説明

超高圧水銀ランプとその製造方法

【課題】 極めて小さな発光管内にハロゲンを有機ハロゲン化物の形態で封入しても、発光管内壁の黒化によって光の放射強度が低下することがなく、ランプ寿命の長い超高圧水銀ランプおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】 ハロゲンを有機ハロゲン化物として封入し、光が発光管11を透過する領域のうち、透過する光を利用しない非利用領域Bの発光管内壁にのみに、前処理により有機ハロゲンが分解して発生する炭素5が付着するようにする。また、透過する光を利用しない非利用領域の発光管を局部的に加熱して有機ハロゲン化物を分解し、発生した炭素を発光管の非利用領域の内壁のみに付着させる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、例えば液晶プロジェクタ装置やDLPなどのプロジェクタ装置などの光源に使用される超高圧水銀ランプ、および、そのランプの製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】液晶プロジェクタ装置やDLPなどのプロジェクタ装置には、通常、硼珪酸ガラスからなる凹面反射鏡の中にショートアーク型放電ランプを取り付けた光源装置が使われるが、プロジェクタ装置は、スクリーン上に、均一で、かつ十分な演色性をもった画像を投影することが要求されるので、光源ランプとしては、従来は水銀と金属ハロゲン化物を封入した演色性の良いメタルハライドランプが使用されていた。また、装置の小型軽量化も強く求められるので、放電ランプも小型にしなれけばならない。
【0003】ところで最近では、より一層の小型化、点光源化が進められ、電極間距離が極めて短い放電ランプが要求されるようになった。しかしながら、水銀より励起エネルギーが低い金属を封入したメタルハライドランプでは、ある程度以下の電極間距離になると、放電の集中に限界が起こり、より小さな点光源化への対応が難しくなってきた。
【0004】このため最近では、メタルハライドランプに代えて、点灯時に水銀蒸気圧が極めて高い値、例えば20MPa以上になるショートアーク型の超高圧水銀ランプが使用されるようになった。点灯時の水銀蒸気圧をこのような高い値にするために、例えば内容積が300mm以下の小さな発光管内に0.15mg/mm以上の水銀が封入されるが、かかる超高圧水銀ランプは、アークの広がりが抑制されるとともに、より一層の光出力の向上、および演色性の改善を図ることができる。かかる超高圧水銀ランプを開示したものとして、例えば特開平2−148562号公報や特開平6−52830号公報がある。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】ところでプロジェクタ装置の光源に使用される超高圧水銀ランプは、光出力が大きくて演色性が優れているとともにランプ寿命が長いことも要求される。具体的には、プロジェクタ装置の使用期間中において、超高圧水銀ランプからの光の放射強度が低下したり変動することなく、できるだけ一定に維持されることが望ましい。
【0006】超高圧水銀ランプのランプ寿命を長くするために、発光管内に水銀および希ガスとともにハロゲンを封入することが知られている。つまり、点灯時において、発光管内でハロゲンサイクルを発生させ、このハロゲンサイクルによって発光管内壁が黒化するのを抑制し、もって光の放射強度を長期間一定に維持することができる。
【0007】ここで、発光管内に水銀および希ガスとともにハロゲン、例えば臭素を封入するとき、発光管が極めて小さいので、ハロゲンとして臭素ガスを単体で封入するのが困難である。そこで、ハロゲンは、有機ハロゲン化物として封入される。しかし、臭素を有機ハロゲン化物として封入すると、点灯中の高温動作時に、有機ハロゲン化物は、炭素、水素、臭化水素、臭素などに分解するが、分解して発生した炭素を主とする有機物の薄膜が発光管の内壁に付着する。この炭素を主とする有機物の発生量はあまり多くないので、従来のランプの大きな発光管であれば、発光管内壁の単位面積当りの付着量が少なくてあまり問題にならないが、内容積が300mm以下の小さな発光管では、発光管内壁の単位面積当りの付着量が大きくなって光の透過率が低下するので光の放射強度が低下し、その付着量が無視できないレベルになる問題点がある。
【0008】このため、ハロゲンをハロゲン化水銀などのペレットの形態で封入することが考えられる。炭素は放電ランプの発光特性になんら寄与するものではないが、ハロゲン化水銀などのペレットは、炭素を含まないので、発光管内壁に炭素を主とする有機物が付着することはない。ここで、ペレットの形態で封入するには、発光管はその内容積が300mm以下であって極めて小さいので、超小型のペレットが必要になるが、現在市販されているペレットは形状が大きいので、ペレットの形態で封入すると、多量のハロゲンが封入されてしまう。ハロゲンの封入量が10−3μmol/mm以上になると、ハロゲンサイクルによるタングステンの輸送速度が大きくなり、素材がタングステンである電極が早期に腐食してしまう可能性があるが、ペレットの形態で封入すると、前記の封入限界量よりもずっと多くなってしまう。このため、極めて小さな発光管内にハロゲンを封入するには、有機ハロゲン化物の形態で封入するしかないのが実情である。
【0009】そこで本発明は、内容積が300mm以下の極めて小さな発光管内に水銀および希ガスとともにハロゲンを有機ハロゲン化物の形態で封入しても、発光管内壁の黒化によって光の放射強度が低下することがなく、ランプ寿命の長い超高圧水銀ランプおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】かかる目的を達成するために、請求項1の発明は、内容積が300mm以下の発光管内に、水銀と希ガス、および10−3μmol/mm以下のハロゲンが封入された超高圧水銀ランプにおいて、ハロゲンを有機ハロゲン化物として封入し、光が該発光管を透過する領域のうち、透過する光を利用しない非利用領域の発光管内壁にのみに、前処理により該有機ハロゲンが分解して発生する炭素を主とした有機物の薄膜が付着するようにする。
【0011】また、請求項2の発明は、内容積が300mm以下の発光管内に、水銀と希ガス、および10−3μmol/mm以下のハロゲンが封入された超高圧水銀ランプの製造方法において、発光管内に有機ハロゲン化物を封入し、光が該発光管を透過する領域のうち、透過する光を利用しない非利用領域の発光管を局部的に加熱して有機ハロゲン化物を分解し、発生した炭素を主とした有機物の薄膜を発光管の該非利用領域の内壁のみに付着させる。
【0012】
【発明の実施の形態】以下に、図面に基づいて本発明の実施の形態を具体的に説明する。図1は超高圧水銀ランプと凹面反射鏡からなる光学装置を示すが、図1において、ショートアーク型の超高圧水銀ランプ10の発光管11は、石英ガラスからなる略球状体であり、その内容積は300mm以下である。発光管11内には、一対の電極、つまり陽極13と陰極14が対向配置されている。また、発光管11内には、水銀および希ガスとともに、10−3μmol/mm以下のハロゲンが封入されている。なお、ハロゲンは、後に説明するように、製造時において有機ハロゲン化物の形態で封入されたものである。
【0013】発光管11の両端には封止部12が一体に連設されている。封止部12は、発光管11の両端から伸びる石英ガラスのパイプ体を溶融状態にして内部を減圧することにより形成されたものであり、封止部12の内部には、電極13、14と外部リード棒15とを電気的に接続するモリブデン箔(図示せず)が埋設されている。なお、直流点灯型の陽極13と陰極14の極性は図1に示す状態と逆でもよく、更には、交流点灯型であってもよい。
【0014】超高圧水銀ランプ10の具体的な数値をあげると、水銀の封入量は0.16mg/mmであり、希ガスとしてアルゴンの封入圧力が10kPa、ハロゲンとして臭素が2×10−4μmol/mm封入されている。電極間距離は1.5mm、発光管11の内容積は120mmであり、定格電圧が75V、定格電力が150Wである。数値例がこれらに限られるものでないことは当然であるが、超高圧水銀ランプ10を液晶プロジェクタ装置用の光源ランプとして使用するには、水銀の封入量は、0.15mg/mm以上が必要である。
【0015】凹面反射鏡20は、例えば硼珪酸ガラスからなり、その前面開口の内径は40〜80φmm程度の小さなものである。凹面反射鏡20の反射面21は回転曲面であり、その表面には反射特性の優れたチタニア−シリカなどの蒸着膜が形成されている。反射鏡20の頂部には支持筒22が形成されており、超高圧水銀ランプ10の一方の封止部12が支持筒22に挿入されている。そして、超高圧水銀ランプ10は、その軸線が凹面反射鏡20の光軸と一致し、かつ点灯時に電極13、14間に形成されるアーク輝点が凹面反射鏡20の第1焦点に位置する状態で、支持筒22に充填された接着剤23により凹面反射鏡20に固定されている。また、凹面反射鏡20の前面開口には、超高圧水銀ランプ10が万一破裂したときに、その破片が前面開口から飛散しないように、例えば硼珪酸ガラスからなる光透過性ガラス板30で覆われているが、この光透過性ガラス板30は必ずしも必要ではない。更には、凹面反射鏡20の外表面には、超高圧水銀ランプ10が万一破裂したときの衝撃で凹面反射鏡20が破壊しても、その破片が飛散しないように、靭性に富んだ高分子材料からなる飛散防止膜40が形成されている。
【0016】このように、超高圧水銀ランプ10は凹面反射鏡20で取り囲まれ、超高圧水銀ランプ10から放射した光は凹面反射鏡20の反射面21で反射するが、超高圧水銀ランプ10の発光管11を透過する全ての光が反射面21で反射して利用される訳ではなく、図2に示すように、点灯時に電極13、14間で形成されるアーク輝点を中心にして所定の出射角の範囲内にある放射光を利用している。すなわち、図2に示す発光管11中央部のAの領域(利用領域)を透過する光のみが反射面21で反射して利用され、発光管11端部のBの領域(非利用領域)を透過する光は利用されない。
【0017】ここで、本発明の超高圧水銀ランプ10においては、発光管11の非利用領域Bの内壁のみに、前処理によって、図2において便宜上点線で示すように、封入された有機ハロゲン化物が分解したときに発生する炭素を主とした有機物の薄膜5が付着して少し黒化している。しかし、発光管11の利用領域Aの内壁にはこの薄膜5が付着しておらず、発光管11の利用領域Aを透過する光、つまり実質上超高圧水銀ランプ10から放射する光は、薄膜5で阻害されることなく、大きな透過率で発光管11を透過することができる。
【0018】図3は、発光管11の非利用領域Bの内壁にのみ薄膜5を付着させる前処理方法を示す。すなわち、有機ハロゲン化物が封入された初回点灯前の超高圧水銀ランプ10を垂直姿勢にし、下方を冷却水Wで冷却するとともに、上方の電極の根元部分近傍、つまり、発光管11の非利用領域Bの上方部位をガスバーナーGBにより局部的に加熱する。封入された有機ハロゲン化物が例えばCHBrである場合は、950℃程度で加熱するが、この加熱によってCHBrが分解し、発生した炭素を主とする有機物は図2に示す発光管11の非利用領域Bにのみ付着し、加熱部位から離れた利用領域Aには付着しない。なお、超高圧水銀ランプ10の下方を冷却水Wで冷却するのは、ガスバーナーGBで加熱するときに、発光管下方に滞留する水銀が蒸発して発光管内の圧力が著しく上昇することを防ぐためである。
【0019】次に、前記の前処理により発光管11の非利用領域Bにのみ、有機ハロゲン化物が分解したときに発生する炭素を主とする有機物の薄膜を付着させた前記実施例の超高圧水銀ランプ10、および、比較例として、点灯エージングによって有機ハロゲン化物を分解させて発光管11内壁全体にこの薄膜を付着させ、その他の条件は前記の実施例と同じた超高圧水銀ランプの放射光が発光管11の利用領域Aを透過するときの分光透過率を調査した。その結果を図4に示す。
【0020】図4から分かるように、可視光域においては、実施例のランプの透過率は、約93%以上である。そして、比較例のランプとの透過率の差は、約2〜4%であり、有意差が明確に認められた。すなわち、実施例のランプは比較例のランプよりも当初の透過率が高いので、その透過率がランプ寿命の限界と見なされる透過率(例えば80%)に低下するまでの時間が長く、それだけランプ寿命が長くなる。
【0021】
【発明の効果】以上説明したように、請求項1の発明によれば、内容積が300mm以下の極めて小さな発光管内に水銀および希ガスとともにハロゲンを有機ハロゲン化物の形態で封入しても、発光管内壁の黒化によって光の放射強度が低下することがなく、ランプ寿命の長い超高圧水銀ランプとすることができる。また、請求項2の発明によれば、請求項1の発明の超高圧水銀ランプを容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】超高圧水銀ランプと凹面反射鏡からなる光学装置の断面図である。
【図2】請求項1の実施例の断面図である。
【図3】請求項2の実施例の説明図である。
【図4】実施例ランプと比較例ランプの分光透過率曲線図である。
【符号の説明】
10 超高圧水銀ランプ
11 発光管
12 封止管
13 陽極
14 陰極
16 薄膜
20 凹面反射鏡
A 利用領域
B 非利用領域
GB ガスバーナー
W 冷却水

【特許請求の範囲】
【請求項1】 内容積が300mm以下の発光管内に、水銀と希ガス、および10−3μmol/mm以下のハロゲンが封入された超高圧水銀ランプにおいて、前記ハロゲンは有機ハロゲン化物として封入され、光が該発光管を透過する領域のうち、透過する光を利用しない非利用領域の発光管内壁にのみに、前処理により該有機ハロゲンが分解して発生する炭素を主とした有機物の薄膜が付着していることを特徴とする超高圧水銀ランプ。
【請求項2】 内容積が300mm以下の発光管内に、水銀と希ガス、および10−3μmol/mm以下のハロゲンが封入された超高圧水銀ランプの製造方法において、前記発光管内に有機ハロゲン化物を封入し、光が該発光管を透過する領域のうち、透過する光を利用しない非利用領域の発光管を局部的に加熱して該有機ハロゲン化物を分解し、発生した炭素を主とした有機物の薄膜を発光管の該非利用領域の内壁のみに付着させることを特徴とする超高圧水銀ランプの製造方法。

【図2】
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【図3】
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【図1】
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【図4】
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【公開番号】特開2001−319618(P2001−319618A)
【公開日】平成13年11月16日(2001.11.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2000−139402(P2000−139402)
【出願日】平成12年5月8日(2000.5.8)
【出願人】(000102212)ウシオ電機株式会社 (1,414)
【Fターム(参考)】