説明

超音波診断装置

【課題】過渡応答を低減させることで、従来に比してリアルタイム性が高くノイズ発生も少ないCWD/B同時モードを実現可能な超音波診断装置を提供すること。
【解決手段】連続波送受信して時系列のドプラデータを収集する連続波ドプラモードと、パルス波を送受信して輝度による断層画像データを収集するBモードと、を交互に実行する撮像モードを実施可能な超音波診断装置において、前記連続波ドプラモードと前記Bモードとを切換ながら実行し、前記ドプラデータと前記断層画像データとを取得するデータ取得手段と、前記連続波ドプラモードと前記Bモードとの間の切り換えに起因して発生する過渡応答スペクトラムを計算する計算手段と、前記計算された過渡応答スペクトラムを、前記ドプラデータから減算する減算手段と、前記減算されたドプラデータを用いて、ドプラスペクトラム情報を生成する生成手段と、前記生成されたドプラスペクトラム情報を所定の形態で表示する表示手段と、を具備することを特徴とする超音波診断装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、循環器診断において、連続波ドプラ(Continuous Wave Dopplar:CWD)によるドプラスペクトラムの撮像とBモードによる断層画像の撮像とを同時に表示するCWD/B同時モードを実行可能な超音波診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波画像診断は、超音波プローブを体表から当てるだけの簡単な操作で心臓の拍動や胎児の動きの様子がリアルタイム表示で得られ、かつ安全性が高いため繰り返して検査が行えるほか、システムの規模がX線、CT、MRIなど他の診断機器に比べて小さく、ベッドサイドへ移動していっての検査も容易に行えるなど簡便である。また、超音波診断はX線などのように被曝の影響がなく、産科や在宅医療等においても使用することができる。
【0003】
近年、循環器診断において、この様な超音波診断装置を用いて、PWD(パルス波ドプラ)/B同時モードと呼ばれる画像診断が実行される。このPWD/B同時モードは、連続波ドプラによるドプラスペクトラムの撮像とBモードによる断層画像の撮像とを所定のタイミングで実行し、同時にリアルタイム表示するものである。このPWD/B同時モードには、インターリーブスキャンと呼ばれる撮像法と、セグメントスキャンと呼ばれる撮像法とがある。インターリーブスキャンとは、例えば4回のドプラスキャン実行に対して1回のBモードスキャンを実行し、これを繰り返すものである。一方、セグメントスキャンとは、ドプラモードで送受信を所定回数繰り返す期間(ドプラセグメント期間)とBモードで送受信を所定回数繰り返す期間(非ドプラセグメント期間)とを交互に繰り返し実行するものである。
【0004】
しかしながら、CWD/B同時モードでは、PWDを用いる場合と異なり、連続波の切替が必要となるため、例えばドプラモードによってリアルタイム表示する期間においては、Bモード画像はフリーズ表示となる。このため、現実には、CWD/B同時モードにおけるドプラスペクトラムとBモード画像とのリアルタイム性を同時に得ることは、臨床的に望まれているにも関わらず、実現困難である。
【0005】
このCWD/B同時モードのリアルタイム性向上を実現するためには、例えば以下の2つの解決すべき問題点がある。一つは、連続STFT解析を断続的にする際の欠落問題である。例えば、Bモード画像においては、1フレーム50ms程度の大きな欠落が生じることになる。この欠落に対し、例えば最大16ms程度の欠落補間を行ったとしても、画像劣化の問題が発生することになる。もう一つは、Bモードスキャンとドプラモードスキャンとを瞬時に切り換える必要があることに起因する、強力な過渡応答(30ms〜100ms)問題である。この過渡応答は、例えばドプラスペクトラムにスパイク状ノイズ等を発生させ、画質の低下を招いている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−149370号公報
【特許文献2】米国特許第4,559,952号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一方の問題点である連続STFT解析を断続的にする際の欠落問題については、例えば特許文献1に記載されている、ECG波形を外部確定入力としたARXモデルによるスペクトラム欠落補間技術で対応することができる。しかしながら、他方の過渡応答問題については、何ら対応手段が存在していない。
【0008】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたもので、過渡応答を低減させることで、従来に比してリアルタイム性が高くノイズ発生も少ないCWD/B同時モードを実現可能な超音波診断装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記目的を達成するため、次のような手段を講じている。
【0010】
請求項1に記載の発明は、被検体に対して連続波送受信して時系列のドプラデータを収集する連続波ドプラモードと、前記被検体に対してパルス波を送受信して輝度による断層画像データを収集するBモードと、を交互に実行する撮像モードを実施可能な超音波診断装置において、前記連続波ドプラモードと前記Bモードとを切り換えながら交互に実行し、連続波ドプラデータと前記断層画像データとを取得するデータ取得手段と、前記連続波ドプラモードと前記Bモードとの間の切り換えに起因して発生する過渡応答成分を計算する計算手段と、前記計算された過渡応答成分を、前記連続波ドプラデータから減算する減算手段と、前記減算された連続波ドプラデータを用いて、ドプラスペクトラム情報を生成する生成手段と、前記生成されたドプラスペクトラム情報を所定の形態で表示する表示手段と、を具備することを特徴とする超音波診断装置である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、本実施形態に係る超音波診断装置1のブロック構成図を示している。
【図2】図2は、ドプラモード処理ユニット24において設けられ、欠落補間機能及び過渡応答低減機能を実現するための構成の一例を示した図である。
【図3】図3は、過渡応答低減処理におけるドプラ処理ユニット24の動作を説明するための図である。
【図4】図4は、過渡応答低減処理の実行タイミングを説明するための図である。
【図5】図5は、過渡応答低減処理と等価なフィルタ処理を説明するための図である。
【図6】図6は、過渡応答を説明するための図である。
【図7】図7は、ウォールフィルタが作用した時の過渡応答スペクトラムの一例を示した図である。
【図8】図8は、ウォールフィルタが作用しない時の過渡応答スペクトラムの一例を示した図である。
【図9】図9は、補間処理ユニット24mにおいて実行される欠落補間処理の概念を説明するための図である。
【図10】図10(a)、(b)、(c)は、欠落補間処理の効果を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態を図面に従って説明する。なお、以下の説明において、略同一の機能及び構成を有する構成要素については、同一符号を付し、重複説明は必要な場合にのみ行う。
【0013】
(第1の実施形態)
図1は、本実施形態に係る超音波診断装置1のブロック構成図を示している。同図に示すように、本超音波診断装置10は、超音波プローブ12、入力装置13、モニター14、超音波送信ユニット21、超音波受信ユニット22、Bモード処理ユニット23、ドプラ処理ユニット24、画像生成ユニット25、画像メモリ26、画像合成ユニット27、制御プロセッサ(CPU)28、記憶ユニット29、インターフェースユニット30、ソフトウェア格納ユニット31を具備している。装置本体11に内蔵される超音波送信ユニット21、受信ユニット22等は、集積回路などのハードウェアで構成されることもあるが、ソフトウェア的にモジュール化されたソフトウェアプログラムである場合もある。以下、個々の構成要素の機能について説明する。
【0014】
超音波プローブ12は、超音波送信ユニット21からの駆動信号に基づき超音波を発生し、被検体からの反射波を電気信号に変換する複数の圧電振動子、当該圧電振動子に設けられる整合層、当該圧電振動子から後方への超音波の伝播を防止するバッキング材等を有している。当該超音波プローブ12から被検体Pに超音波が送信されると、当該送信超音波は、体内組織の音響インピーダンスの不連続面で次々と反射され、エコー信号として超音波プローブ12に受信される。このエコー信号の振幅は、反射することになった反射することになった不連続面における音響インピーダンスの差に依存する。また、送信された超音波パルスが、移動している血流や心臓壁等の表面で反射された場合のエコーは、ドプラ効果により移動体の超音波送信方向の速度成分を依存して、周波数偏移を受けたものとなる。
【0015】
入力装置13は、装置本体11に接続され、オペレータからの各種指示、条件、関心領域(ROI)の設定指示、種々の画質条件設定指示等を装置本体11にとりこむためのトラックボール、各種スイッチ、ボタン、マウス、キーボード等を有している。
【0016】
モニター14は、画像合成ユニット27らのビデオ信号に基づいて、生体内の形態学的情報や、血流情報を画像として表示する。
【0017】
超音波送信ユニット21は、図示しないトリガ発生回路、遅延回路およびパルサ回路等を有している。パルサ回路では、所定のレート周波数fr Hz(周期;1/fr秒)で、送信超音波を形成するためのレートパルスが繰り返し発生される。また、遅延回路では、チャンネル毎に超音波をビーム状に集束し且つ送信指向性を決定するのに必要な遅延時間が、各レートパルスに与えられる。この遅延情報を変化させることで、プローブ振動子面からの送信方向を任意に調整することが可能となる。トリガ発生回路は、このレートパルスに基づくタイミングで、プローブ12に駆動パルスを印加する。
【0018】
超音波受信ユニット22は、図示していないアンプ回路、A/D変換器、加算器等を有している。アンプ回路では、プローブ12を介して取り込まれたエコー信号をチャンネル毎に増幅する。A/D変換器では、増幅されたエコー信号に対し受信指向性を決定するのに必要な遅延時間を与え、その後加算器において加算処理を行う。この加算により、エコー信号の受信指向性に応じた方向からの反射成分が強調され、受信指向性と送信指向性とにより超音波送受信の総合的なビームが形成される。
【0019】
Bモード処理ユニット23は、超音波受信ユニット22からエコー信号を受け取り、対数増幅、包絡線検波処理などを施し、信号強度が輝度の明るさで表現されるデータを生成する。このとき検波周波数を変化させることで、映像化する周波数帯域を変えることができる。また一つの受信データに対して、2つの検波周波数による検波処理を並列に行うことも可能な構成である。それを利用すると一つの受信信号からバブル像と組織像を生成することも可能となる。本Bモード処理ユニット23において処理を受けたデータは、画像生成ユニット25に出力され、反射波の強度を輝度にて表したBモード画像として再構成される。
【0020】
ドプラ処理ユニット24は、送受信ユニット22から受け取ったエコー信号から速度情報を周波数解析し、ドプラ効果による血流や組織、造影剤エコー成分を抽出し、平均速度、分散、パワー等の血流情報を多点について求める。得られた血流情報は画像生成ユニット25に送られ、平均速度画像、分散画像、パワー画像、これらの組み合わせ画像としてモニター14にカラー表示することができる。
【0021】
また、ドプラ処理ユニット24は、後述する欠落補間機能及び過渡応答低減機能を実現するための構成として、図2に示すように、ウォールフィルタ24b、窓関数処理ユニット24c、フーリエ変換ユニット24d、バンドパスフィルタ24f、パワー推定ユニット24g、バイアスパターン値計算ユニット24h、ダイナミックポストフィルタ2Dテーブル24i、時間読出ユニット24j、積算器24k、差分処理ユニット24l、補間処理ユニット24m、対数圧縮ユニット24nを有している。各構成要素において実行される処理の詳細については、後で詳しく説明する。
【0022】
画像生成ユニット25は、超音波スキャンの走査線信号列を、テレビなどに代表される一般的なビデオフォーマットの走査線信号列に変換し、表示画像としての超音波診断画像を生成する。画像生成ユニット24は、画像データを格納する記憶メモリを搭載しており、例えば診断の後に操作者が検査中に記録された画像を呼び出すことが可能となっている。また、画像生成ユニット25は、画像処理装置としての機能を持ち、例えばボリュームデータを構築する場合、三次元領域或いは連続する二次元領域を超音波走査することで得られる走査線信号列を空間的に配置し、座標変換、補間処理等を必要に応じて実行することで、ボリュームデータを構築する。画像生成ユニット25は、得られたボリュームデータを用いてボリュームレンダリング、ボリュームデータ内の任意の断層像を切り出しによるMPR処理等を実行し、所定の三次元画像を生成する。なお、本画像生成ユニット25における各種画像処理法等は、ソフトウェア的手法或いはハードウェア的手法のいずれであっても構わない。
【0023】
画像メモリ26は、複数フレーム或いは複数ボリューム分の超音波データを一時的に記憶する。
【0024】
画像合成ユニット27は、画像生成ユニット25から受け取った画像を種々のパラメータの文字情報や目盛等と共に合成し、ビデオ信号としてモニター14に出力する。
【0025】
制御プロセッサ(CPU)28は、情報処理装置(計算機)としての機能を持ち、本超音波診断装置本体の動作を制御する。制御プロセッサ28は、記憶ユニット29から各種画像処理法を実現するためのプログラム、後述する過渡応答低減機能及び欠落補間機能を実現するためのプログラムを読み出して図示していないメモリ上に展開し、各種処理に関する演算・制御等を実行する。
【0026】
記憶ユニット29は、各種スキャンシーケンスを実行するためのプログラム、後述する過渡応答低減機能及び欠落補間機能を実現するための専用プログラム、画像生成、表示処理を実行するための制御プログラム、診断情報(患者ID、医師の所見等)、診断プロトコル、送受信条件、ボディマーク生成プログラムその他のデータ群が格納されている。また、必要に応じて、画像メモリ26中の画像の格納などにも使用される。記憶ユニット29のデータは、インターフェースユニット30を経由して外部周辺装置へ転送することも可能となっている。
【0027】
インターフェースユニット30は、入力装置13、ネットワーク、新たな外部記憶装置(図示せず)に関するインターフェースである。当該装置によって得られた超音波画像等のデータや解析結果等は、インターフェースユニット30よって、ネットワークを介して他の装置に転送可能である。
【0028】
(過渡応答低減機能及び欠落補間機能)
次に、本超音波診断装置1が有する、CWD/B同時モードに従う撮像において用いられる過渡応答低減機能及び欠落補間機能について説明する。過渡応答低減機能とは、CWD/B同時モードに従う撮像において、ドプラモードとBモードとの切換による断続的な送受信によって混入するノイズ(例えば、アナログスイッチによる直流成分(DC)変動等)に励起され発生する過渡応答の応答スペクトラム(時間域と周波数域の二次元)を推定計算し、周波数解析結果から減算することで、過渡応答に起因するノイズを低減させるものである。また、欠落補間機能とは、CWD/B同時モードに従う撮像において、ECG(electrocardiogram)波形に代表される生体信号を外部確定入力とするパラメトリックモデルによりシステムを同定し、当該同定されたシステムを用いて連続STFT解析を断続的に行う際の欠落ペクトラムを予測し補間する機能である。
【0029】
なお、CWD/B同時モードを行う超音波診断装置において、この様な欠落補間機能及び過渡応答低減機能の双方が実装されることが好ましいのは、言うまでもない。しかしながら、必要に応じて、欠落補間機能又は過渡応答低減機能を選択的に実装したり、選択的に動作せることも、もちろん可能である。また、欠落補間機能及び過渡応答低減機能を適用するCWD/B同時モードは、インターリーブスキャン及びセグメントスキャンのいずれであってもよい。
【0030】
(過渡応答低減処理)
図3は、過渡応答低減機能に従う処理(過渡応答低減処理)におけるドプラ処理ユニット24の動作を説明するための図である。図2、図3に示すように、ウォールフィルタ24fは、前段末尾の処理ユニットから、I信号、Q信号を受け取ると、各信号につき、所定の帯域のみを通過させるフィルタ処理を実行する。パワー推定ユニット24gは、フィルタ処理後のI信号、Q信号に基づいて、ドプラ信号のパワーを推定する。バイアスパターン値計算ユニット24hは、推定されたパワーに基づいて、Bセグメントからドプラセグメントに切り換えた際のバイアスパターン(過渡応答で発生するSTFTのレスポンス)を計算する。なお、このときの計算手法には、特に限定はない。
【0031】
また、ダイナミックポストフィルタ二次元テーブル24iは、制御プロセッサ28からのBモード/CWDモード切替タイミング信号に応答して、正負対称形でありパワーディメンジョンを有する簡易フィルタを動的に選択する。時間読出ユニット24jは、選択された簡易フィルタに対して、Bモード/CWDモード切替タイミングに応じた所定の時間遅延を与える。
【0032】
積算器24kは、バイアスパターン値計算ユニット24hにおいて計算されたバイアスパターンに時間読出ユニット24jから出力されたポストフィルタを積算することで、過渡応答の応答スペクトラム成分を推定する。差分処理ユニット24lは、フーリエ変換ユニット24dから出力されたスペクトラム成分から推定された過渡応答の応答スペクトラム成分を差し引くことで、過渡応答に起因するノイズ成分(オフセット値)を低減させる。
【0033】
以上の様な過渡応答低減処理は、CWD/B同時モード撮像において、図4に示す様に、Bセグメントからドプラセグメントへの各切替毎に発生する固有の過渡応答成分に順応して実行される。従って、差分処理ユニット24lにおけるCWDモードによって検出された(bareな)スペクトラム成分から推定された過渡応答の応答スペクトラム成分を差し引く減算処理は、図5に示すように、アダプティブなフィルタ処理を行うことと実質的に等価である。
【0034】
以上述べた過渡応答低減処理により、受信したドプラ信号の直流成分の変動により例えば図6に示すような過渡応答が発生する場合においても、BモードからCWDモードの切替に起因する過渡応答の影響を低減させることができる。図7に示すスペクトラムの時間変化を重ねて表示したものは、ウォールフィルタ処理後の応答を表している。一方、図8に示すスペクトラムの時間変化を重ねて表示したものは、ウォールフィルタ処理なしの応答を表している。この図7の様に、過渡応答からウォールフィルタの影響を推定した補正が後段の差分処理ユニットで実現可能となる。
【0035】
(欠落補間処理)
図9は、補間処理ユニット24mにおいて実行される欠落補間機能に従う処理(欠落補間処理)の概念を説明するための図である。補間処理ユニット24mは、同図に示すように、外部入力であるECG波形と、推定された過渡応答の応答スペクトラム成分が減算されたスペクトラム成分とを入力として、所定の数学的モデル(パラメトリックモデル)を用いてシステムを特徴付けるパラメータ群及び信号予測計算式EVPsi(n)を同定する。そして、同定された信号予測計算式EVPsi(n)を用いて、欠落した信号を推定(計算)し補間する。
【0036】
図10(a)、(b)、(c)は、欠落補間処理の効果を説明するための図である。以上述べた欠落補間処理により、例えば図10(a)に示すような欠落のあるスペクトラムに対して、図10(b)に示すような推定された欠落信号を補間することで、図10(c)に示すような欠落部分が補間されたドプラスペクトラムを取得することができる。
【0037】
なお、この様な欠落補間処理については、例えば特開2001−149370号公報に詳しい。また、パラメトリックモデルとしては、例えばAR(Auto Regressive)モデル、ARX(Auto Regressive Exogeneous)モデル、ARMAX(Auto Regressive Moving Average Exogeneous)モデル、FIR(Finite Impulse Response)モデル、ARARXモデル、ARARMAXモデル、BJ(Box and Jenkins)モデル等を採用することができる。
【0038】
また、補間処理ユニット24mは、差分処理ユニット24lから受け取った複数セグメントに対応するスペクトラム成分を、一時的に時系列に記憶するメモリを有している。補間処理ユニット24mは、当該メモリに一時的に記憶されたスペクトラム成分を用いて、欠落部の前方(時間的過去)に対応するスペクトラム成分と欠落部の後方(時間的未来)に対応するスペクトラム成分とを、時間的に変化する重み関数を乗算し加算する混合(ブレンド)欠落補間処理を実行する。この混合欠落補間処理により、より滑らかな時間連続性を持つドプラ信号を取得することができる。特に、時間的に変化する重み関数をコサイン関数とすることで、二次元のスペクトラム応答において発生するスパイク状ノイズを効率的に低減させることができる。
【0039】
(効果)
本超音波診断装置によれば、CWD/B同時モード撮像を行う場合において、ドプラモードとBモードとの切換による断続的な送受信によって混入するノイズに励起され発生する過渡応答の応答スペクトラムを推定計算し、周波数解析結果から減算する。これにより、過渡応答に起因するノイズ成分(オフセット値)を低減させることができ、その結果、CWD/B同時モード撮像における画質の向上を実現することができる。
【0040】
また、本超音波診断装置によれば、ドプラモードとBモードとの切換による断続的な送受信によって欠落したBモード1フレーム分程度のドプラ信号を、ECG波形と、推定された過渡応答の応答スペクトラム成分が減算されたスペクトラム成分とを入力として、パラメトリックモデルを用いてシステムを同定し、欠落した信号を補間する。従って、CWD/B同時モード撮像を行う場合においても、欠落したドプラ信号を補うことができ、欠落による画像劣化を低減させることができる。
【0041】
(第2の実施形態)
既述の第1の実施形態では、ウォールフィルタ24bよりも前段部分(FE)に由来する過渡応答を低減させる機能について説明した。しかしながら、現実には、ウォールフィルタ24bにおけるサンプリング(例えば、CWDモードではフーリエ変換ユニット24dの2倍でサンプリングしている)や、窓関数処理ユニット24c及びフーリエ変換ユニット24dにおける周波数解析のためのサンプリングによる、微弱な過渡応答が発生する。
【0042】
そこで、第1の実施形態で述べた構成に加えて、或いは第1の実施形態で述べた構成とは個別に、ウォールフィルタ24b、窓関数処理ユニット24c、フーリエ変換ユニット24dにおいて発生する過渡応答を低減させるための構成を具備するようにしてもよい。なお、ウォールフィルタ24b、窓関数処理ユニット24c、フーリエ変換ユニット24dにおいて発生する過渡応答を低減させるための構成は、フィルタ機能毎に、第1の実施形態で述べた過渡応答低減機能と実質的に同様な機能を設けることで実現できる。
【0043】
(第3の実施形態)
既述の第1の実施形態では、差分処理ユニット24lにおいて、フーリエ変換ユニット24dから出力されたスペクトラム成分から推定された過渡応答の応答スペクトラム成分を差し引くことで、過渡応答に起因するオフセット値を低減させるものであった。これに対し、周波数解析前のI信号及びQ信号(2ch)のステップ応答の波形テーブルを利用し、オフセット成分の大きさ(ステップ入力のゲイン)を変化させ、周波数解析前の時間軸波形から引き去ることで、時間軸上において過渡応答に起因するオフセット値を低減させるようにしてもよい。
【0044】
(第4の実施形態)
一般に、ウォールフィルタ24bよりも前段部分(FE)の現段階でのダイナミックレンジは、A/D変換器の語長(ビット数)に依存すると考えられる。今後、ミキサー及びアンチエリアスフィルタ直後のI信号及びQ信号、或いは後段部分(BF)の出力(直交サンプリング)化できる高速高ダイナミックレンジのA/D変換器が登場した場合、その出力からの応答を直接計算し、第1の実施形態と実質的に同様な手法にて、過渡応答成分を低減させることも可能である。
【0045】
なお、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0046】
10…超音波診断装置、11…装置本体、12…超音波プローブ、13…入力装置、14…モニター、21…超音波送信ユニット、22…超音波受信ユニット、23…Bモード処理ユニット、24…ドプラ処理ユニット、25…画像生成ユニット、26…画像メモリ、27…画像合成ユニット、28…制御プロセッサ(CPU)、29…記憶ユニット、30…インターフェースユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体に対して連続波送受信して時系列のドプラデータを収集する連続波ドプラモードと、前記被検体に対してパルス波を送受信して輝度による断層画像データを収集するBモードと、を交互に実行する撮像モードを実施可能な超音波診断装置において、
前記連続波ドプラモードと前記Bモードとを切り換えながら交互に実行し、連続波ドプラデータと前記断層画像データとを取得するデータ取得手段と、
前記連続波ドプラモードと前記Bモードとの間の切り換えに起因して発生する過渡応答成分を計算する計算手段と、
前記計算された過渡応答成分を、前記連続波ドプラデータから減算する減算手段と、
前記減算された連続波ドプラデータを用いて、ドプラスペクトラム情報を生成する生成手段と、
前記生成されたドプラスペクトラム情報を所定の形態で表示する表示手段と、
を具備することを特徴とする超音波診断装置。
【請求項2】
前記計算手段は、
前記被検体の生体信号を外部入力としてパラメトリックモデルによりシステムを同定し、当該同定されたシステムを用いて、前記連続波ドプラモードと前記Bモードとの切り換えに起因して欠落したドプラデータを推定し、
前記推定したドプラデータを用いて、前記連続波ドプラデータを補間すること、
を特徴とする請求項1記載の超音波診断装置。
【請求項3】
前記計算手段は、前記欠落したドプラデータの時間的過去からの予測スペクトラムと、前記欠落したドプラデータの時間的未来からの予測スペクトラムと、を時間的に変化する重み関数を乗算し加え合せることで、前記欠落したドプラデータを推定することを特徴とする請求項2記載の超音波診断装置。
【請求項4】
前記時間的に変化する重み関数は、コサイン関数であることを特徴とする請求項3記載の超音波診断装置。
【請求項5】
前記計算手段は、データ取得手段が有するウォールフィルタより前段部分において発生する過渡応答成分を計算することを特徴とする請求項1乃至4のうちいずれか一項記載の超音波診断装置。
【請求項6】
前記計算手段は、データ取得手段が有するウォールフィルタ及び周波数解析手段において発生する過渡応答成分を計算することを特徴とする請求項1乃至5のうちいずれか一項記載の超音波診断装置。
【請求項7】
前記計算手段は、パワーディメンジョンを持つスペクトラムから正負対称形のポストフィルタ処理を実行することで、前記過渡応答成分を計算し、
前記減算手段は、パワーディメンジョンを持つ前記連続波ドプラデータから、前記ポストフィルタ処理後の前記過渡応答成分を減算すること、
を特徴とする請求項1乃至4のうちいずれか一項記載の超音波診断装置。
【請求項8】
前記計算手段は、予め設定されたステップ応答の波形テーブルに基づいて、前記過渡応答成分の大きさを変化させることで、時間軸波形としての前記過渡応答成分を計算し、
前記減算手段は、時間軸波形の前記連続波ドプラデータから、前記時間軸波形としての前記過渡応答成分を減算すること、
を特徴とする請求項1乃至4のうちいずれか一項記載の超音波診断装置。
【請求項9】
前記計算手段は、データ取得手段が有するA/D変換器の出力を用いて前記過渡応答成分を計算することを特徴とする請求項1乃至8のうちいずれか一項記載の超音波診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−239988(P2011−239988A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−115547(P2010−115547)
【出願日】平成22年5月19日(2010.5.19)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(594164542)東芝メディカルシステムズ株式会社 (4,066)
【Fターム(参考)】