説明

超音波診断装置

【課題】被検体からの反射波において基本波を取り除きつつ3次波を抽出することで、3次波に基づく超音波画像を実現する超音波診断装置を提供する。
【解決手段】
被検体に超音波を送信し前記超音波が被検体において反射して生成された反射超音波を受信して電気信号に変換する圧電部と、高調波抽出部と、画像処理部と、を有する超音波診断装置であって、1回の超音波の送信に対応する反射超音波から前記圧電部が変換した電気信号であって、位相を遅延手段により変化させた第1反射波と、前記1回の超音波の送信に対応する反射超音波から前記圧電部が変換した電気信号であって、次数に関らずに同一の位相変化をもたらす移相手段により位相を変化させた第2反射波とを作製し、前記第1反射波と前記第2反射波の位相を互いに180度異ならせて前記第1反射波と前記第2反射波を加えて基本波成分を相殺することで高調波成分を抽出する超音波診断装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検体内に超音波を送受信して超音波画像を生成する超音波診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波は、通常、16000Hz以上の音波をいい、非破壊、無害及び略リアルタイムでその内部を調べることが可能なことから、欠陥の検査や疾患の診断等の様々な分野に応用されている。その一つに、被検体内を超音波で走査し、被検体内から来た超音波の反射波(エコー)から生成した受信信号に基づいて当該被検体内の内部状態を画像化する超音波診断装置がある。この超音波診断装置は、医療用では、他の医療用画像装置に較べて小型で安価であり、そしてX線等の放射線被爆が無く安全性が高いこと、また、ドップラ効果を応用した血流表示が可能であること等の様々な特長を有している。このため、超音波診断装置は、循環器系(例えば心臓の冠動脈等)、消化器系(例えば胃腸等)、内科系(例えば肝臓、膵臓及び脾臓等)、泌尿器系(例えば腎臓及び膀胱等)及び産婦人科系等で広く利用されている。
【0003】
超音波診断装置には、被検体に対して超音波を送受信する超音波探触子が用いられている。超音波探触子は、圧電現象を利用することによって、送信の電気信号に基づいて機械振動して超音波を発生し、被検体内部で音響インピーダンスの不整合によって生じる超音波の反射波を受けて受信の電気信号を生成する複数の圧電素子を備え、これら複数の圧電素子が例えばアレイ状に2次元配列されて構成されている。
【0004】
近年では、超音波探触子から被検体内へ送信された超音波の基本波成分ではなく、その高調波成分によって被検体内の内部状態の画像を形成するハーモニックイメージング(Harmonic Imaging)技術が研究、開発されている。ハーモニックイメージング技術は、基本波成分のレベルに比較してサイドローブレベルが小さく、S/N比(Signal to Noise ratio)が良くなってコントラストが向上すること、周波数が高くなることによってビーム幅が細くなって横方向分解能が向上すること、近距離では音圧が小さくて音圧の変動が少ないために多重反射が抑制されること、及び、焦点以遠の減衰が基本波並みであり高周波を基本波とする場合に較べて深速度を大きく取れること等の様々な利点を有している。(例えば、特許文献1,2参照)。
【0005】
ハーモニックイメージング技術においては、基本波成分を取り除いて高調波成分を抽出したいという要求がある。この要求に対し、例えば基本波の位相が180度異なる二つ送信波を形成し、これらの反射波を足し合わせることで基本波成分を除去することで2次波を抽出する技術が開示されている(例えば特許文献3参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−118065号公報
【特許文献2】特開2007−185525号公報
【特許文献3】特開2010−017406号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献3に開示されている技術では、2次波を抽出することはできるが、超音波診断の上で、より好ましい3次波を抽出することはできない。
【0008】
本発明は、被検体からの反射波において基本波を取り除きつつ3次波を抽出することで、3次波に基づく超音波画像を実現する超音波診断装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前述の目的は、下記に記載する発明により達成される。
【0010】
1.被検体に超音波を送信し前記超音波が被検体において反射して生成された反射超音波を受信して電気信号に変換する圧電部と、
前記電気信号に含まれる高調波成分の電気信号を少なくとも抽出するための高調波抽出部と、
前記高調波成分の電気信号から前記被検体内の超音波画像を生成する画像処理部と、
を有する超音波診断装置であって、
1回の超音波の送信に対応する反射超音波から前記圧電部が変換した電気信号であって、位相を遅延手段により変化させた第1反射波と、前記1回の超音波の送信に対応する反射超音波から前記圧電部が変換した電気信号であって、次数に関らずに同一の位相変化をもたらす移相手段により位相を変化させた第2反射波と、を作製し、
前記第1反射波と前記第2反射波の位相を互いに180度異ならせて前記第1反射波と前記第2反射波とを加えて基本波成分を相殺することで高調波成分を抽出することを特徴とする超音波診断装置。
【0011】
2.被検体に超音波を送信し前記超音波が被検体において反射して生成された反射超音波を受信して電気信号に変換する圧電部と、
前記電気信号に含まれる高調波成分の電気信号を少なくとも抽出するための高調波抽出部と、
前記高調波成分の電気信号から前記被検体内の超音波画像を生成する画像処理部と、
を有する超音波診断装置であって、
第1送信波の送信に対応する反射超音波から前記圧電部が変換した電気信号である第1反射波と、第2送信波の送信に対応する反射超音波から前記圧電部が変換した電気信号である第2反射波とを各々生成し、
次数に関らずに同一の位相変化をもたらす移相手段により前記第2反射波の位相を変化させ、
第1送信波と第2送信波のタイミングを所定のタイミングに合わせることで、前記第1反射波と前記第2反射波の基本波の位相を互いに180度異ならせ、前記第1反射波と前記第2反射波とを加えて基本波成分を相殺することで高調波成分を抽出することを特徴とする超音波診断装置。
【0012】
3.前記移相手段はデジタルフィルタであることを特徴とする前記1または2に記載の超音波診断装置。
【0013】
4.前記デジタルフィルタは、FIRフィルタであることを特徴とする前記3に記載の超音波診断装置。
【0014】
5.前記デジタルフィルタは、90度位相を変化させることを特徴とする前記3または4に記載の超音波診断装置。
【0015】
6.抽出する高調波成分は3次高調波であることを特徴とする前記1から5の何れか一項に記載の超音波診断装置。
【発明の効果】
【0016】
被検体からの反射波において基本波を取り除きつつ3次波を抽出することで、3次波に基づく超音波画像を実現する超音波診断装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施形態に係る超音波診断装置Sの外観構成を示す概要図である。
【図2】実施形態に係る超音波診断装置Sの電気的な構成を示すブロック図である。
【図3】実施形態に係る超音波診断装置Sの超音波探触子2の構成を示す概要図である。
【図4】超音波を送信された被検体Hの測定箇所で発生した高調波の位相の関係を示す模式図である。
【図5】第1反射波と第2反射波とこれらを加算して合成した合成波の基本波と3次波の位相関係を示す図である。
【図6】図5に示す位相関係を実現するための超音波診断装置の受信に係る部分のブロック図である。
【図7】第1の実施形態の超音波診断装置の受信に係る部分の動作のフロー図である。
【図8】第1反射波と第2反射波とこれらを加算して合成した合成波の基本波から3次波までの位相関係を示す模式図である。
【図9】第2の実施形態の超音波診断装置の受信に係る部分のブロック図である。
【図10】第2の実施形態の超音波診断装置の受信に係る部分の動作のフロー図である。
【図11】第1反射波と第2反射波とこれらを加算して合成した合成波の基本波と3次波の位相関係を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(第1の実施形態)
以下に本発明の実施形態を図面により説明するが、本発明は以下に説明する実施形態に限られるものではない。なお、各図において同一の符号を付した構成は、同一の構成であることを示し、その説明を省略する。なお、本発明における圧電部とは、対向する2つの電極ではさまれた、圧電挙動を示す部分を指す。
【0019】
図1は、実施形態に係る超音波診断装置Sの外観構成を示す概要図である。図2は、実施形態に係る超音波診断装置Sの電気的な構成を示すブロック図である。図3は、実施形態に係る超音波診断装置Sの超音波探触子2の振動部20の構成を示す概要図である。
【0020】
超音波診断装置Sは、図1及び図2に示すように、図略の生体等の被検体Hに対して超音波を送信すると共に、被検体Hで反射した超音波の反射超音波を受信する超音波探触子2と、超音波探触子2とケーブル3を介して接続され、超音波探触子2へケーブル3を介して電気信号の送信信号を送信することによって超音波探触子2に被検体Hに対して超音波を送信させると共に、超音波探触子2で受信された被検体H内からの反射超音波に応じて超音波探触子2で生成された電気信号の受信信号に基づいて被検体H内の内部状態を超音波画像として医用画像に画像化する超音波診断装置本体1とを備えて構成される。
【0021】
超音波診断装置本体1には、超音波探触子2を使用しない時に、超音波探触子2を保持させておく超音波探触子フォルダ4が備えられている。
【0022】
超音波診断装置本体1は、例えば、図2に示すように、操作入力部11と、送信部12と、受信部13と、画像処理部15と、表示部16と、制御部17と、記憶部19と、を備えて構成されている。
【0023】
操作入力部11は、例えば、診断開始を指示するコマンドや被検体Hの個人情報等のデータを入力するものであり、例えば、複数の入力スイッチを備えた操作パネルやキーボード等である。
【0024】
送信部12は、制御部17の制御に従って、後述する圧電部22を駆動する電気信号の送信信号を生成する機能を有する回路と、該電気信号を増幅し、超音波探触子2内の圧電部32へ、ケーブル3を介して送信信号を供給し、超音波探触子2に超音波を発生させる。送信部12は、例えば、高電圧のパルスを生成する高圧パルス発生器等を備えて構成される。
【0025】
受信部13は、制御部17の制御に従って、超音波探触子2からケーブル3を介して電気信号の受信信号を受信する。そして該電気信号から高調波成分を抽出し、また所定の信号処理を施す高調波抽出部としての回路を有す。詳細は後述する。
【0026】
画像処理部15は、制御部17の制御に従って、受信部13で信号処理された反射受信信号に基づいて、ハーモニックイメージング技術等を用いて被検体H内の内部状態の超音波画像を生成する回路である。また、例えば、反射受信信号に対して包絡線検波処理を施すことにより、反射超音波の振幅強度に対応したBモード信号を生成する。
【0027】
記憶部19はRAMやROMで構成され、制御部17に用いられるプログラムが記録され、また、表示部16で表示する各種画像のテンプレートが記録されている。
【0028】
制御部17は、例えば、マイクロプロセッサ、記憶素子及びその周辺回路等を備えて構成され、これら操作入力部11、送信部12、受信部13、画像処理部15、表示部16、記憶部19を当該機能に応じてそれぞれ制御することによって超音波診断装置Sの全体制御を行う回路である。
【0029】
表示部16は、制御部17の制御に従って、画像処理部15で生成された超音波画像を表示する装置である。表示部16は、例えば、CRTディスプレイ、LCD、ELディスプレイ及びプラズマディスプレイ等の表示装置やプリンタ等の印刷装置等である。
【0030】
一方、超音波探触子2は、振動部20を備える。振動部20は、図略の生体等の被検体Hに対して超音波を送信すると共に、被検体Hからの反射超音波を受信する。
【0031】
図3は、実施形態に係る超音波探触子2の振動部20の構成を示す概要図である。振動部20は、圧電部22と、音響整合層23と、音響レンズ24と、バッキング層25と、固定板26とを有する。
【0032】
圧電部22は、複数の圧電素子221における圧電現象を利用することによって電気信号と超音波との間で相互に信号を変換するものである。
【0033】
圧電部22は、超音波診断装置本体1の送信部12からケーブル3を介して入力された送信信号の電気信号を超音波へ変換して超音波を送信すると共に、受信した反射超音波を電気信号へ変換してこの電気信号である受信信号を、ケーブル3を介して超音波診断装置本体1の受信部13へ出力する。
【0034】
超音波探触子2が被検体Hに当接されることによって圧電部22で生成された超音波が被検体H内へ送信され、被検体H内からの反射超音波が圧電部22で受信される。圧電材料には無機材料や有機材料が使用される。
【0035】
音響整合層23は、圧電部22の音響インピーダンスと被検体Hの音響インピーダンスの間の値の音響インピーダンスを備えることで、圧電部22から送信される超音波を被検体Hに送信する際に、圧電部22と被検体Hとの音響インピーダンスの差に応じて生じる反射超音波を軽減する機能を有し、圧電部22で生じた超音波を被検体Hへ、また被検体H内で反射した超音波を圧電部22へ効率良く伝達することができる。圧電部22から被検体Hへ音響インピーダンスが徐々に近づいていくように2層以上の音響整合層を形成すれば、圧電部22と被検体Hとの間で超音波の反射をより少なくすることができる。
【0036】
音響レンズ24は、圧電部22から送信される超音波を測定箇所へ向けて集束させる機能を有する。
【0037】
バッキング層25は、超音波を吸収する材料から構成された部材であり、圧電部22からバッキング層25方向へ放射される不要な超音波を吸収し得る超音波吸収体である。好ましいバッキング材としては、ゴム系複合材料及びまたはエポキシ樹脂複合材からなるものであり、その形状は圧電体や圧電体を含むプローブヘッドの形状に応じて、適宜選択することができる。
【0038】
固定板26は、バッキング層25を固定し、超音波探触子2に剛性を持たせたり、加工時に固定したりする機能を有するものである。
【0039】
次いで、かかる超音波診断装置Sを用いて高調波周波数成分を抽出する動作について説明する。
【0040】
図4は、超音波を送信された被検体Hの測定箇所で発生した高調波の位相の関係を示す模式図である。
【0041】
超音波探触子2から測定箇所に超音波が送信されると、測定箇所の音響インピーダンスの相違の分布によって反射波が発生する。特に、測定箇所に超音波がフォーカスされると、超音波の強度が大きくなることにより、非線形性が高まり、反射波に占める高調波周波数成分が高まる。測定箇所において発生する反射波においては、次数に依って初期位相が異なることが知られている。図4において示されているように、測定箇所において発生する基本波の初期位相を0度とすると、2次波は45度、3次波は90度、すなわち、次数をmとすると、45×(m−1)(度)だけ位相が遅れる。本実施形態においては、このように次数に依って遅れる位相が異なるという性質を利用して高調波周波数成分を抽出する。そのために、図5に示すような位相関係を有する二つの反射波、第1反射波と第2反射波とを生成する。なお、以下に行う反射波の演算は、反射波である超音波が圧電部22において変換された電気信号に基づいて行うものとする。図5は、第1反射波と第2反射波とこれらを加算して合成した合成波の基本波と3次波の位相関係を示す図である。
【0042】
第1反射波においては、基本波の位相が0度、3次波の位相が180度である。第2反射波においては、基本波の位相が270度、3次波の位相が180度である。かかる第1反射波と第2反射波とを加算して合成すると同図に示すように、基本波は相殺されて無くなり、3次波は2倍の強度となる。このように、第1反射波と第2反射波とを生成することで、基本波は相殺でき、3次波は増幅できることとなる。
【0043】
次いで、図5に示すような位相関係を有する第1反射波と第2反射波とを生成する手段について説明する。
【0044】
第1の実施形態においては、第1反射波と第2反射波は、一回の送信に対応する反射波から分離されたものであって、第1反射波は、遅延手段によって位相が変化されることを特徴とするものである。
【0045】
また、第2反射波は、デジタルフィルタにより位相を変化されるものとする。
【0046】
図6は、かかる位相関係を実現するための超音波診断装置Sの受信に係る部分のブロック図である。
【0047】
振動部20の圧電部22には複数の圧電素子221が備えられている。
【0048】
受信部13には、電気信号の伝搬する方向に順にアンプ131、スイッチ132、遅延器133、AD変換器134、整相加算器135、スイッチ136、FIR(Finite Impulse Response Filter)フィルタ137、メモリ138、加算器139が備えられている。アンプ131からAD変換器134までは各圧電素子221に対応して備えられている。FIRフィルタ137は、次数に関らずに同一の位相変化をもたらす移相手段として機能する。
【0049】
画像処理部15には信号処理器151、DSC(digital scan converter)152が備えられている。
【0050】
図7は、本実施形態の超音波診断装置Sの受信に係る部分の動作のフロー図である。
【0051】
図7に従って本実施形態の超音波診断装置Sの受信に係る部分の動作を説明する。
【0052】
最初にステップS1において制御部17は送信部12、振動部20を制御して被検体Hに超音波を送信する。送信部12における図示しないビームフォーマによって被検体Hの測定箇所に超音波がフォーカスされるように、各圧電素子221の位相が制御される。被検体Hにおいて発生した反射波である第1反射波には人体の音響的な非線形性により基本波成分以外に高調波成分を含まれている。
【0053】
次いでステップS2において、超音波探触子2における圧電素子221は反射波である第1反射波を受信し電気信号に変換する。変換によって生じた電気信号はケーブル3を伝搬して受信部13のアンプ131に入力され、電気信号が増幅される。アンプ131は超音波探触子2内に設けても良い。アンプ131に増幅された電気信号はスイッチ132に入力される。
【0054】
次いでステップS3において、スイッチ132は制御部17の制御によりかかる電気信号を遅延器133に出力する。遅延器133は、入力された電気信号の位相を遅らせる遅延手段であり、入力された波の次数に比例した位相変化を与えるものである。
【0055】
スイッチ132にはトランジスタ回路など一般的なスイッチを採用できる。遅延器133には例えば遅延させる時間に対応した長さの遅延線を採用できる。
【0056】
遅延させる時間は、図5で説明したように、基本波成分について90度になるような時間を設定する。基本波成分について90度になるようにすれば、2次波については、180度、3次波については、270度となる。
【0057】
次いでステップS4において、第1反射波の電気信号を次のように処理し記憶させる。
【0058】
遅延器133から出力された電気信号はAD変換器134によってアナログ値からデジタル値に変換される。AD変換器134から出力された電気信号は整相加算器135に入力され、各圧電素子221の出力毎の位相が調整されて整相加算される。
【0059】
整相加算された電気信号はスイッチ136に入力される。スイッチ136においては、制御部17の制御により第1反射波に相当する電気信号を、FIR137を介さずにメモリ138に入力させるようにスイッチする。メモリ138は、かかる整相加算された第1反射波の電気信号を記憶する。メモリ138には制御部17からの指令により書換え可能なメモリを採用する。
【0060】
次いで、ステップS5において、超音波探触子2における圧電素子221は、第1反射波を基準とし、ステップS1で送信した超音波から第2反射波を受信し電気信号に変換する。変換された電気信号は、上記と同様にアンプ131を経てスイッチ132に入力される。
【0061】
次いでステップS6において、第2反射波の電気信号を次のように処理し記憶する。
【0062】
スイッチ132は制御部17の制御によりかかる電気信号を、遅延器133を介さずに、AD変換器134、整相加算器135経てスイッチ136に入力する。スイッチ136は制御部17の制御によりかかる電気信号をFIR137に出力する。
【0063】
FIR137は、90度移相型のFIRである。90度移相型であるので、電気信号に含まれる周波数の大きさに関らずに一様に各周波数成分を90度移相させる。
【0064】
なお、FIR137に限らず、入力される電気信号に含まれる周波数の大きさに関らずに一様に各周波数成分を90度移相させるデジタルフィルタであればフィルタの種類は問わない。以上により、第2反射波は、図5に示すような位相関係を有することとなる。このような位相関係を有する第2反射波の電気信号をメモリ138に記憶させる。
【0065】
次いでステップS7において、第1反射波の電気信号と第2反射波の電気信号とを加算器139において加算する。第1反射波の電気信号と第2反射波の電気信号とは、図5で示すような位相関係にある。具体的には、図8のようになる。図8は、第1反射波と第2反射波とこれらを加算して合成した合成波の基本波から3次波までの位相関係を示す模式図である。図8に示されているように、合成波においては、基本波は相殺され、3次波は2倍になり、2次波は2×sin(45°)=1.414倍になる。
【0066】
次いでステップS8において、加算器139から出力された電気信号は画像処理部15に入力される。画像処理部15には、信号処理器151とDSC152が備えられている。信号処理器151においては、包絡線検波、振幅輝度変換、そしてLOG圧縮が実施される。DSC152においては、各圧電素子221からのデータを音線方向に並べてBモード画像の画像データを生成する。画像処理部15から出力された画像データは表示部16に出力され、超音波画像が表示部16に表示されることとなる。
【0067】
以上のように、本実施形態によれば、被検体Hからの反射超音波に含まれる基本波を相殺し3次波は2倍に増加させることができることから、高調波成分の鮮明な超音波画像を得ることができる。
【0068】
(第2の実施形態)
次いで、第2の実施形態について説明する。第2の実施形態においては、第1反射波と第2反射波は、位相を異ならせて2回行われた送信に対応する反射波であることを特徴とするものである。
【0069】
図9は、第2の実施形態の超音波診断装置Sの受信に係る部分のブロック図である。第1の実施形態におけるブロック図との相違は、スイッチ132と遅延器133が設けられておらず、アンプ131の出力は直接にAD変換器134に入力される点である。
【0070】
図10は、本実施形態の超音波診断装置Sの受信に係る部分の動作のフロー図である。図10に従って本実施形態の超音波診断装置Sの受信に係る部分の動作を説明する。
【0071】
最初にステップS21において制御部17は送信部12、振動部20を制御して被検体Hに第1送信波を送信する。送信部12における図示しないビームフォーマによって被検体Hの測定箇所に超音波がフォーカスされるように、各圧電素子221の位相が制御される。被検体Hにおいて発生した第1反射波には人体の音響的な非線形性により基本波成分以外に高調波成分を含まれている。
【0072】
次いでステップS22において、超音波探触子2における圧電素子221は第1反射波を受信し電気信号に変換する。変換によって生じた電気信号はケーブル3を伝搬して受信部13のアンプ131に入力され、電気信号が増幅される。アンプ131は超音波探触子2内に設けても良い。
【0073】
次いでステップS23において、第1反射波の電気信号は次のように処理され記憶させる。
【0074】
アンプ131から出力された電気信号はAD変換器134によってアナログ値からデジタル値に変換される。AD変換器134から出力された電気信号は整相加算器135に入力され、各圧電素子221の出力毎の位相が調整されて整相加算される。
【0075】
整相加算された電気信号はスイッチ136に入力される。スイッチ136においては、制御部17の制御により第1反射波に相当する電気信号を、FIR137を介さずにメモリ138に入力させるようにスイッチする。メモリ138は、かかる整相加算された第1反射波の電気信号を記憶する。メモリ138には制御部17からの指令により書換え可能なメモリを採用する。
【0076】
次いでステップS24において、制御部17は、次に送信する第2送信波により発生する第2反射波の位相が、第1反射波の位相に対して、図5で示したように180度ずれるタイミングになるまで第2送信波の送信を待機する。
【0077】
次いでステップS25において、制御部17は送信部12、振動部20を制御して被検体Hに第2送信波を送信する。
【0078】
次いで、ステップS26において、超音波探触子2における圧電素子221は第2反射波を受信し電気信号に変換する。変換によって生じた電気信号はケーブル3を伝搬して受信部13のアンプ131に入力され、電気信号が増幅される。
【0079】
次いでステップS27において、第2反射波の電気信号を次のように処理し記憶する。
【0080】
変換された電気信号は、上記と同様にアンプ131、AD変換器134、整相加算器135経てスイッチ136に入力される。スイッチ136は制御部17の制御によりかかる電気信号をFIR137に出力する。FIR137は、90度移相型のFIRである。90度移相型であるので、電気信号に含まれる周波数の大きさに関らずに一様に各周波数成分を90度移相させる。すなわち、第2反射波は、図5に示すような位相関係を有することとなる。このような位相関係を有する第2反射波の電気信号をメモリ138に記憶させる。
【0081】
次いでステップS28において、第1反射波の電気信号と第2反射波の電気信号とを加算器139において加算する。第1反射波の電気信号と第2反射波の電気信号とは、図5で示すような位相関係にある。具体的には、図8のようになる。図8に示されているように、合成波においては、基本波は相殺され、3次波は2倍になり、2次波は2×sin(45°)=1.414倍になる。
【0082】
次いでステップS29において、加算器139から出力された電気信号は画像処理部15に入力される。画像処理部15には、信号処理器151とDSC152が備えられている。信号処理器151においては、包絡線検波、振幅輝度変換、そしてLOG圧縮が実施される。DSC152においては、各圧電素子221からのデータを音線方向に並べてBモード画像の画像データを生成する。画像処理部15から出力された画像データは表示部16に出力され、超音波画像が表示部16に表示されることとなる。
【0083】
以上のように、本実施形態によれば、被検体Hからの反射超音波に含まれる基本波を相殺し3次波は2倍に増加させることができることから、高調波成分の鮮明な超音波画像を得ることができる。
【0084】
なお、図11に示すような位相関係を有する二つの反射波、第1反射波と第2反射波とを生成させてもよい。図5との相違は、第1反射波と第2反射波との位相が反対になっている点である。第1反射波は、図4に示した送信波の基本波の位相より90度進むようにし、第2反射波は90度遅れている。このような位相関係にすることによっても、基本波成分を相殺させることができ、3次波を2倍にすることができる。
【0085】
以上のように本発明によれば、被検体に超音波を送信し前記超音波が被検体において反射して生成された反射超音波を受信して電気信号に変換する圧電部と、前記電気信号に含まれる高調波成分の電気信号を少なくとも抽出するための高調波抽出部と、前記高調波成分の電気信号から前記被検体内の超音波画像を生成する画像処理部と、を有する超音波診断装置であって、1回の超音波の送信に対応する反射超音波から前記圧電部が変換した電気信号であって、位相を遅延手段により変化させた第1反射波と、前記1回の超音波の送信に対応する反射超音波から前記圧電部が変換した電気信号であって、次数に関らずに同一の位相変化をもたらす移相手段により位相を変化させた第2反射波とを作製し、前記第1反射波と前記第2反射波の位相を互いに180度異ならせて前記第1反射波と前記第2反射波とを加えて基本波成分を相殺することで高調波成分を抽出することから、被検体からの反射波において基本波を取り除きつつ高調波成分を抽出することで、高調波成分に基づく超音波画像を提供できる超音波診断装置を提供できる。
【0086】
また、本発明によれば、被検体に超音波を送信し前記超音波が被検体において反射して生成された反射超音波を受信して電気信号に変換する圧電部と、前記電気信号に含まれる高調波成分の電気信号を少なくとも抽出するための高調波抽出部と、前記高調波成分の電気信号から前記被検体内の超音波画像を生成する画像処理部と、を有する超音波診断装置であって、第1送信波の送信に対応する反射超音波から前記圧電部が変換した電気信号である第1反射波と、第2送信波の送信に対応する反射超音波から前記圧電部が変換した電気信号である第2反射波とを各々生成し、次数に関らずに同一の位相変化をもたらす移相手段により前記第2反射波の位相を変化させ、第1送信波と第2送信波のタイミングを所定のタイミングに合わせることで、前記第1反射波と前記第2反射波の基本波の位相を互いに180度異ならせ、前記第1反射波と前記第2反射波とを加えて基本波成分を相殺することで高調波成分を抽出することから、被検体からの反射波において基本波を取り除きつつ高調波成分を抽出することで、高調波成分に基づく超音波画像を提供できる超音波診断装置を提供できる。
【0087】
また、本発明によれば、前記移相手段はデジタルフィルタであることから、電気信号に含まれる周波数の大きさに関らずに一様に各周波数成分を移相させる機能を容易に実現できるので、基本波を取り除きつつ高調波成分を抽出することで、高調波成分に基づく超音波画像を提供できる超音波診断装置を提供できる。
【0088】
また、本発明によれば、前記デジタルフィルタは、FIRフィルタであることから、電気信号に含まれる周波数の大きさに関らずに一様に各周波数成分を移相させる機能を容易に実現できる。
【0089】
また、本発明によれば、前記デジタルフィルタは、90度位相を変化させることから、基本周波数成分を完全に除去することができる。
【0090】
また、本発明によれば、抽出する高調波成分は3次高調波であることから、3次波に基づき高精細な超音波画像を実現する超音波診断装置を提供できる。
【符号の説明】
【0091】
1 超音波診断装置本体
2 超音波探触子
3 ケーブル
4 超音波探触子フォルダ
11 操作入力部
12 送信部
13 受信部
15 画像処理部
16 表示部
17 制御部
19 記憶部
20 振動部
22 圧電部
23 音響整合層
24 音響レンズ
25 バッキング層
26 固定板
32 圧電部
131 アンプ
132 スイッチ
133 遅延器
134 AD変換器
135 整相加算器
136 スイッチ
137 FIRフィルタ
138 メモリ
139 加算器
151 信号処理器
152 DSC
221 圧電素子
S 超音波診断装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体に超音波を送信し前記超音波が被検体において反射して生成された反射超音波を受信して電気信号に変換する圧電部と、
前記電気信号に含まれる高調波成分の電気信号を少なくとも抽出するための高調波抽出部と、
前記高調波成分の電気信号から前記被検体内の超音波画像を生成する画像処理部と、
を有する超音波診断装置であって、
1回の超音波の送信に対応する反射超音波から前記圧電部が変換した電気信号であって、位相を遅延手段により変化させた第1反射波と、前記1回の超音波の送信に対応する反射超音波から前記圧電部が変換した電気信号であって、次数に関らずに同一の位相変化をもたらす移相手段により位相を変化させた第2反射波と、を作製し、
前記第1反射波と前記第2反射波の位相を互いに180度異ならせて前記第1反射波と前記第2反射波とを加えて基本波成分を相殺することで高調波成分を抽出することを特徴とする超音波診断装置。
【請求項2】
被検体に超音波を送信し前記超音波が被検体において反射して生成された反射超音波を受信して電気信号に変換する圧電部と、
前記電気信号に含まれる高調波成分の電気信号を少なくとも抽出するための高調波抽出部と、
前記高調波成分の電気信号から前記被検体内の超音波画像を生成する画像処理部と、
を有する超音波診断装置であって、
第1送信波の送信に対応する反射超音波から前記圧電部が変換した電気信号である第1反射波と、第2送信波の送信に対応する反射超音波から前記圧電部が変換した電気信号である第2反射波とを各々生成し、
次数に関らずに同一の位相変化をもたらす移相手段により前記第2反射波の位相を変化させ、
第1送信波と第2送信波のタイミングを所定のタイミングに合わせることで、前記第1反射波と前記第2反射波の基本波の位相を互いに180度異ならせ、前記第1反射波と前記第2反射波とを加えて基本波成分を相殺することで高調波成分を抽出することを特徴とする超音波診断装置。
【請求項3】
前記移相手段はデジタルフィルタであることを特徴とする請求項1または2に記載の超音波診断装置。
【請求項4】
前記デジタルフィルタは、FIRフィルタであることを特徴とする請求項3に記載の超音波診断装置。
【請求項5】
前記デジタルフィルタは、90度位相を変化させることを特徴とする請求項3または4に記載の超音波診断装置。
【請求項6】
抽出する高調波成分は3次高調波であることを特徴とする請求項1から5の何れか一項に記載の超音波診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−161448(P2012−161448A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−23640(P2011−23640)
【出願日】平成23年2月7日(2011.2.7)
【出願人】(303000420)コニカミノルタエムジー株式会社 (2,950)
【Fターム(参考)】