説明

超音波診断装置

【課題】少なくとも基本波成分を除去するとともに、高調波成分を効率よく増幅することで、より高解像度な超音波診断画像を得ることのできる超音波診断装置を提供すること。
【解決手段】超音波を送信し、送信された超音波の反射波を受信して受信信号を生成する超音波プローブと、受信信号から高調波成分を抽出する高調波抽出部と、高調波成分に基づいて超音波診断画像を生成する画像生成部とを備え、高調波抽出部は、受信信号と、アナログ遅延素子を含むアナログ遅延回路を用いて遅延させた遅延信号とを加算することで、受信信号から少なくとも基本波成分を略除去するとともに、高調波成分を増幅して抽出することができ、簡単に、より高解像度な超音波診断画像を得ることのできる超音波診断装置を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波診断装置に関し、特に高調波成分を用いる超音波診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波診断装置は、超音波パルス反射法により、体表から被検体内の軟組織の断層像を無侵襲に得る医療用画像機器である。この超音波診断装置は、他の医療用画像機器に比べ、小型で安価、X線等の被爆がなく安全性が高い、ドップラー効果を応用して血流イメージングが可能等の多くの特長を有する。そのため、循環器系(心臓の冠動脈)、消化器系(胃腸)、内科系(肝臓、膵臓、脾臓)、泌尿器科系(腎臓、膀胱)、および産婦人科系等で広く利用されている。
【0003】
さらに、近年、超音波画像を用いた診断の精度向上のために、従来のような超音波の基本波ではなく、高調波信号を用いたハーモニックイメージング(HI)診断が行われている。HI診断は、従来のBモード診断では得られない鮮明な診断像が得られることから、標準的な診断モダリティとなりつつある。
【0004】
HI診断は、基本波に比較して、サイドローブレベルが小さいことでS/Nが良くコントラスト分解能が良くなること、周波数が高くなることでビーム幅が細くなり横方向分解能が良くなること等の利点を有する。さらに、近距離では音圧が小さく、さらに音圧の変動が少ないので多重反射が起こらないこと、焦点以遠の減衰は基本波並みであり、高調波の超音波は基本波の超音波に比べ深速度を大きく取れること、等の多くの利点を有している。
【0005】
現在実用化されているHI診断は、2次高調波を用いたものである。2次高調波は基本波に比べて信号強度が弱いために(2次高調波は、基本波の−6dB以下であるとされている)、2次高調波を効率よく取り出す方法が考案されている。
【0006】
例えば、特許文献1では、送信波を、位相を180°異ならせて2回送信することで、受信された位相が180°異なる反射波を重ね合わせて基本波成分を除去するとともに、2次高調波を2倍に増幅する、所謂パルスインバージョン法が示されている。
【0007】
また、例えば特許文献2には、特許文献1で2回送信することによる画像のフレームレートの低下を防止するために、送信波を1回だけ送信し、受信された反射波にデジタル的に演算処理を加えることで、パルスインバージョン法を実現する方法が示されている。
【0008】
一方、市場からは、2次高調波よりもさらに高解像度が実現できる3次高調波を用いたHI診断技術が求められている。例えば特許文献3には、受信された超音波信号と、予め設定された参照信号との相関処理を行うことで、より高いS/Nで3次高調波を抽出することのできる高品質超音波診断装置が示されている。
【0009】
ただ、例えば特許文献1や特許文献2に示された、位相を180°異ならせて重ね合わせるパルスインバージョン法を3次高調波に適用すると、基本波と同様に3次高調波も除去されてしまうので、そのままでは適用できないことが分かっている。
【0010】
また、例えば特許文献4には、隣接する2つの振動子から送信する基本波の位相を、本来の位相からπ/3だけずらすことにより、隣接する2つの振動子から送波される超音波に含まれる3次高調波成分を除去する方法が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2010−017406号公報
【特許文献2】特開2003−000596号公報
【特許文献3】特開2009−279033号公報
【特許文献4】特開2010−063493号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、例えば特許文献1や特許文献2に示された、位相を180°異ならせて重ね合わせるパルスインバージョン法を3次高調波に適用すると、基本波と同様に3次高調波も除去されてしまうので、そのままでは適用できない。
【0013】
また、特許文献2に示されたデジタル演算でパルスインバージョン法を実現するには、受信された反射波を高速、高分解能でデジタルデータ化する必要があり、高性能のアナログデジタル変換器が必要となるため、コストや実装スペースが課題となる。
【0014】
また、特許文献4には、基本波を除去して3次高調波を残す方法は示されていない。
【0015】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、少なくとも基本波成分を除去するとともに、高調波成分を効率よく増幅することで、簡単に、より高解像度な超音波診断画像を得ることのできる超音波診断装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の目的は、下記構成により達成することができる。
【0017】
1.被検体内に超音波を送信し、被検体内で反射された超音波の反射波を受信して受信信号を生成する超音波プローブと、
前記受信信号から、送信された超音波の高調波成分を抽出する高調波抽出部と、
前記高調波抽出部で抽出された高調波成分に基づいて超音波診断画像を生成する画像生成部とを備え、
前記高調波抽出部は、
前記受信信号と、アナログ遅延素子を含むアナログ遅延回路を用いて前記受信信号の位相を遅延させた遅延信号とを合成することで、前記受信信号から少なくとも基本波成分を略除去するとともに、前記高調波成分を増幅して抽出することを特徴とする超音波診断装置。
【0018】
2.被検体内に超音波を1回だけ送信して前記受信信号を得ることを特徴とする前記1に記載の超音波診断装置。
【0019】
3.前記高調波抽出部は、送信された超音波の2次高調波成分を抽出することを特徴とする前記1または2に記載の超音波診断装置。
【0020】
4.前記高調波抽出部は、送信された超音波の3次高調波成分を抽出することを特徴とする前記1または2に記載の超音波診断装置。
【0021】
5.抽出する高調波成分の次数を指示する操作部を備え、
前記高調波抽出部は、前記操作部によって指示された前記次数に従って、前記高調波成分を抽出することを特徴とする前記1または2に記載の超音波診断装置。
【0022】
6.前記高調波抽出部は、直列に接続された複数のアナログ遅延素子を有し、
前記操作部によって指示された前記次数に従って、複数の前記アナログ遅延素子の出力を切り替えて、前記高調波成分を抽出することを特徴とする前記5に記載の超音波診断装置。
【0023】
7.前記高調波抽出部は、前記操作部によって指示された前記次数に従って、アナログ遅延素子の遅延クロックの周波数を変更することで、前記高調波成分を抽出することを特徴とする前記5に記載の超音波診断装置。
【0024】
8.前記アナログ遅延素子は、電荷結合素子(CCD)であることを特徴とする前記1から7の何れか1項に記載の超音波診断装置。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、超音波を送信し、送信された超音波の反射波を受信して受信信号を生成する超音波プローブと、受信信号から高調波成分を抽出する高調波抽出部と、高調波成分に基づいて超音波診断画像を生成する画像生成部とを備え、高調波抽出部は、受信信号と、受信信号をアナログ遅延素子を含むアナログ遅延回路を用いて遅延させた遅延信号とを加算することで、受信信号から少なくとも基本波成分を略除去するとともに、高調波成分を増幅して抽出することができ、簡単に、より高解像度な超音波診断画像を得ることのできる超音波診断装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】各実施の形態における超音波診断装置の外観構成の一例を示す模式図である。
【図2】各実施の形態における超音波診断装置の内部構成の一例を示すブロック図である。
【図3】受信部の第1の実施の形態の構成を示すブロック図である。
【図4】第1の実施の形態の高調波抽出回路の構成を示すブロック図である。
【図5】第1の実施の形態の動作を示すフローチャートである。
【図6】基本信号と、基本波成分、2次高調波成分および3次高調波成分とを示すグラフである。
【図7】基本信号、2π/3遅延信号および4π/3遅延信号と加算信号との関係を示すグラフである。
【図8】受信部の第2の実施の形態における高調波抽出回路の構成を示すブロック図である。
【図9】第2の実施の形態の動作を示すフローチャートである。
【図10】各実施の形態における送受信素子の一例を示す断面模式図である。
【図11】実施の形態における超音波プローブの構成の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明を図示の形態に基づいて説明するが、本発明は該実施の形態に限らない。なお、図中、同一あるいは同等の部分には同一の番号を付与し、重複する説明は省略することがある。
【0028】
最初に、本発明の各実施の形態における超音波診断装置の構成の一例について、図1および図2を用いて説明する、図1は、各実施の形態における超音波診断装置の外観構成の一例を示す模式図である。
【0029】
図1において、超音波診断装置Sは、本体ユニット1、超音波プローブ2およびケーブル3等で構成される。
【0030】
本体ユニット1は、操作部11および表示部15等を備えている。操作部11は、例えば検査開始を指示するコマンドや被検体の個人情報等のデータを入力するためのキーボード等である。表示部15は、操作部11で入力された各種情報や、超音波プローブ2で受信した受信信号に基づいて生成された被検体内の内部状態の画像(超音波診断画像)等を表示する液晶ディスプレイ等である。
【0031】
超音波プローブ2は、図示しない人体等の被検体に対して超音波(超音波信号)を送信するとともに、被検体内で反射した超音波の反射波(エコー、超音波信号)を受信し、受信信号を生成する。
【0032】
ケーブル3は、本体ユニット1と超音波プローブ2とを接続し、本体ユニット1からの送信信号を超音波プローブ2へ伝達するとともに、超音波プローブ2で生成された受信信号を本体ユニット1に伝達する。さらに、ケーブル3は、本体ユニット1から、超音波プローブ2を駆動するための電源を供給する。
【0033】
図2は、各実施の形態における超音波診断装置の内部構成の一例を示すブロック図である。
【0034】
図2において、上述したように、超音波診断装置Sは、本体ユニット1、超音波プローブ2およびケーブル3等で構成される。本体ユニット1は、送信部12、受信部13、画像生成部14、制御部16、記憶部17、および上述した操作部11、表示部15等で構成される。超音波プローブ2は、送受信素子21および送受信回路22等で構成される。
【0035】
操作部11は、上述したように、検査の開始を指示するコマンドや被検体の個人情報等のデータを入力したり、後述する超音波診断画像の調整モードや設定モードの指示、超音波診断画像の表示の指示の設定等を行う。操作部11は、後述するように、抽出する高調波成分の次数を指示するためにも用いられる。
【0036】
送信部12は、ケーブル3を介して、超音波プローブ2の送受信回路22の送信回路221へ送信信号12aを供給することで、送受信素子21に超音波を発生させるように駆動する。各実施の形態では、送信部12は、被検体に超音波を1回だけ送信するように送信回路221へ送信信号12aを供給する。
【0037】
受信部13は、ケーブル3を介して、超音波プローブ2の送受信素子21で受信した超音波の反射波の信号21aに基づいて送受信回路22で生成された受信信号22aを受信し、超音波信号13aを画像生成部14に供給する。反射波には、送信された超音波と同じ周波数を有する基本波成分と、基本波の整数倍の周波数を有する高調波成分とが含まれている。
【0038】
各実施の形態では、受信部13は、後述するように、受信信号と、受信信号をアナログ遅延素子を含むアナログ遅延回路を用いて遅延させた遅延信号とを加算することで、受信信号から少なくとも基本波成分を除去するとともに、所望の次数の高調波成分を増幅して抽出し、超音波信号13aとして画像生成部14に供給する。ここに、受信部13は本発明における高調波抽出部として機能する。
【0039】
画像生成部14は、受信部13から供給された高調波の超音波信号13aに基づいて、被検体の内部状態の高精細な超音波診断画像を生成する。表示部15は、上述した操作部11で入力された各種情報や、画像生成部14で生成された被検体内の超音波診断画像を表示する。記憶部17は、上述した操作部11で入力された各種情報や、画像生成部14で生成された被検体内の超音波診断画像を記憶する。
【0040】
制御部16は、操作部11、送信部12、受信部13、画像生成部14、表示部15および記憶部17を各機能に応じて制御することによって、超音波診断装置Sの全体制御を行う。
【0041】
送受信素子21としては、有機圧電素子や、無機圧電素子を用いることができる。また、上述したHI診断に適した送受信素子として、送信素子と受信素子とを分けて、送信素子として無機圧電素子を用い、受信素子として有機圧電素子を用いる方法もある。受信素子は、例えば、100個以上の圧電素子で構成される圧電素子アレイである。詳細は図7で後述する。
【0042】
送受信回路22は、超音波を送信するための送信回路221と、送信された超音波の反射波を受信して増幅し受信信号22aを生成するための受信回路222等とで構成される。
【0043】
尚、図2では、送信信号12aと受信信号22aとを有線で供給する場合を説明したが、ケーブル3が太くて操作性が劣る原因である送信信号12aと受信信号22aとを無線化する方式も可能である。本体ユニット1と超音波プローブ2とを接続するケーブル3の配線数を減らすことで、ケーブル3を細くすることができ、超音波プローブ2の操作性が良好となる。
【0044】
次に、受信部の第1の実施の形態の構成を、図3および図4を用いて説明する。図3は、受信部の第1の実施の形態の構成を示すブロック図である。第1の実施の形態では、アナログ遅延素子の出力を切り替えて、2次または3次の高調波成分を増幅して抽出する。
【0045】
図3において、送受信素子21はn個(nは正の整数)の受信素子を備えており、受信部13は、送受信回路22からn個の受信信号22a(22a1〜22an)を受信する。受信部13は、n個の受信信号22aに対応して、n個の高調波抽出回路131から13nを備えている。
【0046】
高調波抽出回路131に着目して説明する。図4は、第1の実施の形態の高調波抽出回路の構成を示すブロック図である。
【0047】
高調波抽出回路131は、アナログ遅延回路1311、加算回路1313、アナログ/デジタル変換器(以下、A/D−Cと言う)1314および帯域フィルタ(以下、BPFと言う)1315等で構成される。アナログ遅延回路1311は、4個のアナログ遅延素子DL1からDL4および3個のアナログスイッチAS1からAS3等で構成される。
【0048】
高調波抽出回路131に入力された受信信号22a1は、基本信号f(0)として加算回路1313に入力されるとともに、アナログ遅延素子DL1に入力される。アナログ遅延素子DL1からDL4は、入力された信号の位相をπ/3だけ遅延して出力する遅延回路であり、例えば電荷結合素子(以下、CCDと言う)やLC複合回路等のアナログ素子を用いて実現できる。さらに、同軸ケーブルの遅延特性を用いてアナログ遅延素子とする方法等も考えられる。
【0049】
受信信号22a1は、直列に接続されたアナログ遅延素子DL1からDL4で4段に渡って遅延される。2段目のアナログ遅延素子DL2の出力は、2π/3遅延信号f(2π/3)として、アナログスイッチAS1を介して加算回路1313に接続されている。
【0050】
同様にして、3段目のアナログ遅延素子DL3の出力は、π遅延信号f(π)として、アナログスイッチAS2を介して加算回路1313に接続されており、4段目のアナログ遅延素子DL4の出力は、4π/3遅延信号f(4π/3)として、アナログスイッチAS3を介して加算回路1313に接続されている。
【0051】
超音波診断装置Sの使用者によって操作部11が操作されて、2次または3次の高調波成分が使用する高調波成分として選択されると、選択に応じて、制御部16からアナログスイッチAS1からAS3を制御する制御信号CS1が入力される。これによって、アナログスイッチAS1からAS3を介して、2π/3遅延信号f(2π/3)、π遅延信号f(π)および4π/3遅延信号f(4π/3)の何れかが加算回路1313に入力される。
【0052】
加算回路1313は、基本信号f(0)と、入力された2π/3遅延信号f(2π/3)、π遅延信号f(π)および4π/3遅延信号f(4π/3)の何れかとを加算することで、少なくとも基本波成分が除去され、選択された高調波成分が増幅されて抽出された、加算信号Fを出力する。
【0053】
加算信号Fは、A/D−C1314でデジタルデータに変換された後、BPF1315で選択された高調波だけが抽出され、超音波信号131aとして画像生成部14に供給される。BPF1315の通過周波数は、制御信号CS1によって制御され、選択された高調波の周波数に合わせて切り替えられる。
【0054】
加算回路1313で高調波成分を増幅して抽出することで、A/D−C1314の入力レンジを、振幅の小さい高調波成分に効率よく割り当てることができ、高精度なA/D変換が可能となり、S/Nの向上に寄与する。
【0055】
他の高調波抽出回路132から13nも同様で、各出力が超音波信号132aから13naとして画像生成部14に供給される。超音波信号13aは、超音波信号131aから13naの総称である。
【0056】
次に、第1の実施の形態の動作について、図5を用いて説明する。図5は、第1の実施の形態の動作を示すフローチャートである。
【0057】
図5において、ステップS1で、初期設定として、図4に示したアナログスイッチAS1からAS3が全てオフされる。ステップS2で、超音波診断装置Sの使用者によって選択された使用する高調波成分が3次高調波成分であるか否かが確認される。
【0058】
3次高調波成分が選択された場合(ステップS2;Yes)、ステップS3でアナログスイッチAS1がオンされ、ステップS4でアナログスイッチAS3がオンされ、ステップS7に進む。アナログスイッチAS2はオフのままである。従って、加算回路1313には、基本信号f(0)と2π/3遅延信号f(2π/3)と4π/3遅延信号f(4π/3)とが入力される状態となる。
【0059】
一方、3次高調波成分が選択されなかった場合(ステップS2;No)、ステップS5で、超音波診断装置Sの使用者によって選択された使用する高調波成分が2次高調波成分であるか否かが確認される。2次高調波成分が選択された場合(ステップS5;Yes)、ステップS6でアナログスイッチAS2がオンされ、ステップS7に進む。アナログスイッチAS1およびAS3はオフのままである。従って、加算回路1313には、基本信号f(0)とπ遅延信号f(π)とが入力される状態となる。
【0060】
2次高調波成分が選択されなかった場合(ステップS5;No)、そのままステップS7に進む。アナログスイッチAS1からAS3はオフのままである。従って、加算回路1313には、基本信号f(0)だけが入力される状態となる。
【0061】
ステップS7で、送受信素子21から超音波が1回だけ送信され、ステップS8で、送受信素子21で超音波の反射波が受信される。
【0062】
ステップS9で、加算回路1313によって、ステップS8で受信された超音波の反射波受の信信号22aが加算処理されて、加算信号Fが出力される。
【0063】
加算信号Fは、3次高調波成分が選択された場合には、基本信号f(0)と2π/3遅延信号f(2π/3)と4π/3遅延信号f(4π/3)とが加算されて、基本波成分と2次高調波成分とが除去されて、3次高調波成分が増幅された信号である。
【0064】
また、2次高調波成分が選択された場合には、基本信号f(0)とπ遅延信号f(π)とが加算されて、基本波成分と3次高調波成分とが除去されて、2次高調波成分が増幅された信号である。
【0065】
3次高調波成分も2次高調波成分も選択されなかった場合には、基本信号f(0)が、加算信号Fとして、そのまま加算回路1313から出力される。
【0066】
ステップS10で、A/D−C1314によって、加算信号Fがデジタルデータに変換され、ステップS11で、BPF1315によって、デジタル化された加算信号Fに選択された高調波成分の周波数を中心とするフィルタ処理が施されて、超音波信号13aとして画像生成部14に供給される。
【0067】
ステップS12で、画像生成部14により、超音波信号13aから超音波診断画像が生成され、ステップS13で、表示部15に、超音波診断画像が表示されて、一連の動作が終了される。
【0068】
ここで、上述した高調波抽出回路131の構成で、選択された高調波が抽出される理由を説明する。
【0069】
まず、2次高調波成分が選択された場合には、加算回路1313によって、基本信号f(0)とπ遅延信号f(π)とが加算される。この場合、π遅延信号f(π)は、基本信号f(0)に対して位相が180°遅れた信号であり、基本信号f(0)とπ遅延信号f(π)とを加算するのは、所謂パルスインバージョン法の演算そのものである。従って、2次高調波成分が抽出される。
【0070】
次に、3次高調波成分が選択された場合について述べる。
【0071】
まず、反射波の4次以上の高調波は、振幅が基本波の−18dB以下と非常に小さくなることが理論的および実験的に確認されているので、反射波として3次高調波までを考えることとする。この場合、上述した受信信号22aである基本信号f(0)は、
f(0)=Asinωt+Bsin2ωt+Csin3ωt
で表される。ここに、
ω:基本波の周波数
A:基本波成分の振幅
B:2次高調波成分の振幅
C:3次高調波成分の振幅
である。
【0072】
次に、2π/3遅延信号f(2π/3)および4π/3遅延信号f(4π/3)は、それぞれ、
f(2π/3)=Asin(ωt+2π/3)+Bsin2(ωt+2π/3)+Csin3(ωt+2π/3)
f(4π/3)=Asin(ωt+4π/3)+Bsin2(ωt+4π/3)+Csin3(ωt+4π/3)
と表される。
【0073】
そこで、加算回路1313の加算信号Fは、これらを加算して、
F=f(0)+f(2π/3)+f(4π/3)
=Asinωt+Bsin2ωt+Csin3ωt+Asin(ωt+2π/3)+Bsin2(ωt+2π/3)+Csin3(ωt+2π/3)+Asin(ωt+4π/3)+Bsin2(ωt+4π/3)+Csin3(ωt+4π/3)
=A{sinωt+sin(ωt+2π/3)+sin(ωt+4π/3)}+B{sin2ωt+sin2(ωt+2π/3)+sin2(ωt+4π/3)}+C{sin3ωt+sin3(ωt+2π/3)+sin3(ωt+4π/3)}
となる。
【0074】
加算信号Fを、基本波成分、2次高調波成分および3次高調波成分に分けて考えると、
基本波成分は、
sinωt+sin(ωt+2π/3)+sin(ωt+4π/3)
=sinωt+(sinωt・cos2π/3+cosωt・sin2π/3)+(sinωt・cos4π/3+cosωt・sin4π/3)
=sinωt(1+cos2π/3+cos4π/3)+cosωt(sin2π/3+sin4π/3)
=sinωt(1−0.5−0.5)+cosωt(0.87−0.87)
=0
となる。
【0075】
同様に、2次高調波成分は、
sin2ωt+sin2(ωt+2π/3)+sin2(ωt+4π/3)
=sin2ωt+(sin2ωt・cos4π/3+cos2ωt・sin4π/3)+(sin2ωt・cos8π/3+cos2ωt・sin8π/3)
=sin2ωt(1+cos4π/3+cos8π/3)+cos2ωt(sin4π/3+sin8π/3)
=sinωt(1−0.5−0.5)+cosωt(−0.87+0.87)
=0
となる。
【0076】
また、3次高調波成分は、
sin3ωt+sin3(ωt+2π/3)+sin3(ωt+4π/3)
=sin3ωt+sin3ωt・sin2π+sin3ωt・sin4π
=3・sin3ωt
となる。
【0077】
よって、加算信号Fは、
F=3C・sin3ωt
となり、基本波成分と2次高調波成分とが除去され、3次高調波成分が3倍に増幅されて出力されることが分かる。
【0078】
従って、原理的には、加算回路1313の加算信号Fで、基本波成分と2次高調波成分とが除去され、3次高調波成分が3倍に増幅されて出力されることになる。しかし、実際には、送信波の長さが有限であることと、2π/3遅延信号f(2π/3)および4π/3遅延信号f(4π/3)が、受信信号22aを遅延して生成されることから、加算信号Fの先頭と最後尾とでは、計算通りにはならない。
【0079】
これについて、図6および図7を用いて説明する。図6は、上述した基本信号と、基本波成分、2次高調波成分および3次高調波成分とを示すグラフである。ここでは、送受信素子から超音波を1回だけ2波送信した場合を例示する。グラフの縦軸は、基本波成分の振幅A=1に正規化し、2次高調波成分の振幅を基本波成分の振幅の−6dBつまり1/2、3次高調波成分の振幅を基本波成分の−12dBつまり1/4とした場合を例示している。上述した基本波成分、2次高調波成分および3次高調波成分から、基本信号f(0)は、図示したような波形となる。
【0080】
図7は、上述した基本信号、2π/3遅延信号および4π/3遅延信号と加算信号との関係を示すグラフである。図7(a)は基本信号f(0)、2π/3遅延信号f(2π/3)および4π/3遅延信号f(4π/3)の関係を示すグラフ、図7(b)は加算信号Fを示すグラフである。
【0081】
図7(a)において、2π/3遅延信号f(2π/3)は、基本信号f(0)を、アナログ遅延回路1311を2段経由して2π/3だけ遅延させて生成される。同様に、4π/3遅延信号f(4π/3)は、基本信号f(0)を、アナログ遅延回路1311を4段経由して4π/3だけ遅延させて生成される。
【0082】
図7(b)において、加算信号Fは、基本信号f(0)、2π/3遅延信号f(2π/3)および4π/3遅延信号f(4π/3)を加算して得られる。グラフから分かるように、超音波を1回だけ2波送信した場合には、位相が4π/3から4πの間で、基本波成分および2次高調波成分が除去され、3次高調波成分が3倍に増幅されていることが分かる。従って、より高精細な超音波画像を生成できる3次高調波成分を効率よく増幅して抽出することができる。
【0083】
一方、加算信号Fの先端部分の位相が0から2π/3までの間は、基本信号f(0)がそのまま出力され、位相が2π/3から4π/3までの間は、基本信号f(0)と2π/3遅延信号f(2π/3)との合成信号が出力される。
【0084】
同様に、加算信号Fの後端部分の位相が4πから14π/3までの間は、2π/3遅延信号f(2π/3)と4π/3遅延信号f(4π/3)との合成信号が出力され、位相が14π/3から16π/3までの間は、4π/3遅延信号f(4π/3)がそのまま出力される。
【0085】
加算信号Fの先端部分および後端部分は、図3および図4に示したBPF1315によって、選択された3次高調波成分の周波数3ωを中心周波数とするフィルタ処理が施されて、基本波成分および2次高調波成分が除去される。BPF1315は急峻なフィルタ特性を有する必要はなく、例えば3次高調波の周波数3ωを中心周波数として、帯域ωで−6dB/オクターブ程度の緩やかな特性であってもよい。
【0086】
なお、2次高調波成分も3次高調波成分も選択されなかった場合は、加算信号Fとして基本信号f(0)が出力されるので、通常の基本波成分による超音波診断画像生成が行われればよい。
【0087】
上述したように、受信部の第1の実施の形態によれば、超音波の反射波から生成された受信信号と、超音波診断装置Sの使用者によって選択された使用する高調波成分の次数に基づいて受信信号からアナログ遅延素子を含むアナログ遅延回路で生成された複数の遅延信号の何れかとを加算することで、受信信号から少なくとも基本波成分を除去するとともに、選択された次数の高調波成分を増幅して抽出することができ、簡単に、より高解像度な超音波診断画像を得ることのできる超音波診断装置を提供することができる。
【0088】
次に、本発明における受信部の第2の実施の形態の構成を、図8および図9を用いて説明する。
【0089】
受信部13の第2の実施の形態の受信部13は、図3に示したと同じブロック構成を有している。ただし、第2の実施の形態では、高調波抽出回路は、アナログ遅延素子のクロック周波数を切り替えて、2次または3次の高調波成分を増幅して抽出する。図8は、受信部の第2の実施の形態における高調波抽出回路の構成を示すブロック図である。
【0090】
図8において、高調波抽出回路131は、アナログ遅延回路1311、加算回路1313、A/D−C1314およびBPF1315等で構成される。アナログ遅延回路1311は、2個のアナログ遅延素子DL1とDL2、および2個のアナログスイッチAS1とAS2等で構成される。
【0091】
高調波抽出回路131に入力された受信信号22a1は、基本信号f(0)として加算回路1313に入力されるとともに、アナログ遅延素子DL1に入力される。アナログ遅延素子DL1およびDL2は、例えばCCD等のクロックに同期して遅延動作を行うアナログ素子を用いて実現できる。
【0092】
受信信号22a1は、アナログ遅延素子DL1で遅延され、その出力は、第1遅延信号f(1)として、アナログスイッチAS1を介して加算回路1313に接続されている。同様にして、2段目のアナログ遅延素子DL2の出力は、第2遅延信号f(2)として、アナログスイッチAS2を介して加算回路1313に接続されている。
【0093】
超音波診断装置Sの使用者によって操作部11が操作されて、2次または3次の高調波成分が使用する高調波成分として選択されると、選択に応じて、制御部16は、アナログ遅延素子DL1およびDL2の遅延動作速度を制御する遅延クロックCLKの周波数を切り替える。
【0094】
同時に、選択に応じて、制御部16からアナログスイッチAS1およびAS2を制御する制御信号CS2が入力される。これによって、アナログスイッチAS1を介して第1遅延信号f(1)が加算回路1313に入力され、AS2を介して第2遅延信号f(2)が加算回路1313に入力される。
【0095】
加算回路1313は、選択に応じて、基本信号f(0)と、第1遅延信号f(1)および第2遅延信号f(2)とを加算することで、少なくとも基本波成分が除去され、選択された高調波成分が増幅されて抽出された、加算信号Fを出力する。
【0096】
加算信号Fは、A/D−C1314でデジタルデータに変換された後、BPF1315で選択された高調波だけが抽出され、超音波信号131aとして画像生成部14に供給される。BPF1315の通過周波数は、制御信号CS2によって制御され、選択された高調波の周波数に合わせて切り替えられる。
【0097】
加算回路1313で高調波成分を増幅して抽出することで、A/D−C1314の入力レンジを、振幅の小さい高調波成分に効率よく割り当てることができ、高精度なA/D変換が可能となり、S/Nの向上に寄与する。
【0098】
次に、第2の実施の形態の動作について、図9を用いて説明する。図9は、第2の実施の形態の動作を示すフローチャートである。
【0099】
図9において、ステップS21で、初期設定として、図8に示したアナログスイッチAS1およびAS2が全てオフされる。ステップS22で、超音波診断装置Sの使用者によって選択された使用する高調波成分が3次高調波成分であるか否かが確認される。
【0100】
3次高調波成分が選択された場合(ステップS22;Yes)、ステップS23でアナログスイッチAS1がオンされ、ステップS24でアナログスイッチAS2がオンされ、ステップS25で、アナログ遅延素子DL1およびDL2の遅延動作速度を制御する遅延クロックCLKの周波数が高速に設定され、ステップS29に進む。従って、加算回路1313には、基本信号f(0)と第1遅延信号f(1)と第2遅延信号f(2)とが入力される状態となる。
【0101】
一方、3次高調波成分が選択されなかった場合(ステップS22;No)、ステップS26で、超音波診断装置Sの使用者によって選択された使用する高調波成分が2次高調波成分であるか否かが確認される。2次高調波成分が選択された場合(ステップS26;Yes)、ステップS27でアナログスイッチAS1がオンされ、ステップS28で、アナログ遅延素子DL1およびDL2の遅延動作速度を制御する遅延クロックCLKの周波数が低速に設定され、ステップS29に進む。アナログスイッチAS2はオフのままである。従って、加算回路1313には、基本信号f(0)と第1遅延信号f(1)とが入力される状態となる。
【0102】
2次高調波成分が選択されなかった場合(ステップS26;No)、そのままステップS29に進む。アナログスイッチAS1およびAS2はオフのままである。従って、加算回路1313には、基本信号f(0)だけが入力される状態となる。
【0103】
ステップS29で、送受信素子21から超音波が1回だけ送信され、ステップS30で、送受信素子21で超音波の反射波が受信される。
【0104】
ステップS31で、加算回路1313によって、ステップS30で受信された超音波の反射波受の信信号22aが加算処理されて、加算信号Fが出力される。
【0105】
加算信号Fは、3次高調波成分が選択された場合には、基本信号f(0)と、高速の遅延クロックCLKで遅延された第1遅延信号f(1)および第2遅延信号f(2)とが加算されて、基本波成分と2次高調波成分とが除去されて、3次高調波成分が増幅された信号である。
【0106】
高速の遅延クロックCLKで遅延された第1遅延信号f(1)は、上述した第1の実施の形態の2π/3遅延信号f(2π/3)と同等の信号であり、高速の遅延クロックCLKで遅延された第2遅延信号f(2)は、4π/3遅延信号f(4π/3)と同等の信号である。
【0107】
また、2次高調波成分が選択された場合には、基本信号f(0)と、低速の遅延クロックCLKで遅延された第1遅延信号f(1)とが加算されて、基本波成分と3次高調波成分とが除去されて、2次高調波成分が増幅された信号である。低速の遅延クロックCLKで遅延された第1遅延信号f(1)は、上述した第1の実施の形態のπ遅延信号f(π)と同等の信号である。
【0108】
3次高調波成分も2次高調波成分も選択されなかった場合には、基本信号f(0)が、加算信号Fとして、そのまま加算回路1313から出力される。
【0109】
以降のステップS10からS13は、図5に示した第1の実施の形態の動作と同じであるので、説明は省略する。
【0110】
次に、遅延クロックCLKの周波数について述べる。上述したように、第2の実施の形態では、アナログ遅延素子DL1を高速クロックで駆動した場合に2π/3だけ位相が遅延され、低速クロックで駆動した場合にπだけ位相が遅延されるので、高速クロックは低速クロックの1.5倍の周波数であればよいことになる。
【0111】
上述したように、受信部の第2の実施の形態によれば、超音波の反射波から生成された受信信号と、超音波診断装置Sの使用者によって選択された使用する高調波成分の次数に基づいて、受信信号からクロック同期型のアナログ遅延素子を含むアナログ遅延回路で生成された遅延信号とを加算することで、受信信号から少なくとも基本波成分を除去するとともに、選択された次数の高調波成分を増幅して抽出することができ、簡単に、より高解像度な超音波診断画像を得ることのできる超音波診断装置を提供することができる。
【0112】
ここで、送受信素子21の一例を図10に示す。図10は、各実施の形態における送受信素子の一例を示す断面模式図である。
【0113】
図10において、送受信素子21は、バッキング層211、バッキング層211上に設けられた電極および圧電体を有する圧電部212、圧電部212上に設けられた音響整合層213および音響整合層213上に設けられた音響レンズ214等で構成される。
【0114】
圧電部212は、送信素子212a、送信素子212a上に配された中間層212b、および中間層212b上に配された受信素子212c等で構成される。送信素子212aは、送信用圧電素子218に電極217が付されたものがフレキシブル基板(以下、FPCと言う)215上に載置されて構成される。受信素子212cも同様に、受信用圧電素子219に電極217が付されたものがFPC216上に載置されて構成される。
【0115】
(バッキング層211)
バッキング層211は、圧電部212を支持し、不要な超音波を吸収し得る超音波吸収体である。バッキング層211に用いられるバッキング材としては、天然ゴム、フェライトゴム、エポキシ樹脂に酸化タングステンや酸化チタン、フェライト等の粉末を入れてプレス成形した材料、塩化ビニル、ポリビニルブチラール(PVB)、ABS樹脂、ポリウレタン(PUR)、ポリビニルアルコール(PVAL)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリアセタール(POM)、ポリエチレンテレフタレート(PETP)、フッ素樹脂(PTFE)ポリエチレングリコール、ポリエチレンテレフタレート−ポリエチレングリコール共重合体等の熱可塑性樹脂等を用いることができる。
【0116】
好ましいバッキング材としては、ゴム系複合材料およびまたはエポキシ樹脂複合材からなるものであり、その形状は送受信素子21や送受信素子21を含む超音波プローブ2の形状に応じて、適宜選択することができる。
【0117】
ゴム系複合材としては、ゴム成分および充填剤を含有する物が好ましく、JIS K6253に準拠したスプリング硬さ試験機(デュロメータ硬さ)におけるタイプAデュロメータでA70からタイプDデュロメータでD70までの硬さを有するものであり、さらに、必要に応じて各種の他の配合剤を添加することもできる。
【0118】
ゴム成分としては、たとえば、エチレンプロピレンゴム(EPDMまたはEPM)、水素化ニトリルゴム(HNBR)、クロロプレンゴム(CR)、シリコーンゴム、EPDMとHNBRのブレンドゴム、EPDMとニトリルゴム(NBR)のブレンドゴム、NBRおよび/またはHNBRと高スチレンゴム(HSR)のブレンドゴム、EPDMとHSRブレンドゴム等が好ましい。
【0119】
より好ましくは、エチレンプロピレンゴム(EPDMまたはEPM)、水素化ニトリルゴム(HNBR)、EPDMとHNBRのブレンドゴム、EPDMとニトリルゴム(NBR)のブレンドゴム、NBRおよび/またはHNBRと高スチレンゴム(HSR)のブレンドゴム、EPDMとHSRブレンドゴム等が挙げられる。本実施の形態のゴム成分は、加硫ゴムおよび熱可塑性エラストマー等のゴム成分の1種を単独で使用してもよいが、ブレンドゴムのように2種以上のゴム成分をブレンドしたブレンドゴムを用いてもよい。
【0120】
ゴム成分に添加される充填剤としては、通常使用されているものから比重の大きいものに至るまでその配合量と共に様々な形で選ぶことができる。たとえば、亜鉛華、チタン白、ベンガラ、フェライト、アルミナ、三酸化タングステン、酸化イットリビウム等の金属酸化物、炭酸カルシウム、ハードクレイ、ケイソウ土等のクレイ類、炭酸カルシウム、硫酸バリウム等の金属塩類、ガラス粉末等やタングステン、モリブデン等の各種の金属系微粉末類、ガラスバルーン、ポリマーバルーン等の各種バルーン類が挙げられる。
【0121】
これらの充填剤は、種々の比率で添加することができるが、好ましくはゴム成分100質量部に対して50〜3000質量部、より好ましくは100〜2000質量部、または300〜1500質量部程度が好ましい。また、これらの充填剤は1種または2種以上を組み合わせて添加してもよい。
【0122】
ゴム系複合材料には、さらに他の配合剤を必要に応じて添加することができ、このような配合剤としては、加硫剤、架橋剤、硬化剤、それらの助剤類、劣化防止剤、酸化防止剤、着色剤等が挙げられる。たとえば、カーボンブラック、二酸化ケイ素、プロセスオイル、イオウ(加硫剤)、ジクミルパーオキサイド(Dicup、架橋剤)、ステアリン酸等を配合することができる。これらの配合剤は必要に応じて使用されるものであるが、その使用量は、一般にゴム成分100質量部に対しそれぞれ1〜100質量部程度であるが全体的バランスや特性によって適宜変更することもできる。
【0123】
エポキシ樹脂複合剤としては、エポキシ樹脂成分および充填剤を含有するのが好ましく、さらに必要に応じて各種の配合剤を添加することもできる。エポキシ樹脂成分としては、たとえばビスフェノールAタイプ、ビスフェノールFタイプ、レゾールノボラックタイプ、フェノール変性ノボラックタイプ等のノボラック型エポキシ樹脂、ナフタレン構造含有タイプ、アントラセン構造含有タイプ、フルオレン構造含有タイプ等の多環芳香族型エポキシ樹脂、水添脂環型エポキシ樹脂、液晶性エポキシ樹脂等が挙げられる。本発明のエポキシ樹脂成分は単独で用いてもよいが、ブレンド樹脂のように2種類以上のエポキシ樹脂成分を混合して用いてもよい。
【0124】
エポキシ成分に添加される充填剤としては、上記ゴム成分に混合する充填剤と同様のものから、上記ゴム系複合剤を粉砕しさく作製した複合粒子までいずれも好ましく使用することができる。複合粒子としては、たとえばシリコーンゴム中にフェライトを充填したものを、粉砕器にて粉砕し200μm程度の粒径にしたものが挙げることができる。
【0125】
エポキシ樹脂複合剤を使用する際にはさらに架橋剤を添加する必要があり、たとえばジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ジプロピレンジアミン、ジエチルアミノプロピルアミン等の鎖状脂肪族ポリアミン、N−アミノエチルピペラジン、メンセンジアミン、イソフォロンジアミン等の環状脂肪族ポリアミン、m−キシレンジアミン、メタフェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルフォン等の芳香族アミン、ポリアミド樹脂、ピペリジン、N,N′−ジメチルピペラジン、トリエチレンジアミン、2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、ベンジルジメチルアミン、2−(ジメチルアミノメチル)フェノール等の2級および3級アミン等、2−メチルイミダゾール、2−エチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−ウンデシルイミダゾリウム・トリメリテート等のイミダゾール類、液状ポリメルカプタン、ポリスルフィド、無水フタル酸、無視トリメリット酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、メチルエンドメチレンテトラヒドロ無水フタル酸、メチルブテニルテトラヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロフタル酸等の酸無水物を挙げることができる。
【0126】
バッキング材の厚さは、概ね1〜10mmが好ましく、特に1〜5mmであることが好ましい。
【0127】
(送信素子212aおよび受信素子212c)
各実施の形態における送信素子212aおよび受信素子212cは、電極および圧電素子を有し、電気信号を機械的な振動に、また機械的な振動を電気信号に変換可能で超音波の送受信が可能な素子である。圧電素子は、電気信号を機械的な振動に、また機械的な振動を電気信号に変換可能な圧電材料を含有する電気機械変換素子である。
【0128】
圧電材料としては、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)系セラミクス、PbTiO3系セラミック等の無機圧電セラミクス、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等の有機高分子圧電材料、水晶、ロッシェル塩等を用いることができる。圧電材料の厚さとしては、概ね100μm〜500μmの範囲で用いられる。圧電材料は、その両面に電極が付された状態で、圧電素子として用いられる。
【0129】
(電極217)
圧電材料に付される電極217に用いられる材料としては、金(Au)、白金(Pt)、銀(Ag)、パラジウム(Pd)、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)、スズ(Sn)等が挙げられる。
【0130】
圧電材料に電極217を付す方法としては、たとえば、チタン(Ti)やクロム(Cr)等の下地金属をスパッタ法により0.02〜1.0μmの厚さに形成した後、上記金属元素を主体とする金属およびそれらの合金からなる金属材料、さらには必要に応じ一部絶縁材料をスパッタ法、その他の適当な方法で1〜10μmの厚さに形成する方法が挙げられる。
【0131】
電極形成はスパッタ法以外でも、微粉末の金属粉末と低融点ガラスとを混合した導電ペーストをスクリーン印刷やディッピング法、溶射法で形成することもできる。電極は、圧電材料上に、送受信素子21の形状に応じて、圧電体面の全面あるいは圧電体面の一部に、設けられる。
【0132】
圧電部212とバッキング層211とは、接着層を介して積層されていることが好ましい態様である。接着層を形成するための接着剤としては、エポキシ系の接着剤を用いることができる。
【0133】
圧電部212の、バッキング層211側の表面の一部と、音響整合層213側の表面の一部には電極が接触されており、バッキング層211と電極217とが接着層を介して積層されている部分を含む場合もある。
【0134】
(音響整合層213)
本実施の形態における音響整合層213は、圧電部212と被検体との間の音響インピーダンスを整合させるもので、圧電部212と被検体との中間の音響インピーダンスを有する材料で構成される。
【0135】
音響整合層213に用いられる材料としては、アルミ、アルミ合金(たとえばAL−Mg合金)、マグネシウム合金、マコールガラス、ガラス、溶融石英、コッパーグラファイト、ポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)、ポリカーボネート(PC)、ABC樹脂、ポリフェニレンエーテル(PPE)、ABS樹脂、AAS樹脂、AES樹脂、ナイロン(PA6、PA6−6)、PPO(ポリフェニレンオキシド)、PPS(ポリフェニレンスルフィド:ガラス繊維入りも可)、PPE(ポリフェニレンエーテル)、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)、PAI(ポリアミドイミド)、PETP(ポリエチレンテレフタレート)、PC(ポリカーボネート)、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂等を用いることができる。
【0136】
好ましくはエポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂に充填剤として亜鉛華、酸化チタン、シリカやアルミナ、ベンガラ、フェライト、酸化タングステン、酸化イットリビウム、硫酸バリウム、タングステン、モリブデン等を入れて成形したものを用いることができる。
【0137】
音響整合層213は、単層でもよいし複数層から構成されてもよいが、好ましくは2層以上である。音響整合層213の層厚は、超音波の波長をλとすると、λ/4となるように定める必要がある。これを満たさない場合、本来の共振周波数とは異なる周波数ポイントに複数の不要スプリアスが出現し、基本音響特性が大きく変動してしまう。結果、残響時間の増加、反射エコーの波形歪みによる感度やS/Nの低下を引き起こしてしまい好ましくない。このような音響整合層213の厚さとしては、概ね30μm〜500μmの範囲で用いられる。
【0138】
音響レンズ214は、送受信素子21の最先端にあり、超音波ビームを集束させるためのものである。音響レンズ214の音響インピーダンスは生体組織とほぼ同じであり、音響レンズ214の形状を凸形にすることで、スネルの法則に従って超音波ビームを集束させることができる。音響レンズ214の凸面は、被検体の表面に当接されて超音波の送受信を行う送受信面214aである。
【0139】
上述した送受信素子21では、送信素子212aと受信素子212cとを別々に備える構成について説明した。送信素子212aと受信素子212cとの配列は、各々を上下に配置する配列、および並列に配置する配列のどちらでもよいが、上下に配置して積層する構造が好ましい。積層する場合の送信素子212aおよび受信素子212cの厚さとしては、40〜150μmであることが好ましい。
【0140】
なお、送受信素子21は、送信素子212aと受信素子212cとを別々に備える構成に限るものではなく、例えば図10において、受信素子212c(受信用圧電素子219と電極217)とFPC216とを無くして、送信素子212aを送受信兼用の送受信素子としてもよい。
【0141】
次に、本発明の実施の形態における超音波プローブの構成の一例を、図11を用いて説明する。図11は、実施の形態における超音波プローブの構成の一例を示す模式図で、図11(a)は超音波プローブの外観模式図、図11(b)は超音波プローブの内部構成図である。
【0142】
図11(a)において、超音波プローブ2の外観は、筐体29、筐体29の先端に配置された送受信素子21の音響レンズ214の送受信面214a、および筐体29の後端に接続されたケーブル3等で構成される。
【0143】
図11(b)において、超音波プローブ2の筐体29の内部には、音響レンズ214を含む送受信素子21、基板25、コネクタ26およびケーブル3等が配置されている。
【0144】
送受信素子21には、FPC24が接続され、FPC24と基板25とは接続部24aで接続されている。基板25上には複数の回路素子で構成される送受信回路22が実装されている。基板25とケーブル3の各々の配線3xとは、コネクタ26で接続されている。ここに、配線3xには、送信信号12aや受信信号22aを伝達する信号線および超音波プローブ2を駆動するための電源を供給する電源線等が含まれる。
【0145】
なお、基板25と配線3xとは、基板25に直接ハンダ付け等で接続されてもよい。あるいは、配線3xを、ハンダ付けあるいは同軸ケーブル用コネクタを用いて別基板に接続し、別基板に設けた基板用コネクタと基板25に設けたコネクタとで基板25と配線3xとを接続する構成でもよい。
【0146】
以上に述べたように、本発明によれば、超音波を送信し、送信された超音波の反射波を受信して受信信号を生成する超音波プローブと、受信信号から高調波成分を抽出する高調波抽出部と、高調波成分に基づいて超音波診断画像を生成する画像生成部とを備え、高調波抽出部は、受信信号と、アナログ遅延素子を含むアナログ遅延回路を用いて遅延させた遅延信号とを加算することで、受信信号から少なくとも基本波成分を略除去するとともに、高調波成分を増幅して抽出することができ、簡単に、より高解像度な超音波診断画像を得ることのできる超音波診断装置を提供することができる。
【0147】
なお、本発明に係る超音波診断装置を構成する各構成の細部構成および細部動作に関しては、本発明の趣旨を逸脱することのない範囲で適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0148】
S 超音波診断装置
1 本体ユニット
11 操作部
12 送信部
12a 送信信号
13 受信部
13a 超音波信号
131 高調波抽出回路
1311 アナログ遅延回路
1313 加算回路
1314 アナログデジタル変換器(A/D−C)
1315 帯域フィルタ(BPF)
14 画像生成部
15 表示部
16 制御部
17 記憶部
2 超音波プローブ
21 送受信素子
22 送受信回路
22a 受信信号
221 送信回路
222 受信回路
3 ケーブル
DL1、DL2、DL3、DL4 アナログ遅延素子
AS1、AS2、AS3 アナログスイッチ
f(0) 基本信号
f(2π/3) 2π/3遅延信号
f(π) π遅延信号
f(4π/3) 4π/3遅延信号

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体内に超音波を送信し、被検体内で反射された超音波の反射波を受信して受信信号を生成する超音波プローブと、
前記受信信号から、送信された超音波の高調波成分を抽出する高調波抽出部と、
前記高調波抽出部で抽出された高調波成分に基づいて超音波診断画像を生成する画像生成部とを備え、
前記高調波抽出部は、
前記受信信号と、アナログ遅延素子を含むアナログ遅延回路を用いて前記受信信号の位相を遅延させた遅延信号とを合成することで、前記受信信号から少なくとも基本波成分を略除去するとともに、前記高調波成分を増幅して抽出することを特徴とする超音波診断装置。
【請求項2】
被検体内に超音波を1回だけ送信して前記受信信号を得ることを特徴とする請求項1に記載の超音波診断装置。
【請求項3】
前記高調波抽出部は、送信された超音波の2次高調波成分を抽出することを特徴とする請求項1または2に記載の超音波診断装置。
【請求項4】
前記高調波抽出部は、送信された超音波の3次高調波成分を抽出することを特徴とする請求項1または2に記載の超音波診断装置。
【請求項5】
抽出する高調波成分の次数を指示する操作部を備え、
前記高調波抽出部は、前記操作部によって指示された前記次数に従って、前記高調波成分を抽出することを特徴とする請求項1または2に記載の超音波診断装置。
【請求項6】
前記高調波抽出部は、直列に接続された複数のアナログ遅延素子を有し、
前記操作部によって指示された前記次数に従って、複数の前記アナログ遅延素子の出力を切り替えて、前記高調波成分を抽出することを特徴とする請求項5に記載の超音波診断装置。
【請求項7】
前記高調波抽出部は、前記操作部によって指示された前記次数に従って、アナログ遅延素子の遅延クロックの周波数を変更することで、前記高調波成分を抽出することを特徴とする請求項5に記載の超音波診断装置。
【請求項8】
前記アナログ遅延素子は、電荷結合素子(CCD)であることを特徴とする請求項1から7の何れか1項に記載の超音波診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−139465(P2012−139465A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−1035(P2011−1035)
【出願日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【出願人】(303000420)コニカミノルタエムジー株式会社 (2,950)
【Fターム(参考)】