説明

超音波診断装置及び超音波エコー信号処理方法

【課題】 フェーズインバージョン法の特徴を最大に生かすことで適切にハーモニック成分を抽出し、且つ基本波成分を選択的に抽出する超音波診断装置等を提供すること。
【解決手段】 第1の超音波パルスと、当該第1の超音波パルスの極性を略反転させた第2の超音波パルスとを送信し、第1の超音波パルスに対応する第1のエコー信号及び前記第2の超音波パルスに対応する第2のエコー信号を受信し、第1のエコー信号の波形又は第2のエコー信号の波形のうち少なくとも一方の波形に対して、被検体表面からの深さ毎に所定のゲイン値によるゲイン調整、及び被検体表面からの深さ毎に所定のフィルタ係数によるフィルタ処理を施すことによって波形を調整し、調整後の第1のエコー信号と第2のエコー信号とを加算することで、二次的に発生する高調波と、被検体内における当該被検体表面からの深さに応じて選択的に送信超音波の少なくとも一部と、を抽出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
複数の送受信と受信信号毎の独立した信号処理により基本波成分の除去を制御し、受信信号に含まれる組織又は造影剤由来の非線形成分を映像化する超音波診断装置及び超音波エコー信号処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波診断装置は、超音波パルス反射法により体表から生体内の軟組織の断層像を無侵襲に得ることができ、X線診断装置、X線CT装置、MRI診断装置、核医学診断装置などの他の診断装置に比べて、小型で安価、リアルタイム表示が可能、X線などの被爆がなく安全性が高い、血流イメージングが可能等の特長を有している。この様な利便性から、現在では心臓、腹部、泌尿器、および産婦人科などで広く利用されている。
【0003】
この超音波画像診断装置においては、種々の撮影法が存在する。例えばコントラストエコー法と称される撮影手法は、被検体の血管内に微小気泡(マイクロバブル)等からなる超音波造影剤を投与することで、超音波散乱エコーの増強を図るものであり、マイクロバブルによる反射の増強効果を利用する方法と、マイクロバブルの非線形な振る舞いにより発生する高調波を利用する方法とがある。また、例えばティシューハーモニック法と称される撮影手法は、超音波の生体組織中における伝播の非線形性を利用する方法である。
【0004】
近年、マイクロバブルの非線形な振る舞いや、超音波の生体組織中における電波の非線形性により発生する高調波成分(ハーモニック成分)を抽出する手法として、フェーズインバージョン法が開発されている。この方法は、例えば図6に示すように、画像取得を目的とした波(正極波)と、正極波の波形を反転させ当該正極波と対称化させた負極波とを一の走査線に対して基本波として送信し、得られた反射波を加算することで基本波成分を相殺させハーモニック信号を取り出すものである。
【0005】
しかし現実には、正極波と負極波との間には非対称性が存在する。この非対称な正極波と負極波とによって得られた受信エコー信号を加算した場合には基本波成分を適切に相殺することができず、従ってハーモニック成分を適切に抽出することができない。
【0006】
図7は、図6に示した正極波に基づくエコー信号(以下、正極エコー信号と称する)のスペクトラム波形Aと、当該正極エコー信号と図6に示した負極波に基づくエコー信号(以下、負極エコー信号と称する)とを加算して得られたスペクトラム波形Bとを示した図である。
【0007】
図8は、図7に示した基本波成分とハーモニック成分との軸上音圧を示した図である。
【0008】
図9は、正極エコー信号のスペクトラム波形と負極エコー信号のスペクトラム波形と、基本波の残留とを模式的に示した図である。
【0009】
図9に示すように、対称でない正極エコー信号と負極エコー信号とを加算した場合には、同図9及び図7中のスペクトラム波形Bに示すように、加算処理において相殺できなかった基本波成分が残留している。この残留した基本波成分は、基本波の帯域においてはフィルタ処理等にて除去可能であるが、ハーモニック領域に存在する基本波成分については、ハーモニック成分も同時に除去することとなるから、フィルタ等によっては除去することはできない。
【0010】
また、ハーモニック成分を抽出する撮影においては、高周波が生体の周波数依存減衰を大きく受けるため、基本波に比較してエコーの信号強度が低く、映像化に充分な信号を得られない場合がある。特に、生体深部を撮影する場合、脂肪等による減衰の大きい患者を撮影する場合等においては、信号強度は微弱となり映像化は困難である。
【0011】
図10は、例えば生体深部からの正極エコー信号及び負極エコー信号のスペクトラム波形と、双方のエコー信号の加算によって抽出されたハーモニック成分とを模式的に示した図である。図10に示すように、生体深部のエコー信号から抽出されたハーモニック成分はノイズレベル以下となってしまい、映像化に充分なものではない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上記事情に鑑みてなされたもので、フェーズインバージョン法の特徴を最大限に生かすことで、適切にハーモニック成分を抽出し、且つ基本波成分を選択的に抽出することができる超音波診断装置及び超音波エコー信号処理方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するため、次のような手段を講じている。
【0014】
第1の超音波パルスと、当該第1の超音波パルスの極性を略反転させた第2の超音波パルスとを送信する送信手段と、前記被検体から前記第1の超音波パルスに対応する第1のエコー信号及び前記第2の超音波パルスに対応する第2のエコー信号を受信する受信手段と、ゲイン調整手段とフィルタ手段とを有し、前記第1のエコー信号の波形又は前記第2のエコー信号の波形のうち少なくとも一方の波形に対して、前記被検体内における当該被検体表面からの深さ毎に所定のゲイン値によるゲイン調整、及び前記被検体内における当該被検体表面からの深さ毎に所定のフィルタ係数によるフィルタ処理を施すことによって、当該波形を調整する波形調整手段と、前記波形調整手段から出力された前記第1のエコー信号と前記第2のエコー信号とを加算することで、送信超音波から二次的に発生する高調波と、前記被検体内における当該被検体表面からの深さに応じて選択的に送信超音波の少なくとも一部と、を抽出する抽出手段と、を具備することを特徴とする超音波診断装置である。
【0015】
被検体に対して第1の超音波パルスを送信するステップと、前記被検体から前記第1の超音波パルスに対応する第1のエコー信号を受信するステップと、前記第1の超音波パルスの極性を略反転させた第2の超音波パルスを前記被検体に送信するステップと、前記第2の超音波パルスに対応する第2のエコー信号を受信するステップと、前記第1のエコー信号の波形又は前記第2のエコー信号の波形のうち少なくとも一方の波形に対して、前記被検体内における当該被検体表面からの深さ毎に所定のゲイン値によるゲイン調整、及び前記被検体内における当該被検体表面からの深さ毎に所定のフィルタ係数によるフィルタ処理を施すことによって、当該波形を調整するステップと、前記ゲイン調整及びフィルタ処理後の前記第1のエコー信号と前記第2のエコー信号とを加算することで、送信超音波の少なくとも一部と当該基本波パルスから二次的に発生する高調波との少なくとも一方を抽出するステップと、を具備することを特徴とする超音波エコー信号処理方法である。
【発明の効果】
【0016】
以上本発明によれば、フェーズインバージョン法の特徴を最大限に生かすことで、適切にハーモニック成分を抽出し、且つ基本波成分を選択的に抽出することができる超音波診断装置及び超音波エコー信号処理方法を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、超音波診断装置10のブロック構成図を示している。
【図2】図2(a)、(b)は、それぞれ合成ユニット17の構成例を示したブロック図である。図2(c)は、ユーザインタフェース140を示した図である。
【図3】図3は、フェーズインバージョン法による超音波画像収集の処理手順を示したフローチャートである。
【図4】図4は、合成ユニット17において実行されるスペクトラム波形調整処理を説明するための概念的な図である。
【図5】図5は、合成ユニット17において実行されるスペクトラム波形調整処理を説明するための概念的な図である。
【図6】図6は、フェーズインバージョン法において送信する正極波と負極はの波形を示した図である。
【図7】図7は、正極エコー信号のスペクトラム波形Aと、当該正極エコー信号と負極エコー信号とを加算して得られたスペクトラム波形Bとを示した図である。
【図8】図8は、図7に示した基本波成分とハーモニック成分との軸上音圧を示した図である。
【図9】図9は、正極エコー信号のスペクトラム波形と負極エコー信号のスペクトラム波形と、基本波の残留とを模式的に示した図である。
【図10】図10は、例えば生体深部からの正極エコー信号及び負極エコー信号のスペクトラム波形と、双方のエコー信号の加算によって抽出されたハーモニック成分とを模式的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態を図面に従って説明する。なお、以下の説明において、略同一の機能及び構成を有する構成要素については、同一符号を付し、重複説明は必要な場合にのみ行う。
【0019】
まず、第1の実施形態に係る超音波診断装置10のブロック構成を、図1を参照しながら説明する。
【0020】
図1は、超音波診断装置10のブロック構成図を示している。
【0021】
図1において、超音波診断装置10は、超音波プローブ11、装置本体12、モニタ13、操作部14を具備している。
【0022】
超音波プローブ11は、装置本体12に接続されており、一次元または二次元的に配列されたアレイ振動子からなる。超音波プローブ11は、所定のシーケンスに従って生体内に超音波パルスを送信する。当該プローブ11から生体内に送信された超音波パルスは、生体内を伝播するとともに、生体組織の非線形性により、様々なハーモニック成分を発生する。また、コントラストエコーの場合には、上記生体組織の非線形性の他に、超音波造影剤の非線形性によっても、複数のハーモニック成分が発生する。基本波とそのハーモニック成分は、体内組織の音響インピーダンスの境界、微小散乱体、超音波造影剤により後方散乱され、超音波エコー信号としてプローブ11で受信される。
【0023】
装置本体12は、被検体から収集した超音波信号に対して処理や、超音波送受信に関する制御、超音波画像表示等に関する制御を行う。装置本体12は、パルサ/プリアンプユニット15、受信遅延回路16、合成ユニット17、検波ユニット18、表示ユニット19、ホストCPU20、波形調節情報記憶メモリ21を有している。以下、各構成要素について説明する。
【0024】
パルサ/プリアンプユニット15は、CPU20からの制御信号に基づいてプローブ11の振動素子の駆動タイミングを計り、複数の振動素子に印加されるパルス電圧を制御し、プローブ11から送信される超音波ビームの方向・形状・集束を制御する。特に、パルサ/プリアンプユニット15は、フェーズインバージョン法による超音波送信の場合には、CPU20からの制御信号に基づいて、所定の超音波(正極波)と、当該正極波と極性を略反転させ(例えば、正極波の波形を反転させ)対称化した波(負極波)とからなる基本波を一の走査線に対して送信する様に、プローブ11の振動素子を駆動する。
【0025】
また、パルサ/プリアンプユニット15は、正極波に基づくエコー信号(以下、正極エコー信号と称する。)と負極波に基づくエコー信号(以下、負極エコー信号と称する。)とを受信してチャンネル毎に増幅し、A/D変換後に受信遅延回路16に出力する。
【0026】
受信遅延回路16は、受信の際のビームフォーミングを行いビームの方向・集束を制御する。この受信遅延回路16は、複数のビームを形成し並列同時受信をするために複数の回路セットから構成されていても良い。信号はビーム形成前後どちらかで、AD変換され、受信信号は信号処理に適したサンプリング周波数でサンプリングされ、ディジタル信号となる。
【0027】
合成ユニット17は、正極エコー信号或いは負極エコー信号の少なくとも一方に対して所定の条件に基づいて後述する波形調整処理を施し、走査線毎にハーモニック信号を抽出する。当該合成ユニット17は、ゲイン調整手段とフィルタ手段とから構成されているが、その詳細については後で詳しく説明する。
【0028】
検波ユニット18は、合成ユニット17から入力したハーモニック信号等に対して、エコー信号対数増幅、包絡線検波処理などを施し、信号強度が輝度の明るさで表現されるデータを生成する。
【0029】
表示ユニット19は、生成された画像信号をスキャンコンバートして画像処理後にビデオ信号に変換し、モニタ13に表示する。なお、複数のハーモニック信号が合成ユニット17で作成される場合には独立に画像信号が生成され、表示ユニット19で独立に或いは合成されて表示される。
【0030】
ホストCPU20は、各構成要素において実行される信号処理を、統括制御する制御部である。
【0031】
波形調整条件記憶メモリ21は、複数の波形調整条件を被検体表面からの深さ毎に記憶する記憶部である。ここで波形調整条件とは、合成ユニット17のゲイン調節手段のゲイン値及びフィルタ手段のフィルタ係数(例えば、予め記憶しておいた代表例計数、或いはフィルタ手段が入力する信号のスペクトラム波形と、当該フィルタ手段が出力する信号のスペクトラム波形との比等)を意味する。当該波形調整条件記憶メモリ21に記憶された複数の波形調整条件のうち、例えば被検体(患者)の情報に基づいて所定の波形調整条件がホストCPU20によって自動的に選択される。なお、当該メモリ21に記憶された各波形調整条件は、操作部14からの所定の入力操作により変更することも可能である。
【0032】
モニタ13は、本超音波診断装置10によって取得された超音波画像を表示する出力装置である。
【0033】
操作部14は、装置本体12に接続され、オペレータからの各種指示・命令・情報を装置本体12にとりこむための、関心領域(ROI)の設定などを行うための入力装置(マウスやトラックボール、モード切替スイッチ、キーボード等)を有している。
【0034】
また、操作部14は、図2(c)に示すユーザインタフェース140を有している。当該インタフェースは、深さに応じて後述する波形調整条件を調整するための調整レバーである。すなわち、通常は所定の情報に基づいて自動的にメモリ21内の所定の波形調節条件が選択され、決定されるが、本インタフェース140によってマニュアル的に波形調節条件を変更することも可能である。図2(c)に示す調節レバーは、受信したエコー信号から抽出する基本波成分の比率を調整するためのものであり、例えば、同レバーを基本波方向に所定量移動させると、当該所定量に対応した基本波成分をエコー信号から抽出するように波形調整条件が変更・設定される。
【0035】
次に、合成ユニット17の構成について説明する。
【0036】
図2(a)、(b)は、それぞれ合成ユニット17の構成例を示したブロック図である。図2(a)に示す合成ユニット17は、ゲイン調整部171Aとフィルタ172Aとからなる第1の処理系と、ゲイン調整部171Bとフィルタ172Bとからなる第2の処理系との二つの処理系と、加算部173を有している。また、図2(b)に示す合成ユニット17は、ゲイン調整部171とフィルタ172とからなる単独の処理系と加算部173とを有している。
【0037】
ゲイン調整部171、ゲイン調整部171A、ゲイン調整部171B、は、それぞれ入力したエコー信号に対してゲイン調整を行う回路である。各ゲイン調整部は、メモリ21内から選択された波形調整条件、或いは、インタフェース140によって変更された波形調整条件に基づいて、ゲイン調整を行う。当該ゲイン調整によって、エコー信号は、ハーモニック成分の抽出に必要な強度のみに選択される。
【0038】
フィルタ172、フィルタ172A、フィルタ172Bは、例えば特開平9−173334公報に開示されている超音波診断装置に利用されているスペクトラム調整手段、複素フィルタ等である。各フィルタは、メモリ21内から選択された波形調整条件、或いは、インタフェース140によって変更された波形調整条件に基づいて、入力したエコー信号にフィルタ係数を積算することで所定のスペクトラム波形とするスペクトラム調整を行う。
【0039】
なお、本超音波診断装置10では、A/D変換の後に波形調節を行う構成であるが、A/D変換前のアナログ信号に対してスペクトラム調整等を行う構成とする場合には、フィルタ172A、フィルタ172Bとして実数フィルタ、イコライザ等を使用することができる。
【0040】
加算部173は、入力した正極エコー信号と負極エコー信号とを加算することでハーモニック成分或いは基本波成分を抽出する。
【0041】
次に、上記構成を有する合成ユニット17が実行するスペクトラム波形調節処理を説明する。スペクトラム波形調節処理とは、フェーズインバージョン法によって収集した正極エコー信号のスペクトラム波形或いは負極エコー信号のスペクトラム波形の少なくとも一方を調整する処理である。
【0042】
例えば、図2(a)に示した合成ユニット17においては、受信遅延回路16からのデジタル信号は、正極エコー信号と負極エコー信号とに分類され、それぞれゲイン調整部171A、ゲイン調整部171Bに入力される。ゲイン調整部171A及びフィルタ172A或いはゲイン調整部171B及びフィルタ172Bは、予め設定された波形調整条件(ゲイン値、フィルタ係数)によって各エコー信号の波形を調整する。なお、波形調節は、正極エコー信号と負極エコー信号との双方に施す構成であってもよいし、一方の波形を基準として他方の波形を調整する構成であってもよい。
【0043】
また、図2(b)に示した合成ユニット17においては、受信遅延回路16からのデジタル信号は、正極エコー信号と負極エコー信号とに分類され、何れか一方のみのエコー信号がゲイン調整部171、フィルタ172に入力される。ゲイン調整部171及びフィルタ172は、予め設定したゲイン値、フィルタ係数によって各エコー信号の波形を調整する。
【0044】
この波形調整処理によれば、波形調整条件を種々操作することによってフェーズインバージョン法によって取得したエコー信号から基本波成分を選択的に取得することができる。すなわち、正極エコー信号のスペクトラム波形と負極エコー信号のスペクトラム波形とが対称となるように波形調整条件を設定した場合には、加算部173における加算処理によって基本波成分を除去することができる。当該対称化によって正極エコー信号の基本波成分と負極エコー信号の基本波成分とを高い精度にて相殺できるからである(図4参照。なお、同図の詳細は後述。)。一方、正極エコー信号のスペクトラム波形と負極エコー信号のスペクトラム波形との対称性が崩れるように(非対称性を高めるように)波形調整条件を設定した場合には、加算部173における加算処理によって基本波成分を取り出すことができる。当該非対称化によって正極エコー信号の基本波成分或いは負極エコー信号の基本波成分の一部又は全部を取り出すことができるからである(図5参照。なお、同図の詳細は後述。)。
【0045】
従って、合成ユニット17によって実行される波形調整には、正極エコー信号と負極エコー信号との対称化、正極エコー信号と負極エコー信号との非対称化、或いはこれらの組み合わせ等がある。これらの詳細は、後述する実施例によって明らかにする。
【0046】
次に、超音波診断装置10の各実施例を説明する。
【0047】
(実施例1)
実施例1は、フェーズインバージョン法によって超音波画像収集を行う場合に、超音波診断装置10が有するスペクトラム波形調整機能によって、受信した正極エコー信号と負極エコー信号とを対称化し、当該対称化された正極エコー信号と負極エコー信号とを加算することで、基本波成分を高い精度で除去してハーモニック成分を取り出す例である。
【0048】
図3は、フェーズインバージョン法による超音波画像収集の処理手順を示したフローチャートである。図4は、合成ユニット17において実行されるスペクトラム波形調整処理を説明するための概念的な図である。
【0049】
図3において、まず、一の走査線に対して造影剤を破壊する強度によって正極波を送信し、当該正極波に基づく正極エコー信号を受信し、増幅、A/D変換等の所定の処理を施す(ステップS1)
続いて、正極波の波形を反転させた負極波(図6参照)を被検体内に送信し、当該負極波に基づく負極エコー信号とを受信し、増幅、A/D変換等の所定の処理を施す(ステップS2)。
【0050】
続いて、合成ユニット17において、正極エコー信号と負極エコー信号との対称化を行う(ステップS3)。すなわち、例えば図4に示すように、スペクトラム波形の対称性が崩れた正極エコー信号と負極エコー信号とが入力されると、合成ユニット17は、例えば負極エコー信号の波形と対称になるように、ゲイン調整部171A、フィルタ172Aによって正極エコー信号の基本波の波形を調整する。調整後の正極エコー信号のスペクトラム波形と負極エコー信号のスペクトラム波形とは図4に示すように対称であり、これらを加算処理(合成処理)することで基本波成分を相殺させてハーモニック成分を取り出すことができる。
【0051】
なお、正極エコー信号は、1レート分遅延して負極エコー信号と合成される。
【0052】
続いて、加算後のエコー信号に対して対数増幅、包絡線検波処理等を施し、画像信号を生成し(ステップS4)、当該画像信号をスキャンコンバートして画像処理後にビデオ信号に変換し、モニタ13に表示する(ステップS5)。
【0053】
なお、上記ステップS3における正極エコー信号と負極エコー信号との対称化においては、負極エコー信号を基準として正極エコー信号を調整したが、正極エコー信号を基準として負極エコー信号を調整、或いは正極エコー信号及び負極エコー信号の双方を調整して対称化する構成であってもよい。
【0054】
このような構成によれば、正極エコー信号と負極エコー信号とを対称化した後加算処理を行うから、基本波成分が充分に除去してハーモニック成分を取り出することができる。従って、フェーズインバージョン法の特性を最大限に生かすことができ、特に、基本波成分の除去によるアーチファクト低減効果を最大に発揮することができる。その結果、診断画像の質を向上させることができ、診断技術の向上に貢献することができる。
【0055】
(実施例2)
実施例1は、正極エコー信号と負極エコー信号とを対称化することで、基本波信号を除去する構成であった。これに対し、実施例2は、スペクトラム波形調整機能によって、受信した正極エコー信号と負極エコー信号とを非対称化し(対処性を崩し)、その後加算することで基本波成分を残すようにする構成をとる例である。この様にして得られた基本波成分は、感度の足りない深部や極近距離部からのハーモニックエコー信号を補うのに使用することができる。なお、本実施例で示す内容は、例えばテッシューハーモニックイメージング等において特に実益がある。
【0056】
フェーズインバージョン法による超音波画像収集の処理手順において実施例2と実施例1との異なる点は、図3のステップS3における処理内容である。説明の重複をさけるため、ステップS3における処理内容のみ図3、図5を参照しながら説明する。
【0057】
合成ユニット17は、正極エコー信号のスペクトラム波形と負極エコー信号のスペクトラム波形との非対称化を行う(ステップS3)。
【0058】
図5は、合成ユニット17において実行されるスペクトラム波形調整処理を説明するための概念的な図である。図5に示すように、正極エコー信号と負極エコー信号とが入力されると、合成ユニット17は、正極エコー信号の波形と非対称になるように、ゲイン調整部171B、フィルタ172Bによって負極エコー信号の基本波の波形を調整する。調整後の基本波波形(スペクトラム)は、図5に示すように非対称であり、これらを加算処理することで基本波成分とハーモニック成分とを取り出すことができる。
【0059】
後段の画像生成処理では、上記基本波成分とハーモニック成分に基づいて画像生成が行われる(ステップS4)。
【0060】
一般に、ハーモニック成分は高周波であり生体の周波数依存減衰を大きく受けてしまうことから、その感度は低い。特に、生体深部を診断する場合や脂肪等の多い患者を診断する場合では減衰が顕著であり、超音波エコー信号の映像化は困難である。また、高調波は造影剤の非線形な振る舞いや超音波の生体組織中の伝播を原因として発生するものであるから、被検体表面から極近距離においては、ハーモニック成分は十分に発生しない。
【0061】
しかし、上述した構成によれば、正極エコー信号と負極エコー信号とを非対称化した後加算処理を行うから、基本波成分を残すことができる。この様にして得られた基本波成分は、感度の足りない深部や極近距離領域からのハーモニックエコー信号を補うのに使用することができる。従って、わざわざ基本波モードに遷移することなく、生体深部等からも画像化に充分なハーモニックエコー信号を容易に取り出すことができ、その結果、診断技術の向上に貢献することができる。
【0062】
(実施例3)
一般に、被検体表面からの深度が低い場合には、ハーモニック成分を充分に得ることができる。一方、深度が高い場合には、ハーモニック成分を充分に取り出すことができない場合が多い。そこで、実施例3では、ハーモニックエコー信号を補うための基本波の残留度が深度が高くなるに従って高くなるように、合成ユニット17において被検体表面からの深度に応じてエコー信号の波形を調節する例である。
【0063】
フェーズインバージョン法による超音波画像収集の処理手順において実施例3と各実施例との異なる点は、ステップS3における処理内容である。説明の重複をさけるため、ステップS3における処理内容のみ図3を参照しながら説明する。
【0064】
合成ユニット17は、波形調整条件に基づいて、正極エコー信号或いは負極エコー信号の少なくとも一方に対してゲイン調整、フィルタ処理を行う(ステップS3)。
【0065】
すなわち、正極エコー信号と負極エコー信号とが入力されると、合成ユニット17は、波形調整条件記憶メモリ21に記憶された波形調整条件に基づいて、各エコー信号の深さに対応したゲイン値及びフィルタ係数によってスペクトラム波形調整を行う。当該波形調整条件は、被検体表面からの深度に応じて正極エコー信号のスペクトラム波形と負極エコー信号のスペクトラム波形との対称性を変化させ、深度に応じて基本波成分を抽出するように予め設定されている。例えば、例えば被検体表面から深度5mmまでの領域、及び深度10cmから15cmまでの領域ではハーモニック成分は十分でないから基本波成分とハーモニック成分との双方を取り出すことができる波形調節条件で、深度5mmから深度10cmまではハーモニック成分を十分収集できるからハーモニック成分のみを取り出す波形調節条件で、深度15cm以上の領域はハーモニック成分を殆ど取り出すことができないから、基本波成分のみを取り出す波形調節条件で、といった具合である。この様に深さに応じて波形調整条件を制御した場合には、加算部173の加算処理によって、深度毎に診断に好適な生体情報(基本波成分、ハーモニック成分)を取り出すことができる。
【0066】
なお、上記波形調整条件(ゲイン値、フィルタ係数)は任意に変更することができる点、正極エコー信号のスペクトラム波形と負極エコー信号のスペクトラム波形との対称化及び非対称化においては、何れか一方或いは両方の波形を調整する構成であっても良い点は、上述の各実施例と同様である。特に、波形調整条件(ゲイン値、フィルタ係数)の変更については、図2(c)に示したインタフェースによって基本波成分を抽出し始める深度を容易に変更することができる。
【0067】
後段の画像生成処理では、基本波成分とハーモニック成分に基づいて画像生成が行われるから、ハーモニックエコー成分で足りない信号、例えば生体内深部からの信号を基本波の帯域によって補った超音波画像が生成される(ステップS4)。
【0068】
以上述べた構成によれば、被検体表面からの深度に応じてエコー信号の波形を調節することができる。特に、ハーモニックエコー信号の被検体内深部における感度は、当該被検体によってことなるが、患者情報等による自動設定或いはインタフェースによるマニュアル設定によって容易に適切な波形調整条件を設定することができる。従って、最大限にはハーモニック効果を利用することができ、その結果、診断画像の質を向上させ、診断技術の向上に貢献することができる。
【0069】
以上、本発明を実施形態に基づき説明したが、本発明の思想の範疇において、当業者であれば、各種の変更例及び修正例に想到し得るものであり、それら変形例及び修正例についても本発明の範囲に属するものと了解される。
【0070】
また、各実施形態は可能な限り適宜組み合わせて実施してもよく、その場合組合わせた効果が得られる。さらに、上記実施形態には種々の段階の発明が含まれており、開示される複数の構成要件における適宜な組合わせにより種々の発明が抽出され得る。例えば、実施形態に示される全構成要件から幾つかの構成要件が削除されても、発明が解決しようとする課題の欄で述べた課題が解決でき、発明の効果の欄で述べられている効果の少なくとも1つが得られる場合には、この構成要件が削除された構成が発明として抽出され得る。
【符号の説明】
【0071】
10…超音波診断装置、11…超音波プローブ、12…装置本体、13…モニタ、14…操作部、15…プリアンプユニット、16…受信遅延回路、17…合成ユニット、18…検波ユニット、19…表示ユニット、20…ホストCPU、21…波形調整条件記憶メモリ、140…ユーザインタフェース、171A…ゲイン調整部、171B…ゲイン調整部、171…ゲイン調整部、172A…フィルタ、172B…フィルタ、172…フィルタ、173…加算部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の超音波パルスと、当該第1の超音波パルスの極性を略反転させた第2の超音波パルスとを送信する送信手段と、
前記被検体から前記第1の超音波パルスに対応する第1のエコー信号及び前記第2の超音波パルスに対応する第2のエコー信号を受信する受信手段と、
ゲイン調整手段とフィルタ手段とを有し、前記第1のエコー信号の波形又は前記第2のエコー信号の波形のうち少なくとも一方の波形に対して、前記被検体内における当該被検体表面からの深さ毎に所定のゲイン値によるゲイン調整、及び前記被検体内における当該被検体表面からの深さ毎に所定のフィルタ係数によるフィルタ処理を施すことによって、当該波形を調整する波形調整手段と、
前記波形調整手段から出力された前記第1のエコー信号と前記第2のエコー信号とを加算することで、送信超音波から二次的に発生する高調波と、前記被検体内における当該被検体表面からの深さに応じて選択的に送信超音波の少なくとも一部と、を抽出する抽出手段と、
を具備することを特徴とする超音波診断装置。
【請求項2】
前記送信手段は、前記基本波パルスを前記一の走査面に対して複数回送信することを特徴とする請求項1記載の超音波診断装置。
【請求項3】
前記ゲイン値或いは前記フィルタ係数の少なくとも一方を変更することで、前記抽出手段が抽出する送信超音波の比率をユーザが変更するためのユーザインタフェースをさらに具備することを特徴とする請求項1又は2記載の超音波診断装置。
【請求項4】
前記波形調整手段は、前記第1のエコー信号又は前記第2のエコー信号のスペクトラム波形の調整を行うことを特徴とする請求項1乃至3記載の超音波診断装置。
【請求項5】
前記フィルタ係数は、前記フィルタ手段が入力するエコー信号のスペクトラム波形と、当該フィルタ手段が出力するエコー信号のスペクトラム波形との比であることを特徴とする請求項1乃至4記載の超音波診断装置。
【請求項6】
被検体に対して第1の超音波パルスを送信するステップと、
前記被検体から前記第1の超音波パルスに対応する第1のエコー信号を受信するステップと、
前記第1の超音波パルスの極性を略反転させた第2の超音波パルスを前記被検体に送信するステップと、
前記第2の超音波パルスに対応する第2のエコー信号を受信するステップと、
前記第1のエコー信号の波形又は前記第2のエコー信号の波形のうち少なくとも一方の波形に対して、前記被検体内における当該被検体表面からの深さ毎に所定のゲイン値によるゲイン調整、及び前記被検体内における当該被検体表面からの深さ毎に所定のフィルタ係数によるフィルタ処理を施すことによって、当該波形を調整するステップと、
前記ゲイン調整及びフィルタ処理後の前記第1のエコー信号と前記第2のエコー信号とを加算することで、送信超音波の少なくとも一部と当該基本波パルスから二次的に発生する高調波との少なくとも一方を抽出するステップと、
を具備することを特徴とする超音波エコー信号処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−136224(P2011−136224A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−87521(P2011−87521)
【出願日】平成23年4月11日(2011.4.11)
【分割の表示】特願2001−179011(P2001−179011)の分割
【原出願日】平成13年6月13日(2001.6.13)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】