter)6、画像処理部7、表示制御部8および表示部9が順次接続されている。画像処理部7には、画像メモリ10が接続されている。さらに、受信回路4に受信データメモリ11と音速演算部12とが接続されている。
そして、信号処理部5、DSC6、表示制御部8、受信データメモリ11および音速演算部12に制御部13が接続されている。また、制御部13には、操作部14と格納部15がそれぞれ接続されている。
【0017】
振動子アレイ1は、1次元又は2次元に配列された複数の超音波トランスデューサを有している。これらの超音波トランスデューサは、それぞれ送信回路2から供給される駆動信号に従って超音波を送信すると共に被検体からの超音波エコーを受信して受信信号を出力する。各超音波トランスデューサは、例えば、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)に代表される圧電セラミックや、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)に代表される高分子圧電素子、PMN−PT(マグネシウムニオブ酸・チタン酸鉛固溶体)に代表される圧電単結晶等からなる圧電体の両端に電極を形成した振動子によって構成される。
【0018】
そのような振動子の電極に、パルス状又は連続波の電圧を印加すると、圧電体が伸縮し、それぞれの振動子からパルス状又は連続波の超音波が発生して、それらの超音波の合成により超音波ビームが形成される。また、それぞれの振動子は、伝搬する超音波を受信することにより伸縮して電気信号を発生し、それらの電気信号は、超音波の受信信号として出力される。
【0019】
送信回路2は、例えば、複数のパルサを含んでおり、制御部13からの制御信号に応じて選択された送信遅延パターンに基づいて、振動子アレイ1の複数の超音波トランスデューサから送信される超音波が超音波ビームを形成するようにそれぞれの駆動信号の遅延量を調節して複数の超音波トランスデューサに供給する。
【0020】
受信回路4は、振動子アレイ1の各超音波トランスデューサから送信される受信信号を増幅してA/D変換することにより受信データを生成する。また、受信回路4は、超音波ビームの基本波成分を除去してその高調波成分を抽出するためのフィルタを内蔵している。
【0021】
信号処理部5は、受信回路4で生成された受信データに対し、制御部13からの制御信号に応じて選択された受信遅延パターンに基づいて設定される音速または音速の分布に従い、各受信データにそれぞれの遅延を与えて加算することにより受信フォーカス処理を行って、超音波エコーの焦点が絞り込まれた音線信号を生成し、超音波の反射位置の深度に応じて距離による減衰の補正を施した後、包絡線検波処理を施すことにより、被検体内の組織に関する断層画像情報であるBモード画像信号を生成する。
DSC6は、信号処理部5で生成されたBモード画像信号を通常のテレビジョン信号の走査方式に従う画像信号に変換(ラスター変換)する。
画像処理部7は、DSC6から入力されるBモード画像信号に階調処理等の各種の必要な画像処理を施した後、Bモード画像信号を表示制御部8に出力する、あるいは画像メモリ10に格納する。
これら信号処理部5、DSC6、画像処理部7および画像メモリ10により画像生成部16が形成されている。
【0022】
表示制御部8は、画像処理部7によって画像処理が施されたBモード画像信号に基づいて、表示部9に超音波診断画像を表示させる。
表示部9は、例えば、LCD等のディスプレイ装置を含んでおり、表示制御部8の制御の下で、超音波診断画像を表示する。
【0023】
受信データメモリ11は、受信回路4から出力される受信データを各チャンネル毎に時系列に格納する。また、受信データメモリ11は、制御部13から入力されるフレームレートに関する情報(例えば、超音波の反射位置の深度、走査線の密度、視野幅を示すパラメータ)を上記の受信データに関連付けて格納する。
音速演算部12は、制御部13による制御の下で、受信データメモリ11に格納されている受信データに基づいて環境音速値および局所音速値を演算する。
制御部13は、操作者により操作部14から入力された指令に基づいて超音波診断装置各部の制御を行う。
【0024】
操作部14は、操作者が入力操作を行うためのもので、この発明の関心領域設定部を構成し、キーボード、マウス、トラックボール、タッチパネル等から形成することができる。
格納部15は、動作プログラム等を格納するもので、ハードディスク、フレキシブルディスク、MO、MT、RAM、CD−ROM、DVD−ROM等の記録媒体を用いることができる。
なお、信号処理部5、DSC6、画像処理部7、表示制御部8および音速演算部12は、CPUと、CPUに各種の処理を行わせるための動作プログラムから構成されるが、それらをデジタル回路で構成してもよい。
【0025】
操作者は操作部14から次の3つの表示モードのいずれかを選択することができる。すなわち、Bモード画像を単独で表示するモード、Bモード画像に関心領域内の平均局所音速値を重畳して表示するモード、Bモード画像と関心領域内の平均局所音速値とを並べて表示するモードのうち、所望のモードによる表示を行うことができる。
【0026】
Bモード画像を表示する際には、まず、送信回路2から供給される駆動信号に従って振動子アレイ1の複数の超音波トランスデューサから超音波が送信され、被検体からの超音波エコーを受信した各超音波トランスデューサから受信信号が受信回路4に出力され、受信回路4で受信データが生成される。さらに、この受信データを入力した信号処理部5でBモード画像信号が生成され、DSC6でBモード画像信号がラスター変換されると共に画像処理部7でBモード画像信号に各種の画像処理が施された後、このBモード画像信号に基づいて表示制御部8により超音波診断画像が表示部9に表示される。
【0027】
一方、環境音速値および局所音速値の演算は、例えば本願の出願人により出願された特開2010−99452号公報に記載の方法により行うことができる。
この方法は、図2(A)に示されるように、被検体内に超音波を送信した際に、被検体の反射点となる格子点Xから振動子アレイ1に到達する受信波Wxに着目したとき、図2(B)に示されるように、格子点Xよりも浅い位置、すなわち振動子アレイ1に近い位置に複数の格子点A1、A2、・・・を等間隔に配列し、格子点Xからの受信波を受けた複数の格子点A1、A2、・・・からのそれぞれの受信波W1、W2、・・・の合成波Wsumが、ホイヘンスの原理により、格子点Xからの受信波Wxに一致することを利用して、格子点Xにおける局所音速値を求める方法である。
【0028】
まず、すべての格子点X、A1、A2、・・・に対する環境音速値をそれぞれ求める。ここで、環境音速値とは、各格子点に対し、設定音速に基づきフォーカス計算をして撮影を行うことにより超音波画像を形成し、設定音速を種々変化させたときに画像のコントラスト、シャープネスが最も高くなる音速値であり、例えば特開平8−317926号公報に記載のように、画像のコントラスト、スキャン方向の空間周波数、分散等に基づいて環境音速値の判定を行うことができる。
【0029】
次に、格子点Xに対する環境音速値を用いて、格子点Xから発せられる仮想的な受信波Wxの波形を算出する。
さらに、格子点Xにおける仮定的な局所音速値Vを種々変化させて、それぞれ格子点A1、A2、・・・からの受信波W1、W2、・・・の仮想的な合成波Wsumを算出する。このとき、格子点Xと各格子点A1、A2、・・・との間の領域Rxaにおける音速は一様で、格子点Xにおける局所音速値Vに等しいものと仮定する。格子点Xから伝播した超音波が格子点A1、A2、・・・に到達するまでの時間はXA1/V、XA2/V、・・・となる。ここで、XA1、XA2、・・・は、それぞれ格子点A1、A2、・・・と格子点Xとの間の距離である。そこで、格子点A1、A2、・・・からそれぞれ時間XA1/V、XA2/V、・・・だけ遅延して発した反射波を合成することにより、仮想的な合成波Wsumを求めることができる。
【0030】
次に、このように格子点Xにおける仮定的な局所音速値Vを種々変化させて算出された複数の仮想的な合成波Wsumと格子点Xからの仮想的な受信波Wxとの誤差をそれぞれ算出し、誤差が最小になる仮定的な局所音速値Vを格子点Xにおける局所音速値と判定する。ここで、仮想的な合成波Wsumと格子点Xからの仮想的な受信波Wxとの誤差の算出方法としては、互いの相互相関をとる方法、受信波Wxに合成波Wsumから得られる遅延を掛けて位相整合加算する方法、合成波Wsumに受信波Wxから得られる遅延を掛けて位相整合加算する方法等を採用することができる。
以上のようにして、受信回路4で生成された受信データに基づき、被検体内の環境音速値および局所音速値を高精度に演算することができる。さらに、同様にして、設定された関心領域内の局所音速値の分布を示す音速マップを生成することができる。
【0031】
次に、実施の形態1の動作について説明する。
まず、送信回路2からの駆動信号に従って振動子アレイ1の複数の超音波トランスデューサから超音波ビームが送信され、被検体からの超音波エコーを受信した各超音波トランスデューサから受信信号が受信回路4に出力されて受信データが生成され、さらに、画像生成部16で生成されたBモード画像信号に基づいて表示制御部8によりBモード画像が表示部9に表示される。
【0032】
表示部9に表示されたBモード画像は、図3に示すように、深さ方向に浅部領域、中部領域、および深部領域の3つの領域に制御部13により分割され、操作者が操作部14を操作することにより、Bモード画像上の中部領域内に関心領域R1が設定される。そして、Bモード画像上に設定された関心領域R1に応じた位置および個数の格子点が制御部13により設定される。例えば、関心領域R1を深さ方向に挟むように、関心領域R1よりも浅い深度の位置と深い深度の位置にそれぞれ複数の格子点が設定される。
【0033】
続いて、制御部13が送信回路2を制御して、関心領域R1に応じて設定された各格子点に送信焦点を形成するように低い周波数H1の基本波からなる音速測定用の超音波ビームがそれぞれ送信される。各格子点に向けてそれぞれ送信された音速測定用の超音波ビームは、被検体内を伝搬し、各格子点で送信焦点を形成すると共に反射され、再び被検体内を伝搬して振動子アレイ1の複数の超音波トランスデューサで受信される。
このように、基本波の周波数H1を低く設定することで、音速測定用の超音波ビームが被検体内の不均一な媒質を伝搬する際に超音波ビームを形成するそれぞれの超音波の位相のずれが抑制され、格子点位置において波形のそろった超音波により送信焦点が形成される。
【0034】
また、音速測定用の超音波ビームは、被検体内を伝搬することで基本波の周波数H1の整数倍の周波数を有する高調波成分が形成される。このようにして形成された高調波成分を含む超音波エコーが超音波トランスデューサで受信されると、受信回路4に内蔵されているフィルタによりその基本波成分の受信信号が除かれ、基本波の高調波成分である高い周波数H2を有する超音波エコーの受信信号を捉えるように制御部13により受信回路4が制御される。例えば、基本波の周波数H1の2倍の周波数からなる高調波成分を捉えるのが好ましい。
【0035】
このようにして、超音波エコーを受信する毎に受信回路4で音速測定用の受信データD1が生成され、その生成された音速測定用の受信データD1が順次受信データメモリ11に格納される。すべての格子点について超音波ビームを送受信することで取得された音速測定用の受信データD1が受信データメモリ11に格納されると、音速演算部12は、音速測定用の受信データD1に基づいて各格子点の環境音速値を演算する。この時、環境音速値は画像のコントラストやシャープネスに基づいて演算されるが、基本波成分と比べて高い周波数H2の高調波成分からなる超音波エコーはメインローブが強調されると共にサイドローブが低減されているため、ノイズによる影響の抑制された環境音速値を得ることができる。
また、音速演算部12は、上記のようにして得られた環境音速値に基づいて、その格子点間の領域および関心領域R1内における局所音速値を演算することもできる。関心領域R1に対して深い位置に設定された格子点と浅い位置に設定された格子点との間の領域の音速が一定と仮定し、受信データメモリ11に格納されている音速測定用の受信データD1を用いて、その領域の局所音速値を演算する。
【0036】
このとき、図2(B)を参照して説明したように、関心領域R1に対して深い位置に存在する格子点からの受信波を受けた浅い位置に存在する複数の格子点からの受信波の合成波が、ホイヘンスの原理により、深い位置の格子点からの受信波に一致することを利用して、その間の領域の局所音速値が演算される。また、音速演算部12は、浅い位置と深い位置の間の領域が関心領域R1を覆うように複数設定されている場合には、それぞれの領域の局所音速値を平均したものを関心領域R1内の局所音速値とすることもできる。
【0037】
Bモード画像を深さ方向に浅部領域、中部領域、および深部領域の3つの領域に分割する際の各領域の位置設定は、例えば次のようにして実施される。
超音波の強度は伝搬距離が長くなるほど低下するが、その伝搬により生成される高調波成分の強度は増加する。このため、低い周波数H1の基本波からなる超音波ビームを送信して得られる高い周波数H2の高調波からなる超音波エコーの強度分布は、図4に示すように、所定の深度において極大値を示す曲線を描く。そこで、制御部13は、超音波エコーの強度分布に応じて、所定値以上の強度の得られる領域に中部領域を設定すると共に所定値以上の強度が得られない領域、すなわち中部領域よりも浅い位置と深い位置にそれぞれ浅部領域および深部領域を設定することができる。
【0038】
このように、低い周波数H1の超音波ビームで送信焦点を形成することで焦点位置における位相ずれを抑制すると共に高い周波数H2の超音波エコーを受信することで受信波のノイズによる影響を抑制するため、環境音速値および局所音速値を精度よく演算することが可能となる。
【0039】
なお、送信される超音波ビームの基本波の周波数H1は超音波プローブの備える中心周波数よりも低い周波数からなると共に受信される超音波エコーの高調波の周波数H2は超音波プローブの備える中心周波数よりも高い周波数からなるように、制御部13により送信回路2および受信回路4が制御されるのが好ましい。
例えば、1〜5MHzの周波数帯域を備えると共に3MHzの中心周波数を備えた超音波プローブを用いた場合には、制御部13は、中部領域内に設定された関心領域R1の各格子点に送信焦点を形成するように基本波の周波数H1が2MHzの超音波ビームを送信すると共に、高調波の周波数H2が4MHzの超音波エコーを受信するように送信回路2および受信回路4を制御することができる。
【0040】
実施の形態2
上述した実施の形態1において、Bモード画像上の中部領域に関心領域R1を設定するだけでなく、浅部領域と深部領域にも関心領域を設定することができる。
例えば、図5に示されるように、浅部領域内に関心領域R2が設定されると共に深部領域内に関心領域R3が設定される。制御部13は、関心領域R1、R2、およびR3のそれぞれに応じた位置および個数で格子点を設定し、その設定された各格子点に送信焦点を形成するように音速測定用の超音波ビームを送受信する。
この時、中部領域内に設定された関心領域R1に対しては、実施の形態1と同様にして、低い周波数H1の基本波からなる超音波ビームで送信焦点を形成すると共に高い周波数H2の高調波成分からなる超音波エコーを受信して得られた音速測定用の受信データD1に基づいて各格子点の環境音速値が演算される。
【0041】
また、浅部領域内に設定された関心領域R2に対しては、関心領域R2に応じた位置および個数で設定された各格子点に送信焦点を形成するように高い周波数H2の音速測定用の超音波ビームをそれぞれ送信すると共に各格子点からの高い周波数H2の超音波エコーをそれぞれ受信することにより音速測定用の受信データD2を取得するように、制御部13により送信回路2および受信回路4が制御される。このようにして取得された音速測定用の受信データD2に基づいて浅部領域内の関心領域R2に応じて設定された各格子点の環境音速値が音速演算部12により演算される。
高い周波数の超音波ビームは、低い周波数の超音波ビームと比較し、被検体内の不均一な媒質を伝搬することによる位相ずれは大きくなるがメインローブが強調されると共にサイドローブが低減される。このため、伝搬距離が短く位相ずれの影響の少ない浅部領域において高い周波数H2の超音波ビームを送受信することで受信波のノイズによる影響が抑制され、環境音速値を精度よく演算することができる。また、中部領域内に設定された関心領域R1から受信される超音波エコーの周波数H2と同じ周波数の超音波エコーを関心領域R2から受信して環境音速値が演算されるため、受信される超音波エコーの周波数の違いにより中部領域との間で環境音速値に差が生じるのを抑制することができる。
【0042】
さらに、深部領域内に設定された関心領域R3に対しては、関心領域R3に応じた位置および個数で設定された各格子点に送信焦点を形成するように低い周波数H1の音速測定用の超音波ビームをそれぞれ送信すると共に各格子点からの低い周波数H1の超音波エコーをそれぞれ受信することにより音速測定用の受信データD3を取得するように、制御部13により送信回路2および受信回路4が制御される。このようにして取得された音速測定用の受信データD3に基づいて深部領域内の関心領域R3に応じて設定された各格子点の環境音速値が音速演算部12により演算される。
低い周波数の超音波ビームは、高い周波数の超音波ビームと比較し、不均一な媒質を伝搬することによる位相ずれが小さいため、伝搬距離が長く位相ずれの影響の大きい深部領域において低い周波数H1の超音波ビームを送受信することで環境音速値を精度よく演算することができる。また、中部領域内に設定された関心領域R1に送信される超音波ビームの周波数H1と同じ周波数の超音波ビームを関心領域R3に送信して環境音速値が演算されるため、送信される超音波ビームの周波数の違いにより中部領域との間で環境音速値に差が生じるのを抑制することができる。
【0043】
なお、図6に示すように、操作部14からの操作によりBモード画像上の浅部領域と中部領域の境界線上に関心領域R4が、中部領域と深部領域の境界線上に関心領域R5がそれぞれ設定された場合には、関心領域R4およびR5に応じた位置および個数で設定された各格子点の位置する領域毎に上記の手法により環境音速値が求められる。
すなわち、関心領域R4について設定された複数の格子点のうち浅部領域に位置する格子点については、高い周波数H2の音速測定用の超音波ビームが送受信され、得られた音速測定用の受信データD2に基づいて環境音速値が求められる。一方、中部領域に位置する格子点については、低い周波数H1の超音波ビームを送信すると共に高い周波数H2の超音波エコーを受信し、得られた音速測定用の受信データD1に基づいて環境音速値が求められる。
また、関心領域R5について設定された複数の格子点についても、中部領域に位置する格子点については低い周波数H1の超音波ビームが送信されると共に高い周波数H2の超音波エコーが受信され、深部領域に位置する格子点については低い周波数H1の超音波ビームが送受信され、得られた音速測定用の受信データD1およびD3に基づいて環境音速値がそれぞれ求められる。
【0044】
さらに、このようにして求められた環境音速値に基づいて、仮想的な合成受信波を用いて局所音速値を求めることもできる。なお、仮想的な合成受信波の周波数は、中部領域において用いられた低い周波数H1または高い周波数H2とするのが好ましい。
このように、格子点の位置する領域に応じて環境音速値が求められるため、精度のよい環境音速値および局所音速値を得ることが可能となる。
【0045】
実施の形態3
上述した実施の形態1および実施の形態2において、関心領域R内の平均局所音速値を測定するだけでなく、関心領域R内の音速マップを生成するように構成することもできる。
例えば、図7に示されるように、操作部14からの操作により中部領域に関心領域R1が設定されると、制御部13は、関心領域R1よりも浅い位置と深い位置に格子点E1およびE2を設定すると共に、格子点E1およびE2の間の位置に複数の音速マップ用格子点E3を設定する。
【0046】
続いて、格子点E1およびE2と音速マップ用格子点E3のそれぞれに送信焦点を形成して順次低い周波数H1の超音波ビームを送信すると共に高い周波数H2の超音波エコーを受信するように、制御部13により送信回路2および受信回路4が制御され、受信回路4で生成される音速測定用の受信データが順次受信データメモリ11に格納される。そして、音速演算部12は、受信データメモリ11に格納されている格子点E1およびE2に関する受信データを用いて、実施の形態1と同様にして環境音速値および局所音速値を演算する一方、格子点E1およびE2に関する受信データと音速マップ用格子点E3に関する音速マップ用の受信データとを用いて、格子点E1、E2およびE3のそれぞれの局所音速値を演算し、関心領域R1内の音速マップを生成する。
【0047】
音速演算部12で生成された音速マップに関するデータは、DSC6でラスター変換され、画像処理部7で各種の画像処理が施された後、表示制御部8に送られる。そして、操作者により操作部14から入力された表示モードに従って、Bモード画像に音速マップを重畳した状態(例えば、局所音速値に応じて色分けまたは輝度を変化させる表示、あるいは局所音速値が等しい点を線で結ぶ表示)で表示部9に表示される、あるいは、Bモード画像と音速マップ画像とが並べて表示部9に表示される。
このようにして、環境音速値または局所音速値を測定するだけでなく、Bモード画像の生成と音速マップの生成の双方を行うことが可能となる。
【0048】
なお、上記の実施の形態1〜3では、受信回路4から出力される受信データを一旦受信データメモリ11に格納し、音速演算部12が受信データメモリ11に格納された受信データを用いて環境音速値および局所音速値を演算したが、音速演算部12が受信回路4から出力される受信データを直接入力して環境音速値および局所音速値を演算することもできる。
【符号の説明】
【0049】
1 振動子アレイ、2 送信回路、4 受信回路、5 信号処理部、6 DSC、7 画像処理部、8 表示制御部、9 表示部、10 画像メモリ、11 受信データメモリ、12 音速演算部、13 制御部、14 操作部、15 格納部、16 画像生成部、X,A1,A2 格子点、W1,W2,Wx 受信波、Wsum 合成波、R1,R2,R3,R4,R5 関心領域、E1 関心領域よりも浅い位置の格子点、E2 関心領域よりも浅い位置の格子点、E3 音速マップ用格子点。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信回路から供給された駆動信号に基づいて超音波プローブの振動子アレイから被検体に向けて超音波ビームが送信されると共に被検体による超音波エコーを受信した前記超音波プローブの振動子アレイから出力される受信信号を受信回路で処理することで得られる受信データに基づいてBモード画像を生成する超音波診断装置であって、
前記Bモード画像上の所定の領域内に関心領域を設定するための関心領域設定部と、
前記所定の領域内の関心領域に応じて複数の格子点を設定し、設定された各格子点に送信焦点を形成するように第1の周波数の基本波からなる超音波ビームをそれぞれ送信すると共に、前記基本波の高調波である第2の周波数の超音波エコーをそれぞれ受信することにより音速測定用の受信データを取得するように前記送信回路および前記受信回路を制御する制御部と、
取得された音速測定用の受信データに基づき前記複数の格子点の環境音速値を演算する音速演算部と
を備えることを特徴とする超音波診断装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記第1の周波数の超音波ビームを送信して得られる前記第2の周波数の超音波エコーの強度に応じて前記所定の領域を設定すると共に前記所定の領域よりも浅い位置と深い位置にそれぞれ浅部領域および深部領域を設定する請求項1に記載の超音波診断装置。
【請求項3】
前記関心領域設定部は、前記浅部領域内に関心領域をさらに設定し、
前記制御部は、前記浅部領域内の関心領域に応じて複数の格子点を設定し、設定された各格子点に送信焦点を形成するように前記第2の周波数の超音波ビームをそれぞれ送信すると共に前記第2の周波数の超音波エコーをそれぞれ受信することにより音速測定用の受信データを取得するように前記送信回路および前記受信回路を制御し、
前記音速演算部は、取得された音速測定用の受信データに基づき前記複数の格子点の環境音速値を演算する請求項2に記載の超音波診断装置。
【請求項4】
前記関心領域設定部は、前記深部領域内に関心領域をさらに設定し、
前記制御部は、前記深部領域内の関心領域に応じて複数の格子点を設定し、設定された各格子点に送信焦点を形成するように前記第1の周波数の超音波ビームをそれぞれ送信すると共に前記第1の周波数の超音波エコーをそれぞれ受信することにより音速測定用の受信データを取得するように前記送信回路および前記受信回路を制御し、
前記音速演算部は、取得された音速測定用の受信データに基づき前記複数の格子点の環境音速値を演算する請求項2または3に記載の超音波診断装置。
【請求項5】
前記関心領域設定部は、前記浅部領域と前記中部領域の境界線上および前記中部領域と前記深部領域の境界線上の少なくとも1つに関心領域を設定し、
前記制御部は、前記境界線上に設定された関心領域に応じて複数の格子点を設定し、浅部領域内に位置する格子点に対しては第2の周波数の超音波ビームを送受信し、中部領域内に位置する格子点に対しては第1の周波数の超音波ビームを送信すると共に第2の周波数の超音波エコーを受信し、深部領域内に位置する格子点に対しては第1の周波数の超音波ビームを送受信することで音速測定用の受信データをそれぞれ取得するように前記送信回路および前記受信回路を制御し、
前記音速演算部は、取得された音速測定用の受信データに基づき各格子点の環境音速値を演算する請求項2〜4のいずれか一項に記載の超音波診断装置。
【請求項6】
前記制御部は、送信される超音波ビームの前記第1の周波数が前記超音波プローブの備える中心周波数よりも低い周波数からなると共に受信される超音波エコーの前記第2の周波数が前記超音波プローブの備える中心周波数よりも高い周波数からなるように前記送信回路および前記受信回路を制御する請求項1〜5のいずれか一項に記載の超音波診断装置。
【請求項7】
前記超音波プローブは、1〜5MHzの周波数帯域を備えると共に3MHzの中心周波数を備え、
前記制御部は、前記所定の領域内に設定された関心領域の各格子点に送信焦点を形成するように前記第1の周波数が2MHzの超音波ビームを送信すると共に、前記第2の周波数が4MHzの超音波エコーを受信するように前記送信回路および前記受信回路を制御する請求項6に記載の超音波診断装置。
【請求項8】
前記音速演算部は、複数の格子点に超音波ビームを送受信して得られた前記環境音速値に基づいて、その格子点間の領域における局所音速値を演算する請求項1〜7のいずれか一項に記載の超音波診断装置。
【請求項9】
前記制御部は、前記関心領域に対して複数の音速マップ用格子点を設定し、これらの音速マップ用格子点に送信焦点を形成してそれぞれ超音波ビームの送受信を行うことにより音速マップ用の受信データを取得するように前記送信回路および前記受信回路を制御し、
前記音速演算部は、前記音速マップ用の受信データに基づいて前記複数の音速マップ用格子点の局所音速値を演算し、前記関心領域内の音速マップを生成する請求項1〜8のいずれか一項に記載の超音波診断装置。
【請求項10】
送信回路から供給された駆動信号に基づいて超音波プローブの振動子アレイから被検体に向けて超音波ビームが送信されると共に被検体による超音波エコーを受信した前記超音波プローブの振動子アレイから出力される受信信号を受信回路で処理することで得られる受信データに基づいてBモード画像を生成する超音波画像生成方法であって、
前記Bモード画像上の所定の領域内に関心領域を設定し、
前記所定の領域内の関心領域に応じて複数の格子点を設定し、設定された各格子点に送信焦点を形成するように第1の周波数の基本波からなる超音波ビームをそれぞれ送信すると共に、前記基本波の高調波である第2の周波数の超音波エコーをそれぞれ受信することにより音速測定用の受信データを取得するように前記送信回路および前記受信回路を制御し、
取得された音速測定用の受信データに基づき前記複数の格子点の環境音速値を演算する
ことを特徴とする超音波画像生成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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