説明

超音波診断装置及び超音波送受信条件最適化プログラム

【課題】端部振動子ギャップや端部振動子の特性を考慮した超音波送受信を実行することで、好適な音場特性を実現する超音波診断装置等を提供すること。
【解決手段】供給される駆動信号に基づいて超音波を発生し、発信した超音波に基づいてエコー信号を発生し、それぞれが複数の超音波振動素子を有する複数の超音波振動素子ブロックと、前記複数の超音波振動素子ブロック同士を接着する接着層と、を有する超音波プローブと、前記超音波の送受信を行うための送受信ユニットと、前記接着層を介して接着された前記超音波振動素子ブロックにおける各超音波振動素子の空間的位置に基づいて、各超音波振動素子の遅延時間を設定して、前記送受信ユニットを制御する制御ユニットと、を具備することを特徴とする超音波診断装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば超音波振動素子が二次元マトリックス状に配列された二次元超音波プローブを用いた超音波送受信におけるビーム偏向、ビーム収束のための遅延時間、エコー信号の加算処理において用いられる重み付け係数等の適正化に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波診断装置は超音波パルス反射法により、体表から生体内の軟組織の断層像を無侵襲に得る医療用画像機器である。この超音波診断装置は、他の医療用画像機器に比べ、小型で安価、X線などの被爆がなく安全性が高い、血流イメージングが可能等の特長を有し、心臓、腹部、泌尿器、および産婦人科などで広く利用されている。
【0003】
また、近年の超音波撮像装置においては、実時間三次元表示機能(三次元リアルタイム表示機能)が実用化されている。その手法としては、電子走査式の一次元アレイ振動素子を走査面に垂直な方向に機械的に走査することで被検体の三次元領域を走査するメカニカル3Dスキャナを用いるもの(メカ4D走査法)や、振動素子が二次元配列された二次元超音波プローブを用いた電子走査により、被検体の三次元領域の走査を実現するもの(以下、リアルタイム3D走査法)がある(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
【0004】
特にリアルタイム3D走査法は、二次元超音波プローブの導入と共に、近年急速に普及しつつある。このリアルタイム3D走査法において用いられる二次元超音波プローブは、図11に示すように、例えばセラミックス系の圧電材料等からなる複数(例えば三つ)のブロックを切り出して(例えばそれぞれ12素子×48素子に切り出して)複数の超音波振動素子を有する超音波振動素子ブロックBLを生成し、これら接着層を介して図12に示すように張り合わせることで、超音波振動素子が二次元マトリックス状に配列された(例えば、36素子×48素子=1728素子に配列された)二次元超音波プローブを生成している。なお、この様に複数の超音波振動素子ブロックBLを接着層を介して張り合わせるのは、現在のダイシング技術では、一つのセラミックス系の圧電材料ブロックから例えば1728素子を切り出すことは困難だからである。
【0005】
しかしながら、従来の超音波診断装置においては、例えば次のような問題がある。
【0006】
図13は、図12に示した円内の拡大図であり、各超音波振動素子ブロックの超音波照射側の先端を示した図である。既述の如く、各超音波振動素子ブロックは、接着層(図示せず)を介して接着される。従って、図13に示すように、各超音波振動素子ブロックの両端又は一端の超音波振動素子(同図においては、12、13、24、25番目の超音波振動素子。以下、「端部振動素子」と呼ぶ。)は接着層と接着される。そのため、端部振動素子は、接着による影響(例えば形状変化等)を受け、他の(接着に用いられていない)超音波振動素子とは異なる振動特性(すなわち、音響特性)を持つことになる。しかしながら、従来のシステムは、この接着に起因する端部振動素子の特性の違いを考慮するものではない。
【0007】
また、超音波振動素子ブロックの端部間には、接着層の存在に起因するギャップ(端部振動素子ギャップ)が発生する。しかしながら、従来の超音波送受信での遅延時間等の計算は、この端部振動素子ギャップが考慮されていない。従ってその分の誤差を発生させる要因ともなり、例えば図14に示すようなサイドローブSの原因となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平6−169921号公報
【特許文献2】特開平9−313487号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたもので、端部振動素子ギャップや端部振動素子の特性を考慮した超音波送受信を実行することで、従来に比して好適な音場特性を実現する超音波診断装置及び超音波送受信条件最適化プログラムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
一実施形態に係る超音波診断装置は、供給される駆動信号に基づいて超音波を発生し、発信した超音波に基づいてエコー信号を発生し、それぞれが複数の超音波振動素子を有する複数の超音波振動素子ブロックと、前記複数の超音波振動素子ブロック同士を接着する接着層と、を有する超音波プローブと、前記超音波の送受信を行うための送受信ユニットと、前記接着層を介して接着された前記超音波振動素子ブロックにおける各超音波振動素子の空間的位置に基づいて、各超音波振動素子の遅延時間を設定して、前記送受信ユニットを制御する制御ユニットと、を具備するものである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、本実施形態に係る超音波診断装置1のブロック構成図を示している。
【図2】図2は、従来の超音波診断装置における遅延時間・重み係数の計算手法を説明するための図である。
【図3】図3は、本遅延時間・重み係数最適化機能に係る遅延時間・重み係数の計算手法を説明するための図である。
【図4A】図4Aは、本遅延時間・重み係数最適化機能によって得られる効果の一例を説明するための図である。
【図4B】図4Bは、本遅延時間・重み係数最適化機能によって得られる効果の一例を説明するための図である。
【図5】図5は、超音波振動素子ブロックBL(n,m)を、接続層Dn、Dmを介して二次元マトリックス状に配列し接続した場合の例を説明するための図である。
【図6】図6は、遅延時間・重み係数最適化機能に従う超音波送受信において実行される各処理の流れを示したフローチャートである。
【図7】図7は、従来の(すなわち、端部振動素子ギャップを考慮しない)遅延時間及び重み係数を用いた超音波送受信によって得られるエコー信号のスペクトラム分布を示した図である。
【図8】図8は、従来の遅延時間及び重み係数を用いた超音波送受信において出現するサイドローブの分布を示した図である。
【図9】図9は、本遅延時間・重み係数最適化機能によって決定された遅延時間及び重み係数を用いた超音波送受信によって得られるエコー信号のスペクトラム分布を示した図である。
【図10】図10は、本遅延時間・重み係数最適化機能によって決定された遅延時間及び重み係数を用いた超音波送受信において出現するサイドローブの分布を示した図である。
【図11】図11は、超音波プローブの超音波振動素子配列を説明するための図である。
【図12】図12は、超音波プローブの超音波振動素子配列を説明するための図である。
【図13】図13は、超音波プローブの超音波振動素子配列を説明するための図である。
【図14】図14は、従来の超音波診断装置における課題を説明するための図であり、送信超音波のスペクトラム分布を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態を図面に従って説明する。なお、以下の説明において、略同一の機能及び構成を有する構成要素については、同一符号を付し、重複説明は必要な場合にのみ行う。
【0013】
図1は、本実施形態に係る超音波診断装置1のブロック構成図を示している。同図に示すように、本超音波診断装置1は、超音波プローブ10、記憶部30、入力部7、モニター25、装置本体50とから構成されている。
【0014】
超音波プローブ10は、超音波送受信部2からの駆動信号に基づき所定のタイミングで超音波を発生し、被検体からの反射波を電気する複数の超音波振動素子、当該超音波振動素子に設けられる整合層、当該超音波振動素子から後方への超音波の伝播を防止するバッキング材等を有している。当該超音波プローブ11から被検体Pに超音波が送信されると、当該送信超音波は、体内組織の音響インピーダンスの不連続面で次々と反射され、エコー信号として超音波プローブ11に受信される。このエコー信号の振幅は、反射することになった不連続面における音響インピーダンスの差に依存する。また、送信された超音波パルスが、移動している血流や心臓壁等の表面で反射された場合のエコーは、ドプラ効果により移動体の超音波送信方向の速度成分を依存して、周波数偏移を受ける。
【0015】
なお、本超音波プローブ10は、説明を具体的にするため、超音波振動素子が二次元マトリックス状に配列された(例えば、36素子×48素子=1728素子が配列された)二次元超音波プローブであるものとする。この様な超音波プローブ10は、例えばセラミックス系の圧電材料等からなる複数(例えば三つ)のブロックを切り出して複数の超音波振動素子(例えば12素子×48素子)を有する超音波振動素子ブロックBLを生成し、これら接着層を介して振動素子のアレイ方向に張り合わせることで生成される。
【0016】
記憶部30は、過去に撮影した画像、ネットワークや脱着式記憶媒体によって本装置に取り込まれた画像、所定の撮影シーケンスを実行するための専用プログラム等を記憶している。
【0017】
また、記憶部30は、端部振動素子ギャップを考慮した基準位置からの各超音波振動素子の空間的位置、当該各超音波振動素子の空間的位置に基づいて各超音波振動素子の遅延時間及び重み係数を取得するための情報(例えば、所定の計算式、対応テーブル等。以下、この情報を「遅延時間・重み係数取得情報」と呼ぶ。)を、プローブ毎に記憶する。さらに、記憶部30は、端部振動素子ギャップを考慮した各超音波振動素子の空間的位置に基づいて取得された、各超音波振動素子の遅延時間及び重み係数そのものを、必要に応じてプローブ毎に記憶する。
【0018】
入力部7は、超音波診断装置1の本体50に接続され、オペレータからの各種指示、条件、関心領域(ROI)の設定指示、種々の画質条件設定指示等を装置本体にとりこむための各種スイッチ、ボタン、トラックボール、マウス、キーボード等を有している。例えば、操作者が入力部7の所定のボタンを操作することで、後述する遅延時間・重み係数最適化処理やこれによって得られる結果の所定形態による表示が実行される。
【0019】
モニター25は、装置本体50からの受け取るビデオ信号に基づいて、生体内の形態学的情報や、血流情報を画像として表示する。このモニター25上に表示された画像等は、入力部7等からの所定の操作に応答して、装置本体50内の記憶部に記憶される。
【0020】
装置本体50は、超音波プローブ1から送信される超音波の送信制御を行う超音波送信部2、超音波プローブ1によって受信されたエコー信号に対して前処理を行う超音波受信部3、前処理が施されたエコー信号からハーモニック成分を検出するハーモニック検出部4、検出されたハーモニック成分に対して所定の信号処理を施し画像データを生成する信号処理部5、画像データに基づいて超音波画像を生成し表示する画像表示部8、制御回路(CPU)6を具備している。
【0021】
超音波送信部2は、レートパルス発生器11と、送信遅延回路12と、パルサ13を備えている。レートパルス発生器11は、被検体内に放射する超音波パルスの繰り返し周期(レート周期)を決定するレートパルスを発生して送信遅延回路12に供給する。次いで、送信遅延回路12は、送信に使用されに使用される超音波振動素子と同数のMチャンネルの独立な遅延回路から構成され、超音波パルスを所定の深さに集束するための集束用遅延時間と、超音波パルスを所定の方向に送信するための偏向用遅延時間を受信したレートパルスに与え、このレートパルスをパルサ13に供給する。又、パルサ13は、送信遅延回路12と同数のMチャンネルの独立な駆動回路を有している。各駆動回路が発生する駆動信号を超音波プローブ1に装備された超音波振動素子に印加することで各超音波振動素子が駆動され、被検体内に超音波パルスを放射する。
【0022】
なお、超音波送信遅延回路12は、後述する遅延時間・重み係数最適化処理によって最適化された集束用遅延時間及び偏向用遅延時間を合成し、レートパルスに遅延時間を与える。
【0023】
超音波受信部3は、プリアンプ14と、A/D変換器15と、ビームフォーマ16と、加算器28を備えている。プリアンプ14は、超音波振動素子によって電気的なエコー信号に変換された微小信号を増幅し、十分なS /Nを確保するように設計されており、このプリアンプ14において所定の大きさに増幅されたエコー信号の基本波成分及び高調波成分は、A/D変換器15にてデジタル信号に変換され、ビームフォーマ16に送られる。ビームフォーマ16は、所定の深さからの超音波反射波を集束するための集束用遅延時間と、超音波反射波の受信指向性を順次変更して被検体を走査するための偏向用遅延時間をデジタル信号に変換されたエコー信号に与え、加算器28は、これらビームフォーマ16からの出力を整相加算(所定の方向から得られたエコー信号を、位相を合わせて加算)する。
【0024】
なお、超音波受信部3のビームフォーマ16は、後述する遅延時間・重み係数最適化処理によって最適化された集束用遅延時間及び偏向用遅延時間の少なくとも一方を用いて、ビームフォーミングを行う。また、超音波受信部3の加算器28は、後述する遅延時間・重み係数最適化処理において、制御回路6からの制御信号に従って、加算処理を行う。
【0025】
ハーモニック抽出部4は、フェーズインバージョン法に関する処理を行うものであり、波形メモリ17と、加減算器18と、フィルタ回路19を備えている。波形メモリ17は、所定の方向における1回目の送受信によって得られるエコー信号を一旦記憶する。加減算器18は、前記所定の方向における2〜n回目(nは二以上の自然数。ここでは、n=4とする。)の送受信によって得られるエコー信号と、前記波形メモリ17に保存されているエコー信号を加算または減算する。一方、フィルタ回路19は、臓器の動きや体動などが原因で、フェーズインバージョン法では消去させることができなかった基本波成分を低減するフィルタである。
【0026】
信号処理部5は、包絡線検波器20と対数変換器21とパーシスタンス変換器22を備えており、包絡線検波器20は、入力されたデジタル信号に対して包絡線検波の演算を行ない、その包絡線を検出する。又、対数変換器21は、入力値を対数変換して出力するルックアップテーブルを備え、この対数変換器21においてエコー信号の振幅を対数変換して弱い信号を相対的に強調する。パーシスタンス変換器は、数フレーム分の走査線を一旦メモリに記憶しておき、輝度変化を平均化する処理を行う。
【0027】
画像表示部8は、表示用画像メモリ23と、変換回路24とを備えている。表示用画像メモリ23には、信号処理部5から供給される画像データと、この画像データに関連する文字や数字などの付帯データが合成されて一旦保存される。また、表示用画像メモリ23には、後述する通常モード画像と穿刺モード画像とを所定の形態にて合成された画像データが一旦保存される。保存された画像データと付帯データは、変換回路24においてD/A変換とテレビフォーマット変換が行なわれてCRTモニター25に表示される。
【0028】
制御回路6は、ユーザの入力部7から入力されたモード選択、送信開始・終了等の指示に基づき、記憶部30に記憶された送受信条件や専用プログラムを読み出し、これらに従って、各ユニットやシステム全体を静的又は動的に制御する。特に本実施の形態では、制御回路6は、後述する遅延時間・重み係数最適化機能を実現するための専用プログラムを記憶部30から読み出して所定のメモリ上に展開し、これに従って各ユニットの制御を実行する。
【0029】
(超音波送受信条件(遅延時間・重み係数)最適化機能)
次に、本超音波診断装置1が有する、遅延時間・重み係数最適化機能について説明する。この機能は、各超音波振動素子の空間的位置をプローブ毎に正確に把握し、これに基づいて計算された遅延時間・重み係数を用いて超音波送受信を実行し、端部振動素子ギャップの影響や端部振動素子の音響特性が考慮された好適な音場を実現するものである。
【0030】
なお、本機能によって最適化される遅延時間は、(送信時又は受信時に実行される)ビームフォーミングのための遅延パターンである。また、本機能によって最適化される重み係数とは、エコー信号の加算処理において用いる開口関数の重み係数を意味するものとする。
【0031】
また、本最適化機能は、当該機能を実現するハードウェア構成の他、当該機能に係る処理を実行するソフトウェアプログラムを既存の超音波診断装置、ワークステーション等のコンピュータにインストールし、これらをメモリ上で展開することによっても実現することができる。このとき、コンピュータに当該手法を実行させることのできるプログラムは、磁気ディスク(フロッピー(登録商標)ディスク、ハードディスクなど)、光ディスク(CD−ROM、DVDなど)、半導体メモリなどの記録媒体に格納して頒布することも可能である。
【0032】
図2は、従来の遅延時間・重み係数の計算手法を説明するための図である。図2に示すように、従来の手法では、超音波振動素子列を、超音波振動素子ブロック同士を接続する接続層に起因する端部振動素子ギャップが存在しない理想的な構造と仮定し、例えば基準位置Oを原点とする座標軸を設定し、これと各素子の幅、配列ピッチ等とに基づいて各素子の空間的位置x(n)(nは振動素子番号)を定義する。また、遅延時間及び重み係数は、それぞれ上記理想的な構造を基準として定義された所定の計算式T(x(n))、W(x(n))によって決定される。
【0033】
しかしながら、現実の超音波振動素子列は、超音波振動素子ブロック同士を接続する接続層に起因する端部振動素子ギャップが存在し、各素子の位置も端部振動素子ギャップの影響を受ける(図3参照)。そのため、従来の手法によって定義される各素子の空間的位置x(n)は正確なものではなく、従って、当該位置x(n)と所定の計算式T(x(n))、W(x(n))とを用いて決定される遅延時間及び重み係数も、端部振動素子ギャップに起因する誤差を含み、偏向角度の精度低下や多くのサイドローブ等を含む音場を発生させる原因となる。
【0034】
そこで、本遅延時間・重み係数最適化機能は、各超音波振動素子の空間的位置をプローブ毎に正確に把握し、これに基づいて計算された振動素子毎の遅延時間・重み係数を用いて超音波送受信を実行する。
【0035】
図3は、本機能に係る遅延時間・重み係数の計算手法を説明するための図である。本機能では、例えば基準位置Oを原点とする座標軸を設定し、端部振動素子ギャップを考慮して各素子の空間的位置x′(n)を定義する。また、遅延時間及び重み係数を、それぞれ端部振動素子ギャップを考慮して定義された所定の計算式T(x′(n))、W(x′(n))によって決定する。
【0036】
すなわち、まず各超音波ブロックBL1、BL2、BL3のそれぞれの基準位置(図3に示す例では、中心位置C1、C2、C3)を測定する。次に、各超音波ブロックにおいて、各中心位置からの距離に従って、各超音波素子の空間的位置x′(n)を決定する。このとき、各超音波ブロックの各中心位置C1、C2、C3の測定において接続層D1、D2の厚さが考慮されるため、各超音波振動素子の空間的位置x′(n)を正確に把握することができる。
【0037】
また、遅延時間及び重み係数は、各超音波振動素子の空間的位置に基づいて正確に定義される。そのため、送受信遅延時間を例にとれば、端部振動素子ギャップを考慮しない従来の偏向遅延パターンPとこれに従うビームBとが例えば図4Aに示すような場合、本機能により、偏向遅延パターンP′とこれに従うビームB′を図4Bに示すように修正することができる。その結果、端部振動素子ギャップに起因する誤差を排除することができ、偏向角度の精度向上、及びサイドローブ等が少ない好適な音場を実現することができる。
【0038】
なお、本実施形態においては、説明の便宜上、遅延時間及び重み係数を所定の計算式T(x(n))、W(x(n))、T(x′(n))、W(x′(n))によって定義する構成とした。しかしながら、これに拘泥されず、端部振動素子ギャップを考慮した正確な空間的位置に基づいて各超音波振動素子を識別し、識別された素子毎に遅延時間及び重み係数を定義するものであれば、本発明の技術的思想は適用可能である。従って、例えば、端部振動素子ギャップを考慮した各素子の空間的位置と遅延時間又は重み係数とを対応付けるテーブルを用いて、各振動素子の遅延時間又は重み係数を求めるようにしてもよい。
【0039】
また、各超音波ブロックBLn(ただし、nは自然数)における基準位置は、その中心位置Cnに拘泥されない。すなわち、当該基準位置は、接続層Dnの厚さを考慮して各超音波ブロックの各素子の位置を決定し得るものであれば、どの様な位置であってもよい。
【0040】
さらに、本実施形態においては、超音波ブロックBLnを、接続層Dnを介して一次元的に(アレイ方向に)接続する場合を例とした。しかしながら、これに拘泥されず、本手法は、例えば図5に示すように、超音波ブロックBL(n,m)(ただし、n,mは共に自然数)を、接続層Dn、Dmを介して二次元的に接続する場合にも適用することができる。係る場合には、各超音波ブロックBL(1、1)、・・・・、BL(n,m)のそれぞれの中心位置C(1、1)、・・・・、C(n,m)を測定する。次に、各超音波ブロックにおいて、各中心位置からの距離に従って、各超音波素子の空間的位置x′(n,m)を決定する。このとき、各超音波ブロックの中心位置C(n,m)の測定において接続層Dn、Dmの厚さが考慮されるため、各超音波振動素子の空間的位置x′(n,m)を正確に把握することができる。
【0041】
(各超音波振動素子の位置の測定)
上記端部振動素子ギャップを考慮した遅延時間・重み係数の計算は、各超音波振動素子の空間的位置に基づいて、所定の計算式や法則等に従って実行される。このとき使用される各超音波振動素子の位置は、例えば次の実施例1乃至実施例3のいずれかの方法によって測定することができる。
【0042】
(実施例1)
超音波振動素子ブロックの製造ロット毎に、音響レンズ等を接着する前に、顕微鏡等を用いてアレイ形状を測定し、超音波振動素子ブロック間隔のオフセット値とばらつきを求め統計量として算出する。得られたオフセット値に基づいて、システムのソフトウェアを用いて所定の補正を施し、製造ロット毎に統一的な各超音波振動素子の空間的位置を得る。この手法によれば、比較的簡単に端部振動素子ギャップの影響を考慮した各超音波振動素子の空間的位置を取得することができる。
【0043】
(実施例2)
製造したレンズ接着前の超音波プローブ毎にアレイ形状(超音波振動素子ブロック間隔等)を測定する。測定された値を予め当該超音波診断装置1に組み込まれた所定の補正テーブルに測定値を入力し、個々のプローブ情報を用いて、プローブ毎に補正を行う。この手法によれば、実施例1に係る手法に比してより正確に、且つ実施例3に係る手法に比して簡単に端部振動素子ギャップの影響を考慮した各超音波振動素子の空間的位置を取得することができる。
【0044】
(実施例3)
製造した各プローブを水槽に入れ音場を測定し、偏向角やサイドローブが規定値に入るまで、パラメータを操作して最適化し、予め装置に組み込まれた所定の補正テーブルに最適値を入力し、プローブの個々において補正を行う。例えば、超音波振動素子ブロック間の接着層に起因するサイドローブは、ある傾向をもった形状となる。このような傾向が軽減されるように最適値を入力することによって、端部振動素子ギャップの影響を補正する。この手法によれば、実施例1、2に係る各手法に比してより正確に各超音波振動素子の空間的位置を取得することができる。
【0045】
(アポダイゼーション)
超音波ブロックBLnを接着層Dnを介して張り合わせる構成を有する超音波プローブ10では、接着層と接着される端部振動素子の音響特性が問題となる。本超音波診断装置では、端部振動素子のエコー信号を減衰させる重み付け係数を設定し、これを用いて加算処理を行うことで、端部振動素子の音響特性に起因するサイドローブを低減させる(アポダイゼーション)。
【0046】
また、受信時の信号のみではなく、送信時の信号についてもアポダイゼーションを実施するようにしてもよい。すなわち、送信超音波がより小さくなるような重みで送信電圧を設定し、端部振動素子に供給するようにする。これにより、端部振動素子の音響特性に起因するサイドローブが低減されたビームを送信することができる。
【0047】
(動作)
次に、本超音波診断装置1の遅延時間・重み係数最適化機能に従う超音波送受信について説明する。
【0048】
図6は、遅延時間・重み係数最適化機能に従う超音波送受信において実行される各処理の流れを示したフローチャートである。同図に示すように、まず、撮影に用いる超音波プローブ10が装置本体50に接続されると、制御回路6は、接続された超音波プローブ10のIDを認識し(ステップS1)、当該超音波プローブの各超音波振動素子の遅延時間及び重み係数(すなわち、端部振動素子ギャップを考慮したT(x′(n))、W(x′(n)))を記憶部30から取得する(ステップS2)。また、端部振動素子については、その音響特性に起因するサイドローブを低減させるように、重み係数が決定される。
【0049】
なお、この遅延時間及び重み係数は、記憶部30に記憶された当該超音波プローブの各超音波振動素子の空間的位置情報、及び遅延時間・重み係数取得情報を用いて事前に計算される。しかしながら、これに拘泥されず、例えば超音波プローブが装置本体50に接続される度に、記憶部30に記憶された当該超音波プローブの各超音波振動素子の空間的位置情報、及び遅延時間・重み係数取得情報を用いて計算するようにしてもよい。
【0050】
次に、取得した遅延時間・重み係数情報に基づいて超音波送受信を行い(ステップS3)、取得したエコー信号に基づいて超音波画像を生成しこれを所定の形態によって表示する(ステップS4)。
【0051】
以上述べた構成によれば、以下の効果を得ることができる。
【0052】
本超音波診断装置によれば、端部振動素子ギャップを考慮して各超音波振動素子の位置を正確に特定し、これに基づいて超音波送受信における各振動素子の遅延時間・重み係数を決定する。例えば、各超音波ブロックのそれぞれの基準位置を測定し、各基準位置からの距離に従って、各超音波素子の空間的位置x′(n)を決定する。従って、各超音波ブロックの位置に応じた遅延時間及び重み係数を決定するため、端部振動素子ギャップを無視した条件で遅延時間・重み係数を決定する従来に比して、接着層の厚さを考慮した正確な遅延時間・重み係数を決定することができる。すなわち、遅延時間は、端部振動素子ギャップの距離に対応する時間だけ補正される。また、例えば正確な空間的位置に基づいて端部振動素子を特定し、その感度劣化に応じた重み係数を選択する等、各振動素子の特性に合致した重み係数を設定することができる。その結果、従来に比して偏向角度の精度が高く、サイドローブ等が少ない好適な音場を実現することができる。
【0053】
図7は、従来の(すなわち、端部振動素子ギャップを考慮しない手法にて決定された)遅延時間及び重み係数を用いた超音波送受信によって得られるエコー信号のスペクトラム分布を示した図である。また、図8は、従来の遅延時間及び重み係数を用いた超音波送受信において出現するサイドローブの分布を示した図である。
【0054】
一方、図9は、本遅延時間・重み係数最適化機能によって決定された遅延時間及び重み係数を用いた超音波送受信によって得られるエコー信号のスペクトラム分布を示した図である。また、図10は、本遅延時間・重み係数最適化機能によって決定された遅延時間及び重み係数を用いた超音波送受信において出現するサイドローブの分布を示した図である。
【0055】
図7と図9とを比較すると、サイドローブSに比してサイドローブS′の大きさが小さくなっているのがわかる。また、図8と図10とを比較すると、本装置において実行される超音波送受信では、サイドローブの出現がより抑制され、分解能が向上しているのがわかる。さらに、サイドローブ低減効果以外に、メインローブが端部振動素子ギャップの影で実際より内側になっていたのが改善される。
【0056】
また、本実施形態によれは、接着層に接着される端部振動素子に関するアポダイゼーションを送信時及び受信時の少なくとも一方で実行することにより、当該端部振動素子の音響特性に起因するサイドローブを低減させている。その結果、送信時及び受信時において、より理想的なビーム形成を実現することができる。
【0057】
さらに、本実施形態によれは、本遅延時間・重み係数最適化機能を実現するプログラム、及び端部振動素子ギャップを考慮した各超音波振動素子の空間的位置を既存の装置にインストールし、これを起動させることで、遅延時間・重み係数最適化機能を実現することができる。従って、比較的低コスト且つ簡便に実現することが可能である。
【0058】
なお、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。具体的な変形例としては、例えば次のようなものがある。
【0059】
(1)上記実施形態においては、超音波診断装置における遅延時間・重み係数の最適化を例に説明した。しかしながら、本発明の技術的思想は、超音波送信及び超音波受信の少なくとも一方を行うものであれば、適用することが可能である。従って、超音波診断装置に拘泥されず、超音波治療装置、超音波検査装置等においても、利用することが可能である。
【0060】
(2)上記実施形態においては、説明を具体的にするため、複数の超音波振動素子がマトリックス状に配列された二次元超音波プローブを例として説明した。しかしながら、これに拘泥されず、超音波振動素子ブロック同士を接続層によって接続させた構造を有する超音波プローブであれば、本発明の技術的思想は適用可能である。従って、当該構造を有するものであれば、1次元アレイプローブ、1.5次元アレイプローブ等であってもよい。
【0061】
また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0062】
1…超音波診断装置、7…入力部、6…制御回路、10…超音波プローブ、11…レートパルス発生器、12…送信遅延回路、13…パルサ、14…プリアンプ、15…A/D変換器、16…ビームフォーマ、28…加算器、17…波形メモリ、18…加減算器、19…フィルタ回路、20…包絡線検波器、21…対数変換器、22…パーシスタンス変換器、23…表示用画像メモリ、24…変換回路、25…モニター、30…記憶部、50…装置本体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
供給される駆動信号に基づいて超音波を発生し、発信した超音波に基づいてエコー信号を発生し、それぞれが複数の超音波振動素子を有する複数の超音波振動素子ブロックと、前記複数の超音波振動素子ブロック同士を接着する接着層と、を有する超音波プローブと、
前記超音波の送受信を行うための送受信ユニットと、
前記接着層を介して接着された前記超音波振動素子ブロックにおける各超音波振動素子の空間的位置に基づいて、各超音波振動素子の遅延時間を設定して、前記送受信ユニットを制御する制御ユニットと、
を具備することを特徴とする超音波診断装置。
【請求項2】
前記制御ユニットは、前記接着層を介在させて隣接する前記超音波振動素子間の前記遅延時間の変化が、前記接着層を介在させないで隣接する前記超音波振動素子間の前記遅延時間の変化に比して大きくなるように前記各超音波振動素子の遅延時間を設定して、前記送受信ユニットを制御することを特徴とする請求項1記載の超音波診断装置。
【請求項3】
前記制御ユニットは、超音波送信における前記超音波振動素子毎の遅延時間、及び超音波受信における前記超音波振動素子毎の遅延時間のうちの少なくとも一つを、前記各超音波振動素子ブロックの位置に応じて決定することを特徴とする請求項1又は2記載の超音波診断装置。
【請求項4】
前記制御ユニットは、前記各超音波振動素子の遅延時間を、前記超音波振動素子毎の位置を用いる所定の計算により決定することを特徴とする請求項1又は2記載の超音波診断装置。
【請求項5】
前記制御ユニットは、前記各超音波振動素子の遅延時間を、前記超音波振動素子毎の位置と各遅延時間とを対応付けたテーブルを用いて決定することを特徴とする請求項1又は2記載の超音波診断装置。
【請求項6】
前記超音波プローブは、超音波振動素子がマトリックス状に配列された二次元アレイプローブ又は1.5次元アレイプローブであることを特徴とする請求項1乃至5のうちいずれか一項記載の超音波診断装置。
【請求項7】
前記複数の超音波振動素子ブロックは所定の方向に沿ってアレイ状に配列されており、
前記複数の接着層は、前記所定の方向に沿って隣り合う前記超音波振動素子同士を接着すること、
を特徴とする請求項1乃至6のうちいずれか一項記載の超音波診断装置。
【請求項8】
前記複数の超音波振動素子ブロックは第1の方向及び第2の方向に沿ってマトリックス状に配列されており、
前記複数の接着層は、前記第1の方向に沿って隣り合う前記超音波振動素子同士、及び第2の方向に沿って隣り合う前記超音波振動素子同士を接着すること、
を特徴とする請求項1乃至7のうちいずれか一項記載の超音波診断装置。
【請求項9】
前記各超音波振動素子ブロックにおける前記複数の超音波振動素子の配列方向と、前記接着層を介して配列された前記複数の超音波振動素子ブロックの配列方向とは同一であり、
前記接着層の厚さに起因する前記超音波振動素子ブロック間のギャップは、前記各超音波振動素子ブロックにおける前記超音波振動素子の間隔よりも大きいこと、
を特徴とする請求項1乃至8のうちいずれか一項記載の超音波診断装置。
【請求項10】
コンピュータ機能を有する超音波診断装置に、供給される駆動信号に基づいて超音波を発生し、発信した超音波に基づいてエコー信号を発生し、それぞれが複数の超音波振動素子を有する複数の超音波振動素子ブロックと、前記複数の超音波振動素子ブロック同士を接着する接着層と、を有する超音波プローブを用いる超音波送受信における条件適正化を実行させるためのプログラムであって、
前記超音波診断装置に、
超音波の送受信を実行させる送受信機能と、
前記接着層を介して接着された前記超音波振動素子ブロックにおける各超音波振動素子の空間的位置に基づいて、各超音波振動素子の遅延時間を設定させ、前記送受信ユニットを制御させる制御機能と、
を実現させることを特徴とする超音波送受信条件適正化プログラム。
【請求項11】
前記各超音波振動素子ブロックにおける前記複数の超音波振動素子の配列方向と、前記接着層を介して配列された前記複数の超音波振動素子ブロックの配列方向とは同一であり、
前記接着層の厚さに起因する前記超音波振動素子ブロック間のギャップは、前記各超音波振動素子ブロックにおける前記超音波振動素子の間隔よりも大きいこと、
を特徴とする請求項10記載の超音波送受信条件適正化プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2013−13759(P2013−13759A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−204910(P2012−204910)
【出願日】平成24年9月18日(2012.9.18)
【分割の表示】特願2006−166016(P2006−166016)の分割
【原出願日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(594164542)東芝メディカルシステムズ株式会社 (4,066)
【Fターム(参考)】